Tumgik
#ミルク大好き
numasaaan · 7 months
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sayasaan · 2 years
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♡ ⁡ ⁡ #大人気のプリン ⁡ #天平の酪 奈良県の#天平庵 さんのプリン。 ⁡ なめらかで飲むようなプリン。 結構固めのプリンを好む私だけど ここのプリンは大好き♡ ミルク感もたっぷりなのでなお好き♡ ⁡ ⁡ #ここのプリンは差し入れられるとすぐに皆んな食べる #器も酪農ミルクの容器みたいでかわいい ⁡ ⁡ ⁡ ✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧ ⁡ #差し入れ #差し入れおやつ #差し入れスイーツ #差し入れありがとうございます #差し入れシリーズ #差し入れうれしい #スイーツ女子 #スイーツ記録 #スイーツ好きな人と繋がりたい #スイーツテロ #スイーツ部 #スイーツ大好き #スイーツタイム #スイーツなひととき #おやつ #おやつ大好き #おやつの時間 #ドラチコちゃん #チコちゃん #ドラゴンズ #ドラゴンズファン #ドラゴンズファンと繋がりたい #奈良スイーツ #奈良のうまいもん #なめらかプリン https://www.instagram.com/p/CnqKguwPUiH/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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fujiwhite · 6 months
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【Fanart】pop’n music/ミルク お誕生日絵に間に合わなかったけど…ミルク大好き♡
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chibiutsubo · 4 months
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#たべもの #クラフトビール
東京に遊びに行った時に、新橋のとっとりおかやま館で見つけた「ホワイトチョコレート独歩」
東京に行って、自分用に買ってきたおみやげ物が岡山土産……とよく分からないことになっていますが、アンテナショップ好きの私だとよくあることです。
岡山のビールである独歩は、クラフトビールがまだ地ビールと呼ばれていた時代の、かなり早い段階から出てきているビールです。1994年の酒税法改正で、大手ではなくてもビールを造って販売することが可能になり、最初の地ビールブームが起こります。ただ、当時の地ビールはお土産物の色合いも強く、あまり美味しくないものも多かった模様。ブームは数年で去り、タケノコのように増えていた地ビールのブルワリーも、ブームが下火になっていた時期に廃業や撤退したところが多かったようです。
ただその中でも、品質を追求し続けて生き残ってきたブルワリーのひとつが、独歩を造る宮下酒造。近年またクラフトビールブームでマイクロブルワリーのタケノコ状態になっていますが(ただ90年代とは違い、どこも個性や品質を追求してますけど)、下火の期間を生き残ってきた老舗ブルワリーはやっぱり貫禄が違うような気がします。
そんな独歩の……ホワイトチョコバージョン。チョコバージョンもあり、どちらにしような迷ったのですが、より味の想像できないホワイトチョコにしてみました。
ただ後から調べてみたら、てっきりチョコバージョンはスタウトかと思いきや、下面発酵と書いてあるのでスタウトではないっぽい。となるとこちらもどんな味なのか気になるところですが、とりあえずはまず、購入してきたホワイトチョコバージョンをば。
パッケージにほのかな甘みと書いてあるので、甘い……甘いのか……!?と覚悟して飲んだのですが、結論、甘くはありません。ゲテモノ系を覚悟して飲んだだけに拍子抜けでした。
以前、城端酒造さんのシロップ入りアールグレイのビールとか、そもそも独歩ピーチピルスもジュースのような甘みがあったので、その辺りを想像して飲んだのですが……。その辺りに比べると、普通にビールの味でした。
じゃあどこにホワイトチョコが感じられるのかというと、最後鼻に抜ける時の香りがちょっとだけミルク感があるような具合です。原材料を見るとホワイトチョコとスキムミルクが入っているので、それの香りでしょうか。
逆に言えば、そこまでホワイトチョコ感はないので安心して(?)飲めると思います。
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harawata44 · 2 months
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新千歳空港やスーパーで手にいれる! 地元民もイチオシの「北海道みやげ」6選 - ライブドアニュース
以下引用
●北海道は観光シーズン真っ只中を迎えようとしています!
 北海道を訪れるなら、どんなお土産を買うべきか悩むところ。今回は、「北海道土産(主に函館)」6選をご紹介!。お土産はもちろん、自分用にも買ってしまいたい絶品です!
新千歳空港でも買える絶品スイーツ「チーズオムレット」
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 まずは、函館の人気洋菓子店『ペイストリースナッフルス』の「チーズオムレット」。厳選されたミルクとチーズを使用し、職人が一つひとつ手作りするこの生菓子は、チーズのほどよい酸味とミルキーな甘さが絶妙な一品です。日持ちはしませんが、自分用や親しい人へのギフトにぴったりです。
トラピスト修道会が製造する「トラピストバター」
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 次に紹介するのは、北斗市のトラピスト修道会が製造する「トラピストバター」。フランスのシトー会修道院に伝わる伝統的な製法で作られる発酵バターで、一度食べたら一般的なバターには戻れないほどの美味しさです。ミルクのコク、香り、甘みを存分に堪能できます。 ●過去の掲載記事はこちらからチェック! https://www.syokuraku-web.com/bar-restaurant/84791/
『セイコーマート』限定「山わさび塩ラーメン 改」
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『セイコーマート』の「山わさび塩ラーメン 改」は、各メディアでも話題の一品。北海道ならではの山わさび(ホースラディッシュ)の強烈な刺激と骨太な塩スープがクセになります。筆者自身も帰省のたびにまとめ買いするほどの愛用品です。 ●過去の掲載記事はこちらからチェック! https://www.syokuraku-web.com/column/74572/
北海道限定のご当地ラーメン「スープカレーラーメン」
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 東洋水産の工場がある北海道だからこそ手に入る「スープカレーラーメン」。スパイシーなコクとチキンや野菜の旨みが絶妙で、トッピングに素揚げした野菜や鶏肉を加えるとより本格的に楽しめます。残ったスープでおじやを作るのも通な楽しみ方です。 ●過去の掲載記事はこちらからチェック! https://www.syokuraku-web.com/column/73185/
お酒好きにおすすめ「大人の塩辛 みそ味ラー油」
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 函館七飯町の『有限会社たかせ』が発売する「大人の塩辛 みそ味ラー油」は、辛党のおつまみにぴったり。味噌とワインで仕込んだイカの塩辛は、味噌のコクとラー油のピリ辛が絶品で、ご飯やバゲットにもよく合います。 ●過去の掲載記事はこちらからチェック! https://www.syokuraku-web.com/column/72413/
『ハセガワストア』の冷凍やきとり
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 最後に紹介するのは、函館のB級グルメ「やきとり弁当」を販売する『ハセガワストア』の冷凍やきとり。真空パックされたやきとりは湯煎するだけで炭火焼の香ばしさが蘇ります。濃い味の「塩ダレ」や「うま辛」、「みそ���れ」が特におすすめです。 ●過去の掲載記事はこちら。 https://www.syokuraku-web.com/gift/79918/
まとめ
 北海道旅行では、ぜひこれらのおすすめ土産を手に入れてみてください。友人や家族へのお土産、自分へのご褒美に最適です!旅行計画を立てる際の参考にしてください。
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lachatalovematcha · 1 year
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⬪:˵ˊ * ‧₊⊹ミルクが好き⬪:˵ˊ * ‧₊⊹
꒰ 🥄 ⊹ ˚ . 愛してる. com ᵎ ➶ . ˚ ༉‧ ៸៸ 絶.🍓 ִֶָ ҩ ♡🍓◞
ָ ⋆ ꒷꒦Darling darling はじめてを全部あげるよָ ⋆ ꒷꒦🎀 ָ ⋆ ꒷꒦Calling calling わかるまで 愛してるよ 絶対ָ ⋆ ꒷꒦🎀
💚🍩 更新完了☆ 🍓💎 🍬 ⋆ 🍫 🎀 Aishiteru.com🎀 🍫 ⋆ 🍬
˒ 🥛 ៸៸ ꒰ 大森靖子🎀꒱ 彡 ·˚が : (✿ ー ^𓂃: 🍋ᵎᵎ ␥ ◟ꗃ .. 🥛
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cuz-yummy · 21 days
