Tumgik
#また冬まで前髪事情を呟くのかしら
thanatochu · 6 months
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アポトーシス
11月下旬の日曜日 太陽コミュMAXに出会う綾時と神木さん
青天の中に浮かぶ薄雲。今日も良い秋晴れだ。 僕はここ最近、長鳴神社に足を運んでいる。遠くからでもよく見える御神木を目当てに。 それに修学旅行で参拝した神社仏閣を思い出す静かな…厳かっていうのか、そんな空気を感じられるから。 日曜日の昼下がりに来るのは初めてで、夕方の景色とはまた違う、青空と枯れ葉の随分落ちかけた大木を見上げて嘆息した。 その御神木の根本近く、併設された公園に置かれたベンチに座る人影がある。 初めて見る人だ。線の細い、今にも消えそうな色素の薄い髪と肌の、痩せた男性。僕よりもいくつか年上だろうか。 ストライプのシャツ一枚で俯く様子に、晴れているとはいえ晩秋に寒くないんだろうかと、自分の服装を棚に上げて思ったりした。 僕の視線に気づいたのか、その人が顔を上げる。目が合って、なんと挨拶しようかと考える間も無く向こうから先に声を掛けられた。 「君は…僕のこと、迎えに来たのかい?」 「え?」 よく分からない問いに聞き返すけれど、初対面のはずなのにまるでよく見知った者に向けたように彼は話を続ける。 「生憎だけど、もう少しだけ猶予が欲しい…彼を待っているんだ。それが果たされたら思い残すことはないよ」 「…誰かを待ってるんですか?」 白い人は組んだ脚に視線を落として力無く笑った。 「そう…このベンチの隣に座ってくれる人さ。忙しい身らしく毎週会えるわけではないけれど、来て欲しいと願えば彼は叶えてくれる。だから今日もきっと逢える」 彼は使い込まれたノートを持っていた。ボロボロとも表現できるそのノートを大事そうに膝に置いて、その人を思い出したらしく幸せそうに口元を綻ばせる。 「もう秋か…それも過ぎて冬になろうとしているね。彼に会ったのは暑さの厳しい夏…いや、初めて会ったのは5月頃だったか。生命力に溢れた女の子が引き合わせてくれた」 半年余りの思い出を反芻しているのだろう、その人は遠くを見つめて呟いた。 「人生の最後に、彼に巡り合わせてくれた神というものに感謝しているよ…君にも、ね」 「え、僕?ですか」 「君からは彼とよく似た匂いがする。きっと深い縁があるんだろう」 そこで初めて、僕は彼の待ち人が誰なのか具体的な人物像が浮かんだ。 もしかしたら木漏れ日のベンチに座るのは、僕もよく知るあの人なのかもしれない。 口数は少なく表情もあまり変わらないけれど、人脈と懐の広さ深さは窺える。 それはこの街に越してきて日が浅い自分でさえも知っていることだ。 「僕の物語が…彼に、ひいては君に、何か残せると…いいな。それが生きた証へと繋がれば」 弱々しくも揺るぎなく僕を見つめる白い人は、預言めいたことを投げかけてくる。 「そうすれば死ぬ意味さえも見つかる気がするんだ」 寂しさを滲ませながらも満足そうに頷く。僕は何かに胸を鷲掴みにされたように苦しくなって、マフラーごとシャツの胸元をギュッと握り締めた。 人の生き死には、流れる水や風のように当たり前のもの。確かに前はそう思っていたのに、大事な人が出来たら見方が変わる。 何かを思い出しかけて喘ぐ僕の後ろから、よく知った声が投げられた。 「…綾時?珍しい組み合わせだな。神木さんと知り合い?」 「あ、」 カサカサと落ち葉を踏みしめながら予想通りに彼が来た。白い人の待ち人が。神木と呼ばれた彼が嬉しそうに答える。 「君を待っている間に少し相手して貰っていたんだ。やっぱり君の知人だったね」 「同じクラスの転校生同士のよしみで」 先程の浮世離れした空気から親しげな世間話に変わった。 「…あの、茅野くんも来たし僕はこれで失礼します」 振り向いた彼の意外そうな視線に曖昧に笑って別れを告げ、石段を降りた。 神木さんは何か大事なことを果たそうと彼を待っていたんだろう。これ以上の邪魔は出来ない。 階段を降りきった横の電柱に花束が置かれている。以前から気付いていたけど、誰かがいつも新しい花を供えているんだろう。 この場所も誰かの大事な人の、大切な思い出が在るところ。死してなお誰かの記憶に残り、未来に影響を与える。 「僕も、そんなふうに…」 僕の死が誰かにとって意味のある、何かに繋がるものであればいい。 そうすれば自分が今ここに存在する理由も、この世界のことをもっと知りたいと願う理由も解る気がして。 大事な人たちの平凡な幸せをずっと見ていたい。そのためにこの命を使えるなら言うことはないのに。 陽の傾いてきた空を仰いで、もうすぐ来る冬に想いを馳せつつ歩き出した。 「僕も最期は、君の傍にいたいな」 その希みを、彼は叶えてくれるような気がした。
P3Rありがとう。 神木さんからのメールの言葉はどれも沁みました。 綾時と神木さんのお話は無印当時からずっと書いてみたいと思っていたもので 今回やっと書けるような気がしたので10年ぶりくらいに書いてみた次第です。 環境とか心境の変化などでやめてしまった創作ですがリロードをきっかけに少しずつ形に出来ればと。 昔出来ていたものが今は出来ない、と嘆くのは簡単すぎますが 今だから出来ること、も沢山ある気がして。 変わってしまったことと変わらないことを楽しみたいです。
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minatonohato · 9 months
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石灰光
 女が、傘を斜に持って、膝に乗せた風呂敷包の上に肘をついて頬杖をついている。揺れる市電は時間の割に人気が少なく、席に座る人もまばらなれば、目の前に障害となるように立つ男もいない。私の座る斜向かいにその女は腰掛けていて、ただじっと、床の雨染みでも見ているのか動きもしなかった。女が持つのは、使い古された渋い色の和傘に、くすんだ紫の風呂敷。女には珍しい、重たい黒色の洋風のコオトを着て、その裾からは着物の色合いが、調和を乱すように鮮やかに覗いている。泥に汚れた白足袋と、紫の鼻緒の草履。娘盛りを少し過ぎた年頃だろうかと思うのは、その少しく乱れた髪と、生活に霞んだ手の甲のためである。
 持って出た本も読み終えた私がその女に目を留めたのは、女がその背を、知らずのうちに冬の白い陽に預けていたためであった。女の背後が西側になっているのだろう、その陽光を女は一身に受けている。その女の淡い白い頬の輪郭が、私の視線を誘導させたのだ。
 先ほどまで降っていた小雨の名残が空中に分散して、光線と互いに反射しあっているのか、女の輪郭はやけに淡く光っている。それはまるで銀幕の女優のようで、その白い肌は何よりも私の目を惹いた。女はそれに動じないけれども、市電が動きを止めるたび、そのように揺れる身体をそのまま任せて、そしてその度に、陽の光の方がゆらりと揺れている。
 女本人が動きもしないのに、陽の光のほうがゆらゆらと揺れる。それは市電が動いているからであるし、外では日光を遮蔽するものがたまにあるからだろう。思えば不思議はないはずであるが、女の代わりに表情を変えていく冬の光が、私には面白く目に映った。光が表情を変える度、女はその照明に、勝手に照らされる。何度も違う角度から映される写真のように、女は勝手にその陽の光のモデルとなった。
 女は一際に美しい容姿をしている、というわけではなさそうであったが、それでもこの情景を留めておけるものなら、そうしたいと、一学徒でしかない私にすら思える。しかしながらどれだけ高名な絵描きであろうと、この光の揺らぐ光景は、絶対に描き留めきれないのだから惜しいものだ。
 その時市電が止まり、女が気のついたように数度瞬きをして顔を上げた。風呂敷に沈んだ身体を起こして、頬杖を解放する。私が手持ち無沙汰に女をまじまじと眺めていたことにも気がついていないのか、私とは反対の方向を見て、どうやら現在地を確認しているようであった。すっと伸びた背筋、そこから続く首筋、横顔は鼻筋が通り、重たく見えていた瞼は思いの外強く印象的な瞳を表した。不機嫌そうに引き結んでいた紅が彩る口元の、その端、少し下には黒子が見える。髪の生え際までの額の形と、何よりも、少し寄せられた眉のしなりが美しい。陽の光が女を捉え、女も、遠くを見渡し動きを止めるその瞬間。
 その瞬間を私は見たのだ。
 それは先ほど上野で見た洋画のどれだかのように。完璧に整った一瞬だったのである。女のポオズ、その表情、持ち物衣類から、市電車内の光景と、冬の柔らかい光の色。私が絵描きであったなら、この光景を逃す手はない。そんなものになってみようと思ったことは、生まれてこのかた一瞬たりともなかったというのに、今この瞬間に初めて私は、自らが芸術の道を選び取らなかったことを悔やみすらした。それはあまりに美しく、私の脳裏に焼きついたのである。
 その一瞬間に私は見惚れて、つい女を凝視していたに違いない。次に市電が揺れると、女はついに私に気がついたようにこちらを見やり、黒く細い瞳で私を睨みつけるようにした。そこでようやく我に返る。他者を見澄ましていた己の不躾さに情けない思いを抱えて、居心地悪く女から視線を外す。しばらくそうして車内外に視線を彷徨わせていたものの、自らの落ち度の手前、じわじわと女の視線が刺さる気すらする。ついには居心地の悪さに耐え切れなくなって、まだ先まで乗っているつもりだったものを、次の停車場でそそくさと降りてしまった。
 見ず知らずの女に悪いことをしたとふと息をついたのも束の間、「もし」と人を呼び止める声がする。私ではなか���うと思っていると、目の前に影がぬっと現れた。身を引くと��れは、私が先まで失礼を働いていた女当人である。
「あなた」
女が言う。私はその突然の出来事に動転してしまって咄嗟には声も出ずに、ただ女の顔を凝視していた。
「どちらかでお会いしまして?」
しかし女はそれ自体を気に留めていないのか、ぬっと顔を近づけて私を見る。
「いえ、そういうことはありません」先程は……、
と言いかけたところで、女がはっと距離をとった。
「ごめんなさい、近目なものだから。どこかで顔見知りの人のような気もして……今日は眼鏡も忘れてしまったし……」
女は風呂敷を抱えて、斜に頭を下げる。「いえこちらこそまじまじと申し訳ない」と言えば、女が怪訝な顔をするので、結果、自らの罪を一から自白することとなってしまった。
 一通りの自白を終えて、女は思いの外朗らかにそれを聞いていた。しばらくそのまま立ち話を続けていれば、冬の長い夜はすぐさまやってくる。そろそろ、と話を切り上げ、別れかけると、女はこのまま、ここで市電を待つのだと言った。私が知り合いと思って降りたから、本当はまだ先まで乗っているはずであったのだと恥ずかしそうに笑う。私もまったく同じことをしたとは打ち明けられずに、ただ女に悪いことをしたと再び苦く思う。自らはここから歩いて家まで帰るつもりであったが、女一人を置いて帰るには停車場は薄暗い。
「失礼ですが、どちらまで」
聞けば女の行先も、自分の帰る方角と似たようなところである。徒歩をやめにして円タクを拾い、先の失礼のお詫びにと同乗を誘えば、女は躊躇いながらもそれに乗った。
 帰路にも陽はどんどん暮れる。女が車を停めて降り、別れを告げるちょうどその時、点灯夫が車の横をすり抜けて、ガス灯の火が灯された。ほっと灯る火の暗さが、点々と連なっていく。女はそれをちらと見上げて、冬は日が暮れるのが早くって嫌ですね、と呟く。
 女とは、たかが数刻話した程度。なんでもない話をしていたので、その素性は当然聞いてもいない。近くに住んでいるようではあるから、もしかするとこの先も市電で乗り合わせることもあるかもしれないが、この東京ではその可能性も限りなく低いだろう。
 昼間見た女のあの一瞬を思い返す。光を受けた女の美しいひととき。その類稀なさ名残惜しさに、動き出す車から背後を振り返ると、女はガス灯の下に佇んでいて、その姿はただ暗く映るのみであった。私が振り返るのに気づいたわけはないと思うのに、女の腕が挙げられて、落ちた袖からその細さが暗がりに浮き上がる。今度は浮世絵のようなその情景に、私はソフトを挙げて、ただ、別れを告げるのだ。
もっちりデミタスさんのアドベントカレンダー(2023)寄稿です https://adventar.org/calendars/8560
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hinagikutsushin · 1 year
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かえりたい
 小さいころ、海で溺れたことがある。
 あの日、私はお父さんとお母さんと海水浴に来ていた。真夏日で、凄く暑いからか海の水が凄く気持ちよくて、浮き輪でぷかぷか浮かびながら、足と手をぱちゃぱちゃ動かしながら波の揺れを楽しんでいたはずだ。
 でも気付いたら私はお母さんとお父さんがいる浜辺から随分と遠い場所まで来ていて、両親がこっちにむかって声を掛けている姿に呑気に手を振っていたら、高波が来て私は海に吞まれてしまったんだ。
 不思議と苦しくなかった。体を包み込んでくれる水が、体の中を満たしていく水がとっても気持ちよくて、どんどん遠ざかっていくキラキラした水面が綺麗で、ただ沈むまま頭上をぼうっと眺めていた。
 そしたら急に下から何かに押されたような衝撃があって、波に逆らって移動していると思ったら、気が付いたら号泣しているお母さんと必死な表情のお父さんの顔が目の前にあったんだ。
「本日、C県K市の浅瀬に推定20mにもなる1頭の白い鯨が迷い込みました。専門家によりますと、このザトウクジラはアルビノ個体であり、8年前に別の地域の沖合で発見された白鯨と同じ個体ではないかという意見が出ています。アルビノの鯨はオーストラリアでも発見されており――……」
 中学2年生の夏、リビングから流れてくるテレビの内容が気になって思わず目の前を陣取り画面を食いつくように見つめる。だから今日あんなに昼うじゃうじゃ浜辺やら防波堤に人がいたのか。昼間の混雑を思い出して少し眉間にしわが寄った。キッチンの方で「こら、せめて髪はきっちり乾かしてからテレビを見なさい!」とお母さんの叱る声が聞こえたので、乾かすには面倒な長い髪を肩にかけていたタオルでぽんぽんと叩くように拭く。
 お父さんが私の後ろにあるソファに座り、同じくテレビを見ておっと声を出した。
「懐かしいな、8年前といえばあの日の海水浴を思い出すよ。あれからもうそんなに経ったのか」
「うん、そうだね。私はどうやって助かったのかはしっかり覚えてないんだけど……お父さんは覚えてるんでしょ?」
「そうだなぁ、大きい白鯨がお前を背にのっけて浅瀬まで届けてくれたんだよ。あれは圧巻だったなぁ。もしかしたら本当にこの鯨はあの時の鯨なのかもしれないな」
「ふぅん……」
「見に行かないのか?」
「気になるけど、昼に行くと人多くてそれがやだなぁ」
「海に入れないから?」
「そう!」
 私だってこの鯨に興味が全くないわけではない。父親が言うにこの鯨は自分を小さいころ助けてくれたあの鯨かもしれないのだから、一目でも見て、そしてお礼をいうことが出来たらいいなとは思う。ただ昼間に行くとどうしても人が多いみたいだから……なら、
「夜中に行くなんて馬鹿なこと考えないでよ?」
 洗い物が終わったのかお母さんもリビングにやってきて私の頭を手のひらで軽くたたいた。
「あんたは溺水したから海が滅法嫌いになるのかと思ったら小さいときの数十倍も海好きになっちゃって……昼間人目につくとこなら昔みたいに溺れた時だれか助けてくれるからいいかもしれないけど、夜中は本当にやめてよ? 昔みたいに鯨が助けてくれるわけでもないし」
「わかってるって」
「ほっといたらあんたは一日中海に居ようとするもんだから心配だわ」
「大丈夫だってばー、ちゃんとスイミングスクールも行ってるし、この前全国大会でも優勝したもん。昔よりは泳げるよ」
「馬鹿、そういう話じゃないんだよ」
 お母さんとお父さん、2人にたしなめられて少し仏頂面になった。でも両親が私のことを心配する理由もなんとなくわかる。特にお母さんは心配性だから、2人の前でこれ以上この事に関して話を出すのはやめることにした。
 その日の夜中。窓を開けて波の音を聞きながら月を見た。頭の中でぐるぐると回っているのは夕方のあのニュース。どんな鯨なんだろう。本当にあの時の鯨なのかな。今なら人は海辺になんていないだろうしこっそり行ってもいいかも。お母さんとお父さんは? 大丈夫、少し見に行って2人が寝てる間に帰ってくればいいんだから。
 思い立ったが吉日。そろそろと家を出てサンダルを履き、静かに戸を開け閉めた。夏だからか夜もじんわり暑くて、むわっとしたぬるい空気が体を纏った。家から数メートル先までは忍び足で離れて、ある程度の距離から海の方へ小走りした。
 両親が心配だからと一度も行かせてくれなった夜の海はとても静かで、ザザー、ザザ―とした波の音とサク、サクと砂を踏む私の足音しか聞こえない。私の鼻に家にいた時よりも強い潮の香りが抜けていく。心がどんどん落ち着いていく気がした。
 そうだ、鯨を見に来たんだっけ。当初の目的を思い出して辺りを見回すと浅瀬で海に向かって座っている人を見つけた。……いや、あれは人なのだろうか。人にしては大きすぎるかもしれない。その人に向かって足を進めると、座っていた人は私の足音に気が付いたのかゆっくりとこちらに振り向いた。
 凄く綺麗な顔をしている男性だ。体のラインにピッタリと沿った民族衣装のようなものを着ていて、髪は長い銀色。朝焼けみたいな優しいピンク色の瞳が印象的だった。
 そして何よりこの人を見て、自分は懐かしいと思った。
「そんなに見られていると少し恥ずかしいかな」
「しゃ、しゃべっ」
「あぁ、ごめんね。驚かせてしまった。……君はあの時海で溺れていた子だね? 大きくなったね」
 二コリと笑った彼の言葉にその言葉に口があんぐりと開いた。
「あの、私テレビのニュースを見て、白い鯨が浅瀬にいるって迷い込んでるって聞いて来たんですけど、えっと、そうじゃなくて、なんでその時のことをあなたが知ってるんですか?」
「そりゃあ僕がその白鯨で、君を助けたのが僕だからだよ」
 更に口が開いたかもしれない。彼は私の反応が相当面白かったのか、声をあげて笑っていた。
「だって、人間の姿をしてるじゃないですか!」
「君には僕が人間の姿をしているように見えるんだ」
「あたりまえじゃないですか。というか、確かに今日は天気が良くて海が凪いでるかもしれないですけどずっと浅瀬に座ってたら体が冷えてしまいますよ」
「僕は砂浜までは行けないよ。打ちあがっちゃうもの。……そうだ、君さえよければ僕の近くまでおいでよ。僕みたいに海の中で座れなんて言わないからさ」
 本当ならこんな状況、逃げる一択なのだろうけど、不思議と嫌な感覚はしなかったからサンダルを脱いで手招きされるまま海に踏み入る。
 彼の近くまできて来てみると、やっぱりその人はかなりの大男らしくて、私の身長と彼の座高は殆ど同じようなものだった。身長高いんですね、と呟いたら、そりゃあね、ザトウクジラだからおっきくなっちゃうよね、と彼は答えた。どういうことなんだ。
「凄いね」
「なにがですか?」
「海が喜んでる。君はよっぽと海に愛されているみたいだ」
「……そうなんですか?」
 私の手を握ってもいいかと聞かれたので、大人しく手を差し出した。私の手を握る彼の大きな手はひんやりと��ていて、海の中に入った時のような、不思議な包容力があった。初対面でこんなことを思うのもおかしいけど、私にとっては親の手よりも安心する気がした。
「やっぱり、あの時随分と海水を沢山飲んでしまったんだね」
「溺水した時ですか?」
「そう。……実はここに来るつもりはなかったんだよ。僕みたいなモノが人間の住む場所の近くまで来ると混乱させてしまうからね。だけどこの近くを通った時、海がはしゃいでいるような声がしてね。まさかとは思ったけど君だったとは」
「えっと、どういうことですか…?」
「君の中には海がある」
 目が点になった。
「正しくは君の心と体がこの海と結びついてる、と言った方がいいかもしれない。君、海の中にいる方が心が落ち着くだろう」
 なんで分かったんだろう。思わず何回も頷いた。
 そう、あの日溺水した時から私は異常なほど海を求めていた。海の中にいると心が落ち着いて、ここが自分の居場所だと、そう思うほどだった。元々内陸に住んでいる祖父母の近くに家があったけど、私があまりにも海を求めるものだから、私たち家族は海辺のこの街に越してきたのだ。
 あれ以来私はほぼ毎日この海に来ている。親が心配するだろうから朝か昼、夏場は入って泳ぐし、冬場は砂浜に座ってただ波の音を聞くことだってある。ほんとに自分でもどうかしてると思う。だけど、
「たまに、海にかえりたい、と思うことがあるんです。自分でもよく分からないんですけど、ここが酷く懐かしくて、まるで自分の居場所は陸じゃなくて海にあるみたいに」
「偶にいるんだよ、生まれる場所を間違えてしまった人間が。海で生まれるはずだった人間が陸に生まれると他の人間より海への憧れが強くなるだけなんだけど、海と密接に結ばれると今まで生きてきた陸を自分の居場所とは思えなくなってしまう。……君、両親は好きかな?」
「うん、大好き」
「そしたら、君が陸に居続ける理由はその人たちのためになるわけだ。君の両親は君を正しく深く愛したんだね。よい鎖になっている」
 何故か気恥ずかしくなって、彼の顔から視線をはずした。
 暫く無言になる。ザー、ザザー、と鳴る波の音と静かに呼吸する私たちの息の音だけが耳に届き、繋がった手と足元を撫でる波がほんの少し火照った体を癒してくれた。心地が良かった。
 ふと、先程の話から両親のことを思い出した。そうだ、今何時だろう。流石に帰らないとまずいかもしれない。だけどこの心地よい状況から離れるのも惜しい気がした。
「あの、暫くこの近くにいますか?」
「うーん、君の顔を少し見るだけのためにここに来たようなものだからね。明日にはここを離れるつもりだよ」
「あの! 我儘で申し訳ないんですけど!」
「うん?」
「もっと話せたりしませんか……? 明日とか……親にバレちゃうといけないから今日はもう帰るんですけど、その、もっと海の話聞きたいし、あなたのことも知りたいし……ダメだったらいいですけど……」
 彼はぽかーんとした表情で私を見たあと、ワハハと大きな声で笑った。そんなに笑うことないじゃない! 恥ずかしさで頬が熱くなったまま睨みつけると、ごめんごめんと彼は平謝りする
「そうだね、君がそう言うならあと3日程、この近くにいることにするよ。また明日この時間に会おう」
「約束ですからね!」
「うん、約束だ」
 繋いだ手を離して、小指を差し出した。彼が不思議そうにその小指を見ていたので、人間は小指と小指を結んで約束するんだよ、と教えた。彼は成程、と呟くと、私よりも遥かに大きい小指を差し出した。
「小指おっきいですね」
「ザトウクジラだからね!」
「そればっかり!」
 小指と小指を軽く結んで、指切りげんまんをした。少し名残惜しかったけど指を解いて、浅瀬から出る。
「したら、また明日この時間に」
「うん、また明日」
 この不思議な夜の密会を約束して数日間。私はすこぶる浮かれていたと思う。昼間、いつも海に行く時間帯に「鯨のニュースで人が多くて混んでるから」という理由で家で夏休みの宿題をして、夜2人が寝静まった時にそっと家から出て彼に会いに行った。
 話していて分かったことは、彼は本当にザトウクジラで、彼を人間の姿をしているのは私自身が彼自身と会話をしたいと望んだから目と脳がそう都合よく解釈してるだけらしい。浜に近すぎると打ち上がって身動きができなくなると言っていたのはどうやら真面目な話だったみたい。
 それから、今後とも私の意志が陸にしっかり向く限り、海が私を連れていくことはないということを教えてもらった。じゃああの時溺れたのはなんでだろうと思って聞いたら、小さい子供、特に7つまでは自分の意志が弱いから、1人でいると簡単に連れ去られてしまうそうだ。
「所謂神隠しというものだよね」
「私、神隠しは神社でしか起こらないものだと思ってました」
「どこでも起こりうるよ。海だけでなく川でも、山でも、街中であってもね。人から外れたモノに好かれるというのはそういうことなんだ」
「でも海は概念じゃないですか」
「何にでも意思は宿るさ。だから陸でずっと暮らしたければ、しっかりと自分の意志を貫いて、そして今君を繋いでくれている親との鎖と、今後結びつくであろう縁を虚ろにしてはいけないよ」
「……どうしても私が海にかえりたくなったら?」
 足首まで浸かった海水を蹴る。ぱしゃり、と水がはねた。視線を上げて彼の顔を見たら、少し言葉���探しているようだった。
「そうだな……海にかえりたい、とそう伝えればいいんじゃないかな」
「伝えていいんだ」
「出来れば人間としての生を全うして欲しいと思うけど、君は本当は海で生まれるはずだった命だから。きっとその時は海は喜んで君を迎えると思うよ」
 私たちの足元を
「僕は今夜この浜辺から発つよ」
 少し驚いて彼の顔を見た。私を慈しむような、そんな表情をしている彼が見えて、思わず目を伏せる。そうか、もうお別れなのか。唇がきゅっと閉まった。何とも言えない表情をしている私を見て、彼は柔らかい笑い声をあげた。
「この3日間、楽しかったよ。ありがとう」
「……もう会えなくなる?」
「いつかまた会えるかもしれない。海は何処へだって繋がってるから」
 俯きながら小さく頷いた私の頭を、彼は優しく撫でた。沖に向かって歩みを進めた。彼の体が沖へ進みに連れどんどん海に沈んでいくところを私はずっと眺めた。
 彼の長い白い髪が畝り、夜の海に消えていく。その姿を、私はずっと眺めていた。
 帰り道を重い足取りで歩く。道路横の街灯が心許ないけれど道を照らしてくれているから、こんな夜中でも道に迷うことは無い。だけど時々チカチカと点滅した灯りがあって、それが何故か私の心を不安にさせる。
 家の前に着いた。心臓がバクン、と大きく鳴いた。
 家の電気が付いてる。家から出る時は親が寝たのを確認したし、電気も確かに消えてたはずなのに。
 恐る恐る玄関を開けた。手から変な汗が出る。
 靴を脱いで、リビングを覗いた。食卓の前の椅子に父と母が座っている。
「随分遅い帰りじゃないか」
 父さんが私に振り向いてそう言った。
「海に行っていたんだろう?」
 口の中がカラカラだ。
「……取り敢えずこっちに来て座りなさい」
 今まで感じたことの無い異様な空気がリビングには漂っていて、怯えで食卓へ向かう自分の足が覚束無い。椅子に何とか座って、親の顔を見た。父さんはこんな空気の中、怖いくらいに穏やかな表情だったけど、母さんは顔を真っ赤にして震えていた。彼女の握り拳が白い。
「おかしいと思ったのよ、いつもはあんなに嬉々として宿題なんてやらずに海に行く子が鯨のニュースが出てから全く行かなくなったんだもの。朝は起きれないし昼間は眠そうにしてるし。……ねぇ、母さん夜には海に行かないでって言ったよね?」
 視線が徐々に下がる。
「鯨に会ってきたのでしょう?」
 口の中を噛んだ。信じてくれるはずない、あの鯨は話せるだなんて、そんな話。
 暫く無言の時間が続いた。ふと、耳に嗚咽が聞こえた。そうっと視線を上げたら、顔を覆った母さんが居た。泣いてるみたいだった。
「どうして何も言わないの……っ」
 心臓をキュッと握られた気がした。泣いてる母さんから目を離せなかった。
「……暫くはスイミングスクールにも、海にも行くんじゃない。夏休み中は家で過ごすんだ。いいね?」
 父さんのその言葉に、私は頷くことしか出来なかった。
 自分の部屋の窓から海を見た。近々台風が来るからだろうか、波が随分荒く見えた。潮の香りが嗅ぎたくて窓を開けようとしたけど、母さんのあの時の泣き顔が頭をよぎって伸ばした手を元に戻した。
 控えめに言って、今の親との……特に母さんとの関係は最悪だった。見かけはあまりおかしくはないと思う。だけど向こうは私が少しでも外に、特に海に興味を示したらヒステリックに叫ぶし、私は私で母さんがそうならないように様子を見ながら日々を過ごすしかなかった。父さんが夜いる時は母さんを宥めてくれるし、それにこの関係性のクッションになってくれるからいいものの、昼間は精神的に辛い日の方が多い。
 それでも私は母さんと父さんが好きだ。あの鯨と過ごした日々は確かに宝物でかけがえの無いものだったが、夜に海に行くという過ちをしたのは自分で、自分が悪いから今家族はぎこちない形をするようになってしまったんだ。
 私は家族が好きだから、私が我慢すれば親も、私も望む家族の形になれるから。
 私が我慢すればいいだけだから。
 ベッドでうたた寝していたら、いつの間にか夜になっていたみたいだ。寝たあと特有の気だるさを押しのけて体を起こした。
 そういや夕ご飯食べるの忘れていたことに気がついて、部屋から出て階段を降り、リビングに入ろうとした。灯りがついてる。まだ2人は起きてるんだろうか。ドアノブに手を掛けた。
「もう無理なの! 私たちは!」
 母さんの叫び声だ。
「落ち着きなさい、無理なんかじゃないだろう」
「無理なのよ! もう昔の家族の形になんかなれやしない! あなたはいいわよね、昼間はずっとあの子を見ずにすむんだから。あの子が昼間どう過ごしてるかわかる?! ずーっと自分の部屋から海を見てるのよ! 声をかけても返事すらままならないし、返事ができたとしても私をまるで腫れ物みたいに扱って……!」
「あの子が最大限したいことを我慢して俺たちの願いを叶えてくれてるじゃないか! 俺たちがあの子の自由を縛っているんだぞ!」
「自由を縛る?! そもそもあの子が夜危険な事をしなければこうならなかったのよ?!」
「それは……っ」
「誰も私の味方なんてしてくれない! 私はただあの子がまた海なんかに殺されないように守りたいだけなのに! まるで私が間違ってるみたいじゃない! ……そうよ、そんなに海に行きたいならもう行ってしまえばいい!
