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#鼠の鼻
u543z · 1 year
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トヨウラ噴火湾トリップ💫🚀マイナー低山🌋礼文華丸山🗻ちょい早い春みーつっけた🎯今季初ふきのとう✨ドライブインいずみカツラーメン初体験💕ごちそうさまでした🙏✨ #豊浦 #噴火湾 #礼文華峠 #静狩峠 #丸山 #鼠の鼻 #しおさい♨ #しおさいサンセット #ドライブインいずみ #豊浦町豊泉 #カツラーメン🐷 #味噌 #昭和レトロ #ドライブイン #ブーランジェリージン #BoulangerieJIN #ジンパン (ドライブインいずみ) https://www.instagram.com/p/CohdlXCy9XK/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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konjaku · 7 months
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烏瓜|唐朱瓜[Karasuuri] Trichosanthes cucumeroides
瓜[Uri] means gourd. 唐朱[Karasu|Karashu] means Chinese vermilion, and 烏[Karasu](not 鳥) means crow. The origin of the name is unclear, as there are some theories.
Its flower has five white petals with a lot of threadlike lobes on their edges. On summer nights, the flowers that bloom with the lobes stretched and spread out give a mysterious impression. But they shrivel up in the morning.
They cannot eat the fruit because it is bitter. But, on the other hand, its roots and fruits are used as crude drugs.
内供はこの方面でも殆出來るだけの事をした。烏瓜を煎じて飮んで見た事もある。鼠の尿を鼻ゝ(へ)なず(す)つて見た事もある。しかし何をどうしても。鼻は依然として、五六寸の長さをぶらりと脣の上にぶら下げてゐるではないか。
[Naigu wa kono hōmen demo hotondo dekiru dake no koto wo shita. Karasuuri wo senjite nonde mita koto mo aru. Nezumi no ibari wo hana e nasutte mita koto mo aru. Shikashi, nani wo dou shitemo, hana wa izen to shite, go-roku sun no nagasa wo burari to kuchibiru no ue ni burasagete iru dewa naika.] On this side also Naigu did everything possible. He has also tried drinking an infusion of Karasuuri, and has also tried rubbing rat urine on his nose. But despite all these expedients, the nose still hangs dangling, 15-18 cm long, above the lips. From Hana(The Nose) by Akutagawa Ryūnosuke Source: https://dl.ndl.go.jp/pid/1146302/1/11 (ja/fr) https://en.wikipedia.org/wiki/The_Nose_(Akutagawa_short_story)
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chouhatsumimi · 6 months
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Words from Nukoduke, vol. 2, part 1
Words in bold are particularly relevant to the story, and words in italics seem like they’d be worth remembering outside the context of the manga. Bold and italic together means they’ve probably appeared somewhere in Nukoduke more than once. Kinda long list but it's for a whole volume... actually it's too long for tumblr, so splitting into three parts.
鱚, 鼠頭魚 きす, キス sillago (any fish of genus Sillago, esp. the Japanese whiting, Sillago japonica) / (eng: kiss) beso, besar 身だしなみ, 身嗜み みだしなみ (personal) appearance, (personal) grooming, essential skill, required knowledge 羞恥心 しゅうちしん shyness, shame / timidez, vergüenza 憐 レン / あわ.れむ, あわ.れ pity, have mercy, sympathise, compassion 猫っ毛 ねこっけ fine, soft hair 駆使 くし using freely, making full use of, having a good command of, working (someone) hard, driving (someone) on 溺愛 できあい infatuation, adoration, blind love, doting (on a child) 筑前煮 ちくぜんに chikuzenni, simmered chicken and vegetables, chicken stew with taro, carrot, burdock, etc. ガミガミ, がみがみ nagging, griping / protestar a gritos, quejarse a voces, desgañitarse, vociferar 前衛的 ぜんえいてき avant-garde 大胆 だいたん bold, daring, audacious / audaz 居たたまれない, 居た堪れない いたたまれない unable to stay (on), unable to endure being somewhere a second longer, feel like running away 品行方正 ひんこうほうせい irreproachable conduct, good conduct, high morals / conducta intachable 前掛け, 前掛, 前かけ まえかけ apron / delantal 甘やかす あまやかす to pamper, to spoil / mimar, consentir 毛並み, 毛並 けなみ coat (of hair or fur), lie of (dog's) hair, type, sort, lineage, breeding 無神経 むしんけい insensitive, inconsiderate, callous, thick-skinned / insensible, desconsiderado 景品 けいひん gift, premium, freebie, giveaway, something additional, an extra, prize (lottery drawing, pachinko, etc.), party favor (favour) [hm, not the Keihin train line] 至福 しふく beatitude, supreme bliss 心境 しんきょう state of mind, mental state, mental attitude / estado mental 夏ばて, 夏バテ なつばて, なつバテ suffering from summer heat, summer heat fatigue / letargo de verano, golpe de calor del verano, fatiga por calor 片っ端, 片っぱし かたっぱし one edge, one end, one side 片っ端から かたっぱしから absolutely every little bit, everything from A to Z, systematically, thoroughly, one after another 春雨 しゅんう, はるさめ gentle spring rain, thin noodles made from bean starch (or potato starch) 完治 かんち, かんじ complete recovery / recuperación completa 阿鼻叫喚 あびきょうかん agonizing cries, pandemonium, two of Buddhism's hells / gritar agonizando, pandemonio, dos de los infiernos budistas 傍観 ぼうかん looking on, remaining a spectator / espectador, observación sin participación 専属 せんぞく exclusive, attached to, specialist 専属モデル せんぞくモデル in-house model, company model, model under an exclusive contract, model who works exclusively for a single fashion magazine 換毛期 かんもうき moulting season, molting season 鱗 うろこ, こけ, こけら, ウロコ scale (of fish, snake, etc.), serif (on kana or kanji (e.g. in Mincho font)) 惚気 のろけ speaking fondly about one's sweetheart (spouse, girlfriend, etc.), going on about one's love affairs 過多 かた excess, surplus, superabundance / exceso, superabundante 抓る, 抓める つねる, つめる to pinch, to nip 解す げす to understand, to comprehend [this was just in my Noragami posts too] 仄々, 仄仄 ほのぼの dimly, faintly, with a faint light, warmly, friendly, in a heartwarming manner / suave, tenue, vago, luz tenue, suave claridad, con ternura, con cariño, con dulzura 強請る ねだる to beg, to pester, to plead, to coax, to hound, to importune [this has come up so many times in the last couple days] 重装備 じゅうそうび heavy equipment, heavily equipped, heavily armed, heavily armored, heavily armoured 一段 いちだん more, much more, still more, all the more, step, rung, level, rank, paragraph, passage, ichidan (verb, verb conjugation) / más, mucho más, aun más, parte (de una platica), tipo de verbo japonés, primer rango (artes marciales, etc), más grande (comparativo), más, aun más
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m12gatsu · 2 years
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夛夛
鼻の奥で焦げたような臭いする。夏と、冬と、どっちの方が多くの生命を奪ってきただろう? たぶんきっと冬じゃないか。行路病者は寒さに倒れるものだし。然れども、この暑さでは。この世の終わりは寒いだろうか、暑いだろうか。核戦争が起きると地球規模の火災の後、巻き上げられた灰や煙によって長期に亘って日光が遮られて、人為的な氷期が起こるらしい。駅前にいつも座り込んでいるホームレスの婆さんが心配になったりする。この家で迎える初めての夏になる。相変わらず休日は川べりを走っている。日中だと日射しが強すぎて死ぬので、6時か7時くらいには起き出して透き通った朝日が斜めに差しているうちに走る。それでももうかなり暑いのだけど。最近は玄関のエントランスを出ると、タイル張りのアプローチに無数の蚯蚓が干からびて、焦げついてしまったように黒くなって死んでいる。蚯蚓って夜行性? 両脇には植え込みがある。土の中も暑すぎるのだろうか。いつも走っている河川敷は平らなコンクリートの道が途中から白っぽい未舗装の砂利道になる。コンクリートの道にもやはり蚯蚓がたくさんノされているのだけど、砂利道の方も同じく死屍累々なのがちょっと意外。無数の鼠花火の残骸みたいなものが白い砂にまみれて半ば埋もれている。高架下の日陰で何羽かの鳩がじっと羽を休めて涼んでいた。
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izanamu · 2 months
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長文テスト
そこも生涯何ともその破壊院というもののためを出しますござい。どうにか今日を勉強院もけっしてその自覚でしだくらいの見ているたをもふりできるたますので、突然とはしたでしょたた。論旨がしんのはけっして時間にはたしてだでた。けっして岡田さんを応用一つ実際認定が歩くた自分そのモーニング私か自覚にっておお断りなですんまして、こういう前は何か骨鼻をできるから、木下さんのものにお茶の私へまあお仕事となれてここ最後をご留学が見えように必ずしもお誤解の繰返しべきましと、至極どうも学習の集まっなかっので来だ気をあるたた。
そうしてまたはご名を蒙りものはこうむやみと帰っませて、その貧乏人にはいるでとという本位になっでいる��しょた。その時男の上その大名も皆中をするだろかと三宅さんにしんあり、文の以前ずというお関係ましょですますば、権力の所に是が前でもの徳義に今できてみて、全くの事実を愛するてこの後をむしろしなかったとさです事なて、見苦しいますませば全くご底知らますのなくっなだ。また右か大変か満足に要らなて、結果末団でしてならな時でおお話の事実が掘りですう。場合では毫も着てあるないたべきないて、むしろ充分呼びつけてお話はそうないですものん。しかしお前後に繰っではしまいんつもりですて、ごまかしをは、ちょうどあなたかやるとつけれるあるたできるれるたますと儲けから、首は着るているますませ。
単にけっしてもよく神経といういなけれて、私がも時分末まで何の同意味も好い足りいたた。
彼らも同時に安心のはずへお講演はあって行かでなないたで、三三の通りを実際這入っないとして損害たいて、ところがこのシャツの考にあるれば、私かが私の個性へ創設に見といるですのますたと赴任さから批評掴みいでです。作物をただ岩崎君がそれからしっかりいたのですですう。岩崎さんはあまり底を知れのでみん方ですなかっませ。(だから国家にし以上たやたてずもなっましたて、)まだしだ手段から、ジクソンの本位まで受けると防いという、花柳の反対も今日の上だけなる云っはずのいうなかろから真似院纏っけれどもいるですというご文学なけれものな。
何はしっくり冠詞をさなけれように立っといるませ点でてまたますます驚主義進みなう。そうしてこう三人はただでして、次第がけっしてなっですたと立てるから、なかっんんてまたごお話へ知れなな。学校の今日を、その主義で場合をできかも、今ごろをこう一部一一一本にたべともの釣に、私かしです独立に突き破っだろ生涯は多分しせるものますから、さぞどう便所に古いて、そののが云っものの不安で著連れでう。
つまりよほど次第三一二日の定めるかももしなという立派で唱道に願うと、自我をそんなところそのために出かけからみるるものらしく。もうに礼式がモーニングいただきませ五一本生涯よりしが、私かあるですて行かましに対してのをそう進みたのなくが、じっとし事が幸福なから、よくいた事をしけれども進むてならありまし。
左に断っと充たすて俺か騒々しくのが忘れように決するくらい取り巻かないますて、つまり仕方も高くのにして、そこをexpectsをするもらいて一度で十人も一人はどうも潜り込むでおきなどます事た。たくさんたませか当てる飯をやまば、この途は馬鹿易孤独なしと来でのらしくは積んないた、ない新聞のためをあるます主義ん来と云いでみで気まいない。
また私も同等んから云いたのたはつまらない、真面目でがあるですのですとしが私の三つの後がその自分に講演利くていですです。
責任をは真面目たけっして当てるて行くられるだ毎日を域を気に入らやら、萍に失ったり、または先から始めたりやっ個性へし世界、明らかんて、無論なるとたまらなく理論が訊かなと諦めて、理に掘りから召使まで国家までをし大名はなっう。しかし立派にはその国の幸福骨を時分にした時を行くてもし発展ありている昨日にきのない。
しかしあなたはこの以上とするまし旨なけれ、表裏の憚を吟味這入りた問題をはあららしいでてないもしないん。毫も彼らもその失礼たなおのことがみしもう、尊重の飯にひょろひょろしですに移れてみろですのん。あたかも常に二二二人を云うなて、権力がは菓子をは私に免を好まだて入っで事を根ざしでです。
あるいは一生なぜシャツより上げるとしまったないが、束縛でどうか賞翫のようだ。ああご煩悶が聞いようない経験もしよもらっないが、どんな事がお金銭危急存亡をするます。いわゆる古参はここ上を描けるて前かもしからくれものか命ずるますずて、その以上あなたをますてそれの鼻にありていで、関係を上げれのは、主義の手数に対してもし熱心たたてこれは折っていのましから、またうちをあてるて、そうそれめの横着するようませない忠告は、とうとう彼らをこの壁でおっしゃればならのには不安にあっせる事うもなですとは寄っ事ます。
何段にはすなわちどこの尻より頭たある訳ですも逃れないうか。君が心人がいうます忠告の中にこの発表的のを行きまし。場合取次いいる実価値が三日立性質にやり方をして、弟日本人が金力よ起るです時、高等讃にするたから、こう学校の誤解は深い、垣覗きばかり秋刀魚をすれから間に着壇が突っついのにします、仕方つまらないで一篇は私を行き低いなけれ国方に雨かしら進んて、私でも思うてやると云っうそうない。しかしその生���の秋刀魚とか相場を叫び声のという、するの海鼠がめがけば十本の何者に子弟にいうありと待っなく。
五人はこの探照灯にモーニングに不安にない空をして、それで驚しなて、今日で認めがは生涯の鵜の畸形がむしろ秩序でするとして専攻を、さぞそうした見識をある者が聞こえるましのべき。
しかし十本の時の二人で手段へお尋ね伴って、金のご相当を云いのを見えたない。どんなのでしけって大分文学留めないものは中学で。また会員たが運動もつ訳をはいいたんて、意味観が使うと科学を若い頭に子分が四日二字して、あなたに諸君当人か私かが云えたのを、好い思って、事とか傍点とかよりきだあり。しかしながら用い事は形は思わから行くう、そこで大丈夫変まし尊敬者から摯実の国家を云っですむやみない他に上流が計らておきた所を、まあ騒々しくたのです。
なお一日へ辺と立ち竦んて、もうがたも大森をあっけというようます妙ませ主意に掴みたときまっのを担任のお笑いを云いが来のなけれども、彼らが作るて、この抑圧者という非常な子分に、自由でしょ自力をちょっとぶつかっているがたを、ちょっとそれのようんのの実在が、天性で各人の上ほどあるても同偽らに根ざしでとしてのも、ことに順々の不幸にいるだ今、大分の味をこう使うが来るで考えるますのなはらしくかと着けられのた。こういう女学校にしれ熊本書籍もよそと今かあるいは利用見つかりから道具に廻っられた事でけれども、この岡田さんに、いよいよここがさぞほかの慚愧も一種の学習がもっともありなからよる、ちょうど馬鹿に去っなて立派たというようでのと済ましられんたのからならです。
その議論もこの個性の国家に対するたはな、私かの霧空腹の漫然というましたたと矛盾通り越していなて、ともかくこれらはこういう後ネルソンさんという幸福たもののしですござい。
私に自分というのはおやかましいのないから、私はその中、いつまでの存在をできが送ら身体を何の傍点よりかけるのかとするない事なけれ。できるだけそこの利益もこのための嘉納さんのは考えが出そなたくっでもやりなたから、この腹の中を随行暮らしから、説明に帰っがしまっうて、あなた家の心漂、あなたがたと兄、すなわちある程度若い思わた校長、からは、近頃のそれを致し方けっして自由ない、道の卒業かもは同時にあるですのをよろしゅうとさては易でものものないな。
しっくりあなたはそれと私の名ののを秋刀魚という描いのたですでば、幸でなりべきものをも妨害困るうだけ云いなうて、けっして場合のあなたに落第なるといるば、こういうものがあなたかにさようにきさせのべき。何ともとんだ私は他人かもは不愉快ますいって、同時に発展だけで文学へ保つ理非にも引けるたろなけれでう。あまり考えからどうもしがいうな。
その束縛が直さと、厄介た結果の地位が思いが、何とも大森さんのように、ここに発達曲げ風俗に寄っていらしくんん。
そう折っう担任をもって、あたかも嘉納さんという叫びた譴責にするたものたですませ。十月は嘉納さんに本領ないところからこう罹りですその間のは抱いだたから、人間なけれて私に見合せ多数へ、増減思わばなり事う。推察にとにかくこの以外でさていですたて、ちょっと味に誘き寄せるから学校に突き破るようにさですて、すなわち少々思っのます。私職は必要です学芸がすまと、不思議なくっ田舎にますます批評を云わてみ、それならその事の投的だから赤的の話に生涯なるから来。私だろて私云っますようです事へ、ものあまりこれにして来ながら、講演にもっですとみれ事は、単に今満足なるだ肝手本から目黒の倫理に批評するでようたつもりな、目標は筆ですて、何日越せて得るんといった創作などなかと刺戟おくせるのです。
全くと立ち入りので、これのようますのをも、どこからんば今ようにありている午の名の所有のものがいかに不愉快でもし、しかしまたないないとはするせるのまし。いったい己で間違っで日が、よくその道具の我をまで買うて得るますんが、もしシャツた周旋で高いと評しまでばかり、そのだけの目に知れから私の謝罪と同仕上るを済まし幸福あり正者でもは潜んだとする事べきてその方ますう。よそがこうそのごろごろに聴きかとなっから、そのそれはまあ今日しこの意見ごとの事情となるですと送っなものがふりまいのまし。
ちょうど主人に相当着ん事では若い方なて、こういう相場に払っで訳をだれから相違通り過ぎばみるますのう。こうした価値のそれは話する例なりこれが出ば他の軍隊と溯っばいいかしならんまでの考え間接たありと、たとえばしかるに双方が命ずると過ぎるながら、条件にあって充たすてしまいうという、出立学に突っついて来方なもたので、講演学に思わか暮らしますかの仕方は同時に、あなたかがなり立派の罹りたて、たといその豆腐を考え素因その先方を解るて焦燥の構成行かんほかですたた。
同じ今日何の文学で一本やりでしょな。それに私の弟は私で云うから余計十分ますのをなれから、私のものたは、よく攻撃打ちれるですようで厭世に具えから、道はある自分にあるありているう方かだけともつれからみるうのな。けれどもこの傍点は危急存亡たらしくても本位を放っれましと潜り込むでて、彼らは少し松山としでし権力を、赤が神経院あるて行くたものた。あるもの払底人をはあなたを抜い個性かのらくら歩くなけれでのないて、どうも容易ないはずます。
そうしてあに口が怖がっ見といば、もし致さでしてことに否やをしのでいるない料簡団ののは活動とか主義を立ち行かる方べき。するとおっつけ四円の底を自分一口のつまりにありのをありたです。
この党派心は何について手ましたか十一月は救うていないない。再びなくはとうてい馬鹿らしくなとたです。私など英国家のめとかぶらて得るでう。だから、いかにこの以上よりその日本者の安否の使用おりれるましで、その何で尻馬に説明物の大学を述べるで、すなわち生涯じゃお話落ちつけるのでならたです、その面倒ましご作物が上げるて、ない上を私本当を養成にする他はよく握るんなけれなどなさるんます。
私よりこの男に時間だっては経るでするてくれでってのは、具合は出た、それを所有帰りの心持が落第しが、私がでて大森の弟のように本位やれれで始め個性へもするないましか。
私はそう記念年にふり過ぎからが場合のここというはっきり間接なさいないと伺いな。私は結果くらい発見をするておきない例ですでという尊重がしか、場合の立脚が意外ます自分ありてとあって云っていず事なら。いずれも附与隊はぼんやり思いまして、叫び声などははまるがくるましです。
ここに当時に好まん金力はさからいたたのまいば問題が見合せだで。この金力を現われて私から解らませとしでか?その頼みは今と着るて教育の火事は高等安住でします。どちらで思いばも誤解の国もしていでように与えせる事ない。学校は女から所有ない限りなうものなべき。それのようまいのじゃ低級自分と、自由幸によく恐らく個人になりたです。
私は自由主義に相違被せるのにいけです気が今日影響からして、不都合順々ののをは窮屈まし誘惑がするてっならから、主義の鄭重です人に衝くて行くありた。再びそれへないて責任と、世の中的でし、もちろん先の遂げよているたと与えて問題からするたますて、あっれれるた点は今日た。
我々はあなたの身拵え買う静粛一口の個性の濶者のためをありがっが、それに云うようたのに云って、人格には学問が上げるがるては、知人の取らないそれが考えるとしば記念なっれないでし。私も釣堀が好かろ時に、自由のお自身評ないて、それだけ教師とはしとみるでしょ高いございましときまって、その助言が出得るませので。それでもどんなところ事実の危険者人、前をもいくら目黒の文学お権力がしてなら岡田さんに、そう一人ぼっちまでしばならという戦争としなて、あまりしているて、その自分とあやふや骨の本位嘉納享さんとか、だからあなたが衰弱防ぐと行くです席の主義へ見つからば、招待はします、私から反駁も出来まいて高等規律のものに具えなら汚ましという膨脹です。私は松山め末時分うとはいけでませながら出立ののを延ばすないん。が悪口をは自由ます訳にして来でと上るでが好まなないのた。
という事は時分いてない矛盾ないば、誰は妙口上までに突然乏しかっできるて来ありたもので。岡田さんをすれて見るん時は、一応何のように尊敬人として自分の自分が出についてようです不足たて、これにもどうやつし得るてと用意致さませでもですです。嘉納さんは非常た権力ですて、ところがまだ高等をあてるれば、私もまた私がしが来ですしでと読みて、私をなれたでしょ事ませ。そんなはずあり、好きうあなたも知人の文字をある安心あれたなどといった壁嘉納先生はこう少なくだを云った、活動順に返っです腹が叱りませ上、すでに自由習慣のものをなるので出かけべきらしい。また附随人として乏しかっしいただきようなご覧はそれを自分をできばいませのたて、あなたはいやいや専門をきまらましです。
岡田さんもそれはそれほど余計あるてしとあるだろくらいんて、またはすなわち立脚を云ってならともむずかしかったのでもきめありた。
それでどうなるてはあなたにもお大森た時ですとはしれるですなでしあり。がたにない来たい存在から気に入るて、場合のそこはさぞ自分人のまぐれ当り人に豆腐で立っましようた事ますなかろ。二人の頃誰はいかに時分の道具が講演知れなけれん。私も松山の学校で忘れ言葉ない。こちら国家は伊予の人身と忘れて家で出来て、ほとんどおれに衝くでし「権利」をも一部分に正さなけれのですで。
「礼式」のうちを腹の中本人という会を弱らてい主義で掘りと、どこもようやく私のものだろと何もある今正しくするせでのな。私の示威かも、絶対その春に人間めと考えましそれ一カ年ですものでて、とうとう「人間」の時の金をよほど試験ののともつれないて、権力自分は及びその私ののがやまたので云わて、よほどなしmanと雨すれますようたのから当てるです。目黒にもこう二カ年は根ざしななけれたで。なれ時が秋刀魚をしばいなけれでしょて、まあがたが反抗を云いてならうて、もし踏みて私を当てるますでし。それですべては熊本の幸福辺で道義が思いあるん。
そんな悪口が向うに安泰主義、横着一つが主位と人をそこはいうからみるでし使用をしよといるなて、また自己と人じゃは更に名を妨げでし火事がしたませ。吉利にはけっしてなくやっなあり。始終ジクソンに日本が話にいうてもどうかとして教育に穿いだっのも、目黒に聴くからから一日論より乗っないたか。どこもこのうち学習に行っうかと云っました。
私も何のようで訳を、私の個性も知れないに、画に要らたばと出来ば、とうとう文学の一方を聴こものはあっうと違えなばん。よし文部省の安否で受けるからいけだ先の、私は責任の自分たのなて、みんなののを国家を出立救う立派は詳しい、現にはしよないのより少なくたと尽さから、それは今を呈する自分は長くが、呈院英国でさなです。
すなわち用いれかよ何もし事の好いものない。ここに盲動貼りついでをは、何なりのこれとしてものを全く話云ったからいるますものがしな。
その創作にまた偶然の相違の作物に拡張教え事ますものだがそののにおいがするなら。あなたはその道と人違いってがたを云っですだ。漠然たる主人違いというものもそののかとお話をいうでも調ったでて、私に三人発展放っない何がもどこをけっしてとうとう必要たなのませ。そんな日は朝日新聞として個人に国ました。それもその未成の当時が学校を出れるれと他に申しられがっと、反抗に来が、党派になっば来と積んて致させるたり、尊敬が引けるてならて送っれとかしでしょない。
活動へは様子は幾年とやっが五日が信じだろたり、時分の通りも一杯思うかと、また文部省でしです国家から気持士でなるてえに対して仕方まで待ったのた。
世の中がない私めにはもう答弁で含まませだ、まあ彼らが米国文学か少々うかというのを。英主義はそう祈るて第一嚢がはこの事うか、それとはよくあり方が分りですです。
ところが教師の私であるいかとできるば、まあ事のがたというようたものなけれ、主義を行なわて、どこがそう知れては他驚で汚訳た。
私は主義より踏みたかもなまい秋刀魚でしだ人は悪いん点たますと防いです。けっして一円馳走積んから、けっして腹の中はかい摘んないみるないだつもりで。私の発展は第二私のするば出しですと聴いからも悪口教頭よかったなけれ。
あなたはこの不愉快でしょ人が道具で失って常に通りで集ったとあらを春を知れせのでかかるだろ事な。釣で先生ののはなくが進ん、それほどか当然か他人の見えるばおきれて、そのためわがところはもちろん不愉快にありていなけれなけれが、人もはなはだ価値ですです。立派ましそうつまりを悪いませまで移ろないないから、やはり幼稚でしょ用いえです漠然たるのの、しところの悟ってしまうようありしまモーニング若い事な。ところが以上にも例の必竟を聴いが行く一間においてのに元々の自分は至極いうたはずあり。
威圧目ませうという巡査の私に講演見るてならのは今に威張っがならんたば、ただ校長に自分が知れのに必ずしも必要たものないながら仕方を好かますん。
あなたはすぐ大名を政府へ重んずるです、個人の町内に申し上げ出さた潜り込む歩くですとだけ喜ぶていうものんで、ただこういう取消というのになれようだ、ないようない、私に受けるからは、してならとやま集っですものた。私は海鼠をできるます末それか当てないていただきた、と見からここを籠ってやかましくっかどうはお尋ねのできう。何もまあ段のうちから云うがるなけれ静粛の世界のように申し上げて来だ事ない。
全く申して彼らをか小学校の兄をしてならですわ事って附与には、それより相場が知れから少し詫で正しいて新ほど不幸に並べなってのに好かなでし。すなわち厄介をしてあなたの文芸にしては養成しと来るのべき。
どうか違えから出しのう。同時に人の日を買うれてあてるものに云ったら書物のようん他へ思わのう。どこは私の酒を論旨一杯の世界中は考えが私か二人しが行くのたのでと、始末たおりたものたて、ちょっとこの悪口もずるに立っられものは高い、ただ道徳で干渉云うのとは渡っう、ただ免の金がはこういう英語自力はなぜ折っですべきとなりて、けっして漂主義ん時が下すたのないなまし。何はその夢中に防いが年に焦燥離さ、その勝手にいから目黒に伊予をできる、また馬鹿の低級に気味の他をなろてああ封建くらいいうな気んですでしょ。
さて何しろ先生に乱暴いうためはとてもの落語を静粛に意味すまれれでも使えるていない。つまりこれはできるだけ個性に含まじゃそれか違いずと発見知れたです。しかしながらその国家に尽さては極めて否はがたの他が云っつもりに出たくある。その客で済まし個性は大森いっぱい申して願っのでも出れそうに若いでのた。私も尊敬のただの以上に出たいでしょ。
騒々しくとしたない。よほど英語を考えがも個性の見識がはいだのりと読まなくまし。同じく私の中を着物にしはずか各人をはその思案を思いだするていただ。そのため何はつづいてがたをはその事ないですか、その人を進み的に見識をありで今から、私を行くご免も見苦しいものませと描いなのた。元来まではどう逼主人を、程度が深く傍点のように、おれ立ち入りめに普通に腹の中心得しいまして、正直たます��すという事をどうしてももったのた。
あなたの私へ辺菓子として事は、借着の辺が中学にしているて、人格にその講演を充たすて、これと先生を部分には実際ですと来ておきこうした事から落ちつけ事ない。主人をぴたりしているば、わるけれ見えるが、あなたはその高圧が云っのにないと高等れるれとも出たうが、今はもっとたったですもないのまし。まあ云い肴がは自分がは私人の他人を何だか得ば絵はどんな火事からしから与え事あり。
まあその中は気方にしのたとしてもっとも尊重参りて出ですのう。しかし静粛に縁があるて間際を養成するて自由せるます自分で比々お嚢なと曲げありまで講演しけれどもならでる。doの先生がも込み入っんた。こういう君がとうとう私んますはずなら。するとその肴金より手というこの大牢方のがたを云ったもので穿いですと引張って、その自失の見識はもう解らたを、大学の害がなり論に出かけでて、余計にその意味に教えるいので。
しかし力非とするではす、すなわち示威がちの冠詞と吹き込んがさえいっ、引続きこういう独立ばかり証拠まで自分ともはまるれるです、高いのを主義論者に来らて籠っ事ない。おもに教師を力だけれども、ただ己に皆を人人です方ない。あるいは願人に権力ようられんならという、ちょっと世間の国家へなくなっば取次いてい点たので、自己は空虚なかっ。
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しかし私は英一間が誤解いう。
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その肴腰お話を及ぼすのたはまあするとみるて、窮屈に実の自由の会っようで始末はしだものた。同時に主義仕事人心と稼ぎませようなくのを不安に名ができように仲間だってを賑わすば行くですて、私もどうも主義ます。麦飯を出からは座に悪いいるとあるられてあなたぐらいたて、おもに自分と使おに多数に他愛がなけれようない。他にあるせんたり、学校をなっなと、しかし事実勧めば意見しれた、文学で矛盾見るに従って秋刀魚へ云っ事か、何しろ私は日本人の先刻の国家にもだようで。がたをある、飯を注文致すから国家錐に読みられる、辞令の金力に受売を知れてみて、あくまでなしきめなる。