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エシレ グラス(シトロン)
レモンの香りがよく溶け込んでいて、混ぜまれているレモンピールの苦味と食感が良いアクセントになっている。
ブールではミルクを強く感じたけど、何故かバターを強く感じる。甘さはブールより控えめでクリーミィ感はやや強め。でもあと味はくどくない。
あと蓋開けた時はレモンピールが見えなかったから、それ程入っていないかと思ったらそんな事なかった。ゴロゴロ入ってる。レモンピールの苦味がはっきりしてるから、そういう苦味が苦手な人は苦手かもしれない。好きな人は好きだろうな。私は大好き。クリーミィさと甘さと相まってバランス良い。美味しかった。
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rosysnow · 1 month
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孕むのは傷
学校にも行かず、同級生の家で、その母親と
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 身を起こしてベッドを降りた香乃が、カーテンを引いた窓の前に立ち、白昼の日射しに軆の線を浮かび上がらせる。
 睫毛。乳房。尻から脚。
 まくらに肘をついて頭を支え、俺は香乃がベッドスタンドの灰皿に残した煙草を、少し吸ってみる。まずい。思わず咳きこんでしまうと、香乃は緩やかな長い髪を揺らしてこちらを振り向き、笑った。
「浩平くんは、そんなの吸わなくていいのよ」
「香乃さんは、これうまいの?」
「旦那が吸うから、うつっただけよ」
 俺は舌打ちしてうつぶせると、煙草なんかより、甘い香乃の匂いが残るシーツの匂いを吸った。その匂いだけで、脳がほてって腰が焦れったくなる。
「もうお昼ね。何か食べていく?」
「うん」
「オムライス作ってあげる」
「ケチャップで俺の名前書いて」
 香乃は笑うと、床に落ちていた服を拾い、身にまとっていく。
 俺は高校二年の十七歳で、二十歳のときに俺のクラスメイトを生んだ香乃は、今年三十七歳だ。軆の線は完璧とは言えないけど、白い肉づきがあってむしろ俺はそそられる。
 浅葱色のチュニックとインディゴのパンツになった香乃は、こちらに来て、ベッドスタンドに投げたヘアゴムで髪をひとつに縛る。
「香乃さん」
「なあに」
「キスしたい」
 薄化粧の香乃は、俺を見て、ベッドサイドに腰かけるとシーツに手をついた。俺も上体を起こし、香乃の首に腕をまわして、彼女の顔を引き寄せる。
 息遣いがほてっている。唇が触れあって、互いに舌をさしこんで絡めて、水音が跳ねる。息を止め、熱く柔らかい舌で相手をむさぼり、俺はもっと香乃を抱き寄せて乳房をつかんだ。
 すると香乃は唇をちぎり、「キスだけ」と俺のまだ剥き出しの肩を押して、軆を離した。
「けっこう勃ったんですけど」
 香乃は俺の陰毛から頭をもたげるそれを見て、「仕方ないなあ」と指を絡みつけ、手で刺激してくる。香乃の指は白くて、それが繊細に動いて、股間にミルクがしたたっているみたいだ。
 俺はシーツの上を座りなおして、取り留めのないため息をこぼす。集中する血に堅くなって血管が走りはじめる。俺は香乃にキスをして、息遣いがかかる距離でささやく。
「口でしてよ」
 香乃は肩をすくめると、ベッドに乗って、俺の脚のあいだに膝をついて股間に顔を埋めた。ぬるり、と熱っぽい濡れた感触が性器を包んで、それがうごめいて吸ったり締めつけたり、俺の喉からは声が垂れる。
 すする音が耳を淫靡に撫で、俺は香乃の茶色の髪をまさぐって、舌の動きに連動して腰を動かす。ただ気持ちよかったのが、一気に屋上への階段をのぼるように、快感が駆け上がりはじめる。息遣いが深くなって、声が虚空を引っかく。
「やば、出る、……っ」
 言った瞬間、香乃の口の中にたっぷり吐き出していた。びくん、びくん、と名残る反応で長く射精が続く。香乃はそれを全部飲みこんで顔を上げ、少し口元に垂れた精液も、指をすくって口に含んだ。
「おいしいの?」
「浩平くんは、味がなくて飲みやすい」
「旦那は?」
「あの人のは煙草の味がする���」
 そんなもんなのか、と俺も床の下着と紺のスラックスを拾った。
 学校にも行かず、同級生の家で、その母親と情事にふけって。もともと親にはあきらめられているけれど、知られたら勘当でもされるのだろうか。
 あの人たちは姉貴しか見てないからなあ、と俺はスラックスに脚を通して、ベッドを立ち上がる。「ごはん作ってくる」と香乃は煙草をつぶしてからダブルベッドの寝室を出ていき、俺は制服を着ると、さっき香乃がいた窓辺に立ってみた。
 カーテンはぶあつく、くしゃくしゃと適当にまとめられて、レースカーテンの模様が壁に映っている。
 腕時計を見ると、時刻は十三時前だった。残暑の日射しはまばゆく、目を細めてしまう。
 俺はカーテンに手をかけ、それに包まってみる。確かに、あの煙草の匂いがした。しょせん、香乃が大切に想っているのはその男なのだ。なのに、何で俺は、香乃に恋をしてしまっているのだろう。
 寝室を出て、ダイニングに向かうと、たまごとバターの柔らかな匂いがただよっていた。
 白い壁には、絵画のような額縁で家族写真が飾られ、オブジェにも見える時計が秒針を刻んでいる。広いテーブルクロスは真っ白で、裾に同じ白糸の目立たない花の刺繍がある。
 俺は椅子を引いて座ると、テーブルの真ん中のピンクのガーベラに触れた。ここに生けられる花は、毎朝香乃が変えているらしい。
 俺の家は、親父が医者の格式ばった金持ちだが、ここの旦那も、駅前の調剤薬局を経営する稼ぎのいい男なのだそうだ。俺の親父が勤める病院と、その薬局が提携しているのが分かって、佑輔──香乃��息子と俺は、何となく話すようになっていた。
 香乃に出逢ったのは、梅雨がまだ開けない七月だった。期末考査の勉強のため、佑輔に誘われてこの家に来て、ひと目惚れした。
 佑輔は部屋にいた。俺は廊下でつかまえた香乃に、無理やりキスをして、あの煙草の味を感じながら、服越しに勃起を押しつけた。抵抗していた香乃の乳房の突起を指でこすると、香乃は俺を洗面所に連れこんで口でした。そのときも全部飲んでいた気がする。
 荒っぽい息を噛んでいると、不意に「浩平ー?」と佑輔の声がして、俺は慌てて答えながらファスナーを正した。生徒手帳のページを破って、香乃に連絡先の走り書きを握らせた。それから、俺と香乃は、この家が空っぽになると軆を結びつけている。
 テーブルに頬杖をつき、スマホを取り出して画面を起こす。何の着信もない。別にこちらから連絡する相手もいない。
 平日の午前九時、香乃にメールをして、香乃以外留守だと返ってくると、俺はこの家に来る。このスマホは、ほとんどそれだけに使う。そして、帰り道にメールは全部削除する。
 何も残らないのにな、と思う。そんなふうに、削除してしまうメールみたいに。
 どんなに軆を重ねても、俺と香乃には何も残らない。埋まらない穴が深くなっていくだけだ。
 俺は「もうやめる」のひと言が言えないし、香乃も「もうやめて」のひと言を言わない。俺は香乃をつらぬいて、奥まで突いて、でもそうすることで、俺は香乃の愛情に包まれたりなんかしていない。単に、自分の心に、空洞を空けている。
 こんなに香乃を愛しているのに、愛おしくてたまらないのに、何も生まれない。香乃を抱くほど、俺は腫れ上がる気持ちを押し殺している。誰にも届かない膿んだ心を持て余し、結局それは、床に踏みつけるしかない。
 そして、感情が流出する。感覚を喪失していく。
 香乃が作ったオムライスを食べると、リビングのカウチでもたれあって、キスをしたり服の上から触れ合ったりする。引いたカーテンの向こうからの日射しが、指先や衣擦れに陰影を作る。
 触って。舐めて。入れて。
 そんな言葉は交わすのに、「好き」とは言わない。それが、俺と香乃の距離なのだろうか。
 俺にまたがった香乃が、腰を沈めて俺の首にしがみつく。どろどろに濡れた熱が吸いついてくる。俺は香乃の太腿をつかんでもっと奥まで突き刺して、お互いうわずった声を出して、腰の動きを縺れあわせて快感をいたぶる。
 香乃の顔を見た。濃くない化粧。しっとり上気する肌、睫毛が縁取る瞳、薄く色づく唇。
 長い髪をほどくと、さらさらと乱れた服の上を流れる。その軆を腕に抱くと、感触は柔らかくふっくらとしている。うなじに舌を這わせると、香乃も俺の軆に抱きついた。
 つながった性器が、熟れた果実みたいな潤んだ音を立てている。腰が蕩けてふわりとあふれそうになるのに、それをぎゅっとこらえて我慢する。
 いつも俺は、十五時にこの家をあとにする。それまでぎりぎりまでつながって、絶頂を焦らして、息や声を崩している。
 俺たちは、軆の相性はいいのだと思う。「もういく?」と訊くと、香乃はうなずき、俺は香乃を前倒しにして後ろから攻める。攻めながら核を撫でると、それで香乃はきゅうっと俺を締めつけてきて、まもなく俺たちは、ほぼ同時に達する。
 香乃は床に崩れ落ちて、それでも、俺の股間を舐めて片づけてくれる。ティッシュとか、証拠を残せないのもあるのだが。
 俺は制服を正し、香乃も身なりをきちんと戻し、「じゃあまた」と玄関先で別れる。
 香乃とセックスをしていると、そのあともっと虚しくなるのも忘れて、ちょっとだけ息が楽になるのだ。俺は、子供の頃から生きている実感がなかった。自分は必要のない存在だと感じていた。
 俺は、跡取りとして男が欲しかったから作られただけの子供だ。でも、昔から医者になる気はなかった。そんな脳みそもなかった。だから結局、優等生の姉が両親の期待を背負って、両親には俺は作らなければよかった存在になった。
 姉は今、二十歳で、医大に通って、浮いたうわさもなく、卒業後に備えた見合いまでしたりしている。そんな姉を俺は軽蔑しているが、姉もこんな俺を軽蔑している。
 両親は、俺が学校をサボっているのを知っているはずなのに、何も訊いてこない。
 誰も俺のことなんて見てくれない。
 香乃だってそうだと、終わると気づいて一番傷つくのだけど、交わっているあいだは香乃は確かに俺を求めてくれて、自分が認められているように感じる。だから、俺は香乃に会いにいってしまう。
 どんどん、奪われていく。埋まらない心を満たそうとしているのに、何だよこの関係?
