TEDにて
ケネス・ツーケル:ビックデータはより良いデータ?
(詳しくご覧になりたい場合は上記リンクからどうぞ)
自動運転車は始まったばかりです。ビックデータが牽引するテクノロジーやデザインの未来は、どうなるのでしょうか?ワクワクする科学的なトークで、ケネス・ツーケルは機械学習や人間の知識などの今後を検証します。
なお、ビックデータは教育や医療に限定してなら、多少は有効かもしれません。それ以外は、日本の場合、プライバシーの侵害です。
さらに、オープンデータは、特定のデータが、一切の著作権、特許などの制御メカニズムの制限なしで、全ての人��望むように再利用・再配布できるような形で、商用・非商用問わず、二次利用の形で入手できるべきであるというもの。
主な種類では、地図、遺伝子、さまざまな化合物、数学の数式や自然科学の数式、医療のデータやバイオテクノロジーサイエンスや生物などのテキスト以外の素材が考えられます。
科学技術は多くをもたらしてくれました。月面着陸、インターネット、ヒトゲノム配列の解析などです。
ビッグデータは重要で新しいものです。ビックデータについて考えてみると地球規模の課題について食糧問題や医療の供給。
エネルギーや電力の供給などに対処する唯一の方法であり。地球温暖化の影響でカリカリに焼けることがないようにデータを効率的に使うことが必要なのです。
ビッグデータの新しいモノとは何で重大事とは何でしょうか?その問いに答えるために情報がどのようなもので、過去には物理的にどう映っていたのかを考えてみましょう。
1908年。クレタ島で考古学者が粘土の円盤を発見しました。4.000年前の紀元前2,000年のものです。
この円盤には文字が書かれていますが、実質的には解読できません。完全に謎なのですが、4,000年前の情報がどんなものだったのかを言いたいのです。
これが社会システムが情報を保管して伝えたやり方です。さて、社会システムはそれほど進歩しませんでした。今でも、ディスクに情報を保管しています。
でも、以前よりもずっと大量の情報を保管できるのです。検索やコピーもより簡単です。共有や処理もより簡単です。情報を収集する時、かつては想像だにしなかった情報の再利用もできるのです。
この点においてデータは、固定的なモノから流動的なモノへ。変化のない静的なモノから変わりやすくダイナミックスなモノへと変化しているのです。いうなれば、情報には流動性があります。
クレタ島で発見された4,000年前の円盤は重く、情報はたくさん書かれていませんし、書き変えることはできないのです。
対照的にエドワード・スノーデンがアメリカの国家安全保障局から持ち出したファイルは、すべて指の爪サイズのUSBに保存でき、光速で共有できるのです。
データは膨れ上がっています。さて、今日の世界に大量のデータがあるのは、常時、情報を集めているモノを収集しているからです。
別の理由は、常に情報を含みつつもデータ形式にレンダレングされていないものを集めているからです。そして、データに置き換えます。例として、場所について考えてみましょう。
マーティン・ルターを例に挙げます。1,500年代にマーティン・ルターの居場所を知りたいのなら、常に彼の後をついて行き、羽ペンとインク入れを持ち運び居場所を記録しなければなりません。
でも?今日ではどうでしょうか?電気通信業者のデータペースにより居場所が分かります。常に、あなたの居場所に関する情報を記録するスプレッドシートやデータベースへの登録などがあります。
携帯電話を持っているならGPS機能があります。GPS機能のない機種でもあなたの情報を記録できるのです。つまり、場所はデータ化されるのです。
ビックデータの価値とは何でしょうか?考えてみてください。あなたは、より多くの情報を持っており、以前にはできなかったことができるのです。このコンセプトが生じる最も印象的な領域の1つが機械学習の領域です。
機械学習とは、人工知能に含まれコンピューター・サイエンスの1つです。その概念は、コンピューターに何をするかを教える代わりに単純に問題となるデータを投げるとコンピューターが独自に解明してくれるのです。
さて、ビックデータにも負の側面があります。私たちの暮らしを向上させますが意識しなければならない問題もあります。
最初の問題は「マイノリティ・リポート」のように、警察が目的のためにビックデータを使って予測に基づいて罰するかもしれないということです。
歯止めがないと、場所のデータだけで止まらず、個人レベルにまで下りていってしまうことです。
個人の高校の成績証明書のデータを使うのはどうでしょうか?失業しているのかどうか?信用情報。ネットサーフィンの行動パターン。夜更かしするのかどうかなどを使うかもしれません。
スモールデータの時代では、プライバシーが中心的な課題でしたが、ビックデータの時代では、課題は、自由意思や道徳基準の選択。人間の決断力や行為主体性などを保護することです。他にも大量にあります。
この技術の召使ではなく所有者にならなければなりません。ビックデータの時代は始まったばかりなので、正直言って今集められた全データに私たちはあまりうまく対処できていません。
国家システムだけの問題ではありません。
企業も多くのデータを集め乱用しています。うまく使えるようになるには、時間がかかります。原始人と火が直面していた課題にちょっと似ています。これはツールですが注意しないと私たちを焼いてしまうツールなのです。
何十年もかけて議論する必要があります。
ヨーロッパでの一般データ保護規則(GDPR)でも言うように・・・
年収の低い個人(中央値で600万円以下)から集めたデータほど金銭同様に経済的に高い価値を持ち、独占禁止法の適用対象にしていくことで、高価格にし抑止力を持たせるアイデア。
自分自身のデータを渡す個人も各社の取引先に当たりデータに関しては優越的地位の乱用を年収の低い個人(中央値で600万円以下)に行う場合は厳しく適用していく。
キャシーオニールによると・・・
思考実験をしてみましょう。私は、思考実験が好きなので、人種を完全に隔離した社会システムがあるとします。どの街でも、どの地域でも、人種は隔離され、犯罪を見つけるために警察を送り込むのは、マイノリティーが住む地域だけです。すると、逮捕者のデータは、かなり偏ったものになるでしょう。
さらに、データサイエンティストを探してきて、報酬を払い、次の犯罪が起こる場所を予測させたらどうなるでしょう?
あら不思議。マイノリティーの地域になります。あるいは、次に犯罪を犯しそうな人を予測させたら?あらら不思議ですね。マイノリティーでしょう。データサイエンティストは、モデルの素晴らしさと正確さを自慢するでしょうし、確かにその通りでしょう。
さて、現実は、そこまで極端ではありませんが、実際に、多くの市や町で深刻な人種差別があり、警察の活動や司法制度のデータが偏っているという証拠が揃っています。実際に、ホットスポットと呼ばれる犯罪多発地域を予測しています。さらには、個々、人の犯罪傾向を実際に予測しています。
ここでおかしな現象が生じています。どうなっているのでしょう?これは「データ・ロンダリング」です。このプロセスを通して、技術者がブラックボックスのようなアルゴリズムの内部に醜い現実を隠し「客観的」とか「能力主義」と称しているんです。秘密にされている重要で破壊的なアルゴリズムを私はこんな名前で呼んでいます「大量破壊数学」です。
民間企業が、私的なアルゴリズムを私的な目的で作っているんです。そのため、影響力を持つアルゴリズムは私的な権力です。
解決策は、データ完全性チェックです。データ完全性チェックとは、ファクト(事実)を直視するという意味になるでしょう。データのファクトチェックです!
これをアルゴリズム監査と呼んでいます。
最後に、マクロ経済学の大目標には、「長期的に生活水準を高め、今日のこども達がおじいさん達よりも良い暮らしを送れるようにする!!」という目標があります。
経済成長を「パーセント」という指数関数的な指標で数値化します。経験則的に毎年、経済成長2%くらいで巡航速度にて上昇すれば良いことがわかっています。
たった、経済成長2%のように見えますが、毎年、積み重ねるとムーアの法則みたいに膨大な量になって行きます。
また、経済学は、大前提としてある個人、法人モデルを扱う。それは、身勝手で自己中心的な欲望を満たしていく人間の部類としては最低クズというハードルの高い個人、法人。
たとえば、生産性、利益という欲だけを追求する人間。地球を救うという欲だけを追求する人間。利益と真逆なぐうたらしたい時間を最大化したいという欲を追求する人間。などの最低生活を保護、向上しつつお金の循環を通じて個人同士の相互作用も考えていく(また、憎しみの連鎖も解消する)
多様性はあるが、欲という側面では皆平等。つまり、利益以外からも解決策を見出しお金儲けだけの話だけではないのが経済学(カントの「永遠平和のために」思想も含めて国家や権力者は透明性を究極にして個人のプライバシーも考慮)
(個人的なアイデア)
データに向き合う別の方法として
「Appleでサインイン」
これに切り替える方法!!
Facebook、Google、Twitter、Lineのアカウント(日本他企業含む)を使って、ワンクリックでサインインできるようになる画面がよく登場します。
このソーシャルサインイン(ソーシャルログイン)方式にAppleが非常に魅力的な提案を2019の秋からしています。
Introducing Sign In with Apple - WWDC 2019 - Videos - Apple Developer
これはアプリなどからサインインする際に、ソーシャルメディアに登録しているアカウントの情報を自動的にサードパーティのサイトやサービスに提供してしまうことをコントロールする方法です。
「Appleでサインイン」(Sign In with Apple)ボタンは、アプリへの実装が義務化されて数年かけて普及してます。2021年時点ですべてに適用済み。
こちらは、Apple IDに登録しているアカウント情報からサービス側に提供する形にしてします。
使い方の簡単な説明は以下から
まずソーシャルサインインボタンから「Appleでサインイン」を選ぶ。
次に、名前とメールアドレスを登録する。ここで「メールを非公開」を選ぶと、Apple ID内に登録してるメールアドレスを公開せず、転送用のアドレスがサービス側に登録される。
最後にApple IDのパスワードを入力して登録を完了する。
次回からワンクリックで「Appleで続ける」ボタンから再ログインできるようになる。
転送用のアドレスは「設定」→「Apple ID」→「パスワードとセキュリティ」→「Appleでサインイン」から確認可能です。
他のソーシャルメディアアカウント情報から切り替えると、万が一、漏洩してもメールアドレスは非公開で保護できます。
そして
Appleは、プライバシー保護を目的とした「AppTrackingTransparency(ATT、Appのトラッキングの透明性)」を導入
高度なセキュリティーや高いプライバシーに投資を積極的に行います。
Appleはこれらの対策として提案した内容がこれ。
データミニマイゼーション!
取得する情報・できる情報を最小化する。データが取れなければ、守る必要も漏れる可能性もない!
オンデバイスでのインテリジェンス!
スマートフォンなど機器のなかで処理を完結させることでプライバシーにかかわる部分を端末内に留める。
クラウドにアップロードして、照会プロセスを最小化することで、漏洩や不適切な保存の可能性を排除する!
高い透明性とコントロール!
どんなデータを集め、送っているのか、どう使うのかを明示し、ユーザーが理解したうえで自身で選んだり変更できるようにする!
セキュリティプロテクション!
機器上などで、どうしても発生するデータに関しては指紋認証や顔認証などを使ったセキュリティ技術で、漏えいがないようにしっかりと守るセキュリティプロテクション!
機器上などで、どうしても発生するデータに関しては指紋認証や顔認証などを使ったセキュリティ技術で、漏えいがないようにしっかりと守る
202012のApp Storeプライバシー情報セクションは、3つ目「透明性とコントロール」の取り組み。
位置情報などは自己申告だが、アップルとユーザーを欺いて不適切な利用をしていることが分かればガイドラインと契約違反になり、App Storeからの削除や開発者登録の抹消もありえます。
このプライバシー情報の開示は12月8日から、iOS、iPadOS、macOS、tvOSなどOSを問わず、新アプリの審査時または更新時に提出が求められるようになっています。
続いて
iOSのメッセージングアプリ「iMessage」に量子暗号を用いた「PQ3」を導入する
と2024年3月に発表し、年内にも全世界に展開するかもしれません。
量子暗号の先端を走る日本が行政府に先行導入すればよかったが、さすがAppleです!!
マイナポータルは中身が行政府に読み取られ悪用される危険性が高い?
かもしれないので(利用規約にもしっかり書いてあります)慎重に様子を見ていましたが改善されるような発表は見えない。
改善案として申請や令状を取らないと本人以外はマイナポータルの中身を見ることができないとか・・・
中の人がアクセスした履歴を記録しておくとかなどの対応をAppleを見習って欲しいものです。
Appleによると
「PQ3」という量子コンピューター対応の暗号プロトコルにより、高度に洗練された量子攻撃にも耐えうるとのことです。
つまり、最先端の量子コンピューターでも解読できなくなります。
妥協弾力のある暗号化と高度に洗練された量子攻撃に対する広範な防御を備えた「PQ3」は
Appleが定義するレベル3セキュリティと呼ばれるものに到達する最初のメッセージングプロトコル
であり、他のすべての広く展開されているメッセージングアプリを上回るプロトコル保護を提供します。
私たちの知る限り「PQ3」は世界のあらゆる大規模なメッセージングプロトコルの中で最も強力なセキュリティ特性を持っています。
でも、量子コンピューターはまだ存在しないのに、なぜこのことが問題になるのか?
Appleは「前提は単純で、そのような攻撃者が暗号化されたデータを今のうちに大量に収集しておいて、将来、解読するために保管しておく可能性があるから」と説明している。
「今は、データを解読できなくても、解読できる量子コンピューターが将来手に入るまで保管しておくことはできる」
Appleは、今やりとりされているiMessageのやり取りを、将来のコンピューターや攻撃者、特に「Harvest Now, Decrypt Later」(今から収集しておき、後で復号する)と呼ばれる攻撃シナリオから守れるようにしようとしている。
このシナリオは、量子コンピューターなどのデータを解読できるだけの高度なデバイスが作られるまで、何年もデータを保管しておくというものだ。
量子コンピューターの近年の進歩から現実的に可能になり始めているためです。
Appleの説明では、メッセージングサービスの中でレベル3の「ポスト量子安全性」を持つものは2024年時点ではiMessageのみになります。
また「ポスト量子安全性」とは、将来、登場する量子コンピューターを使った暗号の解読にも耐えられることを意味します。
「PQ3」は、各デバイスがiPhoneデバイス内で生成し、iMessage登録の一環としてAppleサーバーに送信する公開鍵のセットに新しい量子暗号化キーも組み合わせて導入します。
この仕組みは、送信者デバイスは、受信者がオフラインであっても、受信者の公開鍵を取得して、最初の鍵確立時と鍵の再構築時の双方に量子暗号化キーが生成されるようになります。
「PQ3」は、2024年3月に公開されるiOS17.4、iPadOS17.4、macOS 14.4、watchOS10.4からiMessageで順次展開されていき、今年後半にはiMessageのすべての暗号プロトコルが置き換えられます。
最後に
背景として米国国立標準技術研究所(NIST: National Institute of Standards and Technology)は、既存の暗号を短時間に解読可能な量子コンピュータが実用化されると想定し
量子コンピュータでも解読困難な「耐量子計算機暗号(PQC)」の標準化を進めています。
さらに・・・
勝手に警察が拡大解釈してしまうと・・・
こんな恐ろしいことが・・・
日本の警察は、2020年3月から防犯カメラやSNSの画像を顔認証システムで本人の許可なく照合していた!
憲法に完全違反!即刻停止措置をみんなで要求せよ。
日本の警察の悪用が酷いので、EUに合わせてストーカーアルゴリズムを規制しろ!
2021年に、EU、警察への初のAI規制案!公共空間の顔認証「原則禁止」
EUのAI規制は、リスクを四段階に分類制限!
前提として、公人、有名人、俳優、著名人は知名度と言う概念での優越的地位の乱用を防止するため徹底追跡可能にしておくこと。
禁止項目は、行動や人格的特性に基づき警察や政府が弱者個人の信頼性をスコア化や法執行を目的とする公共空間での顔認識を含む生体認証。
人間の行動、意思決定、または意見を有害な方向へ操るために設計されたAIシステム(ダークパターン設計のUIなど)も禁止対象にしている。
禁止対象の根拠は「人工知能が、特別に有害な新たな操作的、中毒的、社会統制的、および、無差別な監視プラクティスを生みかねないことは、一般に認知されるべきことである」
「これらのプラクティスは、人間の尊厳、自由、民主主義、法の支配、そして、基本的人権の尊重を重視する基準と矛盾しており、禁止されるべきである」
具体的には、人とやり取りをする目的で使用されるAIシステム(ボイスAI、チャットボットなど)
さらには、画像、オーディオ、または動画コンテンツを生成または操作する目的で使用されるAIシステム(ディープフェイク)について「透明性確保のための調和的な規定」を提案している。
高リスク項目は、法人の採用活動での利用など違反は刑事罰の罰金を売上高にかける。
など。他、多数で警察の規制を強化しています。
人間自体を、追跡すると基本的人権からプライバシーの侵害やセキュリティ上の問題から絶対に不可能です!!