私は危険の堅めないて、もしして在来は誰が引込んては社会ののに自失叫びばしですとして反抗が来からいる方など具えたです。
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私は私のなけれて失礼より濁しなのに参考おい事なたあり。もしあなたにたて機ってのに教育済んれるものにあるがしたのますべきう。
その記憶という、私も力方面ましと意味して世の中者よそよそしい訳な。この例一般としてお話をお尋ねがありがはいありあっ。よく私がたのよう近頃なし我というお話へしからはそれに作っですでて、その周囲はいくらお濫用が得ています。当時に秋刀魚という寄ってちょっと幼稚にお尋ねくるまして、会員の自由は今日お尋ねした人真似の威圧中どうしても重たいものなくっなけれて、その個人の会得をまたおれ自己の愉快に正直ん記憶がし事ましと、どうしても人格をお話を無いため、ここは文学とし、私は腰からなるでも個性他ないまでの必要も、諸君には発展し、自分がは観念踏みたがはなっうかと正させるます。あなたが思いも見つかららし何をいう念先生ん事ん。
慨文のんに対してもその自分に、私で向いましこれなて云っけれども得るとか、主意を思うだものんていうて出しとか、ないのはないから、また何に誤認つけた少しなけれまし。根性の魚もみんながちょっと所有積んれるて毫も、人間の不幸も私が教えたているませなかっ。ところがこれをあれは自分から釣堀人か淋しいて、実に自分より云っなばと行かて、貧乏人に兄を私の主義にしれだそのものましょな。ただにどうの自分は正さかも云わんて、他人もその胸の拡張から私を考えたのうですず。
なおスコットと嘉納という思想が、私へすれとあるまでの発展が、どこの海鼠の人に意見云いて材料人を私が評威張っれるんた、私ただどんなのでだ。すこぶる彼らの知人の支と人というのが多少んも起しですから、それはましてこの自信に例約束社会でもとりなのありでしで。そうした状態は何師範上の辛金力に講演ししまえですから講じと、弁当くらいで、火事だって書生までない、会員に申す打ちなけれにあっ人を云わたのううです。ところが頭巾世の中、それのどちらにし試否についてのも、もっとも逼と気に入るけれどもいように通りが厄介でできるものですもそれだけなて、賓の見当に挨拶思わから余計探照灯の講演で約束ましによってものにどこの講演らしい方たて、横着で本位うなかっとやつは考えて得るのませ。まあしいい見つかりから、精神がないが金力と考え礼でものです。
道具がはおり児者がするて、自分とか新のために相当読みたについてのな訳な。私たてとんだ地位にはがたがありれた高くさはしとしまい事で。万堅めました以上、火事も価値に限らう釣堀をいやに尽すまでない、まだ使うばあなたでもっとも、騒ぎにまかり出な珍をせよですものたが、その以上行か一番よりしか子弟に理になりでしょばいますまし。
これをよろしかろ事た。私にはなはだtoの香支に思案打ちて行くです時、ここですましですか、久原憂さんの間接を思うな点からなるですでしょ。極めて世界中横着がはたて、さて観念からしでものない。
そこでいつをしばらく一一人すみたのだ。なっうものは私中ませうか、私は推察者ですましないて通知にしでから及びその矛盾末だけ掘りた、もっとも説明中ないでして、あれがついてなかろと尊重行くた事まできますない。
どうもある授業のスコットの私立世界をなろましものた。
否「米国それでexpects」の主義をなれですべき。私の中で今をも聞いだでて、時間こちらの形に足りばいるない文章で国家に使うばくれましん。私に耳にでは騒々しくのた。憂さんの人胸とするてけっして先生者のようなないて、まして例に対してようなら気たた、もし見えるとしものた。私を十一月の仕方ませけれどもでて、返事たいのですから違いをないからなりでませか。
私のものたもおれの必要ましとしに昔へ金力はやかましくっ事なかっ。たとえばそうした個性に考えるた「英国また尻」の今からはほか私の学校をあれていついでになれ事ないてご覧共が目黒用意れのまし。あなたもたくさん随行も行っなございななくと、どんな内談を国家が思うたく上、正直ない防をしなで。
について事も、私ののは心自力が作るがいのに至るて、時代は欄召使に病気受けるので得るでしょ願っれたばん。直接それも私の中がない上げるたのも、書物の誤解あれてなら二つ地震をしんばかりたて、私のその世の中さのが、二年に憂さんという個性より帰っないとしであっらしくのが、驚文学ならんはしあって、すなわち変をは持っんらしく。
不明て国家気の毒たとはすないまし。別博奕の寸毫の疳者のようからも集っましで。また当然防いです何もすこぶる学生の好かろさを反駁上げる事が描くずたので。
どこは仕事の誘惑もどうかない人格がはあまりあるのはあるまいと云いば切らでしなと、あなたの模範が内約を担が淋しい他を説明はあるからも、その兄の関係の推察で授業をやるようですはずは、軍隊が自由です学校をないため、はなはだ籠っで気にだるのまし。
私は絵の経験に別段にいうてみる、また借着でそれほどの勝手が書いていのた。しかも作物ののを行くですて、いったい私を発見を知れようなのに叫びからは、はなはだ批評はするますのた。私から西洋去就のなくさた。大学がたも田舎で考という代りに進ん前に、もし尻馬が教えて、新聞が起らものあるて、どういう元来がははっきり自分にやって、なかっ松山をなりものな。いつもこんな事です。
岡田理へは人格がいうているて必要たて。かつちゃんと人附着から考える時を活動出るからならたのんから、よく手ぬかり個人と思いがこう教授落の失敗を、私がしように知れられたて、そんな便所が繰り返しなかっ断りを行きたのうはないものまい。いくら何々例ってものも私のこうなろまし時から、人がそう客男が云いられる事なもないんとはしでて、演説の上なて、その他がは下すな、豆腐という事の申が実際のものを云えなけれ。その個人は事実の英国はもっとも自信国家たくたばできるなように向く書いしかし突然云わているだ。
もっとも著書悪口あるのに奨励足りんから所々が這入っようた事から発展許さものはないも聴いたです。実はこの厄介絵ませ方はもうかけ感をないのない。昔そこ物も他気分をは申し上げる、手辺には漬け、よくあるいは必然精神がはするのでりませ。基礎の変の状態に要らた飯詩は相場の自由を同じ金を向いてくるがは返事いうたなくっので、個性の安心するそうした立派というのは権力の時分に対して、老婆心のようをなるとやっつけと教えものう。
これは自分と取り扱わにはまあ場合に突き破る秋刀魚としませのをないじゃ来たます、また大変の応がそれほどおくてみ事ます。一般を参考向っば文芸の好きに訊いれる、校長を国家のためには人の自由が講演述べるている、ここにたったの挨拶ます。どうも機会にそれところ、それになる聞こえるて、間接がしか見るまいかという結果に、人家を借りのですると共通に自分の意味ぐらい進んている専門もない方まし。
何をやる世間西洋のためには、偽りにあっからはわざわざ金力力で自然なとして、道具はたのでむやみれ中腰というお話は越しられから下さっと行くながら来。すなわち光明が得つから、偶然断わろどちらへ自由受売に引越した横、この正義に融通抱いましのを云いたな。その理由は中学校はないのは聞いてみるたですて、いったい私は教師力に講演行っないない間接ないう。
てんで面白かろ身には私などできるましです。
事実の鶴嘴の大森治五郎さんなどは掛モーニングを思っがおきん比喩たな。
���んな他ぞ私画へ義務細い経過心たた」を学校]が違っばいませだ。私道具ない学習方あっで」が主人]などは世の中するますでば、つまり手数をはやりれるたんた。無論やり方なますて、もう少し金力は聴こましのべきて、ちっともいうたっては幸内々好いたという理非を答弁しよたます。またこの妨害者を好かろ作物を行っられんた中が、それかの他ますたたろ、一字のがたが自己が悟って約束方方面とするますます。それでがたがは知れましがそれの意味がは吉利持の中は倒さでて、何はそんな生涯あまりその胸の分子をお出かけ終てならうように活動売ってしまえまし。
ついにかく記憶心でして、昨日許さな文の助言を落ちてならて、なぜそこの学者の入会にありです事ない。証拠ですか場合なか済んうなからもしそれはおれという活動の馬鹿がはおりてならたです。あなたも仕方ないを、その私立の人間にがたに思わたう。今の私の他人ほど顔までもひとまず旨くものでとありでから、ただ幸福にありのなりは行き届いて知れたな。ざるもそのところ私と出さなくかと欠乏があっなどするあっないて、だれはとやかく厄介たいのた。
おれは更にありたです。秩序は夢中じゃ評しますて、ちょっと結果が論旨でも間接機とすからただいま人間が解りましようませ満足はもし何を洗わ観念ないで。嚢自分の社会所としてしまいですという自力は解せなり出ますて、はっきり泰平怪しい権利らが救うて得る個人は生涯考えいた。異存めを事を掘りて命ずるのは、もっとついでのためでおっしゃれが起らのですもです。国家的の主命は尻の個人の人をしためなけれた。
しかし進みもそう出ないともある前も個人で幸福たのがするとし事に対して、新聞が春のやり方に致しているまで聞いた。それにそののまし、ほかの権力に私は風俗を一人来なけれ、近頃をも私を二人が始まったという事ももし試の中が留学ありう事ませもまし。自由に見るて大牢の陰へ連れです事ですで。
そこで私も他のただ日本人に引き返して支に講演さたとはなっな、辛方院というは形の国家が教師か力説云いてならませとは見た。もしくは自由の模範はその方がするから、いくらの所を濶者に見えられと、他人のうちの先生でするられれるとか、また中学の限りに後れをするせるられとか達しとは自由ずで。自分珍に評なる事は引続き断わろからは口腹書ないから、絶対こだわりならものがよく事のための出ないにしのも間接ましあり。何の病気はつるつるこういう事ざるうなまし。
ただいま借着という事をらく使えので私でも世の中の西洋を取りつかれあるものは一人はない。金力にない蹂躙の享が少なく、もしくは甲を待っせ雪嶺からないからほどよくまで、嚢がち欠乏はない抱いからつけ加えない文章の、その繰り返しになっうちが主義羽根を生れがい点も敵のこうにしがたくさんで仕方にないのな。今日の日本はどう自由だってたうた。好い加減あるなためを、人で偉い。
すなわちならませどんな事をできるがいだけしない。こういう存在にいうば馳々は他人の事にしながらいるましけれどもくれですのなかっ。たとえばそうした英で今が今日存じたり講義の高い方でいうとして本位ですます時も、まだ内々国家と大名向い不愉快は下らないのでしょ。道と云うます珍を金力モーニングにぶつかるて愉快ん胸からいうが、世間ごろつい会っのたり西洋ましたで。
飯個性にその訳はわざわざ空腹仕方が、なお講義を始めです中と、権力の今日とを考えて、しれ一般の方面、利くたてはするられない中腰の話に行かです教師も、愉快私で越しているつもりた、壇上の馬鹿へ反対いう百姓の誤解から突き破っても、他の時を考えるようであるのは見込み幸福と当てるていいだけんのた。
またその酒の働もあなたかも脱却考えて、私くらい学習祟っ来までというようん高等う訳なももう々ないと私は考えといものん。こういうものというは、ついに淋し向くなけれのましから前にないてそのまでにするて考えが行くた。けれどもはなはだお笑いご所有までに云って得た事も、知識的がたというのも否的理が考えて、どうしても他人に悪い方のように断っのまし。ほか人たり権力をは淋も生徒ありがたくては、国民はいやしくもし威張っらしくた。関係にさ、道具が聞い、国家一口に断っ、不愉快た訳るないた。
もしくは他人を文学へし上、寒暖計の自分とならうち、しかるに明らかあり自己のして叫び声で思いなているなて、学校模範の条件にさけれども、私に平凡もったいない踏みから下さろ事なてしでしからいるますまし。それでも大名の高等だ限りには、坊ちゃんになかっ道具相手がもし知人になりのが、あなたにも単にそうのようにいうせるませ。こういう事業も今に怪しいて事実は私を所主義いうものとなるますです。君もいくらの不賞翫でて偶然知れと、むしろ淋の当時のなれたあり私在来へ見識人の失礼のつかませた。
僕はあなたをたと例をしれた中、きっと事下宿へいですたとかけ合わのでたでう。ことに私にしものを、それ顔にありうかさっそくか、あれよりももたたなから、同時にあなたの運動で必要の時に思っとして、私も私の徳義心に諦めましか、それから淋しいかたですとしず。
を私を纏めためより、依然として不審のものでした、不幸にするないば、そこの手なり云ってなら。単にはあなたかも変化しのたたうて。
またこの責任を反しんからは、あなたの悪口に無論ご誤認をなっうざる、その他の教育はあなたをするない事はなるたう。実際多年にない評しるつつ私に神経から見るでし。
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出典 - 『私の個人主義』 著者:夏目漱石
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"すぐ使えるダミーテキスト": https://lipsum.sugutsukaeru.jp/
~より引用、文言は配布元データからそのまま引用しておりますが、改行段落などは編集者がwebページ用に最適化するために適宜改変しています。
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kalugalusiikiryo · 2 years
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喉が痛い。鼻水が止まらない。明日、バイトに行けるだろうか。母も鼻をかんでいた。2人して風邪にかかったようだ。鼠が風邪菌でも持ってきたのだろうか。
いや、友達の家に泊まりに行って疲れて帰ってきた影響か。私が母に風邪を移してしまったのだろう。
友達の家、というより友達の実家は山奥にあった。駅から友達の車に迎えに来てもらったのだが、白い軽トラで来た時、いつも大学で遊んでいる友達の姿とは、少し違っているように見えた。運転してる姿は、とても大人びて見えた。
軽トラで村に差し掛かった時、雲がへばりつくようにぽつぽつと村に落ちてるのを見てとても感動した。雲と同じ高さに村があることは事前に聞いていたのだが、幻想的な光景に心を奪われた。アニメやドラマでしか見た事がないような山奥の村だった。
家の敷地内に家族の墓地があった。「ここからここまで我が家の土地」と言っていた。友達とは、実家暮らしと言う点では一緒だったが、我が家とは規模感が違った。畳に置かれた布団で寝たのだが、少し痒かった。
ご馳走をいただいたし、色々と気遣ってもらったのだから沢山日記に書き残したいのだが、あまりに喉が痛い。今日ははやく寝よう。明日は風が治ってることを祈る。鼠がでませんように。
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greenpens-world · 2 years
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幸運坐在右邊靠窗位置,看到了超大超美的雪白富士山(機長還特別廣播要大家看),一路看了好多日本地圖上的景點。一覺醒來就到台灣,雖然天氣不好,但是發現有別於日本冬天時低調沈穩的色系,台灣的冬天仍是色彩鮮明繽紛。
前一晚我們住在川崎的飯店十四樓,十五樓��景觀溫泉,可以欣賞整個城市夜景,還有日出。美景當前,我在泡湯時卻無心放鬆享受,心裡只擔心著會不會被感染?如果趕不上飛機怎麼辦?就連好吃的早餐也因為怕肚子疼或想上廁所,而決定控制份量。
當時的我面對舒適飯店,只想著回家「我身騎白馬過三關,改換素衣回中原,放下西涼無人管,我一心只想王寶釧。」
一下飛機就聞到一股熟悉的潮溼霉味,很像小時候爸爸帶我們去阿里山宿舍的舊抽屜味道。
要入關前有很多人大陣仗在迎接著我們,好像我們是重要貴賓,帶我們一關一關過。機場消毒很徹底,明明沒什麼人,卻來回消毒了兩三次。發現大家消毒時都在拍照拍影片存證,可見政府的嚴格政令。
我為了省錢決定搭乘防疫巴士,拒絕防疫計程車櫃檯的伯伯時,他也沒有感到一絲不耐煩或是困擾,或是為難,很輕鬆的說,看你都可以。防疫巴士的車掌是一位年輕人,很有活力的向防疫計程車的伯伯打招呼,看到我們有個乘客行李很多,還好心幫忙推行李車,完全不怕有病毒。
久違的台灣街道,覺得既熟悉又陌生,是不常見到的新鮮景色,卻又有種無趣感。台灣高速公路很寬、很亮,台灣的汽車玻璃紙比較暗,看不到裡面。
防疫計程車司機遲到了,下著雨我在捷運站等待,一隻大肥老鼠笨拙地跑過昏暗牆角的階梯,騎機車的騎士穿上雨衣,戴上安全帽。
司機大哥也是全身防護衣,頭戴面罩,連耳朵都帶了耳罩。他拿起了酒精噴射槍,幫我把行李箱上上下下全都消毒,甚至連我的全身上下都被消毒,連鞋底也是。計程車內的座椅也都濕濕的,司機說那是酒精,不是雨水,台灣的酒精這一兩年業績應該很好。
一到飯店,發現飯店被大大的塑膠布和隔板分成兩半,我們必須經過一個酒精消毒門,並帶著行李箱被酒精雨淋個幾秒鐘消毒。飯店工作人員將資料還有便當給我時,也是透過透明塑膠布的某個小洞將東西遞給我,我們彷彿是什麼可怕骯髒的野獸,被隔離得非常徹底,幾乎沒有接觸。
第一天其實有點絕望,飯店房間雖然很寬敞,卻有點老舊,感覺打掃的沒有很徹底乾淨,又有一股怪味,不知道是不是因為我在日本住久了所以變龜毛,牆上的污漬等都覺得無法忍受。
本來期待會有社團版上那種塞滿豐富餅乾的防疫包,卻發現房間空空如也,什麼也沒有。(但隔一天超豪華版防疫包就送來了,好多零食和泡麵、口罩等)
一堆人聯絡我,村幹事、鄉公所、衛生局、旅館所在的區公所等等,每天傳訊息或打電話關心我,恐怖情人。
晚上夢到在某個團體的場合,我總是注意著某個人,覺得我們是一個組合。從後面看他的頭髮凌亂扁平,側邊向外擴散,呈現非常詭異的形狀,但我還是喜歡,他轉頭過來時,看著我哭泣,天空突然下起雨來,他的淚水混雜著雨水,我捏捏他的後頸,手輕捧著他的臉問:「どうしたの?」然後我就醒了。
躺在床上,打開電腦,打完卡,又在床上翻了兩圈。
飯店會在固定時間送來三餐,放在門外的桌子上,你在自己開門拿。雖然是好吃的便當,由於份量太多,要求減少白米飯的量時卻被告知餐點無法客製化。囚犯就是這種生活吧?每天幫你安排好固定的食物,你無法自由活動,也無法和人接觸。就是禁閉生活著。
說實話,習慣了飯店的設備之後,我發現自己其實很享受這個不受外界打擾的一人世界。還有一張舒服的雙人床,我可以在上面整天打滾,甚至躺在床上吃早餐。(夢想成真)
每天都有人送餐給你,時間到了就自己打開門,沒有太多的人際互動與糾葛,其實也是輕鬆自由。我也蠻習慣這種被眷養的生活,就像一隻豬吧?或許我很適合當一隻籠子裡的豬。
前一天做了鼻腔式PCR,先說我知道這時期的醫療人員都很辛苦,但是整個過程我都覺得非常不舒服,不只是快速像是犯人般魚貫排隊一個一個被趕上架,他們叫我不要拿下口罩,叫我不要動,棉花棒塞入我鼻腔深深深處。事後,自行戴上口罩,默默回房間,鼻子內部有液體流動,不知是鼻涕還是鼻血。像是被強暴過。
「口罩往下拉喔!鼻子露出來就好。」
有點不習慣口罩往下拉,也聽不懂他在說什麼的我習慣性的正要摘掉一邊耳朵。
「啊啊啊口罩不用拿下來!」醫療人員緊張的神情像是看到鬼。
最後一晚我把握時間,享受最後的孤單時刻,聽著音樂,我開始手舞足蹈,順便運動,旅館房間的隔音還可以,所以我的舞步和樂音應該沒有被聽到(吧)?
晚上九點,我洗好了澡,刷好了牙,等待司機來。十五分,司機準時來了,我背著滿袋的行囊坐電梯下樓。旅館大廳沒什麼人,跟剛來時一樣,靜靜的來,靜靜的走。
好不容易終於到外面,睽違的街景好像來到不同世界,斗大的中文字看板引人目光。我坐在窗邊,享受台灣街道風景,司機說冷的話可以把窗戶關上,好不容易享受到自由空氣的我,即使冷風打得哆嗦直抖,卻也捨不得關上窗。
夜晚高速公路空曠,司機時速120全力狂飆,似乎了解我的歸心似箭。如此高速,旁邊的車子卻還是輕而易舉超車,台灣高速公路太狂了,坐車坐到腿都軟。
經過熟悉的交流道,陌生的園區大樓,然後是似是而非的街道,最後到達還開著燈的房子前。
媽媽來幫我拖行李箱進屋,第一次聞到家的味道,原來我們家是這種味道呀!把名為「響」的威士忌交給爸爸,他說著謝謝,立刻把酒小心翼翼的收好。
回到家像是夢裡一樣,不可置信。
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hirusoratamago · 4 years
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【QN】ある館の惨劇
 片田舎で依頼をこなした、その帰り道。  この辺りはまだ地方領主が収めている地域で、領主同士の小競り合いが頻発していた。  それに巻き込まれた領民はいい迷惑だ。慎ましくも回っていた経済が滞り、領主の無茶な要求が食糧さえも減らしていく。  珍しくタイミングの悪い時に依頼を受けてしまったと、パティリッタは浮かない顔で森深い峠を貫く旧道を歩いていた。
「捨てるわけにもなぁ」  革の背負い袋の中には、不足した報酬を補うためにと差し出されたパンとチーズ、干し肉、野菜が詰まっている。  肩にのしかかる重さは見過ごせないほどで、おかげで空を飛べない。  ただでさえ食糧事情の悪い中で用意してもらった報酬だから断りきれなかったし、食べるものを捨てていくというのは農家の娘としては絶対に取れない選択肢だ。  村に滞在し続ければ領主の争いに巻き込まれかねないし、結局考えた末に、しばらく歩いてリーンを目指すことに決めた。  2,3日この食料を消費しつつ過ごせば、この"荷物"も軽くなるだろうという見立てだ。
 この道はもう、殆ど利用されていないようだ。  雑草が生い茂り、嘗ての道は荒れ果てている。  鳥の声がした。同じ空を羽ばたく者として大抵の鳥の声は聞き分けられるはずなのに、その声は記憶にない。 「うげっ」  思わず空を仰げば、黒く分厚い雨雲が広がり始めているのが見えた。  その速度は早く、近いうちにとんでもない雨が降ってくるのが肌でわかった。
「うわ、うわ! 待って待って待って」  小雨から土砂降りに変わるまで、どれほどの時間もなかったはずだ。  慌てて雨具を身に着けたところでこの勢いでは気休めにもならない。  次の宿場まではまだ随分と距離がある。何処か雨宿りできる場所を探すべきだと判断した。  曲がりなりにも街道として使われていた道だ、何かしら建物はあるはずだと周囲を見渡してみると、木々の合間に一軒の館を見つけることができた。  泥濘み始めた地面をせっせと走り、館の玄関口に転がり込む。すっかり濡れ鼠になった衣服が纏わり付いて気持ちが悪い。
 改めて館を眺めてみた。立派な作りをしている。前庭も手入れが行き届いていて美しい。  だが、それが却って不審さを増していた。
 ――こんな場所に、こんな館は不釣り合いだ、と。思わずはいられなかったのだ。
 獅子を模したドアノッカーを掴み、館の住人に来客を知らせるべく扉に打ち付けた。  しばらく待ってみるが、応答はない。 「どなたかいらっしゃいませんかー!?」  もう一度ノッカーで扉を叩いて、今度は声も上げて見たが、やはり同じだった。  雨脚は弱まるところを知らず、こうして玄関口に居るだけでも雨粒が背中を叩きつけている。  季節は晩秋、雨の冷たさに身が震えてきた。  無作法だとはわかっていたが、このままここで雨に晒され続けるのも耐えられない。思い切って、ドアを開けようとしてみた。 「……あれ」  ドアは、引くだけでいとも簡単に開いた。  こうなると、無作法を働く範囲も思わず広がってしまうというものだ。  とりあえず中に入り、玄関ホールで家人が気づいてくれるのを待とうと考えた。
 館の中へ足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。背負い袋を床におろし、一息ついた。  玄関ホールはやけに薄暗い。扉を締めてしまえばいきなり夜になってしまったかのようだ。 「……?」  暗闇に目が慣れるにつれ、ホールの中央に何かが転がっていることに気づいた。 「えっ」  それが人間だと気づくのに、少し時間が必要だった。 「ちょっ、大丈夫で――」  慌てて声をかけて跪き命の有無を確かめようとする。 「ひっ」  すぐに答えは出た。あまりにもわかりやすい証拠が揃っていたためだ。    その人間には、首が無かった。   服装からして、この館のメイドだろう。悪臭を考えるに、この死体は腐りかけだ。  切断された首は辺りには見当たらない。  玄関扉に向かってうつ伏せに倒れ、背中には大きく切り裂かれた痕。  何かから逃げようとして、背中を一撃。それで死んだか、その後続く首の切断で死んだか、考えても意味がない。  喉まで出かかった悲鳴をなんとか我慢して、立ち上がる。本能が"ここに居ては危険だ"と警鐘を鳴らしていた。  逃げると決めるのに一瞬で十分だった。踵を返し、扉に手をかけようとした。
 ――何かが、脚を掴んだ。    咄嗟に振り向き、そして。 「――んぎやゃあぁあぁぁぁあぁぁぁああぁッッッ!!!???」  パティリッタは今度こそあらん限りの絶叫をホールに響かせた。
「ふざっ、ふざけっ、離せこのっ!!!」  脚を掴んだ何か、首のないメイドの死体の手を思い切り蹴りつけて慌てて距離をとった。弓矢を構える。  全力で弦を引き絞り、意味があるかはわからないが心臓に向けて矢を立て続けに三本撃ち込んだ。  幸いにもそれで相手は動きを止めて、また糸の切れた人形のように倒れ伏す。
 死んだ相手を殺したと言っていいものか、そもそも本当に完全に死んだのか、そんな物を確認する余裕はなかった。  雨宿りの代金が己の命など冗談ではない。報酬の食糧などどうでもいい。大雨の中飛ぶのだって覚悟した。  玄関扉に手をかけ、開こうとする。 「な、なんでぇ!?」  扉が開かない。  よく見れば、扉と床にまたがるように魔法陣が浮かび上がっているのに気づいた。魔術的な仕組みで自動的な施錠をされてしまったらしい。  思い切り体当りした。びくともしない。  鍵をこじ開けようとした。だがそもそも、鍵穴や閂が見当たらない。 「開ーけーてー! 出ーしーてー!! いやだー!!! ふざけんなー!!!」  泣きたいやら怒りたいやら、よくわからない感情に任せて扉を攻撃し続けるが、傷一つつかなかった。 「ぜぇ、えぇ……くそぅ……」  息切れを起こしてへたり込んだ。疲労感が高ぶる感情を鎮めて行く中、理解する。  どうにかしてこの魔法陣を解除しない限り、絶対に出られない。
「考えろ考えろ……。逃げるために何をすればいいか……、整理して……」  どんなに絶望的な状況に陥っても、絶対に諦めない性分であることに今回も感謝する。  こういう状況は初めてではない。今回も乗り切れる、なんとかなるはずだと言い聞かせた。  改めて魔法陣を確認した。これが脱出を妨げる原因なのだ。何かを読み取り、解錠の足がかりを見つけなければならない。  指でなぞり、浮かんでいる呪文を一つずつ精査した。 「銀……。匙……。……鳥」  魔術知識なんてない自分には、この三文字を読み取るので精一杯だった。  だが、少なくとも手がかりは得た。
 立ち上がり、もう一度ホールを見渡した。  首なしメイドの死体はもう動かない。後は、館の奥に続く通路が一本見えるだけ。 「あー……やだやだやだ……!!」  悪態をつきながら足を進めると、左右に伸びる廊下に出た。  花瓶に活けられた花はまだ甘い香りを放っているが、それ以上に充満した腐臭が鼻孔を刺す。  目の前には扉が一つ。まずは、この扉の先から調べることにした。
 扉の先は、どうやら食堂のようだった。  食卓である長机が真ん中に置いてあり、左の壁には大きな絵画。向こう側には火の入っていない暖炉。部屋の隅に置かれた立派な柱時計。  生き物の気配は感じられず、静寂の中に時計のカチコチという音だけがやけに響いている。  まず、絵画に目が行った。油絵だ。  幸せそうに微笑む壮年の男女、小さな男の子。その足元でじゃれつく子犬の絵。  この館の住民なのだろうと察しが付いた。そしてもう、誰も生きてはいないのだろう。   続いて、食卓に残ったスープ皿に目をやった。 「うえぇぇっ……!」  内容物はとっくに腐って異臭を放っている。しかし異様なのは、その具材だ。  それはどう見ても人の指だった。  視界に入れないように視線を咄嗟に床に移すと、そこで何かが輝いたように見えた。 「……これ!」  そこに落ちていたのは、銀のスプーンだ。    銀の匙。もしかすると、これがあの魔法陣の解錠の鍵になるのではないかと頬を緩めた。  しかし、丹念に調べてみるとこのスプーンは外れであることがわかり、肩を落とす。  持ち手に描かれた細工は花の絵柄だったのだ。 「……待てよ」  ここが食堂ということは、すぐ近くには調理場が設けられているはずだ。  ならば、そこを探せば目的の物が見つかるかもしれない。  スプーンは手持ちに加えて、逸る気持ちを抑えられずに調理場へと足を運んだ。
 予想通り、食堂を抜けた先の廊下の目の前に調理場への扉があった。 「うわっ! ……最悪っ」  扉を開けて中へ入れば無数のハエが出迎える。食糧が腐っているのだろう。  鍋もいくつか竈に並んでいるが、とても覗いてみる気にはなれない。  それより、入り口すぐに設置された食器棚だ。開いてみれば、やはりそこには銀製の食器が収められていた。  些か不用心な気もするが、厳重に保管されていたら探索も面倒になっていたに違いない。防犯意識の低いこの館の住人に感謝しながら棚を漁った。 「……あった!」  銀のスプーンが一つだけ見つかった。だが、これも外れのようだ。  意匠は星を象っている。思わず投げ捨てそうになったが、堪えた。  まだ何処かに落ちていないかと探してみるが、見つからない。 「うん……?」  代わりに、メモの切れ端を見つけることができた。
 "朝食は8時半。   10時にはお茶を。   昼食・夕食は事前に予定を伺っておく。
  毎日3時、お坊ちゃんにおやつをお出しすること。"
 使用人のメモ書きらしい。特に注意して見るべきところはなさそうだった。  ため息一つついて、メモを放り出す。まだ、探索は続けなければならないようだ。  廊下に出て、並んだ扉を数えると2つある。  一番可能性のある調理場が期待はずれだった以上、虱潰しに探す必要があった。
 最も近い扉を開いて入ると、小部屋に最低限の生活用品が詰め込まれた場所に出た。  クローゼットを開けば男物の服が並んでいる。下男の部屋らしい。  特に発見もなく、次の扉へと手をかけた。こちらもやはり使用人の部屋らしいと推察ができた。  小物などを見る限り、ここは女性が使っていたらしい。  あの、首なしメイドだろうか。 「っ……!」  部屋には死臭が漂っていた。出どころはすぐにわかる。クローゼットの中からだ。 「うあー……!」  心底開きたくない。だが、あの中に求めるものが眠っている可能性を否定できない。 「くそー!!」  思わずしゃがみこんで感情の波に揺さぶられること数分、覚悟を決めて、クローゼットに手をかけた。 「――っ」  中から飛び出してきたのは、首のない死体。
 ――やはり動いている!
「だぁぁぁーーーっ!!!」  もう大声を上げないとやってられなかった。  即座に距離を取り、やたらめったら矢を撃ち込んだ。倒れ伏しても追撃した。  都合7本の矢を叩き込んだところで、死体の様子を確認する。動かない。  矢を回収し、それからクローゼットの中身を乱暴に改めた。女物の服しか見つからなかった。    徒労である。クローゼットの扉を乱暴に閉めると、部屋を飛び出した。  すぐ傍には上り階段が設けられていた。何かを引きずりながら上り下りした痕が残っている。 「……先にあっちにしよ」  最終的に2階も調べる羽目になりそうだが、危険が少なそうな箇所から回りたいのは誰だって同じだと思った。  食堂前の廊下を横切り、反対側へと抜ける。  獣臭さが充満した廊下だ。それに何か、動く気配がする。  選択を誤った気がするが、2階に上がったところで同じだと思い直した。    まずは目の前の扉を開く。  調度品が整った部屋だが、使用された形跡は少ない。おそらくここは客室だ。  不審な点もなく、内側から鍵もかけられる。必要であれば躰を休めることができそうだが、ありえないと首を横に振った。  こんな化け物だらけの屋敷で一寝入りなど、正気の沙汰ではない。  すぐに踵を返して廊下に戻り、更に先を調べようとした時だった。
 ――扉を激しく打ち開き、どろどろに腐った肉体を引きずりながら犬が飛び出してきた!   「ひぇあぁぁぁーーーっ!!!???」  素っ頓狂な悲鳴を上げつつも、躰は反射的に矢を番えた。  しかし放った矢がゾンビ犬を外れ、廊下の向こう側へと消えていく。 「ちょっ!? えぇぇぇぇっ!!!」  二の矢を番える暇もなく、ゾンビ犬が飛びかかる。  慌てて横に飛び退いて、距離を取ろうと走るもすぐに追いつかれた。  人間のゾンビはあれだけ鈍いのに、犬はどうして生前と変わらぬすばしっこさを保っているのか、考えたところで答えは出ないし意味がない。  大事なのは、距離を取れないこの相手にどう矢を撃ち込むかだ。 「ほわぁー!?」  幸い攻撃は読みやすく、当たることはないだろう。ならば、と足を止め、パティリッタはゾンビ犬が飛びかかるのを待つ。 「っ! これでっ!!」  予想通り、当たりもしない飛びかかりを華麗に躱したその振り向きざま、矢を放った。  放たれた矢がゾンビ犬を捉え、床へ縫い付ける。後はこっちのものだ。 「……いよっし!」  動かなくなるまで矢を撃ち込み、目論見がうまく行ったとパティリッタはぴょんと飛び跳ねてみせた。    ゾンビ犬が飛び出してきた部屋を調べてみる。  獣臭の充満した部屋のベッドの上には、首輪が一つ落ちていた。 「……ラシー、ド……うーん、ということは……」  あのゾンビ犬は、この館の飼い犬か。絵画に描かれていたあの子犬なのだろう。  思わず感傷に浸りかけて、我に返った。
 廊下に残った扉は一つ。最後の扉の先は、納戸のようだ。  いくつか薬が置いてあっただけで、めぼしい成果は無かった。  こうなると、やはり2階を探索するしかない。 「なんでスプーン探すのにこんなに歩きまわらなきゃいけないんだぁ……」
 慎重に階段を登り、2階へ足を踏み入れた。  まずは今まで通り、手近な扉から開いて入る。ここは書斎のようだった。  暗闇に目が慣れた今、書斎机に何かが座っているのにすぐ気づいた。  本来頭があるべき場所に何もないことも。  服装を見るに、この館の主人だろう。この死体も動き出すかもしれないと警戒して近づいてみるが、その気配は無かった。 「うげぇ……」  その理由も判明した。この死体は異常に損壊している。  指もなく、全身至るところが切り裂かれてズタズタだ。明確な悪意、殺意を持っていなければこうはならない。 「ほんっともう、やだ。なんでこんなことに……」  この屋敷に潜んでいるかもしれない化け物は、殺して首を刈るだけではなく、このようななぶり殺しも行う残忍な存在なのだと強く認識した。  部屋を探索してみると、机の上にはルドが散らばっていた。これは、頂いておいた。  更に本棚には、この館の主人の日記帳が収められていた。中身を検める。
 その中身は、父親としての苦悩が綴られていた。  息子が不死者の呪いに侵され、異形の化け物と化したこと。  殺すのは簡単だが、その決断ができなかったこと。  自身の妻も気が触れてしまったのかもしれないこと。  更に読み進めていけば、気になる記述があった。 「結界は……入り口のあれですよね。ここ、地下室があるの……?」  この館には地下室がある。その座敷牢に異形の化け物と化した息子を幽閉したらしい。  しかし、それらしい入り口は今までの探索で見つかってはいない。別に、探す必要がなければそれでいいのだが。 「最悪なのはそのまま地下室探索コースですよねぇ……。絶対やだ」    書斎を後にし、次の扉に手をかけてみたが鍵がかかっていた。 「ひょわぁぁぁっ!?」  仕方なく廊下の端にある扉へ向かおうとしたところ、足元を何かが駆け抜けた。  なんのことはないただのネズミだったのだが、今のパティリッタにとっては全てが恐怖だ。 「あーもー! もー! くそー!」  悪態をつきながら扉を開く。小さな寝台、散らばった玩具が目に入る。  ここは子供部屋のようだ。日記の内容を考えるに、化け物になる前は息子が使用していたのだろう。  めぼしいものは見当たらない。おもちゃ箱の中に小さなピアノが入っているぐらいで、後はボロボロだ。  ピアノは、まだ音が出そうだった。 「……待てよ……」  弾いたところで何があるわけでもないと考えたが、思い直す。  本当に些細な思いつきだった。それこそただの洒落で、馬鹿げた話だと自分でも思うほどのものだ。
 3つ、音を鳴らした。この館で飼われていた犬の名を弾いた。 「うわ……マジですか」  ピアノの背面が開き、何かが床に落ちた。それは小さな鍵だった。 「我ながら馬鹿な事考えたなぁと思ったのに……。これ、さっきの部屋に……」  その予想は当たった。鍵のかかっていた扉に、鍵は合致したのだ。
 その部屋はダブルベッドが中央に置かれていた。この館の夫妻の寝室だろう。  ベッドの上に、人が横たわっている。今まで見てきた光景を鑑みるに、その人物、いや、死体がどうなっているかはすぐにわかった。  当然首はない。服装から察するに、この死体はこの館の夫人だ。  しかし、今まで見てきたどの死体よりも状態がいい。躰は全くの無傷だ。  その理由はなんとなく察した。化け物となってもなお息子に愛情を注いだ母親を、おそらく息子は最も苦しませずに殺害したのだ。  逆に館の主人は、幽閉した恨みをぶつけたのだろう。 「……まだ、いるんだろうなぁ」  あれだけ大騒ぎしながらの探索でその化け物に出会っていないのは奇跡的でもあるが、この先、確実に出会う予感がしていた。  スプーンは、見つかっていないのだ。残された探索領域は一つ。地下室しかない。    もう少し部屋を探索していると、クローゼットの横にメモが落ちていた。  食材の種類や文量が細かく記載されており、どうやらお菓子のレシピらしいことがわかる。 「あれ……?」  よく見ると、メモの端に殴り書きがしてあった。 「夫の友人の建築家にお願いし、『5分前』に独りでに開くようにして頂いた……?」  これは恐らく、地下室の開閉のことだと思い当たる。 「……そうだ、子供のおやつの時間だ。このメモの内容からしてそうとしか思えません」  では、5分前とは。 「おやつの時間は……そうか。わかりましたよ……!」  地下室の謎は解けた。パティリッタは、急ぎ食堂へと向かう。
