Tumgik
#明日春になっても誰も怒らない
mm0924 · 2 months
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April of Mei Nagano. 4月。〝継続は力なり〟ということわざは今年度のながのに当てはまるでしょうか?検証と称して、今年度も日記を書いてみます。そもそもこうして文章を書こうと思ったのは、めいが大好きな升野さんがきっかけ。司会者や脚本家としての活動が主になりつつ中で毎年欠かさずお笑いライブをするのは、自分の腕が衰えないように流行に置いていかれないようにするためらしいです。〝継続〟に値する期間は人それぞれだけれど、「めいちゃんの書く文章好きだよ」と言って毎月の投稿を心待ちにしてくれる方々のおかげでなんとか昨年度1年間、継続することができました。今年はながのが書いた記事にそれぞれの着眼点から意見をいただくこともあり、自分自身の発想力や想像力(流行とは少しずれますが)の拡張に繋がりました。文章の好みは人それぞれで1から10まで全て書かれてある文章が好きな人もいれば、3を読んで残りの7を考えるのが好きな人もいるから全員に刺さる文章を書くのはかなりの難題。だけど、その中でもながのの文章に面白さを見出してくれることは本当に有難い。そして嬉しい。ありがとうございます。升野さんが毎年欠かさずお笑いライブをするように、めいも腕が衰えないように流行に置いていかれないように一種のトレーニングのような気持ちで今年度も文章を書きたいと思います。余談ではありますが、先日赤坂の草月ホールで行われたバカリズムライブ番外編「バカリズム案」に行ってきました。今年は〝コント〟ではなく様々な案を発表する会。まさに升野さんが普段感じているであろうことの着眼点とそこから生まれるアイデアの飛翔の気持ちよさ、まさにお笑いの真骨頂。快感。こんなに愉快なプレゼンができたらなと思う90分でした。そんな升野さんが脚本を務め、ながのが主演を務めた映画『地獄の花園』も是非ご覧ください。升野さんがお客さんが行きづらいであろう場所や曜日にライブをしていることを考えてやることに意味があるって納得したつもりでいたけど、実際ライブに行くと考えが変わりました。お笑いも文章も見てもらって初めて意味を成す。前年度から引き続きここに興味を持ち足を運び、大切な時間を使い長い前説を読み、ここから先の長い長い文章(になるであろう)を読もうと思ってくれているそこのあなた、いつも本当にありがとうございます。そして、「なんだこれは?」と思いながらもここまでの長い前説を読みこれからながのに特大の感謝を伝えられようとしているそこのあなた、特大の感謝を伝えます。ありがとうございます!さて、長い前説もこの辺で…今月も、いや、今年度もながのの〝思考〟〝仕事〟〝音楽〟について触れていただければと思います。たった一文字、たった一言足りないだけで伝わらない想いがたくさんあって難しい、そんな中で、少しでも鮮明に、高い解像度で想いを届けられますように。 ほっぺたが重たくなってくると笑顔を作る難しさを感じる。そんな経験をしたことはないですか?ながのはあります。頬骨の周りにある筋肉がまるで冷やされた脂肪のように固くなって動かないことが。4月って季節と環境の変わり目だし身も心もいつもよりちょっと疲れやすい、きっとそういうものなんだ!…と毎日言い聞かせてみてはいるけど、そんな簡単にもいかないのよそれが。不安なことがたくさんあって、大切な何かが少しずつ欠けていくような気がして、それでも踏ん張るしかないから今日も必死に立っているんだよね。周りのことを見えていると勝手に思い込んで側にいる大切な人の変化に気付いてあげられなかった、見えないように頑張っているのはながのだけじゃないということを忘れてしまう程に、桜の花びらはまるでながのの視界を遮るように一瞬で散っていきました。春を象徴する桜につられて感じた春。そんな春は出会いと別れの季節っていうけど、ながのにとっては出会いの方が多い1ヶ月。出会いが多くあってほしい1ヶ月。この世界に来て8?9?年が経ちますが初めてタグをながののアカウントに載せてみました。どう?5月のながのは4月のながのよりも楽しく賑やかに過ごせているかな?お友達が増えていろんな人といろんな言葉を交わせるのは凄く楽しい、だけどふとした瞬間にこんなに多くのフォロワーさんときちんと1対1で向き合えるのかなって不安になったりもします。「めいちゃんは自分のこと大切に思ってくれてないんだろうな」的なこと1㎜たりとも感じてほしくないからね。自分自身への戒めを込めて、去年のTumblrを少し引用。いろんな姿の方がいていろんな性格のいろんな考え方の方がいて、ここに見えるのは〝アカウント〟としてだけど、その後ろには喜怒哀楽の感情を持った〝人間〟がいるということを忘れないで向き合いたいと思います。 お仕事!情報解禁はまだ少し先になっちゃいますが、とある撮影が始まりました。毎日の相棒は梅おかかおにぎり、ということは…?ふふふ、お楽しみに。そして映画『からかい上手の高木さん』は特典が盛りだくさんの前売り券の発売も開始され、公開まであと1ヶ月を切りました。たくさんの人に見ていただくためにも公開まであと約1ヶ月、宣伝活動に勤しみたいと思います。
4月のながのイチオシソングはsloppy dimさんの『minority』。「今日から始まる第1章」と「現実逃避の最終回」の対比。「きみからとる心のベスト10」「グーグルマップに君の名前を入れて」「左利きのギタリスト」「メロンソーダにさくらんぼ いつもより少し特別を」の言葉選び。今回は『minority』を選んだけどsloppy dimさんの曲は個人的に歌詞がとても好み。教えたいけど教えたくない、そんな特別な曲を今ここで。 無くしたくない言葉をなんでもかんでもXの下書きに書いていた。でも、それを辞めた4月、抜け殻だった。心の揺らぎを抑えているだけなのか心が揺らがなくなってしまったのかわからないけど、とにかく抜け殻だった。いかに文字が、文章がながのを形成しているのかを知りました。「めいちゃん語彙力が凄い!」と言っていただくこともあるけど(それはそれでとても嬉しい、ありがとうございます)、語彙力が高いのではなくて浮かぶ感情の母数が多いだけなんだと思います。頭の中に浮かぶ感情があまりにも多くて、感じたその瞬間に記さないと消えてしまう。心の中で感情が溢れて言葉が出てこないこのぐちゃぐちゃな感情になんて名前を付けようかな、もっとたくさんの文末表現があったら言葉の柔軟性は広がるのにな、ってそんなことを考える時間は言葉が好きなんだなと思う瞬間の1つです。ま、物書きでもなんでもないんですけどね!自分の発する言葉が誰かに影響を与えてしまうことはとても怖いけど、それでも何か1つでも心に届くものがあれば幸いです。自由に書きたいことを書きたいだけ書いためいの月記、最後まで読んで下さりありがとうございました。 5月のながのめいもよろしくお願いします︎︎︎︎︎︎☺︎
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kinemekoudon · 1 year
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【13話】 留置官に「ブチ殺すぞ」と言われたので弁護士にチクっておいたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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――逮捕から6日目。いつものように、頼んでもいないのに朝食が出てくる。ベトナム人はいつものルーティーンのように、味噌風味のお湯が入った容器にソースと醤油を入れて啜っている。
僕は昨日、自弁のカツ丼を食べて舌が肥えてしまっていたので、味噌風味のお湯を啜る気にはならず、もはや視界に入っているのも煩わしく感じたため、味噌風味のお湯の入った容器をゴザの上から床の上に移動させて食事を続ける。
すると、ヤクザ風の留置官が「オイ5番! ゴザの上に置いて食えよ? こぼしたら床が汚れるだろォ?」などと恫喝めいた口調で僕を叱ってくる。僕は一瞬頭にきたが、(たしかにコイツの言い分は一理ある)と思い、素直に「はい」と答えて、その容器をゴザの上に戻した。
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朝食後、この日は留置場内にある風呂場に入れる日であったので、順番を待ち、留置官に自分の番号を呼ばれてから風呂場へ向かう。
風呂場の前に立っている留置官からリンスインシャンプーを借りると、その場で少し待つように指示される。留置官は風呂場に向かって「19番、あと3分~!」などと言って、早く風呂場から出るように催促している。
19番が出てくると、留置官から入場の許可がおりたので、脱衣所から風呂場に入ると、髪を洗っている男の背中に彫られた般若と目が合った。
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僕は和彫の刺青を生で見たのは初めてだったし、そもそも浴場で大きな刺青を見るのも初めてだったので、これにはなかなか面を食らった。和彫の男は隣の居室でよく騒いでいたギョロ目のじじいで、目が合うと、「おう5番!!」などと完全に音量を間違えている大きな声で挨拶をされた。
風呂場は6人分程の身体を洗うスペースと、3人程入れそうな大きさの浴槽があり、定員は3人に絞られていたので、割とゆとりのある空間だった。
僕は悪臭を放っていた頭皮と髪を洗い、石鹸を泡立てて手で体を洗ってから浴槽に入る。浴槽は垢が浮いていて気色悪さはあったが、そんなことはどうでもよくなる程、熱い湯に全身が浸かる気持ちよさに蕩けてしまう。
時間も忘れて蕩けていると、タイマーで入浴時間を計っていた留置官が「5番、あと3分!」などと急かしてきたので、しぶしぶ風呂場を後にする。
風呂場から出ると、留置官から綿棒を2本提供されたので、その場で耳掃除をし、耳糞のついた綿棒が多く捨てられているバケツに綿棒を捨てる。
入浴後、同じ居室のベトナム人と筋トレやヨガをして、漫画の続きを読み、昼食を終えてうたた寝をしていると、ヤクザ風の留置官とギョロ目のじじいによる、完全に音量を間違えている会話が聞こえてきて、目を覚ます。
「なあ6番、三浦春馬って知ってるか? 俳優の」「あ、よく知らねっすけど、知ってます」「あぁ…じゃあやっぱ有名なんだなあ」「おれはそういうの全然興味ねぇんですけど…それで、三浦春馬がどうしたんですか?」「自殺したんだって、首吊り」
寝ぼけ眼で寝転がっていた僕はそれを聞いて仰天し、膝立ちになり、ヤクザ留置官の方を見て「え!?」と声を発する。するとヤクザ留置官は「あ゛?」と何故か威嚇をしてきたので、僕は無視してまた寝転がった。
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それから仰向けの状態で漫画の続きを読んでいると、首が痛くなってきたので、長袖のスウェットを脱いで、それを枕にし、再び漫画を読んでいた。
すると、しばらくしてヤクザ留置官が「何やってんだこらァ!」と急に大声で怒鳴ってきた。僕は目を丸くしてヤクザ留置官の方を見ると、ヤクザ留置官は「てめぇ枕にしてんじゃねえぞ!」と怒鳴ってくる。
僕はムカついて反射的に舌打ちをし、「うっせーな…」と小声でぼやきながら、枕にしていたスウェットを手に取って着ようとすると、ヤクザ留置官は鬼のような剣幕で「てめぇ…! 次やったらブチ殺すぞッ!!」と場内に響き渡る大声で怒鳴ってきた。
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僕は大声で露骨な脅迫をされたことで、急激に心拍数が上がり、身がすくんだ。しかしこれは好機だと察知して、「…あ、今ブチ殺すぞって言いました?」などと震えた声で聞き直す。
すると、ヤクザは若干ひるんだ表情で、「……ブチこむって言ったんだよ!」などと言うので、僕が「ブチ殺すって言いましたよね?」と再度聞き直すと、ヤクザは「日本語分かんねえのかァ!? ブチこむって言ったんだよ…! 刑務所に…」などと咄嗟に出たらしい言い逃れをしてくる。
僕は負けじと「ブチこむでも脅迫ですよ? それにここにいる人たちは全員ブチ殺すぞって言ったのを聞いてると思うんで、言い訳しても無駄ですよ」などと平静を装って言い返す。
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すると、ヤクザ留置官は見事に何も言い返せなくなったようで、わなわなと顔を震わせて立ち尽くしていたので、僕は手元にあった便箋とペンを手にとり、「すみません、あなたのお名前を教えてもらえますか?」と尋ねる。
ヤクザ留置官は「…教えねーよ」と言うので、僕が「なんで教えられないんですか?」と尋ねると、「教えちゃいけない規則なんだよ」などと言い返してくるので、「その規則見せてくださいよ」と言うと、「見せちゃいけないことになってるんだよ」などと幼稚な返答をしてくる。
僕は埒があかないと思い、「ええと…16時25分。50代くらいの、暗いレンズのメガネをかけて、髪を七三分けにした男性警官に「ブチ殺すぞ」と大声で脅迫をされました…」などと、わざとらしく声に出しながら、声に出した内容を便箋に書く。
さらに補足として、ヤクザ留置官の特徴をメモに取り出すと、ヤクザ留置官はおもしろいくらいにシュンとして、事務机のある椅子に無言で座った。
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僕は既にヤクザ留置官の特徴を十分にメモしていたが、ヤクザ留置官を虐めるのが楽しくなっていたので、「ええと…肌はやや赤黒く、耳は若干潰れており、ええと…よく見えないな……あ、一重まぶたで…」などと言って、ヤクザ留置官の特徴を執拗に記録する。
ヤクザ留置官は、さすがに僕の挙動に不安になったのか、帽子を深く被ったり、マスクを鼻の付け根が隠れるほどに覆ったりし始めたので、僕は「私が男性警官の特徴をメモにとっていると、帽子を深く被ったり、マスクで顔を隠したりしていました」などと記録しながら実況をしてやる。
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すると、ヤクザ留置官は顔をうつ向かせて体を丸めだし、とうとう玉のようになってしまったので、「これだけ特徴書いておけば誰だか分かるか…よし!」などと台詞じみた独り言を言って、ようやくペンを置く。ふとベトナム人の方を見ると、ベトナム人は隅っこのほうで気まずそうな表情をしていた。
夕食後、弁護士がやってきたので、今日の一連の騒動を報告すると、弁護士は「それはいいネタを掴みましたね!」などといつになく興奮した様子で、「検察も人間ですから、勾留している被疑者が警察から脅迫されたとなれば、身内の弱みを握られているようなものなので、起訴に踏切りづらくなるものですよ」などと言う。
弁護士は続けて、「私からは担当の検察官宛に抗議書を送付しますが、これから警察や検察の取調べの際には、留置担当官から脅迫をされて、警察や検察を信用できなくなったので、取調べに協力はできませんと言って、黙秘と署名拒否をしてください」と僕にアドバイスをする。
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僕は普段の悪態が幸いして、思いがけない武器を手にしたことに胸が高鳴っていたが、弁護士は水を差すように、「ただ、次の検察の取調べは注意してください。そろそろ共謀で捕まっている友人や売人がなにか自白しているかもしれませんから、検察が知り得ない情報を語っていたら、忘れずに覚えておいてください」と忠告する。
弁護士が帰り、自分の居室に戻ると、しばらくしてヤクザでない留置官が「5番、明日地検入ったから」と伝えてきたので、少し不安になりそわそわしていたが、就寝前にデパスを飲んだら、そんなことは忘れてぐっすりと眠ることができた。
つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
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sryem · 3 months
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2024年3月23日
・ずいぶん空いてしまって、書き方も忘れてしまったんだけど、急に「なんか今なら書けそう!」となったので急いで書いている。
・2月と3月は九州や台湾に行っていたので色々とインプットが多かった。今は関西じゃなくて地元にいます。昔から生活がインプットに傾くとなかなかアウトプットができないタイプで、ここにいない日が続いた。言葉でしか思考できないくせに、体験が増えると言葉が出てこなくなる。
・台湾は7日間滞在した。うち1日友人と合流していた日を除いた6日間は一人旅だった。
旅行において生活は留保され、現実は停滞する。これについては旅行中のメモにも記されていた。
ここにいる限り誰も何も私に求めず、責任もなく、現実は進行せず、本質的に常に部外者だ。そこにあるのは他の人間の生活であって私のではなく、私はそれらを呑気にただ鑑賞していられる。
現実には様々な問題があって、4月から正規で働くはずなのに書面契約すらしてもらえないこととか、そんな曖昧な場所で働くこと自体への不安とか、そういう対処しなければならない現実を全部日本に置いてアノニマスな存在になれるというのは、セラピーとしか言いようのない効果があった。
美術館で展示を見たあと、春のうららかな陽射しを浴びながら知らない鳥の声を聞いて、ふと「就活し直そう」と思った。だから日本に帰ってきて、「そちらで働くお話、なかったことにしてください」という旨を連絡して、今。なんとなく、いま私はねじを巻いていると思っている。ねじを巻く音と、手応えがある。この手応えはあそこで働こうとしていた頃にはなかった。だから多分大丈夫だと思っている。
・私はそんなにお金に困っていなくて、慎ましく生きれば生活していける定期収入がある。そのことが人生にただならぬ悪影響を与えているなと感じる。ハングリーさが微塵もなくて、何一つ頑張りきれないし、何一つ成し遂げられない人間だ。ずっと。そのくせやりたいこともなくて、道楽に踏み切って収入度外視でやりたいことをやるみたいな生き方もできない。母は就職を勝手に破談して事後報告した私に一頻り怒ってから「やりたいことをやりな」と言ってくれて、ワーキングホリデーや専門学校や留学の選択肢を提示してくれた。でも正直に言ってもう自分のことを考えるのに疲れていて、考えれば考えるほど生きていたくなくなってしまうから、なんでもいいから安心できる場所で仕事をして対価をもらって自立したい。そこにいる意味や価値を与えられなければ、生きていることが不安でとても息ができない。ずっとそうだ。労働は安心する。私に価値はなくても、労働に価値はある。給与はそれを証明してくれる。
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elle-p · 6 months
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Persona 3 Club Book teacher's pages scan and transcription.
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月光館学園の先生
Teacher in Gekkoukan educational institution
高等部2年生の授業を受け持つ先生たちは、生徒のほとんどが勝手知ったる内部進学生だからか、かなり趣味に走った奔放な授業で有名。個性と独立心を獲得した、港区に誇れる立派な月高生の育成に勤しんでいる。
鳥海先生 Toriumi かに座/AB型 2-F担任、現代文担当、生徒会顧問
2年F組の担任で、現代文の担当。非常にさばけた性格で、真面目に話を聞かない生徒に謝罪を要求したり、サボりの生徒の席を勝手に再分配するなど、裏表のない性格そのままの授業をやっている。はっきりとした目鼻立ちと茶色がかった髪のため、実家のある島根ではお人形さんのようだと近所のオバちゃんたちに評判で、小中高の子供時代もそこそこモテ期をすごしていた。当時から文学少女だったために大学は国文科に進み、「日本文学に精通した可憐な新入生降臨!」くらいのウワサは辞さないとさえ期待していたが、いざ上京してみると、 自分の程度が世間でいかに平凡かに気付かされ、以降はこれといった華やかな出来事にめぐり合うことのないまま、29歳の現在に至る。
趣味で同人作家としての活動も行なっているが、これといった手応えはない。職場である月光館学園でも浮いた話に恵まれず、日本語の在りかたという点で話が合わないため、古文の江古田先生とは犬猿の仲だったり、倫理担当の叶先生からは女として負け犬確定の扱いを受けるなど、くさくさした日常を送っている。
心は可憐な
三十路前
「私が怒られるから静かにして」発言など、よくも悪くも生徒とのあ
知的な顔とやる気のない中身とに非常にギャップがある29歳独身。世間一般の女性の例にもれずケーキ好きで生徒に要求している。
「私が怒られるから静かにして」発言など、よくも悪くも生徒とのあいだに垣根を感じさせない。
鳥海先生のボヤキ
• じゃあ今日は明治の文学ね。教科書の12ページ。···あ、先生、この作家あんまり好きじゃないな。やめ ましょう。(4月21日・授業)
• イジメに関する小論を読んで、感想ってやつね。こんなのサービス問題じやないの。なーんか書きゃ点あげたわよー。“この学校におけるイジメを告発” とかねー?···って、ウソよお。イジメ、無いわよねえ。無い無い。面倒。(5月25日・授業)
• アイギス・・・さん?珍しいお名前ね、生まれは外国なのかしら。他に特記事項は···ん?···人 型···戦術兵器?···なんかの間違いね、この書類。見たもの、聞いたもの全てが、正しいなんて思っちゃ駄目よね。 (9月2日・ホームルーム)
• 世の中は椅子取りゲームなの。みんなも気をつけてね。(11月9日・ホームルーム)
• みんなー、修学旅行はどうだった〜?先生、寺なんか興味ないから参ったわ。火曜からは体験学習ね。面倒な社会科見学だと思えばいいわよ。社会に出るって大変なの。これをキッカケに皆にも分かってもらえそうで嬉しいわー。その間、先生遊べるしね。(11月21日・授業)
確かに、この社会に希望なんて、そうそう転がってないよね。逆に、そこらに転がってるもんで満足すんな!甘えんじゃねーよ!···って、思ったワケよー。···先生、いま良いこと言ったから、期 末にこのまま出すよ?(1月 28日・授業)
江戸川先生 養護教諭 総合学習担当
見るからに健康、清潔とは縁のない養護教諭。カリキュラムが自由なのをいいことに、趣味に走った授業を行なっている。
怪奇!