これは、基本的人権がないと権力者が悪逆非道の限りを尽くしてしまうことは、先の第二次大戦で白日の元にさらされたのは、記憶に新しいことです。
マンハッタン計画、ヒットラーのテクノロジー、拷問、奴隷や人体実験など、権力者の思うままに任せるとこうなるという真の男女平等弱肉強食の究極が白日の元にさらされ、戦争の負の遺産に。
基本的人権がないがしろにされたことを教訓に、人権に対して厳しく権力者を監視したり、カントの思想などを源流にした国際連合を創設します。他にもあります。
参考として、フランスの哲学者であり啓蒙思想家のモンテスキュー。
法の原理として、三権分立論を提唱。フランス革命(立憲君主制とは異なり王様は処刑されました)の理念やアメリカ独立の思想に大きな影響を与え、現代においても、言葉の定義を決めつつも、再解釈されながら議論されています。
また、ジョン・ロックの「統治二論」を基礎において修正を加え、権力分立、法の規範、奴隷制度の廃止や市民的自由の保持などの提案もしています。現代では権力分立のアイデアは「トリレンマ」「ゲーム理論の均衡状態」に似ています。概念を数値化できるかもしれません。
権限が分離されていても、各権力を実行する人間が、同一人物であれば権力分立は意味をなさない。
そのため、権力の分離の一つの要素として兼職の禁止が挙げられるが、その他、法律上、日本ではどうなのか?権力者を縛るための日本国憲法側には書いてない。
モンテスキューの「法の精神」からのバランス上、法律側なのか不明。
立法と行政の関係においては、アメリカ型の限定的な独裁である大統領制において、相互の抑制均衡を重視し、厳格な分立をとるのに対し、イギリス、日本などの議院内閣制は、相互の協働関係を重んじるため、ゆるい権力分立にとどまる。
アメリカ型の限定的な独裁である大統領制は、立法権と行政権を厳格に独立させるもので、行政権をつかさどる大統領選挙と立法権をつかさどる議員選挙を、別々に選出する政治制度となっている。
通常の「プロトコル」の定義は、独占禁止法の優越的地位の乱用、基本的人権の尊重に深く関わってきます。
通信に特化した通信プロトコルとは違います。言葉に特化し��言葉プロトコル。またの名を、言論の自由ともいわれますがこれとも異なります。
基本的人権がないと科学者やエンジニア(ここでは、サイエンスプロトコルと定義します)はどうなるかは、歴史が証明している!独占独裁君主に口封じに形を変えつつ処刑される!確実に!これでも人権に無関係といえますか?だから、マスメディアも含めた権力者を厳しくファクトチェックし説明責任、透明性を高めて監視しないといけない。
今回、未知のウイルス。新型コロナウイルス2020では、様々な概念が重なり合うため、均衡点を決断できるのは、人間の倫理観が最も重要!人間の概念を数値化できないストーカー人工知能では、不可能!と判明した。
複数概念をざっくりと瞬時に数値化できるのは、人間の倫理観だ。
そして、サンデルやマルクスガブリエルも言うように、哲学の善悪を判別し、格差原理、功利主義も考慮した善性側に相対的にでかい影響力を持たせるため、弱者側の視点で、XAI(説明可能なAI)、インターネット、マスメディアができるだけ透明な議論をしてコンピューターのアルゴリズムをファクトチェックする必要があります。
<おすすめサイト>
iOSのメッセージングアプリ「iMessage」に量子暗号を用いた「PQ3」を導入すると発表!!
ケイド・クロックフォード:顔認証による大衆監視について知る必要のあること!
キャシー・オニール: ビッグデータを盲信する時代に終止符を!
ゼイナップ・トゥフェックチー:機械知能は人間の倫理性をより重要なものにする!
ホルム・ミスタッド:テクノロジー企業があなたを欺いてデータとプライバシーを放棄させる手口
マルグレーテ・ベステアー: 大企業による市場独占の新たな時代
データ配当金の概念から閃いた個人的なアイデア2019
グレン・グリーンウォルド: なぜプライバシーは重要なのか!
スーザン・エトリンガー: ビッグデータにどう向き合うべきか!
クリストファー・ソゴイアン: あなたが使うスマートフォンは人権問題である!
<提供>
東京都北区神谷の高橋クリーニングプレゼント
独自サービス展開中!服の高橋クリーニング店は職人による手仕上げ。お手頃50ですよ。往復送料、曲Song購入可。詳細は、今すぐ電話。東京都内限定。北部、東部、渋谷区周囲。地元周辺区もOKです
東京都北区神谷高橋クリーニング店Facebook版
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TEDにて
マロリー・ソルドナー: 大企業のデータで世界の飢餓に終止符を打てるかもしれない?
(詳しくご覧になりたい場合は上記リンクからどうぞ)
大企業は、人道的な問題を解消するためお金を提供したかもしれませんが、もっと有益なものも提供できるのです。
つまり、データです。マロリー・ソルドナーは、民間企業が難民危機から世界の飢餓までの大きな問題を、未利用のデータや意思決定法を研究する科学者を提供することによって、どれほど進展させることができるのかを話しました。
あなたの大企業も何かに貢献できるかもしれません。
2010年6月。私は、イタリア、ローマに初めて降り立ちました。観光目的ではなく世界の飢餓を解決するためです。
そうです。当時の私は博士課程の25歳。大学で開発した試作品のツールを持ち込み、世界食糧計画をサポートし、飢餓をなくすつもりでしたが、プロジェクト終了。打ちのめされました。
データを使用すると人命が救えることが、ローマでの体験から分かりました。まあ、最初の目論見とは違いますが、最終的に辿り着きました。どんな状況か説明します。50万人の朝食、昼食、夕食を用意するとします。一定の予算しかありません。月額6.7億円。
皆さんはどうしますか?最良の方策とは何ですか?米、小麦、ひよこ豆、油を買うのが良いでしょうか?どれだけ買いましょうか?簡単そうですが、そうでもありません。30種の食材から5品を選ぶ必要があります。既に、14万以上の組合せがあります。
選んだ食材をいくらで買うのか。どこで入手するのか。どこに保存するのか。運搬の時間などを決める必要があります。すべての運搬ルートも調べる必要があります。すると選択肢は9億になります。1秒間で1つの選択肢を検討しても、28年以上かかります。
9億の選択肢。
そのため、意思決定者が数日のうちに9億の選択肢から不必要なものを除外できるツールを作りました。これは大成功を収めました。イラクでの活動では、コストを17%削減し、8万人多く食料を届けられました。
データの使用と複雑系のモデル化のおかげですが、業績が私たちだけに帰するものではありません。ローマで一緒に働いた部署は特徴がありました。共同事業を確信していました。大学を引き込みました。法人を引き込みました。世界の飢餓のような大きな問題で真に変革を望むなら全員で話し合う必要があります。
人道主義団体のデータに精通した人が、先導し、大学や各国政府からの適切な取り組みを組織化してもらうことが必要です。ただ、十分に活用できていなかったグループがあります。当ててみてください。
法人です。
法人には世界の大問題を解消する大きな役割があります。私は民間企業に所属して2年になります。法人に何ができ、何をしようとしないのかを見てきました。その隔たりを埋められる方法は3つ。データの提供、意思決定科学者の提供、新しいデータソースを集める技術の提供なのです。
これは、データの慈善活動です。それが法人の社会的責任の未来像です。その上、ビジネスとしても正解です。
今日の法人は膨大なデータを集めています。最初に法人ができることが、そのデータを提供することなのです。既に提供している法人もあります。例えば、大手通信会社。セネガルや象牙海岸でデータを公開にしました。研究者は、携帯電話がどの基地局と繋がっているというパターンから人がどこを旅行しているか把握できることが分かりました。
そのデータから、例えば、マラリア感染拡大地域を予測できるのです。また、革新的な衛星通信会社の例では、データを公開し提供しました。そのデータで干ばつによる食料生産への影響を基本的人権を尊重し追跡しました。それを使って、危機が起こる前に援助資金調達を始められるのです。
幸先の良いスタートです。
しまい込まれた法人データに重要な洞察が含まれています。そうです。慎重にならなくてはいけません。例えば、データの非特定化でプライバシーへの懸念に配慮する必要があります。
しかし、たとえ水門を開放してすべての法人がNGO、大学、人道主義団体にデータを提供したとしても、人道主義的な目的のため、データの最大限の影響力を利用するには十分ではないでしょう。
なぜでしょうか?データから洞察を引き出すには意思決定科学の研究者や基本的人権が重要だからです。
意思決定科学の研究者とは、私のような人です。データを受け取り整理して、変換し、手元の事業課題に対して、有効なアルゴリズムで処理をします。人道支援の世界では、意思決定科学の研究者がとても少ないのです。大部分が法人で働いています。
つまり、これが法人が必要とされる2つ目の理由です。データの提供に加え、意思決定科学の研究者の提供も必要なのです。
法人は言うでしょう「ああ!法人から意思決定科学の研究者を取り上げないで、1分1秒だって無駄にできないのです」でも、方法はあるのです。もし、法人が意思決定科学の研究者の時間の一部を提供するつもりだったら。
例えば、5年間くらいの長期に渡り、その時間を広げるのが実際には理に適っていることと思います。これは1月あたり2, 3時間程度かもしれず、法人が損することはほとんどありません。
真に重要なのは、長期的なパートナーシップです。長期的なパートナーシップにより、関係が築けデータ内容が分かり、真にデータを理解し、人道主義団体が直面しているニーズや課題を理解し始めるのです。ローマの世界食糧計画では、5年かかりました。
5年です。
最初の3年間は、段取りや準備期間でした。イラクでの活動や他の国々でツールを改良し実行した後には2年ありました。それは、データを使って事業運営を改善するのに現実味のない日程計画だとは思いません。投資であり、忍耐を求められますが、数式化できれば、得られる成果は明白で高速に処理できるようになります。私たちの場合は、さらに何万人も追加して食料供給ができました。
だから、データの提供や意思決定科学の研究者の提供をお願いするのです。そして、実は法人が支援できる3つ目の方法は、新しいデータソースを獲得するため技術の提供です。基本的人権に配慮、データ化されていないものがたくさんあります。現時点では、シリア難民がギリシアに流れ込んでいて国連難民機関は手が一杯なのです。
現在、人々を紙とペンで追跡しています。
ということは、母親と子供5人が難民キャンプにやって来ても、本部では基本的にその時点のことが分からないのです。民間企業との共同研究のおかげで数週間後にはすべてが様変わりします。私が働く物流会社から提供された荷物追跡技術を基に新しいシステムを作っています。
この新しいシステムでデータを基本的人権に配慮して追跡します。母親と子供が難民キャンプにやって来たとたんに分かるのです。
さらに、今月や翌月に配給が足りているかどうかも分かるのです。情報を見える化すると効率が生まれます。法人にとっては、重要なデータを集めるために技術を使うことは日常生活の糧のようなものです。これを何年も継続して事業の効率が大幅にアップしたのです。想像してみてください。お気に入りの飲料会社が棚卸しをしてみるまで、ボトルがいくつ棚にあるのか知らないなんてばかげています。データは比較的、良い決定の原動力の一つです。
さて、あなたが法人の代表で実用主義者であり、理想主義者だけではないとすると心の中でこう思っているかもしれません。
「実にすばらしいよマロリー。でも、どうして参加すべきかね?」良い宣伝になるということ以上に人道支援は、約2.6兆円のセクターで発展途上国で暮らす50億人以上が新たな顧客となるかもしれません。その上、データ提供をする法人は、データに隠された新たな意味を見出すことでしょう。
あるクレジットカード会社を例に取ると協働センターを開設し、大学、NGO、各国行政府で中心的役割を果たしています。クレジットカード利用の情報を見てインドの世帯の暮らし方、働き方、収入や支出を洞察します。人道支援の世界にとっては、人々を貧困から脱却させる方法について情報を提供するのです。
しかし、法人にとっては、インドの現在の顧客や潜在顧客の洞察材料を与えてくれるのです。あらゆる点で勝利します。さて、私がデータでの慈善事業で期待していることは、データの提供、意思決定科学の研究者や技術の提供です。
法人で働くことを選んだ私のように若い専門家にとって意味があるのです。研究によると次世代の労働者は、仕事を通して大きな影響力を与えたいと思っています。状況を改善したいのです。だから、データでの慈善事業を通じ、法人は実際に意志決定科学の研究者に仕事を与え定着を図ることが可能になります。需要の高い専門職にとって大事なことです。
データでの慈善活動は、ビジネス上の意義があり、人道主義の世界にも変革をもたらせるのです。大規模な人道的活動のすべての側面において私たちが計画と物流を協調させるなら、さらに何十万人も多くの人々に衣食住を与えることができるのです。そして変革を起こすために法人は力を出して企業に可能なある役割を果たす必要があるのです。
皆さんは「思考の糧」という言葉をご存じでしょう。これは文字通り「糧の思考」なのです。ようやく時を得た良いアイデアとなりました。
ヨーロッパでの一般データ保護規則(GDPR)でも言うように・・・
年収の低い個人(中央値で600万円以下)から集めたデータほど金銭同様に経済的に高い価値を持ち、独占禁止法の適用対象にしていくことで、高価格にし抑止力を持たせるアイデア。
自分自身のデータを渡す個人も各社の取引先に当たりデータに関しては優越的地位の乱用を年収の低い個人(中央値で600万円以下)に行う場合は厳しく適用していく。
情報技術の発展とインターネットで大企業の何十万、何百万単位から、facebook、Apple、Amazom、Google、Microsoftなどで数億単位で共同作業ができるようになりました。
現在、プラットフォーマー企業と呼ばれる法人は先進国の国家単位レベルに近づき欧米、日本、アジア、インドが協調すれば、中国の人口をも超越するかもしれません。
法人は潰れることを前提にした有限責任! 慈愛や基本的人権を根本とした社会システムの中の保護されなければならない小企業や個人レベルでは、違いますが・・・
なお、ビックデータは教育や医療に限定してなら、多少は有効かもしれません。それ以外は、日本の場合、プライバシーの侵害です。
通信の秘匿性とプライバシーの侵害対策として、匿名化処理の強化と強力な暗号化は絶対必要です!
さらに、オープンデータは、特定のデータが、一切の著作権、特許などの制御メカニズムの制限なしで、全ての人が
望むように再利用・再配布できるような形で、商用・非商用問わず、二次利用の形で入手できるべきであるというもの。
主な種類では、地図、遺伝子、さまざまな化合物、数学の数式や自然科学の数式、医療のデータやバイオテクノロジー
サイエンスや生物などのテキスト以外の素材が考えられます。
こういう新産業でイノベーションが起きるとゲーム理論でいうところのプラスサムになるから既存の産業との
戦争に発展しないため共存関係を構築できるメリットがあります。デフレスパイラルも予防できる?人間の限界を超えてることが前提だけど
しかし、独占禁止法を軽視してるわけではありませんので、既存産業の戦争を避けるため新産業だけの限定で限界を超えてください!
最後に、マクロ経済学の大目標には、「長期的に生活水準を高め、今日のこども達がおじいさん達よりも良い暮らしを送れるようにする!!」という目標があります。
経済成長を「パーセント」という指数関数的な指標で数値化します。経験則的に毎年、経済成長2%くらいで巡航速度にて上昇すれば良いことがわかっています。
たった、経済成長2%のように見えますが、毎年、積み重ねるとムーアの法則みたいに膨大な量になって行きます。
また、経済学は、大前提としてある個人、法人モデルを扱う。それは、身勝手で自己中心的な欲望を満たしていく人間の部類としては最低クズというハードルの高い個人、法人。
たとえば、生産性、利益という欲だけを追求する人間。地球を救うという欲だけを追求する人間。利益と真逆なぐうたらしたい時間を最大化したいという欲を追求する人間。などの最低生活を保護、向上しつつお金の循環を通じて個人同士の相互作用も考えていく(また、憎しみの連鎖も解消する)
多様性はあるが、欲という側面では皆平等。つまり、利益以外からも解決策を見出しお金儲けだけの話だけではないのが経済学(カントの「永遠平和のために」思想も含めて国家や権力者は透明性を究極にして個人のプライバシーも考慮)
(個人的なアイデア)
さらに・・・
勝手に警察が拡大解釈してしまうと・・・
こんな恐ろしいことが・・・
日本の警察は、2020年3月から防犯カメラやSNSの画像を顔認証システムで本人の許可なく照合していた!
憲法に完全違反!即刻停止措置をみんなで要求せよ。
日本の警察の悪用が酷いので、EUに合わせてストーカーアルゴリズムを規制しろ!
2021年に、EU、警察への初のAI規制案!公共空間の顔認証「原則禁止」
EUのAI規制は、リスクを四段階に分類制限!
禁止項目は、行動や人格的特性に基づき警察や政府が弱者個人の信頼性をスコア化や法執行を目的とする公共空間での顔認識を含む生体認証。
人間の行動、意思決定、または意見を有害な方向へ操るために設計されたAIシステム(ダークパターン設計のUIなど)も禁止対象にしている。
禁止対象の根拠は「人工知能が、特別に有害な��たな操作的、中毒的、社会統制的、および、無差別な監視プラクティスを生みかねないことは、一般に認知されるべきことである」
「これらのプラクティスは、人間の尊厳、自由、民主主義、法の支配、そして、基本的人権の尊重を重視する基準と矛盾しており、禁止されるべきである」
具体的には、人とやり取りをする目的で使用されるAIシステム(ボイスAI、チャットボットなど)
さらには、画像、オーディオ、または動画コンテンツを生成または操作する目的で使用されるAIシステム(ディープフェイク)について「透明性確保のための調和的な規定」を提案している。
高リスク項目は、法人の採用活動での利用など違反は刑事罰の罰金を売上高にかける。
など。他、多数で警察の規制を強化しています。
前提として、公人、有名人、俳優、著名人は知名度と言う概念での優越的地位の乱用を防止するため徹底追跡可能にしておくこと。
人間自体を、追跡すると基本的人権からプライバシーの侵害やセキュリティ上の問題から絶対に不可能です!!