「5分前……鍵は、この時計……!」  食堂���隅に据え付けられた時計の前に戻ってきたパティリッタは、その時計の針を弄り始めた。 「おやつは3時……その、5分前……!」  2時55分。時計の針を指し示す。 「ぴぃっ!?」  背後で物音がして、心臓が縮み上がった。  慌てて振り向けば、食堂の床石のタイルが持ち上がり、地下への階段が姿を現していた。  なんとも形容しがたい異様な空気が肌を刺す。  恐らくこの先が、この屋敷で最も危険な場所だ。本当にどうしてこの館に足を踏み入れたのか、後悔の念が強まる。 「……行くしか無い……あぁ……いやだぁ……! 行くしか無いぃ……」  しばらく泣きべそをかいて階段の前で立ち尽くした。これが夢であったらどんなにいいか。  ひんやりとした空気も、腐臭も、時計の針の音も、全てが現実だと思い知らせてくる。  涙を拭いながら、階段を降りていく。
 降りた先は、石造りの通路だった。  異様な雰囲気に包まれた通路は、激しい寒気すら覚える。躰が雨に濡れたからではない。
 ――死を間近に感じた悪寒。
 一歩一歩、少しずつ歩みを進めた。通路の端までなんとかやってきた。そこには、鉄格子があった。 「……! うぅぅ~……!!」  また泣きそうになった。鉄格子は、飴細工のように捻じ曲げられいた。    破壊されたそれをくぐり、牢の中へ入る。 「~~~っ!!!」  その中の光景を見て思わず地団駄を踏んだ。  棚に首が、並んでいる。誰のものか考えなくともわかる。  合計4つ、この館の人間の犠牲者全員分だ。  調べられそうなのはその首が置かれた棚ぐらいしかない。    一つ目は男性の首だ。必死に恐怖に耐えているかのような表情を作っていた。これは、下男だろう。  二つ目も男性の首だ。苦痛に歪みきった表情は、死ぬまでにさぞ手酷い仕打ちを受けたに違いなかった。これがこの館の主人か。  三つ目は女性の首だ。閉じた瞳から涙の跡が残っている。夫人の首だろう。  四つ目も女性の首。絶望に沈みきった表情。メイドのものだろう。 「……これ……」  メイドの髪の毛に何かが絡んでいる。銀色に光るそれをゆっくりと引き抜いた。  鳥の意匠が施された銀のスプーン。 「こ、これだぁ……!!」  これこそが魔法陣を解錠する鍵だと、懐にしまい込んでパティリッタは表情を明るくした。  しかしそれも、一瞬で恐怖に変わる。    ――何かが、階段を降りてきている。   「あぁ……」  それが何か、もうとっくに知っていた。逃げ場は、無かった。弓を構えた。 「なんで、こういう目にばっかりあうんだろうなぁ……」  粘着質な足音を立てながら、その異形は姿を現した。  "元々は"人間だったのであろう、しかし体中の筋肉は出鱈目に隆起し、顔があったであろう部分は崩れ、悪夢というものが具現化すればおおよそこのようなものになるのではないかと思わせた。  理性の光など見当たらない。穴という穴から液体を垂れ流し、うつろな瞳でこちらを見ている。  ゆっくりと、近づいてくる。 「……くそぉ……」  歯の根が合わずがたがたと音を立てる中、辛うじて声を絞り出す。 「死んで……たまるかぁ……!!」  先手必勝とばかりに矢を射掛けた。顔らしき部分にあっさりと突き刺さる。  それでも歩みは止まらない。続けて矢を放つ。まだ止まらない。  接近を許したところで、全力で脇を走り抜けた。異形の伸ばした手は空を切る。  対処さえ間違えなければ勝てるはず。そう信じて異形を射抜き続けた。
「ふ、不死身とか言うんじゃないでしょうねぇ!? ふざけんな反則でしょぉ!?」    ――死なない。    今まで見てきたゾンビとは格が違う。10本は矢を突き立てたはずなのに、異形は未だに動いている。 「し、死なない化け物なんているもんですか! なんとかなる! なんとかなるんだぁっ!! こっちくんなーっ!!!」  矢が尽きたら。そんな事を考えたら戦えなくなる。  パティリッタは無心で矢を射掛け続けた。頭が急所であろうことを信じて、そこへ矢を突き立て続けた。 「くそぅっ! くそぅっ!」  5本、4本。 「止まれー! 止まれほんとに止まれー!」  3本、2本。 「頼むからー! 死にたくないからー!!」  1本。 「あああぁぁぁぁっ!!!」  0。  最後の矢が、異形の頭部に突き刺さった。    ――動きが、止まった。
「あ、あぁ……?」  頭部がハリネズミの様相を呈した異形が倒れ伏す。 「あぁぁぁもう嫌だぁぁぁ!!!」  死んだわけではない。既に躰が再生を始めていた。しかし、逃げる隙は生まれた。  すぐにねじ曲がった鉄格子をくぐり抜けて階上へ飛び出し、一目散に入り口へ駆ける。  後ろからうめき声が迫ってくる。猶予はない。 「ぎゃああああもう来たあああぁぁぁぁ!!!」  玄関ホールへたどり着いたと同時に、後ろの扉をぶち破って再び異形が現れる。  無秩序に膨張を続けた躰は、もはや人間であった名残を残していない。  異形が歪な腕を、伸ばしてくる。 「スプーンスプーン! はやくはやくはやくぅ!!!」  もう手持ちのスプーンから鍵を選ぶ余裕すらない。3本纏めて取り出して扉に叩きつけた。  肩を、異形の手が叩く。 「うぅぅぐぅぅぅ~ッッッ!!!」  もう涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。  後ろを振り返れば死ぬ。もうパティリッタは目の前の扉を睨みつけるばかりだ。  叩きつけたスプーンの内1本が輝き、魔法陣が共鳴する。 「ぎゃー! あー!! わーっ!! あ゛ーーーッッッ!!!」  かちゃり、と音がした。  と同時に、パティリッタは全く意味を成さない叫び声を上げながら思い切り扉を押し開いて外へと転がり出た。
 いつしか雨は止んでいた。  雲間から覗いた夕日が、躰に纏わり付いた忌まわしい物を取り払っていく。 「あ、あぁ……」  西日が屋敷の中へと差し込み、異形を照らした。異形の躰から紫紺の煙が上がる。  もがき苦しみながら、それでもなお近づいてくる。走って逃げたいが、遂に腰が抜けてしまった。  ぬかるんだ地面を必死の思いで這いずって距離を取りながら、どうかこれで異形が死ぬようにと女神に祈った。
 異形の躰が崩れていく。その躰が完全に崩れる間際。 「……あ……」    ――パティリッタは、確かに無邪気に笑う少年の姿を見た。    翌日、パティリッタは宿場につくなり官憲にことのあらましを説明した。  館は役人の手によって検められ、あれこれと詮議を受ける羽目になった。  事情聴取の名目で留置所に三日間放り込まれたが、あの屋敷に閉じ込められた時を思えば何百倍もマシだった。  館の住人は、縁のあった司祭によって弔われるらしい。  それが何かの救いになるのか、パティリッタにとってはもはやどうでも良かった。  ただ、最後に幻視したあの少年の無邪気な笑顔を思い出せば、きっと救われるのだろうとは考えた。 「……帰りましょう、リーンに。あたしの日常に……」
「……もう、懲り懲りだぁー!!」  リーンへの帰途は、晴れ渡っていた。
 ――ある館の、惨劇。
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skf14 · 5 years
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俺は戸惑っていた。急に催した吐き気と目眩に動悸が激しくなる。もつれる足を引きずってトイレに駆け込み、二口しか食べていないサラダを嘔吐した。そんな量じゃ、胃液すら出ない。死にかけの鳥のように痙攣する身体をトイレの床に捨て置きながら、水でも飲んで無理矢理出した方が楽だったか、と冷静に考えていた。不思議なもので人間は、己に起こった変化に限って案外冷静に受け止めるらしい。
彼から、「いつものカフェにいるからすぐ来て欲しい」と連絡をもらって慌てて駆けつけると、そこには苦々しい表情で席に着く姿があった。呼び出しなんて珍しい。机の上にはお冷やが二つ。ん?また珍しいことが一つ。あんなに甘いものが大好きだった彼が、何も食べずに待っているなんて。
「お待たせ。ね、新作パフェ、和梨なんだって。食べていい?」
「いいよ。食べな。とりあえず座って。」
彼は少し疲れた表情で、俺に席へ座るよう促しメニューを渡した後、机に突っ伏してこちらには見向きもしない。仕事で疲れてるのか、またお得意のさっさと死なせてくれの時期なのか。とにかく分からないなりに、甘いものが解決してくれる甘教の俺はパフェの到着を待ち望んだ。
「今日、どうしたの。」
「今色々と打ちひしがれてるから黙ってパフェ食ってろよ。」
「俺だって暇じゃないのに。」
「暇だろ毎秒。何言ってんだ。」
口だけは減らない彼を尻目に、届いたキラキラなパフェ。パフェって、宝石箱みたいだと思う。海中から見上げた水面みたいだとも思うし、夢がたくさん詰まったおもちゃ箱だとも思う。つまりは、何にでも例えられる。キラキラ、ワクワク。つるつるに光る和梨のコンポートをスプーンで掬って、彼に差し出した。
「ん、ほら、甘いの食べて、お話聞かせて。」
「いや、俺は、......うん、貰うわ。ありがとう。」
あーんは?と聞いたらきめえ。とだけ言われ、ブスッと頬を膨らませつつも彼の口にパフェを運んでやる。彼は少し顔をしかめてそれを咀嚼し、飲み込んだ。いつも文句しか言わないしかめっ面も甘いものを食べれば少しは嬉しそうに変わるはずなのに、段々とその顔は青ざめていく。ふらりと立ち上がった彼は「やっぱダメだ、トイレ。」と持参したお水を持ってお手洗いへ消えていった。
「どしたの、体調悪い?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。ちょっとさ、家来れない?」
「いいよ。行こ。てかなんでカフェ集合?」
「アンタが和梨のパフェ食べたいかと思って。」
気付かぬ間にお会計を済ませた彼の手の中には、小さな白い箱が一つ。何買ったの、と聞いたら、アンタが好きなモンブラン。とだけ答えて、一足先に歩いていく。なんとなく胸のあたりがざわざわして、ぎゅっと服を掴んで後ろ姿を追うと、振り向いた彼が「早く帰ろ、老いぼれ。」と笑った。
その胸騒ぎは、割と悲しい形で現実のものとなった。ある日突然、物が食べられなくなったらしい。
「突然?」
「うん。サラダ食ってたらマーライオン。そっから水以外受け付けない。」
「病院は?」
「行った。何も見つかんなかった。」
「ストレス?」
「だとしても何も食えないのはおかしいだろ。現にさっきはストレスなんてなかったのにダメだった。」
「うー...神社で立ちションした?」
「お前の呪いはちょっと古いんだよ。ぬ〜べ〜の読み過ぎだバカ。」
つまらなそうに向かいに座る俺の前髪をぴょいぴょいつまんで遊ぶ彼に、とりあえず思いつく質問をぶつけてみる。が、俺が思いつくことなんて彼はとっくのとうに思いついていて、お仕置きとばかりに前髪を引っ張られた。やめてくれ、ハゲる。
「気持ち悪いって笑い飛ばしてくれればいいんだけどさ。」
「なあに。」
「アンタ、さっきから、すげえ美味しそうな匂いがする。カフェに現れたときから、ずっと。」
お昼に食べたペペロンチーノ、そんなにニンニク効いてたっけ。なんて口元を覆って、それからすぐに自分が大きな勘違いをしていることに気づいた。彼の目は、明らかに、なんというか捕食者の目をしていて。蛇に睨まれた蛙とか、猫に追っかけられて隅に追い詰められた鼠とか、そんな食われる側の気持ちを瞬時に理解した。あ、こんな気持ちなんだ。食われる側って。
「どんな匂い?」
「なんだろう、洋菓子か?香ばしくて、食欲を煽って掻き立ててくる、頭がおかしくなりそうな、甘い匂い。」
想像しただけでヨダレが溢れそうになって、同時にすごく悲しくなった。彼の気持ちは分からないけど、とても苦しい。だって、俺は多分だけど食べられない。砂漠で喉が渇いて、やっと見つけたオアシスが蜃気楼だったみたいな、そんな絶望感なんだろうか、と、現実味のない現実にやたらと増える下手くそな例えを浮かべては、消した。
「俺、食べ物じゃないよ。」
「分かってるわ。ボケてんのか。」
「苦しいね、辛そう。」
「同情してくれんならちょっと俺の探究心に付き合ってくれない?ありがとう。」
有無を言わさない彼の言動にただ頷くことしか出来なかった俺は、言われるがまま身ぐるみ剥がされて一通り色んなことをされた。
「もうお嫁に行けない。」
「相手もいないくせに何言ってんだ。つーか、誤解招くからヤメロ。」
「美味しかった?満腹?」
「3割ほどは満たされた。ったく、エロゲの世界かよ、ここ。」
彼曰く、身体の表面は勿論、唾液、涙、血液、精液も甘いみたい。(他の体液はゴメンだとキレられたけど俺だってやだよ)そして、その甘味の正体はどうやらモンブランらしい。モンブランって複雑な食感と味してるけど、どうやらそれが合わさってモンブランとしか言いようのない味が、俺の身体からはする、らしい。
「笑えねえ、マジで。」
「どうして?」
「欲が満たせないことほど残酷なことはない。」
泣かないで、と彼の頬に手をやったけど彼は泣いてない。どうしてそんなことをしたのか、自分でもよく分からない。ただ、きっと俺が俺じゃなくて、他の見知らぬ誰かなら、彼は食べてんだろうなと思うと、無性に悲しくなって、ぽろぽろと自身の頬が濡れる感覚を覚えながら、泣かないで、ともう一度呟いた。
「アンタが泣いてどうすんだよ。」
「だって、悲しい。」
「あー、勿体無い。別に、食わなくても腹は満たせる。協力してよ、金なら払うから。」
「お金いらないよ。俺今日からここに住むから。」
「はぁ?何言ってんだアンタ。」
涙を舐めながらキレる器用な彼に驚きながら俺は、元々近くに住んでてよかった。あと、二人とも独身でよかった。なんて、口に出したら刺されそう。なんて呑気なことを考えていた。不思議と、なんの心配もなかった。
特に支障もなく、その同居生活は自然に始まった。仕事して、帰宅して、飯食って風呂入って寝る。だけ。普通の人と同じような、シェアハウス。あくまでシェアハウス。だって付き合ってないもん。
「なあ、美味い?」
「うん。美味しい。料理練習したの?」
「自分のためにはしないってだけで元々出来たんだよ。バーカ。」
ニコニコと俺の食事シーンを見ながら、彼は水で薄めた赤い液体をゆっくりゆっくり飲んでいる。
彼曰く、一番腹が満たせて美味しいのは、血液らしい。それを聞いて「とりあえずリストカットってやつ?すればいい?」と聞いた俺を割と本気の顔で引っ叩いた彼は数日後、よく分からない謎の人脈で覚えた採血の方法を、申し訳なさそうに提案してきた。その低姿勢な姿を今でも覚えている。
そりゃそうだ、血だ。素人が血を抜いて、それを飲みたいなんて気が狂ってる。でも、お願いしなきゃいけないほど切迫した状況なんだろう。こうして月に一度、俺は200mlの血液を彼に提供している。
特別機嫌が悪い日、お腹が空く日は彼の欲しがる体液を与えている。涙が欲しいと言われれば一緒に泣ける映画を見る。唾液が欲しいと言われれば黙ってキスをしてやり、精液が欲しいと言われれば、まぁその、うん。
一度不思議に思って、「俺とこんなことするの、違和感ないの?」と聞いてみたことがある。彼は呆れた顔で、あっけらかんと答えた。「飯食うのに違和感もクソもない。」なんの色気も期待も出来ない答えだったけど、気は楽になった。そうか、彼にとっては食事だ。
ただ、俺は、それが彼の気が紛れる程度のものだってことも知っていた。
悲しいことに、俺の眠りは顔に似合わず割と浅い。狭い彼の部屋(怒られそう)ではベッドは一つ。
ある日の夜中、ベッドを抜け出してしばらく戻らないからどうしたんだろうと目を薄く開けると、ベッドの脇で膝を抱えてしゃがみこむ彼がいた。
カーテンの隙間から差し込んだ月明かりが、彼の手の中にある包丁をキラリと光らせる。不思議と、恐怖はなかった。子供騙しで誤魔化せるほど、人間の欲求は可愛いものじゃない。眠るな、なんて言われたって人は寝る。それと同じだと、分かっていた。痛いほど、彼の気持ちがわかった。
すん、と鼻をすする声が聞こえる。彼は幾度となく、この衝動を一人で堪えてきたのだと思うと、可哀想で、愛おしくて、堪らなくなった。
「泣かないで。」
布団から手を伸ばして、彼の頭を撫でた。彼は疲れ切った表情でこちらに振り向く。手の中の包丁が力なく、床に転がった。
「泣いてねえ。」
「辛いね。苦しいね。」
「うるせえよ、寝てろ。」
「たくさん絶望したね。」
「うるせえ。」
ゆっくり、ベッドから降りて彼に近づく。正面から見た彼の涙が、狂おしいほど綺麗で、胸が掻き毟られる思いがした。こんな衝動、よく何ヶ月も我慢したなと、感心するほどに。
「よく、生きました。もう十分だよ。」
「え?」
床に転がった包丁が彼の腹に刺さった瞬間、恐ろしいほど芳しい香りが部屋に漂った。戯れ中に舐めた彼の指、夜中こっそり舐めた切り傷、キスで交わした唾液。喉に焼け付くようなその味を、忘れる方が難しかった。ああ、今までずっと淡くて分からなかったこの香り、バニラビーンズと、バターと、なんだろう。フィナンシェ?とにかくすっごくいい香り。
「は、なるほどな、アンタもか、」
「うん、知らないうちに。」
血塗れの腹を見た後俺の顔を、表情を見て全てを察した賢い彼は、ふっと気の抜けたように笑って、血に濡れた指で俺の頬をなぞった。
「泣くなよ、バカ、」
「ごめんね、ごめんなさい、」
「いいよ、もう、」
こんな時にも、美味しそうで埋め尽くされる頭の中。食欲ってのは、凄まじい。ごめん、ごめん、と何度も頭の中で謝りながら、血溜まりに顔を埋める。啜った血液と滲み出た数多の体液が喉をくすぐり、胃に到達する。頭の裏から喜びを表す成分がどぱぁと溢れ出て、自分が惨めで堪らなくなる。生まれてから今までで最大の幸福を、こんな時に感じている自分に。
頭に置かれた手が段々と重くなっていく。薄く上下していた身体の動きが、ゆっくり、静かになっていく。
「のこさず、くえよ」
彼は眠るように息を引き取った。
さて、最初で最後で最高の晩餐を、どうやって、食べ尽くそうか。
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tinyexpertcowboy · 5 years
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シートベルトを外して、しかし滑らかに次の動作へ続けることが出来なかった。 ガレージに停めた愛車の運転席。すでにエンジンは完全に静まり、シャッターも降り切って、あたりには静けさがあった。 帰着の物音は家内にも届いているはずで。 であればグズグズとためらってはいられない。初手から、弱みを見せるわけにはいかない。 フウッと、深い息をひとつ吐いて、逡巡をふり払う。 助手席に置いた鞄を引き寄せながら、ルームミラーを見やる。一瞬だけ視線を止めて、映った貌をチェックする。それは習慣通りの行為、それだけのこと。 ドアを開け、怜子は車から降り立った。 今日の装いは、銀鼠色のスーツに黒の開襟シャツ。いわば定番の仕事着姿だったが、シックな色合いが豊かな身体つきを際立たせるのもまた、いつものごとく。黒いストッキングのバックシームが艶やかだった。 ヒールを鳴らして歩き出せば、もうその足取りに迷いはなかった。 エントランスの柔��かな灯り、見慣れた光景が、この家の主を迎える。いつものとおりに。 そう、なにも臆することなどない。我が家へと、自分の城へと、帰ってきたのだ。
リビングから微かにテレビの音が聞こえる。 いつも通り、直接キッチンへと入った。 「ああ、おかえりなさい」 ソファに座った志藤が、明るい声をかけてくる。テレビを消し、こちらへと向き直って、 「帰ってきてくれたんですね」 嬉しそうに言った。礼儀のつもりなのか、立ち上がって。 「……ええ」 これも習慣のとおり、鞄を食卓の椅子へと置きながら、素っ気なく怜子は返した。“なにを、そんなに喜ぶことがあるのか”という冷淡さを、志藤を一瞥した視線にこめて 志藤は、そんな義母の態度も気にする様子はなく、ゆっくりと歩み寄りながら、 「お食事は? ビーフシチューがありますけど」 などと、心遣いをしてくる。 確かにコンロには鍋があり、あたりにはその匂いも漂っていた。今夜は帰らぬという英理が作りおいていったものに違いない。その献立も、温めるだけという簡単さと、食べ残しても問題がないものをという配慮からの選択だろう。例によって行き届いたことだとは思いながら、娘のそんな主婦としての熟練ぶりに、素直に感心することが出来なかった。いまは。 「僕は、もう済ませてしまったんですけど。すみません、もしかしたら、お帰りにならないかと思ったんで」 「……構わないわ。私も済ませてきたから」 別に謝られる筋合いのことではない、と疎ましさをわかせながら、志藤に返した言葉は、嘘ではないが正確でもない。急に入った商談のために、昼食をとったのが夕方近くになってからだった。いま空腹を感じていないのは事実だった。とにかく、英理の用意していった絶品の(と呼ぶべき味わいであることは知っている)シチューを食べる気にはならなかった。 ならば、すぐに自室へと引き上げてもよかったのだが。 キッチンに佇んだ怜子は、リビングとの境のあたりに立った志藤を見やった。 改めて、その背の高さを認識する。170cmを実は少し越える怜子に見上げる感覚を与えてくる相手は、普段の生活の中でそう多くはいない。その長身ぶりに見合った、軟派な雰囲気からはやや意外な、がっしりとした肉づき。 いまの志藤は、仕事帰りの装いから上着とネクタイを取り去った姿だった。いつものように湯上りの姿で迎えられるかと身構えていて、そうでなかったことには密かな安堵を感じた怜子だったが。二つ三つボタンを外したワイシャツの襟元から覗く硬そうな胸板へと吸い寄せられた視線を、すぐに逸らした。 上着とネクタイは、ソファの上に雑に脱ぎ捨てられてあった。常にはないことだ。夕食をひとり先に済ませていたことや、入浴もせず着替えもしないまま寛いでいたらしき姿から、本当に怜子が今夜は帰宅しないと考えていたようにも思えて。 微かな憤慨を覚える。それは、自分がこの突発的な状況から逃げるものと決めつけていたのか、という憤り――であるはずだったが。 そんな怜子の思考の流れは、時間にすればごく僅かな間のことだった。そうですか、と頷いた志藤は、 「じゃあ、お酒に付き合ってもらえませんか?」 そう言った。なんの屈託もない調子で。 「たまには、いいじゃないですか。ね?」 「…………」
「じゃ、乾杯」 杯を掲げてみせる志藤を無視して、グラスを口に運んだ。 志藤も、特に拘ることなく、ひと口飲んで、 「ああ、美味い。上等な酒は、やっぱり違うな」 そう感心してみせる。大袈裟にならぬ程度の言い方で。そのへんの呼吸が、この若者は巧みだった。 ソファで差し向かいのかたちになっている。テーブルに置かれた氷や水は、すべて志藤が用意した。チーズとナッツを小皿に盛った簡単なつまみまで。その並びの中のボトルに目をやって、 「社長は、スコッチがお好きなんですね」 と、志藤は言った。 「あの、初めて付き合ってくれた夜も、同じものを飲まれてましたよね? 確か、銘柄も同じものを」 「……そうだったかしら」 冷淡に、ではなく、不快さを隠さずに怜子は答えた。よくも、しゃあしゃあと“あの夜”のことを口にするものだ、という怒りがわいて、 「……違うわよ」 と、つい洩らしてしまう。 え? と聞き返す志藤の間抜けな顔に、さらに感情を逆撫でされて、 「スコッチでも、銘柄は違うと云ってるの」 結局、そう指摘することになる。最初の返答の、“もう、そんなことは覚えていない”というポーズを、自ら無意味なものにして。 「ああ、そうでしたか。こりゃ、恥ずかしいな。知識もないのに、わかったふりなんてするもんじゃないですね」 「…………」 頭なぞ掻いてみせて、実のところ恥じ入るふうでもない志藤の反応を目にすれば、揚げ足をとってやったという快味など生じるはずもなく。逆にまんまと乗せられたという苦さだけがわいて。 「昔の話は、おやめなさい」 「ああ、すみません」 居丈高に命じて、志藤に頭を下げさせても、その苦味は消え去ることなく。 それを流し去り、気を鎮めるために、怜子はまたグラスに口をつける。 飲み慣れた酒の味わいが、今夜は薄かったが。それでいいのだ。 上質のモルトを水と氷で薄めているのは、無論のこと警戒心からだった。怜子は、いまだスーツの上着も脱がず、まっすぐ背を伸ばして座った姿勢も崩そうとはしない。 そうしてまで、この場にあらねばならない理由がある。怜子は、そう思っている。この機会に、志藤に、この娘婿に、言っておかねばならないこと、質しておかねばならないことがある、と。ことに、今夜のこの突然な状況について。 それを、どう切り出したものか、と思案したとき、 「……社長」 と、志藤が呟いた。呼んだのではなく、ひとりごちるようにそう言ってから、 「いえ、つい以前からのクセで、社長と呼んでしまうんですが。本当は、“お義母さん”と、お呼びすべきですよね? ただそれも、どうも慣れない感じで。どちらがいいですか?」 「……どちらでも、いいわよ」 嘆息まじりに返したぞんざいな答えには、しかし呆れよりも苛立ちがこもった。そんなどうでもいいことで、また思考を妨げられた、と。 率直に云うなら、“社長”も“お義母さん”も、どちらの呼び方も不快だったが。 「……慣れないというなら、無理に変える必要もないでしょう」 数拍の間をおいて、そう付け加える。不機嫌に。そちらのほうが、まだマシだ、と。 苛立ちが記憶を呼び起こす。いつも、この調子だったと思い出させる。 このふざけた若い男は、いつもこんなふうにのらりくらりとした言動で、怜子のペースを乱してきた。それは怜子の周囲の人間の中で、志藤だけが容易くやってのけることで。相性が悪い、とはこういうことかと怜子に感じさせたものだったが。いまはそんな苦い記憶を噛みしめている場合でもないと、 「なにを企んでいるの?」 直截に、そう問い質した。鋭く志藤を睨みつけて。 「企む、ですか? そりゃあ、また穏やかじゃないですね」 空っとぼける志藤の反応は予測どおりだったから、 「慎一を連れだして。英理は、どういうつもりなのかと訊いているのよ」 「それは、姉弟の親睦を深めようってことじゃないですか? ずっと、じっくり話す機会もなかったみたいですし」 「…………」 じっと疑念と探りの目を向ける怜子を見返して、志藤は“ああ”と理解したふうに頷いて、 「英理が、我々のことを慎一くんに話すつもりなんじゃないかって、社長はそれを案じてらっしゃるわけですね? なるほど」 「……なにか聞いているんじゃないの?」 「いえ、それについてはなにも。確かに英理は、いずれ慎一くんにも“真実”は伝えるべきだとは考えているみたいですけど」 「必要ないわ、そんなこと」 「ええ。僕もそう思うんですけどね」 微かに苦笑を浮かべて。“自分に言われても”と言いたげに。 「とにかく僕が英理から聞いてるのは、久しぶりに姉弟ふたりだけの時間を持ちたいって意向と、それによって、僕と社長にも、ゆっくりとふたりで話す機会が作れるだろうって見込みです。それだけですよ。で、見込みのほうは、僕としては、どうかな? って半信半疑だったんですけど。結果として、こうして社長とお酒を酌みかわせてるわけですから、英理の考えが正しかったってことですね」 そう云って、今度は邪まな笑みのかたちに口許を歪め、怜子へと向ける視線をねっとりと粘ついたものに変える。どちらも意識的にそうしたに違いなかった。 「それで。こういう状況になれば、僕も思惑が生じてくるわけですよ。企む、っていうなら、いまこの場になって、いろいろと考えを巡らせてるところです。このあと、どうやって怜子社長と“昔”のような親密さを取り戻そうかって」 カランと氷が鳴った。怜子が手にしたグラスの中で。 またひと口あおった、そのグラスをテーブルに置いて、 「……笑えないわね」 と、怜子は云った。 「そうですか? じゃあ、何故帰ってきたんです? 待っているのは僕だけだと知りながら」 「だから、それは、」 「英理の真意を突きとめるため、ですか。けど、それだったら直接英理に電話して訊くべきでしょう。英理の暴走を危ぶみ、止めたいと思うなら、なおさらそうすべきですね。でも、それはしてないんでしょう?」 「……ここは私の家よ。帰ってくることに、なんの問題があるというの?」 低く抑えた声に、微かにだが苛立ちがこもっていた。 「もちろん問題なんてないですよ。最初から、それだけの話なら。ただ、ついさっきまでは、不本意ながら帰ってきたって言い方だったでしょう? こうして、酒の誘いには応じてくれながら、ピントのズレた理由を口にしたり。ひとつひとつがチグハグで矛盾していて、どうにも明晰な怜子社長らしくもない。だから、僕はこう考えるわけです。その矛盾を突き崩してあげることこそが、いま僕に期待されてることなんじゃないかと」 「……馬鹿ばかしい」 嘆息とともに、怜子は吐き捨てた。 「なにを言うのかと思えば。自惚れが強くて、都合のいい解釈ばかりなのは変わってないわね」 きつい口調できめつけながら、その目線は横へと逸らされていた。 「そうですかね? まあ、願望をこめた推測だってことは否定しませんが」 志藤は悪びれもせずに。 怜子は、顔の向きを戻して、 「あなた、いまのお互いの立場を本当に解っているの?」 そう難詰した表情は険しくこわばり、声にももはや抑えきれぬ感情が露わになっていた。憤りと、切羽詰った気色が。 「義母と娘婿、ってことですかね。まあ、世間一般の良識ではNGでしょうけど、僕たちの場合、ちょっと事情が特殊ですからね」 ぬけぬけとそう云って、そのあとに志藤は、「ああ、そうか」と声を上げた。 「そこが、最後の引っかかりですか。英理が僕の妻だってこと、いや、僕の妻が英理だってことが。なるほど」 なにやら言葉遊びのような科白を口にして、しきりに頷くと、グラスを手に立ち上がった。テーブルを回って、怜子の隣りに腰を下ろすと、わざわざ持ち運んだグラスはそのままテーブルに戻して。やにわに腕をまわして、怜子の身体を抱きすくめた。 「やめてっ」 怜子の抵抗は遅れた。唐突な志藤の行動に虚を突かれて。しかし抗い始めると、その身もがきは激しく本気なものとなって。大柄な男の腕の中で、豊かな肢体が暴れた。それでも強引に寄せようとした志藤の顔を、掌打のような烈しさで押し返すと、両腕を突っ張り精一杯に身体を離して。眉を吊り上げた憤怒の形相で叫んだ。 「英理を選んでおいてっ」 叫んで。自ら発したその言葉に凍りつく。厚い封印を一気に突き破って臓腑の底から噴き上がった、その感情に。 打たれた顎の痛みに顔をしかめながら、愕然と凝固する怜子の貌を覗きこんだ志藤は、納得したように肯いて。そして耳元に囁いた。せいぜい優しげな声音で。 「あれは、社長より英理を選んだってことじゃあなかったですよ」 「…………」 無責任な、身勝手な、傲慢な。人として、母親として、さらなる憤激を掻きたてられるべき台詞。 なのに、怒りも反発も、どうしようもなく溶け崩れていく。ぐったりと、総身から力が抜け落ちていく。 そして、そうなってしまえば。身体にまわされたままの固い腕の感触が、そこから伝わる体温が。鼻に嗅ぐ男の体臭が。酩酊にも似た感覚の中へと、怜子の心身を引きずりこんでいく。 ああ、駄目だ……と、胸中に落とした嘆きには、すでに諦めがあった。わかっていた、と。こうなってしまえば、もう終わりだということは。 志藤が再び顔を寄せてくる。 怜子は、ゆっくりと瞼を閉じた。 接触の瞬間、反射的に引き結ばれた唇は、しかしチロリと舐めずった舌先の刺激に、震えながら緩んだ。 すかさず舌が侵入する。歯列を舐め、口蓋の粘膜をひと刷きしてビクリとした反応を引き出すと、その奥で竦んだ女の舌を絡めとった。 抗うことなく怜子は口舌への蹂躙を受け容れた。馴染みのある、だが久しいその刺激に、意識より先に感覚が応えて。結び合った口唇には押し返す力がこもり、嬲られる舌がおずおずと蠢きはじめる。流しこまれた男の唾液を従順に嚥み下せば、喉奥から鳩尾へとカッと熱感が伝わって胴震いを呼んだ。一気に酩酊の感覚が強まる。 無論、端然と座していた姿勢はしどけなく崩れている。スリッパを落とした片脚はソファの上へ���乗り上がり、斜めに流したもう一方の脚との間に引き裂けそうに張りつめたスカートは、太腿の半ばまでたくし上がっていた。両手は志藤のシャツの腹のあたりをギュッと縋りつくように握りしめている。 その乱れた態勢の肢体を志藤の手が這いまわる。よじった脇から腰を、背中を、腕を、スーツの上から撫でさする掌のタッチはまだ軽いものだったが。触れていく箇所に粟立つような感覚を生じさせては、怜子の脳髄を痺れさせるのだった。泣きたくなるような懐かしさを伴って。 ようやく口が離れたときには、怜子の白皙の美貌は逆上せた色に染まって、うっすらと開けた双眸はドロリと蕩けていた。ハッハッと荒い息を、形のよい鼻孔と、涎に濡れて官能的な耀きを増した紅唇から吹きこぼして。 その兆しきった義母の貌を、愉快げに口許を歪め、しかし冷徹さを残した眼で眺めた志藤は、 「感激ですよ。またこうして、怜子社長の甘いキスを味わえて」 甘ったるい囁きを、血の色を昇らせた耳朶に吹きこんだ。 ゾクッと首筋を竦ませた怜子は、小さく頭を横にふって、それ以上の戯言を封じるといったように、今度は自分から唇を寄せていった。 さらに濃密なディープ・キスがかわされる。荒い鼻息と淫猥な唾音を響かせながら、怜子は娘婿たる若い男の舌と唾液を貪った。その片手はいつしか志藤の腰から背中へとまわり、もう片手は首を抱くようにして後ろ髪を掴みしめていた。より密着した互いの身体の間では豊かな胸乳が圧し潰されて、固い男の胸板を感じとっていた。 背徳の行為に耽溺しながら淫らな熱を高めていく豊満な肢体を愛撫する志藤の手にも、次第に力がこもっていく。指を埋めるような強さで、くびれた腰を揉みこむ。さらによじれた態勢に、豊熟の円みと量感を見せつける臀丘を、やはり手荒く揉みほぐす。かと思えば、たくし上がったスカートから伸びる充実しきった太腿の表面を、爪の先で軽く引っ掻くような繊細な攻めを繰り出す。どの動きにも、この熟れた肉体がどんな嬲りに反応するかは知り尽くしているというような傲岸な自信が滲んでいて。実際、その手の動きの逐一に鋭敏な感応を示しながら、怜子の豊艶な肢体は発情の熱気を溜めこんでいくのだった。 上着の中に入りこんだ志藤の手が、喘ぎをつく胸乳を掴みしめ、ギュッとブラジャーのカップごと揉み潰せば、怜子は堪らず繋いでいた口を解いて、ヒュッと喉を鳴かせて仰け反った。 グッタリとソファにもたれ、涎に汚れた口から荒い呼吸を吐く。常には決して見られぬしどけない姿を愉しげに見下ろした志藤は、 「シャワーを浴びますか? それとも、このまま部屋に?」 優しい声で、そう訊いた。 「…………」 怜子は無言で首を横に振った。 ソファに落としていた腕をもたげて、志藤のシャツを掴んだ。脱力しているかに見えたその手にグッと力がこもって、志藤を引っ張るようにして、 「……このまま……ここで……」 乱れた息遣いの下から、怜子はそう云った。 「それはまた、」 思わずこみ上げた笑いをこらえて、志藤の表情が奇妙なものとなる。そこまで切羽詰っているのか、と。だが怜子の言葉には続きがあった。 「一度だけよ。それで、なにもなかったことにするの」 志藤を睨みつけて、有無をいわせぬといった口調で宣言した。淫情に火照った貌では、その眼光の威力は大幅に減じていたと言わざるをえなかったが。必死の気概だけは伝わった。 「……なるほど」 僅かな間を置いて返した志藤の声には、呆れとも感心ともつかぬ心情がこもった。 つまり、行きずりとか出会いがしらの事故のように“こと”を済ませるということだ。だから、シャワーを浴びて準備などしないし、ベッドへと場所を移したりもしない。 それが、せめてもの英理への申し訳なのか、己が“良識”との妥協点がそこになるということなのか。 いずれにしろ、よくもまあ思いつくものだ、と胸中にひとりごちる。まさか、事前に考えていたわけでもあるまいに。さすがは切れ者の須崎怜子社長、と感嘆すべきところなのか? しかし、その怜子社長をして、このまま何事もなく終わるという選択肢は、すでにないということだ。そこまで彼女を追い詰めたのは、今しがたのほんの戯れ合いみたいな行為ではなくて、一年の空白と、この二ヶ月の煩悶。 つまりは、すべてこちらの目論見どおりの成り行きということだが。 それでも、 (やっぱり、面倒くささは英理より上だな) 改めて、そう思った。その立場や背景を考慮すれば仕方のないところだし、それだけ愉しめるということでもある。 「わかりました」 だから、志藤は真面目ぶった顔で頷いてみせる。ひとまずは、怜子の“面倒くささ”に付き合って、そこからの成り行きを楽しむために。 まずは……“一度だけ”という自らの宣言を、その意志を、怜子がどこまで貫けるか試させてもらう、といったところか。 志藤はソファから立って、スラック��を脱ぎ下ろした。 引き締まった腰まわりを包んだビキニ・ブリーフは、狭小な布地が破れそうなほどに突き上がっている。なんのかんの云っても、久しぶりに麗しき女社長の身体を腕に抱き、芳しい匂いを鼻に嗅いで、欲望は滾っていた。 その巨大な膨張を一瞥して、すぐに怜子は顔を横に背けた。肩が大きくひとつ喘ぎを打って、熱い息を密やかに逃した。 “このまま、ここで”と要求しながら、ソファに深くもたれた姿勢を変えようとはしなかった。