あんなの、もう私の子じゃない!」
 ドアノブから手を離した。音を立てないように扉から後ずさり、玄関を目指した。静かに鍵を開け、外に出る。家から数歩歩いて、そして思いっきりアスファルトを蹴った。
 もう何が正しくて何が正しくないのか分からなくなってしまった。
 母さんは私が嫌いみたいだ。
 父さんは私がこんなんだから、母さんと仲が悪くなったみたいだ。
 私のせいで、母さんも父さんも壊れてしまう。
 違う、きっと私��生まれる場所を間違えてしまったから2人は壊れてしまったんだ。
 私がちゃんと人間だったら、きっとこんな風にならなかった。
 私がちゃんと海で生まれていたら、きっと2人は幸せでいられた。
 私、わたし、
「なんで人間なんだろう」
 砂浜でぽつりと出た言葉は強い風で掻き消されてどこにも届かない。
 目の前に広がる海は、大きく波立っていて、全てを飲み込む凶暴性を孕んでいた。
 あの時とは大違いだな。でも、その凶暴性さえ、今は心地よく感じた。
 波に踏み入った。足に海水がまとわりついてくる。よく分からないけど、笑えてきた。
 そのまま足を進めて、ついに腰まで来た。入る前はあんなに強い波だったのに、私の周りだけ不思議と凪いでいた。私の返事を待ってるみたいだ。
 空を見上げた。綺麗な星空だ。零れて落ちてきそうだった。
 目を瞑る。大きく深呼吸する。肺に潮風が満ちる。再び目を開けて、水面に問いかけた。
「ねぇ、わたしをうみにかえらせて」
 うねる波が私を飲み込んだ。
 私の体は波に任されるまま徐々に深いところに沈んでいく。心地がいい。体の中に海が入ってくる。私の口や鼻から抜けていく潮風が泡になって抜けていくのが綺麗で、ぼうっと眺めた。
 一際大きな潮の流れが私を捉えた。仰向けだった体がくるりと半回転して、何かに乗った。白いゴツゴツとした、弾力のある皮膚のようだ。
「本当にこれでよかったの?」
 頭に声が響いた。あの時のザトウクジラの声だ。もしかして迎えに来てくれたのかな。
「本当にこれでよかったの?」
 もう一度そう問われた。答えようと口を開いたけど、私の肺はもう海で満たされていたから声が出なかった。
「大丈夫、君が僕に伝えたい言葉を思い浮かべるだけでいい」
 そう優しく語りかける鯨。その背に頬を付けて、言葉を思い浮かべる。
「本当はね、分からないの。でもね、あのままだと母さんも父さんも壊れてしまうと思ったの。それにね」
「うん」
「やっぱり私は海を諦められないから。……私には、人間の体で、人として生きるのは厳しかったみたい」
「後悔はない?」
「分からない。でももういいの。……もう、海にみをまかせたいの」
「……海にかえったら、君は何がしたい?」
「そうだなぁ……あなたみたいにくじらになって、このうみをおよぎたいなぁ……」
 冷たい潮の流れの中、頬から伝わるクジラの体温が愛おしかった。次第に眠くなってきて、目を閉じた。
 意識が落ちる直前に、「おやすみ、また次の生まで」という彼の声が聞こえた気がした。
「午前のニュースです。あの白いザトウクジラの出現から早5年、再びその姿はO県にて目撃されました。ある界隈でこの鯨は幸せを呼ぶ白鯨と呼ばれていますが、今回一回りほど小さい子クジラに寄り添って泳いでいることが確認されており、珍しいことにその子も同じくアルビノ個体のようです。専門家によりますと親子でアルビノになるのは非常に稀であり――…」
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thyele · 1 year
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2023年8月12日
テレ朝newsさん「「ドムドムバーガー」奇跡の復活 元専業主婦“異色”社長の秘策 ブランド存続危機も」 https://twitter.com/tv_asahi_news/status/1686930109230661632
プライモーディアルポーチ - ペットシッターSOS - 全国展開のペットシッターサービス https://www.petsitter.co.jp/archives/26338/
deadman_officialさん「deadman×MUCC スプリットシングル『産声』より deadman「猫とブランケット、寄り添い巡り逢う産声」とMUCC「死の産声」の配信開始! ※各サイトによって配信開始時間が異なる場合があります」 https://twitter.com/deadman_fuz/status/1687127974406201344
HIROSHI MATSUMOTOさん「OBLIVION DUST 冬のワンマンツアー 開催決定!」 https://twitter.com/DashioJp/status/1686898440087994368
Creativemanさん「【QUEEN+ADAM LAMBERT来日公演決定!】 日本公演史上、最大級となる4都市5公演のドームツアー。 札幌には実に42年ぶりの上陸! 輝けるクイーンの歴史の集大成であり、これが最後になるかもしれない、日本での“THE RHAPSODY TOUR”は絶対に見逃がせない!」 https://twitter.com/CMP_official/status/1686165369684385793
Panasonic Japan公式さん「落雷時の家電の取り扱いに注意⚠️ 関東を中心に大雨、落雷が発生しています💦 皆さん、安全にはお気をつけください😔 落雷発生時の家電の取り扱いを案内していますので、お役に立てていただければ嬉しいです🙇‍♀️ #雷 #コンセント」 https://twitter.com/Panasonic_cp/status/1686239613642547200
amassさん「ブルーノ・マーズが2024年1月に行う来日公演。東京ドーム5公演即日完売につき追加公演決定。20日(土)、21日(日)に東京ドームで行われます。ブルーノからのコメントが到着しています」 https://twitter.com/amass_jp/status/1686154737870389248
SPICE[音楽情報メディア]/e+さん「ONE OK ROCK、40万人を動員した全国ドームツアーの模様を収録したライブDVD&Blu-rayが11月に発売決定 #ONEOKROCK」 https://twitter.com/spice_mu/status/1686210423761371138
UNCLOCK LOVER 頼田陵介さん「モイ!iPhoneからキャス配信中 -路上開始 https://t.co/SaxVTLcjTy」https://twitter.com/yorita_ryosuke/status/1688899371482689536
源 依織さん「以前にも呟いた事のあるX JAPANがBGMで流れるたまに行く近所のスーパー。 今日はENDLESS RAINを聴きながら買い物しました。 心なしか足取りもゆっくりに。 https://t.co/zV9lTMSYIh」https://twitter.com/prin_guitarist/status/1688903322621915138
Ivy darknessさん「池袋お疲れ様でした」https://twitter.com/IVY_DOPE_SHOW/status/1688906670796353536
UNCLOCK LOVER 頼田陵介さん「池袋路上ライブ無事終了しました😊 雨降んなきゃなーも少しやれたのに😭😭😭 来てくれた皆さま、配信閲覧下さいました皆さま、 ありがとうございました✨ セトリ 1.シンデレラ 2.Prayer 3.bring it on 4.Lastly 5.新宿ピエロ 6.Alive 7.手紙 https://t.co/xLHfftK0b2」https://twitter.com/yorita_ryosuke/status/1688916965971431424
koumei_Lucifer's undergroundさん「https://t.co/SWypPv16IY」https://twitter.com/KoumeiLucifer/status/1688924219844026369
Deshabillz2023 8月19日(土)心斎橋SHOVELさん「ほれ、噛み締めろ 押忍!ちゃんとやってますな #夢咲いた https://t.co/KFbMiPOGJH」https://twitter.com/Deshabillz2022/status/1688924584840740864
金髪豚野郎K助(偽殿下)さん「今日は覇叉羅創設時の3人でスタジオでした 新曲で豚骨まみれになりました もうすぐ新曲の情報出るよ 家が揺れるくらい震えて待て (°_°)」https://twitter.com/goldenpigdrumer/status/1688929130845458432
猫好きYOU_THE SOUND BEE HD☠️MARY RUE☠️Lemさん「猫救済 project 『にゃん好きの にゃん好きによる にゃん好きのための集会 Vol.6 ハロウィン編』 2023.10.22 浦和ナルシス ※配信アリ https://t.co/SbLHJaaUMy Adv. ¥3500 Door. ¥4000 +D.¥600 ・THE SOUND BEE HD ・メイプルコラージュ ・Paws In Peace ・ぽっぽ ・ディアブルボア ✨NEKOMESHI(222)」https://twitter.com/YOUsoundbee/status/1688929416737685505
『Happiness for all Cats』さん「バンド追加あり❗️ 猫救済『にゃん好きの にゃん好きによる にゃん好きのための集会 Vol.6 ハロウィン編』 2023.10.22 浦和ナルシス ※配信アリ https://t.co/ueHLqYT7Jl… Adv. ¥3500 Door. ¥4000 +D.¥600 THE SOUND BEE HD メイプルコラージュ Paws In Peace ぽっぽ ディアブルボア ✨NEKOMESHI(222)」https://twitter.com/222_nyan_nyan/status/1688929777498062850
ANONYMOUS公式さん「2023.8.8.池袋EDGE thanks for coming!!!!! next hacking ▶︎▶︎▶︎ coming soon… TODAY'S SET LIST Spotify https://t.co/v2GzZs96qp https://t.co/pEry7ue1PV」https://twitter.com/ANONYMOUS_NTIK/status/1688917186939928576
UNCLOCK LOVER 頼田陵介さん「無事帰宅です😊 路上楽しいんやけど、普段のライブの倍くらい疲労感あるのなんでかな〜 って思ってたらたぶん機材のせいやねwww みんな今宵も良き夢を✨」https://twitter.com/yorita_ryosuke/status/1688931823567728640
舜8/13覇叉羅 ソレイユ復活祭🎸✨さん「兄ちゃんのツーバスの地響きが凄すぎてリズムが惑わされたとです(´﹃ `) 体感式のクリックみたいになっとった…」https://twitter.com/shun_thefuzzbox/status/1688932874869993472
ジグラットofficialさん「08/08@池袋手刀 #ジグラット w/ Zéelé ふりムケバそコニカメ 稲山梢 🎸ジグラットの音楽隊🎸 Gt:takuto(about tess) @takuto_ Ba:MiNT(思緋色に沈んで) @_246M Dr:かるび @yana0814 次のライブ👉8/30(水)渋谷近未来会館 18:20〜出演予定 🎫 https://t.co/4s2Uc7Cvw2 https://t.co/8hpN5fR4kS」https://twitter.com/ziggrat_info/status/1688942396485308417
ジグラット 社さん「池袋手刀ライブ きてくれたおともだち みててくれたおともだち ありがとうございました👻 なつやすみとうみとさめ🦈 浮き輪は忘れずに🛟 たのしみました👻 次のやしろは 8月17日手刀DJ+少し物販。 次のジグラットは 8月30日初めての渋谷近未来会館👻 是非是非👻 https://t.co/fxSaqvAsG1」https://twitter.com/yashiro_ziggrat/status/1688947686475759618
【貴族】Shinpei Mörishigeさん「阿佐ヶ谷の七夕祭り。 その先に何があるかは分からないが、群衆が進むから自分も進むという集団心理に、人間の恐ろしさを垣間見て、アーケードを5メートル歩いたところでリタイヤ…彼らはその果てに何を見たのであろうか。どうせ青梅街道でしょう。 でも、祭りが還ってきただけで何か嬉しっす! https://t.co/XhNte0glpH」https://twitter.com/KIZOKU_0927/status/1688990483467603971
幻覚さん「. 「幻覚」セルフカバーミニアルバム 『 kill mother fucker 』 8.26リリース https://t.co/99IumiWFz7」https://twitter.com/genkakuoffical/status/1689038825690210305
hideki〜1/22感謝‼️次回8/13Soleil復活‼️さん「昨日のスタジオもだけど今回のレコーディングも色々と有難う、でもってお疲れ様でした😁 お陰様ですこぶるカッケーの出来たね👍 過ぎ去ったバンドとは言わせないぞ❤️笑 皆もプルプル震えて待っててね🎵笑」https://twitter.com/Al0ne8888/status/1689038489483190275
金髪豚野郎K助(偽殿下)さん「無事に届きました お金かかったけどプレス屋さんが親身になって協力してくれたおかげです 8/13の会場で売ります! (詳細は公式から) (°_°) https://t.co/7rEpvCLWrL」https://twitter.com/goldenpigdrumer/status/1689066290055614464
もずくすさん「表現(視覚や聴覚)から成る妖艶さや美しさもこの作品の見所かと。是非たくさんの方に観ていただきたい…🧵✂」https://twitter.com/Mochi05Mozu06/status/1688936109211103232
ryoさん「鮮やかな青と緑の中を駆け抜けている☀️🌳 本日ハグの日🫂 普段と違った環境で先月終えたツアーを一緒に回ってくれたサポートメンバーと共に打ち上げ配信やるよー🚀」https://twitter.com/ryo_dalli/status/1689073982807613440
こもだまり𓃦昭和精吾事務所|ACM:::さん「今日こそは昭和精吾事務所SHOPのお仕事を…グッズ会議をするのだ…! 公式ロゴとサブロゴできましたし✨ (こういうの欲しいとかアイデアありましたらそっと教えてください) 過去公演のあれこれも出したい。 猫の手借りたい。 https://t.co/uSC4DsLb4Y」https://twitter.com/mari_air/status/1689076896192159744
金髪豚野郎K助(偽殿下)さん「今日の晩にこいつらをパッセ…パッケージしながら舜様とツイキャス内職編をお届けする予定です (°_°)」https://twitter.com/goldenpigdrumer/status/1689078924532473856
舜8/13覇叉羅 ソレイユ復活祭🎸✨さん「まあ、つまり武藤家の実家の様子がただ垂れ流されるだけということですわ(´﹃ `) よろしくお願いします🙇‍♂️✨」https://twitter.com/shun_thefuzzbox/status/1689085414592929792
K-chanさん「激烈すぎる!!! K助さんのドラムはやっぱり大好きだなぁ。 ほんとに行きたすぎる(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)」https://twitter.com/K_chan315/status/1689086350019141632
横山企画室さん「H.U.Gパ〜ティ〜配信 https://t.co/gAzLj0nQvg #HUG」https://twitter.com/yokodile01/status/1689090754764025856
Deshabillz2023 8月19日(土)心斎橋SHOVELさん「さ、今日もばりばり 押忍!リハに行ったもんかと 呑んだんや! 押忍!元気すね おは、後、腹たったら直接言うからな久々にやってるんだ邪魔したり人望ないくせに裏でこそこそ同盟作りませんか?とか笑、きもい 押忍!分かってますよさばおは? そか #やるだろこれは https://t.co/HWLAdgrL0g」https://twitter.com/Deshabillz2022/status/1689098558874779648
魚住 英里奈(独唱)さん「わたしは「わかる人だけ分かればいい」と思った事など一度もない。」https://twitter.com/erina_chas/status/1689103868620374016
【Phobia】 KISUIさん「Phobia/abyssの集い https://t.co/pCFTcOL46S」https://twitter.com/KISUIxxx/status/1689111540849606657
BUCK-TICK OFFICIALさん「9月17日(日)・18日(月・祝) 群馬音楽センターにて行われる 「BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA- FINALO」の ✨FISH TANK/LOVE & MEDIA PORTABLE会員予約受付✨が、 本日(8/9)12:00からスタート!! ⏬お申込みは<特設サイト>をチェック! https://t.co/nj4LZuJdnD #BUCKTICK #異空 #IZORA #FINALO」https://twitter.com/BUCKTICK_INFO/status/1689112766052024320
V系情報 clubZy. 雷丸さん「seek(Psycho le Cému / MIMIZUQ)&夕霧(DaizyStripper)対談インタビュー!第1回(全2回) 『ウケ狙いで「やかましいんじゃあ!」って言ったら、そのあと楽屋がシーンとなりました(seek)』 (club Zy.チャンネル) https://t.co/xE3bJUnT1g #seek #夕霧 #clubZy https://t.co/LoTCfDySd7」https://twitter.com/clubZy_Raimaru/status/1688475076440506368
Hydeさん「[STAFF] 「#HYDELIVE2023」のツアーファイナルとなる追加公演「HYDE LIVE 2023 Presented by Rakuten NFT」のチケット一般販売中! 幕張メッセ イベントホール 9/9(土),10(日)開場 15:30 / 開演 17:06 詳しくは↓ https://t.co/8iZxrfqvpV #HYDE #楽天チケット #RakutenNFT #追加公演 #幕張メッセ https://t.co/Imennj8Mgy」https://twitter.com/HydeOfficial_/status/1689121163124097025
seekさん「ニコ生サイコチャンネル 今夜20:00~ 「屍人の烙印,時の回廊SP」 屍人の烙印から時の回廊へ引き継ぎます 有料放送ではツアーオフショット映像あり AYA、 seek、YURAサマでお送りします ※無料放送枠60min お楽しみにー。 https://t.co/MtJTwSrR6b https://t.co/MVGrPPJxbI」https://twitter.com/seek_bonshisya/status/1689121467127181312
音楽を語らしてけろさん「「サブスクでは届かない音楽がある」 #リブランディング ! #サブスク では味わえないジャケットやブックレット、歌詞カード、仕掛けなどを中心に音楽を紹介するサイトに変更! 第一弾は #レディオへッド の「KID A」。 まさかまさかCDトレイに仕掛けがあるなんて、、 https://t.co/jhNAbzKqHl」https://twitter.com/musicholic69/status/1324801748305731584
咲(さき)(๑•ั็ω•็ั๑)さん「K助さんのドラムかっこ良すぎっ!!!! てか50代でこれって凄過ぎる😳💕」https://twitter.com/harur0427/status/1689119543460028416
魚住 英里奈(独唱)さん「いや、一度はあるかも」https://twitter.com/erina_chas/status/1689129370533961728
Karyu🫂😈さん「本日灼熱の太陽の下 K’RONE配信をちょこちょこやってますので🧛🏻‍♀️」https://twitter.com/karyu_official/status/1689130195826212864
金髪豚野郎K助(偽殿下)さん「このライブでの、もう一つの楽しみはSoleil Session BAND ソレイユに所属していたバンドの曲をカバー 初期ソレイユから後期ソレイユのメンバーを散りばめておりますが中々に最強な布陣かもしれん デモ録ったけど多分CDにしたら売れる どのバンドの曲をやるかは… どーしよーかなー言おうかなー (°_°) https://t.co/PGlXXiZTYB」https://twitter.com/goldenpigdrumer/status/1689135919381766144
恐さん「喉が渇く あと 二日の辛抱だ」https://twitter.com/bpmkyou/status/1689136300845412352
yura 🌠Lem「Quintet」6/5 Release🌠さん「めちゃめちゃ久しぶりのちょこっとディズニー🏨タイム🥳 台風にはくれぐれも気をつけてくださいね🤲 わたしも早めに帰ります! https://t.co/pEbVitmoD7」https://twitter.com/yura_voxxx/status/1689136659017912320
猫好きYOU_THE SOUND BEE HD☠️MARY RUE☠️Lemさん「アメブロを投稿しました。 『今日も一日がんばろう❗️』 #アメブロ #猫好き https://t.co/AJ88xoSVWY」https://twitter.com/YOUsoundbee/status/1689145001010442240
SEXX GEORGEさん「御遺族の方から届きました 皆さんにお知らせさせて頂きます 兄貴 唄ってるよ   合掌 https://t.co/dFLauDfRta」https://twitter.com/abikoshinonkai/status/1689119791632859136
金髪豚野郎K助(偽殿下)さん「昨日のスタジオでリーヤくんがいないのでインサニティのベースソロを合唱する武藤兄弟をお届けします (°_°) https://t.co/5J8RfNIszo」https://twitter.com/goldenpigdrumer/status/1689152520701214720
東宝映画情報【公式】さん「/  公開まであと1か月! \ 🎬9月8日(金)劇場公開! 映画『YOSHIKI:UNDER THE SKY』 #YOSHIKI が監督を務める 音楽ドキュメンタリー映画♪ 苦難の軌跡と舞台裏で語られる アーティストたちの想い、 そして迫力のライブ映像をぜひ映画館で! #YOSHIKIUnderTheSky @yoshiki_uts @YoshikiOfficial」https://twitter.com/toho_movie/status/1688746859869925376
UNCLOCK LOVER 頼田陵介さん「大きい機材は発送した🙋‍♀️ 手持ちはアコギとキャリーバック。。。 と、言いたいとこやけど、 アコギ用のイス どーしょーかなwww イケるっちゃイケるな。 福岡 一緒行くか?w https://t.co/oRnzUCX6dV」https://twitter.com/yorita_ryosuke/status/1689156565520297985
koumei_Lucifer's undergroundさん「また対バンできる日を楽しみにしてますー!」https://twitter.com/KoumeiLucifer/status/1689157849488986112
KINGRYOさん「手乗り百さん😊✨ https://t.co/6leE6MbxRM」https://twitter.com/kingryoworld/status/1689158016342601728
金髪豚野郎K助(偽殿下)さん「ショウちゃんとの配信はほぼほぼカットするとこ無いのに途中で切れた 時間切れかな (°_°)」https://twitter.com/goldenpigdrumer/status/1689158563552542720
ryoさん「本日の配信場所のあるじ🐈 なつこい、優勝🏆 https://t.co/brj7KhMu5a」https://twitter.com/ryo_dalli/status/1689160678857388032
舜8/13覇叉羅 ソレイユ復活祭🎸✨さん「フレームインしないようにしてたのにめっちゃ広角で撮っとるやないかい!(´﹃ `)」https://twitter.com/shun_thefuzzbox/status/1689155553216614400
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deisticpaper · 2 years
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蜃気楼の境界 編(五六七)
蜃気楼の境界 編(一二三四)から
「渦とチェリー新聞」寄稿小説
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蜃気楼の境界 編(五)
界縫
 正嘉元年紅葉舞い、青い炎地割れから立ち昇る。音大きく山崩れ水湧き出し、神社仏閣ことごとく倒壊す。鎌倉は中下馬橋の燃える家屋と黒い煙かき分けて家族の手を引きなんとか生き延びた六角義綱という男、後日殺生も構わぬ暮露と成り果て武士を襲えば刀を得、民を襲えば銭を得て、やがて辿り着いた河川で暮露同士語らうわけでもなく集まり暮らす。或る夜、幾度目のことか絶食にふらつき目を血走らせ六角義綱、血に汚れた刀片手に道行く一人の者を殺めようとするが、嗚咽を漏らし立ち竦みそのまま胸からあの日の紅葉のごとき血を流し膝から崩れ落ちる。道行くその者、男に扮した歩き巫女だが手には妖しげな小刀、その去る様を地べたから見届けんとした六角義綱のすぐ背後、甚目寺南大門に後ろを向けて立つ闇霙(あんえい)と名乗る男あり。みぞれ降りだして、人とも呼び難いなりの六角義綱を一瞥し、闇霙、口開かず問いかける、そなたの闇は斯様な俗識さえ飼えぬのか。六角義綱、正嘉地震から甚目寺までの道中で妻を殺され、涙つたい、儂には女は切れん、と息絶える。その一通りを見ていた青年、六角源内、父を殺した女を浅井千代能と突き止めて敵討ちを企てるが、知られていたか検非違使に捕らえられ夷島に流され、以後誰とも交流を持たずに僻地の小屋で巻物を記したという。それから七五九年の時が経ち、二〇一六年、仟燕色馨を内に潜める二重人格の高校生市川忍とその同級生渡邉咲が、慧探偵事務所を相手に朔密教門前また内部にて些細な一悶着あった、その同日晩、奇妙な殺人事件が起こる。場所は百人町四丁目の平素な住宅区域、被害者女性、五藤珊瑚(三〇)の遺言は、残酷な苦を前に千年二千年なんて。戸塚警察署に直ちに捜査本部が設置され、その捜査とは別に警部補の高橋定蔵、市川忍の前に立つ。何故おれなんかに事情徴収を、と忍。事件当日、校門の監視カメラに映っていたきみが何か普段と違うものを見てなかったかと思ってね、若き警部補が爽やかに答え、それで市川忍、脳裏の人格に声を送る、一顛末あった日だ厄介だね。対し仟燕色馨、おそらくこの警部補、謎多き朔密教を疑っている、ならばこの事件あの探偵にも捜査の手が伸びる、ところで気づいているか探偵事務所の探偵に見張られている。
 小料理屋点々とある裏通りの角に螺旋階段へ繋がるアーチ状の古い門を持つ築古スナックビルの入り口で刈り上げマッシュショートにゆるめパーマの少年のような青年がただ立っていると突然背後から強面の男がどこに突っ立っとんじゃと怒鳴ってきたので青年は冴え冴えとした眼差しで振り返り、幻を見てたんじゃないですか、俺はずっとこの位置でスマホを見てました、俺の輪郭と色、背後の風景と俺のいる光景をもっと目に焼きつけてください。男は動転し不愉快な目の前にいる青年を忘れないようじっと食い入って見る。だが、その光景はすでに幻で、スマホを見ていた青年はもういない。走り去っていたのだ。朝のホームルーム直前にその青年、六角凍夏(むすみとうか)が現れ席につく。振り返り、後ろの席の渡邉咲に聞く、きみ、部活入ってるの。隣席美術部員中河原津久見が聞き耳を立てている。渡邉咲は初めて話しかけてきた六角凍夏が先々で勧誘しているのを知っていて、文芸部でしょ、と冷えた目を送ると、文化琳三部だよ、と。咲が琳三って何という顔で惑うと、清山琳三ね、俺らの界隈で知らぬ者はいないよ、とくるが、咲はどこの界隈の話なのと内心いよいよ戸惑う。だが、聞き耳を立てていた中河原津久見はピクシブなどで目にする虚無僧キャラねと気づくが話に加わらない。きみ、机の上の本、和楽器好きでしょ、清山琳三は気鋭の尺八奏者。私、渡邉咲、と口にしながら、尺八ね。放課後、六角凍夏は一人、文芸部部室の小さな教室に入って電気をつけるとドアを閉め、密室と成る。中央辺りの机に、鞄から取り出した古びた筒を置く。目を閉じる。刹那、周囲にぼろぼろの布団が幾枚とどさっと落ちてき動きだす。それは天明四年鳥山石燕刊行妖怪画集「百器徒然袋」に見られる暮露暮露団(ぼろぼろとん)だが現実に現れたわけではなく、六角凍夏の想像力は小さな空間で全能となり百器徒然袋の界隈と接続し、今回ならばそこに記された妖怪があたかも姿を見せたかのような気分になったのだ。密室に、江戸の布団の香りが充満する。ときに、異界からの香りが漂ってくることもある。翌、静かな夜、百人町四丁目にて更なる殺人事件が起こる。被害者は志那成斗美(四〇)遺言は、潔く煮ろうか。魔の香りも、又、此処に。
蜃気楼の境界 編(六)
五鬼
 出入りする者らの残り香も錯綜の果てに幻影さえ浮かべる夜の街。串揚げ並ぶコの字カウンター中程で束感ショートの若い警部補が驚きのあと声を潜め通話を切ると手話で勘定を頼み、さっぱりとした面立ちの探偵仲本慧に目をやり、五鬼事件だがまだ続いていたと輝きの瞳隠せないながらも声を落とし去っていく。百人町四丁目連続殺人事件の犯人佐々木幻弐が第二被害者志那成斗美の最期の正当防衛で刺され意識不明のまま病院で死亡したという話、監視カメラから犯行も明確、第一被害者五藤珊瑚への犯行とも繋がり既に報道もされた直後の第三事件発覚。カウンターに残された探偵仲本慧、ビールを追加し面白い事件だが依頼がきてないから何もできないね、と奥に座る長髪黒はオールバックの男に突然話しかける。その男、串揚げを齧りながらチラと目線を合わせる。慧、ビールを飲み干し、隣に座っていいかなと距離を詰め、そっと名刺を置き、歓楽街案内人の市川敬済だね仕事柄我々は抜け目ない、聞き耳を立ててたね、という。黙す市川敬済に、優秀な探偵の知り合いは二人と必要ないかなと強い声で独り言のように笑みを送る。店内、音楽なく、静かに食す客、座敷からの賑わい。この辺りで、青島ビールが飲める良いバーを探してる客がいたなそういえば、と市川敬済、懐から名刺を取りだし横に並べる。直後、和柄のマフラーをしたギャル僡逢里が現れた為、仲本慧、名刺を拾い、勘定を済まし去っていく。お知り合いさんなの、と尋ねつつ座る僡逢里に、池袋の二青龍で今は探偵の男だ知ってるか、と尋ね返す。誰よ、テリトリー渋谷だったし、今日はいないの。暗に警部補のことを口にする。僡逢里の耳元で、まだ続いてるらしい千代女のママ心配だな。食事の注文をしながら僡逢里、出勤前に縛られたい、と呟く。夜十一時、一人になった市川敬済の前を男女が横切る。片方の男が枯淡の趣ある着物姿でありながら凍風をただ浴びるがごとく静かであったため変に気にかかるが、気にするのをやめて電話をかける。あら敬済さん、と通話先、青藍に杉の木が描かれた着物の女、さっきまで警部補さんがいらしてたのよ、お店は営業してません、今朝三人目の不幸がありまして五鬼も残すところ二人なの。語るは浅井千代女である。
 遥か彼方より朗々と木曽節が諏訪太鼓と絡まり聞こえる、それは五年前の、冬の宵、一人の女、吉祥寺の麻雀ラウンジ千代女の開店準備中、六人の女達を前に、肩に雪積もり震えている。浅井千代女が側に近づき、貴女の血に刻まれし鬼の禍、憎しと思うなら、受け継がれし技術でお金に変えて楽園を造るのよ、弐宮苺(にきゅういちご)の源氏名を授けるわ、そちらの西クロシヤ(五〇)引退で貴女の席があるの。語りかけてきた浅井千代女を取り囲む五人の女達、五鬼を見る。はい、と涙流し、生まれて初めての愉しい月日流れ、今、浅井千代女の周りに残る五鬼はその弐宮苺(三〇)と柵虹那奈(さくにじなな、四〇)だけだ。今朝殺害された紫矢弥衣潞(しややいろ、五〇)の遺言は、一路ゆくは三人迄。殺害現場で弐宮苺は両拳固く握りしめて言う。千代女さまを死なせはいたしません、次はこの私が千代女さまの匂いを身につけ犯人を誘いだし返り討ちにしてやります、これまで通り千代女さまは、五鬼にはできない私達鬼の禍の力を強める祈祷にどうか専念してください。浅井千代女の頬に涙が伝う。紫矢弥衣潞の形見の側に六歳の娘が一人。この災い突如訪れ、犯人の心当たりなく、志那成斗美が相打ちにし病院で死亡したという佐々木幻弐が何者なのかも分からない。不気味であったが浅井千代女は思う、そもそも私達がこの現世において得体知られていない存在なの、それに。相手は私達より強い、と震える。市川敬済に連絡を入れる。丑三つ時に市川敬済が女と帰宅、玄関騒がしく、津軽塗の黒地に白い桜が控えめに描かれた高さ一尺程のテーブルに女が横たわる音がする。自室でスマホを触っていた高校一年生の市川忍、悠里と帰ってきたのかあの女嫌いだな、と不機嫌になる。脳裏から仟燕色馨の声、きみの父だが今着信があり通話している。女といるのに別の女と喋ってるのそりゃあ母も出ていくよ。連続殺人の件だ探偵仲本慧の名前も出ている。いつも大人達は都合で何か企んでいて不快だよ。翌日、暑し。ホームルームの前に近寄ってきた同級生渡邉咲が、低血圧以外の何物でもないローテンションでいつもより元気な声で市川忍に話しかける。事件は解決してなかったのよ、貴方のお知り合いの探偵、仟燕色馨の出番じゃない?
