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#薄紫振袖
asagaquru · 2 years
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「この人、前好きだった人なんだよ。俺にしときなよって言ったのに振られちゃったんだよねー」とわたしと馴染みの店員に言い残し、トイレに行かれる。酔っていたはずなのに突然のことで指先から酔いが引いていく。店員が「言いたいことだけ言って、ルンルンでトイレ行っちゃいましたね」と笑っている。
元バイト先の数人で会うけど来ないかと誘われて向かう。なんとなく4人の最後に着きたくて、家で時間を潰してから向かう。お疲れー、とみんながこっちを向く。彼の声を聞いた瞬間に、この声が一番好きだったと全部思い出した。なんとなく目を見れない。ふたつ下の後輩を最後に、仲間内は全員社会人になってしまった。「前会った日から1年半も経っていないんだよ」といわれ、少し驚く。もっともっと昔の話かと思っていた。こうみんなが離れてしまっては、同じ札幌市内にいても凄まじいスピードで過去にされてしまう。だからこそ、こんな再会の場に呼んでくれるのがとても嬉しい。離れても好きな人たちのことは大切に、近くに思っていようと心に小さく誓った。
彼が「男なんてほおっておいたらどこかに行くよ」と言った。前後の話は覚えていないのに、かつて「待っているから」と言った過去の彼を思い出してしまう。「✳︎✳︎✳︎は変わらないね」って、君が好きだったわたしから今もわたし自身は変わらないよという言葉をモスコミュールで飲み流す。2件目のバーでもヘラヘラと話し続ける。後の2人も変わらないし、なんだかんだ幸せそうだった。その2人は明日朝から仕事だからと22時には帰って行く。明日のために今日を早上がりするくらい大人になったなと思い、見送る。
わたしのことを好きでいてくれた彼とふたりきりになる。彼は、この1年半で結婚してしまった。1歳下だし、当時23歳とかだったし、まさかわたしより先に結婚するとは思わなかった。左手の薬指にはシルバーのリングがちらついていたけれど、あまり見ないようにする。「この人、前好きだった人なんだよ。俺にしときなよって言ったのに振られちゃったんだよねー」とここで言われ、トイレから戻ってきた彼になんとか言おうとする。「きみがさ、結婚しちゃうってことはわたしとの結婚を諦めたってことだよ」と言うと、はははと笑っていた。リングの下の手首には、ふたりで小樽に行った時に買ったブレスレットをしていた。何も言わなかった。あの時わたしはオパールの指輪を見てたのを久しぶりに思い出した。買っておけばよかったと、ただそれだけ後悔する。
0時をすぎたあたりで解散。タクシーに乗り込む彼を見送る時に「またね」と袖を掴まれるけれどそれ以上は何もない。お互いにこの形でいいとわかっているからだ。結婚後の彼に会うのは今夜が始めてだった。正直、少し怖かったしどこか嫌だった。別れた後に「忘れた」と思い、彼に電話をかける。「もしもし?あのね、結婚おめでとう。ちゃんと言わなかったなって思って。わたしさー、ちゃんと✳︎✳︎✳︎くんのこと好きだったんだと思うよ」 どうしてまた涙ぐんでしまうのだろう。何に対しての涙なのだろう。きっとばれている。電話口で彼は笑っている。やっぱりその声が好きだ。ラインに「俺も好きだったんだよ」と来ていて、既読だけつける。これでいい。わたしがわがままして良いのはここまで。すすきのからタクシーを捕まえる気にもなれず、30分歩いて帰る。途中、雪の下の氷に足元を取られ、滑って転んで仰向けになる。背中がいたい。指先から赤く血が滲む。酔っていて痛みは感じない。大きくひとりで笑ってしまった。そのまま空を仰ぐ。降る雪が街灯の光を乱反射させ、空をサーモンピンクと薄紫を混ぜた色にさせる。雪国特有の闇色でない夜空だ。そこには月は光らず、ただただ綿雪がわたしの上に降ってくる。
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3.橘夕樹「夜を売る店」
 丸底フラスコがアルコールランプにかけられて、紫紺の液体をポコポコと煮立たせている。それにつながれたゴム管の先にはガラスのポットがあり、そこに溜まった液体は更に濾過されているようだった。窓からの月のスポットライトが照らす大きめのビーカーには氷水がたっぷりとたたえられ、試験官が何本か刺さっている。仄暗いカウンターには、実験器具のほかにも薬瓶や薬匙や大量の小皿なんかが、舞台袖の黒子のように静かに佇んでいた。
 そんな騒がしいカウンターの中では店主がひとりテキパキと器具の手入れをしている。カチャカチャとガラス同士が触れ合う音が店内にはじけて、カウンターの蝋燭に灯ったマジックアワーの炎を揺らした。
 ちりりんとドアベルが鳴って、今日最初の客の来訪を知らせる。
「こんばんは。本日はどのような夜をお求めでしょうか。」
Spicy night
 蠟燭の前が客の定位置である。案内された客の注文は「繁華街の夜」。店主は、客の前に冷凍したムーンレモンの入ったお冷を出して、「少々お待ちくださいね。準備しますから。」と言った。
 店主は背後の棚から紺に煌めくパールのような装丁の綴りとコーヒー色のペガススのタテ紙を取り出した。この紙には調合師達に広く使われている一般的な調合用の書式が印刷されている。それにフクロウの羽ペンでさらさらと「繁華街」と記した。
「理由をお聞きしても?」
「私、田舎生まれだから憧れなの。都会の夜が。日が沈んでもきらきらしていて、にぎやかで。若いうちに一度はそういうところで夜遊びしてみたかった……。」
聞いたことを用紙に書き留めていく。
「あら、これからでも十分間に合うのでは?事実、いわゆる『繁華街』にあるこの店にこんな時間にいらしているのですから。」
「ふふふ、それもそうね。」
 店主は穏やかな笑みを浮かべながら材料を用意していく。ベースとなる「夜の素」に「街」と「憧れ」、それからアクセントの「星屑」。カウンターの上に色とりどり大小さまざまな小瓶が並んだ。
(「きらきら」……か、どれがいいだろうか。)
一言に「きらきら」とか「灯り」とか「にぎやか」とかいっても何十種類もの素材がある。一番合うものを見極め、ちょうどよく配合できてこそ、客に合わせた良質な夜を提供できるのだ。
「ちなみにきらきら、とは視覚的にでしょうか。それとも雰囲気や感情でしょうか?」
「うーん、そうね……。」と客はしばし目をつぶった。その瞼の裏には何が見えているのだろうか。
「ああ、一番印象に残っているのはネオンサインね。夜空に浮かび上がる鮮やかな看板にはすごく惹かれたものでしたよ。」
「今ではあまり見かけなくなりましたね……。僕もあの鮮やかなのにぼんやりとした優しい光は大好きです。」
 ネオンサイン。果たして在庫はあっただろうか。このところ見かけないということは、つまりあまり入荷が多くないのだ。「灯り」とラベルの貼られた棚の引き出しを順に開けていく。下から二番目の段の左から四番目。「そうだ、『色モノ』はここにしまったんだった」とか言いながら、店主は発光するラムネ菓子のようなものが入った瓶を取り出した。そのもう残り少ない粒を細身の試験官に入れて、さらにフラスコの中の「夜の素」を少し足した。最後に湯を張ったビーカーにしばらく入れて湯煎させる。
「よし、これでもう少し待てば『ネオンサイン』ができます。何色がお好きですか?」
「ピンクかしら。いく���になっても春っぽい色が好きなのよ。」
「ふふふ……」と恥ずかしそうに客は笑う。ピンクの染料を試験管に入れながら、桜のように笑う人だ、と店主は思った。
 ネオンサインが溶けるのを待っている間、店内には調合の器具たちが立てるこぽこぽという音と、蠟燭が夕焼けを燃やすちりちりというかすかな音だけが優しく響いている。店主は今準備した材料について用紙に記入しているようだった。
「キャンドルか小瓶詰めの形でお渡しできますがどちらにされますか?」
夜を楽しむ方法は様々ある。その中でも、「夜」そのものを揮発させてゆっくりじっくり味わうか、蝋燭の音や炎との効果と、熱で急激に揮発させることで短く濃く楽しむか、どちらかの方法が取られることが多い。また、この店のもこの二つのやり方でのみ販売を許可されている。後者はあのマッチ売りの少女のマッチと似た手法だ。――ただ、彼女のマッチは質が悪かったようだが。
「そうねえ。せっかくだから思い切り楽しみたいわ。キャンドルでお願いしようかしら。」
「かしこまりました。」
湯煎した試験管をスタンドで冷ましている間に不純物を蒸留させるための器具を準備する。フラスコやガラス管、オーロラ型冷却水――それらを手際よく配置していく。最後に火力の調節が利く小さなガスのコンロの上に、配合用の大きなビーカーをセットした。
大きなビーカーの中に、カウンターに並べた素材を入れていく。
まずは「夜の素」。「夜」のベースとなる液体である。今回は深夜ではなく日が落ちてすぐくらいの時間帯のものだ。とぽ���ぽと注いだら、「星屑」をぱらぱらと振りかけ、コンロを着火。ビーカーの底を炎が舐めるくらいの火力に調節する。「星屑」の輝きが「夜の素」になじむまでぐるぐるとかき混ぜ、次に金の針のような「街」を大きな楠の匙二杯分。輝きとあたたかさを持った「憧れ」は同じ匙で一杯分。
最後に冷えて固まった棒状の「ネオンサイン」を試験官から取り出し、少し夜空にかざして仕上がりを確認した後、手でぱきぽきと折りながらビーカーに加えていく。液体に触れた瞬間に強く瞬いてビーカーの底に沈んでいった。
(「憧れ」と「ネオンサイン」か……少し刺激が強くなりそうだな。)
こういう時はあまり濃くさせないほうがいい。店主は少し火を弱めた。
熱でゆっくりと「ネオンサイン」が溶けていく。「夜」の色が天の川
ミルキーウェイ
のように少し柔らかくなったように見えた。
ビーカーの中では小さな気泡が上がってきている。
にゃーん、と黒猫が一匹、呆れた様子でカウンターに飛び乗ってきた。スンスンとビーカーから立ち上る蒸気を嗅ぐ。
「ふうん、随分スパイシーだな」
「あっ、コラ。危ないだろ。」
と、店主が慌てて黒猫を制した。
「あら。猫ちゃん。毛並みがきれい。」
「ありがとうございます。僕の助手です。」
「フン、君がやらかさないか見張ってる『監督』だ。」
この声は店主以外には「にゃおん」としか聞こえない。
「この感じは星空というより街の明かりか?都会の夜って人間にとってそんなにいいもんなの?」
いぶかしげにビーカーをのぞき込もうとする。そんな「監督」をどうにか押さえつけながら店主が代弁した。
「矢張、都会の夜は故郷の夜より素敵に映るものですか?」
「ええ、勿論よ。私は若い頃都会の学校には通っていたんだけれど、寮にいたから、門限が厳しか���たの。だから帰り道、目の前に街の明かりが見えているのに、夜の街に繰り出すなんてことはできなかった……。仲間とあれがしたいこれがしたい、って夢を語り合ったことをよく覚えているわ。」
残念がっている口調でも、どこか楽しそうに客は語る。
(『夢』……ちょうど在庫がもうないな。最近消費が激しい。)
 くるくるとビーカーをかき混ぜながら思い出す。薬棚を見るまでもない。このところ夢見がちなお客様が多かったのだ。
 ぼんやりと『憧れの夜の街』は出来上がった。あとはお客様だけの隠し味が必要になる。できれば『夢』以外で。
「夢を語り合うのも素敵な青春の一ページですね。なにか街に気になる店や催しなどがあったのですか?」
 さっきのネオンサインのように客の頬が薄紅に染まる。
「店……というより、好きな銀幕スターがいて……だから映画の、レイトショーに行ってみたかったのよ。」
お冷の氷が溶けてカランと音を立てた。
「学校が終わったあと、日が沈むころにひとりバスに乗って、洋食屋さんでご飯を食べて、帰る人々を横目に映画館へ向かう――。そして映画が終わったら夜道の中を歩いて帰る……ねえ、映画館の中と夜の街って少し似てると思わない?」
「映画館と夜の街、ですか。」
いくつもの夜を見てきた店主にも予想外の問いかけだった。
「ええ、街の周りや空は真っ暗なのにそこだけ切り取ったように眩しくて、いろんな物語が昼と変わらず起こっていて、帰り道も余韻でいっぱいになる……。そしていつまでも終わってほしくない。」
「なるほど。言われてみればたしかに似ている気がします。……それなら最後の材料はあれがいいかな。」
 店主はなにやらカウンターの下の棚を漁り始めた。たしかここにあったはず、としばらく探していると店長の肩を踏み台にして黒猫が下りてきた。
「なにやってるんだ。僕が探してきてやる。あれだろ?フィルムケース。」
「うん。そう。しばらく使ってないから箱が奥の方に入ってしまっているかも。」
黒猫は雑多な棚の中の暗闇にあっという間に溶け入っていってしまった。
 ガタン
 がたがた
 うわっ
 ごそごそ
 ばたん
げほげほ
するすると入っていたのとは裏腹に箱はなかなか見つからないらしい。つんと澄ました態度からはあまり聞かれない音と声がした。
「あったぞ!いくついる?」
「ひとつでいい。隠し味だもの。」
「はーい。」
黒猫はフィルムケースを一つ口にくわえて出てきた。ラベルには「映画」と振ってある。
「それそれ。流石僕の助手だね。」
と、狭い額についた埃を取ってやる。
「すみません。お待たせしました。」
客はにっこりと「いえいえ。」と言ってくれた。完成までもう少しのビーカーが先ほどよりもたくさん気泡を立てている。これ以上粘度が上がると最後の隠し味がうまくなじまない。店主はコンロの火を止めた。
「ふん、普段使わない材料もきれいにしまっておくんだな。」
黒猫は背後のカウンターでその自慢の毛並みを整えている。
「それを取ってきてくれたの?随分と賢い助手さんね。」
「はい、いつも助かっています。」
そんな助手が取ってきてくれたフィルムケースには勿論フィルムが収まっている。艶々と黒く光るそれを映写機のような機械に入れて、レンズから月光を取り込み、夜空を透かしながら、製麺でもするかの如くハンドルを回した。壁には小さなプラネタリウムが出来上がっている。そしてリールから外したそれを二〇センチほどカットしてビーカーに加え、再び火をつけた。このフィルムが溶け切ってしまえば「夜」は完成だ。材料はすべてそろったのでビーカーに特注のコルクの蓋をして、空けてある穴からガラス管を繋げる。ガラス管の途中にはオーロラ型冷却水、終わりには小さなフラスコが繋がれている。「夜」を加熱濃縮させる際に出る蒸気――夜露を採るためである。
「それはなんの映画のフィルムなの?」
「これは映画のフィルムそのものではなく、昔、お客様から聞いた『映画と夜に関するお話』から精製したいわばエッセンシャルオイルのようなものです。うちではお代としてお金の他にお客様のお話をお聞きしてそこから『夜』を作るための材料をお裾分けしていただいているのです。」
客はわかったようなわかっていないような顔をしてフィルムが溶けるビーカーを見つめた。
「あまりピンときませんよね。」
そういうと店主は再び棚の下をごそごそと漁るとレコードを一枚取り出してきた。そして店の端を指さして、
「あの蓄音機にこちらの専用レコードをセットして、お客様のお話を録音します。そしてそのレコードを一旦ほどいて溶かします。そして溶けた液体から結晶を取り出したり、蒸留させたりといった作業を通して様々な「要素」を分離させ、それをビンに採取して、ものによっては先ほどのネオンサインのように加工することで、安定して保存ができるようにするのです。」
「なるほど、録音するのね……。長く生きてきたつもりだけどこのお店には初めて見る道具ばかりだわ。でも私、何かお話しできるようなことあるかしら。」
「是非、ご学��との語らいについて教えてくださいませんか。」
「夢」の在庫を増やすいい機会だなと店主は考えた。
「それならいくらでもお話しできるわ。」
ビーカーの中で大きな気泡がひとつ弾けた。その瞬間、街や映画の光がキラキラと輝いて落ちる。そろそろ頃合いのようだ。
 最後に、出来上がった「夜」をキャンドルにしていく。ミルクパンで、これまたミルク色の蝋を溶かし、分離しないように少しずつ夜と蝋を混ぜていく。夜の濃い藍とミルク色が混ざって朝焼けの前の優しい夜の色に近くなる。最後にガラスの容器に入れてスノーマンの吐息で冷やし固めたら完成だ。店主は冷やしている間に草木のモチーフがあしらわれた小さなカードに、今回使った材料とその用法・用量を記入していく。ラベルには『繁華街』と記して容器に貼り、
「お待たせいたしました。『繁華街の夜』でございます。」
とまだほんのりと温もりを持つ出来立てのキャンドルを差し出した。
「なんだか少し甘い香りがするわね。」
客は鼻先で軽く容器をくゆらした。
「蝋に少しだけ蜂蜜が混ぜてあります。」
店主は先ほど書いていた小さなカードとお揃いの柄の小箱を取り出した。小箱の中には小さなお香が入っている。
「ベースに浅い時間の夜を使っております。全体的にフレッシュで刺激的なひとときになるよう配合いたしました。こちらのカードに使い方などは詳しく記載していますが、夜をお使いになるときは必ずこちらの「朝」もお使いください。確実に夜から醒めることで『夜焼け』や『昼酔い』といった時間的症状を防ぐ効果があります。また、最近多いのですが、夜から醒めたくないというお客様がいらっしゃいます。しかしそのように夜を独り占めしてしまうと時間平等法違反となってしまいますので、僕たち調合師は『朝』も一緒に提供するよう義務づけられているのです。――夜は皆のものですから。」
「わかったわ。何事も適切な量がいいわよね。」
「そういうことだ」と黒猫がうんうんと頷く。
「夜もいいけど朝も朝でどんなテイストか楽しみね。」
「ええ、折角ですから存分にお楽しみください。お渡しするものはこれで以上です。不備がないようでしたら箱に詰めますね。」
「ええ、お願いします。」
キャンドルとお香、カードを木箱に詰め、仕上げにリボンをかけて結び目に封蝋で封をする。
「では最後にお代ですが、カウンター越しではなんだか味気ないのであちらのテーブルでお話ししましょう。」
店主は蓄音機のそばのテーブルを指さした。
「昔の話をできるなんていつぶりかしら。たまには沢山おしゃべりするのもいいわね。」
カウンターから立ち上がった客を黒猫がテーブルまで先導する。
客と黒猫がしばらく戯れていると、ようやく手にティーセットを持った店主がテーブルについた。あとをティーセットに任せたカウンターの器具たちは静かに楽屋に戻り、客の前には空になったグラスの代わりに湯気の昇るティーカップが置かれた。すっかり更けた夜に香ばしい茶葉と優しいミルクの香りが満ちる。
夜はこれから。
――それでは良い夜を。またのご来店をお待ちしております。
fin.