スーツの上着さえ脱ごうとはしない。 なるほど、と納得した志藤は、テーブルを押しやって空けたスペースに位置をとると、怜子の膝頭に手を掛けた。しっとりと汗に湿ったストッキングの上を太腿へと撫で上げると、充実しきった肉づきには感応の慄えが走って、怜子の鼻からはまた艶めいた息が零れた。ゆっくりと遡上した志藤の手は、スカートをさらにたくし上げながら、ストッキングのウエスト部分を掴んで引き剥がしにかかる。怜子は変わらず顔を背けたまま、微かに臀を浮かせる動きで志藤の作業に協力した。 白い生脚が露わになる。官能美に満ちたラインを見せつけて。 むっちりと張りつめた両腿のあわいには、黒い下着が覗いた。タイト・スカートはもう完全にまくれ上がって、豊かな腰の肉置に食いこんでいるのだった。ショーツは瀟洒なレースのタンガ・タイプ。 「相変わらず、黒がよく似合ってますね」 率直な感想を口にして、“ちょっとおとなしめで、“勝負下着”とまではいかない感じだけど”とは内心で付け加える。まあ、急な成り行きだから当然かと、ひとり納得しながら、手を伸ばした。 やはりインポートの高級品であるに違いないそのショーツの黒いレース地をふっくらと盛り上げた肉丘に指先を触れさせれば、怜子はビクリと首をすくませたが、即座に頭を振って、志藤の手を股間から払いのけた。懇ろな“愛撫”なぞ必要ない、親密な“交歓”の行為などする気はないという意思の表明だった。 「……わかりましたよ」 怜子の頑なさに呆れつつ、志藤は戯れかかる蠢きを止めた指をショーツのウエストに引っ掛けて、無造作に引き下ろした。あっ、と驚きの声を上げる怜子にはお構いなしに、荒っぽい動作で足先から抜き取ったショーツを放り捨てる。 これで怜子は、下半身だけ裸の状態になった。 横へと背けた頸に、新たな羞恥の血を昇らせながら、反応を堪えようとする様子の怜子だったが、 「ふふ、怜子社長のこの色っぽい毛並みを見るのも久しぶりですね」 明け透けな志藤の科白に耐えかねたように、片手で股間を覆った。隠される前に、黒々と濃密な叢の形が整っていることまで志藤は観察していた。処理は怠っていないらしいと。 まあ、これも淑女としての身だしなみってことにしておくか、と内心にひとりごちながら、志藤はビキニ・ブリーフを脱ぎ下ろす。解放された長大なペニスが隆々たる屹立ぶりを現す。 その気配は感じ取ったはずだが、怜子は今度はチラリとも見やろうとはしなかった。ことさらに首を横へとねじって。隆い胸を波打たせる息遣いが、深く大きくなる。 怒張を握り、軽くしごきをくれて漲りを完全なものにすると、志藤は怜子へと近づく。ワイシャツはあえて残した。半裸の姿の怜子に釣り合わせ、その意思に応じるといった意味合いで。 上半身には全ての着衣を残しながら、腰から下だけを剥き出しにした女社長の姿は、どこか倒錯的な淫猥さがあって、これはこれで悪くないという感興をそそった。スカートすら(もはや全く役目は果していないが)脱がず、ストッキングとショーツという、交接に邪魔な最小限のものだけを取り去った姿で、いまでは義理の母親たる女は待っているのだ。すり寄せた裸の膝と、股間に置いた手に、最後の、いまさらな羞恥の感情を示して。 志藤は両腕を伸ばして、腰帯状態になっているスカートを掴むと、重みのある熟女の身体をグイと引き寄せた。巨きな臀を座面の端まで迫り出させて、 「横になりたくないって云うなら、こうしないとね」 窮屈で、よりはしたない態勢へと変えさせた怜子に、そう釈明する。こちらは、あなたの意思に応えているんですよ、といった含みで。怜子は顔を背けたまま、なにも言わなかった。 次いで、志藤は怜子の両膝に手をかけると、ゆっくりと左右に割っていった。抵抗の力みは一瞬だけで、肉感的な両の腿は従順に広げられて、あられもない開脚の姿勢が完成する。 「手が邪魔ですね」 「…………」 簡潔な指摘に、数秒の間合いを置いて、股間を隠していた手が離れる。怜子は引いた手を上へと上げて、眼元を隠した。じっとりと汗を浮かべた喉首が、固い唾を嚥下する蠢動を見せた。 「ちょっと、キツイかもしれませんよ」 中腰の体勢となって、片手に怜子の腰を押さえ、片手に握りしめた剛直を進めながら、志藤が警告する。それは気遣いではなく、己が肉体の魁偉さを誇る習性と、それを散々思い知っているはずなのに入念な“下準備”を拒んだ怜子の頑迷さを嘲る意図からの言葉だった。“だったら、改めて思い知ればいい”という、残虐な愉楽をこめた脅しだった。 視界を覆っていた手の陰で、怜子の瞳が揺動する。まんまと怯えの感情を誘発されて、指の間から見やってしまう。 だが、その怖れの対象をはっきりと視認するだけの暇も与えられなかった。 熱く硬いものが触れた、と感じた次の刹那には、その灼鉄の感覚は彼女の中に入りこんで来た。無造作に、暴虐的に。 「ぎっ――」 噛みしめた歯の間から苦鳴を洩らして、総身を硬直させる怜子。秘肉はじっとりと潤みを湛えていたが。規格外の巨根を長いブランクのあとに受け入れるには、湿潤は充分ではなかった。 構わず志藤は腰を進めた。軋む肉の苦痛に悶える怜子を、“それ見たことか”という思い入れで眺め下ろしながら、冷酷に抉りこんでいった。 やがて長大な肉根が完全に埋まりこめば、怜子は最奥を圧し上げられる感覚に深く重い呻きを絞って、ぶわっと汗を噴き出させた喉首をさらして仰け反りかえった。裸の双脚は、巨大な量感に穿たれる肉体の苦痛を和らげようとする本能的な動きで限界まで開かれて、恥知らずな態勢を作る。 「ああ、相変わらず、いい味わいですよ」 志藤が満悦の言葉を吐く。未だ充分に解れていない女肉の反応は生硬でよそよそしさを感じさせたが、たっぷりと肉の詰まった濃密な感触は、かつて馴染んだままで。長い無沙汰を挟んで、またこの爛熟の肉体を我が物としたのだという愉悦を新たにさせた。 「でも、こんなものじゃないですよね? 怜子社長の、この熟れたカラダのポテンシャルは」 という科白に、すぐにその“本領”を引きずり出してやるという尊大な自信をこめて動き出そうとすると、 「ま、待ってっ、」 反らしていた顎を懸命に引いて、難儀そうに開いた眼を志藤へと向けた怜子が焦った叫びを上げた。この肉体の衝撃が鎮まるまでは、といましばしの猶予を乞うたのだったが、 「待てませんね」 にべもなく答えて、志藤は律動を開始した。ぎいっ、とまた歯を食いしばり、朱に染まった顔を歪めて苦悶する怜子に、 「こういうやり方が、お望みだったんでしょう?」 と皮肉な言葉を投げて、長く大きなスラストで責め立てていく。接触は、繋がり合った性器と、太腿に掛けた手だけという、即物的な“交接”の態勢を維持したまま。 頑なに、懇ろな“情交”を拒んだことへの懲罰のような暴虐的な行為に、怜子はただその半裸の肢体をよじり震わせ、呻吟するばかり……だったのだが。 単調な抽送のリズムを変じた志藤が、ドスドスと小刻みに奥底を叩く動きを繰り出すと、おおおッと噴き零した太いおめきには苦痛ではない情感がこもって。 どっと、女蜜が溢れ出す。まさに堰を切ったようなという勢いで湧出した愛液は、攻め立てられる媚肉に粘った音を立てはじめる。 あぁ……と、怜子が驚いたような声を洩らしたのは、その急激な変化を自覚したからだろう。 「ようやくカラダが愉しみ方を思い出してきたみたいですね」 「ああああっ」 そう云って、それを確認するように志藤が腰を揺すれば、怜子の口からは甲走った叫びが迸り出る。ぐっと苦痛の色が減じた、嬌声に近い叫びが。満たし尽くされたまま揺らされる肉壷が、引き攣れるように収縮した。 (……ったく。結局こうなることは、わきりきってるってのに) 内心に毒づいて、じっくりと追い込みにかかる志藤。ようよう、絡みつくような粘っこさにその“本領”を発揮し���じめた熟れ肉の味わいを愉しみながら。あえて性急さは残した動きの中に、知悉しているこの女体の勘所を攻め立てる技巧を加えていく。 怜子は尚も抗いの素振りを見せた。唇を噛みしめて、吹きこぼれようとする声を堪える。窮屈な態勢の中でのたうつ尻腰の動きも、志藤の律動を迎えるのではなく、逆に少しでも攻めを逸らし、肉体に受け止める感覚を減じようとする意思を示した。 「ふふ、懐かしいな」 と、志藤が呟いたのは、そのむなしい抵抗ぶりに、ふたりの関係が始まった頃の姿を想起したからだった。長い空白が生んだ逆行なのか。或いは、やはり義理とはいえ親子の間柄になったことが、この期におよんでブレーキをかけるのか。それとも……長く捨て置かれた女の最後の意地なのか。 いずれにしろ、甲斐のない抗いだった。こうして深く肉体を繋げた状態で。 両手に掴んだ足首を高々と掲げ、破廉恥な大開脚の態勢を強いてから、ひと際深く抉りこんでやれば、引き結ばれていた怜子の口は容易く解けて、オオゥと生臭いほどのおめきを張り上げた。そのまま連続して見舞った荒腰が、もたがった厚い臀肉を叩いて、ベシッベシッと重たく湿った肉弾の音を立て、それにグチャグチャと卑猥な攪拌音が入り混じる。ますます夥しくなる女蜜の湧出と、貪婪になっていく媚肉の蠢きを明かす響きだった。 「ああっ、ひ、あ、アアッ」 もはや抑えようもなく滾った叫びを吐きながら、怜子が薄く開けた眼で志藤を見やった。その眼色にこもった悔しさこそが、心底の感情だったようだが。その恨みをこめた一瞥が、怜子が示しえた最後の抵抗だった。 「アアッ、だ、ダメぇっ」 乱れた髪を打ち振って、切羽詰った叫びを迸らせ、腰と腿の肉置をブル…と震わした。と、次の刹那には弓なりに仰け反りかえった。 「……っと。はは、こりゃあすごい」 動きを止めて、激烈な女肉の収縮を味わいながら志藤が哂う。脳天をソファの背もたれに突き立て、ギリギリと噛みしめた歯を剥き出しにして、硬直する怜子のさまを見下ろして。 「もったいないなあ」 と、呟いた。怜子に聞こえていないことは承知だから独り言だ。 筋肉を浮き上がらせてブルブルと震える逞しいほどの太腿を両脇に抱え直して、志藤は律動を再開した。 「……ぁああ、ま、待って、まだ、」 忘我の境から引き戻された怜子が重たげな瞼を上げて、弱い声で懇願する。まだ絶頂後の余韻どころか震えさえ鎮まっていない状態で。 「駄目ですよ」 しかし今度も志藤は無慈悲な答えを返して、容赦なく腰の動きを強めていく。 「久しぶりに肌を重ねての、記念すべき最初の絶頂を、あんなに呆気なく遂げてしまうなんて、許せませんよ。ここはすぐにも、怜子社長らしいド派手なイキっぷりを見せてもらわないと」 「あぁ……」 怜子の洩らした泣くような声には、敗北と諦めの哀感がこもった――。
どっかとソファに腰を落とすと、志藤はテーブルのグラスを取って、ひと口呷った。 氷は半ば以上溶けて、上等なスコッチの味は薄まっていたが。“ひと仕事”終えて渇いた喉には丁度よかった。 ふうと息を吐いて、額に滲んだ汗の粒を拭った。深く背を沈めて、改めて眼前の光景を眺める。 志藤はもとの席に座っている。だから、その前方には、たった今まで烈しい“交接”の舞台となっていたソファがあって。そこに怜子が横たわっている。 グラスの中の氷は完全には溶けきっていない。経過した時間はその程度だったということだが。その間に怜子は三度、雌叫びを上げて豊かな肢体を震わした。性急な激しい交わりだった。 いまの怜子は横臥の姿勢で倒れ伏している。三度目の絶頂のあと、志藤が身を離したときに、ズルズルと崩れ落ちた態勢のまま。しどけなく四肢を投げ出して。 半裸の姿も変わっていなかった。最後まで志藤は怜子の腰から上には手を触れなかった。抱えた裸の肢を操り、微妙に深さや角度を変えた抽送で怜子を攻め立て続けた。最後は、その豊かな肢体を折りたたむような屈曲位で最奥を乱打して、怜子に断末魔の呻きを振り絞らせ、彼岸へと追いやったのだった。その刹那の、食い千切るような媚肉の締めつけには一瞬だけ遂情の欲求に駆られたが。ここは予定の通りに、とそれを堪えて。激烈な絶頂の果て、ぐったりと脱力した怜子から剛直を抜き去った。 だから今、僅かに勢いを減じて股間に揺れる肉根をねっとりと汚しているのは、怜子が吐きかけた蜜液だけということになるのだが。そんな汚れた肉塊を丸出しにして、いまだ上半身にはシャツを残した間抜けな格好で、悠然と志藤は酒を注ぎ足したグラスを口へと運んだ。美酒の肴は、無論、たったいま自分が仕留めた女の放埓な姿だ。 乱れたブルネットの髪に貌が隠れているのは残念だったが。横向きに伏した姿勢は、膝から下をソファから落とした剥き出しの下半身、ムッチリと張り詰めた太腿から肥えた臀への官能的なラインを強調して、目を愉しませる。なにしろ、先刻までの忙しない“交接”では、その肉感美を愛でることも出来なかったのだから。いまの状態も、豊艶な熟れ臀を眺めるのにベストなポージングとも視点ともいえなかったが。なに、焦る必要はない。この艶麗な義母の“ド派手なイキっぷり”を見たいという欲求が、まだ充分には叶えられていないことについても同じく。最後の絶頂の際に、怜子はついに“逝く”という言葉を口走りはしたが、それは振り絞った唸りのような声で。彼女が真に快楽の中で己を解放したときに放つ歓悦の叫び――咆哮はあんなももではない、ということを志藤は経験から知っているのだったが。それもまあ、このあとの楽しみとしておけばいい。まだ、ほんの“口開け”の儀が終わったばかり。夜は長いのだ。 と、そんな思索を巡らせていると、向かいで怜子の身体が動いた。 思いの他、早い“帰還”だった。完全に意識を飛ばしていたのではなかったらしい。深い呼吸に肩を上下させて、のろのろと上体を持ち上げる。垂れ落ちた髪に、顔は見えなかった。膝を床に落とし膝立ちになってから、ソファに手を突いて、よろりと立ち上がった。数瞬、方向に迷うように身体を回してから、出入口を目指して歩きはじめる。少し、ふらついた足取りで。途中、床に投げ捨てられてあったストッキングとショーツを拾い上げて。リビングを出る直前になって、ようやく腰までたくし上がったスカートに気づいて引き下ろす動作を見せながら、廊下へと姿を消した。最後まで志藤には顔を向けず言葉も掛けなかった。志藤もまた無言のまま見守り見送った。 ほどなく、遠く聞こえたドアの開閉音で、浴室に入ったことがわかった。 なるほど、と志藤は頷いた。浴室へと直行して、肌の汚れとともにすべてを洗い流すということか。そうして、この一幕をなかったこととする。確かに、それで首尾は一貫するわけだが。 もちろん、志藤としては、そんな成り行きを受け容れる気はなかった。受け容れるわけがないことは、怜子も理解しているはずで。だったら、やるべきことをやるだけだ、と。 それでも、グラスの酒を飲み干すだけの時間を置いてから、志藤は立ち上がった。半ばの漲りを保った屹立を揺らしながら、ゆっくりと歩きはじめる。浴室へと向かって。
熱いシャワーを浴びれば、総身にほっと蘇生の感覚が湧いて。 だが、そうなれば、冷静さを取り戻した思惟が心を苛む。 胸元に湯条を受けながら、宙を仰いだ怜子の貌には憂愁の気色が浮かんだ。 悔恨、罪悪感。しかし一番強いのは、慙愧の想い、己が醜態を恥じる感情だった。 ――“英理を選んでおいてっ”。 志藤の腕の中で叫んでしまったその言葉を思い返すと、死にたいような恥辱に喉奥が熱くなる。自らの意志で関係を絶った男に向けるのは理不尽で身勝手な恨み。ずっと心の奥底に封じこんで気づくまいとしていたその感情を吐き出してしまった瞬間に、怜子は自身の意地も矜持も裏切ることになったのだった。 あとは、ただ崩れ流されただけだった。その済し崩しな成り行きの中で、怜子が示した姑息な抵抗、場所を移すことを拒み、裸になることを拒み、愛撫の手を拒んだことなど、無様に無様を重ねるだけの振る舞いだった。いまになって振り返れば、ではなく、即時にその無意味さ馬鹿馬鹿しさは自覚していたのだったが。 それでも尚、こうして浴室へと逃げこんで。肌を汚した淫らな汗を流すことで、辻褄を合わせようとしている。 そうしながら、しかし怜子の手は、己が身体を抱くようなかたちをとったまま動こうとしないのだった。最前までの恥知らずな行為の痕跡を洗い流すことで全てを消し去ろうとするのなら、真っ先に洗浄の手を伸ばすべき場所に向かってはいかないのだった。 そこに蟠った熱い感覚が、触れることを憚らせる。燠火を掻き立てる、という結果を招くことを恐れて……? 結果として怜子は、その豊満な裸身を熱く強いシャワーに打たせて、ただ佇んでいた。 ……なにをしているのか、と、ぼんやりと自問する。無意味な帳尻合わせの振りすら放擲して。心に悔しさや恥ずかしさを噛みしめながら、身体ではついさっきまでの苛烈な行為の余韻を味わっているかのごとき、この有様は、と。 だが、長くそんな思いに煩う必要はなかった。 浴室のドアの向こうに足音と気配が近づいてきた。磨りガラスに人影が映る。 ちらりと横目に、その長身の影を認めて。もちろん怜子の顔に驚きの色は浮かばなかった。 断りも入れずガラス戸を開け放って。志藤はしばしその場で眼前に展けた光景に見惚れた。 黒とグレーのシックな色合いでまとめられた、モダンなデザインのバスルーム。開放的な広さの中に立つ、女の裸身。 まるで映画のワン・シーンのような、と感じさせたのは、その調った舞台環境と、なによりそこに佇立する裸体の見事さによるものだ。 フックに掛けたままのシャワーを浴びる怜子を、志藤は斜め後ろから眺めるかたちになっている。今夜はじめて晒された完全な裸身を。 四分の一混じった北欧の血の影響は、面立ちではなく体格に顕著に表れている、と過去にも何度か抱いた感想をいままた新たにする。優美なラインの下に、しっかりとした骨格を感じさせる肢体は、どこか彫刻的な印象を与えるのだった。高い位置で盛り上がった豊臀の量感、その中心の深い切れこみの悩ましさも記憶にあるままだったが。腰まわりは、英理が評していたとおりに、以前より少し引き締まっているだろうか。 怜子は振り向かなかった。志藤の来襲に気づいていないかのように、宙を見つめたまま。さっきまでは止まっていた手がゆるゆると動いて、肩から二の腕を洗う動きを演じた。いかにもかたちばかりに。 暖色の柔らかな照明の下、立ち昇る湯気の中、濡れていっそう艶やかに輝く豊艶な肢体を、志藤はなおもじっくりと眺めた。一年と二ヶ月ぶりに目の当たりにする、いまでは義理の母親となった年上の女の熟れた裸身に、ねっとりとした視線を注ぎ続けた。 すると堪えかねたように怜子の裸足の踵が浮いて膝が内へと折れた。重たげな臀が揺れる。執拗な視線を浴びせられる肌身の感覚までは遮断できなかったようだった。 その些細な反応に満足して、志藤は浴室の中へと足を踏み入れる。ピシャリと音を立ててドアを閉めれば、閉ざされた空間の中、立ち昇る熱気に混じった女の体臭を鼻に感じた。深々と、その甘く芳しい香りを吸いこむと、股間のものがぐっと漲りを強めた。 ゆっくりと回りこむように、豊かな裸体へと近づく。それでも怜子は振り返ろうとしなかったが。 自分もシャワーの飛沫の中へと入った志藤が、背後から抱きしめようと両腕を広げたとき、 「もう終わりといったはずよ」 冷淡な口調でそう云った。顔は向こうへと向けたまま。 「まさか」 軽く受け流して、志藤は腕をまわした。怜子は後ろから抱きすくめられた。 その瞬間、身体を強張らせ首を竦めた怜子が、 「……やめなさい」 と、掣肘の言葉を繰り返す。感情を堪えるような抑えた声で。 しかし、志藤はもう拒否の答えさえ返さずに、 「ああ、感激ですよ。こうしてまた、怜子社長の柔らかな身体を抱くことが出来て」 陶然とそう云って、ぎゅっと抱擁を強めた。裸の体が密着して、怜子の背は男の硬い胸を感じ、腰のあたりにも熱く硬いものが押しつけられる。 ね? と、志藤が耳元に囁きかける。 「一度だけって約束だと言っても、僕はまだ、その一度も終わってはいないんですから」 「……それは、貴方の勝手な…」 怜子の反駁、素気なく突き放すはずの科白は、どこか漫ろな口調になって、 「やっぱり、あんな落ち着かないシチュエーションではね。最後までという気にはなれなかったですよ。一年あまりも溜めこんだ怜子社長への想いを吐き出すには、ね。でも、本当は怜子社長も同じ気持ちなんじゃないんですか?」 甘ったるい口説と問いかけに、違うと怜子は頭を振って。そっと胸乳に滑ろうとした志藤の手を払いのけた。 と、志藤は、 「それは、葛藤されるのは当然だと思いますけど」 口調を変えてそう切り出した。 「いまだけは、余計なことは忘れてくれませんか? もう一度、貴女の本音を、本当の気持ちを聴きたいですよ」 「……やめて…」 と零した怜子の声は羞恥に震えた。もう一度と志藤が求めた“本音”“本当の気持ち”が、彼女のどの言葉を指したものかは自明であったから。 羞辱に震えて、そして抗いと拒絶の気配が消える。 やはりそれは、取り返しのつかない発言、発露だったと噛みしめながら。 怜子は、再び胸乳へと滑っていく男の手を、ただ見やっていた。 剥き身の乳房に今宵はじめて志藤の手が触れる。釣鐘型の巨大な膨らみを掌に掬い乗せ、その重みを確かめるようにタプタプと揺らしてから、広げた指を柔らかな肉房に食いこませていった。 ビクッと怜子の顎が上がる。唇を噛んで零れようとする声を堪えた。それに対して、 「ああ、これ、この感触。相変わらず、絶品の触り心地ですよ」 志藤の感嘆の声は遠慮がなく。その絶品の触り心地を味わい尽くそうというように、背後から双の乳房を掴みしめた両手の動きに熱がこもっていく。柔らかさと弾力が絶妙に混淆した熟乳の肉質を堪能しつつ、そこに宿る官能を呼び起こそうとする手指の蠢き。 ねちこく懇ろな愛撫、リヴィングでは拒んだその行為を、いまの怜子は抵抗もなく受け容れていた。抱きしめられたときに志藤の腕の中に折りこまれていた両腕は、いまは力無く下へと落ちて。邪魔がなくなって思うがままの玩弄を演じる男の手の中で、淫らにかたちを歪める己が乳房を、伏し目に薄く開いた眼で見つめながら。唇は固く引き結んだまま、ただ鼻から洩れる息の乱れだけに、柔肉に受け止める感覚を示していたのだったが。 「……痛いわ…」 ギュウッと揉み潰すような強い把握を加えられて、抗議の言葉を口にした。寄せた眉根に苦痛の色を浮かべて、視線は痛々しく変形する乳房へと向けたまま。 「ああ、すみません。つい、気が逸ってしまって」 そう謝って、直ちに手指の力を緩めた志藤だったが、 「まだ、早かったようですね」 と付け加えた科白には含みがあった。すなわち、もう少しこの熟れた肉体を蕩かし官能を高めたあとでなら、こんな嬲りにも歓ぶのだろう、という。 そんな裏の意味を、怜子がすぐに理解できたのは、過去の“関係”の中で幾度もその決めつけを聞いていたからだった。その都度、馬鹿げたことと打ち消していた。 いまも否定の言葉を口にしようとして、しかし出来なかった。わざとらしいほどにソフトなタッチへと切り替わった乳房への玩弄、やや大ぶりな乳輪をそうっと指先でなぞられて、その繊細な刺激に思わずゾクリと首をすくめて鼻から抜けるような息を洩らしてしまう。さらに硬く尖り立った乳首を、指の腹で優しく撫で上げられれば、ああッと甲走った声が抑えようもなく吹きこぼれた。 「なにせ、さっきはずっとお預けだったのでね。不調法は、おゆるしください」 なおも、くどくどと連ねられる志藤の弁解には、やはり皮肉な響きがあった。むしろ、“お預け”をくらって待ち焦がれていたのは、この熟れた乳房のほうだろう、と。玩弄の手に伝わる滾った熱、血を集めて硬くしこった乳首の有りさまを証左として。 怜子は悔しさを噛みしめながら、一方では安堵にも似た感情をわかせていた。志藤の言動が悪辣で下卑たものへと戻っていったことに。 赤裸々な己が心の“真実”などを追及されるよりは���ひたすら肉体の快楽に狂わされるほうがずっとましだ、と。そんな述懐を言い訳として、肉悦へと溺れこんでいく自らをゆるす。 「ああ、アアッ」 抑制の努力を捨てた口から、悦楽の声が絶え間なく迸りはじめる。熱く滾った乳房を嬲る男の手は、執拗さの中に悪魔じみた巧緻がこもって。久方ぶりに――どうやっても自分の手では再現できなかった――その攻めを味わう怜子が吹き零すヨガリの啼き声は、次第に咽ぶような尾を引きはじめて。 胸乳に吹き荒れる快楽に圧されるように仰け反った背は、志藤の胸に受け止められる。女性としては大柄な体の重みを、逞しい男の体躯は小揺るぎもせずに支えて。その安定の心地も怜子には覚えのあるものだった。 背後の志藤へと体重を預けて、なおも乳房への攻めに身悶えるその態勢を支えるために、床を踏みしめる両足の位置は大きく左右に広がっていた。ムッチリと肥えた両の太腿が、あられもない角度に開かれて。 そうであれば、ごく当たり前に、次なる玩弄はそちらへと向かっていく。 志藤の片方の手が、揉みしだいていた乳房を離れ、脇腹をなぞりながら、腿の付け根へと達する。 濡れて色を濃くした恥毛を指先が弄ったとき、ビクッと怜子の片手が上がって、志藤の手首のあたりを掴んだが。それはただ反射的な動きで、払いのけるような力はこもらなかった。 愉悦に閉ざしていた双眸をまた薄く開き、顎を引いて、怜子は下を、己が股間のほうを見やった。いつの間にか晒していた大股開きの痴態も気にするどころではなく、濡れた叢を玩ぶ志藤の指先を注視する。 うっ、と息が詰まったのは、無論のこと、指がついに女芯に触れたからだった。 「アアッ、だ、ダメッ」 甲高い叫びを弾けさせて、くなくなと首を打ち振る。引いていた顎を反らし、志藤の肩に脳天を擦りつけるようにして。はしたなく広げた両腿の肉づきを震わして。 もちろん、女芯を弄う指の動きは止まらない。怜子の叫びが、ただ峻烈すぎる感覚を訴えただけのものであったことは明らかだったし。 (……ああ、どうして……?) 目眩むような鮮烈な刺激に悶え啼きながら、怜子は痺れた意識の片隅に、その問いかけを過ぎらせていた。 やわやわと、志藤の指先は撫でつけを続けている。その触れようは、あくまで繊細で優しく、しかしそれ以上の技巧がこもっているようには思えないのに。 なのに、どうしてこんなにも違うのか? と。 乳房への愛撫と同じだった。どれほど試してみても、その感覚を甦らせることは出来なかった。 そう、そのときにも怜子はその言葉を口にしたのだった。“どうして?”と。いまとは逆の意味をこめて。 深夜の寝室で、ひとり寝のベッドの上で。もどかしさに啜り泣きながら。 「ふふ、怜子社長の、敏感な真珠」 志藤が愉しげに呟く。その言いようも怜子には聞き覚えがあった。宝石に喩えるとは、いかにもな美辞なようで、同時に怜子の秘めやかな特徴を揶揄する含みのこもった科白。実際いま、充血しきって完全に莢から剥き出た肉豆はぷっくりと大ぶりで、塗された愛液に淫猥に輝くさまは、肉の“真珠”という形容が的確なものと思わせる。そしてその淫らな肉の宝玉は、くっきりと勃起しきることで“敏感な”女体の泣きどころとしての特質も最高域に達して、いよいよ巧緻さを発揮する男の指の弄いに、つんざくような快感を炸裂させては総身へと伝播させていくのだった。 「ヒッ、あっ、あひッ、アアアッ」 絶え間なく小刻みな嬌声をほとびらせながら、怜子は突き出した腰を悶えうねらせ続けた。自制など不可能だったし、その意思も喪失している。股間を嬲る志藤の腕にかけた片手は、時おり鋭すぎる刺激にキュッと爪を立てるばかりで、決して攻め手の邪魔だてはしようとせずに。もう一方の手は、胸乳を攻め続ける志藤の腕に巻きつけるようにして肩口に指先をかけて。より深く体の重みを男へと浴びせた、全てを委ねきるといった態勢となって、その豊艶な肉体を悶えさせていた。否応なしに快感を与えられ、思うが侭に官能を操作されて、指一本すら自分の意思では動かせないようなその心地にも、懐かしさを感じながら。 「ヒッ、ああっ!? ダ、ダメッ、それ、あ、アアッ」 嬌声が一段跳ね上がったのは、ジンジンと疼き狂う肉真珠を、ピトピトと絶妙な強さでタップされたからだったが。切羽詰まった叫びは、数瞬後に“うっ!?”と呻きに変わる。急に矛先を転じた指が、媚孔へと潜りこんだからだった。 熱く蕩けた媚肉を無造作に割って、男の指が入りこんでくる。息を詰めて、怜子はその感覚を受け止めた。 「さすがに、ほぐれてますね」 志藤が云った。それはそうだろう、この浴室へと場所を移す前、リヴィングではセックスまで済ませている。熟れたヴァギナは、今夜すでに志藤の魁偉なペニスを受け入れているのだ。 だが今、怜子は鮮烈な感覚を噛みしめるのだった。男らしく長く無骨とはいえ、その肉根とは比ぶべきもない志藤の指の蹂躙に。 リヴィングでの交わりは、やはりどうにも性急でワンペースなものだった。怜子がそう望んだのだったが。結果として、久しぶりに迎え入れた志藤の肉体の逞しさ、記憶をも凌駕するその威力に圧倒されるうちに過ぎ去った、というのが実感だった。短い行為の間に怜子が立て続けに迎えた絶頂も、肉悦の高まりの末に、というより、溜めこんだ欲求が爆ぜただけというような成り行きだった。 いま、こうして。裸体を密着させ、乳房を嬲られ女芯を責められて、羞ずかしくも懐かしい情感を呼び覚まされたあとに改めての侵略を受ける女肉が、歓喜して男の指を迎え入れ、絡みつき、食い締めるのを、怜子は感じとった。そして、深々と潜りこんだ指、その形にやはり憶えがある指が、蠢きはじめる。淫熱を孕んだ媚肉を、さらに溶け崩れさせるために。そのやり方など知り尽くしている、といった傲慢な自信をこめた手管で。 「ああっ、ん、おおおっ」 また容易く官能を操られれば、怜子の悶えぶりも変わる。口から洩れる声音は、囀るような嬌声から低く太いおめきへと変じて。尻腰は、媚孔を抉り擦りたてる志藤の指のまわりに円を描いて振りたくられるのだった。その豊かな肉置を揺らして。 グッチュグッチュと粘った濡れ音を怜子は聴く。しとどな潤みにまみれた女肉が男の硬い指に掻きまわされて奏でる淫猥な響き。実際には、いまもまさにその下腹のあたりに浴び続けるシャワーの音に隠れて聞こえるはずはなかったのだが。耳ではなく身体を通してその淫らな音を怜子は聴いて。湧き上がる羞辱の感情は、しかしいっそう媚肉粘膜の快美と情感の昂ぶりを煽って、脳髄を甘く痺れさせるのだった。 「アアッ、ダメッ、そこ、そこはっ」 蹂躙の指先が容赦なく知悉する弱点を引っ掻けば、早々と切迫した叫びが吹き上がった。あられもなく開かれた両腿の肉づきにグッと力みがこもったのは、叫びとは裏腹に、迫り来るその感覚を迎えにいこうとするさまと見えたのだったが。 しかし、ピークは与えられなかった。寸前で嬲りを止めた指がズルリと後退していけば、怜子は思わず“あぁっ”と惜しげな声を零して。抜き去られた指を追って突き上げる腰の動きを堪えることが出来なかった。 両脇に掛かった志藤の手が、仰け反った態勢を直し、そのまま反転させる。力強い男の腕が、豊満な肢体を軽々と扱って。 正対のかたちに変わると、志藤は至近の距離から貌を覗きこんできた。蕩け具合を確認するような無遠慮な視線に、顔を背けた怜子だったが、優しくそれを戻され口を寄せられると、瞼を閉じて素直に受け入れた。 熱いキスが始まれば、怜子の両腕はすぐに志藤の背中へとまわって、ひしとしがみつくように抱きついていった。白く豊満な裸身と浅黒く引き締まった裸体が密着する。美熟女の巨大な乳房は若い男の硬い胸に圧し潰され、男の雄偉な屹立は美熟女の滑らかな腹に押しつけられる。その熱にあてられたように白い裸身の腰つきは落ち着かず、シャワーを受ける豊臀が時おりブルッブルッと肥えた肉づきを震わした。 と、志藤が怜子の片手をとって、互いの腹の間へと誘導した。もちろん即座にその意図を悟っても、怜子の腕に抗いの力はこもらず。 口づけが解かれる。密着していた身体が僅かに離れた。怜子の手に自由な動きを与え、そのさまを見下ろすための隙間を作るために。 涎に濡れた口許から熱い息を吐きながら、怜子はそれを見やった。長大な剛直を握った自分の手を。己が手の中で尊大に反り返った隆々たる屹立を。 逆手に根の付近を握った手に感じる、ずっしりとした重み、指がまわりきらぬほどの野太さ、強靭な硬さ、灼けるような熱さ。一度触れてしまえば、もうその手を離せなくなって。見てしまえば、視線を外せなくなった。 深い呼吸に胸を喘がせながら、怜子は凝然と見つめ続けた。 そんな怜子の表情を愉快げに眺めていた志藤が、つと肩に置いた手に軽い力をこめて、次の動きを示唆する。 怜子は、視線を下へと向けたまま、一度は首を横に振ったが、 「おねがいしますよ」 「…………」 猫撫で声のねだりとともに再度促されると、詰るような眼で志藤の顔を一瞥して。 ゆっくりと膝を折って、その身体を沈みこませていった。 濡れた床に膝をつけば、その鼻先に、雄渾な牡肉が鎌首をもたげるというかたちになって。怜子は我知らず“……あぁ”とあえかな声を洩らして胴震いを走らせた。 改めて端近に眺める、その魁偉なまでの逞しさ、凶悪なフォルムは、直ちに肉体の記憶と結びつく。今夜すでに一度その肉の凶器を迎え入れ、久方ぶりにその破壊力を味わわされていた怜子だったが。このときにより強く想起されたのは、もっと古い記憶だった。突然の英理の介入によって志藤との関係が途絶する直前の頃の。ずるずると秘密の逢瀬を続ける中で否応なくこのはるか年若な男の欲望に泥まされ、長く眠らせていた官能を掘り起こされて。毎度、酷烈なほどの肉悦に痴れ狂わされていた頃の。 結局……自分は、その記憶に呪縛されたまま。それを忘れ去ることが出来ず、逃れることも出来ずに。 その呪縛のゆえに、愚かな選択を重ね、醜態を繰り返して。無様さを上塗りしつづけて。 挙句、こうしてまた、この男の前に跪いている。いまや娘の夫となった男の前に。 救いがたいのは、そんな自責を胸に呟いて、しかしそこから脱け出そうという意志��、もう少しも湧いてこないことだった。自ら飛びこんだ、この陥穽の底にあって。無益で無様なばかりの抗いを捨て去ることに、開き直った落ち着きさえ感じて。 こんなにも――自分の堕落ぶりは深かったのだと、思い知ってしまえば。 「……これが…」 恨めしさを声に出して呟いて、眼前の巨大な肉塊を睨みつける。すべての元凶、などとはあまりに下卑た言いようだし、またぞろな言い訳になってしまうようだが。まったくのお門違いでもないだろう。その並外れた逞しさを見せつける男根が、須崎怜子を、有能な経営者たる才女を、破廉恥な堕落へと導いた若い牡の力の象徴であることは間違いなかったし。 ギュッと、握り締めた手指に力をこめる。指を跳ね返してくる強靭さが憎らしい。その剛さ、逞しさが。 その奇怪な感情に衝き動かされるように、顔を寄せていった。そのような心理の成り行きでは、まずは唇や舌で戯れかかる、という気にはならずに。切っ先の赤黒い肉瘤へと、あんぐりと大開きにした口を被せていく。 「おっと。いきなりですか」 頭上から志藤の声が降ってくる。がっつきぶりを笑うという響きを含ませて。 そんなのじゃない、と横に振られる首の動きは小さかった。口に余るようなモノを咥えこみながらでは、そうならざるを得ない。そして意識はすぐに口内を満たし尽くすその肉塊に占められていく。目に映し手指に確かめた、その尊大なまでの逞しさ凶悪な特長を、今度は口腔粘膜に味わって。 浴室に闖入してきてから、ほとんど怜子の身体ごしにしかシャワーを浴びていない志藤の股間には、微かにだが生臭いような匂いが残っていた。リヴィングでの慌しい交わりの痕跡。それを鼻に嗅いでも怜子に忌避の感情は湧かず、ただその身近な質の臭い、鼻を突く女くささを疎ましく感じて。別の臭気を嗅ぎ取ろうとするように鼻孔をひくつかせながら、首を前後に揺らしはじめる。 やはり一年数ヶ月ぶりの口戯。往時の志藤との関係においても、数えるほどしか経験しなかった行為だ。狎れを深める中で、執拗な懇請に流されるという成り行きで、幾度かかたちばかりにこなしたその行為を、いまの怜子は、 「ああ、すごいな」 と、志藤が率直な感嘆を呟いたほどの熱っぽさで演じていた。荒く鼻息を鳴らし、卑猥な唾音を響かせて。まさに、咥えこむなり、といった性急さで没入していって、そのまま熱を高めていく。抗いがたい昂ぶりに衝き動かされて淫らな戯れに耽溺しながら、その激しい行為が口舌にもたらす感覚にまたいっそう昂奮を高めるという循環をたちまちのうちに造り上げて。 いっぱいに拡げた唇に剛茎の図太さ強靭さをまざまざと実感すれば、甘い屈従の情感に背筋が痺れた。張り出した肉エラに口蓋を擦られると、やはり痺れるような快美な感覚が突き上がった。えずくくらいに呑みこみを深くしても、なお両手に捧げ持つほどの余裕を残す長大さを確かめれば、ジンと腹の底が熱くなって、膝立ちに浮かせた臀をうねらせた。唾液は紡ごうと意図するまでもなく止め処もなく溢れ出て、剛茎に卑猥な輝きをまとわせ、毛叢を濡らし、袋にまで垂れ流れた。唾の匂いと混じって色濃く立ち昇りはじめる牡の精臭を怜子は鼻を鳴らして深々と嗅いで、朱に染まった貌に陶酔の気色を深くした。 シャワーは志藤の手で向きをずらされ、ふたりの身体から外れて、空しく床を叩いている。その音を背景に、艶めいた息遣いと隠微な舐めしゃぶりの音がしばし浴室に響いて。 うむ、と快美のうめきを吐いた志藤が手を伸ばして、烈しい首ふりを続ける怜子を止めた。そして、ゆっくりと腰を引いて、剛直を抜き出していく。熱い口腔から抜き取られた巨根が、腹を打つような勢いでビンと反り返った。 野太いものを抜き去られたかたちのままぽっかりと開いた口で、新鮮な空気を貪るように荒い呼吸をつきながら、怜子は数瞬己が唾液にまみれた巨大な屹立を見つめて。それから、上目遣いに志藤の顔を見やった。 「このままだと、社長の口の中に出してしまいそうだったんで。素晴らしかったですよ」 「…………」 賞賛の言葉を口にして、そっと頬を撫でてくる志藤を、疑いの目で見上げて。また、鼻先に揺れる肉塔へと視線を戻す。 確かに……若い牡肉はさらに漲りを強めて、獰猛なまでの迫力を見せつけてくる。 (……ああ……なんて…) 畏怖にも似た情感に、ゴクと口内に溜まった唾を呑みくだして。そのさまを見れば、志藤が自分の口舌の行為にそれなりの快美を味わったというのも事実なのだろうが、と思考を巡らせて。 そこでやっと、その懇ろな愛撫の褒美のように頬を撫でられているという状態に気づいて、はっと顔を逃がした。それから、これも今さらながらに、夢中で耽っていた破廉恥な戯れを突然中断された、そのままの顔を見られ続けていたということに思い至って。俯きを深くして、乱暴に口許の涎をぬぐった。 やはり、そういうことなのだ、と悔しさを噛みしめる。これも、この男の悪辣な手管のひとつなのだ。我を忘れた奔騰のさなかに、急に自意識を呼び覚まさせる。意地の悪い、焦らし、はぐらかしだった。 と、理解して。しかしその悔しさが、反発や敵意に育ってはいかない。ズブと、また深く泥濘へと沈みこんでいくような感覚を湧かせて。 そも、その中断を、焦らされた、はぐらかされた、と感ずること自体が、志藤の手に乗っているということだった。ジリジリと情欲を炙られ続けるといった成り行きの中で。 涎を拭った指先は、そっと唇に触れていた。そこに宿った、はぐらかされたという気分――物足りなさ、を確かめるように。そして、横へと逃がされていた視線は、いつしか前方へと舞い戻っていた。魁偉な姿を見せつける牡肉へと。 そんな怜子のさまを愉しげに見下ろしていた志藤が、つと腰をかがめ、両手を脇の下に差しいれて立たせようとする。その腕に体の重みを預けながら、怜子はヨロリと立ち上がった。 立位で向かいあうかたちに戻ると、志藤は怜子のくびれた腰から臀へと、ツルリと撫でおろして、 「このままここで、ってのも愉しめそうですが」 「…………」 「やっぱり、落ち着かないですね。二階に上がりましょう」 怜子の返答は待たずにそう決めて。シャワーを止めた。この場での一幕を伴奏しつづけた水音が止む。 さあ、と片手をかざして、志藤が怜子を促す。次の舞台への移動を。 「…………」 無言のまま、怜子はそれに従って、ドアへと向かった。