蜃気楼の境界 編(七)
境迷
 昼か、はた、ゆめの夜半にか、北原白秋「邪宗門」の一節に紛れ込んでいた六角凍夏は国語教師茨城潔に当てられて、地獄変の屏風の由来を申し上げましたから、芥川龍之介「邪宗門」冒頭付近をちらと見、朗読し始めるが、正義なく勝つ者の、勝利を無意味にする方法は、いまはただ一つ、直ちに教師が、むすみその「邪宗門」は高橋和巳だ、遮ってクラス騒然となる。六角、先生、界をまたぐは文学の真髄ですと逸らす。教室の窓から体育館でのバスケの授業を眺めていた市川忍に、脳裏から仟燕色馨の声、百人町四丁目連続殺人事件、慧探偵事務所の手にかかれば一日で解決する探偵はあの少女が呟く数字で結論を読みとるからだ朔密教での一件はそういう話だっただろう。それじゃあカジョウシキカ勝ち目が。否あの少女がいかなる原理で数字を読むか今わかった。その時、教室の背後から長い竹がぐんと伸び先端に括られた裂け目が口のごとき大きな提灯、生徒らの頭上でゆらゆら揺れる。「百器徒然袋」にある不落不落(ぶらぶら)を空想した六角凍夏の机の中に古びた筒。不落不落を唯一感じとった仟燕色馨、市川忍の瞳を借り生徒らを見回す。何者だ。その脳裏の声へ、何故だろう急に寒気がする。界か少女は先の「邪宗門」のごとく数多の界から特定している市川忍クンきみはこの連続殺人事件どう思う。昨夜の父の通話を聞くに麻雀ラウンジ千代女のスタッフが四度狙われるから張り込めばだけど犯人佐々木幻弐死んでも事件は続いたし組織か警察もそう考えるだろうから現場に近づけるかどうか。吊り下がる口のごとく裂けた提灯に教師も生徒も誰も気づかず授業続く。休み時間スマホで調べた麻雀ラウンジに通話。まだ朝だ、出ないよ、休業中だった筈だし。仟燕色馨は通話先を黙し耳に入れ続ける。浅井千代女らは、魔かそれに接する例えば鬼か、ならば逞しき彼女らが手を焼く犯人も、人ではないと推理できよう恐らく一人の犯行による。驚き市川忍、犯人が死んだというのに犯行は一人だって。きみは我が師仟燕白霞のサロンで幼少時千代女と会っていたことを忘れたか父と古く親しい女性は皆その筋だろう。側に、一人の同級生が近づいていたことに突然気づき、晴れてゆく霞、市川忍は動揺する。渡邉咲が、不思議そうに見ている。
 柵虹那奈、と雀牌散らばりし休業続く麻雀ラウンジで浅井千代女が呼びかける。はい千代女さま。志那成斗美あの人の槍槓はいつだって可憐で美しかったわ、五藤珊瑚あの子の国士ができそうな配牌から清一色に染める気概にはいつも胸を打たれていたわ、紫矢弥衣潞あの方の徹底して振り込まない鬼の打ち筋には幾度も助けられたわ、三人とも亡くしてしまった、弐宮苺は私達を守ると意気込んでいるけどあの子を死なせたくないの。ラウンジを出て一人、浅井千代女は市川敬済から聞いた池袋北口の慧探偵事務所へ出向く。雑居ビル、銀行かと見紛うばかりの清潔な窓口が四つあり小柄の女性職員田中真凪にチェックシート渡され番号札を機械から取り座る。呼ばれると先の職員の姉、同じく小柄な三番窓口女性職員田中凪月が青森訛りで対応するがシート見てすぐ内線で通話し真凪を呼び千代女を奥へ案内させる。無人の応接間は中国人趣味濃厚で六堡茶を口にしながら十分程待つと仲本慧現れ、異様な話は耳にしている我が慧探偵事務所に未解決なしさ安心して、笑顔に厭らしさはない、依頼費は高くつくけどね。千代女は私達に似てるわと思う、職員は皆日本人名だが大陸の血を感じる、理由あってここに集い共同体と成っている、市川敬済とは昔SMサロン燕(えん)で業深き運営者は仟燕白霞に紹介された、世俗の裏側で通信し合うルートで辿り着いた此処は信用できる。受け応えを記録する仲本慧に着信が入り中国語で喋りだす。六堡茶を喉へ。探偵職員二名曰く、監視対象の市川忍が早退し校門前で謎の探偵仟燕色馨と通話していたという。仟燕色馨が仲本慧に仕掛けた誤情報だが、千代女を上海汽車メーカーの黒い車に乗せ吉祥寺の麻雀ラウンジへ。市川敬済はその謎の探偵にも件の連続殺人事件を探らせているのかなぜ子の市川忍が連絡を、空は雲一つない、SMサロン燕は五年前の二〇一一年に閉鎖し今は仟燕家のみその調査は容易ではないが必要かすぐ崔凪邸へ行くべきか。麻雀ラウンジのドア、鍵開き、僅かな灯火の雀卓で盲牌していた柵虹那奈、差し込む外光より、冷気識る。現れるは、病室で死に顔さえも確認した、佐々木幻弐である。上海汽車メーカーの黒い車は崔凪邸に着く。少女崔凪は、使用人二人と土笛づくりをして遊んでいる。
by _underline
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【音版 渦とチェリー新聞】第27号 へ続く
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仟燕色馨シリーズ 全人物名リスト
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jollyjolly-hige · 2 years
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タイムスタンプ見たらサ終告知後の日付になっててわろた。
案の定完結してません、いつものやつ。あと推敲もしてません、心眼でお読みください(不親切設計)
最終的に公式フラグとしての彼を出したところで反応にひよって筆を折りました(正直)
公式でしかそこは書けねえんだよなァ~~~??今となっては幻のような設定ですが当初の設定が生きてたらどうなったのかな。公式4コマみたいにリトアナやソフィがピックアップされる時もあったのかもしれないなぁ🤔
​───────
「わーい、でーきた!」
 いぇーい! と歓声を上げたリトアナとリモネが両手を高く打ち合わせる。冬の冷たく乾いた空気が、二人の掌から発した音をビレッジ中に高く響かせた。それを見てため息をつきそうになるのを、ソフィはぐっと堪えて唇を噛んだ。
弟子に対してあれこれ物を申したくなるのは師匠としてはある意味当然のことではある。しかし、余計な手出しをするのも指導者として正しいとは言えまい。それは分かっているのだが、今日は朝からずっと不安と疑問が頭の中を渦巻いている。火薬の量は間違っていないか。位置は合っているか。風向きは考えているか。ひどい怖がりのくせに大胆で危ないことが好きなリトアナのことだから、マッチを擦った瞬間に連続して花火が暴発というパターンも考えられる。倫理的に絶対にしてはならないと頭では理解していても、衝動を抑えられるかどうか。
頭の上に靄を浮かび上がらせそうなほどにぐるぐると思考を回すソフィの肩を、ディミエルが肩でこつんと押した。
「なぁに、まだ心配してるの? はいコレ、ジョゼットから」
「なんだ?」
「グリューワイン。大人だけの特権だって」
「ああ、ありがとう……そうは言うがな。花火を作ったのはリトアナだぞ?」
 透明のプラカップの中には赤ワインと色とりどりのフルーツ、それからシナモン。スリーブもしっかり巻かれていて、素手で持っても火傷しないように配慮されていた。ごく内輪の集まりに過ぎないのにコストはどうなっているんだろうか――とスリーブを回すと、「本日の占い」という印字が目に入る。今日のあなたの運勢は、まで読んでくるりとカップごと裏返した。
「あ。読んでよ。せっかく用意したんだから」
「今この瞬間の運を天に任せる気になれない。というかこれを用意したのはおまえか」
「占いつきのスリーブはね。せっかくの集まりなんだし、こういうものもあると楽しいでしょ?」
「悩みがない間はな」
喉を落ちていく温かいワインの香気にほっと息をつく。冷え切った体が芯から温まって、固くなっていた背中や肩が少しだけ緩んだ。友人の気遣いに感謝するくらいの余裕はまだあるが、根差した不安が溶けてなくなることはない。
「心配しすぎよ。みんなのために花火を上げたいって気持ちは汲んであげなさいな」
「分かってはいる……分かってはいるんだ。あの子なりに皆を励まそうとしているというのは……」
 ディミエルは肩を竦めて、「ちょっと行ってくるわ」とスカートの裾を閃かせた。そこから覗く白い足首が寒そうだが、本人は寒さを体感していない。唯一防寒具と言えるのは首に巻いた赤と緑のチェックのマフラーだけ。あれは元々ソフィの持ち物でさほどの思い入れもないものだったが、ディミエルの気に入ったらしく、今ではほとんど彼女の私物同然になった。見るともなしにそれを眺めるソフィの視線の先で、リモネとリトアナに話し掛けながらディミエルは二人に袋を手渡した。代理で受け取ったリモネが歓声を上げて、袋の中のカップをリトアナに渡す。僅かに緊張した面持ちのリトアナと、妙に楽しそうなリモネがあれこれと状況説明を始めたようだ。頷きながら時々顎に指をかけて思案するディミエルの横顔が少しだけきりりと引き締まる。……ここに私がいる必要はないのではないか? 三人の様子から少し目を逸らして、ソフィはワインを傾けた。本来なら、あの場で助言するのはソフィの役目なのだろうが。
和やかに談笑を追えると、ディミエルはひらりと二人に手を振ってこちらに戻ってきた。
「……大丈夫そうか?」
 ついつい生来の心配性が顔を出すと、ディミエルは小さく苦笑を浮かべた。
「今のところはね。気になるなら自分で聞いてみたら?」
「本番では口を出さないと約束した」
「もう、頑固なんだから。成分表だってヤークさんとあなたで何度も確認したし、採取に行く時はリモネが同行したし、制作にはあなたとアルト君とでチェックも入れたんだし、心配する必要ないと思うけど?」
「プレッシャーに負けて一人にすると何をしでかすか分からない。だからさっきから目が離せないんだ」
「どっちかと言うと、今のあなたの視線の方がリトアナには重荷だと思うんだけど。ちっともあなたを振り返らないわ。珍しいわよね」
冬の寒空の下、ディミエルはマフラーから覗く肩を竦めた。
「リモネもいてくれるんだし、少しはお弟子さんを信用してみてもいいんじゃない?」
「おまえはまだリトアナの恐ろしさを知らないからそんなことを言えるんだ」
 肩を竦めて、ディミエルはワインをちびりと舐めて口を湿らせた。
「恐ろしさって、ねえ……まあ、分かるけど? 花火って要するにきれいな爆発物だし。でも、現実はこうやって動いてる。あの子の花火を見にたくさんの人がビレッジに来たわ。今までとは大違いね。ビレッジにも人が増えた」
 ビレッジの高台から下を眺め渡せば、もう日付も変わろうかという頃合いにも関わらずあちこちが煌々と照らされて、賑やかな人の気配で満ちている。もはや恒例となったダルスモルスとクルブルクとで行われたハロウィンパーティー、次いでダルスモルスでのクリスマスパーティが開かれ、気づけばあっという間に年末である。年が明ける瞬間に何もしないのも寂しいなあと神の使いが呟いたのをきっかけに、お祭り騒ぎが好きな面々がこぞってビレッジに集まり何とも名称のつけ難い集会を開こうと計画を立て始めたのがそもそもの発端だ。ビレッジの住人であるソフィの元にも、当たり前のようにその計画書は回ってきた。特にそういった催し事に積極的に関わる方ではないのだが、企画書に目を通してすべて理解した。企画書の中にずらりと並ぶイベントとその面子の中に、リトアナの名前を見つけた時の衝撃たるや。なぜ真冬の、しかも日付けが変わるその瞬間に花火を打ち上げようなどという企画が持ち上がるのか。花火を打ち上げることには賛成だ。問題は、その花火を企画して打ち上げるのがリトアナである、ということで。
 頭が痛くなるほどその場で悩んで、結局本番まで逐一ソフィがチェックを行うことを条件に参加することを許可した。その時の、リトアナの顔に浮かび上がった輝かんばかりの笑顔は、むしろこちらの懸念を罪悪感に変えてしまいそうなほど輝いていた。それでも心配でたまらない。リトアナの暴走癖と、それから、多分――未だに心の底で澱のように淀む己の過去の失敗を弟子に投影しているせいで。
「今まではみんなを早めに帰して、アタシたちだけで薬を作ってたでしょ? だから、あの子なりに考えるところがあったみたいよ」
「そう、いい子なんだ。そういう優しいところがあって……分かってはいるんだが、胃が捩じ切れそうだ……」
「もう、心配し過ぎて物事の本質を見誤ってるんじゃない?」
「本質……?」
「あの子がどうして花火を打ち上げようと思ったか、よ。リトアナだってこの三年間、なにもせずに危ないことばっかり考えてたわけじゃないでしょ。ちゃんと術師としての腕を磨いてきているはずよ」
「……そうだろうか。……だが、ずっと実験の様子を見てやれていなかったし……」
 胃の腑から込み上げるようなストレスを覚えて、ソフィは大きなため息をつく。そんな自分を見て、ディミエルはくすりと笑って肩を抱き寄せてきた。ちらりと目を向ければ、色違いの目が覗き込むようにソフィの目を見た。
「腹を括ることね。錬金術は常に危険と隣り合わせよ。見るのが嫌なら家に帰ったら? 代わりにアタシが見ておくから。なにかあればあなたの代わりに顛末書をきっちり提出しておいてあげるわ。もちろん、タダじゃないけどね?」
「……帰らないよ。第一、あとで高額な請求書が来ても困る」
「そう言うと思った♪」
ディミエルはソフィの肩から手を外し、ワインをこくりと飲み干した。ディミエルの言う通り、リトアナは今日、一度もこちらを振り返らない。こんなに長いこと弟子の背中だけを見ていたことなどない。いつでもちらちらとソフィの様子を伺い見て、危ない実験をしようとしているリトアナしか知らない。あの子に心情の変化があったとしてもそれに気が付かなかった。師匠なのに。だからリトアナの言うことの一つ一つが唐突に思えるし、口を出したくなる――口を出さないと自分で言い出した以上、今は耐えるしかないのだが。ぬるくなったワインが手の中でこぷんと音を立てる。
――もし、自分のように失敗したら?
そう考えることは、純粋にリトアナのことを考えてのことだとは到底言えないだろう。
苦い思いを弟子には味わってほしくない。けれどリトアナが苦難を乗り越えていきたいと願っているのだとしたら、自分の考え方は障害にしかならない。師匠としてできることは、口を出すことではない。ただ成功を信じて見守るのみだ。
……なにもかも、頭では分かっていることなのに。
「いよーう、お二人さん。いい女が二人揃って暗いねえ、どうしたの?」
 暗闇に差し込む陽光を思わせる髪がひらりと目の前を掠めた。あらレオンじゃない、こんばんは、とディミエルが応じた。レオンの名はシロネから時折り聞いてはいたが、ソフィは人付き合いはあまり得意な方ではないこともあって、ほとんど面識のない相手だ。シロネの歴代の教え子の中でも一、二を争うほどの天才だとか、そんなことだけは知っている。
「こんないい日に暗い顔してるなんてもったいないねえ、ソフィちゃんはなにか悩み事?」
 ソフィちゃん。終ぞ呼ばれたことのない呼称に思考が止まってしまう。黙り込んでしまったソフィの代わりに、ディミエルが口を開いた。
「悩みというか、いつもの心配性ね」
「あ~。リトアナちゃんの花火のことだよね? 優しいんだね、ソフィちゃん」
「優しいわけでは……ただ、大ごとにならないかと心配しているだけだ。それと、そのソフィちゃんというのは……」
「あの子、突っ走るもんねぇ。俺も護衛と採取を頼まれて一緒に素材探しに行ったんだけどさ、リトアナちゃんすげー必死だったぜ? 今すぐにでも爆発させたいのを必死に堪えて、ソフィ先生に花火を見せるんだ、ってさ。素材だってほとんど自分で見つけたようなもんだ」
「……私に? ビレッジの祭りのためではないのか」
「さぁて、どうだろうね。まあ見てやってよ、リトアナちゃんの花火。俺もあの子がいろんな人に頭下げて周ってるところ見てきたからさ」
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kiyomune0115 · 3 years
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#フォロワーさんのイメージで同人誌のタイトルロゴをつくる
アポン マイワード,マイディア(Upon my word, my dear)/わくらばさん(@neeeeecco)
「誓って言うよ、愛しいひと」。ホームズが『悪魔の足』で、ワトソンにかける一声(本来ならmy dearがWatson)です。謝罪の前置きとして発せられる言葉なのですが、どこかコミカル。わくらばさんに捧げる題は海外小説っぽくしたかったのが着想のはじめ。それから、普段の呟きから感じ取った、果たせない約束をいっとうロマンチックにするような、刹那的な交流などお好きなのではないかな……!という気持ちに沿ってつけました。
匙いっぱいの尊厳/蘭子さん(@rancopence)
おしゃれも反体制音頭も作風も、足場が悪くとも踏みしめて立つ人間の尊厳が根っこにあるのではないかな、と思いました。そこから、尊大さや偏屈さのない、程よい量ってなんだろうなと考えを巡らせるうち、お茶やお料理の味を決める適量、匙が思い浮かびまして、この題に。洋楽を意識して英題にしたかったのですが、あんまり英訳がオシャレじゃないので断念。スプーンって感じじゃなかったのです。
藤喰む二神/清水さん(@shimizuakila)
「二鼠藤を噛む(この世に生きている者には刻々と死が近づく)」がベース。藤の天ぷらを食す清水さんの一習慣も意識しています。「噛む」「神々」など、音の合う組合せを際限なく試していたのですが、清水さんの書くにほへしが、彼女史上最高に可愛い恋愛をしているので、破裂音系カ行の音ではなく、摩擦音系ハ行の音で柔らかく仕上げました(お菓子……?)。でも全てをひらがなに開き切るところまではいかなかった。開き切った先に清水さんはいませんでした。
やがて五劫の擦り切れるまで/八田たむさん(@tuupe)
最近知ったのですけれど、「劫」って、宇宙が生まれて果てるまでの1単位なのだそうで。それが×5!いくら長生きしてほしいからってそりゃないだろう、と、落語の親の強すぎる子への思いに驚いています。さて話を戻しまして。もちの金荒、とくに金城さんを見ながら、蛇の諦めなさなどをイメージしているうちにここにたどり着きました。もちとはなんの関係もなくなっちゃった。
鹿が鳴き、花は目醒めて/永さん(@ei_nagaaaai)
秋田くんのアイコンに、秋のイメージが先立ち、そこから、ピンクの髪の秋の花=萩、というところへ向かい、「暁の露に鹿鳴いて花始めて発く」という菅原道真の漢詩に着想が落ち着きました(秋に咲く萩は『和名抄』に「鹿鳴草」と注されています)。萩の花言葉は「内気、思案、柔軟な精神」なのだそうです。秋田くんっぽいな〜。
誰もが忘れたオレンジのこと/けいさん(@txm87)
以前、熱帯魚絡み��題をつけさせて貰っているのと同様、やはりけいさんを語るには熱から!ということで、暖色のものを思い浮かべるところからスタートしました。その際、スペインかどこかでは、人生のパートナーのことを「オレンジの片割れ」と言うらしいことを思い出し、ここに冷静さを加える動詞(今回は、忘れる)を引っ張ってきて、物語要素の付与と、音数リズムを整えて完成。でも私は覚えている、が副題です。
白刃を踏むひと/みなまるさん(@mi_sable)
源氏のアイコンから、まずは白。あと、兄者はあぶなっかしい感じがあるよな、と膝丸の目線でのんびり考えていた時に浮かんだのが、「白刃踏むべし(=勇気があること)」の語でした。踏むべし、だと、とても能動的な感じになってしたうので、恐れを知らず飄々とした雰囲気に語尾を調整しました。
まずはうさぎを捕まえろ/椿さん(@tubaki2891)
First catch your hare. 手に入れていない段階でとやかく言うな、ということわざです。椿さんが、計略をしかけつつも手を出せずぐるぐるするにほへし職人であることは周知の事実であり(私の中で)、これはそのままタイトルになるのでは⁈と思い、ストレートに採用。以前つけさせてもらった『A sour grape turns into the gusty wine.』とシリーズ感を勝手に出しました。新作のおねだりです。
あなたのために夜は更けゆく/相楽さん(@ywpd_sagara)
次に進むための離別を描くマスターであり、季節の取扱いが上手い相楽さんの作品、と、定義づけるところからはじめました。着想は、白居易の「秋来てはただ一人の為に長し」を使用しました。このタグで遊んでくださるたび「自分のぶんがわからなかった」と仰るので、今回こそしっくり来るものができているといいのですが(勝敗の行方を固唾を呑んで見守る顔文字)。
冷艶/Kさん(@vKz_zKv)
白い花や雪のように冷ややかで美しい様子。写真をずっと眺めておりますと、流し目だとか、片方だけ器用に持ち上げた口の端だとか、そういうクールな美しさに加え、縛ったりヒールだったり、王道BLの香り高さが目に留まり、「ちょっといにしえ感のあるBL本のタイトルっぽくしよう!」という遊び心が働きました。コスプレ写真集のタイトルのイメージです。
What will be, will be/えみさん(@ringo_peda)
なるようになる。ケセラセラの方が有名な感じがしますが、私はこのスペイン語(もどき)の音の響きよりも、英語版の、落ち着かせるような言葉の響きの方が好きです。その時の調子と相談しながら、ひと息入れたりお出かけしたり、緩急のつけ方がお上手だな〜と思っていて、ふとこの言葉が思い浮かびました。おふろとてーもーは今回は諦めました。
雨の日は贈り物/ひさめさん(@hisame_kano)
お名前から、安直ではありますが、発想は雨スタート。呟きを少し拝見させていただいたのですが、お料理等、お家の中で出来ることがお好きな穏やかな方なのかな、と思いまして、A rainy day is a special gift to readers.(雨の日は読書家にとって特別な贈り物だ)というエイミーマイルズの格言を持ってきました。
朝顔が枯れたらお別れ/鹿目さん(@831_Kaname)
呟きから、不可逆性や必然がお好きとのことでしたので、出会いと別れが不動となるものを題に入れようと思い、規則正しく終わるもの探しからはじまりました。お名前の鹿の秋のイメージは触らず(秋はそも別れの季節なのでひねりがなくなるし)、手前の夏から朝顔を引っ捕まえて来ました。枯れても次の日には咲くので、朝だけ会える人との交流のお話かな。
ばら とげ うしなひ/篠藝さん(@shinoki__ )
どうにか則宗御前に絡めたくて画像を眺めていたところ、髪の毛のボリュームと色から、モッコウバラが思い浮かびまして。モッコウバラは棘がない蔓性で、花言葉が「初恋」なので、そこから、華やかで年長の御前が、恋に落ち武装が取れ……みたいな妄想を一頻りし、この題となりました。全部漢字にすると重たい耽美な雰囲気となりますので試してみてください。
Million-dollar question/荒屋さん(@amaminoaraya)
「当てたら賞金100万ドルの質問(=超難解な質問)」。鳥三部作じゃないのか!と思っていらっしゃることと思います(少なし私はそう思っています)が、鳥の和語でいいのが思い浮かばなかったのと、ひとつひとつ組手のように進めていく台詞のやりとりに、翻訳された海外小説感があるよな!と思ったのとで、方向転換しました。一筋縄ではいかなさそうな、賢いふたりの恋愛タイトルにはもってこいのような気が勝手にしています。
小鳥が教えてくれたのですが/ザウリさん(@zauri8836)
「A little bird told me」で、噂話の情報源を隠したいときに使うのだそうです。(虫)かごや、どこからともなくやって来るふぁぼから、着想は鳥へ。歌がお上手とのことで「囀り」。下手な他人より知っている気になれる、フォロワーさんのフォロワーという謎めいた立ち位置から「隠し事」。単語の風呂敷を広げているうちに、職場の日本号(195cm)からこの言葉を教わり、採用に至りました。
ささやくようにさらさらゆれる/柳生明希さん(@Akkie155)
お名前の柳生から、剣豪、竹林と広げるところからはじまりました。こども向けの本のお仕事をされているとプロフィールから知って、ひらがなに開くこととし、pixivに掲載されているお話のタイトルから、和風がお好きなんだろうな、というところにたどり着いています。竹の葉に風が吹いて、青波のようにしなる雰囲気をイメージしました。
踏青記/マツハナさん(@matsuhanaa)
踏青は、晩春の青草を踏み遊ぶこと。マツハナさんの作品タイトルっぽくはないな〜!と最後まで迷ってはいたのですけれど、『山月記』『最遊記』と、記のつく作品がお好きなこと、それから、若手俳優の出る演劇のタイトルはわりと鋭さを孕むものが多いイメージであること(私調べ)、このふたつをベースに、やっぱり可愛さは入れたい!ということで、春の遊びを持ってきました。刀剣で一作いかがでしょうか。
ア・ポット・オブ・ブルーマロウ(a pot of BLUE MALLOW)/海老野さん(@ebino_kun)
細部まで熱を感じるイラスト、カラフルなのに深みのある色合い、それからハーツラビュル愛!を、どうにかタイトルに詰め込みたくて、お茶会に出そうな華やかなものを、頭の中にずらっと並べては捨てていきました。最初、ドラジェ(シュガープラム)あたりを使おうと思っていたのですが、色の深みが出ず破棄。お茶の水色にターゲットを変え、ブルーマロウ(http://www.teapond.jp/herb/4104.html)に。
無題の春/藤本さん(@fjmtsan)
藤本さんの作品は、押花の話、コンパクトシティ福岡の話、妖精本丸、好きなものを挙げていけばいとまが無いほどなのですが、そういえばタイトルつきの作品をあまり見たことがないな、と思い、「無題」の語が先行しました。それから、絵に感ずる穏やかさや、よく照れて血色の良くなる二口から、冬〜春をイメージし、お花を飾って楽しんでいらっしゃる普段の暮らしぶりに沿って春、と定めていった次第です。
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toubi-zekkai · 4 years
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厚着紳士
 夜明けと共に吹き始めた強い風が乱暴に街の中を掻き回していた。猛烈な嵐到来の予感に包まれた私の心は落ち着く場所を失い、未だ薄暗い部屋の中を一人右往左往していた。  昼どきになると空の面は不気味な黒雲に覆われ、強面の風が不気味な金切り声を上げながら羊雲の群れを四方八方に追い散らしていた。今にも荒れた空が真っ二つに裂けて豪雨が降り注ぎ蒼白い雷の閃光とともに耳をつんざく雷鳴が辺りに轟きそうな気配だったが、一向に空は割れずに雨も雷も落ちて来はしなかった。半ば待ち草臥れて半ば裏切られたような心持ちとなって家を飛び出した私はあり合わせの目的地を決めると道端を歩き始めた。