橘夕樹「夜を売る店」 Produced / Written by 橘夕樹(https://bsky.app/profile/yuuki-tatibana.bsky.social)
2024.9.18 G.Slope & Hill's Planet
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kachoushi · 3 months
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月例会報告
2024年4月28日
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坊城俊樹選 岡田順子選
於:千代田区立九段生涯学習舘
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野遊や人みな小さき影の上 緋路 熊蜂の猛り消えゆく櫓門 炳子 ◎九段坂ゆるきよ若葉風吹けば はるか 靖国の柏手遠く残花なる 緋路 春愁や砲口晒す加農砲 月惑 ◎花桐のいつも遠くて十字架も 順子 惜春の城の鬼門に人と会ふ 炳子
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美しくたんぽぽの絮吹く人よ 和子 神苑の新樹の蔭に画架ひとつ 月惑 惜春の旅の鞄を野に置きて はるか 紫を神池に溶き花菖蒲 佑天 ◎行く春へ波となりゆく鯉の水 順子 花守となれぬ男が座す根元 和子 ◎躑躅燃ゆさびしき電話ボックスに 緋路 碑を拭ふ水かげろふの春やさし 軽象 蘖の伸びゆく早さ田安門 炳子
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◎次の世へ溺れてみたし著莪の海 晶文 暮の春鯉のつとりと泳ぎをり 佑天 ゆるり来て���のボートはうららかに はるか ◎参道を夏めくあつぱつぱと出会ふ 政江 蝶去れば水かげろふの消えてゆく 順子 ◎買ひたくて買へずに帰る竹婦人 幸月 春の雨施設の母は無口らし 裕章 風光る赤子がくしやみするたびに 緋路 天を戴す城垣の反り四月尽 晶文
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美女に袖振る貴公子も青き踏む 幸月 ◎片方の軍手躑躅の上にあり 和子 若葉風軍犬軍馬の背にゆるく 月惑 水準点石に刻みて宮日永 慶月
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九段坂ゆるきよ若葉風吹けば はるか ◎宮城も素なる青空花うつぎ 晶文 惜春の城の鬼門に人と会ふ 炳子 美しくたんぽぽの絮吹く人よ 和子 ◎十字架を仰ぐ高さに桐の花 はるか 神苑の新樹の蔭に画架ひとつ 月惑 鉄線花AI朝のニュース読む 政江
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惜春の旅の鞄を野に置きて はるか ◎紫を神池に溶き花菖蒲 佑天 近衛兵碑に一叢の姫女苑 炳子 母再婚に父の復員昭和の日 幸月 樟若葉両の千木へと迫り来る 慶月 ◎躑躅燃ゆさびしき電話ボックスに 緋路 ◎愛するを捨てし嫗へ囀れる 俊樹 行く春を薄くをのこは化粧して 政江 惜春の情零戦に溢れたり 俊樹
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次の世へ溺れてみたし著莪の海 晶文 春行くとささやく風の声と坂を 伸子 くすぐつたき蝶々ふたりのあひだかな 和子 ◎柏手打つ昭和の人の昭和の日 伸子 干されては魂の抜けたる古浴衣 俊樹 ◎買ひたくて買へずに帰る竹婦人 幸月 上皇の為の牡丹は深紅なり 俊樹 十字架は空を押し上げ桐の花 政江 篝火の尽きて花片累々と 裕章
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リヤカーに奉仕の人の春落葉 佑天 ◎北斎の湾と思へば卯波寄す 俊樹 三叉路に凜と譲らず桐の花 音呼 野遊や人みな小さき影の上 緋路 古九谷は江戸の夏とや紛ひ物 俊樹 濠まもるしづかな覚悟姫女苑 晶文
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minatonohato · 9 months
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石灰光
 女が、傘を斜に持って、膝に乗せた風呂敷包の上に肘をついて頬杖をついている。揺れる市電は時間の割に人気が少なく、席に座る人もまばらなれば、目の前に障害となるように立つ男もいない。私の座る斜向かいにその女は腰掛けていて、ただじっと、床の雨染みでも見ているのか動きもしなかった。女が持つのは、使い古された渋い色の和傘に、くすんだ紫の風呂敷。女には珍しい、重たい黒色の洋風のコオトを着て、その裾からは着物の色合いが、調和を乱すように鮮やかに覗いている。泥に汚れた白足袋と、紫の鼻緒の草履。娘盛りを少し過ぎた年頃だろうかと思うのは、その少しく乱れた髪と、生活に霞んだ手の甲のためである。
 持って出た本も読み終えた私がその女に目を留めたのは、女がその背を、知らずのうちに冬の白い陽に預けていたためであった。女の背後が西側になっているのだろう、その陽光を女は一身に受けている。その女の淡い白い頬の輪郭が、私の視線を誘導させたのだ。
 先ほどまで降っていた小雨の名残が空中に分散して、光線と互いに反射しあっているのか、女の輪郭はやけに淡く光っている。それはまるで銀幕の女優のようで、その白い肌は何よりも私の目を惹いた。女はそれに動じないけれども、市電が動きを止めるたび、そのように揺れる身体をそのまま任せて、そしてその度に、陽の光の方がゆらりと揺れている。
 女本人が動きもしないのに、陽の光のほうがゆらゆらと揺れる。それは市電が動いているからであるし��外では日光を遮蔽するものがたまにあるからだろう。��えば不思議はないはずであるが、女の代わりに表情を変えていく冬の光が、私には面白く目に映った。光が表情を変える度、女はその照明に、勝手に照らされる。何度も違う角度から映される写真のように、女は勝手にその陽の光のモデルとなった。
 女は一際に美しい容姿をしている、というわけではなさそうであったが、それでもこの情景を留めておけるものなら、そうしたいと、一学徒でしかない私にすら思える。しかしながらどれだけ高名な絵描きであろうと、この光の揺らぐ光景は、絶対に描き留めきれないのだから惜しいものだ。
 その時市電が止まり、女が気のついたように数度瞬きをして顔を上げた。風呂敷に沈んだ身体を起こして、頬杖を解放する。私が手持ち無沙汰に女をまじまじと眺めていたことにも気がついていないのか、私とは反対の方向を見て、どうやら現在地を確認しているようであった。すっと伸びた背筋、そこから続く首筋、横顔は鼻筋が通り、重たく見えていた瞼は思いの外強く印象的な瞳を表した。不機嫌そうに引き結んでいた紅が彩る口元の、その端、少し下には黒子が見える。髪の生え際までの額の形と、何よりも、少し寄せられた眉のしなりが美しい。陽の光が女を捉え、女も、遠くを見渡し動きを止めるその瞬間。
 その瞬間を私は見たのだ。
 それは先ほど上野で見た洋画のどれだかのように。完璧に整った一瞬だったのである。女のポオズ、その表情、持ち物衣類から、市電車内の光景と、冬の柔らかい光の色。私が絵描きであったなら、この光景を逃す手はない。そんなものになってみようと思ったことは、生まれてこのかた一瞬たりともなかったというのに、今この瞬間に初めて私は、自らが芸術の道を選び取らなかったことを悔やみすらした。それはあまりに美しく、私の脳裏に焼きついたのである。
 その一瞬間に私は見惚れて、つい女を凝視していたに違いない。次に市電が揺れると、女はついに私に気がついたようにこちらを見やり、黒く細い瞳で私を睨みつけるようにした。そこでようやく我に返る。他者を見澄ましていた己の不躾さに情けない思いを抱えて、居心地悪く女から視線を外す。しばらくそうして車内外に視線を彷徨わせていたものの、自らの落ち度の手前、じわじわと女の視線が刺さる気すらする。ついには居心地の悪さに耐え切れなくなって、まだ先まで乗っているつもりだったものを、次の停車場でそそくさと降りてしまった。
 見ず知らずの女に悪いことをしたとふと息をついたのも束の間、「もし」と人を呼び止める声がする。私ではなかろうと思っていると、目の前に影がぬっと現れた。身を引くとそれは、私が先まで失礼を働いていた女当人である。
「あなた」
女が言う。私はその突然の出来事に動転してしまって咄嗟には声も出ずに、ただ女の顔を凝視していた。
「どちらかでお会いしまして?」
しかし女はそれ自体を気に留めていないのか、ぬっと顔を近づけて私を見る。
「いえ、そういうことはありません」先程は……、
と言いかけたところで、女がはっと距離をとった。
「ごめんなさい、近目なものだから。どこかで顔見知りの人のような気もして……今日は眼鏡も忘れてしまったし……」
女は風呂敷を抱えて、斜に頭を下げる。「いえこちらこそまじまじと申し訳ない」と言えば、女が怪訝な顔をするので、結果、自らの罪を一から自白することとなってしまった。
 一通りの自白を終えて、女は思いの外朗らかにそれを聞いていた。しばらくそのまま立ち話を続けていれば、冬の長い夜はすぐさまやってくる。そろそろ、と話を切り上げ、別れかけると、女はこのまま、ここで市電を待つのだと言った。私が知り合いと思って降りたから、本当はまだ先まで乗っているはずであったのだと恥ずかしそうに笑う。私もまったく同じことをしたとは打ち明けられずに、ただ女に悪いことをしたと再び苦く思う。自らはここから歩いて家まで帰るつもりであったが、女一人を置いて帰るには停車場は薄暗い。
「失礼ですが、どちらまで」
聞けば女の行先も、自分の帰る方角と似たようなところである。徒歩をやめにして円タクを拾い、先の失礼のお詫びにと同乗を誘えば、女は躊躇いながらもそれに乗った。
 帰路にも陽はどんどん暮れる。女が車を停めて降り、別れを告げるちょうどその時、点灯夫が車の横をすり抜けて、ガス灯の火が灯された。ほっと灯る火の暗さが、点々と連なっていく。女はそれをちらと見上げて、冬は日が暮れるのが早くって嫌ですね、と呟く。
 女とは、たかが数刻話した程度。なんでもない話をしていたので、その素性は当然聞いてもいない。近くに住んでいるようではあるから、もしかするとこの先も市電で乗り合わせることもあるかもしれないが、この東���では��の可能性も限りなく低いだろう。
 昼間見た女のあの一瞬を思い返す。光を受けた女の美しいひととき。その類稀なさ名残惜しさに、動き出す車から背後を振り返ると、女はガス灯の下に佇んでいて、その姿はただ暗く映るのみであった。私が振り返るのに気づいたわけはないと思うのに、女の腕が挙げられて、落ちた袖からその細さが暗がりに浮き上がる。今度は浮世絵のようなその情景に、私はソフトを挙げて、ただ、別れを告げるのだ。
もっちりデミタスさんのアドベントカレンダー(2023)寄稿です https://adventar.org/calendars/8560
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tominohouzan · 11 months
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宮本佳林 3rdシングル『バンビーナ・バンビーノ/Lonely Bus』発売記念 ミニライブ&お見送り会 ::★★★★(4.0) 2023年11月4日(土) モリタウン MOVIX前ガーデンステージ 第1部11:30~ (集合時間 11:10) 第2部14:00~ (集合時間 13:45) 第3部16:00~ (集合時間 15:45)
モリタウンまではバイクで45分。前日夜にグーグルマップを見た時は確かにそう表示されていた。長めの二度寝から起きグーグルマップを開くと、モリタウンまでは1時間30分と表示されている。こりゃまずいと飛び起きて3倍速で洗顔と歯磨きだけしてバイクに跨った。
一部の客入りは優先50〜60、無銭は100弱で予想していたぐらいであった。センター下手辺りでみる。今日の衣装は青のショートジャケットとスカートのロンリーバス衣装。お腹が終始出ているのポイントで、お顔より真っ白で薄いお腹ばかり見ていた気がする。ソリストダンスが良いとの評判だったが、どのように良いのか期待していたのだが、コール盛り盛りのアイドルソングであった。今日はとにかく季節外れの暑さで長袖衣装の佳林ちゃんも暑いと言っている。衣装のチョイスは完全にMGさん任せらしい。 駅の反対側のカレー屋でカツカレーを食べる。味はまずまずだが普通盛り950円は私にはエクスペンシブ過ぎた。
2部は1部より若干だが客入りが良くなったようにみえる。上手から双眼鏡で見るつもりだったが、双眼鏡使用者がおじいちゃん一人だけしかいなく、ちょっと場違いかなと自粛した。声の調子が良くなく封印していたロンリーバスを試しにやってみるということに。ピッチも表現も良かったと私は思ったが本人的には「ピッチが甘い」とのこと。今回のシングルではこの曲が1番のお気に入り。可愛さと美しさが同居したMVも素晴らしい。1部より更に暑くなりジャケットをひらひらさせると会場から「Fuuu」の歓声。「フーじゃないでしょ。脱がないよっ!」といたずらっぽく佳林ちゃん。 イトーヨーカドーの入口にセブンのコーヒーマシンが設置されていたのでアイスコーヒーを購入していつものベンチで休憩。
3部はかなり入っている。優先100。無銭も100以上。最下手の電柱あたりで見るが、子連れ優先席がステージとの間にあるので足先から頭まで全身が見えるし、ここが一番近く感じる。そしてこのあたりは天井もないので音響の抜けも良い気がする。気付くと2部で見かけた双眼鏡おじいちゃんも直ぐ側にいるではないか。似た者同士なのだろう、もはや親近感しか感じない。「小生もご一緒しますよ、グヒュフフ」と1部2部では自粛していた双眼鏡の使用に踏み切った。おそらく場内で使っていたのは私��含めて3人程度だろう。ただ双眼鏡を使用したことでブーツの紫のラメがキラキラと綺麗なことに気がつけた。
トークも果林ちゃんのカラーが全面に出ている。まぁ本当によく喋るのだが、ほとんど記憶に残らないは逆にすごい。といってもつまらないわけではなく、耳触りはとても良いのだ。以前MSMWでりなぷーが、まるちゃんとおぜこが佳林ちゃんのトークをラジオを聞き流すかのように聞いているといっていたが、なるほどなぁと今更ながらに頷いた。捌ける際に優先エリアの客にはひとりひとりと目を合わせるかのようにたっぷり時間をかけて手を振っていた。
<セットリスト> 第1部 1.バンビーナ・バンビーノ MC 2.少女K 3.パラレルハート MC 4.Beautiful Song 5.ソリスト・ダンス
第2部 1.バンビーナ・バンビーノ MC 2.Lonely Bus 3.Beautiful Song MC 4.パラレルハート 5.ソリスト・ダンス
第3部 1 バンビーナ・バンビーノ MC 2 Happy Days 3 パラレルハート MC 4 Beautiful Song 5 ソリスト・ダンス
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itocaci · 1 year
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人気の"rihei"デニムシリーズ - rihei "Denim Jacket" / "Denim Pants"
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こんばんは。
関西は10年ぶりに5月に梅雨入りの発表があり、ここ数日はスカッとした青空もあまりみることが出来ない。
明日はかなり強めの雨になりそうだ。
一方週末は晴れ間が少し覗きそうだったり。
お天気にコロコロと振り回されて、なかなかと思い切って洗濯物を外に干せないのが辛い。
でも街を歩くと、あちらこちらでいつの間にか紫陽花が綺麗に咲き始めて、夜中にスカイビルの横を歩くと、カエルの鳴き声が聞こえる。
地元に住んでいた頃、当時は田畑に囲まれていたので、夜中になるとカエルの鳴き声に苛々としたこともあるけど、今、カエルの鳴き声を聞くと、ちょっと懐かしく感じられて、心地よくすら感じる。
正直、梅雨は鬱陶しい。
でも、嘆いていても必ずやってきてしまう。
それだったら、この時期にしか楽しめない、梅雨の風景というものを楽しんでやろうじゃないか。
そんなことを思った。
明日はかなり強い雨になるそうだ。
おそらく、お店にはのんびりとした時間が流れるはず。
静かな音を流しながら、雨の音にでも耳を傾けてみようかと思う。
ちょっと美味しいコーヒでも飲みながら。
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さて、今日は、昨年人気で即完売してしまった"rihei"のデニムアイテムをピックしてみようかと思う。
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rihei : Denim Jacket (blue) ¥35,200 (tax in)
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rihei : Denim Jacket (black) ¥35,200 (tax in) sold out
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rihei : Denim Pants (blue) ¥30,800 (tax in)
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rihei : Denim Pants (black) ¥30,800 (tax in) sold out
ちょっと”black”カラーは既に完売してしまったのだが、ブルーはまだ上下で1組残っているのでご紹介させてもらえればと思う。
それにしても、本当に”rihei”のデニムは人気である。
昨年登場した"rihei"のデニム。
パンツは少し仕様や色も変わって今季も登場。
そして、昨年はなかったデニムジャケットが新たに登場した。
春夏でも快適に着用いただけるように、シルエットは上下ともゆとりのあるデザインとなっている。
また、素材は通常のデニムと比べると、少し薄手のデニム素材となり、これからの季節でも十分活躍してくれるアイテムとなりそうだ。
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ジャケットは身幅にゆとりを持たせただけではなく、アームホールにもゆとりを持たせている。
以前、"rihei"のリネンジャケットやパンツを紹介したときにも話したのだけど、ゆるーい、やる気のないような、脱力感あるシルエットになるのに、着用すると可愛い。
特に、このジャケットはバックからのシルエットがオススメだ。
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背面が少し、ふっくらと膨らむようなシルエットがとても印象的で、美しい。
緩いのに、美しい。
ストレスや肩を張らずとも、美しく見えるなんて、めちゃくちゃ重宝できるアイテムではないだろうか。
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首周りの生地を裁ちっぱなしにしたデザイ���も"rihei"の特徴的なデザインの一つである。
生地の切れ端から糸が少し出ているんだけど、ちょっとしたフリンジみたいでデザインのアクセントになっている。
また、襟のない、ノーカラー仕様のデニムジャケットになるので、首周りもすっきりと見せることができて、これからの季節にもオススメだ。
梅雨の肌寒い日に、ちょっとこんな素敵なジャケットを羽織ってお出かけを楽しむ。
雨で気持ちが上がらない日こそ、こんな美しいジャケットを纏ってお出かけしてみて欲しいなぁ。
(デニムジャケットなので、雨に濡れても家で洗えてしまうので、そういった実用面でもオススメだったりする。)
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デニムパンツも同様にウエスト部分や裾の部分は裁ちっぱなしにしたデザインを採用。
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昨年は、裾を大胆に折り返したデザインになっていたのだけど、今年はシンプルな仕様に変更されている。
実は、こちらの方が使いやすくて、ロールアップの幅も自分の好きな具合に調整が効く。
クルクルとラフに巻いて履いても良いし、何回か折って履いても良いし、逆に1回だけ大きく折って履くのも良い。
つまり、着用する人間が、その日の気分やコーディネートに合わせて好きに調整していただける。
着る私たちに任せるような余白が、今年のデニムにはあったりする。
だから、ついつい僕は今年も"rihei"のデニムを個人用でもオーダーしてしまった。
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しかも"rihei"のデニムはベルト付きでもあるので、ちょっとお得だったりする。
ウエストがめちゃくちゃワイドになるので、元々このベルトでキュッと絞って着用することを前提としており、女性から男性までユニセックスで着用が可能なアイテムとなる。
実際にブランドの公式では女性が着用している。
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これからの季節であれば、サンダルとか履いて、ロールアップして、夏のラフな装いに取り入れていただくのが一番良いのかなぁなんて思っている。
梅雨や夏のジメジメとした暑い日にも、少し薄手で、かつ家でのお手入れも簡単な"rihei"のデニムパンツはかなりこれからの季節にオススメしたいアイテムだ。
ここ数年、かなり"rihei"の人気が出てきている。
それはここ数年のアイテムが素敵なことはもちろんなんだけど、"rihei"を購入している方のほとんどが、一度"rihei"のアイテムを購入して、実際に着用したことがある方なのだ。
つまり、一度着用すると、すっかりその魅力に取り憑かれてしまっているということなのだろう。
見た目ではなかなかと目に飛び込んでこないのかもしれない。(こんな言い方をしたら失礼だけど。)
でも、着用した者にしかわからない世界があるのだ。
そして"rihei"の魅力を感じていただくのに、このデニムは最も入りやすいアイテムになると僕は思っている。
もちろん"rihei"のことを既に知っている人にもオススメしているので、ぜひ、この機会に一度袖を通してみてはいかがだろうか。
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きっと、"rihei"のデニムアイテムを纏ったら、虜になる���
その自信がある。
後悔などさせないし、手にして良かったと絶対に思ってもらえると信じている。
