Tumgik
#鳴門炙り金時
kachoushi · 9 months
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各地句会報
花鳥誌 令和6年1月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年10月2日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
日本海見ゆる風車や小鳥来る 泰俊 駅近の闇市跡に後の月 同 山門を標とするや小鳥来る 同 師の墓の燭新涼のほむらかな 匠 渡り鳥バス停一人椅子一つ 啓子 紫に沈む山河を鳥渡る 希 ひらひらと行方知らずや秋の蝶 笑 なりはひの大方終了九月尽 数幸
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月4日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
朱の色に蝋涙たれし日蓮忌 ただし コスモスのたなびく道を稚児の列 洋子 抱かれて稚児は仏よ日蓮忌 同 めらめらと朱蝋のうねり日蓮忌 同 ピストルの音轟ける運動会 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月5日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
友の墓秋空の下悠然と 喜代子 棟上げの終はりし実家や竹の春 由季子 菊人形幼き記憶そのまゝに さとみ 長き夜や楽し思ひ出たぐり寄せ 都 強持てに進められたる温め酒 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月6日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
蜜と恋どちらも欲しく秋の蝶 都 八幡の荘園かけて飛ぶばつた 美智子 彼岸花軍馬の像を昂らせ 都 露の手に一度限りの炙り文 宇太郎 杖の歩や振返るたび秋暮るる 悦子 露けしや既視感覚の病棟に 宇太郎 コスモスの乱れ見てゐて老いにけり 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月7日 零の会 坊城俊樹選 特選句
天高く誇り高きは講談社 きみよ 華やかに滅びゆく香や秋の薔薇 和子 秋冷を暗くともして華燭の火 千種 白帝は白い梟従へて きみよ 薔薇は秋その夜会より咲き続け 順子 肘掛に秋思の腕を置いたまま 光子 爽やかや罅ひとつなきデスマスク 緋路 一族の椅子の手擦れや秋の声 昌文 邸宅の秋に遺りし旅鞄 いづみ 洋館に和簞笥置いて秋灯 荘吉
岡田順子選 特選句
栗の毬むけば貧しき実の二つ 瑠璃 流星を見ること永きデスマスク いづみ 正五位のまあるき墓を赤蜻蛉 小鳥 秋天の青は濃度を増すばかり 緋路 月光の鏡の中で逢ふ二人 きみよ 聖堂は銀に吹かるる鬼芒 いづみ 実石榴をロイヤルホストで渡されて 小鳥 石榴熟る女人の拳より重く 光子 秋の灯を落して永久のシャンデリア 俊樹 毬栗を踏み宰相の家を辞す 緋路
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月9日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
コスモスの島にひとつの小学校 修二 檸檬の香そは忘れざる恋なりき 美穂 嫁がせる朝檸檬をしぼりきる 朝子 母乳垂る月の雫のさながらに 睦子 タンゴ果て女は月へ反りかへる 同 護送車の窓には見えぬ草の花 成子 やはらかく眉をうごかし秋日傘 かおり 天と地を一瞬つなぐ桐一葉 朝子 流れ星太郎の家を通り過ぎ 修二 正面に馬の顔ある吾亦紅 朝子 傘たゝみ入る雨月のレイトショー かおり 幾千の白馬かけぬく芒原 成子 古備前に束ねてさびし白桔梗 睦子 糸芒戻れぬ日々を追ふやうに 愛 黒葡萄いつもの場所の占ひ師 修二
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月9日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
新生姜甘酢に浸り透き通り のりこ 風を掃き風に戻されむら芒 秋尚 足音にはたと止まりし虫の声 怜 朝露に草ひやひやと眩しかり 三無 出来たての色の重たき今日の月 秋尚 徒競走つい大声で叫びたり ことこ 秋落暉炎のごときビルの窓 あき子 秋祭り見知らぬ顔の担ぎ手に エイ子 秋霜や広がる花を沈ませて のりこ 面取ればあどけなき子や新松子 あき子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月9日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
万葉の歌碑一面に曼珠沙華 信子 金木犀優しき人の香りかな みす枝 昇る陽も沈む陽も秋深めゆく 三四郎 廃線の跡をうづめて草紅葉 信子 駅に待つ猫と帰りぬ夜寒かな 昭子 天の川下界に恋も諍ひも 同 ひらひらとバイクで走る盆の僧 同 蟋蟀の鳴く古里や母と歩す 時江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月10日 萩花鳥会
夜鴨なく門川暗くひろごれり 祐子 サムライ衆ナントで決戦秋の陣 健雄 これ新酒五臓六腑のうめき声 俊文 露の身や感謝の祈り十字切る ゆかり 虫食ひのあとも絵になる柿落葉 恒雄 すり傷も勲章かけつこ天高し 美惠子
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令和5年10月14日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
魁の櫨紅葉の朱句碑の径 三無 花よりも人恋しくて秋の蝶 幸子 咲き初めし萩の風呼ぶ年尾句碑 秋尚 女人寺ひそと式部の実を寄せて 幸子 豊年の恵みを先づは仏壇へ 和代 篁を透かし二三個烏瓜 三無 日の色の波にうねりて豊の秋 秋尚 曼珠沙華に導かれゆく道狭し 白陶 二人居の暮しに適ふ豊の秋 亜栄子 林檎好き父と齧つたあの日から 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月14日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
ガシャガシャと胡桃を洗ふ音なりし 紀子 秋日和小児科跡は交番に 光子 歩かねば年寄鵙に叱咤される 令子 稲の秋チンチン電車の風抜けて 実加 不作年新米届き合掌す みえこ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月15日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
街騒も葉擦れも消して秋の雨 三無 大寺の風を擽る榠櫨の実 幸風 尾を引きて鵯のひと声雨の句碑 秋尚 水煙に紅葉かつ散る結跏趺坐 幸風 菩提樹を雨の宿りの秋の蝶 千種
栗林圭魚選 特選句
観音の小さき御足やそぞろ寒 三無 絵手紙の文字の窮屈葉鶏頭 要 駐在も綱引き離島の運動会 経彦 小鳥飛び雨止みさうにやみさうに 千種 秋霖や庫裏よりもるる刀自の声 眞理子 句碑の辺に秋のささやき交はす声 白陶 秋黴雨だあれもゐない母の塔 亜栄子 梵鐘の撞木の先や秋湿り 眞理子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
考へる事に始まる端居かな 雪 おは黒を拝み蜻蛉と僧の云ふ 同 道草の一人は淋しゑのこ草 同 朝霧の緞帳上がる音も無く みす枝 秋灯火優しき母の形見分け 同 役目終へ畦に横たふ案山子かな 英美子 孫悟空のつてゐるやも秋の雲 清女 穴感ひ浮世うらうら楽しくて やす香 栗食めば妹のこと母のこと 同 天高し飛行機雲の先は西 嘉和 屋根人を照らし名月たる威厳 和子 秋深し生命線の嘘まこと 清女 蜩に傾きゆける落暉かな かづを
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月18日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
枯れて行く匂ひの中の秋ざくら 世詩明 一声は雲の中より渡り鳥 同 見えしもの見えて来しもの渡り鳥 同 菊まとひ紫式部像凜と 清女 越の空ゆつくり渡れ渡り鳥 和子 秋扇に残る暑さをもて余す 雪 山川に秋立つ声を聞かんとす 同 鳥渡る古墳の主は謎のまま 同 鳥渡る古墳は謎を秘めしまま 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月20日 さきたま花鳥句会
SLの汽笛を乗せて刈田風 月惑 寝ころびて稜線を追ふ草紅葉 八草 残る海猫立待岬の岩となる 裕章 大夕焼分け行く飛機の雲一本 紀花 曼珠沙華二体同座の石仏 孝江 白萩の花一色を散り重ね ふゆ子 秋の野や課外授業の声高に ふじ穂 秋寒し俄か仕立てのカーペット 恵美子 秋空や山肌動く雲の影 彩香 爽籟や赤子よく寝る昼下り 良江
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令和5年10月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
生身魂梃子でも動かざる構へ 雪 古団扇此処に置かねばならぬ訳 同 飾られて菊人形の顔となる 同 亭主運なき一枚の秋簾 一涓 菊の香に埋り眠る子守唄 同 叱りてもすり寄る猫や賢治の忌 同 友の家訪へば更地やそぞろ寒 みす枝 叱られて一人で帰るゑのこ草 同 朝霧が山から里に降りて来し やすえ 隣家より爺の一喝大くさめ 洋子 菊師にも判官贔屓あるらしき 昭子 人の秋煙となりて灰となる 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年10月27日 月例会 坊城俊樹選 特選句
靖国の秋蝶は黄を失ひて 愛 柿に黄をあづけ夕日の沈み行く 緋路 神池の何処かとぼけた鯉小春 雅春 細りゆく軍犬像や暮の秋 愛 うらがへり敗荷の海のなほ明し 千種 英霊の空はまだ薄紅葉かな 愛
岡田順子選 特選句
秋蝶に呼ばれ慰霊の泉かな 愛 鉢物はしづかに萎れ秋の路地 俊樹 年尾忌も近し小樽の坂の上 佑天 道幅は両手くらゐの秋の路地 俊樹 秋天へ引つ張られたる背骨かな 緋路 老幹の凸凹としてそぞろ寒 政江 板羽目の松鎮まれる秋の宮 軽象 御神樹の一枝揺らさず鳥渡る かおり
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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deisticpaper · 2 years
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蜃気楼の境界 編(一二三四)
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「渦とチェリー新聞」寄稿小説
連載中のシリーズ、第一話からの公開、第七話まで。第八話以降、朗読版に繋がり、最新話に辿り着けます。
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蜃気楼の境界 編(一)
序件
 赤に黄を混ぜると橙になるとか、分子だとか原子だとか、決まりごとで世界を理解した気になれるとしている人達の視た光景が世界の基準になっていることがそもそも気に食わないと、二〇一六年春、高校一年生になったばかりの渡邉咲は思っている。彼女はやがてクラスに、背が高く視力の悪い市川忍という一見平凡な男子生徒がいることに気づくだろう。麗らかな新大久保、韓国料理店をはじめとした多国籍渦巻く通り、彼女よりも背の高い通行人達の隙間を縫いながら気分よく和楽器専門店へ向かう道すがら、迷いのない機敏さですれ違った、いつだったか見たような気のする少女に勘が働き、あとを追うと、二人の男が対立していたのだ。さっぱりとした面立ちの男が軽やかに束感ショートの若い警部補に、これは高橋さんお久しぶりです、と話しかけるが、その警部補は、探偵に用はないよ、と軽くあしらう。少女は、この探偵と警部補の間を通り過ぎ、可憐に立ち止まり、一、三、三十、千五百と口にしたのだ。新規上場企業連続殺人事件の際はな仲本慧きみのお世話になったが、警部補がいう、本当に高くついたよ闇のポケットマネーだった、今回の捜査はもう済んでいる高知県岡内村の淵に発見された男の水死体はここのホステスとの恋の縺れで半グレが実行したと調べがついている。ところが、探偵仲本慧は、隠れて話を聞いていた渡邉咲が耳を疑うようなことを坦々と喋りだしたのだ。少女崔凪が口にした数から推理するに、彼女の身長百五十センチが百五十万μm(マイクロメートル)だね、目視可能な基準五十μmより小さい花粉が三十μmで飛沫や通常マスクの捕獲サイズが三μmで細菌は一μm、零点三μmはN95マスク捕集サイズ、零点一μmはインフルエンザやコロナのウイルスサイズつまり著名なウイルスは人間の千五百万分の一の小ささでその一回り大きい細菌が百五十万倍の少女を視れば頭は火星にあり地球からの距離十三光分だね月までなら一点三光分、符号、十三、仲本慧が楕円を描くようにぐるぐる歩く、火星は周期七百八十日で地球に近づき月との接近を天上で愉しめるわけだが今年はそれに当たる、七百八十と十三に関係する郵便番号が高知市青柳町で、そこに住む犯人は七百八十日周期で男を殺しに東京を訪れる。
 雑居ビルの階段下で警部補は少女崔凪を見、腰を低くし、初めまして警部補の高橋定蔵だ、二年前はお世話になったがきみは知ってるのかな、という。崔凪は強い瞳のまま無言。警部補は探偵に、依頼はしてないから助言と受け取るがどうして事件を追ってる。陰で話を聞きながら、渡邉咲は胸を熱くしている。着信音がする。それを無視した仲本慧、曰く、単なる不倫調査で慧探偵事務所の探偵チームはターゲットの男がある女とホテルへ入るところを写真に収めたが依頼の追加でその女のプロファイルを求められたという。追加依頼を探偵チームに投げようとしたとき事務所に遊びにきた崔凪が、一、三、三十、千五百と自ら口にしたのだ。推理から、と仲本慧はいう、写真に収めた女は、蜃気楼だと気づいた、真の不倫相手の女、つまり犯人が、虚の像を追わせたのさ、ここのホステスは事件の蜃気楼、無関係だね。渡邉咲は、どういうこと、と驚くが、何度か鳴っていた事務所からの着信を仲本慧が受けて、崔凪に、さぁ行こう、と告げ、去り際、ふと足元を見、ツバキの花は境界に咲くというが、現世と魔界の境界にも咲くんだね、と笑みを浮かべる。警部補は二人を追わず高知警察署へ連絡しているらしい。数日後、高知の青柳町に住む女、宮地散花が連続殺人容疑で逮捕されたことを渡邉咲はニュースで知り、午前の授業中はずっと雑居ビルの階段下でのやりとりの記憶に捕らわれ、探偵仲本慧の絡んだ事件の真相って境界の狭間に咲く花のよう、と夢見心地になるが、少女崔凪による真相は、甲乙ムの三文字の一体である鬼を抱く宮地散花が千五百年つまり明応九年に践祚した後柏原天皇の詠んだ歌、心だに西に向はば身の罪を写すかがみはさもあらばあれ、に心打たれるも意味を取り違え、三十人の男の供養を願ったことに始まる。その鬼の念、情景を歪ます程に強く、探偵や警察を巻き込み、一高校生渡邉咲さえ巻き込んだが、彼女は探偵仲本慧による更なる次元さえ加わった渦の中でときめいている。その様は、クラスメイトの市川忍の何かを揺るがしたのだ。窓の下、体育館でのバスケの授業をずっと眺めていた市川忍は、突然渡邉咲の存在に気づき、それは彼のもう一つの人格、仟燕色馨の方が先だったかもしれない。胸騒ぎだ。
蜃気楼の境界 編(二)
書乱
 春の夕、上海汽車メーカーの黒い車が高田馬場駅は西、高校の校門を通過し、停車する。奇妙な車がよぎった、脳裏より声。授業も聞かず窓の下、体育館でのバスケの授業をぼんやりと眺めていたが、脳裏に響く声に高校一年生の市川忍、カジョウシキカ唐突に何だよ、と聞く。一昨年にきみを冗談交じりに犯人と疑ってみせた探偵がいたのを覚えてないか。そう問われたものの市川忍は思いだせず、それがどうかしたのと内側へ声を。すると、微かなタイヤの摩擦音と停車音の比較から目的地はすぐ側の一軒家だろうちらと見えた、運転手がその探偵だ、という。この七年前は二〇〇九年五月、関西の高校生から広く流行した新型インフルエンザ以降雨の日以外つねに窓が少し開けられている。空気は生ぬるい。チョークの音。市川忍、幾つか机の離れた席に座る渡邉咲に視線を送る。チャイムの音が鳴り、放課後、別のクラスの生徒、石川原郎がやってきて無造作に横の机に座り、市川おまえ高校はバスケ部入らないの。まあね。受け応えしながら机の中の教科書類を鞄にしまっていく。渡邉咲立ち上がり、教室の外へ。���書に曰く(あるふみにいわく)と仟燕色馨の声が響く、混沌のなか天が生まれ地が固まり神世七代最初の神、国常立尊が生まれたが日本書紀に現れない五柱の別天津神がそれより前にいて独神として身を隠したというのが古事記の始まりということは教科書にも書かれていたが先程の古文の教師はイザナギとイザナミの二神から説明した、これもまた一書に曰く、数多の異神生まれし中世ではアマテラスは男神ですらあり中世日本とは鎌倉時代からつまり末法の世まさに混乱した世の後で超自然思想は流行り無限の一書織り成す神話に鎮座し人々は何を視ているのか、きみが気にしている渡邉咲、退屈そうに探偵読本を机の中に置いていった、大方、探偵に夢を見、探偵業に失望したのだろう、数分の場所に探偵がいる。市川忍は脳裏に響くその声をきっかけにし会話一つ交わしたことがない渡邉咲のあとを必死で追う。走りながら、どう呼びかけるのかさえ決めていない。仟燕色馨のいう一軒家は平成に建てられた軽量鉄骨造で、渡邉咲が通り過ぎた頃合いで咄嗟にスマホを耳に当て、探偵が入っていった、と強く言う。驚き、振り返る渡邉咲。
