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#中篇
karasumachizuru · 6 months
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クライ・ベイビー
それはまるではしかのような、思春期の忘れ物だった。  
【ZDV series #11】 曲作り合宿のため、本拠地であるチェコ、プラハから南モラヴィアの滞在型音楽スタジオ、イェリネク・ドヴールへやってきたロックバンド、ジー・デヴィール。 ある日、マネージャーのロニーが上機嫌でやってくる。なんでも今をときめくフォトアーティスト、ゾルト・ギャスパーが、世界中で人気なジー・デヴィールの写真なら撮りたいと、スケジュールを調整して仕事を受けてくれたのだという。 しかし現れた写真家の顔を見るとテディは驚き、バンドを撮影するゾルトにやたらと難癖をつけたり、突っかかったりを繰り返す。曲作りや演奏も捗らず、困った奴だなとテディの様子を見ていたルカだったが、やがてふたりの関係を知り――
       * * *
※ シリーズのお話ですが、発端であるテディとゾルトが出会ったエピソードはシリーズ外の短篇集〈❦ 10 Love Songs and Stories -君を想いて-〉収録の『Track 09 - I Really Don't Want to Know 「少年」』となっています。 が、そちらを未読でも問題はありません。
scene 1. ロックフィールドじゃないけれど scene 2. Everybody's Talkin' scene 3. Back Door Man scene 4. ベーシストは今日も不機嫌 scene 5. Checkin' Up on My Baby scene 6. 上機嫌な恋人と憂鬱な自分 scene 7. 春の息吹 scene 8. カリスマ scene 9. 一進一退 scene 10. I'm in Love with My Car scene 11. You Don't Know What Love Is scene 12. Cry Baby scene 13. 躰と心と scene 14. Never Gonna Fall in Love Again scene 15. That's How Strong My Love Is
{Tags: 中篇/ヒューマンドラマ/恋愛/似而非BL/ロック/バンド/愛車/海外(チェコ)/南モラヴィア州/滞在型音楽スタジオ}
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anamon-book · 10 months
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待望の短篇集は忘却の彼方に 中原昌也 河出書房新社 装幀・本文AD=Natsuo Shimizu、装幀・本文図版=中原昌也
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note: this poll is about the original Legend of the Galactic Heroes novel, not about the manga.
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chentailai · 2 months
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章节: 1/1 粉丝圈:蓝色甲虫(漫画), 少年泰坦(漫画) 评级: 成熟的 警告: 缺乏 关系: 埃迪彭博/海梅雷耶斯,埃迪彭博和罗斯·威尔逊,哈吉达和海梅雷耶斯 字符: 海梅·雷耶斯,埃迪·彭博,哈吉达,罗斯·威尔逊 附加标签: 神父杰米与魅魔艾迪,牧师和女妖,我暗示过我可能不会写这个了但没想到还是搞了,口嗨很香,魅魔和神父经久不衰啊,卡吉达是外域的不可名状之物但现在在一具尸体里面呆着,罗斯是猎魔人还在磕肾上腺素,把这对与宗教写到一起真的太爽了,有性但是会很慢(我的风格),tumblr上不去了……地狱甲虫,现实主义 总结:
窗外一片寂静。 夏日的凉风抓过玻璃,在杰米的轻颤的心上留下划痕。他的棕色的瞳孔映着悬在空中发光​的方形和广告牌,它们逐渐变得模糊……
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iftwmdt · 1 year
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我是今天早上起床后决定去死的。
收拾了昨夜吃剩下的泡面,汤水倒进了马桶,认真做好了垃圾分类。挑选了最喜欢的那身切尔西的帽衫,这是我妈在我20岁生日那天送我的。
收拾好一切,蹲坐在鞋架边,数着墙上时钟上的分针,因为六点半才能丢垃圾。
其实去死这个念头也仅是今天才有的,我开始回想起事到如今的原因。因为工作,家人,伴侣,生活。想了许久,想要挖出那一根被引燃的导火线。
那场面,大概就是燃烧着的蜘蛛网,火势从六边形的每个角落涌向中心点的我,而我还只是黏在网上的一只待宰的昆虫而已,没有这火,也只是等着被织网的蜘蛛蚕食罢了。
思绪截至在时钟指向六点半的那一刻,蹲了太久,站起来一瞬间两眼发黑,我扶着鞋架,待大脑重新回来,拎着几袋垃圾出门了。
两分钟后我折了回来,想死的心太急,马桶忘记冲了。