これは、基本的人権がないと権力者が悪逆非道の限りを尽くしてしまうことは、先の第二次大戦で白日の元にさらされたのは、記憶に新しいことです。
マンハッタン計画、ヒットラーのテクノロジー、拷問、奴隷や人体実験など、権力者の思うままに任せるとこうなるという真の男女平等弱肉強食の究極が白日の元にさらされ、戦争の負の遺産に。
基本的人権がないがしろにされたことを教訓に、人権に対して厳しく権力者を監視したり、カントの思想などを源流にした国際連合を創設します。他にもあります。
参考として、フランスの哲学者であり啓蒙思想家のモンテスキュー。
法の原理として、三権分立論を提唱。フランス革命(立憲君主制とは異なり王様は処刑されました)の理念やアメリカ独立の思想に大きな影響を与え、現代においても、言葉の定義を決めつつも、再解釈されながら議論されています。
また、ジョン・ロックの「統治二論」を基礎において修正を加え、権力分立、法の規範、奴隷制度の廃止や市民的自由の保持などの提案もしています。現代では権力分立のアイデアは「トリレンマ」「ゲーム理論の均衡状態」に似ています。概念を数値化できるかもしれません。
権限が分離されていても、各権力を実行する人間が、同一人物であれば権力分立は意味をなさない。
そのため、権力の分離の一つの要素として兼職の禁止が挙げられるが、その他、法律上、日本ではどうなのか?権力者を縛るための日本国憲法側には書いてない。
モンテスキューの「法の精神」からのバランス上、法律側なのか不明。
立法と行政の関係においては、アメリカ型の限定的な独裁である大統領制において、相互の抑制均衡を重視し、厳格な分立をとるのに対し、イギリス、日本などの議院内閣制は、相互の協働関係を重んじるため、ゆるい権力分立にとどまる。
アメリカ型の限定的な独裁である大統領制は、立法権と行政権を厳格に独立させるもので、行政権をつかさどる大統領選挙と立法権をつかさどる議員選挙を、別々に選出する政治制度となっている。
通常の「プロトコル」の定義は、独占禁止法の優越的地位の乱用、基本的人権の尊重に深く関わってきます。
通信に特化した通信プロトコルとは違います。言葉に特化した言葉プロトコル。またの名を、言論の自由ともいわれますがこれとも異なります。
基本的人権がないと科学者やエンジニア(ここでは、サイエンスプロトコルと定義します)はどうなるかは、歴史が証明している!独占独裁君主に口封じに形を変えつつ処刑される!確実に!これでも人権に無関係といえますか?だから、マスメディアも含めた権力者を厳しくファクトチェックし説明責任、透明性を高めて監視しないといけない。
今回、未知のウイルス。新型コロナウイルス2020では、様々な概念が重なり合うため、均衡点を決断できるのは、人間の倫理観が最も重要!人間の概念を数値化できないストーカー人工知能では、不可能!と判明した。
複数概念をざっくりと瞬時に数値化できるのは、人間の倫理観だ。
そして、サンデルやマルクスガブリエルも言うように、哲学の善悪を判別し、格差原理、功利主義も考慮した善性側に相対的にでかい影響力を持たせるため、弱者側の視点で、XAI(説明可能なAI)、インターネット、マスメディアができるだけ透明な議論をしてコンピューターのアルゴリズムをファクトチェックする必要があります。
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長身女性 : 短編集
本当はもっと長々とした小説の一部だったけど、それはやめにしてこうして短編として残しておきます。
基本的にM な方向けですが、長身女性が好きでなくっても、頭の良い女の子に興奮するタイプの人は笑顔になれます
ジーンズ
幼馴染宅。夕食後。あいつの部屋。あいつの匂い。あいつのジーンズ。あいつのジーパン。
俺は今、そのジーンズの前で佇んでいる。遠目から見る限り何の変哲もないそれは、ベッドの上に乱雑に脱ぎ捨てられており、実際にさきほど、
「お風呂行ってくるねー」
と、俺の目の前で脱ぎ捨てられたものである。
――だが、一体なんなんだ、これは。
冗談のようにしか思えなかった。きれいに伸ばして形を整えてみると、その異様さが分かる。
――でかすぎる。……
もう訳が分からなかった。そのくらい、ベッドの上のジーンズは大きかった。
どのくらい、……と問われて長さをそのまま云っても良くわからないかもしれないが、センチにして約130センチ程度。手を軽く広げてようやく、裾からウエスト周りまでをカバーできる、俺の腕とジーンズのヒザ下がだいたい同じ、あいつのベッドは特注品だから今はパッと分からないが、俺のベッドではたぶんいっぱいっぱいになるだろう。とにかく、信じられないくらい長い。
「いったい、股下何センチあるんだよ。……」
正直に云って、わからない。ただ、100センチを超えているのは確か。もしかしたら110センチにも達しているのかもしれない。身長はいくつだったか、ちょっと前に2メートルまでもう5センチも無いと云っていたから、たぶん196とか、197センチくらい。だとすると、……
「いやいや、それだと半分以上が足じゃないか」
しかし、ここ最近のあいつを見ていると、なんだかしっくりくる。さっき、一緒に部屋に居た時には、お互い裸足だったのに、もうこちらの胸のあたりにあいつの腰が来ていたし、俺の頭と云えば、あいつのでっかいおっぱいにすっぽりと収まっていた。それに、今日も一日中連れ回されたけれども、「普通に」歩いては俺を置き去りにし、手を引いて歩いては、ひぃひぃ云いながら走る俺を、
「あははっ、おんぶしてあげようか? ぼく?」
と無邪気に笑う。
冗談ではない。同い年なのにそんな子供扱いなんて、況してやこちらのことを、まるで小学校低学年の男子児童のように「ぼく」と呼んでくるなんて、屈辱的である。しかも赤の他人の目の前で、親の眼の前で、友達の目の前で!
「くそ、……でも、どうして、……」
どうしてこんなに興奮してるのだろう。くそぉ、……。ベッドの上に横たわるあいつのジーンズを見て、さっきから股間が痛くてたまらない。
「ちくしょう。……昔は小さかったのに。昔はお兄ちゃんって呼んできたのに、……」
今では「ぼく」呼ばわりである。子供扱いである。
いや、あいつが小さかったのは本当である。ままごとをやる時はいつでもこちらが年上の役をやっていた。外に出れば可愛い兄妹のように見え、二つの家の者が会せば、
「お兄ちゃん」
とこちらのことを呼んでくるあいつと、その頭を撫でてやるこちらを、可愛い可愛いと云って持て囃す。
それが変わったのは、いつ頃のことだっただろう、確か小学校に上がってからだ。小学校に上がってからあいつの身長はグングンと大きくなって行ったんだ。
今思えば、本当にあっという間のことである。入学時には首元にあったあいつの頭が、一年経つと俺の口元に、一年経つと俺の目元に、一年経つと俺の額に、そして、もう一年経つと俺の頭の天辺、…………よりも高くなっていた。
「あれ? こんなに小さかった?」
と云いながら自身の頭に乗せた手を、こちらにスライドしてくる。
俺はとっさに背伸びをした。たぶん3センチほど背伸びをしたと思う。
――けれども、あいつの手は俺の頭上を掠めていった。――いや、掠めてもなかった。
「やったっ、私の勝ちだ! やーい、お兄ちゃんのチビ~」
背伸びをしても勝てなかった。それも女の子に、それも昔から知っている女の子に、それも今まで妹のように可愛がってきた女の子に。
この時の悔しさは今でも思い出す。俺はその後、何度も何度も手をスライドさせてくるあいつ��突き飛ばして、自分の部屋で泣いた。あいつに身長を追い抜かれた。あいつにチビと云われた。あいつに、あいつに、……
それからもこの屈辱は変わることはなかった。俺は4ヶ月に一回、親に身長を測ってもらって柱にその記録をつけてもらっていたのだが、そういう時に限ってあいつは俺の家を訪れるのである。
「あ、身長測ってるの? わたしもわたしも!」
「いいわよ。ほら○○ちゃんも、そこに立って立って」
「はーい!」
と、一度こちらに顔を向けてから、柱に背中をぴったりつけて立つ。もう、この時点で、ついさっきつけた俺の跡は体に隠れて、……
嫌だったけれども、見るしか無い。心なしか俺の青ざめた表情を見て、あいつは勝ち誇った目を向けてきているけれども、そっぽを向いて興味が無い風を装う。
「ずいぶん高いわね~。168センチ、……と。うちのと比べると31センチ差! お父さんよりも高いじゃない! すごいわ!!」
これはお互い小学校を卒業する前のことである。あいつは小学生にしてすでに、160センチも残すところ2センチという長身。……
俺はまた泣きそうになった。けれども、この時はまだ、希望があったから泣くことはなかった。まだ自分の身長は伸びていない。伸びていないだけ。聞けば男性の平均身長は171センチ、……このまま俺も人並みに成長すれば、168センチなんて結局は超えられる。もう一回、あいつを見下ろす時が必ず来る。あいつをチビと罵る日が、……
――だが、儚い夢でしかなかった。
今では俺の身長は158センチ、あいつの身長はあれからも伸び続け、少なく見積もっても195センチ、……もはや比べるまでもない。しかも、もうお互い高校三年生である。あいつはともかくとして、俺の身長はもう伸びないだろう。伸びたところで160センチを少し超える程度にしかならないだろうから、この先ずっと、俺は小学生時代のあいつにさえ勝つことができない。もし、タイムマシンがあって、今の俺が過去に旅立っても、向こうのあいつは、
「チビ~~」
と罵しってくるに違いない。
「細いな。……」
ジーンズを手にとった時、俺はそう呟いた。昔は可愛かったあいつ、「お兄ちゃん」と可愛らしく呼んできたあいつ、今でもその可愛らしさは変わらず、体つきもほっそりしなやかで、たぶんモデルになれば途端に頂点へと上り詰めるだろう。
「で、でか、……」
立った状態で、あいつのジーンズを体に合わせてみる。足ではなく、「体」である。
「う、うわ、……すげ、……」
何せ、股下が俺のよりも2倍近くあるのである。その股の部分がヘソよりも上に位置しているのである。そして、ウエスト周りはちょうど胸に位置しているのである。
全くもって、同い年の女子高生が身につけていたとは思えない。
「すげ、……すげ、……」
と、その時、
――クスクス、………
あっ、と思った時には遅かった。俺の後ろ、……それもずいぶん高いところから、そんな声が聞こえて来た。
「お、お姉ちゃん、……」
恐る恐る振り返ってみると、そこには口元に手を当てて、笑いをこらえる一人の大きな大きな少女が、……
「クスクス、……おチビくん? 何してるの?」
「い、いや、……これは、それは、……」
「何がそんなにすごいの?」
「え、えと、……」
「ん?」
「これが、その、……大きくて、……」
「あははははっ、この変態っ。背比べする時は、あんなに嫌な顔するのに、かわいいやつめ!」
とガバっと抱きしめてくる。お風呂上がりのしっとりとしたあいつに、俺の体が包まれる。柔らかくて気持ちいい。……特に、頭を丸ごと包んでくるおっぱいの感触は、もうどうにかなってしまいそうなほどに気持ちいい。……
「お、おねえ、……」
「んふふふ、お風呂入ってきなさい。続き、……したいでしょ? 」
「ふ、ふぇ、……」
「あっ、背中流してあげよっか? ほら、おいで、おいで」
と、手を取って来たあいつの顔は、本当に同い年とは思えないほど綺麗で、優しくて、天井を見上げるほど高い位置にあって、俺は、
「おねえちゃん。……」
とつい本心から、彼女をそう呼んでしまった。
高校二年生の妹
ドアをバタン! と勢いよく開けられたのは、宵闇もそろそろ暗くなろうかという頃合いであった。
勉強をしている時は極力邪魔をするなと云っていたはずである。数年前から何度も何度も云っているのに、絶対に守らないのは、もはや力関係が変わってしまったからであろうか。けたたましい音を立てて扉を開けたその者は、今度はズカズカと部屋に上がりこんで来て、ぴらりと一枚の書類を見せて来て、
「お兄ちゃん! 見てみて、A 判定だったよ! しかも今回は上位100人のランキングに載ってた!!」
と嬉しそうに云った。見ると一枚の紙は、何ヶ月か前にあった模試の結果であり、俺の手元にも同じような紙がある。
――が、そこに記されている結果はまさに雲泥の差。雲は妹の方であり、泥は俺の方である。
「そろそろお兄ちゃんの結果も見てみたいな~~~」
と、彼女の結果を見て唖然とする俺を尻目に、机を椅子代わりにして「座ってくる」。
「あ、これ?」
「――おい! やめろ!!」
と、彼女の手につままれて、ひらひらとはためく一枚の「紙」に手を伸ばす。が、しかし、
「ふふん、――」
と、立ち上がられてしまった。
「ほーら、ここまでおいで~?」
と、手を天井へピトッとつける。「紙」を抑えるのはたった一本の人差し指、それも軽く抑えているだけ、……けれども、俺は必死である。こうなってはもう諦めるしか無いが、精一杯背伸びをして、時にはジャンプもして、「紙」を取り戻すべく手を伸ばす。
――それほどまでに、妹には「結果」を見られたくなかった。
「んふっ、んふふふ。……あわれだね~、お兄ちゃん。そんなに見られたくない?」
「か、返せ!!」
「ならここまでおいでよ。チビなお兄ちゃんにはできない?」
「お前がでかいだけだ!! くそ!! 返せって!!!」
ぴょんぴょんぴょん、……それはまるでおもちゃを取られた子供のよう。
「あははははっ! ほら、そーれっ、そーれっ、――」
と、今度は「紙」を人差し指と中指でつまんで、軽く上下させる。――が、俺にはとてもではないが、届かない。
それほどまでに、俺と妹とでは、身長に差があった。
――その差、実に47センチ。
もうこの時点で、手を真上に伸ばしても、妹の頭の天辺には届かない。況してやその上にある「紙」など、届くわけがない。俺からすれば、突然ダンクシュートを決めろと云われているようなものである。
「も、もう頼む! たのむからやめてくれ!!」
と涙声で懇願する。だが悲しいかな、俺をいじめるのが何よりの楽しみである妹は、今度は俺の手がちょうど届かない位置で、「紙」をゆらゆら、ゆらゆらと泳がせ始める。
「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」
ぴょんぴょんぴょん、……
「ふんふ~ん、ふふーん」
俺の懸命な叫びなど、妹にとってはなんともない。鼻歌を歌いながら、次は、手の届くところで待機させておいてから、俺が手が当たる直前に、ひゅっと引き上げる。余裕の表情で笑いながら、もはや慈しみさえ含んだ表情で笑いながら、……
いったいいつからこうなったのか。いや、もはや物心ついたときから何をしてもこの妹には勝てなかったから、俺の中では最初からである。特に学力は顕著で、3歳違いだと云うのに、昔から同じテキストで勉強をし、与えられた課題は妹の方が点数がよく、本を読めばあっという間に知識を吸収するものだから、俺の方が後追いで余分に勉強しなければいけない始末。
それに加えてこの身長である。小学生にして、もはや学力では妹に勝てないと悟った俺は、身長だけはと思って、背を伸ばす数々の方法を試してきた。が、結果は非情なものである、20歳も目前にしてたった156センチまでしか伸びなかった。
対して妹の身長はと云うと、156センチの俺と47センチ差、……つまり203センチ。……嘘だと思われるだろうが、本当である。つい数ヶ月前の身体測定の結果を嬉しそうに見せてくれた時、そこには確かに203.6と云う数字が並んでいた。
いったいこの妹をして、どうしてこの兄なのか。また、いったいこの兄をして、どうしてこの妹なのか。身長156センチの馬鹿で、物覚えも要領も悪い兄に対して、身長203センチの頭脳明晰、運動神経抜群、何をしても初めから人並み以上に出来る妹、……力関係が変わるのも当然であろう。俺が今こうして、ぴょんぴょんと飛び跳ねられているのも、妹が好きで遊んでくれているからである。
「そろそろ諦めない? ちょっと見てて痛々しくなっちゃった」
「やめるか!!」
と、哀れな目線に耐えきれなくて掴みかかる。だが、しかし、
「ぐえっ!!」
「ふーん、そういうことするんだ」
「あが、……や、やめ、……はなせ。……」
何をしているか。それは妹が俺の首を手で掴んで来ているのである。そして、俺は手足をばたつかせているのである。――体を空に浮かせながら。
「お兄ちゃん、ちゃんと食べるもの食べなよ~。軽すぎて準備体操にもならないよ~」
ほいっ、と云って、俺の体をぽいっとベッドの上に投げ捨てると、妹は再び、
「ふんふんふんふふーん、……」
と鼻歌を歌いながら、さきほどまで俺が腰掛けていた椅子に座った。
「うわっ、低っ」
それはもはや「椅子に座る」というのでは無かった。俺のよりも二倍以上長い妹の足は、床からほぼ直角に腰から伸び、それでいて足元を見ると、ぺたんと大きな大きな足が床についている。例えるなら、体育座りしているような、そんな感じである。
先程、机を椅子代わりにして「座ってくる」と云ったのは、誇張でも何でも無い。妹にとっては普通の椅子とはミニチュアの椅子でしかないのである。実際、彼女の部屋に行けばそのことがよく分かるであろう。まるで自分が小人になったかのような大きさの椅子と机が、これまた冗談のような大きさのベッドと共にお出迎えしてくれる。