保健室に巣食う悪魔
無精ひげとよれよれの白衣、脂に汚れた黒ブチ眼鏡、およそ健康的とは言い難い頬と土色をした顔色で、「優しい保健の先生」のイメージとは似ても似つかないうさんくさい風貌の保健室の主。月高赴任前のことを知る人間はおらず、名前すら本名ではないとさえ言われてい���。元気なときに訪れても追い返されるだけだが、体調が悪いときに保健室の戸を叩くと、先生自ら調合した極めて怪しいクスリを盛られる。運よく効けば具合がよくなることもあるが、当然トドメの一撃になることもなきにしもあらず。
養護教諭として生徒の手当てや保健業務を受け持つほか、「個々の知識を結び付け、総合的にはたらかせる」 総合学習の授業を受け持っている。しかしその実態は、「魔術を利用した人間心理治癒」と称し、前代未聞の魔術理論を紐解く、生粋のオカルトマニア。オタク特有の傾向である、自分の得意分野に関して話が長い特徴がある。夏休みの補習では、ここぞとばかりにさらにディープな講義を展開し、計5日間の日程のうち丸2日を魔術講義に付き合わされることになる。
体調の悪い生徒をじつに嬉しそうに迎える彼。保健室での行ないが本当に手当てなのかも怪しい。
江戸川先生のオカルト講座
• 保健室に何か用かね、ヒヒヒ。でも困るなぁ⋯これから秘密のサ⋯おっと。⋯講習会なんですよ。⋯なんだ、おまえ全くの健康体じゃん。私の目はごまかせませんでございますよ。サボリはお断り。ハイ、出て行った、出て行った。(保健室・体調普通以上)
• ···おやまぁ一、傷かウイルスか呪いか恋か。ずいぶんと調子悪そうですねえ。これは···出番ですね、イヒヒヒヒヒヒヒヒ。さて、取り出しましたるこの秘薬··· ニガヨモギにドクニンジン、ヒヨスにナツメにエトセトラ、エトセトラ··· オロしてコネてウサギの手。白山の杜氏もビックリの大吟醸。たちどころにアナ夕の病気を治してみせますよ。さあ、飲みなさい···飲むんだ!(保健室・体調疲労以下)
• まあ魔術と聞いて、何でもできるようになるイメージを持ってるヤツもいるでしょう。誰かにイタズラしてやろうとか、苦しめてやろうとか··· そんなロクでもないことを真っ先に思いつく人間に魔術の習得はできません。これは、洋の東西を問わずに共通することですね。邪な者は、無力であるか、途中で破滅するか。そのどちらかになるのです。(5月28日・授業)
江古田先生 2-E担任古文担当
今年50歳を迎えたの古文の先生で、風花の在籍する2年E組の担任。古きよき日本を愛する感覚は、現代の若年層とかけ離れているため、教師たちの間でも煙たがられている。「エアコンは体に毒」のスローガンの下、冷房や暖房をしょっちゅう止めてしまうので、「エコだ」と揶揄されている。面白いを「ホワイトテイル」、白ける話を「ホワイト キック」と一生懸命使っているが、90年代に若者文化として知識を仕入れてから時間が止まっているらしく、なんだか哀れ。
江古田先生のエコ文化論
• えー···明日からは修学旅行だなぁ。京都、我が心の故郷だ。他の先生はあろうことか海外を推すからなぁ···毎年反対するのが大変なんだぞ、んん?(11月16日・授業)
●当時の発音には “F” が入るんだぞ。“ひさかたの光のどけき春の日に” は··· “ふいさかたの、ふいかりのどけき···” う〜ん、美しいですねぇ··· (11月16日・授業)
小野先生 歷史担当
熱狂的な戦国マニアの先生であだ名は小野ムネ。政宗がらみにヤマをはればテストで高得点が狙えるが、受験を考えると参考書や塾に頼らざるを得ないため、3年生からは「歴史のハズレのほうの先生」と思われている。金色の細い三日月の前立てが印象的な愛用の兜は言うまでもなく政宗公の戦装束。オーダーして作らせた一品物で、新入生はその格好で行なわれる授業に驚愕するが、ひと月もすると立派になじんで気にも留めなくなり、そうなって初めて月高生としての肝が据わる。42歳。
僕は政宗公に会いに行く!
• えーと今日は貝塚の話か。うーん、貝塚なんて、ただの貝だよね。もういいかなこれは。先生、早く戦国とかに行きたいね。ワクワクしたいね。(4月30日・授業)
• じゃ、今日は政宗公だね!もう先生ワクワクして全然寝てないんだ!じゃ、政宗公の生い立ちから丁寧に紐解いていくからね!時は1567年、米沢城··· (10月1日・授業)
• うっ···ううっ···こうして、9月24日、西南戦争は幕を閉じたのであった··· まつ···ぐすっ まさ、まさに··· 武士の、武士の時代の終わりであったぁ···!!···ここから現代までは飛ばして、また戦国やろうね···ああ、政宗公··· (1月15日・授業)
宮原先生 数学担当
三角定規を片手に数字のかわいらしさを語る数学の先生。ふさふさアフロでおねえ言葉という風采は、変り種の多い月高高等部の教師たちの中でも異彩を放っている。数字や数式への思い入れはかなりのものだが、「解法」を愛するけれど「解答」には興味がないため、最後の繰り上がり計算をいつも忘れてしまうという、「使えない」 先生ナンバーワン。
数字LOVEの心
• ···で、ここが繰り上がるので···答えはX=1ですね。···え、違う?あ、ここが11だから··· すいませんね、X=2か。え、まだ違う??··各自、計算してくださいね。そういうわけで、すごいでしょ。数学って面白いよね。こんなに難しい問題も、解いてみるとX=1··· あれ、2だっけ?まあそんな感じで、簡単になっちゃうでしょ。ブラボーでしょ。(4月27日・授業)
この8、なんかすごく可愛いでしょ。9なんか尻尾がぷりぷりだし。マニアックだけど、2!!2もいいよね〜、ほんと、イイ!数字って可愛いよね。もうたまんない!(9月28日・授業)
竹ノ塚先生 物理担当
長身で渋めの男前、スーツは華美ではないが上質で、どことなくセンスを感じさせる45歳。見た目はいたってまともだが、せっかちで授業の進度が異常に早く、実験は結果のみの紹介、問題の解法を教えないままテストになだれ込むなどのせいで一部の生徒から不満が上がっている。板書の文字は大きく見やすいが汚く、折ったチョークの数は校内一。
かっこいい言葉集
• 言ってみれば、夏休みはもう··· 摩擦係数ゼロの坂道の上ってとこか。おっ、先生、今カッコよかったな。黒板に書こうか?(9月1日・授業)
• まずは基本中の基本、重力な。重くて大きなものが、小さいものを吸い寄せる。これが重力。女子高生に、中年男性が吸い寄せられる··· これも重力··· ···て、何を言わすんだ!(12月9日・授業)
叶先生 倫理担当
おもに3年生の倫理の授業を担当する先生。とくに男子生徒に人気が高く、「エミリ先生」と慕われている。授業熱心で進学指導に力を入れているのが評価されている一方で、若い男の子を手の平で転がして楽しむという、教師としてちょっと問題アリな性格。教師にしておくのは惜しい抜群のスタイルと評価が高いが、胸は詰め物とのウワサ。一部上場企業のサラリーマンと婚約中。
禁断の恋のゆくえ
自分にほれ込んでいる友近を、勉強を見るためと称して自宅に招いている叶先生。絶対に秘密のハズがどこからかバレて、九州の学校に転任することになって しまう。
大西先生 科学担当
細面ですらりとした、32歳の先生。婚約者と別れた過去があり、当分恋はいいと思ってるうちに、本格的にどうでもよくなり現在に至る。メガネを取ると美人なのだが、武器を隠し持っている感覚がいいという理由で、人前では外さないようにしているらしい。東洋医学批判者で、江戸川先生と新しい薬の開発を競っている最中。
やっぱり化学反応が好き
• 昨日ね、テレビ見てたらダイエット特集やってたんだ。“水を飲むほど痩せる!” とか言ってね··· んなワケないじゃない!浸透圧とかオール無視でしょ?なのに、だまされるのが多いんだから··· (5月6日・授業)
• 来週の火曜から試験かー。実験バリバリやりたいんだけどね。薬品を混ぜ合わせる瞬間って、最高に興奮するよね。(10月7日・授業)
寺内先生 英語担当
学生時代、留学先のインドで知り合ったイギリス人宣教師と、帰国後に感動的な再会を果たし、結婚に至る。そのシーンを「クリスマスの思い出」として毎年生徒に披露、英訳させる先生。会話中にかなりの頻度で英単語が混ざるが、本人曰く「関西なまり」みたいなもの。黄色いスーツにカチューシャという、どことなく海の向こうのセンスが香る28歳。
グレートイングリッシュスタディ
• はい、ここではAさんが死にそうなんですね。で、Bさんが言う “ステイ ウィズ ミー!” “しっかりして!” と叫ぶから、このあとAさんの魂が戻ってくるワケですね。これ、テストに出しますからね。面倒なんでこのまま出しますからね。と、もうすぐチャイムですね。それまで私のインド留学話でもしましょうか。(5月15日・授業)
今日はクリスマスの思い出をスピーチします。聞きながらイングリッシュに直してください。“もみの木の下で出会った私達は燃えるような恋に落ちたのです···” “イルミネーションはお互いの顔をビュー ティフルに照らし···” (12月24日・授業)
校長先生 校長
長年の政治的活動と少なくない資金とで、ついに私立高校の校長職を射止めた人。教師としての才覚には残念ながら恵まれているとは言い難く、部下である先生たちだけでなく、生徒からもデキない男と見抜かれている。美鶴の高校生離れした生徒会長就任演説に対抗意識を燃やし、つぎの週の集会でありがたいお言葉を用意するが、順平に同情される始末。
沽券に関わる大演説
えー、諸君らに今日は特別に、大切な話をしようと思います。あー、世間では、不可解な事件や、理不尽な事件が多いようですが··· うー、この学園の生徒である諸君らには、関係ないことだろうと思います。えー、しかし高校生という若い時期には、様々な悩みもあるでしょう··· まー、だからといって、あまり、思い悩むことはないのです。えー、“過ぎたるは及ばざるが如し” という言葉を、紹介します。あー、これの意味はといいますと··· (4月27日・朝礼)
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poetohno · 3 months
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第二章詩集1-5 日記詩集1-5 返答詩集1-5 おまけトーク(不完全な自分をどう許すか)
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「春の陽 冬の跡」
木洩れ日きらきら 樹の葉がさわさわ 雪解け水が流れ始める
紅 茜 金色 移ろう時 全て花のよう
空に散りばめた十二星座
時は短いから 寂しくても 愛しくて 悲しくても 微笑んで 泣いても 陽は登る
風がさらさら 雲がふわふわ 春がもうすぐ来る
時の移ろいは 絹のような 川のよう 翡翠 空色 眩い白
優しさと喜び 悲しさと怒り 楽しみと待っている未来
待っていて 春風が明日を連れてくる
思い出した想いに季節が重なり 夏 秋 冬が廻る 一日の中にさえも一年が巡る
春は何度でも巡り 花は何度でも咲いて 光は何度でも訪れる
「人生が贈り物だとしても」
誰かの言葉を信じて 必死に思い込む 無理をしているから 心のどこかで醒めている
現実を無視して 前向きな言葉で塗り固めても 些細な矛盾で剥ぎ取られてしまう
心は知っている 偽りでしかない
救いを見出しても 未来を見つめても 許しを願っても
誰も答えない 生きることは辛いまま 苦しみは置き去り
信じたいのに 本当は信じるのが怖い
だからせめて 揺らぎながらでも
――今は 握りしめている
「星 煌めき 星座」
今まで歩いてきた道を 朝と夜の間で走った 彼方と日常の隙間に見えた物 掴んでは溢れて 零れては失って
彼方の星を目指して 雲に隠されて探し歩く 流れ星を追いかけたら消えて 月明りに目が眩む
暗闇に躓いて 転んで 光の差す方へと立ち上がって 雨に打たれて 泣いた
起き上がれなくなって 仰向けになって 見上げた空に 空いた穴 雲の隙間から零れそうな 星の光
足を踏み外して 転がり落ちる 微かに見える 遠くの頂 手を伸ばすだけ
野原に寝転んで 風に吹かれて 口ずさむ 光に目を細めて 耳を澄ませて 草が歌う 涙を零して 泣くように眠って 夢を見る
拾ったものが 宝石になって煌めいて 光を散りばめたら 道を照らした 全て集めれば 星になって輝く
目を開けて 見上げた空に 星座を描く
いつか心に 繋がるように
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ari0921 · 6 months
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「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和五年(2023)12月27日(水曜日)参
    通巻第8070号
 AIは喜怒哀楽を表現できない。人間の霊的な精神の営為を超えることはない
  文学の名作は豊かな情感と創造性の霊感がつくりだしたのだ
*************************
 わずか五七五の十七文字で、すべてを印象的に表現できる芸術が俳句である。三十一文字に表すのが和歌である。文学の極地といってよい。
どんな新聞や雑誌にも俳句と和歌の欄があり、多くの読者を引きつけている。その魅力の源泉に、私たちはAI時代の創作のあり方を見いだせるのではないか。
 「荒海や佐渡によこたう天の川」、「夏草や強者どもが夢の跡」、「無残やな甲の下の蟋蟀」、「旅に病で夢は枯野をかけ巡る」。。。。。
 このような芭蕉の俳句を、AIは真似事は出来るだろうが、人の心を打つ名句をひねり出すとは考えにくい。和歌もそうだろう。
 『春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天香具山』(持統天皇)
 皇族から庶民に至るまで日本人は深い味わいが籠もる歌を詠んだ。歌の伝統はすでにスサノオの出雲八重垣にはじまり、ヤマトタケルの「まほろば」へとうたいつがれた。
 しかし人工知能(AI)の開発を米国と凌ぎを削る中国で、ついにAIが書いたSF小説が文学賞を受賞した。衝撃に近いニュースである。
 生成AIで対話を繰り返し、たったの3時間で作品が完成したと『武漢晩報』(12月26日)が報じた。この作品は『機憶(機械の記憶)の地』と題され、実験の失敗で家族の記憶を失った神経工学の専門家が、AIとともに仮想空間「メタバース」を旅して自らの記憶を取り戻そうとする短編。作者は清華大でAIを研究する沈陽教授である。生成AIと66回の対話を重ね、沈教授はこの作品を「江蘇省青年SF作品大賞」に応募した。AIが生成した作品であることを予め知らされていたのは選考委員6人のうち1人だけで、委員3人がこの作品を推薦し
「2等賞」受賞となったとか。
 きっと近年中に芥川賞、直木賞、谷崎賞、川端賞のほかに文学界新人賞、群像賞など新人が応募できる文学賞は中止することになるのでは? 考えようによっては、それは恐るべき時代ではないのか。
 文学の名作は最初の一行が作家の精神の凝縮として呻吟から産まれるのである。
 紫式部『源氏物語』の有名な書き出しはこうである。
「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり」
 ライバルは清少納言だった。「春は曙、やうやう白く成り行く山際すこし明かりて、紫立ちたる雲の細くたなびきたる」(清少納言『『枕草子』』
 「かくありし時すぎて、世の中にいとものはかなく、とにもかくにもつかで、世に経るひとありけり」(道綱母『蜻蛉日記』)
 額田女王の和歌の代表作とされるのは、愛媛の港で白村江へ向かおうとする船団の情景を齊明天王の心情に託して詠んだ。
「熟田津に 船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ今は漕こぎ出いでな」(『万葉集』)。
 「昔、男初冠して、平城の京春日の郷に、しるよしして、狩りにいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。」(『伊勢物語』)
 ▼中世の日本人はかくも情緒にみちていた
 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶ泡沫(うたかた)はかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」(『方丈記』)
 『平家物語』の書き出しは誰もが知っている。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。 奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。 猛き者も遂にはほろびぬ、 偏(ひとへ)に風の前の塵におなじ」。
 『太平記』の書き出しは「蒙(もう)竊(ひそ)かに古今の変化を探つて、安危の所由を察(み)るに、覆つて外(ほか)なきは天の徳なり」(『太平記』兵藤祐己校注、岩波文庫版)
「つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ」(『徒然草』)
 古代から平安時代まで日本の文学は無常観を基盤としている。
 江戸時代になると、文章が多彩に変わる。
 井原西鶴の『好色一代男』の書き出しは「「本朝遊女のはじまり、江州の朝妻、播州の室津より事起こりて、いま国々になりぬ」
 上田秋成の『雨月物語』の書き出しはこうだ。
「あふ坂の関守にゆるされてより、秋こし山の黄葉(もみぢ)見過しがたく、浜千鳥の跡ふみつくる鳴海がた、不尽(ふじ)の高嶺の煙、浮島がはら、清見が関、大磯小いその浦々」。
 近代文学は文体がかわって合理性を帯びてくる。
「木曽路はすべて山の中である」(島崎藤村『夜明け前』)
「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜ぬかした事がある」(夏目漱石『坊っちゃん』)