そんな訳でもし良かったら一度お試しあれ。
なおこちらは現在オンラインショップでもご覧いただけるので、合わせて見ていただけると嬉しく思う。
それでは次回もお楽しみに。
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kimonoyamanaka · 3 years
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~ お嬢さまの成人式が  家族の記念日になる ~ ----------------------------------- 「きものやまなか」にて、振袖をお買上げいただいたお客様のご紹介です。 品のある薄紫色の振袖で、優しい雰囲気のお嬢様にとてもお似合いでした。 お姉さまも3年前、黒地の素晴らしい振袖をお買い上げ頂きましたので、今回ご家族で記念写真を撮影されました。 「きものやまなか」では、こちらのお嬢さまに着ていただいているような格調高い晴れ着を取り扱っております。 詳しくはプロフィールのURLより、当社ホームページをご覧下さい ⇒ @furisode_yamanaka ---------------------------------- #振袖 #着物 #成人式 #きものやまなか #kimono #振袖美人 #きものやまなか振袖美人 #振袖薄紫 #薄紫振袖 #古典振袖 #古典柄振袖 #日本 #japan #japon #japanesestyle #japaneseculture #lovejapan #japanlife #instagramjapan #成人式前撮り #振袖前撮り #家族写真 #記念写真 #名古屋振袖 #名古屋市振袖 #振袖名古屋 #振袖名古屋市 #名古屋市振袖美人 (振袖 名古屋市 きものやまなか) https://www.instagram.com/p/CNZIi__MtAT/?igshid=1pc1dzud4v9bp
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2ttf · 12 years
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see also How to Edit a Glyph that is not listed on iFontMaker
6 notes · View notes
kachoushi · 2 years
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各地句会報
花鳥誌 令和5年1月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
………………………………………………………………
令和4年10月1日 零の会 坊城俊樹選 特選句
草花のひかりの中へ列車ゆく きみよ 玉電の秋日に錆びし蛙色 要 雁渡るご墓所の天の筒抜けて 順子 神在す胙として木の実独楽 三郎 大老の供華には黒き曼珠沙華 いづみ 木の実降る正室と側室の墓 同 おしろいや世田谷線の音に住む 千種 どんぐりに一打を食らふ力石 みち代 踏切を渡りカンナの遠くなる 順子 茎だけになりて寄り添ふ曼殊沙華 小鳥 直弼へ短きこゑの昼の虫 光子 金色の弥勒に薄き昼の虫 順子
岡田順子選 特選句
草花のひかりの中へ列車ゆく きみよ 黄のカンナ町会掲示板に訃報 光子 井伊の墓所秋の大黒蝶舞へり 慶月 大老の供華には黒き曼珠沙華 いづみ おしろいや世田谷線の音に住む 千種 十月の路面電車の小さき旅 美紀 秋の声世田谷線のちんちんと はるか 現し世のどんぐり星霜の墓碑へ 瑠璃 直弼の供華の白菊とて無言 俊樹 直弼へ短きこゑの昼の虫 光子 秋声や多情を匿すまねき猫 瑠璃 累々の江戸よりの墓所穴まどひ 眞理子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月1日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
点と点結ぶ旅して尉鶲 愛 振り向かぬままの別れや秋日傘 久美子 月光や洞の育む白茸 成子 木の実落つ長き抱擁解きをれば 美穂 折々に浮かぶ人あり虫の声 孝子 ひぐらしの果てたる幹へ掌 かおり 国境も先の異国も花野なる 睦子 虫の音が消え君の音靴の音 勝利 流れ星���えたるあたり曾良の墓 かおり
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月3日 花鳥さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
天高き天守の磴や男坂 千加 秋高し景色静に広がりて 同 汽水湖に影を新たに小鳥来る 泰俊 朗々と舟歌流れ天高し 同 落城の業火の名残り曼珠沙華 雪 秋立つとほのかに見せて来し楓 かづお 天の川磯部の句碑になだれをり 匠 天高し白馬峰雲ありてなほ 希
(順不同特選句のみ掲載�� ………………………………………………………………
令和4年10月6日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
夫のこし逝く女静か秋彼岸 由季子 赤い羽根遺品の襟にさびついて さとみ 学童の帽子が踊る刈田路 吉田都 雨音を独り静かに温め酒 同 紫に沈む山里秋の暮 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月7日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
蛇穴に若きは鋼の身を細め 鍜治屋都 芋の露朝日に散らし列車ゆく 美智子 神木の二本の銀杏落ちる朝 益恵 破蓮の静寂に焦れて亀の浮く 宇太郎 新種ぶだう女神のやうな名をもらひ 悦子 鱗雲成らねばただの雲一つ 佐代子 色褪せず残る菊とは夢幻能 悦子 ばつた跳ぶ天金の書を捲るごと 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月8日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
ますかたは吟行日和年尾の忌 百合子 奔放にコスモス咲かせ埋れ住む 同 椋鳥の藪騒続く夕間暮 美枝子 子等摑む新米の贅塩むすび ゆう子 名園を忘れ難くて鴨来る 幸子 ぱつくりと割れて無花果木に残り 和代 初鴨の水の飛沫の薄暮かな ゆう子 猪垣や鉄柵曲がり獣の香 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月10日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
木の実落つ藩邸跡を結界に 時江 コスモスの花街道は過疎の村 久子 産声の高し満月耿耿と みす枝 ひとしきり子に諭されて敬老日 上嶋昭子 曼珠沙華供花としもゆる六地蔵 一枝 鰯雲その一匹のへしこ持て 時江 雨の日の菊人形の香りなし ただし あせりたる話の接穂ソーダ水 上嶋昭子 倒立の子に秋天の果てしなき 同 秋風にたちて句作に目をとぢて 久子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月10日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
川は日に芒は風に耀うて 三無 風向きに芒の穂波獣めく 怜 雨止みて爽やかに風流れ出し せつこ ゆつたりと多摩川眺め秋高し 同 秋雨の手鏡ほどの潦 三無 患ひて安寝焦がるる長夜かな エイ子 藩校あと今剣道場新��子 あき子 秋蝶や喜び交はす雨上り せつこ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月11日 萩花鳥会
大阿蘇の銀波見渡す花芒 祐子 観る客と朝まで風の秋祭り 健雄 秋祭り露店の饅頭蒸気船 恒雄 秋吉台芒波打ち野は光る 俊文 花芒古希の体は軋みおり ゆかり まず友へ文したゝめて秋投句 陽子 青き目に器映すや秋日和 吉之 夕日影黄金カルスト芒原 美惠子
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令和4年10月16日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
金継ぎの碗によそふや今年米 登美子 そぞろ行く袖に花触れ萩の寺 紀子 子の写真電車と橋と秋夕焼 裕子 秋の灯に深くうなづく真砂女の句 登美子 花野行く少女に戻りたい母と 同 被写体は白さ際立つ蕎麦の花 紀子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月16日 伊藤柏翠俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
御神燈淋しく点り秋祭り 雪 天馬空駈けるが如き秋の雲 同 自ら猫じゃらしてふ名に揺るる 同 秋潮に柏翠偲ぶ日本海 かづを 真青なる海と対峙の鰯雲 同 鶏頭のいよいよ赤く親鸞忌 ただし 桃太郎香り豊に菊人形 同 鬼灯の中へ秘めごと仕舞ひたし 和子 雲の峰だんだん母に似てゐたり 富子 振り返へるたびに暮れゆく芒道 真喜栄 坊跡に皇女が詠みし烏瓜 やす香
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月16日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
おほかたは裏をさらして朴落葉 要 秋深し紙垂の失せたる縄一本 千種 合掌のかたちに稲を掛け連ね 久子 豊穣に早稲と晩稲の隣り合ふ 炳子 耕運機突っ込まれたる赤のまま 圭魚 鏤める谷戸の深山の烏瓜 亜栄子 稔り田を守るかに巖尖りけり 炳子 晩秋の黃蝶小さく濃く舞へり 慶月 雨しづくとどめ末枯はじまりぬ 千種 穭田に残され赤き耕運機 圭魚
栗林圭魚選 特選句
溝蕎麦や角のとれたる水の音 三無 ひと掴みづつ稲を刈る音乾き 秋尚 稲雀追うて男の猫車 炳子 叢雲や遠くの風に花芒 斉 泥のまま置かるる農具草の花 眞理子 稲刈や鎌先光り露飛ばす 三無 耕運機傾き錆びて赤のまま 要 けふあたり色づきさうなからすうり 千種 晩秋の黃蝶小さく濃く舞へり 慶月 雨しづくとどめ末枯はじまりぬ 千種 隠沼にぷくんと気泡秋深し 炳子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月19日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
渡り鳥日本海を北に置く 世詩明 コスモスや川辺はなべて清酒倉 同 朝倉の興亡跡や曼珠沙華 千代子 案山子見てゐるか案山子に見らるるか 雪 赤とんぼ空に合戦ある如し 同 ゆれ止まぬコスモスと人想ふ吾と 昭子 色鳥の水面をよぎる水煙 希子 点在の村をコスモス繋ぐ野辺 同 小次郎の里に群れ飛ぶ赤蜻蛉 笑子 鳥渡る列の歪みはそのままに 泰俊 鳥渡る夕日の中へ紛れつつ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月21日 鯖江花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
俳人の揃ふ本棚秋灯 一涓 大法螺を吹き松茸を山ほどと 同 那智黒をひととき握りゐて秋思 同 漂へる雲の厚さよ神の旅 たけし 稲孫田のところどころに出水跡 同 美術展出て鈴掛けの枯葉踏む 雪 院食の栗飯小さく刻みをり 中山昭子 秋晴や僧の買物竹箒 洋子 末枯れて野径の幅の広さかな みす枝 短日のレントゲン技師素つ気なし 上嶋昭子 栗拾ふ巫女の襟足見てしまふ 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月21日 さきたま花鳥句会 岡田順子選 特選句
竜神の抉りし谷を秋茜 裕章 コスモスの続く車窓を開きけり かおり 段々の刈田に迫る日の名残り 月惑 残菊の縋る墓石に日の欠片 同 草野ゆく飛蝗光と四方に跳ぶ 裕章 夕空を背負ひ稲刈る父母の見ゆ 良江 二つ三つむかご転がり米を研ぐ 紀花 黄葉散るギターケースに銀貨投ぐ とし江 秋びより鴟尾に流離の雲一つ 月惑 弾く手なき床の琴へも菊飾り 康子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月23日 月例会 坊城俊樹選 特選句
ケサランパサラン白い山茶花咲いたから 順子 草の実の数ほど武運祈られて いづみ 盛大に残りの菊を並べけり 佑天 誇らしげなる白の立つ菊花展 秋尚 白帝の置きし十字架翳りなく かおり 魂のせるほどの小さき秋の蝶 順子 晴着色の鯉の寄り来る七五三 慶月
岡田順子選 特選句
初鴨の静けさ恋ひて北の丸 圭魚 色鳥の色を禁裏の松越しに はるか 草の実の数ほど武運祈られて いづみ 菊月の母は女の匂ひかな 和子 白大輪赤子のごとく菊師撫で 慶月 ふるさとの名の献酒ある紅葉かな ゆう子 大鳥居秋の家族を切り取れる 要 菊花展菊の御門を踏み入れば 俊樹 亡き者のかえる処の水澄めり いづみ 秋興や一男二女の横座り 昌文
栗林圭魚選 特選句
菊花展菊の御門を踏み入れば 俊樹 鉢すゑる江戸の菊師の指遣ひ 順子 玉砂利を踏む行秋を惜しむ音 政江 秋の影深く宿して能舞台 て津子 神池の蓬莱めきし石の秋 炳子 破蓮の揺れ鬩ぎ合ふ濠深き 秋尚 能舞台いつしか生るる新松子 幸風
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年10月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
戻りくる波より低き鰯舟 喜和 人波によごれし踵カンナの緋 かおり 考へる葦に生れにし秋思かな 吉田睦子 北斎の波へ秋思のひとかけら 美穂 一燈に組みたる指の秋思かな 同 石蹴りの石の滑りて秋落暉 ひとみ 砂糖壺秋思の翳は映らずに かおり ゆふぐれの顔して鹿の近づきぬ 美穂 城垣の石のあはひにある秋思 成子 おむすびの丸に三角天高し 千代 梟に縄文の火と夜の密度 古賀睦子 黒電話秋思の声のきれぎれに 同 恋人よ首より老いて冬眠す 美穂 顔伏せてゆく秋思らの曲り角 かおり
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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usickyou · 2 years
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わたしを葬くる
 それは、計画と呼べるような物ではなかった。  早朝、人の少ない時間に衣装室の使用申請を提出し、衣装を盗み出す。また夜になり、人のいない頃を見計らって衣装を返却する。ただ、それだけ。事前に所在は確認し、予定時刻には下見も行ったが、それ以上に細かな手順は考えていなかった。見つかったならそれまでだと、そう思っていたのかもしれない。  計画が実行されたのは六月の終わり、その前日の土曜日。数日間緩やかに続いていた雨が、昨晩から急激な豪雨へと変貌を遂げていた。都内広域に警報が出され、また暴風に伴い交通機関は停滞し、その結果、人影まばらなエントランスで二人の少女に気付いた人間は誰もいなかった。  職員の到着が遅れているため、契約上その場を埋めるためだけに受付に立っている警備員は、彼女たちを気に留めるはずも��い。総務部には自宅を近くに構えていた職員が一人座っていたが、彼は春に関西の支社から転属されたばかりで、またアイドル事業部との関わりも薄く、そして職業意識も高いとは言えなかったため、特に気にもせず彼女たち衣装室の鍵を貸し出した。また、彼女たちは知らないことだが、その申請書は彼がこぼしたコーヒーのため、規定通りに保管されることなく廃棄されている。  衣装をリュックに詰め、鍵を返却し、二人は来た時から待たせてあったタクシーに乗り込んで事務所を後にした。要した時間はわずか十分程度であり、その間の二人を記憶している者は、誰もいない。予定上は休みであるはずの二人がそこにいたことを知る者は、誰もいない。  その一時間後には、二人は新幹線に乗り込み東京を後にしていた。  雨は風と共に、次第に勢いを弱めつつあった。
 *
 新幹線を在来線へ乗り換えて数駅、時刻はまだ昼の少し手前。小さな駅前、たった一つの古びた喫茶店。その奥で光を避けるように、速水奏と北条加蓮が座っていた。食べ終えたトーストは既に片付けられ、アイスコーヒーとカフェオレのグラスが彼女たちの前にあった。サイフォンやスタンダードジャズ、遠慮がちな話し声や雑誌をめくる音。そんな中にあって二人は、視線を重ねることなく、時おり時間を気にしながら窓の外を眺めている。 「止まなきゃよかったのに」  ぽつりと唇を震わせたのは、加蓮だった。この日は髪を結んでおらず、またアクセサリーやネイルも見受けられず、ただ貞淑な黒のAラインワンピースを纏う、その袖を肘までのばして少し寒そうに腕を寄せている。 「覆い隠してほしい?」  奏も同様に黒く、しかし肩口までを露出したワンピースに身を包んでいる。簡素な服装に反して、メイクは丁寧に施されている。隣に置かれた大きなリュックはその姿にいかにも不似合いだが、それを気にする人間はその場に存在していない。 「奏もでしょ」  一瞬だけ視線を交わした後、言葉はなく、視線を重ねることもなく、数十分後、到着したバスに乗って二人は駅を後にした。  店主だけが山奥へ向かっていくバスの背を見送っていたが、団体客の来店によって二人の姿は記憶の隅に追いやられ、再び甦ることはなかった。
 *
 彼女たちは地図を片手に歩いていた。鬱蒼と茂る夏の樹林と分厚い雲によって太陽は遮られ、映る限りの景色は澱んだ灰色に沈んでいる。行く道には最低限の舗装は行き届いているが、長雨の残した水溜まりやガードレールから道路までを這う蔓が、人の手を離れて久しい状況を伺わせた。そんな道を、黒いワンピースにリュックを背負った少女たちが歩いている。その状況は異様なものだったが、バスが二時間に一本通るだけの県道から外れた町道、をさらに外れた旧道にあって、二人を見咎める人間が存在するはずもない。 「靴、履き替えて正解だったでしょ」  スニーカーで地面を鳴らしながら、加蓮が呟く。 「言った通りね」  視線を地図に落として、奏は答える。 「私さ、計画とか準備とか好きなんだ」 「実地は苦手?」 「地図が無理、方向感覚ないから」 「負けず嫌いはどこにいったのかしら」  加蓮は小さく片手を振って「あとどのくらい」と訊ねる。「もう少し」奏の言葉の通りに、二人の行く先を灰色の看板とプラスチックの鎖が塞いだ。 『……教会……礼拝……月八日……』  木造の看板は、その施設が完全に放棄されてそれほど経っていないにも関わらず、元々の清廉な色を失っている。風雨に曝されての劣化や湿った大気による苔の緑、また心ない誰かの暴力や落書によって、ほとんどの文字が判別できない状態にあった。  地図を畳んで、彼女たちは鎖をくぐる。車二台がすれ違えるほどの道は、しかし広がった植物によって人一人がやっと通れるほどに狭められている。露出した腕や脚を気にして歩きながら、しかし、二人の足取りは確かだった。視線さえ、余所へ向けられることはなかった。 「随分ひどいのね、実物は」  程なく辿り着いたその建造物を前に、奏はため息をついた。くすんだ漆喰の白い壁は所々が剥がれ落ち、赤茶けた煉瓦が覗くその外観は、傷ついた人間の体を想起させる。かつては美しかったのだろう、くすんだ色のステンドグラスは、その半分以上が割れ落ちている。 「写真は一年前だったし」  見上げていた加蓮は、その建物を『教会』たらしめる最も重要なもの、十字架が屋根から失われていることに気付く。歩みを進めながら荒れた道にその形を探すが、しかし見つかることはなく、「このくらいがいいよ、きっと」そうこぼして、軋む扉を開いた。  教会に踏み入れ、その中が外観よりは荒廃していないことに安堵する。しかし並んだ長椅子は形こそ保っているが、塗装は剥げ落ち、ささくれ立った木肌を晒している。同様に木地の床も、割れた窓から吹き込む風雨によって煤けた土の色に染まっている。聖像もなく、十字架もない。二度と鳴らされないオルガンには、雨垂れが滴り落ちている。その空間を定義するのは、意味を失ったまま形だけを保つ教台と、朽ち果てた一冊の聖書でしかなかった。  水溜まりを避けながら席を、教台を横切り、彼女たちは聖堂奥の扉へと姿を消す。入れ違うように、割れた窓から一羽の蝶が降りた。烏羽色とエメラルドブルーの翅。長雨で弱った体をひらひらと、落葉のように運び、聖書の上で身を休める。その来訪者を歓迎するように、傾き始めた日の光は木々の合間を縫い、天窓から降り注いだ。  そうして蝶が十分に身を休めた頃、光が消えた。同時に扉が開かれ、蝶は入り込んだ窓から逃げ出し、森の奥へ消えていった。蝶は彼女たちを知らず、そして彼女たちも、予期しない参列者の存在を知ることはなかった。  聖堂には、二人の姿だけがある。ウエディングドレスを纏い並び立つ、夜色の花嫁と純白の花嫁。最初にそれを盗もうと提案したのはどちらだったのか、二人はもう、それを覚えてはいない。  衣装と揃いのヒールでざらつく床を鳴らす、彼女たちの手にはブーケがある。同じ花、しかしその色は濃紫と純白。それを用意した加蓮は、決して友人に手配を頼もうとはしなかった。 「夢の中、みたいな気がするわ」 「全部、夢なら良かった?」 「あなたは……夢であってほしい? 全て」 「……そんなわけ、ないよ」  緩やかな足取りで、二人は教台の前へたどり着く。向かい合う、白黒の花嫁。二人は少し、目を閉じた。そうして暗闇の中にその人の姿を、呼吸を、香りを、肌の温かさを想う。やがて同時に瞼を開き、瞳に映る互いのかたち。重ねた像のその奥に、互いではない、その人を探している。 「健やかなる時も、病める時も」  呼吸を合わせ重ねた声が、煤けた聖堂に響き渡る。 「私、速水奏は」 「私、北条加蓮は」  差し込んだ光が、二人にかすかな色を与えた。 「……生涯、愛することを誓います」  言葉の果て、最後までその人を探しながら、最後には互いの姿を確かめて、奏と加蓮は唇を重ねる。決して、長い時間ではなかった。それでも、瞬間で済むことではなかった。唇を離した二人は鼓動の高鳴りを、紅潮する頬を深い呼吸で整えて、本当の恋人であるかのように、遠慮がちに視線を重ねる。 「わかってた。はず、なのにね」 「私も、あなたも……代わりなんて」  見上げた天窓から確かに降り注いだ光は、もう、消えていた。  偽物の婚姻を終えた、偽物の花嫁に、何者にもなれなかった少女たちに、ただ滴り落ちる雫の音だけが響いていた。
 *
