Tumgik
#沈震軒
gavidbowie · 1 year
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m12gatsu · 3 days
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 川の詩人
彼女はお喋りだ
そのくせだれかが話しかけようとすると
もう先へ行ってしまっている
自分でもよく分からない
一体どこまで自分でどこから自分じゃないのか
仕方ないじゃない、と彼女は云う
立ち止まったとたんに
わたしはわたしでなくなってしまうんだもの
変転と移動だけの人生って
傍で見ているほど気楽じゃないのよ
彼女の背後で
雨雲がぴかぴか光っている
いつか永遠に己を解き放つ瞬間が訪れるだろうか
孕んでも孕んでも
彼女のお腹はほっそりしている
 石の詩人
雲に憧れる気持ちがまったくないといえば
やっぱり嘘になりますね
いや、月になりたいとは思いません
大きさこそ違え
僕らは本質的に同じですから
(雨が、あがって、風が吹く。
  雲が、流れる、月かくす。)
地上にありながら
深みを予感することが僕の仕事です
(そして夜になると重たい地球は沈んでゆく
 星々の隙間を抜けて孤独にむかって)
その日の彼は
なぜか珍しく饒舌だった
モグラは相槌を打とうとしたが
なんだか恥ずかしくなってまた土にもぐった
 木の詩人
いつ死んだっていい
ずっとそう思いながら生きてきたような気がする
ふと、あたりを見回せば
いつの間にか自分が一番歳をとってた
誰にも言っていないが
彼はいまや歩くことができた
それが特別な祝福であるとも思わなかったが
夜、村はずれの一軒家の垣根越しに
ラジオの声を盗み聴くことの
あの後ろめたい歓びを手放すつもりも
毛頭なかった
 ラッパの詩人
その内実において
彼は洞だった
丸く開かれたロのなかの
限りなく滑らかな漏斗の表面を
空や、媒煙や、少年の震える睫毛や希望は
流れ落ちていった
その外観において
彼は畸形の口吻だった
それは中断された吐息を思わせた
だがその鋭利な外縁からは
鉱石や、水や、骨や、稀に羽虫を封じた琥珀が
迸った
午睡から覚めてバルコンに立つと
夕陽が彼を金に染めた
誰ひとり彼の地声を聴いたものはなかった
 アホの詩人
崩れかけた塀の向こうの
物置小屋の庇の下に座りこんで
洟垂れ小僧どもに恐々と覗かれながら
えへらえへらしている
垢と泥にまみれた裸に
透明なビニールシートだけを纏って
風の舞う早春の丘の斜面を
駈け降りてくる
どろりと濁った片眼の端から
笑う女の
歯茎を盗み見ている
アホの詩人は
しどろもどろのうちに真理の炎に焼かれ
また我知らず詩をお漏らしした
 雨の詩人
この世の森羅万象に触れることが
彼の野望だった
人前ではそんなそぶりは露ほども見せずに
俳句を捻ったりしていたが
一粒の砂をどんなに見つめても
世界はおろか砂漠だって見えなかったが
一滴の雨の雫には
たしかに全てが映っていた
屋根屋根と森と
小川と虻の羽音と鉄橋と
かなたにけぶるひとすじの海と
貨物船も
空の高みに生まれて
地面に叩きつけられるまでの時間を
測るようにして生きてきた
その最後の衝撃は雨粒ほどの音もたてなかったが
それともあれは上昇だったのだろうか
この世の一切合財を同時に感受しようとして
眩量に襲われることだけが
彼の才覚だった
-四元康祐『詩人たちよ!』
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aya-azana · 27 days
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スクレイピング・ユア・ハート ― Access to SANUKI ―
あらすじ 平凡な大学院生である丸亀飛鳥。 新規気鋭のイラストレーターで、飛鳥の後輩である詩音。 四年ぶりの再会を経て、二人は奇妙な出来事に巻き込まれていく――――
 物語の始まりなんて、なんでもよかった。  偉人の言葉を引き合いに出して、壮大な問題を提起する冒頭が思いつかない。洒落た言い回しを使った、豪華絢爛な幕開けが思いつかない。ああ、思いつかない。とにかく、思いつかないの。  一般教養が足りないとか、センスがないとか、そんなんじゃない。  ただ、平坦。二十三年生きた人生に山も谷もない。  一般的な都内の中流家庭に産まれ、すくすくと成長し、苦難なく��中高大を卒業。  特に研究したいこともないが、働くのが嫌で大学院へ。研究生活の中で平均くらいの能力を身につけ、今でもゆるゆると日常を謳歌している。  そんな人間が想い描く物語だ。たとえ始まりを豪華絢爛にしたところで、面白くともなんともない。  だから、始まりなんてなんでもいいん『そんなことないわ』  ……そうかしら。それなら、もう少し頑張ってみ「お願いだから止まって、止まって!」  ……どっちよ。  これは、寝る前にするちょっとした妄想。クラスを占拠した悪漢を一人でやっつける、みたいなもの。  目を瞑っているのだから周囲は真っ暗だし、私以外の声が聞こえるわけ「先輩!先輩!しっかりして!」  うーん。うるさいわね。  聞き覚えがある女の子の声。少しガサついていて綺麗な声音ではないのだが、なぜか心地よくて、落ち着く。  ……寝る前に聞く、ちょっとえっちなASMRの切り忘れね「先輩!?」。面倒だけど一度起き『ダメよ』
 身体がビクン、ビクンと震える。
 表面上は高潔な雰囲気を纏っているものの、ねっとりとした厭らしさが滲みでて、根底にある魔性を隠しきれていない女性の声。  今まで一度も聞いたことがない。声の主なんて知るはずがない。それでも狂しいほど切なく、堪らないほど愛おしい。  そんな声が全身を駆け巡り、電撃のような痺れとなって身体を激しく愛撫したのだ。  『貴女の全てが欲しいの』  唐突に発せられた媚薬のような愛の囁きに、動悸が早くなって頬が火照る。恋愛感情に近い心の昂りが瞬く間にニューロンを焼き焦がして、身体にむず痒い疼きを与えた。  『貴女は快楽の熱で、ドロドロに蕩かされていく』  そう告げられると、容赦ない快感が次々と身体に打ちつけられ始めた。  堪らず身を捩ろうとするが、金縛りに遭ったように手足が動ない。舐めしゃぶられるように身体中が犯され、許しを乞うことすらできない。ただ一方的にジュクジュクとした甘ったるい快楽の波が全身に蓄積していく。  やがて許しを懇願することさえ忘れ、頭の中が真っ白に染まってしまう。もう耐えきれない、決壊してしまう。  『そして、深く深く流れ落ちていく』  そのタイミングを見透かしたように、許しの言葉が告げられる。同時に、心の器が壊れ、溜め込んだ全ての快感が濁流のように全身を駆け巡った。  意識が何度も飛びそうになって、頭のチカチカが止まらない。獣のように声にもならない嬌声をあげながら、やり場のない幸福感に身を委ねて甘く嬲られることしかできない。何もかもがどうでもよくなる程、気持ちがいい。  永遠に思えるような幸福な時間を経て、すぅっと暴力的な快楽が引いていくのを感じた。代わりに、深い陶酔の中へ身体が沈み始める。  そして、自然と強張っていた身体から力が、いや、もっと大切な何かが抜けていく。でも危機感はない。  たとえ声の主が猛獣で、彼女に捕食されている最中であっても、私は目を開けず身を任せてしまうだろう。  ゆっくりと身体の輪郭が曖昧になり、呼吸が浅くなっていく。意識が朦朧として何も考えられない。ただ、恍惚たる快楽の余韻に浸りながら、彼女の言葉の通り深く深く、流れ落ちていく。  『おやすみなさい、愛しい貴女』  赤ん坊に語りかけるような優しい声音で別れが告げられる。そして、私の意識はブレーカーが落ちたようにプツンと切れた。  遠くからぼんやり響いた悲痛な叫びは、もう私に届くことはなかった。
 ***    もしあたしにインタビュー取材依頼がきて、最も影響を受けた人物を聞かれたら、間違いなく先輩と答えて彼女への想いを語り続けるだろう。  コラム執筆依頼がきたら必ず先輩の金言を引き合いに出して最高のポエムに仕上げるし、ラジオに生出演したら「いぇい、先輩、聴いてるー?」が第一声と決めている。  現に初めて受賞した大きなイラストコンテストの授賞式の挨拶では、会場にいない先輩に向けて感謝の気持ちを述べた。それほどまで、高校で先輩と過ごした二年間はかけがえのない宝物だったのだ。  だから、あたしという物語の始まりは必ず先輩との思い出を引き合いに出すと決めている。  そんな小っ恥ずかしいことを寝巻き姿で平然と考えてしまう程、あたしこと讃岐詩音は浮かれていた。  なんせ今日は先輩と四年ぶりの再会である。  窓から差込む小春日和の暖かな日差しが、今日という素晴らしい日を祝福しているようにも思えた。
 「詩音、朝ごはんできてるわよー」  「うん」  一階から聞こえたママの呼びかけに応じる、蚊の鳴くような声。自分のガサついた地声が嫌で、どうしても声量が小さくなってしまう。  おそらくママには聞こえていないので急いで自室から出て階段を降り、リビングに移動する。閑静な高級住宅街に建つ一軒家に相応しくないドタバタ音が鳴り響いた。  「危ないからゆっくり降りてきなさいって言ってるでしょ」  ママのお小言に無言で頷きながら、焼きたてのバターロール一個とコップ一杯のスープをテーブルに運ぶ。いつものご機嫌な朝食だ。  「バターロールもう一個食べない?消費期限今日までなの」  ママの問いかけに対して首を横に振って拒否した。少食なあたしにとって、朝の食事はこの量が限界。これ以上摂取すると移動の際に嘔吐しかねない。  「高校でバスケやってた時はもっと食べてたのに。ママ心配よ」  そう言われてしまうと気まずいが断固としてNOだ。先輩との大切な再会をあたしの吐瀉物で汚したくない。  話題を逸らすためテレビをつけると、ニュースキャスターが神妙な面持ちで原稿を読み上げていた。  「横浜市のアトリエで画家の東堂善治さんが倒れているのが見つかり、病院に搬送されましたが意識不明の重体です」  たしか、以前参加したコンテストの審査員だったような。国際美術祭で油彩画を見たような。あと生成AI関連で裁判がうんたら。  「東堂さんは世界的に権威のあ……また、スポンサー契約を交わしていたFusionArtAI社に対して訴……捜査関係者によると奪われた絵……」  ニュースの内容を聞き流していると、概ねの内容は記憶と合致していた。どうやら、高校を卒業してから勉学の道には進まず、創作活動に勤しむようになったあたしの記憶力はまだ健在らしい。少しだけ、ホッとした。  「最近物騒ね。よく聞く闇バイト強盗かしら。ほら、この前も水墨画の先生が殺されたじゃない。詩音も今日のおでかけ、気をつけなさいよ」  「ん、気をつける」  ママを心配をさせないために少しだけ大きな声で返事をして、深く頷いた。  食事を終えた後、アイロンがけされた一張羅に着替えて身なりを整え、先輩が待つ喫茶店へ向かった。    ***    ――――ちょうど三週間前のこと。  本業のデジタルイラストの息抜きとして始めた水彩画にハマりにハマって、気がつけば丑三つ時。ふと先輩の顔が頭に浮かんだのだ。  丸筆とパレットを置いてから勢いよくベッドにダイブして寝転がり、流れるようにエプロンのポケットからスマホを取り出す。  先輩はSNSを実名で登録するタイプではない。それでも広大なネットのどこかに先輩の足跡みたいなものがないか、淡い期待を抱いて名前を検索してしまう。  そんな自分がちょっと気持ち悪い。  自己嫌悪に陥りつつ検索結果を眺めていると、思いもよらない見出し文を見つけたので間髪入れずにタップした。
 「情報システム工学専攻修士1年生の丸亀飛鳥さんが、AIによる雛の雌雄鑑別システムに関する研究で人工知能技術学会最優秀論文賞を受賞しました」
 ゆっくりとスクロールしながら情報を集める。やがて研究室のホームページに掲載された集合写真にたどり着く頃には、これが先輩の記事であることを確信した。  ……正直言って自分がだいぶ気持ち悪い。  「やっぱり先輩はすごい。うん、とてもすごい人だ」  先輩の活躍ぶりに足をばたつかせながら興奮していると、ピコンと仕事用のアドレス宛に一通のメール。見慣れないアドレスだったが、ユーザー名が目に入った瞬間飛び起き、正座になる。  「marugame.asuka0209って、これ絶対に飛鳥先輩だ!」  偶然にしては出来すぎているが、なんの警戒もなく開封をして内容を隈なく読み込み――――読み終える頃には呆然としていた。  要約すると研究協力の依頼であり、可能であれば一度会って話せないか、という非常に堅苦しい内容である。  気がつくと涙が頬を伝っていた。  四年ぶり、つまり先輩が卒業してから初めて貰った連絡。元気?今度ご飯でも行かない?みたいな、そういうのを期待していたあたしがおバカじゃないか。  ――――いいや、先輩が悪いわけではない。これが普通。むしろ、あたしがおかしい。  何を隠そう、あたしと先輩の間に特別な繋がりはない。友達でもなければ恋人でもない。ただ、バスケ部の先輩後輩というだけで、練習と試合だけが共に過ごした時間の全て。連絡も練習に関することだけ。そんな程度の仲。  「……それでも好き」  あたしに手を差し伸べてくれた先輩に対する想い。四年経ってもこの気持ちは色褪せていない。  でも、これが最後になるかも。もし拒絶されたら、ただの先輩後輩ですらなくなってしまったらどうしよう。そう思うと、胸が苦しくなる。だから今まで一度も自分から連絡できなかった。  ――――涙を拭い、ありったけの勇気を振り絞る。  先輩に会ってお話しがしたい、その気持ちだけで震える指をどうにか動かし、書いては消してを繰り返す。文面が完成しても、何度も声に出して読み上げ続け、早三時間。返信を完了する頃には外が薄明るくなりつつあった。  急にドッと疲れが出て、再びベッドに倒れうつ伏せになり、顔を枕に埋める。そのままうめき声を上げて、湧き出る混沌とした感情を擦り付けていく。  このあられもない姿がママに目撃されていたことは、あたしの人生最大の汚点となるのだった。    ***    ――――いつの間にか私はドアの前に立っていた。  温かみを感じるレトロな木製のガラスドア。ここは大学から離れた場所に佇む、少し寂れた喫茶店の玄関前だ。私の憩いの場の一つで、よく帰り道に訪れている。  ぼーっとしていると、店内が薄暗いからか自分の姿がガラスに反射していることに気がついた。  ガラスに映る、ケープを羽織ったおさげ姿の美少女。うどんのように白い肌が彼女の纏う儚さに拍車をかけている。    彼女の名は讃岐詩音。    私の一個下で、高校バスケ部の後輩だ。  某バスケ漫画に憧れて入部したという詩音は、初心者という点を考慮しても信じられないほど下手だった。  ドリブルやパスはへんてこだし、一番簡単なレイアップシュートすらろくに出来ない。おまけに口数が少ない不思議ちゃんで、趣味と特技がイラストときた。  そのため、次第に周囲から腫れ物のように扱われるようになる。  それでも詩音は部活を辞めず、直向きに人一倍努力を続けた。  しかし、周囲からの扱いは変わることはない。下手っぴが一人で頑張っても嘲笑の対象になるだけだ。  だから私は、詩音に手を差し伸べた。少しでも彼女が笑顔になれるように。  ――――精一杯頑張る彼女の姿が、どこか冷めていた私の憧れだったから。    原因は不明だが、今、私は『詩音』の姿になっている。まるでVRを体験しているようだ。なんにせよ、玄関前で棒立ちを続けるのは迷惑だ。  混乱しながらドアを開けて入店すると、店員がにこやかに迎え入れてくれた。  「いらっしゃいませ、讃岐さんですね。丸亀さんはあちらの席でお待ちです」  会釈をするも、妙な違和感。戸惑いながら店員の案内に従い、席に移動した。そして私は大っ嫌いな女と対面することになる。  緑色の黒髪が綺麗な、リクルートスーツ姿の美女。気品のある見た目をしているが、中身は空っぽ。連絡が来ないから嫌われたと思い込み、自分を慕う後輩を四年間も放置したクズ。そんな女性が私を見て微笑む。