元旦假期前,同事涨薪失败,看着他双眼发红发朋友圈的样子,我满是羡慕。那种还对世界充满希望的泪水与愤怒,早就被我丢在人生道路上的哪个有害垃圾的垃圾桶了。我能猜到她的朋友圈内容,大抵是被老板数落能力不行,配上发红的眼眶自拍。嘴是一定会捂上的,毕竟这时候的表情要么就不太合适,要么就不太好看。
没多久,那条朋友圈就会有着数十个点赞,朋友会关心,家人会安慰,同事会帮着骂上几句,男朋友会扬言揍老板一顿。这一切会激烈的讨论整个下午,而话题中心的老板此刻正淡定的躺在自己办公室的按摩椅上,准备好好睡上一觉。
没多久,我就在那天屏蔽了不知多少人的朋友圈里点了一个赞。
爱埋怨是件好事,这是一个人知道一件事何为正确的象征。
我家人也爱埋怨,因为他们觉得我应该去厂里上班,应该去乡下讨个媳妇。不懂事的时候我还会愿意同他们争论。如何在厂里上班的同事,照顾好乡下的媳妇。
于是他们会埋怨我花了他们的钱读了书,却只知道和他们顶嘴。
这时候我就没法回,因为我也没读好书。
我大概是应该去厂里上班的。
听说那里有着定期发放的工资,每日的餐食,干净的宿舍,不用动脑的工作。
那是值得向往的工作,只可惜不是那个刚毕业热血的我向往的工作罢了。
当年的我烧着热血,离开父母,在这个外卖商家刷不到底的城市里,决定两年买车,三年买房,十年达到财富自由。
想到这,我坐上了公交车,临死前再看看吧,这个曾经我热爱的城市。
离财富自由的期限还有两年,房价已经比刚来时翻了几倍,公交车都从汽油换成了电车。
很怀念那些年,我还做着设计师的梦,即使身无分文,至少不像现在到处欠钱。
我前女友当年也很支持我做设计师的。
那时候她会夸我有才华,也因此,我有时还真的会相信我可能真的是个天才。睡前我总会翻着朋友圈,向她吐槽同行的垃圾图纸,客户带来的破烂样图。
其实我不也并非真的看不上,只是我很喜欢她对我说对对对的样子。
所以,当有一天,她说我不对的时候,我们分手了。
车正路过之前我们一起等车的站台时,一个老头坐在了我旁边,想必上车前才掐断最后一口烟,身上的味道像湿垃圾分类的垃圾桶。
我向里挪了挪,看着远去的站台忍不住笑了,这种吊人怎么好意思坐公交车,这种吊人怎么好意思有过女朋友。
后来我就习惯说对对对了。
我对老板说,对同事说,对客户说,对家人说。
对对对,您骂的是。对对对,问题在我。对对对,你的想法非常超前。对对对,厂里确实不错。
反正我是错的,那和我意见相反,应该都是对的。
后来我就决定去死了。
我难以得知正确的样子,让我在这个世界上没有了存在的意义。
这个世界是留给那些对的人的。
我一直坐在公交车上,一遍遍的看着这个熟悉的城市,我在这找过工作,在这见过客户,在这吃过火锅,在这遇到过老头。
“爷爷,你怎么一直不下车啊?”我问了问,这老头和我在这车上拉回好几遍了。
“逛逛。”老头盯着正前方,双手环抱着,看着不太愿意搭理我。
我又向里挪了挪,也环抱着,眯眼睡了过去。
被司机拍醒时天已经黑了,司机说他下班了,麻烦我把路费补一下。
我微信转了他一百四,倒不是我大方,手机里就这么多。
我一个人下了车,老头不知何时走的,大概是老年卡才可以这么肆无忌惮吧。
一年的最后一天,这个偏僻的末站倒挺热闹,大家裹着衣服猫着腰,即使躲避着初冬的寒风,依然要在这一天找一个地方,等待庆祝新一年的来临。
我走到一个老旧的小区,就这吧,看这附近应该砸不死人。
看了三遍招聘平台的广告,电梯上了顶楼。再爬了一层没有夜灯的台阶,终于来到了天台。
我抬头看了看天,不像夏天,冬天的天空总是灰蒙蒙,看不到一点星光。
真好啊,夏天,一切都很美好,阳光,白云,最老套的词却描绘着最具希望的样子。
只可惜我是等不到下一个夏天了。
更可惜的是,天台有人了。
“爷爷,你咋也在这呢...”
“看看。”老头回头看了我一眼,他正盘坐在围墙上,十七层楼的下面,车子还不时传来不耐烦的汽笛声。
“爷爷,你这样不安全,要不你先下来吧。”我被风吹着忍不住打了个寒颤,声音都在发抖。
“我等着死呢。”老头的声音平稳有力,我甚至能在冷气中闻到他嘴里的那股烟臭味。
我哆哆嗦嗦挪到老头的身边,手掌隔空扶在他的背后,至少他要是往后倒下来,不至于摔伤。
往前倒,也不是伤不伤的问题了。
离的近些,我也才真的好好看了看这个老头。没有中年人的地中海,头发已经仅剩些白色的绒毛吸附在发皱的脑门上,眉毛的尾部已经飞出眉形,紧皱着望向楼下堵住的车流。
公交车上的那烟味还未散去,只是现在我是一点不敢离开。
“有烟吗?”老头回头上下扫了我一两眼,“跟着我这么久干嘛?”
“没跟着你啊,我...”
我不知道该如何解释此刻的天台相遇,憋了半分钟,假装掏了掏口袋,回了句没有。
“罢了,临死了连根烟都抽不得。”老头头又转了回去,双手始终环抱着。
看似取暖的动作,却在寒风中有着不惧的威严。
我又瞧了眼楼下,车已经纹丝不动,但停下的人们并未发现楼顶的这出闹剧。我一个寻死的人,此刻害怕另一个寻死的人去寻死。
我踩着地上散落的烟头,腿控制不住的发抖,脚趾已经冻得没了知觉,手仍悬在空中搂着老头身后的空气。
“有啥想不开的爷爷,先下...下来再说啊。”
“活着没意思,早该死了,死完了。”老头再次回了头,这次他身子也转了过来,利索的从围墙上跳了下来。搓了几下双手,从中山装的的上口袋里掏出一个塑料打火机,蹲了下来,利用着火光,寻找着残余的烟头。
“爷爷您这...,要不我给你子女打个电话来接您成不?”
老头没理我,翻了一会儿,找到一个还算长的烟头,靠着墙边,躲着风。点燃后,他猛吸了一口,收起了火机。
城市的灯光未被收起,还能看见那眉头终于松了下来。
老头在地上坐下,伸了伸双腿,一吞一吐,瞄了瞄弯着腰跺脚的我,“小伙子,做什么的啊?”