 聖堂奥の扉の内、そこは過去、応接室だったのだろう。中央のテーブルを囲むように木椅子が数脚散らばり、皮の破れたダークブラウンのソファが一台、気まぐれに訪れる来客を待ち詫びている。壁を塞いで並んだ大小のクローゼットやチェスト、書棚には数点のカップやグラス、埃を被った厚い本が残されているが、彼らを望む者はここにはもう現れることはない。  割られたガラスが床に散らばり、踏めば痛みに呻くような軋みをたてる。そんな空間にあって、着替えを終えて黒いワンピース姿の二人は、やはり異質な存在だった。 「裾、けっこう汚れちゃった」  気をつけてたんだけど、と加蓮がこぼした声に、応えはない。言葉を投げかけた相手は、ぼんやりと立ち尽くしたまま、役割を終えたドレスを眺めている。 「奏、聞こえてる?」 「……ごめんなさい。聞いてなかったわ」  薄く曇った奏の瞳。加蓮はふっと表情を和らげて奏に歩み寄ると、頬に小さなキスをして、その体をそっと抱きしめた。 「付き合ってくれてありがと」 「……付き合うとか、そうじゃないでしょ」 「じゃあ奏も慰めてよ」  かすかなため息、笑みをこぼした奏は、加蓮の頬に触れるだけのキスを返す。そうして少しだけ小さな体を抱きしめて、穏やかな手つきで髪を撫でる。 「奏のこと、好きになれたらなあ」 「笑えないわね」 「……ごめん。でも、全部嘘じゃないよ」 「なら、悪い夢を見てるの。私たち」  寄り添えた体を引き離し、二人は目をそらす。その視界の端で、かすかな空気の振動のせいだろうか、チェストから落ちた揃いのブーケが、乾いた音をたてた。  どちらかといえばだが、その近くにいた奏が拾いに向かう。じりじりとガラス片を踏みながら揺るぎない足取り、その後ろ姿を加蓮は見ている。チェストの奥はその位置からは死角になっていて、落ちたブーケは目に映らない。しゃがみこんだ背中で、拾い上げる仕草も決して見えることはない。  だから、どうして奏がしゃがみこんだままでいるのか、わからなかった。その手元から生まれた、かすかなオレンジの光。その理由を、理解できずにいた。  ゆっくりと、奏が立ち上がる。振り返り、加蓮を見つめる瞳が、大きく開かれている。手にしたブーケは、かさかさと震えていた。どうしたの、と言いかけた言葉を加蓮は飲み込む。踏み出した奏の足取りは頼りなく、その短い距離を怯えるようにして歩く。しかし視線だけは決して加蓮を離れず、そして加蓮は、待っている。奏の見つけ出した何かを、恐れながら待ち受けている。 「加蓮」  目の前にありながらその存在を確かめるように、奏が呼びかける。応えた加蓮をもう一度見つめ直して、奏は花束をそっとテーブルに置いた。 「提案があるの」  そうして開かれた奏の手のひら、彼女に不似合いな、真っ赤なライター。  以前にここを訪れた誰かが残した、煙草の吸い殻。その隣に忘れられた、失くされた、もしくは捨てられた小さな火種。どれほどの時間を経てか知れず、底にはかすかなオイルしか残っていない。しかしそれは花束を拾い上げた奏に届き、そして、その指先に小さな火を灯した。 「……窃盗と……器物損壊? 放火、は違うか」 「……ええ」 「犯罪、だよね」  言い淀む奏を、加蓮は見つめる。 「……きっと、後には戻れない」  奏が言葉を終えるより先に、加蓮の手のひらが奏に触れた。そうしてライターを奪うと、慣れない手つきで点けた火をブーケに近づける。それは決して花束を燃やしてしまうほどの熱ではなく、しかし、花を包むリボンをどろりと溶かす。 「最初から、戻る道なんてなかったよ」  燃え滓となったリボンから、焼けた化学繊維の黒い煙が立ち昇る。その臭いに顔をしかめる、その表情を笑い合って、彼女たちは小さく頷く。 「私も、加蓮のこと愛せていたら、そう思う」 「悪い夢。全部燃やさないと」  彼女たちはそれぞれの花嫁衣装を携えて、部屋を後にする。バージンロードを遡り、踏み出した教会の外。空は厚い雲に覆われている。「いい天気ね」「誰もいないよ」。言い交わす足取りは確かで、そこに入った時より力強く敷地の裏側へ、這い回る蔦を踏み越えていく。  そうして教会裏手、地面に引かれた白線が駐車場だったと教える広いスペースで、彼女たちは立ち止まり、ドレスをそっと広げる。ライターを手にしたのは、奏。真っ赤なライターに火が点くことを確かめて、白と黒のドレスを抱きかかえた加蓮を見つめる。 「本当に……後悔しない?」 「したっていいよ。進もうよ」  頷いた、奏の指に火が灯る。ゆっくりと、ドレスに近付けられていく。 「さよなら」  ささやいた声が重なり、触れた小さな火はドレスを焦がして、黒い煙を生む。  しかし、望んだ炎が生まれることは、なかった。  目を合わせた、二人を弄ぶように火は消える。もう一度、と奏は繰り返すが、生まれるのは舞い散る火花と乾いた摩擦音。焦燥する指先、手のひらのうちで、やがて疲労を起こした金具と砥石が破断する音が響き、火花さえ、消えた。それ以上は、どれだけ重ねようと、噛み合わない金属音が二人の願いを拒むように鳴り響くでしかなかった。  疲労した金属部品。揮発したライターオイル。そして、ドレスに使用された不燃性の繊維。それらを理解するには彼女たちは幼く、受け入れるには、その想いはあまりに大きい。 「……戻る道も行く先も、ないの」  見上げた空に蓋をする、雲の黒灰色。その奥にある何かを、二人をここまで導いた何かを睨み付けて、奏が吐き出す。濁った空は、答えない。その心を慰めることはなく、傷を抉ることもなく、ただ心なく、流れている。 「……ねえ、奏」  呼びかけられ、奏は視線を引き戻す。しかし呼びかけた加蓮は、決して奏を見ようとはせず、教会を見つめている。  加蓮の視線を、奏は追った。教会の壁、剥がれ落ちた漆喰から覗く煉瓦。変わり映えのない光景。しかし、加蓮の視線、その中心にあるものを目にして、その意味は一変する。 「神様って、いるのかな」  壁に立てかけられていた、白木の十字架。どうしてそんな場所に追いやられたのか、しかし、確かにその形を保ったまま、そこにある。 「いるとしたら、悪辣ね」  応えることなく、加蓮は踏み出す。確かな足取りでそこへたどり着いて、十字架を手にする。 「提案があるんだけど」 「いいわ。あなたに乗る」 「ありがと」  そして加蓮は、十字架を地面に叩き付けた。風雨に曝され劣化していた木の十字架はいとも簡単に、鈍い音を立てて砕け折れる。 「ちょっと、スッキリしたかも」  そうして、数枚の木片が生まれた。 「まだ、これから」  そのうちの一枚を拾い上げて、奏が問いかける。加蓮は、一度だけ、目の端を強く拭った。  彼女たちは蔓を辿る。その根本、途切れたアスファルトを通り越し、積もった落葉に覆われ湿った土を木の板で掘り返す。か細い腕と、拙い手つき。柔らかな指、手のひらは見る間に傷んでいくが、躊躇はない。迷うことも、立ち止まることもない。老朽化していた白木は耐え切れず何度も折れ、それでも掘り続ける手のひらにはやがて血が滲み出すが、二人の意志は、肉体の痛みを妨げとして感じなかった。  やがて一羽の鳥が甲高く鳴き声を上げる、それを耳にして彼女たちは手を止めた。息を切らし新鮮な土の香りを浴びる二人の間に、言葉は存在しなかった。それぞれの衣装を掘り返した穴の内に置く仕草が想起させるのは、愛する人の棺に思い出の遺品を入れる瞬間、愛する人の寝床に洗いさらしの真っ白なシーツをかける瞬間、あるいは、その両方。  土を被せる。花束、アクセサリを添えて、落葉で蓋をする。そうやって、二着の花嫁衣装が世界から失われた。散りばめられた落葉は濡れた土と色濃く混ざり合い、埋められた想いを覆い隠す。新たな緑が地に広がり、いつか訪れるだろう誰も、気付くことはない。  彼女たちは、視線を重ね小さく笑う。「ひどい顔」「お互い様でしょ」「綺麗、だったわね」「綺麗だよ、私たち」。土と血に汚れた手のひらは、強く、強く重ねられている。  透明な、光が降った。
 *
 一ヶ月後、プロダクションで二着の衣装の紛失が発見された。記録上に手がかりはなく盗難の可能性は否定できなかったが、被害は軽微であるため、警察の介入を望まなかった事務所の意向によって紛失は事件として扱われることなく処理された。  奏、加蓮にはプロデューサーからの面談が行われたが、それは彼女たちを疑うものではなく心のケアを目的として���た。そのため真相にたどり着くはずもなく、発覚から二週間が経った頃には、若干の衣装管理基準の厳格化を残して、事件は人々の記憶から消え去っていた。  そして、夏。永遠に続くような、熱の季節。  電話越しの誰かと言葉を交わしながら、奏は事務所の廊下を歩いていた。涼しげに靴音を響かせる、彼女の瞳には穏やかな微笑みが浮かんでいる。  角を曲がり、面した窓にブラインドのかかった廊下、その先には加蓮の姿があった。レッスン用のスニーカーの底を小さく鳴らしながら、歳近いトレーナーと笑い合っている。  ゆっくりと、狭まる距離。  やがてすれ違う、瞬間に視線だけを重ねて、二人は互いを過ぎていく。過ぎ去って、決して振り返ることはない。加蓮が、次いで奏が角を曲がり、二人の姿はその空間から失われる。  ブラインドが濾過する、透明な光。その静かに降る、白い壁に、遠くの笑い声が反響していた。  誰も知らない。燃えることなく地に埋められた想いを、誰も、知らない。刻まれる墓標さえ持たないその名前を、二人だけが、知っている。
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 わたしを葬くる
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jitterbugs-lxh · 2 years
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渺茫(わたしを叱らないで)
 玄离というひとは、竹を割ったようなじつに単純明快の気質をしていた。叡智によって深謀遠慮のかぎりをはたし、いっそ色のない透明の視線で、人間を、妖精を、庇護しているようでも、観察しているようでもある老君のかたわらにあって、玄离の衒いのなさは、しかし無知蒙昧のさきにのみ、あったのではなかった。かれほど正しく、自らを諫め、留めた妖精は類をみない。妖精には妖精の生きかた暮らしむきがあり、必ずしも人間のそれと同じく過ごすのは叶わなくとも、少なくとも歩み寄ろうという意思が玄离にはあるからだ。もっとも多くの対話や、難解な駆け引きや、人間の興した文明、文化、妖精たるかれらの視点からみれば、ときには瞬きの間に塗り替えられてゆく縮図や地図を、詳らかに知り黙殺し、あるいは積極的に介入しながら隣人としてのふるまいをするのは主に老君の職務であるので、玄离はそれらに同席したりしなかったり、茶を喫んで紫煙を燻らし、蒸したばかりの包子に舌鼓を打ったりしながら、過ごしてきただけなのだが。何が自分の領分であり、そして、課せられた宿星の命題であるのかを、定めてなぞるのは、簡単そうにみえて実のところ困難を極める。たしかにながく生きてはいるだろう、しかし、生きているかぎりは忘れる。あれほど居たはずの妖精たちが、気づけば去っていた。明確に散じた、さもなくば誅伐されて失せたものも幾らかはいただろう。しかし、妖精たちの多くは、ひと知れず去りゆくものだった。いったい如何なる理由でかれらが去るのか、玄离には判じかねる。老君ならばその眸、推察し、思案し、ただしく去ったひとびとを奉じるなり、弔うなり出来るのかもしれなかったが、とうの老君自身に素振りはまるでない。どこからか顕れて、どこへなりと去ってゆく、時のなかに、妖精はとどまるべきではない。ましてや、人間と交わるなどと。争いが地に蔓延り、戦禍が野を燒き、堆く重なる戦死者たちのしかばねは、石を組んで積み上げられた城砦のそれのような、抑止力をけして持たない。朽ちるためか? 否であろう、武器と呼ぶにも烏滸がましい、あまりに質素にすぎる、割ってさきを削り尖らせただけの槍や、碌々手入れされることもなしに硬く破れた革の胸あて、膝をつき、脚を引き摺る輩の、とどまるけはいをみせない傷にあてるために引き裂いたとみえる、けして清潔といえない、かぎ裂きだらけの衣には、誰のものとも知れない血と、土と、草いきれとが染みこんでもとの色さえさだかではない。肌は土気、瞼は伏せられて眸は分からず、折り重なったかれらは事切れてながく、すでに魂は散じたあとだ。すこしでもよい装備や、まだ使えると思しき武器、連ねられた玉や、立場がうえになればなるだけ、繊細で豪奢になる髪紐ひとつでさえ腹の足しにはならない。太平にあっては野を耕し、汗水漬くになって懸命にはたらいたであろうひとも、わずかに裕福で、ひとを使って商いをしたひとも、医術のこころえあって転々と放浪暮らしのひとも、こうして積まれてしまっては。たしかめる気にもならなかったが、なかにはひとに紛れて暮らし、かれらに同化、同調しすぎたゆえに戦乱までもに参画した妖精のあったかもわからない。それはかれらの選択であり、玄离の選択でない、生きている土地が違うのなら、選択は違っていてしかるべきだ。もっとも、どこにいようとも同じ選択があることも、たしかではあるが。かれは単純明快の、気質ではあったが、けして考えなしの愚かな生き物ではない。玄离があまり思い悩まずにいられるのは、それら頭脳労働の多くを老君が担っているからに間違いないが、それと、かれに思考を停止させる強制力があるか否かはまったくもって無関係であるべきだった。老君とのあいだに友愛はあるが、主従はない。だれも玄离に何かを命じたり、強いることはできない。玄离自身でさえも、それは例外でないのだった。
 清凝の、うすい下瞼に、わずかに疲れの兆しがあることには気づいていた。かのじょはいささか生真面目にすぎる、というのは、清凝を弟子として迎えることを認めた老君の言だが、弟子が師に学ぶように、師父たる老君も、かのじょに多くを学ぶべきであった。いまでこそ仙として、戦乱のさなかに邑を、家を、故郷を追われたひとびとを庇護し、それでいてけしてかれらの王として顕つことなしに、君臨も支配も、自ら切り離して暮らしている老君ではあるが、実際のところのかれはそれほど勤勉ではないのだった。学識はあるだろう、��とびとに拓かれた藍溪鎮の奥の奥、書き換えられ続ける地図において、どこの国でもなければ、どこの民でもなく、此岸にあって彼岸でなく、どこでもあってどこにもない、門だけはたしかにあるが、撰ばれ許された案内のなければ、門にたどり着くさえむつかしい。一度離れたら戻ることはゆるされない、と決めたのは老君であり、この世ならぬは桃源郷、夢なれどひと晩で終わらぬばかりがやさしさであるのだろう。やさしさがなべて、ひとを救うとは限らない。高潔な精神が、��仕に身も心もくだいたところで、心無いひとびとは容易く礫を投げつけただろうし、たとえ脅かされまいと、ありとあらゆる攻撃を阻む防御の陣を敷いたとても、向けられた悪意は消えはしない。それが判らないような男ではないだろうに……、飄々としているようでいて、かれにはただ、機微というもの、こまやかに移ろいゆくものへの思慮が、ともすれば足りないのかもしれなかった。感情はままならぬもの、恋情にしろ、思慕にしろ、ただ深くこうべを垂れて、敬愛と、信仰のためにかれに跪くことができるのなら、だれも老君の顔を知らなかっただろう。微笑みをたたえ、窓のそばにはべり、片膝を立ててときには長煙管に紫煙をくゆらせていた老君の袂に、袖に、焚き染められた香の種類を、医術を学び、薬を煎じて日々の修行とする清凝が、嗅ぎ分けられないはずはない。いつからだろう、かれの衣から、紫煙のけはいがいくらか薄くなったのは。きまって遠くを見ているか、そうでなければ、綴じられた、何度繰ったか分からない書物の、玄离にはまるで理解のできない文字の羅列を追いかけているばかりのかれの眸が、近ごろはずいぶん近くにあるようだ。多くの妖精が去っていった。遠く月面にあって俯瞰したひとの世界の小ささといったら! 玄离がはじめてそれを見たのは、やはり老君に連れられて行った、いまとなっては昔のことだが。
 あのおさない少女にすぎなかった清凝を、これほど思い悩ますとは。ただ秘めていることもできた、はずだ、しかし、かのじょは告げることを選んだ。老君はこころやすく穏やかなようでいて、あれほど酷薄な男もそうはない。つとめて善いひと足らんとふるまうことに異論はないが、結果なにがもたらされてきたかは明白である。幾人もの女たち、ときには男たちも、老君に想いを寄せた。かれは応えることができない。知らぬものをただ受容し真似事でもこころみるには、かれは賢すぎ、考えすぎる。どこか見当違いの部分に、いつだって老君の興味と好奇は向いている。考えねばならない! 今度こそは。ほかならぬ清凝、たぐいまれなる才覚と���なやかな意思を持ち合わせた、希代の弟子が、その眸が、師父と仰ぎ、教えを乞いながらも、想いを口にするのなら。さしもの老君も考えた、考えた! 考えたろう。けれども、友よ、なぜおまえは考えたのか。
 「清凝、ほんとうに、おれを連れて行かないのか」
 「うん。ひとりでいきたいんだ。寂しいの? わたしがいないのが」
 「そりゃあさみしいよ、さみしいさ」
 玄离と清凝は師弟ではないし、かといって友かといえば違うような気もしている。だが、我々の間柄に果たして名まえをつけるべきだろうか? 力ある妖精のひとりであり、積極的な武力介入を良しとしない老君の、唯一の懐刀にして配下でない玄离は、この藍溪鎮にあってかぎりなく上位ではあっても、ひとり宙に浮いている。民たちの多くは老君にそうするように玄离にも敬意をはらって過ごしたが、この土地に降りかかる災厄から誰かを守ってやろうなどとはみじんも考えたことがない。ひとの手になる包子は旨い、大鍋でぐらりぐらりと炊かれた粥は旨い、玻璃になみなみと注いだ酒にうつる月は甘い。おれはおまえたちのあるじじゃあ、ない、けれども、だれも、おまえ以外のだれも、おまえのあるじになりえないのだ。知っているはず。清凝、おまえも。
 「ありがとう、狗哥。でも、行くよ。行かなくちゃ。ちゃんと勉強してね、けんかばかりはだめだよ、おいしいご飯を食べて……、」
 「清凝。」
 玄离を愛称で呼ぶのなんてかのじょくらいだ、ちいさく、おさなかった清凝。あの子はもうどこにもいない、とは、ゆめゆめ思われなかった。老君の深遠を覗いてなおもかれについていけるのは、自分かかのじょくらいだろう、と、確信をもって言える。かれの眸はいつだって遠くをみているばかりだ、月からみた地上はうつくしかろうが、はたしてあなたは月からかわいい弟子をみつけられるか? あの子が在るというだけで、世界を愛せる道理のあろうか。そんなものがかのじょの望みのはずがない。手の届く範囲だけ、簡単なこと、足並みを揃え、頭を撫で、茶と酒を注ぎあい、抱きしめて、肩を寄せて眠ればいい。それくらいの分別は、玄离にもある。
 「ひとりになるな。清凝。」
 「あはは! お父さんみたいなこと言うね!」
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tausendglueck · 2 years
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眠気 / 20220522
最近は常に眠いので、その眠気がふと途切れた隙間をついて人としての活動をしている。人としての活動、と言っても、食べること、音楽を聴くこと、たまに部屋を掃除すること、もっとたまに本を読むこと。 そしてまた眠る。食べることと眠ること、私が消滅しない最低限のこと。それだけを日々のかばんに入れ込んで過ごしている。
以前の私なら躍起になって映画館へと足を運び、躍起になって本を書き、読み、私を取り囲むあらゆるものを私の血肉にしてやろうと目を光らせていたことだろう。けれどそれを、ふと、やめてしまった今、別に私はそんなことで消滅したりしないことを思っている。消滅したりしない。そう簡単には。ただ日々のかばんからそういったものがなくなってしまって、その代わりに、眠気が、買い物をしていると子供にこっそりお菓子をカゴに入れられるように、入り込んでしまった。私に子供はいないけれど。幻の子供が私の買い物カゴに入れ込んだお菓子は誰も手をつけないままに、私は眠ってゆく。
昨日、Coccoのライブに行って随分と回復した。 もう生きられない、もう死んでしまうと嘆き続けて記憶すらも飛ばしてしまった4月が私に残していった傷が、ようやく、癒え始めたのを感じている。けれど、それも一瞬のことかもしれない。記憶が薄れるにつれて、私はまた眠気に負けて、4月の傷に負けて、目を閉じてしまうのかもしれない。映画も小説も何もいらないと首を振って、拒んだままで、6月を迎える。私の双子座はもう始まってしまった。私の誕生日はどんどん近づいてくる。誰も止めることはできない。誰も、私を31歳のままでいさせてくれない。365日を使い切れば誰もが。本当は30歳で、29歳で、28歳で、止まっていたかった。
Coccoのライブにとても満足したので今日はよく眠れるだろうと思っていたけれど、案外そうでもなくて、またいつものように細切れに眠って、起きた。洗濯をするために起きて、また少し眠って、遅い朝食をとって、また昼まで眠って、ようやく昼を過ぎて目が覚めて、喫茶店へ向かう。喫茶店は混んでいた。Macbookを開き、3月に書きかけて手をつけられないでいた二次創作の小説ファイルを2ヶ月ぶりに開く。米津���師の「感電」だけを何度も聴く。 気候が安定しない。昨日、あんなに風が強くて寒かったのに、今日はじっとしていても汗が滲む。初夏の日差し。袖のないワンピースを着た女が彼氏と手を繋いで横断歩道の赤信号に立ち止まっている。
5月が、もう終わろうとしている。あと1週間と少しをすれば、私は6月を迎えてしまう。会社の玄関近くに植えられた紫陽花が咲き始める季節が来る。 思えば5月はよく人に会った。今日、久しぶりに予定のない日を過ごしたのだということに今になって思い至る。さっき、川上弘美の『真鶴』を読み終えた。随分時間がかかってしまった。以前の私なら数日で読み終えていただろうに。
32歳になるまで2週間を切った。私はそれでも眠るだろうか。 眠るだろう。意識がほんの少し覚醒する隙間で、この命を消費する。無為であるならそれでもいい。今の私は、生きているだけで、いいのだ。きっと。ほんの少しの幸せを願いながら、それでも、生きているだけで、いいのだ。
生き急ぐことはない 誰も等しく 最期は訪れ いずれ眠れよう
Cocco 「真白の帆」
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eidolon1087 · 6 years
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紅蓮 01 (百鬼夜行/佐櫻)
紅蓮     ぐれん
     柔紅的燭光之中,雪白的花瓣渲染了血紅色,指尖鬆開,一片片飄落。
  一名焰紅色髮的男人喘息著,俊秀白皙的容顏抬起,好似少年那般,汗涔微濕,他倚坐於床緣,裸身的肌膚紋以「蠍」字的刺青,纏繞著繃帶,滲出了血痕。
  土蜘蛛一族,赤砂蠍,琥珀色眼眸半掩,傀儡散落於身旁,空洞的眼神與他對視。
 這裡,是京都,鞍馬山,百鬼夜行。
  唇から唇へと伝い……
從唇間傳遞的……
  修長指尖抬起,溫柔的,撫觸於少女的唇瓣,以指緣輕輕浮掠,沾染了微香。
  その温もりは何処へ?
那份溫情將去往何處?
  一名粉緋色髮的少女仰躺著,絕美白皙的容顏渲染了紙障子的光影,眼簾半掩,她穿著純白的振袖和服,衣帶散落,光裸的身體偎身於床褥,脫下白色長襪。
  凌亂的衣衫之下,雪白的頸線留著吻痕,體溫、指印,肌膚與肌膚的摩擦。
  雪女,春野櫻,澄澈的翠綠色眼眸抬起,以指尖抵著唇緣,噓。
  手折られぬ花,色は匂へど。
無法折取的花朵,色香卻近於咫尺。
  一名深藍色髮的少年走入簷廊之中,冷峻白皙的容顏沉然著,好看的薄唇輕抿,他穿著立領的火扇家紋和服,刀刃與寬帶繫於腰間,銀色、藍色的衣袂翻飛。
  天狗,宇智波佐助,幽深的玄黑色眼眸抬起,看著灰色的天空,微微的一凜。
  嘘を抱いた華。
擁抱著謊言的花朵。
  蠍伸出手,穿戴著「玉」字銀戒的指尖撫觸於櫻的側顏,深陷其中,不願清醒。
  触れてだけど……
可以碰觸......
