冒頭の一文は、ドラマ「鬼平犯科帳」のオープニングの言葉。鬼平犯科帳とは、故・池波正太郎の時代小説。火付盗賊改方長官であった鬼平こと長谷川平蔵宣以(のぶため)が、江戸に跋扈する盗賊と対峙し、事件を解決していくといった物語です。
30~40代の人なら、平成元年から平成13年までフジテレビ系で放送されていた二代目中村吉右衛門主演の時代劇の方がなじみ深いかもしれません。いずれにしろ、小説、ドラマともに、いまでも高い人気を誇る作品です。
NEXCO東日本管内の東北自動車道羽生パーキングエリア(上り)がリニューアルして、この鬼平犯科帳の世界観を再現。「鬼平江戸処」としてオープンしたのは、昨年12月19日のこと。
鬼平犯科帳が大好きなので「五鉄」で軍鶏鍋を食べてきました:旬ネタ|日刊カーセンサー
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ある画家の手記if.90 名廊情香/雪村絢視点 告白
絢に簡単に語った、私と直人との馴れ初め話。
端折ってるってことも言ったはずだ、あれじゃあ私のほうがヤバい人間だってことも。
なにせ不穏な話だから絢の不安感ばっか煽っても話す意味がないかと思って、直人のことを教えるつもりで話した。私のことは誰も知らなくていい。
あのあと慧と会って直人の様子なんかを聞いたけど、どうやら直人にもまだ私の知らないものがあった、それで本人もきっと知らないまま生きるだろうって慧は言ってたか。記憶の抜け。
聞いた感じの第一印象は解離性同一性障害、慧もそんな把握でいた。病名ってのはてっとり早いもんだな、注意点や問題点がもうはっきりしたみたいだ。
って慧にも言ったら
「俺はお前ほど強くねぇからな、心細いから言葉になおす、よすがが欲しくなる」
…そう言っていた。
慧は言葉で武装してる。誰にでも通じる理解しやすい万人へ向けた話し方をする。講義を仕事にする人間としては最適なんだろう。社会的な場でのコミュニケーションにおける強者。
実態は、他者と肉体で関われない分の空虚をそうやって宙に吐いた言葉で補ってる。補うつもりが虚しくなって、言葉にすればするほど、人と人の体が離れていく。…慧はそういう、話し方をする。
誰もが慧に“他人”として適切な距離感からしか触れられなくなる。言葉の通じない直人にそれはまさしく通用しなかった。それで直人は大学時代、慧に躊躇せず踏み込んだ。
悲惨な結果に終わったし、慧は誰も愛せないと自認してるけど、私はそうは思わないな。正確には、それで終わってほしくはないな。
私の願望だ。
人生に愛の要らない人間もいるだろうが、平然としてるふりが板についてるけどあれで直人以上に寂しがりなのは充分わかるよ、あのガランとした冷たい部屋に一人で居てシェーズロングに腰掛けずに寄り添うように床に座って寝てる
そういうとこ見てると そう思うよ
今日会う人間にも、肩書きから入るつもりはない。
私は名廊情香だけど、姓も名も大した意味はない。だから名廊香澄の母親としてでもない、名廊直人の妻としてでもない、私の感じた不快感とただ守りたいもののために。
相手が手段を選ばないんなら私も武装する必要があるんだろうな。
チューイングガムを噛みながら服を着替えて、自室の棚からそういう時のものを出す。よくしなる頑丈な皮のベルト、腕時計の中に刃物、シャツの襟やブラの中に薄いのを一応入れておく、水に溶ける薬も。要らないならそれでいい。
ほとんどの道具は置いてきた。
絢から聞いた感じ世間的にはカタギらしいからテーブルの裏から拳銃が出てくるなんてことはないだろうし、ならなるべく身ひとつのほうが私の気が楽だ。いざとなれば素手でもいけるし、生活空間なら相手の部屋の中になんか使えそうなモンはあるだろ。
シャツの下にデニムを履いてベルトを締めて、長めの丈のコートを羽織った。人間の頭蓋骨を殴っても折れない頑丈な素材にヒールの部分だけ変えてもらった編み上げブーツの革紐をしっかりくくって締めていく。噛んでいたガムを口から出して奥歯だけに着けるマウスピースに仕込む。
ここまでの警戒がかえって非礼にあたるような相手なら、その方がいい。そういう可能性もある。
不快感を薙ぎ払いたいのか、なら私は薙ぎ払って得られる快感のためにこうするのか、…そういうことを考え始めると、慧の在り方は少し羨ましいよ。こんなときは特に。武装なんて初めからできないほうが。すべてが言葉で済むならそれが一番だ。
車に乗る。
私の愛車はメルセデスベンツだ。それも少し古い型で、頑丈さに定評がある。普通の日本車に車体をぶつければほぼ100パーセント相手の車のほうが潰れる。
簡単に潰れるのは中の人間を衝撃から守るためだ。潰れなかった硬い車に乗った人間が車内でどうなるか。私は車種を選ぶときそこに重きを置かなかった。これまでこの車に乗るのは私一人だったから。
強くあればよかった。そのための健康と、鍛えた体、リズムの整った衣食住、バランスのいい食事、動きやすい服。
脆いから周りを壊してしまう、力だけ持ってる直人。関わりたきゃ必要なときはあの巨躯を圧倒できる程度にはしておかないと。