“我,看看风景...”
“我是问你做什么工作的。”
“设计,额,大概是设计。”我补充了一句。
老头又猛吸了口烟,残根的烟头立马就烧到了底,散着刺鼻的焦味。
“我和你差不多,我年轻的时候是个画家。”
“哦哦,蛮好的。”
“也就两年功夫,画了两年你知道吧,后来不画了,没人搭理,我们那不兴这个,家里人不让。”
“哦,那,那个挺惋惜的。”
“不可惜,不让的人后来死的都比我早,就我活着,没人管了。”
“哈哈....”我不知该回什么。
“那时候想死,不想活了,一家人拉着我,我在那喊啊,我去死了,不活啦。我妈就在那拉着我哭,在那念阿弥陀佛。”老头挥舞着双手,演着曾经的自己,“他们觉得我疯了,觉得我入了邪道了。”
我也坐在冰冷的地上,看着他眼神反着光。
“他们越是觉得我疯了,我越想死。可惜了,那时候该死。”
“活着不好吗,爷爷你看你现在活着多精神是不...”我说。
“那时候死了,兴许他们会觉得自己错了。死的晚了,他们都死了,他们都觉得自己都是对的才死的,可惜了,弄得现在我觉得我是错的。”
“您是对的,哦哦...您是错的,那个,我...”不知怎么的,我的眼泪就大颗大颗的往下掉,突然感觉极度的痛苦,还有害怕。不知痛什么,也不知怕什么,只有撑在地上的手能感受到冰冷,还有泪水滴在上面,烫的发疼。
“该死的,应该死的,白活了这么久,现在死了也没人问了。”
“我...大爷你干嘛和我说这个,你能别说死不死的吗,我害怕,我不想死,我,我不想死啊!”
“我又没让你死,你哭个屁。”
“我,我就是怕啊,我怕啊!”
风一阵阵的刮着,远方传来了阵阵烟花声,天空是不是闪着光,我的脸烫的发麻,感觉声带正在做着抵抗。
对啊,我在怕什么呢。
明明垃圾都分好类了,马桶也冲了下去。
在怕什么呢?
不知道自己在嚎什么,只感觉浑身的痛。
老头半天没说话,我也总算冷静了下来,抽了抽鼻子,抬头看着烟花。
老头也在看烟花,一阵黄,一阵红。在眼前,在远方。
“对不起,我,我可能有点紧张,我陪您下楼吧。”
“下去给我买包烟成不,一包红南京,十二快的,楼下有个超市。”
“啊?”
“我看你精神不太好,动动,完了陪大爷唠唠。”
我缓慢的爬起来,膝盖僵硬的不像话。
“没钱了。”我想了起来,最后那点存款给了公交司机。
老头又翻了翻衣服的上口袋,只掏出一个火机。随后起身,手揣进裤子口袋里掏了掏,摸出一些钱。
“再买瓶酒,十五的随便,白酒,别买别的,喝不惯。”
我伸出手接过那一沓皱巴巴的纸币,擦了擦眼泪。
“那你等我会儿。”
“好,别买错了,十二的红南京。”
我借着烟花的光走向楼梯,摸索着扶手下了楼。
楼下的灯光让我回过神,完全不知刚刚什么情况,身体突然的不受控制。
看着电梯门的镜面,发现自己的头发都吹的服服帖帖,蓝色的帽衫上沾满了白灰,眼睛通红。我按了电梯,狠狠地揉了揉自己的脸。
电梯从一楼到二楼到三楼,突然听见电梯边的人家传来了一声声倒数。
“十,九,八,七...”
电梯边的广告窗还在播着那个招聘平台的广告,里面的人穿着统一的绿色紧身衣,不知为何的聚在一起跳着舞。
“五,四,三,二,一!”
“彭!”
而后,周围的房间内传来了一阵阵欢呼。
烟花吗,我问着自己,随后走进电梯,捏着纸币的手按下了一楼的按钮。
新年了啊。
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super-random-j · 1 day
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Yasutaka Nakata was feeling every square centimeter of his pussy when he made “Starlight Dreams”.