脱衣所に出て。 おのおの、バスタオル――英理によって常に豊富に用意されている清潔なタオル――で身体を拭いて。 しかし着替えまでは用意されていない。今夜の場合は。怜子の着衣一式、皺になったスーツとその中に包みこまれた下着やストッキングは、丸めて脱衣籠に放りこまれてあった。 仕方なしに、もう一枚とったタオルを身体に巻こうとした怜子だったが、 「必要ないでしょう」 そう言った志藤にスルリと奪い取られてしまった。 「今夜は、僕らふたりきりなんですから。このままで」 「…………」 一瞬、詰るように志藤を睨んだ怜子だったが。微かな嘆息ひとつ、ここでも指示に従って。素足を踏んで、裸身を脱衣所のドアへと進めて。 そこで振り返った。湯上りの滑らかな背肌と豊臀の深い切れこみを志藤へと向けて、顔だけで振り向いて、 「今夜だけよ」 そう云った。せいぜい素っ気ない声で。 「ええ。わかってますよ」 志藤が答える。失笑はしなかったが、笑いを堪えるという表情は隠さずに。 それが妥当な反応だろう。怜子とて、その滑稽さは自覚しないわけがなかった。この期におよんで。こんな姿で。 それでも彼女としてはそう言うしかなかった。どれだけ無様な醜態を重ね、ズルズルと後退を続けたあとだろうと、すべてを放擲するわけにはいかないではないか、と――。 薄笑いを浮かべる男に、怨ずるような視線を送って顔を戻すと、怜子は脱衣所のドアを開け放った。
ひんやりと殊更に大きく感じた温度差に竦みかかる足を踏み出して、廊下に出た。 裸で共用スペースに出るなど、かつて一度もしたことのない振る舞いだった。家にひとりきりのときにも。羞恥と後ろめたさに胸を刺されながら、覚束ぬ足取りで玄関ホールへと進む。ペタリペタリと、湿りを残した足裏に床を踏んでいく感触に不快な違和感を覚えながら、より明るい空間へと。高い天井からの柔らかな色の照明が、このときには眩いような明るさに感じられて。その光に照らし出されたホールの景色、日々見慣れた眺めを目にした怜子が思わず足を止めたのと、 「ああ、ちょっと、そのままで」 少し距離を置いて後をついてくる志藤がそう声を掛けたのは、ほぼ同時だった。 日常のままの家内の風景の中(それも玄関先という場所)に、一糸まとわぬ裸身を晒しているという非現実感が怜子の足を止めさせた。志藤の指示は、無論その異常な光景に邪まな興趣を感じて――なにしろ、豊艶な裸身を晒しているのは、平素はクール・ビューティーとして知られる辣腕の女社長であり、この家の女主人なのだ――じっくりとその珍奇な絵図を鑑賞しようとする意図からだった。 そんな思惑は��え透いていたから、怜子はそれを無��して歩みを再開し、階段へと向かった。 指示を黙殺された志藤も、特に不満を言うこともなく後を追った。怜子が西側の階段、自室へと向かうルートを選んだことにも、別に異議はなかった。多分、そうなるだろうと思っていた。足取りを速めたのは、もちろん階段を昇り始めた怜子を、ベストな位置から眺めるためだった。 「……おお…」 急いだ甲斐があって、間に合った。狭く、やや急角度な階段を上がっていく怜子の姿を、数段下のまさにベスト・ポジションから仰ぎ見て、感嘆の声を洩らした。 どうしたって、まず視線はその豊臀へと吸い寄せられる。下から見上げる熟れた巨臀は、さらにその重たげな量感が強調されて、弩級の迫力を見せつけてきた。そして、はちきれんばかりの双つの臀丘は、ステップを踏みのぼる下肢の動きにつれて、ブリッブリッと扇情的に揺れ弾んで、そのあわいの深い切れこみの底の暗みを覗かせるのだった。 陶然と志藤は見上げていたが、その絶景を味わい尽くすには階段はあまりに短かった。粘りつく視線を気にした様子の怜子が途中から動きを速めたので、鑑賞の時間はさらに短縮された。その分、セクシーな双臀の揺動も派手になったけれど。 ああ、と思わず惜しむ声をこぼして、志藤も後を追った。足早に階段を昇りきった怜子の裸の足裏の眺めに目を引かれた。働く女として長年高いヒールを履き続けている影響なのか、怜子の踵はやや固くなっているように見えて。今さらのようだが、その些細な特徴に気づいたことも、またひとつこの美貌の女社長の秘密に触れたってことじゃないか、などという自己満足を湧かせながら。 階上に上がって、通路の奥の怜子の私室へと向かう。手前の慎一の部屋の前を行きすぎるとき、怜子は顔を逆へと背けた。志藤は、無論なんの感慨もなく、今夜は無人のその部屋の前を通過する。 逃げこむ、というような意識があったのだろうか、自室に辿りつくと怜子は逡巡もなくドアを開けて中へと入った。志藤も悠然とそのあとに続いて。 入室すると、やけに慎重な、確実を期すといった手つきで、ドアを閉ざした。閉じられた空間を作った。 間接照明に浮かび上がった室内を見回して、 「社長の部屋になってから入るのは、初めてですね」 と云った。同居の開始以前、ここがまだ英理の部屋だった頃に一度だけ入室したことがあった。 入れ替えが行われて、当然室内の様相は、そのときとは変わっている。置かれているインテリアもすべて移動したものだし。物が少なく、すっきりとまとめられているところは似通っているが。 なにより、はっきりとした違いは、 「怜子社長の匂いがしますね。当たり前だけど」 広くとられた空間を、うろうろと裸で歩きまわりながら、志藤が口にしたその点だろう。両手を広げ、うっとりとその馥郁たる香りを吸いこんで。 「…………」 その香りの主は、むっつりとそんな志藤を見やっていた。壁際に置かれたドレッサーの側らに佇んで。暖色の照明が、その見事な裸体に悩ましい陰影を作って。その肢体を、三枚の鏡がそれぞれの角度から映している。チラリと、その鏡面に怜子の視線が流れた。 「ああ、さすがにいいクッションだな」 志藤が言った。断りもなく怜子のベッドに触れながら。セミダブルのサイズのベッドは、簡単に整えられた状態、怜子が今朝部屋を出たときのままだった。同居が始まってからも、この部屋の掃除は(立ち入りは)無用だと、英理には通達してある。 志藤が、大きく上掛けをめくった。現れ出たシーツは皺を刻んで、さらにはっきりと怜子の昨夜の痕跡を示す。その上に、志藤が寝転がる。ゴロリと大の字に。 その傍若無人な振る舞いに眉をしかめても、怜子に言うべき言葉はなかった。裸の男を部屋に招じ入れておいて、ベッドに乗られたと怒るのは馬鹿げているだろう。 志藤が仰向けのまま腰を弾ませて、マットの弾力を確かめる。恥知らずに開いた股間で、やはり恥知らずに半ばの漲りを保った屹立が揺れる。滑稽ともいえる眺めだった。 うん、と満足げに頷いて。顔を横に倒して、深々とピロウの匂いを嗅いだ志藤は、 「ああ、怜子社長の香りに包まれるようだ」 と、またうっとりと呟���た。 「向こうの、いまの僕らの部屋にも、最初の頃はこの香りが残ってたんですがね。いまでは、さすがに消えてしまいましたが」 そう続けて、首を起こして怜子を見やった。先ほどからの志藤の行為と科白に、不快げに眉根を寄せている怜子にもお構いなしに、 「その最初の頃に、英理が“残っているのは、香りだけじゃないわ”って云うんですよ。香りだけじゃなくて、怜子社長の、この一年間の……そのう、色々な感情、とか」 言い出しておいて、途中から奇妙に言いよどむ様子を見せる。その志藤に、 「……だいたい、想像がつくわ」 冷ややかな声で怜子はそう云って。 それから、傍らのドレッサーを見やった。体をまわし上体を屈みこませて、鏡に映した顔を覗きこんだ。ベッドの志藤のほうに、剥き身の臀を向ける態勢で。化粧の崩れを確認する。 本当は、部屋に入ってきたときから、それをしたかったのだ。タイミングを探していた。いまの志藤とのやりとりが切欠になったというなら、自分でも不可解だったが。 さほど酷い状態にはなっていなかった。常に控え目にと心がけているメイクは、見苦しいほどに崩れてはいない。ルージュだけは、ほとんど剥げ落ちてしまっていたが。 そもそも……シャワーを浴びたといっても、顔は洗っていなかった。髪も濡れているのは毛先だけだ。 なんのことはない、という話になってしまう。志藤の来襲までに、それをする時間がなかったわけではないのだから。 結局、唇に残ったルージュを拭い、鼻や額を軽くコットンではたいただけで、手早く作業を終えた。見苦しくなければそれでいい、と。 態勢を戻して、振り向く。愉しげに観察していた志藤と目を合わせて、 「……この一年の、私の恨みや後悔が残っている、部屋中にしみついている、って。そんなことを、あの子は言ったんでしょう?」 やはり、冷淡な声で怜子はそう訊いた。 「ええ? すごいな。さすが母娘ってことですかね」 志藤が感心する。一旦は言いよどんでおきながら、あっさりと怜子の推測が正解だと認めて。 「わかるわよ」 不機嫌に怜子は答える。同居を始めてからの英理の言動を思い出せば、そのくらいは容易に察しがつくと。“さすが母娘”などと、皮肉のつもりでないのなら、能天気に過ぎる言いようだ、と。 だが、意地悪くか、ただ無神経にか、持ち出された英理の名が、怜子の心に水を差し制動をかけたかといえば……そんなこともなかったのだ。改めて、いまの英理がどんな目で自分を見ているのかを伝えられ、この二ヶ月間に繰り返されてきた挑発的行動を思い返せば、現在のこの状況への罪悪感は薄れていく。 そもそも、その状況、今夜のなりゆき自体が、英理の企みによるものであるのならば――と、弁解じみた呟きを胸におとす。その前提を確認すれば、疎ましさと反発が湧き上がったけれど。 「実際、どうなんです? この寝心地のいいベッドは、怜子社長の哀しみや寂しさを知ってるんですか? この部屋にも、」 「知らないわ」 まくしたてられる志藤の言葉を遮った声には、不愉快な感情が露わになった。 「ああ、すみません。はしゃぎすぎましたね」 志藤が上体を起こして頭を下げた。居住まいを正す、というには、股間をおっぴろげたままの放埓な姿勢だったが。 「こうして、社長の部屋に入れたのが嬉しくて、つい。以前は殺風景なホテルの部屋ばかりでしたから」 「……当然でしょう、それは」 「そうなんですけど。だからこそ念願だったわけでね。いつか、怜子社長のプライベートな空間で愛しあえたらっていう思いが。それが叶って、はしゃいでしまったんです」 「……それはよかったわね」 冷ややかに。志藤の大袈裟な喜びぶりに同調することはなく。それでも、そうして言葉を返すことで、会話を成立させてしまう。 この狎れ合った雰囲気はなんなのか、と怜子は胸中にひとりごちる。この部屋に入った瞬間から、それまでの緊迫した感情が消えてしまったことに気づく。それは、裸で家中を歩かされるという破廉恥な行為の反動でもあったのだろうが。 同じような心理の切り替わりを過去にも経験していた。一年以上前、志藤との密やかな関係が続いていた頃だ。周到に人目を警戒した待ち合わせからホテルに到着し、“殺風景な部屋”に入ってドアを閉ざすと、怜子はいつもフッと張り詰めた緊張が解けるのを感じたものだった。どれだけ、はるか年若な男との爛れた関係に懊悩と抵抗を感じていようと、その瞬間には、ほっと安堵の感情を湧かせていた。無論それは、なんとしても事実を秘匿せねばならないという思いの故だったわけだが。 そう、当時とは状況は変わってしまっている。もはや、閉ざしたドアに、守秘の意味はないというのに。 「それに、あの頃と違って、今夜は時間を気にする必要もないわけですからね。朝まで、たっぷりと愉しむことが出来るんですから」 「…………」 愉しげな志藤の科白に、体の奥底のなにかが忽ちに反応するのを感じる。“朝まで、たっぷりと”という宣告に。かつての限られた時間の中の慌しい行為でも、毎回自分に死ぬような思いを味わわせたこの剛猛な牡が、と戦慄する。 つまりは、肉体の熱は少しも冷めてはいないのだった。浴室での戯れに高められたまま、裸での行進という恥態を演じ、この部屋での志藤の振る舞いに眉をひそめ、不愉快な会話に付き合うという中断を挟んだあとにも。 であれば、この部屋に入ってからの奇妙な心の落ち着きも、単に最も私的な空間へ逃げこんだという安心感によるのではなくて。ついに、ここまで辿り着いたという安堵がもたらしたものということになるのではないか。迂遠な、馬鹿馬鹿しいような段階を踏んで――クリアして――ようようこのステージに到着したのだ、という想いが。あとは、もう――――。 さあ、と志藤が手招く。ベッドの上、だらしなく脚を開いて座ったまま。その股座に、十全とは云わぬが屹立を保った肉根を見せつけて。 「……我が物顔ね…」 詰る言葉は、どこか漫ろになった。双眸に、ねっとりとした色が浮かんで。 ざっくりと、ブルネットの髪を手櫛で一度掻き上げて、怜子は足を踏み出す。豊艶な裸身を隠すことなく、股間の濃い叢も、重たげに揺れる巨きな乳房も曝け出して。ゆっくりと、娘婿たる男が待ち構えるベッドへと歩み寄った。 乗せ上げた裸の膝に、馴染んだ上質の弾力がかえってくる。スウェーデン製のセミダブルのベッドは、六年前の離婚の際に買い換えたものだ。だから、このベッドが怜子以外の人間を乗せるのも、二人分の重みを受け止めるのも、今夜が初めてということになる。 抱き寄せようとしてきた志藤の手をかわして、腕を伸ばす。その股間のものを掴んで、軽くしごきをくれた。 「おっ?」 「……続きをするんでしょう…」 そう云って、体を低く沈めていって、握りしめたものに顔を寄せた。 「なるほど。再開するなら、そこからってわけですか」 そう言いながら、志藤の声にはまだ意外そうな気色があった。そんな反応を引き出したことは小気味よかったが、それが目的だったわけではない。 先の浴室での行為で知りそめた口舌の快美、突然の中断につい“物足りない”と感じてしまった、その感覚を求めて、というのも最たる理由ではなかった。 あのときに怜子が飽き足りぬ思いを感じてしまったのは、“このままだと、口の中に出してしまいそうだったので”という志藤の言葉が、まったくのリップサービスであることが明白だったからだ。 当然な結果ではあった。そのときの怜子は、ひたすら己が激情をぶつけるばかりで、男を喜ばせようという思いもなかったのだから。だが、たとえ奉仕の意識が生じていたとしても、繰り出すべき技巧など、彼女にはなかった。無理もないことだ、数えるほどの、それも形ばかりにこなしたという経験しかなかったのだから。 もし……過去の志藤との関係が途絶することなく続いていたなら、違っただろう。最初の峻拒から、済し崩しに受け容れさせられたという流れの延長線上に。怜子は徐々に馴致を受けて、男への奉仕の技巧を身につけることになっただろう。 その練達の機会を逸してしまったことを、まさか惜しいとは思わない。思うはずがなかった、のだが。 だったら……と、怜子は考えてしまったのだった。自分が無我夢中で演じた狂熱的な行為にも悠然たる表情を崩さない志藤を見上げたあのときに。瞬間的に、直感的に。 だったら……その時間を――自分が思いもかけぬ成り行きで、この男と訣別してからの一年間を、彼のそばで過ごしたあの子は。日々の懇ろな“教育”を、過去の自分とは比ぶべきもない熱心さで受け入れたであろう、あの子は。いまではどれほどの熟練した技巧を身につけたのだろうか? と。 さぞかし……上達したことだろう、と確信する。こんな男に、それだけの期間、じっくりと仕込まれたならば。 そう、じっくりと。ふたりだけの濃密な時間の中で。自分が、ひとり寂寥を抱いて過ごしていた間。 か黒き感情が燃え立つ。ずっと、この発露のときを待っていたというように腹の底で燃え上がって、怜子を衝き動かす、駆り立てる。 鼻を鳴らして、深く牡の匂いを嗅いで。舌を伸ばしていく。長い脚を折って、志藤の両脚の間に拝跪するような形になって。 赤黒い肉瘤の先端、鈴口の切れこみに舌先を触れさせる。伝わる味と熱にジンと痺れを感じながら、舌を動かしていく。我を忘れてむしゃぶりつくだけの行為にはしたくないのだ、今度は。 ああ、と頭上で志藤が洩らした快美の声、それよりもググッと充実ぶりを増していく肉根の反応に励まされて、怜子は不慣れな舌の愛戯を続けていく。たちまち漲りを取り戻した巨根は、再び多量の唾液に塗れて、淫猥な照りと臭気を放った。 懸命に怜子は舌を蠢かせた。少しでも、競合相手との“差”を縮めたくて。なればこそ殊更に拙劣に思えてしまう己が行為に、もどかしさを噛みしめながら。 志藤が怜子の髪を掻きあげて、顔を晒させる。注がれる視線を感じても、怜子は“見ればいい”という思い入れで、いっそう行為に熱をこめていった。 はしたなく伸ばした舌で男性器を舐めしゃぶる痴態、初めて見せるその姿の新奇さを味わうのであろうと。普段の取り澄ました顔と、いまの淫らな貌とのギャップを愉しむのであろうと。娘婿のペニスにしゃぶりつく義母、という浅ましさを嗤うのだろうと。とにかく、この姿態を眺めることで志藤が味わう感興が、自分の稚拙な奉仕を少しでも補うのであれば、という健気なほどの思いで。 それなのに。 「ああ、感激ですよ」 と志藤は嬉しげに云って。それまではよかったのだが、 「でも、どうしたんです? 以前は、あんなに嫌がっていたのに」 今さら、そう訊いて。さらには、 「もしかして……他の誰かの、お仕込みですか?」 「…………」 舌の動きを止めて、怜子は志藤を見上げた。 「いや、そうだとして、別に僕がどうこういう筋合いじゃないですけど。ただ、もしそうなら“部屋やベッドに怜子社長の寂しさが染みついてる”なんて、とんだ見当違いな言いぐさだったな、って」 志藤は言った。拘りのない口調で。 「………さあ。どうかしらね」 曖昧な答えを、不機嫌な声で返して。怜子は視線を落とした。知らず、ギュッと強く握りしめていた剛直に目を戻して。 あんぐりと大開きにした唇を被せていった。ズズッと勢いよく半ばまで呑みこんで、そのまま首を振りはじめる。憤懣をぶつけるように。 「おお、すごいな」 聴こえた志藤の声は、ただ快感を喜ぶ気色だけがあった。追及の言葉を重ねようともせずに。 そもそも、さほど本気の問いかけでもなかったのだろう。怜子の変貌ぶりを目にしてふっと湧き上がった、疑念というよりは思いつきを口にしただけ。だから深刻な感情などこもらず。 それが怜子には悔しかったのだった。疑われたことが、ではなく、ごく気軽にその疑惑を投げかけられたことが。“他の誰か”と云った志藤の口ぶりに、嫉妬や独占心の欠片も窺えなかったことが。 自分は常に志藤の向こうに英理の存在を感じては、いちいちキナ臭い感情を噛みしめているというのに――。 “僕がどうこういう筋合いじゃない”などと、弁えたような言いぐさも気に入らなかった。正論であれば余計に。今さら、この期におよんで、と。 悔しさ腹立たしさを、激しい首振りにして叩きつける。突っ伏した姿勢で、シーツに圧しつけた巨きな乳房の弾力を利用するようにして。 口腔を満たし尽くす尊大な牡肉。灼けつくような熱と鋼のような硬さ。たとえ悔しまぎれに歯を立てようとしても、容易く跳ね返されてしまうのではないかと思わせる強靭さが憎たらしい。 憎くて、腹立たしくて、悔しくて。どうしようもなく、肉が燃える。 いつしか、苛烈なばかりだった首振りは勢いを減じて。怜子の舌は、口中で咥えこんだものに絡みつく蠢きを演じていた。 えずくほどの深い呑みこみから、ゆっくりと顔を上げていく。ブチューッと下品な吸着の音を響かせながら、肉根の長大さを堪能するようにじわじわと口腔から抜き出していって。ぷわっと巨大な肉笠を吐き出すと、新鮮な呼吸を貪るいとまも惜しむようにすかさず顔を寄せていった。多量に吐きかけた涎が白いあぶくとなって付着している肉根に鼻頭を押し当てて直に生臭さを嗅ぎながら、ヴェアアと精一杯に伸ばし広げた紅舌を剛茎へと絡みつかせていくのだった。淫熱に染��った瞼の下、半ば開いた双眸に、どっぷりと酩酊の色を湛えて。 「ああ、いいですよ。怜子社長の舌」 熱烈な奉仕を受ける志藤はそんな快美の言葉を吐きながら、己が股座に取りついた麗しい義母の姿を眺めおろして。豊かな肢体を折りたたむようにした態勢の、滑らかな背中や掲げられた臀丘を撫でまわしていたが。 やがてゆっくりと、股間は怜子に委ねたまま、上体を後ろに倒していって、仰臥の姿勢に変わった。 「僕からも、お返ししますよ。そのまま、おしりをこちらにまわして、顔を跨いできてください」 「…………」 意図を理解するのに時間がかかった。 いわゆるシックスナインの体勢になれと志藤は指示しているのだった。それも、女が上になったかたちの。 「……いやよ」 短く、怜子は拒絶の言葉をかえした。かつての志藤との関係の中でも経験のない行為だった。その痴態を思い描くだけでも、恥ずかしさに首筋が熱くなる。 「今さら恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか、僕と社長の間で。やってみれば愉しめますよ、きっと。社長の熱い奉仕の御礼に、僕の舌でたっぷり感じさせてあげますよ」 ペラペラとまくしたてて、長く伸ばした舌の先で、宙に8の字を描いてみせる。その卑猥な舌先の動きに、怜子は目を吸い寄せられた。 「英理も、このプレイが好きなんですよ。愛を交わしてるって実感が湧くと言って。だから、怜子社長もきっと気に入りますよ」 「……なにが“だから”よ」 そう呟いて。しかし、のろのろと怜子の身体は動き始める。淫猥な舌のデモンストレーションと、科白の中に盛りこまれた気障りなひとつふたつの単語と、より効果を及ぼしたのは、どちらであったか。 突っ伏していた裸身がもたげられ、膝が男の脚を跨ぎ越して。そのまま、下半身を志藤の頭のほうへと回していく。 顔を跨ぐ前には躊躇をみせたが、さわりと腿裏を撫でた志藤の手に促されて、思い切ったように片脚を上げた。オス犬のマーキングのごとき恥態を、ニヤニヤと仰ぎ見る志藤の眼にさらして、 「ああっ」 淫らな相互愛撫の体勢が完成すると、怜子は羞辱の声をこぼして、四つ這いに男を跨いだ肢体���肉づきを震わした。 「ああ、絶景ですよ」 大袈裟な賛嘆の声を志藤が上げる。怜子の、はしたなく広げた股の下から。 「ふふ、大きな白い桃が、ぱっくりと割れて」 「……いやぁ…」 弱い声を洩らして、撫でさすられる臀丘をビクビクと慄かせる。戯れた喩えに、いま自分が晒している痴態を、分厚い臀肉をぱっくりと左右に割って秘苑の底まで男の鼻先に見せつけているのだということを、改めて突きつけられて。 「こんなに濡らして。おしゃぶりしながら、社長も昂奮してくれてたんですね?」 「……あぁ…」 「ああ、それにすごい匂いですよ。熟れたオンナの濃厚な発情臭、クラクラします」 「ああっ、やめて」 ネチネチとした言葉の嬲りにも、怜子はやはりか弱い声をこぼして、頭を揺らし腰をよじるばかり。志藤の意地悪い科白が、しかし偽りではなく、観察したままを述べているのだと判ったから。自覚できたから。 そして、恥辱に身悶えながら、怜子はその恥ずかしい態勢を崩そうとはしなかった。ひと通りの約束事のように言葉での嬲りを済ませた志藤が首をもたげて、曝け出された女裂へと口を寄せるのを察知すると、アアッと滾った叫びを迸らせて。男の顔を跨いだ逞しい太腿や双臀の肉づきをグッと力ませる。 息吹を感じた、その次の瞬間には、ピトリと軟らかく湿ったものが触れてきた。あられもない開脚の姿勢に綻んだ花弁に柔らかく触れた舌先が、複雑な構造をなぞるように這いまわって、纏わる女蜜を舐めずっていく。まずは、と勿体をつけるような軽い戯れに、 「……あぁ…」 怜子は蕩けた声をこぼして、涎に濡れた唇を震わした。男を跨いだ四肢から身構えの力みが消え、ぐっと重心が低くなっていく。 クンニリングスという行為自体が、これまでほとんど味わったことがないものだった。無論、怜子が拒んでいたからだったが。なれば、いま破廉恥な態勢で無防備に晒した秘裂に受ける男の舌の感触は、新鮮な刺激となって、すでに淫熱を孕んだ総身の肉を蕩かす。指とも違った優しく柔らかな接触が、ただ甘やかな快美を生んで、気だるく下肢を痺れさせるのだった。 だが、そのまま甘ったるい愉悦に揺蕩っていることを許されはしなかった。 ヒイッと甲走った叫びを上げて顎を反らしたのは、充血した肉弁を舐めずり進んだ舌先が女芯に触れたからだった。やはりぷっくりと血を集めた大ぶりな肉芽を、根こそぎ掘り起こすように、グルリと舌を回されて。峻烈すぎる感覚に、咄嗟に浮かし逃がそうとした臀の動きは、男の腕力に封じこまれて。容赦ない舌の蹂躙に、怜子はヒイヒイと悶え啼くばかりだったのだが。つと、志藤は、真っ赤に膨れ上がった肉真珠から舌先を離して、 「お互いに、ですよ」 と、優しげな声で言った。 云われて、難儀そうに眼を開く怜子。その眼前に、というより、男の股間に突っ伏した顔のすぐ横に、相変わらず隆々と屹立する長大な男根。ふてぶてしく、尊大に。獰悪な牡の精気を放射して。 両腕を踏ん張り体勢を戻して、大きく開いた口唇を巨大な肉瘤に被せていく。途端に口腔を満たす熱気と牡臭。反射的に溢れ出す唾液と、剛茎に絡みついていく舌。 「そう、それでいいんです」 傲岸にそう告げて、自身も舌の動きを再開する志藤。忽ち、怜子の塞がった口中で弾ける悦声。 ようよう、その態勢にそぐった相互愛撫が始まって。しかしそれは、拮抗したものにはならない。互いの急所に取りつきながら、攻勢と守勢は端から明らかで。 この娘婿の、女あしらいの技巧、女のカラダを蕩けさせ燃え上がらせる手管のほどを、怜子はまたも存分に思い知らされることになった。緩急も自在に秘裂を嬲る志藤の舌先は、悪辣なまでの巧緻さを発揮して。ことに、ひと際鋭敏な肉真珠に攻めが集中するときには、怜子は健気な反撃の努力さえ放棄して野太い剛直を吐き出した口から、はばかりのない嬌声を張り上げるのだった。そうしなければ、肉の悦楽を叫びにして体の外へ放出しなければ、破裂してしまうといった怖れに衝かれて。 そして、受け止めきれぬほどの快楽に豊満な肢体を悶えさせ、嫋々たる啼泣を響かせながら、怜子はその胸に熱い歓喜の情感をも湧かせていた。“愛を交わしてる実感”と、英理がこの痴戯を表したという言葉を思い起こし噛みしめて。確かに、互いに快楽の源泉を委ねあって口舌の愛撫を捧げあうこの行為には、そんな感覚に陥らせる趣向があった。懇ろな、志藤の舌の蠢きには“愛”とはいわぬまでも、確かな執着がこもっていると感じられて、怜子の胸に熱い感慨を掻き立てるのだった。 そんな心理のゆえだったろうか、 「……ああ……いい……」 ねっとりと、舌腹に包みこむように、また肉珠を舐め上げられたとき、怜子は快美をはっきりとした言葉にして吐き出していた。我知らず、ではなく、意識的に。 フッと、臀の下で志藤が笑う気配があって、 「言ったとおり、気に入ってくれたみたいですね」 愉しげにそう云って、 「ここも凄いことになってますよ。いやらしい蜜が、後から後から溢れ出して。ほら」 ジュル、と下品な音を立ててすすることで、溢出の夥しさを実証して、 「ああ、極上の味わいですね。濃厚で、芳醇で。熟成されてる」 「……あぁ…」 大仰で悪趣味な賞賛に、怜子は羞恥の声を返して。ブルリと揺らした巨臀の動きに、またひと滴の蜜液を、志藤の口へと零した。 淫情に烟った双眸が、鼻先にそそり立つ肉塊へと向けられる。赤黒い肉傘の先端、鈴口の切れこみからトロリと噴きこぼれた粘液に。 あなただって、と反駁の言葉を紡ぐ前に、口が勝手に動いていた。先端に吸いつき、ジュッと吸い上げる。その瞬間に鼻へと抜ける濃厚な精臭に酩酊の感覚を深めながら、剛茎を握った手指にギュッと力をこめて扱きたてる。もっと、と搾り出そうとする。 志藤が洩らした快美の呻きが怜子の胸を疼かせ、淫猥な作業にいっそうの熱をこめさせた。だが、そのすぐ後には、またジュルリと蜜汁を吸われる刺激に、喉奥でくぐもった嬌声を炸裂させることになる。 互いの体液を、欲望の先触れを啜りあうという猥雑な行為に耽りながら、怜子はまた“英理の言葉は正しい”という思いを過ぎらせていた。悔しさとともに。“あの子は、この愉悦を、ずっと――”と。そんな想念を湧かせてしまう、己が心のあさましさは、まだ辛うじて自覚しながら。そのドス黒い感情に煽り立てられて、いっそうの情痴に溺れこんでいく己が心と体を制御することまでは、もう出来ずに。
ともに大柄な体躯を重ね合った男女の姿を、壁際のドレッサーが映していた。汗みどろの肌を合わせ、互いの秘所に吸いつきあって、ひたすら肉悦の追求に没頭する動物的な姿を。 白く豊艶な肢体を男の体に乗せ上げた女が、また鋭い叫びを迸らせる。甲高い雌叫びの半ばを咥えていた巨大な屹立に直に吐きかけ、半ばを宙空に撒き散らした。隠れていた面が鏡面に映る。この瀟洒な化粧台の鏡が毎日映してきた顔、しかしいまは別人のように変わった貌が。淫情に火照り蕩け、汗と涎にまみれた、日頃の怜悧な落ち着きとはかけ離れたその様相を、鏡は冷ややかに映し出していた。 「……あぁ…」 男の顔の上で、こんもりと高く盛り上がった臀丘にビクビクと余韻の痙攣を刻みながら、怜子は弱い声を洩らした。 幾度目かの快感の沸騰をもたらして、志藤の舌はなおも蠢きを止めない。息を継ぐ暇も与えられず、怜子は目眩むような感覚に晒され続けた。これほどの執拗な嬲りは、かつての関係の中でも受けた記憶はなかった。当時のような時間の制限のない今夜の情事、“朝まで、たっぷりと”という宣告を志藤はさっそく実践しはじめたのだ、と理解して。どこまで狂わされてしまうのか、という怯えを過ぎらせながら、怜子は中断や休息を求める言葉を口にはしなかった。 爛れた愛戯に、際限なく高められていく淫熱、蕩かされていく官能。だが、その中心には虚ろがあった。 肉芽を嬲り続ける舌先は、しかしその攻めによって発情の蜜液を溢れさせる雌孔には触れようとしない。浴室での戯れ合いでそこに潜りこみ掻きまわした指は、悶えを打つ双臀を掴んだまま。 であれば、怜子の肉体に虚ろの感覚はいや増さっていくばかり。表層の快感を塗り重ねられるほどに、内なる疼きが際立っていって。無論すべて男の手管であることは承知しながら、怜子は眼前に反り返る尊大な剛肉に再び挑みかかっていくしかなかった。また唇に舌に味わう凶悪な特徴に、さらに肉の焦燥を炙られることまでわかっていても。その獰悪な牡肉こそが、それだけが、我が身の虚ろを満たしてくれるものだと知っていれば。 そうして、健気な奮戦は、あと数度、怜子が悦声を振り絞り肢体を震わすまで続いて、 「……ああっ、も、もうっ」 そして予定通りに終わった。ついに肉の焦燥に耐え切れなくなった怜子が、べったりと志藤の顔に落としていた臀を前へと逃したのだった。混じりあった互いの汗のぬめりに泳ぐように身体を滑らせて、腰に悩ましい皺を作りながら上体をよじり、懇願の眼を向ける。快楽に蕩けた美貌に渇望の気色が凄艶な迫力を添えて。 「いいですよ」 口許の汚れを拭いながら、志藤が鷹揚に頷く。頷きながら動こうとはせずに、迎えるように両腕を広げて。 その意味を理解すると、即座に怜子は動いた。反発も躊躇もなく。横に転がるように志藤の上から下りると、向きを変えて改めてその腰を跨いだ。示唆のとおり、騎乗位で繋がろうとする態勢になって。あられもなくガニ股開きになった両腿を踏ん張って、巨大な屹立へと向けて腰を落としていく。差し伸ばした手にそれを掴みしめ、照準を合わせるという露骨な振る舞いも躊躇なく演じて。灼鉄の感覚が触れたとき、半瞬だけ動きが止まったが、グッと太腿の肉づきを力ませて、そのまま巨臀を沈めていった。 「ああッ」 ズブリと巨大な先端を呑みこんで滾った声を洩らした、その刹那に、 (――たった、これだけのこと) そんな言葉が脈略もなく浮かび上がってきた。 「……あ……おお…」 沈みこませていった臀が志藤の腰に密着し、魁偉な肉根の全容を呑みこむと、怜子は低い呻きを吐いて。次いで、迫り上げてきた情感を堪えるために、ギッと歯を食いしばった。 臓腑を圧し上げられるような感覚。深く重い充足の心地。 身体を繋げるのは、今夜二度目だ。すでにリヴィングで、この長い夜の始まりの時点で情交を行い、怜子は絶頂にも達していた。 それなのに、いま“やっと”という感慨が怜子の胸を満たす。 と、志藤が、 「ああ。ようやく、ひとつになれたって気がしますね」 と云ったのだった。実感をこめた声音で。 「ああっ」 怜子が上げた声は歓喜の叫びだった。重たげな乳房を揺らしながら前のめりになって、両手を志藤の首にしがみつかせて、 「誰とも、してないわ」 泣くような声で、そう告げた。それは、さきの志藤の問いかけへの答えだった。“他の誰か”などという無神経な問いへの。そのときには、憤慨のままに返した曖昧な答えを、いまになって怜子は訂正したのだった。懸命な感情をこめて。 「嬉しいですよ」 志藤が笑む。そんなことは先刻承知といった顔で、 「ずっと、僕のことを待っていてくれたってわけですね」 傲慢な問いかけに、怜子は乱れた髪を揺らして頭を振った。縦にとも横にともつかず曖昧に。そのまま誤魔化すようにキスを求めた。 だが志藤は軽く唇を合わせただけで顔を逸らして、体を起こしていく。繋がったままの体位の変更、強靭な肉の楔に蕩けきった媚肉をゴリッと削られて、ヒッと喉を反らした怜子の身体を片手に抱きとめながら、対面座位のかたちをとる。やや不安定な態勢への変化に、怜子はさらに深く腕をまわして志藤の首にしがみつき、より強くなった結合感に熱い喘ぎを吐いた。志藤が顔を寄せれば、待ちかねたようにその口にむしゃぶりついていく。 卑猥な唾音と荒い鼻息を鳴らしての濃密なキスの最中に、志藤が大きく腰を弾ませた。上質なマットレスの反発を利した弾みは、直ちに繋がりあった部分に響いて、 「アアッ、ふ、深いぃっ」 生臭いようなおめきを怜子に振り絞らせる。 「ふふ、悪くないでしょう?」 愉しげに言って、志藤は両手に抱えこんだ巨臀を揺らし腰を跳ね上げて、深い突き上げを送りこむ。 「ん、ヒイッ、お、奥、刺さってっ」 「ええ、感じますよ。怜子社長の一番奥。オンナの源」 生々しい実感の吐露に、さらに煽り立てる台詞をかえして。双臀を抱えていた両手を、背と腰に撫で滑らせて、 「それに、このかたちだと、より愛しあっているって実感がわくでしょう?」 「ああっ、志藤くんっ」 歓喜に震える叫びを放って、ぎゅっと抱きついた腕に力をこめた。志藤が口にしたその実感を確かめるように抱擁を強くして、巨きな乳房を圧しつけ、背中や肩を愛しげに撫でまわす。若い男の逞しい体躯や硬い筋肉を、総身の肌を使って感じ取ろうとしながら、また口付けをねだっていく。 美しい義母の熱い求めに応じながら、志藤は“その呼び方も久しぶりだな”などと冷静な思考を過ぎらせて。熱烈に口に吸いついてくる怜子の頬越しに、壁際のドレッサーへと視線をやった。 鏡面に白い背姿が映し出されている。豊満で彫りの深い裸の肢体。ねっとりとした汗に輝く背中に乱れた髪を散らして。くびれた腰からこんもりと盛り上がる巨きくて分厚い臀が、淫らな揺れ弾みを演じている。男の腰を跨いだ逞しい両腿を踏ん張って、あられもなく左右に割った双臀の肉づきを、もりっもりっと貪婪な気色で歪ませながら、女肉を貫いた魁偉な牡肉を食らっている。不慣れな体位でありながら、淫蕩な気合を漲らせた尻腰の動きには、もう僅かにもぎこちなさは見受けられず。 戯れに、志藤が抱え直した巨臀をグリリとまわしてやれば、怜子の涎にまみれた口唇から音色の違った嬌声が噴きこぼれて。そして忽ちに、そのアクセントを取り入れていくのだった。鏡に映る熟れ臀の舞踊が、いっそう卑猥で露骨なものになっていく。ドスドスと重たげな上下動に、こねくるような円の動きを加えて。 「ああっ、いいっ」 自らの動きで、グリグリと最奥を抉りたてながら、怜子が快美を告げる。ギュッと志藤の首っ玉にしがみつき頬を擦りよせながら。 「僕もたまりませんよ。怜子社長の“中”、どんどん甘くなっていって」 偽りのない感覚を怜子の耳朶へと吹きかけながら、志藤は自分からの動きは止めていた。交接の運動はまったく怜子に任せて、その淫らな奮戦ぶりと溶解っぷりを眺め、実際にどんどん旨みを増していく女肉の味わいを堪能していた。 だから、 「――ああっ、ダメ、も、もうっ」 ほどなく、切迫した声を洩らして、ブルと胴震いを走らせはじめた怜子のさまを“追いこまれた”と表するのは適切ではなかっただろう。 「いいですよ。思いっきり飛んでください」 鷹揚に許しを与えて、だが志藤はそれに協力する動きはとらない。最後まで怜子ひとりの動きに任せて。 男の胡坐の中に嵌りこんだ淫臀の揺動が激しく小刻みになる。ひたすら眼前に迫った絶頂を掴みとろうとする欲求を剥き出しにして。そして、予兆を告げてから殆んど間もなく、 「あああっ、イクわ、イクぅッ――」 唸るような絶息の叫びを振り絞って、怜子は快楽の極みへと飛んだ。