でもそういう部分も少し改めなきゃいけないんだろうな。
一年前にはコイツを直人に貸したし、この前は香澄と絢を乗せた。…守り方を、変えていかなきゃ守れない人間もいる。
絢と電話で打ち合わせて決めた時間に間に合うように相手の家まで車を走らせる。
絢も同席すると言ってた。
私がむこうの家に直接訪ねるのは絢の事情を考えればリスキーなんだろうけど、あいつはあいつで無茶するからな…。慧が少しなだめるようなことを言ったらしいけど。
***
時間が近くなってきてからは、部屋の窓から外を見てた。
情香さんがそろそろ来るはず。
見てると近くのパーキングエリアに黒いベンツが停まって、情香さんが降りてきた。
不審じゃない程度の早足でうちに歩いてくる。黒のレザーコートがこんなに似合う女の人いるの…
俺がよく見知ってる女性って桜子さんとか桜とか歴代彼女とか、みんななんかふわっとしてる感じの人が多かったから、情香さんはいまだにちょっと未知の生き物感ある。
「あやー、もうくる?なおとくんのかのじょ」
俺の背中に飛び乗ってきた光さんをおんぶしながら、この人のほうがもっと未知の生き物だった…とか思う。
情香さんが34歳とか言ってたっけ…? 光さんのほうが歳上じゃん。
「ん。もう来るみたい。姿見えたし。あと彼女じゃなくて奥さんね」
「そのひとも絢の友だち?敵じゃないひと?」
光さんにも俺は、前の家のこととか話した。
詳しくは話してないけど、光さんが人質にとられたり危害を加えられたり…とかは、あの家で誠人さんが感知してる範囲では起きないと思うけど。
でも俺と真澄さんならどうにか切り抜けられる場面でも、光さんは体格的にどうにもならないようなことが多そうだから。
話したら光さんは正座して真剣な顔で向かいあって聞いてくれた。
「なるほど。絢にはかえりたくない家があって、敵に追われて逃げている。それでここにせんぷくしている。」
って言った後で、光さんは眉を下げて滅多にしないような泣きそうな顔して聞いてきた。
「…じゃあ追われなくなったら絢はどこかにいっちゃうの? ここにいるのはそのためなの?」
光さんはすぐ後ろのソファに座ってた真澄さんのほうにも振り返って、俺と真澄さんを交互に見た。不安そうに彷徨う視線に、真澄さんは何も言わない。
だから俺が言った。
「安全になっても俺はずっとここにいるよ。ここにいるのは隠れるためだけじゃなくて俺の意思だから」
本当のことだ。死ぬまで一生ここに居るかどうかは誰にも断言できないことだけど、今は、今の話をすればいい。
「絢も真澄のことがすき?」
真正面から聞かれる。光さんはこういうとこ物怖じしないというか、一周して逆に気遣われてんのかなとか、まだ謎だったりする。俺は笑って答えた。
「うん」
泣きそうだった光さんの目がぱっと開いて笑顔になる。そのまま笑って後ろにいた真澄さんの膝の上によじ登って、真澄さんの頰を小さな手で挟んで至近距離から顔を覗き込んでる。
「真澄も絢のことがすきだよね」
「うん」
………。なんかすごいこと訊かれてたし簡単にすごい返事された気がする…
光さんは「真澄がいいこだ!」って真澄さんの首にぎゅっと抱きついてた。
「今日来る人は敵じゃないよ」
背中の光さんに言ったら警戒心より好奇心のほうが上回ったみたいに目をきらきらさせてた。
インターホンが鳴った「俺が出る」「わたしも」
光さんも一緒に玄関まで行った。
「情香さん、いらっしゃい」
扉を開けて情香さんを出迎える。お土産にお菓子もらった。
「お邪魔します。長居はしないから」
この前会ったときと何も変わらない、ちょっとだけ服装がかっちりしてるけど、他人の家に初めて訪問するときってそんなもんかな。
「なんかかわいい服着てんな。部屋着だといつもこうなのか?」
情香さんが俺の服を見て言う。
「これ、ジェラートピケってやつ。光さんが買ってくれた。俺に似合うって」
「光さん?」
「わたしです。」
俺の背中にきれいに隠れてた光さんがくるっと体を翻して情香さんの前に出た。
玄関で靴を脱いで端に揃えて上がる情香さんは光さんを見て目を瞬かせてる。そういえば光さんが居ることはまだなにも話してなかった。
光さんはじっと情香さんを見つめて「ジョーカちゃん。なおとくんの奥さん。」って言った。
「初めまして。お邪魔します。あなたは直人を知ってるの?」情香さんは優しい目で光さんに話しかける。
「なおとくんはわたしの義理のむすこで、人間を高次に導くものを探求するなかま。」
こういうことにこにこしながらも真面目に言うから、俺は慣れてきたけど、情香さんはさらに目を丸くして首を傾げてた。
情香さんをリビングに案内したら真澄さんはお茶いれて待っててくれた。
促されて情香さんは���く会釈をしながらコートを脱いでソファに座って、コートは俺が受け取ってハンガーにかけといた。
真澄さんと向かい合って座った情香さんが先に挨拶した。
「初めまして。名廊情香と申します。突然の一方的な申し出を快諾していただいて、ありがとうございます」
情香さんの話してたことからして微妙に剣呑な空気になるのかと思ってたけど、情香さんは普段より優しく穏やかに笑ってる。真澄さんも空気感を合わせるみたいに返す。