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bearbench-tokaido · 12 days
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七篇 上 その二
京見物をしている弥次郎兵衛と北八。 着の身着のままの北八。 やっとのことで見つけた古着屋でのできことです。
北八はちらっと、弥次郎兵衛の方をみてから、 「それだから質におく時の算用からして、その値段では買われねえ。 この布子ではどう考えても、銀二十より外は貸すめえから銀十五も、損することになる。」 今度は亭主が、顔の前で手を振りながら、 「何を、おっしゃる。 後家の質屋へ持っていっても、ものも言わずに銀五十はすぐに貸すわいな。」 「とんだことを言うもんだ。 この布子でどうして、五十も貸しましょう。」 と北八は意地悪そうに、亭主を見ると、 「なに、銀五十の価値は十分ありましょがな。」 「それじゃお前さん。この布子で、うけなさるか。」 「うけるわいな。」 これは仮に質に入れたら銀五十の金をかすかと聞かれているのだが、亭主は慌てているのか即答する。
「そうは言っても当てにはならねえ。ならねえ。」 と北八は、すましたものである。 「それよりか、この間の股引きのごたごたはどうするんだ。 ほかにも、袴の一時貸しもあるし。 それもお前、子供たちが腹痛でかみさんがはやり病で死んじまって、葬式を出す金も工面が出来ぬとたっての頼みだから貸してあげたものを、義理のわるい。 いっそのこと、この布子はその袴の、担保にとっておきましょう。」 と北八は、あることないこと並べ立てる。 「ああ、何をいいなさる。 何だか、さっぱりわからん。 やっかいなことをいわっしゃる。 わしのかかあが、いつ疫病で死んだぞいな。 まったくけったいなこといわんすわいな。」 と亭主は、腹を立てている。
弥次郎兵衛おかしくなって 「どうも、この男は口が悪くてなりやせん。 まあ、勘弁してください。 それにしても何かと面倒じゃ。その布子、銀十枚にまけなえ。」 亭主も面倒になったのか係わり合いにならないほうがいいと思ったのか、 「よござります。朝商いじゃ。まけてあぎよわいな。しゃんしゃん。」 と手をうってしまう。 「これで、とりあえず、布こにありついた。」 北八はほっとして布をきた。
弥次郎兵衛はそれを見ながら、金を払ってやる。 北八は今まで着ていた木綿の合羽を、弥次郎兵衛に返すとさっさとこの店をでた。
それより北八は、にわかに元気を取り戻して、 「なんと弥次さん、たいしたもんだろう。 古着屋めを口からのでまかせで、はぐらかして銀三十五を十に見下すのは簡単だ。」 と手に入れた布を弥次郎兵衛に見せびらかすように、歩いている。 「ほれ見なせえ。まだ衿にあかもついていねえものを、いとも簡単に手に入れた。」 弥次郎兵衛はその様子に、 「そうだな。紺の布子だからお武家様の家来ってところで、俺のお供にぴったりだな。ちょうどいい。」 と笑っている。北八は、それには答えず、 「ところで、ここら辺は、何ていうところだろう。」 とあたりを見回している。
「えらく、いろっぽい女がうろちょろしている。」 弥次郎兵衛もそれにつられて、あたりをみまわし、 「ははあ、歌舞伎の役者がかぶるような紫ぼうしの野郎どもが見えるから、おおかた、宮川町あたりだろう。」 と答える。北八は、 「くるぞ、くるぞ、美しい妓どもがくる。 いい時に俺は、着物を買ってよかった。」 と汚れても居ない、自分の布をパタパタ叩くと、 「さっきみたいに裸の上にその木綿合羽じゃあ、あいつらとすれちがったときに格好悪くていけねえ。」 ととっさに襟をかきあわせる。
北八は見栄を張りながら、むこうより来る女形や芸妓とすれ違い通ると、一人の女形がふりかえって北八をみた。 「はつねさん。あの人の着物におっきな紋がついてじゃわいな。おお、可笑し。おほほほ。」 と指差して笑っている。 はつねと、呼ばれた芸子も、 「ほんに、あほらしい人さんじゃ。すかんやの、おほほほ。」 とこれも笑いながら、行き過ぎていく。 その様子に弥次郎兵衛が気がついて、 「おやおや、北八。お前の着物を見てみろ。 背中のよこっちょに大きな紋所がくっついていらあ。」 と北八の背中を叩く。 「どこにどこに。」 と脱いで背中のところを見てみると、ちょっと見ただけではわからないのだが、日のあたる所へ出ると大きな紋所がありありとすいて見える。 「しまった。こりゃ、大変、大変。」 と日に透かして、見える大きな紋所に、北八は苦い顔おをしている。
弥次郎兵衛は構わず、 「ははは、裾の方には、鯉の滝のぼりが見へるから、こいつはきっとどこかの店ののぼりを染めなおしたもんだな。」 北八は慌てて、弥次郎兵衛の指差すところを見ると、確かに鯉の絵が見える。 「ええ、古着屋めが。とんだ目にあわしやあがった。 どうりで安いとおもった。ぶんのめして来よう。」 「なに、ほっとけほっとけ。 だいたい、皆お前のせいじゃねえか。 古着屋も商売なんだし、こうなっちゃしかたがねえ。」 「畜生、いまいましい。」 と北八はつぶやきながら、不承不承また、その着物を着ると歩き出した。
さて二人は、四条通りに出てきた。 ここは名に聞こえた、賀茂川の東、祇園町である。 北側と南側の芝居小屋からはやぐらだいこを打ちながら、てんからてんからの音が客の足を止めている。 狂言名代の看板も華やかで、それぞれの木戸番も派手な衣装にみをつつんで、嗄れ声をあげている。 「さあさあ、評判じゃ、評判じゃ、今が三五郎の腹切じゃ。 このあとがあら吉と友吉が所作ごと。評判、ひょうばん。」 江戸で言うところの呼び込みは、ここ京大阪ではみな女で、その女が北八と弥次郎兵衛の袖をひいて、 「もしな、おまいさん方。ひとまく見てお出んかいな。」 とさそう。