  粉緋色髮絲之下,絕美白皙的容顏渲染了柔和的光影,澄澈的翠綠色眼眸抬起,她倚坐於簷廊的座敷布,雪白振袖和服半掩著修長的雙腳,以指尖交疊於裙瓣。
  蠍傾身,俊秀白皙的容顏欺近了櫻,修長指尖滑落於她的長睫、唇緣,以及鎖骨。
  汚さないで。
卻無法玷污。
  唔、蠍咬牙,收手,琥珀色眼眸一凜,凍傷的指尖顫抖著,碎裂的冰霜散落。
  「如果你背叛了佐助,我會破壞你。」
 雪女,櫻輕聲說,澄澈的翠綠色眼眸與蠍對視,眼神是如此的凜然。
  甘い花になる,毒の実にもなる。
亦可為芳華,抑或為毒果。
  「……哼。」
 蠍不語,深邃的琥珀色眼眸半掩,以唇緣含著凍傷的指尖,嘴角,傲然的哂笑。
  他伸出手,不容推卻的,以雙手緊握著櫻的雪白手腕,將她推落於簷廊的地板,兩人掙扎著,穿著黑色襯衫的男人、與純白振袖和服的少女,交纏了身影。
  唔、櫻不自覺屏息,白色和服的裙瓣之下,修長的雙腳顫抖著,感受著他的撫觸。
  業の花,色は匂へど。
罪惡之花,色香卻近於咫尺。
  「百鬼夜行之中,我唯一有興趣的人......」
 蠍輕聲說,深邃的琥珀色眼眸與櫻對視,以指尖滑落於她的唇瓣,漾笑。
 「......只有妳,小姑娘。」
  他半閉著一隻眼,修長指尖抬起,以少女唇緣的微香撫觸了自己的薄唇,噓。
  月灯り��揺らめいてた,悲しげなその横顔。
被月光照映的悲傷臉龐。
  斬首的刀刃落下,白蓮花濺染了鮮血,一片片凋零。
  蠍沉默著,俊朗白皙的容顏抬起,深邃的琥珀色眼眸望著一池的紅蓮,眼簾半掩,他悵然的困坐於和室,咬牙,紙帳子交錯的光影好似牢籠那般,禁錮著男人。
  一只傀儡懸吊著,木紋的臉容削製了美麗少女的輪廓,空洞的眼眸看著他。
  何にも言わないで,ただこうして。
不要說話,沉默著就好。
  「……櫻。」
 佐助輕聲說,伸出手,穿著立領和服的背影站在櫻的身後,一手環抱於她的頸項,深藍色髮絲之下,俊俏白皙的容顏半掩著,閉眸,薄唇吻落了雪白的肌膚。
  「我,對妳……」
 低沉嗓音於耳緣呢喃了幾個字,纏綿的體溫,呼吸聲、熱氣,淹沒了思緒。
  櫻屏息著,絕美白皙的容顏渲染了羞怯的紅暈,翠綠色眼眸無聲顫動。
  幻なら幻を愛して。
如果是幻影,我願與幻影相戀。
  蠍伸出手,俊朗白皙的容顏抬起,以雙手撫觸於傀儡的側顏,閉眸,輕輕的一吻。
    *
    見晴之丘(みはらしの丘)。
  蔚藍色的天空之下,粉蝶花綻放著,天藍的花朵搖曳於山坡,揚羽蝶吻落了花顏,漸層的粉藍、淡紫藍色,450萬朵的琉璃唐草好似一首唯美的俳句,如夢似幻。
  一名粉緋色髮的少女走入花海中,卯月的柔風吹開了白色連帽,櫻髮飛舞。
  絕美白皙的容顏渲染了天空的光影,澄澈的翠綠色眼眸望著粉蝶花,眼簾半掩,她穿著立領的雪白斗篷,修長的雙腳飾以白色膝上襪,少女,與淡藍花海。
  雪女,春野櫻微笑著,以指尖將髮絲順至耳後,回眸,與少年的黑瞳對視。
  「佐助,粉蝶花又名為琉璃唐草哦。」
 她笑了,穿著純白振袖和服的背影欠身,以指尖撫觸於粉藍色的花朵。
 「平安時代的和歌,花瓣似若琉璃,葉如唐草。」
  「......是嗎。」
 一名深藍色髮少年輕聲說,幽深的玄黑色眼眸與櫻對視,眼神是如此的柔和。
  俊俏白皙的容顏抬起,蔚藍天空之下勾勒了好看的側顏剪影,深藍色髮絲飛舞著,他穿著立領的羽織和服,左身是銀白、右身是舛藍,寬帶繫於腰間,懸以刀刃。
  百鬼夜行之首領,天狗,宇智波佐助。
  天空之中,一只白色骨架的鯨魚泅沉於真晝的雲朵,甩動著尾鰭,舒緩的徜徉。
  牠悠游於花海,空洞眼眸望著見晴之丘,骨板與骨板碰撞,咿呀著骨頭的摩擦聲,空中,巨大的尾鰭揚起又落下,白色骨架的身體在地面映照了流動的影子。
  「那是……?」
 櫻輕聲說,翠綠色眼眸看著天空的鯨魚,無語顫動。
  「化鯨(ばけくじら)。」
 佐助回憶著與哥哥,鼬,以前在陰陽師的書卷中,所看見的妖怪。
 「牠的外觀是一隻只有白色骨架的鯨魚,又稱為骨鯨,性情溫和,不會獵殺人類,但是人類只要看見了化鯨,就會為村莊帶來飢荒、瘟疫和火災。」
  「牠是和水月一樣的妖怪?」
 櫻看著佐助的側顏,百鬼夜行之中,鬼燈水月是襲擊船隻的海中妖怪,磯龍捲。
  「化鯨是出雲的妖怪,漁民大量捕鯨,鯨魚幻化為妖,為人類帶來了怨恨與不幸。」
 他淡然的否認,穿著銀白與藍色和服的背影走入粉蝶花海,衣帶飛舞著。
  化鯨,柔和的旋身,以鰭翼浮掠於天空的雲彩,白色骨架的身體靠近了少年。
  佐助伸出手,修長指尖撫觸於化鯨的頭部,黑瞳與空洞的眼眸對視。
  「如此溫柔、無辜的妖怪,也要背負著怨恨與詛咒嗎……」
 櫻注視著化鯨,澄澈的翠綠色眼眸歛下目光,有些失落的低語。
  「百鬼夜行所有的妖怪都背負著詛咒、怨恨與不幸。」
 低沉嗓音輕聲說,眼簾半掩。
  「青燈鬼,祭,是沒有情感的孤兒,從小被迫與他視為兄長的存在,自相殘殺,他的哥哥死去之後,祭不願離去,孤獨的化為妖怪,守護著黃泉的入口。」
  「犬神,犬塚牙,是人類將狗埋在土中,只露出狗的頭部,將食物放在牠的面前,讓牠感受著飢餓與痛苦,再將狗頭一刀斬下,所化成的妖怪。」
  「白藏主,日向寧次,日向一族分家的天才,父親卻被日向宗家陷害,犧牲赴死,他背負著宗家在額間施以的詛咒封印,自刎於伏見稻荷神社,化為白狐。」
  雪女,櫻回憶著,我也是、被囚禁於咒符的桎梏之中,忍受著孤獨,背負了不幸……
  「百鬼夜行的妖怪,生於暗花、亡於光明。」
 佐助輕聲說,深藍色髮絲飛舞著,俊俏白皙的側顏渲染了天空的光影。
 「我,因為大天狗一族的詛咒,從人類成為了天狗,然而,妖怪並非是不幸的,我們只是於彼岸、逢魔之時,以不一樣的身分活下去,找尋著自己的歸屬。」
  ……….。
 櫻沉默著,翠綠色眼眸映照了佐助的側顏,無聲顫動。
  「佐助,對你來說,百鬼夜行是什麼呢?」
 她走近了他,穿著雪白斗篷、與銀藍色立領和服的背影,柔和的隱沒於粉蝶花海。
  百鬼夜行之首領,宇智波佐助,幽深的玄黑色眼眸歛下目光,眼神是如此隱晦。
  「……家人。」
 深藍色髮絲飛舞於風中,俊俏白皙的容顏勾起了一抹好看的淡笑。
  櫻不語,絕美白皙的容顏放緩了神色,溫柔的笑了,黑瞳、與綠眸,深深對視。
    *
    姬路城。
  日本,兵庫縣,天守閣映照了天空的光影,白色的城牆與瓦簷好似展翅的白鷺,櫻門橋之下,和船浮沉於護城河中,千姬牡丹園的花朵綻放著,揚羽蝶飛舞。
  和室,一名金髮女人斜倚於榻榻米,以朱唇含著煙管,吹出了白霧。
  成熟白皙的容顏抬起,琥珀色眼眸看著兩人,長睫半掩,金髮於身後紮成兩束,她穿著常磐色的羽織外褂,寫著「賭」字,以及微露了胸口的白茶色振袖和服。
  刑部姬,千手綱手。
  「我來聽取一年一次的預言。」
 佐助輕聲說,俊俏白皙的容顏斂起了神色,幽深的玄黑色眼眸與綱手對視。
  好漂亮的女人……
 櫻倚坐於佐助的身旁,澄澈的翠綠色眼眸看著綱手,無聲顫動。
  刑部姬(おさかべひめ),隱居於姬路城的妖怪,擁有治癒的能力與800名隨從,她與百鬼夜行之首領一年會面一次,預言未來的命運,真身是年老的狐妖。
  「……一年的時間過得真快呢。」
 綱手傾身,渾厚的嗓音輕聲說,一手托著雪白側顏,放下煙管,敲了敲煙灰。
 「你惹了不少麻煩吧,真是亂來,眼睛也差點拿不回來了。」
  ……….。
 佐助沉默著,面無表情,深藍色髮之下,冷峻白皙的容顏別開了視線,有些倔強。
  「……你啊,可是被愛著的呢。」
 綱手低語著,漾笑,以唇緣含著煙管,拿起了白色的清酒壺,傾入酒杯。
 「只要有無法忘卻的回憶,人就會變得堅強,這就是成長。」
  唔、櫻羞紅了臉,穿著雪白振袖和服的背影顫了一下。被看出來了嗎……?
  「天狗,宇智波佐助,以下是你的預言。」
 刑部姬,綱手,琥珀色眼眸半掩著,以朱唇啜了一口清酒。
 「紅蓮的業火,燃燒了一切,虛偽之愛的結局必然是別離,櫻花綻放於雪下凜冬,烏鴉飛散,破碎的狩衣與紫荊花,雷神、風神,是無法斬斷的命運之絆。」
  佐助不語,俊俏白皙的容顏沉然著,幽深的玄黑色眼眸一凜,與綱手對視。
  虛偽之愛……?
 櫻思忖著,粉緋色髮絲之下,絕美白皙的容顏抬起,澄澈的翠綠色眼眸望著佐助。
  「我的預言可不是免費的。」
 綱手漾笑,雪白容顏渲染了微醺的紅暈,放下酒杯,掩嘴,打了一個酒嗝。
 「那麼,你願意付出多少代價,買下這個預言呢?」
  「如果妳贏了……」
 佐助輕聲說,俊俏白皙的容顏是如此平靜,閉眸,深藍色髮絲飛舞於風中。
 「五千萬龍銀。」
  ……誒?
 櫻怔忡著,可愛白皙的容顏眨了眨眼,說不出話來。五、五千萬龍銀……?
  龍銀,是妖怪的貨幣,幣面以龍為肖像,流通於百鬼夜行的黑市之中,價值不斐。
  「靜音,拿骰子來。」
 綱手下令,穿著「賭」字羽織外褂的背影映照於紙帳子,爽朗的笑了。
 「你還是一樣賭黑色骰子吧?」
  靜音走入了和室,一手抱著小豬,豚豚,另一手拿著賭具,欠身,放置於桌緣。
  「等、等一下,佐助。」
 櫻傾身,絕美白皙的容顏依靠於佐助的肩膀,一手抱著他,有些擔憂的輕聲說。
 「我們,真的有那麼多錢嗎……?」
  「櫻,不要擔心。」
 佐助低語著,幽深的玄黑色眼眸歛下目光,看著黑色與白色的骰子。
  「骰子6面,點數最大是12、最小是2,點數大者獲勝。」
 綱手拿起了骰盅,放入黑色與白色的骰子各2顆,蓋上、甩動著,發出清脆聲響。
  櫻屏息著,澄澈的翠綠色眼眸望著骰盅,黑色骰子是佐助、白色是綱手大人......
  綱手自信漾笑,俐落的開蓋,黑色骰子12點、白色骰子3點。
  「……因為,刑部姬,逢賭必輸。」
 佐助淡然的輕聲說,閉眸,嘴角是一抹好看的淡笑。
  唔、綱手咬著唇緣,綱手大人又輸了,靜音低聲說,捂著臉,豚豚發出了哀鳴聲。
  傳說中的肥羊嗎……
 櫻忍不住失笑,絕美白皙的容顏微笑著,以白色的振袖半掩於嘴緣。
    *
    鞍馬山。
  幽微的竹林之中,神社的參道 春日燈籠的光影錯落於生苔的石階,螢火飛散,本宮,祭祀著高龗神,水占卜的籤詩浮沉於御神池,貴船川的水燈映照了微光。
  這裡,是貴船神社,京都的紅葉名所之一,擁有著水與結緣的傳說。
  「啊、是神社呢。」
 櫻笑了,雪白連帽的身影佇立於石階,閉眸,雙手合十。
  「我們是妖怪,神明不會聽見妳的願望。」
 佐助走入了竹林中,穿著銀白與藍色立領的和服繫以寬帶,左袖是火扇家紋。
  「誒?」
 櫻輕聲說,澄澈的翠綠色眼眸望著佐助,以指尖撫觸於額間,百毫的契約之印。
 「可是,木花咲耶姬大人就聽見了我的願望哦?」
  佐助沉默著,深藍色髮絲之下,俊俏白皙的容顏漾起了一抹好看的淡笑。
  「......因為妳擁有那位神明認可的力量。」
 他回眸,低沉嗓音輕聲說,深邃的黑瞳與綠眸對視,眼簾半掩。
  唔、櫻羞紅了臉,雪白帽緣之下,可愛白皙的容顏渲染著紅暈,困窘的歛下目光。
  竹林之中,一名年輕的樵夫捂著臉,放下斧頭,穿著���務衣的身影跌坐了下來。
  ……乾渴的感覺。
 他喘息著,嚥了一下口水,指縫之間,渙散的眼神是如此疲倦,無法集中目光。
  這幾天,喉嚨、似乎被緊扼著,好想吃味噌、好想吃味噌、好想吃味噌……
  年輕的樵夫聽見了樹枝斷裂的聲響,失神的抬眸。
  貴船神社的石階下,一名深藍色髮少年、一名粉緋色髮少女,走入了竹林。
  那是……?
 他跌坐於竹林中,蒼白的唇瓣吐著氣息,作務衣濡濕了汗水,黑瞳望著他們。
  「佐助,那個人,好像看得見我們?」
 櫻輕聲說,澄澈的翠綠色眼眸一凜,以雪白的振袖半掩於側顏。
  「此岸的人類可以看見妖怪。」
 佐助走出了竹林,銀白與藍色的立領和服飛舞著,寬帶懸以刀刃。
 「我們沒有隱藏妖氣,所以他看得到,只是很快就會忘記,因為我們不屬於此岸。」
  兩人步上了石橋,烏鴉���叫於黃昏的天空,赤紅的欄杆錯落著光影,水紋粼粼。
  半藏門。
  夕染暮色的天空之下,一道幽深的城門掩藏於竹林,瓦簷與白色圍牆映照著燈火,庭院,小妖怪、付喪神拿起了酒杯,笑鬧著,紫藤花綻放,紙燈籠搖曳於風中。
  城門開啟,簷廊一瞬的燃起了鬼火,青藍色的光影,一閃一滅。
  這裡,是鞍馬山之百鬼夜行。
  「佐助,下次、我也可以和你一起出去嗎?」
 櫻羞怯的輕聲說,可愛白皙的容顏渲染了淡淡的紅暈,綠眸與黑瞳對視。
  ……….。
 他沉默著,深藍色髮絲之下,俊俏白皙的容顏放緩了神色,眼神是如此的隱晦。
  「櫻,我們……」
 佐助伸出手,修長指尖撫觸於她的側顏,以指緣滑落了柔軟的粉緋色髮絲。
  澄澈的翠綠色眼眸與黑瞳對視,羞紅了臉,無聲的顫動。
  下一秒,桃弓的箭矢穿射了雪白振袖和服,破碎的衣服飛散。
  唔、櫻回眸,駭然的屏息,純白的連帽長袍外衣被弓矢撕裂,濺染了血紅。
  佐助沉然著,幽深的玄黑色眼眸一凜,欠身,以雙手抱起了身旁的櫻,躲開箭矢,深藍色髮絲飛舞於風中,他俐落的空翻,火扇家紋的和服剪影映照於紙帳子。
  夕曛的天空之下,城門的木屑、泥塵,以及破碎的花瓣,隱沒了黃昏的光影。
  石橋,幾名穿著盔甲的女人拉緊了弓弦,看不清面貌,額間的五芒星咒符飛舞著,她們的身旁,一只巨大的黑狼齜牙著血口,唾沫滴落,兇狂的金眸望著獵物。
  一名男人穿著大正時代的軍裝,額間的紙符寫著「封」字,掩去了容顏。
  「……式神?」
 櫻顫然的低語,絕美白皙的容顏緊靠於佐助的肩膀,以雙手環抱著他的頸項。
  「武曲、貪狼……」
 佐助抱著櫻,冷峻白皙的容顏斂起了神色,幽深的玄黑色眼眸一凜。
 「……還有,破軍,陰陽師的基礎式神,以靈力注入於紙人形,事先下達指令。」
  基礎式神,所有的陰陽師都能注入靈力發動,執行施術者的命令,沒有自我意識。
  「可是、結界……」
 櫻輕聲說,澄澈的翠綠色眼眸抬起,看著佐助的側顏,有些擔憂的抱緊了他。
  ..........。
 佐助沉默著,俊俏白皙的容顏與她對視,好看的眉宇輕蹙,似乎在思忖著什麼。
  鞍馬山之百鬼夜行的結界,只有妖怪才能進入,陰陽師、式神都無法破壞。
  「妳可以治療自己的傷嗎?」
 他低聲說,幽深的玄黑色眼眸歛下目光,看著雪白的手臂割出了幾道血痕。
  「……嗯。」
 櫻微笑著,翠綠色眼眸與黑瞳對視,眼神是如此的柔和,以雙手環抱了他的頸項。
 「佐助,我沒事,可以放我下來了。」
  武曲,穿著盔甲的女人拉緊了桃弓,箭矢的光芒映照於五芒星咒符半掩的側顏。
  「我來對付貪狼、武曲。」
 雪女,春野櫻輕聲說,澄澈的翠綠色眼眸抬起,目光一凜,扯開了破碎的左袖。
  粉緋色髮絲之下,絕美白皙的容顏渲染了黃昏的光影,雪白的振袖和服飛舞著,她以指尖氤氳著淡綠色的光芒,治療於箭矢割裂的傷口,細膩的肌膚逐漸癒合。
  ……….。
 哼、佐助不語,幽深的玄黑色眼眸幻化了三勾玉的血紅,自信漾笑。
  一名年輕的男人佇立於黃昏的天空下,刀刃出鞘,額間的咒符飄動。
  他穿著大正時代的軍裝,軍帽、黔黑色排釦的軍服懸以五芒星的徽章,繫著刀刃,俊朗白皙的容顏半掩於紙符之下,寫著「封」字,蒼白的唇瓣微抿著,面無表情。
  破軍,是最高等級的基礎式神,陰陽師試驗的最後一個項目,擁有強大的戰鬥力。
  「召喚出來了……」
 回憶之中,深藍色髮的小男孩屏息著,黑瞳與式神對視,無聲顫動。
  陰陽師的陣式中,紙人形的咒符飛散,綻放了光芒。
  一名穿著大正時代軍服的小式神走出結界,額間的咒符寫著「封」,掩去了容貌,他以雙手拿著過長的刀刃,稚氣白皙的容顏有些羞怯,斜戴以軍帽,抿著嘴。
  「……是破軍呢。」
 小小的破軍,一名黑髮的男人忍著笑意,伸出手,以指尖撫觸於弟弟的髮絲。
 「佐助也可以成為陰陽師了。」
  陰陽師,宇智波鼬輕聲說,柔和的笑了。
  ……哥哥。
 天狗,宇智波佐助沉默著,閉眸,深藍色髮絲飛舞於風中,薄唇微抿。
  「因為有羈絆,所以才會痛苦。」
 低沉嗓音輕聲說,長睫半掩,凝視著自己的手心。
  「我已經閉上了雙眼,存活於黑暗之中,人類的身分、以及成為陰陽師的夢想,我都捨棄了,你是我過去的回憶,你是我再也不會實現的夢,被迫清醒。」
  佐助反手,以指尖撫觸於草薙劍的切羽,出鞘,刀刃於風中劃出了俐落的弧度。
  「……破軍,我會親手斬斷你。」
 他伸出手,以刀鋒指著式神,寫輪眼的三勾玉幻化了萬日輪,目光一凜。
  破軍,額間的咒符飛舞著,淚水濡濕了「封」字的紙符,滑落於蒼白的側顏。
          _To be continued.