「初めまして。私が雪村真澄です」
真澄さんのとなりに光さんが座ったから、真澄さんは少し顔を傾けて光さんのことを示す。「妻です」
「こんにちは。」
笑顔で情香さんにもう一度ちゃんと挨拶する光さんに情香さんは微笑みで返す。すぐに真澄さんにまっすぐ戻された視線に応えるように真澄さんが切り出した。
「直人さんとは何度か面識がありますが貴女にお会いするのは初めてですね?」
「ええ、そうなります。戸籍上は直人の妻で香澄の母ということになりますが、今回は個人的にあなたにお聞きしたいことがあってこうしてお訪ねしました。ただ、絢の身の上を考えるにあたって私がここに長居するのは好ましくないのではないかと思います。失礼ですが、当たり障りのない話は省いて、早速本題に入ってもよろしいですか?」
…情香さんの聞きたいこと。俺はまだ真澄さんにそのことはなにも訊いてない。俺の事情について俺が独断で情香さんに勝手に喋ったことは真澄さんに全部報告した。誰がなんの情報を持ってるかは共有しといたほうがいい。
「はい」
「では。今からちょうど一年ほど前、自宅に居た香澄が突然行方不明になりました。香澄のケータイから追って一人の該当人物に行き当たりました。該当者の名前は香澄のケータイの表示では雪村真澄となっていましたが、これはあなたのことで間違いありませんか」
「ええ」
表情は変わってないのに情香さんの目が一瞬だけ光ったような気がした。
「直人に連れ帰られた香澄は満身創痍と言っていい状態でした。山中で逃走するためにかなり無茶をしたようで、その怪我もあったでしょう。ただ、香澄の首には人為的に絞殺されかけた痕がありました。香澄に問い質したところ、それはあなたの行動によるものだと。それは事実ですか」
人為的に、殺されかけた痕 絞殺。…痕が残るほどの
「満身創痍…」
真澄さんの言葉に微動だにせずじっと聞き入る、いまだに穏やかな笑顔の情香さんが少し怖い気がした。
「事実ですよ。…いや、…」
真澄さんが一度口元を手で覆って、言葉を途中で彷徨わせた。…珍しいな。話してて言い淀みそうなときはいつも最初から黙ってるのに。
「満身創痍という表現では食い違いがあるかも知れませんね。全身打撲と身体中に裂傷、筋肉の断裂、低体温症、裸足で走った足の裏は肉が抉れていました。足を骨折していて手術をしています。しばらく発熱が続き、意識が混濁した状態で直人に会おうと入院した院内を歩き回り、ベッドに拘束される処置を施されました。満身創痍とは、このような状態でした」
まだ詳しく聞いてなかったことがどんどん出てくる。俺が聞いたのはどっちかというと直にぃの行動とか体に残った後遺症のこととかだったから。
ーーーー殺されかけて 逃げ延びた …
「あなたにされたことから逃れるための行動としてはごく自然に思えますが、あなたはどう思いますか。…いえ、行動するとき、あなたはどうお考えになりましたか」
「自然でしょうね。私はあの子の話を聞こうとはしませんでしたから」
真澄さんが…香澄の話を聞かなかったのは 香澄が意思を持たないと…自分ではなにも判断できないと思ってたからなんじゃないか
…横から口を挟もうかと思ったけど、情香さんは俺のほうを一度も見ない、それだけで、「お前は今は黙ってろ」って言われてる気がした。そしたら真澄さんが言ってくれた。
「私はその自然な反応をあの子ができると思っていませんでした」
…よかった。自分をちょっとでもフォローするような言葉を真澄さんは避けがちだから
「…絞殺されかけた…ことを、あの子は自分の口でそう言いましたか」
「言っていません。香澄は、首を絞められた、とだけ言いました。それも私が問い質してようやくです。香澄の中に絞殺という言葉は今も浮かんですらいないでしょうね。夫の直人にもその発想はないかも知れません。ただ、首に痕が残るほどの締め方は本来ならお戯れでは済まないことのはずです。ただでさえ人体の急所を集中して狙っているのですから、そこに死という結果と殺意がないというほうが、無理があるかと私は考えましたが。何か見当違いな部分があったら忌憚のない答えをいただければと思います」
情香さんは…落とし所を探しにきてるのか。真澄さんを極悪人だと決めつけてきたわけじゃ…なさそうだ。多分。
「いえ…納得しました」
目を伏せた真澄さんはしばらく黙ってた。光さんがソファに置いてる手のすぐ横にあった真澄さんのシャツの袖を小さくぎゅっと握ったのが見えた。
「話を遮って申し訳ない。どうぞ続けてください」
「…少し私の疑問からは話が逸れますが、これもあなたの口から聞いておかなければいけません。事が起きる前に、香澄は夫にあなたのことを簡単に説明していたようです。曰く、あらゆる家族関係を包括したような、自分を庇護してくれる存在であったと。香澄が行方不明になったとき、直人はそのことに憤っていました、なぜあなたがいながら自分のような存在に関わらせたまま香澄は今日まで放置されたのか、と。…何故ですか。事の顛末や絞殺未遂を一旦脇においてお尋ねします。香澄を救助する目的の誘拐であったなら、何故あのタイミングだったのですか?」