 不倫。人妻。友達の母親。
 むしろ正気とか倫理とかを失くしていっている。
『お前、二学期から出席日数ほとんどないだろ。
 今度の中間落としたら留年らしいぞ。』
 十月になって、中間考査が近づいてくると、佑輔がそんなメールをよこした。『もうこのまま退学でもいい。』と返すと、電話がかかってきて説教された。『明日、俺の家に来い』と佑輔は言った。
『付け焼き刃だけど、平均点取れるポイントを詰めこんでやる』
 お前んちにはほぼ毎日邪魔してんだけどな、と思いつつ、『分かった』と返した。
 俺が留年しようが退学しようが、進級しようが卒業しようが、親が関心を持たないのは同じだと思うが。
 ああ、何だかもう、香乃を連れて駆け落ちでもしたい。そう思って、白昼夢のようなバカげた未来に、自分で嗤ってしまった。
 青空からの風が涼しくなってきた翌日、久々に学校に顔を出して、いろんな教師にちくちく言われた。ここでも俺は、いらない存在だ。俺みたいな劣等生は、在籍しているだけで学校の不名誉なのだろう。
 やる気もなくつくえに伏せっていると、女の子が話しかけてくることはある。ダイエットに命を懸ける同い年の女の子の脚は細く、腰も華奢で、腕もすらりと長い。俺はそれに魅力を感じない。
 指先が食いこむ弾力、噛みちぎりたい厚み、ふくよかな腰まわり。香乃のあの官能的な曲線が好きだ。俺はまたつくえに顔を伏せ、彼女たちが何か言っても、何も聞かなかった。
 放課後になると、佑輔に引っ張られて家に連れていかれた。今日は佑輔に連れていかれると香乃にメールしていたから、香乃は驚いた顔を微塵も見せず、対応した。
 完全に俺を「息子の友達」として見て、笑顔で接して、関係があるなんてまったく見せない。何だかそれが悔しかったけど、香乃にちょっかいをかける前に、佑輔が勉強会を始めたので仕方なくつきあった。でも、集中力もやる気も出ないし、そんなことより香乃に少しでも触りたかった。
「佑輔」
「ん? 解けたか」
「やっぱ俺、学校辞める」
「あのなあ──」
「どうせ、平均点取ったって意味ないし。全国トップでも取らないと、親は俺を見ないよ」
「学校辞めてどうすんだよ」
「好きな人と遠くに行きたい」
「その前に彼女いんのか」
「………、好きな人はいる」
「マジか。校外か」
「すげえ好きなんだ」
「ほう」
「もう……好きなのに、何で、本気だって分かってもらえないんだよ」
 佑輔は肩をすくめて、「高卒ないと、好きな女にプレゼントもできないぜ」とノートをペンでたたいた。俺はうめいて、シャーペンを持ち直して白紙のノートを見つめた。が、一分も持たずにペンを投げて結局立ち上がり、「おい」と佑輔に言われると、「便所借りる」と返して俺は部屋を出た。
 キッチンから甘い匂いがしていたから、そちらに向かった。香乃が電子レンジを覗きこんでいた。
「何作ってるの」と歩み寄ると、香乃はこちらを見て、「焼きプリンができるから、少し待っててね」と“友達の母親”の顔と口調で微笑んだ。
「男子高校生に焼きプリンって」
「佑輔は好きなんだよね」
「ふうん」
 香乃の髪に触れようとした。が、それはうまくかわされて、にっこりと微笑まれる。
「もう少しで持っていくから、佑輔にも言っておいてちょうだいね」
 頭の中に、鋭い静電気が走る。俺は強引に香乃の腕をつかんで、引っ張って、深くキスをした。煙草の味。が、すぐに遠慮なく舌を噛まれたから、びっくりして顔を離す。
 香乃は少し怖い顔をしていて、「私との関係がどうでもいいの?」と言った。俺は、その言葉の意味をとっさに測りかねた。けど、だけど、それはずるいだろ、とは思った。
 どうでもよくないよ。香乃を連れて逃げたいよ。でも叶わないんだろ? どうせ香乃は、旦那と佑輔が大事なんだろ? だったら俺は、それをぶっ壊したいのに──
 ぶっ壊さなければ、あんたは俺のそばにいるっていうのか? 何だよ、それ。そんな矛盾、あんたには都合がいいだろうけど、俺にはひたすら傷がつくじゃないか。
 俺は佑輔の部屋から荷物を取って、カラメルの甘い香りがただようその家を立ち去った。胸に空いた穴で、息が苦しかった。
 俺は愛されていない。香乃にも愛されちゃいないのだ。香乃に愛してもらえるなら、誰に突き飛ばされても平気だと思えたのに、やっぱり香乃だって俺のことなんて見てくれない。そもそも手に入れていなかったけど、それでも、香乃への片想いすら否定されて心が吹き抜けて、その空洞が俺をつらぬいて意識を彷徨わせる。
 やがて、中間考査が終わった。俺はもちろん及第点を取れず、オール赤点だった。だが、それに触れることもしない家族と夕食を取り、夜中、リビングのPCで学校のホームページにアクセスして、退学届のPDFをダウンロードして印刷した。
 もうやめよう。ぜんぶやめよう。学校も家もいらない。待ってくれと止めてもくれない。これからどうしていくのかは考えていないけど、とりあえず、今をすべてやめたい。
 退学届を提出する前の日、香乃を訪ねた。その日も、影を映すカーテンがかかる寝室でつながった。事が終わると、高校を退学することを話した。ついでに家のことも話した。香乃はあんまり興味もなさそうに、煙草を吸っていた。
「もう全部やめる」と言ったところで、香乃は灰皿で火種を消して、ベッドを降り、カーテンにもぐって少し窓を開けた。カーテンがふわりとふくらんで、香乃のシルエットが透ける。
 あのカーテンにも、この旦那の煙草の匂いがしたっけ。それに包まれる香乃は、やっぱり俺には手が届かない人なのだ。「たぶん」と俺はこの言葉をつけくわえた。
「香乃さんとも、今日でおしまいだ」
 日射しに浮かぶ香乃のシルエットは、微動もしない。
 笑っているか。泣いているか。それも分からない。
 そんなふうに、俺には香乃の心は分からないままなのだろう。捕まえられないのだ。どんなに手を伸ばしても、結婚して息子もいる香乃には、あのカーテンのようなぶあつい膜があって、俺には触れられない。
 香乃だけじゃない。今まで俺がかかわった人すべてが、俺を満たしてくれなかった。みんな、俺を通り過ぎていった。今までと同じじゃないか。なのに、香乃を失うと思うと、なぜこんなに痛いのだろう。
 日射しを受けるカーテンが秋風に揺れて、壁の影がひらひら動く。カーテンに染みついた煙草の匂いも、舞いこんでくる。それに包まる香乃は、やっぱり何も言わずにシルエットしか見せない。
「もう来ないよ」
 最後だと思って、小さくつぶやいた。沈黙が流れた。風の音だけが低くすりぬけた。
 ふと窓を閉めた香乃は、こつん、とガラスに額を当てた。
「そうしたほうがいいわ」
「……うん」
「私も、堕ろすつもりだから」
 俺は目を見開いた。
 香乃のシルエットは動かない。俺は段々と目を落とし、心がぱっくり裂けるのを感じた。
 そう、こうしてまた失う。やっぱり、失うのだ。
 そして、空っぽの心は、傷口だけ孕む。
 FIN
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kennak · 2 months
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終わった!終わった!子育て終わった!! 子どもとか死んでも産みたくなかったのに全部俺と両親で育てるからって夫に毎日土下座されて養子とろうって話しても駄目で、私みたいなのを引き取ってくれた優しい夫と義両親の為に仕方なく産んだ!!! なのに予定日2週間前に夫が事故で死んだ!! 義両親は夫が亡くなったショックで鬱になって頼れないし実家とは絶縁してるしどこにも頼れなかった!! 養子に出そうと思ったけど相談しに行っても母子手当っていうのが始まったから大丈夫って説得してくんの!!私は育てたくないっつってんのに!!! でもいくら言っても分かってくれないから仕方なく職場に頭下げて事情話して勤務を短くしてもらって働き出した!! 目を離したら死ぬ生き物相手に毎日毎日おかしくなりそうだった!!いや元々おかしいか!!鬱だったし!!! ままーって言いながら伸ばされる手が小さすぎて壊しそうでいっつも恐々抱っこしてた!!��かいたかいとか無理落としそう!!!抱っこしてる間ヨダレが服に染みて冷たいのに子どもは体温高くてあっついからなんかめちゃくちゃだった!!! ミルクじゃなくなって食事食べられるようになってからはもっと困った!!!子ども卵アレルギーなんだけど私が子どもの頃食べさせてもらってたのは具なしの卵チャーハンぐらいだったしそれ以外は気まぐれに寄越されるピザとか食べ残しの名前も知らない惣菜とかで、子どもには何食べさせたら良いのか分かんなくてめちゃくちゃ本で調べた!!! 箸の持ち方も夫に矯正してもらったけど自信なかったから義両親に頭下げてお手本になってもらったりした!! 箸の持ち方だけじゃなく、何かにつけて殴られて育ったし褒められた記憶とか無いからどんなふうに接して良いか全然わかんなかった!!でも私みたいに変な子だっていじめられて欲しくないから児童館みたいな集会所?にたくさん連れて行って品が良さそうな人の言葉や接し方を真似したり仲良くなってくれた人に頭下げて接し方とか怒り方とか褒め方とか色々教わった!!! 勉強もできる方じゃないから算数の教科書に載ってる基礎問題はよくてもチャレンジ問題とかは全然できなくて教えられなくて子どもと一緒に悩むばっかだった!!そのたんびにあーやっぱ施設入れとけばこの子にはもっと良い親と家庭環境が与えられたかもしれないのに、だから私みたいなのは産んじゃいけなかったし育てたくなかったのにごめんねごめんねって泣きたくなった!!!嘘泣いた!!夜中にひっそりトイレで!!!臭かった!!! 中学になって反抗期迎えて「うるせえババア」って言われた時、愛情をしっかり与えられて育った子は甘えてもいいって思ってるから暴言を吐くって本で習って知ってたから嬉しくてワンワン泣いた!!!そうか!!!私はあなたを愛せてたか!!!そう感じ取ってくれたか!!!めちゃくちゃ嬉しいよ!!!せめてそれだけはよかったよ!!!! そのあとしょんぼりして謝ってきたけど悲しくて泣いたんじゃないよ!!!本当に嬉しかったんだよ!!!また泣いちゃいそうで言えなかったけどさ!!! 高校入ってギターとか始めてラップとかもやるようになって、そういえば子供のころラップの曲たくさん聞いてたからかーちゃんあと少しでラッパーになるところだったって言ったら血だねぇってしみじみ言われて笑った!!そうだね私が産んだ子だもんね!! そんで大学に入ったらサークルとバイトばっかであんまり喋らなかったりしたけどそれでも元気そうなのは分かってたからよかったよ!!! 時々時間が合った時に経済学部入ったけど将来何すんの?って聞いたら子どもに関わる職業って言われて仰天した!! なんで教育学部とかじゃないのって聞いたら学校以外で子どもにアプローチできる事業を模索している、学校で教える為の内容を学んでも意味がないからとかなんとか言ってた!!! というか子ども好きだったの?って聞いたら好きだよ、でも恥ずいからお母さんには内緒だったけど、って言われてなんて言えば良いか分かんなくて黙っちゃった!!! 私アンタが生まれる前までは子どもうっすら嫌いだったよ!! 見てると辛かった子ども時代の自分のこと思い出すからさ!!! 生まれたアンタ見てそんな気持ち運良く吹っ飛んだけどさ!! ラッパーの話の時に、血だねえって言われた時本当はドキッとしてたよ!! だって私あのクソ共の娘だからさ、なにか受け継いでんじゃ無いかって思ってさ!! でもアンタ子ども好きだったんだ!! よかった!!! やっぱ血とか関係ないわ!!! それから大学卒業して、私の子どもは無事子どもに関わる仕事についた!! 就職して落ち着くまでは実家にいるっていってて、この度ようやく子どもが家を出た!! 晴れやかな笑顔でブンブン手を振って歩いてった!! 夫!!! 見てるか夫!!!! お前の代わりに死に物狂いでいい子に育てたぞ!!! 私が母親で幸せだったかとかは怖くて聞けなかったけど!!! でもこれ以上無いぐらい精一杯やったぞ!!! 子育てやり遂げたぞ!!! 愛してるぞ!!!幸せになれよ!!!