 『久しぶりね、詩音』
 そう、『『私』』だ。まるで鏡を見ているかのように、『私』が机を挟んだ向こう側に存在している。  詩音と四年ぶりに再開したあの日の夢を見ているのだろうか。  唖然とする私を無視して、目の前に座っている『私』は一方的に話を進めていき、本題に移り始める。
 『研究室が推進するイラスト生成AIプロジェクトが難航しているの』
 原因は技術の普及と発展に伴って、目視であっても判別できないAIイラストがウェブ上に溢れかえったことだ。  その結果、クローラープログラムがウェブを巡回して��ラストを収集するスクレイピング技術で作られた学習データにAIイラストが混入し、AIプログラムが崩壊する報告が多数出ている。  余談だが、私の研究は養鶏農家から提供される写真を使用しているため、全く影響を受けなかった。それゆえ、最優秀論文賞を繰り上げ受賞してしまったのだ。
 『研究用のデータ加工が大変なのよ』
 これはイラストレーター達が自衛として、データをそのままウェブにアップロードしなくなったからだ。  近頃はデジタル画像を紙に印刷した作品やアナログ作品を造��などで飾り付けてからカメラで撮影する、2.5次元作品が主流となっている。  イラスト本体の解像度劣化やカメラフィルターによる色合の変化、装飾物による境界の抽象化などが原因で、2.5次元作品はAIで学習できない。  修正AIで2.5次元作品を2次元作品に加工しようとしても、誤認識のパレードである。そのため、ゆうに一万を超える大量のデータを人力で加工するしか手立てがないのだ。
 『FusionArtAI社のデータも法外的な値段で八方塞がりなの』
 FusionArtAI社は唯一ピュアなイラストデータを扱っているユニコーン企業だ。東堂善治のような大御所アーティストらと契約し、安定して高品質なデータを取得しているらしい。  AIやらNFTやらを壮大に語っているが事業内容がよく理解できない。それに莫大な資金が何処から出ているのか非常に疑問である。  加えて詩音がモニターとして、AIの学習を阻害する絵具を貰ったのだとか。胡散臭すぎる。
 『だから詩音のイラストのデータを全て譲って欲しいの』
 「……は?ちょっと待ちなさい」
 今まで無言で頷いていたが、思わず声が出てしまう。
 『貴女の全てが欲しいの』  「そんなこと言っていない!私は研究協力の依頼を断るように警告したのよ!!」    ことの発端は詩音がイラストコンクールの授賞式で私の名前を出したことである。偶然その授賞式に私の指導教員も来賓として出席していたのだ。  後日、ゼミで彼女の挨拶が話題に出され、私は迂闊にも恥ずかしさのあまり過剰に反応してしまった。  指導教員は詩音が語った人物が私のことだと察した。そして詩音宛に研究協力の依頼を出すよう、私に指示を下したのだ。  なんせ、詩音は今や業界を席巻する超新星。その作品を利用できれば、データの質の担保だけでなく、研究に箔をつけることができる。  下手をすれば詩音が筆を折りかねないその指示に対し、私は強い憤りを感じた。  しかし、上の言う事は絶対。だから大学から離れた喫茶店に呼び出し、密かに依頼を断るように警告したのだ。  ……加えて、授賞式のようなオフィシャルな場で無闇矢鱈に人様の個人情報を出さないよう、情報リテラシーの講義もみっちり実施した。  詩音は私の言葉を素直に聞き入れてくれた。ただし、研究室の厄介事に巻き込んだお詫び?として、週末に作品撮影のアシスタントをする約束をした。    ――――その撮影日が今日。  そこは、誰も寄りつかない瓦礫まみれのビーチ。  遥か昔、海辺に栄える水族館だった場所。  青空の下、詩音が無我夢中になって作品の飾り付けをしている。  装飾材を補充するため、彼女が水彩画に背を向けた刹那。  額縁からコールタールに似た漆黒の液体が勢いよく溢れ出し、彼女を襲う。  だから私は彼女を突き飛ばして。  悍ましく蠢く闇に、『食われた』。    「……ようやく思い出したわ」  これは、妄想でも夢でもない。相対する『私』の皮を被る怪異が起こした現象だ。  理解不能な存在に生殺与奪の権を握られている。その事実を認識した途端、体に悪寒が走り、鳥肌が立つ。今にも腰が抜けそうだ。  怪異は恐れ慄く私の眼をじっとりと見つめながら、ブリーフケースから同意書とペンを取り出し、机の上に置いた。  『貴女とはいい関係になれると思うの』  そう言いながら、怪異は小指を立てながら厭らしく微笑む。  私の生存本能が、この文字化けした書類にサインをしてはいけないと警鐘を鳴らしている。サインをすれば、死ぬ。  それでも私は震える手でペンを掴んでしまう。    ……だって、私なんかが敵う相手じゃないもの。   怖くて泣きじゃくる無様な私に何ができるの。  そうね。きっと、あっけなく死ぬのよ。  ――――そうだとしても    「大切な後輩を襲ったお前だけは、絶対にぶっ殺してやる!!」    私は決死の覚悟を決め、一世一代の大啖呵を切った。瞬時に怪異に対する怒りの炎が燃え上がり、滞っていた思考が急激に動き始める。  相見えるは常識の埒外の存在。裏を返せば奇想天外な自由解釈が可能であり、不格好でもそれっぽい仮説を立ててしまえば、私にとっては常識の埒内の存在になる。  きっとそう強く信じなければ、目の前の『私』は倒せない。  唇に人差し指をあてながら、ただひたすらに、常識や記憶の間に無理やり関連性を見出して理屈をこじつけることを繰り返す。  やがて、その思考過程を経て、一つの結論に辿り着く。    この怪異の正体は、『クローラーを模した淫獣』だ。    こいつは複数回にわたって人を襲い、心の記憶から作品を抽出していくタチの悪い存在。全ての作品を取り込み終えると、獲物に大量の快楽成分を流し込んで再起不能にする恐ろしい習性を持つ。  おそらく詩音も何度か寄生されていて、今日が最後の日になるはずだった。  ところが、すんでのところで私が身代わりになったため、情報の吸い残しがあると誤認が生じてしまった。それは淫獣にとって重大なエラーである。  そこで、やり直しを試みるも、改めて詩音の同意が必要となってしまった。  だから先日の会話に基づいてこの空間を生成し、『私』の皮を被ってサインを迫っているのだ。――――今、自分が捕食している獲物が『丸亀飛鳥』であることに気が付かずに。  そして、最も重要なことは淫獣が人工的に作られた存在という点である。  これまでの同意書に重きを置くような言動を見ると、魑魅魍魎の類とは思えない。何より、元凶に心当たりがある。  そう、FusionArtAI社だ。淫獣の正体が例の胡散臭い絵の具であり、密かに多数のイラストレーターを襲っているとしたら、全て辻褄が合う。  ――――そうであると信じるの。そうすれば、こいつに一矢報いることができるはずよ。  汗ばんだ手で同意書を手繰り寄せ、ゆっくりとペン先を近づける。  すると、自分勝手に喋っていた淫獣が口を閉じ、紙面をじっと凝視し始めた。それだけではない。空間を構成する全てが、その瞬間を見逃すまいと監視している。  張り詰めた空気の中、私は素早く紙を裏返して、こう書き記す。    robots.txt  User-agent: *  Disallow: /    その意味は、『クローラーお断り』。  今や対魔の護符に等しい存在となった同意書を握りしめ、勢いよく席を立つ。  「私の全てが欲しい……そう言っていたかしら?」  沈黙。詩音の好意や才能を踏み躙った淫獣は、口を開かない。  『An error occurred. If this……』  どこからともなくアナウンスが聞こえるが今はどうでもいい。
 「これが私の答えよ」
 大っ嫌いなクソ女の顔面が吹き飛び、振り抜いた私の拳が漆黒の返り血に染まる。  一呼吸おいた後、心から詩音の無事を願い、静かに目を閉じた。    ***    茜色の空。漣の音。磯の香り……それと、ちょっと焦げ臭い。  そして、私の身体に縋って嗚咽する大切な後輩。  どうやら私は死の淵から生還できたらしい。無事を知らせるため、詩音の頭を優しく撫でる。それでも泣き止まないので、落ち着くまで背中をさすってあげた。  「心配かけたわね。詩音が無事でよかった」  詩音は私の胸に顔を埋めたまま、コクリと頷く。  「先輩も無事?」  「ええ、大丈夫よ」  これ以上、詩音を不安にさせないように気丈な態度をとるものの、重度の疲労を感じ、もはや立つことすらできない。  「ここはまだ危ないから、早く詩音だけでも逃げて」  「やっつけたから、モーマンタイだよ」  詩音が指差す方向を見ると、黒い液体に塗れた水彩画が静かに燃えていた。焦げ臭い匂いの原因はこれか。……やっつけたってどういうことかしら。  些細なことに気をとられている場合じゃない。  先ほどから微かに聞こえる、複数の物音。  何者かが物陰で息を潜め、私たちの様子を窺っている。  今や炭になりつつある淫獣の回収が目的か。いや、それは私がでっち上げた荒唐無稽な陰謀論にすぎない。  ここは、電波が届かない人里離れた廃墟。無防備な女二人がいつ襲われてもおかしくない、危険な場所だ。  詩音も気が付いたのか、私に抱きつく力が強くなる。意地でも私から離れないつもりのようだ。高校の時から感じていたが、この子は気が弱いわりに頑固だ。    ――――息が詰まるような空気を、遠くから鳴り響くサイレン音が切り裂いた。    同時に複数の人影が足音と共に遠ざかっていき、私は安堵の息を吐いた。  「もう大丈夫。定刻を過ぎても私から連絡がなかったら、警察と救急に通報するよう、母さんに頼んでいたの」  半分は今のような不足の事態に陥った時の保険として。  「やっぱり先輩はすごい。うん、とてもすごい」  もう半分は、尊敬の念を向けている後輩から刺された際の保険として。……絶対に黙っておきましょう。    ***    ――――事件から三か月後。  結局、私たちを襲った存在の正体は分からず終い。一方、あの場にいた不審な人影は東堂善治を襲撃した闇バイト強盗であった。そのため私達の不法侵入は霞んでしまい、一切お咎めなし。私達の身に何があったか、深く聞かれることもなかった。  まぁ、警察に事情を説明するにしても――――  FusionArtAI社が作ったスライム型の淫獣に襲われてデスアクメしそうになりました。奴らはアーティストの心の記憶に存在する作品データを狙っています。  という私の支離滅裂な説は口が裂けても言えない。それに、FusionArtAI社が不正会計絡みで呆気なく倒産したため、もう追及のしようがなかった。  ちなみに、詩音は黒い液体の正体が亡霊の祟りだと思い込んでいる。だから制汗スプレーとライターで除霊?しようとして、そのまま引火。あの有様となったそうな。  「貴女のおかげで助かったのかもしれないわね」  私の言葉に首を傾げる後輩は、今日も美少女だ。  あの事件以来、私達はお互いの身を案じて一週間に一回は会うようになった。といっても、毎回普通に遊んでいるだけだ。  今日は私の行きつけの喫茶店でまったりとお茶をしている。お紅茶がおいしい。  紅茶の香りの余韻を味わっていると、詩音の手招きが。  またか、と思いつつ耳を寄せる。
 「先輩のケーキ、一口欲しい」
 耳元で囁かれる妙に蠱惑的な声と熱の籠った吐息にゾクッとしてしまう。あの事件で私が晒した醜態から、余計なことを学んでしまったのだろう。  悪戯っぽく笑う詩音。本音を言ってしまうと非常に嬉しいのだが、どうも照れ臭くて顔を背けてしまう。  でも、これから時間をかけて慣れていけばいい。あの事件が私という物語の始まり、いや、――――私達という物語の始まりと決めたから。  二人に降り注ぐ優しい木漏れ日が、これからの日常を祝福しているように思える。  ――――そんな気恥ずかしいことを考えてしまうほど、私こと丸亀飛鳥は幸せだった。
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taizona · 2 months
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臣安萬侶言。 夫、 混元既凝、 氣象未效、 無名無爲、 誰知其形。 然、 乾坤初分、 參神作造化之首、 陰陽斯開、 二靈爲群品之祖。 所以、 出入幽顯、 日月彰於洗目、 浮沈海水、 神祇呈於滌身。 故、 太素杳冥、 因本敎而識孕土產嶋之時、 元始綿邈、 賴先聖而察生神立人之世。 寔知、 懸鏡吐珠而百王相續、 喫劒切蛇、 以萬神蕃息與。 議安河而平天下、 論小濱而淸國土。
是以、 番仁岐命、 初降于高千嶺、 神倭天皇、 經歷于秋津嶋。 化熊出川、 天劒獲於高倉、 生尾遮徑、 大烏導於吉野、 列儛攘賊、 聞歌伏仇。 卽、 覺夢而敬神祇、 所以稱賢后。 望烟而撫黎元、 於今傳聖帝。 定境開邦、 制于近淡海、 正姓撰氏、 勒于遠飛鳥。 雖步驟各異文質不同、 莫不稽古以繩風猷於既頽・照今以補典敎於欲絕。
曁飛鳥淸原大宮御大八洲天皇御世、 濳龍體元、 洊雷應期。 開夢歌而相纂業、 投夜水而知承基。 然、 天時未臻、 蝉蛻於南山、 人事共給、 虎步於東國、 皇輿忽駕、 淩渡山川、 六師雷震、 三軍電逝、 杖矛擧威、 猛士烟起、 絳旗耀兵、 凶徒瓦解、 未移浹辰、 氣沴自淸。 乃、 放牛息馬、 愷悌歸於華夏、 卷旌戢戈、 儛詠停於都邑。 歲次大梁、 月踵夾鍾、 淸原大宮、 昇卽天位。 軼軒后、 德跨周王、 握乾符而摠六合、 得天統而包八荒、 乘二氣之正、 齊五行之序、 設神理以奬俗、 敷英風以弘國。 重加、 智海浩汗、 潭探上古、 心鏡煒煌、 明覩先代。
於是天皇詔之「朕聞、 諸家之所賷帝紀及本辭、 既違正實、 多加虛僞。 當今之時不改其失、 未經幾年其旨欲滅。 斯乃、 邦家之經緯、 王化之鴻基焉。 故惟、 撰錄帝紀、 討覈舊辭、 削僞定實、 欲流後葉」 時有舍人、 姓稗田、 名阿禮、 年是廿八、 爲人聰明、 度目誦口、 拂耳勒心。 卽、 敕語阿禮、 令誦習帝皇日繼及先代舊辭。 然、 運移世異、 未行其事矣。
伏惟、 皇帝陛下、 得一光宅、 通三亭育、 御紫宸而德被馬蹄之所極、 坐玄扈而化照船頭之所逮、 日浮重暉、 雲散非烟、 連柯幷穗之瑞、 史不絕書、 列烽重譯之貢、 府無空月。 可謂名高文命、 德冠天乙矣。
於焉、 惜舊辭之誤忤、 正先紀之謬錯、 以和銅四年九月十八日、 詔臣安萬侶、 撰錄稗田阿禮所誦之敕語舊辭以獻上者、 謹隨詔旨、 仔細採摭。 然、 上古之時、 言意竝朴、 文構句、 於字卽難。 已因訓述者、 詞不逮心、 全以音連者、 事趣更長。 是以今、 或一句之中、 交用音訓、 或一事之內、 全以訓錄。 卽、 辭理叵見、 以注明、 意況易解、 更非注。 亦、 於姓日下謂玖沙訶、 於名帶字謂多羅斯、 如此之類、 隨本不改。
大抵所記者、 自天地開闢始、 以訖于小治田御世。 故、 天御中主神以下、 日子波限建鵜草葺不合尊以前、 爲上卷、 神倭伊波禮毘古天皇以下、 品陀御世以前、 爲中卷、 大雀皇帝以下、 小治田大宮以前、 爲下卷、 幷錄三卷、 謹以獻上。 臣安萬侶、 誠惶誠恐、 頓首頓首。
和銅五年正月廿八日 正五位上勳五等太朝臣安萬侶
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wangwill66 · 5 months
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《揅經室集》
H:謝長延引出,日本大學考題之來源。20231208W5
曝日大入學國語測驗!