「おおそうか。弥次さんちょっくら、京の芝居を見ようじゃあねえか。」 と北八が、弥次郎兵衛にいうと、 「おもしろかろう。女中いくらで見せる。」 「よござりますわいな。わたしがどうなとするさかい。 まあ、お出なされ。」 と女は二人を両方の手でひっぱり、引つれて芝居小屋に入ると、そのまま二階のほうへあげてしまう。 そこに桟敷をしきるさじき番がやってきて、二人を向こうさじきの前の方に入れる。
ちょうど幕の内にて芝居小屋の中では、売り子の声があちらこちらに響いている。 「みづから、うぢやま。(いずれもお菓子の名前) みづから、うぢやま。饅頭よいかいな。」 「茶、あがらんかいな。茶やどうじゃいな。」 「番付絵本、ほん。(パンフレットのようなもの)」 などと言っている。
「それにしても、こりゃ大入りだ。 しかし小屋の大きさが、江戸の半分しかねえ。」 と弥次郎兵衛が、あたりを見回していうと、 「ああ、退屈だ。一杯飲みたくなった。」 と北八は芝居が始まっていないので、手持ち無沙汰でいう。 「俺は、腹がへりまの大根(練馬の大根)だ。菓子でも買ってくおう。」 と弥次郎兵衛も、北八につられていう。 「みづから、うぢやま。饅頭よいかいな。」 「これ、まんじゅうを三つ四つ、くんなせえ。」 と、北八が、売り子に声をかけた。 「はいはい、三文づつでござります。」 と隣のさじきの見物人が、売り子に言った。 「これ、まんじゅうやさん。どしたもんじゃぞい。 こちの弁当、踏み潰したじゃ。」 「はいはい、おゆるしなされ。」 と隣の見物人の方に頭を下げた。 「あいたたた。お前は、俺の足をふんでる。」 売り子ははずみで、弥次郎兵衛の足を踏んでしまう。
「はい、これは、もし、ちとおゆるしなされ。」 と売り子は、体をずらそうとする。 「こりゃ、どうしやがる。 人の頭の上を、金玉をひきずってとおりやあがる。ええ、きたねえ。」 込み合った桟敷から売り子が去っていくと、隣の桟敷の見物人の会話が聞こえてきた。 「おい、権兵衛さん。何買うてお出たぞいな。」 権兵衛と呼ばれた男が、 「太郎兵衛さんや。待てじゃある。わしゃ今、あこの桟敷でな恐ろしく美味い物くうてじゃさかい。」 と何やら食べている。 「それ見ていて遅なったわいな。さあさあ、こないなもんじゃ。」 と権兵衛が、太郎兵衛に竹の皮づつみを出す。 「なんや、鯖のすしかいな。こりゃ、ウマそうじゃ。」 「それより、その飯は弁当のかわりにして、魚ははがして酒の肴にさんせ。それがよいわいな。」 といわれて、権兵衛は、 「さよじゃ、竹の皮はもていんで、草履の鼻緒たてるわいな。 いや、さっそく一盃やろかいな。」 と小さなお猪口を取り出し、ふろしきにつつみしとっくりよりついで飲みだした。
北八これを見ていて、小声で、 「弥次さん見てみろ。美味そうに飲んでやがる。まったくうらやましい。」 弥次郎兵衛は、買ったばかりの饅頭をほおばりながら、 「ええ、せこいことを言うもんだ。」 北八は何やら、考えていたが、 「これぼうず。この饅頭をひとつあげやしょう。」 とさっき買った饅頭の食い残しをひとつ隣のさじきの子供にやる。 北八はこれで、関係をつけて、隣の見物人の酒にありつこうとしたのだ。
つづく。
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we-tokyoboy · 2 months
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4zpn98ht4f · 1 year
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EVIDENCE: How ASPI and Australian media lie to you
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niteshade925 · 1 year
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karasumachizuru · 5 months
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三十六人めの被害者:The Untold Story of SERIAL KILLER Jonny Sogard [Complete edition]
犯行を止めていた〝魅惑の殺人鬼〟が最後に手にかけた、その被害者とは。  
若い女性ばかりを狙った連続殺人。被害者たちは先ず喉を掻っ切られ、悲鳴もあげられないまま二十ヶ所以上も滅多刺しにされていた。 FBI捜査官のサムは新人のネッドと組み、〝魅惑の殺人鬼〟という異名で呼ばれる連続殺人犯を追う。が、被害者たちには特に狙われるような共通点もなく、手掛かりがみつからない。 昔気質なサムの地道な捜査とネッドのひらめきにより、ふたりは少しずつ〝魅惑の殺人鬼〟の正体に迫っていくが、そんなさなか連続殺人はぴたりと行われなくなる。 上に捜査をもう打ち切ると云われながらも、サムとネッドは諦めずに〝魅惑の殺人鬼〟を追い続ける。そして、ようやく容疑者と確信できる人物をみつけるが――。
       * * *