 家の中に居た時分、壁の隙間から止め処なく吹き込んで来る冷たい風にやや肌寒さを身に感じていた私は念には念を押して冬の格好をして居た。私は不意に遭遇する寒さと雷鳴と人間というものが大嫌いな人間だった。しかし家の玄関を出てしばらく歩いてみると暑さを感じた。季節は四月の半ばだから当然である。だが暑さよりもなおのこと強く肌身に染みているのは季節外れの格好をして外を歩いている事への羞恥心だった。家に戻って着替えて来ようかとも考えたが、引き返すには惜しいくらいに遠くまで歩いて来てしまったし、つまらない羞恥心に左右される事も馬鹿馬鹿しく思えた。しかしやはり恥ずかしさはしつこく消えなかった。ダウンジャケットの前ボタンを外して身体の表面を涼風に晒す事も考えたが、そんな事をするのは自らの過ちを強調する様なものでなおのこと恥ずかしさが増すばかりだと考え直した。  みるみると赤い悪魔の虜にされていった私の視線は自然と自分の同族を探し始めていた。この羞恥心を少しでも和らげようと躍起になっていたのだった。併せて薄着の蛮族達に心中で盛大な罵詈雑言を浴びせ掛けることも忘れなかった。風に短いスカートの裾を靡かせている女を見れば「けしからん破廉恥だ」と心中で眉をしかめ、ポロシャツの胸襟を開いてがに股で歩いている男を見れば「軟派な山羊男め」と心中で毒づき、ランニングシャツと短パンで道をひた向きに走る男を見れば「全く君は野蛮人なのか」と心中で断罪した。蛮族達は吐いて捨てる程居るようであり、片時も絶える事無く非情の裁きを司る私の目の前に現れた。しかし一方肝心の同志眷属とは中々出逢う事が叶わなかった。私は軽薄な薄着蛮族達と擦れ違うばかりの状況に段々と言い知れぬ寂寥の感を覚え始めた。今日の空が浮かべている雲の表情と同じように目まぐるしく移り変わって行く街色の片隅にぽつ念と取り残されている季節外れの男の顔に吹き付けられる風は全く容赦がなかった。  すると暫くして遠く前方に黒っぽい影が現れた。最初はそれが何であるか判然としなかったが、姿が近付いて来るにつれて紺のロングコートを着た中年の紳士だという事が判明した。厚着紳士の顔にはその服装とは対照的に冷ややかで侮蔑的な瞳と余情を許さない厳粛な皺が幾重も刻まれていて、風に靡く薄く毛の細い頭髪がなおのこと厳しく薄ら寒い印象に氷の華を添えていた。瞬く間に私の身内を冷ややかな緊張が走り抜けていった。強張った背筋は一直線に伸びていた。私の立場は裁く側から裁かれる側へと速やかに移行していた。しかし同時にそん���私の顔にも彼と同じ冷たい眼差しと威厳ある皺がおそらくは刻まれて居たのに違いない。私の面持ちと服装に疾風の如く視線を走らせた厚着紳士の瞳に刹那ではあるが同類を見つけた時に浮かぶあの親愛の情が浮かんでいた。  かくして二人の孤独な紳士はようやく相まみえたのだった。しかし紳士たる者その感情を面に出すことをしてはいけない。笑顔を見せたり握手をする等は全くの論外だった。寂しく風音が響くだけの沈黙の内に二人は互いのぶれない矜持を盛大に讃え合い、今後ともその厚着ダンディズムが街中に蔓延る悪しき蛮習に負けずに成就する事を祈りつつ、何事も無かったかの様に颯然と擦れ違うと、そのまま振り返りもせずに各々の目指すべき場所へと歩いて行った。  名乗りもせずに風と共に去って行った厚着紳士を私は密かな心中でプルースト君と呼ぶ事にした。プルースト君と出逢い、列風に掻き消されそうだった私の矜持は不思議なくらい息を吹き返した。羞恥心の赤い炎は青く清浄な冷や水によって打ち消されたのだった。先程まで脱ぎたくて仕方のなかった恥ずかしいダウンジャケットは紳士の礼服の風格を帯び、私は風荒れる街の道を威風堂々と闊歩し始めた。  しかし道を一歩一歩進む毎に紳士の誇りやプルースト君の面影は嘘のように薄らいでいった。再び羞恥心が生い茂る雑草の如く私の清らかな魂の庭園を脅かし始めるのに大して時間は必要無かった。気が付かないうちに恥ずかしい事だが私はこの不自然な恰好が何とか自然に見える方法を思案し始めていた。  例えば私が熱帯や南国から日本に遣って来て間もない異国人だという設定はどうだろうか?温かい国から訪れた彼らにとっては日本の春の気候ですら寒く感じるはずだろう。当然彼らは冬の格好をして外を出歩き、彼らを見る人々も「ああ彼らは暑い国の人々だからまだ寒く感じるのだな」と自然に思うに違いない。しかし私の風貌はどう見ても平たい顔の日本人であり、彼らの顔に深々と刻まれて居る野蛮な太陽の燃える面影は何処にも見出す事が出来無かった。それよりも風邪��引いて高熱を出して震えている���人を装った方が良いだろう。悪寒に襲われながらも近くはない病院へと歩いて行かねばならぬ、重苦を肩に背負った病の人を演じれば、見る人は冬の格好を嘲笑うどころか同情と憐憫の眼差しで私を見つめる事に違いない。こんな事ならばマスクを持ってくれば良かったが、マスク一つを取りに帰るには果てしなく遠い場所まで歩いて来てしまった。マスクに意識が囚われると、マスクをしている街の人間の多さに気付かされた。しかし彼らは半袖のシャツにマスクをしていたりスカートを履きながらマスクをしている。一体彼らは何の為にマスクをしているのか理解に苦しんだ。  暫くすると、私は重篤な病の暗い影が差した紳士見習いの面持ちをして難渋そうに道を歩いていた。それは紳士である事と羞恥心を軽減する事の折衷策、悪く言うならば私は自分を誤魔化し始めたのだった。しかしその効果は大きいらしく、擦れ違う人々は皆同情と憐憫の眼差しで私の顔を伺っているのが何となく察せられた。しかしかの人々は安易な慰めを拒絶する紳士の矜持をも察したらしく私に声を掛けて来る野暮な人間は誰一人として居なかった。ただ、紐に繋がれて散歩をしている小さな犬がやたらと私に向かって吠えて来たが、所詮は犬や猫、獣の類にこの病の暗い影が差した厚着紳士の美学が理解出来るはずも無かった。私は子犬に吠えられ背中や腋に大量の汗を掻きながらも未だ誇りを失わずに道を歩いていた。  しかし度々通行人達の服装を目にするにつれて、段々と私は自分自身が自分で予想していたよりは少数部族では無いという事に気が付き始めていた。歴然とした厚着紳士は皆無だったが、私のようにダウンを着た厚着紳士見習い程度であったら見つける事もそう難しくはなかった。恥ずかしさが少しずつ消えて無くなると抑え込んでいた暑さが急激に肌を熱し始めた。視線が四方に落ち着かなくなった私は頻りと人の視線を遮る物陰を探し始めた。  泳ぐ視線がようやく道の傍らに置かれた自動販売機を捉えると、駆けるように近付いて行ってその狭い陰に身を隠した。恐る恐る背後を振り返り誰か人が歩いて来ないかを確認すると運悪く背後から腰の曲がった老婆が強風の中難渋そうに手押し車を押して歩いて来るのが見えた。私は老婆の間の悪さに苛立ちを隠せなかったが、幸いな事に老婆の背後には人影が見られなかった。あの老婆さえ遣り過ごしてしまえばここは人々の視線から完全な死角となる事が予測出来たのだった。しかしこのまま微動だにせず自動販売機の陰に長い間身を隠しているのは怪し過ぎるという思いに駆られて、渋々と歩み出て自動販売機の目の前に仁王立ちになると私は腕を組んで眉間に深い皺を作った。買うべきジュースを真剣に吟味選抜している紳士の厳粛な態度を装ったのだった。  しかし風はなお強く老婆の手押し車は遅々として進まなかった。自動販売機と私の間の空間はそこだけ時間が止まっているかのようだった。私は緊張に強いられる沈黙の重さに耐えきれず、渋々ポケットから財布を取り出し、小銭を掴んで自動販売機の硬貨投入口に滑り込ませた。買いたくもない飲み物を選ばさられている不条理や屈辱感に最初は腹立たしかった私もケース内に陳列された色取り取りのジュース缶を目の前にしているうちに段々と本当にジュースを飲みたくなって来てその行き場の無い怒りは早くボタンを押してジュースを手に入れたいというもどかしさへと移り変わっていった。しかし強風に負けじとか細い腕二つで精一杯手押し車を押して何とか歩いている老婆を責める事は器量甚大懐深き紳士が為す所業では無い。そもそも恨むべきはこの強烈な風を吹かせている天だと考えた私は空を見上げると恨めしい視線を天に投げ掛けた。  ようやく老婆の足音とともに手押し車が地面を擦る音が背中に迫った時、私は満を持して自動販売機のボタンを押した。ジュースの落下する音と共に私はペットボトルに入ったメロンソーダを手に入れた。ダウンの中で汗を掻き火照った身体にメロンソーダの冷たさが手の平を通して心地よく伝わった。暫くの間余韻に浸っていると老婆の手押し車が私の横に現れ、みるみると通り過ぎて行った。遂に機は熟したのだった。私は再び自動販売機の物陰に身を隠すと念のため背後を振り返り人の姿が見えない事を確認した。誰も居ないことが解ると急ぐ指先でダウンジャケットのボタンを一つまた一つと外していった。最後に上から下へとファスナーが降ろされると、うっとりとする様な涼しい風が開けた中のシャツを通して素肌へと心地良く伝わって来た。涼しさと開放感に浸りながら手にしたメロンソーダを飲んで喉の渇きを潤した私は何事も無かったかのように再び道を歩き始めた。  坂口安吾はかの著名な堕落論の中で昨日の英雄も今日では闇屋になり貞淑な未亡人も娼婦になるというような意味の事を言っていたが、先程まで厚着紳士見習いだった私は破廉恥な軟派山羊男に成り下がってしまった。こんな格好をプルースト君が見たらさぞかし軽蔑の眼差しで私を見詰める事に違いない。たどり着いた駅のホームの長椅子に腰をかけて、何だか自身がどうしようもなく汚れてしまったような心持ちになった私は暗く深く沈み込んでいた。膝の上に置かれた飲みかけのメロンソーダも言い知れぬ哀愁を帯びているようだった。胸を内を駆け巡り始めた耐えられぬ想いの脱出口を求めるように視線を駅の窓硝子越しに垣間見える空に送ると遠方に高く聳え立つ白い煙突塔が見えた。煙突の先端から濛々と吐き出される排煙が恐ろしい程の速さで荒れた空の彼岸へと流されている。  耐えられぬ思いが胸の内を駆け駅の窓硝子越しに見える空に視線を遣ると遠方に聳える白い煙突塔から濛々と吐き出されている排煙が恐ろしい速度で空の彼岸へと流されている様子が見えた。目には見えない風に流されて行く灰色に汚れた煙に対して、黒い雲に覆われた空の中に浮かぶ白い煙突塔は普段青い空の中で見ている雄姿よりもなおのこと白く純潔に光り輝いて見えた。何とも言えぬ気持の昂ぶりを覚えた私は思わずメロンソーダを傍らに除けた。ダウンジャケットの前ボタンに右手を掛けた。しかしすぐにまた思い直すと右手の位置を元の場所に戻した。そうして幾度となく決意と逡巡の間を行き来している間に段々と駅のホーム内には人間が溢れ始めた。強風の影響なのか電車は暫く駅に来ないようだった。  すると駅の階段を昇って来る黒い影があった。その物々しく重厚な風貌は軽薄に薄着を纏った人間の群れの中でひと際異彩を放っている。プルースト君だった。依然として彼は分厚いロングコートに厳しく身を包み込み、冷ややかな面持ちで堂々と駅のホームを歩いていたが、薄い頭髪と額には薄っすらと汗が浮かび、幅広い額を包むその辛苦の結晶は天井の蛍光灯に照らされて燦燦と四方八方に輝きを放っていた。私にはそれが不撓不屈の王者だけが戴く栄光の冠に見えた。未だ変わらずプルースト君は厚着紳士で在り続けていた。  私は彼の胸中に宿る鋼鉄の信念に感激を覚えると共に、それとは対照的に驚く程簡単に退転してしまった自分自身の脆弱な信念を恥じた。俯いて視線をホームの床に敷き詰められた正方形タイルの繋ぎ目の暗い溝へと落とした。この惨めな敗残の姿が彼の冷たい視線に晒される事を恐れ心臓から足の指の先までが慄き震えていた。しかしそんな事は露とも知らぬプルースト君はゆっくりとこちらへ歩いて来る。迫り来る脅威に戦慄した私は慌ててダウンのファスナーを下から上へと引き上げた。紳士の体裁を整えようと手先を闇雲に動かした。途中ダウンの布地が間に挟まって中々ファスナーが上がらない問題が浮上したものの、結局は何とかファスナーを上まで閉め切った。続けてボタンを嵌め終えると辛うじて私は張りぼてだがあの厚着紳士見習いの姿へと復活する事に成功した。  膝の上に置いてあった哀愁のメロンソーダも何となく恥ずかしく邪魔に思えて、隠してしまおうとダウンのポケットの中へとペットボトルを仕舞い込んでいた時、華麗颯爽とロングコートの紺色の裾端が視界の真横に映り込んだ。思わず私は顔を見上げた。顔を上方に上げ過ぎた私は天井の蛍光灯の光を直接見てしまった。眩んだ目を閉じて直ぐにまた開くとプルースト君が真横に厳然と仁王立ちしていた。汗ばんだ蒼白い顔は白い光に包まれてなおのこと白く、紺のコートに包まれた首から上は先程窓から垣間見えた純潔の白い塔そのものだった。神々しくさえあるその立ち姿に畏敬の念を覚え始めた私の横で微塵も表情を崩さないプルースト君は優雅な動作で座席に腰を降ろすとロダンの考える人の様に拳を作った左手に顎を乗せて対岸のホームに、いやおそらくはその先の彼方にある白い塔にじっと厳しい視線を注ぎ始めた。私は期待を裏切らない彼の態度及び所作に感服感激していたが、一方でいつ自分の棄教退転が彼に見破られるかと気が気ではなくダウンジャケットの中は冷や汗で夥しく濡れ湿っていた。  プルースト君が真実の威厳に輝けば輝く程に、その冷たい眼差しの一撃が私を跡形もなく打ち砕くであろう事は否応無しに予想出来る事だった。一刻も早く電車が来て欲しかったが、依然として電車は暫くこの駅にはやって来そうになかった。緊張と沈黙を強いられる時間が二人の座る長椅子周辺を包み込み、その異様な空気を察してか今ではホーム中に人が溢れ返っているのにも関わらず私とプルースト君の周りには誰一人近寄っては来なかった。群衆の騒めきでホーム内は煩いはずなのに不思議と彼らの出す雑音は聞こえなかった。蟻のように蠢く彼らの姿も全く目に入らず、沈黙の静寂の中で私はただプルースト君の一挙手に全神経を注いでいた。  すると不意にプルースト君が私の座る右斜め前に視線を落とした。突然の動きに驚いて気が動転しつつも私も追ってその視線の先に目を遣った。プルースト君は私のダウンジャケットのポケットからはみ出しているメロンソーダの頭部を見ていた。私は愕然たる思いに駆られた。しかし今やどうする事も出来ない。怜悧な思考力と電光石火の直観力を併せ持つ彼ならばすぐにそれが棄教退転の証拠だという事に気が付くだろう。私は半ば観念して恐る恐るプルースト君の横顔を伺った。悪い予感は良く当たると云う。案の定プルースト君の蒼白い顔の口元には哀れみにも似た冷笑が至極鮮明に浮かんでいた。  私はというとそれからもう身を固く縮めて頑なに瞼を閉じる事しか出来なかった。遂に私が厚着紳士道から転がり落ちて軟派な薄着蛮族の一員と成り下がった事を見破られてしまった。卑怯千万な棄教退転者という消す事の出来ない烙印を隣に座る厳然たる厚着紳士に押されてしまった。  白い煙突塔から吐き出された排煙は永久に恥辱の空を漂い続けるのだ。あの笑みはかつて一心同体であった純白の塔から汚れてしまった灰色の煙へと送られた悲しみを押し隠した訣別の笑みだったのだろう。私は彼の隣でこのまま電車が来るのを待ち続ける事が耐えられなくなって来た。私にはプルースト君と同じ電車に乗る資格はもう既に失われているのだった。今すぐにでも立ち上がってそのまま逃げるように駅を出て、家に帰ってポップコーンでも焼け食いしよう、そうして全てを忘却��風に流してしまおう。そう思っていた矢先、隣のプルースト君が何やら慌ただしく動いている気配が伝わってきた。私は薄目を開いた。プルースト君はロングコートのポケットの中から何かを取り出そうとしていた。メロンソーダだった。驚きを隠せない私を尻目にプルースト君は渇き飢えた飼い豚のようにその薄緑色の炭酸ジュースを勢い良く飲み始めた。みるみるとペットボトルの中のメロンソーダが半分以上が無くなった。するとプルースト君は下品極まりないげっぷを数回したかと思うと「暑い、いや暑いなあ」と一人小さく呟いてコートのボタンをそそくさと外し始めた。瞬く間にコートの前門は解放された。中から汚い染みの沢山付着した白いシャツとその白布に包まれただらしのない太鼓腹が堂々と姿を現した。  私は暫くの間呆気に取られていた。しかしすぐに憤然と立ち上がった。長椅子に座ってメロンソーダを飲むかつてプルースト君と言われた汚物を背にしてホームの反対方向へ歩き始めた。出来る限りあの醜悪な棄教退転者から遠く離れたかった。暫く歩いていると、擦れ違う人々の怪訝そうな視線を感じた。自分の顔に哀れな裏切り者に対する軽侮の冷笑が浮かんでいる事に私は気が付いた。  ホームの端に辿り着くと私は視線をホームの対岸にその先の彼方にある白い塔へと注いた。黒雲に覆われた白い塔の陰には在りし日のプルースト君の面影がぼんやりとちらついた。しかしすぐにまた消えて無くなった。暫くすると白い塔さえも風に流れて来た黒雲に掻き消されてしまった。四角い窓枠からは何も見え無くなり、軽薄な人間達の姿と騒めきが壁に包まれたホーム中に充満していった。  言い知れぬ虚無と寂寥が肌身に沁みて私は静かに両の瞳を閉じた。周囲の雑音と共に色々な想念が目まぐるしく心中を通り過ぎて行った。プルースト君の事、厚着紳士で在り続けるという事、メロンソーダ、白い塔…、プルースト君の事。凡そ全てが雲や煙となって無辺の彼方へと押し流されて行った。真夜中と見紛う暗黒に私の全視界は覆われた。  間もなくすると闇の天頂に薄っすらと白い点が浮かんだ。最初は小さく朧げに白く映るだけだった点は徐々に膨張し始めた。同時に目も眩む程に光り輝き始めた。終いには白銀の光を溢れんばかりに湛えた満月並みの大円となった。実際に光は丸い稜線から溢れ始めて、激しい滝のように闇の下へと流れ落ち始めた。天頂から底辺へと一直線に落下する直瀑の白銀滝は段々と野太くなった。反対に大円は徐々に縮小していって再び小さな点へと戻っていった。更にはその点すらも闇に消えて、視界から見え無くなった直後、不意に全ての動きが止まった。  流れ落ちていた白銀滝の軌跡はそのままの光と形に凝固して、寂滅の真空に荘厳な光の巨塔が顕現した。その美々しく神々しい立ち姿に私は息をする事さえも忘れて見入った。最初は塔全体が一つの光源体の様に見えたが、よく目を凝らすと恐ろしく小さい光の結晶が高速で点滅していて、そうした極小微細の光片が寄り集まって一本の巨塔を形成しているのだという事が解った。その光の源が何なのかは判別出来なかったが、それよりも光に隙間無く埋められている塔の外壁の内で唯一不自然に切り取られている黒い正方形の個所がある事が気になった。塔の頂付近にその不可解な切り取り口はあった。怪しみながら私はその内側にじっと視線を集中させた。  徐々に瞳が慣れて来ると暗闇の中に茫漠とした人影の様なものが見え始めた。どうやら黒い正方形は窓枠である事が解った。しかしそれ以上は如何程目を凝らしても人影の相貌は明確にならなかった。ただ私の方を見ているらしい彼が恐ろしい程までに厚着している事だけは解った。あれは幻の厚着紳士なのか。思わず私は手を振ろうとした。しかし紳士という言葉の響きが振りかけた手を虚しく元の位置へと返した。  すると間も無く塔の根本周辺が波を打って揺らぎ始めた。下方からから少しずつ光の塔は崩れて霧散しだした。朦朧と四方へ流れ出した光群は丸く可愛い尻を光らせて夜の河を渡っていく銀蛍のように闇の彼方此方へと思い思いに飛んで行った。瞬く間に百千幾万の光片が暗闇一面を覆い尽くした。  冬の夜空に散りばめられた銀星のように暗闇の満天に煌く光の屑は各々少しずつその輝きと大きさを拡大させていった。間もなく見つめて居られ無い程に白く眩しくなった。耐えられ無くなった私は思わず目を見開いた。するとまた今度は天井の白い蛍光灯の眩しさが瞳を焼いた。いつの間にか自分の顔が斜め上を向いていた事に気が付いた。顔を元の位置に戻すと、焼き付いた白光が徐々に色褪せていった。依然として変わらぬホームの光景と。周囲の雑多なざわめきが目と耳に戻ると、依然として黒雲に覆い隠されている窓枠が目に付いた。すぐにまた私は目を閉じた。暗闇の中をを凝視してつい先程まで輝いていた光の面影を探してみたが、瞼の裏にはただ沈黙が広がるばかりだった。  しかし光り輝く巨塔の幻影は孤高の紳士たる決意を新たに芽生えさせた。私の心中は言い知れない高揚に包まれ始めた。是が非でも守らなければならない厚着矜持信念の実像をこの両の瞳で見た気がした。すると周囲の雑音も不思議と耳に心地よく聞こえ始めた。  『この者達があの神聖な光を見る事は決して無い事だろう。あの光は選ばれた孤高の厚着紳士だけが垣間見る事の出来る祝福の光なのだ。光の巨塔の窓に微かに垣間見えたあの人影はおそらく未来の自分だったのだろう。完全に厚着紳士と化した私が現在の中途半端な私に道を反れることの無いように暗示訓戒していたに違いない。しかしもはや誰に言われなくても私が道を踏み外す事は無い。私の上着のボタンが開かれる事はもう決して無い。あの白い光は私の脳裏に深く焼き付いた』  高揚感は体中の血を上気させて段々と私は喉の渇きを感じ始めた。するとポケットから頭を出したメロンソーダが目に付いた。再び私の心は激しく揺れ動き始めた。  一度は目を逸らし二度目も逸らした。三度目になると私はメロンソーダを凝視していた。しかし迷いを振り払うかの様に視線を逸らすとまたすぐに前を向いた。四度目、私はメロンソーダを手に持っていた。三分の二以上減っていて非常に軽い。しかしまだ三分の一弱は残っている。ペットボトルの底の方で妖しく光る液体の薄緑色は喉の渇き切った私の瞳に避け難く魅惑的に映った。  まあ、喉を潤すぐらいは良いだろう、ダウンの前を開かない限りは。私はそう自分に言い聞かせるとペットボトルの口を開けた。間を置かないで一息にメロンソーダを飲み干した。  飲みかけのメロンソーダは炭酸が抜けきってしつこい程に甘く、更には生ぬるかった。それは紛れも無く堕落の味だった。腐った果実の味だった。私は何とも言えない苦い気持ちと後悔、更には自己嫌悪の念を覚えて早くこの嫌な味を忘れようと盛んに努めた。しかし舌の粘膜に絡み付いた甘さはなかなか消える事が無かった。私はどうしようも無く苛立った。すると突然隣に黒く長い影が映った。プルースト君だった。不意の再再会に思考が停止した私は手に持った空のメロンソーダを隠す事も出来ず、ただ茫然と突っ立っていたが、すぐに自分が手に握るそれがとても恥ずかしい物のように思えて来てメロンソーダを慌ててポケットの中に隠した。しかしプルースト君は私の隠蔽工作を見逃しては居ないようだった。すぐに自分のポケットから飲みかけのメロンソーダを取り出すとプルースト君は旨そうに大きな音を立ててソーダを飲み干した。乾いたゲップの音の響きが消える間もなく、透明になったペットボトルの蓋を華麗優雅な手捌きで閉めるとプルースト君はゆっくりとこちらに視線を向けた。その瞳に浮かんでいたのは紛れもなく同類を見つけた時に浮かぶあの親愛の情だった。  間もなくしてようやく電車が駅にやって来た。プルースト君と私は仲良く同じ車両に乗った。駅に溢れていた乗客達が逃げ場無く鮨詰めにされて居る狭い車内は冷房もまだ付いておらず蒸し暑かった。夥しい汗で額や脇を濡らしたプルースト君の隣で私はゆっくりとダウンのボタンに手を掛けた。視界の端に白い塔の残映が素早く流れ去っていった。
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skf14 · 4 years
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君の手術は失敗した。鮮やかだったであろう君の世界から、全ての物が消えた。
淡々とその事実だけが君から知らされた時、僕は、心にずっと秘めていた、しかし最後まで口にすることは叶わなかった君への「盲目になって欲しい」というイカれた願いを神が叶えてくれたのだと、無神論者でありながらも感謝とばかりに空を見上げた。
「結婚して欲しい。」という僕の言葉を、君はどう聞いたのだろう。全盲の人間の中には、聞こえる音、言葉に色がついて見えるようになるタイプもいるようだが、君は音も言葉も、空気の振動としか捉えないらしかった。
「いいの?だって私、目が見えないんだよ。」
「君がいい。これからもずっとそばにいたい。」
「荷物になりたくないな、」
「君の気持ちは?」
「...............」
君はただポツリ、「貴方と一緒にいたい。」そう答えた。私は君の小さな手を取り、そして抱きしめた。涙腺だけはまだ機能している君が、眼窩から涙を溢しながら、「健全なまま、貴方と一緒にいたかった。」と零した言葉には、何も答えることなく抱きしめた。答える資格など、私には無かった。私が答えない訳を、君はもしかしたら理解していたのかもしれない。
私は君に対して、外に出るための訓練をすることを望まなかった。君も、盲目の自分を外の世界に晒すことを嫌がった。情緒のない言い方をしてしまえばそれは、"利害の一致"と呼ぶのだろう。えてして君は自宅に篭り、半ば私に世話をされるだけの生き物になった。こう君を表すことに些か抵抗感はあるが、事実として、君はそうなった。私が望んだ。君も望んだ。君はあまりにも冷静で、私はあまりにも理性的だった。それが悪なのか善なのか、私には判断することが出来ない。誰かが裁くとすればそれは神なのだろうか。あぁ、味方をしてくれた神が最後に、私の愚かさを裁くとしたら、とんだ皮肉だ。いや、喜悲劇と呼ぶべきか。
"そう"なってからの君と私は、度々夜に獣と化した。君がじっと寝たままの私の身体を弄り、まるで谷崎潤一郎の「刺青」で描かれた女郎蜘蛛のように、私の身体を這い回り、捕食する姿を見て、私は著しく興奮した。それは私の元来持っていた"盲目性愛"という癖が刺激されたことも大きかったが、淑女めいた君が変貌する様を見たからでもあった。
そのおぼつかない手が、私を���し、指先に触れた温度に安堵して、爪を立て質量を確かめる。私がうちに秘めた、君には決して見せない凶暴で獰猛な、本能に蝕まれた精神が顔を覗かせて、私はそのか弱い腕を捕まえ、君を喰らう。
感覚を奪われると、他が過敏になり失った分をカバーする、というのは何も物語だけの話ではないことを、私は身をもって体験した。君は視覚から得られない情報を、その全てを持って拾い集め、私と、そして私を通じて己が世界に存在することを、確認していた。その行動は他者から見ればある意味哀れ、と思えるようにも見えるだろう。しかし私は、荒地に唯一凛と咲く百合が、天から降り注ぐ雨を少しでも蓄えようと頭を上げて空を仰ぐような、そんな神々しさと瑞々しさ、生命の逞しさを君に感じた。
ああ、真っ先に私は君の肥やしになったんだ。そう思った瞬間、私は快楽を感じ、君を掻き抱いて欲望をぶつけた。真っ暗な中、私も盲目になったように君の身体を弄って、何もない暗闇の中で、二匹の動物は互いを食い合った。
君が、運命の導きで私の手の中に収まった。何度考えてもこの事実が震えるほど勿体無く、幸せで、今まで大きな幸福も不幸もなくありふれた物事ばかりに囲まれてきた私の平凡な人生には信じがたく、ひどく不釣り合いだった。人にはそれぞれ生まれつき与えられている役割と立場があるとして、それを飛び越えてしまったような、そんな果てのない罪悪感と、優越感。とかく、人の世は他者と比べないと満足に息が吸えない。これが蟻ならば、蠅ならば、余計なことに頭を使わず、ただ生存と交配のためだけに生きて死ねるのに。
「ねぇ、あの本、読んでくれないかな。」
「ん?あぁ、いいよ。『アイのメモリー』だろ?」
「そう。聞きたいわ。」
あるところに、人語を話せるカラスがいた。カラスは大変に賢かった為、人語が話せるからと言って人に話しかけるような愚かさは持っていなかった。
カラスはある日そこらをふらふらと飛んでいた時、ある一軒家の2階の窓が開けっぱなしになっていることに気づいて、窓枠に降り立ち中を見た。中には、少女が一人、ぽつりと座ってぼーっとしていた。はて、様子がおかしい。とカラスがよくよくその少女を見た時、彼女の顔に、あるべき眼球が、二つとも嵌っていないことに気が付いた。少女の顔にはぽっかりと黒い穴が二つ鎮座していて、それは酷く滑稽にも、美しくも見えた。
「お嬢さん。」カラスが話しかけると、いきなり聞こえてきた人の声にびくりと肩を震わせた少女がキョロキョロと辺りを見回し、そして窓の方へと手を伸ばした。カラスはふわっと飛んで近くの枝に止まりながら、「お嬢さん。私を探しても無駄ですよ。私は存在し、そして存在していないのですから。」と笑った。少女も釣られて笑い、姿を探すことをやめ、「声だけおじさん」と私を呼んだ。
彼女が最後に見た景色は、己の頭上から降り注いでくる、無数の割れたステンドグラスの破片だったらしい。きらきら、ちらちらと太陽の光を反射して輝く色とりどりのそれを、避けることもなく、ただ見惚れていたそうだ。赤、青、黄色、緑、少女は拙い語彙でその美しさを私に訴え、私は、もっと沢山の色が世界に溢れていることを少女に伝えるため、海辺に住む老婆の元へと向かい、その顔から眼球を一つ、拝借した。
少女の空洞に嵌ったその球は、少女に広大な海と、その深々しい青を与えた。少女は感嘆し、目を押さえて涙を流した。少女が頭を動かすたび、涙で濡れた眼球がくる、くるりと回ってあらぬ方向を向いていた。
「勿論、フィクションなのは分かってるけど。」
君が少し申し訳なさそうな、そして不安げな顔でポツリ呟いた内容に、私は心の中で、万歳三唱していた。ごめんね、私には誠意というものが欠けているらしい。NPCじゃない人間相手に、こうも思い通りことが進むというのは、少々気持ち悪くもあり、そして大変に愉快であった。それはきっと、己の脳に対して抱いていた自信が肥え太っていくのを感じるからで、ただ、それが良いことなのか悪いことなのか、判別は付かない。誰も不幸になってない、必然だった、そう叫ぶにはあまりにも、私は汚れすぎた。
小ぶりなビー玉。模様も気泡もない、一点の曇りもない透き通ったそのガラス玉を持って、私は海に来ていた。もう吹く風はとうに冷たい季節になっており、時期外れの海になど来ている人間は皆無だった。散歩をしに来たであろう老人が私に、訝しげな視線を向けた。入水自殺をする、とでも思われていたのだろうか。にこりと笑顔を作り会釈すれば、老人は不快そうに顔を歪め足早に去っていった。