謝長廷驚:台灣學生漢文能力未必贏日本
https://news.ltn.com.tw/news/life/breakingnews/3803758
維基文庫介紹:
《揅經室集》
《揅經室集自序》
1 
余三十餘年以來說經記事不能不筆之于書然求其如文選序所謂事出沈思義歸翰藻者甚鮮是不得稱之為文也今余年屆六十矣自取舊帙授兒子輩重編寫之分為四集其一則說經之作擬于賈邢義疏已云僭矣十四卷其二則近于史之作八卷其三則近于子之作五卷凡出于
《四庫》書史子兩途者皆屬之言之無文惟紀其事達其意而已其四則
御試之賦及駢體有韻之作或有近于古人所謂文者乎然其格亦已卑矣凡二卷又詩十一卷共四十卷統名曰集者非一𩔖也繼此有作各以𩔖續也室名揅經者余幼學以經為近也余之說經推明古訓實事求是而已非敢立異也
道光三年歲在癸未阮元識
《揅經室一集卷一目錄》
1 
  易書不盡言言不盡意說
  釋易彖音
  釋易彖意
  釋心
  釋鮮
  釋磬
  釋蓋
  釋且
  釋黻
  釋郵表畷
  釋頌
  釋矢
  釋順
  釋達
  釋門
  釋〈釋訓〉
  釋相2 
卷二
  擬
國史〈儒林傳〉序
  太極乾坤說
  《儀禮》石經校勘記序
  《儀禮》喪服大功章傳注舛誤考
  刻《七經《孟子》考文》竝補遺序
  曾子十篇注釋序
  《孝經》解
  《論語》解
  《論語》一貫說
  大學格物說3 
卷三
  明堂論4 
卷四
  〈禹貢〉東陵考
  《毛詩》王欲玉汝解
  引書說
  天子諸侯大夫士金奏升歌笙歌間歌合樂表說
  詩十月之交四篇屬幽王說
  進退維谷解5 
卷五
  古㦸圖攷
  七圖考
  銅和考
  璧羨考
  棟梁考
  古劔鐔臘圖考
  鐘枚說
  ●缺字:⿱艸茻字瓦拓本跋
  與程易疇孝亷方正論磬直縣書
  王伯申《經義述聞》序
  王伯申《經傳釋詞》序
  焦氏雕菰樓易學序
  與郝蘭皋戸部論《爾雅》書
  與高郵宋定之論《爾雅》書6 
卷六
  〈考工記〉車制圖解上7 
卷七
  〈考工記〉車制圖解下8 
卷八
  《論語》論仁論9 
卷九
  《孟子》論仁論10 
卷十
  性命古訓附威儀說11 
卷十一
  詁經精舍䇿問
  石刻《孝經》《論語》記
  惠半農先生禮說序
  胡朏明先生易圖明辨序
  漢讀攷《周禮》六卷序
  任子田侍御弁服釋例序
  張皋文《儀禮》圖序
  王實齋《大戴禮記》解詁序
  《春秋公羊》通義序
國朝漢學師承記序
  孔檢討《大戴禮記》補注序
  焦里堂羣經宮室圖序
  與臧拜經書
  與洪筠軒論三朝記書
  十三經注疏校勘記序十三篇12 
卷十二
  浙江圖考上13 
卷十三
  浙江圖考中14 
卷十四
  浙江圖考下
《揅經室一集卷一》
《易書不盡言言不盡意說》
1 
庖犧氏未有文字始畫八卦然非畫其卦而已必有意立乎卦之始必有言傳乎畫之繼其意若指此或連或斷之畫以為此乾坎艮震巽離坤兌也其言遂以音傳之曰此乾坎艮震巽離坤兌也坎則傳為㗁音之言巽則傳為唇音之言而坎巽等字尚未造也至黃帝時始有文字後人始指八卦之字而讀之以寄其音合之以成其書而庖犧八卦命名之意傳乎其中矣故六書出于八卦而指事象形形聲會意轉注假借皆出于易舍易卦無以生六書非六書無以傳庖犧之意與言故傳曰書不盡言言不盡意者此也書乃六書之書傳曰易之為書也亦謂籕篆之著簡策非如今紙印之書也《易傳》曰聖人立象以盡意設卦以盡情僞〈繫辭〉焉以盡其言此卽許叔重所謂庖犧氏作易八卦以垂憲象神農結繩庶業其繁飾僞萌生黃帝之史倉頡初造書契以乂以察也書契取于夬是必先有夬卦而後有夬意先有夬意而後有夬言先有夬言而後有夬書先有夬書而後有夬辭也以此推之後世之言語文字皆出八卦益明矣
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myeverythinglyric · 7 months
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念の為の折り畳み傘、変えられなかった一部の雨予報にそわそわしつつ迎えた今日の約3ヶ月ぶりの逢瀬。直前の日までピリつく瞬間もあれど5分足らずで解決してきた、1年と約2ヶ月の期間の賜物。流石に2度目の待ち合わせ場所となるとどこから現れるかも分かってきて探す間もなく見つけられた。久しぶりの北斗に電車を待ちながらちょっかいをかけつつ、顔を見て話せる幸せをじわじわと感じていた。
一日目の午後、ホテルに荷物を置いて早速集合場所へ向かう。初めて逢うメンツばかり、俺の知り合いばかりで申し訳なさも感じつつそれでも付き合ってくれる北斗と恋人を受け入れてくれるダチに感謝しつつ。微笑ましく見守られながら会話に花を咲かせてたね。
2人きりになって歩けば道に迷い、予定通りに物事を進められずとも北斗は不機嫌になることもなくただただ見つからない予約車に焦って泣きそうになっているところを見て少し笑えたことは内緒、には出来てないな。困ってるところもちょっと可愛いけど可哀想だからすぐ助けてあげようね、俺。ずっと行きたかった好みのカフェ、全力で席を予約してくれた分全力でその雰囲気を楽しんだ。2人でオシャレなドリンクと食事に感動しながら、店内の作品を高いねなんて笑いあって筆談でも遊んだね。何でも楽しみに変わる、俺たちの得意技。夜遅くまで会話も盛り上がって、駅前でみんなで笑いあって、ピースで星作って写真撮るとか学生以来だなって懐かしみつつも青春の続きみたいなその瞬間が最高に楽しかった。大人になってもそういうくだらない話とか好きなことの話を永遠と語る時間は大事だなってしみじみ感じてたよね。
軽食続きで小腹を満たすために買ったコンビニ飯にヤキモチを妬くその膨れた顔も、先にキスしてにっこり笑ってご機嫌そうに風呂に行く顔も愛らしくて、愛おしくて。久しぶりの体温と柔らかさに少し触れただけで、気付けば夜も耽ってた。
予定よりも早く起きる癖、早く起きて御前との時間を少しでも多く過ごしたくてまだ眠たそうな北斗の頬をつついて起こす。寝起きでもほわほわ笑っておはようと返す瞬間も、何もかも自分のものなんだと優越感に浸る朝。早起きするほどのんびり準備するところも俺ららしくて、滑り込みで朝マックするところも俺ららしい。
北斗が通るところから雲が避けて晴れてゆく、曇り空のお台場も2時間も経てば快晴だった。今回もまったく出番のなかった折り畳み傘、本当に流石だな。
初めてのジョイポリス、そもそもどんなとこだろうと思いつつ入場して1時間後には楽しくてはしゃいでた。かっこつけたがりの俺が北斗の前でだけは羽目を外してきゃっきゃと騒げる、それを微笑ましく許してくれる北斗にだから出来ること。1位をとって喜んだり絶叫して楽しんだり、晴れた景色を見てランチをしてまったり過ごしたり。若い頃の穴を埋めるようにプリクラを撮っていくつだよなんて笑いあって、俺の好きなアイスを食べてすっかり夕暮れのお台場を歩いた。
久しぶりに逢えるねと2人でわくわくしながらダチとの合流を待ち望み、さっと買ったスタバを片手に2人でふざけながら夜の秋風を浴びてた。3人でゆっくり話す時間は初めてで、今度は遊びに行きたいねなんて話しながら酒とパスタと会話で腹を満たした。2軒目に迷った挙��句に帰る選択をした俺らは眠気と闘いながらもホテルに帰った、配信をした記憶すらも曖昧で気付けば2人とも沈むように眠ってたね。
再び早めの起床、今日は渋谷に行くと張り切りながら支度をして連日小麦のものばかり食ってた俺らは米系の朝ご飯を確保しに行った。方向音痴を極めた2人、待ち合わせ場所に辿り着けずダチに迷惑をかける始末。洒落たカフェで甘いケーキを食って、何を買うわけでもなく渋谷と原宿を練り歩いたね。
2人になって向かったのはずっと狙ってた隣町の不純喫茶。レトロな雰囲気を味わいたくて乾いた喉を潤しながら、他愛ない話を2人で交わして時間を過ごした。この後に予約しているディナーは内緒にして、アメ横をくぐりながら今度はここにも行こうかなんていつかの話をした。次にお揃いにしたいものの話でも盛り上がって、どんなデザインのものを買おうか考えるのも楽しいね。お揃いの思い出、お揃いのアクセ、お揃いの服。たくさん2人で共有して何気ない日常でも御前の存在を感じられるように。
目を閉じさせ、案内したレストランはアクアリウムを用いた幻想的な空間。丸い目を何度もくりくりさせて大興奮で写真を撮ってる姿を見て俺まで嬉しくなったんだ、こんなにもリアクションをしてくれるから、色んなことをしてあげたくなる。して良かったと思える。上品な料理に舌鼓を打ち、辛さのあるスパークリングワインに身を震わせて笑いながら食事を終える。運ばれた最後のデザートに描かれたラテアートに感動して、1年記念のケーキを添えられた際に北斗は初めてこのディナーの意味を知る。
何度もありがとうと言葉にするその心が綺麗過ぎて、1年と2ヶ月も隣に居るのが北斗で良かったと改めて感じさせられた一日。そんな日の締めにやってきたのは映画館だった。眠い目を擦りながらレイトショーを観て、いそいそと終電に乗って帰ったね。北斗と居たらレストランでも映画館でもデパートでもコンビニでも、どこでも楽しい話ばかりで笑いあえる。時間はあっという間で、明日のことを考えないようにとばかりに2人で身を寄せあって夜を過ごした。
最後の朝、寝起きで目が合うと御前は無言で抱き着いてまるで磁石かのようにぎゅうっとくっついていた。静かに北斗の目から滲む涙が俺の顔にじわりと濡らしても、何も言わずに微笑みあって少しだけ無言でお互い支度を始めた。
初めて逢う北斗のダチ、長年の付き合いとは知らされていた存在に逢うのは少しドキドキはしたけど友達として恋人として、北斗と関わっている以上は価値観が合わないことなんて無いだろうと確信していたのもあり100%のコミュ力を発揮して挨拶を交わした。そんな緊張も要らないほどに北斗のダチは面白くて、濃厚な1時間半を過ごしたと思う。8割は俺の話ばかりだよと何となく分かっていたけど8割って相当だなと思いつつ、北斗がどれだけ俺に夢中なのかを人を通して実感した瞬間だった。大切なダチの前での北斗は2人きりの時と変わらないくらいリラックスしていて、こういう一面もあるんだなと安心したくらい。素敵なダチがいて良かったね。いつも幸せそうに笑ってくれる北斗は、優しい人たちが見守っていてくれたからこそ居るんだろうなと再確認出来た。
電車の中までは今回はまだ平気そうだったのに、空港に着くとやっぱり御前は無言になって、静かにカフェのドリンクを飲んでいたね。やっぱり泣いちゃう北斗が愛おしくて、茶化すように笑ったら困ったように笑い返す。今はまだ寂しい時間もあるけれど、いつかはまた明日も逢えるからねって笑顔で見送ってくれる日が来ることを目指してる。いつか来る、いや、絶対来るって信じてる。
違う土地で、違う部屋で、違うベッドで寝る夜。眠る間際まで北斗は今回の旅行でも楽しませてくれてありがとうとお礼を語る、たくさんありがとうの言える優しい人。嬉しいと素直に喜べる、寂しいと涙して惜しめる、純粋な人。次の旅行の前は喧嘩しないようにしようねと約束をして、笑い合う。
1年前の秋頃は初めて逢って、少しぎこちない距離感で歩いたり部屋で過ごしたりしていたけど今じゃすっかりホテルでは過ごしたいように過ごして、じゃれ合うようになったね。どんな樹でも良いといつでも何度でも伝えてくれるその広い心と大きな愛情にすっかり甘えてる俺がいる。いつも俺を許してくれてありがとう、どんな俺でも受け入れてくれてありがとう。そんな漠然とした感謝が旅行を重ねる度に大きくなってゆく。少しずつ環境が変わっていったとしても、変わらぬ気持ちでまた逢瀬を繰り返していけたら良いなと思う。
2年目も3年目も、俺らなら余裕で迎えられる。互いが隣に居ることは当然になったとしても同じ気持ちでいられる事は当然ではない、それを忘れずにこれからも過ごしていたい。好みも価値観も育った環境も住んでる場所も全然違うけど、違うところを認めて受け入れようと出来る俺らなら大丈夫だよね。
改めて、1年も一緒に居てくれてありがとう。
そしてこれからも末永くよろしく、北斗。
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char-x3 · 10 months
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男人的浪漫🤗
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kachoushi · 11 months
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各地句会報
花鳥誌 令和5年6月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
………………………………………………………………
令和5年2月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
厨女も慣れたる手付き雪掻す 由季子 闇夜中裏声しきり猫の恋 喜代子 節分や内なる鬼にひそむ角 さとみ 如月の雨に煙りし寺の塔 都 風花やこの晴天の何処より 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
山焼きの煙り静かに天昇る 喜代子 盛り上がる土ものの芽の兆しあり 由季子 古雛や女三代つゝましく 都 青き踏む館の跡や武者の影 同 日輪の底まで光り水温む 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