 目黒にて桜まじ、遊歩す影二つ。吹く風に逸れ、冷たし。怪異から死者が幾人、立入禁止とされた日本家屋をちら見し、一つの影、あァお兄様さらなる怪奇物件作りどういたしましょうと口元を手で隠し囁く明智珠子に兄、佐野豊房が陽炎のごとき声で私達はね共同幻想の虚空を幽霊のように漂っているんです、井戸の中で蛙は鬼神となりたむろする魍魎密集す地獄絵図の如き三千大千の井戸が各々の有限世界を四象限マトリクス等で語る似非仏陀の掌の架空認識から垂れ下がる糸に飛びつき課金ならぬ課魂する者達が世を牛耳りリードする妄想基盤の上で生活せざるを得ないならば、宇宙に地球あり水と大地と振動する生命しかない他のことは全て虚仮であるにもかかわらず。明智珠子がその美貌にして鼻息荒く、あの探偵とだけは決着を付けなければいけませんわ、家鳴の狂った解釈で恐怖させる等では物足りません残酷な形で五臓六腑ぶちまけさせなければ気が済みません。佐野豊房は、だがただ凍風を浴びるがままである。翌週は春暑し、件の探偵仲本慧はそれでも長袖で、奇妙な失踪調査依頼で外出している。我が探偵チームが二日で炙りだしたターゲットの潜伏ポイントは男人結界つまり男子禁制の聖域だからねと探偵事務所二番窓口女性職員橋本冷夏にいう、琉球神道ルーツの新興宗教だそうだ。いつも思うんですが年中長袖で暑くないんですか。東京中華街構想があった年と探偵仲本慧プロファイルを口にする、同士と約束したんだねハッタリ理由に青龍を肌に翔ばす気がなかったから年中長袖を着る決着にしたわけだ。えっ、一体何が。その会話を引き裂かんとついてきていた少女崔凪、突飛な言葉を口にする、卑弥呼は、自由じゃない。ハッとし振り返った仲本慧問いかける、今回の件、どう思う。崔凪、気分良さげにいう、男子禁制だから教えられない。生暖かい風が東京湾から。晴海アイランドトリトンスクエアをぐるっと回ってみたわけだが、と元の駐車場に踏み入った仲本慧、あれはかつて晴海団地があった土地だね、我が探偵チームが弾き出した潜入ポイントにも寄った方がいいかもしれないね。そうして訪ねた一軒家の門の外、仟燕色馨を秘める二重人格者は市川忍と、探偵仲本慧を気にする渡邉咲、二人の高校生が現れたのだ。
蜃気楼の境界 編(三)
朔密
 白雨あったか地が陽を返す。探偵との声に驚き振り返る渡邉咲の前に市川忍。彼をクラスメイトと理解する迄に数秒。バスケ部上がりの忍は別世界の男子生徒に見えたし圧も弱く視野外にあったのだ。水溜りを踏んで市川忍は彼のもう一つの人格仟燕色馨と心の内側で会話をしている。探偵が入っていったとスマホを片手に口にしたが通話はしていない。咲に向け、ここで事件が起こっているから静かに、俺には知り合いに探偵カジョウシキカがいて今彼と話していると囁くように言い、表札にある「朔密教」と火と雫の紋章、白い香炉を模った像をちらと見、呼び鈴を鳴らす。片や探偵仲本慧はその軽量鉄骨造の一軒家の門の斜め向かい、車中にいる。突然現れた高校生の男女がターゲットの家の呼び鈴を鳴らしたことで注目する。ガチャと鳴り玄関から高齢の女、倉町桃江が姿を見せ咲を見ると、何か用ですか、と聞く。戸惑う咲の前に出、忍、朔密教の見学に来たのですが、というと、男子禁制ですから、そちらのお嬢さんだけでしたら。運転席の仲本慧とともに慧探偵事務所窓口職員橋本冷夏が後部座席から降りるが助手席に座る少女崔凪は出てこない。通り雨は天気予報になかったねと口にしながら歩み寄る仲本慧を間近に見た咲が紅潮する。仲本慧が高校生二人を一瞥し、倉町桃江をじっと見つめ、貴女がここの教主ですか、こちらの橋本冷夏が見学に来たのですが。ぬるい風に織り混ざる卦体。そうですか。倉町桃江は表情一つ変えず、弥古様はおられませんが、さ、どうぞ、屋内へ消える。門前に探偵と忍と咲が残る。脳裏の声に促されて忍、何か事件でもあったんですか、と慧に。素性を見抜かれた質問を受けた慧はほんの僅か忍を見、ああきみは以前事件のときに少し話かけた学生だね、とにっこり笑いながら名刺を差し出し、慧探偵事務所の仲本慧だ、困ったことがあればいつでも訪ねてくるといい金額は安くはないけどね、そう話を逸らす。スマホを耳にあてた忍は仲本慧の目をじっと見て、知り合いの探偵と連絡を取りあってるところでもしかしたら同じ事件を追ってるのかも、弥古様を、と挑発する。ここに、咲の目前で、二人の探偵の戦いの火蓋が切られたのだ。咲の気をひく為に市川忍によって仟燕色馨が探偵とされた顛末である。
 門と玄関の境界の片隅、雨露に濡れるツバキの花に気づくのは、仲本慧のスマートフォンに朔密教内部に潜入した橋本冷夏から失踪調査対象は石文弥古の姿見当たらずとのメッセージが届き、車内の崔凪に視線を送った直後、片や、市川忍の視界には、はらはら雪が舞い、脳裏に津軽三味線の旋律流れ、声響く、曰く、表札に火と雫の紋章があったがイザナミが命を落とすきっかけ火の神カグツチを当てれば雫はその死悲しむイザナギの涙から生まれしナキサワメであり白と香炉を模った像から琉球の民族信仰にある火の神ヒヌカンを合わせれば朔密教の朔は月齢のゼロを意味し死と生と二極の火の神を炙り出せるだろう男子禁制からヒヌカンによる竈でのゼロの月の交信を弥古様は隠れて行い目的はイザナミの復活か、次元異なる宗教織り成す辺りの新宗教らしさから朔密の密を埋没神と見るなら竈は台所更には死した大いなる食物の神オホゲツヒメの復活とも関連し故に弥古様は台所を秘めたる住処、家としている。この象徴的絵解きのごとき推理の意味が市川忍は何も分からなかったが解が台所であることのみ理解しスマホへ向け成程仟燕色馨、君の言う通りだ敢行するしかないねと言い渡邉咲を見、ねぇ仟燕色馨から君にお願いがある、この中は男子禁制、だから、と耳元に。咲はこのとき、心を奪われたのだ、市川忍ではなく、仟燕色馨の方に。現場が男子禁制ゆえに崔凪の手助けが得られず動揺して仲本慧は自力で推理する。ここへ来る前に出向いたかつての晴海団地はダイニングキッチンが初導入されそれを一般家庭に普及させた歴史的土地で朔密教が琉球神道ルーツの新興宗教であることは調査班の報告で分かっているから潜入した橋本冷夏は台所へ案内されている筈、儀式は日々そこで行われるが石文弥古の姿はないという、ならどこに。その事務的に戸惑った様子が渡邉咲には探偵読本にもあった只の組織である商売人の探偵にしか見えなかったのだ。咲は仲本慧を背にして走り、玄関をくぐり、朔密教内部に潜入する。だが、濡れた車、助手席から出てきた少女崔凪が数字の羅列を呟き、仲本慧は、そうか分かったぞ、と声をあげて橋本冷夏に通話する。崔凪が、涼しい顔でのびのびと呟く、負けるくらいなら今だけ男子禁制じゃなくてもいいかな。
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蜃気楼の境界 編(四)
你蜃
 燻銀の月が空に二人の高校生公園で座る。笙の天音が鳴り、お母さんだ、とラインの返信をしながら渡邉咲、探偵カジョウシキカは推理で勝っていた、と市川忍を見、探偵仲本慧に出会ったきっかけはそもそもあの少女崔凪だったと思いだす。一昨年にこの公園で鼻歌交じりハーブの栽培をしてた子だ、だから見覚えがあったんだ、と。軽量鉄骨造一軒家、朔密教本部から出てきた探偵職員橋本冷夏に、今宵は重慶三巴湯と青島ビールで宴会だね、と上海汽車メーカーの黒い車へ去る仲本慧の側にいた少女崔凪が高校生の二人をちらと見ふっと笑う。市川忍は悔しがるだけで、だがその内側に潜むもう一つの人格仟燕色馨は市川忍の瞳を通し崔凪をじっと見つめる、夜の公園で仟燕色馨、只の勝負なら勝敗などは所詮遊戯それに君も渡邉咲と親しくなり目的は果たしているだろうしかし慧探偵事務所は現世と魔界裏返りし境界ありこれは魔族の矜持に触れるゆえ既に仕掛けをしている君も再戦を覚悟してほしい、と。その脳裏からの声の本意を掴めない市川忍に、咲、貴方のお知り合いの探偵さんはどう言ってるの。その輝く瞳妖しく、市川忍はときめく反面恐怖を覚え、無意識にポケットから作業用の黒ゴム手袋をとりだす。刹那、何故か海峡で波を荒らげる雪景色に鳴り響く津軽三味線の調べが聞こえ、再戦を望んでると伝えると、只ならぬ興奮を見せて咲は喜ぶのだ。先刻、朔密教内部へ駆けていった咲は、仟燕色馨の伝言、台所の真下に女の住居有り、を忍から受け儀式行われし白い炊事場を目指したとき、倉町桃江の脇で動揺する橋本冷夏の姿を見たが、その元に着信が入り中国語で会話を始め、瞳に青龍の華が光れば、香炉、水、塩、生花を払い除け床下収納庫の先に階段を見つけると、独房のような地下室で失踪調査対象である石文弥古を発見、最早咲は事の成り行きを見届けるのみ、異変の只中で、少女崔凪の存在が頭によぎったのだ、確かに探偵仲本慧は推理が届かず動揺していた、何か得体の知れない事が起きたのだ。それにしても、咲は思う、探偵仟燕色馨どのような人なのかな、市川忍という同級生がどうして魅力的な探偵さんとお知り合いなの、ふふ、取りだしたその黒ゴム手袋は何、月がきれい、まるで、私の住む世界のよう。
 朔密教、明治に明日香良安が琉球神道系から分離し設立した新宗教である。分離したわけはスサノオに斬り殺されたとされるオホゲツヒメの復活を教義の核に据えた故で、同時期に大本で聖師とされる出口王仁三郎が日本書紀のみ一書から一度だけ名が述べられるイヅノメ神の復活を、同様に一書から一度だけ名が述べられるククリヒメの復活を八十八次元の塾から平成に得た明正昭平という内科医が朔密教に持ち込み妻の倉町桃江を二代教主に推薦し本部への男子禁制を導入、女埋没神の全復活によりイザナミ復活へ至る妻のお導きを深核とし今の形となる。女埋没神はイヅノメ神、オホゲツヒメ、ククリヒメの他に助かったクシナダヒメを除くヤマタノオロチの生贄とされた八稚女らがあり、更には、皆既日食により魔力が衰え殺されたとされる卑弥呼を天照大神と見定めての復活とも融合している。それらを依頼主に説明しながら仲本慧は殺風景な部屋で分厚い捜査費用を懐に入れ、他の探偵にも依頼してないかな、と冷えた目を向ける。依頼主である小さな芸プロのマネージャーは、業界に知られたくない件だから貴方を紹介して貰ったんだ、深入りはしない彼女どういう様子でしたと聞く。調査ではと仲本慧、社会にある数多の既存の道筋を歩めないという認識から石文弥古は芸能に道がないか訪ね、今は朔密教を訪ねているのだろうね、弟以外の人の来訪を絶ち鬼道を続けたとされる卑弥呼の形式で、倉町桃江の最低限の関わり以外を完全に断って地下で儀式を八十八日間続ける任務を受け入れた石文弥古は、我が優秀な女子社員いわく、自らの意志とのことだ。屋外へ出、仲本慧、通話し、高校生市川忍を調査して、という。崔凪の口にした数は、四四八、二四七、一三七。仲本慧はタワマン供給実績数を推理し晴海団地へ出向いたわけだがその推測は二〇二一年の上位三都府県に予知のごとく一致し、崔凪はのちに数列に隠していた八十八を付け足し、慧の推理は台所の地下へと変化したが、二四七が卑弥呼の日食の年を指すように、海とされるワタツミ三神がたとえ人智の蜃気楼であってもなくても推理と崔凪の真意とが違っても。仲本慧は思う、人々は、この街は大地は、紀元前、胡蝶の夢は一介の虚無主義ではない知が、華が、騒いでいる。
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jinmakazuhiro · 2 years
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朝ごはん 2022/07/28 ─・・─・・─・・─・・─・・─・・─・・─・・─・・─ ⌘ 旨塩焼き銀さけ ⌘ おくらとミョウガの天ぷら ⌘ ひじきの煮物(愛媛のじゃこ天) ⌘ 鳴門炙り金時(栗尾商店さん) ⌘ 甘長ししとうのごま味噌炒め ⌘ ゴールデンキウイ ⌘ お味噌汁 ⌘ ご飯 ─・・─・・─・・─・・─・・─・・─・・─・・─・・─ おはようございます😃 この時期は、おくらやミョウガが大変お安くなっているので大量に購入します。消費方法は天ぷらですね! どちらも1分少々揚げると出来上がって、熱いうちにサクッと食べられます。ホクホクしてとっても美味しいです😋 野菜天ぷらなのでパン粉を使うこともなく、油も綺麗に維持できて、とにかくこの時期は超おすすめです。もちろん、その他の夏おかずにも活躍します。 甘長ししとうも、ごま油とお味噌を絡めて炒めるだけでスピード調理可能。お砂糖とか梅を少し加えていたら良かったかもしれません。 そしてそして、今日は、鳴門炙り金時をいただきました。栗尾商店さんは、東京駅グランスタ(@gransta_jp)にも入っている徳島の老舗お菓子屋さんのお芋で、めちゃくちゃ甘くて美味い!😃😃 もうね、脇役が強すぎな朝食が出来上がりました。 それでは、皆さんも良い1日をお過ごしください。 ┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈ #朝ごはん #朝ごはん日記 #ワンプレート #ワンプレート朝ごはん #料理 #料理日記 #料理男子 #クッキングラム #おうちごはん #デリスタグラム #朝食プレート #おうちカフェ #和ンプレート #うつわ好き #和食器 #砥部焼 #豆皿 #銀鮭 #おくら #ミョウガ #鳴門炙り金時 #ひじきの煮物 #甘長ししとう #ゴールデンキウイ #栗尾商店 (Matsuyama, Ehime) https://www.instagram.com/p/CgibnA_LsI-/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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monqu1y · 4 years
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部下を管理する七つの技術   情報源 ( じょうほうげん ) の 複数化 ( ふくすうか ) と 符節照合 ( ふせつしょうごう ) で家来の 言行不一致 ( げんこうふいっち ) を見ぬいたり、 意外 ( いがい ) なテストで本心を確認したりして、 騙 ( だま ) されないように注意し、 信賞必罰 ( しんしょうひつばつ ) で家来たちをコントロールする方法
⦅洞察六兆[韓非]から続く⦆
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 「術」は、[法]の運用のしかた。王様が胸の中に仕舞い込んで臣下をコントロールするもの。  王様は、無数の部下、巨大な組織を制する権力者だが、生まれついての超能力者ではない。ひとりの人間が絶対的な権力者となるには、法(機構)の確率と運営のための術(徹底した人事管理)が必要なのだ。 〖王様が使うべき七つの[術]〗 01_臣下の行動と言葉を検証して、言行の不一致がないかを判断する  [法・術]に 長 ( た ) けた王様は、証拠のないことは取り上げず、普段食べない食事は口にしない。遠くのことはよく聴き、近くのことはよく見て、家来がどこにいようと、その落ち度は見落とさない。家来たちの言葉の食い違いを調べて、彼らの派閥をさぐり出す。さまざまな角度から家来の申告を成果とつき合わせて、食い違いを許さない。最初の言葉と後の成果を一致させる。法を基準として、言行を数多く見くらべて、家来を統率する。まぐれ当たりの成果には賞を与えず、職分を外れた行為は許さない。処刑すべき者は必ず処刑し、罪ある者は赦さない。  相手がどんな悪者でも私欲をとげさせない決意を 揺 ( ゆ ) らがせてはならない。   衛 ( えい ) の 嗣 ( し ) 公は、家来の一人を旅人にしたてて、関所を通過させた。  関所の役人は、彼をきびしく調べたが、金をやるとすぐ見逃してくれた。  その後、嗣公はその関所を通るとき、くだんの役人にこう言った。  「これこれのとき、お前の関所を旅人が通り、お前は金をもらって見逃してやったろう」。  役人は嗣公が何もかも見通していると思い、ふるえあがった。 02_罪には必ず罰を与えて、威厳を示す  何か事件が起こったとき、それによって利益を得る者があるならば、きっと、その者が仕掛けた。損害を受ける者があるならば、その人間と利害反する者が怪しいと見なければならない。  したがって、[法・術]に 長 ( た ) けた王様は、国が損害をこうむる事件が起こったら、それによって利益を得る者を調べる。家来が損害をこうむる事件が起こったら、その家来と利害の反する者をさがす。   晋 ( しん ) の 文 ( ぶん ) 公のときだった。  料理番が焼肉を文公にさし出した。  その肉に髪の毛が一筋ついていたので、文公は料理番を呼んで追及した。  「お前はこの髪の毛でわしがむせるのを望んだのか。でなければ、なぜ髪の毛をつけたのか」。  料理番は何度も地面に額をこすりつけてあやまった。  「わたしは死に価する罪三つを犯しました。包丁は砥石でよく砥いでありますので、名剣 干将 ( かんしょう ) のようによく切れます。肉はよく切れたのに、髪の毛が切れていません。これが第一の罪です。串に肉をさしたとき、髪の毛が見えませんでした。これが第二の罪です。炉の炭を真っ赤にして 炙 ( あぶ ) ったので肉は焼けたのに、髪の毛が焼けませんでした。これが第三の罪です。もしや、わたしを憎む者が、お側にいるのではないでしょうか」。  