#星空浴と宙散歩
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"Kill them with kindness" Wrong. CURSE OF MINATOMO NO YORITOMO
アイウエオカキクケコガギグゲゴサシスセソザジズゼゾタチツテトダ ヂ ヅ デ ドナニヌネノハヒフヘホバ ビ ブ ベ ボパ ピ プ ペ ポマミムメモヤユヨrラリルレロワヰヱヲあいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわゐゑを日一国会人年大十二本中長出三同時政事自行社見月分議後前民生連五発間対上部東者党地合市業内相方四定今回新場金員九入選立開手米力学問高代明実円関決子動京全目表戦経通外最言氏現理調体化田当八六約主題下首意法不来作性的要用制治度務強気小七成期公持野協取都和統以機平総加山思家話世受区領多県続進正安設保改数記院女初北午指権心界支第産結百派点教報済書府活原先共得解名交資予川向際査勝面委告軍文反元重近千考判認画海参売利組知案道信策集在件団別物側任引使求所次水半品昨論計死官増係感特情投示変打男基私各始島直両朝革価式確村提運終挙果西勢減台広容必応演電歳住争談能無再位置企真流格有疑口過局少放税検藤町常校料沢裁状工建語球営空職証土与急止送援供可役構木割聞身費付施切由説転食比難防補車優夫研収断井��南石足違消境神番規術護展態導鮮備宅害配副算視条幹独警宮究育席輸訪楽起万着乗店述残想線率病農州武声質念待試族象銀域助労例衛然早張映限親額監環験追審商葉義伝働形景落欧担好退準賞訴辺造英被株頭技低毎医復仕去姿味負閣韓渡失移差衆個門写評課末守若脳極種美岡影命含福蔵量望松非撃佐核観察整段横融型白深字答夜製票況音申様財港識注呼渉達良響阪帰針専推谷古候史天階程満敗管値歌買突兵接請器士光討路悪科攻崎督授催細効図週積丸他及湾録処省旧室憲太橋歩離岸客風紙激否周師摘材登系批郎母易健黒火戸速存花春飛殺央券赤号単盟座青破編捜竹除完降超責並療従右修捕隊危採織森競拡故館振給屋介読弁根色友苦就迎走販園具左異歴辞将秋因献厳馬愛幅休維富浜父遺彼般未塁貿講邦舞林装諸夏素亡劇河遣航抗冷模雄適婦鉄寄益込顔緊類児余禁印逆王返標換久短油妻暴輪占宣背昭廃植熱宿薬伊江清習険頼僚覚吉盛船倍均億途圧芸許皇臨踏駅署抜壊債便伸留罪停興爆陸玉源儀波創障継筋狙帯延羽努固闘精則葬乱避普散司康測豊洋静善逮婚厚喜齢囲卒迫略承浮惑崩順紀聴脱旅絶級幸岩練押軽倒了庁博城患締等救執層版老令角絡損房募曲撤裏払削密庭徒措仏績築貨志混載昇池陣我勤為血遅抑幕居染温雑招奈季困星傷永択秀著徴誌庫弾償刊像功拠香欠更秘拒刑坂刻底賛塚致抱繰服犯尾描布恐寺鈴盤息宇項喪伴遠養懸戻街巨震願絵希越契掲躍棄欲痛触邸依籍汚縮還枚属笑互複慮郵束仲栄札枠似夕恵板列露沖探逃借緩節需骨射傾届曜遊迷夢巻購揮君燃充雨閉緒跡包駐貢鹿弱却端賃折紹獲郡併草徹飲貴埼衝���奪雇災浦暮替析預焼簡譲称肉納樹挑章臓律誘紛貸至宗促慎控贈智握照宙酒俊銭薄堂渋群銃悲秒操携奥診詰託晴撮誕侵括掛謝双孝刺到駆寝透津壁稲仮暗裂敏鳥純是飯排裕堅訳盗芝綱吸典賀扱顧弘看訟戒祉誉歓勉奏勧騒翌陽閥甲快縄片郷敬揺免既薦隣悩華泉御範隠冬徳皮哲漁杉里釈己荒貯硬妥威豪熊歯滞微隆埋症暫忠倉昼茶彦肝柱喚沿妙唱祭袋阿索誠忘襲雪筆吹訓懇浴俳童宝柄驚麻封胸娘砂李塩浩誤剤瀬趣陥斎貫仙慰賢序弟旬腕兼聖旨即洗柳舎偽較覇兆床畑慣詳毛緑尊抵脅祝礼窓柔茂犠旗距雅飾網竜詩昔繁殿濃翼牛茨潟敵魅嫌魚斉液貧敷擁衣肩圏零酸兄罰怒滅泳礎腐祖幼脚菱荷潮梅泊尽杯僕桜滑孤黄煕炎賠句寿鋼頑甘臣鎖彩摩浅励掃雲掘縦輝蓄軸巡疲稼瞬捨皆砲軟噴沈誇祥牲秩帝宏唆鳴阻泰賄撲凍堀腹菊絞乳煙縁唯膨矢耐恋塾漏紅慶猛芳懲郊剣腰炭踊幌彰棋丁冊恒眠揚冒之勇曽械倫陳憶怖犬菜耳潜珍
“kill them with kindness” Wrong. CURSE OF RA 𓀀 𓀁 𓀂 𓀃 𓀄 𓀅 𓀆 𓀇 𓀈 𓀉 𓀊 𓀋 𓀌 𓀍 𓀎 𓀏 𓀐 𓀑 𓀒 𓀓 𓀔 𓀕 𓀖 𓀗 𓀘 𓀙 𓀚 𓀛 𓀜 𓀝 𓀞 𓀟 𓀠 𓀡 𓀢 𓀣 𓀤 𓀥 𓀦 𓀧 𓀨 𓀩 𓀪 𓀫 𓀬 𓀭 𓀮 𓀯 𓀰 𓀱 𓀲 𓀳 𓀴 𓀵 𓀶 𓀷 𓀸 𓀹 𓀺 𓀻 𓀼 𓀽 𓀾 𓀿 𓁀 𓁁 𓁂 𓁃 𓁄 𓁅 𓁆 𓁇 𓁈 𓁉 𓁊 𓁋 𓁌 𓁍 𓁎 𓁏 𓁐 𓁑 𓀄 𓀅 𓀆
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「最後の三角形: ジェフリー・フォード短篇傑作選」ジェフリー・フォード著を読了。
世界幻想文学大賞に7回、シャーリイ・ジャクスン賞に4回、MWA賞、ネビュラ賞など数多の賞に輝く現代幻想文学の巨人による郷愁と畏怖と偏愛に満ちた14篇。
所謂、幻想文学という括りになると思うのだが、ホラーやSFっぽい作品もあり幅の広さを感じる。偉大なる受賞歴を見るとなるほど納得。どの編も出だしは何となく取っ付きにくいというか、これはどんな話なんだ?と思いつつ、読み進めていくとどっぷり世界観に誘われている。大凡、
どんな小説でもそうなんだろうけれど、明らかにこの作家は誘い力が強くて、読み進めていきたい気持ちがムクムクと湧いて来る。素晴らしい作家だと思った。どの編も忘れがたい。今のところ今年度No.1。
アイスクリーム帝国:
共感覚が強��僕はコーヒー味のアイスクリームを食べるととアンナという女性が見えるようになった。アンナも僕が見えるようになったという。進学的幻想なのはどちらなのか。
マルシュージアンのゾンビ:
隣に越してきた老人は、自分は政府の秘密組織で従順な兵士を作る研究をしてたという。老人が急死した直後、我が家に現れたのはゾンビのように意識薄弱な男だった
トレンティーノさんの息子:
クラム漁が盛んなベイ、嵐の日に一人の少年が行方不明になる。少年と交流のあった私は、同じような嵐の海で死んだはずの少年を助けるのだが、船は瓦解してしまう。
タイムマニア:
悪夢にうなされている少年が無人の農家の井戸から白骨化した死体を発見する。ライムを口にしないと、死体のジミーの幽霊が現れてしまうのだが、炎の農場の奇妙な世界へ誘われその死の真相に近づいていく。
恐怖譚:
真夜中に目を覚ましたエミリーは家族の不在に気がつく。夜の道を歩く途中、馬車に乗った紳士に連れられ、朽ちた豪邸に住む母と子に出会うのだが。霊廟の中で呪文を創作するエミリーの姿をディキンスンの詩にまつわる表現で描く
本棚遠征隊:
健康を害して自宅で療養中の作家、本棚を見ると指先ほどの妖精らが本棚の登頂に向けて出発するところだった。これは幻想なのか?彼らは危険を顧みず、様々な本の前を通過して最上段を目指していく。
最後の三角形:
一文無しのホームレスがひょんな事から老婆の家に住むことに。老婆は男に「最後の三角形」と呼ばれる魔術の記号を探すように言われる。奇妙なコンビで魔術の謎を探っていくと、現れたのは死んだはずのの老婆の夫だった。
ナイトウィスキー:
動物の死骸から生える「死苺」で少量作られるナイトウィスキーを飲むと、泥酔した夢の中で死者と再会できるという。翌朝に木の上で眠る泥酔者を降ろす名誉職を得た僕は、酔っ払いとは別の何かと遭遇する