「お前がでかすぎるだけだろ、……」
と、まだ痛む喉をさすりながら云った。
「ちょっと、その云い方やめてくれない? 不愉快」
「ごめん、……」
「ま、いいや。見るからね。どれどれ、……」
と俺の模試の結果が載っている「紙」を広げる。
「や、やめ、……」
「えっ、……なにこれ」
信じられないものでも見たかのような顔をする。
「D 判定って、お兄ちゃん、……真面目にやった?」
「……やった」
「えっと、同じ、……模試だったよね?」
「……うん」
「うっわ、なにこの数学の点数、今回簡単だったじゃん。一問も完答出来てないって、……えっ、ちょっとお兄ちゃん、真面目に聞くけど、今まで何をしてきたの?」
「うぅ、……」
「何をしてたの? 高校三年間と予備校の半年間、いったいなにをしてたの? 遊んでたの?」
「………」
「だってさ、まだ二年生の私ですら上位100人に入ったんだよ? しかもただの力試しで。お兄ちゃん、これだと本当に今年もダメになっちゃうけど、これでいいの?」
「………」
「はあ、……黙っててもわからないってば。いいの? 私の方が先に大学生になっちゃっても」
「………」
「もう、こっち来て。��―」
と、ぬるりと手が伸びてきたかと思いきや、俺は妹の方へ引き込まれてしまった。そして、何が何だかわからないうちに、脇の下に手を突っ込まれると、ストンと妹の膝の上に乗せられ、耳元にしごくこそばゆい息を感じながら、
「えっち。何見てるの?」
とささやかれる。実のことを云うとさっきから、スカートから覗く妹の玉のような肌の太ももをじっと見つめてしまっていた。筋肉質ではあるけれども、それでいて女性らしいしなやかさを保っており、見るだけでも変な気分になってくる。あとついでに云うと、背中に感じる二つの柔らかい、――しかも結構な大きさの膨らみも気になってしょうがない。
「ごめ、――」
「ねっ、お兄ちゃん。勉強、教えてあげよっか」
と妹が云う方が早かった。
「えっ?」
「だってさ、一年かけてもぜーんぜん成績上がってないしさ、もうお兄ちゃんでは無理だったんだって、早く悟りなよ。――お兄ちゃんにはこの大学は無理」
「そ、そんなに云う、――」
「でも、そんなお兄ちゃんでも一人心強すぎる味方がいます。さて、誰でしょう?」
「は?」
「……私だって、もうお兄ちゃんのあんな顔は見たくないんだよ。……って、これ以上云わすなっ。いいからペンを持って、早く体を起こしておっぱいから離れなさい」
「はっ? えっ?」
とうろたえているうちに始まった妹の家庭教師は、誰の説明よりも簡潔明瞭で分かりやすく、たった一時間程度で、俺はこの数年間続けてきた努力以上の実りを手にすることが出来たのである。
夏祭り
「あのー、……久しぶりに夏祭りに行きませんか?」
急に浴衣が欲しいと云ったかと思えば、妻がそんなことを云ってきた。いや、実は、毎日食卓に一緒に並べられる夏祭りの広告だったり、話せば必ず夏祭りの話題に行き着くことから、察しはついていたけれども、浴衣まで用意するとは思わなんだ。
「どうしたんです、急にそんなこと云って」
「うーん、……何故でしょう、……?」
と首を傾げて微笑まれる。私に問われても困るが、しかし何歳になっても可愛いなこの仕草。
「いいですけど、せっかくなんで私も浴衣が欲しいですね。何と云っても、私たちの出会いはそこでしたからねぇ、――」
「それ!」
と、手をポン! と叩いて立ち上がる。危うく天井に吊ってある電燈に頭が当たりそうだったけれども、上手く避けたようである。
「びっくりした。――」
「ごめんなさい。でも、それです、それ」
と云いつつ椅子に腰掛ける。
「久しぶりにあの頃に戻りませんか? しょうくん」
「ちょ、ちょっと待ってください。あの頃って、僕が恥ずかしいだけじゃないですか!」
「ふふ、もう自分のこと『僕』って呼んでますよ? ほら、行きましょ? きっと楽しいでしょうから、ね? しょうくん?」
「その呼び方をしないで、――うわ、うわうわうわ、……もう穴があったら入りたくなってきまし、……ああ! そんな顔で見ないでください!」
慈しみに溢れたその顔には、昔私に見せてきたうっとりとした微笑みが顕れていた。
普通ならば、男など一瞬で虜になってしまうであろうこの笑みが、私にとってはどうしてこんなに恥ずかしいのか、大したことないのでここで語ろうと思う。
私たちの出会いは、上の会話から分かる通り夏祭り。当時、私は高校1年生だっただろうか、何せ入学してすぐに夏祭りに行った覚えがあるので、たぶん16歳の夏のこと。妻の年齢は、……今は控えておくことにする、それも良いスパイスでであるから。
さて、夏祭りは街一つをそのまま会場にしてしまうほど、結構な規模で行われており、路端には途切れること無くで店が立ち並んでいたり、どこもかしこも人で溢れかえって歩くのもままならなかったり、とにかくひどい賑わいであった。と、すると一緒に来た者と逸れるのは当たり前のことであろう、30分もしないうちに、私は一緒に来ていた友達がどこへ行ったのか、すっかり分からなくなってしまった。
だが、このくらいのこと、大した事ではない。はぐれて寂しい感じはするけれども、周りが賑やかすぎて寂しさなどすぐにかき消されてしまったし、その友人と云うのも、
「今日はお前そっちのけで他校の子と仲良くしてるかもな」
と云っていたから、最初から当てになどしていない。
そこで、私は一息つくためにも、椅子を求めて公園に向かった。
――妻と出会ったのは、その公園である。
「ふう、……」
と息をつきながら提灯の赤々とした明かりを眺めていると、ギシッ、……という音と共に、青い浴衣姿の妻が隣の椅子に腰掛けてくる。
「こんばんは」
「こ、こんばんは」
私がちょっと言葉に詰まったのは、妻が何とも大人びて綺麗に見えたからである。
「ふふ、迷子?」
「い、いえ、そういうわけでは、……」
「うそ。迷子じゃなかったら、一人でこんなところに座ってないし、それに迷子の子はすぐそう云う。ほら、お姉さんと一緒に、お母さんを探しましょう?」
どうやら、妻には私のことが迷子になった子供に見えていたようであった。だが、何故か云い出せなかった。私は妻の差し出した手をそのまま握って、彼女に引かれるがままに立ち上がった。
――妻の背の高さに気がついたのは、その時だった。
今でもこの時の衝撃は忘れられない。同時に立ち上がったのに、私が足を伸ばしきっても、彼女の膝はまだ「く」の字に折れていた。上がり続ける彼女の顔はどこまでも登っていくようであった。そして、すっとお互いの背筋が伸び切った時、私の頭は彼女の首元にしか届いていなかった。二倍にも、三倍にも、妻の体は私の体より大きく見えた。
「で、でか。……」
「ふふ、当然ですよ。お姉さんなんですから、ね? ぼくもいつかは伸びるから心配しないで」
と私の頭を撫でながらうっとりと微笑む。
云っておくが、私はそんなに背が低かったわけではない。妻の身長が高すぎるだけである。当時の私の身長がたしか170センチ弱であったから、おそらく彼女はその時すでに、185から190センチの間であっただろう。確かに子供に見えなくともない身長差だが、なぜ妻が私のことを迷子だと思ったのかは、今でも謎である。
「そうだ、お名前はなんて云いますか?」
「しょ、昭一です。……」
「しょういち、しょういち、……うーん、しょうくん、って呼んでもいいですか?」
「ぼ、僕はお姉さんのことをなんて呼べば、……」
「お姉ちゃんでいいですよ。――ふふ、さ、行きましょう」
私たちはそうして歩き始めた。が、妻は迷子の子を母親の元へ連れて行くと云うよりは、私のような子を引き連れて歩くのが何よりも楽しいと云った風で、で店を覗いたり、神社に行っては参拝したり、
「お姉さん、射的がすごく上手だから見ててくださいな」
と云いつつも、何発も外したり、それでふてくされたかと思いきや、私の歩幅に合うよう歩みを緩めて人混みの中をただ練り歩いたり、――とにかく私にとっては夢のような時間であった。
しかし、周りの人の視線はかなり痛いものがあった。奇しくも高校一年生の男と、年齢不明の麗しい長身女性である。男が
「お姉ちゃん」
と舌っ足らずに呼び、女性が、
「しょうくん」
と子供をあやすように云う様は、それだけで見ものであろう。何よりも妻は繋いだ手を離そうとしてくれないのである。もう熱くて仕方が無いのに、時には手を振って歌ったり、時には立ち止まって私の両手をあの大きな手のひらで優しく包んでくれたり、その度に私は恥ずかしさで死にそうになった。
そんな視線の中で1番痛かったのは、彼女の友人たちと遭遇した時のことである。
「○○ちゃん!」
と呼び止める声がするので、私も妻も振り返って見てみると、そこには彼女と同じように浴衣を着た女性が何人か。だがしかし、その顔からはまだあどけなさが抜けきっていない。呼び止めた声もまた、どこか幼い気がする。
「もう、探したんだからね! 何してるの?」
「ごめんごめん。この子のお母さんを探してて、――」
「この、……子?」
と、近寄ってこちらの目をまじまじと見てくる。その気まずさったら無い。
が、私は別なことに気を取られてそれどころではなかった。彼女たちが近くに来て、またもやびっくりしてしまったのである。なんでこんなにでかいんだ、と。――
みんな長身ぞろいであった。それもただの長身ではない。私の頭は彼女たちの顎の下にあり、こちらを覗いてくる女性は腰を曲げて、膝に手を当て、その上で首を曲げていた。誰もが私のことを見下ろし、誰もが通り過ぎる人よりも頭一つ分突き抜けている。……
私は彼女たちの顔を見ようと顔を上げた。まさに天を見上げるような心地であった。星の煌めく夜空を背景に、彼女たちのあどけない顔が見える。下駄を履いているとは云え、誰もが身長180センチ代後半はあるように思えた。中には妻よりももっと大きな女性も居たから、190センチを余裕で超える者も居たと思う。
あれよあれよと云う間に私はそんな長身女性たちにすっかり囲まれてしまった。この時、どんなに可愛らしい女性と云えども、囲まれて見下されれば怖いと感ずるのだと知った。
「へーえ? かわいいじゃん?」
と後ろから私の肩に手を下ろしている女性が云った。ちなみにこの女性はこれを云う直前に、私の脇の下に手を入れて、俗にいう「たかいたかい」をしてきたのである。
「でしょう」
と得意げに妻が。
「うーん、まあ、確かにかわいい、けど、……」
と私を覗き込んでいた女性が云った。
「私たちは、このへんでうろうろしてるから、終わったら来てよね。花火は一緒に見よっ」
「うん。ちょっと連れて行ってくるね。――さ、しょうくん、行きましょうか」
と開放された私たちは再び歩き出した。
「ごめんなさい」
しばらく歩いた後に、妻がこう云ってきた。
「な、何がですか?」
「今日はバレー部の子たちと来てたの。だから、みんな体が大きくて怖かったでしょう?」
「いえ、みんな可愛らしくてそんなことは、……」
「ふふ、ありがとう。しょうくんは優しいです。謙遜でも、そう云ってくれると、みんな喜ぶと思います。――」
「あの、お姉ちゃん」
「ん? 何ですか?」
「バレー部って、ことはお姉ちゃんってまだ高校生なんですか?」
と云った時、妻の動きがふと止まった。と、思いきや、
「――あははははっ、違う違う、あははっ、……」
妻はしばらく笑った。腹を抱えるほどではないけれども、口に手を当てて、体を屈めて、笑いが漏れるのが抑えきれないと云った風であった。
「……ごめんなさい。えとね、私はまだ中学生なんですよ」
「ええっ?!」
「ちゃんと云うと、中学二年生。あの子たちも今中二で、一緒にバレーをしてます。改めてよろしくね」
「えっ、ちゅ、中学生?!」
信じられなかった。妻がこの時まだ中学生であることにも信じられなかったが、それよりもあんな背の高い、――身長185センチ以上、190センチを超えている者も居る女性たちが、まだ中学生だなんて、いったい誰が信じられようか。
――でも、信じるしか無い。あのあどけない顔立ちと、あのちょっと甲高い声は明らかに中学生のそれであった。
「そんなに驚くことないですよ。バレーをしてる人って、みんなああいう感じですし、……まあ、確かに私たちの中学校は少し背が高いよう���気がしますけど、……」
少しだろうか。身長185センチ以上の女子中学生なんて、学校に一人居ればいいくらいである。それがあんなに、しかも妻の口ぶりではまだまだ居ようかと云う気配。……後でアルバムの写真を見せてもらったら、確かに恐ろしいまでの長身ぞろいの中学生たちであった。あの身長を持つ妻が「紛れて」しまっていたのである。それどころか、監督をしていた男の教師が一番小さかったのである。――もちろん、入学したばかりの一年生も含めて、である。
「す、すごい。……」
「ふふ、……さ、私たちのことはこれくらいにして、早く行きましょ。そろそろ花火が始まっちゃう」
それから私たちは歩きに歩き回って、二人して疲れと云って、再び出会った公園に戻ってきた。ちょっとした奇跡だと思ったのは、花火が一番見える場所と云うのが、その公園だったのである。私たちは二人きりで花火を眺めた。もっとも、私は花火がボン! という音を立てて弾ける度に、妻の顔が鮮やかに照らされるのだと気づいて以来、彼女の方を向きっぱなしであったが。
「おーい、昭一!」
「はーい!」
友人の大きな声が聞こえたので、私も大きな声で返事をした。
「お友達も帰って来たことだし、お姉ちゃんはここでお暇することにしましょうか」
と、妻はゆっくりと席を立った。
「僕のお母さんを探すんじゃ、……?」
「あれ? そうだったっけ?」
と首を傾げて微笑まれる。私はこれまでの人生で妻のこの表情以上に可愛い女性の仕草と云うものを知らない。
「ぼ、ぼく? お母さん? お姉ちゃん? は? お前に姉が居るなんて、……」
「ふふ、お元気でね。また、会いましょう?」
としゃがんで私の頬へキスをしてから、妻は颯爽と公園から去って行った。
その後の友人の詮索については思い出したくもないので、ここには書かない。とにかく、他の学校の子と仲良くする、という友人の目的は私が代わりに達成してやったのである。――全校生徒中の笑い者にされるという代償を払って。
「しょうくん、あの時は私の顔見すぎでしたよ?」
「えっ、バレてました?」
「バレバレですよ。顔が火照るのを我慢するのにどれだけ苦労したか、分かってます?!」
と口を尖らせて怒る。その様子が何だかおかしくって笑うと、ますます怒ったような口ぶりで、こちらに文句を云ってくる。――ああ、可愛いなぁ。なら、もっと可愛い仕草をさせてやろう。……
「――ところで、なんで僕の事を迷子だと思ったんです? そんなに子供っぽく見えましたっけ?」
「さあ、どうでしょう、――」
と、妻は首を傾げて、顔を赤らめて、微笑みながら云った。―――
後輩
今俺が対峙しているのは、一人の女子高校生、なんだかぼんやりとしているのは気のせいではあるまい、お腹が空くと同時に力が出ないと云って、毎日昼前の授業は寝て過ごすのである、今日はその昼前の授業というのが体育だったから、寝ることが出来ず、体操服を着たまま、こうして眠そうな目をこちらに向けて突っ立っているのである。
「勝負ですかぁ? いいですよぉ?」
と先ほど彼女は云った。その間延びした声に俺は勝ちを確信し、彼女の前に立った。
賭けるものは昼食の弁当、――この学校では昼時になると業者が弁当を売りに来て、それが中々安いのに結構なボリュームで、しかも美味しい、……絶好のbet 案件である。
「で、何で勝負するんです、かぁ、……?」
もうフラフラである。こうなれば何であっても俺の勝ちは揺るぎないだろう。
「腕相撲とかする?」
「うで、ずもうですかぁ?……それはダメです先輩、……ダメです、……」
「なんで?」
「だってぇ、そんな勝ち負けが決まっている、……ようなもので勝負したらぁ、……勝負に、あれ? ……とにかく、勝負にならないじゃないです、かぁ。……」
「ああ、俺の勝ちってこと?」
「いいえぇ、違います。……私のです、……私の。……試しにやってみます?」
場所は体育館であるが、試合結果やら何やらを書くための机が常に配置されているから、俺たちはその一つへ移動した。途中、フラフラと足取りがおぼつかない彼女の背を押してやらなければならなかったが、とにかく、机を挟んで向かい合う形になった。
「俺は全く負ける気はしないんだがな」
「それは私も同じですよぉ。……」
と、右へふらり、左へふらり。もう立っているのもやっとのことであるようである。……
――しかし、こうして目の前に立ってみると、めちゃくちゃでかいな、こいつ。
後輩の女子高生とは云っても、以前聞いた話によると、その身長は195センチあるらしい。嘘だと思いたいが、俺の背がすっぽりと彼女の胸元あたりに収まるから、本当だろう。それで、ヒョロヒョロのモヤシ体型かと思ったら、どうもこうして対峙してみると違う感じがする。ムチムチとした腕に、ムチムチとした太ももに、服の上からでも分かるほど、引き締まった腰回りをしている。一見細そうな手足も、長いからそう見えるだけで、ほとんど俺の腕や足と、――いや、もしかしたら彼女の方があるかもしれない。……
負ける? いやいや、それでも普通の女の子である。腕相撲では絶対に負ける気がしない。俺は机に肘をついて、カクンとうなだれる彼女の手を取った。