「香澄を救助…ね」
それから真澄さんはいつも以上に言葉にすることを吟味するみたいにして話し出した。
ーーーー私は直人さんのことをほとんど存じておりません…直人さんが香澄に具体的にどのような態度で関わっていたのかも。知っていたのは直人さんと関わってから香澄が入退院を繰り返すようになったこと…だけ
あの子を救助するとは思っていませんでしたよ。それはそうだったらいい…というだけの私の勝手な願望でしかありませんでした
…浚ったのは彼らが家族になったからです。共に生活をし始めたから…
香澄が人生の一部になってしまうのは…危ういと思った、一時ならば構わない、あの子は直人さんを助けたかもしれない…けれど…
要領を得ずすみません…ただの勘だった…とも、経験則だったとも言える、あそこが限度だろうと私が勘でそう思った…そういうことにさせてもらいますーーーー
「……。」
ぜんぶ、一年も前の話だ。今と違うから、筋の通った説明は…事情を知らない相手にはできない…
「限度、ですか」
情香さんはまっすぐに見つめていた真澄さんからふと視線をはずして、穏やかに笑うのをやめた。少し目を伏せてぼんやり遠くを眺めるような目をしてる。
「……私の話になりますが、私は夫…直人と夫婦らしい共同生活をした事がありません。夫の現状もほとんど把握していない有り様で、香澄といつからどのように関わり始めたのかも、直人から聞いたに過ぎません。
ただ、あなたの経験則という言葉を借りるなら、ーーー私ははじめにあなたと同じ判断を下しました、直人に対して。誠実さと暴力性の境界線を弁えろと諭しましたが……それでも二人は紆余曲折を経て家族になる道を選んだ。
養子縁組の話が持ち上がって、初めて私は香澄に会いました。家族になるにあたって香澄のこれまでの略歴や自分についてを香澄自身に尋ねましたが、問い詰めてもほとんど曖昧模糊とした返答しか返ってきませんでした。…私が香澄と家族になる覚悟と決意を固めたのはその時です。これも言葉を借りるなら、香澄を直人と居させたいだけにしておけば「限度を超える」と。おそらくは双方に言えることです。
正式な家族になれば、私が堂々と二人に立ち入る口実ができます。…私はまだ香澄のことをあなたほど深く把握しているわけではありませんが…奇しくも逆の方法で、守ろうとしていたと これは…そう考えて、いいものでしょうか」
情香さんは、香澄を守るために家族になったのか。…直にぃと家族になったときと、少し似てるな。これが情香さんのやり方ってことなのかな…。
「…あの子が大事なんですね」
「どうでしょう、私の動機を言葉にすればそういう表現になるのかも知れませんが、私に持ちうる手段が他になく無力だったというだけでもあると思いますよ」
絶対に揺らがない軸をもって行動してるように見えたけど、ただ独善的なわけでもない。…それはこの前の話からも、わかる。
「手段は動機の後にある、必要な力も」
コーヒーを口に運びながら真澄さんが言った。
「貴女は香澄を大事に思って…守ろうとしている…のかもしれませんが、僕についてはあいつを守ろうとしてたとは、思わない方がいいですよ」
「それなら守ろうとする以外で、絞殺しようとした理由は …なんだったんです」
その後に真澄さんが言ったことは 俺の想像の範囲内にあったけど、何度も否定してきた そのものだった
「殺そうか迷ったんですよ」
「もう何度も…何度も、迷った」
「あの子はいつものことだなんて…言わなかったでしょうけど」
ーーーーかわいそうだと思うよ…。
「殺すって なんで…?」
口をついて出た 黙ってられなかった なんで…
「絢は香澄が生きる方へ向かっていたんじゃないかと話してたね。そういう人間も居るだろう。僕も可能性くらいは知っていた…だが香澄はそうじゃ無かったんだよ」
そうじゃなかった …そうじゃなかった? なんで それを知ってるんだ 誰も 誰かのことなんて
「なんで真澄さんがそれを知ってるの?」
誰かの本当のことなんて 自分の本当のことだって
「僕が…あの子に何かある度生かし続けたというだけだ 以前の香澄は守るべき自我を持ってなかった、そう話したね。あの子はどれほど痛め付けられても尊厳を踏みにじられても自殺する意思すらなかっただけで…死ぬ寸前で僕が遮っていた」
「………」
「僕のせいで生きているなら僕があの子に死をあげるべきなんじゃないか …そう思っては首に手を掛けた」
………
「生きていてほしいのと同じくらい死んでほしかった
僕のことも僕とは認識せずにされるがままで
香澄はもう自分から死にたいとさえ言えなかったからね」
「でも僕は結局いくら関わっても自分が責を負わなくて済むことを知っていてあの子の傍にいました」
「迷ったまま…香澄が逃げ出すまで何もできませんでした」
「ーーーー誰も誰かの本当のことなんて分からない、一生、どれだけ長く一緒にいても、どれだけ注意深くその人を見てたって、どれだけその人を深く愛したって、憎んだって、誰も誰かのことなんてわかるはずない、なのに
そうじゃなかったって?