星椋鳥の群翔:
長閑で美しい地方都市には凄惨な殺人の歴史があった。唯一の目撃者である被害者の教授の娘は一才口を聞かず、小さな星椋鳥を連れて街を散策する。野獣と呼ばれた犯人を捜索する警部は、助手のジャリコと娘を尾行するが、公園で星椋鳥の大群が描く姿に驚嘆する。
ダルサリー:
狂気��科学者が生み出したビンの中のドーム型極小都市ダルサリー。原始大の盗聴器によると滅亡の危機にあり、科学者は自ら縮小ビームを浴びて都市に介入を試み、ダルサリーの中で更に極小都市を作り始めたという。
エクソスケルトン・タウン:
外惑星にあるエクソスケルトン・タウンに住む蟲型の生物と人類は、20世紀映画で交易していた。かつての男優・女優のスキンを纏った男女は「ボックス」の中だけで愛し合うことができるのだが。
ロボット将軍の第七の表情:
大きな惑星の衛星で発見されたハーバングと戦うために製造されたロボット将軍、その無慈悲な攻撃で死体の山を気付き英雄になるが、引退後は小さなアパートで暮らしている。自殺を依頼した男と格闘して切り離された頭部は・・・
ばらばらになった運命機械:
年老いた宇宙飛行士の回想、遠い惑星で知り合った恋人と宇宙の旅を続けたかったが冷凍睡眠で死亡、白い森の惑星に安置する。二人の元に時空を超えて現れた紺色の巨人と、機械部品を捜索するロボットによって運命が変えられていく。
イーリン゠オク年代記:
砂の城に住む妖精トゥイルミッシュは、虫のファーゴ、偶然出会った要請のメイワとマグテルと共に、短い一生のうちに創意工夫と喜びの体験を経て、砂の城が波に消えゆくと共に、その生涯を終えていく。
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また今日も残業だった。クソ上層部のクソ女との接待。俺がテメェみてぇな女好きになるかよ。アイツのキツい薔薇とホワイトリリーの香水の匂いがまだする。吐き気がする。
深夜1時。外は雪がちらつき、空は雪が街の光に反射してか薄明るい。そのせいで回りがよく見える。歩いているのは俺一人。足跡も俺の後以外には雪が覆ったんだろう、見当たらない。頭に雪を散らし、疲れ切った男が一人ただ家路に向かっている。それだけの悲しい風景。
雪が浅く積もった階段を、重い足を引きずりながら3階まで上がる。一段、一段上がる事に口から湯気が立っては消えを繰り返す。手すりを掴む手は凍え、痛みさえある。やっと自宅の所々赤錆びたドアの前に着いた。換気扇からまた別の匂いがしている。
ホワイトムスクの匂い。これは嫌いでは無い匂い。
そして微かな血………生臭く、錆びた、喉に張り付き締め付けるような…同棲者からよくする、もう嗅ぎなれた匂い。
凍える手でベルトに付いた小物入れから家の鍵を探し出し、少し回しにくくなった鍵穴に差し込む。5、6回揺らしただろうか、スンと鍵が回りその勢いに体が傾く。
「ただいまぁ。帰ったで」
玄関で革靴を脱ぎ廊下に上がる。寝室から明るい光とゲームの音が漏れている。また遊んでる。こちとら散々疲れてやっとこさ帰ってもう1時だってのに。腹は空いたわ、眠いは、風呂入りたいわ…。廊下は冷たく、棒になり感覚が薄れた足裏に痛みという感覚を取り戻させた。ため息を吐きつつキッチンを抜け、寝室を開ける。
「おかえり。遅かったねー」
ソファーに腰かけこっちをチラリとも見ずにテレビ画面を凝視し、コントローラーをポチポチしている「嫁」がいた。
鼬。俺の親友兼嫁である。人生どういう事か俺は股間に逸物の付いている人間と籍を入れたのだ。
白銀の腰程までに長い髪。異様なまでに整った中性的な顔。長い睫毛。細い指としなやかで柔らかい、筋肉があまりない女性的な身体。余りにも綺麗で魅入ってしまう高価な人形の様な見た目。それなのに俺の前だと何を言ってるのかさっぱり分からない宇宙人になる。いっそ自分は金星人だと言ってくれれば俺は納得するだろう。あぁ、実に勿体ない。
「血の匂い。残っとる」
「狼ちゃんは鼻ええよね。ウチわからんで」
声を返すもテレビの画面を見たまま。俺の疲れ切った顔をちらりとも見ずに。
「ゲーム、止めろよ」
「ちょっとまって今セーブ出来るとこ行ってるから…。はい。終わり。お疲れ様ー。ご飯あっためるね。お風呂も沸かし直してくる。その間に別データの雑魚狩りしてくれると嬉しい…けどその顔、怒ってる?」
眉間にシワが寄っているのに気が付いた。怒ってる?あたりめーだろ。のんきにゲームしやがって。キレてるよ。黙ってソファに座って手袋を脱ぎ、ポケットに捻じ入れる。手際よく目の前のテーブルにお茶、箸、白米、卵スープ、空芯菜の炒め物、回鍋肉が並べられる。食欲をそそる匂い。ついがっつく。だが回鍋肉にレンジの熱が行き渡っていないのか冷たい所がある。噛む度に熱すぎる所と冷えきった所が口の中で場所を取り合い、とても不快に感じる。イライラが募る。
「風呂出来た。んじゃ、ゲームしてるから。お風呂は抜いて洗っといて。んで先寝てて」
俺はゲーム��り存在下なのかよ。脱衣所で服を脱ぎながら自分の情けなさに辛くなった。タオルを取り、鉛のように重くなった腕で体を洗うのは面倒だと感じながらも、なんとか体を洗い終えた。ピンク色の���ベンダーの匂いの湯船から湯気が上がっている。色も匂いも嫌いだ。しかも長い髪の毛が1本浮いている。なんで最後に取らないんだ。湯船に浸かった胸にピチャリとその髪が張り付く。つまみとり浴槽の縁に貼りつけようとするも指に白銀の髪がまとわりつきなかなか取れない。諦めてその指を浴槽に沈めた。
このまま寝てしまいそうだ。しかし寝ぼけて溺死するのはあほらしいので渋々浴槽から出た。栓を抜き、いつの間にか指から離れたあの忌々しい髪の毛は排水溝に渦を巻いて意図も簡単に吸い込まれていくのが見えた。そのまま海まで流されろ。
柔らかいバスタオルで体を拭き、畳まれたいつものルームウェアに着替える。サングラスはなく眼鏡が畳まれてタオルの上に置いてある。人のものかってに触るなよ。髪を乾かし、重い足を引きずってどうにかソファーまで辿り着き、横になる。同居人はまだフローリングに座り、のんびりとゲームをしている。それを横目に見ていているとさらにイライラが増していく。
いつの間にか睡魔に襲われる。重い瞼を閉じかけた時、鼬がソファーに手をかけて覗き込んできた
「狼ちゃん、お疲れ様。…まだ怒ってるん?何に?」
何?何っててめぇの中途半端な家事やゲームばっかりやってる態度にだよ。本当は俺の事どうでもいいんだろ。俺はお前が言う理想を演じ続けてるだけだしな。昔のひ弱だった「オレ」なんか嫌いなんだろ。…俺はあの頃と変わっちゃいない。どうせお前は「オレ」を見てない。「オレの全部」を。そんなお前の態度や言葉や…全部。全部が腹立たしい
「全部」
「全部か…。そっか。ごめんね。いつも完璧じゃなくて」
「完璧を求めてんじゃねーよ!お前さ、俺に色々指示だけしやがって。んでなんだ?自分は遊んでばっか、我儘三昧か?俺の事少しでも考えた事あるんか!?…どうせ『オレ』の事どうでもいいんやろ」
「狼ちゃん、ウチってそんなに…本当に狼ちゃんの事、少しも考えてないように見える?本当にどうでもいいなんて…考えてるように思える?」