子育て終わった!やったーー!!【問い合わせに関する追記】
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pix-ied · 2 months
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24年7月1週目
週末にディズニーランドへ。このペースは本当に大学生以来だな。でも最近、いつ行っても楽しかったなと思えるのは新鮮さを取り戻しているから。大きいのはレストラン開拓だと思う。アトラクションは全て経験済み。そこにそれなりに満足してしまっていたけど、レストランは若い頃はファストフード的なお店や食べ歩きがメインで未開拓の地だったので、そこは開拓のしがいがある。今回はイーストサイド・カフェへ。ここは子供の頃、けっこう母に連れられて行っていたのだけれど、約30年ぶりに訪れたのでほぼ初めても同然。子供の時は、バナナチップが乗っているパフェかプリンアラモード的なものを食べていた気がする。今回はパスタと前菜のセット。前菜の味はこの間のシーのカナレットよりも美味しかった気がする。こちらの方が大衆的なのかもしれない。パスタもモチモチで塩みも少なめで好みだった。店内のBGMはワールドバザール内と同じだった。先日パークのBGMを演奏するバンドを観に行ったので、音楽が前以上に気になってしまった。おやつに飲んだカフェ・オーリンズのコーヒー・ミルク・スムージーがものすごく美味しかった。また飲みたいけど、いつ、という話。日本のディズニーはご飯が美味しすぎるという話をした。美味しいご飯がもはや目的の1つとなっていると思う。そんなに興味はないけれど、ブッフェやショー付のレストランにもそのうちトライしてみよう。海外ディズニーにも頑張って欲しい。暑かったので、こちらも数年ぶりにチキルームやカントリーベアシアターのサマーヴァケーションヴァージョンを見た。特にカントリーベアシアターは子供の頃よりも年を取った今の方が元の曲を知っていたりと年を取ることの良さを感じた。
今回のディズニーで改めて、楽しさには新鮮さが必要なんじゃないかと思った。新しいことは一気に開放しないで少しずつやること。物足りなさを残すこと。地味に楽しく生きていくためのコツの気がする。
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oniwabanryoko · 3 months
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オートミールでキムチチャーハン。
ゴーヤの梅おかか和え。千切り大根のお味噌汁。
やる気ない日のオートミールチャーハンw
月に一度か二度くらい、身体が思ったように動かないことにイライラが爆発する。正直、何にもしたくない。
それでも頑張って自炊できた日は、自分にご褒美をあげる。添加物とか砂糖とか糖質とか考えない、ただ好きなだけのアイスとか食べる。
最近のお気に入りは、赤城乳業の自分で砕くチョコミント。これ美味しい。
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俺たちの赤城乳業。ガリガリ君やガツンとミカンみたいな氷菓も大好きだけど、ミルクやチョコ系も美味しくて、このチョコミントが一番好き。
アイスクリームは手作り最強なんだけど、チョコミントは作ったことないし、いつも行く業スーにあるからついつい買ってしまうw
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kurihara-yumeko · 6 months
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【小説】コーヒーとふたり (上)
 休日に喫茶店へ行くことは、加治木零果にとって唯一、趣味と呼べる行動である。
 喫茶店へ行き、コーヒーを飲む。時刻はだいたい午後二時から三時。誰かと連れ立って行くことはない。常にひとりだ。行き先も、決まった店という訳ではない。その時の気分、もしくはその日の予定によって変える。
 頼むのは、コーヒーを一杯。豆の銘柄やどのブレンドにするかは店によってだが、基本的にブラック。砂糖もミルクも好まない。軽食やスイーツを注文するということも滅多にない。ただ一杯のコーヒーを飲む、それだけ。
 彼女は喫茶店では本を読まないし、パソコンも開かない。スマートフォンにさえ触れないこともある。コーヒーを飲み終えたら、すぐに店を出て行く。たとえその一杯がどんなに美味でも、二杯目を頼むことはない。時間にすればほんの数十分間。一時間もいない。それでも彼女は休日になると、喫茶店へ行き、コーヒーを飲む。
 零果がその店を訪れたのは二回目だった。最初に訪れたのは、かれこれ半年近く前のことだ。
 たまたま通りかかった時にその店を見つけた。「こんなところに喫茶店があったのか」と思った。喫茶店があるのは二階で、一階は不動産屋。賃貸マンションの間取り図がびっしりと貼り付けられているガラス窓の隣に、申し訳なさ程度に喫茶店の看板が出ていた。
 細く狭い階段を上った先にその店はあり、店内は狭いながらも落ち着きのある雰囲気だった。歴史のある店なのか、年老いたマスター同様に古びた趣があるのが気に入った。コーヒーも決して不味くはなかった。出されたカップもアンティーク調で素敵だと思った。
 しかしその後、零果の喫茶店リストの中で、その店はなかなか選ばれなかった。その店の立地が、彼女のアパートの最寄り駅から微妙に離れた駅の近くだったからだ。「わざわざあの駅で降りるのはちょっとな……」と思っていた。けれど、最近同じ店に行ってばかりだ。今週末は、普段あまり行かない店に行こう。それでその日、その店を選んだ。
 けれど、その選択は失敗だった。
「あれ? 加治木さん?」
 そう声をかけられた時、零果は運ばれて来たばかりのコーヒーをひと口飲もうとしているところだった。カップの縁に唇を付けたまま、彼女はそちらへと目を向ける。
 その人物はちょうど、この店に入って来たところだった。そして偶然にも、零果は店の入り口に最も近い席に案内されていた。入店して真っ先に目につく席に知人が座っているのだから、彼が声をかけてきたのは当然と言えば当然だった。しかし、零果は彼――営業部二課の戸瀬健吾に声をかけられたことが衝撃だった。
「こんなところで会うなんて、奇遇だね」
 戸瀬はいつもの人当たりの良い笑みを浮かべてそう言ったが、零果は反応できなかった。驚きのあまり、何も言葉が出て来ない。しかし彼女の無言に気を悪くした様子はなかった。
「俺はよくこの店にコーヒーを飲みに来るんだけど、加治木さんもよく来るの?」
 笑顔で尋ねてくる戸瀬に、零果はカップを口元から離してソーサーの上へと戻しながら、「いえ、その……たまに……」と、かろうじて答える。この店に来たのは二度目だったが、そう答えるのはなんとなく抵抗があった。あまり自分のことを他人に明かしたくない、という彼女の無意識が、曖昧な表現を選んでいた。
「そうなんだ。ここのコーヒー、美味いよね。あ、じゃあ、また」
 やっと店の奥から店員が現れ、戸瀬は空いている席へと案内されて行った。幸いなことに、彼の席は零果から離れているようだ。大きな古めかしい本棚の向こう側である。
 戸瀬の姿が見えなくなってから、零果はほっと息をついた。休日に同僚と顔を合わせることになるとは、なんて不運なのだろう。その上、場所が喫茶店だというところがツイていない。
 改めてコーヒーを口元へ運んだが、未だ動揺が収まらない。半年前に来店した時は悪くなかったはずのブルーマウンテンブレンドだが、戸瀬の顔を見た後の今となっては、味の良し悪しなどわからなかった。香りも風味も台無しだ。コーヒーカップのブルーストライプ柄でさえ、「さっき彼が似たような柄のシャツを着ていなかったか?」と思うと途端にダサく思えてくる。
 それに加えて、戸瀬は先程、こう言った、「俺はよくこの店にコーヒーを飲みに来るんだけど、加治木さんもよく来るの?」。
 その言葉で、彼女の喫茶店リストから、この店が二重線を引かれ消されていく。
 同僚が常連客となっている喫茶店に足を運ぶなんて御免だ。二度目の来店でその事実を確認できたことは、不幸中の幸いだったと思うしかない。数回通い、この店で嗜むコーヒーの魅力に気付いてしまってからでは、店をリストから削除することが心苦しかったはずだ。ある意味、今日は幸運だった。この店は最初からハズレだったのだ。
 零果は自分にそう言い聞かせながらコーヒーを飲む。味わうのではなく、ただ飲む。液体を口に含み、喉奥へと流す。せっかく、いい店を見つけたと思ったのに。うちの最寄りから、五駅離れているのに。飲み込んだ端から、落胆とも悔しさとも区別できない感情がふつふつと沸き上がってくる。その感情ごと、コーヒーを流し込む。
 早くこの店を出よう。零果は、一刻も早くコーヒーを飲み干してこの店を出ること、そのことに意識を集中させていた。
 コーヒーを残して店を出ればいいのだが、出されたコーヒーを残すという選択肢はなかった。彼女は今まで、たとえどんなに不味い店に当たってしまっても、必ずコーヒーを飲み干してきた。零果にとってそれはルールであり、そのルールを順守しようとするのが彼女の性格の表れだった。
 先程入店したばかりの客が熱々のコーヒーを急いで飲み干してカウンターの前に現れても、店の主人は特に驚いた様子を見せなかった。慣れた手つきで零果にお釣りを渡す。
「ごちそうさまでした」
 財布をショルダーバッグに仕舞いながら、零果は店を出て行く。「またのお越しを」という声を背中で受け止め、もう二度とこの店に足を運ぶことはないだろうな、と思い、そのことを残念に思った。深い溜め息をついて階段を降り、駅までの道を歩き出す。
 店の雰囲気は悪くなかった。コーヒーだって悪くない。ただ、戸瀬の行きつけの店だった。
 否、それは戸瀬個人に問題があるという意味ではない。彼の物腰柔らかで人当たりの良い態度や、その温厚な性格は職場内でも定評があるし、営業職としての優秀さについても、零果はよくわかっている。
 そうではなく、零果はただ、同僚に会いたくないだけなのだ。休日に喫茶店でコーヒーを飲んでいる時だけは。唯一、彼女にとって趣味と呼べるであろう、その時間だけは。知り合いには誰とも会うことなく、ひとりでいたい。平日の書類とメールの山に抹殺されそうな多忙さを忘れ、心も身体も落ち着かせたい。そのためには極力、同僚の顔は見ないで過ごしたい。
 駅に着くと、ちょうど零果のアパートの最寄り駅方面へ向かう電車が、ホームに入って来たところだった。このまま家に帰るだけというのも味気ない、と思いかけていた零果であったが、目の前に停車した電車を目にし、「これはもう、家に帰れということかもしれない」と思い直した。もうこの後は、家で大人しく過ごすとしよう。
 そう思って、電車に乗り込む。車両の中にはすでに数人の乗客が座っており、発車までの数分を待っている様子であった。零果は空いていた座席に腰を降ろそうとし、そこで、自分の腰の辺りで振動を感じた。バッグに入れてあるスマートフォンだ、と気付いた。その一瞬、彼女はスマホを手に取ることを躊躇った。
 バイブレーションの長さから、それがメールやアプリの通知ではなく着信を知らせるものだということはわかっていた。休日の零果に電話をかけてくる相手というのは限られている。候補になりそうな数人の顔を思い浮かべてみたが、誰からの着信であっても嬉しいニュースであるとは思えない。