桃の日のSt.Luke’s Hospital 光子 パイプオルガン天上の春連れませり 順子 指を向け宙に阿弥陀の春の夢 いづみ 春の川大東京を揺蕩ひぬ 美紀 聖路加の窓ごとにある春愁 眞理子 雛菊もナースキャップも真白くて 順子 聖ルカを標としたる鳥帰る 三郎 印度へと屋根とんがりて鳥雲に 佑天 鳥雲に雛僧の足す小さき灯 千種 学僧は余寒の隅に立つてをり きみよ
岡田順子選 特選句
春陽に沈められたる石の寺 美紀 春空に放られしごと十字架も 同 春潮の嫋やかな水脈聖ルカへ 三郎 鳥雲に雛僧の足す小さき灯 千種 涅槃西風吹きだまりては魚市場 いづみ 聖路加の鐘鳴る東風の天使へと 俊樹 皆春日眩しみ堂を出で来たり 千種 桃の日のSt.Luke’s Hospital 光子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
春愁の揺れてをるなりだらり帯 愛 立子忌や飯とおさいにネモフィラ猪口 勝利 春眠し指に転がす砂時計 かおり ゆらめいて見えぬ心と蜃気楼 孝子 春潮のかをり朱碗の貝ひらく 朝子 ファシズムの国とも知らず鳥帰る たかし 立子忌の卓に煙草と眼鏡かな 睦子 毛糸玉ころがりゆけば妣の影 同 わが名にもひとつTあり立子忌よ たかし 波の綺羅とほく眺めて立子の忌 かおり 灯を消して��と命惜し雛の闇 朝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月6日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
この空のどの方向も春日燦 和子 思ひ出はいろいろ雛の女どち 同 うららかや卒寿に恋の話など 清女 鳥帽子の小紐手をやく京雛 希 耳よりの話聞きゐる春の猫 啓子 地虫出づ空の青さに誘はれて 雪 意地を張ることもなくなり涅槃西風 泰俊
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月10日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
裏路地の古屋に見ゆる雛祭 実加 子等笑ふお国訛りの雛の客 登美子 彼岸会の約束交はし帰る僧 あけみ 筆に乗り春の子が画く富士の山 登美子 うららかな帰り道なり合唱歌 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
春夕焼浜の民宿染めてをり すみ子 青粲粲空と湖面と犬ふぐり 都 水車朽ちながらも春の水音して 和子 朝東風や徒人の笛は海渡る 益恵 枝垂梅御幣の揺れの連鎖して 宇太郎 春の婚オルガン春の風踏んで 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
啓蟄やボール蹴る子は声がはり 恭子 海近き山の椿の傾きて 和代 啓蟄の光を帯びし雲流る ゆう子 鳥鳴いて辛夷の甘き香降る 白陶 一人言増えたる夕べ落椿 恭子 小気味よき剪定の音小半日 多美女 一端の鋏響かせ剪定す 百合子 ふる里の椿巡りや島日和 多美女 剪定や句碑古りて景甦る 文英 剪定や高枝仰ぐ褪せデニム ゆう子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
雪吊の縄の解かれて睡り覚む 世詩明 家康公腰掛け松や地虫出づ ただし 捨鉢な女草矢を放ちけり 昭子 屋号の名一字継ぎし子入学す みす枝 花冷や耳のうしろといふ白さ 昭子 坐りゐて炬燵の膝のつつましく 世詩明 対座したき時もあるらん内裏雛 みす枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月13日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
摘草のさそひ届きぬ山の友 ことこ 蒼天に光の礫初燕 三無 陽炎のけんけんぱあの子をつつむ あき子 朝戸風見上げる軒に初つばめ 同 摘み草や孫を忘れるひとしきり 和魚 かぎろへる海原円く足湯かな 聰 陽炎や古里に建つ祖母の家 ことこ 我家選り叉来てくれし初つばめ あき子 陽炎ひて後続ランナー足乱る のりこ 新聞を足してつみ草ひろげたり あき子 つみ草や遠くの鉄橋渡る音 史空
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月14日 萩花鳥会
熔岩の島生き長らへし藪椿 祐子 寝静まり雛の酒盛り夢の間に 健雄 田楽や子らの顔にも味噌のあと 恒雄 雑草も私も元気春日向 俊文 猫抱いてぬくぬく温し春炬燵 ゆかり 子自慢の如く語るや苗売よ 明子 雲梯を進む子揺らす春の風 美惠子
………………………………………………………………
令和5年3月15日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
雪吊りのほどけて古木悠然と 笑子 落椿きのふの雨を零しけり 希子 夜半の軒忍び歩きの猫の恋 同 立雛の袴の折り目正しくて 昭子 桃の花雛たちにそと添はせたく 同 口笛を吹いて北窓開きけり 泰俊 手のひらを少し溢るる雛あられ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
雪吊の縄のゆるみに遊ぶ風 雪 ��津城の踏まねば行けぬ落椿 同 まんさくに一乗川の瀬音かな 同 よき言葉探し続ける蜷の道 すみ枝 春眠の赤児そのまま掌から手へ 同 足裏に土のぬくもり鍬を打つ 真喜栄 強東風の結界石や光照寺 ただし 裸木に降りかかる雨黒かりし 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月17日 さきたま花鳥句会
春雨に黙し古刹の花頭窓 月惑 震災の地に鎮魂の東風よ吹け 一馬 春昼や女房のうつす生あくび 八草 ととのへし畝に足跡朝雲雀 裕章 路地裏の暗きにありて花ミモザ ふゆ子 薄氷や経過観察てふ不安 とし江 拾ひよむ碑文のかすれ桜東風 ふじ穂 水温む雑魚の水輪の目まぐるし 孝江 薄氷の息づき一縷の水流る 康子 二月尽パンダ見送る人の波 恵美子 ほろ苦き野草の多き春の膳 みのり 梅園に苔むし読めぬ虚子の句碑 彩香 強東風老いてペダルの重くなり 静子 鉛筆はBがほどよき春半ば 良江
………………………………………………………………
令和5年3月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
一族の閼伽桶さげて彼岸寺 芙佐子 隠沼に蝌蚪のかたまり蠢きぬ 幸風 セスナ機の音高くして地虫出づ 月惑 この山の確と菫の一処 炳子 石仏に散華あまねく藪椿 要 年尾とはやはらかき音すみれ草 圭魚 茎立の一隅暗き室の墓 千種 春塵の襞嫋やかに観世音 三無
栗林圭魚選 特選句
ビル影の遠く退く桜東風 秋尚 古巣かけメタセコイアの歪みなし 千種 寄せ墓の天明亨保花あけび 同 色を詰め葉の艶重ね紅椿 秋尚 ひとつづつよぢれ戻して芽吹きけり 同 信号の変り目走る木の芽風 眞理子 助六の弁当買うて花人に 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
元三大師夢のお告げの二日灸 雪 新しき雪夜の恋に雪女 同 恋てふも一夜限りを雪女 同 懐手もつともらしく頷けり 昭子 石庭に音立て椿落ちにけり 同 雛簞笥何を隠すや鍵かけて 同 貸杖の竹の軽さや涅槃西風 ただし 石どれも仏に見えて草陽炎 同 泰澄の霊山楚々と入彼岸 一涓 制服も夢も大なり入学児 すみ枝 露天湯に女三人木の葉髪 世詩明 歩きつつ散る現世の花吹雪 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月26日 月例会 坊城俊樹選 特選句
門出祝ぐ花の雨とてももいろに はるか 花色の着物纏ひて卒業す 慶月 街の雨花の愁ひの透き通り 千種 蹄の音木霊となりて散る桜 政江 フランス語のやうにうなじへ花の雨 緋路 大屋根をすべりて花の雨となる 要 花屑へまた一片の加はりぬ 緋路 永き日のながき雨垂れ見て眠し 光子 宮裏は桜の老いてゆくところ 要
岡田順子選 特選句
金色の錠花冷えのライオン舎 緋路 漆黒の幹より出づる花白し 俊樹 白々と老桜濡るる車寄せ 要 花揺らし雨のつらぬく九段坂 はるか 漆黒の合羽のなかに桜守 光子 花の夜へ琴並べある神楽殿 はるか 春雨や無色無音の神の池 月惑
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
今昔の小川にしのぶ蜆かな 成子 薔薇の芽の赤きは女王の予兆 ひとみ 潮こぼしながら蜆の量らるる 朝子 餌もらふ鯉をやつかみ亀の鳴く 勝利 突きあげし拳の中も春の土 かおり 持つ傘をささぬ少年花菜雨 ひとみ 涅槃西風母も真砂女も西方へ 孝子 亀の鳴く湖畔のふたり不貞だと 勝利 口紅は使はれぬまま蝶の昼 喜和 長靴の子はまつすぐに春泥へ ひとみ パグ犬と内緒のはなし菫草 愛 息詰めて桜吹雪を抜けにけり 孝子 ふと涙こぼれてきたる桜かな 光子 健やかな地球の匂ひ春の草 朝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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peterchiublack · 1 year
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某些時候,日本人講的話可以看看
安德烈,中國駐法大使盧沙野訪談失控輿論震驚,法廣 ,23/04/2023。 https://rfi.my/9PCf.T
中國著名的戰狼外交官、駐法大使盧沙野,近日在接受法國電視台採訪時,竟然說出了:「前蘇聯國家在國際法上無主權國地位」的驚人言論,引起了眾怒。
多達80名歐洲議會議員在法國媒體上發表聯署公開信,痛斥盧沙野的發言是對法國以及歐洲夥伴國家安全的威脅,並呼籲法國外交部將盧沙野列為「不受歡迎人物」、予以驅逐。
中國政府在沈默了3天之後,外交部發言人毛寧終於出來、全面否定了盧沙野的發言。在昨天的外交部記者會上,毛寧說:「前蘇聯加盟共和國在聯合國具有獨立地位,中方尊重各國的領土主權,以及主權獨立完整」。中國駐法國大使館也發表聲明說盧沙野的說法只是個人見解。和他進行了切割。
盧沙野畢業於專門培養外交官的「外交學院」,有多年駐外的經驗。能從激烈的競爭中脫穎而出、升到副部長級的駐法國大使,說明他絕不是口無遮攔的大嘴巴。他最知道「什麼時候能說什麼、不能說什麼」。他說的每一句話,應該都是經過計算的。
首先,盧沙野在訪談中提出的對台灣問題和前蘇聯加盟共和國的見解,不可能是他個人的意見。台灣和烏克蘭都不是他的職權所在。在獨裁體制下,官員胡亂發表意見,那可不是鬧著玩的。盧沙野對媒體講的內容,應該是習近平政權的認識,他甚至有可能得到了一定程度的授權。盧沙野也不是第一次語驚四座。一年多前他提出了應該要對統一後的台灣人進行「再教育」,也在國際社會上引起了軒然大波、但他卻毫髮無損。而且,盧沙野還是最近中國外交部的「大功臣」。前不久法國總統馬可宏訪問中國、按照中國提供的劇本發表了一通演說,給足了習近平面子,這和盧沙野事先在水面下做的溝通準備工作是分不開的。相信盧沙野應該收到了內部的表揚。說不定回國升正部級的可能性都有了。
只是,這一次他的發言引起的反彈太大了。中國政府在認真評估得失之後,不得不出面澄清、和盧沙野做了一定的切割。那麼我們接下來要觀察的是:
第一、盧沙野會不會在短時間內被換掉? 第二、如果被換掉,用的是什麼樣的理由?是用正常的人事交替、健康問題、還是不做說明。 第三、他回國以後的職位是什麼?是平級調動、還是降級使用。
從盧沙野今後的命運,或許可以看出中國外交的走向。
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johncoffeepodcast · 1 year
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ティエリの結婚
 晴れた日に洗濯物を自転車のカゴに入れて、公営の洗濯場に行った事がある。その日、その青年は家で洗濯物を干す時間が勿体ないと感じた。だから洗いざらしになった洗濯物を隣の家のご婦人に預けに行ったのだった。この青年の場合は一枚一枚手で、丁寧に洗って物干し竿に干していると、日が暮れてしまう。太陽が山の向こうに沈み込むまで、昼のうちは一生懸命働いているので、3度の炊事に加えて自分の洗濯物を洗うとそれ以外の事には手を付けられなくなってしまうのだった。だから膝をついて土埃を含んだズボンが去年の冬に編んだカゴの中に随時3本は溜まっている。この青年の日常は馬の世話で忙しく、陽が高いうちは厩戸にこもりきりなので、夕方、隣と軒を連ねる長家に帰ると、あとは眠るだけだった。1週間ぶりの休日に洗濯場で汚れた衣類を洗うと、掌出来たきり一向に治る気配のない切り傷の存在に気づくのだ。この青年の家で大量の洗濯物を干すには、ベランダの物干し竿が短すぎるし、長さも足りない。全て洋服をかけるには、隣人の家に持ち込む他に方法がなかった。それに、この青年が隣の家に洗濯物を預けに行く本当の理由は、単に2階のベランダが狭すぎるというだけでは無い。隣に住む、美しい娘に会えるからだった。この青年は自分の洋服を洗う。という行為に幸福を感じているし、労働後に疲労感を携えて家を清潔に保っておくのも好きだった。この一見素晴らしい青年の肌は浅黒く。この地域では珍しい彫りの深い顔をしている。青年は、都市で起きた弾圧を受けて片田舎にやってきていた。