鼬の口が固く結ばれて、手は震えている。金と紫のガラス玉の様な眼には雫が溜まり始めて、1粒俺の左手の甲に落ちた。その冷たい雫に我に返る。雫が心にしみていく。怒りは徐々に静まり焦りが生まれる。そして気が付く。俺の言葉はナイフになって鼬の心を刺してしまった。そのナイフの柄を持っているのは俺だ。俺は…
また俺は鼬を泣かせてしまった。
俺のことを少ししか考えてない?どうでもいいように思ってる?軽率な言葉だったかもしれない。 そうだ。飯は作ってあった。飯食った後に直ぐに風呂も入れた。風呂に入ってる間に服は仕舞われて、着替えと眼鏡は出してある。俺が気がついてないだけでまだ沢山気を遣われてる。
きっと鼬ちゃんは俺が計り知れない程に「���」も「オレ」の事も考えている。
「…泣くなよ。鼬ちゃん、俺の事思ってくれてるんだよな。俺、家帰って何から何まで鼬ちゃんにしてもうてた…。それやのに酷い事言ってしまった…ごめん。鼬ちゃんも疲れとるのに…俺の事思ってくれて、しかも疲れてるのを気遣って全部面倒見てくれて、…ありがとう」
鼬は赤くなった目を丸くしてる。両手で顔をぐしぐし拭いさる。そこには涙が止まり頬を赤らめたなんとも愛らしい笑顔があった。少し驚いたし腹の当たりがじんわり熱くなった。 俺、やっぱり鼬ちゃんの事好きなんだな。
「んへへ、狼ちゃんが分かってくれて凄く嬉しいです!あのさ、嫌じゃなかったら…今日は一緒に寝る?」
霜の降りた窓からは、雪が降っているのが見える。月光は部屋に差し込みベッドに柔らかな光の毛布を敷く。狭いベッドに大人二人。窮屈だが握ったその手は暖かかった。
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ある画家の手記if.81 雪村絢視点 告白
I’m singing’ in the rain Just singing’ in the rain, What a glorious feeling, And I’m happy again. I’m laughing at clouds So dark, up above, The sun’s in my heart And I’m ready for love…………
直にぃが「そろそろお昼ご飯にしようか」って三人分の食事作ってたから、ケータイで検索してピザとかかつ丼とかラーメンとかいろいろ片っ端に電話かけて出前とった。頼むときに一応マナーかなと思って「二人の分も注文する?」って聞いたらすごい勢いで首を横に振られた。 それから三人で食事しながら香澄のとなりに座って香澄を構い倒した。直にぃのほかにも心許せる人間がいたらいい、とかなんとかいう思惑はなくもなかったけど、それより香澄が口開けて笑ってるのを見れるのが嬉しかった。いつもはちょっと大人しくて照れぎみっていうか、まことくんちでも声をあげて笑い崩れたりってとこはまだ見たことなかったから。今も無理して明るく振舞ってるわけじゃなさそうだし、なら遠慮せずにいこうと思って俺も好き勝手やり放題だった。香澄もつられて笑った。 ーーー自傷は、無意識からの心理的な圧迫や抑圧のひとつの現れ方だ。真澄さんの話で俺の憶測はすこし確信めいてきた。なら心からの感情をなるべくたくさん自然に発露させてやるのは有効だ。核心部分につられて心理はほかの感情も圧迫するから、圧死する前に溜め込ませないで出させたほうがいい。普通に考えて、核心部分を圧迫できるのは核心部分そのものじゃなくてその外側にあるものだ。それを溶かしたい、そのあとで圧迫されなくなった無防備な核心部分を守るのはーーー俺の役目だ。 で、何で溶かせるか、これはフリや演技じゃ通じない、香澄を心から大事に想う人間がほんものの関係を築いていかないと。俺がなんでここまでゴチャゴチャ考えてるかって、香澄のことが大事だからだ、つまり俺は普通にしてればいい。 今のところは順調、特に俺の心理面はね。誰も無理しないで好循環を築くことが俺の当面の目的だ。
風呂に入ることにしたら「片付けは僕がやっておくよ」って直にぃが食べ散らかしたものをキッチンに引こうとした。 「待って直にぃ!それまだ食べかけ!」 眉に皺を寄せてソファの上から直にぃが皿を持った腕をすこし強めに掴んでとめた。直にぃは皿に乗ってた最後の一個のタコ焼きを串に刺して俺の口に入れてくれた。パクッと食いついてもぐもぐしながら直にぃの腕をパッと離した。 ここにきたとき香澄の向こうでわたわたしながら部屋の中を片付けてる直にぃが視界の端をかすめた。そのとき直にぃは今おろしてるシャツの袖まくってて、腕には引っかき傷のあとみたいなのがちらっと見えた。どれくらいの怪我かよく見えなかったけど、まぁ掴んでもまるで痛まない程度には治ってきてるっぽいな。 うっかりにしたって直にぃはもうすこし気をつけたほうがいいな。香澄を守ろうとしてんだろうけど、それで直にぃが傷つくと香澄は自分を守られること自体に否定的になりかねない、もうなってるか? だから直にぃがそばについてても、いや、そばにいるほうが自傷悪化するかもな、今は。帰る前にチャンスがあれば説教しとくか。それか様子によってはしばらく香澄と俺だけで旅行でも行くかな。多分二人にそういう発想ないし。 もぐもぐし終えてタコ焼きを飲み込んだら先に風呂場にいこうとしてた香澄の背中に助走つけて飛び乗った。 「わ、絢まってまって、落ちるって」 香澄が俺の両脚を慌てて抱える、香澄の背中に乗っかりながらおんぶされて笑いながら言う。 「脚がいたむ~歩けない~」 「えっほんとに?!」香澄がさらに慌てたから香澄の顔の横から風呂場をビシッと指差した。 「すすめ香澄号!身体的弱者のために!」 「もう…絢の冗談しゃれにならないよ」 香澄が俺をおんぶして脱衣所で下ろした。 「有効な対処方法が見つかったって言ったじゃん。俺の脚なんてもうジョークのネタくらいにしか使えないね」 俺が服を脱ぎながら笑い飛ばしたら香澄はどこか安心したような笑みを浮かべてた。 焼き殺されかけたんだもんな、それを香澄が助けてくれた。 俺はも��大丈夫だよ。そんな感情を込めて、にっこり俺も笑って見せた。
香澄と一緒に読んだ「星の王子さま」の本は直にぃの私物らしい。原著じゃなくて和訳だった。 俺ははじめて訳したときからあの本の新訳が出るたびに全部に目を通してた。ずっと一定の人気を誇る本だから新訳がどんどん出る。サン=テグジュペリの描いた挿絵がすげーかわいいから書店でもすぐ目につく。直にぃが持ってた本は相当古いやつで今はネットとかじゃないとなかなか手に入らない、訳も日本語の言い回しも古めかしくてサンテックスの生きた時代を連想できる俺の好きなやつだった。
「おお~浴槽でか!」 風呂に入って浴槽のサイズにビビる。真澄さんとこのも標準より大きめだと思うけど。 「直人サイズだからね」 「この部屋って直にぃが購ったの?」 「うん。画家だった頃のアトリエを後輩に譲ってここに移ったの」 「なるほどね」 ここに住み始めたのと画家をやめたのは同時期で合ってるらしい。真澄さんが調べやすいように追加情報まとめてあとで報告するかな。しなくてもあの人ならこれくらいのことは割り出せてるかもな。