「なるほど、わかった」。  文公が側に仕える者たちを呼び出して取り調べると、はたして真犯人が見つかったので、それを処刑した。 03_功績を挙げた臣下には、然るべき 褒美 ( ほうび ) を与える  名御者の 王良 ( おうりょう ) が馬を愛するのは、走るから。  越王 勾践 ( こうせん ) が人を愛するのは、戦うから。  医者が患者の傷を吸い血を口に含むのは、金が儲かるから。  車職人が金持ちの増加を望むのは、車が売れるから。  棺桶職人が人の死を願うのは、人が死ねば棺桶が売れるから。   呉起 ( ごき ) が 魏 ( ぎ ) の将軍となって 中山 ( ちゅうざん ) (国名)を攻めたとき、できものをつくった兵士がいた。  呉起は自ら 跪 ( ひざまず ) いて、その兵士の 膿 ( うみ ) を吸った。  それを聞くと兵士の母は泣きだした。  「将軍が子供に親切にしてくださったのに、どうして泣くのですか」。  と尋ねた者に、母はこう答えた。  「呉起さまはあの子の父親のときにも、膿を吸ってくれた。父親は、その恩に死で報いた。あの子もきっと死ぬでしょう。それでわたしは泣くのです」。 04_情報は自分の目と耳で確認し、臣下の伝聞に頼らない〔符節を合わせる〕 《参伍の道》  三人を一単位としてそれぞれの意見を聴取し、五人を一組として過失に対し連帯責任を取らせる方法。王様が臣下の意見を聞き行動を見るのは、馴れ合っている者を罰し、しっかりした見解を持っている者を賞するため。邪な者や罪を犯している者を知っていながら告発しない者も、馴れ合っているとみなして罰する。  三人を単位として一つのことを相談させたときに意見が割れないのは、馴れ合っている証拠。  五人を一組として連帯責任性にすれば、一人が罪を犯した場合、他の四人は怒って必ずこれを責めるはず。四人全員が責めないようなら、他にも罪を犯した者が居るということ。  相談が始まってすぐに意見が割れれば、各人の能力の違いが分かる。ほんの過失程度の罪でも怒るようなら、他に悪事を犯している者はいない。 《四つの評価基準》  [地の利][天の時][物事の道理][人情]の四つの評価基準で各意見の符節を合わせれば、是非善悪を判別できる。  そもそも王様は、臣下の注視するところであるから、ふだんの態度を変え、親近の者を疎遠にしたり、疎遠の者を親近にするなど恩沢を改めてみても忠誠の度合いが分かる。  注意すれば臣下の持ち物、行動など、目にみえるものからも、推察しにくい点(かくれた悪事など)を見ることができる。  馴れ馴れしくなりあれこれ他人の仕事まで手を出しがちな近習たちには、謹んで本務を遂行するようにさせる。  遠くに使いするものとの関連のあるものを特に用がないのに再三呼び出して使者に何となく恐怖の念を持たせ、出先での悪事を 牽制 ( けんせい ) する。  臣下の過去を調べ上げて、その前歴を知り尽くす。  臣下を近習の地位につけて心の内側を知り、地方官などに任命してその外に対する態度を知る。  全てを承知しながら、とぼけて尋ねてみると隠れた面が分かる   謀 ( はかりごと ) を以って人を送り込み、相手の悪事や秘密を握って 侮 ( あなど ) りを退ける。  何か疑いがあるときは、使者に誉めるところをけなし、けなすところを誉めるなど、反対のことを言わせて、疑問を確かめる。  事が起こった場合、背後にあって利益を得た者を探し出して調査すると隠れた悪事が出てくることがある。   諌 ( いさ ) め 糺 ( ただ ) す官を設けて、独断権を持っている役人の専横を取り締まる。  忠誠とは言えない人間を登用して、 周 ( まわ ) りの 邪 ( よこしま ) な動きを観察する。  法が公平無私なものである 旨 ( むね ) 事細 ( ことこま ) かに説明して、仕事を 怠 ( おこたり ) りがちな者やでしゃばりがちな者を指導し、ときにはへりくだったり迎合したりして、正直か、おべっか使いか、人間を見極める。  小耳にしたことやちょっとした噂話を利用して、それとなく探りを入れると思いがけないことが分かる。  偽の情報を流して臣下を対立させれば、馴れ合いになっている仲間を解散させることができる。  ある事に精通することによって、臣下を恐れ入らせる。  極秘事項がもれそうな場合は、わざと別のことをもらして相手のねらいをそらす。  欲望、私怨、出世、保身などのために他人を陥れるような複雑で紛らわしい問題が起こったときは、同じようなでき事を参考にして詳しく調べ、罪を告白したらその理由を明らかにし、罪を確認した上で処罰する。  時々隠密の使者を派遣して地方を巡視させ、民がまじめに働いているかどうか調べる。働いていないようなら(仲間を使って横着を決め込んでいるのであるから)、だんだん制度を改革していって、横着の元(仲間)をばらばらにする。  下部から上部へと徐々に管理体制を整えていけば、宰相は高官を取り締まり、高官は部下を取り締まり、将校は兵士を取り締まる。使節はその福祉を取り締まり、県令は配下を取り締まり、近習は左右の者を取り締まり、そして皇后は侍従の女官を取り締まるようになる。  話が間違って広がったり、大事がもれるようでは[法・術]による統治は難しい。   叔孫 ( しゅくそん ) は 魯 ( ろ ) の宰相で、実権を握り国政を思うがままに動かしていた。  その叔孫の 寵愛 ( ちょうあい ) を受けていたのが 豎牛 ( じゅぎゅう ) であり、彼も叔孫の名を使ってやりたい放題にふるまっていた。  叔孫には 壬 ( じん ) という子供がいた。  豎牛はその壬を 妬 ( ねた ) んで殺してしまおうと考えた。  そこで策をめぐらせ、あるとき、壬を連れて魯王の御殿へ遊びに行った。  そのとき、魯王は壬に 玉環 ( ぎょくかん ) を与えた。  壬はそれをうやうやしく受け取り、すぐに身につけようとせず、豎牛を通じて叔孫の許しを求めた。  ところが豎牛はその依頼を伝えもせずに、「わたしがこのことをお願いしたところ、つけてよろしいとのことです」。  と言って、壬をだた。  壬が玉環を身につけるのを見ると、豎牛は叔孫のところへ行って、こう切り出した。  「そろそろ壬さまを殿様にお目見えにお連れしてはいかがです」。  「子供だからな。まだ早すぎるだろう」。  「いえ、壬さまはもう何回かお目見えになっています。  この前も殿様から玉環を賜り、さっそく身につけていらっしゃいます」。  叔孫は壬を呼び出した。  見れば、はたして玉環を身につけているではないか。  叔孫は怒って壬を殺した。  壬には 丙 ( へい ) という兄がいた。  豎牛はその丙も妬んで、殺してしまいたいと思った。  折よく、叔孫が、丙に 鐘 ( しょう ) (楽器)をつくってやった。  鐘はできたが丙はすぐに打ち鳴らすことをつつしみ、豎牛を通じて叔孫の許しを求めた。  ところが豎牛は壬のときと同じように丙をだた。  「わたしがお願いしたところ、よろしいとのことです」。  丙は鐘を打ち鳴らした。  それを聞いた叔孫は怒った。  「わたしの許しも得ずに勝手に鐘を打ったな」。  そして丙を国外に追放した。丙は 斉 ( せい ) の国へ逃れた。  それから一年ほどたって、豎牛は丙のために叔孫にわびを入れた。  そこで叔孫は豎牛に、丙を呼び戻すように伝えた。  ところが、豎牛はそれを伝えもせずに、叔孫にこう報告した。  「お呼びしたのですが、丙さまはまだご立腹なさっているようで、帰ってこようとはなさいません」。  叔孫はかんかんに怒って、人を使って丙を殺してしまった。  こうして二人の子供が死んだのち、叔孫は病気になった。  すると豎牛は、自分だけで看病し、「叔孫さまは、人の声を聞きたくないとのことだ」と称して、誰も病室に入れなかった。  そして、叔孫に食べ物を与えず、とうとう餓死させてしまった。  こうして叔孫も死ぬと、豎牛は葬式もせずに、倉から重宝をありったけ盗み出すや、斉に逃滅してしまった。  信用する者の言葉を鵜呑みにしていて、親子もろとも殺される結果になったが、それというのも、家来の言葉を事実と照合することをしなかったからだ。   龐恭 ( ほうきょう ) は 魏 ( ぎ ) の太子に従って、 趙 ( ちょう ) の都の 邯鄲 ( かんたん ) に 人質としてやられることになった。  出発するとき、彼は魏王にこういう質問をした。  「もしも、誰かが『街に虎が出た』と言ったら、お信じになるか」。  「信じないな」。  「では、二人が『街に虎が出た』と言ったら、どうでしょう」。  「いや、信じない」。  それでは、三人が『街に虎が出た』と言ったら、どうなさいます」。  「そうなると、信じるだろうな」。  「街に虎が出ないことはわかりきったことです。それなのに、三人が同じことを言ったらお信じになる。邯鄲ははるかに遠い外国です。それだけ邯鄲のことはわかりにくいのです。その邯鄲に行く私のことを、留守中とやかく言う連中は、三人どころではありません。どうか、このことをお忘れになりませぬように」。  しかし、龐恭が邯鄲から帰国したとき、大勢の言うことを信じこんだ王様に、彼は二度とお目見���を許されなかった。   斉 ( せい ) の 宣 ( せん ) 王は 竽 ( う ) (笛の一種)を吹かせるときは、必ず三百人に合奏させた。  あるとき、 南郭 ( なんかく ) (地名または姓)の 処士 ( しょし ) (学問を修めたが、現在任官していない士のこと。処は家(民間)に 処 ( お ) るの意)が、宣王のために竽を吹きたいと言ってきた。  宣王は喜んで禄を与えた。この例にならった処士は数百人に達した。  やがて宣王が死に、 湣 ( びん ) 王が即位した。  湣王は独奏曲を聴くのが好きだった。  独奏すれば下手なのがばれるため、それらの処士はみな逃げ出してしまった。   宋 ( そう ) (殷(=商)の滅滅後、その 祭祀 ( さいし ) を継がせるためにつくられた国)の宰相は、 少庶子 ( しょうしょし ) (官名)に市場の見回りをさせ、彼が帰ってくると、尋ねた。  「市場で何を見つけた」。  「いいえ、何も」。  「しかし、何かは見つけたろう」。  「そういえば市場の南門の外側は牛車がいっぱいになっていて、やっと通れるくらいでした」。  「よし、わしがお前にきいたことは誰にも言ってはいかんぞ」。  宰相はさっそく市場の役人を呼び出して叱りつけた。  「市場の門の外側は、牛糞でいっぱいではないか」。  役人はいつの間に、宰相がこんなことまで知っているのに驚いてしまい、以後は職務を怠らくなった。   斉 ( せい ) の 桓 ( かん ) 公が 孤竹 ( こちく ) を攻めたとき、 管仲 ( かんちゅう ) と 隰朋 ( しゅうほう ) が従軍した。  出発が春、帰りは冬になったため、景色がまったく変わってしまい、道が分からなくなった。  このとき、管仲が言った。  「ひとつ老馬に知恵を借りまし���う」。  老馬の 鞍 ( くら ) をはずして先にやり、その後について行ったところ、道を見つけることができた。  山岳地帯で水がなくなったことがあった。  このとき、 隰朋 ( しゅうほう ) が言った。  「蟻塚の下に水があります。蟻は冬は山の南側に、夏は山の北側に巣をつくります。高さが3糎の蟻塚なら2㍍下に、水があります」。  蟻塚を掘ったところ、果たして水を得ることができた。   宋 ( そう ) の国のある金持ちの家で、ある日、雨のため土塀がくずれた。  子供が「このままにしておくと、泥棒が入るよ」と言い、隣家の主人も同じことを言った。  その夜泥棒が入って大金を盗まれた金持ちは、息子の 聡明 ( そうめい ) さに感心する一方、隣家の主人を疑った。 05_不可解な命令をあえて出し臣下を動揺させて試す   楚 ( そ ) の 荘王 《 しょうおう 》 は即位して三年のあいだ、命令を出さず、昼も夜も楽しみにふけり、「諫める者は死罪とする」と国中にふれを出した。   伍挙 ( ごきょ ) が諫めるために参内した。荘王は左に鄭の姫を抱き、右に越の女を抱いて、鐘と太鼓に囲まれて座っていた。  伍挙が言った、「謎かけをいたしましょう。丘の上に一羽の鳥がおります。三年の間飛びもしなければ鳴きもしません。何の鳥でございましょうか」  王が答えた、「三年も飛ばないのだ。飛べば天まで届こう。三年も鳴かぬのだ、鳴けば人々を驚かそう。伍挙よ、下がれ、わしにはわかっておる」と。  それから数ヶ月、王の 放埒 ( ほうらつ ) はますますひどくなった。そこで大夫の 蘇従 ( そしょう ) が諫めに参内した。  王が言った、「そちは命令を聞かなかったのか」  「この身が殺されることで、王様にお分かりいただければ、本望でございます」  王は放埒をやめると、政務を取り始めた。  三年間観察し続けた結果に基づいて、数百人を誅殺し、数百人を昇進させた。伍挙と蘇従に国政を任せ、楚の人々は大いに喜んだ。 06_知らないふりして質問し相手の知識や考えを観察する   韓 ( かん ) の 昭侯 ( しょうこう ) は 爪 ( つめ ) を切り、その一つを手の中に隠しておいて、「爪が一つなくなった。早く探せ」。と、そばの役人たちをせきたてた。  すると、ひとりが自分の爪を切って、「見つかりた」と、差し出した。  昭侯は、こうして役人の中からウソつきを見つけた。   子之 ( しし ) は 燕 ( えん ) の宰相であった。  あるとき、家の中に 坐 ( すわ ) ったまま、まわりの者たちをたぶらかしてこう訊いた。  「いま門から外に走っていったのは、白馬ではなかったか」。  「見えませんでした」。  と、みな答えたが、一人だけ、走って追いかけた。  帰ってくると、「白馬でした」と、報告した。  子之は、こうして役人の中から不誠実な者を見つけ出した。 07_思っているのと逆のことを言って相手の反応を見る  昔、 鄭 ( てい ) の 武 ( ぶ ) 公が 胡 ( こ ) を征伐しようとしたときの。  武公はまず自分の娘を胡の王に嫁入りさせ、機嫌をとっておいて、家来に尋ねた。  「これから、どこか国を攻めようと思うが、どの国がいいだろう?」   大夫 ( たいふ ) の 関其思 ( かんきし ) が答えた。  「胡を攻めるのがよろしいかと存じます」。  武公は怒り、「胡は親類の国ではないか、それを攻めろとは何事だ」と言い、関其思を死刑にした。  それを伝え聞いた胡の王が安心して鄭への備えを解いたので、鄭は胡を攻め取ることができた。 ⦅余談[韓非]に続く⦆
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short-span-call · 4 years
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#066 オリエンタルコンクリート(1)
 男も女も大人も子供も白人も黒人も黄色人種も社会人も学生も先生も生徒も日本人もアメリカ人もイタリア人もチェチェン人も総理大臣も大統領も天皇もクー・クラックス・クランもロスト・ジェネレーションもヤリマンもヤリチンも処女も童貞もヤクザもカタギも、みんなみんな、オナニーしてるんだよなあ、と考えると、どんなことも許せるような気がする。落ち込むことがあったり、人やモノにムカついたり、悲しみに暮れたり、何かとてつもなくひどい目にあったとき、そんな想像をすると、心が穏やかになる。への字口が微笑みに変わる。なんでも許せるような気持ちになって、ああ、みんなそうやって生きてるんだなぁ、と思う。敵も味方も、自国も他国も、いじめっ子もいじめられっ子も、絶頂に達する瞬間は、それぞれの場所で、たった一人なのだ。すべての垣根を飛び越えて、ただのニンゲン、ただの動物になるのだ。戦争、紛争、争い、諍い。すべてを超えて、すべてを忘れて、人はオナニーをする。どこかの国と国が戦争を起こしそうになったとき、みんながそんな想像をしていれば、すべてがバカバカしくなって、あーもういいよやめよーぜドンパチ、と言い出す人がたくさん現れるんじゃないだろうか。だって嫌だ。安心して、穏やかな場所で、絶対的に一人でいられる場所で、確実にオナニーができなくなる世界なんて。そんなの絶対に嫌だ。みんな、嫌なはずだ。ともすれば、オナニーは世界を平和にする、たった一つの完璧な手段なのかもしれない。さあ、みんなで想像しよう。シンクオナニー。ラブアンドピースアンドオナニー。