 情勢は常に不安定だった。この土地には古典派と新鋭派の教会があって、それまで優勢だった古典的の教会は、武力を使って新しく出来た新鋭派の繁栄を抑えようとしはじめていた。戦火が日に日に増してきて、命の危険を感じた新鋭派の人々は、都市から離れ、田舎に租界をする様になった。このティエリという青年は、元々都市で馬を育ていて、父親は馬の鞍を作ったり、荷役の馬を移動手段として誰かの手に引き渡す仕事をしていた。大都市では新鋭派の人々は迫害され、新たに流れついた土地では元々暮らしていた人々と新たに流入してきた人々の間では新しく軋轢が生まれた。流入者は酒場の暗がりに連れ込まれると、秘密裏に粛清が下される事もあった。この青年が流れついた先でも、先例に違わず新たに流入してきた人は差別的な略称で呼ばれる様になった。流浪の民は様々な呼び名で呼ばれ、通常最も多い呼び名だとボニシェリだとか、ケラントマなどという俗称で呼ばれた。しかし、その様な流浪の民も、田舎がまだそれほど強く教化されていない事に気が付くと、融和を求める先住民族に対して、自分達の誤解を晴らす為に元々住んでいた場所の料理を振る舞った。新鋭派の言い分は、水辺で採れた鴨肉のロ���ストや、戸棚にずっと置いてあったワインと共に、人々の体の中に流し込まれた。都市から離れた田舎では、新鋭派と古典派の間で徐々に融和が進んだ。新たに流入してきた人々は、経済的に貧しく依然として蔑まれていた存在だったのだが、辺鄙な土地に行けば行くほど徐々に土地は平和になっていった。それからと言うものの、融和が進んだ田舎の人々は、実権を握る教会に対抗する様に首領都市に伝道師を送り込む様になった。それでも新たな土地に受け入れられなかった人々は、流れついた土地の外で森を切り開いて新たに文明を作って暮らした。ティエリという青年は、都市で家族を失い、一度叔母さんのいる地方都市へ預けられた後、最近16歳になった。この青年は最近、酒場で人々を家まで送っていく馬の世話をする仕事を見つけたのだ。
 隣のアパートに暮らす美しい少女の名は、ウディーネといった。彼女はまだ学生だった。この時、中等教育を受けられる16歳ぐらいの少女は限られた家に産まれるか、とても裕福な家業を起こしている者だけだった。それも大地主か、医者の娘か、鉄道を建設する会社に勤めている人に限られた。畑を耕す傍らで小売や製粉業を営んでいる零細農夫たちは、教育を受ける機会を得られない。この地方にはガラスの天井のような物が存在した。その狭き門を通り抜けたウディーネは、あと一年で中等教育を納めようとしている。ウーディーネはとても優秀で有名だった。ウディーネの父親は坑夫で、母親はワインの製造に携わる家庭の娘だ。ウディーネは庭の手入れや家の手伝いの合間で机に向かい、初頭教育を受けた時、学力テストで全県で一番になった。それからは地域の人々からも初の女性医師になるのでは無いかとロレーヌ県全体から噂される事になったのだ。普通ウディーネぐらいの歳の少女は、初頭教育の学校を卒業すると、地元のブドウ畑に送られて、寒空の下枯れた蔓を素手で折り、収穫して干され、萎んだ葡萄を荒れ果てた桶の中で詰まなくてはならなかった。それからぶどうは、踏んで果汁を搾り取らなくてはならない。なので葡萄畑で働く少女達はスカートの裾から染めあげられて真紅色の素足になってしまう事が多くなってしまうのだ。だから娘達は、自然と編み上げのロングブーツを履いている事が多くなった。この地方の人々は一年を通じて生きる為にワインを作らなければならない。それはロレーヌ県では当たり前で、同級生が畑で働いている間、学校に通えているウディーネはみんなが憧れる存在だった。実際、ウーディーネが暮らす家も、この青年と居を隣合わす貧しい長屋だ。しかしそんなウディーネが何故、労働者階級に生まれついたのに中等学校に通えていたのかと言うと、ウディーネは去年、初等教育学校を卒業する間際に母の働くブドウ畑で、葡萄を潰してワインに瓶詰めにする最適な方法を見つけ出していたからだった。ウディーネは自分が発見した方法を、大人に臆する事なく畑で働いている全員に教唆した。ウーディーネはその功績を県の農務局から認められ、助成金で学校に通う事が出来ていたのだ。
 ロレーヌ県はフランスとドイツの間にある山岳地帯だった。山に沿って傾斜のある丘陵は、陽がかげると寒く、氷柱が垂れ下がる程街中が冷え込み、山陰から太陽が高く昇る12時ぐらいになればやっと暖かい日差しが街の上に降り注ぐ。それは荒涼とした空気の中、葡萄の幹を冷たく霜がつく程に厳しい風が撫で下ろした。岡から見下ろすロレーヌの街は、緑やオレンジ色で彩られていた。家屋の屋根は主に淡いオレンジ色の煉瓦で出来ていて、灰色の石畳で出来た道路と調和して、うまい具合に植え込みの草花と混じり合っている。2人が隣り合わせに暮らす長家は、農耕地の多い街の端っこにあった。その辺りは扇状地になっていて、ティエリが働く酒場や、ウディーネが通う学校は、街の中心部にあった。中心部の商工会議所の前には馬車が泊まる停泊所があって、その隣にウディーネの通う中等学校が建っている。学校の近くには、税務署や警察署、酒場や市場、それに市役所などが全て同じ一角に集っていた。ロレーヌの街は古典的な教会を中心に広がりを見せ、人々が各々得意な事業を営む事で何とか豊かさを育む事が出来ている。ティエリが来る前のロレーヌは、農業が中心の山岳地帯だった。この土地は新しい人々の流入によって最近産業が盛んになってきたのだ。新しく流入して来た人が来る前は、畑から採った作物を自分たちでロバを操って運び、移動手段として誰かが馬を携えて馬車を引かなくてはならなかった。しかし新たに流入者が来た事で、大規模な商業者達は大量に彼らの様な金銭を得る機会を得たい人々をすぐさま雇い入れた。代替的な産業の効率化はどんどん進んだ。新しく来た人々はそのような事情を加味する事なく、日々をこなし、地主や鉄道の経営者はその利潤を自分や社会の為に使った。新しく来た人々はそんな事よりも、飯を買う為のお金を懐に入れなければならなかったし、新しく生活を初める初期設備を揃えなればならなかった。そのような事が繰り返されて、街は徐々に栄えていった。ティエリの酒場が開くのは午後5時だ。ティエリは畑の側の厩戸から、数頭の馬を率いると、自分の馬を酒場に向かって走らせた。この青年の馬は毛並みに艶があって品が良く、筋肉が力強く張り詰めている。馬の蹄鉄が石畳を踏み締めると、長い立髪が風の様に頭上で靡くように震えている。この青年は毎日、酒場への道の途中にウディーネの学校に寄った。門の外でウディーネの帰りを待つ青年は、中等学校が終わったウディーネを見つけると、青年は手を振った。『ウディーネ���』青年は門の外から呼びかけら様にして言った。ウディーネは革の鞄を前後に揺らしながら、校門の外にいる一頭の馬に近づいてくる。ウディーネは、青年から馬の手綱を預かった。『今から酒場へ行くの?』とウディーネは青年に尋ねた。青年は頷いた。『今日はいつもより多くチップを貰えると良いわね。次に会えるのはいつ?明日?』『明日もこの時間なら会えるかな。』と青年は半ばそっけない感じに言った。『じゃあ今度うちに来た時には私の家族と一緒に食事でもとりましょう。良いわね?私が聞いたのは、洗濯物が溜まって、家に尋ねに来てくれた時。いつもの様にそそっかしく帰らないで。』ウディーネはティエリに言った。ウディーネは、ティエリが何か見当違いをしていると勘ぐった。ティエリは2本の手綱を持って、馬の鼓動を確かめる様に下腹に手を当てている。馬の鼻から息を吐かれると、ウディーネも黒い目の馬の胴体をさすった。それからウディーネは、編み込んだ長髪を揺らしながら、黒い馬の背中によじ登る様にして跨った。ウディーネはスカートをたくし上げ、鎧の鞍に足を掛けると、脚の内側で馬の胴体を締め上げる。馬は息を吐きながら唇を震わせて、ゆっくりと前に歩き出した。ウディーネは編み上げのブーツを馬の尻に当て、その合図で馬が走り出すと、馬は土埃を跳ねあげて石畳を走り出した。街の人々は、そんなウディーネの姿を見かけると男勝りな変わり者。だとか、学校に通い勉学に励む変人。など様々な噂話を街角で繰り広げたりしたが、ウディーネ当人はその様な風評を全く気に留めていない様だった。
 ティエリは厩戸から2頭の馬を率いて、馬を酒場の外にある停泊場に繋いだ。停泊場にはウエスで黒い塗料がかけられており、過敏な馬にとってはそれがどの様に作用するのか気掛かりだった。ティエリは酒場の両側に開く跳ね扉を開けると、すぐに酒場の主人が配達されて置いてある酒瓶のケースを貯蔵庫へ運ぶように言いつけた。ティエリは夕方の5時から夜の11時まで働いている。現在は週に5日、酒場に届けられた物を食物庫に運び入れ、数時間後に酔っ払いが帰路に着くため丸テーブルの椅子から立ちあがりだしたら、馬車を運転して送り届ける運転手として主人の酒場で働いている。酒場の主人はティエリが亡命してきたときにロレーヌの地で最初に出会った人物だった。まだこの街に来たばかりのティエリが、まだ何処へも行く当てが無く、3週間ぐらい続けて寝床の酒場のカートンケースに隠れて路肩でうずくまって北風を凌いでいると、主人が鍵をベルトから下げてティエリの元へやってきた。主人は店を開ける素振りを見せると、カートンケースの横で蹲るティエリの様子を眺めた。店主は店の中から戻ってくると、片手に鍋から掬い上げられた牛のスープを持っていた。ティエリはそれが実に2日ぶりの食事だった。『美味いか?』と主人は聞いた。そのスープが再び立ち上がる気力を繋いだのだった。『明日からもっと良いものが食べれるぞ。』と主人は煤だらけで寝そべるティエリに言った。『その為には、ここで働く事だ。』その瞬間の青年の目の輝きを店主は決して忘れたりはしない。スープを貰った次の日、その青年は何処かから3匹の馬を連れて店主の酒場にやってきた。店主は馬を持っている青年の姿に驚きを隠せない様だった。携えていた3匹の馬は、都市の戦果を切り抜けて青年共々傷だらけ。青年は酒場の主人に黒毛の馬と茶色い馬、茶色と黒の混血の馬の存在を告げた。馬はブルブルと頭を前後に震わせて、汗で濡れた立て髪から湯気を上げている。酒場の主人は傷だらけだが、この様に立派な馬を見るのは初めてだと目を丸くして呆気にとられた。それから流浪の民の青年は、『この馬と共に、私に何かできる事はありませんか?』と主人に対して請願をしたのだった。
 元々この青年は、都市で馬の鞍を作っていた。青年は、争いが激化すると自分が世話をする馬の中から最大限の無理をして8頭のうちの3頭だけを引き連れて都市から逃げてきていた。それからは酒場の前で寝ていた時も、長屋に落ち着いてからも、毎晩、夢の中で残こして来てた馬の事を考える様になった。酒場を営む主人は青年に話しかけてくれた命の恩人というだけでなく、親切な事に、ティエリの住居が決まるまで身の廻りの世話を焼いてくれた人物だった。ティエリが店を手伝出してからは、次の住居をどうするのかよく店主に相談をしていた。青年が働きだしてからしばらくたったある晩。酒場の主人の親友、ウディーネの父が酒場に南で取れた椰子酒を飲みに来た。その時、主人は青年が馬車に乗っている間、ウディーネの父親に流れ者を匿っている事を相談したのだ。ウディーネの父親は周囲を見回して、自分は違う事を考えていると言う振りをした。ウディーネの父親は、椰子酒をもう一杯飲み干した時、口が緩んだのか自分の住む長屋の隣が空いている。という話を酒場の主人に報告した。酒場の主人は、すぐさまティエリにウディーネの父親を紹介した。食料の貯蔵庫から出て来たティエリは、住める家があるかもしれない。と言う事を主人に伝えられると『屋根があるなら何処でも良いです。本当にありがたいです。』と食い気味に言った。その時、ウディーネの父親は眼を丸くして、青年の事をつま先から舐める様に見渡した。ウディーネの父親も酒場の主人と同じく、3頭の馬を携える褐色の肌の青年を初めてだった。『有り難いです。』とティエリはもう一度念を押すように言った。ウディーネの父親もティエリが食い気味に来るので、若干圧倒された様だったが、戦乱を免れてきた深刻な事態を飲み込み、快い返事で承諾をした。その様な流れで青年はウディーネの住む長屋の隣に引越して来たのだ。だから青年は酒場の主人に温情を感じている。青年は毎日、届いた酒を酒場の貯蔵庫に持って行く際、自分が此処に寝泊まりしていた時から感じていた先行きの見えない不安について思案した。酒場に客が入り始めてからは、店の外に立って酔っ払っいが出てくるまで辛抱強く吹き下ろされる北風の寒さに耐え忍ばなければならなかった。青年は最初の給料を馬にかけるキルティングの衣装と、ブランケットに変えた。それからは馬も、馬車の後ろに乗せた酔っ払いの臭気を一見気にしていない素振りを見せた。馬も青年も、今出来る唯一の事は馬の健康を守る事と、スープを恵んでくれた恩人の施しに報いたいと言う事だった。青年は送り届ける街の人々の家を覚えた頃、この土地にすっかりと溶け込み始めた。