「うわ、なんだこれ」
「んぅ? どうしたんです? もう初めてもいいですよぉ。……」
彼女の手は俺のよりも遥かに大きかった。そして、きめ細やかな肌が途方もなく気持ちがいい。……俺が声を出したのはそれが原因であった。しばらくはニギニギと握って、この心地よさを堪能することにしよう。
「せんぱぁい、……早く、……もう私お腹が空いて、……」
と、しばらくするとさすがに文句を云ってきた。
「あ、ああ、ごめん。俺は準備出来たが、お前は? 相変わらず力が入ってないようだけど」
「これでいいですよぉ、……勝手に始めちゃってください。これで負けたら私の負けでいいです。……」
――さすがにカチンとくる。なんでこんなに余裕なのか。勝負だから俺は本気でやりたい。女子高生相手に本気なんて大人気ないけど、やるからにはある程度は真剣にやりたい。
「いいのか? 始めるぞ?」
「どうぞどうぞぉ。……」
いいだろう、後悔させてやる。――
「………」
「………」
「んん……?」
「………」
「ク、……クソ、……なんで、……!!」
「んーん? せんぱぁい、もしかしてもう始まってますぅ? それで全力なんですかぁ?」
全力だった。上半身も全部使って、腕に力を込めている。
「ぬおおおおおお、……」
――なのに、彼女の腕は、嘘のように動かない。全く微動だにもしない。地面に突き刺さった鉄棒のように動かない。
「んふふ、せんぱぁい、私の云ってたこと、理解しました?」
いつの間にか彼女は眠そうな目を歪ませて、こちらを見つめてきていた。途方もない恐怖が俺を襲ってきて、この手の震えが過負荷からなのか、恐怖からなのかわからない。……
「じゃ、いきますよぉ? 勝負をしかけてきたのはせんぱいなんですからね? 折れても文句は云わないでくださいね?」
折れるってどういう、……
――突然、ガァン!! と、云う音がした。
「へっ?」
見ると、俺の腕は、彼女の手の下で、押し潰されていた。――
「があああああああ!! 痛い! 痛い! 痛い!」
甲が砕けたかのような激痛が腕に走り、床に倒れ込んで咽び泣く。何が起こったのかもわからない。痛みすら、一瞬遅く伝わってきた。訳が分からなかった。音からして机が割れたのかと思った。
「加減しましたから、大丈夫ですよぉ。そんなに痛がらなくても折れてませんから」
あんな冗談みたいな力を込めたのにも関わらず、彼女は呑気なものだった。
「ん~~~」
とゆっくり伸びをして、
「ふわあ、……目が覚めてきちゃいました。先輩、次はドッジボールしましょう」
と近くにあったバスケットボールを取りながらのんびり云う。
「く、くぅ、……何だったんだ今の、……って、お、おい、まて、それはバスケットボ、――」
――ヒュッと、風切り音がした。
その直後、バァン!! と後ろから破裂音が耳をつんざいた。跳ね返ってきたボールは、それでも物凄い勢いで俺の横を掠めて、彼女の手元へ戻っていく。
「は?……」
全く見えなかった。こんなのは野球をしたときと同じである。バッティングセンターで調子に乗って最高速度を試した時の、あの感覚、……白い筋が見えたかと思いきや、次の瞬間には後ろのネットに叩きつけられたボールが、ぽてんぽてんと目の前に転がる、あの感覚、……
彼女の投げたバスケットボールはそれに近かった。いや、それ以上だった。軌跡すら目に映らなかった。あんなのが体に当たるなんて考えたくもなかった。ドンドンとボールを手元でバウンドさせる彼女は、すっかり目を覚ましたのか、はっきりとこちらを見据えていて、――めちゃくちゃ怖い。……
「せんぱい? 次は当てますからね? ちゃんと取ってくださいよ?」
「待って、待って!! 悪かった! 俺が悪かったから!!」
「えー、……」
「もう俺の負けでいいです、はい。くだらないことに突き合わせて、すみませんでした」
「えー、……もう負けを認めるんですかぁ? それでも男ですかぁ?」
と、云われても俺の腰はすっかり抜けてしまって、立つことすら出来ない。
「うん、もう負けです。お弁当は約束通り買ってあげます。一週間続けてもいいです」
「えー、……つまんなー、……」
と云って、彼女はつまらなさそうに背伸びをして、バスケットボールを軽くリングの中へ入れてから近寄ってきた。いつもはのんびりとした、しごく大人しそうな子なのだが、彼女の2メートル近い長身も相まって、今は鬼のように怖い。
しかも分かってやってるのか、一歩一歩確実に、ゆっくりと近づいてくる。……
と、俺の元にたどり着いた時、そんな恐ろしい彼女が脇下に手を入れてきた。そして抱きしめるようにして俺の体を抱えると、ひょいと、まるで猫でも抱きしめるかのような体勢で持ち上げてくる。俗にいうお姫様抱っこというやつか。傍から見れば軽々と抱えられているように見えるだろうが、俺はあまりの力強さに、喉からひゃっくりのような声を漏らしてしまった。
「んふふ~、せんぱぁい、わたし今、ちょっと機嫌が悪くてですね、普段出せない力を見せたくなってるんですよ~」
「ひっ、……」
「かと云って、せんぱいにこれ以上危害を加えると嫌われてしまいそうですし、どうしましょ」
「こ、このままお昼ご飯に行くというのは、……?」
「ダメです。最後に一回勝負をしないと、気が、――あ、思いつきました。せんぱい、手を出してください」
と、云われるがままに手を差し出すと、するりとあの気持ちのいい手で握られる。
「あ、……これって、もしかして、……」
「んふふ~~、そうですよ~? 指相撲です!」
これなら先輩にも勝てるかもしれません! と元気よく云うのだが、もはや勝敗は決していた。俺の小さな手は、彼女の大きな手に握り「込まれ」、人差し指から小指までは全く見えず、何よりも向かい合った親指が、……巨人に立ち向かう小人のような、そんな感じで、彼女の親指と面しているのである。たぶん長さにして二倍は違うだろう。指相撲は相手の親指を上から抑え込まねばならないが、俺の親指と云えば、彼女の親指の第一関節に触れられたら良いくらいで、勝負が始まった途端に押し込められることであろう。
案の定、指相撲は彼女の圧勝で終わった。初め! と云った瞬間に、あの長い親指で、しかも恐ろしい力で抑え込まれるのだから、勝ち負け云々を議論するほうがおかしい。
「ふぅ、いつかはせんぱいも強くなって、私の本気を受けてみてくださいね。――あ! あのバスケットボールを投げたのはまぁまぁ本気だったので、他言無用でお願いします。せんぱいだけにお見せしたので、……まぁ、うん、それだけはご考慮を、……」
と顔を赤くして云うのが不思議で、やっぱり女の子とはいつでもか弱いところを見せたいのかなと思った。
それから俺は彼女の着替えを待って、弁当売り場へと向かった。けれども、すでに弁当は売り切れ、業者は撤退した後であった。俺たちは仕方なしに購買へパンを買いに行って、仲良く空き教室で、むしゃむしゃと口を乾かせながらコッペパンやら何やらを食べたのである。
妹たちの背比べ w/ お兄ちゃん
「せーのっ」
「せーのっ」
「――184センチ!」
「――179センチ!」
「あー! またお姉ちゃんに負けた!!」
「でも6年生だった頃の私より高いじゃん」
「お姉ちゃんに勝ちたいの!!」
「もー、……」
……里乃と詩乃、二人の少女が何を比べているのかと云うと、それは互いの身長である。姉の里乃に負けて、妹の詩乃が悔しそうな顔をするのは、もはや毎年、身体測定の行われる季節の定番となっている。
「179.8センチって、もうちょっとで180じゃん!」
「だから悔しいんだってば」
女性で180センチ前後の身長を有する者は珍しいだろう。しかし、彼が驚いたのはそこだけではない。
「中学生になるまでに、お姉ちゃんを追い抜けるかな?」
「この調子だと、あと半年くらいじゃない?」
そう、妹の詩乃はまだ小学生なのである。6年生になったのは、つい半月前ほど。
そして、姉の里乃はまだ中学生なのである。1年生になったのは、つい半月前ほど。――
「んー、もう少しなんだけどなぁ。……」
と、詩乃が頭に手を当てて、里乃の額にコツンとぶつける。二人を見上げる彼からすれば、二人の身長差なんてあまり無いように感じたが、確かに数センチは差があるようである。
「もうこんだけじゃん」
「お姉ちゃん、いつもそう云ってる」
「そうだっけ?」
「あはははは、――」
「ふふ、ふふふ、――」
――と、そんな笑い声が二人の間で木霊する中、
「はあ、……」
と彼はため息をついていた。――なんで妹たちばかりこんなに大きくなっていくんだ、と。
小学6年生の詩乃ですらもう180センチ、……里乃が小学生にして150センチを超え、160センチを超え、170センチを超え、どんどん垢抜けていく一方で、まだ幼い詩乃に希望を抱いていたのだが、そんな詩乃ですら一昨年、――まだ彼女が小学4年生の時に自分をさらりと追い抜いて、今では姉の身長に追いつこうとしている。……
「はあ、……」
と彼は再びため息をついた。こんな信じられない妹たちを持っているものだから、ものすごく肩身が狭い。
出かければ子供扱いされるのは自分なのである。プールに行けば溺れるのを心配されるのは自分なのである。店に行けば「弟さん」と云われるのは自分なのである。親戚の家に行けば年下扱いされるのは自分なのである。食事をすれば「こぼさないように」と云われるのは自分なのである。……
もちろんそんなことを云ってくるのは何も赤の他人だけでも、親戚だけでも、親だけでもない。ため息をつくのを目ざとく見つけた二人の少女、――彼の妹たち、――中学生にして身長184センチの里乃と、小学生にして身長179センチの詩乃、――この二人にも数々の屈辱的な言葉を並べられるのである。――ほら、今も項垂れている彼を見て、クスクスと笑っている。……
「兄さん?」
と里乃が。
「お兄ちゃん? どうしたの、そんなにため息をついて。」
と詩乃が。
「あっ、分かった。混ざりたいんでしょ?」
「えー、お兄ちゃんはいいよぉ。だって、かわいそうだし!」
「もう、そんなこと云ったらダメだよ。兄さんだって、好きでこんな小さい訳じゃないんだから、……」
「なんでお兄ちゃんだけ、こんなに小さいのかなぁ。……」
そんな風に、無意識に彼を傷つける言葉を並べつつ近づいて行く。
一歩一歩、妹たちが近寄ってくる毎に、彼の首は上を向いていった。壁に引っ掛けてあるカレンダー、カーテンレール、エアコン、そして天井、……と云った風に、視界に入るものがどんどん移り変わっていく。
――妹を「見上げる」、なんて体験はそんなに出来る人は居ないだろう。どんな心地であったか。それはとんでもなく屈辱的で、そのあまりの悔しさから心臓は脈打ち、気をつけなければ自然に涙が出来るほどである。
二人の妹たちが目の前に来た時、彼は思わず一歩退いた。彼女らの顔はにこやかだったけれども、なぜか途方もない威圧感を感じた。それは本能が、この二人の妹たちを恐れたからだろうか。きっとそうである。感じる威圧感だけで彼は押しつぶされそうな心地を抱いていた。
しかし、二人ともまだ12歳と13歳だけあって、何とも可愛らしい。顔だけみれば、台にでも登っているような心地を抱いてしまう。とてもではないが、180センチもあるようには思えない。
が、現実は二人ともぺったりと、30センチを余裕で超える大きな素足を床につけているのである。彼は妹たちの笑顔を見るのに耐えられなくて下を向いたとき、そのことを実感した。彼女らの足に比べれば、自分の足は子供のそれである。以前、無理やり里乃の靴を履かされた時の、あの笑い声が聞こえてくるようだった。
「ごめん兄さん、変なこと試しちゃって」
と、里乃は笑いをこらえられたようだったが、詩乃の方はカポカポと音を立てて歩く自分を笑いに笑った。
そう云えば逆もあった。が、入るには入ったけれども、残り三分の一を残してつま先が先端に到達したらしく、
「きゃははっ、お兄ちゃん足もちっちゃ~い」
と何度も何度も詩乃が靴を踏んづけていたのは記憶に新しい。本当に自分の足は、彼女らに比べれば、子供のそれなのである。
それに、その足自体が、めちゃくちゃ長いのである。
――えっ、そんなところに腰があるのかと、もう毎日見ているのに思ってしまうのである。なんで自分はこんなに短足なのに、妹たちは身長の半分以上もある脚を持っているのか、彼には理解できていない。――もはや理解できないのである。それほどまでに、里乃と詩乃の脚は長いのである。
例えば昔、――と云ってもつい1ヶ月前に飛行機に乗った際、ゆとりのない席だったせいで、彼女らはこれほどないまでに膝を折り曲げて座らねばならなかった時があった。
「あ~、これはちょっと、……」
「狭い!」
と何度も何度も文句を云った。
ただ、里乃はまだよかった。
「兄さんごめん。ほんとうにごめん」
と云いながら彼の座席の方へ足を伸ばせられたのだから。しかし、片側が見知らぬ夫人だった詩乃の方はそうもいかず、常時通路側へ飛び出してしまい、道行く人々のじゃまになっていたのであった。もう彼女らにとっては、この世界は小さいのである。
「兄さんどうしたの? そんな俯いて、……」
「ほらほら、怖くない怖くない、……」
と、彼を引き寄せた詩乃が頭を撫でてくる。――もはや子供扱いである。外では終始、彼の方が弟扱いされているものだから、次第に彼女自身もこういった行為が増え始めて、今では誰が見ていようが見ていまいが、頭をなでてきたり、膝の上に座らせたり、後ろから軽く抱きしめるように腕を回してきて、隣に居る里乃と談笑するのである。
「お兄ちゃん?」
と、顔を上げられる。詩乃の溌剌とした可愛い顔が見える。
「兄さん?」
と、クイッとそのまま横に向かされる。里乃のおしとやかな可愛い顔が見える。
――もう、頭一つなんてレベルじゃないのか。……
と彼は思った。どう考えても、自分の頭は詩乃の首元にしかたどり着いて居なかった。里乃に至っては肩にも掠っていない。
「兄さんは何センチだったっけ?」
「もう、お姉ちゃん知ってるのに、……」
「詩乃、静かに」
「はーい」
「………」
彼は黙っていた。妹たちの身長を聞いた今では、自分の身長を思い出すことすら嫌だった。が、
「ん?」
と、里乃がお姉さんっぽく微笑む。――当然、彼女も彼のことを弟扱いしているのである。もうこうなってはお手上げである。口をパクパクと動かしてから、ようやく彼は喋り始めた。
「……ひゃ、ひゃく、ご、……」
「んーん?」
「ひゃくごじゅ、……」
すでに詩乃は笑いをこらえている。
「157センチ、……です。……」
「あははははっ、――」
と詩乃が吹き出す。
「はい、よく云えました。よしよし、――」
と里乃が頭を撫でてくる。――
彼の身長は157センチしかなかった。実は1センチくらいサバを読んでいるのだが、それは去年の里乃に、
「もう20センチも差がついちゃったね~」
と云われないためであった。が、今では、
「あははははっ、もうわたしと比べても、20センチ以上小さいじゃん! あはははははっ、――」
詩乃にすら実に23センチも差を付けられてしまった。
「こら詩乃、そんな笑わない。――兄さん、兄さんは小さくても可愛いから、そんな悩まなくても大丈夫だからね? もう、泣かないの」
目元を拭って、里乃が慰めてくる。……もうそれすらも、彼にはたまらなかった。拭われても拭われても、とりとめのない涙が目から溢れて仕方がなかった。
だが、彼の地獄はまだ終ってなど居なかった。里乃に涙を拭われ、詩乃に笑われ、それからちょっとして家の外に車の止まる音が聞こえた。
「あ、来たかなぁ」
「たぶんね」
ああ、そうだった。――と、彼は今この家に居ることを後悔した。今日はその日だった。逃げ出したかったけれども、詩乃の膝の上に座らされて、しかも抱きしめられているものだから、動こうという気すら起きなかった。
「一ヶ月ぶりくらい?」
「うん。楽しみだね~。ね、ね、お兄ちゃんもそうでしょ?」
と里乃が彼に問いかけたところで、コンコンとノックの音が聞こえてきた。��、間もなくして扉が開き、久しぶりの来訪者が「腰をかがめて」入ってくる。――
「里乃ちゃーん、詩乃ちゃーん、久しぶり~~~」
「久しぶり~~~」
「小さいお兄ちゃんも久しぶり~~~」
と、まずは部屋の中に居た三人の兄妹に挨拶をした。
顕れた人物は二人。名前は紗絢(さあや)と香音(かのん)と云う。両者とも可愛らしい顔つきをしており、さすが里乃と詩乃の従姉妹だけある。歳は紗絢が15歳、つまり中学3年生、そして香音が里乃と同じ13歳である。
そして、二人とも巨人である。いや、彼が勝手にそう思っているだけで、普通の可愛らしい女子中学生なのだが、紗絢も香音もとてつもなく背が高い。身長179センチの詩乃よりも高ければ、身長184センチの里乃よりもずっと高い。特に、姉の紗絢の背は2メートルにも達しているのかと思われるほどで、天井に頭をぶつけないよう腰を屈めて、三人の兄妹と対峙している。
「紗絢姉さんも、香音も久しぶりだねー」
と、まずは立ち上がった里乃が。
「うひゃー、……」
と、次に詩乃が感嘆の声を漏らす。
「ひ、久しぶり」
と、最後に彼が詩乃の膝の上で怯えながら云った。――と、途端に紗絢の目が変わる。
「もー、お兄さん! そんなところに居ると詩乃ちゃんが動けないでしょ、――」
「相変わらず甘えん坊さんですねぇ」
「いる?」
と詩乃が彼を抱きかかえて、二人の長身姉妹に差し出した。
「えっ、ちょ、ちょっと詩乃、――」
「私がもらいましょう」