 午後5時半。帰りの会も終わりダラダラと居残っていた女子もいなくなり、校庭でたむろしていた男子も帰り支度をはじめたころ、ぼくは4年2組の教室の、一番後ろの席よりさらに後ろ、窓際の、掃除用具が入っている巨人の筆箱みたいな灰色の物置と窓の間のすきっ歯みたいに微かに空いたスペースにうずくまっているミヨシを見下ろしていた。 「ねえ」  ぼくは右腕に持っているホッチキスをカチカチ鳴らしながらミヨシに声をかけ続ける。 「ねえって、ば」  ば、という声と同時にぼくは身体を抱え込みすぎて埋もれそうになっているミヨシのアゴの少し下のあたりを、足でやさしく蹴り上げる。やさしく、というのは、ぎりぎりアザにならないレベル、ということだ。 「早く受け取ってほしいな」  できるだけ穏やかに、のんびりとした口調でぼくは言う。蹴り上げたことにより顔が上がり、けれど目線だけは床の木製タイルのつなぎ目あたりに泳がせているミヨシの、その目線の先に、ぼくはホッチキスを差し出してやる。 「これ。ホッチキス。ぼくのなんだけど」 「ふ……」ミヨシの視界がホッチキスを避けようとしているのがわかる。 「おーい」  ぼくはゆっくりかがみこんでミヨシのアゴを思い切り掴む。ぼくとミヨシの顔は今、至近距離で対面している。はじめは目を逸らしていたミヨシは、どうやらそうしないとぼくが一生この体勢のまま動かないとでも思ったのか、意を決したようにぼくの目を見た。いい子だ。かわいい子。ぼくはうっすらと口元だけで笑いながら、さっき蹴り上げたミヨシのアゴを確認した。うん、アザにはならないはず。上履きの先端をもう少し硬く改造できないかな。ライターで炙ったら、どうだろうか。  極度の緊張でまばたきを忘れているのか、ミヨシの眼が水気を帯び、涙が目尻に溜まりはじめていた。いじらしい、ってこういうことだろうか。ぼくは昨日の夜、父さんの部屋の本棚からてきとうに選んで読んでいた西村京太郎のトラベルミステリで出てきた単語を思い出す。ミヨシ、ああ。ぼくとミヨシの顔は限界まで近づき、額と額がぶつかり合いそうになったところでミヨシは目をつぶり、ぼくは顔を横にそらせて唇を舌でしめらせてから、ミヨシの右目尻にキスをした。唇を離すとき、ミヨシの皮膚とぼくの唇が唾液によってできた線で一瞬繋がり、ぴふ、という、風よりも微かな音と共にまた離れた。ぼくはその唾液の跡を確認するように舌先で同じ場所を舐める。その間ミヨシは何度も身体を小さく震わせていて、ぼくは思わず荒い鼻息を漏らしてしまう。ミヨシについたぼくの唾液が、すぐ横の窓から差し込む夕陽に照らされテラテラと光っている。その姿に圧倒的な美しさを感じながら、ぼくは感動を悟られないように呼吸を整えてから顔を離し、両足のスネの前で固く結ばれているミヨシの腕を解き、ホッチキスを手渡した。 「かんたんだよ」ミヨシの手首を強く握ってぼくは言う。「すぐ、だよ」 「あの、ぼく」ミヨシの目は手の中に収まっているホッチキスとぼくの目を行ったり来たりしていた。 「ぼく?」 「ぼくは、あ、は……」言うべき言葉がそのまま口から出てこないもどかしさからか、ミヨシは小さく折りたたんでいた両足をさらに身体の中へ中へと押し込んでいくような素振りを見せた。 「だいじょうぶだよ」ぼくはこれまでで一番やさしい声を出す。「こうやってね、それを、口の中へ入れて、ベロをちょっとだけ出してね。その、ベロに、その、ホッチキスを挟み込んでね、あとは、手に力を入れるだけだよ」 「う、ふ」ぼくが言葉を区切るたびに、ミヨシは目を固く閉じ、首を縦に振ったり横に振ったりしている。もう、よくわからなくなっているんだろう。この状況が。この時間が。  ぼくがミヨシをこうして追い詰めはじめてから、すでに1時間は経っていた。  短く刈り込まれたミヨシの頭を撫でる。ランドセルの肩紐を律儀に掴んで通学路を歩くミヨシ。理科の実験で試験官を落としてあたふたするミヨシ。給食を食べるのが誰よりも遅いミヨシ。昼休みの最初から最後まで自分の机から離れず手塚治虫の漫画を読みふけるミヨシ��音読が下手なミヨシ。あらゆるミヨシがぼくの頭に浮かび、そして今、極限まで追い詰められ、なすがまま、ぼくに頭を撫でられているミヨシと繋がる。誰よりも地味でドジで目立たない日陰者のミヨシ。そのミヨシにぼくは今、スポットライトを当てているんだ。誰よりもミヨシがミヨシらしく輝く瞬間に、ぼくは立ち会っている。みぞおちの辺りを思い切り蹴りあげたい衝動を押さえつけながら、ぼくはミヨシに声をかける。 「さあ。ほら。だいじょうぶ。だいじょうぶなんだよ」
 保健の授業で、担任の柏木がニヤリと笑い、 「さてみんなに問題です。赤ちゃんは、なーんーで、できるの、で、しょうか」  と黒板に同じ言葉を書きながらぼくらに問う。  にわかに騒がしくなった教室で、ぼくは一人シラけた気分で机の隅を指でこすっていた。手をつなぐ! なんだよそれカンタンすぎだろ。そういう特別な手術があるんだよきっと。どういう手術だよ。愛し合っていれば自然にできるんじゃない? だから自然ってなんなんだって。ていうかそれオレら必要? 男子は口々に自分の考察を発表し、別の男子や女子がそれに難癖や反論を加えていた。柏木は黒板の端に「仮説」と書き、みんなの意見を馬鹿丁寧に書き並べていった。 「そんなの決まってんじゃん」  後ろの席でチートスが声を上げる。 「キスだよキス」 「わたし、ちっちゃいころ弟とキスしたことあるけど、子供できなかったよ」  教室の窓側から数えて二列目の、一番前の席に座っているコトチーがすかさず口を尖らせて反論する。こいつはチートスの言動になにかと突っかかるクセがあるのだ。 「それは、それはさ」しばらく口ごもってからチートスは言う。「そのころはまだ、オレらの身体にそういう、えっと子供ができる機能? みたいなのがちゃんとできてなかったんだよ」  教室の数人から、おー……、という、納得と感心が入り混じった声が漏れる。柏木はそんな教室を一望してにやにや笑っていた。 「キスの仕方も関係、あると思う。あと、確率、みたいなのも、あるんだと思う。キスしたら確実に子供が産まれるわけじゃないっていうか」  そこまで言ってチートスは黙りこみ、教室の空気も、なにやらそれぞれが考えこんでいるのか、小さなざわめきが聴こえる以外は、表立って発言をする者はいなくなってしまった。コトチーも、一人、机の一点を見つめて黙って腕を組んでいる。  ぼくは脚を投げ出して頬杖をつきながら、誰も座っていない目の前の席をぼんやり見つめていた。ミヨシは今日、学校に来ていない。少しいじわるしすぎただろうか。ミヨシの机の引き出しに昨日ぼくが渡したピンク色のホッチキスが入れられているのが見えて、ぼくは股の周辺が熱くなっていくのを感じる。何度か脚を組み替えながら、ぼくは頬杖をやめてピンと背筋を正してみる。それを見ていた柏木が、なにを勘違いしたのか、 「トラくん、どう思う」  とぼくに意見を促してきた。  ざわめきが収まり、教室中の顔という顔がぼくの方向を見る。チートスもたぶん、目の前にあるぼくの背中をじっと見つめているのだろう。コトチーは腕を組んだまま首だけを曲げて、眉間にしわを寄せてぼくを見ていた。あんたこんなナイーブな話題に対してヘンなこと言わないでちょうだいよ、といった顔だ。コトチーの左隣に座っているガンバは両肘を机に付いた状態で微動だにしない。眠っているのだろう。柏木から一番近い席に座っていながら、大した度胸だ。その姿がなんだか冬眠前のクマのようでぼくは目を細める。 「不思議だよねえ、よく、コウノトリが運んでくるんだよ、なんて言うけど、ほんとなのかなあ。お父さんお母さんに、そういうこと、聞いたことあるかなあ、みんなのお父さんお母さんは、なんて答えたのかなあ、ほんとうは、どういう仕組みで、みんなは産まれたのかなあ、ねえ? トラくん、ねえ?」 「ちんことまんこです」  ぼくは柏木に聞こえないように小さく舌打ちをしてから間髪入れずに言ってやる。コトチーの鼻から息が漏れる音が聞こえたような気がした。 「正しくは女性器、膣、ヴァギナと、男性器、陰茎、ペニス、その二つが接合し、ペニスから発射される精液に含まれる精子というオタマジャクシ状の生殖細胞がヴァギナの奥を進み卵子という細胞と接触、結合することにより細胞分裂が起こり胎児、つまり現在のぼくたちの原型のようなものができあがっていきます。ちなみにペニスから精液を発射させるためには恒常的かつ適度な刺激が必要とされていて、ああそうだった、女性器にもある程度の刺激が必要ですね、その刺激を自らで自らの性器に与える場合もあり、これを一般的にオナニー、または自慰と言います。そして主に男性と女性がお互いの性器を刺激し合うことを性交、エッチ、セックスと呼び、これは一般的にお互いを恋い慕っている者同士が行うものだと認識されています」 「よく知っているねえ」  男、女、ヴァギナ、ペニス、精子、卵子、性器、と、柏木はぼくの発言からキーワードを抜き取って黒板に書き出した。知っている者、知らない者の反応がここで一気に分かれる。知らない者は一体こいつはなにを言ったんだろうという顔できょとんとしている。知っている者はなんとなく気まずそうだ。顔をうつむけている男子、女子。醜くニタニタ笑う男子。顔を近づけてコソコソとなにごとかささやき合っている女子、女子、男子、女子。教室の空気が微妙に変化したのを察知したのか、ガンバの身体が一瞬大きくビクンと揺れて、何事もなかったようにゆっくりと目の前の黒板に顔を向けた。チートスは机から思いっきり身を乗り出して、なあ、つまりどういうこと、とぼくの耳元で言う。コトチーはもうぼくを見ていない。スカートの裾を直してから、寝ちまったよ、いったいなんの話をしていたんだ? というお決まりの困り顔でコトチーを見つめるガンバの太もも辺りを引っぱたいて、黒板に向けてアゴをしゃくった。  ぼくは無性に腹が立って、もう一度小さく舌打ちをした。ダメなんだ。こういう状況が。知っていながらなにも言わない連中の醸し出すぬるい空気にアレルギーを起こしそうになる。ヘタクソな演技。身を乗り出したままでいたチートスがぼくの舌打ちを聞いて、なんだよ、なにキレてんだよ、とおどおどしながら身体を椅子に戻した。ぼくは貧乏ゆすりを抑えながら、にらまないように目を見開いて柏木に顔を向ける。 「そうだねトラくん。男の子の身体には、ペニスという性器がついていますねえ。ちんちん、ちんこ、という呼び方のほうが、みんなにはなじみが深いかなあ。そ、し、て。こっちのほうは、知らない子のほうが多いんじゃないかなあ? 女の子の身体には〜、ちんちんが付いていないねえ。そのかわりに、ヴァ〜ギ〜ナ、ヴァギナという、窪みのようなものがあります」  柏木はあくまで、まんこ、という言葉を使わない気でいるらしい。  くそばばあが……とぼくはつぶやく。  詳しく説明してあるビデオがあるから、それを観てみましょうねえ。と言いながら柏木はビデオテープをセットし、テレビの電源をつけた。  大人はいつからぼくらのことを侮るようになったんだろう。テレビに映る砂嵐を見ながらぼくは夜眠る前にいつも頭に浮かぶことを思った。  流された映像は、まさに今このときのために作られました、という雰囲気で満ちあふれた、いかにもな教材映像だった。仮病やほんとうの病気で学校をお休みするとき、間延びしたようなお昼どきによく観るNHKみたいな感じ。のっぺりした女の声が、簡素な空間で男性器と女性器の模型をいじくっている人間の手の動きに合わせて、性交の説明や避妊具の解説をしていた。みんな、静かに、食い入るように画面を見つめている。意外だ。でもそれはそうか。ぼくらはもう10歳で、小学4年生で、親や先生や周囲の大人のふぬけた予想よりはるかに多くのことを、知っているし、知ってしまっているし、そしてこれからも多くのことを知ってしまうだろうという微妙な予感もちゃんと抱いている。性についてなにも知らないような奴らも、かわりに同じくらい別のなにかを知っている。知っていること、知らないことの、なんていうか、レベルや経験値の振り分けが違うだけで、ぼくらの知識の総量はきっと、同じなんだ。そしてきっと、大人とぼくらの知識の総量も、変わらない。ドロケイの必勝パターンやドッチボールの自己流投球フォーム、でたらめな言葉で会話すること、一人一人の言動や身なりにピッタリよりそっているような抜群のアダ名をつけるセンス、良いぺんぺん草の見分け方、泥団子をピカピカに磨き上げる技術、百科事典で4時間遊ぶために必要な想像力と創造力、そういうなにもかもを大人たちは惜しげも無く捨て去って、脳みその、からっぽになった場所に別のものを、タイクツななにかを、社会の教科書にのっているたくさんの歴史上の人物、例えば織田信長、フランシスコ・ザビエル、聖徳太子、大塩平八郎、その人物画みたいなぼやけた眼、かすんだ顔をして、詰め込んでいく。  ミヨシ。ミヨシがいない。  ぼくはミヨシのことが知りたかった。  誰よりもなによりも、ぜんぶをぼくの中に詰め込もうと思った。テレビの画面は、精子が膣の奥へ奥へと進んでいく3Dアニメーションを映している。ぼくはミヨシの奥へ奥へ、入っていくのだ。あるいは奥へ奥へ、入ってくるミヨシを受け入れていくのだ。その方法を大人は教えてくれないということもぼくは少し前に知ってしまった。あくびをこらえすぎて左目から涙がたれる。にじんだ視界からでもコトチーの一つにくくられた後ろ髪の形くらいはわかる。今日はコトチーと帰ることになるだろう。怒られるかな。やだな。
 ゴ。  いいい―――――――――――ん。  眼を開けたぼくの視界にふす――――んと厚ぼったい鼻息を繰り返すカラスウリみたいな頬の父さんが見える。  ぼくは布団の中にいて、父さんはぼくに馬乗りになっている。  しなびたボンレスハムみたいに筋張った父さんの左手は、ぼくの両腕を掴んで離しそうにない。  ぼくは寝ながらバンザイしているみたいな体勢で、父さんの眼、頬、唇、額、そしてもう一度眼を見る。にらまないように眼を見開く。 「おい」  ふす――――ん。  ゴ。  視界が一瞬青くなり、ぼくは顔をしかめようとする動きを必死にこらえる。酔った父さんは頭突きの加減を知らない。いいい―――――――――――ん。 「おい」  父さんの声を聴くと、ぼくはいつも、歌えばいいのにと思う。びっくりマークをつけなくても、びっくりマークをいくつ付けても足りないくらいどこまでも響いていくその太く伸びやかな声ならば、きっとどんな歌も祈りのように美しく切実な音に変わるのに。 「てめえは、なんに、なりてんだ。あ?」  ゴ。ゴ。ゴ。ゴ。  こういうときにミヨシのことはあんまり思い出さない。むしろ思い出すのは体育の授業、息をぜえぜえ言わせながら汗だくでサッカーボールを追いかけるガンバのことだったりする。明日は学校に行ったらガンバの机の前まで行って、今日観た『笑う犬の冒険』の話をいつもみたいにしよう。ガンバはホリケンが好きだから、ホリケンの言動をオーバーに真似するだろう。ぼくは泰造が好きだ。そしてコトチーはそんなぼくらを横目に漢字ドリルを進めたりするんだ。家はお兄ちゃんがいるから今やるの、とか言いながら。 「聞いてんのかっつってんだよ」  この家は父さん専用のスピーカーなんだと思う。壁、天井、ドア、柱、すべてが父さんの声に合わせて振動し、増幅されてぼくの耳を限界まで震わす。 「てめえはいいよな毎日毎日メシ食ってクソしてテレビ見てそれで終わりなんだからよ。てめえオヤジがくたくたで帰ってきてその態度はねえんじゃねえの」  その態度。  お風呂に入って歯を磨いて布団にもぐって眠ることを言っているのだろう。 「てめえ将来なんになりてえんだよ。おい」  耳鳴りが起こり、視界の中で父さんの顔、腕、身体が遠くなっていく。カメラのズームアウトみたいに、部屋と一緒にどんどん小さく縮んでいく。父が黙ると家全体も静まり返る。母さんはたぶん、寝室かキッチンでうずくまっている。明日は母さんのどこにアザができているか、ぼくは一瞬眼を閉じて予想してみる。鎖骨かな。数日前はこめかみだった。  なにも言葉を発しないぼくに飽きたのか、壁にとまっているハエを叩き殺すようにぼくの顔面を正面から平手でぶっ叩き、父は立ち上がって部屋から出ていった。ぼくはしばらく、バンザイの体勢のまま、天井を見つめ、自分が息を吸ったり吐いたりする音を聴いていた。枕の下に入れてある小さなマイナスドライバーを取り出して強く握り、横に寝返りをうつ。身体を布団の中で小さく畳んで、自分の腕を見つめる。眼を閉じて、服の上から自分のペニスをそっとなでる。マイナスドライバーの先端を舐める。外で強い風が吹き、窓ガラスが音を立てて揺れる。今夜はさらに冷え込みそうだ。
「うそつき」 「なにが?」 「昼休み」 「ああ」ぼくは砂利をおもいっきり蹴飛ばす。「うそじゃないよ」 「うそでしょ」コトチーも、地面の砂利を蹴るように歩く。  高速道路の高架をくぐり、獣道を抜け、深緑色に濁った真間川に沿って、ぼくたちはもう三���分くらい歩いている。コトチーと一緒に学校から帰るときは、いつだって遠回りをした。大人の身長ぎりぎりくらいに架けられた薄暗い橋の下を通る。なにを獲るためなのかわからない漁船やボートが連なって停められている。おばあちゃんの髪の毛みたいな藻が水中でぬらぬらと揺れているのがかろうじて見える。砂利道には犬の糞や食べかけのカップヌードルやぼろぼろになったピンク色の手袋やコンドームが散乱している。それでもいつも、不思議と嫌な臭いはしなかった。ぼくは(そしてたぶんコトチーも)、この道とこの川が好きだった。 「コトチー冬休みどうするの」 「どうするって?」 「なんか、するの」 「なんかって?」 「なんでもない」  ブルーシートと鉄パイプ、しめ縄、折れた踏切の棒、ベニヤ板、反射板、あべこべな材料で組まれた堅牢な小屋の前をぼくらは通り過ぎる。中から微かにラジオの音が聴こえた。 「うちにはお兄ちゃんがいるから」コトチーは小さくスキップするようにして、ランドセルを背負い直した。「どこにもいけない」 「男にだって生理はあるよ」ぼくは急に話題を戻した。「血は出ないけど」 「うそつき」 「うそじゃないよ」 「それは夢精」コトチーが身体を曲げて、ランドセルの背でぼくにぶつかってきた。「トラだってわかってるでしょそれくらい。別にわたしが気にすることでもないけどさ、なんも知らない子にそういうこと吹き込むの、あとで自分が恥ずかしくなるだけなんじゃない」 「うそじゃない」ぼくはよろけながら、そう言うしかなかった。 〈生理〉という言葉には、もちろん〈月経〉という意味もあるけれど、〈生物の体の働き〉という意味だってあるのだ。  だったら、夢精や射精、オナニーを生理と呼んだって、間違いではないんじゃないか。  でもなぜか、それをコトチーに言うことはできなかった。屁理屈や言い訳にしか聞こえないことも、なんとなくわかっていた。  空はもう赤かった。カラスの鳴き声がどこかから聞こえてくる。 「トラ、大丈夫?」 「なにが?」ぼくはわざととぼけた。 「なにが、って……」 「大丈夫だよ」ぼくは地面の石を拾って、川に向かって思いっきり投げた。石は漁船のお腹にぶつかって、鈍い音をたてて川に沈んでいった。「大丈夫」  今日、一ヶ月ぶりにミヨシが学校へ来た。  あの日。柏木が授業でセックスの話をした日から、ミヨシはずっと学校を休んでいた。みんな、誰も、何も言わなかった。