風呂��中で香澄とお互いの体を確認し合う。 香澄の体に新しい怪我は増えてなかった。それを褒めるみたいに香澄の頭をポンポン撫でて手と手を絡ませる。香澄の指先を指の腹でさりげなく撫でた。会ったときから気になった、やけに爪を短く切り込んでるから、いつ切ったのか切り口の感触で伺う。昨日今日、ってわけじゃないな。とするとこれは切ってから伸びてきてようやくこの長さってことか。直にぃの腕の傷はそれでか。 「香澄、爪切りすぎたろ」 目を細めてにまーっと意地悪く笑って言ったら正面の香澄がおたおたした。 「えと…寝てる間見ててくれてた直人の腕引っ掻いちゃって、なら爪切ったらいいかなって」 「切りすぎ。直にぃのこと守ろうとすると香澄は視野が欠けがちになるんだから、直にぃを傷つけたくないとか守りたいって思ったときは、思いついても行動する前に一度5分くらい深呼吸してみな。本当にしなきゃいけないこととその加減が見えてくるかもよ」 説教っぽくなりすぎないように向かい合って手を絡めて一緒に手遊びしながら笑ってそう言ったら香澄は素直に頷いた。 「絢、ありがと」
身体洗いあって二人で湯船に浸かって、話がひと段落ついたとこで俺は目を閉じて湯気に向かって歌い出した。風呂の中で歌うの、音が響いて楽しいな。 「それなんて曲?」 「Singin’ In The Rain. ”雨に唄えば”だよ」 歌詞がないところのメロディは口笛にした。こんなこと名廊本家でやってたら殺されるな、シャレじゃなく。 香澄は隣で静かに俺が歌い終わるのを聴きながら待ってた。 歌い終わってから、すこし落ち着いた声で話す。 「俺の脚、雨が降ると痛んだり動かなくなるんだ。気圧だか湿度だか原因よく知らないけど。香澄をラブホで手当てしてから公園で倒れてまことくんに病院つれてってもらったけど、あれは帰ってる途中で雨が降り出しちゃって、脚が動かなかったから公園のゾウのお腹んとこに隠れてたの」 「ゾウのお腹?」 「こーいう丸い穴があって、潜れそうだったから」 腕を頭の上にあげて丸を作ってみせる。 「前は雨が降ったら俺はそこでお手上げだったけど、おとなしく本読む以外にも雨がやむまで歌うって手もあるよな~みたいな」 そこにいた頃は気づいてなかったけど前は相当たくさんの不可視の縛りがあった。あの頃は歌うって手段は頭のどこにも浮かばなかった。誰かに聞こえたら俺の分際で浮かれてでもいるのかってキレられるに決まってるし、雅人さんの家は沈黙に支配されてるような破っちゃいけない空気感があったから。 「絢、いまの曲もう一回歌って」 「いいよ」 ねだられてもう一回同じ曲を披露した。ジーン・ケリーほど美声じゃないしあそこまで声を張り上げるわけじゃないけど、音読するときと同じくらいの��じで、優しく湯気に乗せるみたいにして。 それから話は二転三転しつつ、『からっぽのいきもの』の訳の話になった。 あれって真澄さんが好きな本なのか、俺の訳が気に入ったのか、どっちなんだろ。 「それはたぶん絢の訳を好きって言ったんだよ。兄ちゃんあの絵本は好きじゃ無いから」 「そうなの」 「うん。なんて訳したの?」 「Ils font des animaux en ballons gonflables.」 まだあの本の内容は覚えてる。子供向けにしては意味深だったからつい暇なときリピートして考える。 あの物語の冒頭は”かれは ほんものをかうおかねが ありませんでした”だった。金銭で買えるどうぶつたち。みんなと同じようにかれに財産があったなら、自分のさびしさを使ってまでなにかを作ろうとは考えなかったかもしれない。かれをそらに運んでくれたどうぶつたちは、かれの作った尊く愛しいにせものたちだ。貧しさが、自分を高次へ導く豊かなものをもたらしてかれに生み出させた、宙に吐くだけじゃ霧散して消えるだけのかれの吐息が形になって、なにひとつ持ってないスタートラインから。 訳したときには、直にぃや理人さん、誠人さん、真澄さん、香澄…みんなに似てると思ってた。でもあれは俺の話でもあった。なにひとつ持たずに逃げ出して、残ったものもすべて捨ててそこから新しく始めた俺の。 どこまで高く上昇できるかは俺にかかってる。そして俺はあのとき上昇や浮上に無意識に墜落の未来を感じてた、でも ーーーー「物語にもただの日常にも無限の解き方があるけれど、絢も覚えておいで」 俺を俺だと分かってたときの理人さんがこっそり教えてくれたこと。 ”なぜあの犬は吠えなかったのか? …聞こえなかったこと、書かれていないもの、見えないもの、起こらなかったこと、決められた枠の外側に目を向けてみつけるんだよ、想像力をつかってね” つまり、あの物語はあそこまでしか明文化して書かれてないだけで、続いてたかもしれない。実際、最後はぷつんと切れたような形で特にここで終わりだなんて書かれてなかったし。 どう続けるのかは読み手次第ーーーかれも、俺も、香澄も、真澄さんも、直にぃも。どれだけそういう予測が立っても無残な墜落に終わるかは、書かれてないんだ。書かれなかったことに、作者の思いがあるかもしれない。…いま訳したらまた違う感じになるかもね。
「……さびしさは…彼の命なんだね」 となりで香澄が呟いた。 なにか考え込んでるみたいな顔してる。ーーーかれの、命… 「…香澄?」 香澄が俺の肩にもたれて頭を擦り付けてきた。ねこみたい。 「さっき絢は冗談みたいに言ってたけど…俺、ほんとに会いたいと思ってたよ。絢に」 「…………」 「会えてよかった。すごく大事なんだ…また…一緒にいられて、嬉しい。おかえり、絢」 凪いだ水面に広がる微かな波紋、 香澄の首に腕を回してぎゅっ��体を抱き締めた。 触れた腕や体からざらざらした感触が伝わる、身体中にたくさん重なった傷跡、 …もう大丈夫だよ、俺がきたから 俺がついてるよ もう誰にも傷つけさせない、俺じゃなきゃだめなんだ、香澄にとって俺はもう”絢”だから それを嬉しく思う どこにもいかない ずっとついてる どんなときも俺がいて香澄が自分を守るのを助けるよ ”絢”は いらなくなんてない 「………俺もだよ」 香澄の首筋に頭を押しつけて静かに目を閉じた。嬉しくて、自然と口元が緩んで微笑んだ。 俺にもあった 俺が俺だったから、守れるものが 「…香澄が、すごく大事だ。…会えて、よかった、Je suis très heureux n'ai jamais été aussi vivant.…」
風呂から上がって夕飯作って、直にぃと香澄と三人でまた話しながら食べた。 話してて思う、直にぃもけっこう面白い本を読んでる、ずっと絵ばっかり描いてたってよく聞いたから何も共通の話題なんてないかと思ってたけど、案外俺と読んだ本で被ってるのもあった。 そして被ってる本は、正気だったときの理人さんに「読んでごらん」て俺が勧められたものだ。直にぃはきっと、雅人さんから勧められたか、借りて読んだ。 まだ本家で一緒に暮らしてて仲のいい兄弟だった頃、理人さんと雅人さんは一緒に同じ本を読んでたのかもしれない。そう思うと、嬉しかった。