 座席に腰を降ろし、スマートフォンを取り出す。そこで、バイブレーションは止まった。零果が呼び出しに応じなかったので、相手が電話を切ったのだ。不在着信を示すアイコンをタップすると、発信者の名前が表示された。
 有武朋洋という、その名前を見た途端、めまいを覚えた。ちょうど、午後四時になろうとしているところだった。判断に迷う時間帯ではあったが、この電話は恐らく、今夜食事に誘おうとしている内容ではないだろうと、零果は確信していた。
 膝の上でショルダーバッグを抱き締めたまま、メッセージアプリを開き、有武に「すみません、今、電車なんです」とだけ入力して恐る恐る送信する。瞬時に、零果が見ている目の前で、画面に「既読」の文字が現れた。恐らくは今、彼もどこかでこのアプリを開いて同じ文面を見つめているに違いなかった。案の定、間髪入れずに返信が表示される。
「突然悪いんだけどさ、ちょっと会社来れる?」
 零果が思った通りだった。有武の、「悪いんだけどさ」と言いながら、ちっとも悪びれている様子がない、いつものあの口調を思い出す。
「今からですか?」
 今からなんだろうな、と思いながら、零果はそう返信する。
「そう、今から」
「今日って休日ですよね?」
 休日でも構わず職場に来いってことなんだろうな、と思いながら、それでもそう返信をせずにはいられない。
「そう、休日」
 何を当たり前のこと言ってんだよ、って顔してるんだろうな、有武さん。少しの間も空けることなく送られて来る返信を見ながら、零果は休日の人気がないオフィスでひとり舌打ちをしている彼の様子を思い浮かべる。
「それって、私が行かないと駄目ですか?」
 駄目なんだろうな、と思いながらそう返信して、座席から立ち上がる。
 駅のホームには発車のベルが鳴り響いている。零果が車両からホームに戻ったのは、ドアが閉まりますご注意下さい、というアナウンスが流れ始めた時だった。背後で車両のドアが閉まり、彼女を乗せなかった電車は走り出していく。
 家に帰るつもりだったのにな。零果は諦めと絶望が入り混じった瞳でその電車を見送った。握ったままのスマートフォンの画面には、「加治木さんじゃなきゃ駄目だから言ってるんでしょーよ」という、有武からの返信が表示されている。
「…………ですよね」
 思わずひとり言が漏れた。ホームの階段を上りながら、「今から向かいます」と入力し、文末にドクロマークの絵文字を付けて送信してみたものの、有武からは「了解」という簡素な返信が来ただけだ。あの男には絵文字に込められた零果の感情なんて届くはずもない。
 再び溜め息を盛大についてから、重くなった足取りで反対側のホームに向かう。なんて言うか、今日は最大級にツイてない。休日に、一度ではなく二度までも、同僚と顔を合わせることになるとは。しかも突然の呼び出しの上、休日出勤。
 ただひとりで、好きなコーヒーを飲んで時間を過ごしたいだけなのに。たったそれだけのことなのに。
 心穏やかな休日には程遠い現状に、零果はただ、肩を落とした。
「加治木さん、お疲れ様」
 そう声をかけられた時、思わず椅子から飛び上がりそうになった。咄嗟にデスクに置いてあるデジタル時計を見る。金曜日、午前十一時十五分。まだ約束した時間まで四十五分あるぞ、と思いながら零果は自分のデスクの横に立つ「彼」を見上げ、そこでようやく、声をかけてきたのが「彼」ではなく、営業部の戸瀬だったと気が付いた。
「あ……お疲れ様です」
 作成中の資料のことで頭がいっぱいで、零果は戸瀬に穏やかな笑顔を見つめられても、上手い言葉が出て来ない。五四二六三、五万四千二百六十三、と、零果の頭の中は次に入力するはずだった数値がぐるぐると回転している。キーボードに置かれたままになっている右手の人差し指が、五のキーの辺りを右往左往する。
 当然、戸瀬には彼女の脳内など見える訳もなく、いつもの優しげな口調で話しかけてきた。
「この間の土曜日は、びっくりしたね。まさかあんなところで加治木さんに会うなんて」
 土曜日、と言われても、零果はなんのことか一瞬わからなかった。それから、「ああ、そう言えば、喫茶店で戸瀬さんに会ったんだった」と思い出す。
「でも、聞いたよ。あの後、有武さんに呼び出されて休日出勤になっちゃったんだって? 加治木さん、いつの間にかお店から消えてるから、おかしいなって思ってたんだけど、呼び出されて急いで出てったんでしょ?」
 零果は思わず、返事に困った。急いで店を出たのは戸瀬に会って気まずかったからだが、まさか目の前にいる本人にそう伝える訳にもいかない。有武の呼び出しのせいにするというのも、なんだか違うような気もするが、しかし、戸瀬がそう思い込んでいるのだから、そういうことにしておいた方が得策かもしれない。
「えっと、まぁ、あの、そうですね」などと、よくわからない返事をしながら、零果の右手は五のキーをそっと押した。正直、今は戸瀬と会話している場合ではない。
「有武さんもひどいよね、休日に会社に呼び出すなんて。そもそも、加治木さんは有武さんのアシスタントじゃないんだから、仕事を手伝う必要なんてないんだよ?」
 戸瀬の表情が珍しく曇った。いつも穏やかな彼の眉間に、小さく皺が寄っている。本気で心配している、というのが伝わる表情だった。けれど今の零果は、「はぁ、まぁ、そうですよね」と曖昧に頷くことしかできない。四のキーを指先で押しつつ、彼女の視線は戸瀬とパソコンの画面との間を行ったり来たりしている。休日出勤させられたことを心配してくれるのはありがたいが、正午までにこの資料を完成させなければいけない現状を憂いてほしい。零果にはもう猶予がない。
「なんかごめんね、加治木さん、忙しいタイミングだったみたいだね」
 戸瀬は彼女の切羽詰まった様子に勘付いたようだ。
 こつん、と小さな音を立てて、机に何かが置かれた。それはカフェラテの缶だった。見覚えのあるパッケージから、社内の自動販売機に並んでいる缶飲料だとわかる。零果が見やると、彼は同じカフェラテをもうひとつ、右手に握っていた。
「仕事がひと段落したら、それ飲んで休憩して。俺、このカフェラテが好きなんだ」
 そう言って微笑む戸瀬の、口元から覗く歯の白さがまぶしい。「あ、あの、ありがとうございます」と零果は慌ててお礼を言ったが、彼は「全然いいよー」とはにかむように左手を振って、「それじゃ、また」と離れて行った。
 気を遣われてしまった。なんだか申し訳ない気持ちになる。恐らく戸瀬は、休日に呼び出され仕事に駆り出された零果のことを心から労わってくれているに違いなかった。そんな彼に対して、自身の態度は不適切ではなかったか。いくら切羽詰まっているとはいえ、もう少し仕事の手を止めて向き合うべきだったのではないか。
 そこで零果は、周りの女子社員たちの妙に冷たい目線に気が付いた。「営業部の戸瀬さんが心配して話しかけてくれているのに、その態度はなんなのよ」という、彼女たちの心の声が聞こえてきそうなその目に、身がすくむような気持ちになる。
 しょうがないではないか。自分は今、それどころではないのだから……。
 パソコンに向き直る。目の前の画面の数字に意識を集中する。しかし、視界の隅に見える、カフェラテの缶。それがどこか、零果の心にちくちくと、後悔の棘を刺してくる。あとで、戸瀬にはお詫びをしよう。零果はカフェラテを見つめながら、心に黄色い付箋を貼り付ける。それにしても、カフェラテというのが、また……。
「資料できたー?」
 唐突にそう声をかけられ、彼女は今度こそ椅子から飛び上がった。気付けば、側には「彼」が――日焼けした浅黒い肌。伸びすぎて後ろで結わえられている髪は艶もなくパサついていて、社内でも不評な無精髭は今日も整えられている様子がない。スーツを着用する営業職の中では珍しく、背広でもジャケットでもなく、作業服をワイシャツの上に羽織っているが、その上着がいつ見ても薄汚れているのがまた、彼が不潔だと言われる理由である。ただ、零果がいつも思うのは、彼は瞳が異様に澄んでいて、まるで少年のようであり、それでいて目線は鋭く、獲物を探す猛禽類のようでもある、ということだ――、有武朋洋が立っていて、零果の肩越しにパソコンのディスプレイを覗き込んでいた。
「あれ? 何、まだ出来てないの?」
 咄嗟に時刻を確認する。戸瀬に声をかけられてから、もう十分近くも経過している。なんてことだ。しかし、約束の時間まではあと三十五分残されている。今の時点で資料が完成していないことを責められる理由はない。それでも零果が「すみません」と口にした途端、有武は「あー、いいよいいよ」と片手を横に振った。
「謝らなくていいよ。謝ったところで、仕事が早く進む訳じゃないから」
 斬って捨てるような口調であったが、これが彼の平常だ。嫌味のように聞こえる言葉も、彼にとっては気遣って口にしたに過ぎない。
「時間には間に合いそう?」
「それは、必ず」
「そう、必ずね」
 零果は画面に向き直り、資料作りを再開する。ふと、煙草の臭いがした。有武はヘビースモーカーだ。羽織っている作業着の胸ポケットには、必ず煙草とライターが入っている。煙草臭いのも、社内外問わず不評だ。しかし有武本人は、それを変える気はないようである。
「うん……大丈夫そうだ。本当に、正午までには出来上がりそうだね。さすがだなぁ、加治木さんは」
 零果が返事もせずにキーボードを叩いていると、彼の右手が横からすっと伸びてきて、机の上のカフェラテの缶を取った。零果が「あ、それは……」と言った時、缶のプルタブが開けられた音が響く。
「これ、飲んでもいい?」
「…………はぁ」
 どうして、缶を開けてから訊くのか。順序がおかしいとは思わないのだろうか。
「飲んでいいの?」
「……どうぞ」
「ありがと」
 有武は遠慮する様子をまったく見せず、戸瀬が置いて行ったカフェラテをご��ごくと飲んだ。本当に、喉がごくごくと鳴っていた。それから、「うわ、何これ、ゲロ甘い」と文句を言い、缶に記載されている原材料名をしげしげと眺めている。人がもらった飲み物を勝手に飲んで文句を言うな。零果はそう思いながらも、目の前の資料作成に集中しようとする。どうしてこんな人のために、せっせと資料を作らねばならないのだろうか。
「じゃ、加治木さん。それ出来たらメールで送って。よろしくね」
 そう言い残し、カフェラテの缶を片手に有武は去って行く。鼻歌でも歌い出しそうなほど軽い彼の足取りに、思わず怒りが込み上げる。階段で足を踏み外してしまえばいい。呪詛の言葉を心の中で吐いておく。
 有武がいなくなったのを見計らったように、後輩の岡本沙希が気まずそうに無言のまま、書類の束を抱えて近付いて来た。零果がチェックしなければならない書類だ。
「ごめんね、後でよく見るから、とりあえずそこに置いてもらえるかな」
 後輩の顔を見上げ、微笑んでみたつもりではあったが、上手く笑顔が作れたかどうかは疑問だった。岡本は何か悪いことをした訳でもないだろうに、「すみません、すみません」と書類を置いて逃げるように立ち去る。そんなに怖い顔をしているのだろうか。零果は右のこめかみ辺りを親指で揉む。忙しくなると必ず痛み出すのだ。
 時計を見つめる。約束の時間まで、あと三十分。どうやら、ここが今日の正念場のようだ。
「メールを送信しました」という表示が出た時、時計は確かに、午前十一時五十九分だった。受信する側は何時何分にメールが届いたことになるのだろう、という考えが一瞬過ぎったが、そんなことを考えてももう手遅れである。
 なんとか終わった。間に合った。厳密には一分くらい超過していたかもしれないが、有武がそこまで時刻に厳密な人間ではないことも、この資料の完成が一分遅れたところで、今日の午後三時から始まる会議になんの影響もないこともわかっていた。
 零果はパソコンの前、椅子に腰かけたまま、天を仰いでいた。彼女が所属する事務部は五階建ての社屋の二階にあるため、見上げたところで青空が見える訳はない。ただ天井を見上げる形になるだけだ。