まるで最初からそれが当たり前だったかのように日々が過ぎていった。ぼくと、コトチー以外は。柏木だって何も言わなかった。プリントや宿題を届ける役目を誰かに任せることもなかった。ぼくの目の前の席はずっと空っぽで、空っぽの机の中のホッチキスはずっとそのままだった。ぼくは自分が段々自分じゃなくなっていくような、それまでの自分が絡まりあった細い糸で出来ていて、その糸が少しづつほぐされて、バラバラに散ってしまっていくような気分で毎日を過ごしていた。昼休み、いつも一緒に校庭を走り回るチートスも、給食の時間、牛乳のおかわりを取り合うガンバも、ぼくのそんな内面には気づいていないみたいだった。コトチーがぼくを見つめる表情だけが、日に日に険しくなっていった。 「さすがホトケだよね。完全に無反応だった」  コトチーは、柏木のことを「ホトケの柏木」と呼んだりする。いわゆる「神様仏様」のホトケではなくて、警察官が死体のことを呼ぶ俗称としての、ホトケ。らしい。  一ヶ月ぶりに学校にやってきたミヨシは一ヶ月前となにも変わらなかった。朝の会が始まる少し前に登校し、国語の授業では句読点を無視してつっかえつっかえ音読し、理科の実験ではアルコールランプの消火にまごつき、昼休みは口角を少しだけ上げて手塚治虫の『三つ目がとおる』をじっと読んでいた。ぼくはそんなミヨシをなるべく見ないように一日を過ごした。  ミヨシはキュロットを履いていた。  それ以外、なにも変わらない、いつものミヨシだった。  真間川が終わり、東京湾の工業地帯にたどり着く。巨大な水門は今日は閉じていた。海沿いにそびえ建つセメント工場が夕陽に照らされて嬉しそうに輝いている。湾の向こう岸に建ち並ぶ工場からコンテナが運ばれていく。クレーンが動く。消えそうにない煙が立ち上っている。大きな船が小さな模型みたいにちんまりと停まっている。静かだ。重たい海水の音と、母さんがいつもベランダやキッチンや庭に置きっぱなしにするゴミ袋みたいにギチギチに人を詰め込んだJR京葉線が高架を通り過ぎる音だけがはっきりと聞こえてくる。コトチーとぼくはしばらく立ち止まって、それらすべてを並んでぼんやり眺めていた。ここは千葉なのに、今目の前に見えているこの真っ黒な海原は東京湾なんだ、というその事実に、ぼくはなんだか無性にくらくらしてしまう。 「コトチーのお兄ちゃん、ぼくがぶっ殺してあげよっか」  そんなこと言うつもりはなかったから、ぼくはぼく自身に驚いていた。 「いいね」コトチーは笑わなかった。「どうやって?」 「ゆっくり殺そう」ぼくはコトチーを見ずに言った。「まず、まっすぐに伸ばして針金にしたクリップで、両眼を刺して、ぐちゅぐちゅかき混ぜるんだ。で、眼をどろどろにしたら、排水口のぬめり取りで、歯を少しづつ溶かそう」 「あはは。サイコー」 「爪切りで少しづつ、両手両足の肉と骨を削いで、詰めていこう」 「あはは」 「髪の毛はペンチで豪快にむしり取ろう。耳にはギターを繋げたイヤホンをつけて、爆音でかき鳴らして鼓膜を壊そう。ヘソにはうんと尖らせたトンボ鉛筆を突き刺して、睾丸とペニスは……。睾丸とペニスは、」 「……睾丸とペニスは?」 「睾丸と、ペニスは……」ぼくはわざとらしく間を置いて言った。「一番みじめで一番いたくて一番ねちっこくて一番、一番ぜんぶぜんぶ後悔させるような方法で、こっぱみじんにする」 「こっぱみじん」  初めて知った言葉を口の中で転がすように、コトチーが繰り返す。 「そう、こっぱみじん」 「すごいね」 「すごいよ。こっぱだよ」 「ありがとう」  コトチーは微笑んだ。声が少し揺れていて、でもぼくはなにも言わなかった。  来た道を引き返し、ぼくとコトチーはそれぞれの家に向かって同じ道を歩く。  ぼくの家とコトチーのマンションは道を挟んで隣り合っていて、いつもみたいに、家とマンションの中間、道のど真ん中で、ぼくとコトチーはハイタッチを交わして別れる。すっかり、夜になっていた。夜に玄関をまたいでも叱られないような家に、ぼくとコトチーは住んでいる。コトチーが明日学校にやって来るまで、どうか誰もコトチーの身体を触ったりしませんようにと、ぼくはたまに祈ってみたりする。
 ぼくはリビングのテーブルで、晩ごはんを食べようとしている。  晩ごはんはミヨシだった。  ミヨシはこんにゃくで、こんにゃくという食べ物がミヨシだった。 「いただきます」ぼくは言った。  味噌汁を入れるお椀のなかに、透明な液体と輪切りにされたミヨシが浮かんでいて、ぼくは白ご飯を口に含んでから、そのお椀を手に取った。 「虎彦」  ミヨシがぼくの名前を呼んだ。  ぼくはミヨシの一つを箸でつまむ。  ミヨシが微笑んだ。輪切りにされたミヨシに顔なんてないけれど、黒いぶつぶつの連なりが顔の代わりなのだということがぼくには分かる。ミヨシが微笑んでいることも、ミヨシが呼びかける声も、ぼくにしかわからない。ぼくとミヨシだけの言葉じゃない言葉だ。  母さんは、テーブル越しに対面する形で、ぼくの前に立っている。片手に包丁を持って、眼が充血している。 「てめえ何様のつもりだよ」  母さんの声は父さんで、ぼくは母さんの顔を見つめながら、ミヨシを口に入れる。 「いっつもいっつもいっつもいっつもいっつもいっつも」  そういう動きしかできないブリキのおもちゃみたいに、母さんは手に持った包丁を上下に振り続けている。 「いっつもいっつもいっつも、いつもいつもいつもてめえはてめえは」  ぼくはミヨシを噛んで、飲み込もうとする。でも噛めば噛むほど、口の中でミヨシはどんどん膨らんで、ぼくはとうとう口の中からミヨシをこぼしてしまう。口からこぼれたミヨシはもうミヨシじゃなくてただのこんにゃくで、床の上でぷるぷる揺れている。  さっきからぼくの頭上で浮かんでいたポリバケツが、UFOみたいに光を発した。光りに照らされた、ミヨシだったこんにゃくは浮かび上がって、ポリバケツの中に吸い込まれていく。 「ミヨシ」  ぼくは立ち上がってポリバケツに手を伸ばす。でもぼくは体温計だった。水銀が暖まらないと手が伸ばせない。手というのは、赤いゲージのことだった。  そこで眼が覚めた。  ぼくはマイナスドライバーを枕の下にしまって、起き上がる。 「ミヨシ」
 次の日も、次の次の日も、次の週も、ミヨシはキュロットを履いて、ぼくの目の前の席に座って、いつものミヨシみたいに振る舞っていた。仕草を変えたり、一人称を変えたりすることもなかった。周りの人間も、キュロットを履いたミヨシをいつものミヨシみたいに扱った。つまり、みんなミヨシに無関心だった。あまりに無関心すぎて、ぼくの頭がおかしくなって、ぼく一人だけが、ミヨシの幻覚を見ているのかと思ったほどだ。 「あいつさあ……」  男子トイレで隣り合って小便をしているとき、ガンバが言った。 「そういうこと、だったんだなあ」  ぼくはそれで、最近のミヨシがぼくだけの幻覚じゃないことを知った。 「でも、なんか、そういう感じ、だったのかもなあ、これまでも。うん」  ガンバはうつむいて、自分の小便を見つめていた。 「いとこがさあ、そういう感じ、なんだよなあ。オレが保育園行ってたときは、まだ、アニキって感じだったんだけど、今はもう、なんだか、そうでもない感じでさあ。……あいつよく見たらかわいらしい顔してるしさあ。オレぐらいドジだけどさあ。これからチン毛とか生えて、どうなるかわかんないけどさあ。オレ、ああそういうことかあ、って感じなんだよなあ」  ガンバがそんなことを言うのがなんだか意外で、ぼくはズボンのチャックを上げながら、ガンバの顔をまじまじと見つめてしまう。 「なんだよお」 「や……うん。うん。なんでもない」  ぼくはガンバの背中を強めに叩く。 「おいなんだよ、まだションベン中だぞ」 「さき、体育館行ってるから!」 「待てよお! おーい!」  ガンバの声が響くトイレを出てぼくは早足で歩く。ぼくは泣き出しそうだった。
 ミヨシがキュロットを履くようになってから、ぼくはまだミヨシと一言も言葉を交わしていなかった。放課後は校庭でたむろしているチートスたちの元へ行くか、一人で、あるいはコトチーと二人で、逃げるように帰っていた。  ミヨシと、放課後、教室の隅で、どちらからともなく寄り添って、「ああいうこと」をするようになった、そのときから、ぼくはもうこの先のことがなんとなくわかっていた。言葉として、映像として、脳みそでわかっているわけではなかったけれど、こんなことが、このまま、この状態のまま、変わらずに続くはずがないことくらいはわかっていた。ミヨシの頬を叩くとき、ミヨシの肩をつねるとき、ミヨシの頭をなでるとき、ミヨシを言葉だけで追い詰めるとき、ミヨシの膝が夕陽に照らされているのを見たとき、ミヨシの眼に映るぼくや教室の天井を見たとき、ミヨシが「ぼくは」と言うとき、ミヨシがぼくの名前を呼ぶとき、ミヨシの身体のその中の、誰にも見えないところでボロボロに泣いているミヨシそのものにぼくは目を背けてミヨシの眼を見つめ続けてきた。学校では教えてくれないこと。父さんは、母さんは、柏木は、大人は教えてくれないこと。誰も教えてくれないこと。ほんとうは教えてほしいこと。その、「教えてほしいこと」の種類が、ぼくとミヨシでは決定的に違っているのだ。「教えてほしいこと」の種類も「認めてほしいこと」の種類も「信じてほしいこと」の種類もなにもかも。一緒だと思いたかったのは、ぼくだけだろうか。ぼくはミヨシのペニスを思いきり頬張りたかった。誰よりもやさしく乱暴に触りたかった。でもそれ���望んでいるのはぼくだけなのかもしれない。ミヨシはミヨシ自身のペニスなんて触れられることすら嫌なのかもしれない。そのことを考えるだけでぼくは頭がはちきれそうになった。頭がはちきれそうになることくらいわかりきっていたから、ぼくはミヨシと、ぼくらの間だけで通じるセックスを、「ああいうこと」を続けていた。ぼくはまだ、ミヨシのペニスを見たことがない。ぼくはミヨシに今すぐ触れたかった。いま、今、すぐ。  体育館では、先に来ていたチートスたちがバスケットボールの山盛り入ったカゴを倉庫からひっぱり出しているところだった。せっかちな奴らがカゴの中のボールを手にとって、好き勝手に投げ合っている。  ぼくは早足のまま、体育館の隅で壁に寄りかかってぼんやりしているミヨシの元へ向かう。 「ミヨシ」  ミヨシはぼんやりした顔を強張らせてぼくを見つめた。放課後以外でぼくがミヨシに話しかけるのは初めてだった。 「髪」ぼくの声はかすれていた。 「かみ?」 「どうして」ぼくは右手をミヨシの肩くらいまで上げて、また下げた。 ���ミヨシは黙っていた。 「伸ばせばいいのに」言った途端、ぼくの眼から涙がこぼれた。  今この瞬間、この場にいる全員、消えていなくなってしまえばいいとぼくは思った。お願いだからぼくとミヨシ以外、全員、バスケットボールとゴールだけを見ていてほしかった。  ミヨシは顔を強張らせたまま口を半開きにして、数秒固まったあと、これ以上ないくらいかわいそうな人を見るような表情でぼくを見た。 「どうして」 「トラ。虎彦」  ミヨシはぼくの手の甲をなでてから、頬の涙をそっとぬぐった。 「虎彦。今日、一緒に帰ろう」  バスケットボールが床を跳ねる音の隙間から、チートスの笑い声が聞こえる。ガンバが遅れて体育館にやってきて、おい、トラ! とぼくを呼ぶ。ぼくはミヨシにうなずいてから、なんでもなかったように背を向けて走り、カゴの中のバスケットボールを取って、ガンバに向かって高めに投げる。
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2/19放送 DHCシアター「真相深入り!虎ノ門ニュース」
 メダルラッシュに沸く日本ですが、その陰でとんでもない事態が進行中らしいです(゜◇゜)ガーン
※元動画は
こちら(2月19日午後10時現在)
。URLが変更される(修正版がUPされる)こともあります。その場合は、
DHCシアターの再生リスト
から、たどって下さい。但し、アーカイブは2週間の公開です。
※引用転載はご自由に。連絡不要です。但し誤字などに後日気づいて修正をすることが多々ありますので、必ずこちらのURLを添えておいて下さい。
※書き起こしはあくまで要旨です。完全起こしではありません。
内容紹介ここから____________________________
(1)平昌五輪 日本メダルは現在 金2銀5銅3
(超ざっくりまとめ)
 スピードスケート女子500m金メダルの小平奈緒選手。
スタートの「レディーゴー」のタイミングが遅かった。
しかも号砲以外の何か音がして、身体がぴくっと動いてしまって
清水宏保さんは「フライングを取られるかも」と。
 また本人が今朝NHKの生放送で、柔らかい言い方で、そのことを言っていた。
 最初の100mが遅れたが、あとはのびのびと滑って、大逆転勝利。
 問題になりかねないようなシーンがあったが、小平選手と韓国のライバル選手のフェアな闘い、中でも小平さんの強さ。
 言いすぎを承知で言うと、あそこでフライングを取ったら、韓国は未来永劫言われる。
 そこまでは起きなかった。そこまではやらなかった、ではなく。
 証拠は何もないし、隣国を信じたいから。
※参考
#小平奈緒 選手、金メダルおめでとうございます 3連覇?がかかった韓国人選手がいたので無敵の小平選手を蹴落とそうと何か工作をやってくると思いましたが 案の定やっていましたね、左上の小平選手のときだけ明らかにスタートタイミングがおかしい、フライングでも狙っていたのかな?#平昌五輪
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Twitter広告の情報とプライバシー
(2)石川は33位 シフリンがV アルペン女子大回転
(省略)
(3)北朝鮮の最新状況分析 安倍首相が日米電話会談
 このニュースが含んでる意味っていうのは、すごく深くて重いんですよ。
まず異例なことが2つぐらいある。
 1つは、
いま平昌五輪を朝鮮半島でやってる、その最中に、わざわざ総理がトランプ大統領と、朝鮮半島について電話協議すること自体が、やや異例ですよね。
 しちゃいけないってわけじゃないけど、やや異例でしょ。
 それからトランプ大統領と山のように電話会談なさってるんですが、その内容を(15日の)
政府与党連絡会議でね、政府と与党内の会議とはいえ、政府じゃない自由民主党も入る所で、わざわざそれに言及されるというのは、これは異例です。
 じゃあなぜなのかと。
 これは、正直言うと、会員制レポートだけでお話ししようと思ったんです。
 レポートではさらに踏み込んで書きますが、ここで申し上げるのは、開会式に重大なヒントがあったんですよね、安倍さんがこうせざるを得ない。
これが世の中で報道されてるのと全く逆なんですよ。
 僕は前からニュースには尻尾があると申し上げてて。
 いま行われてる平昌五輪、その開会式、9日のあたりをもう一度思い出してもらうと、アメリカからペンス副大統領がやって来ましたね。
 ペンスさん顔がこわばっててすごかったですよね。
 普段温厚な方でニコニコしてるんですけど、ものすごい怖い顔のまま、まずこのニュースにも出てくる金永南(キム・ヨンナム)、北朝鮮のナンバー2と言われるこの常任委員長…。
 これは報道に出てこないこと1個申し上げると、北朝鮮は水面下で韓国を使って、会談したいってことも言ってたんですけど、ペンスさん、これを全然寄せ付けない。
 そういう狙いもあって送り込んできた金正恩委員長の妹の金与正(キム・ヨジョン)さんも全然寄せ付けない。
 それどころか韓国の顔にもう泥を塗るように、もうレセプションも席を離せと露骨に要求し、全くもう手を付けないと。
 全くもう(晩餐会で)食べることもなく、蹴るようにしてペンス副大統領が出て行きましたよね。
 これを見てですね、例によって日本の地上波などのコメンテーターとか、自称評論家の方々が、これはやっぱり3月18日にパラリンピック終わったあとにはアメリカはやるかもしれないと。
 だからこんな怖い顔してるんだと。
 そう思いますか?
 これね、逆説で言ってるんじゃなくてですね、何でもそうだと思うんですが、相手側、自分の立ってる位置と違う立場に立って、そこの視点を持とうと努力する、それ以外に道はないんですよ。
 そうすると、もしこれを、日本が、第三者みたいに横から見てるんじゃなくて、アメリカ側に立って見れば、
もしも3月18日にパラリンピック終わったあとに、ま、そこから、すぐにでも1年先でもいいですけれど、攻撃を考えてるとしたらですね、北朝鮮に警戒させます?
 そうでしょう?
 北朝鮮は弾道ミサイルをたくさん持ってるんですよ。
 1994年の半島危機っていうのは、当時のアメリカのクリントン政権が、もう直前まで行ったんですよ、攻撃の。
 犠牲が多く出ることが分かったからやめたことになってますが、それは違ってて。
 あの当時の北朝鮮もしたたかで、核開発をパシャッとやめてみせたんですよ。
 アメリカは攻撃する正当な利用が失われてしまったんです。
 それで攻撃やめたら、その陰で北朝鮮はどんどん核開発をやってきたんですよね。
 いまは核開発だけじゃなくて、このミサイルの上に弾道ミサイルを載っけてんじゃないのかっていうね、はっきり分からないけど、おそらく載っけてると。
 だから反撃能力が全然違うんですよね。
 弾道ミサイルの能力をいま持ってるんですよね。
その状況下で、ペンス副大統領がわざわざ朝鮮半島へ行って、怖い顔してみせて、警戒させたらですよ、これ北朝鮮がやられる前にやるかもしれないじゃないですか。
 それから、防護体制を固めますよね。
 そうでしょう?
だからやるんならば、必ず油断させるんですよ。
 必ず金永南さんとも握手をし、金与正さんとも親しげに会話をし、レセプションでは美味しそうに全部いただき、素晴らしいオリンピックだと言って褒め称えて、帰るはずでしょ?
 それがもう…(はねつけるジェスチャー)でしょ?