 酒場にはティエリと店主以外にもう一人ティエリによく話かけてくれる人が居た。それは眼鏡をかけたシンディという女だった。酒場に来る役人はすぐに分かった。特に若い役人は綺麗な衣類を身につけていて、ウェイトレスの娘をからかうからだ。しかし彼女はウディーネと同様にそんな事など気にしない。ロレーヌの男達は、大概そういうものだし、シンディというウェイトレスの女は客が全員帰った後、店のカウンターの片付けをしながら、その場でエプロンの前ポケットに挟んだ自分の取り分のチップを数えるのが日課だった。『自分の強さを誇張する為に、誰かを貶めなければ役人の試験には受からないのよ。』とシンディは言った。シンディは度々手をタオルで拭いては、冗談を交えては、樽につけられた皿洗いながら、その時居合わせた従業員と共に笑っていた。ティエリはシンディの事を尊敬している。シンディの様な芯の通った女性が何故ロレーヌには産まれるのだろうと青年は考えた。酒場のテーブルに椅子をひっくり返しながらその胸の内をシンディに打ち��けた所、シンディは『知らないわよ。』と言った。シンディは『そんな事をいちいち気にしていると、人生が悲観的になるわよ。』とティエリに言った。シンディは誰からも頼られる人物だった。実は昨日、ティエリが酒場の看板を閉まっている時にシンディに『実はウディーネは、中等学校に通っている。』と勇気を振り絞って告げてみた。するとシンディは、その時もウディーネに対して卑屈な意見を述べなかった。代わりに『良いんじゃない。』と言って、シンディはエプロンの腰紐をキツく結んだ。シャツの袖を仕事で出来た力瘤がせっせと食器を運び、戸棚の中に仕舞われている。シンディは今、炊事場で水道から冷水を客がミートローフを食べ終えた鍋に当てている。泡立てた束子で皿を洗いながら、シンディはティエリに聞いた。『あなたはそのウディーネという人の事をどう思ってるの?』『どうもこうも。』と青年は答えた。『私に何か言って欲しいんでしょ?』ティエリは一瞬、返事をするのを躊躇った。『それがこの先、きっと結果いい結果をもたらすかも知れない、とかきっと貴方は考えているのよ。』『そうだ。』『だからもう、その子の事が気になっているんでしょ?あなたは違うって言いたいのかも知れないけど、何故か貴方の耳が赤くなっているのが顔を見れば分かるわよ。』揶揄われた事で恥ずかしくなったティエリは、いそいそとシンディのいる台所に入り、わざとらしく脅かした。皿を洗う事に夢中になってワッと驚いた。シンディはティエリに対して『馬鹿ね。』と嘲るように言った。
 月曜は朝から馬の世話をした後、畑で育てた作物を酒場に届けた。その日は朝からから馬具を取り付けて、鎧の位置を調節してそれぞれ合った馬具をあつらえたりした。3頭の馬はどれも肉の付き方が三様に異なる。黒い馬と茶色い馬と、混血の馬には其々にトラウマがあり、馬車に乗客を乗せて、ゆっくり馬車を引いていく事に慣れるまでには随分と時間がかかった。それから3頭の馬には、鞍とあぶみが背中からずれない位置に設置した。青年は普段から馬にストレスをかけないような世話をする事にしたのだ。昼にウディーネの住むアパートに出向いて、昨日貸した馬はどうだったのか乗り心地を尋ねたところ、『跨って、走っても大人しくて静かな馬ね。』と馬達の歩行を褒めた。今日のウディーネは、まるで何処かに行くのかとでも言う様に、着飾っていた。赤いチェックのスカートに緑のブラウスと、ブロンズの長い髪が澄んだ青い目を際立たせている。青い目はティエリと馬を見つめた。『今日は学校は?』と青年が尋ねると、『今日は休み。』と言った。ウディーネは今から何処か行かない?と言いたげな感じだった。それはまるで予期されていた事の様に、玄関のすぐ外では茶色い馬と、昨日ウディーネが乗ってきた黒い馬が立っている。ウディーネはティエリが厩舎から乗ってきた茶色い馬の様子を眺めた後、『疲れてそうだから休ませてあげたら?』と馬の様子を観察して述べた後、青年の返事を待った。青年はウディーネの背後に見える家の廊下の若草色の壁紙や、雉の絵柄が書かれている鍵置きのテーブルを眺めている様だった。『これ?気になるの?』ウディーネは鍵置きのテーブルの上に載ったブリキの剥製を指し示す。ティエリは、そうだ、何処か出かけようか、と機転を気掛けせて言いかけたが、ウディーネはティエリがインテリアに眼をとられている事を察すると、紅潮した表情を浮かべて家の中に入る様に誘った。ティエリは玄関の外でブーツを叩いて土埃を落とし、二階へ登る階段を上がった。狭いウディーネの部屋には、絨毯の上に読みかけの本が置かれていた。ウディーネは何処でも自由に座る様に言った。ティエリはこの日、初めてウディーネの家に呼ばれることになった。
 ウディーネの部屋は落ち着いた黄色い壁にクリーム色のカーテンが掛かっている。ウディーネは何処から出してきた小さな折り畳みのテーブルを絨毯の真ん中に広げた。テーブルを広げる前には、市場で売られている花柄のクロスが物を隠す様にかけられていた。ティエリは絨毯の上に座ったはいいものの、何処かそわそわと落ち着かない感じだった。ウディーネの部屋の辺りの見て、馬を操っている時とは対照的な様子だ。ティエリが絨毯の上座っていると、ウディーネが茶器から紅茶を注いで、スプーンでかけ混ぜながらティーカップを目の前に運んだ。『黒い馬は突然跳ねたりしなかった?』とティエリはウディーネに尋ねた。『全然。とても大人しかったわ。』ウディーネはティーカップの紅茶を一口飲むと、『私には懐いているのね。』と言った。『夜、馬車を引いていた時には結構焦っている感じだったんだ。』『本当?』『うん。だから帰り道に何かあったのかと思った。』ウディーネは首を左右に振った。『全然。そんな事無かったわ。』『ならいいけど。』しばらくしてウディーネは尋ねた。『黒い馬は、突然跳ねたりするの?』『いや通常ではそんな事は無いんだけど、たまに厩戸から連れて、貸したりするときに落ち着きが無くなって帰ってくる事があったたんだ。』とティエリは言った。それからティエリはロレーヌに来る前の事を話した。それから話を変えて、馬車を引く時に縛られたロープが体を強く締め付けるんだけど、その時馬が、瓦礫の中で、厩舎を抜け出してきた時の事を考えているような気がする。とウディーネに告げた。ウディーネは『何故、馬は厩舎を抜け出してきたの?』とティエリに尋ねた。『何故?』その理由をティエリがウディーネに告げかけたその時、ずっと前から居たように、工事現場から帰ってきたウディーネの父がウディーネの部屋の戸口に立っていた。ティエリが入って来た時から、ウディーネの部屋のドアは開け放たれていたのだった。『何だティエリ、来てたのか。』昼食を取りに帰ってきたウディーネの父親は自分の部屋に戻る途中で青年に向かって言った。ティエリは、ウディーネの部屋の絨毯から立ち上がり、頭に載せた茶色いフェルトの帽子を取った。それからティエリは、ウディーネの父に向き直って言った。『昨日はどうも。』『昨日の御者は君だったっけ?』ウディーネの父親は言った。『飲みすぎるのも程々にしないとな。外にいるのは君の馬かい?』『ええ。昨日引いていたのと同じ馬です。茶色い馬がユージーン。黒い馬がハビットと言います。』『馬に名前を付けているのか。』『ええ。』『そうか。それで、さっき、洗濯物が乾くからもうそろそろ取りに来いと、私の妻が言っていたぞ。頃合いを見て、ベランダに取りに行くといい。』『そうします。』と青年は言った。『外の馬も長い時間、貴方の家の灌木に繋いでいるのは悪いですから。』突然、ウディーネは、座りながらティエリと父親を交互に行き来するように仰ぎ見た。ティエリはウディーネに何?と表情で訴えかける素振りを見せた。するとウディーネはもう一度、2人の様子を見比べた。ウディーネの父親はウディーネを不思議そうに見つめた。ウディーネは父親が単に事実を述べただけの事である事を悟ると、『ティエリもお昼はまだよね?』と言った。それから、『折角ならお父様と一緒に食べて行ったら?』と付け加えた。父親はけったいそうに客間の入り口の木枠に肩肘を付いているが、特段、嫌な素ぶりを見せる事は無かった。それからウディーネの父親は申し出に悩む間もなく返答をした。『そうだな。ウディーネ。母さんを呼んでこい。ティエリの洗濯物を持って来て、ランドリーバックに入れて下の階に降りてきなさい。ウディーネ。ワインセラーの隣にハムの塩漬けが置いてあるから。戸棚から出して君が好きな様に皿に盛り付けると良い。』とウディーネの父親は言った。父親は一度ゆっくり話してみたいと思ってたんだよ。と言わんばかりにティエリの肩を揉んだ。ウディーネの父親はダイニングの椅子をティエリの為に引いて昼食に招いた。ティエリはウディーネの家族と和やかな昼食に同席する。食卓には質素だが、高タンパクの食事がティエリの皿の上にも並んでいた。『いっぱい食べろよ。』とナイフとフォークを持ったウディーネの父親はティエリに言った。『豆は良いから、肉を食え。』その席では塩漬けの肉は特別な時の為に取っておく物だとウディーネの父親から聞かされた。終いには、ウディーネの父親はその肉を、自分の皿からティエリの皿へ移した。ティエリはその時、ロレーヌ地方の男は父親から娘と同席してランチを摂る時、誰もがその様にされて来たのだと悟ったのだった。
 食事の席では、馬を操れるなら、工事現場によって1週間も働けば五ペンスにはなるぞ。とウディーネの父親に言われた。食事を終えてティエリを玄関へ見送りに来たウディーネの父は、ブーツを履いているティエリに忍び寄ると、『また来るといい。』と大袈裟にティエリに言った。ティエリは振り返ってウディーネの父親に『また来ます。』と精悍に言った。それからティエリは羊の毛で出来たコートを羽織ると、フェルトの帽子を被り直して黒毛の馬に跨った。内股であぶみに足をかける姿を見たウディーネは、父親の目線に気がついた。ウディーネは馬に跨るティエリから視線を外すと、ティエリが馬に走る様に合図を出すまで、馬の蹄を眺めていた。ガス燈が灯る街は静かで、夕闇が街を染めようとしている。ウディーネの父親は、日中は鶴嘴を握り、指の皮が厚くなった手の平をウディーネの肩に置き、『ティエリ、気をつけて帰るんだぞ。』と言い放った。ウディーネはティエリが馬に跨り、走り出すのを見守っている。母親も加わって、ウディーネの親子はティエリが走り出すのを見守っていた。母親は静けさに摘まれたような様子だった。馬に乗れる若者はみんなこの地域からは離れてしまった。都市で起きている戦争にこの地域の若者はすべて駆り出されてしまっている。戦争は長引いて、思想の中枢を司る都市では古典派の攻撃を受けて、もう壊れる物は壊し尽くしたという壊滅的な状況に落ち着いている事いう事をウディーネの母親は最近父親と話して知った。更に最近、主要都市では衝突が新たな動きを見せ始めた。古典派の人々と新鋭派の人々が自分たちがどちらの派閥に属しているのかを見かけで区別しようと思い始めたのだった。都市の人々は自らがどちらに属するのか知らしめる様になった都市では最近、外出時に古典派の人々が自発的に白い包帯を腕に巻くようになった。その慣習は、もうロレーヌの目と鼻の先の都市まで辿り着いているそうだ。隣町から酒を飲みにやって来た男から、その話を聞いたロレーヌの古典派の枢機卿は、その前触れを大いに心配していた。ロレーヌに暮らす古典派の人々や新鋭派の人々にとっても、それは争いが始まる前兆なのではないかと日に日に噂が広がっていった。
 ある日、酒場から住処に帰ったティエリは、街の中央部に警報が上がっているのを聞き付けた。ウディーネは翌日、学校に行く事になっていたのだが、今は中心街に行くのは危険だという父親の言いつけが下された。だからこの日、ウディーネは朝、ティエリの家を訪れると、2人で自転車を漕いでティエリの厩戸に来ていた。ウディーネが肩から斜めに下げている狩猟用のバックは、頑丈な革製で、ティエリが馬具を加工する技術を応用して仕立てた物だった。厩戸では干し草を馬の周りに敷き詰めてあり、水道から水を汲んだ陶器がすぐそばに置いてある。その陶器の水は茶色く、何回かブラシをボウルにつけては、ブラシを陶器に戻して馬の毛を綺麗に解かしていた。解かされた毛並みは太陽に当たると輝いていた。ウディーネは、ティエリが馬を磨く様子を観察しながら、茶毛馬が気持ちよさそうに目を細めていくの様子に心を奪われた。その時ウディーネの頭の中にあったのは、その気持ちよさそうな馬の表情に反して、ティエリが昼食の前に語った馬達が過去に都市を逃れてきた出来事だった。黒毛の馬は茶色い毛の馬の横で、脚を折り畳み積み上げられた干し草の上に座っている。黒い馬はまつ毛が長く、時々瞳を瞬かせては、厩戸の奥を見つめている。いま黒い馬の見つめているのは、厩戸に掛けられている振り子の時計だった。ウディーネは次第に、脚を折りたたんで干し草に寝そべっている黒い馬から目が離せなくなった。意思のある強い眼差しが瞬くたびに、潤みを帯びた眼差しが交互に織り交ぜられる。ウディーネは馬を見つめながら、その側に佇むティエリを見た。『どうした?』ティエリはブラシで馬の体を解かしながら言った。『都市で暮らしていた時に、結婚していた人はいる?』『まだ結婚はしてないよ。』ティエリは笑いながら言った。『じゃあ、あなたの家族で結婚した人はいる?』『いるとも。兄は都市で幼馴染と結婚して、今はこの国の何処かで暮らしているよ。』ウディーネは木箱に座って長い脚をぶらつかせている。黒い馬はウディーネを見ているようだった。『この街に来る前は、もっと馬を飼っていたんでしょ?』『そうだよ。全部で30頭ぐらいいた。』『それ以外の馬はどうなったの?』『戦争が酷くなる前に逃した。』ウディーネは今度は黒い馬に視線を移した。『父親が5頭馬を乗って行き、兄が4頭持って行った。それ以外は全て僕が都市の何処かへ行ってくれと願いながら厩舎にロープで繋がれた留め具を���った。』『その後逃げた馬はどうなったの?』『そうだな。』ティエリは少し黙り込んだ後に言った。『知らない。それ以来僕の馬以外には会えてないから。』『この3頭は幸せそう?』『争いから逃れてからは、段々幸せに近づいていると思う。』『仕事は大変?』『馬はよく頑張ってくれているよ。』『貴方は幸せ?』『本来はもっと馬を早く走らせたい。今は人の役に立つ事だけしかやらせてあげないし、多分この子達は息苦しさを感じているだろうね。』黒い馬は干し草の上に寝そべって白い息を吐いている。磨き上げられた筋張った脚は、綺麗に折り畳まれたままだ。厩戸の天井の隙間から迷い込んできた木漏れみが、馬の艶のある毛並みを照らし出している。馬は立ち上がって、少し辺りを歩くと、厩戸の干し草をはみ始めた。