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miterainc · 2 years
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t82475 · 3 years
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サオリのアルバイト
[プロローグ] 今でこそイリュージョンマジックで働く私だけど、子供の頃からイリュージョンに詳しかった訳ではない。 たまたま見つけたアルバイト先が店内のステージでイリュージョンショーをやっているカフェ&バーだった。 テレビでしか知らなかったイリュージョンを初めて目の前で見て、私はとても興味を持った。 私もやってみたいとお願いしてみたら、お店のオーナーが1回だけとショーに出させてくれた。 それは私が高校3年生のときだった。 [Scene.01] 1-1. ざわざわしていたフロアが静かになった。始まった! 私は小さな檻の仕掛けの中にうずくまっている。 まさか自分がイリュージョンショーに出るなんて。 薄いレオタードのような衣装。タイツを着けているから肌の露出は少ないけれど、ボディラインくっきりで恥ずかしい。 実際、ガッチーには「ええ尻してるやないか~」って冷やされたし。 でも仕掛けに入って待っているのは嫌じゃなかった。 だって何もないところに女の子が出現するんだよ? その女の子が私なんだもん。ちょっとドキドキするに決まってるじゃない。 私の隠れた檻がステージに引き出された。 ジローさんは檻が空であることを示してから、その中にトーチで火を点けた。 檻の中で燃え上がる炎。キヨミさんが檻の上から紫の大布をかけた。 今だっ。私は仕切り板を倒して檻の中に身を伸ばす。 ほとんど同時に大布が取り払われた。 檻の中で手を振る私。 ジローさんとキヨミさんが扉を開けて私を外に出してくれた。 二人に手を取られてお辞儀する。・・拍手。 ジローさんは黒のタキシードに白手袋。 もう40をずっと超えてるらしいけど、背の高い体にしなやかな物腰はさすがにプロのマジシャンだと思う。 キヨミさんはアシスタント。私と同じレオタードとタイツを着ていて、ポニーテールの髪が可愛らしい。 すぐに照明が変わって、キヨミさんが次のイリュージョンを出して来た。 次の演目はジローさんとキヨミさんのトランクを使ったメタモだ。 私は入れ替わるように檻を押してステージの袖に引っ込む。 振り返るとバーカウンターの向こうに立つリツコさんとガッチーが揃って親指を立ててくれた。 ええへ、やったっ。初めてのイリュージョン! 誰にでもできる出現ネタを一つやっただけなのにとても嬉しかった。 袖の陰に隠れると、両手で自分の胸を押さえた。 はあ~っ。どくん、どくん・・。 心臓が今までにないくらいに激しく熱く鳴っていた。 胸だけじゃない。下半身も熱かった。 指先でそっとレオタードの前を押さえた。 あ、ふぅ。 1-2. マジックカフェ&バー『U's(うっす)』では、毎週土曜の夜にショーをやっている。 お店のオーナーでプロマジシャンの内海次郎(ジロー)さんによる本格的なイリュージョンが売りだ。 清美(キヨミ)さんはジローさん専属のアシスタント。 律子(リツコ)さんはジローさんの奥さん。 リツコさんも元マジシャン兼ジローさんのアシスタント。今は引退して、仕事で留守がちのジローさんに代わってお店を守るママだ。 私、伊吹彩央里(サオリ)は18才の高校生。ウェイトレスのアルバイトに入ってまだ1ケ月だった。 毎週やっているジローさんとキヨミさんのイリュージョンを見てときめいてしまった。 美女が空中に浮かんだり、瞬間移動したり、箱の中に出現したり消失したり。なんて不思議で華やかな世界だろう。 ・・私もやってみたい。 ダメ元でジローさんに頼んだらいきなり出演させてくれた。 出番が終わっても、私は幕の陰でずっと前を押さえていた。 どうしてこんな気分になるんだろう? 「こんなとこでデレてたんか、サオリちゃん」 「きゃ! ガッチーさん、いつの間にっ」 「ママが早よ戻ってこい言うてるで」 「あ、すみませんっ」 そうそう、このお兄さんの紹介を忘れてた。 ガッチーは U's のマスター兼バーテンをしている人。歳は25くらいかな? コテコテの関西弁を改めようとしないのは関西人のプライドなんだって。 「イリュージョンに出れてよかったみたいやな、サオリちゃん」 「えへへ、嬉しいです」 「ふぅん」「何ですか、人の顔じろじろ見て」 「いや、色っぽい顔してるなぁ、と。まるで男とエッチした後みたいや」 「ガ、ガッチーさん!!」 「あ、もしかしてまだ処女やったか? ごめんごめん」 図星だよっ。バージンで悪かったわね! 「あのですね、女の子にそんなこと言ったらセクハラって言うんですよっ」 「わははは」 1-3. お店が閉まってからジローさんとリツコさんに呼ばれた。 「来週も出ない?」 「えっ、いいんですか!?」 「実はキヨミちゃんが家庭の事情で辞めることになったんだ。事務所の方で新しいアシを探してるんだけど、いい子がいなくてね」 「そしたらガッチーくんがサオリちゃんには適性があるって言ってくれたの。バイト代も上乗せするけど、どうかしら?」 「やりたいですっ。でも私、ファイヤー・ケージしかできないんですけど」 「大丈夫だよ。しばらくウチのカミさんがメインでアシするし、サオリちゃんは少しずつレパートリーを増やしてくれたらいい」 何だろう、このラッキー。 私はジローさんのショーに毎週出ることになった。 フロアに戻るとガッチーがモップで床を掃除していた。 「おー、サオリちゃん。ジローさんに呼ばれたんやろ?」 「はいっ。ガッチーさんのお陰でアシスタントさせてもらうことになりました!」 「よかったやないか」 「どうして推薦してくれたんですか? 私、今日初めてイリュージョンやったところなのに」 「オレには才能を見る目があるんやで。と、いうのはウソで」「?」 「サオリちゃん、さっき檻から出た後エロい顔してたやろ? あれ、可愛かったからまた見たい思てな」 「・・」 「怒らせた?」 「当たり前ですっ。もうエロい顔なんか絶対しません!」 「わはは、やっぱりエッチな気分になってたんやな」「う」 「ええねんええねん、女の子はエロいも大切や。オレは応援するで。サオリちゃんが一人前のアシになるまで」 ガッチーはそう言うと、右手を私に差し出した。 その手がひらりと翻る。 次の瞬間、赤いバラが一輪握られていた。 「ほい」 「わあっ、ガッチーさんもマジックする人だったんですか?」 「いや、オレはただの雇われマスターや。これはサオリちゃんへのプレゼント。造花やけどな」 ガッチーへの好感度が急上昇した。 花1本で釣られるなんて我ながらチョロい女だと思うけど。 1-4. こうして私はリツコさんと一緒にショーに出るようになった。 今までリツコさんが担当していたステージの照明と音響操作はガッチーが代わりにやってくれることになった。 イリュージョンのアシスタントをすると、どうしてもエッチな気分になってしまうのは変わらない。 それでもいろいろ経験すると自分の性癖が分かってきた。 どうやら私は小さな箱に入ったり布やマスクを被って隠されることに感じるみたいだ。 真っ暗な仕掛けの中で身を潜めていると、自分がタネの一部になっているのを実感して興奮した。 ガッチーは明らかにそんな私に気付いていた。 いつもニヤニヤ笑って見ていたけど、それで私を冷やかすことはなかった。 [Scene.02] 2-1. その日の衣装は和風だった。 ジローさんはラメの入った紫の着物に金の袴。 リツコさんと私は、紺色のズボンのような袴と、緋色の膝丈マント。顔には狐のお面。 ド派手なマジシャンと顔を隠した謎めいたアシスタント。悪くない。 ��題はマントだった。 チョーカーみたいに首で留めるだけで、前が開いていた。 マントの下にはストラップレスの黒いブラを1枚着けるだけ。 これじゃあ、普通に歩くだけでお腹が見えちゃう。肘を広げたらブラまで全開。 私、自分の身体に自信なんてない。 「これを着るんですか!?」 「セクシーなのは初めてだっけ? でもアシスタントならこれくらい堂々と着るものよ。お客さんに楽しんでもらわなきゃ♥」 同じ衣装のリツコさんは、自分でマントの前を開くと腰に手を当てるポーズを取って笑った。 リツコさん、おっぱい大きいー。 ショーの段取りは、まずジローさんが大きな羅紗(らしゃ)の布を広げ、その後ろからリツコさんが登場する。 二人で和傘を何本も出すマジック。 その後ヒンズーバスケットのイリュージョン。 まずリツコさんがバスケットに入ってサーベルを刺される。サーベルを抜いてリツコさんが生還した後、同じバスケットから私が現れる。 つまり私は最初からバスケットの中に入っていて登場することになる。 ヒンズーの次はジローさんの扇子マニピュレーション、それからリツコさんが入るキューブザク。 最後に私が空中に浮かんで消えるアシュラ・レビテーションをやってフィナーレ。 「そろそろ開演やで。行けるか?」「ガッチーさん、カウンター離れていいんですか!?」 「かまへん。今はリツコはんが常連の相手してる」 そっとフロアを覗くと、リツコさんがあの衣装のまま、お面だけ外してお客様と談笑していた。 口に手を当てて笑うたびに胸の谷間がちらちら見えた。 「大胆ですよね、リツコさんって」 「あの人、巨乳やろ」「はい」 「おっぱいでジローさん捕まえたっていつも自慢してるで。ダンナはおっぱい星人なのよって」 「あはは、本当ですかー」 「よっしゃ。笑ろたな、サオリちゃん」 「え? 私を笑わせるために?」 「ほれ、ヒンズーに入るんやろ?」 2-2. ショーが始まった。 私はバスケットの中に丸くなって待機している。 黒い布に覆われているのでバスケットの中は真っ暗だった。 狐のお面をつけたままだから息も少し苦しい。 次に外に出れるのは、リツコさんと一緒にサーベルを刺されて、リツコさんが出て、その後。 ちょっと、長い。 ドキ、ドキ、ドキ。 ぐらり。バスケットがステージに運ばれた。 黒布が取り払われて、リツコさんの足が入って来た。 そのままリツコさんは身を屈め、私たちは密着する。 バスケットに蓋が被せられた。ドキ、ドキ。 1本目のサーベルが刺された。 決めた通りの穴に、決めた通りの方向。 私とリツコさんは精一杯身を寄せてそのコースを避ける。 ドキ、ドキ。 2本目、3本目。 目の前5センチの空間を銀色のサーベルが突き抜ける。 「はぁ・・」リツコさんが小さく呻いた。 耳元ですごく色っぽい声。そんな声聞かされたら、私。 4本目、5本目、6本目。 狭い空間が突き抜けたサーベルで埋まる。 逃げ場のないバスケットの中で全身を絡め取られた女二人。 きゅん。 あぁ、駄目だ。私、もうエッチになってる。 一人だったらまだ平気なのに、二人で一緒に刺されたらこんなに感じるなんて。 7本目。 サーベルが蓋の中央から真下に向けて突き刺された。 ああ、心臓が止まりそう。 バスケットの中が明るくなった。 蓋が外されたんだ。 リツコさんが私の肩をとんとんと叩いて出て行った。拍手が聞こえる。 黒布が被せられてもう一度真っ暗になる。 バスケットごとぐるぐる回された。蓋が開く。 あ、立たなくちゃ・・。 私は明るいライトの中に立ち上がると、両手を広げてポーズをとった。 身体中が熱い。 お腹がすーすーした。とろんとした目で下を見ると自分の胸とおへそが見えた。 いけない! 勢いよく両手を広げものだから、マントが完全に開いていた。黒ブラ1枚のカラダ、丸出し。 慌てて身をすくめたら顔のお面がぴょんと外れて落ちた。 ぎゃー。 客席がどっと受けた。 ジローさんが苦笑いしている。 リツコさんも笑いながら床に落ちたお面を拾って「ドンマイ」って言いながら渡してくれた。 2-3. ショーの残り半分はへろへろになってこなした。 カラダを見せたことよりも、顔を見せたことの方が恥ずかしかった。 狭いバスケットの中でリツコさんと一緒にサーベルを突き刺されたのは強烈だった。 自分にマゾの気があるのは自覚していたけど、こんなに感じるなんて。 エロエロに感じた顔を、私はそのまま晒しちゃったんだ。 ガッチーに何で言われるだろう。 「・・こっちっ、サオリちゃん!!」ジローさんが呼んだ。 細長い台の上に広げられた黒布。 そうだ、アシュラ! ぼうっとしてちゃいけない。 私は黒布の上に仰向けになった。 その黒布をリツコさんが私の身体に巻き付けた。頭の上から爪先まで包まれて私は全身真っ黒なミイラになる。 音楽が変わった。 ジローさんが合図をすると黒いミイラが浮かび上がった。それはゆっくり浮上し、頭上の幕の後ろに消えた。 ジローさんとリツコさんが揃って「はい!」と叫ぶとばさりと黒布が落ちてきた。 二人はその布を広げて私がどこにもいないことを示す。 拍手が起こって、ジローさんとリツコさんは並んでお辞儀した。 2-4. 「大丈夫か?」「ガッチーさん!?」 台の蓋を開けてくれたのはガッチーだった。 私は今まで台の仕掛けの中で仰向けに横たわっていたのだった。 「リツコはんが様子見て来いって言わはってな」「?」 「サオリちゃんのこと、変にしちゃったのは自分かもって。ヒンズーの中でそんなに乱れたんか?」 「う・・、はい」 「そおか。次は落ち着いてやったらええ」 「笑わないんですか? ガッチーさん」 「ここで笑たら、さすがに傷つくやろ?」 「がっちいさぁん・・、」 「あんまり気にせんことや。この世界の女の子やったら普通にあることや思う。知らんけど」 「ぷっ、何ですか。最後すごい無責任」 「それでどうして欲しいんや? サオリちゃんは」 「じゃ、私をここから出してください♥」 私はガッチーに向けて両手を差し出した。 「しゃあないなぁ」 ガッチーは笑って私を仕掛けの中から引き上げてくれた。 私はその肩にすがりつく。ガッチーも私の背中を抱いてくれた。 「今度、飲みに行こか」 「私、未成年ですけど?」 「しもた」「うふふ」 私たちは抱き合ったままキスをした。 [Scene.03] 3-1. 月曜の朝。 駅の改札を出て学校へ向かう坂道で後ろから声を掛けられた。 同じ高校の制服を着た小柄な女の子だった。 「すみません、あたし、1年の川口っていいます」 「はい?」 「あの、あたしとお付き合いしてもらえませんか!」 「ごめんなさい。私、そっちの趣味はないんで」 「あーん、レズとかそういうんじゃないですっ。・・えっと、マジックのイリュージョンやったりしてませんか?」 「え、どうして知ってるの?」 「やっぱり! さっき電車の中で見かけて、ひょっとしてと思ったんです」その女の子は嬉しそうに笑った。 「おととい U's ってお店で見ました!」どき。 「ほら、ヒンズーバスケットから出てきて、狐のお面外して、すごく色っぽい顔見せてくれたでしょ?」 あの瞬間が蘇る。かあーっと顔面が熱くなった。 「すごいなーって感動しましたっ。プロを目指してるんですか? それとも高校生でもうプロ!?」 「いや、私ただのバイトだし。それにあれは事故っていうか、その、」 「よかったらお名前教えてもらせませんか? あたしは川口もと香ですっ」 「あ、3年の伊吹彩央里です」 「素敵なお名前。サオリさんって呼んでいいですか? あたしのことはモトカって呼んでください!」 モトカちゃんはよく喋る子だった。 小さい頃からイリュージョンマジックに興味があって、道具を自作したこともあるという。 「そうなんですかー。サオリさんアルバイトなんですか。あたしも雇ってもらえないかなぁ」 「どうかしら。今は募集してないと思うけど」 「いいです。今度アニキに聞いてみます」「アニキって?」 「あたしのアニキ、そのお店でマスターやってるんです」 「ガ、ガッチー!!??」 3-2. 学校が終わってモトカちゃんの家に来た。 7時から U's のバイトがあるって言ったけど、それまでの間少しだけと連れて来られたのだった。 「お兄さんは一緒に住んでないの?」 「今どこに住んでるのかも知らないんです。高校出てすぐオレは一人で生きるって宣言して出て行っちゃったんですよね」「へぇ」 「ずっと大阪の方にいたらしいんですど、最近になってマジックバーで働いてるって連絡してきて、それで一度だけショーを見せてもらったんです」 「じゃあネイティブの関西人じゃないのか」 「はい。変な関西弁喋ってるでしょ? ・・あ、あたしが話したってアニキには言わないでくださいね!」 「あはは、言わないよー」 モトカちゃんは自分で作ったイリュージョンを見せてくれた。 「ギロチンだ!」 「小さいから手首専用ですけどね」 「すごいなぁ。一人で作ったの?」 「えへへ、そこらの男の子より工作得意ですよ」 それは刃渡り2~30センチくらいのギロチンだった。 とても精巧にできていて、特に銀色に輝くギロチン刃はうっとり見とれてしまうくらいに綺麗だった。 これなら U's のバーカウンターに飾ってもらえそう。
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「マジック用に売ってるギロチンって自分で刃を押し下げるのが多いんですけど、これはロープで吊って落とす方式です」 「本物のギロチンと同じなんだね」 「はい。でも刃が軽すぎてちょっと苦労しました。・・だから鉛のオモリをつけてパワーアップしてます。ずしんって落ちます」 「すごいなぁ。何でも切れそう」 「切断できますよ。野菜でも、サオリさんの手首でも」 「うふふ。いいわねー」
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私は右手を差し出した。 「やってみてよ」「じゃあ、ここに手首を入れてください」 ギロチンの刃を上にあげて、枷(かせ)を開く。 半月形のくぼみに手首を置いて枷を閉じ、小さな閂(かんぬき)を締めると、私の右手はギロチンにしっかり固定された。 その閂にモトカちゃんが南京錠を掛ける。 「はい。これで美女は脱出不可能です」 「凝ってるのねぇ」 「拘束の部分は絶対に手抜きしたら駄目だと思って」「うん、同意♥」 「あとは、紐をフックから外したら刃が落ちますけど」 「こうね?」 「あ、ダメ!!」 私が左手で紐を外そうとしたら、モトカちゃんが大声を出して止めた。 「どうしたの?」 「これは趣味で作っただけで、タネも仕掛けもないんです」 「え」 「このまま落としたら、サオリさんの右手、本当になくなっちゃいます」 3-3. モトカちゃんは錠前を外して手首を開放してくれた。 「サオリさんの顔、可愛かったです」 「あのねぇ。まあ右手が無事だったからよしとする」 モトカちゃんは引き出しから鉛筆を出した。 「切れ味を確かめるのに鉛筆を使ってます。今日はサオリさんが来てくれたからサービスで5本」 鉛筆を5本輪ゴムで束ねてギロチンの穴に差し込んだ。 そのままギロチンの紐をフックから外す。 がちゃん! 大きな音がして、鉛筆の束が叩き切られて飛んだ。 「ね、迫力あるでしょ?」「ホントだーっ」 「鉛筆でデモンストレーション���た後は・・」 モトカちゃんはギロチンの刃を上げ直して、自分の手首を枷にはめ込んだ。 「いつも自分でこうやって、一人リハーサルをするんです」 喋りながら南京錠を掛け、その鍵を私に渡した。 「鍵、持っててくださいね。これであたし、もう抜けられません」 「気をつけて、モトカちゃん」 「大丈夫です。でもドキドキしますよね」 紐に指を掛けた。 「思い切ってやっちゃおうかな、って考えるときもあります」 「ちょ、モトカちゃんっ」 がちゃん!! ギロチンの刃が落ちたけど、モトカちゃんの右手は落ちなかった。 「・・怒りました?」 「怒った」 「サオリさんの顔、やっぱりすごく可愛かったです」 「もう! この鍵、返してあげないっ」 「ああーん、それは許して~」 「ダメ。・・あはは」「えへへへ」 私たちはしばらく笑いあった。 それからモトカちゃんの手首を自由にしてあげて、二人でお喋りした。 イリュージョンの美女が着けるコスチュームの話とか、モトカちゃんが作っている次の道具の話とか、U's のリツコさんのおっぱいの話とか、いろいろ喋った。 気が付けばバイトに行く時間になっていて、私は慌ててモトカちゃんの家を飛び出したのだった。 [Scene.04] 4-1. 金曜日のバイト終わり、ガッチーに誘われた。 「サオリちゃ���、デートせえへんか?」 で、でえと!? 「お酒は飲まれへんかもしれへんけど食事ならええやろ。日曜日、どうや?」 うわうわうわ。大人の男性とデートなんて、初めてだよぉ。 「嫌か?」 「いえいえいえっ。こ、光栄ですっ。デートしますっ。喜んでします!」 「おーし、うまいモン食べさしたるわ」 土曜日のバイト前、モトカちゃんから電話で誘われた。 「また家に来ませんか。日曜なら定休日でバイトお休みなんでしょ?」 日曜? ガッチーとデートが。 「次のイリュージョンができそうなんです。サオリさんに見てもらいたくって」 新しいイリュージョン? 見たい! 「駄目ですか?」 「大丈夫だいじょうぶ大丈夫。ただ明日は午後に用事があって。お昼まで、ううん2時までなら」 「じゃ、お昼ご飯と衣装用意して待ってますね!」 4-2. その夜のショーは、ジローさんとリツコさんだけで進行した。 目玉はリツコさんの衣装が早変わりするイリュージョンだった。 ついたての後ろとか、ジローさんが掲げる大布の陰とか、姿が隠れる一瞬の間にリツコさんのドレスが変化した。 最後はジローさんが長いマントをリツコさんの肩に掛けた。 リツコさんはその場で一回転。正面を向いてマントを外すと、今までとぜんぜん違うタイプの衣装に変わっていた。 フリンジの装飾がついた金色のブラ。深いスリットから片足が腰まで見える薄い黄色のスカート。 ものすごく高露出。おへそくっきり、腰のくびれくっきり。 「きゃ~っ」「待ってました!」 馴染みのお客様たちから喝采があがる。 オリエンタルな音楽が流れ始めた。 リツコさんは妖しく微笑むと、腰をくいくい振って踊り始めた。 ベリーダンスだった。すごくセクシー。 肩を左右に細かく振ると大きな胸がぶるぶる震える。同性でもどぎまぎしそう。 後で聞いたけど、衣装の早変わりとベリーダンスはリツコさんがジローさんと一緒に全国を営業していた頃の十八番だった。 引退した今もときどき披露して昔からのファンにサービスしているんだって。 「どや? ママのダンスは」 フロアの後ろで見ていたらガッチーが隣に来て言った。 「すごいですー。リツコさんにあんな特技があったなんて、知りませんでした」 「オレも初めて見たときは驚いたわ」 そのリツコさんは、踊りながら8つほどあるテーブルを巡ってお客様に挨拶している。 中にはカメラやケータイを出すお客様もいて、リツコさんは気軽にツーショットやスリーショットの撮影にも応じていた。 うわぁ、身体あんなにすり寄せて。やだ、腰、抱かれてる。 リツコさん、あんなに露出して、肌の上から男性に触られて、平気で笑ってる。 私だったら・・。 「サオリちゃん、口ぽかんと開けて見とれてたらヨダレ垂れるで」 「えっ」思わず口の周りを拭う。 「わはは」「もう、ヨダレなんか流してません!」 「サオリちゃんの頭の中、分かるわ。