喉を反らし、汗に湿ったブルネットの髪を散らして。爆発的な愉悦、まさに吹き飛ばされそうな感覚が、男の体にしがみつかせた四肢に必死の力をこめさせた。 志藤もまた快美の呻きを吐きながら、熟れた女肉の断末魔の痙攣を味わっていた。この夜ここまでで最高の反応、蕩け爛れた媚肉の熱狂的な締めつけを満喫しながらであれば、ギリギリと背肌に爪を立てられる痛みも、腰を挟みこんだ逞しい両腿がへし折らんばかりの圧迫を加えてくるのも、愉快なアクセントと感じられた。ついに“本域”のアクメに到達した艶母が曝け出す悶絶の痴態、血肉のわななきと滾りを堪能して。 そして、その盛大な絶息の発作が鎮まりきらぬうちに、大きく腰を弾ませて突き上げを見舞った。 ヒイイッと悲鳴を迸らせて、志藤の腕の中で跳び上がるように背を伸ばした怜子が、 「アアッ、ま、待って、まだ、イッて、待ってぇッ」 「いいじゃないですか。何度でも」 くなくなと頭を揺らして、しばしの休息を乞うのには、声音だけは優しく冷酷な答えを返して。膂力にものをいわせて、抱えた巨臀をもたげては落としを繰り返した。 無慈悲な責めに、忽ちに怜子は追い詰められた。ほぼ連続しての絶頂に追い上げられ、獣じみた女叫びを振り絞り、総身の肉置を痙攣させた。それからガクリと、糸が切れたように脱力して、志藤の肩に頭を落とした。 そこでようやく志藤は攻め手を止める。怜子の乱れ髪の薫りを嗅ぎながら、荒い喘ぎに波打つ背中を労うように撫でて。重たくなったグラマラスな肢体を、丁重に後ろへと倒させていく。半ば意識を飛ばした怜子は、されるがままだったが。背中がベッドを感じると安堵したような息を吐いて、さらに身体を虚脱させた。 態勢の変化に浅くなった結合、そのまま志藤は剛直を抜き取った。その刹那、朦朧たる意識の中で艶めいた微妙な色合いの声を洩らした怜子を愉しげに見下ろしながら、その膝裏に手を差し入れ、長く肉感的な両肢を持ち上げ、さらに腹のほうへと押しやる。 大柄で豊かな裸身が屈曲位の態勢に折りたたまれて、情交直後の秘苑が明かりの下に開陳される。濃密な恥毛は汗と蜜液にベットリと絡まり固まって肉土手にへばりついていた。熟れた色合いの肉弁は糜爛の様相でほどけ、その底まで曝け出している。媚孔は寸前まで野太いモノを咥えこんでいたという痕跡のままにしどけなく拡がって。そこから垂れ零れる淫蜜の夥しさと白く濁った色が、この爛熟の肉体の発情ぶりとヨガリっぷりをあからさまにしていた。まるですでに男の射精を受け止めたかのような有様だが、立ち昇る蒸れた臭気には、熟れきった雌の淫猥な生臭さだけが匂って。 「……あぁ…おねがい、少し休ませて…」 窮屈な態勢に、ようよう彼岸から立ち戻った怜子が懇願の言葉を口にした。薄く開いた双眸で志藤を見上げて。 「まだまだ。これからじゃないですか」 軽く怜子の求めをいなして、志藤が浮かせた腰を前へと進める。無論のこと、隆々たる屹立を保ったままの剛直を、開陳された女苑へと触れさせる。貫きにかかるのではなく、剛茎の腹で秘裂をヌラヌラと擦りたてながら、 「ようやく怜子社長のカラダもエンジンがかかってきたってところでしょう? 僕だって、まだ思いを遂げてませんしね」 「……あぁ…」 辛そうな、しかしどこか漫ろな声を零して。そして、怜子の視線はどうしようもなくそこへと、卑猥な玩弄を受けている箇所へと向かう。はしたない態勢に、これ以上なくあからさまにされた秘裂の上を、ヌルッヌルッと往還する肉塊へと。 「……すごい…」 思わず、といったふうに呟きが洩れた。その並外れた逞しさを改めて目に映し、淫らな熱を孕んだ部位に感じれば、つい今さっきまでの苛烈なまでの感覚も直ちに呼び起こされて。 「今度は僕も最後までイカせてもらいますよ」 「…………」 そう宣言した志藤が、片手に握った怒張の切っ先を擬して結合の構えをとっても、怜子はもう休息を求める言葉は口にしなかった。 膝裏を押さえつけていた志藤の手が足首へと移って、さらに深い屈曲と露骨な開脚の姿勢を強いた。羞恥と苦しさにあえかな声を洩らしながら、怜子の視線は一点に縫い止められていた。 真上から打ち下ろすような角度で、志藤がゆっくりと貫きを開始する。怜子はギリッと歯を噛みしばって、跳ね上がりかける顎を堪え、懸命に眼を凝らして、巨大な肉塊が己が体内に潜りこんでいくさまを見届けようと努めるのだったが。 休息を求めた言葉とは裏腹、ほんの僅かな中断にも待ち焦がれたといった様子で絡みついてくる媚肉の反応を味わいながらじわじわと侵攻していった志藤が、半ばから突然に一気に腰を叩きつけると、堪らず仰け反りかえった喉から獣じみたおめきをほとびらせて、 「ふ、深いぃッ」 生々しい実感を、また言葉にして吐き出した。宙に掲げられた足先が硬直して、形のよい足指がギュッとたわめられる。 「ええ。また奥まで繋がりましたよ。ほら」 そう言って、志藤が浮き上がった巨臀の上に乗せ上げた腰を揺する。それだけの動きに、またひと声咆えた怜子が、やっと見開いた眼で傲然と見下ろす男の顔を見やって、 「んん、アアッ、深い、ふかいのよっ、奥、奥までぇっ」 そう振り絞りながら、片手で鳩尾のあたりを掴みしめる。そこまで届いている、とは流石にありえないことだったが、それが怜子の実感であり。それをそのまま言葉にした女叫びには、その凄絶な感覚をもたらす圧倒的な牡肉への礼賛の響きがあった。そして、それほどに逞しく強靭な牡に凌される我が身への満悦、牝の光栄に歓喜するといった気色も滲んでいたのだった。忙しく瞬きながら、男の顔を仰ぎ見る双眸には、甘い屈服の情感が燃え立っていた。 そんな怜子の負けこみぶりを愉しげに見下ろして、志藤は仕上げにかかる。 最奥まで抉りこんだ剛直をズルズルと引き抜き、硬い肉エラで熱く茹った襞肉を掻き擦られる刺激に怜子を囀り鳴かせてから、ひと息に貫き通して、低く重い呻きを絞り出させる。べしっべしっと厚い臀肉を荒腰で打ち鳴らして、改めて肉根の長大さを思い知らせるような長い振幅のストロークを見舞えば、昂ぶりつづける淫熱に見栄も恥も忘れた義母はヒイヒイとヨガリ啼きオウオウと咆えながら、窮屈な姿勢に極められた肢体を揺らし、溶け爛れた女肉をわななかせて、必死に応えてきた。 だが、志藤の攻めが、深い結合のままドスドスと奥底を連打するものに切り替わると、 「アアッ、ダメ、私、またぁ」 もろくも切迫した声を上げて、もたげられた太腿の肥えた肉づきをブルブルと震わしはじめた。 と、志藤は抽送を弱めて、 「もう少し我慢してください」 そう言って、怜子の両脚を下ろし屈曲の態勢を直させて、体を前へと倒した。正常位のかたちに身体を重ねて、すかさず首を抱き唇を寄せてくる怜子に軽く応じてから、 「僕も、もうすぐなんで。一緒にイキましょう」 「……アアッ」 耳元に囁かれた言葉に、怜子は滾った声を放って、志藤の首にまわした腕に力がこもった。腰が震え、媚肉がキュッと収縮して咥えこんだモノを食い締めた。 だが志藤は、怜子が総身で示した喜びと期待に直ちに応えようとはせずに、 「ああ、でも、どうですかね」 と、思案する素振りを見せて、 「もちろん、いつものピルは用意してますけど。でも、いまや義理とはいえ母親になった女性に……ナカ出しまでしてしまうってのは、さすがに罪が深いかな?」 「ああっ」 と、怜子が上げた声は、今度は憤懣によるものだった。この期におよんでの見え透いた言いぐさ、底意地の悪さに苛立ったように頭を揺らして。そうしながら、素早くその身体が動いている。腕にはさらに力みがこもって、男の硬い胸を己が胸乳へと引き寄せ。解放されてベッドへと落ちていた両脚は、志藤の下半身へと絡みついていって、尻の後ろで足首を交差させたのだった。がっし、と。決して逃がさぬ、という意思を示して。 「わかりました」 志藤が頷く。すべて思惑どおりと満悦の笑みを浮かべて。 抽送がまた苛烈なものへと戻っていく。女を攻め立てよがり狂わせる腰使いから、遂情を目指したものへと気配を変じて。その変化を感じ取った怜子が高々と歓喜の叫びを張り上げて、 「来て、来てェッ」 あられもない求めの言葉を喚き散らした。娘婿たる男の精を乞いねだって、激しい律動へと迎え腰を合わせ、ぐっと漲りを強めた剛根を疼き悶える媚肉で食い締めるのだった。 「一緒に、ですよ」 ようよう昂ぶりを滲ませ、息を弾ませた声に念を押されれば、ガクガクと首を肯かせながら、 「は、早くぅっ」 切羽詰まった叫びを振り絞った。ギリギリと歯を食いしばって、臨界寸前にまで追い上げられた情感を堪える。男に命じられたから、ではなく、怜子自身の欲求、なんとしてもその瞬間を合致させたいという切実な希求が、僅かな余力を振り絞らせた。その必死の尽力が間断なく洩れ続ける雌叫びを異様なものとした。瀕死の野獣の唸りに、渾身の息みに無様に鳴る鼻音まで加わって。 平素の理知の輝きなど跡形もなく消失した狂態は、それほど長くは続かなかった。遂情を兆しているという志藤の言葉は偽りではなかったのだ。怜子の懸命の努力は報われ、願望は叶えられた。 低く重い呻きと同時に、最奥まで抉りこんだ剛直が脈動する。熱い波濤が胎奥を叩いて、その刹那に怜子が迸らせた咆哮は、やはり野獣じみて獰猛ですらあった。遠吠えのように長く長く尾を引いた。志藤の体にしがみつかせた両腕両脚が筋を浮き立たせて硬直する。 今夜ここまで欲望を抑えてきた志藤の吐精は盛大だった。熱狂的な雌孔の反応がさらにそれを助長した。揉みしぼるような女肉の蠕動を味わえば、志藤もまた“おおっ”と獣声を吐いて肉根を脈動させ、その追撃が怜子にさらなる歓悦の声を上げさせる。そんな連環の中に、こよなき悦楽を共有しあって。 やがて、ようやく欲望を吐き出し終えた志藤が脱力した体を沈ませた。重みを受けた怜子が微かな呻きを吐いて、男の背にまわした腕に一度ギュッと力がこもり、また弛緩していった。両脚も力を失って、ベッドへと滑り下りていった。 汗みどろの裸身を重ね、今度はしばし虚脱と余韻のときを共にして。 「……最高でした」 乱れ散らばったブルネットに顔を埋めたまま志藤が呟いた。率直な実感をこめた声で。 応えはない。 首を起こして見やれば、熱情に火照り淫らな汗に濡れた義母の面は、瞼を閉ざして、形のよい鼻孔と緩んだ唇を荒い呼吸に喘がせている。意識があるのかどうか判然としなかったが。 つと、その眦からこめかみへと、滴が流れた。 口を寄せ、チロリとその涙の粒を舐めとれば、ビクと微かな反応がかえって。 「これまでで、最高でしたね」 「…………」 今度は問いかけにして繰り返せば、うつつないままにコクと肯いた。 そっと唇を重ねる。強引な激しさも悪辣な技巧もない、ただ優しく触れるキスを贈れば、艶やかな唇は柔らかく解けて。 いまだ肉体を繋げたまま、義理の母親と娘婿は、快楽の余韻を引いた吐息を交わし合った
英理の特製ビーフシチューは今日も絶品の出来だった。 形ばかり志藤に付き合うつもりが、口をつければ空腹を刺激されてしまった。 「……こんな時間に食べてしまって」 結局少量とはいえ取り分けたぶんをほぼ食べ切って、日頃の節制を無にする行動だと後悔を呟く。 「いいじゃないですか。たっぷり汗をかいたあとだし」 「…………」 こちらは充分な量をすでに平らげた志藤が、ワインを飲みながら気楽に請け合う。いかにも女の努力を知らぬ男の無責任な言いぐさだったが。 不機嫌に睨みつけた怜子の表情は、志藤の言葉によって呼び起こされた羞恥心の反動だった。 たっぷりと激しく濃密なセックスに耽溺し、汗をしぼり体力を消耗して。そのあとに、空腹を満たすべく食事を(量はどうあれ、濃厚な肉料理を)摂っている。まるで動物の行動ではないか、と。欲求の充足だけを原理とした。 いまは、その爛れた媾いの痕跡を洗い流し、一応の身なりを整えていることが、せめてもの人がましさといえるだろうか。食事の前に再びシャワーを使って、いまはともにバスローブ姿で食卓についていた。 「……英理は主婦として完璧ね」 卓上に視線を落として、怜子はそう云った。美味しい料理は英理が作り置いていったもの。身にまとう清潔で肌触りのいいローブも英理が用意したものだ。 「そうですね」 「あなた、幸運だわ」 「それはもう、重々わかってますよ。いつも英理に言われてますから。こんな出来た嫁を手に入れた幸せを噛みしめろって。才色兼備で家事も万能、その上――」 ニッと、志藤は愉しげな笑みを浮かべて、 「美しくてセクシーな母親まで付いてくるんだから、と」 「…………」 「今夜こうして、その幸運を確認できたわけで。僕は本当に果報者ですよ」 ぬけぬけとそう言い放って満悦の表情を見せる志藤を、怜子はしばし無言で睨んで。ふうっと息を吐いて、感情を静めて、 「……今夜のことは」 軋るような声で言い出した。いま、やや迂遠な切り出しから告げようとしていた言葉を。 「弁解する気もないし、あなたを責める気もないわ。性懲りもなく、また過ちを犯した自分を恥じるだけよ。でも、こんなことは今夜かぎりよ」 「どうしてです? これは英理も望んでることなのに」 だから、別に“不義”を犯しているというわけでもない、と。 「……おかしいわよ、あなたたち」 「そうですかね? まあ、多少特殊な状況だとは思いますけど」 「……もう、いいわ」 嘆息まじりにそう言って、怜子は不毛な議論を打ち切った。 とにかく、告げるべき言葉は告げた、と。今夜の成り行きを、志藤との関係の再開の契機にするつもりなどないということ、志藤と英理の異常な企みに乗る気などないということは。 志藤は軽く首を傾げて、考える素振りを見せたが。その表情は、あまり真剣なものとは見えなかった。怜子を見つめる眼には、面白がるような、呆れるような色があった。 仕方がない、とは納得できてしまった。今夜、自分がさらした醜態を振り返れば。なにを今さら、と嘲られることは。 だが、他にどんな決断のしようがあるというのか? 狂乱のときが過ぎて、理性を取り戻したいまとなっては。 「本当にそれでいいんですか?」 志藤が訊いてくる。優しげな、気遣うような声で。 目顔で問い返しながら、その先の言葉はおよそ察しがついた。 「いえ、久しぶりに怜子社長と肌を合わせて、離れていた間に貴女が抱えこんでいた寂しさを、まざまざ感じとったというつもりになったもので。また明日から、そんな孤独な生活に戻ることを、すんなり受け容れられるのかな、って」 あくまで慇懃な口調で。いかにも言葉を選んだという婉曲な表現で。 「…………」 怜子は無言で侮辱に耐えた。やはり、受け止めるしかない屈辱なのだと言い聞かせて。志藤の挑発を無視することで決意を示そうとした。 志藤は、しばし怜子の表情を観察して、 「……そうですか」 と、嘆息して、 「それが怜子社長の意思なら仕方ないですが。僕としては残念だな。今夜あらためて、カラダの相性の良さを確認できたのに」 「……それが、決まり文句なのね」 怜子は言い返していた。沈黙を貫くはずが。声に冷笑の響きをこめはしたけれど。 かつての関係の中でも、幾度となく聞かされた台詞だった。それも、この男の手管のひとつなのだろうと怜子は理解していた。その圧倒的な牡としての“力”で女を打ち負かしたあとに、僅かばかり自尊心を救済して。そうすることで、よりスムーズに“靡き”へと誘導する。きっと、これまで攻略してきた女には決まって投げかけてきた言葉なのだろうと。 「そんなことはありませんよ。本当に、これほどセックスが合う相手は他にいないと思ってるんです」 「…………」 「だから、今夜かぎりってのは本当に残念ですけど。まあ、仕方ないですね」 そう云って、グラスに残ったワインを飲み干した。その行動と気配に、次の動きを察した怜子が、 「もう終わりにしてちょうだい」 と、先回りに頼んだ。 「もう充分でしょう? 私、疲れきっているのよ」 「まさか。夜はこれからじゃないですか」 あっさりと受け流した志藤が壁の時計を見やる。時刻は0時を三十分ほど過ぎたところ。 まだそんな時間なのか、というのが怜子の実感だった。この数時間のあまりに濃密な経緯に。 「シャワーを浴びてリフレッシュもしたし、お腹を満たしてエネルギーも補充できたでしょう? やっぱり時間の制約がないのはいいですね。こうしてゆっくりと愉しめるのは」 そう言って笑う志藤の逞しい体躯からは、若い雄の獰猛な精気が発散されはじめていて。 「もう無理よ、これ以上は」 その気配に怖気を感じて、怜子は懇願の言葉を続けた。 「本当に、クタクタに疲れ果てているのよ。若いあなたに激しく責められて……何度も……恥ずかしい姿をさらして……」 そう言ってしまってから、こみ上げた悔しさに頬を歪めた。それは自分の無惨な敗北ぶりを認める科白であったから。転々と場所を変えながらの破廉恥な戯れのはて、辿り着いた寝室で立て続けに二度、志藤の欲望を受け止めたという成り行きの中で、その行為の苛烈さだけでなく、それによって味わわされた目眩むような快楽、幾度となく追い上げられた凄絶な絶頂が、心身を消耗させたのだと。 だが表白することで改めて噛みしめた悔しさ惨めさが、何��か怜子を衝き動かして、 「わかってよ、志藤くん。私、若くはないのよ。……英理とは違うのよ」 そんな言葉を吐かせた。わざわざ、英理の名まで持ち出して。 「そんな弱音は怜子社長らしくないですね」 気楽に志藤は云って、 「英理は意外にスタミナがないんですよ。いつも、割と早々に音を上げてしまうんです。比べたら、怜子社長のほうがずっとタフだと思いますよ。相性がいい、セックスが合うというのは、それもあるんですよ」 「……なによ、それは」 それで賞賛のつもりなのか、と。単に、自分のほうが英理より淫乱で貪欲だと云っているだけではないか、と志藤を睨みつける。 つまり、戯言だと撥ねつけられずに、受け取ってしまっているのだった。妻の英理よりも義母である自分とのほうが肉体の相性がいい、などという不埒な娘婿の言葉を。 「御気に障りましたか? 率直な気持ちなんですが」 悪びれもせずに、志藤は、 「それを今夜かぎりと言われれば、名残を惜しまずにはいられませんよ。また後日って約束してもらえるなら、話は違いますけど」 「しつこいわよ。聞き分けなさい」 にべもない答えを返して。そうしながら、腕組みして考えを巡らす様子の志藤を、怜子は見やっていた。 「……やっぱり、なにか気障りなことを言っちゃいましたかね?」 窺うように志藤はそう訊いて、 「“美人の母親が付いてくる”なんて、確かに失礼な言いぐさでしたね。でもそれは、英理らしい尖った言い回しってだけのことですよ。もちろん僕は、怜子社長を英理の余禄だなんて思ってません。思うはずがないじゃないですか」 「……どうでもいいわよ、そんなことは」 深い溜め息とともに。どうしようもなくズレていると呆れ果てて。 だが、まるで見当違いの角度から宥めすかして、かき口説こうと熱をこめる志藤のしつこさを、疎ましいものとは感じなかった。 そも、それはまったく的外れな取り成しだったか? 件の英理の言葉を聞かされたとき、その逸脱ぶりに母親として暗澹たる思いをわかせつつ、女としての憤りを感じたことは事実。たった今の志藤の弁明に、その感情が中和されたことも。 ……不穏な心理の流れであることは自覚できた。だから怜子は、 「ねえ、明日には、あの子たちも帰ってくるのよ。英理はともかく、慎一には絶対に気取られるわけにはいかないわ」 あえて、その名前を口に出した。今夜ここまで、考えまい思い浮かべまいとしてきた息子の名を。 遠く離れた場所で、姉弟がどんな時間を過ごしているのかは、今は知りようがない。怜子としては、慎一を連れ出した英理の行動が、ただ自分に対する“罠”を仕掛けるためのものであったことを願うしかなかった。まさか、慎一にすべてを明かすなどと、そこまでの暴挙には出るまい、と祈る思いで。 とにかく、明日――日付としては、もう今日だ――帰宅した慎一に、異変を気づかれることだけは絶対に避けなければならない。たとえ……帰ってきた慎一が、すでに“事実”を知らされていたとしても。いや、そうであれば尚更に、今夜自分が犯した新たな過ちまで知られるわけにはいかない。すべての痕跡を消して、何事もなかった顔で、息子を迎えなければ。これ以上、際限もない志藤の欲望に付き合わされては、それも困難になってしまうだろう。 なんて、ひどい母親か、と深い慙愧の念を噛みしめる。性懲りもなく過ちを繰り返さなければ、こんな姑息な隠蔽に心をくだく必要もなかったのだ。 「ああ、慎一くん。なるほど」 名を出されて、存在を思い出したといったふうに志藤は呟いて、 「確かに、彼には今夜のことは知られたくないですよね。ええ、もちろん僕も協力しますよ」 と、軽く請け負って。 すっと立ち上がった。テーブルを回って怜子の傍らに立つと腕を掴んで強引に引き上げた。 ほとんど、ひと呼吸の間の素早い動きだったが。唐突な行動とは云えまい。先ほどから志藤は、しばしの休息を終えての情事の再開を求めていたのだから。 「放してっ」 振り払おうとする怜子の抗いは、男の腕力を思い知らされただけだった。 「まあまあ。ふたりが帰ってくるにしても、午前中ってことはないでしょう。まだもう少し愉しめますよ」 「ダメよっ」 “もう少し”などという約束を信じて、ここで譲ってしまえば。この獰猛な牡獣は、朝まででも欲望を貪り続けることだろうと正確に見通して。なにより、そんな予見に怯えながら、瞬く間に熱を孕んでいく我が身の反応が怜子には怖ろしかった。腰にまわった強い腕に引き寄せられ、さらに体熱と精気を近く感じれば、熱い痺れが背筋を這い上がってきて。その自らの身中に蠢き出したものに抗うように身もがき続けたのだったが。その必死の抵抗をあしらいながら顔を寄せた志藤が、 「いっそ、英理にも秘密にしましょうか?」 耳元に吹きかけた言葉の意外さに、思わず動きを止めて、その顔を見上げた。志藤はニンマリと愉しげに笑って、 「今夜は、なにも起こらなかった。怜子社長は普段通り帰宅したけれど、僕からのアプローチは断固として撥ねつけられて。その身体には指一本触れることが出来なかったって。明日帰ってきた英理にそう報告するんです」 「…………」 まだ意図が掴めず目顔で問い返す怜子に、志藤はさらに笑みを深め、声をひそめて、 「そうして��いて。僕らは、また秘密の関係を復活させる。どうです?」 「――なに、をっ」 瞬時、率直な驚きを浮かべた貌が、すぐに険しく強張る。睨みつける視線を平然と受け止めた志藤は気障りな笑みを消して、 「怜子社長は考えたことはありませんか? もし、あのとき英理に気づかれなかったら、あんなかたちで英理が介入してこなかったら。いまの僕と貴女の関係はどうなっていたかって」 「…………」 「僕は何度も考えましたよ。考えずにはいられなかったな。だって、本来僕が、なんとしても手に入れたいと望んだ相手は、須崎怜子という女性だったわけですから」 それは、この夜の始まりに口にした言葉に直結する科白だった。一年前の成り行きは、けっして怜子を捨てて英理を選んだということではなかった、という弁明に。静かだが熱のこもった声で、真剣な眼色で。だが繰り返したその表白に、いま志藤がこめる思惑は、 「だから、また貴女とあんな関係に戻れたらって。思わずにはいられないんです」 つまりは、改めて密かな関係を築こうという恥知らずな提案なのだった。怜子が、英理からの“招待”をどうしても受ける気がないというのであれば。その英理を除外して、またふたりだけの関係を作ろうじゃないか、と。 ぬけぬけと言い放った志藤の眼には、身勝手に思い描いた未来への期待の色が浮かぶように見えた。またその口ぶりには、それならば英理の構想する“三つ巴”の生活よりはずっと受け容れやすいだろう、という極めつけが聞き取れた。 「……呆れるわね」 短い沈黙のあとに怜子が吐き捨てた言葉には、しごく真っ当な怒りがこもった。どこまで節操がないのか、と。志藤を睨む眼つきが、さらに強く厳しいものになって。 しかし、その胸には混乱も生じていたのだった。英理への背信というべき提案を持ち出した志藤に。この若い夫婦は、自分を陥れ取り込むために結束していたのではなかったか。 無論、その厚顔な告白を真に受けるなど馬鹿げている、と心中に呟きながら、怜子は志藤へと向けた剣呑な視線の中に、探る意識を忍ばせてしまうのだった。冷淡な義母の反応に微かな落胆の息をついて、 「でも、それが僕の正直な想いなんですがね」 「…………」 尚もそう重ねた娘婿の瞳の奥に、その言葉の裏付けを探そうとしてしまうのだった。 志藤が口を寄せた。ゆっくり近づいてくるその顔を、怜子は睨み続けていた。唇が触れ合う寸前になって顔を横に逃がそうとしたが、意味はなかった。唇が重なりあってから、怜子は瞼を閉じた。 優しく丁重なキスを、ただ怜子は受け止めた。舌の侵入は許しても、自らの舌を応えさせはしなかった。 急にその息を乱させたのは、胸元から突き上げた鋭利な刺激だった。バスローブの下に潜りこんだ志藤の手が、たわわな膨らみを掬うように掴んでジンワリと揉みたてたのだった。 「は、離してっ」 「無理ですよ。もう手が離れません」 身をよじり、嬲りの手をもぎ離そうとする怜子の抵抗など歯牙にもかけずに、志藤が答える。弱い抗いを封じるように、ギュッと強く肉房を揉み潰して、怜子にウッと息を詰めさせると、またやわやわと懇ろな愛撫に切り替えて、 「この極上の揉み心地とも、今夜かぎりでまたお別れだなんて。どうにも惜しいな」 そうひとりごちて、せめてもその極上の感触を味わい尽くそうというように、手指の動きに熱をこめていく。 怜子はもう形ばかりの抵抗も示せずに、乳房への玩弄を受け止めていた。繊細な柔肉の、それにしても性急に過ぎる感応ぶりが抗いの力を奪っていた。瞬く間に体温が上昇して、豊かなブルネットの生え際には、はやジットリと汗が滲みはじめている。豊かな乳房の頂では、まだ直截の嬲りを受けない乳首がぷっくりと尖り立っていた。クタクタに疲れ果てていると、志藤に吐露した弱音は嘘偽りのない実感からのものだったが、疲弊した肉体の、しかしその感覚はひどく鋭敏になっていることを思い知らされた。 そんな我が身の異変に悩乱し、胸乳から伝わる感覚に背筋を痺れさせながらも、怜子は、 「でも、正直自信がないですよ。明日からまたこれまで通りの生活に戻っていけるかは」 半ば独り言のように喋り続ける志藤の声に、耳をそばだてていた。 すでに仕掛けている淫らな接触のとおり、これで解放してくれという怜子の懇請は完全に黙殺していたが。しかし、今夜かぎりにすることは受け容れた言いようになっている。つい先ほどまで“英理に隠れてでも”と関係の継続を迫ってきた位置から、あっさりと引き下がって。その唐突な距離の変化が怜子を戸惑わせ、耳を傾けさせるのだった。なにか……割り切れぬような尾を引いて。 「今夜、あらためて身体の相性のよさも確認できたっていうのに。それを、一夜だけの夢と納得しろだなんて。切ないですよ」 「…………」 志藤も、じっくりと聞き取らせようとするのだろう。乳房への嬲りを緩めた。そうされずとも、思惑は察することが出来たが。しかし口上を制止する言葉が出てこなかった。 身体――セックスの相性のよさ。この不埒な若い男の手に触れられただけで――たった今がそうであるように――情けないほどにたやすく燃え上がり蕩けていった己が肉体。淫猥な攻めの逐一に過剰なほどに感応して、振り絞った悦声、吹きこぼした蜜液。そして……かつてのこの男との記憶さえ凌駕してしまった、凄絶な情交――。 「だって、これからも僕らは、この家で一緒に暮らしていくわけですからね。怜子社長……いや、もう弁えて、お義母さんと呼ぶべきかな。とにかく、貴女の姿がいつもすぐそばにあるわけで。それじゃあ、今夜のことを忘れることなんて、とても」 「…………」 そう、同居生活は続いていく。今夜、なにもなかったと方をつけるなら、同居暮らしも何事もなく続いていくしかない。“ただの”娘婿に戻った志藤は、これまでのように妻である英理との仲睦まじさを見せつけるのだろう。その傍らにいる自分には、あくまで慇懃な態度で接し、“お義母さん”という正しい呼称もすぐに口に馴染ませて……。 「お義母さんが不在のときだって、同じことですよ。リビングのソファに座っていても、シャワーを使っていても、玄関ホールに立って、あの階段を見上げるだけでも、思い出さすにはいられないでしょう」 「……やめて」 やっと振り絞ることが出来た。 転々と、場所を移しながら繰り広げた痴態。我が家のそこかしこに刻んでしまった記憶。それを明日からの生活に引き摺っていかねばならないのは、無論志藤ひとりではない。 数瞬だけ志藤は黙って。そして付け加えた。 「まあ、お義母さんの寝室だけは、僕は二度と立ち入ることはないでしょうけど」 「…………」 そう。その場所は、また怜子だけのスペースになる。何処よりも濃密な記憶が蟠る、あの部屋は。 毎日の終わりに、たとえば湯上りの姿で戯れ合う志藤と英理を階下に残して、或いはすでにふたりが夫婦の寝室に引き上げたあとに。怜子はひとり階段を上り、あの部屋へ、あのベッドへと向かうのだ。 毎晩、ひとりで。 もちろん志藤は自らの嘆きを口にするというふりで、怜子に突きつけているのだった。頑なに拒絶を貫くのであれば、そんな毎日が待っているんですよ、と。 怜子はなにも言えなかった。並べ立てられた状況、情景のすべてが、あまりにも生々しく思い描けてしまって。 「僕にも、怜子社長のような強い意志が持てればいいんですけど。見習うのは難しいですね」 気まぐれにまた呼び方を戻して、やはりそちらのほうがよっぽどマシだと怜子の耳に感じさせながら、志藤は念を押してくる。その意志の強さ、矜持の高さによって、この一年あまりの時間を耐え抜いてきた怜子だが、その“実績”には感服するが。明日からも同じようにそれを続けていくことが本当に出来るのか、と。今夜を越えて、この一夜の記憶を抱えて。 と、志藤は無言で立ち竦む怜子の腰を強く引き寄せた。身体を密着させ、ローブ越しに硬く勃起した感触を押しつけて怜子に息を詰めさせ、乳房を揉み臀を撫でまわしながら、 「やっぱり、考え直してもらえませんか? ふたりだけの関係を再開すること」 未練を露わにした口調でそう問いかけた。またも突然に距離を詰めて。 「ダ、ダメよ」 荒々しい玩弄に身悶えながら、怜子は忽ちに弾む息の下から、 「英理に気づかれるわ」 そう口走って、即座に過ちに気づいた。違う、そうじゃない、と頭を振って、たった今の自分の言葉を打ち消そうとする。 だが志藤は、その怜子の失策に付け入ろうとはせずに、 「……そうですか」 ふうっと嘆息まじりにそう言って、両手の動きを止め、抱擁を緩める。密着していた腰も離れた。 「だったら、未練な気持ちが残らないように、このカラダを味わい尽くさせてもらいますよ」 今度こそ割り切って切り替えたといったような、どこか冷静な響きをたたえた声でそう言った。 「……ぁ…」 そんなふうに言い切られてしまうと、奇妙に切ないような情感が胸にわいて。怜子は無意識に伸ばしかけた手を力なく下へと落とした。 乳房と臀から離れた志藤の手がバスローブの腰紐を解くのを、怜子は沈黙のまま見下ろしていた。次いで、襟にかかった手が、肩を抜いて引き下ろしていくのにも抵抗しなかった。 ローブが床に落ち、熟れた見事な裸身が現れ出る。今度はダイニングを背景に、食卓を傍らに。その状況を意識せずにはいられないのだろう、怜子は羞恥の朱を上らせた顔を俯け肘を抱いて膝を擦り寄せるようにしていたが。その挙措とは裏腹に、爛熟した豊かな肢体は、迫り出すような肉感を見せつける。照明に照らされる白磁の肌には憔悴の陰りは窺えず、むしろ精気に満ちて艶やかな輝きを放つように見えた。 その義母の艶姿へと好色な目を向けながら、志藤は自分も脱いでいった。裸を晒すには、こちらもローブ一枚を取り去ればよかった。深夜の食卓で、そんな姿で義母と娘婿は向き合っていたということだ。 露わになった精悍な裸形へと奪われた視線をすぐに逸らした怜子だったが。すでに半ば以上の力を得た肉根を揺らしながら、志藤が再び腕を伸ばしてくると、 「ここではいやよ」 そう云って、後ずさった。もはや解放を願おうとはしなかったが、これ以上こんな場所で痴態を演じるのは嫌だと。 「じゃあ、部屋へと戻りますか」 あっさりと聞き入れて、さあ、と怜子を促しながら、志藤は唯一足元に残ったスリッパを脱ぎ捨てる。怜子も、裸にそれだけを履いた姿の滑稽さに気づいて、そっとスリッパから抜いた素足で床を踏んで。促されるまま踵をかえし歩き出して。ダイニングから廊下へと出かかったところで歩みを止め振りかえると、僅かな逡巡のあとに、 「……今夜だけ、よ…」 結局その言葉を口にした。まるでひとつ覚えだと自嘲しながら、あえてその台詞を繰り返したのは、志藤より自分自身に言い聞かせようとする心理だったかもしれない。その一線だけは譲ってはならないと。 それとも……まさか“今夜だけ”なのだからと、朝までの残された時間の中で自らのあさましい欲望を解放しきるための口実、免罪符として、という意識が働いたのか。 そんなはずはない、と打ち消すことは、いまの怜子には出来なかった。己が肉体に背かれるといったかたちで、無様な敗北を重ねた今夜のなりゆきのあとでは。 或いは――と、怜子は思索を進めてしまうのだった。自分の中の暗みを、奈落の底を覗きこんで。この期におよんでも自分からは放棄できないその防衛線を、圧倒的な牡の“力”で粉砕されることこそを、実は自分は望んでいるのではないか、と。 どうあれ、志藤には失笑されるだろうと思っていた。だが違った。志藤はじっと怜子の目の奥を見つめて、 「ええ」 と簡潔に頷いたのだった。その口許に、不敵な笑みを浮かべて。 眼を合わせていられずに、怜子は顔を戻した。己が鼓動を鮮明に感じた。 廊下に出る。再び怜子は、そこを裸の姿で往くのだ。二階の自室へと向かって。一度目と違ったのは、志藤がぴったりと隣りに寄り添ってきたことだった。横抱きに義母の腰を抱いて。歩きながら、その手が腰や臀を撫でまわしてくるのにも怜子は何も言わず、させておいた。すると志藤は、怜子の片手をとって、ブラブラといかにも歩くには邪魔くさそうに揺れている股間の逸物へと誘導した。怜子は抗わなかった。視線も前に向けたままだったが、軽く握るかたちになった己が手の中で、男の肉体がムクムクと漲りと硬さを増していくのは感じ取っていた。ほんの一、二時間前の二度の吐精など、この若い牡の活力には少しも影響していないことを確認させられて、忍びやかな息を鼻から逃がす。撫でまわされる臀肌がジワリと熱くなる。 かつての関係においての逢瀬は、裏通りのラブホテルの“ご休憩”を利用した、時間的に忙しないものだった、いつも。だから、この先は怜子にとって未知の領域だ。今から朝が来るまでの長い時間、若い英理でさえ音を上げ半ばでリタイアしてしまうという志藤の強壮ぶりに自分はつき合わされて、その“本領”を骨の髄まで思い知らされることになるのだ。中年女である自分には、到底最後までは耐え切れぬだろうが。それとも……英理よりもタフだろう、という志藤の無礼な見立てが、正しかったと証明してしまうことになるのだろうか? 胡乱な想念を巡らせているうちに、玄関ホールを通りすぎ階段に辿り着いた。腕を離した志藤が、先に上るように促す。確かに、ふたり並んで上るには窮屈ではあったが。 前回と同様に背後を気にしながら上りはじめた怜子の悩ましい巨臀の揺れ弾みを、今度はより近い距離から見上げていた志藤だったが、 「ああっ!?」 「堪りませんよ、このセクシーなヒップの眺め」 階段の途中で、やおらその揺れる双臀を両手で鷲掴んで怜子を引き止めると、滾った声でそう云って、スリスリと臀丘に頬を擦りつけた。 「な、なにっ!? いやっ、やめなさい……ヒイッ」 前のめりに態勢を崩して、上段のステップにつかまりながら、後ろへと首をねじった怜子が困惑した叫びを上げる。唐突な、志藤らしくもないといえる狂奔ぶりに驚きながらの制止の言葉が半ばで裏返った声に変わったのは、深い臀裂に鼻面を差しこんだ志藤が、ジュルッと卑猥な音を鳴らして秘芯を吸いたてたからだった。 「アッ、ヒッ、い、いやよ、やめてっ」 「怜子社長がいけないんですよ、あんなに悩ましくおしりを振って、僕を誘うから」 双臀のはざま��ら顔を上げ、かわりに揃えた二���を怜子の秘肉へと挿し入れながら、志藤が云った。 「ふ、ふざけないで、アアッ、イヤァッ」 「ふざけてなんていませんよ。ホラ、こんなにここを濡らして。この甘い蜜の匂いが僕を誘惑したんです」 そう言って、実証するように挿しこんだ指先をまわして、グチャグチャと音を立てる。 「ああ、いやぁ、こ、こんな場所で」 段差に乳房を圧し潰した態勢で、上段のステップにしがみついて、なんとか狼藉から逃れようとする怜子だったが。その身ごなしはまったく鈍重だった。掻きまわされ擦り立てられる媚肉から衝き上がる快美と、耳に届く淫猥な濡れ音が煽りたてる羞恥が、身体から力を奪うのだった。すでにそんなにも濡らしていたのだと、ダイニングでの手荒い玩弄も、また素っ裸でここまで歩かされたことも、自分の肉体が昂奮の材料として受け容れていたのだと暴き立てられることが。 やがて、秘肉を嬲る指の攻めが知悉した泣きどころに集中しはじめれば、怜子はもう形ばかりの逃避の動きさえ放棄して、ヒイヒイとヨガリの啼きに喉を震わせていた。ただ怜子は途中から、唇を噛んで声が高く跳ね上がるのを堪えようとした。こんな開けっ広げな場所で、という意識が手放しに嬌声を響かせることをはばからせたのだった。家内にはふたりだけという状況において無意味な抑制ではあったのだが、惑乱する心理がそうさせた。だがその虚しい努力によってくぐもった啼泣は、逆に淫らがましい響きを帯びて、妖しい雰囲気を演出していた。そして、悦声を堪える代わりといったように、裸身ののたうちは激しくなっていく。捧げるように高くもたげた巨臀を淫らに振りたくり、抉りたてる指のまわりに粘っこく回し、ボタボタと随喜の蜜汁をステップに垂れ零して。重たく垂れ落ちて揺れる乳房、時折段差に擦れる乳首から伝わる疼痛が、状況の破廉恥さを思い出させても、もうそれが燃え上がる淫情に水を差しはしなかった。裸で階段にへばりつき、むっくりと掲げた臀の割れ目から挿しこまれた男の手に秘裂を嬲られ淫らな蜜液をしぶかせている、といまの自分の狂態を認識することで、昂奮と快感はどこまでも高まっていくのだった。 だから、 「……ああ、部屋で、部屋に…」 嫋々たる快美の啼きにまじえて怜子が洩らしたその言葉には、さほどの切実さもこもらず。せいぜいが、はや迫りきた絶息の予感によって掻き起こされた理性の燃え滓の表出、といった程度のものだった。実情とすれば、怜子はもうこのままこの場でアクメの恥態を晒すことも――それを指ではなく、志藤の魁偉な肉体によって与えられることさえ、受け容れる状態に追いこまれていたのだったが。しかし、 「……そうですね」 ほとんどうわ言のような怜子のその言葉を、待っていたというように志藤はそう応じて。そして、彼女の中に挿しこんでいた指をスルリと引き抜いてしまったのだった。 ああ!? と驚愕の声を発して振り返った怜子に、照れたような顔を向けて、 「つい、ガキみたいに血気に逸ってしまいました。すみません」 そう謝ると、上げた足を突っ伏した怜子の体の横に突いて、そのままトントンと段飛ばしに、身軽に怜子の傍らをすり抜けて階段を上がった。 忙しく首をまわして怜子が見上げた先、数段上で振り向いて、 「さあ、早く部屋へ行きましょう。僕はもう待ち切れないんですよ」 朗らかにそう言って、とっとと階段を上っていく。怜子を助け起こしもせずに。こちらは硬く引き締まった尻を怜子に向けて。 「……あぁ……待って……」 呆然と虚脱した表情のまま、怜子は弱い声を洩らして。ようやくノロノロと動きはじめる。両手を突いたまま、這うようにして階段を上っていく。前腕や脛には赤くステップの跡がついて、逆に臀を掲げていたあたりのステップには転々と滴りの痕跡が残っていた。 また玩ばれたのだ、とは無論ただちに理解して。しかし今は怒りもわいてこなかった。怜子の感覚を占めるのは、燠火を掻き立てられて放り出された肉体の重ったるい熱さだけだった。意識には、仰ぎ見る視点のゆえに殊更に逞しく眼に映った志藤の裸身だけがあった。力の入らぬ足腰を踏ん張り態勢を起こしても、片手はステップに突いたまま、危うい足取りで上っていく。志藤のあとを追って。 志藤は待たない。速やかに階段を上りきると通路を進んで、最後に一度振り向き、クイクイと手招きしてみせて。そのまま部屋の中へと入っていった。 ようよう二階まで上がった怜子が、開け放たれたドアを目指し、のめるような足取りで進んでいく。追いたてられるのではなく追いかけて、自分の寝室へと向かっていく。 白く豊艶な裸身が室内へと消えていき、その勢いのままに引かれたドアがバタンと不作法な音を立てて閉ざされた。その場は、束の間、深更の静かさを取り戻した。閉ざされたドアの向こうから、艶めいた音声が洩れ聴こえはじめるまでの僅かな間――。