ザザ、と押し寄せる波は白い飛沫をそこかしこに撒き散らしながら、際限なく現れ、そして消えていく。私は窮屈な革靴と靴下を脱ぎ捨て、砂浜の砂を踏みしめた。指の隙間に入り込む、ぬるりとした湿った砂の粒子。久しぶりに感じるその感覚に、子供時代をふと思い出した。
赤貧、と呼ぶべき家庭だったのだろう。外に女を作って出て行った父親を想って狂った女と、二人きりで過ごしていた地獄。赤貧をどうにかする頭は、女にも、子供だった私にもなかった。
私は空腹を紛らわせようと、拾ったビー玉を舐めながら、どこからか拾ってきた小さなブラウン管テレビの中で、潮干狩りを楽しむ親子を見ていた。仮面ライダーのTシャツを着た子供はケラケラと楽しそうに笑いながら、砂浜を掘り返し、裸足で気持ち良さそうに踏みしめていた。母親、父親はそれを見守り、静かに笑う。女は隣の部屋で、よく分からない自作の儀式をしながら笑っていた。ケタケタ、ケラケラ、笑い声が反響して響き合い、世間の全てが僕と、そして哀れな女を嘲笑っているように聞こえて、僕は、己の鼓膜を菜箸で突き破った。
人間に諦めと軽蔑の心を抱いていた私が君に出会い、恋に蝕まれ、愛を自覚し、それが収束すると執着に変わることを知った。愛は、執着だ。あの女が狂ったのも、今となっては、理解くらいなら出来る気がした。欲しい、手に入れたい、他にやりたくない、ずっと腕の中に、誰のものにもしたくない。進化の過程で高い知能を得たはずの人間は、動物よりも獣らしく哀れな所有欲を万物に対して抱き、己だけではどうにもならない人に対して向いたソレは最も醜悪になった。
私は盲目に興奮する。その根底には何があるのか、自覚した当初からずっと考えていた。初めて君に目隠しをした時の、脊髄に収まった神経を舌先で直接舐め上げられるような著しい快感。そして、次第に湧き上がってきた、君から視覚が消えて欲しいという欲。
��るり、と己の肩が震えて初めて、もう2時間近く、何もない海をただ眺めていたことに漸く気が付いて、私は足に纏わり付く砂を払い、帰路についた。
「これ?」
「あぁ、そうだよ。消毒してあるから、入れても問題ない。」
「ありがとう。嬉しい。」
君の白く細い指が、私の手のひらから海をたくさん見たビー玉をつまみあげ、指の腹でツルツルとした表面をくすぐるようになぞっていた。そして君は瞼を開け、そのガラス玉をぽい、と放り込んだ。ころり、と眼窩を転がる玉の感触が面白いのか、君はふらり、ゆらりと首を動かし傾けながら、見えるはずもない海に想いを寄せ、私の話す、海についての様々な創作を聞いていた。目は口ほどに物を言う。君が視覚を失ってから、私は以前より君の感情について、推察することが減ったような気がする。何故だろう。分からないから、というのは、あまりにも暴論な気がするが。
閉館間近の水族館にいる人間なんて、若いカップルか、水族館にしか居場所のない孤独な人、くらいだった。ある者はイルカと心を通わせ、ある者はアマゾンに生息する、微動だにしない巨大魚の前でいつまでも佇んでいる。私は手の中のビー玉と共に、館内をゆっくり回っていた。水族館なんて、目明きの君とすら来たことがなかった。私はこの空間に一人でいることを望んだ。大量の水に囲まれ、地球が歩いてきた歴史が刻まれた数多の生き物に触れることで、漠然と、母の中へ還れるような気がしたからだった。水族館と胎内は、どこか似ている。
水槽の前に置かれたベンチに腰掛けた瞬間、私は動けなくなった。丁度、目線の位置が海底になっていて、そこに、1メートルをゆうに超える巨大な茶色い魚が沈んでいた。でっぷりと太った腹に不機嫌そうな唇が、魚の愛嬌の良さを全て消していた。そしてその魚は、目が酷く白濁しており、空気の吹き出る場所に鰓を起き微動だにしなかった。
「あの、すみません。この魚、具合が、悪いのでしょうか。」
私は通りかかった清掃中の飼育員を捕まえ、魚を指差した。飼育員はハンディクリーナーの電源を消してふっと笑い、私のそばに寄って水槽を愛おしげに見つめた。
「いえ。夜なのでもう眠っているんだと思いますよ。この子は目が見えないので、普段から水槽の隅っこが好きで、よくこうしてぼーっとしているんです。」
「そうですか。この魚は、盲目なのですか。」
「えぇ。珍しいことではありませんよ。他の魚に攻撃されたり、岩や漂流ゴミで傷付けてしまったり。ただ、見えない分他の感覚が過敏になるので、海の中では支障なく生きられるんです。」
「そう、ですか。」
「えぇ。では、引き続きお楽しみくださいね。」
盲目の魚。私がそれを見た時に抱いた感情は、ただ一つ。「惨め」だった。何故?何故、だろう。分からない。何故私は、盲目の魚を見て、惨めさを抱いたのだろう。閉じる瞼すら持たない魚はただただ空気の泡を浴びながら、水中で重たそうな身体を持て余し、ぼんやりとこちらを向いている。濁った眼球がぎょろり、と上を向き、そしてまた私を見る。
ある小説に、盲目の主人が恨みを買って熱湯を浴びてしまい、美貌が失われてしまったことを憂いて、弟子は己の目を針で突いた。というシーンがあった。鏡台の前で針を手に、己の黒目へとそれを突き立て、晴れて盲人となる描写。私は読んだ当初、まだ小学生の頃だったが、その話に、微塵も共感することが出来なかった。目明きの方が世話も出来る、何かあった時支えられる。直情的だ。と批判までした記憶がある。でも、今になれば、あれが最善の行動だったのだろう、とも思う。歳をとって少し、寛容になったのかもしれない。
気付けば、私は水族館を出て、そばの海を眺めていた。街の中の海だ。情緒ある砂浜もなければ、テトラポッドもない。ただ効率だけを求められたコンクリートの直線に、黒いうねりがぶつかってじゃぶじゃばと水音を立てている。
盲目の魚。
私は、ずっと握りしめ暖かくなっていたビー玉を海へと投げた。波の音の狭間で、ちゃぽん。と小さな音が冬の空気の中、響いた。脳を介さない行動に、今は委ねたかった。考えることに、疲れたのかもしれない。私は、一体、どこへ向かいたかったのだろう。
扉の開く音で駆け寄ってきた君は、部屋に入る私の周りをクルクルと回りながら、今日のことについて色々と質問をした。黙ったままの私に不思議そうな表情をして、「何かあった?」と尋ねる君。君の方が今も昔も、察しがいいのは皮肉なんだろうか。
「アイのメモリー、今日は出来ない。」
「どうして?水族館、行かなかったの?」
「水族館には行った。けど、無くしたんだ。ビー玉。」
「そう。いいよ、どんな魚がいたのか、話して。聞きたい。」
「魚、」
「魚、いたでしょ?」
魚。
私は、盲目の魚を惨めに思った。あの魚は大きな水槽の中でひっそりと身を潜め、知らぬ他人からは笑われ、同居人からはいないもののように扱われ、飼育員からは憐れまれていた。与えられる空気を日がな浴びて、落ちてくる餌のおこぼれを拾い、そんな状態で生きていることが、酷く惨めに思えた。
「あぁ。.........」
「......疲れちゃった?」
立ちすくんだ私を見上げた君はぺたぺたと彷徨わせた手のひらで私の顔を見つけ、撫で、胸元に引き寄せ抱きしめた。とくとくと鳴る軽い心臓の音。生きている温度がこめかみあたりからじんわりと染み込んで、凝り固まって凍った脳を溶かしてゆく気がした。
「...いや、疲れてなんかないよ。」
「貴方は、いつも一人で考えて、一人で答えを出すから。」
「耳が痛いな。」
「ここには脳が二つ、あるんだよ。ひとつじゃなし得ない考えだって、きっとある。」
「うん。」
永遠とも呼べるほど長い時間、私は君に抱かれたまま、ぐちゃぐちゃと脳を掻き回す思考に身を委ねていた。
「ビー玉、本当は、無くしたんじゃなくて、捨てたんだ。」
「うん。」
君はきっと分かっていたんだろう。何をどこまで、なのか、それは、きっと暴かない方がいい。それは言葉にしなくとも、双方が漠然と理解していた。私は君の顔が見たくなくて、顔を上げないまま、君の心臓の音を聞いていた。
「もう、こんな真似、やめるよ。」
「そうだね、やめよう。」
ぼんやりとした頭でシャワーを浴び、リビングに戻った時、ついていたはずの部屋の電気は全て消えていた。私は手探りで部屋の壁を伝いながら、廊下を進んだ。幾度となく歩いているのに、視界がないと、こんなにも覚束ない。君の寝室の扉が少し開いて、ギィ、と音を立てている。漏れ出ているのは月の光か、その細い線に指を差しいれ扉を開くと、窓が開いているらしい。冷たい風が吹いて、まだ濡れたままの髪を冷やしていく。
そこに、君の姿はなかった。普段は何も置いていない机に、メモが一枚載っている。
『来世では、共に生きましょうね。』
はるか遠くの方から、微かなサイレンの音が響き始めた。
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guragura000 · 4 years
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自殺未遂
何度も死のうとしている。
これからその話をする。
自殺未遂は私の人生の一部である。一本の線の上にボツボツと真っ黒な丸を描くように、その記憶は存在している。
だけど誰にも話せない。タブーだからだ。重たくて悲しくて忌み嫌われる話題だからだ。皆それぞれ苦労しているから、人の悲しみを背負う余裕なんてないのだ。
だから私は嘘をつく。その時代を語る時、何もなかったふりをする。引かれたり、陰口を言われたり、そういう人だとレッテルを貼られたりするのが怖いから。誰かの重荷になるのが怖いから。
一人で抱える秘密は、重たい。自分のしたことが、当時の感情が、ずっしりと肩にのしかかる。
私は楽になるために、自白しようと思う。黙って平気な顔をしているのに、もう疲れてしまった。これからは場を選んで、私は私の人生を正直に語ってゆきたい。
十六歳の時、初めての自殺未遂をした。
五年間の不登校生活を脱し高校に進学したものの、面白いくらい馴染めなかった。天真爛漫に女子高生を満喫する宇宙人のようなクラスメイトと、同じ空気を吸い続けることは不可能だと悟ったのだ。その結果、私は三ヶ月で中退した。
自信を失い家に引きこもる。どんよりと暗い台所でパソコンをいじり続ける。将来が怖くて、自分が情けなくて、見えない何かにぺしゃんこに潰されてしまいそうだった。家庭は荒れ、母は一日中家にいる私に「普通の暮らしがしたい」と呟いた。自分が親を苦しめている。かといって、この先どこに行っても上手くやっていける気がしない。悶々としているうちに十キロ痩せ、生理が止まった。肋が浮いた胸で死のうと決めた。冬だった。
夜。親が寝静まるのを待ちそっと家を出る。雨が降っているのにも関わらず月が照っている。青い光が濁った視界を切り裂き、この世の終わりみたいに美しい。近所の河原まで歩き、濡れた土手を下り、キンキンに冷えた真冬の水に全身を浸す。凍傷になれば数分で死に至ることができると聞いた。このままもう少しだけ耐えればいい。
寒い!私の体は震える。寒い!あっという間に歯の根が合わなくなる。頭のてっぺんから爪先までギリギリと痛みが駆け抜け、三秒と持たずに陸へ這い上がった。寒い、寒いと呟きながら、体を擦り擦り帰路を辿る。ずっしりと水を含んだジャージが未来のように重たい。
風呂場で音を立てぬよう泥を洗い流す。白いタイルが砂利に汚されてゆく。私は死ぬことすらできない。妙な落胆が頭を埋めつくした。入水自殺は無事、失敗。
二度目の自殺未遂は十七歳の時だ。
その頃私は再入学した高校での人間関係と、精神不安定な母との軋轢に悩まされていた。学校に行けば複雑な家庭で育った友人達の、無視合戦や泥沼恋愛に巻き込まれる。あの子が嫌いだから無視をするだのしないだの、彼氏を奪っただの浮気をしているだの、親が殴ってくるだの実はスカトロ好きのゲイだだの、裏のコンビニで喫煙しているだの先生への舌打ちだの⋯⋯。距離感に不器用な子達が多く、いつもどこかしらで誰かが傷つけ合っていた。教室には無気力と混乱が煙幕のように立ち込め、普通に勉強し真面目でいることが難しく感じられた。
家に帰れば母が宗教のマインドコントロールを引きずり「地獄に落ちるかもしれない」などと泣きついてくる。以前意地悪な信者の婆さんに、子どもが不登校になったのは前世の因縁が影響していて、きちんと祈らないと地獄に落ちる、と吹き込まれたのをまだ信じているのだ。そうでない時は「きちんと家事をしなくちゃ」と呪いさながらに繰り返し、髪を振り乱して床を磨いている。毎日手の込んだフランス料理が出てくるし、近所の人が買い物先までつけてくるとうわ言を言っている。どう考えても母は頭がおかしい。なのに父は「お母さんは大丈夫だ」の一点張りで、そのくせ彼女の相手を私に丸投げするのだ。
胸糞の悪い映画さながらの日々であった。現実の歯車がミシミシと音を立てて狂ってゆく。いつの間にやら天井のシミが人の顔をして私を見つめてくる。暗がりにうずくまる家具が腐り果てた死体に見えてくる。階段を昇っていると後ろから得体の知れない化け物が追いかけてくるような気がする。親が私の部屋にカメラを仕掛け、居間で監視しているのではないかと心配になる。ホラー映画を見ている最中のような不気味な感覚が付きまとい、それから逃れたくて酒を買い吐くまで酔い潰れ手首を切り刻む。ついには幻聴が聞こえ始め、もう一人の自分から「お前なんか死んだ方がいい」と四六時中罵られるようになった。
登下校のために電車を待つ。自分が電車に飛び込む幻が見える。車体にすり潰されズタズタになる自分の四肢。飛び込む。粉々になる。飛び込む。足元が真っ赤に染まる。そんな映像が何度も何度も巻き戻される。駅のホームは、どこまでも続く線路は、私にとって黄泉への入口であった。ここから線路に倒れ込むだけで天国に行ける。気の狂った現実から楽になれる。しかし実行しようとすると私の足は震え、手には冷や汗が滲んだ。私は高校を卒業するまでの四年間、映像に重なれぬまま一人電車を待ち続けた。飛び込み自殺も無事、失敗。
三度目の自殺未遂は二十四歳、私は大学四年生だった。
大学に入学してすぐ、執拗な幻聴に耐えかね精神科を受診した。セロクエルを服用し始めた瞬間、意地悪な声は掻き消えた。久しぶりの静寂に手足がふにゃふにゃと溶け出しそうになるくらい、ほっとする。しかし。副作用で猛烈に眠い。人が傍にいると一睡もできないたちの私が、満員の講義室でよだれを垂らして眠りこけてしまう。合う薬を模索する中サインバルタで躁転し、一ヶ月ほど過活動に勤しんだりしつつも、どうにか普通の顔を装いキャンパスにへばりついていた。
三年経っても服薬や通院への嫌悪感は拭えなかった。生き生きと大人に近づいていく友人と、薬なしでは生活できない自分とを見比べ、常に劣等感を感じ���いた。特に冬に体調が悪くなり、課題が重なると疲れ果てて寝込んでしまう。人混みに出ると頭がザワザワとして不安になるため、酒盛りもアルバイトもサークル活動もできない。鬱屈とした毎日が続き闘病に嫌気がさした私は、四年の秋に通院を中断してしまう。精神薬が抜けた影響で揺り返しが起こったこと、卒業制作に追われていたこと、就職活動に行き詰まっていたこと、それらを誰にも相談できなかったことが積み重なり、私は鬱へと転がり落ちてゆく。
卒業制作の絵本を拵える一方で遺品を整理した。洋服を売り、物を捨て、遺書を書き、ネット通販でヘリウムガスを手に入れた。どうして卒制に遅れそうな友達の面倒を見ながら遺品整理をしているのか分からない。自分が真っ二つに割れてしまっている。混乱しながらもよたよたと気力で突き進む。なけなしの努力も虚しく、卒業制作の提出を逃してしまった。両親に高額な学費を負担させていた負い目もあり、留年するぐらいなら死のうとこりずに決意した。
クローゼットに眠っていたヘリウムガス缶が起爆した。私は人の頭ほどの大きさのそれを担いで、ありったけの精神薬と一緒に車に積み込んだ。それから山へ向かった。死ぬのなら山がいい。夜なら誰であれ深くまで足を踏み入れないし、展望台であれば車が一台停まっていたところで不審に思われない。車内で死ねば腐っていたとしても車ごと処分できる。
展望台の駐車場に車を突っ込み、無我夢中でガス缶にチューブを繋ぎポリ袋の空気を抜く。本気で死にたいのなら袋の酸素濃度を極限まで減らさなければならない。真空状態に近い状態のポリ袋を被り、そこにガスを流し込めば、酸素不足で苦しまずに死に至ることができるのだ。大量の薬を水なしで飲み下し、袋を被り、うつらうつらしながら缶のコックをひねる。シューッと気体が満ちる音、ツンとした臭い。視界が白く透き通ってゆく。死ぬ時、人の意識は暗転ではなくホワイトアウトするのだ。寒い。手足がキンと冷たい。心臓が耳の奥にある。ハツカネズミと同じ速度でトクトクと脈動している。ふとシャンプーを切らしていたことを思い出し、買わなくちゃと考える。遠のいてゆく意識の中、日用品の心配をしている自分が滑稽で、でも、もういいや。と呟く。肺が詰まる感覚と共に、私は意識を失う。
気がつくと後部座席に転がっている。目覚めてしまった。昏倒した私は暴れ、自分でポリ袋をはぎ取ったらしい。無意識の私は生きたがっている。本当に死ぬつもりなら、こうならぬように手首を後ろできつく縛るべきだったのだ。私は自分が目覚めると、知っていた。嫌な臭いがする。股間が冷たい。どうやら漏らしたようだ。フロントガラスに薄らと雪が積もっている。空っぽの薬のシートがバラバラと散乱している。指先が傷だらけだ。チューブをセットする際、夢中になるあまり切ったことに気がつかなかったようだ。手の感覚がない。鈍く頭痛がする。目の前がぼやけてよく見えない。麻痺が残ったらどうしよう。恐ろしさにぶるぶると震える。さっきまで何もかもどうでも良いと思っていたはずなのに、急に体のことが心配になる。
後始末をする。白い視界で運転をする。缶は大学のゴミ捨て場に捨てる。帰宅し、後部座席を雑巾で拭き、薬のシートをかき集めて処分する。ふらふらのままベッドに倒れ込み、失神する。
その後私は、卒業制作の締切を逃したことで教授と両親から怒られる。翌日、何事もなかったふりをして大学へ行き、卒制の再提出の交渉する。病院に保護してもらえばよかったのだがその発想もなく、ぼろ切れのようなメンタルで卒業制作展の受付に立つ。ガス自殺も無事、失敗。
四度目は二十六歳の時だ。
何とか大学卒業にこぎつけた私は、入社試験がないという安易な理由でホテルに就職し一人暮らしを始めた。手始めに新入社員研修で三日間自衛隊に入隊させられた。それが終わると八時間ほぼぶっ続けで宴会場を走り回る日々が待っていた。典型的な古き良き体育会系の職場であった。
朝十時に出社し夜の十一時に退社する。夜露に湿ったコンクリートの匂いをかぎながら浮腫んだ足をズルズルと引きずり、アパートの玄関にぐしゃりと倒れ込む。ほとんど意識のないままシャワーを浴びレトルト食品を貪り寝床に倒れ泥のように眠る。翌日、朝六時に起床し筋肉痛に膝を軋ませよれよれと出社する。不安定なシフトと不慣れな肉体労働で病状は悪化し、働いて二年目の夏、まずいことに躁転してしまった。私は臨機応変を求められる場面でパニックを起こすようになり、三十分トイレにこもって泣く、エレベーターで支離滅裂な言葉を叫ぶなどの奇行を繰り返す、モンスター社員と化してしまった。人事に持て余され部署をたらい回しにされる。私の世話をしていた先輩が一人、ストレスのあまり退社していった。
躁とは恐ろしいもので人を巻き込む。プライベートもめちゃくちゃになった。男友達が性的逸脱症状の餌食となった。五年続いた彼氏と別れた。よき理解者だった友と言い争うようになり、立ち直れぬほどこっぴどく傷つけ合った。携帯電話をハイヒールで踏みつけバキバキに破壊し、コンビニのゴミ箱に投げ捨てる。出鱈目なエネルギーが毛穴という毛穴からテポドンの如く噴出していた。手足や口がばね仕掛けになり、己の意思を無視して動いているようで気味が悪かった。
寝る前はそれらの所業を思い返し罪悪感で窒息しそうになる。人に迷惑をかけていることは自覚していたが、自分ではどうにもできなかった。どこに頼ればいいのか分からない、生きているだけで迷惑をかけてしまう。思い詰め寝床から出られなくなり、勤務先に泣きながら休養の電話をかけるようになった。
会社を休んだ日は正常な思考が働かなくなる。近所のマンションに侵入し飛び降りようか悩む。落ちたら死ねる高さの建物を、砂漠でオアシスを探すジプシーさながらに彷徨い歩いた。自分がアパートの窓から落下してゆく幻を見るようになった。だが、無理だった。できなかった。あんなに人に迷惑をかけておきながら、私の足は恥ずかしくも地べたに根を張り微動だにしないのだった。
アパートの部屋はムッと蒸し暑い。家賃を払えなければ追い出される、ここにいるだけで税金をむしり取られる、息をするのにも金がかかる。明日の食い扶持を稼ぐことができない、それなのに腹は減るし喉も乾く、こんなに汗が滴り落ちる、憎らしいほど生きている。何も考えたくなくて、感じたくなくて、精神薬をウイスキーで流し込み昏倒した。
翌日の朝六時、朦朧と覚醒する。会社に体調不良で休む旨を伝え、再び精神薬とウイスキーで失神する。目覚めて電話して失神、目覚めて電話して失神。夢と現を行き来しながら、手元に転がっていたカッターで身体中を切り刻み、吐瀉し、意識を失う。そんな生活が七日間続いた。
一週間目の早朝に意識を取り戻した私は、このままでは死ぬと悟った。にわかに生存本能のスイッチがオンになる。軽くなった内臓を引っさげ這うように病院へと駆け込み、看護師に声をかける。
「あのう。一週間ほど薬と酒以外何も食べていません」
「そう。それじゃあ辛いでしょう。ベッドに寝ておいで」
優しく誘導され、白いシーツに倒れ込む。消毒液の香る毛布を抱きしめていると、ぞろぞろと数名の看護師と医師がやってきて取り囲まれた。若い男性医師に質問される。
「切ったの?」
「切りました」
「どこを?」
「身体中⋯⋯」
「ごめんね。少し見させて」
服をめくられる。私の腹を確認した彼は、
「ああ。これは入院だな」
と呟いた。私は妙に冷めた頭で聞く。
「今すぐですか」
「うん、すぐ。準備できるかな」
「はい。日用品を持ってきます」
私はびっくりするほどまともに帰宅し、もろもろを鞄に詰め込んで病院にトンボ帰りした。閉鎖病棟に入る。病室のベッドの周りに荷物を並べながら、私よりももっと辛い人間がいるはずなのにこれくらいで入院だなんておかしな話だ、とくるくる考えた。一度狂うと現実を測る尺度までもが狂うようだ。
二週間入院する。名も知らぬ睡眠薬と精神安定剤を処方され、飲む。夜、病室の窓から街を眺め、この先どうなるのかと不安になる。私の主治医は「君はいつかこうなると思ってたよ」と笑った。以前から通院をサポートする人間がいないのを心配していたのだろう。
退院後、人事からパート降格を言い渡され会社を辞めた。後に勤めた職場でも上手くいかず、一人暮らしを断念し実家に戻った。飛び降り自殺、餓死自殺、無事、失敗。
五度目は二十九歳の時だ。
四つめの転職先が幸いにも人と関わらぬ仕事であったため、二年ほど通い続けることができた。落ち込むことはあるものの病状も安定していた。しかしそのタイミングで主治医が代わった。新たな主治医は物腰柔らかな男性だったが、私は病状を相談することができなかった。前の医師は言葉を引き出すのが上手く、その環境に甘えきっていたのだ。
時給千円で四時間働き、月収は六万から八万。いい歳をして脛をかじっているのが忍びなく、実家に家賃を一、二万入れていたので、自由になる金は五万から七万。地元に友人がいないため交際費はかからない、年金は全額免除の申請をした、それでもカツカツだ。大きな買い物は当然できない。小さくとも出費があると貯金残高がチラつき、小一時間は今月のやりくりで頭がいっぱいになる。こんな額しか稼げずに、この先どうなってしまうのだろう。親が死んだらどうすればいいのだろう。同じ年代の人達は順調にキャリアを積んでいるだろう。資格も学歴もないのにズルズルとパート勤務を続けて、まともな企業に転職できるのだろうか。先行きが見えず、暇な時間は一人で悶々と考え込んでしまう。
何度目かの落ち込みがやってきた時、私は愚かにも再び通院を自己中断してしまう。病気を隠し続けること、精神疾患をオープンにすれば低所得をやむなくされることがプレッシャーだった。私も「普通の生活」を手に入れてみたかったのだ。案の定病状は悪化し、練炭を購入するも思い留まり返品。ふらりと立ち寄ったホームセンターで首吊りの紐を買い、クローゼットにしまう。私は鬱になると時限爆弾を買い込む習性があるらしい。覚えておかなければならない。
その職場を退職した後、さらに三度の転職をする。ある職場は椅子に座っているだけで涙が出るようになり退社した。別の職場は人手不足の影響で仕事内容が変わり、人事と揉めた挙句退社した。最後の転職先にも馴染めず八方塞がりになった私は、家族と会社に何も告げずに家を飛び出し、三日間帰らなかった。雪の降る中、車中泊をして、寒すぎると眠れないことを知った。家族は私を探し回り、ラインの通知は「帰っておいで」のメッセージで埋め尽くされた。漫画喫茶のジャンクな食事で口が荒れ、睡眠不足で小間切れにうたた寝をするようになった頃、音を上げてふらふらと帰宅した。勤務先に電話をかけると人事に静かな声で叱られた。情けなかった。私は退社を申し出た。気がつけば一年で四度も職を代わっていた。
無職になった。気分の浮き沈みが激しくコントロールできない。父の「この先どうするんだ」の言葉に「私にも分からないよ!」と怒鳴り返し、部屋のものをめちゃくちゃに壊して暴れた。仕事を辞める度に無力感に襲われ、ハローワークに行くことが恐ろしくてたまらなくなる。履歴書を書けばぐちゃぐちゃの職歴欄に現実を突きつけられる。自分はどこにも適応できないのではないか、この先まともに生きてゆくことはできないのではないか、誰かに迷惑をかけ続けるのではないか。思い詰め、寝室の柱に時限爆弾をぶら下げた。クローゼットの紐で首を吊ったのだ。
紐がめり込み喉仏がゴキゴキと軋む。舌が押しつぶされグエッと声が出る。三秒ぶら下がっただけなのに目の前に火花が散り、苦しくてたまらなくなる。何度か試したが思い切れず、紐を握り締め泣きじゃくる。学校に行く、仕事をする、たったそれだけのことができない、人間としての義務を果たせない、税金も払えない、親の負担になっている、役立たずなのにここまで生き延びている。生きられない。死ねない。どこにも行けない。私はどうすればいいのだろう。釘がくい込んだ柱が私の重みでひび割れている。
泣きながら襖を開けると、ペットの兎が小さな足を踏ん張り私を見上げていた。黒くて可愛らしい目だった。私は自分勝手な絶望でこの子を捨てようとした。撫でようとすると、彼はきゅっと身を縮めた。可愛い、愛する子。どんな私でいても拒否せず撫でさせてくれる、大切な子。私の身勝手さで彼が粗末にされることだけはあってはならない、絶対に。ごめんね、ごめんね。柔らかな毛並みを撫でながら、何度も謝った。
この出来事をきっかけに通院を再開し、障害者手帳を取得する。医療費控除も障害者年金も申請した。精神疾患を持つ人々が社会復帰を目指すための施設、デイケアにも通い始めた。どん底まで落ちて、自分一人ではどうにもならないと悟ったのだ。今まさに社会復帰支援を通し、誰かに頼り、悩みを相談する方法を勉強している最中だ。
病院通いが本格化してからというもの、私は「まとも」を諦めた。私の指す「まとも」とは、周りが満足する状態まで自分を持ってゆくことであった。人生のイベントが喜びと結びつくものだと実感できぬまま、漠然としたゴールを目指して走り続けた。ただそれをこなすことが人間の義務なのだと思い込んでいた。
自殺未遂を繰り返しながら、それを誰にも打ち明けず、悟らせず、発見されずに生きてきた。約二十年もの間、母の精神不安定、学校生活や社会生活の不自由さ、病気との付き合いに苦しみ、それら全てから解放されたいと願っていた。
今、なぜ私が生きているか。苦痛を克服したからではない。死ねなかったから生きている。死ぬほど苦しく、何度もこの世からいなくなろうとしたが、失敗し続けた。だから私は生きている。何をやっても死ねないのなら、どうにか生き延びる方法を探らなければならない。だから薬を飲み、障害者となり、誰かの世話になり、こうしてしぶとくも息をしている。
高校の同級生は精神障害の果てに自ら命を絶った。彼���先に行ってしまった。自殺を推奨するわけではないが、彼は死ぬことができたから、今ここにいない。一歩タイミングが違えば私もそうなっていたかもしれない。彼は今、天国で穏やかに暮らしていることだろう。望むものを全て手に入れて。そうであってほしい。彼はたくさん苦しんだのだから。