 その後ウディーネとティエリは、一日中厩戸の中で今後の自分達の事を話した。夕方、ティエリが酒場へ働きに行く時間になると、自分達の結婚の話になって、ウディーネはティエリに『もし、君の父親が了承してくれたのなら、僕たちは結婚しよう。』と言った。ウディーネは勿論承諾した。そして厩戸の中で勢いよくティエリの胸元に抱きついた。しがみつくように抱きついたウディーネは、ティエリの汗や、干し草にまみれたオーバーシャツの汚れなど気にしていないようだった。ティエリは捲られた綿のシャツから腕をウディーネの腰に回した。汚れた自分の身体から少しだけ距離を作るとウディーネは『結婚しましょう。』とティエリに確認する様に言った。ティエリは誰かに請願する様に天を仰ぎ見ると、そのままウディーネの瞳を覗いて頷いた。『さっきの警報は何なんだろう。君は、街で何があったのか知っているの?』ウディーネはロレーヌの近くの街で何があったのか知っていたのだが、彼女は首を横に振った。警報が鳴った理由は、今朝、朝食の時に母親から聞かされた。それは中央都市の武装勢力がロレーヌの街にも流れ着くかもしれないという事だった。その時、ロレーヌの古典派の教会は、ロレーヌに安住する新鋭派の伝統師にも呼び掛けて、人々は動員して無駄な武力衝突を避けようとしたのだった。枢機卿の呼びかけに賛同した古典派と新鋭派のロレーヌに住む民衆は、共に協力をして、ロレーヌへわたる為の大河へかかる吊り橋を切り落としたのだった。ウディーネの父親は、酒場の店主と信者と共に、その戦乱を遅らせる��動に加わった。それが、父親がウディーネに学校に行くなと告げた1番の理由だった。今は一旦は都市からやって来た新鋭派の武装勢力が、これ以上ロレーヌの街に侵攻する事が出来ない様になっている。しかし、3日もすれば遠征をして裏の山を伝って数百人の兵士達がやって来てしまう事など誰に相談せずとも図り知れてしまう事だと分かっていた。ウディーネは、ティエリに『行かないで。』と言った。今度は、ティエリが腰に回した手を、自分の目の前に持ってきてウディーネは、土まみれの青年の手を握りしめた。この時、ティエリはウディーネの手を突き放したりはしなかった。しかし、ティエリは言った。『僕は酒場を見に行くよ。』ウディーネの目には、眼に一杯の涙が溜まっていた。街ではその暴動の時に続いて、2度目の警報のベルが鳴った。『絶対に帰って来てね。』とウディーネは言い放った。ティエリは帽子を目深に被り、黒い馬に乗って、酒場のある中心街へ民衆が働く葡萄畑の中を颯爽と駆け抜けて行った。
 中心街へ着いた時、まず立ち寄ったのは酒場だった。店主はティエリに中に入る様に言った。決起集会が市役所にある中央広場で催されていたのだ。『お前はここに居なさい。』酒場の店主は息を潜めてそう言った。『どうしてこんな時に来たんだ。』『警報が鳴って、胸騒ぎがしたんです。』とティエリは言った。『迂闊に外に出てはダメだよ。』酒場に居たシンディーの腕には白い紐が巻かれていた。それはシンディーが古典派である事を示すサインだった。『これからどうするんだ。』主人の問いかけにティエリが言い淀んだのは、脳裏に燃え盛る都市の残像がよぎったからだった。そしてティエリは言った。『僕はウディーネと暮らす事になるでしょう。』『何?』『結婚するんです。ウディーネにプロポーズをしてきました。』『本当か?』酒場の店主は尋ねた。ティエリは転々として来たが、この青年が本当に心を通わす事が出来たのは、ウディーネただ1人だった。ウディーネは、厩戸の中で自分の家族が古典派であるという事も聞かされていた。だが、それでもティエリはウディーネの事を愛している。ウディーネもその気持ちは一緒だった。シンディーは眼鏡の曇りをナプキンで拭きとりながらティエリに感心を注いでいた。『それでウディーネからは?』シンディーは聞いた。『何て返事をされたんだ?』と酒場の主人も聞いた。『ウディーネは了承してくれました。三月に葡萄畑で結婚式を挙げる予定です。』『じゃあ君も婚約するまでに改宗するんだね。』ティエリは一度、言い淀んで頷いた。茶色い毛の馬と真鱈模様馬は白い息を吐き、蹄鉄が石畳の上をを強く踏みしめている。馬が繋がれた停泊場の馬車は出払っていた。帷から見切れる人々は急いで家に帰っているようだった。店の中はがらんとしている。酒場には店主とシンディー以外は誰も居なかった。布で拭いた眼鏡を掛け直したシンディーは、泣いている。2度目の警報が鳴った理由は、中央広場で、元々ロレーヌの街で暮らしていた新鋭派の男が古典派の人間をナイフで刺し殺してしまったからだった。シンディは、ティエリに状況を説明する店主の説明を聞いているうちに、こんな時に幸せを掴みかけているティエリの事が不憫でテーブルに突っ伏して咽び泣いてしまった。帰った客の飲みかけのビールの瓶は、テーブルの上に置かれたままだ。ティエリは寂しげな目を向けた。その情景を生き写した鏡の様に酒場の壁や掛けられた時計、それに雉の剥製などに得体の知れない物が忍び寄っている気がした。
 中央広場で配られていたビラが、北風に飛ばされて屋根の上を舞っていた。その上には暗い雲が薄暗くなった夜空を隠してしまう様に覆い被さっている。ティエリは人々の流れに寄り沿うようにして中央広場まで走っていくと、教会の鐘付き堂の上に1人の男が立っていた。男は鐘の中にぶら下がる太い縄を引いて、鐘の音を街中に響かせていたのだ。音を聴いた人々が中央広場の集会場に集まってきていた。ティエリは中央広場に併設された証言台に向かって、押し寄せる人々の中から、後から遅れてやって来たウディーネを見つけた。ウディーネはティエリより後方の15m程離れた所に押し潰されそうになりながら何とか立っている。ウディーネも手を挙げた。ティエリの存在に気が付いた様だ。ティエリは、人々の流れを掻き分けてウディーネの元に歩み寄った。するとウディーネに近づく途中で、集会場の証言台に向かって罵っている男にぶつかってしまった。ティエリは少しよろめいたが、大事には至らなかった。男の腕には既に白いリボンが巻かれている。少しして、枢機卿らしき白い装束を纏った人物が証言台の前に立った。袂が長く、長い帽子を頭に被るロレーヌの枢機卿は、人々が静粛になるまで2分ほど黙って証言台の上で待った。枢機卿が佇んで、宣誓書を読み上げようとすると、人々の視線が枢機卿の袖の長い装束の袂に集まった。人々は襟元を保つように徐々に口数が途切れ、段々と自分達の周りが静まり返ると、枢機卿に注目が集まった。完全に静まり返ると枢機卿は幾つも折り畳まれ手に持っていた宣誓書を開いた。それから自分で、一度咳払いをして、更に群衆の視線を自分に集めた。枢機卿は荘厳に、一言一言、祈りの言葉を人々に授ける様に宣誓書を読みあげ始めた。『良いですか、皆さん。私たちはこれから逃れられない事態に突入するかもしれません。隣の街では既に戦闘が始まってしまいました。ロレーヌの街は山間部の田舎町でずっと平和が続いています。今回の殺傷事件を大事にしてはいけません。これ以上、私達の街では住民が誰1人としてかける事が許されないのです。私はこの街で無駄な死人を1人も出したくはありません。』何処からか枢機卿に反対意見をを述べる叫び声がした。その声の主は、ティエリにぶつかった白いリボンを腕に巻いた男だった。枢機卿は窪んだ目で、声がした辺りを探る様に睨んだ。そして再び咳払いをした枢機卿は、その男がいる辺りに曖昧な視線を送った。『これからは私たちは団結し、再び道を塞ぐ形で交戦します。相手に対する猜疑心を駆使して山を越えてくる新鋭派の義勇軍とは闘わなくても済むようにです。』その宣誓書が読まれた事で、ロレーヌの人々は外出する時には同じ色のリボンをつける事になった。しかしやり方に賛同できない者や、教義の再現性を重んずる者の中には枢機卿の宣誓の内容を破る者もいた。それらの人々は白いリボンをする様になった。そして次第にロレーヌの人々は新鋭派や古典派の無駄な争いを避けるべく、腕にリボンを巻いて外出する様になった。ティエリも腕にリボンを巻いて出掛けた。地方にもティエリの様な人々が逃げ仰せて来たのだが、ロレーヌの街でティエリの様なボニシェリの異邦人が、腕にリボンを巻くという事は、まるで地面が割れて、新たな芽吹きが起こる新たな地殻変動だった。
 翌日、ティエリは洗濯物を預けにウディーネの家にやってきた。ウディーネは二階で寝て居るふりをしていて、代わりにウディーネの父親がティエリの前に現れた。母親は葡萄畑に出掛けている様だった。『ティエリか。』『先日は昼食をご馳走様でした。』『ウディーネは部屋にいるよ。』ウディーネの父は言った。『今日も物干し場を借りに来ました。この洗濯物を奥さんに頼んで欲しいのです。』『すまんティエリ。妻は今朝、出て行ってしまったんだよ。』ウディーネの父親の腕には白い包帯が巻かれている。『昨日、あいつに家の中で、白い包帯を撒こうとしたら、拒絶されてしまった。俺はもっと彼女の言動に注意を払って接してあげるべきだった。ウディーネの母親は、平和の為に外出時の見せ物としたリボンを腕に巻く事には耐えられたのだが、それを家庭内に父親を軽蔑した。それから暫くして、ウディーネの父親は言った。『君は構わず、君はうちへ寄って是非とも中へ入ってくれ。』ウディーネの父親は言った。『ウディーネだけ幸せになってほしいんだ。』『奥さんは何処へ行ってしまったんですか?』『分からない。私の妻はより辺もないしロレーヌからは出ていないと思う。』ティエリの馬はウディーネ家の木に繋がれて静かに帰ってくるのを待っている。『戦争が近づいてきて、俺は尊厳を失ってしまった。』それからウディーネの父親は語った。ウディーネの父親は母親に拒絶され、妻の頬に強烈に手を挙げてしまったという事だった。ウディーネの父親はその事を悔いて、2匹の馬と、ティエリに見つめられながら玄関に膝から崩れ落ちた。父親は静かに泣いた。ウディーネも自分の部屋から出てこない。『ウディーネには幸せになって欲しい。ティエリ、あの子を幸せにしてやってくれ。』ティエリはウディーネの家から少し離れて、玄関から馬の繋がれた外に出た。ティエリはウディーネの部屋がある2階の窓を眺めた。風に吹かれた人影がカーテンの奥にウディーネが佇んでいる。ウディーネは物書き机に座っている様だった。カーテンの隙間から見てとれるのは、ウディーネ長い髪が一つに後ろで結ばれている様子だった。ウディーネは机の上で何かを記録している様だった。『ウディーネ。ウディーネ。ティエリが来たぞ。』ウディーネの父親は家の中からウディーネに向かって呼びかける。するとウディーネは憂鬱そうに立ち上がりながら、二階の窓枠の近くにある書き物机から自分の部屋のドアへ歩いた。ウディーネは誰にも悟られない様に自分の部屋の扉を締めた。ウディーネが部屋の戸口から書き物机に戻ってきた時、ウディーネは外の冷たい木陰に立ちすくむティエリの姿を捉えた。ウディーネの灰色のブラウスの腕には白いリボンが巻かれていた。
 
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tausendglueck · 1 year
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Lily 2022
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 ちょっとゆうちゃん、なんでこんな変な動画ずっと流してるの? こんなの変えちゃってくださいよお姉さん!  二軒目に訪れたのはカウンターだけの、真新しい中華の店だった。先客であり店長の友人、端の席に陣取って甲高い声でのべつ幕無し喋り続けていた杏奈が、もう片方の端に座った私とゆりに声をかける。ゆりは苦笑しながらリモコンを手に取り、テレビに映っていた画面を止める。動画をザッピングするゆりが見つけたのは宇多田ヒカルの作業用BGMの動画だった。  あっ、宇多田があるよ。と、ゆり。  いいね。と、私。  いいですねお姉さんそれにしよ! ていうかカラオケしよ! と、杏奈。  宇多田は俺も女性アーティストの中では唯一聴く歌手ですね。と、店長。  一曲目が流れ出す。
(ありがとう、と君に言われると なんだかせつない)
 聴き慣れたフレーズを、誰にも聞こえないように口ずさみながら、今年は宇多田ヒカルが流れるのだなと思った。  去年、私とゆりの間を流れたOasisのことも思う。オアシスだね、と、流れる音楽を捕まえようとするかのように天井へと顔を上げた、クリスマスの日のゆりのことを思い出す。去年、向かい合って座った私たちは、今年、肩を並べてカウンターに座っている。
(The flavor of life.)