自分が踊るとこ想像してたんやろ」 「違いますよーだ」 「なら、むき出しの脇腹、抱かれるとこか」 「・・・」 「俺は好きやで。サオリちゃんみたいな素直な娘」 「いじわる」 [Scene.05] 5-1. 日曜日。 「いらっしゃいませ、お待ちしてましたー!」 玄関ドアを開けて迎えてくれたモトカちゃんは、赤いガウンのような服を着ていた。 「サオリさん、お化粧してる! スカートも可愛い!」 その日の私はリボンの飾りがついた白シャツと淡いチェックの膝丈スカート。 デニムミニの方がいいか何度も迷って決めたコーデだった。 「この後デートですか? いいなぁ」 ぎっくう!! 「ありがとっ。新しいイリュージョン見せてくれるんだよね」 「その前に、その綺麗なお洋服、脱いでください」「?」 「衣装用意しますって言ったでしょ?」 有無を言わさず着てきた服を脱がされた。 ブラとショーツだけの下着の上に、モトカちゃんと同じガウンを羽織らされた。 「これも自分で作ったの?」 「近所のフリーマーケットで買いました。・・動かないで」 モトカちゃんは私のガウンの前から両手を入れると、その手を背中に回しブラのホックを外した。 「きゃ!」 「女の子同士だから恥ずかしっこなしです」 するするとブラが引き抜かれた。 恥ずかしさよりも、この子の器用さに驚く。・・こんなマジック、どこかになかったっけ。 「パンツも脱いでもらっていいですか?」「え」 「あたしはもう脱いでますよ、ほら」 モトカちゃんは自分のガウンの脇をちらりと開いて、ノーブラノーパン姿を見せてくれた。 「駄目ですか?」 モトカちゃんの目が私を見ていた。 ものすごい圧を感じた。この眼力に逆らうなんてできないと思った。 「お、女同士だし、構わないかな」 モトカちゃんはにっこり笑った。さっきの視線はなくなっていた。 「サオリさん、大好きです。じゃ、むこう向いてますから脱いでくださいね」 ああ、モトカちゃん私のこと絶対チョロいと思ってる。 私はショーツを脱いだ。ガウンの下、全裸だ。 頭の中に、なぜかリツコさんがあの衣装で艶めかしく踊る姿が浮かんだ。 5-2. 新しく作ったイリュージョンを見せてもらった。 それは美女の頭に被せて周囲から短剣を刺す箱だった。 縦横4~50センチくらい。正面に観音開きの扉。上面と側面には短剣を通すための角穴がいくつも開いている。 箱の底板は首枷を兼ねていて、まず美女の首に底板を取り付けてから、箱を上からはめ込んでロックするしくみになっていた。 「ダガー・チェストです。あたしは顔剣箱って呼んでますけど」 「うちのお店じゃやってないなぁ。でも仕掛けは何となく分かるよ。鏡を使うんでしょ?」 「そうです」 モトカちゃんは実際に箱を操作して説明してくれた。 顔剣箱の中には鏡を貼った仕切り板が左右に取り付けられていて、美女の顔の前で合わさる仕掛けだった。 「これで箱の中は空に見えます」「ふむふむ」 「短剣を刺しても、鏡の反対側だから絶対��全です。・・でも」 そう言うと、モトカちゃんは箱から鏡の仕切り板を外してしまった。 「鏡なしでも遊べるようにしてます。実際のイリュージョンじゃあり得ないんですけど、その方がサオリさん喜んでくれると思って」 「どういうこと?」 「ここに座ってください」 椅子に腰を下ろすと、モトカちゃんは底板の首枷を私の首に固定した。 頭の上から顔剣箱が被せられた。 前の扉が開いて、その向こうでモトカちゃんが手を振った。 「何があっても絶対に声を出さないでくださいね」 扉が閉められた。 一瞬、暗くなったけど、すぐに目が慣れた。 角穴から光が射して箱の中がうっすらと見えた。 ぶすり。 左上の角穴から短剣が刺されて右側の穴に抜けた。 箱の中に銀色の刃が斜めにそびえる。 なるほど、鏡を外した理由はこれか。私からも見えるように。 ぶすり。どき。 短剣が逆の角度で刺された。1本目よりずっと近い。 ヒンズーのときと違って、どこから刺されるのか分からないからちょっと怖い。 ぶすり。ひ。 突き刺された短剣が途中で止まった。鋭く尖った先端が眉間で揺れ、そして反対側に抜けた。 鼻筋がつんと痛くなる。まるで弄ばれているみたい。 そうか。顔剣箱って短剣を使って中の女の子を弄べるんだ。 ぶすり。きゃっ。 水平に刺された剣が眼球のすぐ前を抜けた。近すぎて焦点が合わない。 これは本当に至近距離。ほんの2~3センチかも。 下半身に力をぎゅっと込めて、太ももを強くこすり合わせた。 ぶすり。「やんっ」 短剣の腹で頬をぺちぺち叩かれた。声出しちゃったよぉ。 弄ばれてる。もう、絶対弄ばれてる。 私、モトカちゃんの思いのまま。 きゅい~んっ。 ぶすり。「いやぁっ!」 真下に向けて刺された剣が今度はおでこを撫でた。 逃れようとするけれど、私を固定する首枷はびくともしない。 ヒンズーでは身体を絡め取られたけど、ここは顔面を絡め取られてる。 じゅんっと濡れるのが自分で分かった。そういえば下着穿いてない。 きゅん、きゅん、きゅんっ。 5-3. 首剣箱から解放されて、私は床に手をついて座り込んだ。 はぁ、はぁ。どきん、どきん、どきん。 心臓が破裂しそう。 「どうでしたか? 楽しかったでしょ?」 モトカちゃんが聞いた。へろへろになった私を見て嬉しそうだった。 「モトカちゃんって、ドSだったの?」 「サオリさんはドMですよね。乳首立てて可愛い♥」 がばっと身を起こしてガウンの前を合わせた。 それは確かに固く突き出ていた。指で摘まむと快感が走った。 モトカちゃん、上手。 私より年下なのに私の気持ちを操ってる。 「バスケットから出てきたサオリさん見て、絶対マゾの人だって思ってたんです」 「か、返す言葉もございません」 トイレに行かせてもらって股間を拭いた。よかったー、モトカちゃん家ウォシュレット。 「あたしからお願いしてもいいですか?」 トイレから戻ると頼まれた。 「落ち着いたら、次はあたしに剣を刺してください」 「モトカちゃんもやられたいの?」 「もちろんです。作ったのはあたしなのに、サオリさんだけ嬉しいのは不公平でしょ?」 「・・」 「次はサオリさんがSになる番です」 5-4. やり方を教えてもらいながら、モトカちゃんの首に底板の首枷を締めた。 「扉を閉めて剣刺すの、見えないから不安なんだけど」 「このメモに刺し方を書きました。この通りにやったら大丈夫です」 「分かった。途中で何かあったら教えてね」 顔剣箱を上からはめ込み、外れないようにロックする。モトカちゃんの顔にバイバイして観音開きの扉を締めた。 短剣を手に取って深呼吸した。 刺される側はいろいろやったけど、刺すのは初めてだった。 もらったメモを見ながら1本ずつ剣を刺してゆく。 メモには刺すべき穴の位置と方向が、楽しみどころや注意点なども含めて細かく書いてあった。 『・・No.5 半分刺したら矢印の方向にゆっくり振る。柔らかいものに当たったら女の子のほっぺた。何度か叩いて楽しむ』 これ、私がされたことじゃないの。最初から決めてたのね。 いいわ。お望み通りに弄んであげる。 モトカちゃんの表情を想像しながら、短剣で頬をぺちぺち叩いてあげた。 ガウンから見える素足がびくっと動いたけど、モトカちゃんは箱の中で黙ったままだった。 楽しい。 自分にSなんて絶対に無理と思っていたけど、モトカちゃんを苛めるのは楽しかった。 それどころか、彼女が自分の行為を受け入れてくれると思うと、それが嬉しくてさらに弄んであげたいと思った。 大好き、モトカちゃん。 全部の短剣を刺した。合計9本。 ケータイを出して写メを撮り、それから剣を抜こうとしたらモトカちゃんが片手を振って止めた。 「え? 抜かないの?」 うん、お願い。モトカちゃんは手で応えた。最後まで喋らないつもりらしい。 分かったわ。私も沈黙することにした。 今の気持ちをいっぱい味わってね。 15分くらい放置した。 椅子に座って顔剣箱を被ったモトカちゃんは一言も喋らない。 少し膝が震えているみたい。可愛いな。 その膝に触りたくなったけど、直接触れるのは反則のような気がした。 肌に触れないよう注意してガウンの裾を広げ、太ももを露出させた。 「ああっ」 小さな声が聞こえて、少し開いていた膝がきゅっと閉じた。 モトカちゃんもこんな色っぽい声を出すんだね。 5-5. 顔剣箱が前後に揺れ始めた。 「そろそろいいよね?」 返事はなかったけど、私は剣を抜くことにした。 最後に刺した短剣の束を握って引いた。・・剣は抜けなかった。 「抜けないんだけど」 ぐったりしていたモトカちゃんが急に動いて、別の短剣を指さした。 「駄目。そっちも抜けないよ」 「え、どうして?」 モトカちゃんが初めて箱の中で喋った。 どの短剣も抜けなかった。観音開き構造の正面扉も開けられない。 「刺し方、間違ったのかな」 「違ってないです。それにそんなことで壊れるはずは」 「そのまま首だけ抜くとかできないの?」 「そうですね。四隅にロックがあるので外してください」 言われた通りにロックを外したけど、箱を持ち上げることができない。 「何かに引っかかってるみたい。ぜめて首を外せたらいいんだけど」 「首枷は箱を取れないと解放できないです」 打ち手なしってこと? 「こうなったらモトカちゃんの首を切断するしかないわね」 「え、あたし首切られちゃうんですか?」 「ねぇ、チェーンソーとか持ってない?」 「いいですね、それっ。あたし血塗れになってその辺歩き回りますよ」 「歩く首なし女子高生」 「ホラーっ。サオリさんホラー好きですか」「好き」「あたしも大好き」 「あはは」「えへへ」 「・・」「・・」 「で、どうする?」「どうしよう~」 5-6. モトカちゃんを救出するまでずいぶん時間がかかった。 観音扉の蝶番(ちょうつがい)を工具で壊して、やっと箱の中を調べることができた。 仕切り板を開閉するレバーが折れて短剣に噛み込んでいた。 電動工具なんて使ったことないから大変だった。 ようやく首枷が外れるとモトカちゃんは両手で抱き付いてきた。 「よかった、です」 「顔剣箱、壊しちゃったね」 「いいんですそんなこと。・・あたし、一生閉じ込められると思ました」 「その割には明るかったじゃない」 「泣きそうだったんですから」 私にしがみついたモトカちゃんの背中が震えていた。 その背中を抱いてさ��ってあげた。 モトカちゃんの身体は小さくて抱き心地がよかった。 ぎゅうっ。モトカちゃんの力が強くなった。 私も力を込めて抱き返す。 女の子と抱き合うって、こんなに気持ちよかったのか。 モトカちゃんが私を見上げた。なんて可愛いんだろう。 彼女の唇に自分の唇を合わせる。 二人のガウンが脱げて落ちた。 私たちはキスをしながら、すべすべした背中を互いに撫でた。 このままいつまでも過ごしていたいと思った。 ・・いつまでも? 「ねぇ。今、何時?」「えっと5時」 ぎゃー。 ばたばた服を着て、髪とメイクを直した。 「ごめんねっ、行かなきゃ!!」 「あたしこそごめんなさい。サオリさんデートだったのに」 「いや、別にデートって訳じゃ」 「相手はアニキなんでしょ?」 「!?」 私は驚いてモトカちゃんを見る。 「昨夜電話で話したんです。今日はお店の女の子とデートって言ってたんで、サオリさんかなって思ってたんです」 「ばれてたの・・」 「あたし、サオリさんがアニキとキスしても怒りませんよ」 「キスなんて、まだまだしないよぉ」 もうしてるんだけど。 [Scene.06] 6-1. 4時間遅刻して現れた私をガッチーは待っていてくれた。 「ごめんなさい!! 」 「おお、来たか。なかなか可愛いらしい恰好してるやないか、サオリちゃん」 「怒らないんですか?」 「こんなことで怒らへん。事情があったんやろ? ・・ただ、もう水族館行く時間はなさそうやなぁ」 本当にごめんなさい! もう一度頭を下げようとしたら、大きな音でお腹がぐうと鳴った。 しまった。モトカちゃん家でお昼食べ損ねた。 「わははは。忙しすぎてメシも食うてないんか」 「いや、あのその」 「ご飯にしよう!」 言うなり、ガッチーは私の手をとってぐいぐい歩き出した。 6-2. 連れて来られたのは U's だった。 シャッターを開けて中に入り、フロアの電気を点けた。 「大丈夫やで。ちゃんとママに許可もろてるし」 「ここで食事ですか?」 ガッチーはバーカウンターの後ろに入ると冷蔵庫から大きなロブスターを取り出した。 「今夜のメインディッシュや。このガッチーさんが腕を振るって料理したるさかいにな」 「うわあい!」 カウンターの椅子に座ってガッチーが料理する様を眺める。 「退屈か?」 「ぜんぜん! ガッチーさんお料理上手ですねぇ」 「大阪におるとき修行したんや」 フライパンの上で縦割りにしたロブスターが美味しそうに焼けている。 そのフライパンの柄をとんとん叩きながらガッチーが笑う。 「今日は妹と会うてたんやろ?」 「え、何で知って」 「昨夜電話で話したんや。同じ高校でイリュージョン好きの先輩と会う言うてたから、サオリちゃんのことかな思てたんや」 「・・本当にもう、この兄妹ときたら」 「何や?」「いえ、何でも」 「ほんま、久しぶりにモトカと会うたら、おかしな趣味にはまってて呆れたわ」 「でも、お店のショーを見せてあげたんでしょ? モトカちゃん、もっと呼んで欲しいって言ってましたよ」 「あのな。オレのポケットマネーで何度も払えるほど、ここのチャージは安うはないんやで」 「そんなんですかー」 ガッチーはフライパンの蓋を取った。ぶあっといい香りが立ち上る。 「さあできた。ロブスターのガーリック香草焼きや」 フロアの二人掛けのテーブルに並んで座った。 ワインの代わりにジンジャエールで乾杯。 「美味しいっ。ちょっと疑ってたけど本当に美味しい!!」 「あのなぁ。ちゃんと修行した言うたやろ?」 「大阪へ行って帰って来たんですよね」「まあな」 「変な関西弁って、モトカちゃん笑ってましたよー」「あ、あいつめ・・」 「標準語は嫌なんですか?」「トーキョー弁には戻らないと決めたんだ。やない決めたんや!」 「ぷっ。ガッチーさんやっぱり変!」「っるっせい」 6-3. デザートのフルーツまですっかり食べて、手を合わせた。 「ごちそうさまでしたっ」「おうっ」 どうしようかな? 少し迷ったけど思い切ってガッチーの腕にもたれかかった。 ガッチーも何も言わずに私の肩に腕をかけてくれた。 「・・サオリちゃんはこの先どうしたいんや? イリュージョンの仕事やりたいんか?」 「まだ分かりません。プロになれたら素敵だと思うけど。・・ガッチーさんは? ガッチーさんの夢って何ですか?」 「オレの夢は自分の店を持つことやな。マジックとか、そういうジャンルは何でもええねん。ガッチーの店とか名前つけて、おもろい仲間が集まるようにしたい」 「素敵ですねー。私、応援しちゃいますよっ」 「何か軽いなー、その応援」「あーん、駄目?」 ガッチーへの思いが高まる。 反対側の手をガッチーの胸に乗せた。頬をガッチーの肩に合わせる。 ガッチーは黙ったまま私の髪を撫でてくれた。 気持ちいい。・・ああ、私、発情してるかも。 「ええよ、そのままくっついてても」 「あ、あ、ありがとうございます!!」 あ~、私、何をお礼言ってるんだ。 もう心臓バクバク。 「そ、そういえばっ、どうしてガッチーっていうんですか?」 「大した理由はあらへん。苗字が川口やからカワグチカワグチ言われるうちにいつの間にかガッチーになった」 「あ、カワグチカワグチでガッチー。ホンマにしょうもないですねー、あはは、」 次の瞬間、ガッチーは両手で私の顔を挟んでホールドした。そのままキス。 !! 長い時間が過ぎた。 心臓のバクバクがバックンバックンになった頃、ようやくガッチーの顔が離れた。 「落ち着いた?」 「わ、わ、わ・・」「何や?」 「私、ガッチーさんが似非関西人でも大好きです!」「ここでそれ言う?」 私たちはようやく声を出して笑った。 やたっ、2回目のキス! モトカちゃんの分を合わせたら3回目だけど。 最初のときよりずっとエクスタシーだった。 濡れた。うん、幸せ! 6-4. 入口のドアが開いた。 「あら、いたのね~」 入って来たのは U's のママ、リツコさんだった。 私たちは慌てて離れる。 「いーのよ、そのままで。お邪魔したみたいでごめんなさいねっ」 「い、いいえ」 「若いっていいわねぇ。ワタシもダンナに手を付けられたのは19のときだったわ」 リツコさんは豪快にがははと笑った。 「酔うてはるなぁ」ガッチーが小声で言った。 「多いんですか?」私も小声で聞く。 「オフの日は大抵や」そう答えるとリツコさんに向かって聞いた。 「それで何の用事で来はったんですか?」 「そうそう、それなんだけど、ウチのダンナが明日からいなくなるの」 「何かあったんですか?」 「離婚するの♥」「えええ!」 「冗談よ、冗談。仕事で香港に行くの。10日間」「あのですね」 「・・と、いうことは土曜のショーが問題やな」ガッチーが冷静に言った。 「そうなのよ。ワタシ���サオリちゃんの二人」「え? それは困りますぅ~」 ジローさんがいなくて、リツコさんと二人だけで全部やるなんて無理だよぉ。 「アシがもう一人いればいいんだけどねー」 「オレはアシなんて無理っすよ。バーカウンターと照明に音響もせなあかんし」 「分かってるわ。だから何とかならないか、在庫の道具を見に来たのよ」 そこまで言うとリツコさんは両手を広げて腰をくいくい振った。 「ま、いざとなればサオリちゃんと二人でベリーダンスしましょ。特訓してあげるわ♥」 「う」 そのときひらめいた。 「ガッチーさんっ。彼女、どうですか!」 「え、アイツか?」 「きっと喜んでやってくれますよ」 [Scene.07] 7-1. 土曜日の夜。 ジローさんの代わりにリツコさんがマジシャン役で登場した。 燕尾服に真っ黒なレオタードと網タイツ。やたら開いた胸元に盛り上がるおっぱい。 横に立つ私は黒い半纏(はんてん)とショートパンツに青スカーフのくのいち風コスチューム。 最初の演目は金属球を空中に浮かべるフローティングボールマジックだった。 妖艶に微笑みながら銀色のボールを自在に操るリツコさんは、さすがに元プロだった。 次はイリュージョン。 高さ1メートルの柱に乗った箱に私が入り、布を広げて隠している間にリツコさんと入れ替わっているサスペンデッド・アニメーション。 これはちょっと頑張って練習したネタだった。 イリュージョンの二つ目は、前にリツコさんもやったキューブザク。 箱に屈んで入って六角形断面の筒を刺し通される。さらに全体を上下分割した上、長い棒を何本も突き刺す。 すごく不思議に見えるけれど、中ではちゃんと生きていられる、大好きなネタ。 そして次は今夜のために取り寄せたイリュージョンだった。 台座の上に縦型の箱。人間が立って入れる大きさで、手前の扉が透明になっている。 私は手錠を掛けられて箱の中に立った。リツコさんがその私に下から黒いサテンの袋を被せてゆく。 頭の上まで被せると、袋の口をロープで縛った。 さらに袋に入って立つ私を袋ごとベルトで背板に固定し、扉を締めた。 客席からは透明な扉を通して、もぞもぞ動く黒袋が見えている。 箱の中に白煙が湧きたつ。 しばらくして煙が消えると、そこにあった黒い袋は赤い袋に変っていた。 リツコさんが扉を開け、背板のベルトを外した。 袋の口を縛るロープを解く。 ・・中から出てきたのは、手錠を掛けられた女子高生だった。 頬を紅潮させ少し恥ずかしそうに笑う女子高生。 誰? あの子? 客先がざわめいた。 今までのイリュージョンショーはもちろん、アルバイトの従業員の中にもいない女の子だった。 リツコさんに手錠を外してもらってお辞儀する女の子。 拍手。 もちろん彼女はモトカちゃんだった。 この箱の背板はどんでん返しで回る構造になっていて、裏側は人体交換の女の子を隠す空間になっている。 「あたし、ここに閉じ込められて待つんですか? うふふっ、いいですよ!」 モトカちゃんはそう言って笑うと、ショーが始まる前から袋詰めになって仕掛けの中に収まってくれた。 きっと素敵な時間を過ごしたんだと思う。私も同じだから。 7-2. 後半のイリュージョンはモトカちゃんがアシスタントを務めた。 といっても、練習の時間が短かったからネタは一つだけ。 モトカちゃんは靴を脱ぎ、首から上と足先だけが出る箱に入った。 箱の後ろについたハンドルをリツコさんがぐるぐる回す。 すると箱は上下方向に縮み始じめ、それに合わせてモトカちゃんの首と足先の距離も短くなっていった。 まるでモトカちゃんの身長がどんどん縮んでいるみたいだった。 やがて箱の高さは数センチまで薄くなり、モトカちゃんは顎と足先がほとんどくっついた状態になった。 もちろん本人はちゃんと生きていて、大きな目玉をくりくり動かしながら笑っているし、ソックスの足先もぴくぴく動いている。 ボディ・コンプレス(圧縮)と呼ぶイリュージョン。 これも今夜初めてやったネタだった。モトカちゃんに先を越された私はちょっと悔しい。 さて、このとき私はどうなっていたのか。 モトカちゃんが圧縮イリュージョンで頑張っている間、彼女と入れ替わりにどんでん返しの裏側に収まった私はちょっと困ったことになっていた。 奥行わずか30センチの真っ暗な空間。 この中で私は手錠と袋詰めの拘束から自力で抜けて、次のイリュージョンに備えなければならない。 手錠と背板のベルトは少し力を入れれば外れる。袋は内側に垂れた解き代を引けばロープで縛られた口が緩むようになっている。 標準サイズの女の子なら、厚さ30センチの空間でも問題なくできるはずの作業。 その後は、どんでん返しで元に戻るときに袋を足元に叩き落せば、私は自由になって登場する仕掛けだ。 手錠を外し、ロープの解き代を手探りで探り当てて引いた、そのときだった。 右手にあった手錠がぽろりと落ちた。 いけない! 後になって冷静に考えたら手錠をそのまま足元に落とせばよかった。でもこのときの私は冷静じゃなかった。 落ちた手錠を拾おうとした。 手錠はショートパンツの辺りに引っかかっているようだった。 腕を下げようとしたら、腰が動いて手錠が少し下がった。 股間に硬いモノが当たる。 や、やばっ。 無意識にもがくと、手錠の片輪がきっちり直角に食い込んだ。 手錠の反対側はショートパンツの上の方に噛んでいるらしい。 手を伸ばせない。身を屈めることもできない。 自分が極薄の空間にいることを意識した。 もがけばもがくほど股間が突き上げられる。股間に意識が集中する。 この感じ。昔やった角オナ。 体重を掛けて押し付ける、あの感じ。 ・・きゅん! 何をやってるのか私。こんな場所で。 モトカちゃんも耐えたのに。閉じ込められて耐えたのに。 閉じ込められて。閉じ込められて。 ・・きゅん! 「あ、・・はぁ、ん」 駄目。声出しちゃ。 こんな場所でエッチになっちゃ駄目。角オナなんて。あそこを押し付けるなんて。 「あぁっ」 ・・きゅん! 7-3. ステージは最後のネタに進んでいた。 モトカちゃんがリツコさんに導かれて再びどんでん返しの箱の中に立つ。 扉を閉めて箱の前に大きな黒布をかざした。 少し待って黒布を外すと、そこにはまだモトカちゃん。 もう一度かざして、再び外す。 ・・モトカちゃんが消えて、私が立っていた。 リツコさんがぎょっとするのが分かった。 そのときの私は誰が見ても分かるくらいに発情していた。 うるうるした目と半開きの口。笑顔なんてとても作���な��。 ショートパンツから生える太ももは内股。内側が少し濡れているようだった。 バーカウンターの向こうに立つガッチーがお腹を抱えて笑うのが見えた。 リツコさんに手を取られて箱から出る。 どんとお尻を叩かれた。 「フィナーレだよ! とろんとしてないで、しっかり!」 「ふぁいっ」 二人で左右に分かれて立ち、私が出てきた箱を指差した。 その中にはモトカちゃんが隠れているはずだ。 ステージの照明が消え、フラッシュライトが激しく点滅する。 箱の側板が両側に倒れた。前の扉も手前に倒れた。 最後まで残っていた背板も向こう側へ倒れるのが見えた。 照明が戻ると、ステージには四方に崩壊した箱の残骸だけがあった。 あの女子高生の姿はどこにもない。 おお~っ。 客先から驚きの声が湧き、それは大きな拍手へと変わった。 7-4. 「あー、楽しかった!!」 残骸の中から制服姿のモトカちゃんが這い出してきて笑った。 崩壊した箱の下に埋もれた台座。その中にモトカちゃんは身体を小さくして入っていたのだった。 私だったら入るだけで苦労しそうな極小のスペース。 そこに短時間で移動したモトカちゃんは本当にすごい。 「・・あれ、サオリさん顔赤いですけど、大丈夫ですか?」 「あ、ちょっとした事故があったけど大丈夫だから」 「えっ、事故ですかっ。具合悪いんだったら、寝てた方が」 ふ、ふ、ふ、ふ。 その場にいたガッチーとリツコさんが笑った。 「もう、何がおかしいんですかっ」 「そういえば、サオリちゃんがやらかした現場に立ち入ったはモトカだけやな」 ぷっ。リツコさんが吹き出す。 「わ、わ、わ」 「なあ、モトカ。最後にサオリちゃんと入れ替わって回転板に隠れたとき、何か気ぃつかへんかったか?」 「最後に? すごく短い時間だったから・・。でもそういえば、つーんと甘酸っぱい匂いがして何だろうって」 ぎゃー。 [エピローグ] 私は高校を出て専門学校へ進み、その間ずっと U's のアルバイトを続けた。 卒業した後ジローさんのアシスタントに正式に採用されて、この世界に入った。 プロになってからはいろいろあって、今は女性だけのイリュージョンマジックチームのリーダーをしている。 モトカちゃんは私と一緒に U's でバイトをするようになった。 彼女が趣味で作るイリュージョンの道具はジローさんに認められてプロのショーで使われるほどになった。 この世界に入らないかと誘われたようだけど、断って今は可愛い2児のお母さんだ。 たまに会って女同士の濃い友情を交わしているのは彼女の旦那様には内緒。 ガッチーにはお付き合いして2年目にバージンを贈呈した。 被虐の想いが溢れて狂いそうになった私を、緊縛という愛情で救ってくれたのも彼だった。 彼自身は U's のマスターを辞めた後、フェティッシュバーの店長、怪しい秘密クラブのマネージャーなど、いろいろな仕事を渡り歩いて夢を追いかけている。 結婚とかそういうことは考えていないけれど、ずっとお互いを高め合うパートナーでいるつもり。 ジローさんとリツコさんは、もう老舗ともいえる U's を変わらず続けている。 お店のバーカウンターにはモトカちゃんが寄贈したあの小さなギロチンが今も飾られているんだって。 来月あたり、昔の仲間で集まろうと声が掛かった。 久しぶりにリツコさんのベリーダンスが見られると楽しみにしていたら、女性参加者は全員セクシー衣装持参で踊るのよと言われてしまった。 お酒さえ飲ませておけばストリップだってしてくれる人だから、モトカちゃんとはその作戦でいこうと相談しているところ。