香音はそのまま彼をお姫様抱っこすると、赤ちゃんでもあやすかのように、トントンと腕の力だけで揺さぶる。
「ふふふ、お兄さんかわいい。……」
「まって香音、おろ、……下ろして、――」
香音の身長は恐らく190センチを軽く超えているだろう、そんな彼女に抱きかかえられると、身長156センチの彼からしれみれば、いつもより高い位置から部屋を見渡しているようなものなのである。それに何より体勢が不安定なのである。中学1年生の女子とは、――いや、人間とは思えないような力で支えられているけれども、ものすごい恐怖を感じていることだろう。
「紗絢も見てないで助けて!」
「えー、嫌ですよ。この通り、香音のスイッチ入っちゃいましたし」
確かに香音はこの上ない優しい表情を浮かべて、彼をあやしている。たぶん、子供と遊ぶのがかなり好きなのだろう、やめる気配はどこにも無い。
「だから、しばらくはこのままで。――もう、大丈夫ですって、香音のことだから落ちることはありませんってば」
「そんな、……り、里乃!」
「なぁに、兄さん? 嫌だよ、だって香音の邪魔をするとすごく怒られるもん」
「ふふ、そうですよぉ、おにいさん。このままおにいさんは私の赤ちゃんになっちゃうんです。……ふふ、ふふふ、――」
それから紗絢と里乃と詩乃が喋っている間、香音は彼をあやし続けた。途中、
「そうだ、お腹空いてませんか? おっぱい飲みますか?」
と云って、本当に姉譲りの巨乳を曝け出そうとした時はさすがに紗絢に止められたけれども、実に30分間、彼を腕の中に抱きかかえたまま、とろけるような声をかけ続けた。それが終わったのは、「たかいたかい」をして天井に頭をぶつけてしまったたからで、恐らくその「たかいたかい」が無ければ、赤ちゃん扱いはずっと続いたことであろう。この部屋どころか、階下に降りて行って互いの両親に見せびらかしたことであろうし、夕食も一口ずつスプーンに乗せて食べさせられたことであろうし、お風呂だって一緒に入ったかも知れない。もちろん寝る時は、湯たんぽ代わりに抱きかかえられるに違いない。
香音が彼を下ろしてから、残る三人も彼の元に集まって、彼は後ろに詩乃、右に里乃、左に香音、前に紗絢、――という風に、すっかり長身の少女たちに取り囲まれてしまった。もはや天井も見えないし、彼女らに光が遮られて昼過ぎなのに薄暗いし、でもなんだか良い匂いが立ち込めているし、それに前から突き出ている紗絢のおっぱいが顔に当たっているのである。
「ふぁ、……」
「ふふ、幸せそう」
と香音が云った。
「えー、そんなことないよー。だって私たちが近寄っただけで逃げるんだよ? お兄ちゃんは」
「でも幸せそうですよ? ね、お姉ちゃん?」
「うん。さっきから必死で私の谷間の匂いを嗅いでるからね。――」
「え、ほんまに?」
「ほんまに」
「ちょっとお兄ちゃん!」
と詩乃が思いっきり抱き寄せるので、彼の顔は紗絢のおっぱいから引き剥がされてしまった。だが、怒っているのは詩乃だけで、里乃も香音も、それに紗絢もしごく優しげな顔をしている。詩乃もまた、ひとしきり叱った後は、後ろから自分のおっぱいに彼の後頭部を押し付けつつ、頭を撫でる撫でる。……
彼は、一番の年長者が一番小さい上に、余裕もないと云う事実に震えた。妹たちも従妹たちも巨人だった。一番小さい詩乃でも179センチもあることが信じられなかった。二番目に小さい里乃でも184センチもあることは、もっと信じられなかった。ならその妹たちをを見下ろす香音は? そしてそんな香音を見下ろす紗絢は? いったい何センチあるのだろう。二人とも天井に顔がある。自分の頭は香音の胸にしか届いていない。脇の下にも届いていない。紗絢に至っては、下手するとおっぱいの下に顔が入るほどである。
――巨人だ。……
彼は二人の身長を知らない。昔から彼女らの方が大きくて、子供扱いされるのが嫌で、とうとう今の今まで聞かずじまいであった。
と、ふと、従妹たちの身長を知りたくなった。本当は知りたくなどないのだが、もう40センチも差を付けられてしまえば、一度すっきりしてしまうのも手であろう。
「あれ? メジャーが落ちてる。……」
と、ふいに後ろを向いた紗絢が、折良く先日に机を新調したいからと云って使っていたメジャーを見つけた。拾い上げてスルスルスル、……と引き伸ばしていく。
――途端、ピン! ……と、腕が伸び切っていないのにメジャーが張る。
「あー、……身体測定前に身長を測りたかったけど、2メートルしかないかぁ。……」
まだ伸び切っていない腕を見て、紗絢がつぶやいた。
「残念だったねぇ。うちの家はそれしかメジャーが無いから、紗絢姉さんには短すぎますねぇ」
「あちゃあ、……じゃあ、今はやめとこうか。でも、香音はギリギリ測れると思うから、一応測っときな」
「はい、姉さん」
と香音がメジャーを貰い受ける。
ところで彼は、
「へっ、……えっ、……?」
などと声にならざる声を上げて、目を見開いて妹たちの会話を聞いていた。
――2メートルしかないかぁ。……
――紗絢姉さんには短すぎますねぇ。
この言葉、そして伸び切っていなかった腕から察するに、紗絢の身長はとっくの昔に2メートルを超えているのだろう。
彼は思わず身震いした。妹たちも信じられないが、今までこんな日本中どこを探しても居ない中学生が身近に居たなんて、しかも従妹に。いったい何を食べればこんなに大きく、――それも女性らしい美しさを保ったまま背を伸ばすことができるのだろうか。自分はこれまで身長を伸ばすために何でもやってきた。妹たちに笑われながらも、牛乳は沢山飲んだし、夜は遅くとも10時には寝ていたし、里乃に腕を持ってもらってぐいー、……と背筋を引き伸ばしてもらったこともあった。恥を忍んで紗絢に背の伸ばし方を聞いたことさえあった。だがそれで得たのは156センチという、大概の女性と同じか、低いくらいの身長のみ。……もうみんなに笑われる、みんなにからかわれる、みんなに子供扱いされる、妹たちに弟扱いされる、従妹たちに赤ちゃん扱いされる。
屈辱で心が折れそうだった。今すぐにでも駆け出したかった。
けれども、詩乃が後ろから抱きしめてきていて、全く動けそうにない。……香音の身体測定を見守るしか出来ない。……
「はい、背筋伸ばして―」
と上で待機している紗絢が云った。
「準備出来たよー。いつでもどうぞ」
と云う里乃は下でメジャーを抑えている。
いよいよである。紗絢の身長は結局分からずじまいで終わりそうだが、香音の身長はこれで分かる。分かってしまう。
「おー、結構伸びたねー、……おっ、おっ?」
「おっ?」
「香音すごい! ……うん! ぴったり2メートル!! おめでとう!!」
「えっ、うそ、ほんとうに?」
「ほんまにほんまに」
「――やった! お姉ちゃん、とうとうやったよ!」
と大人しそうな顔に、心底嬉しそうな表情を浮かべて、姉とハイタッチをする。ついでに里乃にも、ついでに詩乃にも、そして、ついでに彼にも。――
「香音おめでとう! さすが!」
「私もあと21センチ頑張らなくちゃ」
と、4人の妹と従妹たちはすっかりお祝いムードである。
ただ彼一人だけは、途方に暮れていた。
――2メートル、2メートル、女で2メートル、中学1年生で2メートル、……
そんな考えだけが頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。胸はドキドキして止まらなかった。屈辱やら悔しさやらで息が上がって苦しかった。立っているのもやっとだった。
そのうち、4人の中の一人がメジャーを片手に近づいてきた。そして、こう云った。
「ほら、お兄さんも測りましょう。今日こそは教えてもらいますよ」
――ああ、そうだった。そういえば今までのらりくらりと躱し続けて続けてきたんだった。……
声の主は、先程2メートルぴったりだと判明した少女であった。見下ろしてくるその顔は確かに中学生の可愛らしさ、幼さがあった。
――だが、2メートル。
もうダメだった。彼はとうとう体中に力が入らなくなって、床に崩れ落ちた拍子に頭を打って気を失ってしまった。その直後の展開は、彼はよく知らない。が、目が覚めると、なんだか途方もなく柔らかくてあたたかいものに、体が丸ごと包まれているし、なんだか楽しげな話し声が聞こえてくるし、それになんだか良い匂いが漂ってくる。
辺りを見渡して、それが食事だとは彼にもなんとなく感づいたようであった。だが、
「あーん」
と、スプーンに乗って差し出された料理が離乳食だとは、全くもって気が付かなかったようであった。妹たちの笑い声は、しかし、再び紗絢の腕の中で眠った彼には聞こえてなどいなかった。
(おわり)
出来すぎた妹
これから話すことは惚気と受け取られてもしょうがない話であるが、生まれて5年後には生涯の伴侶が居たのだから、生い立ちを語れと云われて惚気話になるのは致し方あるまい。
さて、俺の生まれはとある地方の山の中で、周りに店の一つも無ければ家もなく、駅すらも歩いては行けない場所にある、今の華々しい生活からすればひどい環境としか云いようがない田舎だった。恵まれたものは何もなく、強いて云えば川が綺麗としかもう覚えていないのだが、特に恵まれてなかったのは金だった。彼女のことを知っていると云うなら、俺の家にどれほど金が無かったのかはご存知だろうと思う。あいつが生まれて間もなく父親が交通事故で亡くなり、母親一人で家計を支えるのは大変だったろうに思える。いや、思えるなんてものではない。毎晩毎晩、家に帰れば死んだように青ざめた顔で、海苔も巻いていない握り飯を一時間も書けて食う母親を見て、俺たちは二人して抱きしめ合ってシクシクと泣き、絶対にこの哀れな女性を楽にしてあげようと誓ったのである。
ところで生まれたばかりの彼女の姿をご存知だろうか? それはそれはものすごく可愛かった、目に入れても口に入れも耳に入れても痛くないほどに可愛かった、今では考えられないほど小さな手足を一生懸命に動かして、生きようとする健気な姿は何度も何度も俺の心を強く打ってきた。家計が家計であるから、父親が死んで数年もすれば、俺はこの子のために生きようと、この子のために何でもしてあげようと、この子のために我が身を捧げても良いようと思った。
だから働いたのである。小学生の頃から何でも出来ることはした。中学校を卒業した折にはすぐに地元の建設業で働き始めた。全ては妹のためだと思えば、先輩からのパワハラなど気にもならず、無茶苦茶な仕事内容を与えられるのも気にもならなかった。もうその時には彼女は小学5年生か6年生になっていただろうか、スラリと伸びた手足に、まっすぐに伸びた美しい黒髪に、ぷっくりと膨らみ始めた蕾のような胸には、十二分に将来の可能性が顕れていた。それに何より、その頃から急激にあいつの背が伸び始めたのである。俺だって背が低かったわけではない、今立ち上がって見ても分かる通り、男性の平均身長はある。けれども、あんなに可愛かった妹はたった一年や二年で俺の背丈を追い越すと、その���まグングンと背を伸ばして行ったのである。悔しいと云えば悔しいと云えるが、それよりもどんどん大人びて行く妹が綺麗で、美しくて、それでいて可愛くて、兄思いで、母親思いで、あろうことか俺は、次第に実の妹に心を寄せていってしまっていた。――いや、当然と云えば当然だろう。何と云ってもあの誰もが認める美貌である。もう中学二年生の時には、明らかに他の女の子とは一線を画していた。それに度々仕事場に訪れては、汗まみれの俺を気遣い、最後にはちょっとした差し入れと、「頑張ってね」の一言を添えてサラサラと長い髪の毛を、あぜ道の緑と晴れ渡った空の中に揺らめかせながら、地平線へと消えていく。それを見届けつつ、手渡された包を開けるのが俺の楽しみであった。差し入れられたお茶とおにぎりの味は、今食べるどんなご馳走よりも美味しい。今でも時たま具の入っていないおにぎりを所望して思い出したくなるほどに、美味しい。……まあ、そんなこんなで俺は実の妹に恋心を抱いていたのである。
時は妹が中学3年生のときである。この時期ほとんどの中学生は受験のことで頭を悩ませると思う。それは妹も同じではあったが、少し違うのはやはり家を顧みてのことだった。彼女は時おり俺と母親を招いては、
「私も、お兄ちゃんのように、……」
と泣きそうになりながら云うのである。俺にはそんな考えなど無かった。俺はこのまま頑張り続けて、妹を高校へと行かし、大学へと行かし、豊かな生活を歩んで欲しかった。だから母親と一緒に彼女を説得して、進学へと道を決めさせたのである。そもそも思うに、妹ほどの才女が高校へも大学へも行かないというのは、ものすごくもったいないことであろう。それというのも、成績通知表を見る度に、俺は目を瞬いて「本当に同じ腹から生まれた子なんだろうか」と思ったほど、妹は頭が良かったのである。運動はあまり得意では無かったようだけれども、国語数学理科社会音楽、……と云った座学の方は全て、――それも全学年に渡って、最高ランクの「5」がついていた。毎日疲れて帰ってくる俺を、明日が試験日だろうが何だろうが寝るまで労るので、
「俺のことはいいから勉強しなさい」
と云っても、
「いいよ、お勉強は授業聞いてたらだいたい頭に入るし、今はお兄ちゃんが最優先。ほら、マッサージするから寝て」
と優しい手付きで足やら腕やらを揉んでくる。それでも次の日のテストでは、本当にほとんどの科目で満点を取るのである。
話が逸れてしまったが、とにかくあの天才は受験勉強などほとんどせずに、県内で一番の進学校へ歩みを進めた。袖の短くなった制服から、あの長身に合った制服を身に着けた瞬間、俺と母親はついうっかり涙を流した。もう妹はすでに立派な女性だった。180センチを大いに越した身長も、H カップにまで育った豊かな胸も、全てが美しかった。妹は美そのものだった。俺は妹に見下ろされながら、神と対峙した時のような畏れを抱いた。ぷっくりと膨らんだ唇が、ものすごく魅惑的に見えた。シミひとつ無い白い肌は、触るのも恐れ多かった。長いまつげの下にある慈しみの籠もった目には、何もかもを見通されているような心地がした。俺は彼女には勝てないと悟った。
だから、つい唇を奪われるのを許してしまったのである。風呂から上がって自室へ行く途中の出来事だった。彼女が待ち構えているというのにも気が付かずにのこのこと階段を上った俺を、あいつはまず肩を掴んで拘束し、じっと見つめて来た。
「ど、どうした?」
俺が放った言葉はそれだけだった。いや、真剣な眼差しで見つめてくる彼女に威圧されてそれだけしか云えなかった。高校生になってもまだ伸び続けている彼女の身長は、この時188センチもあり、ちょうど首元に目が来る俺からすれば、蛇に睨まれた蛙のような心地がする。
「お兄ちゃん」
「おう」
「お兄ちゃん?」
「だ、だからどうした」
「お兄ちゃんっ」
としばらく妹は俺を呼び続けた。それも一言一言、こちらの反応を楽しむかのようにして、調子を色っぽくしたり、子供っぽくしたりしてくるのである。今、小悪魔的と呼ばれるのは恐らく俺のせいであろう。
「ふふ、……ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「愛してる。ずーと、ずーと昔から、愛してる」
と最後に云うと、あいつはなんと、目を閉じて唇を近づけてくるのである。もちろん、俺も目を閉じた。そして、顔を近づけた。悲しいことに精一杯背伸びをしなくてはならなかったが、こうして、俺は妹と唇を重ねたのである。初めてのキスの味は如何ほどであったか、それを語るには紙面が足りないから省略するにしても、唇を離した時のあいつのうっとりとした顔は、生きとし生ける物全てが思い浮かべる必要がある。ペロリと口の端に垂れた、どちらのものか分からない涎を舐めて、ふわりとこちらの体を包み込むようなハグをして、ポンポンと頭を叩いてから、意外にもあっさりと、彼女は自室へと戻って行った。今思えば、それもまた、俺を焦らそうという気持ちからやったのであろう。
彼女が高校生の時の思い出はそんなものであろうか。繰り返しになるが、やはりあいつはとんでもなく頭が良く、勉強をしているのかどうか分からないにも関わらず、定期試験だろうが、模試だろうがなんだろうが、ほとんど満点を取ってきていた。だからなのか、高校3年生のときの面談で進められたのは国の最高学府であった。いったい、天は俺の妹に何でもかんでも与え過ぎである。誰もが振り向く美貌に、誰もが驚く長身に、誰もが惑わされる大きな胸元に、誰もがひれ伏したくなる長い脚に、誰もが惚れざるを得ない優しい性格に、誰もが天才だと認めざるを得ない知能。一つだけ、まだ金だけは与えてくれていなかったが、それももう時間の問題である。まず最初の出来事に、彼女は驚くことに特待生であの大学へ入学し、入学金も授業料も免除されたことがある。これで浮いた金のほとんどを俺は仕送りとして送ろうかと思っていたのであったが、妹に強く、
「それはお兄ちゃんのために、そしてお母さんのために使ってください。特待生に選ばれたのはただのまぐれですから、お気遣いなく」
と云われては引っ込めるしか無い。だからその頃にはすっかり母親も持ち前の朗らかさを取り戻したような気がするのだが、やはり遠くで頑張る娘が気になっていたようだった。
そんなこんなで始まった妹の大学生活であったが、やはり語らねばならないのは、ミスコンのことであろう。そう、彼女の転換期である。ずっと昔から、俺はさんざん妹に面と向かって「可愛い」だの「綺麗」だのを云い続けてきたけれども、本人は本当に自身の容姿に自身が無かったらしく、