それから直にぃを口先でいじりながら香澄と一緒に寝室に入った。 なんとなく歩くとき香澄の腕を引いて俺の前で絡ませるのがもう癖になってきた。なんだろ、落ち着く。香澄がうしろついてきてるからか? 絡ませた腕の上に俺も両手を置く。列車みたいにつながって歩く。香澄は俺の足踏まないようにしててちょっと歩きづらそうだけど。 かわいかったから鍋つかみに恐竜みたいな柄のやつ買ってきたら香澄はそれを見てえらく喜んでた。このキャラクター有名ななんかだったのか?? 香澄は丸くした目をきらきらさせてる。俺は鍋つかみを一度手にはめて、香澄の鼻にパクッて噛みつかせた。香澄は鼻を押さえられて笑ってた。花が咲いたみたいな笑顔だ。俺もにこにこする。 はしゃぐ香澄の手に鍋つかみをしっかり装着させて、香澄を寝かせる。以前やったみたいに、首筋を俺の体で守るようにして覆いかぶさった。優しく体を抱きしめて明かりを消す。 「香澄、おやすみなさい」 「うん、絢おやすみ」 俺の考えてた「具体的に試したいこと」ってのは、ここからだ。 入眠時の意識状態の行動には、起きている間の当人にいくら説得しても働きかけても効果は薄いだろう。カウンセラーとか臨床心理士とかちゃんとした人が専門知識持ってやるならそういうことも有効なのかもしれないけど、俺がそうじゃない以上俺にできることは別のことだ。 俺のフラッシュバックから生じる脚の痛みに燃えてもないのに水をかけて効果が出たとき思った、問題行動が起きた時が解決の契機にもなる、眠っている意識には、眠っている間に、俺が起きててずっと声をかけ続ければ…
…まだ眠たい もう少し寝てよう…あったかくて気持ちいいし… 「……。」 じゃないんだって!!!!! 「香澄、香澄!」 急いで体を起こして目の前で眠ってる香澄の肩を揺さぶる まさか眠ってたのか、初めてきた他人の家で? 今って、OMG、嘘だろ、部屋ん中もうすっかり明るい、まる一晩俺眠ってたのか?! 何しにきたんだよ?! 完全に脱力した俺の下敷きになってた香澄はぼんやり目を覚まして、俺の背中に回してた手をおそるおそる外した。 「……。」 「……。」 ……は?? 香澄も同じことを思ったのか、綺麗に嵌められたままの状態の鍋つかみをそーっと手から外してみる。…何もない。血の跡とか、指先が腫れてたり赤くなってもない。深爪ぎみだったから一晩中俺の背中を鍋つかみでこすってたとしたら爪の生え際にダメージあるはずだ。 「……。」 香澄の手をとってよく見る。香澄も自分の手じゃないみたいに目を丸くして俺と一緒に、見る。 ……何もない。 「………。」 「絢?!」 脱力してボスッと枕に顔面から倒れ込んだ。…マジか。論理的に現実だけ見て、理詰めで勝負しようとして挑んだら勝負開始のゴングが鳴るのと同時に俺がスヤスヤ眠りこんで、しくじったと思って見れば何も起きてすらなかった… ーーー惨敗。人間ってのは理屈でできてない。十分わかってたつもりだったんだけど… 「…っはは、」 腕をついて枕からゆっくり顔を上げて起き上がったらおかしくて笑いと一緒に目尻から涙でてきた。指先でそれを払う。 起き上がった香澄の体にぐたっと凭れたら重心がずれて香澄の膝の上に倒れた。 俺の顔を見下ろして覗き込んでくる香澄のぽかんとした顔を見て、その頰にそっと手を伸ばす。 俺ちょっと驕ってたかもね、頭使って情報揃えれば俺に事態をどうにかできるかも、なんて。俺の想定した希望より人間の可能性の方がひと回りもふた回りも大きなスケールで軌道を描いてた。人の命を生かす方向へ。 愛で人間の命は守れない、でも愛し合うことで人間が変わって、それが誰かや本人の命を守った。 惨敗だ。 俺が嬉しそうに声を立てて笑うのにつられたのか、香澄も笑い出した。 真澄さん、香澄は奇跡を起こしたよ、自分で。
そのあと一応全身を見てみて何も起きてないのを確認してから、香澄と一緒に寝室からリビングに出てった。 直にぃはもう朝ごはん作って俺たちを待ってた。俺のために何品目かをまだ追加で作ろうか迷ってたみたいだ。 俺が「じゃーん」て言って後ろから香澄の両手を掴んでバンザイさせて直にぃに見せたら、意味をすぐに察したのか直にぃは走り寄ってきて、香澄を抱きしめて泣いてた。幸せそうに笑いながら。
続き
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詩集「ACID WAVE」

詩集「ACID WAVE」
1.「ACID WAVE」 2.「FAKE MOVE」 3.「BLACK JOKE」 4.「SENTIMENTAL FUTURE」 5.「EMOTIONAL JAIL」 6.「無口な花束」 7.「DEMAGOG RHAPSODY」 8.「NOISY BOY」 9.「FLOWER JAM」 10.「APOSTROPHE」 11.「ROAD MOVIE 〜 ACID WAVE:EPILOGUE」
1.ACID WAVE
謂われもない 正しくない そんな言葉に縋り付く幻想 つまらない 逃げ出したい そんな怒りに縋り付く妄想
Ah 僕らは何のために生きるの? 幻想 妄想 空想 瞑想 惑わされないで
ACID WAVE こわれもの ACID WAVE はぐれもの 激しい風に吹かれた 今こそ君を見つめ直せ
ACID WAVE いたみわけ ACID WAVE のれんわけ 激しい風が変えてく この世界を洗いざらい “あたしが変える”
さりげなく とめどなく こんな言葉に立ち止まる若者 痛みもない 信じらんない こんな時代に立ち止まる旅人
Ah 僕らは誰のために迷うの? 群衆 観衆 聴衆 大衆 波に負けないで
ACID WAVE ふれるなよ ACID WAVE さけぶなよ 激しい風に吹かれても 何も言わぬ君がいる
ACID WAVE つらくても ACID WAVE さみしくても 激しい風に乗ってくの こんな世界にも愛がある だから! “あたしが変える”
こんなに叫んでも 誰も動いてはくれない なぜ なんで どうして ゆるせない 感じるパワー みなぎるエネルギー 君も一緒に行こう
ACID WAVE ほんとうを ACID WAVE しんじつを 激しい風が吹いてる あたしがこの世界を変えるの
ACID WAVE こわれもの ACID WAVE はぐれもの 激しい風に吹かれてる 今こそ君を見つめ直せ
ACID WAVE こんどこそ ACID WAVE はしりだせ 激しい風に乗っていけ あたしはもう一人じゃないんだ 激しい風と共にいけ 立ち止まってる暇はないよ だから! “あたしが変える”
2.FAKE MOVE
AとBの関係が AとCの関係になる 私が言いたいのは そんなことばっかじゃない
根も葉もない嘘に 世界は覆われ 君が何かを始めるとき その嘘が障害物(ゲート)に変わる
Fake Movement 嘘と言ってよ 私はそんな奴じゃないの Fake Moment なんとかしてよ 私の暮らしが毀(こわ)れてく 人は誰もが夜明けを求めて それぞれの明日を捜すもの
ある花の咲く時 薔薇が邪魔をする あなたの言いたいこと ぜんぶ代わりに述べてくれる
見聞きした声に 世間も騙され 薄っぺらの#とやらで 拡散される気分はどうよ?