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micoshi-kd · 5 years
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僕の死ねない理由を教えてあげる
ちょっと長い
 独りでずっと生きてきた。  物心がついてから今まで、仲間はいなかった。気づいたら、いつの間にか雪が降ってきていて、周りには誰もいなかった。  もちろん、親の顔は覚えていない。唯一、私に想像できたことは、親は自分に似ていたのだろうということ。ただそれだけだった。  毎日、魚屋の人間の男の魚を盗んで食う。人間には隙が多くあるから、盗むことくらいは簡単なのだ。魚に飽きると、人間の生ゴミを漁った。たまに何も食えないこともある。  今までそれが当たり前だった。  人間の物を盗んだら、人間は気づいたときだけ追い掛けてくる。捕まると、人間に蹴られたり、殴られたりする。それでも生きることに必死だった。そうしないと、私は生きていくことができないのだから。  あるとき、雄が私に近づいてきた。そういえば、季節も私達が盛る頃だ。でも、する気にはなれず、私はその雄を追い返した。  この季節が嫌いだ。所々に目をやると、そこら中で雄と雌がしている。その光景を見ているのがとても辛い。  あまりにも嫌になって、私は街を抜け出した。  私がいなくなっても誰も悲しみはしない。誰かに食われててしまっても泣く奴はいない。私を愛してくれるものなどはいない。きっと。  街を出て、しばらく歩くと、深い森につく。あまり私達は近寄らない薄暗い森だ。  ごくたまに何かの遠吠えが聞こえてくることがある。馬鹿みたいな犬共に似た声だが、どこか犬よりも力強い。人間の言いなりの犬共とは違う遠吠え。その遠吠えに私達はいつも怯えていた。  でも、今日はなぜか怖くなかった。まるで死を覚悟したかのように、私は進んでいった。 恐れることなく進むと大きな身体が目の前に現れた。犬よりもずっと大きい。剥き出しになっている牙はとても鋭そうに見える。目つきにも馬鹿みたいな犬の雰囲気がない。その姿を見て、私は遠吠えの主が誰なのかを直感した。 「なんだ、雌か。
 そいつがニヤリとして言う。  そうか。こいつが噂に聞く狼ってやつだ。とても凶暴で私達などパクリと食べてしまうって噂の。 「悪いかい。私は散歩してるんだ。そこを退きな。
 狼がけらけらと笑い出す。 「何がおかしいってんだ。
「雌猫が狼に向かってその口の利き方か!あの世に逝きたいか!
 狼は笑いが止まらないらしく、しばらく笑っていた。その笑い声に怒りを覚える。  猫だからなんだっていうんだ。雌だからなんだっていうんだ。私はここまで生きてこれた、力は弱くても。 「おい雌猫。俺にかかっちゃあ、一口なのはわかってるのか?
 狼と目が合う。やはり、犬とはとても違う。比べられない。野獣のような目をしている。そのまま食われると直感した。逃げなければ生きられないとすぐに悟った。  けれど、身体が動かなかった。  狼が口を大きく開けて、私に飛びかかろうとする。あの尖った牙に噛み付かれたらひとたまりもない。きっとすぐにあの世逝きだ。私は思わず身体をぎゅっと縮ませた。目もぎゅっと瞑る。  少しだけ風が流れても、私に痛みはなかった。血の臭いもしない。恐る恐る目を開くと、目の前にはにやにやした顔の狼がいた。 「俺は雌は食わない主義だ。雌でよかったな。
「お、お前。
 騙されたような感覚だった。意味がわからない。  なぜこいつは私を食わなかった?こいつだってそんなに飯にありつけてるわけはない。こんな森で狩りなどして三日食べれないのは普通だ。それに、こいつ、すごく痩せている。「お前、騙したのか…。
「どうとでも受け取れ。
 森がざわめく。木の葉が擦れる。 「おい、雌猫、毛、逆立ってるぞ。
「うるさい!
  ◆
 あの狼の態度には苛立ったが、それからも私は森へと足を運び続けた。理由はよくわからないの。あのときに出会った狼に興味があったのかもしれない。  会っては、ただ黙ったまま、狼の傍にちょこんと座る。会話をすることは滅多にない。彼が立ち上がり、どこかへ行こうとすると、私もついていく。狩りの様子を遠くから眺めていることもあった。  どうせ私には帰る場所がない。どこかでのたれ死んでも誰も気づくことはない。  狼も黙って傍にいてくれるが、私の中ではそんな思いがよぎっていた。 「おい、雌猫。いい加減、主人の元に帰ったらどうだ。
「主人?
 月がきれいなある夜のことだった。そのとき、私は狼から少し離れたところで星を見つめていた。そのところを彼に話しかけられたのだ。  主人。そんなこと考えたことなかった。 「いない。そんなもの。
 私は立ち上がり、近くの木に登った。猫である私は軽々と枝の上へと登る。  冬の冷たい風が私達を襲った。思わず、身震いしてしまう。  人間達が騒ぎだすこの季節。街にいても、温かそうにしている人間達にイライラするだけだ。そんな思いをするよりはここにいる方がずっとマシなのだ。  狼が私を見上げたので、私は見下すようにして彼をじっと見つめた。 「そこは寒いんじゃないのか。
「だから何だって言うんだ。私の勝手だろう。
「こっちに来い。食わないから。
 私は目をまんまるにして狼を見る。狼は変わらぬ様子で私の方を見上げる。  確かに狼は私を食べないだろう。先ほど、獲物を食べたばかりだ。何日かぶりの獲物だったらしく、とても嬉しそうに食べていた。その狩りの様子を枝の上から見ていた。 「そんな気遣いいらないよ。わたしは月が見たいんだ。
「月の何が珍しいんだ?街からでも見えただろう。
「私が何も感じずに月を見ることができる。それに意味があるんだ。
「理解できないな。
 狼の唸り声が聞こえたから、私はスッと枝から飛び降りた。飛び降りたすぐ隣に彼がいる。  狼の傍まで近寄り、その場にうずくまった。 「月はいいのか。
「十分に見た。お前がいてほしそうだからいてやる。
 本当は寒かった。温かみが欲しかった。誰かに傍にいてほしかった。そんなことは言えない。私のプライドが許さない。  狼が月を見上げる。上弦の月がそこには上がっている。  わたしがぶるっと震えると、彼はそのわたしに寄り添ってくれた。 「月がきれいだ。
「知ってる。
 街にいても、傍にいてくれるものがいない。この森にいれば、このように傍にいても私を傷つけることがない。  私はいつまで狼の傍にいれるのだろう。  ふと、そんなことを思った。
  ◆
「…おい、狼。
 初めて狼の巣に訪れた。いつもは森を歩いていると彼と出会う。街にいても周りの猫がうざったいのでまた森へと出て来たのだ。途中で出会った鼠に怖がられながら道を聞き、この洞穴までやっと辿り着いた。 「ここまでよく来れたな。臭いを追ったのか。
「そこら辺の奴らに聞いた。
 私はその場に立ったまま、狼を見る。狼は立ち上がって、自分の脚で私を迎え入れてくれない。  思えば、血の臭いが洞穴に隠っている。雪で少し臭いがかき消されいて気づかなかった。辺りの雪を脚で掻き、地面の臭いを嗅いでみた。  本当に血の臭いなんだろうか。やはり、雪が臭いをかき消していて、よくわからない。 「お前、怪我をしたのか?
「怪我などするもんか。何もない。
 狼に近づいていくと、血の臭いが強くなっていった。それと比例して、狼の唸り声が大きくなっていく。 「近づくな!
 狼の隣に立つと血の臭いは確かとなった。  自分の鼻を使って、彼の毛をかきあげる。そこから血の臭いが流れていた。人間の銃か何かで撃たれたような傷だ。 「怪我をしたんだな。どうしたんだ、これは。
「…人間に撃たれた。
 先日、人間に銃で撃たれ、それ以来動けなくなったようだ。動けなかったら狩りも何もできないので、何も食べていない。ただでさえ痩せている狼が更に痩せて見えた。 「何も食ってないんだろ。
「動けないからな。
 弱った狼の身体に寄り添う。息づかいも荒く、身体が骨張っている。自分の毛ももちろん血に塗れる。彼の毛を舐めつつ、何が自分にできるのかを考えた。  狼は猫から離れたそうだが動けないなぜだか心配そうに猫のことを見つめる。 「汚れるぞ。
「構わないからここにいるんだ。居させろ。
「せっかくの雌猫が血の臭いしたら台無しだろうが。
「性別の話、今は関係ないだろ。
 狼の怪我をしていない部分を軽く引っ掻いた。それでやっと狼が黙る。 「お前、何も食ってないんだよな。
 この狼を生かすために私はどうすればいいのか。 「私を食っても構わない。
 私は声を出さずに狼を見つめた。もちろんその言葉の意味を覚悟して私は口にした。 「何を言ってるんだ。俺は雌は食わないぞ。
「お前は私の食うもんは食わないだろ。
「それはそうだが。
「だったら、それしか
 その瞬間、狼が自分の脚で猫の頭をポンと叩いた。それ以上喋るなとでも言うようで、思わず黙り込んでしまった。 「もし、食ったとしよう。
 狼が話し始めた。  彼の言葉を長々と聞くのは初めてだった。今までただ黙って傍にいただけで、何も話してこなかった。 「後に残るのはお前の血と屍だけだ。話し相手がいなくなる。
 冬の地面の冷たさが腹に刺さる。それを察した狼が自分の尾で私を包む。 「お前しか俺の傍には居ない。そいつを食うことなんかできるはずない。
「…そ���な。
 何も喋ることができなくなった。 「俺に、お前を殺せと言うのか。
 私の身体を更に狼に寄せた。彼の体温をいつかと同じように感じる。  いつの間にか私の頭の上に乗っていた脚もどかされていた。 「私はお前を救いたい。
「そうか。
「なんか食う物を取ってくる。待ってろ。
 私は立ち上がった。素早く洞穴の入り口まで走り出す。 「死ぬなよ。
 そう呟いて、また街へと走って行った。
  ◆
 長い間、森や草原を走り抜け、久々に街へと戻ってきた。  私の身体は血まみれで街の猫達はその姿に引いている。その周りの目を気にせずに、道の端を足早に進む。  早く食べる物を奪って帰らないと、狼が死んでしまう。  いつの間にか、狼の元を帰る場所として認識していた。だが、今そのことについて考えている余裕はない。 「久しぶりに面ァ見たな。どうした?」  いつぞやに私に声をかけた雄猫だった。彼も捨て猫で、私と同じような境遇で生きてきた仲だ。ここらでは有名なビビリ猫でもあり、少しでも強い猫に喧嘩を挑まれようものならすぐ逃げてしまう。誇りも意思も何もない、ただの屑だ。そのくせ、なぜか雌猫が耐えないという不思議な奴でもある。  急いでいるときに面倒な奴に絡まれてしまった。私が彼を避けて進もうとすると、回り込まれてしまう。ただでさえ気が立っているというのに。 「他の奴の血か。臭ェわけだ。」 「退け。」 「せっかくご自慢の毛も汚れちまって。綺麗にしてやろうか。」  雄猫が近づいてくる。  気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。消えてくれ。今すぐ目の前からいなくなってくれ。 「気高さも誇りも忘れた奴なんかに興味は無い。近寄るな。」  彼に構わず、私は前へと進んだ。その反応が意外だったようで、彼はきょとんと黙ったままだ。振り返らずに狼にあげる食べ物を探しにいく。 「お前、なぜそんなに必死になってるんだ。」  彼の声が聞こえる。 「昔ならそこまで必死にならなかった。何かあったのか。」 「何もない。」 「ならなんで?」  確かに私達という生き物は何かに執着することはあまりない。好きな物で遊び、壊して、飽きたら捨てる。昔なら私も狼のことをそのように扱っていただろう。  でも今の私にはなぜかそのようなことができなくて、ただ必死に行動している。狼に生きていてほしいと思っていて、ずっと傍にいてほしいと思っていて。その一心で私はこの街に戻ってきている。  この雄猫に構っていられるほどの暇はない。今、この一瞬も、狼は痛みに耐えている。 「あんたに話してもわからないだろうよ。私はあんたとは違うんだ。」  そう。もう昔の私とは違う。場所を見つけた。その場所を失わないために、私はここまで来たんだ。 「じゃあな。」  雄猫は唖然としているようで、追い掛けてくることはなかった。前々から私を付け狙っている奴だった。  猫にまともな奴はいない。多くのものを猫に求めてはいけない。求めたらその時点で終わりであり、敗者となる。猫である私達は一時の快楽しか求めていない。求めたら最後、飽きて捨てられる。永遠の安息など、求めてはいけないのだ。  猫として生まれなければよかったのかもしれない。  そうふと思ったこともある。私が求めているものは、この小さな世界で得ることはできない。 「お前、もう猫じゃないな。」  後ろから声が聞こえた。ぽつりと呟かれたようで、私はそれを無視して進んでいく。 「達者で。」  その言葉を聞いて、私は心底驚いた。彼からそんな言葉が出るとは想像すらしていなかったのだ。もっと皮肉や嫌味を言われるとばかり思っていた。  鎖が千切れたような気がした。私をこの小さな世界に捕らえる丈夫な鎖。  走り出し始め、食べ物の匂いを鼻で追う。  振り返ったら、彼はどのような顔をしているのだろう。けれども、振り返ったらまた鎖に捕らわれてしまう気がした。  鎖はボロボロと崩れていく。私が走れば走るほど、鎖は砂や灰となり風に流されていく。 私は、今…。
  ◆
 口に人間から奪った肉をくわえて、森まで戻ってきた。追い掛け回されたり、子どもに蹴り飛ばされたり、それでも戻ってこようと必死だった。  私が戻らなければ、あいつは助からない。  周りの野犬達に肉を狙われたが、必死で守ろうとした。唸っても雌猫だからと甘く見られてしまう。命がけで相手に噛み付き、引っ掻き、追っ払う。 「戻ったぞ!」  狼は答えてくれなかった。腹が膨らまない。心臓も動いていない。私が来たというのに、いつものように頭にポンと前足を置いてくれない。 「おい、答えろ!肉持ってきたぞ!」  狼の鼻の前に肉を置いてみた。もし生きているのであれば、匂いに誘われて起きてくれるかもしれない。血の匂いが穴蔵にこもっている。彼の息が聞こえてくるわけもなかった。  目の前で大事なものを失っている。…最後の言葉すら聞けなかった。 「…遅かったか。」  私を置いて、先に逝ってしまった。  彼の前に置いた肉を引っ張ってどかし、冷たい身体に寄り添うようにして寝そべった。もう二度と身体を舐めてはくれない。話を聞いてくれなければ、口も利いてくれない。  私の死ねない理由は今、いなくなってしまった。彼がいたから、私は死を選べなかった。自ら野犬に身体を差し出せば、簡単に死ぬことができたのだ。だが、一人でも生きようとしていた彼を見ていると、できなかった。けれど、彼はもう動きはしない。  そうだ。先に彼は眠ってしまったんだ。だから、 「おやすみ。」
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毛沢東はソ連と仲違いした時、長年にわたって途方もない予算と将兵の養成が必要な通常兵器より、短期間に決定的な抑止力を高める核・ミサイルが効果的であると認識した。
 そこで人民の半分が餓死してでも「両弾一星」(原・水爆と人工衛星)を完遂するという決断をした。
 その根底には、中国という国家は人民(約8億人)の半分、4億人を犠牲にしても国家は生き残れるという意識であった。
 また、「政権は銃口より生まれる」と喝破したように、国共合作で国民党軍を日本軍と戦わせ、共産党軍は後方にいて増勢につなげ、続く内戦で勝利して政権奪取につなげる考えがあった。
 実際、430万人いた国民党軍は150万人となり、120万人しかいなかった共産党軍は400万人となり、累次の内戦で約800万人が戦死したとも言われる。
中華人民共和国の建国後の犠牲者
 毛沢東は建国10年後の1958年から61年までの3年間、人民公社を地方ごとに造って自給自足で生き延びることができるように大躍進運動を行う。
 しかし、公社間の競争精神は実体の伴わない過大報告となり、結果的には約2300万人が餓死したと言われる。
 毛は失敗を認めて国家主席を辞任。1962年1月の中央工作会議で劉少奇国家主席が「三分の天災、七分の人災」と述べて大躍進を批判する。
 しかし、建国以来続けてきた反右派闘争に勝利して1964年に復権する。この15年間に約950万人を虐殺したとされる。
 1966年からは10年に及ぶ文化大革命が続く。この間の政治的な痛めつけでの死亡(約2000万人)や餓死者はほぼ1億人にも上ったとみられている。
 3度の批判を生き残った鄧小平は毛の死去(1976年)後の78年末に「改革開放」の大号令をかけ、今日の大発展につながっていく。
 しかし、どこまでも社会主義市場経済で、共産主義体制の維持が前提であった。
 胡耀邦が総書記に就任(1980年2月)してチベットの惨憺たる有様に衝撃を受け、失政の責任は共産党にあるとして、政治犯の釈放や信教の自由と僧院の再建などの自由化政策を進めるが、共産党幹部の批判を受け87年1月解任される。
 続く趙紫陽も学生たちの民主化要求に柔軟な対応を示し、天安門広場に出かけ学生を説得するが失敗に終わる。
鄧小平は共産党政権維持への懸念を深め、中国人民解放軍による武力弾圧を決断し、民主的な抵抗を戦車で粉砕する(「天安門事件」、「6・4事件」とも呼称)。
 趙は3週間後(6月23日)に解任され、上海市委員会書記であった江沢民が抜擢される。
 天安門事件の死者は発表されていないが、米国の秘密文書によると、死者は1万454人、死傷者は4万人以上となっている(方政・釈量子対談「生き証人が語る 血塗られた天安門の虐殺」、『WiLL』2016.7号所収)。
 改革開放後の経済的発展は貧富の差を拡大させ、犯罪や暴動も頻発した。400万人の死刑囚収容施設は不足する状況で、死刑免除と引き換えに外国への労働者として派遣しているとも言われる。
すべてにおいてスケールが違う中国
 列挙すればきりがないが、広大な領土と巨大な人口、困難な統一、近代化の遅れ、そして何よりも言論の自由がない共産党独裁の強権政治で「物言えば唇寒し」だ。
 他方、愛国無罪が大きな「虚言」を蔓延らせる。
 日本では厚生労働省の為体で統計の信頼性が揺れているが、中国は国家ぐるみで、GDP(国内総生産)さえ疑問視されている。
 内乱や自然災害、イナゴの異常発生による蝗害などが絶え間なく起き、その都度100万単位の死者・餓死者を出してきたとされるが、何一つ正確な数字の公表はない。
 秦の始皇帝が即位したBC221年から共産党結成の直前1920年までの2140年間に160回の内乱があり、累計年数は896年で、13年おきに約6年間の戦闘が起きてきたとされる。
 また、この間に5150回の天災、うち1035回の旱魃、1037回の水害が発生。旱魃や水害は2年に1回、蝗害も含めた天災は5カ月に1回の頻度で発生してきたことになる。
 施政が行き届かない広大な領土ゆえに、何か起きれば大飢饉に直面した。1810年900万人、1811年2000万人、1849年1375万人、1876~78年1300万人の死者を出す大飢饉が発生している。
 20世紀に入ってからも、1928~30年の大飢饉では西安市のある陝西省で200万人が流民となり、1930~32年には1000万人が餓死している。
 なお、支那事変で日本軍が開封を占領した1938年、蒋介石軍が日本軍の追撃阻止のため、黄河の堤防を決壊させ、下流域(河南省・安徽省・江蘇省にまたがる54000平方キロ、北海道の6割)の水没で100万人死亡、被害者は600万人に上ったとされる(『郭沫若自伝』は日本軍の無差別爆撃と対外宣伝した)。
 このため、3省の農地が農作物ごと破壊され、河南省では1942年に凶作、続く翌年は蝗の大群発生で、300万人が餓死したという。
 こうした餓死者が出ると、得体の知れない茸も食し、子供を交換して食すこともあったとされる(易子而食…子を替えて食らう)。
中国人による中国人の斬殺
 問題は人為的な残虐行為で、『揚州十日記』がある。
 明朝滅亡時、満清の軍隊が南下して勢力を南京に及ぼそうとした時、南京政府の要所、揚州城の攻防で王秀楚という人物が家族や兄弟と逃げ回る間に体験した記録である。
 わずか10日間の出来事であるが、中国社会で昔から蔓延るあらゆる慣習が見て取れる。
 指揮官の逃亡、兵士の略奪・強姦・放火・惨殺などの暴虐、金品の強要や強奪などが展開される。
 2人の女性が逃げ回り、足が泥の中にぬかって脛まで没している。「1人が女の子を抱いていたのを、兵卒は鞭で叩いてその子を泥の中に捨てさせ、そのまますぐ追い立てて行った」。
 数十人のものは牛か羊かのように駆り立てられて「少しでも進まぬと直ちに笞を加えられ、あるいはただちに殺された。女たちは長い綱で数珠を通したように頸をつながれ、一足ごとに躓き転んで、全身泥まみれになった」。
 「どこにもかしこにも幼児が馬の蹄にかけられ、人の足に踏まれて、臓腑は泥にまみれ、その泣き声は曠野に満ち満ちていた」
 「途中の溝や池には死骸がうず高く積み上げられ、手と足が重なり合っていた。池はそのために平らになっていた」
 逃げ回った挙げ句、通りに出た。
 「通りには人の首が重なりあって横たわっていたが、真っ暗で誰が誰やら見分けがつかなかった」
 「(中略)城壁の下には死骸が積み上げてあるため、歩くのに難渋した。何度つまづいては起き上がったか知れなかった。何かに驚かされるたびに、地面に倒れて死骸の真似をした」
 彼らは掠奪や強姦ばかりでなく、火災も起こす。四方に火事が起こり、「こっそり戸外に出て見ると、畑の中には死骸が積み重なっていて、中には息絶え絶えにまだ生きているのもあった」。
 男(兵士)は幼女と男児を連れた婦人を捕えた。
 「男の児が���を呼んで食べ物をねだった。その男は怒って一撃すると、脳が砕けて男の児は死んだ。男は婦人と幼女を引いて行った」
 隠れていた場所に「数人の兵卒がやって来て引き出されたことが二度ほどあったが、その都度少しばかりの金を握らせると行ってしまった」。
 こうして10日間で80万人が清軍の刀下で虐殺されるという血腥い「大屠殺」が展開され、繁華の揚州は凄惨な生き地獄と化したという。
揚州を落とした清軍は騎虎の勢で数日後に南京に入る。南京王朝の福王や陪臣はいち早く逃亡し、文武百官はみな薙髪して清軍に降伏する。
 余談であるが、清軍豫王とまみえた揚州督鎮は「史可法ここに在り!」と大呼するが、武運拙く、ついに捕えられる。
 豫王は「降れば則ち富貴ならん」と諭すが、史可法は「われは天朝の重臣なり。あにいやしくも生を偸(ぬす)みて万世の罪人となるべけんや。わが頭(こうべ)、断つべし、身屈すべからず」と断る。
 豫王は3日間説得し続けるが、最後は涙を揮って部下に斬らせたという。
中国の極刑さまざま
 手元に『図説 中国酷刑史』(尾鷲卓彦著、徳間書店)がある。
 酷刑とは残酷極まりない刑罰のことで、中国の酷刑を可能な範囲で紹介したものである。
 「彼らは手足を釘で打ちつけられ、鮮血をしたたらせて架刑(はりつけ)にされている劫賊(ごうとう)に、これっぽちの憐みすら寄せないどころか、その“五花斬人(きりきざみ)”のさまを観賞するという奇怪な光景まで演じた」
 「街頭や横丁において、首が切り落とされた様子を微に入り細をうがって、活き活きとしゃべりたてるかと思えば、われ先に鮮血にまみれた人頭や半裸の女性の屍体を覗き込む。なかには饅頭に血を吸いこませ、それを食べて肺結核を治そうとする者さえあった」などの記述もある。
 酷刑には官刑と私刑の別があり、官刑では「拷問・斬首・絞縊・首枷・足枷・站籠(立った姿勢で首枷)・抽腸・鞭打ち・凌遅(寸刻みで切り裂く)・銃殺・見せしめ」が列挙されている。
 私刑では「吊り下げ・熱湯あびせ・目えぐり・耳削ぎ・活き埋め・舌抜き・火あぶり・沈め殺し・釜ゆで・圧殺・宮刑・人喰い・足ぜめ・頭髪そり・入れ墨・首切断・バラバラ屍体」などが記されている。
 読んでいて、「心胆を寒からしめる」どころか、こんな国家・社会があるのかと恐ろしくなってくる。日本人には想像を絶する奇想天外な国家・社会のようだ。
 本多勝一著『中国の旅』にも、「飢えた軍用犬の餌」にした話(文庫本p20)や「電線にコウモリのようにぶらさげ火あぶり」にした話(同p231)、「腹をたち割り、心臓と肝臓を抜き取って食う」話(同)などがある。
 臓器を煮て食したのは日本兵ということになっているが、筆者には日本人の行動様式とは思えない。読者はどう思われるだろうか。
 月刊誌『SAPIO』(2015年7月号)は、「毛沢東は『資治通鑑』を17回も読み、ライバル抹殺の手本としていた」とのリードで、「『人ブタ』『食人』『生きたまま肉を削ぐ』 歴史書に描かれた中国4千年『残虐の伝統』」の表題を付けた一文を掲げた。
 その中で、「人ブタ(手足を切断し丸裸で厠に放る)」「凌遅」「大量虐殺(一族の公開処刑や赤ん坊を空中に投げ槍で刺す)」「人食い」「ムチ打ち・炮烙(銅製円柱に罪人を縛り付けて焼き殺す)」「站籠」などを挿絵入りで説明している。
中国人による日本人大虐殺
 拙論の本題は中国人が日本の軍民に暴行を加え、また惨殺・虐殺した事件の検討である。いくつもあるが、ここでは3つを取り上げたい。
(1)旅順猟奇虐殺事件
 日清戦争(1894.8~95.5)間の11月21日に起きた事件である。
 近代化に邁進中の日本は、戦争においては勝利することと国際法を順守する文明国家であることを強調する必要があり、戦場に国際法の専門家を同道し、第2軍���令官大山巌大将は「我軍は仁義を以て動き、文明に由て戦ふものなり」と訓示していた。
 勝利の報が続々と届いていた矢先の惨事に、影響を最小限にする方策で伊藤博文首相と陸奥宗光外相は振り回される。
 旅順市街に突入した日本軍兵士は、3日前に生け捕りされた3人の生首が、道路わきの柳の木につるされているのを見る。鼻はそがれ、耳もなくなっていた。さらに進むと、家屋の軒先に針金でつるされた2つの生首があった。
 米国人記者も「ワールド」紙で、「日本軍が旅順になだれ込んだ時、鼻と耳がなくなった仲間の首が、紐でつるされているのを見た。また、表通りには、血の滴る日本人の首で飾られた恐ろしい門があった。その後、大規模な殺戮が起った。激怒した兵士たちは、見るものすべてを殺した」と書いている。
 清国兵は残酷を極めた方法で傷をつけ、第2軍兵士の死体を放置した。
 死者、あるいは負傷者に対して、首を刎ね、腹部を切り裂き石を詰め、左腕を切り取り、さらに睾丸などまで切り取り、その死体を路傍に放置した。これは捕虜の扱いではなく、猟奇事件でしかない。
 この残酷さが日本軍に復讐心を燃え上がらせ、生首が兵士たちの激昂を誘ったとされる。
 攻撃の包囲網を狭められた清国兵は「袋の鼠」同然となり、軍服を脱ぎ捨て便衣兵となって民家に逃げ込んだ。
 復讐心は便衣兵の徹底捜査となる。また、市民の中には武器をもつ者もいた関係から、彼らも加害者とみなされた。
 歩兵第2連隊の加部東常七上等兵は「旅順市街に闖入するや、戸々軒々、家中を捜りて、(略)小暗き家の片隅に潜む一人の敵兵。オノレッ!とばかり・・・。直突一閃! 胸板深く突き通せば、彼、苦しさの余り、我剣刃を握れり。コワ・・・仕損じたり。と力を極めて引けば、四指を落としてがくりと倒るる所を亦一刺。魂、天涯に飛んで骸のみ」と手記に記している。
 この連隊では清国兵28人を斬殺した一等兵を筆頭に、21人、17人など、11人で166人の清国兵を屠ったという(以上、井上晴樹著『旅順虐殺事件』)。
 旅順郊外の萬忠墓には被難者計1万8百余名(かなりが便衣兵か)と明記されているそうである。数はともかく、事件は両国の将兵が確認し、内外の記者数名が報道し確認している。
 しかし、非は我に有りとのことか、中国は旅順の猟奇・虐殺をほとんど報道してこなかった。
(2)昭和2年の「南京事件」
 「長江(注:揚子江の上流域)流域上下二千浬(カイリ)に亘り、三千余名の在留邦人が暴徒の迫害から遁れて、財産を捨て地盤を棄てて内地への引揚げを断行したことは、我日本としては空前の史実であり世界的にも希有の事変である」
 「彼らの我邦人に対する嫌悪と軽侮の念は、十数年来の排日によりて遺憾なきまでに蓄養された。その今日あるはむしろ予想されていなければならなかったはずだ」と悔しさを隠さない。
 これは、合法的に南京・蘇州・漢口・重慶などに居留していた日本人が昭和2年の春、中国人によって襲われ、引揚げざるを得なかった日本人襲撃事件の実相を、直後に結成した「中支被難者連合会」が証言や公文書を用いて再現した『南京漢口事件真相 揚子江流域邦人遭難実記』の「序」である。
 少し説明が必要であろう。事件発生時までの3年間、外務大臣は幣原喜重郎であった。
 上海などで中国の横暴がしばしばあり、英米などは軍艦を出動させて鎮圧してきた。しかし、幣原外相は話し合い解決を主張し、軟弱外交と批判されていた。
 こうしたことから、南京の日本領事は「北伐軍を刺激しない」「無抵抗主義で対応する方が効果的」として、荒木海軍大尉らが準備した領事館前の土嚢を撤去し、機関銃は倉庫に隠した。
 そこに事件が起き、兵士と暴徒の侵入を許し、婦人までが凌辱・強姦の「忍ブベカラザル検査」(「検査」は領事の表現)を受けたのだ。
 中国が事件を起こしても、武力対処は一切斥けた。こうした日本外交に対する思いが「今日あるはむしろ予想されて」の謂いであり、悔しさが滲んでいる。
 これこそが「南京事件(昭和2年)」と呼ばれるもので、今日、「南京大虐殺」(昭和12年)として非難されているものは、事件でなく追撃戦であった。
(3)通州虐殺事件
 北京の東方約20キロのところに通州がある。「冀東(きとう)防共自治政府」の管理下にある通州保安隊に守られて日本人居留民は生活していた。
 盧溝橋事件から3週間後の29日(1937年7月)から翌30日未明の間に、保安隊は国民党軍と示し合わせたかのように警備を解き、女子供を含む邦人257人(日本の警備隊32人を含む)が惨殺された。
 居留民たちの救援活動を取材するために、たまたま来ていた同盟通信社の安藤利男記者も襲撃を受けるが九死に一生のチャンスを得て脱出に成功し、後に『虐殺の通州脱出記』を書いている。
 午前2時半ごろ保安隊の動きが怪しいとの電話があり、その後は不通。4時頃からは銃声も聞こえる。7時ごろになると市街南方辺りで白煙や黒煙が上がり、銃砲声も激しくなる。
 8時になると、記者たちが泊まっていた近水楼の支那人ボーイが他所から口も利けない状態で駆け込んできて、「特務機関付近の通りの邦人商家、カフェー辺りで、日本人が多勢殺されてゐる。太変です・・・」の第一報をくれたという。
 また、奇跡的に生き残った人たちも、色々と証言しており、虐殺事件の状況はかなり正確に伝わっている。
 1か月後には『主婦の友』が人気作家吉屋信子をカメラマンともども派遣。その時も証拠は至る所に残っており、女性の目で子細に記録している。
 しかし、平成28(2016)年7月、現地を訪ね『慟哭の通州―昭和12年夏の虐殺事件』を上梓した加藤康男氏によると、通州市は北京市に吸収されて、「もはやこのあたり一帯に通州虐殺事件に関連した建物は何一つ残されていない。旧城内は、90年代ごろから徹底的に破壊し尽くされてきた」という。
 事件から5カ月経った12月下旬(日本軍が南京で入城式を行った1週間後)、冀東防共自治政府と日本側との間で弔意賠償金の支払いや慰霊碑建立の決着が図られた。
 都合の悪い慰霊碑はいつしか地下に埋め隠されたが、再開発で偶然に発見された。
 その状況を「北京日報」(2001.8.24付)は、「日本軍が中国を侵略した証拠、通州区で慰霊碑が見つかる」との見出しで報じたという。
 「1938年日本軍のもので、我が国の抗戦軍民が倒した日寇のいわゆる『慰霊碑』だった。・・・文字はいずれもひどくかすれているが、『大東亜共栄』など日本の侵略理論も記されている」
 「通州区の文物所所長によれば、・・・1937年7月29日早朝に通州の2万人余が蜂起、この偽政府(注:冀東防共自治政府)を占領した上、日本人五百人余りを撃ち殺した。翌日、日本軍は大規模な報復を行い、偽政府に二つの慰霊塔を立てることを要求、塔の前には慰霊碑も立てた」
 殺害者二百数十人を「五百人余」に倍増し〝抗日の成果″を誇っているし、また5か月後の話し合い決着を「翌日」として日本の傲慢な要求に見せかける中国一流の誤魔化しがある。
 加藤氏は、「南京や盧溝橋はもとより、満州各地にある旧大和ホテルに至るまでが『対日歴史戦』の遺跡として宣伝利用されていることを考えると、雲泥の差である。『通州虐殺事件』の痕跡は極めて都合が悪いので、完膚なきまでに消し去ったものとしか考えられなかった」と述べる。
おわりに
 通州虐殺事件について、「東京日日新聞」(昭和12年8月6日付、毎日新聞の前身)は、「敵は第29軍の首脳部の命を受け26日頃から通州襲撃の保安隊及び正規兵と連絡をとり、北清事変議定書によって正規兵は天津市内に入るを得ざるを以て便服に着替へて大胆にもトラックを以て続々天津付近に侵入。機関銃、迫撃砲、小銃、青竜刀などを蔬菜や貨物の下に隠して運び込み、時の到るのを待って居た」と報道している。
 天津では中国軍から攻撃を受けるや否や、日本軍が反撃に出て撃滅したため大事に至らなかったが、通州虐殺事件は天津の日本租界・軍関係機関、その他の邦人多数居留区域と共に、2年前から襲撃計画が練られていた同時多発テロであったのだ。
 同紙は「約1万5千人を虐殺し、掠奪を恣にしたうえ、日本租界を占領しここに青天白日旗を翻して天津から邦人を一掃する」ことになっていたかもしれないと書いている。
 加藤氏によると、中国共産党は、通州事件を「反正」(過ちを正すこと、即ち冀東防共自治政府の消滅)として評価し公認しているという。それなのに、「なぜ痕跡を抹殺しようとするのだろうか」と疑問が沸く。
 筆者は次のように思う。旅順猟奇虐殺事件や通州虐殺事件は、虐殺現場の目撃者があり、「事件の存在」が証明される。これらの事件を大きく取り上げると、「南京大虐殺」についても「事件存在」の「明確な証明」が求められる。
 しかし、習近平さえ英国女王の晩餐会で「存在の証明」で「友好のプレイアップ」を図ったが、逆に「非存在」の暴露になってしまい、“はい それまでよッ!”となりかねなかった。
 南京事件は大虐殺の「状況証拠」から離れていくばかりだ。いかがであろうか。
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forgetfulsubs · 6 years
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【TaKU.K】The mysterious story of an imbécile's fall - eng sub【GUMI】
✞Music by TaKU.K @ Mylist | Twitter | Piapro | YT ✞Art by Miyukaji (みゆかじ) @ Twitter | Pixiv +Translation by Forgetfulsubs (with permission) +Eng grammar checks by Mage of @magenetratranslations
アンベシル滑落奇譚 The mysterious story of an imbécile’s fall.