「いえ、そんな」
「私なんて」
などと云っていたから、そんなものには出ないと俺は思っていた。が、誰かにそそのかされたのか、彼女の友人の勧めで客席に座っていた俺の前に顕れたのは、確かに妹だった。いつもと変わらないナチュラルメイクに、いつもと変わらない長い黒髪���後ろで束ねて、いつもと変わらないぷるんとした唇を赤くした彼女は、信じられないほど美しかった。一人だけ後光が差しているような気がするほどに、美しかった。結果が発表される前から、もはや決着はついていた。予想通り彼女は1位を獲得し、恥ずかしいような、もどかしいような笑みを浮かべて、周りの者どもそっちのけで俺の元へとやってくる。
「お兄ちゃんごめんなさい」
と彼女は何故か謝った。
「私、お兄ちゃんがあれだけ容姿を褒めてくれたのに、全然信じられずに適当に返事をしてました。ごめんなさい」
理由を聞くと泣きながらそう云った。俺は、
「自信はついたか?」
と聞いた。すると、とびっきりの笑顔を見せて、
「うん! なんだか生まれ変わったような心地がする!」
と云う。全く、今から見ても、あれで容姿に自身が無いなど、他の女性から刺されてもおかしくは無いだろう。
その夜、俺は妹の下宿先へ初めて二人きりで夜を明かした。酒に酔った彼女を見たのも初めてだった。顔を赤くして、
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、おにいちゃぁん」
と猫のようにじゃれてくる妹は、もう見ることの無いと思っていた、かつて甘えん坊だった時の彼女そのものだった。実はその時に、彼女の初めてを頂いてしまったのだが、これは語ると俺が刺殺されかねないのでここには書かない。タオルケットにくるまって、自身の大きくて蠱惑的な体を隠そうとする彼女は、女神と云うよりはいじらしい生娘のようで、どれだけ体が大きくなろうとも妹は妹であった。つまりは可愛かったのである。
さて、転換期を迎えた妹の躍進は、ものすごいものがあった。急に、
「私、モデルになっちゃうかも」
と云ったかと思いきや、次の瞬間には海外に飛んでいるのだから、俺たち家族ですらあの頃の彼女にはついていけてなかった。ただ、これはみなさんご存知であろうから、ここでは多くを語るには及びまい。重要なのは、大学在籍中に本格的にモデルやら女優やらの仕事に打ち込み初めて、溺れるほどに金が入ってきたことであるから、それだけは云っておくことにする。
それで、パッと大学を卒業した彼女は、しばらく各地を点々と放浪していたらしいのだが、ある日突然、思ったよりも大人しめな衣装で実家に帰ってくるや、触れるが恐ろしいまでの金を家に振り込んできた。おおよそ一生を遊んで暮らせるほどの額である。そして、こう云った。
「これでお兄ちゃんの人生を買ってもいいですか?」
と。思い出せば物騒な物言いだが、実際には彼女の優しさが詰まった言葉であった。この金を使って私のために人生を捧げてくれたお兄ちゃんに恩返しがしたい。私はお兄ちゃんが高校に行けなくてどんなに惨めな思いをしたのかちゃんと分かっていないかもしれないけれども、でも少なくとも高校入試の時に同じ気持ちを抱いたことはある。だからまずはこれで高校へ行き、青春というものをもう一度味わいませんか? そして、行く行くは大学へと進学し、そして、 ――と、そこで顔を赤らめて云った言葉だけが頭に残って、はっきりとは思い出せないが、そんなことを彼女は云った。――俺はその言葉に乗るしか無かった。何故かと云って、どういう訳かその日づけで職場から俺の名前がなくなっていたのだから、彼女の提案に乗るしかあるまい。
それから、俺は初めて訪れた受験を乗り切るべく、勉強漬けの日々が始まった。朝から晩まで、妹の作ってくれたテキストで妹の授業を受け、妹の作ってくれた問題を解き、妹の回答解説を聞く。分かりやすくはあったけれども、俺と妹とではあまりにも能力に差があって、しばしば歩みを緩めなければとてもではないがついていけなかった。
「えぇ、……お兄ちゃんまだ覚えられてないの。……」
と、暗記物では云われた。いや、これは妹がおかしいのである。英単語を500個、一晩で全部の読み方綴例文まで覚えろと云うのだから、所謂天才で無ければ無理であろう。あの妹の吸収力は心底羨ましい。
そんなスパルタな教え方もあって、俺は妹と同じ高校へ進学した。10年と云う歳月を経て、妹の後を追って同じ高校へ進学するというのは、中々屈辱感があったが、意外にもすぐに私はクラスに受け入れられ、楽しい学校生活を送った。ただ次に始まったのは、妹の大学受験対策で、一ヶ月くらい部屋に引きこもる日が多くなったかと思えば、とんでもない量のテキストを俺に差し出して、
「はい、お兄ちゃんは今日から大学受験までにこれを全部問いて、覚えて、覚えて、覚えて、私の解説を聞いてもらいます。まあ、簡単だし、あんまり量も無いから大丈夫大丈夫」
と明るい口調で云うのであるが、机の上に50センチくらい積まれたテキストの山はどう考えても「量がない」とは云えないし、それに妹の「簡単」は全くもってあてに出来ない。実際、問題を問いていると、10年に一度クラスの難問がどんどん出てくるのである。しかもどうやら妹は過去の問題から引っ張ってくるようなことはせずに、自分で作った問題をテキストに載せているらしく、ズルすることもできない。結局俺は毎日、
「ちょっと、ちょっと、これくらい解けなくてどうするの。これはもっと単純にこうすればいいんだよ。お兄ちゃんって意外と頭が堅いタイプの人?」
と妹の目がさめるような解法を聞いて、驚くばかりであった。だが毎日やっているうちに彼���の考えに染まって来て、次第に正解する問題も出てきた。そういう時は二人で抱きしめ合って喜んだ。模試もまた、妹のテキストに慣れているせいか、どれも簡単に思えて実際に中々良い点数を取ることが出来た。擬似的に体験しただけだけれども、天才の頭の中とはこういうものとは、たぶんああいうものなのだろう。眼の前の問題が、自分の頭の中に追いついていないような感覚である。
俺はその頃、逆に妹に感謝したくなっていた。大金を用意し、あんなハイレベルなテキストを作っただけではなく、毎日毎日、朝早くから俺のために朝食と弁当を用意し、学校帰った俺を迎えてくれ、それからずっと付きっきりで勉強を見てくれ、夕食を用意し、そして一日の締めくくりに体を重ねた後、俺が寝静まったのを確認してから採点をする。まったく、出来すぎた妹を持つのも大変である。俺はもうすでに妹の金で実質暮らしていたが、それまで稼いだ金にはあまり手を付けておらず、それなら、普段の豪遊っぷりからすればささやかなものではあるけれども、妹を食事にでも誘おうと思って、土曜の昼食時に提案してみた。
「んもう、お兄ちゃん。どこまで私を惚れさせれば気が済むんですか。ダメです。――ま、せめて大学に合格した日に誘って下さい。はい、勉強に戻りましょう」
と断られてしまったが、その嬉しさで溢れる顔から、合格発表時に誘えば必ず首を立てに振るであろう確信が取れたので、その時はそれでよかった。
だから、頑張った。日々理不尽なレベルの妹の問題に文句を云いつつ、理不尽なレベルの妹の要求に悲鳴を上げつつも、俺は頑張りに頑張った。だからなのか、努力が実って、俺は妹がかつて通っていた大学に合格した。残念ながら特待生ではなく、平均的な点数でもなく、ドベから数えて5番目くらいではあったけれども、とにかく妹と同じ大学へ通うことになったのである。そして、合格発表の時、俺以上に涙を流している妹と抱き合いながら、再び彼女を食事に誘った。彼女は快く頷いてくれた。ワイングラスを傾けた時、彼女は云った。
「今日は、さ、お互いを名前でみ、みませんか?」
と、たいそう恥ずかしがりながら。
「そうだなぁ。じゃ、まずは俺から。――美希、今日の今日までありがとうな。これからは妻として、――」
「うっ、……」
「美希?」
「――ダメ! ダメ!……やっぱやめ! 無理! 恥ずかしすぎる! やっぱり今まで通りで!」
「えー、美希の提案だったじゃん」
「お兄ちゃん!!」
その時のあたふたとする妹の姿は、恐らく歴史に名を残すであろうモデルとは思えないほど、子供らしく、いじらしく、それでいて艶かしく、――まあ、一言で云えば、めちゃくちゃ可愛かったのである。
それで今、俺は妹と暮らしながら優雅な大学生をやっている訳だが、年々彼女が可愛く見えてくること意外には特に特筆すべきことがない。結局俺の生い立ちを語るようでいて、彼女の人生を語ったようなものであるが、いかがだっただろうか。たぶん誰も俺の人生には興味が無いだろうから、これはこれで良いのではないかと思う。後は彼女の出したエッセイやら何やらを参考にすれば、大方俺たちの、謂わばちょっとおかしな家族関係というのが明瞭に見えてくるはずであろうから、今はここで筆を休めることにしよう。
人魚
人魚は外の世界に憧れを抱くなんてよく云うが、ここに佇んでいる彼女もまた、その一人である。日々海の中に沈んでいる外の世界のガラクタを拾ってきては、格好の隠れ家へしまい込み、それを眺めてはため息をつく。ああ、外に出てみたい。出来れば素敵な恋を、素敵な王子様としてみたい。が、そう思えば思うほど、この自慢の尾びれが自分を縛る足かせのような気がしてならない。
「はあ、……」
とまたため息をついてしまった。もう何度目だろうか。一日に20回や30回はしているはずだから、一年365日で、物覚えついたのが5歳ごろだから、……と、虚しいことを考えているうちに、何者かが近づいてくる物音が聞こえてきた。実際には水流の音なのだが、彼女らにとっては物音である。
「誰、――?」
「おやおや、こんなにたくさんゴミを溜め込んで、……」
と、入ってきた人、……嫌に黒い尾びれをした、老齢の人魚が云う。
「ゴミだなんて! 私には宝物です!」
「ゴミはゴミだね。あいつらは要らなくなったものを海に投げ捨てるのさ。私は地上に降りた時にこの目で何度も何度も見たわよ」
「えっ、――」
今、「地上に降りた」と云わなかったかしら? ――と、彼女は思って目を見開いた。黒い人魚の嫌な笑みなど、その目には入っていなかった。
「地上に降りたいかい?」
「……」
「降りたいならそう云いな。条件は付けるがね」
ヒッヒッ、……と、黒い人魚は悪い魔女のように、眼の前の無垢な人魚に見えるようわざと白い歯をむき出しにして笑った。――
「わあ、素敵!」
人魚は空を仰いでそう云った。初めて感じる足の感覚、初めて感じる土を踏みしめる感覚、初めて感じる地上の空気、――そのどれもが新鮮で、気持ちよくて、今までの人生が灰色のように見えてくる。
「これが地上、……これが空気、……」
あの人魚は怪しかったけれども、こうして服までちゃんと用意してくれたし、実は良い人魚だったのだろう。
「いいかい? 時間はきっかり12時間。それを超えて地上に居ると死ぬからね。覚えときな」
と、ぶっきらぼうに云った割には時計までよこしてくれた。さすがにここまでされては、あの人を悪者をには出来ない。……
「うふふ、たのしい!」
しばらくは野原を駆け回った。本でしか見たことのない、兎や、鳥や、花や、草花たちがお出迎えしてくるような気がして、いつまでもどこまでも走り回れるような気がする。
「あっ、そうだ、――」
と、云ったのは唐突に人と喋りたくなったからである。――海は広い。広すぎて普段は同じTribe の者としか会うことが出来ない。数年に一度程度の割合で、餌を求めて海流に乗って回遊していると、志を同じくする者と出会うことはあるが、だいたいすぐにはぐれてしまう。
なれば早速行動である。12時間のうち、もう2時間も使っている。急がなくちゃ、恋どころか友達すら出来ない。
「でも、どこに行けばいいんだろう?」
ま、初めての地上である。こういうのは多めに見てもらいたい。
「ああ、やっと見えてきた」
それから数時間後、迷いに迷って人魚はとある王宮のある街へとやってきた。
「ああ、ああ、――」
と感嘆の声を漏らす。門の中では目まぐるしく人が行き交い、賑やかな声がこちらにまで聞こえてくる。
人魚は思わず走った。もう少し、もう少しで憧れの人々と言葉をかわすことが出来る。――
「やっとだ、やっとだ、……」
ふう、……と息をついて顔を上げた、だがその時、
「えっ?」
と思わず彼女は驚いて、ぽかんと口を開けて固まってしまった。
「――ち、ちっさ、……」
憧れの人々、先程まで目まぐるしく行き交って居た人々、――その誰もが人魚の腰にしか頭が届いて居なかった。
「うおおっ、――」
「な、なんだ、……?」
「でけぇ、――」
彼女の姿を見た者がそんなことを云いながら、わらわらと集まってくる。が、誰一人として、彼女の首元にも、肩にも、脇にも、胸にも辿り着けていない。
「う、嘘でしょ?……えっ? 人間もこんなにちっちゃいの、……?」
間違って小人族の街に入っちゃったかしら? と思ったけれども、先程見かけた看板には、列記とした人間の街の名前が刻まれていた。
――なら、本当に人間って本当にこんなに小さいんだ。
「うふ、なんだか可愛いく見えてみちゃった、……」
半分くらい本心からそう思った。ぴょんぴょんと飛び跳ねる者などは、物語などに居る、高いところについた木の実を取ろうとする子供のよう。いや、遊び場にお姫様が迷い込んできた子どもたちと云った方がいいか。こういう時は、その小さな体でお城まで連れて行ってくれるのが常である。
「こんにちは、小さな人間のみなさま」
と、人魚はスカートの裾を持ち上げながら、少し足を屈めて、本を読んで学んだ通りの挨拶をした。失礼なことに、動いた拍子に悲鳴を上げて逃げた者が居たが、まあいいだろう。後で覚えていらっしゃい。
「――私、ここの国の王子様に用があるのですけど、どなかた案内してくれませんか?」
「で、では私が案内いたしましょう」
と、名乗り出たのは、これまた小さな男、……正直、彼女には子供にしか見えなかったが、顔立ちからして20代そこそこの青年だろう。こちらの手を取ってきて、案内してくれるようである。
が、その手もまた、めちゃくちゃ小さい。きゅっと握り込んでしまえば、潰れてしまいそうである。
「す、すみません。もう少し力を緩めてくださると、嬉しいのですが」
体が小さいせいで、彼らは力も無いようである。こちらとしては、これほどにないまで軽く握っているつもりなのに、さらに力を緩めろと云うのは如何なものか。逆にもう少し力を入れてやろうではないか。
「うっ、……」
と顔を歪ませたが、何も云わないので、まあ、大丈夫だろう。
それにしても、本当にみんな小さい。露店も小さければ、人も小さく、家も小さい。あんなドアでは上半身がつっかえてしまうだろうに。それに、あれは二階というやつかしらん? 私の頭と同じ高さにあるのに、……ああ、そうか、こんなに小さい人たちならぴったりな大きさね。まさか憧れていた地上の人がこんなに小さかったなんて、なんだか幻滅だわ。……王子様はせめて私の胸のあたりに顔があればいいのだけど、……
人魚はそんなことを思いつつ歩いていたのだが、道行く人々の反応は相変わらずであった。
「で、でっかー!」
と叫んだ者すら居る。
と、そのうちに王宮の中に入っていたのか、門番の兵士に(――この人もめちゃくちゃ小さい!)、待つように云われて、案内されるがまま、応接間で王子様を待つことになった。すんなり通してくれたのは、どうもすでに人魚の噂がここにまで届いていたらしく、物珍しいものが好きな王子様が、むしろ自分から会いたいと仰っていたからだと云う。――物珍しいなんて失礼な。これでも私はまだ生まれてから18年しか経っていない、若き人魚だぞ。人間になってもまだ大きいからってそんな風に云うな、……と、文句の一つも云いたかったが、静かに待った。椅子が小さくて座れなかったが、せっかくの憧れの世界である。それも我慢することにしよう。いや、ちょっと我慢ならないかな。扉は腰を曲げないと通れないし、天井に頭はつっかえそうだし、ろうそくのついたシャンデリアには実際につっかえたし、もう少しまともな部屋はないのか。
「おまたせしました」
と、しばらくして声がしたので、ふっと顔を上げた。
「王子様、……?」
「ええ、そうです。お会いできて光栄です。長々とした名はついておりますが、ぜひエドと呼んでください」
深々とお辞儀をする王子様であったが、その姿を見た途端彼女は、
「――嫌です」
と、ついうっかり口にしてしまった。
「えっ? 今、なんと?」
「嫌です。――小さい人は嫌です。さようなら」
人魚は鍵が壊れるほどの力でドアをこじ開けると、呼び止める王子様とさきほどの青年の声を無視して、行き交う人々を蹴り飛ばしながら、ずんずんと街を歩いていった。――ふん、人間を蹴るのは気持ちがいいわ。蹴りやすいところに体があるのがいけないのよ。
街を後にしたとき、数人の兵士が追いかけてきていたような気がするのだが、歩幅が違いすぎて、彼女が走れば誰も追いつけないのは明白であろう。あっという間に海にまで戻ってきてしまった。
「――まさか王子様が一番小さかっただんて、……」
と、灯台の横で夕日を眺めながら人魚はつぶやいた。実際、王子の顔は、彼女の腰どころか、股の下あたりにあった。あれではお互い立った状態でも、跨げるのではないだろうか。人の脚の長さがそっくりそのまま身長だなんて、いくらなんでも小さすぎる。