Fake Movement 止まらぬ声に 私が私を殺してく Fake Moment 支配されて 私が私じゃなくなるの 作りかけのpersonality 粉々に砕けてく この夜
アイドルでいるのも 楽なことじゃない 君が君らしくいられるのは その嘘を代わりに繋ぐ誰かがいるから
Fake Movement 戻りたいわ 私がまだ“it”だったあの頃に Fake Moment もう十分よ 私に何も求めないで!
Fake Movement もうやめてよ 私がこんなに頼むのに Fake Moment 拡散されてく ほんとは全部嘘なんだ
Fake Movement 言われるがまま 私に出来ることはなに? Fake Moment 流されるがまま ただ生きてくしかないのね
3.BLACK JOKE
I hate a money… I hate a money… I hate a money… I hate a money…
顔も声も知らない奴が 今日も有名人を叩いてた どんなに声を遮っても どこからか お前は沸いてくる Uh-Oh 二言目には溜息さ
世界は正解を捜すけれど その世界が意外と狭いように もしも君が 何にも知らない 知らされない 鳥かごの中の生き物だったら?
憎しみの先に何がある 欺瞞と疑惑の世界の中で 僕らは生きていくのだから 一言目に許せる勇気を 黒い嘘 さあ放て Black Joke!!
努力や失敗も知らずに まるでヒーローを気取ってさ お前は何様なんだ? そもそも正義ってなんだ? Uh-Oh 少なくともお前は正義じゃない
I hate a money… I hate a money… I hate a money… I hate a money…
諦めの先に何がある 人々が現実に絶望して 無言で立ち去った痕には 一言目に愛しさを Oh baby さあ放て Black Joke!!
思想が思想とぶつかり合い 声を挙げることを躊躇う者たち そんな彼らを嘲笑う お前らも子羊の一匹だろ?
憎しみの先に何がある 欺瞞と疑惑の世界の中で 僕らは生きていくのだから 一言目に許せる勇気を 黒い嘘 さあ放て Black Joke!!
諦めの先に何がある 人々が現実に絶望して 無言で立ち去った痕には 一言目に愛しさを Oh baby さあ放て Black Joke!!
どいつもこいつも お前も貴様も いい子ぶってんじゃねえよ!!
4.SENTIMENTAL FUTURE
僕の馴染みのサ店が 日曜 店を畳むらしい 太陽の眩しい真夏日 レーコーがあまりに美味しかったんで 思わずマスターに駆け寄り 「ありがとう」と握手を求めると コーヒー豆を持たせてくれたよ
声を挙げるだけで すべて変わると信じた あの日々が懐かしい
僕が愛した御神酒(おみき)屋も 近々 店を畳むらしい 学友とアジった帰り道 日本酒があまりに美味しかったんで 思わずバーテンに駆け寄り 「この酒どこのですか?」と尋ねると 住所をメモに書いてくれたよ
声を挙げるだけで すべて変わると信じた あの日々が懐かしい
君との馴れ初め古書店まで 明日 店を畳むらしい 論文に追われた夏休み 黒髪があまりに美しすぎた 思���出は色褪せぬまま
声を挙げるだけで すべて変わると信じた あの日々が懐かしい
声を挙げるだけで すべて変わると信じてた あの青春の日々が 今はただ懐かしい
5.EMOTIONAL JAIL
ある日 パソコンを開くと 君が一面に映ってた 何故だか 僕はわからず 電話をかけてみると 全部話してくれた
大根がふつふつと煮えるように 時がすべてを変えるだろう 君は無邪気に語るけど なにも変わりはしなかった
ある朝 ウトウトと目覚めた 君は隣で笑ってた 何故だか 嫌な予感がして ぎゅっと抱きしめてみると 君は笑ってくれた
茶柱が幸福(しあわせ)を繋ぐように 時がすべてを変えるだろう 君は無邪気に語るけど なにも変わりはしなかった
ある夜 ニュースを観ると 君が白ヘルを被って 波と波 消えた幻が 僕らの終わりだった 全部終わりだった
数年後 僕たちは離れたまま 風の便りで今を知る 見出しに小さなイニシャル それは僕の名前だった
突然何かに追われるように 僕は再び帰京した 君がもういないと知りながら 青リボンをずっと捜し続けた Aの街に少女の声 聞こえた気がしたんだ
6.無口な花束
柱の落書き まばらな観客 毎週水曜 青春捜して さすらう愛を あなたへ囁く
哀しきセレナーデは 醒めた夢への餞別
誰もいないステージで ひとり悟った恋の限界(フィナーレ) 無口な花束 黄昏(ゆうひ)の約束 サヨナラは何も言わずに
時代は変わった ここは変わらない 小さな劇場 無限の未来へ 信じ続けた夢は何も語らず
群青は水性の儚さで あの夏を静かに溶かした
誰もいないステージで ひとり悟った恋の限界 無口な花束 永遠(とわ)への幕開け 倖せの唄をあなたと友に
フィルムに残された 涙と歓び 来週水曜 もうここにはいない 記憶は風と明日へ消えゆく
誰もいないステージで ひとり悟った恋の限界(フィナーレ) 無口な花束 無言の客席 サヨナラは誰にも言えずに
あなたのためにずっと ひとり狂った恋を謳い 夢への舟が来るんだと 私はひたむきに信じてた 無口な花束 「ファン一同より」の文字 サヨナラは夜に隠して
7.DEMAGOG RHAPSODY
幸せになりたくない人なんていな�� 優しくなりたくない人などいない 淋しいのがいいって人はいない 怒られるのが好きな人もいない
ああ 愚民たちよ なぜ君たちはそんなに愚かなのか? ああ 愚民たちよ どうして君たちはそんなに馬鹿なのか??