~ 登場人物紹介 ~ 伊吹彩央里(サオリ): 18才、高校3年生。マジックカフェ&バー『U's(うっす)』のアルバイト。 ガッチー : 25才。U's のマスター兼バーテン。サオリの彼氏になる。 川口もと香(モトカ): 16才、高校1年生。ガッチーの妹。イリュージョン道具の自作が趣味。 内海次郎(ジロー): 46才。プロマジシャン。U's のオーナー。 内海律子(リツコ): 33才。元マジシャン兼アシスタント。ジローさんの妻。 清美(キヨミ): ジローさんのアシスタント。途中で退職。 『くのいち~』 『続・くのいち~』 で女性イリュージョンマジックチームのリーダーをしていたサオリさんが高校3年生の時のお話です。 今は30台後半と思われる彼女ですから、およそ18~20年の昔になります。 スマホのない時代ですね。おっぱい星人、写メ などの懐かしい言葉や温水便座などその頃の感覚を少しだけ織り込んで楽しみました。 本話に登場したイリュージョンで当時まだ発明されていないものがあったらごめんなさいです。 『くのいち~』ではとても真面目なリーダーだったサオリさん。 もちろん高校生の頃も真面目で奥手でした。 後輩のモトカちゃんにうまくコントロールされてエッチな気分にされてしまうのは、もうお約束の展開ですね。 イリュージョンの最中にネタ場の中で角オナに走るのはちょっと強引だったかも。 でも奥手な女の子の角オナはとても可愛いので大好きです(何を言ってるのだ私は)。 サオリさんのお相手になったガッチーという男性は『続・くのいち~』で秘密クラブのマネージャーとして登場した人です。 もともとサオリさんとの間に特別な関係があることを想定していましたが『続・くのいち~』では描くことができませんでした。 このお話で二人のなれそめを描いてあげることができてよかったです。 ちなみに、ガッチーは別の短編( 『視界不良な生活』 )にもチョイ役で登場しています。 お気付きの方は「うん、知ってる」とドヤ顔をしていただき、そうでない方はぜひお読みください。(イリュージョンのお話ではありません) イラストで描いたギロチンは、どうしてもブレード(刃)が自身の重量で落下する構造にしたくて、あれこれギミックを考えました。 お話の中ではタネに触れていませんが、このような外観イメージでマジック可能なはずです。 ブレード上部の箱はモトカちゃんの言う「鉛のオモリ」です。市販の鉛板を張れば1キロ以上になるでしょう。軽量なブレードでも鉛の重さで叩き切るイメージ。 この重量と衝撃に耐えるにはフレームを相当しっかり作らねばなりませんけどね。 もう一つ、イラストにサオリさんとモトカちゃんの人体交換イリュージョンの流れを描きました。  前半(モトカちゃん登場まで)  後半(箱の倒壊まで) ディテールはありませんが、参考にどうぞ。 それではまた。 次作はまったく未定ですが、これからも楽しみいただければ幸いです。 ありがとうございました。 PS. 執筆にあたり、ストーリー展開およびイリュージョンの内容でご提案ご相談くださった某くのいち様にお礼申し上げます。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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sigure0422 · 8 years
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Signal to Noise @ NHKホール
2016.11.27 @ NHKホール TK from 凛として時雨 Tour 2016 “Signal to Noise” ツアーファイナルのレポ&ツアー(福岡・広島)の総括。
てけふろライブでの開演SEとツアータイトル映像のシンクロが凄く好きで、Secret Sensationツアー(以下SSツアー)のオープニングをよく思い出してたんですが、今ツアーも良かった…遠くに見える白い光を、霧のようなノイズの中に見据える映像、溢れていく光の中からSecret Sensationっぽい宇宙めいた三角形が幾つも散りばめられて、そこにツアータイトルが現れる。 Wonder Palette:木漏れ日のような、金木犀の花のような橙色の光が舞う中に浮かび上がるステージが鮮烈な始まり。「黒く塗り潰されないように」で白く強い光が差してた。「渦巻く世界…」で紗幕が上がっていって、メンバーの背に舞い散る光が美しかった。序盤からよくTKの右手が宙を舞ってて、特に「薄められた…」のところで右手をふわりと浮かせた後に、マイクから体を離して肩と首を左右に揺らしてたのが、すごいノってるなぁと思ってグッときた。 Addictive Dancer:ライブハウスでは赤い照明(序盤)だった気がするけど(気のせいかも)、ホールでは様々な色合いの青。薄青と、黄色みのある白いピンライトが交差してTKを照らす。音響が素晴らしすぎて音源よりも低音の圧が凄くて、心臓が鳴らされてるみたいだった。 Secret Sensation:音源には無い、アウトロにキンと冷たく響き渡るヴァイオリンの音色が本当に好き! ていうかこの曲全体を通してかなりヴァイオリンの旋律が耳に入ってくるので、結構それに合わせてノッてしまう。三角錐の宇宙に吸い込まれそう。初披露(2015のDC)の時は青い照明だったなくらいしか覚えてないけど、こんなに壮大でとんでもなく美しい景色になるとは…。 dead end complex:終盤の「壊して」「満たして」の音を伸ばすところがファルセットになってちょっと優しい感じに。福岡や広島で観た時は音源と同じように歌っていたはず(歌い方変わってた印象無い)。喉の調子か、新たなライブアレンジか…大阪・名古屋はどうだったのかな。 subliminal:めちゃくちゃ大好きなんですけど、正直セトリ落ちオーラ(?)が出てたので、また観られるなんて驚き…福岡で聴いてわかってたくせに広島でも肩がビクゥ!!ってなるほど、あのイントロは不意をついてくるものがあります。モノクロの写真が、記憶が剥がれ落ちていくように消えて無くなっていく映像良い。最後のシャウトとても勢いがあってかっこよかった。 flower:「魔法に溢れてる色をつけたら 鮮やかなfake」に歌詞が変わってた。たぶん普通に間違えたんだと思うけど、そういうのも自然に繋げてしまっていい感じになるのさすがです。ライブハウスでは曲が始まると共にTKの背後に灯った赤いスポットライトがまるで大輪の薔薇みたいだったけど、ホールでは巨大なピンクのダリアが、バックスクリーンに後光のごとく。後半の「自分を殺す魔法で…」のところは真っ赤に照らされたステージが揺らめくように明滅していたのが緊張感を増していて良かった! 個人的に、SSツアーからflowerの良さを再認識していて、以前はそこまででもなかったけど「カラフルな世界を夢見て生きてるから」「誰かが待ってる気がして生きてるだけ」というフレーズがダブルで涙腺を刺してくる…自分自身の心境もあるけど、最近のTKからリスナーへの歩み寄り?のようなもの(kalappoとかラジオ等々)を感じていて、より一層、アーティストとしての人生をTKはどのように考えているのか、ステージからの景色は���んな風に目に映っているのかとか、自分も生きていく中で何を生み出せるのかみたいなことまで、いろいろと一瞬で駆け巡っちゃって苦しくなります。 Abnormal trick:レーザー演出かっっっっっこよすぎて目が皿になりました。ステージから剣のように伸びた青白い光線めっちゃ強そう…(?) この曲のライブでの始まり方かっこいいなーと最近やっと気づいて、BOBOさんのシンバルシャシャシャーーーッからギターに抜けてく感じを堪能しました。あと今まで490万回くらい言ってるけど、間奏で首を左右に振り乱してリズム取るTKがマジで最高オブジアースって感じです。最後の「この世界から抜け出せないし…」でTKにだけスポットライトが当たって暗闇に浮かび上がった様は、物凄く孤独を感じさせた。 contrast:「もう僕と君を繋ぐものが…」で、とてもゆっくりと右手を上げて客席を指さして、またゆーっくりと下ろしていて、前方の真ん中あたりの人達の心臓が心配になりました。大丈夫でしたか? 生命の水平線に堕ちませんでしたか? サビで夜色の青い光がステージに満ちるの良い…。でもまた「届かないよな」って歌ってたのつらすぎるんだ…contrastはほんとそこが…。 like there is tomorrow:金木犀っぽいシルエットがバックスクリーンに浮かび上がって、そういう植物の有機的なモチーフ大好きなので、シンプルに綺麗だなぁ…とため息。粛々とピアノを弾き終わって「えいっ」て感じでライト?のスイッチ消してから勢いつけて立ち上がるのあざといんですけど、ギター持ったらもうそこにはかっこよさしかなくて。アウトロの泣きのギターが最高に脳を痺れさせる。いつも大団円感のある終わり方に浄化されます…。 unravel:紫の照明に沈むステージが美しい。個人的にはSSツアーの時の、 赤やオレンジの光の欠片が印象的な演出が好みだったんですが、シンプルな照明のみの演出もかっこいいです。紫の色味はスミレの花のような感じ。この曲に限らずですが、ライブするごとに歌への感情の入り方が深くなっている気がして泣けてくる。 12th laser:Abnormal trickでレーザー使うなら12th laserこそ使いどころだろ…と思ってたので、初っ端からレーザー放出されてテンション上がりました。そして中心から放射状に出てる本数が12本なのか数えましたよね。中央から見てないから微妙だけど12本あった(たぶん)。扇状に広がったレーザーがいくつもバックに開いていて氷山のようだった。 Showcase Reflection:「メロディ」と「物語」の文字がいっぱい並んで出てきた時点でこ、これは…と思いましたし色々注目すべき点が多すぎたんですが、やっぱり「衝撃の密会」のチラ見せがダントツ印象深いです。なぜ開いて閉じた。好きなのは「誰かの為なんかじゃないよ」って暗闇にシンプルに出てたとこかな…笑 凶悪なギターの音が妖怪によって不安定に。スタッフさん出てきて直しながらギターソロ続行してた。間奏終わりに高いノイズがキーーンと鳴ったところが痺れました、鼓膜も頭も。最後までずっとエフェクター不調で、曲終わった瞬間にキョロキョロしてスタッフさん探してた…それでも言った「ありがとうございます」がすごいテンション低くてそわそわした。 TKがスタッフさん来る前に、前屈して手でエフェクターを押した時になんかこう…クラウチングスタートの立ち上がった時みたいなポーズになってから素早く元の体勢になったの凄かったです(うまく言い表せない) 紗幕越しに見た記憶だった気がするんですけど、これShowcaseであってたかな。 Shandy:Shandyは初披露から何度も何度も観てるけど、どんどん音のまとまりが良くなって、殺傷能力と色気が増してる気がします。キレッキレ。「見られないように塗り重ねてしまった…」のところを顔や肩を揺らしてマイクに噛み付くように歌うのズルすぎる。最後にスポットライトたちがぐるりと回転してTKだけ照らしてたのめっちゃ良いです。神々しい。 white out:降り注ぐ白の照明と、雪の中に伸びた道を彷徨うような映像が、静謐な空気をつくっていて良かった。羽根のような雪が舞う中に立つ黒い衣装のメンバーの美しさよ。ライブだと「僕の両手は…」のロングトーンが音源よりちょっと長くて最後に力がこもっているのが好き。「溢れるほどの失くしたいものがまだ”そこ"にあって」。 Signal:深緑に沈んだ大きな窓の外に、まるで昇天するかのような、立ち上る雲の渦。こっちが昇天しそう。エフェクターが気になりすぎて、かなり足元を見ながら演奏するTK…それでも圧倒されるくらい凄いんですけど、もどかしい気持ちでした。最後の「ありがとうございました」もちょっと元気なさげだった。(他公演では、本編やりきったぜ!みたいなハキハキした感じだった。)黒シャツの袖を直しながら一旦ハケる。
【アンコール】
ピアノの前に座って急に思い出したように「お久しぶりです、TKです!」と挨拶。 TK「最近ライブ中に、妖怪音切れ太郎が出てきて…音を、無くしてしまうんですけど、(客席に手を向ける)…切れた時は、皆さんの頭の中で、ギターを鳴らしてください。よろしくお願いします」 一番もどかしい気持ちなのはTKだろうに、あまりにも機材トラブルあるからかもう開き直って「妖怪音切れ太郎」とか言って和やかな空気にしてくれるの本当に好きです。頭の中で鳴らせるほど聴き込んでるので大丈夫です。 罪の宝石:青緑色のレーザーに囲まれるてけクリスマスツリー! すみません正直びっくりしすぎて冒頭しばらく笑いこらえてました。クリスマスツリーっていうか雪吊りみたいな。逆さにしたダイヤモンドにも見えた。曲が終わって暗転する時に消えゆくレーザーが薄く暗闇に浮かびあがった一瞬がなんだかよかったです。TKが世界から隔離されてるみたいでさ…あれ、これつらいやつだ。 音源では「いつのことだろーーー…う」と長めのウィスパーですが、ライブではやっぱり以前のまま語尾短めで。その感じ好きなんです。
TK「この会場にピッタリな、スーパードラマーを紹介します、BOBO!(めっちゃハキハキ言う)」 ニッコニコして会釈しながら出てくるBOBOさん。1人だけてけスイT。サポメン女性陣に向かってお辞儀するBOBOさんと、笑いながらお辞儀を返す女性陣の構図が、ご近所でばったり会ったマダム達みたいな謎の優雅さあってウケた。 invalid phrase〜〜〜!;; イントロのギターがじわりと響き渡った瞬間、福岡でも広島でも聴けてなかった私としては、ついに来てしまったか…と絶望にも似た気持ちに。本当に好きすぎて、そしてつらすぎて受け止めるのが大変なんです。Aメロで私がイメージしてた色味の(白っぽくてちょっと暖色系が混ざったような、朝方の水辺みたいな)照明ですごく綺麗でした。確か「その先にある遠い遠い夢を見てた」って歌った後、首を横に振っててとても切なかったんだ…「自分を殺そうとした」なんてさらに胸を締めつけるような言葉に確信的に変えていたのも苦しすぎた。 TK自身が歌うように、私もTKが見せてくれた音や景色を、大好きだからずっと覚えていたいし、作品に触れて感動した瞬間を何度でも思い出したいとか思って泣いてしまう…。例のTKの片耳が聞こえなくなった話もあったことで、SSツアーも、このツアーも、今このステージにTKが立っていることも、それを目の当たりに出来てるのも奇跡なんだなって改めて思ったら涙で目の前がゆらゆらした。最後のシャウトのところはライブではちょっと溜めるんですね、声の余韻が長く響いて良いアレンジだった。
TK「次が…最後の曲になるんですけど、もし、この会場と僕達の威圧的な空気で、立ちたいけど立てないって人がいたら、全然立ってもらって大丈夫なので、最後の曲なんで…自由に楽しんでください。ありがとうございましたTKでした!」 Fantastic Magic:TKのMCにみんな緊張が解けたように笑って、会場の空気が一気に暖かくなったのすごく素敵だった。確かにみんな座ってるとやっぱりステージとの温度差があるように見えてしまうこともある。心はめっちゃ熱くなってますけど!座って観るのも好きだけど! 体を揺らしつつ、これで最後だ〜〜と思いながら観てたら、曲の後半でフッとTKが下手〜中央くらいの客席を見渡しながら、すごく楽しそうというか嬉しそうな感じが伝わってきて、それでまた泣けました。つらさではなく嬉しくて泣いた。 このツアー中、単純にソロで回る場所が増えたの凄いなぁと思っていて、TKがステージから見ている景色を想像してみたりして、やっぱりどの会場行っても沢山の人が来てくれてるの嬉しいかなとか思って勝手に感極まってました。いろんな場所にTKの音楽を好きな人、生で観られるのを待っている人がいて、私もその一人で、それがTKに楽しさとか嬉しさをもたらしていたなら最高だなと。もうどう考えても完全に私にとっての最高のロックスターなんです。痛いこと言ってるのはわかってます、でもやっぱり最高に好きな人が楽しそうにしてたらこっちも嬉しいじゃん…ライブはつらいとか言ってた人がさ…😭 そんなこんなで暖まった空気とバシバシのフラッシュの中で終わりを迎えて、TKが両手を広げてサポメンを示し、ギターのノイズもそのままで、それでも掻き消されないように「TK from 凛として時雨でした!ありがとうございました!」と言って大団円な感じで終演。胸が熱い。どのタイミングか忘れたけどピックも優しく投げてましたね。TKは客席を見渡しながら袖に向かって、ハッと思い出したように二、三階席に手を振って、何を照れたのかそのまま小走りで笑顔のまま去っていきました。さっきまでロックスターや!と思わせていた人と同一人物とはまるで思えないかわいらしさだったけど、そういうのも含めて最高に好きだな!!とまた思う。笑顔を見れたことに泣く。感情が揺り動かされて壊滅状態になるのもいつものことだけど、こんなに激しくて美しくて冷たくて暖かいツアーと、そのファイナルは、今までを経て作られた何もかも剥き出しのwhite noiseというアルバムと、今のどこか開けた感じのTKがいるからこそだなぁと思いました。一曲一曲が、鮮やかなショートフィルムを観るかのようなライブだった。「最高」以上の言葉をまだ探してます。 2016.11.29
【おまけ】福岡と広島でのMC
・福岡
最初のMC TK「お久しぶりです、TK、と…申します!」
TK「博多の人は…水炊きが好きなんですか?…………好きじゃないですか?」 客「好きです!」 TK「好きですか、僕も好きです。……僕は、水炊きと、皆の笑顔を、おかずに頑張っています(笑顔) 今日は最後まで楽しんでいってください(笑顔)」 このほんわかMCからのShowcase Reflection、温度差凄すぎて気が狂うかと思った。
アンコールでピアノの前に座って TK「ありがとうございます…ありがとうございます……(斜め後ろ振り返って)ありがとうございます」 ドラムの方を振り返って凝視→客席を見る→ドラムの方を見る→BOBOさんがてけスイTシャツを着て登場 TK「スーパードラマー、BOBOです!」 BOBOさんニッコニコ笑顔でTシャツを披露(裾が短パンとほぼ同じ丈でまるで彼シャツを着た美少女)
「今日は本当に楽しかったです。最後の曲になります。ありがとうございましたTKでした」って嬉しそうな笑顔で言ってて泣けた。
・広島
TK「初めまして、…初め、まして! ワンマンで来るのは初めてになります、TKと申します。今日は楽しんでいってください」
BOBOさん紹介 TK「……マイメンを紹介します。スーパードラマーBOBO!」 袖からヨタヨタと歩いてくるBOBOさん TK「今日はちょっと、お腹の調子が悪いみたいです」 ※絶対に福岡で朝からラーメン食べてたからだと思う。
subliminalの曲中にマイクスタンドの調節部分が緩んだようで、TKが口を近づける度にマイク位置がズレていて、曲終わった後にマイクとスタンド掴んでグイグイ直してた。無表情。急いでスタッフさんが直しに来てたけど、その時の空気の不穏さにドキドキしてしまった。
福岡の水炊き大好きMCが衝撃的すぎて何かと理由つけて福岡にライブしに来てほしいって思いましたね。ドラムロゴスから出ていくときに車の窓開けてくれたTKに「また来てください!」って頑張って笑顔で手を振りながら言えたんですが、微笑みながら頷いてくれました。ありがとうありがとう……。
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