「石炭をば早はや積み果てつ。中等室の卓つくゑのほとりはいと静にて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒らなり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る骨牌カルタ仲間もホテルに宿りて、舟に残れるは余一人ひとりのみなれば」(森鴎外『舞姫』)。
 描写は絵画的になり実生活の情緒が溢れる。
「国境の長いトンネルをぬけると雪国だった」(川端康成『雪国』)
 谷崎潤一郎『細雪』の書き出しは写実的になる。
「『こいさん、頼むわ』。鏡の中で、廊下からうしろへ這入はいって来た妙子を見ると、自分で襟えりを塗りかけていた刷毛はけを渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据みすえながら、『雪子ちゃん下で何してる』と、幸子はきいた」。
 「或春の日暮れです。唐の都洛陽の西の門の下に、ばんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました」(芥川龍之介『杜子春』)
 ▼戦後文学はかなり変質を遂げたが。。。
戦後文学はそれぞれが独自の文体を発揮し始めた。
 「朝、食堂でスウプをひとさじ吸って、お母様が『あ』と幽(かす)かな声をお挙げになった」(太宰治『斜陽』)
 「その頃も旅をしていた。ある国を出て、別の国に入り、そこの首府の学生町の安い旅館で寝たり起きたりして私はその日その日をすごしていた」(開高健『夏の闇』)
 「雪後庵は起伏の多い小石川の高台にあって、幸いに戦災を免れた」(三島由紀夫『宴のあと』)
和歌もかなりの変質を遂げた。
正統派の辞世は
「益荒男が 手挟む太刀の鞘鳴りに 幾とせ耐えて今日の初霜」(三島由紀夫)
「散るをいとふ 世にも人にも さきがけて 散るこそ花と 吹く小夜嵐」(同)
 サラダ記念日などのような前衛は例外としても、たとえば寺山修司の和歌は
「マッチ擦る つかのま海に霧ふかし 身捨つるほどの 祖国はありや。」
 わずか三十一文字のなかで総てが凝縮されている。そこから想像が拡がっていく。
 こうした絶望、空虚、無常を表す人間の微細な感情は、喜怒哀楽のない機械が想像出来るとはとうてい考えられないのである。
AIは人間の霊感、霊的な精神の営みをこえることはない。
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kennak · 9 months
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30代女性。セクシャリティがよくわからないので性欲と性癖について聞いてほしい。  【幼少期】小さい頃から性欲が強くよく父親の持っている週刊誌のグラビアページを見てニヤニヤしていた。セーラームーンのアニメが大好きで戦闘シーンのパンチラ(レオタードなので正確にはパンチラではない)をコマ送りにしてもらって喜んでいた。幼稚園で親友の女の子が用を足しているのをドアの上から覗いたり(ごめんなさい)公衆トイレで母親が用を足しているのをドアの下から覗いたり(ごめんなさい)公園で母親のスカートをめくって死ぬほど怒られたり(ごめんなさい)母親の実家に帰省したとき叔母の風呂を覗いたりした。(ごめんなさい)ただその後ふつうに叔母に風呂に入れてもらったときは恥ずかしくてずっと下を向いていたので、単に裸が好きというより相手の意に反して隠されているところを晒したいという加害欲込みだったんだと思う。  女体に興奮するのとは別に手のひらサイズの小さくてかわいい生き物を狭い所に閉じ込めてつついたりしたいという欲求もあった。ディズニーの「不思議の国のアリス」で牡蠣の赤ちゃんたちがまとめてセイウチに食べられるシーンの顔と悲鳴はたまらなかった。よく妖精のような生き物をいじめる妄想をしたけど自分はその対象が好きなのにいじめるとその対象に嫌われちゃうな…というジレンマがあった。  【小学生時代】夕方に再放送していた水戸黄門や大岡越前で町娘が悪いおっさんに手籠めにされそうになるシーンにものすごく興奮した。ただ子供なので裸に剝いたあとどうするのかはわからなかった。病院の待合室のテレビでそういうシーンが流れたとき明らかにいつもより人が見入っていてなぁんだみんな好きなんだとちょっと安心した。この頃まで性的対象は女性だった。(本当に女性が好きなのかショタや男の娘みたいに性的客体化されていれば男性でもよかったのかはわからない)  【中学生時代】オタク女性向けサブカル雑誌「ぱふ」を読む。記事や投稿コーナーで腐女子が男性キャラに「美人」とか「エロい」と言って盛り上がっている様子を読んで「男の人をそういう目で見ていいんだ…!」「男性を女性と同じようにオカズ要員として扱う界隈がこの世にあるんだ…!」という人生最大のカルチャーショックを受ける。ここらへんで主な性欲の対象が男性に移り変わる。リアルの恋愛には興味がなく周りの女の子たちがどうしてアイドルや恋バナに夢中になっているのか理解できなかった(今でもどんな人がタイプ?とか嵐だと誰が好き?と聞かれてもわからないので困る)  【高校生時代】テニプリ、BLEACH、銀魂、リボーンなど腐女子に人気のあるジャンプ漫画の全盛期で毎日起きた瞬間から寝る直前まで推しキャラや推しカプの��とを考えていた。一番好きなのは受けがモブおじさんや攻めにレイプされる展開でそういう二次創作を読んだり妄想したりした。メインで好きなのはBLだったけど平行して女体に興奮するヘキも残っていたので、ドラマや漫画の女性登場人物がヌード写真集を見て嫌がるシーンを見て「これが一般的な女性の反応で見入ってしまう自分は異常なのではないか…」と不安になる。  【大学生時代】ゆっくり虐待にハマる。ウザいゆっくりに制裁を加えるよりキュートアグレッションの文脈で性的虐待する展開の方が好きだった。これは自分でもさすがにヤバい趣味だと思うので誰にも話したことはないし記憶に蓋をして努めて考えないようにしている。  この頃から刀剣乱舞など女性向けキャラカタログコンテンツが流行し、少年漫画には存在しなかった自分のアバターが作品内に登場したことで男性キャラ×自分にも萌えるようになる。(メインは男性キャラ×男性キャラで活動してたけど)思春期のころは自分の全てにコンプレックスがあって(今もあるけど)自分がかっこいい男性キャラと特別な関係になるのが厚かましいようで苦手だったんだけど、普段性的客体化している男性キャラへ向ける攻撃性を自分へ反転すれば夢妄想もイケることに気付く。かっこよくて悪い攻めキャラにレイプされたり利用されて捨てられる妄想が好きになる。  【現在】性欲が減退したのか妄想や二次創作自体以前より楽しめなくなった。BLはそこまで興味なくて男性キャラ×自分で妄想してる。(内容は催眠とかレイプとか)フィクションより現実世界のことに興味が出てくる。  ここから悩み相談になるんですが①女性なのに女体に興奮するのはなぜなのか?バイなのか?②幼少期から現在に至るまでレイプものが一番好きなのは異常か?③キュートアグレッションがあるのはヤバいか?  ①について以前朝日新聞の人生相談コーナーに「私は男性が好きで結婚もしているけれどAV鑑賞が好きで、若い頃は女友達と観てゲラゲラ笑ったりしていた。これはどういう心理なのか?女優に感情移入しているのか?」という相談があって、上野千鶴子が「女体=エロい 男体=エロくない という社会のジェンダー規範を内面化していれば女性が女性に性的興奮するのは何もおかしなことじゃない」的な回答をしていて長年の疑問が解けた…!と思ったんだけど、その理屈だと私が社会経験の乏しい幼少期から女体の秘匿された部分に強い関心を持っていたのが説明できないのでは…?やっぱり本能なのか?と気になっている。②についてDLsiteの乙女向けランキングでは無理矢理凌辱系が常連なのでそんなことはないと思いたい。ただレイプものが好きと言ってもポルノあるいは自分がポルノ認定した作品のレイプ展開が好きなのであって、普通に楽しんでいた作品でキャラクターがレイプされるとショックで何年も引きずったりする。「日出処の天子」の刀自古と「ダウントンアビー」のアンナの件はトラウマになっている。③について最近もセイレーンに味噌漬けにされるモブちいかわ族に加害欲を喚起されて困っている。(嫌いだからいじめたいんじゃなくて可愛いからいじめたいという気持ち)  なんでこんなことを聞いてほしいのかというと自分の性癖がはっきりしないまま婚活とかしていいのかな…?と気になったから。人付き合いが苦手なのと怠惰な性格と2011年氷河期卒で一度も就職したことがなくて婚活市場のスタートラインにすら立てないのと中学から大学卒業までぼっちで一時期いじめられたり学校生活にろくな思い出がなくてもし子供なんかできたら自分の黒歴史の再放送を見る羽目になりそうなのが不安で今まで一度も人とお付き合いしたことがない。そもそも人に恋をしたことがない。一人の方が気楽だけど「二次元キャラじゃない生きてる人間と恋愛する」「セックスする」という人生の実績解除をしたい気持ちもあって…めちゃくちゃ自分本位で申し訳ないですが…。そこで自分のセクシャリティとか性癖に引っかかるところがあるのにそれを隠したまま恋愛とか婚活するのは不誠実かな?というのが気になって行動に移せないでいる。あと男性は慣れてない分自分が性的客体化されるのは嫌じゃないか?とか。  まとめると・女性なのに学生時代は勉強に集中できない程エロいことで頭がいっぱい・ドハマりしたキャラの8割は男性だけど視覚的にエロいと思うのは男体より女体・男性を好きになるのにも腐視点と夢視点で二種類ある・リアルの人間に恋をしたことがない。テレビで見てかっこいいなと思うことはあっても熱が持続しない・性的な妄想は好きだけど自己肯定感が低いからか自分がリアルに当事者になるのは嫌悪感や恥ずかしさがある・性欲と加害欲が結び付きがち  アラサーあたりから下の二項目が結びついて「自分を性的客体化されることが地雷な私が犯されるのを客観的に見て可哀想だと思って興奮する自分」みたいなよくわからないことになってる。まあSとMは表裏一体とも聞くし…。「性欲と加害欲をぶつける愛しい他者」が「性欲と加害欲をぶつける愛しい自分」にチェンジしたのかな?そう思うと人生の主役が30代半ばにしてやっと二次元から本人になった気がするけどもう手遅れな気がする。  【追記】長いのでそもそも読んでもらえないんじゃないかと思っていたのですが皆さん意外と真面目に読んでくださって体験談やアドバイスなどもいただけててうれしいです。特に同じ女性と思しきユーザーからの共感、AVや男性向けアダルトコンテンツ好きな女性も多いのがわかってほっとしました。もっとボロクソに言われても仕方ないと思っていたら意外と「ごく普通、実行に移さなければ問題ない。婚活でもわざわざ言う必要はない」というブコメが多くて驚いています。「性癖」の誤用についてめちゃくちゃ指摘されてた。日常的に誤用の方で使っていたのでつい…以後気を付けます。あと「一度も就職したことがない」と書いたので「子供部屋おばさんニートなのか?」とのコメントが多かったですがバイトはしてます。(パートやアルバイトの場合就職という言葉は使わないそうなので)子供部屋おばさんなのはその通りです お恥ずかしい…。以下答えられそうな範囲で返信。  「女性が女性に対しての欲望を持つって言うのはラカンかなんかで読んだ気がするな。ほぼ忘れてるから説明できんけど笑"女は存在しない"だっけ。男のホモセクシャルというのは存在するが女のレズビアンはない、女を愛するのは(身体)男にとっても(身体)女にとっても正常。なぜなら(身体女は存在するが)精神が女は存在しないから、みたいなこと書いてあった希ガス。」  「女は不死である」って本ですかね?すごく興味を惹かれました。読んでみたいです。  「なにが元増田に対して言いたいかって言うと、自分の性癖に怖がらずに、むしろ色々取り入れたらいいんじゃないかってこと。あとレイプ陵辱暴力は確かに興奮するけど、例えるならばめっちゃ味の濃い料理なので、そればっか食ってたら舌が鈍くなるんじゃないかってこと。まあ鈍くなってもいいと思うけどね、自分の人生だし。」  味の濃い料理めちゃくちゃわかります…!どんどん強い刺激に慣れてしまってふつうの萌えに不感症になるのよくないですよね…。  「②については仕事してた身から言うと、受ける側が積極性を持たない極限がレものだ。マグロのフィクション版というか…。ただそこに首絞められとか腹パンされ嘔吐、腹ボコなどが入ってくると別の願望になるよ」「レイプって自分から何かする事ないし、なんならセックスするかどうかの決定自体も「されてしまった」にする完全なる受動的性行為なんだよ。」  めちゃくちゃ納得しました。よく「令嬢が政略結婚させられるけど実は両想いで…」みたいなTL漫画の広告が流れてきますがそういう「良好な人間関係を築く手間をすっ飛ばして素敵な相手と一緒になりたい」みたいな需要のもっと極端なやつってことか。    『婚活の理由が「恋愛」と「セックス」だけど、婚活とはそこ意外と関係ないから気を付けて。婚活は「これから人生を共に生きるパートナー」を見つけるところであって恋愛したことない人を恋愛させる機関じゃないぞ。セックスの可否ももちろん夫婦生活に影響でるけど…』「それよりも、自分に結婚が本当に必要かどうか、掘り下げた方が良いのでは。」「婚活は時期尚早ではないかな まず出会いの場に行って自分が人を好きになる感覚があるのかトライしつつ、自分の食い扶持を自分で稼ぐ経済的自立をするのがまず大前提では」  それは本当にそうですね…。言われてからよく考えたら「結婚したい」じゃなくて「結婚したいと思えるほどリアルの世界で好きな人が欲しい」だったかもしれません…。  『「女性はエロいことに興味がないもの」みたいな社会通念が女性の生きづらさに繋がっている気もする。性別に関係なく性欲の多様性はある』  実際最近女性の性欲について解説した増田の内容が非常に理性的だったのと、「俺のイメージする女性の性欲に近い」というブコメが上位に来ていたので「そうじゃない奴もいるよー」と知ってほしくて書いたところはあります。(ただ私の文章読んで女だって性欲まみれじゃないか!と思われるのも世の女性に迷惑かけないか心配になってきた…)  「言っちゃ悪いけどクソしょうもない凡庸な悩み。長文書いていいのはやかんが沸騰するの見て興奮するとかそんなレベル。」「正直どうでもいい凡庸な自分語りだけど一度も就職したことなくて今何してるんだ?婚活してる場合だろうか。たぶんその前に友達作るとこから始めた方が良さそう。性癖以前にコミュニケーションに問題ありそう。」  そう言われましてもアンケートとか取ったことないし本当にわからなかったので…。みんな普通に友人と何に勃つかとか何に萎えるとか会話するものなんですか?羨ましいです…。  「こういう長文を書くのは最も増田らしい増田の使い方のひとつだと思うしみんなどんどん書いてほしい。」  優しい。  『性癖や嗜好よりも学生時代のいじめとコミュニケーション不全の方が問題。現実逃避からやっと今に目が配れるようになったと。あなたに告げたいのは「これからよくなるから大丈夫」てこと。』  優しい。泣く。  「性欲が強いと豪語するなら、自分の自慰行為や性行為について語らなければそれは性欲として見做すことは間違っている。同性が性的に辱められている不様さを愉悦する悪趣味なだけだ。同性の友人の不幸にも興奮してそう」  それは全然違います。男性キャラがレイプされると女性キャラと同じくらいかそれ以上に興奮するので「同性が性的に辱められている不様さを愉悦する」には当てはまらないし、本文にも書いてありますが「好きor可愛い」と思っているキャラがひどい目に遭う展開に興奮するのでむしろ制裁されてスカッとするようなキャラがレイプされも全く嬉しくありません。「同性の友人の不幸にも興奮してそう」←尊敬するフォロイーの痴漢され報告ツイートを見てその人の良さを何も理解していない知らない男に雑に消費されたのが悲しくて未だにふっと思い出して嫌な気持ちになるのでそういうことを言われると腹が立ちます。侮辱された気分です。
自分の性欲と性癖について聞いてほしい。【追記】
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rosysnow · 2 months
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火炎がはじけて
Tumblr media
 欲しくて、喉が渇いて、息が切れる。
 あなたに触れる。そんな夢を見る。何度も。あなたと恋に落ちる夢を見る。
 きっと叶わないんだ。それでも求めて、飢えて、潤いに包まれたいと願う。
 果肉みたいに咬みつきたい。シロップのように舐めたい。香り立つその肌の熱を、俺の熱でめちゃくちゃにしたい。
「にーちゃん、俺、今日もゆったんのとこだからなっ」
 牛乳をぶっかけたコーンフレークをがつがつ食らいながら、弟の光斗はそう言った。制服に着替えながら歯を磨き、さらに光斗が食べこぼしをやらないか見張る俺は、歯ブラシを含むまま「またかよ」と答える。
「いいだろー。にーちゃん待ってるだけなの、つまんないもん」
 俺は肩をすくめて、「勝手にしろ」と光斗に背を向ける。
 だって、やばい。顔が笑ってしまうのをこらえられない。
 単にそれだけだったのに、「にーちゃん、怒ったの?」と光斗は急に不安そうな声を出す。だから俺は、何だかんだ弟に甘い。「怒ってねえよ」と歯ブラシを吐き出してきちんと言うと、「よかった!」と光斗はすぐ笑顔になり、コーンフレークにラストスパートをかける。
 こないだ連休が過ぎて、高校生になった春は終わりかけている。早くも熱中症アラートが出る初夏だ。窓からの朝陽は、レーザーみたいに視覚を焼く。
 光斗は、俺が小六のときに生まれた弟だ。妊娠を聞かされたとき、性教育済みの俺は「え? とうさんとかあさん、今もやってんの?」と真っ先に思った。そんな複雑な吐き気も覚える中、光斗は誕生して、���歳になるまでは育休を取ったかあさんが面倒を見ていた。
 しかし、仕事というものは無情なものだ。これ以上育休するならいったん退職してくださいと、かあさんにお達しが来た。俺の親ものんきなタイプではないので、元から保活はしていたのだが、これがなかなか決まらない。