悲しいほど静かな街の中で ただ大好きなものを投げ捨て 俺はここまで歩いてきた 素直に夢を追いかけてきた
ラララ ラララララ ラララ ラララララ
文句を言う前に 君のやるべきことをやれよ 誰かをアジる前に 君のやるべきことをやれよ
言いたいことを言えば 風の噂で火は巻き上がり 還ってきた時には姿を爆弾に変え 俺の前で導火線が切れる
あきらめろ もう遅いぜ あきらめろ もう遅いぜ
声を挙げるのが遅すぎたのさ もう止まりはしないのさ
暴走電車にようこそ 華やかな��にようこそ
怒れ 怒れ 怒れ 怒れ 怒れ 笑え 笑え 笑え 笑え 笑え ぴえん ぴえん ぴえん ぴえん ぴえん しくしく しくしく しくしく しくしく しくしく
自分がヒーロー気取りで 正しさの意味さえ知らずに 君は正しさを語るつもりなのか それならケチャップを丸呑みしてまで 苦労の道を歩むことはないだろう?
おかしいことはおかしいと言うのだ 違うものは違うと言うのだ 寂しいときは寂しいと言うのだ せつないときにはせつないと言うのだ
神がこの星を創り 俺たちがここに産み落とされた 宇宙の法則の中 流星群に乗り 飛びたて 夜が嵐に包まれて かつてない狂騒 明日は闇に覆われて かつてない競争 着せ替え人形のように お前も変わり身が得意だな!
壊してばかりじゃ何も始まらない 叩いてばかりじゃ何も産まれない 涙ばかりじゃ何処も渡れない 争いばかりじゃ夢も翔ばない
華やかな週末に 綺麗なドレスで着飾って 鏡の間 集結する若人よ
ひどく暑い夏に あの橋を駆け抜けてゆく 髪を束ねた 少女ランナー
黒雲に青空は見え 彼方には遥かなる山 その滾るような美しさ 忘れかけてたもの 子供たちのあどけない微笑み 淋しかったから 声をかけてみよう
ロックは死んだ ロックは死んだ ロックは死んだ サイレントマジョリティー 広場に人は集まり まだ終わってないと声を挙げる 意味がないと知っていても 変わる可能性がある限り 闘い続ける 走り続ける それが人の慣性
ダイスを振れば 転がる石のように 気まぐれに時代は変わる
誰かの声に揺られて 転がる石のように 気まぐれに世間は変わる
最高の詩があれば 世界も変わるはずさ
もう一度 信じてみたい もう一度 愛してみたい
愛する勇気をみんなで持てば きっと世界は良くなる
パンドラの函を開く前のように カオスのない世界 まだ物語は始まりすらしない 人間なんだもの 毎日 君も生まれ変われる 世界はもっと良くなる
8.NOISY BOY
あの店でウォッカを片手に 世間を語った青年 過ちは恐れずに 明日を見つめていた
最終電車が過ぎても 何にも気にすることはなく 怒りに震えながら 正義を語り続けた
あれから何年かして 少年の姿は見えなくなった 今どこで何をしてるのだろう そんな想いが浮かんだ
道を健やかに 君だけのために走れ 最高の想いがあるなら それをぶつければいい 君ならできる 君ならやれる ここから君へ叫ぶよ 諦めるな 投げ出すなと 真っ白な空へ唄う
僕らが親父になって あの日の青年を見つけた 白髪になって シワも増えて なんだかやつれていた
最終電車が近づき 時計を何度も気にして まるで達観したかのような表情で 山手線に乗り込んだ
あれから何十年か経って 少年の微笑みも無くなり 諦めかけたその眼に 勇気は消え失せていた
道を激しく 君だけのために走れ あの頃の想いがあるなら それをぶつければいい 君ならできる 君ならやれる いつまでも君へ叫ぶよ 諦めるな 投げ出すなと 肩を叩いて君へ唄う
帰り際に振り返り 「もう終わったのだ」と淋しそうに 髭を生やしてつぶやく老紳士は もはや別人のようだった
悲しいなら悲しいと言っていいよ 許せないなら許せないと言っていいよ
世界を的確に切り取っていた あの日の少年はどこへ?
道を泥臭く 君だけのために走れ 守るべき人がいるなら その人だけのために走れ
道を健やかに 君だけのために走れ 最高の想いがあるなら それをぶつければいい 君ならできる 君ならやれる ここから君へ叫ぶよ 諦めるな 投げ出すなと 真っ白な空へ唄う
まだ僕らは諦めるには早すぎる
虚しいほどの情熱で 君だけのために唄う あの日の Noisy Boyへ
9.FLOWER JAM
君が風に吹かれ 光を浴びていた頃 爽やかな暮らしを 無邪気に語っていたね
コーヒー豆にこだわり うんちくを僕に語る 追い風に乗って 淋しさを憂い 華やかな明日を信じた
少女よ あの場所で唄う ラブソングをもう一度
清らかな青春の日差しのように 思い出を書き記す夏
君に吹いた風が止み 光が闇に変わる 過去を捨てようとも 過去に縋るしかなく
都会を歩く 若者たちの叫びが 真夜中に駆け出す 切なさみたいに 憂鬱な明日を感じた
少女よ あの場所で唄った ラブソングをもう一度
艶やかな時代の声のように 熱く燃え上がった夏
少女よ あの場所で唄う ラブソングをもう一度
清らかな青春の日差しのように 思い出を書き記した夏 眩しすぎた夏
10.APOSTROPHE
まだ秘めた気持ちを 形に出来ぬまま 私は星になった
いいねの数ばかりが 話題になる世界で 私は星になった
百億分の一 不幸のナイフが傷になる 愛する意味を知らぬ者が 幸せ 殺しに来た
ひとりの声 混じり合い いつしか世代になった 心のフィルター くぐり抜けて 届くのは心無い声 ああ 私はここにいなくていかい? まだ 私はここにいるべきじゃなかったかい??
いつの間にか過ぎてく 時間は風のように 私も大人になる
右も左もわからず その声 波のように 私も大人になる
七十億分の一 誰かに愛された人たち あなたに誇りがあるなら 画面の向こう側を感じて
ひとりの声 重なり合い いつしか時代になった 正義のフィルター 回り道して 伝わるのは心無い声 ああ 私はもう何も言わなくていいかい? まだ 私はもう何もしない方がいいかい??
喜びも悲しみも 全部抱きしめて あなたに愛があるなら 傷つけ合うのはもう終わりにしよう?
ひとりの声 混じり合い いつしか世代になった 心のフィルター くぐり抜けて 届くのは心無い声 ああ 私はここにいなくていいかい? まだ 私はここにいるべきじゃなかったかい??