私は強くなんてない。辛くなる度、たくさんの自分を殺した。命を絶つことのできる場所全てに、私の死体が引っかかっていた。ガードレールに。家の軒に。柱に。駅のホームの崖っぷちに。近所の河原に。陸橋に。あのアパートに。一人暮らしの二階の部屋から見下ろした地面に。電線に。道路を走る車の前に⋯⋯。怖かった。震えるほど寂しかった。誰かに苦しんでいる私を見つけてもらいたかった。心配され、慰められ、抱きしめられてみたかった。一度目の自殺未遂の時、誰かに生きていてほしいと声をかけてもらえたら、もしくは誰かに死にたくないと泣きつくことができたら、私はこんなにも自分を痛めつけなくて済んだのかもしれない。けれど時間は戻ってこない。この先はこれらの記憶を受け止め、癒す作業が待っているのだろう。
きっとまた何かの拍子に、生き延びたことを後悔するだろう。あの暗闇がやってきて、私を容赦なく覆い隠すだろう。あの時死んでいればよかったと、脳裏でうずくまり呟くだろう。それが私の病で、これからももう一人の自分と戦い続けるだろう。
思い出話にしてはあまりに重い。医療機関に寄りかかりながら、この世に適応する人間達には打ち明けられぬ人生を、ともすれば誰とも心を分かち合えぬ孤独を、蛇の尾のように引きずる。刹那の光と闇に揉まれ、暗い水底をゆったりと泳ぐ。静かに、誰にも知られず、時には仲間と共に、穏やかに。
海は広く、私は小さい。けれど生きている。まだ生きている。
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maki0725 · 5 years
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Klavquill 1-7
In Japan the New Year’s Day is so important, especially for an old-fashioned person like Simon (or Jin Yuugami?).
Many Buddhist temples hit the bell 108 times as New Year’s Eve bell, the number is said to be the number of the worldly desires. They want to expel them and many Japanese people feel sacred only at that time of the year. Though once the day changes the New Year’s Day, they get into worldly desires again(almost all Japanese have good food and drink).
And drunk driving is strictly inhabited in Japan, usually people never drive when they have alcohol even a little, just one sip. Some countries (states) have lax restrictions about blood alcohol concentration though Japanese one is rather strict.
*******************************
Simon listens New Year’s Eve bell through the TV having Soba delivered just before midnight. The bell is said to expel worldly desires, Simon is wondering if he still has that kind of desires.
Right after midnight, Suddenly TV gets noisy, tuning to new-year atmosphere. They start preparing for going out lazily. Phoenix has declared that he wouldn’t go because of the cold outside air and he wanted the younger people to enjoy, he withdraws into the corner of the office.
“Do you do something like disguise , Prosecuter Gavin?”
Athena asks Gavin anxiously but partly out of curiosity.
“If it’s not so crowded, it’ll be okay if I take care a little. A hat, cap or something......I put on the coat different from usual today”
He has had his hair ponytail unusually, wearing the plain black turtleneck black sweater instead of open-necklined shirt(although he never forget the big “G”).
“Do you take Daddy’s beanie? I knitted it!”
“Thank you, Fraulein, but I have one”
Gavin takes a black beanie out and put it on after doing his hair in a bun after putting the duffel coat like a student. Then he doesn’t look like “Klavier Gavin” at a glance.
“Don’t you wear sunglasses?”
“It’s already dark outside, it makes me blind”
“Definitely!”
Trucy yells in a shrill when Gavin says “Next time we hang out daytime”, Apollo hurries them sighing and saying “Don’t let Mr. Wright hear” and they leave.
In the cold air, Apollo, Trucy, Athena, Simon and Gavin are going to the shrine near WAA.
“Do they have some food trucks? Like grilled corn?”
“Can you eat something more!?”
Apollo is surprised at the junior colleague’s great appetite.
“I suppose not, there weren’t last year”
Athena replies and she thinks that’s right, that reminds Simon of the memory exactly one year ago. He was just released from the prison and lived in Aura’s place tentatively, had nothing to do new year holidays. Then Athena called him to stay with WAA members and went to the same shrine. He vaguely remembers Ema Skye was there and Klavier Gavin wasn’t but it was his first first-visit in seven years and something or other, he couldn’t recognize who were there. Athena was so excited as same as today.
They come to the empty shrine. One year ago, Simon taught them how to prepare for a worship (wash your mouth and hands to purify before approaching the shrine, there are a lot of detailed rules to be exact but it’s not a big problem if you don’t know that) but they seem to have forgotten almost all of the manners. Gavin proceeds it smoothly following the manners beside the other members being confused. His move is quite smooth and natural, he seems to know the way of worship well. Simon looks away before Gavin notices his gaze. There seems to be nobody to look at Gavin.
They come back to WAA after visiting the shrine(unfortunately no food trucks were there), they are breaking up the meeting. Apollo says that he is going to the international airport located in the suburbs, he seems to be annoyed with the crowded all-night train but Gavin suggests a unexpected plan.
“Can I take you to the airport? I’ve come here by car”
“Are you kidding? You had alcohol”
Apollo replies in amazement. While Simon thinks that Gavin never seems to do drunk driving, he declares.
“No, I didn’t”
“What? You had wine......”
“It was grape juice. I’m glad to have had it with Mr. Wright”
Gavin takes a look at him. Phoenix nods and says.
“High-class grape juice is really excellent, isn’t it?”
Trucy looks up at Apollo with an enthusiasm.
“Polly! It’s the 3rd place for ideal new-year situation with Klavier to have him send you to the airport!”
“What’s that survey?”
“A project on one of his fan sites”
“What’s the first place, by the way”
“To see the first sunrise together! Like having him all to yourself, don’t you think?”
“Do your fans have nothing to do?”
Apollo looks being turned off but Gavin says proudly.
“They have a rich imagination”
If Apollo accepts the suggestion, it requires Simon to come with them. Gavin signals to him with his eyes and smiles as if to apologize. He doesn’t mind if he only rides in the car together though Apollo might wonder why Simon comes with them.
“Can I drive you home too, Fraulein Cykes? If you don’t mind I get your address”
“Of course no!”
“Hehe, don’t let a man get your address easily”
“Hey don’t you have second thought?”
Simon knows he is overprotective of Athena although she is almost 20 year-old. Gavin never does inappropriate things but he can’t help raising his voice. He seems not to be annoyed and chuckles.
“I never tag along a girl who isn’t interested in me”
“Okay, okay, you say so. You’ve got girls falling all over you”
“Oh are you jealous? Never mind, you have the love of your life somewhere, it’s not the matter of number”
“That’s right! Don’t hate him just because he is beautiful”
“What the hell, I’m not jealous of you, I’m glad to hear you’re popular”
“......I’m not so glad”
Apollo says “Let’s get going”, Gavin’s voice sounds faintly.
Gavin’s car that Simon has never seen is a large German one. Its rear seat has a enough space for even Simon.
“I didn’t know a Mercedes-Benz like this”
“This huge size definitely makes it ridiculously expensive”
“Mercedes is a practical car. I wouldn’t say it’s low-priced in Japan”
“Isn’t Toyota good enough? You can get one for one tenth if it’s second-hand”
Gavin laughs at Apollo in amusement.
“This is ‘G-Class’, who gets this other than me?”
“Did you choose it by the name!?”
“That’s not all what I meant, then, it’s sad to leave but shall we get going?”
Simon gets into the seat right behind Gavin considering Athena will get out of the car. He can see the back of Gavin’s ear with twinkling pierced earring.
The seat that must be the most expensive than any other chairs Simon has sat on is getting warm right after the engine was turned on. The seat seems to have a heater.
“I use the seat heater of the rear for the first time”
“I’ve never seen a car like this......doesn’t it have too many buttons?”
“You are sharp, I’ve never used some of them”
Usually girls go crazy about Gavin himself but Athena looks interested only in car equipment. She might resemble her mother in this respect.
“Look, Simon! There’s a speaker here!”
“Hey, don’t break it”
Simon feels anxious about Athena tampering with the inside of the car. Gavin won’t be angry even if she breaks something but that will make them awkward. The car starts going smoothly after Simon managed to have her fastened the seatbelt.
************************************
年が明ける少し前に届いた蕎麦を啜りながら、テレビから流れる除夜の鐘の音を聞く。夕神はぼんやりと、世を捨てたように生きている自分にもまだ払うべき煩悩は残っているのだろうかと考えた。
年が明けると、テレビは急に騒がしくなる。飲み食いで重くなった腰を上げ、近所の神社に向かう準備をする。成歩堂は、はなから「寒いからぼくはいいよ。若い人だけで楽しんでおいで」と言っており、宣言どおり奥に引っ込んでいった。
「ガリュー検事、変装とかするんですか?」
心音が心配半分、興味半分といった様子で尋ねる。
「人があんまり多くなければ、ちょっと気をつければ大丈夫だよ。帽子とかね。コートも、いつもと違うのだし」
彼はいつもの髪型ではなく、高めの位置で緩やかな一つ結びにしていた。常々、冬でも開けている胸元も、シンプルな黒いタートルネックのセーターに隠されている。しかしながら、トレードマークのネックレスは忘れていなかった。
「パパの帽子、被ります? みぬきが編ん��んですよ!」
「へえ、そうなんだ。お嬢ちゃん、器用なんだね。でも、持ってきてるから大丈夫だよ、ありがとう」
そう言って、牙琉は黒いニット帽を取り出す。長い金髪を器用に丸めて帽子に入れ込み、学生のようなダッフルコートを羽織ると、確かに一見して「牙琉響也」とは判別し難かった。
「サングラスとかしないんですか?」
「……夜だからね、何も見えなくなっちゃうよ」
「あ、確かに!」
また昼間出かける時にね、と微笑む牙琉に、みぬきがきゃあと悲鳴を上げる。成歩堂さんに聞かれないようにね、と呆れる王泥喜が出発を促した。
しんと冷えた空気の中、王泥喜とみぬき、心音、夕神と牙琉で神社に向かう。
「なんか屋台出てますかねえ? 焼きとうもろこしとか」
「まだ食うの⁉︎」
食い気盛んな後輩に王泥喜が目を見張る。
「去年も出てなかったし、ないだろ。小さい神社だし」
そういえばそうでしたね、と答える心音の声に、夕神はちょうど一年前のことを思い出す。釈放されたばかりで、とりあえず姉のマンションに仮住まいし、年末年始に何の当てもなかったところ、この事務所の年越しに呼び出され、同じように神社に向かった。あの時は茜がおり、牙琉はいなかったように思うが、その時は7年ぶりの初詣ーーといっても、夜中に行くのは初めてだったがーーやら何やらで、誰がいるとかいないとか考えもしなかった。心音は今日と同じように、大層はしゃいでいた。
人影まばらな神社に着く。去年、手水場での作法を皆に伝授した記憶があるが、一年経って全員記憶が朧げになっているらしい。自信のなさそうな皆を他所に、牙琉は淀みなく手や口を清める。彼は十分弁えていたようで、所作は滑らかで流れるように自然だった。彼が夕神の視線に気付く前に、さりげなく目を逸らす。ほかに牙琉を見ていた者はいないようだった。
つつがなく初詣を済ませーー残念ながら、屋台は出ていなかったーー事務所に戻り、解散の流れになる。王泥喜は終夜営業の電車に乗って県外の国際空港に向かうつもりらしい。混雑した電車を想像し、うんざりした表情の王泥喜に、牙琉が予想外の提案をした。
「空港まで送って行こうか? ぼく、車なんだよ」
「何言ってるんです、酒飲んだでしょ」
王泥喜は呆れ顔で軽くあしらう。牙琉に限って飲酒運転の申し出などするだろうかと思っていると、彼はさらりと宣言した。
「ああ、ぼく飲んでないから」
「え⁉︎ だって、ワイン……」
「あれはジュースだよ」
成歩堂弁護士さんと飲めて良かったよ、と彼方に視線を投げる牙琉に、
「さすが高級ぶどうジュースは違うね」
と成歩堂が頷いた。みぬきが興奮して王泥喜を見上げる。
「オドロキさん! ガリュー検事に空港まで送ってもらうなんて、ファンが選ぶ年末年始理想のシチュエーション第3位ですよ!」
「何なんだよそのアンケート」
「ファンサイトの企画です!」
「ちなみに1位は何?」
「初日の出を一緒に見ることです! 独り占めって感じですよね」
「あんたのファンってヒマなんですか?」
引き気味の王泥喜に対し、牙琉は自慢げに笑った。
「想像力が豊かなんだよ」
王泥喜が申し出を受けるなら、必然的に夕神も同行せざるを得ないだろう。牙琉は夕神に目配せをして、ごめんというように少し笑った。車に乗っているだけであれば夕神は特に構わなかったが、王泥喜は奇妙に思うかもしれない。
「希月弁護士も送らせて貰えるかな? ぼくに家を知られても良ければ、だけど」
「もちろん、大丈夫ですッ!」
「ふふ、簡単に男に家教えちゃダメだよ」
「おい、何か妙なこと考えてねェだろうなァ」
二十歳も近いというのに、夕神はつい心音に過保護になってしまうことは自覚していた。牙琉に限って変なことはないと思いつつ、つい声を荒げてしまう。彼は気にした素振りもないように笑った。
「ぼく、その気のない子に付きまとう趣味はないよ」
「はいはいアンタはそうでしょうね。いくらでもモテるんですから」
「なに、僻んでるの? 気にすることないよ、どこかにおデコくんの運命の人がいるはずだから。数じゃないよ」
「そうですよ先輩! 美男子に嫉妬なんてカッコ悪いですよ」
「何だよもう……別に僻んでませんよ、良かったですねモテて」
「……別に良くはないけどね」
もう行きましょう、という王泥喜の声に紛れ、牙琉は誰に聞かせるでもないように呟いた。
初めて見る牙琉の車は大型のドイツ車だった。後部座席も、外車だけあって夕神が乗っても十分な広さがありそうに見える。
「こんなベンツあるんですね……」
「こんだけデカイとか、ものすごい高そうですよね」
「メルセデスは実用車だよ。まあ、日本で買えば安いとは言わないけどね」
「トヨタじゃダメなんですか? たぶん10分の1くらいで買えますよ。中古ならですけど」
王泥喜が呆れたように言うと、牙琉はクックッと笑った。
「だってこれ、Gクラスっていうんだよ? ぼくが買わなくて誰が買うのさ」
「名前で選んだんですか⁉︎」
「そういうわけでもないけどね。名残惜しいけど、そろそろ行こうか」
心音が先に降りることを考慮して、夕神は牙琉の真後ろに乗り込む。ニット帽からちらりと覗く左耳の裏に、ピアスの留め具が見えた。
これまでに夕神が座ったどの椅子よりも明らかに高価であろうシートは、エンジンがかけられてほんの数秒でほんのりと暖まってきた。どうやら座席にヒーターが付いているらしい。
「リアのシートヒーター、初めて使ったよ」
「こんな車あるんですね……なんか、ボタン多すぎません?」
「鋭いね。ぼくも使ったことないの結構あるよ」
普通の女であれば、牙琉の男っぷりに心酔するのかもしれないが、心音は車の設備に興味を示すばかりだった。このあたりは母親に似ているのかもしれない。
「夕神さん、こんなとこにスピーカー付いてますよ!」
「おい、壊すんじゃねェぞ」
車中を弄る妹分に、真剣に不安を覚える。仮に壊しても、牙琉は咎めはしないだろうが、気まずさは否めない。どうにかしてシートベルトを装着させ、車は滑らかに走り出した。
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tieslog · 4 years
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3月に入ってから御言葉で異性の罪、情の罪についてのお話があったので、なんとなく警戒していたのだけれど、やっぱりというか、案の定というか、異性から告白されるというイベントが発生した。
有料記事を読んでいる方は既にご存知の通り、信仰を持つとサタンが堕落させようと必死で信仰者に恋愛イベントを持ち込み出します。
今までモテと無縁だった人でも謎のモテ状態になる。異性の罪が一番重い罪だとサタンは知っているからです。
異性の罪と聞いて有料記事未読の方は何がなにやらだと思うんですけど、神様と疎通��て恋人同士になることが本来人間にとっての「幸せ」というものなんだよという話であり、世の中の男女が上手く行かない原因の根本がこれなのです。
アダムとエバがまだ霊的に成長してないのに身体の関係を持ってしまって、人生が狂った。そして彼らは神様が人類の救いの為に立てた中心者でもあったので、人類の運命も狂った。それを聖書の中では木の実を食べたで表現している。ことを私はRaptさんのブログで初めて知りました。
まあ異性の罪についての詳しい話は有料記事をお読み頂くとして、今回どうやって告白イベントをクラッシュして乗り切ったかを書き出し、分析して、自己反省していこうと思います。
告白されたのはコロナ休校で学校に通わなくてもよくなった休校中でした。
そう。私はつい最近まで通学していました。
その前はアルバイトをしていたのですが(アルバイトする前はポルターガイスト現象に見舞われたりしながら半ば世捨て人というか、ニートみたいな感じで、そもそも社会に参加してなかったんだけど、それは人によっては馴染みのない話だからまたの機会に)、
個性才能を発見したいというか、手に職をつけたほうがいいなとか…
いや本音を言うと、御言葉の中に電気的なことや工学的な話が出てくるから、それを理解できるようになりたいなという理由で学生になることにしたのでした。スマホの中身とか仕組みが分からないし、コンピュータやネットの概念が自分の中でフワッとしていたからです。
私はもともと小さい頃は図鑑を読んだり図工をしたりするのが好きで、小学校では本ばかり読んでいたし(バレエもやってたけど)、中学では美術をやって、高校は霊現象に見舞われてたから中退したけど美術部の先生には入部を誘われていた(寮生で門限とかもあったから入れなかったわけだけど…)所謂どっちかといえば文系人間であった。
でも今回通ったのは理系分野だったので、もう、それはそれは未知の世界だったわけなのですが、意外や意外、文系は設計などのモノ作りの世界に向いてるっぽい?
いや、単に神様がそう導いてくれただけの可能性のが強い?