自我がないのも意思がないのも香澄の外側を見てそう考えただけの真澄さんの妄想だ
遮られなきゃ死んでたかどうかだって誰にも分かるもんか、香澄は生きてる、起きなかったことなんて全部ぜんぶただの妄想だ
希望も理想も抱かないから良いほうに事が運んだときにそれが奇跡だなんて滑稽な言葉になるんだ
周りがそれを担わないで終わらせることばっかり考えてなにが良いほうにいくもんか
誰かを終わらせる権利や資格が誰かにあってたまるか
そんなものあってたまるか!!!」
最後のほうは叫ぶみたいな口調になった 泣きそうだと思ったからその前に立ち上がったそのまま書斎に駆け込んだ
***
珍しく…というかまだそんなに接したことがあるわけじゃないけど、感情を剥き出しにするのをなるべく避けてるような印象があったから、今の絢の言葉と行���は少し意外だった。
絢のあとをあの小さな女の子…光さん、か、が「わたしがいく。」って追いかけてった。
「…絢もこの場に居た方がよろしければ呼んできますが」
絢が駆け込んでった部屋の扉を見るともなしに見てたら向かいから言われた。
「必要ありません。私が聞きたいことはあと一つだけでしたけれど、今のお話をお聞きして、もうお尋ねする必要はないと思いました。あとはこちらのご家族の問題でしょうから」
そう言ったあとで、絢も女の子も居なくなったリビングで軽い話を振る。
「随分若い奥さんですね」
「光は僕より年上です。… 一応」
「………不思議なこともあるもんだな…」
つい普段の口調が出た。
一呼吸置いて、シャツの上に着てた薄手のジャケットを脱ぐ。シャツの襟やあちこちに仕込んでた物を全部その場で出してベルトを腰から引き抜いて、シャツの背中からアーミーナイフを取り出す。
それらをひとつずつテーブルの上に並べていく。
「ティッシュかなにかお借りしても?」
訊くと「どうぞ」って箱ごと渡されたから遠慮なく大量に引き出して手で口元を隠しながらマウスピースとガムを取り出してティッシュの中に丸めて包み込んで、ゴミ箱が見当たらないからジャケットのポケットにとりあえず突っ込んだ。
洗面所だけ借りて手を一度洗ってからリビングに戻る。
ずらっと並んだ物騒な物を前に、膝に手を置いて相手に頭を下げて謝罪する。
「最悪の事態のために最低限の備えをしてきました、非礼をお詫びします」
「いえ」
道具を全部かき集めてまとめてジャケットの上に放って、風呂敷みたいに包んで持つ。
わざわざ晒す必要もないんだろうが、こうしとかなきゃ勘付かれてた場合に私が信用を落とすからな。
ソファから立ち上がって、コートを肩に引っ掛けて持つ。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼します。どうも私が引っかき回したようで…絢は放っといて大丈夫ですか」
「…光がついてますから大丈夫でしょう。一声掛けます?」
「今は結構ですが、帰る前にひとつだけ。絢が、直人のことを調べて回ってますね?」
「そうなんですか? 知りませんでした。絢が何をしているかまで干渉していないもので」
ガリガリ頭をかいてセットしてた髪型を崩す。滑らかに嘘をつくタイプか…?…直人とは逆に難儀なやつだな。深く関わらねぇならこんなもんなんだろうけど。
「……どちらにせよ知っておくべきことですから。絶対に関わらせてはいけないしあなたも極力避けるべき人間についてです。中郷稔という、直人の…まぁ恩師のような存在なんですが。関われば死人が出るのを避けられない厄介な人種です。もうご存知かもしれませんが、被害当事者としての警告です。直人を辿れば早い段階で行き着いてしまう。いつ誰にむけて何をするかはまったく読めないと思って、警戒を怠らないようにお願いします」
「…どうも」
「まってまって!まだかえらないで!」
絢の入ってった部屋から女の子…光さん、が出てきて、私を呼びとめた。
その子はポケットからスマホを取り出して画面を操作しながら言う。
「ジョーカちゃん、メアドこうかんしよ。」
まだこの子にどう接するか定まらないまま言われた通りに私もスマホを取り出して連絡先を交換した。
「よし。ともだちがふえた。…あとでききたいことあるからメールするね…。」
語尾にむかってだんだん声が小さくなってる。聞きたいこと? まぁいいか。
さて これで言うべきことも聞くべきことも済んだ。
私の憂いが晴れただけなんだけど、今日はこれで満足するしかないな。
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【一般道から入る】羽生PA上り 江戸時代へタイムスリップ
一般道に設けられた専用の駐車場に停めて入りました。施設の建物は「鬼平犯科帳」の世界観に基づき江戸の雰囲気を漂わせているパーキングエリアで、下りは普通なのに上りはすばらしく時代劇の撮影所や川越の街並みを連想しました。鬼平江戸処というテーマでショップが並んでいます。食べ物は、丼物、ラーメン、うなぎ、蕎麦、軍鶏。人形焼、くず餅、立ち食いファストフード等。お土産類もかなり充実しています。羽生の音楽に乗せてどうぞお楽しみください♪
#鬼平江戸処#羽生PA上り#タイムスリップ
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鬼平犯科帳の街並みを再現 冷や水 秩父市産ミネラルウォーター
東北自動車道 羽生パーキングエリア上りにある、
鬼平江戸処オリジナルミネラルウォーター。
埼玉県秩父市産 硬度は88。