シリアルキラーという言葉が生まれるより以前、一九七〇年代のアメリカを舞台に描��連続殺人鬼の物語です。 FBIのコンビによる捜査の視点と、殺人鬼であるジョニー・ソガードの視点をそれぞれ描いています。
【第一章】シリアルキラー、ジョニー・ソガードの転機  scene 1. 犯行  scene 2.〝魅惑の殺人鬼〟  scene 3. 夜を駆けるマスタング  scene 4. 環の中心  scene 5. ブラックベリー・ジャムの出逢い  scene 6. 運命のピース  scene 7. 殺人スケジュール  scene 8. 緋色の記憶 【第二章】シリアルキラー、ジョニー・ソガードの終幕  scene 1. 第一の被害者  scene 2. 幸福な日常  scene 3. ネッドの評価  scene 4. フラッシュバック  scene 5. マイラの証言  scene 6. ハッピーバースディ、ロザリー  scene 7. ボブを追って  scene 8. 小瓶のなかの一日  scene 9. 容疑者ジョナサン・ソガード  scene 10. 無邪気ないたずら  scene 11. 違法捜査  scene 12. 三十六人めの被害者  scene 13. 逃亡  scene 14. 終幕  scene 15. 知り得なかった殺人鬼の真実 【第三章:過去編】シリアルキラー、ジョニー・ソガードの誕生   scene 1. 残念なハンサム  scene 2. 誤解と絶望  scene 3. 不能  scene 4. 棄てられないナイフ ��scene 5. 約束  scene 6. 凶報  scene 7. 夜の街へ  scene 8. 充足 【番外編】リプライズ  scene 1. ひらめき  scene 2. ケイレブ・ノーマン・クロウリー  scene 3.〝魅惑の殺人鬼〟ジョニー・ソガード  scene 4. 記憶  scene 5. 解離  scene 6. 脱走  scene 7. ムーンライト・ドライヴ
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anamon-book · 3 months
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日本ミステリーベスト集成1《戦前篇》 中島河太郎・編 徳間文庫 カバーイラスト=吉原澄悦、カバーデザイン=池田雄一
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iftwmdt · 1 year
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我长成了一个巨人
清早前去刷牙时,我被门楣撞破了脑袋。鲜血与繁星交错出现在地面,直到清早重新归来,我意识到,我又长高了。
对于十五岁的男生而言,长高并不稀奇,即使半夜抽筋痛到哀嚎也不会获得一丝同情。赶来的父母总说一切正常,又说这种疼痛算得上老几。
不过对于十五岁的男生来说,这种疼痛确实能排上名次——大概比相思低一点,比不及格高一些。这只是抽筋,若加上这一次的头破血流,应该能和相思坐头把交椅。
同样,疼痛也与相思一样,维持不了太久。只要不去在意,便不会再疼了。
这就是十五岁男生的身体。
但与平凡的十五岁不同的是,我长高的速度确实很快。一周前才乞求父母得来的长裤,今天裤脚只能盖住膝盖。这让我有些紧张,一是下周裤脚的位置想来有些变态;二是为了防止变态,又得去向父母乞求一条新的长裤。十五岁的男生很敏感,对于是否变态敏感,对于脸面也敏感。即使再过上十五岁,这些敏感都会成为优势,但在当下,却让人痛苦。假如对任何一项无所谓,都不会再有任何烦恼。
再想也是浪费时间,只能在秋日里穿上中裤,继续过着十五岁应该过的人生。
未来对于十五岁来说很遥远,但未来对于十五岁来说又很近。远与近完全取决于是否在意。例如不在意的考试,放在明天也很远。在意的婚姻,即使发生在十五年后,也很近。
我很在意近在咫尺的未来,我很在意近在咫尺的前座叶同学。
我很在意我的婚姻。
我喜欢叫她叶同学,比起名字,叶同学显得更亲近。得亏班里只有一个姓叶的,这才让我满足自我的同时又不会引叶同学的注意。
我是希望她能注意我的,但不希望她注意到我每次叫她时的那种惬意。
叶同学今天穿了一件新的粉红外套,但她的袖子是白的,这让她看上去很亮,字面意义的亮。物理老师说,人之所以能看见东西,是因为眼睛进了光,而这些光有些来自反射,有些来自自然与人造的光源。叶同学今天反射了很多光,但又因为她自身就是光源——她一定是光源。总之她看上去很亮,字面意义的亮。
这一身新的粉红外套,又让我有了想与她说话的冲动。上次的冲动是昨夜的凌晨,在抽筋的痛苦与父母的责备中,我想和叶同学说话,但又不想让她见到我狼狈的样子,所以在疼痛中,我只能对着脑子里她的后脑勺,告诉她在我死之前最想说的是,我很喜欢她。
说明白了,这份冲动并不是想去与她说话,而是想去对她告白。
但眼下的情形并不比昨夜好到哪去,我的紧身夏装在这件粉红外套下显得格外滑稽。本就很滑稽,现在有了格外。
我不喜欢格外,不喜欢超出常规常态之外。即使是叶同学,我也喜欢她的平平无奇。她能发光,但她确实平平无奇。
我对着她的后脑勺,在脑子里说着:
“我喜欢你。”
想了想,又补了一句:
“我不想再长高了,一点都不想。”
但事与愿违。
在下午的语文课上,我在沉睡中被裤脚勒醒。我低头看着自己的大腿——它可能不能再叫裤脚了,但我又不知道它现在该叫什么——裤腿?裤跟?