入学試験の日に面接があって、面接官をやっていた先生たちが「女の人他にいないけど大丈夫ですか?」って訊いてきたので、「え?女の人だと困る事例が今までにあったのでしょうか?」って訊き返したら、「いやそういう話は特にないです」と返されたので、なんだそれは…どういう意図の会話だったのだ…?と疑問に思いました。
一応卒業生に女の人は何人かいるんだけど、学年飛び飛びで発生するからお互いに写真でしか知らない感じです。
最終学年の夏季休暇より前だったかに会社見学先で会った女性の先輩は、2人きりになった瞬間に「女の人1人だけだと大変ですよね…」って切り出してきたから何かあったんだと思う。
そして先生たちには相談できなかったんだと思う。女の人は、いや人は、「この人に相談したところで解決しない」とわかっている相手に相談したりなどしないからである。この先生たちはあまり頼りにならない存在だとみなされていたんだろうなと思う。
私も入学早々話しかけてきた男の人(クラスメイト)相手に頭痛と吐き気を覚えたことがあって、「授業内容に関わること意外で私に話しかけないでもらえますか?何故か頭痛がするんで」と素直に伝えたんですけど(読んでる人は笑ってもいいです)、「え?なんで?いろんな雑談するほうが楽しくない?」みたいにヘラヘラ食い下がってきたし、それから1年くらいはしつこかった。
本当に面倒臭かった。めっちゃ滅びを祈ってた。どうせサタンに主管されてた人だと思ったから。そう、彼が他のクラスメイトと話す内容は大変下品な下ネタか、目下年下の人間を見下す高圧的で卑劣なもので、あと無い学歴で高学歴マウントをとろうとする(たまにいるよねこういう謎の行為するやつ)などの老害行為とか、とにかくこの世の地獄のような思想を煮詰めた煮こごりみたいな人だった。
そんでその下品な男の人は1年くらいして、ようやく私のことを「最初から生理的に受け付けなかったし」と言って避けるように(無視するように?)なってくれた。私はそれまでずっと「好き嫌いという以前に、人として生理的に受け付けないので関わりたくないです」とめげずに伝え続けてきたので、その台詞はパクリでは?と思いながらも、あと最初からそう思ってくれて話しかけないでくれていたなら私も楽だったのに…とか相手の発言に矛盾を感じながらも喜びました。
今まであなたによって発生してしまった無駄な時間はなんだったんだろうな?あとあなたが勝手にメルカリに出品した私が制作したキーホルダーも返してくれると嬉しかったけどそれは返してくれないのな?(追記:返してもらえませんでした)まあいいよ悪人が離れてくれればそれで。この世の物品など平和な生活に比べたらなんてことないぜ。
そんなこんなで、私は紅一点ながらも下心を持った男の人には塩対応する部分をみんなに見せてきたので、その後謎アタックしてくる人や、謎アプローチしてくる人はいなくなりました。他の科の頭のおかしい人が名前を連呼しながら横を通過したりとかはあったけど、その他は概ね平和に過ごせたと思う。
男子生徒と女子生徒で態度変えるタイプの男の先生たちからは「人使いが荒い」と言われていたし、クラスメイトにも「まあ…あの人はクレイジーだから…」とか「誰よりも男らしい」とか言われていたので、まあ大丈夫だろう、みたいな。
まあ大丈夫じゃなかったことが今回発覚したんだけど。
突然の休校が決まったのはニュースで臨時休校が話題になってからずっと後で、その前は周りに建っている小中学校や高校が休みになる中うちの学校はというと、スカイプを使ってのんびり他校とロボットカーレース的なことをしていた。
会社によってはリモートワークの環境作りに四苦八苦していたようだけど、流石は電気系の先生が多めの学校というか、大会におけるスカイプ空間は学校の設備と先生たちの私物によってサクサク構築されていった。やっぱり最近売れてる自撮り用の小さいながらも高性能なカメラは便利そうである。結構高いみたいだし、海外製は当たりハズレもあるみたいだけど。
そんな感じでのんびり過ごしていたのに突然休校することになったのは周り(東京都の偉い人とか)の目を気にして焦ったからなのか?
ちなみに学校から感染者は1人も出ていないし、もちろんインフルすら出てない。
まあコロナはインフルなのでパンデミックの報道はデマなんだけど、学校は男の人ばかりであるせいかみんな基本的に不健康な生活を送っていたので、そういう暮らしを目にすることに私は若干辛みを感じていたので、休暇は素直に嬉しかったです。(なんで男の人は健康な食事にあそこまで無頓着なのだろうか?)
休暇だけど最終学年なので、つまりは卒業であり、ある意味クラスメイト達とはこの先恐らく二度と会わなくなることを意味します。
それでサタンも焦ったのでしょうか?今回は卒業制作を一緒に仕上げた人間から告白されたんですね。
学校最終日、私はいつものように普通に登校しました。
休校になることは突然知らされたので、荷物や教科書を全て持って帰らねばならなくなったこともあり、まあまあ驚きましたが、それ以上に驚いたのがその日はなんとなくカートをゴロゴロ引いて登校してきたので、スムーズに荷物が持って帰れるという偶然でした。(いや、神様は偶然はないと仰っていましたから神様が霊感で持たせて下さったのでしょう。よって私は神様に感謝しました)
それまでの授業ではラズパイでサーバを構築してHPを作る授業が行われていたのですが無事終わったので、持ち込んでたモニタをもって帰ろうと思ってカートを持ってってたんですね。そこで突然の休校です。
午前中は後輩に教室を明け渡す為に作業場を掃除したりして過ごして、午後は後輩たちのプレゼン大会が予定されていて、いつもより授業の始まる時間が遅かったので私は一旦家に帰ることにしました。あとなんか掃除中にヘアゴムが切れてしまってピンチで、そのへんにあった針金で留めていたので、家でまとめ直したかったというのもある。
やばいピンチだ…と針金で留め直してたとき、思い返せば今回告白してきた人が髪を下ろしたらどうなるのか的な質問をしてきて、「どうって、邪魔ですよね。作業するのに」と返したら「そっか」と笑っていたけど、なんか違和感を感じたやり取りだったのだけど、そういうことだったのかね?
思い返せば中学生の頃プールの授業のあとで髪を下ろして乾かしてたら、当時学校にいた私のことを観察する会的な謎の集団がわざわざそれを見にやってきたことがあった。だからそう、こういう髪に関することで注目してくる男の人はもうなんか駄目なんだと思う。そういうことだったのかも。
そんで家に帰ってから髪を留めて、なんとなくハンカチを新しいものに替えて、また学校へと出発しました。
ちなみに家に着いたとき、たまたま祖母が家にいて何故かご飯を炊いていて、「ちょうど出来たから食べていく?」っていうので、いつもはお昼ごはん食べないんだけどその日は食べてから出発したのでした(よってちょっと出遅れた)。いつもは一駅歩くのだけど、遅刻は嫌なので駅のホームで電車を待っていたら、若い女の人達が「〇〇駅ってどうやって行くんだっけ?」とワイワイ喋りながらスマホで乗り換え検索しながらこちらに向かってきた。でも〇〇駅は反対方向の電車に乗ってから乗り継がなければならないので声をかけてそれを伝えたら、ちょうど反対側に電車がくるところだったのもあり「ありがとうございます!」と言いながら彼女たちは駆け足でギリギリセーフで乗車していった。(そこで私は思った。ああそうか、それで私は家を出遅れたのかも。神様ありがとう!)
なので学校に着いた時刻はプレゼン予定時刻ギリギリだったんだけど、予定が押したみたいでまだ余裕であった。神様ありがとうございます。
後輩達は私達の学年より真面目な子達が多いので、プレゼンはとてもクオリティが高かった。んだけど中に仏教かぶれの人がいて若干むむってなった。仏教は悪魔崇拝だからです。まあネタ化されてたからガチではないのかもしれないけど。全ての神社仏閣が滅びますように。
最後はなんか、お別れの挨拶をそれぞれ述べて終了という流れになったんだけど、プレゼンを指導していた外部講師の方が今日で十数年に渡る講師活動を終えるとのことで泣きながら色々と思い出を語っていた。熱血タイプの先生なので涙が思いと一緒に溢れてしまったのだろうと思う。私達も突然で驚いたけど色々とタイミングが良すぎである。もういっそ今日が卒業式ってことで良いのではと思った。
お化粧が崩れるのも構わず泣いている先生を見ていて、「そういえば私何故か新しいハンカチ持ってきてたな」と思い出し、そのハンカチを渡した(この時新しいハンカチを持たせて下さったのは間違いなく神様だと思った)。
彼女は潔癖症なので未使用であることを伝えて渡した。「もう学校最後だから洗って返せない。どうしよう!」と言うので、「あげますよ」って言ったら、「洗わないでとっておこうかな(笑)」とか言いだしたので、潔癖症なのにご冗談をと思いながら「いや洗いましょう。何か繁殖しちゃうかもしれないじゃないですか」って返したら「コロナとか?」と笑われたので、私はその流れのまま「コロナはインフルエンザなんですよ」って話をした。
(私最近会う人会う人誰とでもコロナはインフルの話をしているけれど、まだ誰にも否定されたり拒絶されてない。Twitterの工作員とは随分反応が違うよね)
そんなこんなで授業もおわり、作業室で卒業制作で作ったマシンを班員と二人で動かしたりして遊んだ。校長先生を乗せる約束をしていたのにまだ乗せてなくて可愛そうだという話があったので、久々の起動に様子を見ながら発進させてたんだけど、校長を呼んで乗せてたらしばらく動いてマシンは死んだ。
FETが爆発したりしたわけじゃないから、多分ダイオードが死んだとかじゃん?という結論になったんだけど、調べないとわからん…わからんけどもう時���がないので、あとはもう後輩たちが好きにすれば良いんじゃん?ということになった。大掃除のときにモータドライバの同人誌を託したことだし(次回はデジタルアイソレータとか入れてみてほしい)。
校長先生や担任の先生たちとのお喋りも今日で最後か…というわけで、せっかくなのでコロナの画像がサンゴ礁の写真を加工した画像だった説や、タピオカヤクザの話や、蓮舫議員の闇のお婆ちゃん陳杏村の話をした。私は学級日誌でも毎度こんな話しか書いてなかったので先生たちも慣れていたのもあると思うんだけど、割とスムーズに受け入れてくれました。東京都からお金が出てパーツとか買ったりする学校だったけど、都知事をディスったところで咎める者は誰もいなかった。小池百合子はやはり都の職員からも嫌われているのではないか。
このまま興味を持って色々調べるようになってくれれば嬉しいのだがどうだろうか。調べてくれますように。
そして私の知らないところで同性に伝道されるなり、ネットで伝道されるなりすれば良いと思う。
先生たちには「忘れ物があったら取りにおいでね」と言われたけど、学校まではルート的に結構距離があるので、私は「思い出と一緒に置いていきますね」と答えた。そしたら「じゃあ思い出が欲しくなったらいつでも来て下さい」と返されてしまった。グヌヌ被せボケ…
最後まで一緒に残っていたもうひとりのクラスメイトは「あと2時間くらいお話していたいですね!」とか言っていた。勘弁してほしい。
死にかけのマシンはホールに飾られることとなった。
試作の小型機は班員が夜なべして書いたプログラムのお陰か元気に走ったので、最後に走らせて展示場に到着させた。
班員は小型機にゴリアテと名付けようとか言い出して、私はゴリアテ倒す派なので(ダビデの話参照)その場で反対したのだけれど、その後どうなったのかは分からない。今思えば何かの暗示であったのかもしれない。今回告白してきた人間はこの班員であるからである。
そんなこんなで帰りが遅くなってしまったのが良くなかったんじゃないかと今では思う。
校門を出たら外は真っ暗だった。冬だったので星がキラキラしていて大変綺麗で良かったんだけど「星が綺麗ですね…ってもう寝る時間じゃん!」と焦った。私は早く寝て早く起きて祈ったりしたいからです。
さてさよならするぜと班員に別れを告げるとき、私は特に台詞が思い浮かばなかったので、「とりあえず禁煙したら」と言った。彼は喫煙者だったからである。そしたら今までは絶対無理とか言っていたのに、今回は珍しく「禁煙外来に行こうと思う」と言い出した。
喫煙者が減ることは良いことだし、そのことは普通に嬉しかったので神様に感謝して、私は家に帰った。
その日は風が強くて、家の近所の庭的な広場に誰かのTシャツが落ちていたので、風向きから推測したマンションに届けに行った…のはいいものの、どこに置けばいいのか分からなかったから、そこら辺にいた住人らしき方に訊いて、エントランスに引っ掛けてきた。住人らしき方は見ず知らずの私にお礼まで言ってくれて、最近世間がピリピリしているというのに、優しく対応してくれてありがとうと思った。
それから1週間くらい経った頃だろうか。なんだか体が重かった。生理でも無いのに日中眠かった。
��強したくても頭がモヤモヤするというか、お祈りの時間に起きられてもなんだか体が重かった。そういう日が数日続いた。
そんなある日、制作課題用に作ったSNSルームに置きっぱにしていたファイルをダウンロードしようとPCを立ち上げログインしたら、告白文が踊っていた。
いや、その前から就活どう?的な情報交換はしてた(私の就活はゆっくりでギリギリだったので先生やクラスメイトたちが私の代わりに心配していたというのもある)のだが、まさかこれを使って告白されることになるとは。そういう素振りを相手が見せたことがなかったので余計に驚いた。
読んだ瞬間はいつものごとく目眩と吐き気に襲われた。なぜ私は異性に好意を向けられたと認識した途端に吐き気と頭痛がしてくるんだろう?神様を信じるようになってからそうなるようになったのね。霊魂の苦しみが脳を通して肉体に伝わるからでしょうか?その仕組が知りたいのですががが。
ところで異性の罪は重罪なので、思わず「ブルータスお前もなの…?」と呟いてしまった。
霊魂は肉体と違って異性の罪によって、まるでウジやハエや汚物を飲まされているかのような地獄を味わうのだと、以前主が御言葉の中で仰っていました。
相手にこうして罪を犯させるような行動を私はどこかでしてしまっていたのだろうかとか、なんかそんな感じでショックを受けたついでにそのままブルータスについてググったら、なんと告白された日とカエサルが殺された日が同じ3月15日だったので思わず笑ってしまった。
よくイルミナティたちが日付にこだわって重要人物を殺したりするけど、確かその中に3月15日もあった気がする(そういうツイートを前に読んだ気がする)。
サタンが験担ぎして告白させたのかもしれんな。はっはっは…(真顔)
(そういえば志村けんが死にましたね。やっぱり小林麻央が海老蔵に生贄として殺されたみたいな感じで他殺なんでしょうか?)
告白文の内容は概ねこんな感じであった。
最終日にそちらから告白を受けたが(してないんですが?)、過去に色々あって二股かけて失敗しているのと(なんですと!?)、一緒に住んでる腐れ縁のルームメイトが人生に問題を抱えていてこれからも自分が助けになり支えていきたいので(誰のことだ?)、貴方の気持ちには応えたいが応えるわけにはいかないと思った。けれど前から可愛いと思っていたし称賛する気持ちは絶対に伝えたいと思っていたので今回告白に至ったと。その他、私と会うのを楽しみに学校に通っていたこと、可愛さにため息がとまらない(?)、私が小型機を操縦している様がキラキラして見えた(?)、ここ1週間ほど私のことを考えていた、買い物しに車を出して気付けば学校まで運転しておりそのまま夜空を眺め続けてしまった(重症では?)ことなどが書かれていた。
()は私の感想です。
そんで、うーん…?私そもそも告白してないけど?どういうこと???ってなった。
私としては、突然相手が目の前でサンドペーパーを敷きだしたと思ったらそのまま助走をつけて全裸で一気にスライディンクした挙げ句血まみれになりながら「どうもすみませんね…」とヨロヨロ退出していったような、こちらとしては見てはいけないものを見てしまったような、そんな気分である。
というか、1週間念を送られていたから具合が悪かったのかもしれないな…?
なんか頼もしいとか崇高とかいう文字も文章内に組み込まれていたので一応リスペクトしてくれてたっぽいことは分かるんだけど、恋愛フィルターを通してそう見えてただけだと思うと素直に受け取るわけにはいかないですよね。だって正気じゃないんだから。
校長先生が入学当初、学校の仲間は将来同じ分野の仕事仲間にもなるわけだから仲良くして情報交換していくといいよ的なアドバイスをお話してくれてた気がするんだけど、でもそこで相手に恋愛フィルターがかかっちゃったらさ、相手が間違ってるときに情が邪魔して相手を正論でコテンパンにしてあげられないわけだからもうその時点で良き仕事仲間とは言えないじゃん。
それに男の人って(弟もそうなんだけど)相手を褒めるときもそんないちいち褒めたりしないですよね。あっても一言で終わるじゃないですか。「スッゲ」「ヤベえ」「ウケんだけど」「流石ですな」「かっけえ」みたいな。だからこうやってリスペクトしてますよ感出して長文ぶつけてくるときは告白じゃなくとも下心があると疑った方が良いっぽい。よ。
可愛いに関してもよくわからなかったんだけど(私には可愛げがないという定評がある)、告白文を見るに、どうも頑張っていた姿がいじらしく見えたとかそういう意味での可愛いということであったらしい。ということは、男の人に比べたてまだまだ頼りない部分があったために可愛いに繋がってしまったのかもしれない。ネットで調べたところ庇護欲を掻き立てる女性はモテるらしいので、こいつは一人でもやっていけるなと思わせるキャリアウーマン的な女性にならないといかんなこれはと思ったし、反省した。
しかし腑に落ちないのが私が告白したことになっている部分なんだけど、どうも「星が綺麗ですね」と最終日に言ったことが告白と取られたらしいのね。
でも「月が綺麗ですね」は聞いたことがあるけど「星が綺麗ですね」はちょっと聞いたことがない。
それに夏目漱石が「月が綺麗ですね」と言ったという話はデマであることがわかっているし、それを告白に持ってくる現代っ子がどれくらいいるのかね?
わからん。
わからんので調べたら、出てくるわ出てくるわ…
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ちょっとバリーエーション増やしすぎじゃない?
これじゃあ異性の前で景観を褒めてはいけないことにならないかい?
しかも「星が綺麗ですね」はタロットが元ネタだと?悪魔崇拝者共め…なんと迷惑な。(ちなみに占いもタロットも、悪魔崇拝からきた文化です)
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なので私は告白してないのでそれは勘違いだし、一応漱石はデマだよと伝えた。
(���とうっかりここにたどり着いてこれを読んでる方で陰謀論よくわからない人向けにお知らせしとくと、夏目漱石の名前の由来はフリーメイソンなので、興味が湧いた方は調べてみて下さい。)
あとキラキラして見えるとかため息が止まらないとか深夜徘徊とか目に余る異常行動が気になったのでそっちも調べたんだけど、人は恋に落ちると脳内麻薬が出て、なんかそういう状態になるらしい。
というか、完全に病気だよね。
脳内麻薬で脳が酸欠になるらしい。煙草でも脳は酸欠状態になるっていうのに、お前さんはこのまま死ぬつもりか?
冷静になあれ。
とりあえずセロトニンが不足するとそういう情緒不安定状態になるらしいので、日光浴をおすすめしといた。
そしてSNSからは重要ファイルをサルベージした後離脱した(Twitterにおけるブロックのようなものです)。
しかし業務用のSNSで告白って公私混同って感じで普通にルール違反だと思う。勘違いとは言え、気持ちに応えるわけにはいかないからと理性で踏み留まってくれたのは、有難いっちゃ有難いけれど、結果告白してしまったのでは無意味なのではないか。それは踏み留まれているとは言えないわけで。
恋は病気。
愛は理知。
冬の星が綺麗な理由は太陽が早く沈むから残照の影響が少なく湿度も低いためにその分光がこちらに届くから。
よって、さらばだブルータス。
というか以前「背中を押すのは友人の特権だ」とか発言してたような気がするのだけど、友達だと思ってくれていたのは嘘だったということか?
まあ私は私で男友達ですら御免だしこの先男とはプライベートで仲良くするつもり無いですって言ってたわけだけど、大事なことだからそれ2回くらい伝えたはずなんだけど、聞いてなかったのかねブルータスは。
ちなみに「ブルータスお前もか」は「月が綺麗ですね」と同じく言ってないのに言ったとされてる言葉の一つなのであった。綺麗にオチまでついてしまったのであった…
実はその後、学校に卒業書類貰いに行かなきゃいけない日があって、ちょっと憂鬱だったんだけど、エンカウントしないように祈って早めに登校したら、早めに書類もらえたし、早めに帰れたのでブルータスには会わずに済みました。
神様ありがとうございます!
あと水筒持ってくの忘れたんだけど何故か先生が自販機の飲み物奢ってくれるっていうのでお水を買ってもらえました。
先生ありがとうございました。
おしまい!
帰りが遅くなった最終日、家族が私の身を案じて祈ってくれていたそうである。私は本当に、神様に、みんなに助けられて生きてきたし、今もそうである。感謝します。どうかみんなの信仰生活も守られますように。
今サタンが絶賛大暴れしているそうなので、他の信仰者の方々もゲリラ告白をされたりしているのだろうか。どうか無事に撃退できますように。
あと恋の脳内麻薬は3年くらい出続けるらしいから3年は会わない方がいいっぽい。先生には悪いけど文化祭も行かないほうが良さそう。
異性の罪を犯したときに3年くらい期間を設ける話はもしや脳内麻薬にも関係しているのだろうか?まだまだ分からないことが沢山ありますね。
しかし思いがけずスムーズに荷物が持って帰れたり、知らない人が電車に間に合ったり、奇跡的なタイミングでハンカチを差し出せたからといってなんだっていうんだろう。神様にとって有益かというと、そうでもない。
結局学校は神様に意識を向けて生活し辛い空間だったことが証明されただけなんだと思う。卒業が早まってよかった。それこそ、神様に感謝すべきことだったのではないか。
唯一連絡手段が残された相手と縁が切れたことも、信仰生活を送るうえでとても有難いことであったと思います。ありがとうございました。
あと私は異性からの好意に気付かなさすぎであるということが発覚したので、これからもっと遠巻きにしてもらえるように頑張ろうと思いました。
そして恋愛コラム的なことが書かれているサイトって、全部占いへ誘導するようなものばかりで、この世の中に恋愛の文化を広めたのがサタンであることがよくわかる構図だなと思いました。
人間との恋愛は人間を幸せにはしません。不幸への入り口です。
占いは闇です。何も解決しません。
何事も神様に求めるべきです。神様に相談しましょう。
今回色々あった中で私にとって良かったことって、コロナはインフルだって話ができたことくらいじゃないでしょうか。もっとディープな話をスムーズに展開できるようになりたいですね。
反省!