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休憩中! #GTR #NISSANGTR #R35 #R35GTR #GTRNISMO #R33 #R33GTR #33GTRオーテックバージョン #BCNR33 #BCNR33改 #GTR4door #gtrオーテック #AutechVersion40thANNIVERSARY #ニッサンスカイラインgtr #オーテックバージョン #スカイライン #NISSAN #日産 #ニッサン #GTROC #ヘーベルハウス #へーベリアン #hebelhaus #FREX2 #重鉄の邸宅FREX2 #重鉄の邸宅 #ガレージ #ガレージハウス #ガレージライフ #ビルトインガレージ (羽生パーキングエリア) https://www.instagram.com/p/Cn8SVNWrdzf/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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【羽生サービスエリア下り】忠八 特うな重3,700円 疲れた体にエナジーチャージ! エナジードリンク以上に効き目ありそうな食べ物。 たまには、豪華ランチして気分も変えていかなきゃということで、いいもの食べました。 あと、サービス券一枚集めるとランクアップ出来るみたいで、横綱うな重5,000円食べてみようと思います。あと一回来ないと食べれないのと、期限あるので早めに寄りたいな。 #羽生パーキングエリア #忠八 #うな重 #うなぎ #sammy (炭火焼うなぎ忠八) https://www.instagram.com/p/CiRY4BuJ0Z8/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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渡良瀬遊水池を後にして、東北道羽生PAで早めの夕飯。 #一本うどん #羽生パーキングエリア #羽生pa https://www.instagram.com/p/CCOLnsHAuqV/?igshid=1qg9coqx1zfqb
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15日の午後立ち寄った鬼平犯科帳とコラボしたパーキングエリア♪ 東北道のパーキングエリアであるが、一般道から入れます。今日のニュースで鯛焼きも取り上げられていてタイムリーな来訪でした。 帰りに田山花袋の田舎教師に所縁のある記念館に立ち寄りました。 #羽生パーキングエリア #鬼平犯科帳 #五鉄 #一本うどん #船橋屋 #葛餅 #和太鼓 #田山花袋 #田舎教師 (羽生PA (上り)) https://www.instagram.com/p/Bz8R3wOA7eK/?igshid=1en5bmy5ar20x
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. 東北自動車道を ドライブ中に 羽生下りPAで ひと休み . 鬼平犯科帳の 世界観をイメージしてるそう 夜景だと なんだか良い雰囲気を 醸す . . #パーキングエリア #parkingarea #羽生 #hanyu #鬼平犯科帳 . #日本 #japan #埼玉 #saitama . #お散歩 #walking #2017年11月のお散歩 #お気に入り
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羽生パーキングエリア上り鬼平江戸処。
ここで食べられる一本うどんは、話のネタになる。
妻子食べさせるために寄ってみた。
20210502
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ある画家の手記if.89 告白
『大トトロと中トトロと小トトロに会ったよ』
香澄が帰ってしまってから、年末まであと数日。
ケータイの待ち受け画像になってるぬいぐるみと香澄のツーショット写真をじっと見る。
喜んでくれたみたいでよかった。
普段は働いてる成人男性が持ってたらよさそうなネクタイピンとか時計とか万年筆とかをあげてるから、ぬいぐるみは子供っぽすぎるかなって思ったりもしたけど、香澄はうちのかいじゅうくんと仲良しだし、やっぱりあのいぬでよかった。並んで写ってたら香澄の白い肌や髪の毛がよく映えて綺麗。
本当は仔犬か仔猫を飼ってあげたいと思ったりもしたんだけど、僕らは日中は二人とも働きに出ちゃうから動物の世話はできないかなと思って、それでぬいぐるみにした。
住んでるマンションはペット可で、それも大型犬とかちょっと変わったペットでも脱走なんかに気をつけて飼えばいいみたいだったから、いずれ本当に動物とか香澄と育てられたらいいな。
今は僕と香澄の二人の生活だから、一緒にいないときはお互いに家ではひとりぼっちになる。
僕はもともと一人の生活が長いからそれで平気だけど、香澄が一人の時についててくれる強い番犬がいてくれたら頼もしいな。
『ぬいぐるみ、絢も直人に似てるって』って香澄からきたときはちょっとびっくりした。いぬ…僕と?
『次に会うまでに名前を考えてあげてね』って返した。
会いたくなっちゃうからなるべくスタンプだけとか一言で短めのやりとりだけして終わらせるようにしてる。
年末年始の旅行のプランは今回は香澄が仕切ってくれるみたいだったから、僕はそれまで大した準備ができない。
せめていいプレゼントでも見つかれば買おうかと思って、仕事着のスーツを着てコートを羽織ってホテルを出る。今日は天気のせいかちょっと左脚と肩あたりの調子が悪いから、腕に杖を引っかけて持った。
部屋はスイートから元の一人部屋にまた戻してもらってる。
クリスマスが過ぎてしまったら街は完全にお正月に向けての色に塗り変わっていて、みんな切り替えが早いなぁ。僕はまだ香澄と一緒に過ごしたクリスマスの余韻から抜けきれてない。
余韻でとめておいてあんまり細かいところまで思い出さないようにしてる。何度思い出しても恥ずかしい… 言わないできてたことだだ漏れになって香澄に知られちゃって、普段ならあんなこととてもじゃないけど言えない、引かれそうだと思ってたけど香澄はなんか嬉しそうだったような…?