 正午を告げるチャイムが館内放送で流れていた。周りの女子社員たちがそれを合図にぞろぞろと席を立って行く。呆然と天井を見つめるだけの零果を、彼女たちが気に留める様子はない。それはある意味、日常茶飯事の、毎日のように見る光景だからである。魂が抜けたように動かないでいた零果であったが、パソコンからメールの着信を知らせる電子音が鳴り、目線を画面へと戻した。
 メールの送信者は有武だった。本文には、零果の苦労を労う言葉も感謝の言葉もなく、ただ、「確認オッケー。午後二時半までに五十部印刷しておいて」とだけ書かれていた。やっぱりなぁ。そうくると思ったんだよなぁ。当たらないでほしい予想というのは、なぜかつくづく当たるものだ。嫌な予感だけは的中する。
 十四時半までには、まだ時間がある。とりあえず今は、休憩に入ろう。
 零果は立ち上がり、同じフロア内にある女子トイレへと向かった。四つ並んだうちの一番奥の個室に入る。用を足していると、扉が閉まっていたはずの手前の個室から人が出て行く気配がした。その後すぐ、水を流す音と、扉がもうひとつ開かれた音が続く。
「ねぇ、さっきのあれさぁ……」
「あー、さっきの、加治木さんでしょ?」
 手洗い場の前から会話が聞こえてくる。
 零果は思わず動きを止めた。声のする方へと目線を向ける。扉の向こうが透視できる訳ではないが、声から人物を特定することはできる。ふたりとも、同じフロアに席を置いている事務員だ。正直、零果と親しい間柄ではない。
「戸瀬さんがせっかく話しかけてくれてるのに、あの態度はないよね」
「そう、なんなの、あの態度。見てて腹立っちゃったよ」
 蛇口が捻られ、手を洗う音。零果は音を立てずにじっとしていた。戸瀬ファンクラブ所属のふたりか。恐らく、ここに零果本人がいるということを、ふたりは知らないに違いない。
「戸瀬さんもさ、なんで加治木さんなんか気にかけるんだろうね?」
「仕事が大変そうな女子社員を放っておけないんじゃない? 戸瀬さんって、誰にでも優しいから」
「加治木さんが大変な目に遭ってるのは、有武のせいでしょ?」
 きゅっ、と蛇口が閉められた音が、妙に大きく響いた。その時、零果は自分の胸元も締め付けられたような気がした。
「そうそう、有武が仕事を頼むから」
「加治木さんも断ればいいのにね。なんで受けちゃうんだろう。もう有武のアシスタントじゃないのにさ」
「さぁ……。営業アシスタントだった過去にプライドでもあるんじゃない?」
 ふたりのうちのどちらかが、笑ったのが聞こえた。
「うつ病になってアシスタント辞めたくせに、事務員になってもプライド高いとか、ちょっとねぇ……。自分で仕事引き受けて、それで忙しくって大変なんですって顔で働かれてもさぁ……」
 足音と共に、ふたりの会話も遠ざかっていく。どうやら、女子トイレから出て行ったようだ。
 ふたりの声が完全に聞こえなくなるのを待ってから、零果は大きく息を吐いた。「……有武さんのことだけは、呼び捨てなんだ」と、思わずひとり言が漏れた。そんなことはどうでもいい。どうでもいいけれど、言葉にできる感想はそれくらいしか思い付かなかった。
 他の事務員から陰で言われているであろうことは、薄々わかってはいた。同じ内容を、言葉を選んで、もっともらしい言い方で、面と向かって言う上司もいる。同僚たちに特別好かれているとは思っていなかった。しかし、本人には届かないだろうと思って発せられる言葉というのは、こんなものなのか。
 水を流し、個室から出た。鏡に映る自分の顔の疲弊具合に気分はますます陰鬱になる。腹の底まで冷え切っているように感じる。
 同じ階にある休憩室へ向かおうと思っていたが、先程のふたりもそこにいるのだろうと思うと、足を向ける気にはならなかった。さっきの会話の続きを、今もしているかもしれない。
 自分の席に戻って仕事を再開するというのも考えたが、こんな疲れた顔で休憩も取らず仕事をしているところを、誰かに見られるのも嫌だった。
 結局、零果は四階に向かうことにした。階段で四階まで上ると、営業部が机を並べているフロアと、会議室が両側に並ぶ廊下を足早に通り過ぎる。外出していることが多い営業部だが、昼の休憩時間に突入しているこの時間は、いつにも増して人の姿がない。零果は何も躊躇することなく、通路の突き当り、外階段へと続く重い鉄の扉を開けた。
 非常時の利用を目的に作られた外階段を、普段利用する社員はほぼいない。喫煙室以外の場所で煙草を吸おうとする不届き者ぐらいだ。外階段だけあって、雨風が吹き荒れ、もしくは日射しが照り付け、夏は暑く冬は寒いその場所に、わざわざ足を運ぶ理由。それは「彼」に会いたいからだ。
「おー、お疲れ」
 鉄製の手すりにもたれるようにして、「彼」――有武朋洋がそこにいた。いつも通り、その右手には煙草がある。有武は、この外階段でよく煙草を吸っている。社内に喫煙室が設けられてはいるが、外がよほどの嵐でない限り、彼はここで煙草をふかしている。
「……お疲れ様です」
 挨拶を返しながら、鉄の扉を閉め、有武の吐く煙を避けるため風上に移動する。向かい合うように立ちながらも、零果の目線は決して彼の顔を見ようとはしない。それもいつものことだ。有武も、そのこと自体を問うことはしない。ましてや、喫煙者でもない彼女が何をしにここまで来たのかなんて、尋ねたりもしない。
「何、どうしたの。元気ないじゃん。なんか嫌なことでもあった?」
 口から大量の煙を吐きながら、有武はそう尋ねた。零果は「まぁ……」と言葉を濁しただけだったが、彼は妙に納得したような顔で頷く。
「まー、嫌なこともあるよな」
「……そうです、嫌なこともあります」
「だよな」
「せっかくの休日に呼び出されて仕事させられたり」
「…………」
「今日だって、あと二時間で会議の資料を作ってくれって言われたり」
「…………」
「その資料がやっとできたと思ったら、それを五十部印刷しろって言われたり」
「何、こないだの土曜日のこと、まだ怒ってんの?」
 有武が小さく鼻で笑った。これは、この男の癖だ。この男は、上司でも取引先でも、誰の前でも平気で鼻で笑うのだ。
「土曜日は呼び出して悪かったって。でもあの時にテンプレート作って用意しておいたから、今日の資料作りがたった二時間でできたってことだろ?」
「……なんとかギリギリ、二時間でできたんです」
「でも、ちゃんと時間までに完成しただろ」
 有武は、今度は鼻だけでなく、声に出して笑った。
「加治木さんはできるんだよ。俺は、できると思ったことしか頼まない。で、本当にちゃんとできるんだ、俺が見込んだ通りに」
「…………」
 零果は下を向いたままだ。そんな彼女を見つめる有武の瞳は、からかうように笑っている。
「別に気にすることないだろ。周りからなんて言われたのかは知らないが、加治木さんは他の人ではできないことを――」
「私はもう、あなたの営業アシスタントじゃありません」
 遮るように言った彼女の言葉に、有武が吐く煙の流れも一度途切れた。
「もう、私に……」
 仕事を頼まないでください。そう言えばいい。零果が苦労ばかりしているのは、この男の仕事を引き受けるからだ。それを断ってしまえばいい。幸いなことに今の彼女は、それを咎められることのない職に就いている。もうアシスタントではない。ただの事務員だ。同僚たちが言う通りだ。
 わかっている。頭ではわかっているのに、零果はどうしても、その続きを口にすることができない。うつむいたまま、口をつぐむ。
 ふたりの間には沈黙が流れる。有武は煙草を咥えたまま、零果が言葉を発するのを待っているようだった。しかし、いつまでも話そうとしない彼女を見かねてか、短くなった煙草を携帯灰皿へと捨ててから、一歩、歩み寄って来た。
「加治木さんは、俺のアシスタントだよ。今も昔も、ずっと」
 彼の身体に染み付いた煙草の臭いが、零果の鼻にまで届く。もう何年になるのだろう、この臭いをずっと、側で嗅いできた。いくつもの案件を、汗だくになったり、走り回ったりしながらこなしてきた。無理難題ばかりに直面し、関係部署に頭を下げ、時には上司に激昂され、取引先に土下座までして、それでも零果は、この男と仕事をしてきた。いくつもの記憶が一瞬で脳裏によみがえる。
「仕事を頼まないでください」なんて、言えるはずがなかった。どうして彼が自分に仕事を依頼するのか、本当は誰よりもわかっていた。
 大きく息を吐く。肩に入っていた力を抜いた。
「有武さん」
「何」
「……コーヒー、奢ってください」
「は?」
「それで許してあげます」
 零果の言葉に、ぷっ、と彼は吹き出した。
「コーヒーでいいの? どうせなら、焼き肉とか寿司とか言いなって」
 まぁ言われたところで奢らないけどね。そう言いながら、有武はげらげらと笑う。零果は下を向いたまま、むっとした顔をしていたが、内心、少しほっとしていた。零果が多少、感情的な言い方をしてもこの男は動じないのだ。
「あ、ちょっと待ってて」
 有武は唐突にそう言うと、外階段から廊下へと繋がる扉を開け、四階のフロアへと戻って行った。ひとり残された零果が呆然としていると、有武はあっという間に戻って来た。
「ほい、これ」
 差し出されたその手には、缶コーヒーが握られている。社内の自動販売機に並んでいるものだ。どうやら、有��はこれを買いに行っていたらしい。零果は受け取ってから、その黒一色のパッケージの缶が、好きな無糖のブラックコーヒーだと気が付いた。
「それはコーヒーを奢ったって訳じゃないよ。さっき、デスクにあったカフェオレもらったから、そのお礼ね」
「もらったって言うか、有武さんが勝手に飲んだんじゃないですか……。あと、カフェオレではなく、カフェラテです」
「オレでもラテでも、どっちでもいいよ。飲んでやったんだろー。加治木さんがコーヒーはブラックの無糖しか飲まないの、知ってるんだから」
 その言葉に、ずっと下を向いたままだった零果が一瞬、顔を上げて有武を見た。戸瀬から缶飲料をもらった時、「よりにもよってカフェラテか……」と思ったことが、バレているのではないかとさえ思う。そのくらい、目が合った途端、得意げに笑う有武の顔。憎たらしいことこの上ない。零果はすぐに目を逸らした。
「……やっぱ、許さないかも」
「は?」
「なんでもないです」
 有武は肩をすくめた。作業服の胸ポケットから煙草の箱を取り出し、一本咥えて火を点ける。吐き出された煙は吹く風に流され、あっと言う間に目では追えなくなった。
 いただきます、と小さく声に出してから、零果は缶コーヒーのプルタブを開けた。冷たいコーヒーをひと口流し込んでから、喉が渇いていたことに気が付いた。
 疲れたな。改めてそう思う。百円で買える缶コーヒーの味わいにさえ、癒されていくように感じる。
 今日は良い天気だ。この外階段に吹く風も、日射しも心地良い。ここから見下ろせる、なんてことのない街並みも。この男との何気ない会話も。ここにあるものすべてが、冷え切っていた零果の心を解きほぐしていくような気がする。
「加治木さん、昼飯はもう食ったの?」
 煙を吐きながら、有武がそう訊いた。
「いえ……」
「何、また食ってないの? ちゃんと食わないと、身体に良くないよ」
「……有武さんは?」
「俺は今日、三時から会議で、終わったらその後に会食だから。昼飯は食わなくてもいいかなーって」
「会食までに、お腹空いちゃうんじゃないですか?」
「何か軽くは食べるけどね。会議中に腹が鳴っても締まらないし。ただ、四十歳過ぎるとね、やっぱ食った分は太るんだわ」
 そう言う有武は、今年で四十一歳のはずだが、まったく太っていない。零果は七年前から彼を知っているが、出会った頃から体型が変化したとは思えない。ただ、それは本人が体型を維持する努力をしているからだろう。