こうして自分を省みる機会を与えて下さった神様とRaptさんに感謝します。どんなに神様が機会を与えて下さっても、Raptさんの宣布する御言葉がなければ理解できないし、悟れないからです。それから私の為に祈ってくれた方々にも感謝します。本当に命拾いしました。ありがとうございます。
コロナのデマが世界中の人々にバレますように。
あと最近初めて行った公園が心臓の形してる気がした。
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そして電車の広告にあった有名テニスプレイヤーの顔がそっくりで、2人は血縁かもしれないと思った。
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この春あちこち散歩したけれど、東京都民は都知事の言うことなんて心の底では信じていなくて、パンデミックは演出不足であるなと思った。
だって人がわんさか住んでる団地で1人も感染者出てないし、誰も死んでないし、噂好きなおばさまも誰かが死んだ噂すら聞かないって言ってるし、というか2月も3月も全然救急車来てないし(12月と1月は夜でもバンバン来てたのに。餅かな?)。
都民はみんな訝しがっている。
陽の光を浴びながら元気に遊ぶ子どもたちを見ながら散歩したけど、あれはあれで免疫力がアップしてインフルにかかりにくくなって良いのではないかと思った。
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buriedbornes · 5 years
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第37話 『白き山脈にて (1) - “屍術団"』 In the white mountains chapter 1 - “Necromancers”
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冬、雪深い季節に、エレドスティ山地に足を踏み入れる者は少ない。
麓に住む数人の狩人が、備蓄が尽きてやむを得ず食料を求めて入山するばかりである。
仮に入山しようとする者がいたとしても、無関係の者の多くは、そうした者達を自殺志願者として扱う。
そのため、道案内など頼まれようものなら、道連れを恐れ、誰も首を縦に振る事はない。
しかし、今回だけは、事情が違った。
多くの無知蒙昧な麓の村民達にとって、屍術師の集団などなおさら忌避すべき余所者だ。
私自身でさえ、置かれた状況の変化がなければ、そうした連中と同じように門戸を閉ざし、その冒涜者達と直接まみえることさえもなかっただろう。
しかし今、私は彼らと旅程を共にし、馬車に揺られながら、エレドスティの中腹へと向かっている。
村から半日ほどかけて、馬車は間もなく野営予定地に到着する。
幌の端を軽く捲って外を覗き込むと、麓の村が放つ灯光が白い斜面の先にぼんやりと小さく視界に映る。
あれは、滅びゆくものが放つ、最後の光だ。
私はその村の姿を遠目に見るごとに、死にゆくものを看取るような気持ちを抱いていた。
私が、妻や、老いた両親や、幼い我が子を看取ったときと同じように。
この冬の寒波は一層強く、そして何より、山が牙を剥いたのだ。
それは、自然の力強さだとか、野生動物の活動だとか、そういったものとは性質の異なる、この世のものとは思えない悍ましいものだった。
被害者の多くは、暗く虹色に発光するタール状の痕跡だけを残し、腕一本さえも帰ってくる事はなかった。
被害者こそ数人に留まったが、村の狩人達は完全に萎縮してしまった。
被害者達の末路を知る者はいないのだ。
誰だって、得体のしれない怪物に連れ去られ、どんな悲劇が待ち受けているのかわからない魔境に足を踏み入れるくらいなら、餓死した方がマシと考える。
私自身も、気持ちは同じだった。
狩人のワットと言えば、村で知らぬ者もいないほどの狩りの名手と謳われたものだ。
それが今では、屍術師達の手先に成り下がった、とでも言うのか。
それでも、良いじゃないか。
どうでも良かったのだ。
家族は皆、餓えて死んだ。
あとは私も後を追って、皆の待つ場所へ逝くだけだったのだ。
そこに、彼らがやってきた。
他の村民には門前払いされたそうだが、私はそうはしなかった。
相手が誰であろうと、誰が家に来ようとも、もう、どうでも良かったのだから。
この連中が帰ったら、その後自死しようか、とまで思っていたのだ。
しかし、悪魔は囁き、私は応えた。
エレドスティ山地の案内料は、今どき珍しい、金貨で支払われた。
これだけの金貨があれば、都市廃墟の闇市場に行けば、幾らでも食料を買える。
死なずに済む、生きられる。
そう思ったとき、はじめて死ぬ事が恐ろしくなったのだ。
村民達はきっと私を、家族を見殺しにした死にぞこないとして軽蔑するだろう。
金も分けずに、一人で屍術師達に取り入って生き延びた、裏切り者。
なんとでも言えば良い、それでも私は生きたいのだ。
そして連中は、この冬を越えられず、一人の例外もなく息絶えるだろう。
だから、あの灯光は、死にゆくものの光なのだ。
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私だけが、彼らの訪問を迎えたのだから、私だけが、生き延びる資格を有していたのだ。
屍術師達は、馬車を引き連れて現れた。
手綱を引き、二頭の馬を巧みに操るのは、意外にも女性だった。
はじめ御者席に座る彼女を遠目に見たときに、巨漢と見紛うほどの長身であった。
肩口で切り揃えられた銀髪の先が、黒いコートに縫い付けられたフードのファーに埋もれていた。
雪のように白い肌と切れ長の瞳が、妻に似ていると思った。
名を名乗り挨拶した私を一瞥し、彼女はそっぽを向いてしまった。
仲間との会話から、彼女はアリーセと名乗る事がわかった。
直接門戸に立ち交渉を持ちかけてきた男は、ライツと名乗った。
彼に対して抱いた第一印象は、”普通”だった。
特徴のない顔、伸ばし放題の髪をくくり、肩に垂らしていた。
ヒゲだけは丁寧に剃刀を当てているようだったが、それが逆に無個性さを強調しているようにも思えた。
鈍色のローブの中は見えなかったが、この寒い中でも厚着はしていないようだった。
交渉中も始終抑揚のない発声で、事実のみを淡々と述べていた事が印象的だった。
一方で、交渉が成立し、馬車から飛び降りてきた男は、逆の印象を与える人物だった。
男はジョゼフと名乗り、狼狽する私の掌を強引につかみ、白い歯を覗かせながら握った手を雑に振った。
短く刈り込まれ撫でつけられた髪と猟犬のような端正な容貌は、都会の社交界で幅を利かせていた男前の紳士達とやらを思わせた。
体のシルエットに沿ったハンター用のジャケットとキャップを着こなし、身振り手振りから気取りが感ぜられて、人に見られる事を強く意識しているだろう事が、余計にライツとの違いを際立たせたように思う。
馬車にはこの3人が乗り込んでいた。
そして、馬車の荷台の脇に積まれた、曰く有りげな大袋、5つ…
彼らが何の集団なのかを知っていれば、その袋が何を入れたものなのか、容易に想像がつく。
とはいえ、私はそのことを口に出す事はなかった。
袋は完全に密封されているようだったし、雪深く積もる山中においては、匂いが漂う事もないのだろう。
私は、荷台に設えられた簡易椅子の、一番外側に座していた。
その隣で、ライツが姿勢良く揺られていた。
ジョゼフは、あろうことかその死体袋の脇に鞄を放り、枕にして横になっていた。
アリーセは幌の外、御者席で馬車を進めていた。
道中、車輪の音だけが響いていたが、沈黙に耐えかねた私の質問に、ジョゼフが丁寧に答えてくれた。
彼らは”屍術団”を名乗り、人類の勝利と復興を標榜しているらしかった。
私はつい、随分安直な名だと言ったが、ジョゼフは「俺達にとっちゃ、名前なんてどうでもいいんだよ」と笑った。
屍術師達が集まり、この災禍をもたらした地底の王とやらを屠るために、各地に散在する様々な知識や技術を集め、日夜戦いに耽っているとの事だった。
組織には他にも多数の術士達がいるらしかったが、この3人のように少人数でグループを組み、任務に当たる事が多いとも聞いた。
その日を生きる事ばかりで精一杯の私にとっては、まさに雲の上のような世界だった。
彼らがどれほど恐ろしいものと対峙しているのか、想像する事もできなかった。
ただ、山中で村民が出くわしたような怪異も、彼らにとってはきっと、容易く解決してしまうような日常茶飯事なのだろうなという事は想像できた。
矮小で無力な人間には、自分で自分の未来を決める事すら叶わない。
私のようなただの狩人には、運命は変えられなかった。
己の手で己の運命を決められると信じる彼らの存在は、とても羨ましいと思った。
だから私は、仲間が消え去った山へと登っていく馬車の中でも、不思議と落ち着いている事ができたように思う。
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幌の外から馬の嘶きが響き、揺れが収まる。
馬車が目的の野営地に到着したのだ。
私は術士2人を促して先に降りてもらい、続いて地上に降り立つ。
長い時間揺られ続けていたせいか、降り立った直後に軽い目眩を感じ、私は思わず荷台に寄りかかってしまう。
エレドスティを登る道は、ここで途切れている。
車輪で踏み込めるのはここまでで、ここから先の斜面と険しい岩肌は、馬車で立ち入る事はできない。
この窪地の開けた荒れ地は、露出した土中に含まれる塩分のために雪が積もらず、狩人達が夜通し狩りを行う際にも野営のため頻繁に使われていた。
疎らに立った木の陰を見れば、ロープの切れ端や布切れが散見され、過去にここを使った者達の痕跡が確認できた。
おそらくは私自身が最後に山に登ったときに焚いた焚き火の跡もそのまま残されていた。
ライツは窪地に降り立つが早いか、すぐに石灰の白墨で荒れ地の地面に何かの図形を淡々と描き始めた。
アリーセは馬車の荷台と幹の太い手近な木をロープで手早く括り付けると、荷台に積まれたあの忌まわしき袋を次々とライツの描く図形の脇へと降ろし始める。
ジョゼフは、同様に馬車の荷台奥に積まれていたであろう折りたたみ式の椅子を取り出すと、図形の目前に揺れのないようしっかりと固定し、その上に深々と腰を下ろすと、懐中から取り出した帳面を熱心に読み込み始めた。
三者三様に、これから始まる探索に向けた準備を始めていると素人の私にもすぐに判断できた。
一方で、私自身はというと、明確な目的を持って動く3人を前にして所在なげにウロウロと図形の周囲を歩き回っていた。
時折、荷物を運び出す途中のアリーセの通り道を塞いでしまい、舌打ちされ、慌てて脇に避ける場面もあった。
やがて一通りの荷物は出し終えられ、図形を描くライツの手も止まった。
ジョゼフはそれに気づき、帳面を畳み懐中にしまい直すと、両手のひらで顔を2,3度強く打ち付けた後、気合を入れるように言葉にならぬ声を発し、ライツに声をかけた。
「やろうか、リーダー」
「急くな、結界が先だ」
そう答えたライツは、ブツブツとなにかの呪文のようなものを呟き始めた。
間もなく、光の筋がライツの指先から放たれると、窪地の周囲に積もっていた雪がその光を反射して輝き出すと、やがて私の視界はぼやけ始め、窪地全体にまるで靄がかかったかのような景色へと変じた。
「ワットさん。この窪地から外には決して出ないように」
「アンタ一人で死ぬ分には勝手だが、俺らまで見つけられたら困るからな」
ライツの説明を、ジョゼフが物騒な形で補足する。
アリーセは相変わらず無言のまま、腕組みをして山頂の方角を凝視していた。
ジョゼフは腰掛けた椅子の上で胡座をかくと、目を瞑り、頷く。
それを認めたライツが先程とは異なる呪文の詠唱を始める。
地面に描かれた図形が仄かな光を放ち始めると、アリーセが傍らの袋をひとつ軽々と抱えあげて、円形の図の中央に丁寧に横たえ、また元の位置へ帰る。
やがてライツの呪文に呼応するように図形の光は力を強め、やがて袋そのものが発光を始める。
あまりの眩さに、思わず手を翳して光を遮った。
次の瞬間、嘘のように光が去り、ライツの詠唱も途切れた。
ライツは図形の中央に歩み寄ると、袋を固く封じていた紐を丁寧に解いた。
すると、ああ、これがこの、悍ましき屍術師の業だと言うのか。
袋の中から、頬の肉が破れ、奥歯が露出した顔が覗く。
男の死体が、独りでに起き上がり、地面に手をつき、気怠げに立ち上がった。
ボロ布だけを身にまとい、体のあちこちが綻んで皮膚の内に秘めた真紅の筋肉が覗いている。
遡った胃酸が喉を焼いた。
臭いなどはない。
ただ、その悍ましさ、涜神的な情景に、心が悲鳴を上げていた。
「ジョゼフ、行けるか?」
ライツが死体に声をかけている。
当のジョゼフは、椅子の上で項垂れて、返事をしない。
直立した死体の喉がひゅうひゅうと鳴り、軽く咳払いをひとつ、そして地の底から響く呻きじみた声が発せられる。
「いつでもいけるぜ」
これが、今のジョゼフなのだ。
そこで項垂れた青年は今、ここに立つ死した者の身にその心を宿しているのだ。
耐えきれず、私はその場に吐瀉する。
馬車の中で受け取った林檎の残骸が荒れた土に撒かれる。
「おい、しっかりしてくれよ。ここからがアンタの仕事なんだ」
死体が、その見た目に反した軽口を私に向ける。
一見滑稽にすら見える、この世のものとは思えぬ一幕。
脳の奥の方が、急速に痺れて鈍磨していくのを感じる。
死体は、その立ち上がった時とは別人のような軽快な足取りで、早々に靄の結界の外へと駆け出して、そのまま見えなくなった。
ライツがその姿を見届けると、再び呪文を唱え始める。
やがて、靄の中に、鮮明な幻像が浮かび上がってくる。
風のように過ぎ去���山地の景色。
まるで、崖や岩場を駆ける猫科猛獣の瞳に映るものを覗き込むようだ。
やがてその視界は、今我々が立つこの野営地を見下ろす位置で止まる。
「視界、声、問題ないか?」
やまびこのような声が耳の中に響く。
「問題ない。ワットさん、あなたにも彼の視界と声が見聞きできているか?」
ライツの問いは非常に奇妙なものであったが、首肯する以外になかった。
ここからが私の仕事…
たとえ彼らが屍術に精通し恐るべき力を行使できたとしても、この山の地理には不案内なのだ。
だからこそ、この山に精通した案内人を、この山に生きてきた狩人を求めたのか。
震えが止まらない。
もう前に進むしかない。
これを選んだのは、自分だ。
生き残るための代償。
こうして図らずも、私は屍術師達の戦いに巻き込まれる事になった。
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~つづく~
※今回のショートストーリーは、ohNussy自筆です。
白き山脈にて (2) - “エレドスティ山地"
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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montagnedor · 5 years
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よるの岸辺
@stsoverload / @sazamekko様おたおめです、マスアリ。 いつも言ってることですが、ボスコノ博士は「倫理観が常人とは違う」という公式設定が好きです、最近中途半端に忘れられてそうですが。 ex-は元彼とか元カノとかの「元」です +++++ 晩秋の頃、暦では冬。明るい夜、青年は空を仰いでいた。 地上二百メートル超の、基本的に開かないはずの部屋の窓の外、その屋上で。炯々と照らす月は満月、身を揺らす風は抱き寄せるような柔らかなものではない。丈高い彼でさえ体を揺すり持ち上げるような夜の見えない力に覚えず膝をつけば、今度は眼下の断崖じみたそこから暗い地表が遠く遠くとても小さく見える。ミニチュアじみた光が闇の間に点々と無数に散らばり動く図は、夜の海にウミホタルが波とともに寄せてくる様を彼に思い出させもし、何かをひそかに懐かし気に告げるような、愛おしむような呟きが漏れる。 作業員が命綱を装備して仕事をするべきその場所に、彼は死衣じみた真っ白いパジャマ姿で、素足だった。 その背後にスラスター音がした。 「お戻りください、風間仁」 いったいどこから出て行かれたのですか 降り立った機械少女の桃色のやわらかそうな巻き毛は、暴風ともいえる風の中でもわずかにしか揺れない。頭部のメインカメラを遮蔽物が邪魔しないためだ。 「仁、ex-マスター」 かつて私の絶対的な支配者であったという貴方 言いつつ少女は主人である青年の長すぎるほどで乱されきった黒い前髪をかき上げ白い額に触れ、彼の反応があることを確認した後、空を仰いだ。 「月が、きれいですね」 そう言い、彼が立ち上がれるよう、自分の手を取るように身を屈め、微笑む。古来この国で知られた愛を告げるフレーズでもあることを、ロシア製の少女は知るべくもない。だから青年は笑んで返すでもなく自分で立ち上がり、ああ、とだけ返した。 「この季節に月が綺麗だということは、夜が明けてその後さえそのとても寒くなるという約束ごとだ」 世界がどんどん冷たくなっていくのを月が教えてくれている。お前は感じてみたいか?そんな寒さを、人間のように 裸足のまま、たった今しがた慌ただしく内側から開錠され、彼の名を呼ぶ金茶色の頭の男の声がする非常口に向けて歩きつつ彼はつぶやいた 寂しさや心細さの、個人の体感に拠るしかないものの、より正確なデータが得られるかもしれない、こんな夜はそれで勝手に悲観的になりもする。バカな話だ。 そう言い、ごくごく微かに笑った彼に、それは素敵です、是非感知したいです、と少女は花でも咲くように笑って彼を見送ったあと、急に表情を消し、首を傾げ、ふむ、と自分の肩と腰と首を揉み解すような所作をした。 「『人形』を捨てた青年」 「何も知らない、知らなくて良かった、いくらかの孤独ではあっても望むものは全てあった揺り篭の15年、罪の意識と復讐心で他を求めること思い付かなかった4年、そして決して表には出さず怒り果てた2年、その後にできた、すきとおった、これ以上もう一滴も入らない不安とあきらめのカクテル」 私のアリサにも共有させるべきか、ここはとてもなやましいところだ。わが娘もまた、たかが世界を恐れつつ捨てられない、必要以上に純粋な方向に補正されてしまいそうではないか、 まるであの地の降りかかる雪のように、私が幼い頃、マフラーで受け止めたのをその場で三枚重ねのルーペで見たあの儚い雪の結晶のように、『ファウスト』の、暁に溶けるホムンクルスのように、つまり滅びこそが唯一の解であるかのように! だが、あるいは―― ――それはより良いわが娘を産み落とす、再生させる可能性をも内包し得るかもしれないね。 死なない「人形」から死にうる「人形」へと現状の我が「娘」を。ふむ。 翡翠色の大きな瞳が、紫煙かチェスボードの向こうにあるように、ゆる、ゆると行き来した ***
たまに老いた声でメッセージを届ける、地球のどこかにいるらしい少女の父親のそれではなく、今夜はあくまで機械少女の声でつぶやいた後、施錠するぞアリサとの声にはい、と応じて微笑み、バレリーナかアイスダンサーのような可憐なステップでビルの絶壁の上で踊るようにくるりと回ったあと、バックステップとスピンを交えて彼女は楽し気に戻る。 いらないと言ってもかぶせられた毛布をまとう、冷え切って顔色の悪い青年に対し一つ微笑み、その瞳をのぞき込んだ後、強い風が吹き荒れつつも黒く輝く空を仰ぎ、機械少女は言った。 「月がきれいですよ、風間仁」 (了)
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aco-holic · 7 years
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顔ですよ。カオ。  . 前髪を切りたいです。 いつまで言うのやら。 #どーっでもいい . #acoポシェット 【Mサイズ】 . 2017.4.9 #aco_works #aco顔 #月曜の雑貨とチャイ #また冬まで前髪事情を呟くのかしら #湿気や汗の季節になってしまったのだもの
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senjo0514 · 5 years
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予備校のキヒョン先輩のおはなし1
張り出された小テストの順位表。今月も先輩は上の方にいる。
好きですと言えないまままた冬が来て、そして先輩は本当に届かない存在になるんだな。ため息が白くなって余計に寂しくなるから早く帰ろう、と心で言いながら後ろから自転車に乗って呼びかけてくる先輩の姿を期待して今日も帰りは遅くなる。
10月21日
「キヒョナ!」
「お~!テストお疲れ~」
「順位表見た?」
「今月はダメだったわ」
「ダメであれって~ヤな男~」
「ミニョクが俺の上にいるんだろうが」
「ふふ~ん、今月は山があたった!さすが僕!」
「はいはい」
「あっヒョンウォナ~!」
「よ~」
「今日も厚着だね~、雪男みたい!ヌー…マだっけ?」
「ウーマね」
「それ~!」
 下のロビーからにぎやかな声が聞こえてくる。居残り課題と言い張り机に今日も突っ伏せていたことがバレないように参考書に目をやる。先輩が来るのをずっと時計を見て待っているなんて周りの塾生にバレたら、先生も巻き込んで冷やかされるんだろうな。
わたしの授業が終わって、先輩が来て、3年生の授業が始まる。わたしの先輩タイムは毎日5分。たった5分、されど5分!
「週末自習室行く?」
「俺は家でやろうかな、寒いし」
「僕も!寒すぎ!まだ10月だよ?!」
先輩たちの声が近づいてくるとわたしは慌てて参考書をしまう(ふりをする)お決まりのコース。
「お!今日も残ってる~居残りちゃん~」
「あ、すみません…!」
いつも必ず話しかけてくれるミニョク先輩。そのおかげで
「偉いね~」
キヒョン先輩と会話ができる。
マスクをかけた小さな耳を真っ赤にして、にこにこ教室に入ってくるキヒョン先輩。毎日私に「偉いね」と言ってくれる。今の私はこの瞬間のために生きてると言ってもいい。
キャメル色のカーディガンから指先だけを出して「おー寒い寒い」と言いながら参考書を並べだすキヒョン先輩。右耳の上だけ髪がはねてる。昼寝したのかな。
「そんなに変…?」
「えっ?!」
「頑張って直したんだけど、髪、はねちゃって…」
「全然です!むしろかわいいですよ!」
「あはは、ありがとう」
どんどん賑やかになる教室。もう少し先輩を見ていたい気持ちをぐっとこらえてプリントをぐしゃぐしゃと鞄に急いでつっこむ。そして「今日も頑張ってください」「ありがとう」という定型の会話で今日の先輩タイムも終わり。
「先輩、今日もがんばってくだ…」
「あっ」
「えっ?」
「ほっぺに寝跡ついてるよ~寝たの?」
「あ、ちょっと…。そんなに目立ちますか?」
「全然!むしろかわいいよ!」
「えっ?!」
「また木曜日ね」
「は、はい!」
 急いで教室を出て枕側にしていたほっぺをゴシゴシこする。先輩、今なんて…?わたしの言葉を真似して揶揄っただけだよね… 心ではそう唱えても口角は自然と上がってしまう。どうしよう、どうしよう、そもそもいつもと違う会話ができたことすら嬉しいのに、
外は昨日よりももっと冷えていて、思わず肩をすくめる。振り返ると塾の明かりが惜しくなるから今日はほっぺが熱いうちに早く帰らなきゃ
10月24日
「今日、駅前にタピオカ飲みに行く?」
「あーごめん今日も塾…」
「あ〜そうだった!今日木曜日だもんね」
「そう〜、ごめんね」
木曜日。やっと先輩に会える木曜日。まあ火曜日も会ったけど。それに木曜日は急いで塾に行かないといけない。だって
「先輩のためにおめかししないといけないしね?」
「えっ、ちょ、ちょっと」
木曜日は3年生の授業が先の日。だから私は一度着替えてしっかりメンテナンスをしてから塾に行くことができる。とはいってもいつもと同様先輩に会える時間は授業の入れ替えの5分だけ。たかが5分。されど5分。
「じゃあ頑張って!塾も恋も〜」
「もう、、ありがとう。タピオカ今度飲もうね」
教科書を鞄にしまい、駐輪場へと急ぐ。どこからか灯油のにおいがする。もうそんなに寒くなったんだな。冬は好きだけど、今年の冬は…。一瞬考え込んで頭を小さく振った。嫌なことは考えないでおこう。とにかく今日は木曜日だもん。
「それで僕、昨日雪男について調べて!」
「暇かよ」
「あれ本名はイエティって言うらしいんだけど、3種類?くらいあって全部ティがつくの!かわいくない?」
「ミニョティみたいな?」
「ミニョティ(笑)」
「そう!えっ?かわいくない?」
「ヒョンウォニティ」
「お茶みたい(笑)」
塾に着くと先輩たちは順位表の前で昨日のウーマの話の続きをしていた。最悪だ。前髪がうまくいかなくていつもより1分遅くついたせいで先輩たちがもうロビーに降りてきてしまっていた。最悪だ。いつもなら教室の中でお話しできるのに…。貴重な先輩タイムなのに…。そんなことを思いながら3人の話に耳を傾ける。
「お茶といえばタピオカだよね!飲み行く?」
「またホットタピオカかあ」
今日もオシャレで可愛いミニョク先輩。大きめのパーカーに細身のジーンズを履いて、スニーカーもバッチリブランドもの。アクセサリーの色と合わせてるのかな。塾に行くだけの格好とは思えないが基本がこのスタイルなのである。いつも帰り道のおやつに2人を誘うのはミニョク先輩。最近はめっぽうタピオカにハマっているらしい。
その横のヒョンウォン先輩は、なんたって塾の王子様。噂によると塾どころかこの地域の人なら誰もが知るアイドルらしい。たしかに違う高校に通う私でさえ高校の教室でヒョンウォン先輩という言葉を耳にする。白い肌に長い脚、潤んだ大きな瞳を覆うまつげには少し陰りがあるがそれもまた独特の雰囲気があった。あんなに綺麗だったら、逆に生きるのに苦労しそうだなあ、どうやって生きようかなあなんて取らぬ狸のことを考えてしまう。
「タピオカも飲みすぎるとよくないよ」
「キヒョンはまた母さんみたいなこと言う」
「だってよくないもん」
「無茶できるのも若いうちだよ!ね!」
「そうだよキヒョンママ」
「な、ママってなんだよ…」
でも今日もやっぱりキヒョン先輩が一番かっこいいな。
お話したかったな。階段を上る足取りが急に重くなる。教室で居残りしてるわたしは「偉い子」でも、ロビーをすれ違う時はただのモブキャラでしかない。
「キヒョ二、彼女いないんだって」
「そうなの?」
「というかつくらないんだって」
「なんで?」
「一年生のときに付き合ってた大学生の彼女に浮気されたらしいよ」
「え~最低!浮気?!」
「それでもういいや~ってなっちゃったらしい」
わたしが一年生のときに塾の休み時間に聞いた会話。先輩たちは同学年にとってもあこがれの存在らしく、女子先輩たちの話題になることも少なくなかった。
「まあ三年になったら受験忙しいし結果オーライじゃない?」
「大学入ったらすぐ彼女つくったりして」
「たしかに」
教室内の暖房は先週よりも強くなっていて嫌な火照りでぼーっとする。一年のときに聞いたその会話がふと思い出されて余計に頭が重い。あっついな、喉乾いたな、と思った時丁度授業は終わった。
順位表の上の方、「ユ ギヒョン」の文字。世界で一番好きな文字だな。一番好きな単語?言葉?よくわかんないけど、口にすると心臓がぎゅっとして体の内側が熱くなる名前。
「ユ ギヒョン」
誰もいなくなった空間でぽつりとつぶやいてみる。
「なに?」
「えっ?!」
振り向くとカーディガンのぽっけに手を突っ込んだキヒョン先輩がきょとんとした顔で立っていた。
「あはは、なにその顔。俺のがびっくりなんだけど?」
「あ、すみません…」
心臓のドキドキが早くなるのがわかる。先輩がいるから、は勿論なんだけど名前を呟いたところを見られてた…
「順位表、いつもみてるよね?」
「えっ、あ、はい…気になって…」
「俺は今月だめだったなあ、6位」
3年生、3クラスある中の6位。全然だめなんかじゃないのに。
「すごいですよ!」
「でもミニョクに負けたから。ヒョンウォンなんてい~っつも1位だし」
「でも…6もすごいです」
「そう~?ありがとう」
なんなら私はいつも先輩がいちばんなんだけど…
「うわ!外さむ!」
「うわあ…」
入り口の自動ドアが開くとあったまった体が一気に冷える。でも今日は外の冷たい空気がちょうどいい。
「お前ら早く帰れよ~」
「はーい」
「そういえば先輩今日はなんで遅いんですか?」
「ん?自習室いたの」
先輩は寒い寒いと呟きながら手袋をつけ、一瞬とまって猫みたいにあくびをした。手袋をつけた手をもそもそと動かし、カシャンという音とともに自転車のカギが開く。
「あれ?今日は歩き?」
「あ、いや遅刻しそうになって送ってもらったので迎えが来ます」
「そっか!じゃあ安心」
今日の先輩タイムももう終わりだな。でも今日はスペシャルエディションだったな!そんなことを思って上がる口角を隠すようにわたしは下を向いた。
「はい」
「?」
顔をあげると先輩が手袋を差し出していた。
「待ってる間寒いから、つけな」
「えっ、大丈夫ですよ!」
嬉しいけどきっと自転車の冷たい風から手を守るためにつけてきた手袋。ただ立って待つだけのわたしがつけるなんて忍びない。
「先輩の手が冷えちゃうし…自転車だと寒いですから」
「そう?じゃあ半分!」
先輩はそういうと手袋を片方だけ差し出し、「これに両手つっこみな~」とニコニコしていた。深緑色で雪柄の手袋。ずっと使ってるやつ。
「今度返してくれればいいから~」
「ありがとうございます、すみません…」
「いいって!風邪ひかないようにね」
ばいばーいと手を振るキヒョン先輩に手を振り返す。こんなに幸せでいいのかな、と貸してもらった手袋をつけてみると少し温かい。遠くなっていくキヒョン先輩の後ろ姿。やっぱりハンドルを握る手は片方だけ冷たそうだった。
「どうしたの?」
「…え?」
高校に入学してすぐ、この予備校に入った。正直高校受験を終えてまた塾に通うことは苦痛だったが、成績の優秀な兄が名門大学に入ったこともあり、わたしは母に同じようなレールを敷かれた。「やりたいことがないならとりあえず大学に入ればいい」そういわれて納得した気ではいたが、やっぱり勉強は辛い。辛いものは辛い。
初回の授業を終えた日、わたしは家のカギを忘れ母のパートが終わるまで時間をつぶさなくてはいけなかった。4月の夕方18時のこと、まだ空が暗くなるのが早い季節。
やるせなさでいっぱいになったわたしはコンビニの前で膝を抱えて座った。水たまりに浮かぶ桜の花びらを拾って爪にはっつけてみる。ネイルみたいできれいだな、ともう一枚拾っていた時、声をかけてくれたのがキヒョン先輩だった。
「なんか困ってる?」
コンビニの前で下を向いて水たまりに指を入れていたのだから困ってそうに見えるのも無理はない。先輩の前髪が春の夜風に揺れて心配そうな眉毛が見えた。
「自宅のカギを忘れて、しばらくここにいないといけないんです」
「あ~、大変だ…」
「はい…」
「ちょっとまってて」
先輩はそう言うとコンビニのドアに手をかけて
「肉まんとあんまんどっち派?」
とわたしに聞いた
「…あんまんです!」
と慌てて言うとあんまんね!と笑ってコンビニの中に入っていった。立ちあがって服を少しただしていると湯気の立った紙袋を持った先輩があついあついと言いながら出てきてわたしの横に並んだ。
「はい、半分」
「えっ、ありがとうございます…」
「ごめん、全部あげようと思ったんだけど俺もおなかすいちゃった」
「すみません…」
「へ?ひいよ~」
横を見ると先輩はもうあんまんを口に詰め込んでいた。
「あふいからきをふへて!」
熱そうな表情で必死に伝える先輩が面白くて、わかりました!と明るく返事をしてあんまんの紙袋をむいていると
「なにこれ?」
先輩が突然私の指をつかんで言った。
さっき爪につけた桜、全部とってなかった…言ったらバカにされるかも、恥ずかしいな、どうしよう、、と黙っていると
「きれい!俺もやりたい!」
「えっ?!」
先輩はそういうと残りのあんまんを口に放り込んでその場にしゃがみこんだ。水たまりに映る先輩の嬉しそうな顔が揺れている。
さっきまで隣に立っていたかっこいい男の人が突然躊躇なく水たまりに指をつっこむからわたしは呆然としてしまった。でもその何倍も嬉しかった。この一瞬だけで自分を認められたような気がしたから。
「みて!どう?」
「き、きれいです!」
「あはは、ありがとう!」
わたしの迎えが到着して母が車の窓から声をかけると、先輩はにこにこ笑顔でぺこっと頭をさげて颯爽と帰っていった。
桜をつけたままの爪の手で自転車のハンドルを握るキヒョン先輩の後ろ姿。それがその日から頭を離れなくなり、週2回の塾は憂鬱な場所から「好きな人に会える場所」に変わったのである。
11月2日
月一回の土日講習の日。今日は朝から各学年が入れ替わりに来る。3年生の授業は午前だから先輩タイムはなし。特に理由もないけど早く着いてしまった日には休憩スペースでお菓子を食べながら時間を潰す。机の上の参考書は相変わらず見てるフリ。
「あーーあと2点でS判だったのに!」
「まあまたすぐ模試あるっしょ」
聞き覚えのある賑やかな声に顔を上げると、ミニョク先輩とヒョンウォン先輩がコンビニの袋を提げて入ってくるのが見えた。そっか、3年生はもう佳境だから夜まで自習室にいるのかな。自分も1年後にはそうなると思うと、ゾッとする。
「ヒョンウォンはいけそう?第一志望」
「うん、A」
「そっかあ」
「僕もAだけど!ヒョンウォンの志望校のAと僕の志望校のAは重みが違うからな〜、あっそのじゃがりこちょーだい。何味?」
気づかれないように寝てるフリをしながら先輩たちの会話に耳を立てる。キヒョン先輩がいないから聞く必要はないかもしれないけど。
「キヒョニは」
「うん?」
「Bだったって」
「そうなんだ」
キヒョン先輩、B判定だったんだ。何だか聞いてはいけないことを聞いてしまったような罪悪感で一瞬胸が苦しくなる。片目を開けると、頬杖をつきながらコンビニの袋の横に置いた赤本をペラペラとめくるミニョク先輩の姿が入った。
毎年うちの塾からも何人か入る地元では有名なお堅くて頭のいい大学、ミニョク先輩はずっとそこが志望校らしい。チャラそうに見えて意外と将来の心配とかするタイプなんだなあ、なんておこがましいことを考えてしまう。
「だからほぼ毎日自習室にいるっぽい」
「タピオカも行ってくれないしね」
「そう!ほんとに美味しいのにーホットタピオカ!」
ほぼ毎日自習室にいる、ってことは毎日塾に来たら毎日会えるのかな、そんな思考に至るノーテンキな自分がまた嫌になる。先輩、勉強大変なんだろうな。先輩はどこの大学に行くんだろう。先輩の成績でBってことはミニョク先輩よりいい大学。じゃあ地元じゃ偏差値1位とか2位とかの大学かも。
「もっと寂しくなる��」
「んー?」
「俺とキヒョンが上京したら」
「そーだよ、当たり前じゃん」
上京?考えもしていなかった単語に頭が一瞬真っ白になる。暖房のかかった部屋で突然心臓だけが冷える感覚がした。
「3人でタピオカ飲めなくなっちゃうんだよ!」
「いつでも帰ってくるよ」
「嘘だね〜!ヒョンウォンは向こう行ったらまず家から出ないもん!どうせ布団の中でプチトマト食ってるだけで僕の電話にも気づかない!」
「てか午後の講義取ってなかったっけ」
「うわ!ほんとだ時間ヤバ!」
そっと両目を開けると慌てて赤本を鞄にしまうミニョク先輩と手を振って見送るヒョンウォン先輩が見えた。
「俺とキヒョンが上京したら。」 さっきのヒョンウォン先輩の言葉を心で復唱する。そうだよね、頭のいい大学に行く人はほとんど上京だよね、そっか、そうなんだ。
「来年になったらキヒョン先輩が地元で大学生をしている姿が見れる」勝手に脳が自分の都合のいい幻想を作っていたことに初めて気付き、目のフチに雫が溜まる感覚がした。このまま目を閉じたら雫がこぼれる気がして、ヒョンウォン先輩の白い腕に焦点を合わせて動かずにいた。
賑やかだった休憩室は途端に静かになり、暖房のゴーッという音だけがやたらにうるさく聞こえた。
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