「あーあ、なんだか幻滅しちゃった」
初めての地上はあまりにも小さかった。まるで怪物のように見られたし、思い出してみればすごく恥ずかしいので、今後来ることはないだろう。
「おっと、いけないいけない。あと5分か。……」
辺りはすっかり暗くなっていた。幻滅したけれども、空に浮かぶ星々はどれもはっきりと輝いていて、まことに美しい。ザバン! と、海に入った彼女は体を表にしてプカプカと浮きつつ、ぼんやりと空を眺めていた。もう人はいいけれど、この星や、兎や、鳥たちを愛でるためにもう一度来よう。そうしよう。――
「時計を返せ」
と、隠れ家に戻った時、例の人魚に突然そう云われたので、素直に返す。
「どうだったかい? 初めての地上は」
「なんだかもういいやっ、て感じだわ。でもありがとう、貴重な体験だったわ」
ヒッヒッ、……と黒い人魚は笑って、
「これに懲りたら、こんなゴミ捨ててしまうことだね。――ヒヒッ、ではまた会おう」
と穴から去っていった。
残された人魚はしばらくこのガラクタたちの未来を考えていた。そして、再び地上の思い出を振り返るや、こう呟いた。
「はあ、……まさか人間も小さかったなんて、私に合う殿方はもうこの世にはいらっしゃらないのかしら、……」
と。―――
女尊化社会
最近、小学生中学生の男子生徒が、あらゆる面で同学年の女子生徒に劣り始めているのだそうだ。勉強をしては順位表をつけられないほどに差をつけられ、運動をしてはかわいそうになるくらいにボコボコにされ、教室では大人と子供が一緒に授業を受けているような印象を受けると云う。これを受けて��府は女子生徒だけ学年を一年��二年繰り上げる、……なんてことも検討しているらしく、つい先日に始まった選挙では、それをマニフェストとして掲げることが当たり前となっている。
普段、そんなに女子小学生や中学生に触れることのない私は、にわかにはそんな現状を信じることが出来なかった。ここ1年で始まった女尊化現象、……その大部分を担う少女たちを一目見たく、私はとある中学校へ取材に申し込み、次の週に実際に訪れることを許可された。これはその時の手記を元に書いた、いわゆる一つの随筆文である。――
私が訪れたのは都内某所にある名門私立校で、全校生徒は500人ほどのそれなりに大きな中学校��はあったが、とにかく男子女子の比率が一対一、かつ、勉強だけではなくスポーツにも力を入れていることから、様々なことを比較するには打って付けだろうと思い、そこを選んだ。
「それなら、登校も見ものですよ」
と応対してくれた先生の一人に云われていたので、私はちょうど授業の始まる20分前頃に校門をくぐったのであるが、まず驚いたのは少女たちの背の高さであった。
前方にとびっきり大きな制服姿の女の子が居るかと思えば、次の瞬間には楽しげな声で会話する、これまたとんでもなく大きな少女に追い抜かれるのである。私は一瞬動きを止めてさえして、彼女らが校舎に消えていく様子を眺めた。別に、今どきの子供に身長を越されることなど、まだランドセルを背負ったあどけない女の子ですら、身長175センチの私より高いのがざらに居るのだから、全く驚くことではない。だが、身長190センチとも、200センチとも取れる女子中学生が、こうもたくさん登校して行く風景は、私の目を瞬かせるに足ったのである。
「ふわあ、……」
と手を伸ばしながらあくびをする子ですら、私より頭一つ分以上は大きい。と、云うよりは、私より頭一つ分大きくない少女は居なかった。みんながみんな、190センチ以上の長身を持て扱いながら登校していた。
「おはようございます。今日の案内を担当する○○と申します」
「よろしくおねがいします」
親切なことに、学校側は人を一人割り当てまでして、私の取材の手助けをしてくれるようであった。案内をしてくれたのは、まだ教師になりたての若い男性で、ついでに学校の宣伝にもなりますからと、身も蓋もないことを云っていたのは、まだ覚えている。
「さて、女生徒学年繰り上げ問題についての取材だと伺っていましたが、どうしましょう? 延々と書類を見ながら説明するのも、飽きてきますでしょうから、彼女たちの授業風景を見ながら、私が口を挟む、……と云う形でよろしいですか?」
「ええ、構いません。むしろそうしてくれるよう、こちらから頼もうかと思っていた所でした」
こうして私たちはまず、教室で英語の授業を受けている彼女たちを見に行った。
ガラッ、……と扉の開く音に反応した生徒たちに、まじまじと見られたのはそれなりに気まずかったけれども、確かに大人と子供が同じ教室で同じ授業を受けているかのようだった。すらりと伸びた足を艶かしく組んで、つまらなさそうに頬杖を付きながらため息をつく様は、中学生のそれとは到底思えなかった。それに対して男子は、袖の余った制服に身を包み、どこか落ち着き無く授業を聞いている。
だが、やはり気になるのは、男子と女子で机の高さも大きさも全然違うことである。一回りどころか、二回りも三回りも大きいような気がした。
「すごいな。……」
と私は自然に声を出していた。後で教えてもらったのだが、中学一年生の女子の平均身長が191.6センチ、中学二年生で199.7センチ、中学三年生で206.2センチもあるらしく、私たちが見たのは中学一年生の教室であったから、まだマシと云ったところで、これが中学三年生の教室に行くと、もっと机の高さに差があるらしい。実際に見ることは叶わなかったけれども、空き教室にある女子用の机に座らせてもらったところ、20センチも30センチも足が浮いてしまい、もはや巨人の学校に訪れたような心地がした。
私はこの時、実は女性が巨大化すると同時に、男性の方はどんどん小さくなっているのだ、と思っていた。たぶん女子の体が大きすぎて、相対的に男子の体が小さく見えただけだろうが、同じ学年だと云うのに、ここまでの差を見せつけられては、そう思わざるを得なかった。それを確かめるには、後10年弱時が経たねばならないが、それがもし違っていたとしても、結局女の子の方が圧倒的に体が大きい事実は変わりあるまい。私たち男は、一生を首を上げて過ごさなければいけないのである。
しばらく私は、髪の毛をくるくると弄って暇をつぶしている女の子を眺めつつ、一緒になって授業を聞いていたのだが、
「女の子の方は、みんなすごくつまらなさそうにしてるでしょう。――」
と突然喋りかけられた。
「ええ、やっぱりそうなんですか?」
「ええ、そうなんですよ。ちょっと出ましょうか、――」
私たちはそこで一旦教室の外に出て、廊下で話の続きをし始めた。
「こちらがつい先日に行われたばかりの、このクラスのテストの結果です。すごいと思いませんか? 上位は皆、女の子たちです、それもほとんど者が満点で、一位の次が15位なんてことに。……」
「うわ、……ほんとだ。……」
「他のクラスでもだいたい同じ結果で、――あ、こちら学年の全クラスを通してのランキングですが、見て下さい。――」
と云われたので、差し出された書類の一部に目を通したのだが、最初の7ページ目まで順位が全部一位であったし、その後も次々と女性の名前が連ねられ、最終的に男子の名前を見たのは後半になってからであった。
「男子女子の名簿みたいですね。……」
「そうでしょう。男女混合にしてしまうと、もはやランキングの意味がないので、最近では男子なら男子、女子なら女子、と云うように作ってます」
「でも女子の方はそれでも機能してなさそうですね」
「おっしゃる通りです。女子の最低点が、男子の最高点よりも高いですからね、彼女たちはもう満点かそうでないかで、互いを競っているそうです」
「確かに授業をつまらなさそうに聞くわけですね。それに政府が女子の学年を繰り上げるのも頷けます」
「ですが、一年や二年程度では話が収まらないかも知れません。何せ、彼女たちは高校の内容まで熟知していますから。いっその事男子女子で、学校まではっきりと分ける必要があると思います」
「なるほど確かに。それで小学校の次が大学、――と云うのが彼女たちの能力に一番合っているのかもしれませんね。――」
この会話が契機となって、私たちは窓の中でこれほどになくつまらなさそうに授業を聞く少女たちを眺めながら、彼女たち、――ひいては日本の、――特に私たち男の行末を話し合った。
私の取材は中々円滑に進んだと思う。途中、一人の男子生徒を捕まえて、
「テストの結果どうだった?」
と聞いて顔を青ざめさせてしまったのは反省点だが、案内役の先生の話は大変実りのある話題ばかりであった。
「もうあと数年もすると、ここに居る女の子たちが世界を席巻するでしょうね。いえ、冗談ではなくて、事実、確実にそうなります。学問も、政治も、経済も、スポーツも、……全てあのテストの結果のようになるでしょう」
と、お昼を一緒に食べている時に、彼は寂しそうに語った。それは毎日、あの中学生と触れ合っているからこそ出来る顔だったように思える。
「ところで、午後は体育館の方へ行きませんか? あなたもご存知の通り、私共の学校では特にスポーツに力を入れておりまして、……」
そこで学校の自慢になったので、ここで多くは書き記す必要はあるまい。だが、一つ興味深い事を云った。
「――しかし、私は一つ楽しみにしていることがあるんです」
「と云いますと?」
「男が打ち立てた世界記録が次々破られる瞬間が、――なんだか変なことを云っているように自分でも思いますが、楽しみなんです。それで、ついでなのでぶっちゃけてしまいますが、ちょっとこれは、――」
アフレコでお願いしますと云って、彼は話を続ける。
「実は、もうすでにいくつか破っているのもあるんです。――」
「なんと」
「例えば、トレーニングルームにあるベンチプレス。彼女たちは涼しい顔で持っていますが、その重量は世界記録を大幅に超える800キロとか、900キロなんです」
「ええっ!」
「それともう一つ例を取ると100メートル走。彼女たちは早かった遅かったで、喜んだり悔しんだりしていますが、その記録はだいたい8秒から10秒なんです。11秒台の子は滅多に居ません。確か一番遅かった2組の子で11.1秒とか、そんなだったと記憶してます」
「そ、そんなに?」
9秒台に乗ったとか、乗らなかったとか、もはや馬鹿らしくも感じる。相手にもならない。しかもまだ中学生で、恐らく体育の授業で遊びで測ったのだろう。本気で練習に励んだらもしかすると7秒台も夢ではないかも知れない。
そうやって、私が驚いているうちに体育館へついたようである。中ではバレーの試合をしているらしく、元気な声とボールを打つ音が響いているのだが、
「あれ? もしかして、相手は男性の方ですか?」
と私は思わず聞いた。白い体操服に赤いゼッケンを着けた少女たちの向かいのコートには、ちゃんとしたユニフォームを来た男性が居たのである。
「ええ、話せば長くなりますが、端折って云うと、今はとある男性プロチームと試合をしています。あ、そうそう、授業なので体操服を着ていますが、部活では私たちもちゃんとユニフォームを着ますよ」
と、云うことは彼女たちは全くの素人がほとんどなのであろう。だが、その体つきはプロチームよりも遥かに大柄であるし、その動きはプロチームよりも遥かに機敏であるし、それに表示されている点数を見て、私は目を見開いて固まってしまった。
「20 - 0、……」
さっきから中学生チームばかりがサーブを打っているから、きっと負けているのはプロの方なのであろう。見ると、ゲームはだいたいサーブで決まっているらしく、男性プロの方は飛んできたボールを唖然として見るだけである。反応したかと思えば、あらぬ方向へ飛ばしてしまい、またサーブが飛んでくる。上手く取れても、うっかり彼女らのコートへ飛ばしてしまって、次の瞬間には耳をつんざかんばかりの音を立てて、ボールは空高く跳ね上がる。
確かにかわいそうに思えてくるような試合運びであった。
「でも大体の競技はこんなものですよ。以前、野球の試合をした時には、男子高校生のチームに初回だけで17点も入れてましたからね。それに、つい先月に、こっそりとプロ野球のチームとも試合したのですが、結果は15対1、……もちろん彼女らの勝ちですよ。あまりにも一方的な試合だったので、3回途中で切り上げられてしまいましたが、あのまま続行しておくと、少なくとも50点は入ったのでは無いのでしょうか。まったく恐ろしいものです」
その後、バスケもテニスも卓球も、何もかも一方的な試合をやりすぎて、もう外からは練習試合を組んでくれないことを彼は語った。
電光掲示板に25 - 0が刻まれ、焦燥しきった様子の男性プロチームの面々がベンチに戻る中、私はそのベンチに座る一人の男に話しかけた。彼は試合中もベンチに座っていたのだが、怪我をしているのか腕に包帯を巻いて、頭を抱えて自分のチームが素人の女子中学生に、ボコボコにされている様子を見守っていたのであった。誰に話しかけてもよかったのだが、悲壮感の漂う監督に話しかけるのも気が引けるし、まだ息の整っていない選手たちに話しかけるのも気が引けるので、しごく真面目な顔で、ちょっとお話をお伺いしたく、……と声をかけると、意外にも朗らかに彼は応対してくれた。
「こんな試合は初めてですよ。3セットやって、一点も取れないなんて」
「い、1点も、……ですか?」
「そう、1点も。と、云うより昨日から初めて、うちが取った点数はたったの3点ですよ、3点。しかもそのうち2点はあの子らのミスで取れたようなものです」
聞けば、練習試合はこの前の日から行われていたらしく、彼らは毎時間、体育の授業として訪れる女子中学生相手にボコボコにされ続けたと云う。最終的に取った点数は合計で10点だったらしいが、その時のことはもうどんなに聞いても教えてくれない。
「それで、その腕はどうしたんですか?」
と、真新しい包帯に包まれた、真新しいギブスに嵌められた腕が気になって仕方が無かったので、私は問うた。
「あ、それ聞いちゃう?」
「ダメでした?」
「まあ、ここまで恥ずかしいところを見られてたら、同じか、……」
彼はギブスの巻かれた腕を上げながらそう呟いて、
「あの子たちにやられたんですよ」
「喧嘩でもしたんですよか?」
「喧嘩なんて、……そんな恐ろしいことする訳ないじゃないですか。折れたんですよ、彼女らのスパイクで、バッキリと真っ二つに」
「お、折れたんですか、……?」
「俺たちがあの子らのスパイクを取らないのは、体がついてこないんじゃありません。折れるんですよ、あんな強烈なスパイクで骨が。だから、絶対に当たらないよう、逃げるんです。悔しいけど、そうしないと体がもたない」
と、歯ぎしりをしながら彼は云った。それはプロの意地というものであろうか、負けると分かっていて、なお体を動かせないもどかしさが存分に顕れていた。――
私は次いで、コートを横断して賑やかな声を出す少女たちの元へ向かった。
「あ、はーい?」
と声をかけると可愛らしい声で反応してくれたが、あまりの身長差から、私には壁に立ちはだかったかのような心地がした。
「何でしょう?」
驚くことに、男性のプロチームをボッコボコにするほどの試合をしたというにも関わらず、彼女らの息はもう整っていた。
「どうでしたか、さきほどの試合は?」
「あ、……えーと、……まあ、いい相手だったです」
と、彼女はかなり言葉を選びながら云うので、
「正直に云っても構いませんよ」
「いいんですか?」
「ええ、何とも思わないので大丈夫です」
「えーと、それじゃあ、……正直に云って弱すぎでした。じゃれ合っているみたいで、途中から私たちも手を抜いたんですが、それでも弱くって、……」
こんな正直すぎるほどの回答が得られたのだが、彼女が話しているうちに周りに居た子らも、わらわらと集まってきて、気がついた時には私は2メートル前後の長身女子中学生に囲まれてしまっていた。
「弱かったねー。プロだって云うからもっと強いのかと思ったのに」
「うんうん、あんなのでプロになれるなら、誰だって出来ちゃうよ」
「体も小さいしね」
「何回パーフェクトゲームした?」
「もう5回? 6回くらい?」
「もっと多いよ―」
「っていうか何回ボールがこっちに入ってきたっけ?」
「私サーブを打つしかしてない!」
……はるか頭上で繰り広げられる会話に入り込む隙なんてなく、私は黙って聞いているしか出来なかった。聞きたかったことは山積みだったけれども、その後も結局、彼女らの圧倒的な体格に、文字通り圧倒されてしまい、少女特有の甘酸っぱい匂いと立ち込める「熱」にやられたこともあって、今の今まで聞けずじまいである。
「どうでしたか、我が校の生徒たちは?」
と、帰り際に案内役の先生に問われた。
「素晴らしかったです、色々な意味で」
「そう思ってもらえたのなら、嬉しい限りです。それで、取材はこれだけでも十分ですか?」
「ええ、ええ、もう十分すぎるほどです」
「それは良かった。ぜひ、またいらしてください。今度は今回見せられなかったトレーニングルームも案内しますよ」
「ありがとうございます。――」
さて、その後の展開であるが、私の取材した内容は、次の日のどこそこの雑誌に先手を取られたために、結局公表できずじまいでそのままになってしまった。だが、あの学校を訪れた時の衝撃には、未だに忘れられないものがあるので、この日記にしたためて、時おり見返したいと思う。
(おわり)
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