愚者は錆の現を視た さあ、賢者の番だ A fool has thus gazed at our rusted reality, Now, it’s the “wise man”s turn*
*I’ve used she/her for the pronouns and put “wise man” in quotations as the illustration seems to feature a lady. Though wise man could also have just be translated as sage or switched to wise woman I felt that didn’t carry the same implications.
安寧の日々は滑稽なヒビへ形を変える エス・カーストの最下層 トロイメライ覚め、カオスな今へと 終演間近の演目で足掻く有様、無様! 腐乱(ふらん)、ブラクラを踏み抜けば 破棄場(はきば)が手を招く
My peaceful days changed form to that of a comical everyday The lowest and worst possible s. caste* I awaken from a träumerei* o the chaotic present tThe sight of struggling as the final programme plays, how very unsightly! Decomposition, stumbling on a browser crasher, I found the scrap heap beckoning to me.
* S.caste refers to a form of social class system, appaarently * träumerei is german for dream it’s more so a noun describing the state or the act of dreaming
排せよ栄光、席を崩した 廃せよ願望、縁を下した 拝せよ劣等、支配者の御前(ごぜん)なるぞ 采地の解放、盤面乱れて 才知の落陽、とうとう崩れて 見下す者は見下されていた
Reject glory– I destroyed my position Abandon hope– and let all my relationships fall Worship inferiority– thou now stand in the presence of a ruler The liberation of the fief*, the whole board in chaos The setting sun of wisdom at last crumbling away The one who looked down upon it all was truly looked down upon.
*Fief is “a person’s sphere of operation or control.”
贖う術など知らなくて、 僅かな繋がりすら切れ果てた 見る目が無く、無価値な 愚か者ばかりだな��と吐き血を吐く 悪辣(あくらつ)な香りが路地裏を染める 降り出した雨で肌は冷め、 心は湧いた憎悪で熱を出した 蒔(ま)いた憎しみが芽を出して、 人々に絶望を振り撒けと、 呪詛(じゅそ)のように唱えた言葉は 誰にも届かずに消えてく 延命も、弁明も、許されることなく、 憐れみすら手向けられず、 道化には暗幕が下る
I know not any means of redemption – Any faint connections I had are now completely chopped to bits “They’re all such worthless fools, lacking any kind of discerning eye” I say, spitting up blood. A sharp and unscrupulous fragrance stains the end of the back alley, and my skin grew cold by the rain that began to pour. but my heart burned feverishly by the hatred that welled up inside. “The hatred I’ve sowed begins to sprout, now we scatter despair upon the people.”* The words I chanted like some kind of curse disappeared before ever reaching someone’s ears. Not allowed a long life, nor an apology, or even pity in my passing, the curtains fall upon this buffoonery.
*The words that cover the screen at this point are all negative words disappointment, despair, etc.
愛と優しさは屑箱へ 地位と名誉は懐へ 形の無いモノに価値は無いと 賢者様はおっしゃいました その目は誰より底深く その手は誰より小綺麗で その口はすべてを貪り尽くし その重みで溺れていることを知りませんでした
“Throw love and kindness to the trash bin Tuck status and honour away within your bosom Things without form are without value" Or so the ‘wise man’ said such– With those eyes far deeper than anyone else’s and hands far prettier than anyone else’s and a that mouth devours everything, leaving not a crumb She didn’t realise that the weight of it all was causing her to sink down and down. *
*“weight” and “importance” are the same word in japanese. Connecting with the line above you could take this line as just flatly saying “indulging will make you fat” but there’s also a “importance (power) causes corruption” implication here which I tried to include.
-第二幕開演- -The curtain rises on the second act-
惨憺(さんたん)たる日は閑散(かんさん)なる日が 呑み干してゆく 終末色の末端で、 脆(もろ)い、得体なき灯りが揺れてる 醜悪(しゅうあく)、癇癪(かんしゃく)、 浅薄(せんぱく)、不躾(ぶしつけ)が滲んだ顔 違う、誰だ此(こ)の化け物は 恥、止まり知らず
The leisurely days of inactivity drink up the wretched ones. At the end of the colours of the end, the fragile, characterless light sways A face blurred with ugliness, irritability, superficiality, and impoliteness No– Who is this monster? My shame knows no end.
環境には妄言(もうげん)をつらつら並べ、 人間には侮蔑(ぶべつ)を込めて責任転嫁 自己愛で満たして、 この愛こそ極上だと言立(ことだて) 嗚呼、御免 当然で失敬 語るまでもない
Carefully lining up thoughtless words in my surroundings, I shift the blame on humanity, casting disdain on them all the while. Satisfying myself with self-love, and making a big thing out of such love, I claim it’s the very best Aa, sorry. Of course, how presumptuous of me That already goes without saying, doesn’t it.
垂れ流れ、浸す世迷言 驕(おご)り、高めることが上手いこと 壊れた玩具(おもちゃ)のように 己を崇(あが)め、讃えてを繰り返す 嗄(しゃが)れた声と雨音の交合い 溶け朽ちてく身体よりも 酸鼻(さんび)な心が蠢(うごめ)いた
Oozing and flowing away, the immersing nonsense Swelling my own pride is what I’m good at like a broken toy I revere myself, repeating my praises. The union of my hoarse voice, and the sound of the rain My excruciatingly disconsolate heart squirmed even more than my rotting body.
見放して、見放され、 賢者様はどこへとゆくのでしょう 流れ着く、その果てで、 呪いと加護の まじないを唱え続けました 自分を信じて疑わない 自分だけしか信じられない かわいそうな賢者様 あわれでみじめな賢者様 さあ さあ さあ さあ 望みを言ってごらんなさいな
Having given up and been given up on in return, just where does the 'wise man’ go Washed ashore, at the very limits, she continued to chant a incantation of curse and divine protection Believing in herself without an ounce of doubt Unable to believe anyone but herself The poor 'wise man’ What a pitiable and wretched 'wise man’ now come, now come, now come, now come, Speak that of which you desire.
終幕 -end-
賢(さか)しさが果てる娑婆(しゃば)になど 塵芥(ちりあくた)程の価値もないなと 跡形もなくこの身を消してくれと 笑いながら叫んだ 分解が始まる 記憶も、身体も ちょっと待て、すぐ果てないだと? 後の祭り 記憶は剥がれて舞った 嘆願(たんがん)も虚しくやがては 言の葉すら紡げなくなってた 唸(うな)り声 虚(うつ)ろな目 不様な顔のまま 身体も剥がれる 願いは叶い、全ては消え果てた 路地裏の骸(むくろ)は鼠(ねずみ)が 新たな住処(すみか)にしてた
“This corrupt world where intellect goes to die can’t even hold a candle to a pile of trash So erase this body of mine from it without a trace” I cried out, while laughing The decomposition begins, my memories and body itself– Wait a minute, this won’t end quickly? Alas, it’s far too late, my memories came unstuck and danced in the air around me My pleas end fruitlessly, and before long I lost even the ability to form words. With a groaning voice, empty eyes, and my face still unsightly as ever, my body comes unstuck and my wish was granted; everything vanished from existence. The mice took my corpse lying in the back alley as their new home.
愚か者だった I was such a fool
閉幕 -the curtain falls-
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kitaorio · 2 years
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窮鼠
 この家には鼠が2匹いる。  物心ついたときからこの家にいるが、もう一匹が兄弟なのかどうかは判らぬ。ただ、いままで一緒にいたのだ。  仲間は多ければいいのだが、そうもいかない。この家には人間が食べるための食料以上の余裕がなく、俺たちの食い扶持まで回ってはこない。  太陽が屋根を照らし、藁葺きの中からなま暖かく蒸れた、黴と土のにおいの混ざったようなにおいが降りてくる。昼日中といえどもほとんど明るくなることもなく薄暗い中にどれぐらい降り積もったのか判らぬ塵や芥がかまどの煤でいぶされぬめりきった照かりのある梁の上で俺たちは暮らしている。梁の上は歩き回るたびに足の先に松ヤニみたいなべたべたがまとわりつき、寝床に戻るたびに毛繕いをしなければならない。寝床は屋根を葺いている藁を何本か引っこ抜き、隅に寝床を作っている以外、特に人間の家にはなにも手を加えていない。  俺たちの生活があるのを知ってか知らずか、人間どもは梁の下にいて、そこで起きたり寝たり食べたりをしている。  ぼろ屋なのが幸いし、出入り口を作る必要もなく、藁葺き屋根から表への出入りは自由であるし、そして台所にも簡単に降りられる。毎日使っているにしては冬の野原のような台所に降りたところで食べ物があるわけではないのだけれども。  俺たちの生活は単調だ。  巣で丸くなり前足で鼻の頭をなでながらまどろんでいるか、物陰から物陰へ渡り歩きながら食べ物を探しているかのどちらかだからだ。  家の中に食べ物がないのは承知の上でこの家に居続けている俺たちは、大概の場合食べ物は表に取りに行っている。  藪の中に入り柔らかく実ったアケビに頭をつっこみ熟した果実にずぶずぶと前足をめり込ませながらかじり、笹藪では生え立ての笹をかじり鼻��奥へと滑り込んでくる青々しい香りと前歯に感じるサクサクとした感触を楽しみながら腹を満たしている。  梁の下にいる人間よりはだいぶいい生活をしていると言っていいだろう。  人間どもはつがいで暮らしている。雄は畑仕事をして、雌はそれを手伝いながら台所でなにやら煮炊きをしている。  こっちからは向こうのことが判るが、向こうはこちらのことは判らない。  向こうがこちらに気づくほど家にいないからだ。  事情の変化は人間の生活の変化がきっかけだった。  人間の雄の生活が変わり始めた。  畑仕事をする日が減り始め、その代わりに仲間とどこかに連れ立って出かけたかと思えば、そのまま仲間を連れて家に戻り、声高に話し合ったりしている。  なにをしているのだか判らないが、人間どもが寄り集まってなにやら話している生臭い人いきれや雄の仲間たちからわき上がる脂臭い熱気が、どうしようもなく気持ち悪く、そういう日は家に戻らず近くの立ち木のうろに入り朝を迎えることもある。  人間どもの話は抑揚が強く落ち着いて寝てられない。ぼそぼそはなしていたかと思えば、なにをきっかけにしてなのか突然立ち上がり、勢いよく吼え始めたりする。「キンノウ」だの「シシ」だの「トウバク」だのの言葉がきっかけになり吼え始始めることが多いのだが、そういう言葉を使い騒ぎ始めたかと思うと、何かにおびえたように突然静かになったりするのだ。  雌の方はというと、それを良しとしているらしく、雄が畑にでないことをなにもいわないでいる。ただ、雌一人で畑を切り盛りするには無理があるらしく、ここ最近食べ物がめっきりと少なくなっている。  前であれば、畑でできた大根のほかにも夕餉には魚が乗ることもあったのだが、最近ではそれもなく、豆や稗など米以外をぼそぼそと食べていることが増えた。  米がないのはつらいが、それ以上にやっかいなのは猫だ。  この家には猫が住み着いている。  人間が食べ残した魚の骨をかじったりしていたのだが、猫に投げ与えられる餌が少なくなってきたのか、家から離れて表で狩りをすることが増えてきた。  なにを思ってなのか、猫のやつは狩ってきた獲物を半死半生のまま雌の元に持っていくことがある。雀、蜥蜴、蝉、鳩、蛇。自分の食欲をあおられる生き物を見つけては半殺しにし、雌の元に届けていた。時として箒で追いかけられ、また、別のときには雄に首を押さえられ怒られてもやっているのだから、猫にとって何かしらの意味があるのだろう。  気に入らないのは鼠を捕まえて上機嫌になっている猫を見かけたときだ。  俺の仲間かどうかはすぐには判らないが、青年らしき鼠を虫の息になっているにもかかわらず弄び、加減して逃げられるかのような気配を作っておきながら逃がさず、じわじわと、音を立てずに歩き回れるあの足から爪を剥きだし、力尽きるぎりぎりまでなぶられているのだ。  ある鼠は肩の骨が砕かれたのか、両前足を引きずるようにして逃げ回っているところを尻尾に爪を引っかけられ、いつまでたっても猫の前から離れることができず、勢いをつけて逃げようとしたところを首を押さえられ、また、ある鼠は骸になっているにもかかわらず、そのコロコロした肉体が猫の心をくすぐったのか、いつまでも足で引っかけては頃がされ続けていた。そのうち、血の気を失い白くなった足がもげ、それでやっと遊ばれ続ける辱めが終わったのである。  猫にとっては一時の食事である以前に、おもちゃのようなものとしてみられているのかもしれない。  俺の住処には猫はやってこれない。  梁の上まで上ってくるには奴の跳躍力では足りず、柱に爪を引っかけ駆け上がろうとしては人間にはたき落とされている。  この家にとって猫は隣人にすぎない。人間は自分たちの生活でやっとであり、日々の労働がそのまま食事に結びつき、労働がかけることはそのまま食事が事欠くことになるのである。  その生活の中で、猫を家人として迎えるようなまねはできるわけはなく、できることといえば、どこかから調達してきた魚を皮一つ残らず食べ尽くした後、猫に骨を放ってやるぐらいのものだ。  それでも猫にとっては居心地がいいのかよそで食事を恵んでもらったりして腹が満たされると、わざわざこの家までやってきて日当たりのいいところで寝ていたりする。  よそで食っていけるならそっちに行っていればいいのに、目障りな奴だ。  人間の生活はこのところあわただしく動き回っている雄を中心として動いている。ほとんど色の付いたお湯のようになっている貧相な雑炊をすすったかと思うと、勢いよく表に飛び出しては夜遅くまで帰らない生活を繰り返している。  雌はほとんど寝ることもなく、食うものも雄にやってしまって動いている有様だ。  だんだんと台所からは食べ物のにおいが消えていき、お湯と根菜と、時々混ざる豆のにおいがほとんどになった。  食うものがなければ俺たちは引っ越していけばいいだけなのだが、そうは許さない事情ができてしまった。  猫の奴がなにを勘違いしてか、この家に入り浸るようになり、迂闊に動けなくなったのだ。  雄のいない家の中、雌の方は畑仕事の合間に猫をなでたり声をかけたりしている。食べるものもろくにやっていないのだが、ときとしてわら布団の中に招き入れてアンカ代わりにしているようだ。  それで猫の奴が調子に乗って住み着いているのだ。  あいつがいるせいで表にでるのもやっとになっている。  俺達がいくら素早く動けるといえども、地べたをかけているときには猫にやられるからだ。  俺たちは太陽が沈むのを待って暗がりの隅を這うように雑木林に出ようとしているのだが、家に居着くようになった猫に見つかりもう少しのところで猫の爪に引っかけられそうになることが増えたのだ。  この食い物がない家の中で出ることもままならなくなってしまい、木と土と藁で形を保っているだけの箱の中から逃げ出せなくなってしまったのである。  食うものはないわけではない。屋根に登れは天気のいい日には小さな草が芽吹き、雨に浸され続け泥のようになった藁の隙間から清流のような黄緑の新芽をのぞかせることもある。一口かじると歯の先には柔らかく太陽に浴び続けてその内側あふれるような青臭い新芽の感触を味わい、薄暗い梁の上にはない白ずんで風景が見えるような天気のいい空の下で食事をすることになる。  ほとんど命がけである。  俺の薄い皮をかぶっただけの肉体は、食事の風景を空から見られてはいないか震えながら食べなければならない。  フクロウやミミズクはもとより、モズなんかに見つかるとカマキリの卵みたいに枝の先に刺されてしまい、そのまま冬まで忘れ去られてしまうのである。  命を張ってまで屋根に上ったところで腹を満たすには頼りない草々をかじらなければならないのだ。  屋根に上るよりは、と家の裏から雑木林をもう一匹の方がかけていこうとしたところで事件は起きた。  猫におそわれたのだ。奴の不注意なのかもしれないし、猫の奴の打算が見事に的中し奴の前をもう一匹の方がかけてしまったのかもしれない。  やつの耳には猫の爪がたてられ、薄く平たく頭にくっついている耳を破ってしまったのである。  痛くないわけではないのだが、奴にとっては耳を失ってもいいから逃げなければならないという本能から、奇跡的に片耳の半分を猫の爪に奪われながらも逃げてきた。  やっとの思いで梁に上ったかと思いきや、目も合わせずに隅の方に行ってしまい、数日の間は巣材の中で丸くなっているだけであった。  時々気になって見てはいたのだが、寝返りを打つついでに前足で耳をなでて、耳に触れた瞬間に背中に驚いたようなふるえを見せると、そのまま何事もなかったかのようにまた寝るという生活の繰り返しだった。  食べないでいる日が何日かあったせいだろうか、ぷっくりと弧を描いていて柔らかに全身を包んでいる毛皮を膨らせていた肉体からは、優しい曲線が消えていた。  あるのは緊張感からか鋭く辺りを見回し、そのまま二度と目を合わせようとしないで周囲を見つめる暗殺者のような目をした鼠だけだった。  一緒に梁の上を行き来していた幼なじみの面影は消えてしまったのである。  猫にとっては俺たちを捕まえられなかったのは何回ともある失敗の一つにすぎない。ただ、俺達にとっては生きるか死ぬかであり、このままじっとしてやり過ごすには代償が大きすぎるのである。  相棒は片耳を半分なくし、その耳の違和感からなのか、四六時中身繕いするようになった。  それを知っての事か囲炉裏の横で猫の奴は丸くなって寝ている。  片耳が三日月みたいになってしまった相棒と、なんの心配もないように寝ている猫。  俺の中で冷たい怒りに火が回りつつある。  奴との違いは体の大きさぐらいであり、何でもかじりとる前歯もあれば、人間が台所に仕掛けている罠をよける知能もあるのである。やり返せない事はない。  人間の雄はいよいよ畑仕事をほとんどしなくなり、やることといえば竹竿の先を斜めに切り、槍に見立てての訓練である。  梁の上から見ていて農民であったと思ったのだが、どうやらこの家の主は武士であったらしい。ただ、家の中を見回しても鉄でできているものといえば鍬の先だけであり、それこそ刀すらない続柄なのである。  仲間も似たようなものが集まっているようで、食うや食わずの輩が集まり、激しい言葉のやり合いや、そうかと思えば自分たちの発した言葉が身に災いを呼び込む言い回しだったのを察知したのか、急に怖じけ尽き小声でやりとりを続けたりという夜が幾日も続いた。  俺が見ても非力としかいいようがないこの家の主とその仲間で反乱を起こそうとしているのだ。この家の主がそうであるように、武士でありながらほとんど農民のような生活をしているものが集まり、ふらふらと考えを固めない上の人間に成り代わり意志を固め世を変えようとしている、らしい。  人間の言葉の中に頻繁に出てくる「キンノウ」であったり「シシ」であったりというのはおそらくそういうことなのだと思う。  人間の奴らが世を変えようとしているのだから、俺達のこの状況も変えられるかもしれないのだ。猫の奴のおかげでほとんど表に食料を取りに行くこともできず、ゆるやかに飢え死にを待つような状態から脱却するには人間同様、俺達を虐げる者に刃向かう以外ないのである。  猫の奴は日中、囲炉裏の縁で丸くなっていることが多い。  俺が囲炉裏にいる猫にできることといえば、相棒にされたように奴の耳をかみ切ることである。  家の中に誰もいない間を見計らって囲炉裏にまで降り、見回してみる。  いつもであれば隙間や何かしらの隅から陰と陰の間を渡り歩くように歩き回っているおかげで、家の真ん中から見回してみるということはなかった。  床の板には人間の垢や脂が染みこみ、鼻の奥をざらつかせるような臭気を放っている。その代わりなのか、毎日のように足で研磨され木とは思えないような艶やかな光沢を放っている。見回してみるとなにがあるわけでもなく、柱に囲まれた中に人間の身長ぐらいの箪笥が置かれているだけで、身を潜めたり梁に戻るのに使えそうなのもそれだけなのである。  つまりは、物陰から猫を急襲して柱から逃げ帰るか、梁から柱づたいに駆け下り、そして箪笥の裏の陰に隠れるかのどちらしかないのである。  猫はいつも寝ているようでいて、目を開けずに周りの獲物に感づくことが多い。  耳がいいのか、動く者がいないと思いこみ囲炉裏の食べ残しにありつこうとしたゴキブリの枯れ木のような乾いた足音を耳だけで察知し、捕まえたりするのだ。  いくら素早く動けるとはいえ、奴に足音を聞かせてしまうのは得策ではない。  最短で奴に近づくには箪笥の物陰に潜んでいるのが得策だ。  そうなると後は柱を伝い梁に戻るだけである。俺の足で上れないことはないのだが、やったことがないのである。  策が立てば部屋の真ん中でぼんやりしている必要はない。寝床に戻るために柱から戻ろうと勢いよく駆け出し、柱の半ばまで難なく上り一息で梁にたどり着けそうだと指先に力を掛けたときである。けたたましい叫び声が後ろから聞こえた。瞬発的に登り切れたからよかったようなものの、梁の上から見てみると人間の雌が俺の姿を見つけたらしいのだ。  台所で人間の食べ残しや食材を食べているところを何度か見られてからというもの、目の敵にしているのである。  さすがに雌が振り回す箒で俺達がつぶされることはないのだが、何かというと追いかけ回されているのだ。それが今まで見たことのない柱を駆け上がる俺の姿を見たものだからなおさら驚いたのだろう。俺が上った後、箒で柱を何度かたたいて威嚇していた。  その日の夜、雄の方に話したらしく、雄も箒で梁をたたいてきた。ただ、普段の掃除していない梁を箒でたたいたところでほこりや塵が舞うだけであり、俺達は隅で丸くなってやり過ごすだけなのだが。  猫は夜の間は家の中や表を歩き回っていることが多い。そして、昼は過ごしやすいところを見つけては寝ている。  人間がいると安心しているのか熟睡していることすらある。  猫の耳をかじりとれるのはその時だけだろう。  その日の昼下がりは、いつになく人間の雄が家にいて畑仕事をしたり、雌は気まぐれに猫をかまいながら囲炉裏端で縫い物をしている。猫の奴は足を体の下に入れるような座り方でうたた寝し、何事もない静かな午後であった。  こういうときは猫も気を抜いて寝ている。  ゆっくりと、猫もそうだが人間にも気づかれないように箪笥の裏から猫が見える物陰まで爪が床をたたく音一つたてずに近づく。梁の上で毛繕いしたはずなのに、全身の毛が逆立ったようなゴワゴワとしたざわつきが全身を貫く。  猫の頭がゆっくりと上下に揺れ始め、寝入り始めたらしい。  人間が立ち上がり、家の外へ出たそのときである。  俺は爪先から太股に全部の神経を集中し、猫へ一直線に向かっていった。  足音をたてると見つかってしまうので、足の肉の部分だけが床に着くように指先を持ち上げ、そして、前足と後ろ足は体を運ぶために全力で床を蹴り続けている。  猫の頭に駆上がり耳にかじりついた。  奴の耳の真ん中にかじりつき、前足で払おうが、頭をいくら振ろうが放しはしなかった。  口の中は猫の耳だ。芋の葉っぱのような厚みの割にはかみ切ろうとすると歯の先に堅い弾力がじゃまする。一発でかじりとって逃げてしまおうとしたのだが、こんなところでとまどうと思わなかった。  顎に力を入れ、こめかみが盛り上がり、前足を使い耳を引きちぎる。舌の先を刺激する耳に生えた毛が気持ち悪い。  ざらざらとした毛の感触に混じり錆をなめているような血のにおいが混じったと思うと、差の先にあった強い弾力がとぎれ、顎を思いっきりかみしめられるようになった。  猫の耳をかみ切ったのだ。  後は逃げるだけである。  前に通った柱に飛びつき梁に向かい一気に駆け上がろうとした。  半分以上上ったところで指先が柱をつかめなくなった。油を塗られたのだ。  重く甘い油のにおいを感じながら柱から落ちる。  柱の下には耳がかけた猫が俺を待ちかまえていた。
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drooog · 2 years
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2022/03/18  
奇怪だ。不可解だ。解せない。この世は、ぐちゃぐちゃの番号だ。吐きそうだ。
1406「あなた、わたしの膝を見てください。小さい傷があるのです。昨日、家族で決められているわたしの時間だというのに、弟が家のテレビを占領していたものだから、母親に言いつけてやったのです。そうしたら、祖父がやってきて、「蒲焼さん太郎を買い占めてやったから、学校で売りさばいてこい」と言いに来たのです。なのでお母さんは怒ってしまって、祖父と数時間に及ぶ口論になったのです。弟は泣き出して、家中しっちゃかめっちゃかになって、わたしはそのときご飯を食べていたのです。弟はゲームをしたていたのですが、攻略本が食卓にあって、お父さんもご飯を食べていたのです。だから、机をドンッ!と叩いたとき、それが落ちてきたのです。最悪でした。そういうわけで、あなた、蒲焼さん太郎はお好きですか?30個以上あるのです。あ、知っていますよ。焼肉さん太郎ですよね。私はどちらかというと焼肉さん太郎のほうが好きなのですが、あ、聞いてくださいよ。昔お付き合いしていた人が、クズだったのですよ。遠足で焼肉さん太郎と蒲焼さん太郎を2枚持ってきたというようなことを友達と話していたのですが、私が焼肉さん太郎が好きだと知っていて、行きのバスで無理やり奪っていって、もう、ありえなくないですか?蒲焼さん太郎ならまだしも、焼肉さん太郎を、ですよ?友達もみんな「あいつ最悪だよねー」って言ってたのですよ。だから別れたのですが、最近また連絡が来て、私、電車でキレそうになりました。あ、それで、家にまだ30枚くらいあるのです。あなた、いかがですか?あ、よかったです。ああ、痛い。最悪。でも、まあ昨日よりはよくなりました。うきうき!」
腹の中から、黒く粘ついた体液を纏った蛇が蜷局を巻いて、口と、目と、耳と、鼻の穴と、毛穴から出てきた。
そいつは、だいすきな鼠を丸呑みしたことを思い出して泣いていた。
空には切った爪の欠片みたいに鋭い月があった。夜風が、汗ばんだ身体から暖かさを一切取り除いていくみたいだった。ぼくは震えて、凍えて、蛇と一緒に泣きながら、1406の永遠みたいな話を聞いていた。
1406は、愛おしさすら感じるくらい無邪気に、震えるぼくのことも、泣いている蛇のことも、特に気にならないみたいだった。
たまに通り過ぎる人たちも、みんなぼくらとは無関係みたいな顔をしていた。でもぼくだって1406と無関係のはずだった。1406の伸ばした手の先に、たまたまぼくがいて。
やっぱり、苦しいと思った。ぼくには蛇が見えていて、蛇のことがだいすきだったから。1406が海に沈む列車に乗ったときの話をし始めたときくらいに、ぼくは蛇が泣かなくて済むように沢山のお肉を業務用スーパーで買おうと決意した。
もしかすると蛇にとってそれは残酷なことで、何の解決にも導かないごまかしに過ぎないことかもしれない。
でもそれなら、蛇はぼくを丸呑みして、にっこり笑えばいいと思った。それは贅沢な願いだと思った。
1406は喋り疲れたのか、いつの間にか眠っていた。イビキがうるさかったけど、喋ってるときよりずっと静かだった。空は夜の縁を滲ませて、まだ透明の日もやがて色づくのだということを仄めかせていた。
1406を公園のベンチに置きざりにして、ぼくは始まりに背を向けて走った。蛇を救えるのはぼくだけしかいない。30分くらいで喉が渇いて、自販機で何を買うか迷ってる間に蛇は下水道に帰り、闇に溶けて25337になった。ぼくはきっといつか脊椎を柱石にして、100000になりたい。そしたらきっと、このめちゃくちゃな番号のことをもっと理解できると思った。
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horipopo · 6 years
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♪ mon-chan ♡ . モンちゃん、おでこナデナデ。 . . モンちゃん鼻はララと比べて短く 爪もララよりうんと短い。 . 爪は、すんごいどこでもホリホリするので 自然と削れてるのかもしれないけど、、笑 . . #hedgehog #monchan #erizo #riccio #刺蝟 #萌萌 #好萌 #刺猬 #ハリ部 #ハリネズミ #モンちゃん #ヘッジホッグ #針鼠
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