 光斗は人見知りなところがある。勇気を出して、同じ組の子に話しかける努力はするのだが、あとから「俺、もしかしてうざかったかもしれない」とか盛大に反省会を始める。「うざかったら一緒に遊ばないだろう」ととうさんが言っても、「みんな我慢してたかもしんないじゃん!」と泣き出すこじらせっぷりだ。
 だから、今の保育園に体験入園して、「ゆったん」こと早田勇多くんと光斗が見事に打ち解けられたときは、家族総出で喜んで入園希望を申し込んだ。空きがまわってきたのがこの春で、やっと光斗は楽しげに保育園に通うようになった。
 俺は俺で高校に進学したところだったが、それは二の次だった。両親は朝六時半には家を出て、電車で長距離通勤をしている。だから、光斗を起こし、食わせ、支度を手伝い、ちゃんと保育園の送迎バスに乗せるまでは、暗黙の了解で俺の仕事だった。
 高校に着くのは遅刻寸前だ。弟の面倒を見ていると言っても、生活指導の先公はいい顔をしない。どこから聞きつけるのか、俺のその弁解を知って、女子には「言い訳がブラコンだよねー」とか言われている。分かってくれるのは、男友達だけだ。
 でも、いいんだ。同クラの女子連中なんか、俺も興味はない。俺には好きな人がいる。
 保育園は十五時で終わるが、家庭の都合がある子供たちは、夜まで預かってもらえる。最初、光斗には保育園に残ってもらい、俺が放課後に連れ帰る予定だった。ところが、光斗愛しのゆったんは、十五時にゆったんママが迎えに来て帰ってしまうのだ。
 ゆったんが去ったあとの光斗は、真っ白な灰らしい。「にーちゃん、学校辞めて迎えに来いよ!」と光斗は家で半泣きになって、わがままを言い出しはじめていた。
 そのことを保育士さんに聞いたゆったんママが、「光斗くんのご家族さえよければ」と俺の放課後まで光斗を預かることを申し出た。もちろん恐縮すぎる話で、両親は気持ちには感謝して断ろうとしたが、「勇多も光斗くんを置いて帰るのが心配そうなので」とゆったんママは言い添えてくれた。
 かくして、光斗はほぼ毎日ゆったん宅にお邪魔して、やっと機嫌を直した。ゆったんの家が都合悪いときは、遠慮なく光斗を置いていってくださいとは伝えてある。だから、たまに保育園に迎えにいくこともあるが、基本的には俺はゆったんの家に光斗を迎えにいっていた。
 ゆったんママと初めて顔を合わせたときは、地味だな、と思った。目を引く美人ではない。長い髪は黒く、眼鏡もかけている。高校生の俺にとっては、子持ちの時点で若さすら感じない。
 俺が迎えに来ても、光斗はおとなしく帰るわけではない。ゆったんと長々遊び、そのあいだ、俺は一軒家の玄関先でゆったんママと世間話をしている。いい加減遅いと、俺は家に上がらせてもらって、子供部屋から光斗を強制連行する。
 その日も、光斗はなかなか子供部屋から出てこなかった。夕陽が射してくるのを合図に、「遅いっすね」と俺が言うと、ゆったんママは苦笑して「連れてきてあげてください」と俺を家に通す。俺はスニーカーを脱いで、二階の子供部屋に向かった。
 ため息をついて、少し茶色を入れた髪をかきむしり、今日はどう言って引っ張るかな、とドアの前で思案した。そのとき、不意に「みっちゃん」とゆったんが光斗に話しかける声が聞こえてきた。
「みっちゃんは、自分でおまた触ったりする?」
 俺は動きを止め、板張りのドアを見た。
「んー、ちんちん触るってこと?」
「分かんないけど……」
「にーちゃんは触ってるときがあるな」
 何この弟、ちょい待て、それ以上言わんでくれ。
「ほんと?」
 何で食いつくんだよゆったん、もうやめてくれ。
「やっぱり、大人は自分のおまた触るのかなあ」
「ゆったん触るの?」
「僕は触んない……だって、おしっこするとこだもん」
「俺もそう思うからあんまり触らない。洗うだけ」
「そうだよね。でもね、ママは自分のおまた触ってるの。眠ってるパパの隣で──」
 俺は目を開き、とっさに、その先を聞く前に、「おい、光斗っ」と俺はドアに向かって声をあげた。
「帰るぞっ。その……もう、暗いしっ」
「えー……」とか言う光斗の声が聞こえたが、「早くしろっ」と俺は乱暴に言う。
 やばい。やばいやばいやばい。
 頭の中が暴れるみたいにそう思っていると、ちょっと不安そうな顔になった光斗が顔を出した。
「にーちゃん──」
「お、怒ってねえよっ。腹減ったしさ。遅いと、かあさんが先に帰ってくるかもしんねえし。あ、ゆったん、今日もありがとな」
 細身で背の高いゆったんはこくんとして、「見送るね」と立ち上がった。ゆったんが隣に来ると、「行こっ」と光斗ははしゃいだ顔になって、ふたりは一階に降りていく。
 ふーっと息をついて、ばくばくと腫れ上がる心臓を抑え、俺も一階に降りた。子供たちが靴を履いている玄関に、足を向ける。
「あ、克斗くん。ごめんなさい、今日も遅くしちゃって」
 ゆったんママが普通に話しかけてくる。俺は顔をあげられないけど、「え……っ」とぎこちない声は出す。
「あ、『暗いし』って言ってるの、ここまで聞こえて」
「……あ、いや。すみません」
「ううん、本当に暗くなっちゃったもんね。よかったら、私が車で送ろうか」
「そんな……ぜんぜん、大丈夫っす」
 今まで何とも思わず、聞き流していたゆったんママの声が、急に艶やかな大人の女性の声だと気づく。視線の先が定まらない。せわしなくまばたきをしてしまう。「克斗くん?」とゆったんママの声が近づいて、俺はびくんと顔をあげてしまう。
「どうしたの?」
 あ……けっこう、肌、綺麗じゃん。すっぴんでその肌なら、化粧を覚えてきた女子連中より、ずっといいかも。黒髪も腰がありそうだから、指ですくったらさらさらしてんのかな。唇だけさっと色が乗せられて、桃色がうるうるしている。そして、吸いこんでしまいそうな黒い瞳は、無垢なくらいに澄んでいる、のに──
 ……この人、自分でしてるんだ。
「あ……の、」
「うん?」
「名前……」
「え?」
「あ、いや、そういや俺、ゆったんママって呼んでて、名前知らないなって」
「ああ、そんな……ゆったんママでいいですよ」
「でも」
 すがりつくみたいに、彼女を見てしまう。俺のそんな瞳を受けて、彼女の瞳も揺れる。ややとまどったのち、「咲花です」と彼女ははにかんで答えてくれた。
「咲花……さん」
「呼びにくいでしょう? ゆったんママでいいですから」
 そう言って咲花さんが微笑んだとき、「靴履いたよっ」と光斗の声が割って入った。「僕も!」とゆったんも言い、「勇多は履かなくていいでしょー」と咲花さんはあきれたように咲う。
「にーちゃん、帰ろっ。俺も腹減った!」
「お……おう。そうだな」
 俺は動作がぎすぎすしないように、スニーカーを履く。「明日もおいでね」と咲花さんが光斗の頭を撫ででいる。
 白いすらりとした指。あー、どんな味がするんだろ。
 無意識にそう思って、俺は慌てて目をそらした。「じゃあ、失礼します」と頭を下げて、咲花さんの眼鏡の奥まで直視できないまま、俺はゆったん宅をあとにした。
 ──その夜、俺は咲花さんを想って、した。何度も。口元から咲花さんの名前がこぼれた。返事なんかない。それでも、誰かの──求める相手の名前を口にしながらすると、手の中に吐く瞬間、たまらなく気持ちよかった。
 ダメだ。バカみてえ。ガキの話を盗み聞きしたのが切っかけとかマジでアホか。
 でも、俺は一気にあの人が欲しくなった。自分でしなくても、俺がなぐさめるのにとか思ってしまう。あの人と恋に落ちれば叶うなら、すべてから奪って、俺の腕の中にさらいたくなる。
 そして、自分のシーツに熱い吐息をこすりつけて、俺はまた自分の右手でなぐさめる。
 咲花さんに報われぬ恋をするまま、梅雨は過ぎて夏が来た。夏休みは自由登園になる。「おにーちゃんとおうちで過ごせるね」とかあさんが言うと、光斗はびっくりした顔をして、「俺、ゆったんと遊ぶから保育園行くよ!」と当然のように答えた。「振られたな」ととうさんが笑って、「うっせ」と俺は吐き捨てつつ、じゃあ夏休みも咲花さんに会えるんだ、と内心浮かれた。
 が、よく考えたら、俺は夏休みにはもちろん学校を休むので、十五時に光斗を迎えにいけるのだった。咲花さんとは、保育園で立ち話ぐらいはするが、ロミジュリみたいに光斗とゆったんを引き離すのが主な仕事だった。
 二学期が始まり、ようやく元通りの毎日になった。俺はもう咲花さんの前でぎこちなくなったりはしなかったけど、つい照れて目を伏せたり、優しい言葉に頬が染まったり、こめかみに響くほど鼓動が脈打ったりしてしまう。どんどん咲花さんのことが好きになっていく。その手に手を伸ばして、指を絡めたくなる。
 ゆっくり、日が短くなっていく。夕暮れが早くなる。もっと咲花さんといたいのに。俺は焦がれて苦しい胸に息を吐きながら、光斗と家に帰る。
「──克斗、明日どうしても仕事で残らなきゃいけなくてね。おとうさんも遅いだろうし、好きな出前でも取ってくれる?」
 九月が終わりかけた夜、風呂上がりの俺をつかまえて、かあさんが申し訳なさそうにそう言った。俺は握らされた紙幣を見て、「んー、了解」と深く考えずにうなずいた。翌朝、光斗にそれを言うと、「ピザ食いたい!」とのリクエストも承った。ピザは確かに悪くない、とか俺も思っていたのたけど──
「それなら、うちで食べていきなよ」
 例によってゆったん宅に光斗を迎えにいき、世間話の中で今夜は出前だというと、咲花さんは当たり前のように言った。
「え、でも」
「今からでも、買い足し行けば間に合うから」
「いや、けど、かあさんに金もらっちゃったし──」
「気になるなら返せばいいし、何なら、克斗くんがもらっちゃってもいいんじゃないかな」
 悪戯っぽく咲花さんが咲って、「そ、そうなのかな」と俺も現金ながら揺らいでしまう。そんな俺に、「もらっちゃえ」と咲花さんが少し俺の耳元に近づいてささやいた。
「私、ちゃんと秘密にするから」
 俺は咲花さんを見た。咲花さんはすぐ身を離し、「じゃあ、急いで買い物行かないと」と言った。
「俺、せめて荷物持ちますよ」
「ありがとう。でも、子供たちがいるから。家にいてくれると安心かな」
「あ、そっか。そうっすね……」
 別に寂しそうに言ったつもりはないのだが、咲花さんにはそう見えたのだろうか。少し考えたのち、「じゃあ、みんなで買い物行こうか」と咲花さんは提案してくれた。俺はぱっと顔をあげて、つい笑んでしまいながらうなずく。すると咲花さんもおっとり微笑してくれて、また、俺の中がちりちりと焦がされる。
 そんなわけで、俺と咲花さん、光斗とゆったんで近所のスーパーに行った。光斗とゆったんは、一緒にお菓子を選べるのがそうとう嬉しかったようで、はしゃいでいた。そんな子供たちを、咲花さんは愛おしそうに見つめている。
 子供たちのリクエストで、夕食はチーズハンバーグに切り替わり、結局買い足しでなく一から食材を買った。帰り道、俺は宣言通り荷物を持たせてもらった。咲花さんは遠慮しようとしたけど、ちょっと強引に俺がエコバッグを奪うと、「ごめんね」と言いつつ任せてくれた。
 秋の夕暮れが景色を染めていた。一軒家が並ぶ住宅街に、茜色が透けて映っている。空は高く、沈みゆく太陽が滲ませるオレンジにしっとり彩られて、明日も晴天のようだった。
 道端で遊んでいた小学生は、夕飯の匂いや灯った明かりに気づいて、手を振りあって家に帰っていく。すうっと抜けていく風は、すっかり涼しい。
 俺は隣を歩く咲花さんをちらちら見た。眼鏡のレンズに触れそうな長い睫毛、柔らかそうな頬やしなやかな首。高校生の俺には若くないなんて前は思っていたけど、やっぱり子供ひとり生んだだけだから、まだ腰も綺麗にくびれている。
 俺の視線に気づいたのかどうか、咲花さんはこちらを見て微笑む。夕陽に蕩けそうな、優しい笑顔だ。俺は切ないくらいにぱちぱち灯る心に、つい照れたような笑みになってしまう。
 家に到着すると、咲花さんはすぐキッチンに立った。「手伝いましょうか」と料理ができるわけでもないのに言ったら、「大丈夫、子供たちを見てて」と咲花さんは俺にリビングにうながした。
 光斗とゆったんは、DVDでアニメの劇場版を観始めていた。俺も幼い頃は夢中になったアニメだ。そんなふうにきらきらした目でこのアニメを観ていたのに、いつから観なくなったっけ。
 じゅーっというハンバーグの焼ける音と、そのおいしそうな匂いがただよってくる。さすがに俺も盛りつけくらいは手伝えるので、キッチンに立った。チーズハンバーグ、ほかほかのライス、マカロニサラダとコーンスープ。子供たちはちょうどアニメを観終わり、歓声を上げてダイニングのテーブルで待機に入った。
 テーブルに並べた料理は、俺と光斗とゆったん、三人で食べはじめた。「咲花さんはいいんですか?」と気になって問うと、「旦那と食べるから」と返され、俺の心にはちくりと影が射した。
 いや、でも、好きな人の手料理を食えるのは幸せなことだよな。そう思って、とろりとハンバーグからあふれるチーズをフォークですくっていると、玄関のほうで物音がした。咲花さんはすぐそちらに行き、もしや、と俺が緊張すると、現れたのはビジネススーツの男──「パパ」とゆったんがその男を呼んだ。ということは、やっぱり咲花さんの旦那か。
 旦那は真っ先に俺を見た。俺は頭を下げ、「すみません、お邪魔してます」と月並みに言い、「ゆったんパパに挨拶しろ」と光斗にも「こんばんは!」と言わせた。「勇多のお友達と、そのおにいさんなの」と咲花さんが言うと、旦那はそちらには「そうか」とそっけなかったが、「ゆっくりしていってね」と俺と光斗には笑顔で言って、ゆったんの頭も撫でた。
「あなたも勇多たちと食べる?」
「いや、食ってきたから」
「えっ、……ごめんなさい、夕飯いらないって連絡もらってたかな」
「あー……どうだったかな。ばたばたして、してなかったかもしれない」
「……そう。じゃあ、私、この子たちと食べようかな」
「ああ、そうしろ。俺は風呂に入ってくる」
 ビジネスバッグを置いた旦那は、ネクタイを緩めながらリビングを立ち去っていった。元気に振る舞っていた咲花さんが、一瞬、哀しそうに視線を伏せる。
 ああ、あいつが好きなんだ。そうだよな。気持ちが冷めてたら、そんな顔はしない。ましてや、寝てる隣でみずからなぐさめるなんて──
 よく分かっていても、それ以来、俺は光斗を迎えにいったとき、世間話の中で積極的に咲花さんを褒めたり励ましたりした。咲花さんが、そういう言葉を言ってほしい相手は俺じゃない。知っていたけど、俺は咲花さんをせめて言葉で癒やしたいと思った。
 玄関に橙色が映り、夕陽が射す。相変わらず、それがお別れの合図だ。咲花さんとゆったんに手を振り、俺と光斗は家路につく。
 俺に手を引かれながら、「何か、帰る時間早いよ」と光斗はむくれる。「これから日が短くなるからなー」と俺は雑に説明する。俺だって咲花さんと話す時間が減るの寂しいんだよ、とは言わない。
「ねー、にーちゃん」
「んー?」
「ゆったんのパパとママ、昨日喧嘩してたんだって」
「えっ」
「おっきい声が怖くて、ゆったん部屋で泣いてたんだって。そしたらパパが来て、『今度、違うママに会わないか』って言われたって」
「は……?」
「ゆったん、意味が分からなくて泣いてて、そしたらママが来てまた喧嘩してたって」
「……そう、か」
「ゆったんのママは、ゆったんのママしかいないよね? 『違うママ』って何? 俺、分かんなくて。にーちゃんには訊いてもいいよって、ゆったん言ってたから」
 俺は口をつぐむしかなかった。月が浮かぶ夜道に、ふたりぶんの足音だけ残る。「にーちゃん」と答えをせがまれたが、「俺も分かんねえよ」と言うと、光斗はただ不安そうな表情になった。
 ……あの男、ほかに女いるのか。ぼんやりそう思って、とっさに瞳に怒りが揺らめいた。が、それはすぐに鎮まった。
 だったら、俺が咲花さんを奪えばいい。咲花さんの孤独の隙間に入って、そこにひそみ、あの熟した唇を奪うのだ。
 そうしたら、あの唇はどんな味がするのだろう。そう思っただけで、妄想がはちきれそうになる。欲しい。どうしても欲しい。ぱちぱちと弱く灯っていった欲望が、ばちばちと強い火炎になっていく。
 咲花さんが欲しくて気がふれそうになる。抱きしめたい。キスしたい。つらぬいて俺のものにしたい。
 だが、どんな事実があっても、俺と咲花さんの距離は一向に縮まらなかった。俺は見ているだけだった。不意に苦しそうにうつむく咲花さんを、見ているだけ。
 やっと残暑が身をひそめた十月半ば、その日も俺は、玄関先で咲花さん���とりとめなく世間話をしていた。今日も今日とて、光斗が二階から降りてくるのは遅い。
 ふと会話が沈黙になり、俺は咲花さんを見た。
「なあに?」
 何事もないみたいに、咲花さんは笑みを作る。俺には、そんな無理はしなくていいのに。
「何でも……ないっす」
 少し声がかすれた俺を、咲花さんは見つめる。
 抱きしめたい。咬みつきたい。奥まで突き上げたい。俺があなたを満たしたい。そして、その心をあんな旦那からさらってやるんだ。
 バターみたいに柔らかそうな肌と、蕩けるほどに肌を重ねたい。水蜜のように瑞々しい肌に歯を立て、俺の痕跡を残したい。
 食べたいんだ、俺はあなたを食べてしまいたい。
 想いがどんどん強い火炎になって、意識も心情も視界も焦がされてしまう。
「……光斗、遅いっすね」
 かすかなため息と刹那のまばたきで、気だるくなりそうなめまいをはらうと、俺はそう言った。
「そう、だね」
「ちょっと、呼んできます」
「うん」
「失礼します」と断って家に上がった。咲花さんと、顔を合わせられない。こんな、泣きそうに恋に愁えた目。そのまま階段を向かうと、不意に、咲花さんが俺の名前を呼んだ。
 俺は足を止め、咲花さんを振り返る。
「まだ、待って」
「えっ?」
「まだなの」
 俺はきょとんとした。けれど、咲花さんの瞳に宿るものに気づいて、はっと息を飲む。
 ──俺と同じ、恋に愁えた潤み。
 思わず、玄関に駆け戻っていた。腕を伸ばす。咲花さんの腰をつかまえる。強く引き寄せ、ひと息にキス。
 果実を貪るようなキス。壁に抑えつけ、立ったまま行為に至ってしまいそうなキス。
 でも、咲花さんはそうなる前に俺と軆を離した。
「まだよ」
 頭の中が、甘い発熱にくらくらする。まだ? まだってことは、いつか俺は許されるのか? その皮膚をちぎるみたいに咬んで、彼女に深く深く届けることができるのか?