 だから話は逆なんですよ。
トランプ大統領は、ま、現時点だけですけど、現時点ではやる気がないんだと、いう証拠なんですよ、本当は。
 あの怖い顔っていうのは。
 これぐらいのことをご存知なくてテレビでよく解説するなと、僕、ま、もう呆れるはとっくに通り越してて、感心するんですよ。
 よくもこう、知りもしないことをおっしゃるなと。
 それで、テレビの視聴者は忙しいですから、そんなことまで考える余裕がないんで、当然、解説する人はその責任があってですね。
幸いなるかな、安倍総理はこれに完璧に気がついてるわけですよ。
アメリカは様子がおかしいと。
それで、これは僕はちょっと評価してるのは、日本のインテリジェンスが頑張ってですね、米朝の秘密交渉を把握しました。
オリンピックの陰で、アメリカと北朝鮮がこっそり接触してます。
僕は別ルートで人間も確認しました。
4人。
米側2人、北朝鮮2人。
4人、やってます。
日本は把握しました。
 (カメラ目線)そうなんですよ、アメリカ合衆国。
 これアメリカまだ気がついてないかもしれないけど、把握したんですよ。
 するとですね、戦争が起きないっていうのは大変良いことっていうか、そうでなきゃ困るんですが、ところが前言ったとおりですね、半島情勢っていうのは選択肢が1個減ってるんですよ。
(1)外交努力と圧力によって北朝鮮が核・ミサイルを放棄
(2)軍事攻撃によって潰してしまう
(3)米朝裏合意で、アメリカに届く物は諦めさせるがすでに持ってる日本に届く物は認める
 (1)はもうないんですよ。
 北朝鮮は決して諦めないっていうのが分かったわけですよ。
 もし(2)をやめたら、(3)しかなくなる。
 つまり日本を実質置き去りにして、トランプ・安倍関係とか言いながら、米朝が裏合意して、日本だけ脅威の中に取り残されると。
 僕はアメリカにずっと警告してるわけですよ、これを。
 ものすごく話をシンプルに、よけいな枝葉を全部切り取って言うと、去年5月8月12月、3回も、ま、自費でハワイの真珠湾の太平洋軍司令部、それから艦隊司令部行った時に、2つしかしてないんですよ。
 話はいっぱいしましたが、中心は2つです。
 1つは拉致被害者、この(2)がもしある時は、拉致被害者の救出を、自衛隊と必ず連携をして下さいと。
 それからもう1つは、
(3)の米朝裏合意をやると、日本はいずれ核武装せざるを得なくなって、その核武装は長い大きな物じゃなくて、短い小さな核兵器を必ず持ちますと。
 つまり日本の脅威は太平洋の向こうとかヨーロッパにありませんから。
 残念ながら北朝鮮をはじめとする近隣だけだから。
 中国の核ミサイルも日本の主要都市を射程に入れてますから、現に。
 これちなみに河野太郎外務大臣のお父様の河野洋平外務大臣の時に、中国が天安門広場で軍事パレードでそれを出してきて、それを河野洋平外務大臣は、中国の新しい活気を感じると言って、公費で祝電を打ったんですよ。
 で、その時に怒って抗議して、そういう記事を書いたのも、なんと僕1人でした。
 ついでに記事は没になりました。
 それが現実なんですよ。
 で、話戻すと、日本がもし持たざるを得なくなると、中国や半島を射程範囲に入れるのは短い物だけですよ。
 それから日本は、僕は核武装すべきじゃないとずっと言ってきて、だからいわゆる右の人たちからもずっと攻撃されてきたんですが、それどうしてかというと、核兵器は赤ちゃんや高齢者や戦わざる人々をドロドロに溶かすことが終目的だからです。
 副作用でなるんじゃなくて、それが目的なんですよ、相手が軍隊でなくてですね。
だから反対してきましたが、こうなると(米朝裏合意になると)持たざるを得ません。
反対論の僕も、転換せざるを得ないんですよ。
 だから米軍はよく知ってるから、それ言いました。
 その時は小さい物しか持たないですよ。
 なぜかというと最小限度の攻撃にしたいから。
 ということはですね、日本はそうやって、いわば正義を、核武装した時でも貫くけど、
これは使える核兵器が登場するってことなんですよ。
 いままで合衆国、ほとんどそういうの持ってないんですよ。
 これから持とうとトランプさんはこないだ宣言して、大騒ぎになってるぐらいですから。
 だから日本が優れた技術力でそれを持つと、これ日本は売ったりしませんけれども、ブラジル、それから皆さん意外でしょうがスウェーデン、近隣で言ったらインドネシア、ベトナム、こういう能力のある所は、これを持つようになり、そしてこういう国々ではおそらくなくて、違う意外な国の指導者が、これを使います。
 フィリピンがそうするとは言いませんが、たとえばフィリピンのドゥテルテ大統領も民主主義に基づいて選ばれた大統領ですが、自分でピストル撃って犯罪者を殺しましたと自らおっしゃってますよね。
 ドゥテルテさんがというんじゃないけれども、そういう言動を横目に見ながら、
小型戦術核を使う指導者は必ず現れますよと。
そうすると、世界の終わりの始まりです。
 これほんとに、世界の終わりの始まりですよ。
 それをやるのかと(米朝裏合意をやるのかと)。
 それは絶対やらないと米軍はいままで言ってきた。
 軍はそうです。
 米軍も困ったこといっぱいする困った人たちだけども、でも彼らは約束を守る人間でもある。
 じゃあ誰が考えてるのか。
 トランプ政権ですよ。
トランプ大統領は僕はむしろ、CNNと比べるとはるかに僕は評価してる方ですけれども、でも現実にその裏交渉をやってるんですよ。
 その上でですね、このニュースをもう一回見て下さい。
 トランプさんにまず、ま、どっちが電話したかは書いてないけれども、要するに安倍さんの意志で、トランプさんとオリンピックの真っ最中に電話してるんですよね。
 これ分かります?意味。
 分かりますよね。
 トランプさんにまさか、あなた裏交渉してますよね、知ってますよなんて安倍総理が言うわけないですよね。
 でも、要は日本は知ってますよと。
日本を舐めるんじゃない!ということですよ。
変な裏交渉をなさるなよ!と。
 だからここに、
北朝鮮に最大限の圧力をかけ続けることで完全に一致したと、いうことをわざわざ、政府与党連絡会議で言うっていうのは、これ人口に膾炙(かいしゃ)すべきだ、つまりみんなが知るべきだと。
 そしてこの、ご自分が金永南さんと話したことについて、北朝鮮と、でも話すなっていうわけじゃない、話すチャンスを作ることは必要だと、それは裏交渉とは違う話でしょうと。
 で、アメリカも理解してるとわざわざ安倍さんが言ってるのは、つまりそのことを言ってるわけですよ。
 対話するっていうのと、それから
アメリカの国務省がいま予備的協議って言ってますよね、これ予備的協議っていうのが非常に曲者であって。
 予備的じゃない協議っていうのはどういう意味ですか。
 それはトランプさん、いままで言ってきましたよね。
 北朝鮮があらかじめ核・ミサイルを捨てると、いうことを言ってからでないと対話しないと。
 テーブルには着かないと言ってきたんですよね。
 は?予備的協議?
 じゃあそう言わなくても、話し合いをしましょうってことに、他ならないじゃないですか。
 だからこれはさすがにトランプの意思じゃなくて、ティラーソン国務長官のいわば指揮下にある国務省としてそういう考えを出したんですよね。
 でもこれが公然と出てきて、ホワイトハウスがそれを、あとで否定することもないんですよね。
だから予備的協議の名の下に、北朝鮮の核・ミサイルは、部分的には保有する、つまりアメリカに届く物はダメだけども、日本に撃ち込める物は持って良しという状態のまま、対話に入るってことをいわば、アメリカの外交責任当局の国務省が言ったのと同じですよね。
 で、非常に危機的な状況になりつつあるんですよ。
 で、その上でですね、これトランプ大統領は決断してません。
いつ決断するかというと、これが、3月18日に(パラリンピックが)終わってからというよりは、3月から4月にかけて、この2ヶ月の間で、つまり遅くとも、日本で言うと連休に入る前あたりまでに、トランプ大統領は決断します。
 そうしないともう、いろんな意味で間に合わないんで。
 で、
もしも軍事的オプションを決断した場合は、すぐではなくて夏頃になると思われます。
 米軍の現状見てる、あるいは現場で踏み込んで見ればですね。
 で、
じゃあ裏合意してしまうということになると、これは全く違う動きになっていって、たぶん年内にですね、IAEA、国際原子力機関の査察受け入れ、北朝鮮、とかね。
 それから寧辺(ヨンビョン)というね、核開発の拠点にあった、クーリングタワー��ていうんですけどね、原発にあるような。
 これを(2008年に)爆破してみせたでしょ。
 あれ爆破した時にすでに使ってなかったんですよ。
 で、そういう一部施設を派手に爆破したりね。
 で、そのあとも、IAEAの査察を受け入れたりね。
 そういうのを見せながら、
前と全く同じですよ、だから。
 その裏で、日本にうまく命中するような核ミサイルの開発を続け、本当はアメリカも攻撃できる物を、間違いなく作っていくだろうと。
 で、世界は終わりに向けての歩みを早めるってことに、この平昌五輪以降、なっていくと。
 これはですね、やっぱり日本の政府の中枢で、一番物事を分かってらっしゃる方、僕とけっこう、だからこそ怒鳴り合いになること多いんですが、こういう方はね、このオリンピックの最初から言ってたんですよ。
女子アイスホッケーで合同チームできたら終わりだと。
 まあ、この人物が安倍政権の中でも、どれだけ先端を歩いてるかってことですけどね。
 これ前からその話があったって、実は日本は把握してたんです。
 つまり、勝敗を争うようなね、たとえば昨日の小平さんと韓国の有名選手との、李さん(李相花)っていう有名な選手のところに北朝鮮を持ち込んだら韓国民が怒っちゃうけど、可愛らしくて、つまり女子のみんなで、そしてメダルにはとても届かない、そういうのを選んで北朝鮮との合同チームにするだろうっていうのは、日米とも予想してたんですよ、本当は。
 去年からです。
 だから、たとえば女子アイスホッケーで、南北の合同チームできたらアメリカはもう戦争できないと。
 つまり、もともとはアメリカ、実はオリンピック期間中の攻撃まで検討したんですよ。
 去年の夏頃。
 だから僕は8月、真珠湾に行ったわけです。
 それを知ってるからこそ行き、それを確認もしたんです。
 というのは、やる時は本当のサプライズしかないと。
 オリンピック期間に、平昌から北の国境まで80kmしかないんで��よ。
 そこで北朝鮮をやるかもしれないってことまで検討したんですよ。
 それはアメリカが惨(むご)いっていう言い方もできるでしょうが、でも同時に北朝鮮の反撃能力がそこまで強くなってしまってるっていう現実を踏まえると、全く反撃が予想できないような、態勢が整わないようなところまでの、サプライズじゃないといけないと。
 それがオリンピックで、南北融和で、北から代表団は来るわ、応援団は来るわ、韓国男性がまた熱狂するわ、それどころかチームも一緒になるわ、そういう状況になってしまって、民主主義国家、国際世論も気にしなきゃいけないアメリカが、しかも中間選挙云々も全部考えると、とても踏み切れなくなって、そこでアメリカの軍事オプションは終わりだと、その政府中枢はおっしゃるんで、僕は、あなたがそういう人じゃ困るじゃないかと。
 諦めにつながるって言ったら、諦めじゃない、現実分析だと。
 現実分析でも、アメリカにとってはそれは日本が諦めたになるんだよと。
 言い合いになったんですけど。
 もう最近では、我々はにこやかになって、
予想通り、アメリカはこうなってますねというような話なんですが、ここで諦めるわけにはいかないんですよ。
 つまり拉致被害者の救出を考えても、このまま金正恩体制が、安穏と日本を脅かしながら、日本を脅かすというのはどういうことかというと、あの強い日本が怯える状態にするぐらいの核ミサイルですから、これが売れるわけですよ。
 中南米、中東を中心に。
 一部アフリカにまで手を伸ばして
北朝鮮はビジネスを行ってますから、その商売上ものすごく値打ちが上がっていくわけです。
 そういうカラクリですよね。
 それを続けさせることを(やめさせることを?)日本は絶対諦めちゃいけないです。
 実はこのニュースはそういうニュースなんです。
(4)「北朝鮮の日本射程ミサイルは数百基」安倍首相
 安倍総理が最近、北朝鮮の核ミサイルをはじめとした軍事能力について、国会で踏み込んだ答弁なさるっていうのが際立ってるんですよね。
 今回もそれなんですが、このノドンが数百基っていう言い方は普通しなくて、ま、そもそも総理がそういうこと普通触れないものなんですけれども。
 これいろんな見方あるけども、いちおう一般的に言われてるのは、だいたい200基ぐらい。
 でも実はどんどん劣化するので、実際にさあ撃てって言われて、たったいま、すぐ日本に向けて撃てるノドンはだいたい100発前後じゃないかというのが常識的な見方で、数百基っていうのはだから、日本の感覚で言うと4~500ですよね。
 誇張して言ったのかというのが実は、僕のところに自由民主党の中から非公式に問い合わせが来たりしたんですよ。
いや、これ誇張じゃなくて、総理はいわば持つべき懸念をおっしゃったんだと思うんです。
 つまりアメリカがこれを裏で実質認めたら、どんどん増やしますからね。
 そのことまで含めておっしゃったと見るべきで。
 で、頭に載っける核弾頭が、ノドンって決して大きくないですからね、ここに載っけようと思ったら、ま、1トンを超えたらもうダメです、載せられないですよね。
 だから、数百キロにしなきゃいけない。
 それはなかなかの技術。
 ノドンは左から3番目。
 射程が1500kmまでと書いてあるけど、それは通説で、本当は1800kmになってる物もあるという恐れがあります。
 だから基本的に日本全土が入ると。
 特に1800kmの物はそうだと思わなきゃいけないんですが。
 安倍総理がそこまで小型化できてるか分からないっていうのは、最初の話を強く言っといて、ま、落とし所を収めたって言うこともできますが、これ1発も載ってないと思うことは、しちゃいけません。
数発以上は載ってるっていうのは、日米の防衛軍事当局の一致した見方なんですね。
(5)河野氏「接触は大事」 米朝予備協議否定せず
 このニュースもいままで申してきた、非常に深い裏の動きと関係あるっていうのが分かっていただけるんじゃないでしょうか。
 まずこのニュースで浮かび上がる尻尾の1本は、
いま総理と河野太郎外務大臣がいかにコミュニケーションがちゃんとしてるかということ。
 トランプさんとティラーソンさんのコミュニケーションの薄さを考えると、これがけっこう世界の安全を支えてるとも言えるんですよね。
 河野さんがわざわざミュンヘンで、予備的協議というのをやってもいいんじゃないですかと言ったというのは、いわば逆手というか、米朝が前提なしで無条件に話しちゃいかんと、いう言い方ではなくて、さらりとやってみせて、しかしその上で、いま北朝鮮と対話することに得るものはないというのが日米韓の共通認識だと言ったというのは、
日本がこれでアメリカを枠にはめようとしてるんですよね。
 どうしても予備的協議やるっていうならば、それを裏合意につながるようなものにしたら、許さんぞということですね。
 有権者の皆さんは、そんなこと言ったって口だけだと思うかもしれませんが、まず口は大事なんですよ。
岸田外務大臣時代になかなかこういう文言は出てこなかった。
 岸田外務大臣当時も総理とのコミュニケーションは良かったんですが…。
 河野太郎さんはいま新聞では急に総裁候補にされてますが、党内では全然そんなことありませんから。
 とてもそんな状況じゃないから、いわば総理からダイレクトに降ろせるっていうね、利点があるんですよね。
 河野太郎さんは党内で孤立気味だったのを、外務大臣に引き上げてもらったって恩義も感じてるから、だから非常にいま、いい意味の上司と部下になってるわけですよ。
 だからこれよく用意された発言であって、アメリカがそれだけで米朝の秘密交渉をやめたりすることは全くありませんけれども、しかしこれは
もうちょっと大きな目で、後ろに下がって見ると、実はアメリカはいま日本に期待せざるを得ないんですよ。
 というのは9・11同時多発テロっていうのが、2001年9月11日にあって、
未だにあれをブッシュ大統領の自作自演だと言ってる
、全く愚かな方…、こう言っただけでまた山のように嫌がらせが来るんですよ。
 これたとえば野党の、いまもう何党かよく分からなくなっちゃったんですけど、国会で代表質問なさってたような野党の有名議員が、これはブッシュ大統領の自作自演だと言ってるんですよ、未だに。
 国会の場では、いまはさすがに言ってないでしょうが、著作でおっしゃったりね。
 人柄はとてもいい人なんですが。
 全然関係ない僕が、アメリカ行くとこれを聞かれるんですよ。
日本のあの国会議員は未だにそういうこと言ってるけど、それが国会議員でいられるのはどういうわけだと言われる
から、いや、あなたの国と同様に我々は自由の国だから、それは有権者が自由にちゃんと選んでるんで、と言うでしょ。
 すると、あなたがそれを、味方するのかって言い方じゃなくて、え? ひょっとしてミスター青山もそう思ってんの? ってことは、バカじゃね?と。
(居島一平:大丈夫か?みたいなニュアンスになっちゃうんですかね)
 もっとすごいですよ、本当は。
 (同時多発テロの話。省略)
 アメリカは目が覚めて本土防衛、内側に退(ひ)いていってるんですよ、アメリカの領域内に。
 これが長年言われてきた米軍の世界再編。
 難しいこと言ってる人いるけど、要はそれだけのことなんです。
 外から退かなきゃいけない、アジアからも退かなきゃいけない。
 それを見て中国は、こんなにせり出してきてるんです。
 その中国に簡単に呑み込まれたのが韓国。
 だから米韓関係もおかしくなったんです。
 その中のオリンピックで、これ全部つながってるわけです。
その時に中国が、のしてこようが、自由と民主主義の名において、抵抗するのは、ジパングしかないんですよ。
なぜか。
聖徳太子以来、日本と中国は対等だと、いうことをずっと言ってきた、変わらざる外交方針の国なんで。
 日本の外交、いろいろ言われるけども、実は終始一貫してるんですよ、そこは。
 自由民主党の中に、親中派とかいまもいらっしゃるし、前はもっといたけれども、それでも大きな方針としては、日本の自由と独立を、中国の圧迫で曲げることはしないと、尖閣も含めて、しませんというのが、だから憲法改正しなきゃいけないって言ってるんですよ、尖閣を守るためにも。
 それをアメリカも世界も知ってるから、したがって実は
アメリカは日本にいま、もうかなり依存しなきゃいけない、アジア政策は。
 だって米軍は、トランプ大統領は大きくすると言ってるけど、無制限に大きくできないから、本土防衛、ましてや中国はいま宇宙兵器をやってるから、宇宙兵器からの防衛ってすごくお金かかるから、アジアの自由を守るのは、かなり日本に期待しなきゃいけない。
 ということは日本の発言力が、戦争に負けた時は日米がこうだったのが(すごく差があったのが)、こうなってきてる(縮まってきてる)。
 これぐらいの差だと、河野大臣がアメリカのお尻を刺してると、(むずむずしているジェスチャー)…というふうにはなるわけです。
 そういうニュースなんです、これは。
(★)トラ撮り! コーナー
★石垣島にて
 3月の石垣市長選挙、自由民主党推薦の中山市長の応援で石垣島入り。
 沖縄の既得権益からすると困った市長。
 今回、保守分裂選挙になった。
 再び共産党の影響力が強い人が市政を握るのではないかという情勢。
 応援の前に、特攻隊の慰霊碑を訪問。
 慰霊碑ができる時に阻止の動きもあったが、有志が市長を支援し、建立された。
 伊舎堂大尉(死後、特進で中佐)のもとに全国各地から若者が集って、慶良間に出撃して戦死。
 この日集まった方々に、2年ほど前に訪れた時の話をした。
 石垣市役所の人が、
「長年の疑問を聞いていいですか。自分は石垣生まれ、石垣育ち。沖縄の教育で、沖縄戦は沖縄を捨て石にしたと。それでたくさんの犠牲が出たと聞いた。でもこの顕彰碑を見ると、隊長の伊舎堂さんはウチナンチューだが、あとは全国から来てる。捨て石にしたというのは間違いでは?」。
 そのとおりですと僕は申し上げた。
 みんなが沖縄を愛していたから、守るためにここにやってきたということを申し上げた。
 一番若い人は17歳。一番上で29歳。
 この日集まった中には伊舎堂さんの甥御さんもいた(青山さんの向かって左隣)。
 本土の選挙と感じが微妙に違う。
 選挙はもともと村のお祭りだったが、そういう雰囲気をまだ残してる。
 無惨な沖縄戦、帝国陸軍は奮闘したが、海軍の大田實少将が自決前に軍に物申すために電文を送った。
 なぜ住民の避難を完遂せずに、戦闘に巻き込んだ��かということを、手厳しく批判。
 その上で、「沖縄県民斯く戦えり。 県民に対し、後世特別の御高配を賜らんことを」。
 ハチマキをしたことないが、用意してくれたので。
 中山さんという人がいま必要だと思うので、持ってこられた青年部の気持ちを汲んで。