半天我才想明白了,它应该叫四角内裤。因为三角内裤更宽松的原因,我忘记了四角内裤的存在。想明白这件事情我很高兴,这是这些天来我唯一能想明白的事,假如放在考试中,我可以完整写下全部的思考过程,并得出结论——这是四角内裤,即使是牛仔的料子,它依旧是四角内裤。我能因此拿高分,很高很高的分。
台上的语文老师一句话叫醒了兴奋中的我:
“你长高了。”
确实,我又长高了。一次课堂中的睡眠,让我提前长成了下一周的我。没有抽筋也没有责备,就这样完成了一周的成长高度。
语文老师又说:
“出去吧,这屋里快容不下你了。”
有了清早的教训,我小心翼翼地起身,注意着耳边的风扇,脚边的桌子,佝偻着身子躲着教室后门的门楣。走出教室后,秋风刮过,我才意识到我正裸着上半身,而四角内裤也濒临极限。我决定走向操场,那空旷,很适合正在长高的自己。
这一路像是爬楼梯,每走上一步,教学楼就矮了一分。在跨过乒乓球台时,四角内裤终于裂成了布条,散落在台面上。我庆幸穿了三角裤,它的优势在此刻展示得淋漓尽致。但踏进操场跑道的那一刻,它也失败了。现在的我全裸站在操场的正中央,拼命地长高。似乎全身除了大脑以外的所有细胞,都想在青春期的岁月中突破极限。而大脑此刻只想着如何掩盖自己裸露的下体,命令手掌遮住,又命令大腿夹着。最后,又以第三视角,想到了此刻的场景。
真的很变态。
在变换不同变态的姿势后,大脑决定放开双手,张开双腿,选择了一种坦荡的变态方式。
我想我不仅长高了,就连心态也在这几秒钟成长至少十五年之久。
心态平稳后,我才有心情看看眼前。我的视野很宽阔,看得很远,只是我的眼镜早在语文课时就不见了踪影,这让我很难看清。但难看清的是细节,当个子如此高的时候,细节似乎已经不重要了。近视无非看到的细节多与少,现在的我看到的足够多,在乎细节做什么呢。想到这,我又想起了叶同学,我想是不是这辈子都难以见到缩成细节的叶同学了?我低头看向地面,蚂蚁般的同学正围在我的脚边。我眯着眼寻着,终于,在黑成团的人群中我看到了她。
她真的在发光,或者说她真的反射了许多光。幸好她今天穿了这件新的粉红外套,即使这件外套让我们产生了一些距离感,但当距离不断拉远时,它是如此重要。
我就这样看着叶同学,看着她身上反射出的光点,看着那光点越来越小,越来越聚焦。
终于,连那一小点的光也消失不见了。
再见了叶同学,再见。
再次抬头,扭了扭僵硬的脖子。此时脑袋已经顶到了云层。幸好云并非固体,而是我不曾好好学过的物理形态,不然脑袋又得开个口子。想到这,我又记起清早门楣的那一击,鲜血与星星交错的痛感。
星星应该离我越来越近了吧,曾经远在天边的星空眼看着就可以借着青春期的成长而亲手摸到,这让我有些兴奋。不久前,我还因裸露的下体而羞愧,而现在低头都看不见云层下的它,只能凭风吹产生的晃动,意识到它还存在。但它存在或者不存在都不重要了,我可以摸到星星,摸到那些嘲笑我的人不能摸到的星星。
这是我第一次期待长高,期待快速长高,全身的细胞和大脑一起,拼了命地想要长高。
我睡了一觉,眯了一会,也可能是眼睛黑了一段时间。总之过了迷糊与黑暗之后,我来到了太空。我的一只脚还在地球上,另一只无处安放。我仍在长高,以一种滑稽的姿势长高。我离的太阳越来越近,但却越来越冷。可冷成这样我也无法抱怨,无论是父母的吝啬,天气的糟糕,我都无法抱怨。毕竟长得这么高的是我自己,而且刚刚有段时间,我迫切地想要长高呢。
说起想要长高的原因,我想起了星星。我看到月球的环形山,看到了土星的光环,但星星离我始终很远,始终是星点的模样。我有些泄气,不知成长还需要多久,不知摸到某一颗星星还需要多久。
不过我也没有太深的执念,既然摸不到那就罢了。我就这样长高,就这样过着平凡的十五岁好了。
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regine1663 · 2 years
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胖胖在寫毛筆, 我也來湊一腳! #幾百年沒有寫了 #我剛剛還問爸爸我們以前唸國中是不是每個禮拜都要交毛筆跟週記一篇爸爸說好像欸 #胖胖看完我寫的把他自己寫的收起來說媽媽你還是不要看我寫的好了(在 Taipei, Taiwan) https://www.instagram.com/p/Cn1WV5pyxZw/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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bearbench-tokaido · 26 days
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七篇 上 その一
京見物をしている弥次郎兵衛と北八。 五条の遊所でのひと悶着があって、 やっとのことで切り抜けた。
ある人の句に
花尊い 都に本寺 本寺かな
とある。
そう詠んだのが思い出されるほどに、この都の寺院、堂塔は広大無辺にしてその荘厳麗秀さも、言葉にあわらせないほどである。 ことに花の咲き乱れる春や紅葉の秋は、古今東西に聞こえているほどの名だたる景勝の地である。 また加茂川の名酒の樽とともに、人の魂をとかしてしまう。
この地の商人は、きれいな衣装をきているがこれは、他の地では見られない光景だ。 まさしく京の着倒れとはこのことか。 これは、西陣の織元よりでたことらしく染めた衣の華やかさは、堀川の水のように清い。 その他にも名産、奇製の品物、あまたあるこの都にたまたま、入こむ場違いな二人がいる。 弥次郎兵衛と北八だ。
この二人、抜け参りのついでにと淀川の下り船に乗ったつもりが、勘違いで荷物は失うは五条新地で一杯ひっかっけて、丸裸となってしまった。 北八はしかたなく、連れの弥次郎兵衛の木綿の合羽を借りて着ているのが、せめてもの救いである。 まさしく北八は、“着た八”なのに丸裸である。 本来ならこの都は面白いはずなのに、今の二人にとっては朝の風が身にしみわたっているだけである。