 引き攣った息がこぼれる。「我慢できない」と口走っていた。自分でも驚く、低い男の声だった。でも咲花さんは、「まだ見ていて」と意地悪を言う。
「今は、ダメ」
 ああもう。そんな優しい声で言わないでくれよ。俺は言うことを聞くしかないじゃないか。
 そのときだった。階段を駆け下りてくる足音に、「にーちゃん、帰ろーっ」と光斗の声が重なった。我に返った俺は、はたとそちらを見て「お、おう」と何とか自然を取りつくろう。
「え、と……じゃあ、失礼しました」
 スニーカーを履き直した俺が言うと、何もなかったみたいに咲花さんは笑顔を作る。「また明日ね」と言ったゆったんに、「うんっ」と光斗は笑顔で答えている。
 緩やかに暗くなる夕暮れの中で、咲花さんは微笑んでいた。ちゃんと言うこと聞けるかな、と思った。我慢なんて、本当にできるのか? だって、火炎がはじけて止まらないんだよ。
 あなたと恋に落ちたい。獣みたいに皮膚に歯を立てて、果汁を飲み干して潤いたい。俺はからからだ。飢えて、渇いて、おかしくなりそうだ。
 あなたもそうなんだって分かった。だったら、俺たちのやることはひとつじゃないか。
 夕陽が射しこむ部屋で、熟れたあなたはオレンジ色で。俺はきつく抱きしめて、俺はその果肉を食べる。誰よりも味わって食べるよ。この火炎をぶつけて、焦がれるような想いを思い知らせ、あなたの濃い蜜をこくんと飲みこむ。
 まだ待って──そう言うなら、ぎりぎりまでこらえるけど、待つほど俺が獣になるのは分かるよな? だから、あんまり待たせないでくれ。焦らさないでくれよ。俺はあなたの心を、軆を、優しく奪いたい。
 あるいは、あなたは獣になった俺にめちゃくちゃにされたいのだろうか。だとしたら、俺は──
「にーちゃん」
 光斗が、歩きながら何も言わない俺を手を引っ張る。心配性な弟に、「怒ってねえから」と俺は苦笑していつも通り言う。
 マンションの群衆に入り、もうすぐ家に着く。吐息が疼く。呼吸ができないほど。
 熟れきった心と軆を交わし、恋に落ちていく。ずっと夢に見ていた。あなたと恋に落ちる夢を見ていた。いつのまにか馨しい夢は目の前にあり、俺の理性は、爆発して壊れてしまいそうだ。
 欲望の火炎がはじける。あなたを求めるその熱に、俺の頭はもう狂ってしまう。
 立ち並ぶマンションの合間に月の光を見つけた。その輪郭は、燃えているみたいに、あるいは潮騒みたいに、ざわめいて見えた。
 FIN
【SPECIAL THANKS】 メロウ/杉野淳子 『成長痛』収録
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onishihitsuji84 · 3 months
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春のサンドイッチ
 四月、うそだろう?  きょう、僕は画面の右下の数字をにらみつける――2024/04/03。ちょっと、あまりいろんなことを考えたくない感じがある。数字を数字として受け入れたくないきもちが浮かぶ。  ここ半月ほどの、春という、「解放」を表現してる暖かさのために、あらゆる時間はするすると過ぎ去っていった。四月、雪どけ水は自由自在に町を流れた。
***
 この半月ほど、僕はそんなに小説を書いていない。 「そんなに書いていない」というのは、ほんとうだった。三月の終わりまでにつくったのは十ページにも満たない小品ひとつだけだった。  書くことをべつにすれば――社会という庭で、僕が僕の人生を生きるためには対処の必要がある、ごたごたをこなしていた。でも、それは言葉通りではない。ここでの「ごたごた」には気力がなくてだらだらするだとか、小説をやりたいきもちはあるけれどまとまった集中力を(あるいは勇気を)用意できなくてゲーム("Balatro","幸運の大家様"のふたつだ)をして時間がつぶすなんてことが、含まれている。つまり、三月、僕はだらだらしていた。
***
 春のサンドイッチに意味なんてなかった。  コンビニ裏のゴミ捨て場で、ハムときゅうりがむき出しになっていたサンドイッチにもまた、意味なんてなかった。  意味なんてない。 そういうことを受け入れるのは難しかった。そのときに不安な心であればあるほど。
 三月も終わりのころ、あまりに早い時の流れに何もかもをうっちゃりたくなった僕は、こんなふうに書いた(Twitterでね)。  たしかに多少やさぐれはいたけど、べつに、僕が「不安な心」であるわけではなかった。これは、僕ではない他人――たとえばあなたとかに警告するための、言葉だった。 「そんな比喩や物語、ふるまい、あとゲームをして過ごす時間なんかにはなにも意味ないよ」なんてふうに、いちいち言われてウンザリするのが嫌で、それに先手をうつための言葉だった。  とうぜん、そんなのってパラノイアだった=他人が自分をしつこく責め立てているという妄想。  でも、根っこからの空想というわけでもないというのが、問題をややこしくしていた。というのは、他人の口からこのような言葉がとび出したことがあったのだ。それも、僕に向かって。現実において。  もうそれってかなり昔のことだった。あんまり具体的な年月は明かせないけど、実際、もうノーゲームにしてもいいくらい前のことだった。 「ああ。そういえばそんなこともありましたねえ」  おちゃに縁側みたいな、のどかさを装ったにこにこ顔をして、それで受け流してもいい感じになっていた。  でも、僕はねちっこく覚えていたし、ゲームを降りるなんてこともまだしていない。 「言ったあいつはぜんぜん記憶にないかもしれない」なんてことはわかってるけれど。
***
 それでは、きょうの日記はこのあたりで終わる。記事の最後に、きのうとか一昨日にした、Twitterでのつぶやきをここに貼り付けて。  それで、日記でもいい。こんなふうにでも書いてみさえすれば、僕自身の現在みたいなところがちょっとわかりやすくなるようだった。  うん。僕は小説をやってたほうがいい。ゲームやパラノイアに稀なる価値はない。
 でも、小説は書き上げたときはぜったい最悪だった。小説で楽しいのなんて、実際はまるでありきたりだけど浮かんできた瞬間にはぴっちぴちに輝いているアイデアを書き留めるとき、そしてどっぷり集中力の水に沈み込んでいるときに「ああ。表現ってこうやるんだ」ってもう一度感覚を思いだすときの、その二つだけだった。  他の瞬間はぜんぶ苦しかった。耐えがたくみじめな自分の実力に対する”怒りという名の僕自身を殺したいきもち”と”なみだ”、それに”ため息”だけだった。もうずっと前から、「僕は小説家です」だとか、「小説を書いてます」ってひとに話すのが嫌だった。僕のしたあれらが「作品」だとする考えが、一ミリも受け入れられなかったからだ――身の毛のよだつほどに。僕はこっそり書いている。それがいちばんよかった。それがいちばんゆっくりとしたきもちで生きていられた。  けど、このまえ賞に応募した。  また新しいのを書いて、賞に出すつもりだ。
***
月がぬらりとひかる。あなたは空を見上げていた。四月、夜はむらさき色だった。
床に石の環があって、それを迂回して僕は歩いた。 環は僕の歩みに沿って緩やかにつづいた。明るい灰色は四月の光にまたたいては犬のように僕の気を引こうと一生懸命になっていた。
奇妙という言葉はあまりにも魅力的だし、だからこそ絶対つかってはならない言葉だった。ほんとう、それは他の言葉をぜんぶあとにしてしまい、ちりひとつさえ残さないほどの力をもっていた。つまり、神みたいな。 だからこそ、その言葉を口にしてはいけなかった。誰も神を試してはいけなかったんだね。
無感覚になったとき、「いま、自分は無感覚になっている」とはきづかない。五感はどれも疲れてしまっていて、自分が”疲れている”とも気づかない。
時はいたずらだ。落ち着くことをしらない。この手にしっくり馴染んで、クラシックを聴くなんてしない。でたらめに走っては自動販売機をバンバン蹴り上げてわらっている。
皮肉や、悪意ある分解を勉強したいと、メトロに乗りながらおもっていた。
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chaukachawan · 6 months
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〜新人公演35期紹介〜
一番乗り。って書こうとしたらハムに先を越された上に、ハムが中々エグいもん書いてるので書き直そうか迷ってしまいました。でも書き直す時間は無いのでこのまま真面目紹介しておきます。く、悔しい...。
二番乗り。最高な仲間たちを、好きなところと共に紹介しちゃいます。
■■■
ー好きな所ー
久しぶりに古墳に行きたいです。そこには街を一望できる綺麗な景色があります。私の心の基地です。心身回復したい誰かがいたら一緒に来たい場所です。明日か明後日の夜にでも行って一度リフレッシュしてきましょうかね〜
よーし、明日も仕込み頑張るぞ、わっしょい。
申し訳なさすぎて、おでこを床に擦りたいような気持ちを抑えつつ、皆様のおかげで楽しく仕込んでいます。本当にありがとうございます。泣泣
■■■
ー好きなところー
[役者]
◆縦縞コリー
たまに、とっても高くなる声。なんだかよくわからないけど、全体的に可愛いところ。真っ直ぐなところ。文字、可愛い。絵も、可愛い。手書きの手紙とか読んだら、内容がどんなのでも文字だけでなんか良いなぁってなりそう。
めちゃくちゃ頼りになる照明仲間。こりちゃんならきっと大丈夫。
◆あろハム権左衛門
突然掃除を始めたり、キャッチボールし始めたりするところ。無邪気なところ。毎日聴きたくなるラジオパーソナリティみたいな声。あろハムは本当に声がいい。毎日、朝起こしてほしい。ライブの感想、また聞かせてね。
ハム界のアイドル。アローのマイムは世界一。
◆海泥波波美
ときたま感じるあたたかい何か。たまに羽毛布団くらい柔らかくなっていることがある語尾。カス!って言う時の明るい声。人生の先輩は色々苦労してきたみたい。でも、夜は寝れなくても寝るべし。アサギがいっぱい寝て不幸になる人はいないから。
頼れる仕込みチ。アサギはひとりじゃない。
◆苔丸
子供のときの、新しく買ってもらったDSのカセットみたいな、わくわくさせてくる一面。穏やかな気持ちになれる波長の声。苔丸は良いところが詰まりすぎていて何から話せばいいのかわからない。そんな苔丸が照明に来てくれて、嬉しくて、やる気が出たよ。
いつだって優しい善人。苔丸の声で世界がつくられる。
◆衿君
口を開いて、そこから音が出た瞬間に大爆発する魅力。楽しみ始めたら誰も止められないところ。リュックに付いているストラップが可愛いところ。もっとエリックを知りたい気持ちめちゃくちゃあります。だって絶対面白いんだもん。
めちゃくちゃ頼りになる照明仲間2。エリックは舞台に立つだけでかっこいい。
◆冊まいむ
努力をして、それを全然やめない強さ。しんどいときでも、底にある飄々とした芯がなんとなく見えるところ。冊まいむって良いね。「も」は解雇されたのかな?ちょっと可哀想。でも、「む」がきっと良い子なんだろうね。
いつも美味しそうなお弁当を作る職人。みそかの天然は可愛さを倍増させてる。
◆ミル鍋
いつか人差し指を優しく突き刺してみたいほっぺた。なんかもう、言葉を失ってしまうくらい可愛い一瞬。みんなにお菓子を配っているときの顔。堂々としているゆにを見ると、すごいなぁって惚れ惚れしちゃう。どうしてそんなにかっこいいんですか?
笑顔かわいいランキングがあればきっと殿堂入り。ゆにはイケメンかつ可愛い。
◆大福小餅
いつ見てもさらさらで、心が透き通っていることを具現化している髪。笑顔。たまに、眠すぎて、頭がカクってなっちゃってるところ。しっかり者で優しいこふくがいてくれることで、みんなの雰囲気が保たれている。ありがとう。
ふわっふわなのにしっかりしている舞監。こふくのこふくじゃないシーンが大好き。
◆中森ダリア
自分をもっているところ。周りを近づけないんじゃなくて、周りの人も巻き込んでその場ごと近づけなくするほどのオーラ。ゆったりした喋り。何がとはまだ言えないけど、あれが上手すぎて好き。あれも、けっこう面白いことになってて好き。
身近にいてくれるアイドル。ひらりはスーパーオールラウンダーガール。
◆帝京魂
なんだか、見ているだけで満足できる雰囲気。人間観察したくなる不思議さを持ち合わせている。擦られ続けているしゃーない。愛され続けているしゃーない。最近本家聞いてないから聞きたい。部署が全然被ってなくてあんまり喋ったことがないので密かに悲しい。
よく通る声の低さで発声が良すぎる。コンちゃんのキャラ全部いい味出てる。
◆鴨兎春
かっこいいところ。爪の垢を煎じて飲みたいほどのセンス。落ち着いて作業しているときの頼れる姉御感。落ち着いていないときの大阪すぎる言動。いつもおしゃんな服。らびは困ったら助けてくれるイケメンです。ちゃんと大阪人として面白いところを見習いたい。
みんなの舞美ネキ。らびの成長は止まる気配がない。
◆黒井白子
変わらず揺るがず秘めている何か。暴れ回る手足。聞くと、いいなぁ、ってなる訛り。堂々と立っているところ。大好きなものを愛しているところ。誰よりも真剣で誰よりも色々犠牲にしている。私たちはみんな相も変わらず白子のこと好きだから心配しないでね。
人を鼓舞する情熱の持ち主。白子が納得出来れば雨は降らない。
◆しょこら
大きな背中。丁寧な話し方。独特の雰囲気。こらしょの舞台上の雰囲気は、唯一無二って感じがしてすごく好き。なんやかんやどうにかする力を持っている。私にはできないことをしている。普通にすごいことだよ、それ。
ゆったりした波長の持ち主。こらしょの存在感は凄まじい。
[スタッフ]
◆まろん
オペをちゃんと楽しんでるところ。楽しいよね、わかる。頼りになるオペ仲間。頑張ろうね。
◆テキストを入力
冷静かと思いきや割と飛んでるところ。おもろいオペ仲間。ファイトだぜ。
◆紫仏瑠唯
めちゃくちゃしっかり者であるところ。照明班なってくれてありがとうね。
[演出]
◆近未来ミイラ
全身から溢れ出てる感じの大きな笑い方。何歳になってもずっとその笑い方でいてほしい。元気になれる。頼りない照明チーフを怒らないでいてくれてありがとう。たまにキツいことを言ってしまっていたかもしれないけど、みーらのセンスが好きだからなんです。私じゃなくて、みーらに作ってほしいからなんです。だからどうか自分の意思を強く持って、最後まで駆け抜けてね。私は、どう転んでも良いものになると確信しています。
大尊敬している。みーらと仲良くなれて嬉しいよ。
■■■
私は35期のことが好きです。好きというのは押しつけていいものなのか今の私にはわかりませんが、今の私はみんなに伝えたいらしいです。口でも文字でも、言えないことが多くて困っちゃいますね。面と向かって言えないことを文字にするのは、悪いことだったら最悪ですが、良いことだったら最高です。それでもやっぱり、声になって耳に届いて響くのが1番ですけどね。
あと少し、頑張りましょう。
園堂香莉/なぽり
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tanakadntt · 1 year
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旧東隊の小説(二次創作)
三輪秀次のマフラーが赤と白の二本である理由
もうすぐ後輩の誕生日だ。後輩とは二宮匡貴が所属する東隊のメンバーである三輪秀次のことだ。彼は、このたび、めでたく十五歳を迎える。
二宮は六穎館高校三年生である。本来ならば、いよいよ大学受験に向けて熱心に勉強すべき時期だが、二宮は違う。既に地元の大学にボーダーによる推薦が決まっていた。
その事実は、将来の展望を大きくボーダーに向けて舵をきることを示していた。高校卒業を機にボーダーから離れていく同輩も多いなか、二宮は三門市に残る選択肢を選んだ。性に合うのだろう。実際、二宮の持つ、突出したトリオン量はボーダーにおいて圧倒的な優位を約束してくれる。
今の部隊にいることも大きな要因だった。
隊長の東春秋の率いるA級東隊の戦闘員は射手二人、狙撃手一人、攻撃手一人で構成される。それまで、攻撃手メインのチームが多かったなか、攻撃の要に射手を据えた実験的な部隊だ。
中距離が主力を担い、長距離と近距離でフォローする東隊の戦術はA級一位になったことで強烈に意識され、これから結成されていく部隊に影響を与えていくだろう。
とは言っても、実は偶然の産物なんだ、と実験者である東は笑う。忍田さんがお前たちをまとめて面倒みろと放り込んでくるから思いついたのさ。
お前たちとは、二宮に加えてシューター加古望とアタッカー三輪秀次のことである。この一年余り、ほぼ毎日顔を合わせていた面子だ。
その実験も終わる。東隊はまもなく解散する。この一年で隊員は大きく成長したし、様々なスタイルの部隊も生まれた。
学年も一緒、大学も一緒である加古はともかく、東と三輪には今までのようには会えなくなるのだろう。彼は感傷を覚える。
そこにきて、三輪の誕生日である。この日は東隊で共有されるささやかな思い出もある
二宮は去年の顛末を思い出す。
去年は結成して日が浅かった。お互いにぎこちなくまだ戦術も安定していなかった頃だ。
いつも、黙って下を向いている三輪の誕生日が十月二日だと判明したのは二宮の十七歳の誕生日が近くなった十月後半のことだ。
二宮は自慢ではないが、モテる。顔もいいが、アイツちょっとかわいいとこあるよねとわかる女子にはわかるのだ。したがって、誕生日にはわりあいプレゼントをもらう。わかる女子から。
加古望もまた六穎館高等学校に在学する女子であったが、残念ながら、わかる女子ではなかった。かわりに、十月に入ってから二宮への誕生日プレゼントを預かってくるようになった。二宮が頑なに受け取ろうとしないからだ。その気もないのに受け取ってめんどくさいことになりたくない。二宮は既に高校生活を彩る恋愛より、戦術の楽しさを選んでいる。
「私に手間をかけさせないで欲しいわ、二宮くん」
加古は、断り切れなかったものだけ作戦室まで持ち込んでくるというが、送料と称して、いつも二宮宛であるプレゼントの菓子を巻き上げていくから、中身を見て選んでいる可能性が大だった。
そこで 、生年月日の話になったのだ。
加古の誕生日は十二月二十五日、クリスマスだという。誕生日ケーキが毎年クリスマスケーキになってしまうパターンだ。
東は一月三日、二宮は十月二十七日。
「東さん、二宮くんの誕生日にお祝いしない? 焼肉屋さんで」
「お前は焼肉食いたいだけだろう」
「いいな」
東は鷹揚に笑った。
「秀次の誕生日も十月だったから、一緒に祝うか」
「え」
二宮と加古の視線が三輪に向かう。作戦テーブルで黙って宿題をしていた彼はぎょっとして、顔をあげた。
「三輪くん、誕生日だったの?」
「ええ、まあ」
「いつだ?」
「ええと、二日です」
最近じゃないか。
「何歳になったんだ?」
「十四です」
計算すればわかる事じゃないの、とは加古も言わなかった。
「あの、別に気にしませんので」
もう、中学生ですし、という三輪の孤独を高校生二人はもう知っていた。
「プレゼント、どうしようかしら」
作戦室を離れて、ロビーで相談である。
「中学生だから、図書カードとかでいいんじゃないか?」
「二宮くんって、発想がおじいちゃんねえ。ウチの学校の女子の気がしれないわ」
「···俺もお前をかわいいという男子の気がしれない」
加古もその整った顔立ちと大人びた仕草で男子を魅了する。
「うーん、お菓子はどうかしら。三輪くん、お菓子好きじゃない」
「そりゃ、まあ、子どもは甘いものが好きだろう」
「二宮くんってホントにおじいちゃんみたい」
「怒るぞ。それより、消えるものより、残るものがいいだろう」
「残るものって、逆に困らない?」
三輪くんってミニマリストっぽいところがあるもの、と加古が付け加える。二宮にはよくわからない。余計なものを買わないだけだろう。
「困らないものを贈ればいいんだ。三輪には買えないけど、あれば嬉しいような」
「あら」
加古は六穎館高校の一部男子生徒ならば顔を赤くするであろう、妖艶な笑みを浮かべた。
「たまにはいいこと言うわね、二宮くん」
「マフラー···」
二宮誕生日祝いと言うことで、焼肉屋に行く前の作戦室である。二宮が代表して渡した箱を開けて、三輪が途方に暮れたような声を出した。
「···三輪?」
思っていなかった反応に二宮は焦る。東を巻き込み、三人でお金を出し合って、けっこうな金額のマフラーを選んだのだ。色は加古と相談して、赤っぽいエンジに落ち着いた。ダメか、ダメだったのか。これは、やはりお菓子の方が良かったのか。
三輪が珍しくオドオドとしている。
「二宮先輩」
「···なんだ」
「···実は、オレ達からも二宮先輩にプレゼントがあって」
「うふふ」
加古がここに来て、たまらず笑い出す。
「まさか」
三輪がテーブルの下からそうっと取り出した箱は先程、二宮が渡した箱と全く一緒だったのだ。慌てて、開けると果たして色違いの同じマフラーが姿をあらわす。
「二人ともおめでとうだな」
黙って見ていた東もとうとう笑い出した。ポンっと二宮と三輪の肩を叩いた。
「こういうの賢者の贈り物?って言うのかしら?」
加古がドヤ顔で言うのを、
「絶対に違う」
と否定した。
結局、クリスマスの加古の誕生日、年が明けて三日の東の誕生日もプレゼントは同じ色違いのマフラーとなった。四人がおそろいのマフラーを持っていることになる。
お金を出し合って買っただけあって、上等なそれは手触りもよく、あたたかで、去年の冬を温めてくれた。あまり感情の起伏を見せない三輪でも、「柔らかいですね」と感動していたのが微笑ましい。寒くなってからは、毎日、巻いていたほどだ。
さて、そこで今年の話だ。一年は誰の上にも同じように巡る。
「秀次」
作戦室である。
「今年の誕生日プレゼントは何がいい?」
昨年と違い、二宮はざっくばらんに後輩に希望を聞くことにした。
三輪も下を向いてばかりの子どもではなくなった。そんな風に水を向けられても動揺しない。
彼は少し考えたあと 、
「マフラーが欲しいです」
と言った。
「あら」
意外な要望にソファで料理本を読んでいた加古が立ち上がって、テーブルまでやってくる。
「三輪くん、去年あげたのなくしちゃった?」
「なくしてない」
心外そうに答える。
「じゃあ 、どうしてまたマフラーなんだ」
「クリーニングに出している間、首が寒かったので」
思い出したように首に手をやる。今はまだ残暑が残る九月の終わりだ。
上質な素材でできているから、定期的にクリーニングに出すよう教えたのは二宮たちだ。
余程、気に入ったのか。
二宮は悪い気はしなかった。
念の為、釘を刺しておく。
「俺の誕生日はもうマフラーはいらないからな」
「え? そうなんですか?」
今年の三輪のマフラーは白になった。
終わり
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blue-aotan · 1 year
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ハロー(´ー∀ー`)2023.7.8
7月になってしまいましたね!