 その上で、先ほどの島唄と踊りを見てると胸が痛むと申した。
 みんな微妙な顔になった。
 左翼陣営なら分かるが、青山さんがそういう話をするのかと。
 予想通りの反応。
 たとえば白梅の塔、沖縄県民も知らない人が多かった。
 沖縄戦の本当のことは、私たち本土の人間も一緒に、祖国の沖縄として考えるべきだという話をした。
 ちなみに中山市政が始まった時の観光客は年間77万人だった。
 いまは137万人。
 沖縄本島は中国の観光客であふれてるが、石垣は台湾の方や国内からが大変多い。
 遠くても努力をすれば遠くから石垣に来てくれる。
 待機児童も、受け入れが900人近く増えた。
 地に足を付けてるから客観的に考えて下さいと話した。
 海上保安庁の巡視船「みずき」。
 8年前の尖閣沖中国漁船衝突事件で体当たりを受けた。
 船長を逮捕、勾留。
那覇地検石垣支部が起訴しようとした時に、菅直人政権下で、船長が突然釈放されてしまった。
 日本が国家主権を事実上投げ捨てた。
 今でも忘れられないのは、検察に電話して、「政治の圧力があろうとも、せっかく現場が頑張って正当に勾留し、正当に起訴して、裁判によって事実を明らかにしようとしてる時に、釈放とはどういうことだ」と言ったら、当時現役トップクラスの検察首脳が言ったのは、
「仙谷官房長官が(柳田稔)法務大臣に指示を降ろして、事実上、法務大臣の指示です。血の涙が出る」
とおっしゃった。
 石垣は事件も踏まえて、桟橋を充実し、いわば海保の艦隊と見えるものがいる。
 その写真も山のようにあるが、今週はここまで。
 この件は、これ土曜に撮った写真だが、今日月曜で海上保安庁にまだ確認できてないから。
(6)
北朝鮮へ圧力継続要請 河野氏がドイツ安保会議で
 面白いニュース。
 河野さんは外務省にいろいろ提案してる。
 これもよく仕組んだ発言。
 ヨーロッパは北朝鮮に無関心。
 五輪には関心あるが。
 それに対して、適切な指摘もしてる。
 平昌五輪は、ほほ笑み外交なんだと。
 目を奪われてはいけないと。
 同時に、
核拡散防止条約が骨抜きになるというのは、北朝鮮の核をアメリカが認めるかもしれませんよと。
 アメリカが骨抜きにしようとしてると、アメリカと言わずに、言ってるのと同じ。
 あえて言うと、北朝鮮が持ったら日本も持たざるを得なくなるから、核拡散防止条約はもう終わりですよと。
 核問題についてはもともとヨーロッパは関心がものすごく強い。
 ソ連、ロシアが中距離弾道弾を昔から開発してて、アメリカよりもヨーロッパに中距離弾道弾を撃ち込んでくるというので、実はスウェーデンも昔から核武装の準備をしてたし、現実にフランス、イギリスは核を持ってるし、ドイツはアメリカの核を持ち込ませることもあったし、というふうに敏感。
 北朝鮮が核を持つきっかけになるんだよと、そうなったら日本も考えざるを得ないんだよと。
 「北朝鮮が核を持つのは、朝鮮半島から米軍を排除し」というのは、長い話をひとつにまとめて言ってる。
本当は核の傘がなくなると言ってる。
 裏合意がこのまま進んだら、アメリカに届く核は持たせないが、日本に届く核は持たせる。
 だからもし北朝鮮が日本を侵略した場合、日本に撃っても、アメリカには撃ち込まない。
 撃ち込めない、持ってないから。
 なのにアメリカから北朝鮮を核攻撃するのかと。
 しないと考えるのが普通。
 だから核の傘っていうのは、米朝の裏合意が進んでいくとなくなってしまうぞと。
 僕の言い方だと、「世界の終わりの始まり」。
外務大臣は外務官僚ともすり合わせて、非常に微妙な言い方ながら、その世界の終わりの姿を言ってみせている。
 こんなこと、いままでない。
(7)河野氏がモンゴル外相と来週会談 北朝鮮情報収集
(ざっくりまとめ)
日本は日常的にモンゴルから北朝鮮の情報を収集してるが、これはいままでと意味が違う。
 北朝鮮は孤立してない。
 モンゴルだけじゃなく、数多くの国と国交がある。
 その中でもモンゴルは、中国とロシアの狭間にあって、北朝鮮としては両方とも非常にほしい情報を抱え込む国なので、特に関係が深い。
 モンゴルと日本の関係は良く、前から北朝鮮の情報を取ってるが、
今回はむしろ北朝鮮の側から日本に情報を流そうとしてる。
 日本は拉致被害者の救出もあるので、日本は北朝鮮との裏交渉をモンゴルも舞台としていままでやってきた、1~2回リークされたが、東南アジアも使って、続けてきた。
 この頃それを事実上打ち切ってきた。
 北朝鮮はアメリカと裏交渉が始まったので、当然、北朝鮮は、日本がアメリカの言いなりだと誤解、あるいは断定してるから、
米朝が始まった以上は、日朝もあり得るはずだと。
日本は拉致被害者の救出という重大なテーマがあるので、応じざるを得ないところがある。
それでモンゴルの外務大臣と北朝鮮がまず話して、それを日本側に入れようとしてる。
 河野さんがモンゴルの外務大臣と話し合うのは当然だが、そういう北朝鮮の意図があるってことは、幸い、安倍総理や、大臣含めた外務省は理解してます。
 そういう微妙な動きが起きてる。
(8)総書記誕生日で核開発強調 北朝鮮
(ざっくりまとめ)
 去年11月、金正恩委員長は「完成した」と言った。
 のに、労働新聞は「これからも世界最強を目指して続けるんだ」と言ってる。
 普通に考えれば、矛盾。
簡単に言うと、去年11月の「完成した」は嘘。
 アメリカ本土に届く物を持ちかけてるが、届けばいいんじゃなく、大気圏の再突入をするか、水爆を仮に飛ばせるようになって上空で破裂させると電磁パルス攻撃になるが、そのいずれもが完成してない。
 実際の戦闘には使えないから完成してない。
 「完成してない」はアメリカへのメッセージ。
 いま持ってるのでOKだったら、ここでやめてもいいと。
 労働新聞はそれと表裏で、米朝交渉始まったから、いま持ってるやつを認めてくれと。
 そうでないならこれからもやるぞと。
(9)黒田総代再任を国会提示 半世紀ぶり在任5年超
(省略)
(10)共同計経済活動へ作業加速 日ロ外相が3月会談
(ざっくりまとめ)
大統領選の投票率でプーチン政権の命運が決まる。
 低かったら、領土に絶対触(さわ)れない。
 高かったら、日本側から見たらひょっとしたら北方領土で、何らかのロシアの新しい妥協、いま行き詰まってる主権問題で妥協があるかもしれないと思うから、これ日本が先に動いた。
 5月に総理がロシアに行くことになってる予定だから、いまからやっとこうと。
河野さんは択捉島の民間空港を軍の共用にするってことにちゃんと抗議してる。
 ロシアはそこは敏感に反応はしてる。
 北方領土返還は考えてないけど、日米安保条約が伸びてきて、そこに米軍が出てくるんじゃないかと。
 いま北極圏をめぐってルートの争いになってるから、そこに米軍が顔出すのを恐れて、中国軍の進出も恐れて、作らざるを得ないというのがロシアの立場。
 それをいちいち問題にされると、共同経済活動もできないと。
 これは見せかけじゃなくて彼らの本音。
(11)尖閣周辺に中国船 5日連続
 これも3月以降を見据えた動き。
 米朝の秘密交渉始まってるが、軍事オプションが全くなくなったわけではない。
その場合に中国は尖閣に必ず動こうと思ってるから、事前の準備をしてる。
(12)中国が南シナ海に7基地 米司令官が警戒感表明
(省略。
先週
の視聴者メールの2つめと同趣旨のコメント)
(13)イラク復興へ計3兆円支援 閣僚級会合で各国表明
憲法改正の意味のひとつを考えてもらいたい。
 というのは、未だにイラク復興の支援をするのかと思った人も多いでしょう?
 自衛隊がイラクのサマーワに行って、病院のトイレ直したり、橋を直したり、道路を直したりした。
 これ全部いまダメになってる。
 自衛隊の責任ではない。
自衛隊は、普通の工兵を「工兵隊」と呼ばずに「施設隊」というふうに言ってるんですよね。
日本国憲法によって、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」になってるので、「兵」はダメだというので、「施設隊」としてるわけです。
 「自衛隊の施設隊」というのを英語に訳してイラクに行った。
 自衛隊派遣の前にイラクに入った僕は、サマーワの知事にも市民にも「新幹線いつできるんだ」と聞かれた。
「施設隊」と言うから、永久的な物を作ってくれると思ったんです。
 「工兵」はそうじゃなくて、軍隊が臨時で通れるだけの橋や道路整備。
 一定期間過ぎたらダメになる。
イラクの人々は誤解したまま、日本は嘘ついたと言ってるわけです。
 憲法改正にはこういうところにも大きな影響があって、これをちゃんと「陸軍の工兵隊だ」と言えば、世界は分かってくれる。
____________________________内容紹介ここまで
 米朝で裏交渉=日本置き去りの裏合意に向けた流れになってきていると。
 つまり戦争回避の可能性が高まってきたということなんでしょうが、一方で、こんな話もあります。
昨日韓国の報道によると、新しく韓国に配置される米軍に「家族同伴禁止令」が出され、単身赴任になってるという。 これは異例。 もしかしたら前兆。 (>_<)
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 この先どうなるのか全く分かりませんが(トランプさん自身も現時点ではまだ分からないのでは?)、とにかく私たち日本国民は朝鮮半島情勢をめぐって、去年の春ぐらいからずっと、気が気でないというか緊張の日々を過ごしてるわけで…。
 逆に言えば、いまが安倍政権で良かったと、胸をなで下ろしてる部分も少しあったりして…。
 今日、久々に民主党政権のとんでもぶりを思い出させてもらったので、よけいにそう思います。
 それにつけても、あの時(2008年)、オバマさんじゃなくマケインさんが大統領に当選してたら、こんなことにはなってなかったのでは…。
 って、遡りすぎですか?(T_T)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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soulbounce · 7 years
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kachoushi · 3 years
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各地句会報
花鳥誌 令和3年7月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
………………………………………………………………
令和3年4月1日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
春彼岸阿弥陀背にして説法を 柏葉 母編みし毛糸のベスト解いて編む 由季子 解く帯に桜一片舞ひ落ちぬ 都   人に酔ひ酒にほろ酔ふ花の園 同  初蝶の行きつ戻りつ旅立ちぬ 同 
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月1日 花鳥さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
天蓋は万朶の桜愛子の忌 かづを 最古てふ天主や花の海に浮き 同  椿落つ秘めたる想ひ絶ち切れず 笑   花の寺御仏こぞりて笑み賜ふ 同  走り根の絡む老木の花淡く 希   鐘楼門栄華の花は盛りなり 同  初蝶の止まつてばかりゐる黄色 雪   ぽつたりと云ふ落ち様の肥後椿 清女 濠は今満月のもと花万朶 数幸 ねむたげな目をして地蔵花の寺 天空
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月3日 零の会 坊城俊樹選 特選句
花屑の起伏を流れたる音頭 要   あかんばうだらんと垂れて八重桜 いづみ カーブへと都電の軋む花の駅 眞理子 霾やホテルアスカのネオン消え 光子 白き指触れれば老いてゆく桜 順子 花山のお狐さんの花見酒 きみよ 風光る都電カーブに傾けば 光子 花追うてちんちん電車下町へ きみよ 丁字路に男惑へば花ふぶき 和子 貨車つづく花の昼なら長々と 和子 春惜しむやうに各駅停車かな いづみ 花衣花の音頭に揺れ止まず 慶月
岡田順子選 特選句
花屑の起伏を流れたる音頭 要   花吹雪その一瞬の神かくし 久   北病棟梟徘徊する深夜 公 世 山頂は花の冠雪なりしかな 俊樹 春昼の子爵の気配する館 きみよ 動くたび翠玉に化け春の蠅 小鳥 落つ花も落ちざる花も狐憑く 俊樹 お屋敷は棕櫚の置かれし復活祭 いづみ 山吹や古き稲荷に鬼女の謂 千種 都電行く花のレールを懇ろに 俊樹
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月7日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
愛子忌や花の仏の目鼻だち 世詩明 陽炎や聖火近づく靴の音 ただし 尼様の逝かれて久し花の庵 清女 春愁や廊下に邪魔なすべり台 同  屋根の上猫を消し去る花吹雪 誠
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月9日 芦原花鳥句会 坊城俊樹選 特選句    塵芥浜に打ち寄す涅槃西風 よみ子 紅椿落ちしまゝなりいくへにも 寛子 朧の夜磨りて薙刀月なりぬ 依子
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月9日 札幌花鳥会 坊城俊樹選 特選句
亀鳴くや狸小路といふところ 清   子猫には知らぬ値札の差でありき 同  新しき街にもなれて朧月 同  いつの間に少女は乙女初蝶来 晶子 ほつとする出会ひに似たり蕗の薹 寛子 鮨屋出てちよいと歌碑まで啄木忌 のりこ 舞姫の余波の浜の桜貝 岬月 空海の学びし都霾れり 雅春 花は葉に大樹あくまで孤高なる 同
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月9日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
葱坊主砂丘の畑に海を見て 栄子 縮こまりゐしが色めき勿忘草 史子 妹の炊く釘煮の味や春の潮 佐代子 花曇貝殻拾ふ習はしに 幸子 チューリップ閉ぢて乗せゐる細き月 都   払暁の厨に水を撒く浅蜊 宇太郎 大手門潜り落花の畏まる 悦子 鞦韆や正面にある日本海 益恵 大土手に游がせ青き鯉幟 益恵 囀や赤子は喃語はなしかけ 和 子
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月10日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
もこもこと花に潜りし虻の尻 三無 著莪咲くや十年祭のとしあつ師 文英 石楠花の色の溢れて空の青 同  虻戻る宙の一点違へずに 秋尚 野の草も木々も輝く寺うらら 瑞枝 影淡く残しほぐるる牡丹かな 秋尚 若楓日に透けて師の十年祭 文英 蜃気楼より戻りくる大漁旗 三無 手のひらに残花ひとひらとしあつ忌 同  花筏小鷺の暫し石の上 文英
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月12日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
笑ひ皺深き自画像山笑ふ 清女 ヘリコプター右往左往の霾ぐもり ただし 一輪の菜の花明り無人駅 英美子 二百羽の白鳥去りて水落とす さよ子 となりからグラタン届く蝶の昼 清女 黒々と土掘り起こす夫の春 錦子 お姉さんと呼ばれし母の古浴衣 清女 昭和史を読み継ぐ窓や冴返る 上嶋昭子 落花浴び二人の会話とめどなく 中山昭子 風光る子の背で踊るランドセル 英美子 霾れり外は砂塵の匂ひあり 中山昭子 日差し受け新樹ふくらみ山太る みす枝 牡丹の土くろぐろとごろごろと 信子 調停を終へて出で来る白日傘 上嶋昭子 四月馬鹿小さくなりし力こぶ 三四郎 豊麗といふ重さあり八重桜 上嶋昭子
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月12日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
草団子つかまり立ちし子の笑ふ 実加 花の雲散りては隠れ鳥の群 あけみ 空色のファーストシューズ若草に 登美子 自転車で駆け抜けてみる花吹雪 紀子 花の下貨物列車がゆつくりと 同  リード張る犬の目の先青葉萌ゆ あけみ 草餅を炙るおばあの手の記憶 同  春の灯や見覚えのある泣きぼくろ 登美子
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月12日 伊藤柏翠俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
花万朶天守の高さ残し散る かづを 天主てふ高さ支へし花の雲 同  天帝の機嫌のよしや雲雀また 同  散る花に戦争語る皺深く みす枝 はじめての大地歩む児風光る 同  春愁や黒が似合ふと云ひし人 雪   鳥帰る古墳の山を越えて行く 千代子 涅槃図の嘆きの蛇の舌赤し ただし 葱坊主蝶遊ばせて三畝ほど 高畑和子 天に紅地に錆色の落椿 英美子 鯉幟青空支配してゐたる 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月12日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
妻の座に一人占めなる春炬燵 世詩明 巣立鳥軒離れるに啼き叫ぶ 同  春水の池も小川も老舗宿 和子 風の中ゆつくり曲がる花筏 千加江 チューリップどんな空にも納まりて 同  吾が前にチューリップ揺れ百八色 昭子 児の描く屋根より高いチューリップ 啓子 春塵や踏台見ゆる古本屋 泰俊 義士祭や夕日の端に寺箒 同  黒髪の如くつらつら椿かな 雪
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月12日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
とりどりの緑の若葉森太る 三無 淡く透け風を誘ふ栃若葉 秋尚 初蝶は白でありけり水辺ゆく 和魚 地を漁る鳩嬉嬉として躑躅燃ゆ 三無 サッカーの声を散らして若葉風 怜   若芝を歩く足裏に気の満ちる 貴薫 東屋の池の水枯れ著莪の花 せつこ 傾きし午後の日集め山吹黄 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月13日 萩花鳥句会
秀吉を偲ぶ醍醐寺春の星 祐子 入寮す荷解きの窓春の月 美恵子 金の座の柔人生花吹雪く 健雄 明日発つ子に取り分ける桜鯛 陽子 春の月言葉少なに客送り ゆかり さくらさくら今は無人となりし駅 克弘
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月18日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
囀のやみておくつき土匂ふ ゆう子 鶯の声の滴の落つる句碑 三無 大空を抱きて長閑母の塔 亜栄子 法鼓鳴る終の牡丹のいよよなる 慶月 鯉幟岡本太郎の目がふたつ 千種 武士の如蘖ゆる城址かな 斉  
栗林圭魚選 特選句
年尾来よ陽子の墓へ虹架けて 俊樹 シーサーの睨みの門扉松の芯 亜栄子 初蝶来うすむらさきの影を追ひ 久   若楓威を持ちて守る年尾句碑 文英 葉の蔭に香り残して花通草 秋尚 春行くやおほよそおうてゐる時計 久   武士の如蘖ゆる城址かな 斉   枡形の山峡深く藤懸かる 亜栄子
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年4月22日 鯖江花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
うららかや女医に診られてゐる鼓動 一涓 グクと泣く鍬先に詫び畑を打つ 同  訪へば由利に左内に花吹雪 同  ことごとく合掌解きて紫木蓮 同  初蝶の黄のあまりにも濃ゆきこと 雪   雨上がり燕大きく十字切る 信子 天を指す指より甘茶光り落つ みす枝 化粧水顔を叩けば夏めきぬ 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
風光る帆を張る船は膨らみて 佐和 風光る紙飛行機の未知の空 久美子 胸もとへ闇はゆるやか花衣 佐和 風光る臍の緒ほろと母の手に 睦子 花屑を浮かべ流離の水となり 朝子 星月夜帰船に満ちし博多港 佐和 ゆるゆると緋鯉にゆらぐ春の雲 勝利 いつまでも止めぬ石蹴り風光る 久美子 花蘇枋久女多佳子のこゑ聞こゆ 美穂 風光り手押しポンプは水を吐く 洋子 空までも君と一緒の半仙戯 さえこ 炊出しに悪漢もゐて彼岸寺 喜和 かくれんぼいつかひとりの春の暮 ひとみ たちがみの天馬とまがふ仔馬生れ 千代