さて五条の橋に差し掛かったのだが、ここは弁慶が千人切りしたという所で北八は、それを思い出しながら一首詠んだ。
かかる身は うしわか丸の はだかにて 弁慶しまの 布子こいしき
二人はその五条の橋を渡って、西の方に行く。 河原院の旧跡や門出八幡も素通りして、高瀬ぶねの網にひかれてたどりゆく道すがら北八が、弥次郎兵衛に言った。 「思えば、つまらないに事になったもんだ。 はやく古着屋でも見つけて、どんなんでもいいから綿入れが一枚ほしいが、金もあんまりねえし弥次さんよ。いい知恵はねえか。」 「なに、買わなくてもいいじゃねえか。こちとら、江戸っ子だ。 江戸っ子の抜け参りなんだから裸になって帰るのは、あたりまえってもんだ。」 と弥次郎兵衛は、本気かどうか笑って答える。 「そうはいうけどな、寒くてならない。」 と北八が、肩を抱くようなしぐさをするので、 「そんならちょうどいい。湯屋と書いてある。 この銭湯でちょっくら温ったまっていかねえか。」
「ああ、ほんとだ。湯屋とかいてあらあ。 こりゃいい。弥次さん、お先。」 と北八は一目散にのれんを潜り抜けるとすっと奥に入って、裸になりだした。 とそれを見ていたここの亭主が、慌てて言う。 「もしもし、こんさん。誰じゃいな、何さんすのじゃ。」 そう言われて北八は、あらためてあたりを見回すとどうやら、銭湯とは雰囲気が違う。 「ええい、いまいましい。湯屋かとおもった。」 「ははは、家の暖簾に湯の字があるさかい、それで銭湯かと思うてじゃの。」 と亭主は笑っている。
「ありや“済生湯(薬の名)”というお湯にといて飲む、薬の名じゃわいな。」 「と言うことは、ここは薬屋か。こいつはいい。大笑いだ。」 と弥次郎兵衛は、脱いだ合羽を又着ている北八を横目に見ながら、腹を抱えて笑ってる。 「くそ、また、一段と寒くなった。いまいましい。」 と小言を言いながら北八は、こそこそとそこを出る。
しばらく行くと、しみたれの古着屋が一軒あるのがみえてきた。 店先にいかにも古そうな、布やつるしが架かっている。 北八は弥次郎兵衛をくどいて、布一枚買おうとその店先にたって、その布をひねくりまわしだした。 「もし、この布こは、いくらだね。」 「はいはい、こっちゃへおかけなされ。」 と亭主は、愛想がいい。 「これ、お茶もてこんかいな。 お煙草の火もないわいな。はよう、ちゃちゃっとくさんせ。」 北八は、それどころではではない。 「いや、茶も煙草もいりゃせん。こりゃいくらだというに。」 「はいはい、そりゃ、結構で、ござりますな。 お安うしてあげようわいな。」 亭主はもみ手をしながら、言う。
そこにこの店の小僧さんが、 「はい、お茶あがりなされ。」 とお茶を持ってくる。 亭主は湯気のたっていないのをみて、 「長吉。そりゃ、おぬるいじゃないかいな。 なぜ、熱い茶あげんぞい。」 と言うと、小僧さんは店の奥をうかがうように、 「いや、おかみさんが、今朝は茶粥じゃさかい、お茶をたくなと、おっしゃってござります。 それは昨日たいたまんまの、茶でござりますわいな。」 と小さな声で言う。
弥次郎兵衛はその茶をさっと取り上げると、一口飲んで、 「なるほど。昨日の出がらしだ。まるで、河童の屁のようだ。」 と盆にお茶を返す。 「いや屁のついでにビロウながら、御亭主さん便所に行きたい。ちょっとかりますよ。」 「はいはい。便所にお出でかいな。」 と亭主が、裏の方を指し示そうとすると、さっきの小僧さんが、 「便所は、ぬるうはござりませぬ。 ようわいてじゃあろぞいな。」 と言う。 これを聞いて、ここの亭主は、 「なに、便所をだれが沸かしたぞい。」 と小憎を見ると、 「それじゃてて、たったいま、わたしが済ましたところじゃさかい、すぐいて見なされ。ぽっぽと煙が出てじゃあろ。」 と小さくなりながら、小僧が答える。 「ええい、むさいこというやつじゃ。」 と亭主は、呆れ顔である。
「そんなことより、この布子はいくらだ。 早くきめてくんねえ。寒くてたまんねえ。」 北八は、亭主と小僧のやり取りも聞こえぬ風で両手に持っている布を亭主の方に、押しやる。 「ははあ、お寒いなら、もっとそっちやへよりなされ。 そないによう日がさして、じゃわいな。」 と亭主は、日のあたるほうに北八を誘うと、 「昨日も着物を買いにお出らおかたが、こりゃ、いい。えろうぬくい家じゃいうて、ほれそこで、一日、日向ぼっこしていなれましたが。」 亭主は北八にお構いなしに話し続ける。
「そのお方が言われるには、もう着物買うて着いでもかまわない。 毎日ここの家へ、日向ぼこしにこうわいなと、こないにいうてじゃあったわいな。」 北八は、持っている布を、亭主に押し付けるようにすると、 「ええ、じれってえ。こりゃあ、売るのか売らねえのか。どっちなんだ。」 と詰め寄る。 「はいはい、売ります。うりますよ。せわしない人じゃ。」 と亭主は、やっと北八の手から布を取り上げた。 「安くしてくんねえ。」 と、北八は、亭主に言う。 「この紺の木綿の綿入れはと。」 とそろばんぱちぱち、やりだした。
「銀で三十五。これが、ぎりぎりじゃわいな。」 北八は、顔の前で手を振りながら、 「高いたかい。わっちらは江戸ものだが、古着は商売がらでいくらもとりあつかっているから、無駄な時間はつかいたくねえ。ほんとうの所をいいなせえ。」 亭主は、ちょっと顔をしかめて、 「はあ、御商売がらとあれば、おまいさま、古着屋なされてかいな。」 と北八の方を見る。 「いや、わっちは質やさ。」 と北八は、すまして言う。 「しちとあれば、何かいな。おとりなさるのか、置きなさるのかいな。」 と聞くと、横から弥次郎兵衛が、 「おくのが、この男の商売さ。」 と横槍を入れる。
つづく。
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