大雨続きでしたが今の所被害はなく安全に暮らせております。梅雨はまだ明けてないので今後も警戒していきたいところです。
さて、久々に私の愚痴でも聞いていって下さい。
(唐突w
(大体愚痴しか言ってない←
3月末に髪を切り、それから3ヶ月が過ぎて結べる長さまで伸びてきていい加減切りたいところなのですがとあるババーがついこの間
「全然髪伸びてないね!もう切らなくてもいいんじゃない!いいわね!」
とか言ってきたんですよ。しかも別日に同じ事2回も言われてさ←
その度に「いや、伸びましたけど?」「もう結べる長さになったし」って抵抗していた私です←
(どんだけクソババー嫌いなんw
髪伸びたとか伸びてないとか正直どうでもいいのだけどね。他人の髪とか気にしないしどうでもいいよねー。
それがさ!髪結んで行ったらそのババーが
「ついに髪結んだね!伸びたね!」
って言ってきたんですよ。
いやあんたついこの間全然伸びてないやん言っとりましたがな←
何回もしつこく言ってきたやないかい←
これがクソババーの生態なのですよ、奥さん。
何が言いたいの?という気持ちをぐっとこらえ
「ハハハ(・Д・)」
と乾いた笑いをした私です。
クソババーはね、こっちの対応とか言動とかまず気にしてないし聞いてないのよね。
ただ言いたいだけみたいな感じだし、思ってる事吐き出せたらそれでオッケーなんよ。
でも聞いてないし見てないくせに、自分の思い通りにならない態度とか取ったらすぐ怒るんですよ。
いやーー本当に不快な生物ですねぇ。
引き続きヒト科ヒト属クソババーの生態を観察していきたいと思います!!
現場からは以上です!!
話は変わりまして、最近見たドラマや映画のお話。
まず、今更ながらドラマ「JIN」を見ました。職場のババー達がめっちゃ面白いよ!!って言ってたので見たのですがそこまでハマらず…
シーズン2では早く終わらんかな…と思ってたよね←
ただね、昔の人がこのドラマのような感じだったとしたら。
昔の人はなんて意志が強くて、ひたむきなのだろう…って感動しました。
現代って私が考えるに、SNSの普及によるものかはわからないけど誰かの目にどう映るかに重点置いてて映え重視みたいな部分があると思うんですよね。
承認欲求とも言われるけど、そこに自分の意志や個性はあるのだろうか…って疑問を感じてしまうのです。
かと言って少数派の意見も取り上げられやすく、人と違う事をしている人にも称賛を送られる事が増えたようにも思います。良いことではある反面、ただ単に人と違う事を言いたい・したい人も増えたように感じたり結局中身ないなーと思ったりします。
でも昔の人って家の為に!とか他人の目とか関係なく志高い人が多かったのかなと思ったり(ドラマのキャラしか分からないけどw
誰にどう思われたいからこその言動とかではなく、はっきりとした自分の意志を持っていてそれは人から見られていなくても軸のブレない気高さがあって。
でもそこは決して自分本位ではなく、誰かの為にという思いが芯にあるのです。
綾瀬はるかの片想いが何と美しい事か…片想いなんて言葉じゃ軽すぎて、片愛なんです。
(なんだそれ
なんかもう愛なんですよ。
愛だろ、愛。
(古いわw
「誰かの為に」の精神って、ロードオブザリングで旅の仲間みんなが「フロドのために」って命をかけるその心に通じるものがあるよね
(ロードオブザリング教の信者かな
報われない想いを抱えて生きていくってつらく苦しいけど美しいとも思うし尊い気持ちもあります
(現実では報われたいけど!自分なら茨の道は歩きたくない!笑
あとは「マシニスト」って映画を観ました。
何故かこの映画の鳥のポーズだけが鮮明に脳裏に残ってて、一度も観た事なかったのよね。
主人公のクリスチャンベールがこの役の為に30キロ痩せて挑んだらしいんだけど、まぁーーガリガリ。
まじで別人。
この命の危険を感じる痩せ方、役の為とは言え鑑賞者にも「大丈夫?」って心配されるであろう骨と皮なのである。
そしてこの主人公は1年間も不眠状態にあり、度々寝ようとするんだけど何かしらの邪魔が入ったりして(後々に幻覚ってことがわかるんだけども)眠れないのよね。
最後に眠れない原因・主人公をとりまく周囲の人との関係性・謎の人物など全てが解明されるんだけど。
はっきり言って鬱映画だよねー。
私としては最後これで眠れる…ってなった時に、何とも言えないモヤモヤな気分になったよね。よかったね、とも思えなかったしずっと苦しむべきだとも思ったし故意ではなかったとしても…被害者の方がやっぱり苦しみが深いのではないかと思ってしまうよね。
それと「キャビン」見返して、デトロイトビカムヒューマンのマーカスが出てて
ええ〜!?マーカスイケメン!しかも体鍛えててかっこよ🫶ってなったよね。
そして春ドラマ「あなたがしてくれなくても」
原作が好きで買ってるんだけど、ドラマは最終回が本当に本当に面白くなさすぎて原作とは別物だったから見なくてよかったのでは、、となりました。
原作のね、陽一のクソさが薄れてたしなんか報われちゃってるし。新名さんはドラマではただのストーカーだったし、あんなこだわり強い執着心の塊みたいな男性じゃないんですよね。全然新名さんじゃない!
そして楓も全然楓じゃない…あれはただのみな実😂
主人公がただ一組の夫婦を壊して自分は元サヤエンドみたいなの、私は本当に許せなかった←
1人で生きていくとか言ってたくせに結局陽一やないかい。何それ(・Д・)せめて新名とくっついてよ。じゃないとみな実が1番可哀想←
原作の細やかな描写があってこそのストーリーだと思うのですよ。
あの原作の繊細な心の機微をドラマで描こうとするのはやっぱり無理がありますよね…
とても残念でした。
話題かわりまして。趣味についてですが…
私がもう12年ほど前から推してる2BROさんについて少し語りたい事があります。
私は今年で動画・配信活動10年になるのですが、その趣味を始める前から弟者さんのファンでした。
数年前からか、三浦大知さんとお友達になりよくコラボするのを見かけますが…
三浦大知さんはね、今から12年くらい前に友人が好きでそれに便乗してライブやら握手会やら行ったことがあってその時にとてもいい人柄だなーと思ったのですよね。
で、弟者さんと三浦さんが初コラボした時はよかったのですが、最近のコラボはあまり好きじゃなくて←
三浦さんのゲーム実況スタイルというか、話し方が私はあまり好きじゃないんだな…って思いました。
三浦さんが弟者さん大ファンでお近づきになったみたいだけど、今では当たり前なんだろうけど慣れすぎてて2人でゲームやってるのに三浦さんが舵を取ってる感があって…ちょっと苦手なんですよね😓
私は信者とかではないけれど(自分ではそう思ってるけどw)三浦さん主導になっちゃうコラボならあまり見ないかなーって何かモヤモヤしてしまいます😶‍🌫️
2人の関係性とか周りがあれこれ口出す事じゃないけど。それも感じ方は人それぞれだと思うし。
細かい事を言えば、「あーはいはいはい」とかはいを2度以上言う人があまり好きじゃない←
(これは話し方の好みの問題
失礼って思っちゃうし、上から目線に感じるのは私の価値観・捉え方なのでしょう。
現実でも「はいはい」って言う人結構いるけど、この人達からしたら相手の思いを汲み取ってますよという思いやりの精神もあるのかもしれませんが。
2BROうんぬんより、別の問題でしたね笑
自分はゲーム実況もするけど、ゲーム実況をよく見る人間でもあるので…かと言って色んな人見たいとはならないんだよね。
好き嫌いが激しいので12年も見続けるっていうのはそれだけ私にとってストレスのない配信者で、考え方に共感したりその人そのものへの興味が途切れないって事は人生でそうあるものじゃないと思います。
(私は無名ではあるけど)ゲーム実況者が他のゲーム実況者の事ってあまり言わない方がいいってどことなくそういう節度みたいな部分あるけど。
たまにはね…いいかなと。
「あまり言わないこと」繋がりでお話をもう一つ。
いつか…いつかこの話をしようと思っていたけど、なかなか口にする事ができなくて正直今も話すべきかどうかよくわかっていません。
私が仲良くしてもらっていたトミさんのお話です。
トミさんは私が動画を始める前にオンラインゲームで友達になった人でした。すごく真面目で優しくて、私が失礼な事を言っても笑って許してくれて何よりも私という人間を無条件に肯定してくれる存在でした。
動画ではよく下僕とかぞんざいな扱いで少しポンコツなトミさんにイライラしたり笑
私がやりたい放題してもとにかく穏やかで。
たくさん色んな話をしました。
人生の先輩であり、色んな相談やしょうもない話まで…気づけば約7年くらい経ち私は本当にたくさん元気づけてもらったり励まされたりしていました。
ですが今から4年ほど前のある日、トミさんは私の前から去っていきました。
トミさんを責めたい訳じゃなくて、そういう風に捉えてほしくないのですが
私���その事を酷いとも思っていないし、理由はわからなかったけど…もしかしたら私が何かしでかしたのかもしれないし笑
今となっては自分のせいとも思っても仕方がないというか…トミさんが決めた事だし、その裏には色々理由があったかもしれません。
私はただ、感謝の気持ちの一つすらも言えなかったので。
10周年記念動画にトミさんありがとうって気持ちを込めました。
当時はめちゃくちゃ自分を責めたし、何より辛くてこの話はできませんでしたね。
今はトミさんが地球のどこかで、穏やかに笑って過ごせていたらいいなと思います。
私が何かしでかしていたらそれは本当に申し訳ないけど←
私はずっとトミさんを応援します。
そんなお話でした。
何年もずっと続いてきたものが、この先もずっと続く訳ではありません。
人間関係も考え方も日々変わっていくし、自分が大事にしたくても終わりが突然きたりすることがあります。
自分にとっての大切なものについて、考えさせられながら…自分も大事にしていきたいですね
( ˊᵕˋ )
真面目か!!!
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oharash · 1 year
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余花に吉兆
1.  友人あるいは恋人のようなことを始めたら、もっと分かり合えて親密な空気だとか柔らかな信頼みたいなものが生まれるかと予想していたが、俺らの空間は特段何かが変化することもなく、近すぎず遠すぎずの関係が果てなく伸びていくのみだった。  大切なものを手のひらに閉じ込めるような日々だった。彼の大きな体は存在感だけでもどこか騒々しかったが、無音より心地よかったのだ。
 うずたかく積もった瓦礫がようやく街から消える頃、俺は人生初の無職デビューを飾った。事務所は畳んだし復興支援委員会の任期も終わった。警察や公安、行政から相変わらず着信や不定期な依頼はあれど、様々な方面からの誘いを断り所属する場所がなくなった俺はぼんやりと初夏を迎えることとなった。  無職になりまして。とセントラルの定期通院の帰り、待ち合わせた居酒屋で焼き鳥をかじりながら言うと彼は呆けた顔で俺を見た。エアコンの効きが悪いのか、妙に蒸し暑くてふたりとも首筋にじんわり汗が滲んでいる。 「お前が?」 「はい。しばらくゆっくりしてから次のこと考えようと思って」 「お前にそんな発想があったとは」 「どういう意味ですか」 「休もうという発想が。いつも忙しく働いとったろーが。そもそも趣味や休みの過ごし方をお前の口から聞いたことがない」 「それ元SKたちにも言われましたわーー。人を仕事人間みたく言わんでくださいよまあその通りですけど。今までやれなかったこと全部やったろ、と思ってたんですけど10日で飽きました。福岡いるとどうしても街の様子気になっちゃうしホークスだ〜〜♡ て言われるし、どっか旅行でも行けばって言われるんすけど全然そんな気になんないんすよ。来月には引きこもりになってるかもしれねっす」  そしたら会いに来てくださいね♡ と言ったら、彼は釈然としないような、そして何かに耐えるような、そんな顔をした。  店を出ると強い風が頬を打った。まだほんのわずか残っていた春の気配が吹き飛んでいく。じゃあ、と手をあげかけたところでデカい手が伸びてきて顎を掴まれた。「飲み直すぞ、うちで」「ひゃい?」かくて俺はそのままタクシーに突っ込まれ(この人と乗る後部座席は超狭い)、轟邸へお持ち帰りされることとなった。
 暗闇の中でうずくまる恐竜みたいな日本家屋。数奇屋門と玄関の間だけで俺の1LDKがすっぽり入りそう。靴を揃えて上り框に足をかけると今度は首根っこを掴まれた。連行されるヴィランそのままの格好で俺は廊下を引き摺られ居間の隣室へ放り込まれる。今夜は何もかも展開が早い。「なになに? 俺には心に決めた人がいるんですけど⁉︎」「使え」「は?」 「この部屋を好きなように使え。しばらく置いてやる」 「もしかしてあなた相当酔ってますね⁉︎」 「あれくらいで酔わん。お前が、ヒーロー・ホークスが行くところがないなんて、そんなことがあってたまるか」  畳に手をついて振り仰ぐ。廊下から部屋に差し込む灯りは畳の目まではっきりと映し出しているけれど、彼の表情は逆光でわからない。 「俺、宵っぱりの朝寝坊ですよ」 「生活習慣までとやかく言わん。風呂を沸かしたら呼びに来てやるからそれまで好きにしてろ」  けれど俺が呼ばれることはなく、様子を見に行くと彼は居間で寝落ちていたのでやっぱり酔っていたのだと思う。デカい体を引きずって寝室に突っ込んだ。風呂は勝手に借りた。
 酔ってはいたものの彼の意思はしっかり昨晩にあったようで、そして俺も福岡に帰る気が全くおきなかったので、出会い頭の事故のように俺の下宿生活は始まった。  「うちにあるものは何でも好きに使え」なるありがたいお言葉に甘えて俺は巣作りを開始した。足りないものはAmazonで買った。徹夜でゲームしたりママチャリで街をぶらついたり(帽子をかぶってれば誰も俺に気づかなかった)ワンピース一気読みしたり豚肉ばかり使う彼からキッチンの主権を奪いそのまま自炊にハマったりもした。誰を守る必要もなく、誰かを気にかける必要もない。誰を満足させる必要もなかった。彼が出かける時間に俺は寝ていたし夕飯も好きな時間に食べていたので下宿より居候の方が正確だったかも知れない。誰かとひとつ屋根の下で暮らすことへの不安はすぐ消えた。早起きの彼がたてる足音や湯を使うボイラー音、帰宅時の開錠の音。そんな他人の気配が俺の輪郭を確かにしていったからだ。  ヒーローを引退した彼は事務所を売却したのち警備会社の相談役に収まっていたがしょっちゅう現場に呼ばれるらしく、出勤はともかく帰り時間はまちまちだった。まあわかる。治安維持に携わっていて彼に一目置いていない人間はまずない(治安を乱す側はなおさらだ)。「防犯ブザーのように使われる」とぼやいていたが、その横顔にはおのれの前線を持つものの矜持があった。どうしてか俺は嬉しい気持ちでそれを見ていた。
2.  ある夜、俺は玄関で彼のサンダルを履き外へ出た。引き戸を開けると明るい星空が広がっていて、それが妙に親しかった。縁側に腰掛けてぼんやり彼方を眺めると星の中に人工衛星が瞬いている。ほとんどの民家の明かりは消えていて、夜は少し湿りそして深かった。紫陽花だけが夜露に濡れて光っていた。  知らない街なのに、他人の家なのに、帰らんと、とは微塵も思わなかった。俺はここにいる。知らない場所に身ひとつで放り出されてもここに帰ってくる。呼吸をするたびに心と体がぴったりと張り付いていった。  気配を感じて振り返ると、あの人がスウェットのまま革靴を引っ掛けて玄関から出てくるところだった。 「風邪をひくぞ」と言われ何も答えずにいると犬か猫みたいにみたいに抱えられ、家の中に連れ戻された。  それからほとんど毎夜、雨でも降らない限り俺は外に出て彼方を眺めた。そうすると彼は必ずやってきて俺を連れ戻した。ある夜「一緒に寝てください」と言ったら彼は呆れたように俺を見下ろして「お前の部屋でか」と言った。そうかあそこは俺の部屋なのか。「あなたの部屋がいいです」と言ったら視線がかちあい、耳の奥で殺虫器に触れた虫が弾け飛ぶみたいな音がして、目が眩んだ。 「そんで、同じ布団で」 「正気に戻ってからセクハラだとか騒ぐなよ」  彼の布団にすっぽりおさまると目が冴えた。やっぱこの人なんか変。そんで今日の俺はもっと変。分厚い背中に額をあてて深く息を吸った。おっさんの匂いがして、めちゃくちゃ温かくて、甘くて甘くて甘くて足指の先まで痺れる一方で自分で言い出したことなのに緊張で腹の奥が捻じ切れそうだった。  彼の寝息と一緒に家全体が呼吸をしている。眠れないまま昨夜のことを思い出す。俺が風呂に入ろうとして廊下を行くと、居間で本を読んでいた彼が弾かれたように顔を上げた。その視線に斥力のようなものを感じた俺は「お風呂行ってきまぁす」となるべく軽薄な声で答えた。一秒前まであんな強い目をしていたくせに、今はもう血の気の失せた無表情で俺を見上げている。妙に腹が立って彼の前にしゃがみ込んだ。「一緒に入ります?」「バカか」「ねえエンデヴァーさん。嫌なこととか調子悪くなることあったら話してください。ひとりで抱え込むとろくなことないですよ。俺がそれなりに役立つこと、あなた知ってるでしょ?」 「知ったような顔をするな」 「俺はド他人ですが、孤独や後悔についてはほんの少し知っていますよ」  真正面から言い切ると、そうだな、と素っ気なく呟き、それきり黙り込んだ。俺ももう何も言わなかった。  ここは過ごすほどに大きさを実感する家だ。そこかしこに家族の不在が沈澱している。それはあまりに濃密で、他人の俺でさえ時々足をとられそうになる。昨日は家族で食事をしてきたという彼は、あの時俺の足音に何を望んだのだろう。  いつぞやは地獄の家族会議に乱入したが、俺だって常なら他人の柔らかな場所に踏み入るのは遠慮したいたちだ。けれどあの無表情な彼をまた見るくらいなら軽薄に笑うほうがずっとマシだった。これから先もそう振る舞う。  きんとした寂しさと、額の先の背中を抱いて困らせてやりたい怒り。そんなものが夜の中に混ざり合わないまま流れ出していく。