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
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kachoushi · 6 years
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11月の各地句会報
平成30年11月の特選句
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坊城俊樹選
栗林圭魚選岡田順子選
平成30年11月1日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
時雨るるも岸に白波三国港 英子 鉄塔の影長くして小春凪 都 秋灯下ワイングラスの脚細く 都 末枯や雲の流れもその一つ 都
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月10日 枡方句会 栗林圭魚選 特選句
頰杖の野仏の笑み七五三 美枝子 夕暮の小さき社の三の酉 亜栄子 酉の市手締の音頭少女なる 三無 石蕗の黄を辿り登るや教会堂 恭子 石蕗の花十字の墓標照らしを�� 恭子 小枝とて柊の花芳しき 清子 花石蕗の径黄帽子の動かざる 文英 新海苔の深緑なる艶炙る 三無 柊の花咲き初めし夜の庭 多美女 郁子熟るる閂太き寺の門 三無
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月12日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
芳しきヒマラヤ杉の落ち葉籠 貴薫 初時雨術後の肩に重かりき エイ子 小夜時雨ナースセンター灯りをり 和魚 鈍色の空に紅引く七五三 有有 錆深む廃校の門積む落葉 美貴 陶めきて淀みに沈む柿落葉 怜 終バスの窓の落書き小夜時雨 美貴 落葉して遠く初島見ゆる窓 怜
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
少年の赤き木の実の枝提げて 俊子 椋鳥のうねりの下や人も群れ 都 文化祭村の新米よく売���て 幸子 片時雨天へ溶けゆく虹架けて 佐代子 新蕎麦を伸ばす麺棒三尺余 幹也 鎌上ぐる力も失せて枯蟷螂 和子 子坊主の箒の中へ降る落葉 栄子 紅葉山点描の濃き紅もあり 悦子 身に入むや放棄の棚田増えてきし 史子 茅刈るや国定屋根を守る村 益恵 田を渡る風に背伸し稲を刈る 立子 長電話煮こぼれてゐる柚煮かな すみ子 黄泉へ飛ぶや蓮の実かそけき音 美智子
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月12日 芦原花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
蒲の穂に風の行方を見る朝 よみ子 爼はトントン短日雨となり 由紀子 鉄塔も山もかくして秋の霧 久美子
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月13日 萩花鳥句会
小春日や楊枝の先に源氏巻 牛子 掃くほどの金鈴子踏み藩祖廟 小勇 鯨墓静かにぬらし時雨けり 孝士 孫も来て土いぢりする小春かな 美恵子 胃カメラの冷んやりわが腑モニターに 健雄 両岸の桜紅葉遊覧船 圭三 蒼空に星屑のごと金鈴子 克弘
(順不同) ………………………………………………………………
平成30年11月15日 花鳥さざれ会
誰が吹ける篠笛なるや十三夜 越堂 観音の花入れにある落葉かな 雪子 沖荒れて摂社末社の神の旅 千代子 雪吊や青竹を剪り縄を切り 陽子 婚殿と漢字談議や夜長の灯 清女 神渡り給ふ大海波静か 松陰 白山をはなれし雲や神渡 匠 一木一草に及びし神渡し 雪 落葉掃く箒の音に古時計 天空
(順不同) ………………………………………………………………
平成30年11月16日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
白川郷庫裡も厠も冬構 令子 冬の窓ソーラー人形の孤独 登美子 長良川網打つ影や冬に入り みえこ 新蕎麦や大きくすする吾子の口 実加 落葉掃き労ひの声くれし人 みえこ 母老いて気にも留めない冬の蠅 登美子 古セーター青春の頁を手繰る 実加 民家の灯遠くにありし刈田道 紀子
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月16日 芦原花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
お茶会の賑つてゐる神の留守 よみ子 三毛猫の樹下に紛れて冬夕焼 よみ子 小春日や溝に工夫のヘルメット よみ子
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月17日 柏翠俳句記念会句会 坊城俊樹選 特選句
九頭竜は風音ばかり冬ざるる かづを 子等遊ぶ声に小春のありにけり かづを 右往左往して散りゆける紅葉かな かづを 無住寺の仏が守る神の留守 文子 十夜寺善男善女木魚打つ 文子 鵙の贄きざみ鳴きして姿見ず 冨美 丈高き物を残して大花野 冨美 切口の青竹匂ふ雪囲ひ たゞし 小春日や頰を伝ひし目の薬 富子
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月18日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
晩秋を仰ぐ太郎の母の塔 亜栄子 鉄路なき機関車ひとつ黄落す 千種 綿虫の山の日に青濃かりけり 政江 母の像両手を天へ冬日和 政江 年尾句碑なぞれば冬日やはらかし 政江
栗林圭魚選 特選句
坂道に枇杷の花満ち年尾句碑 眞理子 冬烏遠くに鳴きて母の塔 ラズリ 青白き粗朶の切口落葉降る 久子 綿虫の山の日に青濃かりけり 政江 山茶花や微笑を秘めし野の仏 ゆう子 年尾句碑なぞれば冬日やはらかし 政江 一輪の冬薔薇句碑に添ふやうに 淸流 狭む瀬にのりし枯葉の軽さかな 斉 野仏は欠け冬紅葉色擦れ ゆう子 柊の香の犇めきて水の音 文英
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月21日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
時雨るるや枯れゆくものに散るものに 越堂 風神の衝立たてて神の留守 嘉子 どの船も烏賊を干したる小春凪 嘉子 鷹匠の鷹に恭しく在りぬ 昭子 拍手のうつろにひびく神の留守 よしのり 鳶の輪を鷹つき抜けり日本海 松陰 垂直に垂れし鈴の緖神の留守 雪
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月21日 鯖江花鳥会句会
大杉を神と祀りし里の秋 雪 耳遠き人集まりて炉辺話 たゞし ときに火を走らせ落葉焚きにけり 信子
(順不同) ………………………………………………………………
平成30年11月25日 花鳥月例会 坊城俊樹選 特選句
綿虫の飛ぶや麗人見失ふ 千種 この杜の高きに果つる黄落期 順子 玄冬や石英ひかる石の橋 光子 大鳥居足場に消えて冬帝へ 野衣 冬の蠅玉砂利ひとつ舐めつくす 千種 短日の影神木の形して 千種 菊紋のひとひらづつの冬日燦 野衣 神池の鯉消え冬の水動く 小鳥 衛士そつと上を向きたる黄落期 小鳥 靖国の空青くして神還る 小鳥 冬麗や軍馬像の眼瞬かず ゆう子 枯れ蓮の枯れ尽さむとするところ 公世
栗林圭魚選 特選句
差し出さる菓子へ冷たき指の我 野衣 教会の鋭角美しく冬日和 野衣 濠端の朝日を浴びて木守柿 梓淵 神迎靖国の空晴れ渡る て津子 枯蓮の黙へ漣光り寄せ 政江 うら寂し桜紅葉の残りもの 淸流 石蕗の花安寧の日の日章旗 政江 大綿の消えて英国大使館 梓淵
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月28日〜29日 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
神鹿の何を見てゐる神の旅 寿美香 縁結ぶ神と主宰と冬ぬくし かおり 露けしやむすびの神にむすぶ絵馬 由紀子 神池の底にも浮世散紅葉 志津子 もみぢ濃きおかまどさんへ詣でけり 洋子 枯れきつて再会の木を忘れゐる 美穂
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月28日 太宰府天満宮吟行 坊城俊樹選 特選句
海原も苔も紅葉の散る下に 光子 大楠を揺らして神を送りけり 寿美香 神々のおほらかな恋竜の玉 美穂 散紅葉大海原の渦となり 光子 寺庭にお浄土紅葉散るは散るは 乱水 夕紅葉静寂に聞ゆ童うた 喜和 菅公の表参道クリスマス かおり 石庭の大海原を行く紅葉 光子
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年11月29日 水城太宰府政庁周辺吟行 坊城俊樹選 特選句
飛梅の冬芽ひしめき寿 豊子 都府楼の深空は無言鷹渡る かおり 都府楼の杜に寒禽ほしいまま ちぐさ 差しかけし傘には入らず片時雨 由紀子 小春日や年尾の句碑と仏たち 和子 神無月のつぺらぼうの都府楼址 洋子 都府楼の空の天辺大小春 和子 天平の梵鐘遠く黄落す 愛
(順不同 特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
平成30年10月8日 札幌花鳥会報 坊城俊樹選 特選句
蝦夷富士の流るる雲や天高し 独舟 人文字を変へる一笛天高し 独舟 満を持し落つる木の実の音色かな 和加 じつと見る爺のナイフや林檎むく 和加 葉鶏頭闘志あるかに風の中 登美 地震に揺れ風になびきて秋さうび 慧子 秋の蚊に魔王の如く囁かれ 修子 天涯の花野の径を一人行く 秀夫 月光に案山子の役目終る畑 親子 土手に咲く母病むころの曼殊沙華 みよ子 行く秋や深夜便よりディクミネ 清
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kachoushi · 3 years
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各地句会報
花鳥誌 令和3年6月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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  令和3年3月3日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
川原の景色を替へる猫柳 世詩明 一生を投げ打つ如く嚔かな 同  冴え返る明智神社の石仏 ただし 段ボール迷路の遊び春立ちぬ 同  夜な夜なに表はれくるや雪女 輝 一 楤の芽を楤の木撓め採りにけり 誠
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年3月4日 うづら三日の月 坊城俊樹選 特選句
三姉妹雛に劣らぬ顔に見ゆ 喜代子 水温み何か動めく川の底 都   古雛のどこかやつれて品のあり 同  雪音のそれらしき音春きざす 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年3月5日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
飾られてふと笑み給ふ女雛かな かづを 故山笑む遠嶺は未だ覚めずとも 同  三月の鳥語艶めく故山かな 同  雛の世に及びし人の世の流転 雪   春愁か考へてゐる横顔か 同  古鍬にくさび打ち込み春耕す 匠   石仏の頭巾乾ける四温かな 同  三月や恐竜の吠えまろやかに 数幸 三月やクレーンアームの手の捌き 同  雛の間をちらと横切る男の子かな 笑   足裏に春芽の息吹はたと受く 同  ランドセル春のジャンケン沈下橋 天空
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年3月6日 零の会 坊城俊樹選 特選句
ふつくらと日当たる乙女椿かな 小鳥 春の池ぐちやぐちやにスワンボートかな 和子 落つる時少しあからむ椿かな 三郎 ひたひたと岸をゆたかに春の水 悠紀子 春禽と真正面よりみつめ合ふ 久   切り株の洞に雨水の匂ひかな 要   マネキンの裸身をなぞりゆく春日 順子 子の櫂に春の一日を委ねをり 久   落椿白より赤の朽つる日に 和子
岡田順子選 特選句
銭洗ひ丁か半かよ春の水 きみよ 橋渡りしはとしあつ師かと亀の鳴く 瑠璃 水温むちよつと先行きや神田川 荘吉 白き空吸ひこむやうに鳥帰る 三郎 切り株に集め積まれし落椿 小鳥 古着屋の中東の香の春ショール きみよ 武蔵野や鳥の繋いでゆく木の芽 千種 鳥交るベンチに人はものを食ふ 和子 少女うつむき三椏の花嫌ふ 俊樹 スワンボートを漫画にしたる霞かな 同  ひらり乗る赤い自転車受験果つ 光子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年3月8日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
忠魂碑あたり群がる土筆かな 世詩明 鳥帰る網を繕ふ人の上を 清女 ものの芽に狭庭の月日始まれり 信子 古墳群一叢侘し筆の花 世詩明 春蘭の秘めたる恋の色に咲く 中山昭子 指先に血を騒がせて土筆摘む 世詩明 鞦韆に二人腰掛け黙の刻 中山昭子 雛納む鬢のほつれを撫で申し みす枝 涅槃会や朱唇輪袈裟の六地蔵 世詩明 無人駅それからの道つくづくし 同  雪吊の男結びの解き難し ただし 光秀の駆けたる道の犬ふぐり 清女
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年3月8日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
山焼くや旬日にして利休色 怜   医薬門くぐれば春の水の音 和魚 雨戸繰る芝生青むと思ふ朝 怜   ほし鱈の炙りて尾びれ香ばしき 貴薫 木洩れ日の影やはらかき菫草 三無 落日に白木蓮のかがやきて 迪子 信濃路に虚子の句碑ありこぶし咲く 同  水温む蛇口の水も柔らかし 史空 黄水仙声高らかに話す人 ます江 凜として月光纏ふ花ミモザ 同
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年3月9日 萩花鳥句会
リハビリに縮緬手作りお雛様 祐子 薄化粧の少女ミモザを抱へ来し 美恵子 精霊の海へ十年涅槃西風 健雄 言葉では感謝しきれぬ卒業生 吉之 鳥帰る水面に白き羽根二本 陽子 青き踏み幼児二人の鬼ごつこ ゆかり 稚児走る河津桜に染めし頰 明子 伐られたる古木の椿より新芽 克弘
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年3月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
島浦の遊具に少女初桜 栄子 黄水仙俯く顔を上げさせて 史子 馬酔木咲き石灯籠に垂れきし 同  番号で呼ばれる廊下春寒し 佐代子 面差しの失せし弁天蝶を呼び 都   湖を駆け来る綺羅よ春時雨 美智子 風紋の襞より雲雀転げたち 悦子 夕東風や遊覧船はドック入り すみ子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年3月13日 芦原花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
真昼間の一人の時間犬ふぐり よみ子 暁は春雪洞の灯をともし 依子 失せし物こつと現る春の風 よみ子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年3月13日 札幌花鳥会 坊城俊樹選 特選句
右打者のライト方向春一番 のりこ 春水をふはりとゆらす真鯉かな 清   サンバ打つ雪解雫や倉庫群 雅春 春待ちて大地踏みしめたき足裏 同  葬り終へゆつくり帰る雪解道 慧子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年3月16日 伊藤柏翠俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
椿落つ太郎冠者てふ良き名にて 雪   炬燵猫人の機嫌に拘らず 同  春満月西行偲ぶ野の明かり みす枝 万蕾の膨らむ音や山笑ふ 同  早春賦歌へば少女なりし頃 玲子 耳たぶに三月の風そよと來て 和子 枯れし木に炎のやうな牡丹の芽 英美子 春塵や嫁ぎゆきたる娘のピアノ 同  目鼻なき狐の嫁入り雛飾り ただし 橋梁の浦の越路や海おぼろ やす香 陽の落ちて瞑想深し座禅草 同  啓蟄や村を出て行く次男坊 世詩明 妻に云ふ言葉探しに青き踏む 同
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年3月17日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
菜の花の畑の先に滑り台 千加江 蒼天へ梅の一枝に花二輪 同  はだら雪見えて母娘にある禁句 清女 春立つと雀は軒に鳴きたがる 雪   美しく止りて春の鳥となる 同  夢に見し椿此の世の色ならず 同  春愁のこけしの一重瞼かな 同  案外な男のくれし桜貝 同
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
令和3年3月21日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
騎馬像や辛夷に太刀を振り下す 幸風 春雨に旧き薬舗の濃き匂ひ 貴薫 料峭の軒触れ合へる神仏 千種 春雨にけぶる漆喰薬舗かな 慶月 日のにほひまとひて雨の桜かな 幸子
栗林圭魚選 特選句
春雨に旧き薬舗の濃き匂ひ 貴薫 春光の逆立つ川を遡り 千種 茅葺きの春の嵐を吸収す 慶月 太古の樹春雨にぶく光り落つ ます江 せせらぎに木五倍子の花の鎖垂れ 三無 日のにほひまとひて雨の桜かな 幸子 里桜武蔵国原見晴らして 久子 武蔵野や仄かに香る木の芽雨 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
鯖江花鳥俳句會 坊城俊樹選 特選句
男ふとつらつら椿てふ一語 雪   竜の鬚こぼしてをりぬ竜の玉 同  地虫出づ大きな顔に覗かれて 同  老人と認めぬをとこ春の風 上嶋昭子 地に還るまでのくれなゐ落椿 同  土筆摘む老女の中に棲む少女 信子 金泥の胸の大きな寝釈迦かな ただし 春灯や女横顔エゴイズム 世詩明 立子忌や続く愛子忌女どち 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
枡形句会 栗林圭魚選 特選句
ままごとの客人として雛あられ ゆう子 芳墨の古寺の扁額弊辛夷 幸風 手のひらの小さき折雛緋色して 美枝子 鰐口の連打に応へ木の芽吹く 百合子 ぎつしりと野の香の詰まる蓬餅 三無 てんでんに句碑の梅訪ふ親しさよ 文英 大川の流れ華やぐ桜東風 秋尚 大空に向けて蹴り上ぐ半仙戯 幸風 陽子姉の形見の雛今年また 多美女 強東風に硝子戸軋むそば処 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
風を読む浜の男の子やいかのぼり 登美子 春来たる駅前恐竜空に啼く 令子 鳥群るるまだ白がちな春山に あけみ 紙雛のいつの間にやら数増えて 裕子 花雪洞の寄付の名俳句教室と 令子 晴の窓雪解雫の影流れ 紀子 山門へ敷き延ぶ筵草萌ゆる 令子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
山桜なべて浄土の風はらむ 佐和 春泥の古鏡のごとき光かな 睦子 温む水こはさぬやうに鷺下りる 孝子 失敬と手を上げ君は鳥雲に 美穂 散る花の音も気づかず彷徨ひて かおり 軒端まで流れてきたる冬銀河 佐和 鳥帰る記憶の道を迷ひけり 美穂 真つ直ぐに生きし柩よ梅真白 成子 解かれある上がり框の花衣 かおり 春泥を跳び損ひし子へ呪文 美穂 迷ひこむ少年老いし冬木立 佐和 天上のこゑ雲雀野は古墳趾 志津子 しばらくはシテの桜でありにけり 睦子 寄す波も消えゆく波も鳥曇 かおり 春の泥行きつ群れゆく鳥けもの 同
(順不同特選句のみ掲載) ……………………………………………………………… 
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