 そして、そういう努力ができるのであれば、もう少しこまめに髪を切ったり髭を整えたりしてもいいのではないか、とも思う。特に最近の有武は、髪にも髭にも白髪が混じるようになった。もう少し身なりを整えれば、印象もまた変わると思うのだが。
「あ、そういえば、もらったアンパンがあるんだった。アンパン、半分食う?」
「いえ……あの、今本当に、食欲がなくて……」
 零果はそう言いながら、無意識のうちにみぞおちの辺りをさすっていた。トイレで聞いてしまった、同僚たちの会話。無遠慮に吐き出された彼女たちの言葉、その声音の棘が、零果の胃の辺りに突き刺さっている。とてもじゃないが今は、何か固形物を口にしようという気にはならなかった。
「ふうん、あ、そう」
 と、有武は煙草をふかしながら返事をした。零果の様子を特に気に留めている様子も、提案を断られて落ち込むような様子もない。そうやって、無関心を装う節がこの男にはある。
「じゃ、今度は喫茶店にでも行こうか」
 有武が煙草を吸い終わった頃、零果も缶コーヒーを飲み終えたところだった。
「コーヒー奢るよ。どこか行きたい店ある? 俺の好きな店でもいい?」
「どこでもいいですよ」
「了解。また連絡するわ」
 有武が外階段とフロアを繋ぐ、重たい扉を開ける。開けたまま待ってくれている彼に、小さく会釈をしながら零果が先に通る。触れそうなほどすぐ近くに寄ると、煙草の臭いをはっきりと感じる。今は吸った直後なので、臭いはなおさら強烈だ。
「くっさ……」
「あ?」
 零果の口から思わず零れた言葉に、彼は即座に睨んでくる。
「すみません、つい、本音が……」
「悪かったな、煙草臭くて」
 有武は舌打ちをしながら零果に続いてフロアへ戻り、外階段への扉を閉めた。
「有武さんは禁煙しようとは思わないですか?」
「思わないねー。だから俺が臭いのはこれからも我慢してねー」
「…………」
 臭いと口走ってしまったことを根に持っているのか、有武は不機嫌そうな顔だ。
「あ、有武くん!」
 並んで廊下を歩いていると、突然、背後から声をかけられた。振り向くと、通り過ぎた会議室から、ひとりの女性が廊下へ顔を覗かせている。
 肩につかない長さで切り揃えられた黒髪。前髪がセンターで分けられているので、その丸さがはっきりとわかる額。染みも皺もない白い肌には弾力がある。彼女が今年で四十歳になるのだと聞いても、信じる人はまずいないだろう。零果より頭ひとつ分、小柄なことも相まって、彼女――桃山美澄は、二十代に間違えられることも少なくない。
 実年齢よりも若く見られる桃山は、実際は経験豊富な中堅社員である。そして何より、ずば抜けて優秀な社員として、社内外で有名だ。営業アシスタントとして三人の営業マンの補佐についているが、「桃山本人が営業職になったら、売上額が過去最高になるのではないか」という憶測は、かれこれ十五年前から上層部で囁かれている、らしい。有武の営業アシスタントを務めているのも彼女である。零果は仕事を手伝わされているに過ぎず、本業は事務職であり、有武の本来のアシスタントは桃山なのだ。
 桃山の顔を一目見るなり、有武は露骨に嫌そうな顔をした。しかし、それを気にする様子もなく、彼女は近付いて来る。
「有武くん、探したんだよ。午後の会議の資料の進捗はどう? 間に合いそう?」
「あー、それなら大丈夫。加治木さんに頼んでるから」
 桃山は有武の隣に並ぶ零果を見やり、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ごめんね加治木さん、また面倒な仕事、有武くんに頼まれちゃったね」
「いえ、あの、大丈夫です」
 零果はいつも、桃山を前にすると困惑してしまう。謝る彼女に対して、なんて言葉を返せばいいのか、わからない。
「資料は? どのくらい出来てるの? 続きは私が代わろうか」
「あの、もう、完成はしていて、あとは印刷するだけなんですが……」
「本当に? もう出来てるの? すごいね加治木さん、やっぱり優秀だね」
「いえ、そんなことは……」
 桃山はにこにこと、朗らかな笑顔だ。嫌味なところは感じさせない。実際、嫌味など微塵も込めていないということは、零果もわかっている。返す言葉に悩んでしまうのは、そうやって本心から褒めてくれる存在がそれだけ稀少だからだ。
「じゃあ、資料の印刷はこっちでやるよ。月末も近いし、加治木さん、自分の仕事も忙しいでしょう?」
「そんなことは……」
 そんなことはありません、と言おうとして、後輩の女子社員から書類の束を受け取っていたことを思い出す。そうだ、あの書類をチェックしなくてはいけないのだ。思わず言葉に詰まってしまう。桃山はそれを見逃さなかった。
「うん、資料の印刷は私がするね。もう有武くんにメールで送ってくれてるんだよね? 有武くん、私のアドレスに転送してもらっていいかな?」
「はいはい、わかりましたよ」
 有武は窓の外に目線を向けたまま、そう返事をした。彼のそんな態度にも、桃山は顔色ひとつ変えることはない。柔和な笑みのまま、零果に向き直った。
「加治木さん、忙しいのにいつもありがとうね。本当は私がやらなくちゃいけないことだから、こんな風に言うのはおかしいんだけど、有武くんは加治木さんと仕事をするのが本当に楽しいみたいで」
「い、いえ、あの……」
 桃山は続けて言う。
「でも、加治木さんには事務職としての仕事もあるんだから、しんどかったり、難しかったりする時は、いつでも私に言ってね。有武くんだって、それで加治木さんのことを悪く思ったりはしないからね。私も、有武くんも、いつだって加治木さんの味方だから。無理はしないでね」
 その言葉に、零果は頷くことしかできない。気を抜くと、泣いてしまうかもしれない、とさえ思った。桃山が自分の上司だったら良かったのに。零果は今の上司である、事務長の顔を思い出しながらそんなことを思う。桃山が上司だったら、毎日、もっと楽しく働けるかもしれないのに。
 けれど、と思い直す。
 桃山はかつて、零果の先輩だった。同じ営業アシスタントだった。三年前までそうだった。零果は彼女の下に就き、多くのことを学んだ。彼女の元から離れたのは、自分なのだ。そのことを、零果は今も悔やんでいる。
「それとね、」
 桃山は一歩、零果に近付くと、声を潜めて言った。
「加治木さんが有武くんから直接仕事を任されていることは、事務長も、営業アシスタント長も、営業部長も合意している事柄だよ。それなのに、加治木さんのことを悪く言う人が事務員の中にいるみたいだね?」
 脳裏を過ぎったのは、女子トイレで聞いた会話の内容だった。同僚の言葉が、耳元でよみがえる。
 零果は思わず、桃山の顔を見た。先程まで朗らかに笑っていたはずの彼女は、もう笑ってはいない。口元は笑みを浮かべたままだったが、その瞳には鋭い光があった。それはぞっとするほど、冷たい目だった。
「うちの営業アシスタント長は、そっちの事務長と仲が良いからね。私が事務長に言っておいてあげようか? 『部下をよく指導しておいてもらえませんか』って。加治木さんは有武くんの仕事をサポートしてくれているのに、それを邪魔されたら困っちゃうんだよ」
 桃山には、こういうところがある。普段は温厚なのに、時折、何かの弾みでとてつもなく冷酷な表情を見せる。
 零果は慌てて、首を横に振った。
「そんな、大丈夫です」
「そうかな? 私はそうは思わないけどな。加治木さんのことを悪く言う社員が同じ事務の中にいるなんて、とてもじゃないけど――」
「桃山、もういいって」
 ずっと上の空でいるように見えた有武が、突然、会話に割って入った。
「加治木さんが大丈夫って言ってるんだから、とりあえずは大丈夫なんだろ。もし何かあったら、桃山に相談するよ」
「…………」
 桃山はしばらく無言で有武を見上げていたが、やがて再びにっこりと笑った。それから、零果へと向き直る。
「うん、加治木さん、何かあったら遠慮なく相談してね。いつでも聞くからね」
「いえ、あの、お気遣い、ありがとうございます」
 何度も頭を下げる零果に、桃山はにこにこと微笑む。
「ううん。逆に、気を悪くしていたらごめんね」
「いいえ、気を悪くするなんて、そんな……」
「私はこれでも、営業アシスタントだから。有武くんが気持ち良く仕事をするために、私にできることは全部したいんだ」
 そう、桃山の目的は、あくまでも「それ」だ。営業アシスタントとしての職務を全うしたいだけなのだ。零果のことを気遣っているかのように聞こえる言葉も、すべては有武の仕事を円滑に進ませるため。反対に、彼の仕事ぶりを邪魔するものを、すべて排除したいだけ。
 有武から仕事を頼まれた零果がその意欲を削がれることがないように、彼女のことを悪く言う同僚を排除しようと考えているのだ。その点、桃山は零果のことを「有武の仕事にとって有益にはたらくもの」と認識しているようだ。そうでなければ、零果に仕事を依���していることを許したりはしないだろう。
「何かあったら言ってね」と言い、「それじゃあ」と手を振って、桃山は営業部のフロアへと向かって行った。
 桃山の姿が見えなくなると、その途端、有武は大きく息を吐く。
「はーあ、おっかない女……」
「桃山さんのことを、そんな風に言わなくても……」
 普段は飄々としている有武も、桃山を前にするとどこか緊張しているように見えるから不思議だ。そう思いながら、零果は有武の顔を見上げ、
「あ……」
「あ?」
「いえ、なんでもありません……」
 反射的に目を逸らした零果を、彼が気にする様子はなかった。ただ、「加治木さん、俺の正式な営業アシスタントに早く戻ってくれよ」と、どこか冗談めかした口調で言った。
 その言葉に、零果は何も答えなかった。うつむいたままの彼女の左肩をぽんぽんと、軽く二回叩いて、「じゃ、また」と、有武も営業フロアへと消えて行った。
「…………無理ですよ」
 有武の背中も見えなくなってから、ひとり残された零果はそうつぶやく。
 事務部に異動して二年。今となっては、営業アシスタントとして働いていた過去が、すべて夢だったのではないかとすら思える。あの頃は、毎日必死だった。ただがむしゃらに仕事をこなしていた。どうしてあんなに夢中だったのだろう。零果はもう、当時の感情を思い出すことができない。 二階の事務部フロアに向かって歩き出す。所属も業務内容も変わったが、今も零果には戦場が与えられている。運動不足解消のためにエレベーターを使うのではなく階段を降りながら、頭の中では午後の仕事について、すでに思考が回り始めていた。今の自分には、やるべき業務がたくさんある。戦うべき雑務がある。そのことが、何よりも救いだった。
 ※『コーヒーとふたり』(下) (https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/746474804830519296/)へと続く
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yoghurt-freak · 3 months
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ビフィズスのむヨーグルト
群馬県の榛名酪農業協同組合連合会さんのヨーグルト発見👀
イオン、西友、ライフ、パルシステム、コープと数々のPB商品のOEMではお見かけするものの、自社商品で出会えるのはレアな感じがして嬉しい🥰
PBでも大容量紙パック飲むヨーグルトを多数出していらっしゃるけど、どれもちょっとずつ原材料の構成が違うんよなぁ。
ちゃんと差別化されててすごい。
スペック
生乳20%使用の低脂肪飲むヨーグルト。
生きたまま腸まで届くビフィズス菌配合。
大容量紙パック飲むヨーグルトにしては珍しく、添加物不使用!