3.  涼しい夜にビールを飲みながら居間で野球を眺めていたら、風呂上がりの彼に「ホークス」と呼ばれた。 「その呼び方そろそろやめません? 俺もう引退してるんすよ。俺はニートを満喫している自分のことも嫌いじゃないですが、この状態で呼ばれるとホークスの名前がかわいそうになります、さすがに」「お前も俺のことをヒーロー名で呼ぶだろうが」「じゃあ、え……んじさんて呼びますから」「なぜ照れるんだそこで」「うっさいですよ。俺、けーご。啓吾って呼んでくださいよほら」「……ご」「ハイ聞こえないもう一回」「け、けいご」「あんただって言えないじゃないですかあ!」  ビールを掲げて笑ったら意趣返しとばかりに缶を奪われ飲み干された。勇ましく上下する喉仏。「それラスト一本なんすけどお」「みりんでも飲んでろ。それでお前、明日付き合え」「はあ」「どうせ暇だろ」「ニート舐めんでくださいよ」  翌日、俺らは炎司さんの運転で出かけた。彼の運転は意外に流れに乗るタイプで、俺はゆっくり流れていく景色を眺めるふりをしてその横顔を盗み見ていた。「見過ぎだ。そんなに心配しなくてもこの車は衝突回避がついている」秒でバレた。 「そろそろどこいくか教えてくださいよ」 「そば屋」  はあ、と困惑して聞き返したら、炎司さんはそんなに遠くないから大丈夫だ、とまたしてもピンぼけなフォローで答えた。やがて商業施設が消え、国道沿いには田園風景が広が���出した。山が視界から消え始めた頃ようやく海に向かっているのだと気づく。  車は結局小一時間走ったところで、ひなびたそば屋の駐車場で止まった。周りには民家がまばらに立ち並ぶのみで道路脇には雑草が生い茂っている。  テレビで旅番組を眺めているじいさん以外に客はいなかった。俺はざるそばをすすりながら、炎司さんが細かな箸使いで月見そばの玉子を崩すのを眺めていた。 「左手で箸持つの随分上手ですね、もともと右利きでしょ?」 「左右均等に体を使うために昔からトレーニングしていたから、ある程度は使える」 「すげえ。あなたのストイックさ、そこまでいくとバカか変態ですね」 「お前だって同じだろう」  俺は箸を右から左に持ち替えて、行儀悪く鳴らした。 「んふふ。俺、トップランカーになるやつってバカか天才しかいねえ、って思うんすよ。俺はバカ、あなたもバカ、ジーニストさんも俺的にはバカの類です」 「あの頃のトップ3全員バカか。日本が地図から消えなくてよかったな」  そばを食べて店を出ると潮の匂いが鼻を掠めた。「海が近いですね?」「海といっても漁港だ。少し歩いた先にある」漁港まで歩くことにした。砂利道を進んでいると背後から車がやってきたので、俺は道路側を歩いていた炎司さんの反対側へ移動した。  潮の香りが一層強くなって小さな漁港が現れた。護岸には数隻の船が揺れるのみで無人だった。フードや帽子で顔を隠さなくて済むのは楽でいい。俺が護岸に登って腰掛けると彼も隣にやってきてコンクリートにあぐらをかいた。 「なんで連れてきてくれたんですか。そば食いたかったからってわけじゃないでしょ」  海水の表面がかすかに波立って揺れている。潮騒を聞きながら、俺の心も騒がしくなっていた。こんな風に人と海を眺めるのは初めてだったのだ。 「俺を家に連れてきたのも、なんでまた」 「……お前が何かしらの岐路に立たされているように見えたからだ」 「俺の剛翼がなくなったから気ィ使ってくれました?」  甘い潮風にシャツの裾が膨らむ。もう有翼個性用の服を探す必要も服に鋏を入れる必要も無くなった俺の背中。会う人会う人、俺の目より斜め45度上あたりを見てぐしゃりと顔を歪める。あの家で怠惰な日々を過ごす中で、それがじわじわ自分を削っていたことに気づいた。  剛翼なる俺の身体の延長線。俺の宇宙には剛翼分の空白がぽっかり空いていて、けれどその空白にどんな色がついているかは未だわからない。知れぬまま外からそれは悲しい寂しい哀れとラベリングされるものだから、時々もうそれでいいわと思ってしまう。借り物の悲しさでしかないというのに。 「俺より先に仲間が悲しんでくれて。ツクヨミなんか自分のせいだって泣くんですよかわいいでしょ。みんながみんな悲壮な顔してくれるもんだから、正直自分ではまだわかんなくて。感情が戻ってこない。明日悲しくなるかもしれないし、一生このままかも。  あなたも、俺がかわいそうだと思います?」 「いいや」  なんのためらいもなかった。 「ないんかい」 「そんなことを思う暇があったら一本でも多く電話をして瓦礫の受け入れ先を探す。福岡と違ってこの辺はまだ残っとるんだ。それから今日のそばはおれが食いたかっただけだ」 「つめたい!」 「というかお前そんなこと考えとったのか。そして随分甘やかされとるな、以前のお前ならAFOと戦って死ななかっただけ褒めてほしいとか、ヒーローが暇を持て余す世の中と引き換えなら安いもんだと、そう言うだろう。随分腑抜けたな。周囲が優しいなんて今のうちだけだ、世の中甘くないぞ、きちんと将来のことを考えろ」 「ここで説教かます⁉︎ さっきまでの優しい空気は!」 「そんなもの俺に期待するな」  潮風で乱れる前髪をそのままにして、うっとり海に目を細めながらポエムった10秒前の自分を絞め殺したい。  彼は笑っているのか怒っているのか、それともただ眩しいだけなのかよく分からない複雑な顔をする。なお現在の俺は真剣に入水を検討している。 「ただ、自分だけではどうしようもないときはあるのは俺にもわかる。そんな時に手を……  手を添えてくれる誰かがいるだけで前に進める時がある。お前が俺に教えてくれたことだ」 「ちょ〜〜勝手。あなたに助けてもらわなくても、俺にはもっと頼りたい人がいるかもしれないじゃないですか」 「そんな者がいるならもうとっくにうちを出ていってるだろう。ド他人だが、俺も孤独や後悔をほんの少しは知っている」  波音が高くなり、背後で低木の群れが強い海風に葉擦れの音を響かせた。  勝手だ、勝手すぎる。家に連れてきてニートさせてあまつさえ同衾まで許しといて、いいとこで落として最後はそんなことを言うのか。俺が牛乳嫌いなのいつまでたっても覚えんくせにそんな言葉は一語一句覚えているなんて悪魔かよ。  俺にも考えがある、寝落ちたあんたを運んだ部屋で見た、読みかけのハードカバーに挟まれた赤い羽根。懐かしい俺のゴミ。そんなものを後生大事にとっとくなんてセンチメンタルにもほどがある。エンデヴァーがずいぶん可愛いことするじゃないですか。あんた結構俺のこと好きですよね気づかれてないとでも思ってんすか。そう言ってやりたいが、さっき勝手に演目を始めて爆死したことで俺の繊細な心は瀕死である。ささいなことで誘爆して焼け野原になる。そんなときにこんな危ういこと言える勇気、ちょっとない。 「……さっきのそば、炎司さんの奢りなら天ぷらつけとけばよかったっす」 「その減らず口がきけなくなったら多少は憐れんでやる」  骨髄に徹した恨みを込めて肩パンをした。土嚢みたいな体は少しも揺らがなかった。  
 車に向かって、ふたりで歩き出す。影は昨日より濃く短い。彼が歩くたびに揺れる右袖の影が時々、剛翼の分だけ小さくなった俺の影に混じりまた離れていく。 「ん」  炎司さんが手でひさしを作り空を見上げ、声をあげる。その視線を追うと太陽の周りに虹がかかっていた。日傘。 「吉兆だ」
4.  何もなくとも俺の日々は続く。南中角度は高くなる一方だし天気予報も真夏日予報を告げ始める。  SNSをほとんど見なくなった。ひとりの時はテレビもつけず漫画も読まず、映画だけを時々観た。炎司さんと夜に食卓を囲む日が増えた。今日の出来事を話せと騒ぎ聞けば聞いたで質問攻めをする俺に、今思えば彼は根気よく付き合ってくれたように思う。  
 気温もほどよい夕方。庭に七輪を置き、組んだ木炭に着火剤を絞り出して火をつける。静かに熱を増していく炭を眺めながら、熾火になるまで雑誌を縛ったり遊び道具を整理した。これは明日の資源ごみ、これは保留、これは2、3日中にメルカリで売れんかな。今や俺の私物は衣類にゲーム、唐突にハマった釣り道具はては原付に及んでいた。牡丹に唐獅子、猿に絵馬、ニートに郊外庭付き一戸建てだ。福岡では10日で暇を持て余したというのに今じゃ芋ジャージ着て庭で七輪BBQを満喫している。  炭がほの赤く輝き出すころに引き戸の音が聞こえ、俺は網に枝豆をのせた。 「今日は早いですね〜〜おかえりなさい」 「お前、無職が板につきすぎじゃないか?」 「まだビール開けてないんで大目に見てください」  家に上がった彼はジャージ姿でビールを携えて帰ってきた。右の太ももには「3-B 轟」の文字。夏雄くんの高校ジャージだ、炎司さんは洗濯物を溜めた時や庭仕事の時なんかにこれを着る。そのパツパツオモシロ絵面がツボに入り「最先端すぎる」と笑ったら「お前も着たいのか?」とショートくんと夏雄くんの中学ジャージを渡され、以来俺はこの衣類に堕落している。遊びにきたジーニストさんが芋ジャージで迎えた俺たちを見てくずおれていた。翌々日ストレッチデニムのセットアップが届いた(死ぬほど着心地がよかった)。  焼き色のついた枝豆を噛み潰す。甘やかな青さが口の中に広がっていく。 「福岡帰りますわ、ぼちぼち」  彼の手からぽとりとイカの干物が落っこちた。砂利の上に不時着したそれにビールをかけて砂を流し、網の上に戻してやる。ついでにねぎまを並べていく。 「……暇にも飽きたか」 「いや全然、あと1年はニートできます余裕で」  ぬるい風と草いきれが首筋をくすぐり、生垣の向こうを犬の声が通り過ぎていく。いつも通りのなんでもない夕方だ。そんななんでもなさの中、現役の頃は晩酌なんてしなかっただろう炎司さんが俺とビールを開けている。俺らはずいぶん遠くまで来た。 「福岡県警のトップが今年変わったんですけど、首脳部も一新されて方針も変わったらしくて、ヒーローとの連携が上手くいってないらしいんすよね。警察にもヒーローにも顔がきいて暇な奴がいると便利っぽいんで、ちょっと働いてくるっす。そんで、俺のオモチャなんですけど」整理した道具たちに目をやる。「手間かけて悪いんですが処分してくれませんか?」 「……どれも、まだ使えるだろう」 「はあ。リサイクルショップに集荷予約入れていいです?」 「そうじゃない。処分する必要はないと言ってるんだ」  的外れと知っていてなお、真っ当なことを言おうとする融通のきかなさ。その真顔を見て俺この人のこと好きだな、と思う。子どものまま老成したような始末の悪さまで。 「それは荷物置きっぱにしてていいからまたいつでも来いよってことでしょーーか」 「……好きにしろ」  唸るような声はかすかに怒気をはらんでいる。さっきまで進んでたビールは全然減ってないしイカはそろそろ炭になるけどいいんだろうか。ビール缶の汗が彼の指をつたい、玉砂利の上にいびつな模様をつくっていく。 「じゃあお言葉に甘えて。それとツクヨミが独立するってんで、事務所の立ち上げ手伝ってほしいって言われてるんすよ、なんでちょくちょくこっちに滞在するので引き続きよろしくお願いします具体的には来月また来ます♡」 「それを先に言え‼︎」  今度こそ本物の怒りが俺の頬を焦がした。具体的には炎司さんの首から上が燃え上がった。七輪みたいに慎ましくない、エンデヴァーのヘルフレイム。詫びながら彼の目元の皺を数えた。青い瞳にはいつも通りに疲労や苛立ち、自己嫌悪が薄い膜を張っている。今日も現場に呼ばれたんかな。ヒーロースーツを着なくなっても、誰かのために走り回る姿は俺の知ったエンデヴァーだった。腕がなくなろうが個性を使わなかろうが、エンデヴァーを許さぬ市民に罵倒されようが。だから俺も個性なくてもできることをやってみっかな、と思えたのだ。ここを離れ衆目に晒されることに、不安がないわけではないけれど。  疲れたらここに帰ってまたあの部屋で布団かぶって寝ればいい。家全体から、やんわり同意の気配が響くのを感じる。同意が言いすぎだとしたら俺を許容する何か。俺のねぐら、呼吸する恐竜の懐の。 「その……なんだ、頑張れ」 「アザーース」  帰属していた場所だとか、背にあった剛翼だとか。そんなものがごっそりなくなった体は薄弱で心もとない。だから何だ、と思う。俺はまだ変わる。  空があわあわと頼りない色合いで暮れていく。隣にしゃがんだ炎司さんの手が俺の背に添えられた。翼の付根があったあたりにじわりと熱が広がり、そのまま軽く背を押されて心臓が跳ねる。 「来月はそば打ちでもしましょうね」  短い肯定が手のひらの振動から伝わる。新たな命を吹き込まれる俺の隣で、炭がぱちりと爆ぜた。
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ari0921 · 10 months
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「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和五年(2023)8月27日(日曜日)弐
    通巻第7884号
(日曜版)
 ●読書特集
書評:イリハム・マハムティ『わが青春のウイグル』(かざひの文庫。発行太陽出版)
     
  【書評】
 なぜ高倉健が中国民衆の共感を呼んだのか?
  胡耀邦時代のウイグルには、まだ微かに自由があった
  ♪
イリハム・マハムティ『わが青春のウイグル』(かざひの文庫。発行太陽出版)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
 あれは何年前だろうか。タイの国際空港でばったりイリハムさんと偶会したのだ。あの広い空港でいかにして会えたかといえば、お互いに愛煙家だから空港内に一、二カ所しかないスモーキング・ルームだった。
 久闊を叙し、「ところでイリハムさんは何故タイに?」と評者(宮崎)は愚問を発した。彼はウイグルから弾圧を逃れてタイへ這入り込み、いまにも強制送還されそうな『トルコ人』をなのるウイグル同胞たちの救援活動にきていた。
 著者のイリハムさんは日本で活躍するウイグル問題の活動家であり、世界ウイグル会議の役員でもある。
 本書はイリハム氏が少年時代から大學までの青春をウイグルで過ごした、あの愉しかりし日々を振り返りながら、なぜ中国共産党の狂気の弾圧がはじまったか、その現代史をやさしく解き明かす。
 文革がおわり、最初に公開された日本映画は高倉健、中野良子、池部良、原田芳雄、田中邦衛の『君よ憤怒の河を渉れ』だった。つぎが栗原小巻、高橋洋子らの『サンダカン八番娼館 望郷』だった。つまりこの二本だけを中国区共産党は『政治キャンペーン』として使う目的を秘めて中国国内での上映を許可したのだ。
 高倉健の『君よ憤怒の河を渉れ』は濡れ衣を着せられた東京地検の検事が真犯人を追いかける復讐劇だ。つまり共産党に迫害され、虐められた側が権力をやっつけるという庶民の喝采をよぶストーリーで、中国庶民のガス抜きを謀ったのである。
 そうとは知らず評者も見たが、この映画は二級品と言って良く、ついでに言えば中野良子はその後すっかり中国親善女優となって北京を行き来した。田中邦衛はロケバスでひょいとカーテンから顔を出すと、ウォアーと群衆が集まり、バスが身動きが取れなくなったという逸話がある。
 サンダカンも日本が貧しい時代にボルネオの女郎屋に売られた悲しい女たちの物語で、日本でもこういう虐げられた女がいたのだという中国共産党の巧妙な宣伝に使われた(蛇足、ボルネオのコタキナバル郊外に「からゆき」さんたちが眠る墓がある。ホテルからタクシーをやとって探した)
ところが当局の意図に反して、中国人のうけとり方は主演の栗原小巻の美貌、彼女の写真がのった雑誌は飛ぶように売れた。台湾に亡命した有名作家の乃内夫が来日したおり、箱根を案内したことがある。帰りに紀伊國屋書店に立ち寄りたちというので連れて行くと、買ったのは栗原小巻特集号だった。
 その後の中国の新世代、Z世代は日本のアイドル歌手やアニメを日本人の若者と同レベルで知っているし、漫画のコスチューム大会が中国で開催されるくらいである。
 閑話休題。イリハムさんは小中学を中国語の学校に通って中国人ともわけへだてなく遊んだ。高校でウイグル語の学校へはいると、中国語授業の学校と設備などの点で差別があることに気がついた。
子供の頃、なかよく遊んだ中国人はその後、誰とも連絡がないという。
 イリハム青年が新彊大學に在学中、天安門事件が起きた。そのときまで「経済の改革開放を推し進めたトウ小平や、特に民族問題にも同情的だった改革派政治家、胡耀邦の時代だった80年代は、現代中国の歴史の中で、最も自由で各民族の権利も多少は尊重されていた」(55p)
 差別が表面化したのはウイグル人迫害リンチ事件を切っ掛けとしてウルムチにおける中国人のウイグル人暴行殺人事件だった。この衝撃で外国へ逃れた夥しいウイグル人はおそらく十数万人である。
世界ウイグル人会議が結成され、代表のラビア・カディール女史はノーベル平和賞受賞寸前まで行ったが、北京の妨害で実現しなかった。
 ウイグル会議の面々は靖国神社を参拝した。中国政府は声高に批判した。
 しかしイリハムさんは言う。
 「自分たちウイグル人は、ウィグルのために闘った人たちを祀るところはどこにもない」(100p)
 わたしたち日本人はウイグルの悲劇から何を学ぶべきか。
 沖縄が「ウイグル化」しないためにどうすればよいかを、真剣に考えなければならないのである。この切実なおもいが行間から溢れている。
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kennak · 3 months
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鳥取県で昨年末から今年にかけて病院の医師から消防の救急救命士へのパワーハラスメントが発覚し、病院の救命救急センター長が解任される事態に発展した。全国の消防職員らでつくる団体が、会員を対象に実施した調査では、2割超が医療機関からのハラスメントを経験しており、専門家は改善の必要性を指摘する。(鳥取支局 中島高幸、藤本幸大) 突然のメール  「当院への指示要請は応諾いたしかねます」。昨年12月5日朝、鳥取県東部消防局の担当者はメールに気づいて仰天した。送り主は、地域で唯一の重度の急患に対応する3次救急を担う県立中央病院の救命救急センター長(当時)だった。  救急救命士は搬送の際、医師の指示がなければ、医療器具を用いた気道確保や薬剤投与などができない。消防局は即座に病院に改善を求めたが、指示が受けられない状況は10日間続いた。その間、患者2人について、別の病院の医師に指示を仰ぎ、中央病院に搬送した。  東部消防局によると、センターとの間では以前から問題が生じていた。  2021年春に就任したセンター長が、救急隊が患者を搬送する際の手順「プロトコル」を問題視。改訂を求める中で、センター長を補佐する副センター長らも救急隊員に高圧的な態度を取るようになった。  救急隊の対応について「そんなことも助言を受けないと判断できないことが問題だ」「誰に教わったんですか」などと発言。隊員からの電話を一方的に切ることもあったという。  搬送中の指示を巡る問題の後、東部消防局は22年1月以降にパワハラが22件あったとして、中央病院に調査を要請。病院は、うち6件をパワハラやその疑いがある行為と認め、改善を約束した。さらに県は今年2月10日付でセンター長と副センター長の役職を解任した。 招聘した事情  問題解決が長引いた理由について、県幹部は、センター長が地域医療のてこ入れのために県外から招かれた医師だったことを挙げる。  県東部は医療機関の救急科医師が人口10万人あたり0・4人(2016年時点)と、全国平均(2・6人)を大きく下回っていた。センター長は、その改善を図るために 招聘しょうへい したドクターヘリを使った救急医療の専門家だった。  副センター長ら複数の医師も、センター長と同じ病院から来ており、この県幹部は「辞められたら困るという状況で強く指導できなかった」と明かす。  小谷穣治・神戸大教授(災害・救急医学)は「今回のような事態で一番不利益を被るのは地域住民だ。早急に協力態勢を構築するべきだ」と話している。 消防職員の3割近くがハラスメント「受けた」  全国約1万2000人の消防職員でつくる「全国消防職員協議会」(東京)が2021年に一部の会員を対象に実施した調査では、約1400人が回答を寄せ、うち26%が医療機関からのハラスメントを「受けた」と回答した。  医師から「なぜこんな患者をうちに連れてくるのか」とどなられたり、「君は頭が悪いな」と罵倒されたりしたケースがあった。  背景について、協議会は「消防が患者受け入れをお願いする立場であることや、医師が救急隊の指導を自身の役割だと考えていることがある」とした上で、「医療機関の人員不足や過酷な労働環境も要因」とする。  医療機関を対象にハラスメント研修を手がける岩手県立中央病院の大浦裕之副院長は「救急医は失敗を許されない緊張感を抱えており、それが他者への怒りやパワハラにつながりやすい。消防と病院が、こまめに問題を話し合える場を設けるなどして、命を救うという共通の目標を持つ仲間として尊重し合う環境をつくることが大事だ」と話した。
救急搬送時のパワハラ、救急医不足が背景か…県幹部「辞められたら困るので強く指導できず」 | ヨミドクター(読売新聞)
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crnuo · 1 year
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うたの☆プリンスさまっ♪Repeat LOVE 来栖翔√感想文
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うたの☆プリンスさまっ♪Repeat LOVE 来栖翔くん√(大恋愛エンド)の感想文。
スタツア新規による初プレイ記録です。
ついに推し√に挑戦…始まる前はめちゃくちゃ緊張しました🥺
ざっくりした印象としては
・前半
翔くんのガキンチョ感にくすぐられる母性本能。同時に初恋を泥棒される
・中盤
Sクラスにゲラゲラ笑う
・後半
😭😭😭💗🫰
という感じで、翌日は心ここに在らずな1日を過ごしました。お陰でカミュ様の生誕祭に乗り遅れた。
そもそも那月さん√でも翔くんはちょこちょこ現れては好きでもない女に男気を見せてくれていたわけですけど、翔くん√(特に新学期)はその時想像していたよりずっと幼くてピュアで😭もーー!かわいい!