…やめておこう。一人ですることになるのは嫌だし。
デパートの中を特に目的もなく物色して回る。
香澄と一緒にくれば服とか靴とかいろいろ選ぶのも楽しいけど、僕一人じゃすることもないし味気ないな…。
情香ちゃんが香澄のところに時間見つけて行ってくれてるみたいだからお礼になにか買いたい…んだけど、似合いそうな装飾品とか小物とか靴とかあげてもまったく喜ばれなくて、僕はいまだに情香ちゃんを喜ばせるポイントを知らなかったりする。人の気持ちや物を粗末にはしないから、使ってはくれるんだけど…。
付き合いが長いから、変にチープな安いキーホルダーとかをあげたら喜ばれるというか面白がられるのは知ってるけど、この建物の中にそういうものはなさそうだし、チープだったら全部ツボに入るわけでもない。パーキングエリアで売ってるようなのが一番ウケがいい。
そういえば香澄から絢と二人でおそろいのパジャマ着てる写メが送られてきて、かわいいなぁと思って見てたら瞬時に情香ちゃんから僕に『かわいい』って一言送られてきた。
伝えたいことなら情香ちゃんは香澄本人に直接送信するだろうから、僕だけに送ってきたってことは同意を求められてる…って思って、少し笑ってしまった。ほんとに香澄が好きだね。
『そうだね』って僕も一言だけ返した。
付近にいくつかある本屋の中で僕の好きな本がありそうなお店に入る。
人気作家の新刊とかは置いてないけど、バイブルのように読み継がれてる文学とか画集とかが棚に並んでる。
僕が仕事で教えてるのは実技だし、実際はなにも教えたりなんてしてないに近いんだけど、生徒た��の中には勉強熱心な子もいて、絵画論とかの話をたまに振られたりもする。
そういうのは僕じゃなくて冷泉みたいな美術史の先生と話したほうが面白いと思うけど、ちょうどホテルには何も本を持ってこなかったし、買って少しは僕も勉強しておこう。
結局本を数冊買っただけでお店を出て、街の中を歩き回る。年末にさしかかって人通りが多い。
遊園地では香澄を見てれば酔わなかったけど、今はどこに焦点をあてようか迷って少し酔いそうになる。
人混みをすり抜けてひらけた公園に出た。
薄曇りの空の下でベンチに浅く腰かける。体に負担をかけないように右手で買った本を開いて読み始める。
しばらく読んでたら同じベンチの僕が腰掛けてる位置から遠いところに、一人の女の子が座った。
艶のある黒髪を三つ編みにしてる、俯いたら三つ編みが顔の横で揺れた。
家族と一緒のようでもないし、荷物ひとつ持ってない。この辺に住んでる子かな。
僕が本を閉じてベンチから立とうと思ったときに、女の子から急に声をかけられた。
「人間を高次に導くのは見返りのない積極的な消費だと思う?」
「…………え。」
一瞬ほんとうにその子が発した言葉なのか疑った。冷泉が言いそうなこと言ってるけど…今のって僕に聞かれた、んだよね… しっかり僕のほうを見て目を合わせて言ってるし
女の子は僕が持ってる本を指差して言った。
「その本よんだんじゃないの?」
「……まだなんだ。さっき近くのお店で買ったばかりだから」
「そういう本がすきなの?」
「分からないな…この手のことには詳しくないし、よく知らないから」
「なにもしらないのに急にバタイユ買ったの?」
女の子は僕のいるほうに向かってベンチに両手をついて身を乗り出してきた。馬鹿にしてる感じのニュアンスじゃないな…ものすごく興味深そうに大きな目で僕をしげしげと見てる。瞬きのたびに黒くて長い睫毛がパチパチ大げさに開閉する。
中学生か、背丈だけならまだ小学生くらいに見える… 通じるのか分からないけど、ちゃんと返事をする。
「この本にはマネについての絵画論もあるみたいだったから、バタイユは名前しか知らないけど絵画論だけでも読んでおこうかと思って」
「絵がすきなの?マネってエドゥアール・マネのこと?」
間髪入れずに質問がくる。ベンチに座って地面から完全に浮いた両脚を交互に揺らしながら。目がキラキラしてる。親御さんがこういう学問を教えてるとかなのかな…?
僕���ベンチから立ち上がってコートの埃を払った。
「今は学校で教えてるだけで、特に好きではないかな…。マネの絵ならアスパラガスのが好きだよ」
「せんせい! 絵のせんせい?」
女の子はスカートのポケットから取り出したスマホを素早くいじって僕に画面を向けた。カメラロールにたくさん四角い箱の写真がある。
「これぜんぶわたしが作ったの。どうおもう?」
以前はこういう、作品への意見を求められるのは相手が子供でも関係なく苦手だった、僕に言えることなんて特にないから、僕ならこうする、ってくらいのつまらないことしか言えないし。
でも最近はそういうことを仕事で言わなきゃいけないことが多くて、少し慣れてきたというか、…どこかの誰かみたいに無神経に一蹴して笑い飛ばすような横暴な真似はさすがにしないけど。
写真を拡大したりしてちゃんと見る。箱の中にいろんなものが綺麗に配置されてる。箱の中の小宇宙…小さな箱庭ーーーージョゼフ・コーネルを思い出した。ボックスアート…作風がよく似てる。
「……君はコーネルを知っててこれを作ったの?」
女の子は首を傾げながら呟く 「…その人はしらない…。」
「知らないで作ったんならバランス感覚がいいね。どうして箱の中に入れようと思ったのかな」
仕事のおかげで絵や作品に関するやりとりが結構スムーズにできるようになった。
女の子は僕のほうに掲げて見せていたスマホをポケットにしまいながら言った。
「いやなものは箱にいれてとじこめておいたらいいかもって。大事なものもしまっておけるし」
「………。」
閉じ込めておく、か…
「父はわたしの箱をガタクタって言って捨ててた」
「ガラクタも美しいよ」
「なるほど。そうかもしれない。…えっと…」
言い淀むその子に名乗る。
「直人。名廊直人、です」
「なおとくん。わたしは光。Lumièreって意味の。」
こんな小さい子にくん付けで呼ばれたの初めてだ。lumière…ってフランス語か、懐かしいな。絢も英訳と仏訳でこれから仕事するって言ってたっけ。
「光くんは今日はお父さんとお母さんは一緒じゃないの?」僕もくん付けで合わせてみる。
「…うん」
ひと呼吸おいてから彼女は続けた。
「いっしょに買い物にきたんだけど、夫も息子も迷子になっちゃったからここで待ってるの」
それはつまり君が迷子なんじゃないかな… 夫と息子?!