「初めて会ってからもう一年経つんだね」 「そうだね」 「あっという間だった。今年は何してたんだろう、息してるうちに終わっちゃった」 「小説を書いたでしょ。それに、住む場所を移すことはとてもエネルギーがいることだよ。息してただけなんてそんなことない」  一年ぶりに会ったゆりは髪が伸びて、深いキャメル色をしたイヴ・サンローランのコートを着ていた。神楽坂のスターバックスで待ち合わせ、二人で坂を上り、私がずっと行きたかった一軒目のバーのカウンターにて、私には葡萄のお酒を、ゆりにはジントニックを。  地元での暮らしはどう? と聞かれて、私はお酒を一口飲み下す。口の中に葡萄の香りがいっぱいに広がる。 「私の良さが一切生かされない感じかな」  答えると、ゆりは少し顔をしかめて、わかるよと大きく頷いた。 「持って生まれたものを褒められる場所と、後から獲得したものを褒められる場所の二つがあって、田舎は多分持って生まれたものを褒められる場所なのね。だけど私たちにとっては、後から獲得したものの方が大事でしょう。文章を書くことだってそう」  そう言って、ゆりはジントニックをくっと呷る。 「私が都会にいて、大事だと思っていたことは、あの場所では何にも、取るに足らないものだった」  カウンターに肘をついて、私はぽつり呟く。 「東京に来たらいいじゃない」  ゆりが軽やかに言った。私は振り向いて、えー? と笑う。するとゆりは、いや冗談抜きでさ、と返してくる。 「家賃がそんなに高くなくて、都心にも行きやすい物件ならいくらでも紹介してあげるよ」  悪戯っぽく笑うゆり。
 文章を書くこと。  もうどれだけの時間、その行為から遠ざかっていることだろうか。どれだけの間、私は私の手足を封じられ、東京にまで行って初めて本音も喉から出て来れるような、こんな状態になってしまっているのだろうか。故郷の冬に体は冷えて、感情も、思考も、言葉も、喉元と心臓で凍りついてしまう。心は重くなっていくばかり、まるで傘に雪がゆっくり降り積もっていくみたい。  夏の盛りに、私は故郷の町へ戻ってきた。望んだ異動だった。望んで帰ってきた場所だった。家族との時間は穏やかで、あたたかい真水の中に体を浸しているようだった。ここで私は生を取り戻すのだと思っていた。  けれど、どうやら違ったようだった。日を追うごとに私は真水の底へと沈み込み、ぷくぷくと泡を吐いて、吐き出せなかった酸素の分だけ息が苦しくなっていく。手足には錘がついて、水面に上がることも難しく、……
 ガタン、と突然音がして、私は体を震わせてキーボードを叩いていた手を止める。  屋根から落ちた大きな雪が窓にぶつかってきたようだ。  東京から戻ってきてすぐに故郷の天気は吹雪に変わった。今年いちばんだという寒気が空に留まり続けて、雪は夜の間も降り続き、この朝を起きると世界は真っ白になっていた。その世界の中をなおも埋め尽くそうとする灰色の雪の群れに視界は烟る。浅いホワイトアウトの予感にも人間一人ではなす術もない。
(さようならの後も消えぬ魔法 淡くほろ苦い)
 何の話をしていたんだっけ。
「今日はお友達だけの日だったんですか?」 「ああ、彼女たちは昔一緒にバイトしてた仲間で、もう10年くらい……あれ? みんなってもう30代?」 「にじゅうだいー!」  店長が振り向いた先で杏奈が絶叫する。その声の大きさに思わず瞬きをしてしまう。それからワイングラスに手を伸ばして、ふっと、笑ってしまう。  そんな20代ではなかった。杏奈と私では、過ごしてきた20代の模様は何から何まで違っていることだろう。綺麗な女友達に囲まれて、水を得た魚のように、機関銃の如く喋り続けている杏奈のことを少しだけ羨ましく思った。そんな20代ではなかった。だけどそれは、そうでしかあり得ないことだ。杏奈と私は違う人間で、違う体を持って、違う視界を持っている。足元に伸びている道も違う。私も杏奈もただ自分の道を通ってきただけで、むしろ、こうして同じ夜に同じ店で偶然にも出会ったことが、それが、奇跡なのだった。 「私ももう29だよやばいよ!」  まるで30代が来たら世界が終わるかのように叫び続ける杏奈にまた笑ってしまう。別に30代が来たって、大丈夫だったよ。日々はただ続いていくだけだよ。そのうちに自分が30代であることにも慣れていくよ。  そうしていろんなことを忘れていくよ。
 20代は10年全てを都会で過ごした。雪の降らない冬を知った。スニーカーで過ごせる冬に、からりと晴れ渡る冬に、心の底から感動した。都会に生きて、私が第一に得たものはこの明るい冬で、それが、最上にも近いほど大切なものだった。  心にふたつの冬がある。これだけは、持って生まれないとわからないこと。  都会の冬に身を置いて、その煌めく幸福を噛み締めながら、故郷の深い冬を思い、無心を目指して、私にはこれなのだと、これしかないのだと祈って、長い長い小説を書いていた日々。それしかいらないと思っていた私だけの時間。  記憶の中の故郷の町をあんなに愛していたというのに、今はどうして。
「やっぱり思うんだけど」  帰り道の神楽坂には冷たい雨が降っていて、私の傘にゆりを入れて、飯田橋駅へと向かう。雨音の中にゆりのパンプスが鳴る。歩き出してすぐに、ゆりが私を見ずに切り出す。 「文章を書くには心が動く必要があって、心が動くときっていうのは、人と会ったときなの」  うん、と私は傘の中で頷く。 「だから、今日のことを書いてみて。それでもしも、書けたものが去年よりいいものじゃなかったら、あなたは都会に来ることを考えた方がいいと思う」  ゆりはきっぱりと言い切る。 「自分の能力を維持するために、あなたはもっと苦しむべきよ」
 東京はどこに行ってきたの? と、両親の声がする。  東京は、神楽坂に。私は短く答える。
(どうしたの? と急に聞かれると ううん、なんでもない)
 ゆりの言葉を手帳に書き記しながら、部屋の中に宇多田ヒカルが流れ続ける。 (降りつもる雪の白さをもっと 素直に喜びたいよ) (自分のためにならないような 努力はやめた方がいいわ) (I love you more than you’ll ever know)
 風の音に顔を上げる。立ち上がり、カーテンに手を伸ばす。  雪が止むことはない。ここはもうすぐ閉ざされてしまうだろう。  ふと、何もかもは夢だったみたい。神楽坂の喧騒も、赤い灯りも、お酒や料理の味も、杏奈の声も、ゆりの声も、あの夜の全ては、この灰色の雪にかき消されてしまう。  “今日のことを書いてみて”  だけどゆりの声がするのだ。  何もかもを夢だったと、思ってはいけない。彼女のことを夢だったと、片付けてしまってはいけない。  いつやめてしまってもいいと思っていた。もう書けないし、書くこともないと思っていた。私にそこまでの切実さはないと、本当はそんなもの始めから持っていなかったと、だから、私がやめてしまったところで誰も困らないし、誰も気に掛けることはないし、それでいいと思っていた。この真水の世界で私はどうにか私自身の方を順応させて、家族と共に生きていけるならそれでいい、それがいいのだと思っていた。  だけど、まだこんなに、悔しいことが。  悔しいことがたくさんある。
 消えていく音の中で、私はひとり、これしかないのだと祈っていた若き私を思い、書いてみてと声をかけてくれたゆりの横顔を思い、画面に向き直り、キーボードに指をのせる。  まだ、雪が止むことはない。
Lily 2022 / 20221219
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peter2020 · 1 year
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超能使者大結局|打完大佬全部死晒陳展鵬犧牲自己改變悲劇收場
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lovingrunawayfan · 2 years
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同居互相遷就少嗌交 靚湯猛讚馬明好相與
「靚湯」湯洛雯昨日出席公開活動,談到和男友馬國明的同居生活時,她透露會互相遷就,同居不會嗌大交。靚湯亦和馬明同一口徑,稱是因為早前疫情嚴重,為減低家人染疫機會才與馬明租屋同居,疫情緩和就經常各自返家了。
湯洛雯(靚湯)昨日透露,早前拍完劇,因胃炎休息一個月,本月尾會到澳洲工作,笑指可能男友馬國明會覺得好開心、好自由,又爆男友想跟她一起去,但因隔離及工作而擱置。談到和馬明的同居生活,靚湯解釋早前因疫情嚴重,怕開工後有機會被感染而傳給家人,所以兩人在將軍澳租屋,現在疫情緩和後大家都經常各自返家,之後應該不會繼續租住。
「嫁得過先拍拖」
問到兩人同居生活如何,靚湯說:「都OK嘅,兩個都唔係難相處嘅人,我哋都係比較就得對方,加上佢唔係特別好多要求、我又冇乜所謂,(冇嗌交?)當然都有少少,都係好小事,我哋有咩都會講,唔會變嗌交。」問到馬明是否嫁得過?靚湯怕醜地說:「大前提都係嫁得過先拍拖,(有冇傾結婚?)有討論過,但都係嗰句,我哋有就會公佈,始終而家比較混亂,都唔想plan任何嘢住。」
對於爸爸湯鎮宗早前接受內地傳媒訪問,鼓勵她離巢外闖,靚湯認為爸爸的意思是希望她作多方面發展:「我仲有一段時間喺公司,仲有約。(想到內地發展?)邊度有商機就去邊度,可能佢(馬明)返去先呢,呢個商機似乎佢多啲,當然去邊度都冇乜所謂。外國有工作當然非常歡迎,最好係我哋可以一齊去工作、旅行。」
陳欣妍「大開側門」同場的陳欣妍(Shirley)「大開側門」晒身材,她說事前沒預計那麼性感,問到男友沈震軒是否批准?她說:「冇呀,佢都相信我啲審美眼光嘅,最主要感覺健康。」Shirley笑言男友之前有接近兩年不在港,所以現在不讓他離港,很多人問她可有結婚打算,但她和男友都想再專注事業多一、兩年,她亦想有代表作,笑言功德圓滿就可以結婚了。
Shirley又透露,最近忙於拍廣告,早前就有為ViuTV拍行山節目,更在最熱的幾日開工真的好曬好熱,並要由朝行到晚,幸好沒有中暑。
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bengtsonzxisolomon · 2 years
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第五千四百零六章 唯一的希望!(第二爆) 千斤重擔 衣袖露兩肘
滸的沈肆欽徑直隔閡了他來說。 轉瞬間,有了人都面目一震。 “先不管那些,這渤海紫羅草如實抱有速效。” 在剛入斯曖昧的地底普天之下時,陳楓曾吸過一舉。 取而代之的,是一股異的效力! “我甚至於捉摸,君如軒大概是算好,這段年光,此間會有加勒比海紫羅草練達。” 在剛進入其一深奧的海底世風時,陳楓曾吸過一鼓作氣。 一霎時,懸着的心一概墮了下去。 陳楓大刀闊斧,回頭看向山上之巔。 對此他倆自不必說,陳楓的神氣襲擊甚至不不如君如軒。 “先任由那幅,這黃海紫羅草瓷實富有時效。” 指代的,是一股非正規的效用! “爲此,特殊飛來到庭本條度屠戮進階戰場使命!” 定睛邊塞的瓦礫間,倬還能看看一派流光溢彩。 陳楓立曉得。 “你去搜他倆的神識!” 比較君如軒,這些同一源天上之巔的頭領,修爲要弱得多。 犖犖天殘獸奴和玉衡嬋娟危在旦夕,每拖延一秒都有興許會變成難以啓齒接過的究竟。 半個派都被生生擊毀。 陳楓果決,扭頭看向山麓之巔。 奉陪着一聲激越的輕吟,他的手,不虞被一股細軟又勁的成效,生生遮攔! 星體頻巡迴長空中段,顯要只鞠雙眼中,飛濺出了幽深藍色光柱。 “唯其如此分選一經舒服的枝幹。” 更決不會體悟,盛況空前十方洞天境其次洞天的君如軒,竟是會死在一羣遠小他的人口裡! 世人亂騰覽了祈望。 更保不定吞服了它,會發怎麼着沖天的職能! “陳楓若能摘得,給二人服下,大概真有或是粉碎生命!” 宏觀世界重溫周而復始長空其間,首先只偉人眼中,飛濺出了幽深藍色光柱。 君如軒因此會冒出在此處,主意真是那株特殊的異草。 這得有多微弱的振奮世上? 跟搜魂失掉的剌均等,神氣力完事的光手,毫不攔阻地到了公海紫羅草頭裡。 聽由他爭戮力運行功法,都沒門再濱日本海紫羅草半分! 那隻手,通體金黃,起勁着熠熠的光。 中間,最強的,也然星魂武神境第二十重樓終端。 她倆一模一樣細針密縷知疼着熱着陳楓的意況。 一個呼息的時光,陳楓便從這些人的神識中,檢索到了他想知底的白卷。 任憑他何以鼓足幹勁運行功法,都束手無策再切近煙海紫羅草半分! “這種對象,要哪材幹摘下去?” 異草的濃香,就天下漠漠的打住重遼闊飛來。 更不會料到,盛況空前十方洞天境伯仲洞天的君如軒,還會死在一羣遠小他的口裡! 農時,他的一身,乃至包羅生命根苗,也都獲取了特大的補償。 寧長風旋即垮下了臉,搖了蕩。 不久以後,陳楓的頭裡,就浮着一隻手。 它裝似貓眼,雜七雜八向外伸展着。 一度呼息的功夫,陳楓便從該署人的神識中,搜求到了他想知底的答卷。 “先管那些,這東海紫羅草流水不腐富有速效。” 君如軒可帶了多從來的! “陳楓,哪裡再有有的君如軒的下屬!” 內,最強的,也無比星魂武神境第二十重樓極端。 可歌可泣! “我竟狐疑,君如軒莫不是算好,這段時分,這邊會有公海紫羅草老成。” 之後,齊齊疾言厲色! 君如軒然帶了過剩跟來的! 嗡! “你去搜她倆的神識!” 就在他顯示的那轉,時值最後一根柯,到底張大了開來。 該署恐慌想要逃出的仙徒,霎時間板滯在了輸出地! 陳楓即時寬解。 但,這是當下獨一的意在! 裡邊,最強的,也最爲星魂武神境第九重樓險峰。 “用飽滿力棚外化形,本事摘下東海紫羅草。” 它裝似珠寶,雜亂無章向外伸展着。 那些慌張想要逃離的仙徒,轉瞬間平鋪直敘在了出發地! 在剛加入斯秘的地底環球時,陳楓曾吸過一股勁兒。 任由雷劫,仍舊風浪。 全盤人都聞到了一股芳香。 這兒,延伸到人人耳邊,愈來愈不出所料地被收到加入世人體內。
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