MEMORIALによると中学時代にも家来を募集しては玉砕していたらしく(愛しい🫶)、同じことをやってる12歳の翔くんも見たかった……もしかしてまだ身長140cmくらいだった?抱きしめていい?
帽子を許可してほしくて龍也先生にはいはーい!!🙋‍♀️って元気に質問してるのもいい子ちゃんでkawaiiし、自己紹介で自信満々に空手を披露する度胸もthe小学生 男子って感じでニコニコしちゃう。※翔くんは15歳
この幼さが恋愛対象外になるかというとそうではなくて、むしろこれこそが初恋泥棒たるゆえんですよ🥺遥か彼方の記憶のはずの小学校の校庭の砂の感触とか空気が蘇ってきたよ……※翔くんは15歳
人間の脳には「初恋」を司る場所があるのではないでしょうか。普段眠っていたそのエリアが翔くんのせいで覚醒した。
「うりゃ」っておでこにツンしてくれたこと、一生の思い出にするね💗(なにあれ?)(好き)
このゲームにおける彼の幼さのメリットはもうひとつあって、プレイヤーと男女関係ではなく王子家来ごっこをする”オトモダチ”として関係を始められるところですね。おふざけしながらキャッキャと無邪気に過ごしているうちに絆が深くなり、お互い成長していくという……そして少しずつ異性としても意識し出して……甘酸っぱ🥺💗
MEMORIALで幼少期のエピソードを読むと、もともとは泣き虫で不安から強がっていたんだね😭とわかる一方、母親に薦められた少年漫画やケン王の影響を受けて猪突猛進するところは多くの男子に共通する思考だと思うし、翔くんのこのリアリティと親近感がたまりませんね。自分の幼少期にも隣にこんな子がいた気がする幻覚というか。
12月頃には翔くんのガキンチョ感は薄れて情熱的な青年になっていくわけですけど、その理由は「恋をしたから」に他ならないわけですよね……最高か?こんな成長過程をリアタイで見せてもらっていいのですか?
クソガキちゃんが「男」に変貌する成長期がこちらの主食です。
音也くん√が少女漫画なら翔くん√は少年漫画だ!
そして、中盤からは普段Twitterでお世話になっている方々とスペースでお話ししながら進める、なんとも得難い経験をさせていただきました🙌
当然みなさんうたプリ歴では先輩プリンセス、しかも翔くん推しの方は1人もいなかったのにあたたかく見守ってくださいました、や、優し……😭
楽しくてハイな上、深夜〜明け方の時間に雑談をたくさん交えながらプレイしたので結局5〜10月の記憶が曖昧ですが(えぇ…?)、楽しかったなってことは覚えてます🫶
「翔くん√、だいぶ忘れちゃったけどロドリゲス🦁は覚えてます…☺️」って方がいて、私もばっちり覚えましたロドリゲスちゃん✌️
HAYATOさんの学園紹介はめちゃくちゃ笑いました。
そしてついに薫くん登場!存在しか知らなかったので、こんな男の子だったのかと感慨深い。
翔くん√では間違いなく薫くんがキーパーソンでしたね。那月さん√での砂月さんがそうであったように、過保護な親のようなポジション。砂月さんの場合は那月さんの”精神”を守るために登場したのに対し、薫くんは翔くんの”肉体”を守るために現れたというクラ組の対称性が良いです。
MEMORIALでは翔くんのお母様は治療費を稼ぐために海外を飛び回り年に数回しか帰ってこなかったと明かされて、そっかぁ…としんみり。
つまり薫くんも母親とはあまり一緒に過ごせずに育ったはずで、その理由が自分であることを知った時の翔くんはどんな気持ちだったのか。「兄弟はずっと一緒にはいられない」「自分の人生を犠牲にするな」と冷静にきっぱりと言える翔くんが偉いなと思うと同時に、相手のことを心から尊重できる立派な考えが確立するまでにどれだけの罪悪感を薫くんに感じたのかなと想像して泣きました。
幼少期を振り返るBeautiful Memories💿の翔くんの語りが大好きで何度も聞き返しているのですが
--⚠️ここからBeautiful Memoriesの内容ネタバレ--
翔くんが過去の自分に向けて「自分の身体のせいだと責めないこと」「無駄なことはなにひとつない」「なにより健康が大事だから自分のペースで頑張ってほしい」と声をかけていて……リピラブの翔くんを知るとよりこのメッセージにこめた実感が伝わってきて泣いちゃう😭
子ども時代の翔くんは、病院にひとりの寂しい夜も、涙する薫くんを抱きしめる時も、がんばりたいのにがんばれない時も、ずっと自分を責めていたんだなって。朝起きて看護師さんによしよしされた記憶が残るくらい、自分が泣いた日々も覚えていて(このエピソード泣いた)。
それでも卑屈にならず、強い自分を目指して空手でフィジカルもメンタルも鍛えて今の翔くんがあること、尊敬する。
そして薫くんが言ったようにリピラブの翔くんは「生き急いで」いることは間違いなくて、そのせいで周りが不安になって振り回されてしまうわけだけど、今の翔くんはそんな過去の自分に「無理せずマイペースで」と言えるんですね……リピラブの翔くんにはまだ言えないと思う😭😭😭
---ネタバレここまで---
本編中盤の話に戻します。
リピラブ、音也くん→那月さん→翔くんの順にとりかかったので今回は初めてのSクラス√だったわけですが、トモちゃん率いる青春全開仲良しAクラスとは雰囲気が違って面白かったです。
特にレンくんとトキヤさんが翔くんに辛辣な点はスタツア新規勢としては新鮮でしたね😳2人とも結構冷たい……
特にレンくん、身長や恋の奥手さについて、完全に男として翔くんを見下していて失礼だぞッ🤚
トキヤさんもトキヤさんで、レンくんを嗜める体をとりながらも「身長低くて哀れだな…」って本心が滲み出ていてひどいぞ!
お馴染みの水球大会ではレンくんの真斗さんへのウザ絡みにみんなでクスクス笑ってしまいました。あとトキヤさんって結局運動苦手なの?得意なの?どっちなの!?とざわつきました。
それにしても翔くん、レンくんの軽率さに警戒して結構強い言葉をかけていて、レディレディで翔レンの民にもなった身としては2人のピリピリした関係性はかなり意外で新鮮だったし正直興奮しました
でも怒ってる理由が「レンに泣かされてる女子何人も知ってるからさ……」なの、翔くん優し😭😭大好き😭
そしてここで「なんでもかんでも恋愛に結びつけるな」「お前と一緒にするな」とレンくんに怒る翔くんを見て、翔くんの、信頼関係を重視する価値観にとても感動した……そういうところ好き…やっぱり翔くん√はベースが友情(相棒?)なんですよね………
そしてこそばゆいちゃんの活躍。
林檎先生の指導を受けながら真剣に女の子モデルとしての仕事に取り組み、女装アイドルの道すら視野に入れていたという事実に衝撃を受けました。あの翔くんが女装アイドル?(そういえばスタツアのボナペティでは彼女役🧸のかわいい所作が完璧だったな)
これは前から思っていたのですが、翔くんってST☆RISHの中でも際立って「アイドル」という形にこだわっていますよね。���去に日向龍也というアイドルに元気づけられたから、自分も誰かに元気を与えたいという理由で。
女装は嫌だという意志ははっきりしているのに、みんなを喜ばせることができるならありかもしれないと真剣に考えるほどに、とにかく「アイドルになりたい」んだなって……男らしい男になりたいという気持ちを上回るほど、アイドルになりたい気持ちが強いんだ……
「Sクラスは自分の理想と適性が合わない3人」、とフォロワーさんに聞いてなるほどと思ったのですが、理想と適性の乖離はどんな仕事でも起こりうる悩みではあるけれど、世間のイメージがパーソナルな人格と結びつけられる芸能人(特にアイドル)にとって、そのギャップは大きな悩みになるでしょうね…
翔くんも、正直言って王子様っぽいタイプではないのに自分のことを王子様と言い張ったり(「うたのプリンスさま」の命名が翔くんだったとは…)、たくましいケン王に憧れてるのに、身体も言動も子どもっぽくて周りにからかわれて……😔
まだ🧡さん💜さん√をやっていないのになんとも言えないのですが、少なくともアニメなどの印象では、このSクラスの2人も「アイドル」への思い入れが強いなぁと思うんですよね……
Aクラスの❤️さん💛さんはどちらかというと「音楽」を愛していて、💙さんは「芸事」全般に憧れている感じ。
一方でSクラスの🧡さんは母親のアイドル像が原体験だろうし、💜さんは…アイドルが「好き」かはよくわからないけど、少なくともすでにアイドルとして活動しているから「アイドルとは…??」ってたくさん考えていそうだなって。
だからこそSクラスは「自分の性質」をいかに「アイドル」という形にチューニングするべきか悩んでしまうのかな……とか考えてました。でもそのアイドルへという存在への意識の強さがSクラス選抜に繋がっているのかなとか。どうなのかな。
翔くんの話に戻ると、彼はその理想と適性のバランスを「音楽」でとっていくのですね。この展開にめちゃくちゃ感動しました🥺
個人的に、翔くんの才能は「女の子っぽくなりきれること」…ではなく、「どんな世界観も引き受けられるパフォーマンス力」にあると思っていて。少なくとも私は初めてスタツアに搭乗したとき、そんな彼の振り幅の広さに恋に落ちました。レディレディのバックダンサー、ボナペティの🧸さん、来来、4U……どれも全然違う世界観なのに、完璧に表現していて、それでいて全て翔くんならではの魅力に溢れていて。
そんな、どんな世界観でも自分を表現できる唯一無二の才能を、リピラブでは「翔くんのリズム」としてフューチャーされていたのが嬉しくて泣きました。
「オレサマ愛歌」の完成に向けて、自分の「かわいい」特技を受け入れつつ、伝えたいことや自分の思う「自分らしさ」はリズムや言葉やダンスで表現する。
そして「(龍也先生のように)ステージを自分色に染めたい」って言っていたのもびっくりして😳それってスタツアで「ピンクフレフレ俺色☆ピース」ってウインクした、あのステージそのものじゃないですか😭💗💗💗
できてる……できてるよ翔くん……翔くん色にステージは染まっていたよ(ペンラって、会場があなたの色に染まってます、ってことをファンがアイドルに伝えるアイテムなんだな)
ここで、メンカラのピンクについても色々考えちゃう……色についての彼の発言が過去にあったらぜひ教えて欲しいのですが、普通に考えて、翔くんは好きな色がピンクにならない性格じゃないですか?赤とか青とかオレンジとか、一般的に男の子が好きになりそうな元気な色を好みそう。
この世界の中でどういう経緯でピンクが割り当てられたのか知らないけれど、翔くんは最初からこの配色に納得していたのかなあと心配になったり。
でもわかっているのは、今の彼がアイドルの活動の中でピンクを「自分の色」にして表現できていること…つまりこれすらも、「オレサマ愛歌」で成し遂げた、「どんなものも自分の『かっこよさ』に繋げる意志とセンス」だよなって。メンカラからもわかる翔くんの魅力。好き。
あと翔くんは那月さんのことを天才天才って言ってコンプレックスを拗らせている面もありますけど、「強く生きたい」と叫び、届ける、そのエネルギーは誰にも真似できない唯一無二のもの。その才能にぜひ自信を持っていただきたい。龍也先生が幼少期の翔くんを振り返って「あの目は忘れられない」と言っていたのもそういうことだと思う(この龍也さんの独白、感動して泣いた)。「命の輝きを宿す目」なんだよきっと。それってアイドルとして最高の要素だよね。人はアイドルに命の輝きを見出して熱狂しているから。だから翔くんはSクラスなんだ……(オタクの贔屓目)
終盤では、自分は切れる前の電球みたいだと言われていたと振り返る翔くん…
「燃え尽きる最後に力の限り輝いてるみたいだ、って…俺はそれでもいいと思ってた。いつか切れるかもしれないなら、その前に輝けるだけ輝きたいって……」
駄目ですこれは……キングダムからスタツアまでの流れ星の文脈に弱いので………だって流れ星は星が燃え尽きる”最期の”輝き。
「これが最後じゃない!ここからが俺様の武勇伝のスタートなんだよ」
😭😭😭😭😭😭😭
星でさえ命の炎燃やしてさ
輝き尽きる日まで
1000%強く 生きている
いつかの眠る時まで
……🥺💫
WE ARE ST☆RISH!!はうたプリの哲学のひとつの着地点だったと捉えているのですが、翔くん√で彼が伝えたかったのも同じことかなって。
でも彼は学園生活を通して、「いつ終わってもいいように生き急ぐ」考えから、「これから一生輝き続けるために明日も生きる」にシフトしたんですね。終わりが来ることは知っているけれど、それはまだ先で、今はまだ輝きのスタート地点なんだと。
龍也先生の話が出たので書いておくと、翔くん√は先生方2名の過去の匂わせが多くて頭を抱えました。
林檎ちゃんはなぜ女装アイドルになったの?そしてよりによって「相棒」がテーマの翔くん√で「相棒を失った」龍也さんの過去が明かされる重み……つら😫続編に期待したいと思います。
(それはともかく、シゴデキ男キャーと龍也さんに盛り上がるフォロワーさんかわいかったな、わかる🫶)
翔くんのアイドル性について語っていたら恋愛パートについて何も書けなかった……まあいいじゃないですか私と彼のラブシーンについては…プライベートなんで……お姫様にしていただきましたよ🤭最後にプレイ中のTwitterログは残しておきます。
Twitterログ
うたプリのテーマのひとつである「永遠」、翔くんの場合はその言い換えとして「一生」がキーワードになっていて粋ですね。だって彼は抽象的な「永遠」なんてものについて考える余裕はなかったはずなので。
永遠って哲学的な発想だから、リアルに目を向けている人には関心がないことだと思うのです……どちらの考え方が良いか悪いかという話ではないです、視点の違いというか。
翔くんは死が誰より身近にある子ども時代を過ごしたからこそ、「充実した一生」への渇望がある。そんな彼の「一生愛してる!」は、そんじょそこらの告白と一緒にしてもらっては困ります。
「翔くんは本当にリズム感がよくて、動きひとつひとつにキレがあって、翔くんにしかない個性がある」「でもそれを強引に押し出すんじゃなくてちゃんと周囲と調和して、ここぞという時に光る」「それは天性のものなんだと思う」それですよ!(大声)スタツアの翔くんはまさにこれだったしそこが好き
ダンスパーティ当日になりまし…た………
むりつらい悲しい
やりたいこと全部やって生き抜きたい!って訴えてる翔くんのBGMのオレサマ愛歌……😭😭😭😭
こんなに涙腺刺激する歌だったの?知らなかった……
「ダンス」という行為、翔くんのパフォーマーとしての魅力の象徴であると同時に「今を全力で生きる」彼の決意の表れでもあって、そんな大事なダンスを一緒に踊れること………こんな…こんな………一生ついてく
くるぞ……
うわああああああ😇😇😇😇
ありがとうございました🪦
いやこの告白の仕方、普通の男じゃ腹立つけど翔くんだと最高
強がって王子と家来ごっこしてたからこその上から目線が愛しくて爆発する
リピラブ翔くん√、1月はじめます!
今月からついに彼女🥳
1月に水着イベント持ってくる那月さんの力
翔くんのキスの喘ぎ声を聴いてしまったので出頭したほうがいいですか?😫🫠
いやちょっといきなり刺激強くて困ってる進めない、落ち着こう
大人のキスで泣き止ませてくれる翔くん何?????こっちの心臓がもたない
一旦別の部屋でSweet Kissを聴いて頭冷やしてきます
心拍数が上がっただけだった
「今後一切キスもハグもしなくていい」、恋愛関係だけを重視しない価値観がここにも表れていて感動した一方で、音也くんは絶対に言わないセリフだろうな☺️と思うなどww
ここまで相棒の支えで生きようと頑張ってる翔くんを知った後に龍也先生の作った歌詞を聞かされてしんどいのですが……
「あの人みたいにその場の空間全てを自分色に染め上げられるアイドルになりたい」
それって俺色☆ピースじゃん、来来のステージが浮かんだよ………なれたんだなあ、憧れたアイドル像に……
終わりましたね……👏
最後の1時間半、めちゃくちゃ集中してて感想書くの忘れた
まって!?MEMORIALってなに?!翔くんの日記みたいなのが出てきた
MEMORIALを読んでます。
家来ができて「やっぱ、俺超王子だもんな!」ってはしゃいでる翔くんおもしろすぎて愛しい
龍也先生に「付き合うってどういうこと?」って質問してる翔くんかわいすぎ🥹
ハァハァ……MEMORIAL、翔くんの心情が全部語られていてもうどうすればいいのか……
自分はアイドルだから彼氏にはなれないけど相手にはいつか恋人ができるんだなって覚悟して落ち込んだ上で、恋愛じゃない信頼関係を大事にしたいって思ってくれてたんだ……好きです😇
翔くんの家族への独白読んで泣いてる
遠足のくだり無理😭😭😭😭
那月さんと翔くんの痴話喧嘩が見れてハッピー
勝手に相手にコンプを抱いて感情的に怒鳴っちゃうのは翔くんの悪いところかもしれないけど、すぐに謝れて偉いね🫶ちょっとくらい欠点があった方がこちらの気が楽なのでそのままでいいよ💗💗
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・うたプリRepeat LOVE初プレイ感想(音也ルート)
・うたプリRepeat LOVE初登校記録
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