「いた!!!!!」
遠くから綺麗に通る聞き慣れた声がしたと思ったら、絢だった。いつの間にか睫毛も金色になってて、ますます星の王子様みたいになってる。
駆け寄ってくるから僕のことを言ってるのかと思ったら、絢は走り寄ってきて彼女の前に片膝をついた。
絢は光くんの首に自分のマフラーを巻いて、片腕に持ってた彼女のものらしい小さなケープコートを彼女の肩にかけて前を合わせてる。
光くんは絢の髪の毛を撫でながらにこにこして僕に言う。
「この子が迷子の絢。わたしのむすこ。」
「光さんが迷子ね。またなんか追っかけられた?どっか怪我とかしてない?」
「しつれいな。わたしはそんなにドジじゃないぞ。」
まじめな顔した女の子に絢は笑ってから、僕と彼女を見比べて難解な顔をした。
「えーと…これどういう取り合わせ?直にぃはここで何してんの」
「僕は買い物にきただけ、そろそろ帰ろうかと…」
僕をじっと見ていた彼女が急にくるっと背後に振り向いた。
低いフェンスを跨いで公園に入ってきた人のもとへ光くんが走り寄る。嬉しそうに笑いながら彼の手を引いて絢と僕のところまで戻ってくる。
彼を知ってる
一年前のちょうど今頃 突然居なくなった香澄 クリスマスに香澄から紹介された「兄でも親子でも夫婦でもあるような関係で 父親がわり」
絢を引きとってくれた人 僕は絢を信頼してるし、僕よりよっぽど人を見る目があるから その絢が信頼している人 絢の…家族
「ーーーーお久しぶりです。絢がそちらでお世話になっていると聞きました。込み入った事情のある家からこの子を連れ出してもらえたことを感謝しています」
……他にも聞きたいことや言いたいことはある。って前に情香ちゃんに話したら「それは私に任せてお前は何もするな」って言われた。確かに一年前の僕ならもうここで警察がくる喧嘩沙汰になってるだろう。
昔はそれでよかった。今はそれではだめだ。守りたいたくさんの人も同時に傷つける。
「いえ 僕は何も」
短くそれだけ言った彼の片手を光くんが手遊びみたいに握って、自分の小さな両手で包んで白い息を吐きかけてあっためようとしてる。彼の長い前髪が冷たい12月の風に少し浚われていく。
目線がちょうど同じくらいで逆に少し首の据わりが悪い。だいたい僕より小さい他人の目を見て話すとき、少し顎を引いて俯きぎみにするのが癖になってるから。
彼に…僕がここで今伝えたいことはなんだろう
「………どれだけ助けたくても…僕にできることが何もなかったとき、香澄とあなたが助けてくれた。絢は聡明な子だから、どうにか僕が匿って養えたとしても僕と居ては苛立たせるばかりでしょう。…僕でなくてよかったと思っています、絢の新しい家族が。」
僕の隣にいて僕を見ていた絢の頭を撫でてから、コートの内ポケットから名刺を一枚取りだして笑顔で彼に差し出した。
「何かお力になれそうなことがあればいつでも連絡してください」
彼が名刺を受け取ろうとする前に僕と彼の間を光くんが踊るように素早くすり抜けて、僕の手から名刺を掠め取った。
「ありがとうございます」
名刺を読んでる光くんを置いといて彼のほうが僕にお礼を言った。
「あいにく今日は名刺を持ち歩いてなくて。お渡しできず申し訳ない」
「いえ…そちらの連絡先が明記されたものを僕は持っていないほうが絢に…「ほんものの絵のせんせいだ!」
彼のまわりをくるくる回って三つ編みとケープコートの裾を宙で衛星みたいにひらひら揺らしながら、光くんが名刺を見て大きな目をさらに大きくした。
「光も挨拶した?絢の母ですって」
「ううんまだ」
光くんは彼の隣でピタッと回るのをやめて僕に今さら丁寧に深々と頭を下げた。小さくてまん丸な頭が地面につきそうなくらい眼下に見える。
「絢の母です。このひとは雪村真澄。わたしのだんなさん。なおとくんは絢の友だちなの?」
これって迂闊に答えていいことなのかな。どうやら光くんは本当に彼の妻で絢の母親らしい。結婚できる年齢よりは上なのか、今は婚約だけしてる状態なのかな。家族なら絢の事情も知ってるかな。
「僕は絢のいとこのお兄さんだよ」
「ほう。つまりわたしのとおい義理のむすこ。」
謎の結びつけられ方で僕は光くんの義理の息子になった。
そのまま立ち去る彼に絢も光くんもついていく。
絢は通り過ぎざまに「Elle est ma mère, Vraiment.」って僕ににやっと笑って言っていった。
光くんは後ろ向きに歩きながらにこにこ笑って「バタイユよみおわったら感想おしえてね」って言ったと思ったら彼の長いコートの裾の中に素早く潜りこんで見えなくなった。コートから小さな手だけがにゅっと出てきて、僕に手を振ってる。
見えてないだろうけど、僕も笑って小さく手を振り返す。
僕は去っていく三人の後ろ姿を見送ってから、香澄にメッセージを送った。
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