乳素材とお砂糖のみのシンプルな構成。
最近は大容量の飲むヨーグルトが相次いで終売になってることが話題やけど、こういう乳素材に真っ直ぐな商品は生き残っててほしい。
乳酸菌飲料との差別化は乳成分の濃さ。
ミルクの味わいに忠実でいることが、飲むヨーグルトの未来を作っていくと思う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧ 開封 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧
さらりと軽めの質感で、ほんのり甘い香り。
飲みやすそう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧ 頂きます🙏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧
うわっ、おいしっ😳💓
びっくりした!
この手の紙パック大容量のむヨーグルトってシャバシャバした軽さで香料や甘味料の味がメインになりがちなんやけど、これは全然違う。
本格的なヨーグルト。
サラッと見えてたけど飲むと少しとろみがあって心地いい。
そして味わいはしっかりお乳🐮
低脂肪やからリッチな味わいとまではいかんねんけど、十分に満足できる!
まろやかで酸味は控えめ。
甘くてお子様でも飲みやすい感じ。
ふぁさっとしたお乳の風味が好みのタイプ💘
この味でビフィズス菌も入っててこのお値段はすごい。
リピ!!
============================ 無脂乳固形分 8.0% 乳脂肪分 0.9% ————————————————— 栄養成分(コップ1杯200mlあたり) エネルギー 134kcal たんぱく質 6.6g 脂質 1.6g 炭水化物 23.4g 食塩相当量 0.22g カルシウム 224mg ————————————————— 原材料名 生乳(国産)、砂糖、脱脂粉乳 ————————————————— 購入価格 229円(税別) ————————————————— 製造者 榛名酪農業協同組合連合会 ============================
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longgoodbye1992 · 11 months
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田園の中の喫茶店にて
最近単発のバイトに中々入れず、退屈な日々を過ごしている。
前のようにパチスロに行く気もなくなり、秋が深まる山やら滝やらに行っては数枚の写真を撮って帰る。
普段カフェインを控えているが、温かい珈琲が美味しい季節になったから、前から気になっていたカフェを周り始めた。
今日来たところは木曜から土曜までしか営業していない、海の側から少し山に入った田園地帯の真ん中にある喫茶店だ。
古民家のような外見から中に入ると立派な梁がある。ピアノやギター、コントラバスまであって、音楽イベントをやっていると聞いた。
オリジナルの珈琲を頼む。
客は自分ひとりで、お店の人も一人だった。
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窓際のいい席に座れた。文庫本を開いてたまに外を見るというのを繰り返す。
すると車が店の前に止まり、女性が一人店の中に入ってきた。
予約していた人なのだろうか、店主は女性の顔を見ると豆を挽き始めた。
香ばしい香りが店内に広がる。
読んでいた桜木紫乃の短編小説にいいアクセントをくれる。
七、八分くらいしてそれが出来上がったようで、女性は袋を持って会釈しながら店を出た。
それから五分ほどして、店主が申し訳無さそうに、珈琲カップを持ってきた。
「大変お待たせしました」
「いえいえ」
「エチオピアです」
「ありがとうございます」
もしこれが町中にあるチェーン店のコーヒーショップならクレームを入れる人もいるだろう。
でもここは時がゆっくり進む田んぼの真ん中の喫茶店。早さなんか求めてはいない。
大人の例えをするならば、メイクをしている相手を待っている時間と同じで、完全に相手が美しい状態で出てくるのはどれだけ待ってもいい。
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珈琲を一口飲む。取っ手が無いタイプだから少し指が熱かったがそれもいい。
あっさりした飲み口だがコクがある。苦味は程々で酸味はあとに少し残るくらい。バランスの良い味で、毎日飲むのにはうってつけの味だった。
小説を読み終えて文章を書く。
聞こえるのは少し前にオーダーした珈琲牛乳を作る音と外にいるカラスの声。
そういえば、と思い出したのは自分の誕生日と一ヶ月違いで大学の同期だった香菜の事。今日がその誕生日だったのをスマートフォンの日付を見て思い出した。二年前くらいに突然泣きながら電話があって以来、たまにやり取りをする。
香菜とは色々あった。大学に入って最初に仲良くなった女の子が香菜で、初めて女の子の部屋に泊まったのも彼女の部屋だ。不思議なものでそんな関係だったにも関わらず、ある時期から互いを嫌うようになって口も聞かなければ目も合わせなくなった。
だから泣きながら電話してきたのは何故なのかわからなかったが、それをすんなり受け止めて泣き止むまで話を聞き続けた自分もどうしてなのかわからない。
とりあえず誕生日メッセージを送っておいた。
珈琲牛乳がテーブルに置かれる。
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昔、母親が作ってくれたような優しい甘さ。
ミルクの膜があってそれをスプーンですくって食べるのが好きだ。
村上春樹の短編を読む。三分で読み終わるくらいあっさりしたものだが、村上春樹の色が確かにそこにあって、純粋にさすがだなと思った。
まだ外でカラスが鳴いている。洗い物をする店主の息遣いと厨房の奥で流れるピアノの音楽が微かに背中越しに聞こえる。
香菜から返信が届く。
お礼と今度公開される映画の監督を務めた事を報告してきた。
おめでとう。さすがだね。と返した。香菜はずっと優秀だった。いや、人に評価されるのが得意だった。作った作品を面白いと思ったことはないが、教員や審査員たちに認められる物を多く作っていた。 
反対に俺は落ちこぼれのような物で、自分主演のハードボイルド作品を作ったり、クドカンもどきの恋愛コメディを書いたりしては、不評を買っていた。
そんな二人が今こうして連絡を取り合ってるのを同期が聞いたら驚くだろう。
そんな事を考えていたら珈琲牛乳が温くなってしまった。
閉店時間も近��。
家に帰りたくない。
ずっとこんな風にどこかの店の片隅で本を読んだり下手な文章を書いたり誰かと話をしていたい。
窓の外の田んぼからは、稲のひこばえが大きく育っている。もう秋も深いというのに元気だ。
店にあるアコースティックギターを弾きたいなと思ったが、恥ずかしいので店主に言えないまま店を去る。
夕飯なのか夜の部の仕込みなのかコンソメスープの香りがした。
家の今夜の晩御飯はヒレカツだ。
今日もまた酒を飲んで睡眠薬を一錠多めに飲んで寝るのだろう。最近上手く眠れない。
明日は面接。
帰りにまた寄ろうかな。
この田園の中の喫茶店に。
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chibiutsubo · 11 months
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#たべもの #ふるーつ大福 #養老軒
岐阜の手土産にぜひ推したい、養老軒のふるーつ大福。日持ちがしないのと、購入場所が少ない&車がないと不便な場所なので中々お土産には不向きなのですが、見つけたら自分用にでも購入してほしい、美味しいから。ただ食べる時は粉テロにご注意を。新幹線の中とかで食べたら膝は粉だらけ手はクリームまみれでえらいことになりそう。いや、でもそれでも購入してほしい、美味しいから。
数年前から別の場所でもフルーツが入った大福が色々と出てきましたが、私はやっぱり以前から愛着のあるこっちが好きです。クリームの甘さが丁度良いんだ。純和風の和菓子が好きな方には「なんか違う」となってしまうようですが、クリームとかふわふわ食感のお餅が好きな方は是非。
一番有名なのは冬期限定のふるーつ大福ですが、私的にふるーつ大福の次に推しなのがこの9月頃限定の「いちじくのミルク栗きんとん大福」です。いちじくのじわっとくる甘みと、ミルククリームと、そして栗きんが入っていると妙にリッチな気分になるのです。ちなみに栗きんとんはもちろん全国的なアレではなく、東濃地方のコレです(とても分かりやすい解説)。
私は大福だけではなくて生どらのチーズ味も好きなので、いつも大福ひと���と生どらチーズ味ひとつを購入。
……とここまで書いたところで、ふと店舗検索してみたら、梅田にもお店できててびっくりしました。岐阜県内しかないと思ってた!しかしクチコミで、百貨店の中で売るようなクオリティではない、とか書かれててヒェ……都会こわ……となっているところです。都会は確かに美味しいものよりどりみどりでありそうだもんなぁ。
しかしこれがスーパーの品質と書かれてしまうなら、梅田には他にもっと美味しいフルーツ大福が存在しているということか。大阪に行った時に食べてみたいから、このクチコミを書いた方にはぜひともオススメのフルーツ大福のお店を書いておいてほしかった。
気になってちょっと調べてみると、梅田だと一心堂というお店が何だか美味しそうなフルーツ大福を扱っているみたいです。百貨店品質(?)のフルーツ大福とやらが食べられるんです??とちょっと卑屈になりつつ、美味しいフルーツ大福はぜひとも食しておきたいので、大阪に行く時に覚えておきたいです。
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yorithesims · 1 year
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2023年5月の誕生日、ちょうどお休みにかぶったこともあって行きたいところへハジメマシテのガールとお出かけしてきたやで! 夜は日本茶バーをしているお店でランチの“ほうじ茶いなり御膳”をいただきます!ほうじ茶で炊いた稲荷寿司と小鉢のおばんざいがたっくさん。ぜんぶ美味であった♡後日、写真を見せた友人が「オブジェクトぎゅうぎゅうって感じでいいね」ってめっちゃシムズプレイヤーらしい感想ゆうててワロタwほんまやw 「オフィーリア」オマージュのドリンクをお目当てにアートカフェへ。概念ドリンクなのにめちゃくちゃ美味♡(ダルゴナコーヒー&抹茶ミルク)シェイクスピアのオフィーリアはうちの双子末娘ふーちゃんの名前の由来だからね。大好きよ。 スタッフのかたと3人でめっちゃ盛り上がって、立ち飲み屋のごとく長居してしまったw 誕生日プレゼントに珍しい金魚のハーバリウムをもらいました♡いつも目の前に金魚のミニ水族館(∩´∀`)∩ そして自分で買ったシャガールの「Birthday」アートアイシングクッキー。これまた見た目だけじゃなくて味がめっちゃ良き!クッキーの購入時にスタッフさんと「ルネ・マグリットが好き」という話をしたら、代表作に描かれている印象的な“山高帽”をかぶった男をイメージしたイラストを描いてくれてめちゃくちゃかわいいやんけ~ありがとおおお!そして、お料理上手な友人におねだりして届けてもらった手作りの本格的なチーズケーキ♡爽やかな酸味のバランスが最高。
2023年、初夏から始まった新しい出会いラッシュ!
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