ひとりの声 たしかめあい いつしかナイフになった 最後のフィルター くぐり抜けて 届くのは心無い声 もう 世界は誰のものでもないんだ…… さあ 世界に絶望するのはやめよう……
雲ひとつない青空 幸せのエールを投げた 悲しみも 喜びも すべて 今はどうでもいいよ 愛する人たちへ 愛せなかった人たちへ 何者でもない少女の詩を
11.ROAD MOVIE
愛する意味も 夢見る意味も知らず ただ叫び続けていた ただ泣き続けていた 誰かに操られるがまま 私は何かを変えようとしていた 変わろうとしていた
しかし 何も変わらず 今日も世界は回っている 私たちの声を聞こうともせず 今日も世界は変わっていく 誰のために頑張ってきたのだろう 何のために声を上げてきたのだろう
気付いたとき すべてが空っぽになっていた 気付いたとき 誰も周りにいなかった 気付いたとき 私は独りになっていた
誰にも気付かれないように 早朝家を飛び出した 最寄駅から各停に乗り 始発電車で故郷を後にした 愛を捜すために 夢を探すために 私は���に出たんだ 旅に出たんだ
流れる景色は見慣れたはずなのに 今日はなんだか美しく見えるね 流れるビル群と住宅街の調べ すっかり季節は変わってしまったけれど この街は何も変わっていない ぎゅっと抱きしめてくれた 不安だった私をそっと見送ってくれた ありがとう ありがとう 涙が止まらなくなる
それでも 私は旅に出なけりゃいけない 世界の意味を知るため 旅に出なけりゃいけない 知らない世界を知るため 今日旅に出なけりゃいけない
世界がさらに速いスピードで流れていく 私の探していたものは何だったのか だんだんわからなくなってきた でも これでいいんだ わからなくてもいいんだ 地図を広げて目的地を確認してみた 知らない土地へ行くのはいつも緊張する 受け入れてもらえないんじゃないかと怖くなる でも これでいいんだ 怖くてもいいんだ
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
何時間か電車に揺られると お腹が鳴り始める 次の駅には売店がある ここは牛肉が有名だから 思いっきり腹を満たしておこう
そんなこんなで駅をブラブラしてたら 目当ての電車を乗り過ごした ちょっぴり焦ってしまったけれど でも これでいいんだ 焦らなくていいんだ 時間とは一旦距離を置く そう決めたんだ 私は決めたんだ 紫陽花が咲く頃に こう決めたんだ 私が決めたんだ
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
太陽が沈み 深い夜が顔を出す ただ叫び続けていた 泣き続けていた 少女の頃を思い出して 懐かしさに浸りそうになったけれど もういいんだ 水に流すんだ
かつて 私はわんぱくだった もはやその面影すらなく ただ大人になりかけていた そんな私をある人が変えてくれた 私は声を上げることを覚えた これまで無関心だった世界に興味を覚えた
気付いたとき 私は輪の中心にいた 気付いたとき もう戻れなくなった 気付いたとき 誰も相手にしなくなった
見知らぬ声が怖くなり ついに私は旅に出た いつ帰るかもわからない そういう旅だ 行き先も決めずにぼんやりと 流れる景色を見つめてる 明日の宿とその日の下着 これさえあればどこへでも行ける そういう旅だ 私だけの旅なんだ
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
今日の宿は友達の家 ご両親の気づかいが嬉しかった 友達も優しかった カレーライスが美味しかった お風呂は気持ち良かった 当たり前のように見えて当たり前じゃない そんなふつうが嬉しかった 友達と居られるのが幸せだった
翌朝 私は再び電車に乗った 片道切符でどんどんいこうか 青空があまりにも眩しかった もうとっくに夏は終わったというのに なぜこんなに暑いんだろう だけど もういいんだ 気にしなくていいんだ いつか涼しくなるよね だから もういいんだ 気にしなくていいんだ
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
どこまでも行ければそれでいい 雨の日でも傘は差さない 世間の声などどうでもいい 制服なんていらない 友達気取りももういらない
何度か友達の家に流れ着き ありったけの愛を注いでもらった 友達は皆やさしかった 戸惑うこともあったけれど これが旅だと思うと心が軽くなった 好きな人のラジオが耳に届く度 もっと遠くへ行こうという気になった もっともっと旅がしたかった
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
行き先を決め��かったつもりだったけど 実は最初から決めていた あと数十キロで あと一回の乗り換えで カウントダウンが始まる
もうすぐ街に着く かつて夢にまで見た街だ もうすぐ旅が終わる いや始まりだ 私にとっての再始動
どうでもいいと言われた 君には期待していないと言われた 死ねとまで言われた そんな��たちを見返すために もう一度やり直す まだ愛とやさしさが残っているうちに この街でもう一度やり直す 私はまだ死んでいないから
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう また数週間が経った やっと目的の人に逢えた 私は二度目の青春を始めた どんな瞬間よりも喜びを感じた 生きるってこんなに楽しいんだね 久々の感覚だった この街で生きられるのが嬉しかった 変わっていくのが楽しみだった
しかし変わらなかった そう簡単には変わってくれなかった まっすぐな笑顔 人間のぬくもり すべてあるのに なんにも変わってくれなかった だけど気付いた もう一度気付いた 私が変わろうとしなかったんだと 変わるために頑張れていなかったんだと
自暴自棄になりそうだったある日 ある人が教えてくれた 「君の自由は当たり前のものじゃないんだよ」 未だ名前はわからない とにかくあったかい人だった 忘れかけていたものを三たび思い出した もっと純粋に夢を追いかけてもいいんだ もっともっと熱く世界を語ってもいいだと
だから もう一度旅に出ることにした あの旅に出た時の感覚を思い出すために もう一度旅に出ることにした
いつかまたやり直せる この街は私をぎゅっと抱きしめた 旅立ちの日は空があまりにも美しかった 今まで感じたことのない安らぎがそこにあった 見つめ合う自然の笑顔がやさしかった 「人は何度でもやり直せる」 そう感じさせてくれる空だった
なんでもない日に旅に出よう ありきたりでいいんだ 無計画でもいいんだ ロードムービーみたいな旅に出よう
今の私ならどこまでも行ける 行き方のわからない目的地がすべての目印 人生はみなロードムービー
Bonus.PROTEST SONG’20
やさしさの行進(ぬくもりの交信) はげしさの更新(かなしさの恒心)
さわやかな日々も ひそやかな日々も みんな同じだよ しあわせの価値は みんな同じだよ あいに生きる あいで生きよう あいを生きていこう きみが思うほど きみは愚かじゃない
さみしさの漸進(つよがりの染心) いとしさの全身(たのしさの前進) はなやかな日々も ありきたりな日々も みんな同じだよ しあわせの価値は みんな同じだよ
ゆめに生きる ゆめで生きよう ゆめを生きていこう あなたが思うほど あなたは弱くない
詩集「ACID WAVE」Staff Credit
All Produced by Yuu Sakaoka(坂岡 ユウ) Respect to Pink Floyd, THE ALFEE, BAKUFU-SLUMP and MORE... Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
2020.5.25 坂岡 ユウ
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京都のおいし~お店紹介
そろそろ京都のおいし~ご飯屋さんの情報を残しておかないと勿体ないと思ったのでここに残していきます。写真は用意するのが面倒臭かったので代わりにGoogle MapのURL載せておきます。各自飛んで情報をご確認下さい。紹介するお店は京都に住む学生の日常として過ごすならなではなお店ばかりですので、京都らしい湯葉とか懐石のお店とかはないです。京都来たのに一回も食べれてない。たべて~!
庶民 立ち飲み にんにく丸揚げ・さつま揚げ・刺身3種盛
京都で一番安くて美味しいお店はどこかと聞かれたら、まずはこのお店を紹介するようにしています。とにかく安い!!生ビール(250YEN)。芋焼酎(200YEN)。この二つだけでも既に最強のお店って感じがしますが。庶民の本当に凄��ところは、肴も安いところです。絶対に頼んだ方が良いのは、ニンニクの丸揚げ(100YEN)、さつま揚げ(150YEN)、刺身の三種盛(500YEN)この三種盛は必ずしめ鯖が入っているのですが、個人的には抜いて別のお魚を入れてもらった方がお勧めです。庶民は本当に混んでいるお店なので、ナイジェリアの市場ぐらい人でパンパンです。灰皿は頼まないと出てこないので気を付けてください。喜劇の上回生で後輩に奢りたいけど、お金が……という人はここで奢れば無問題です。3人でたらふく食って飲んで3000円行くことはまあないです。ただお店の狭さと立ち飲みであることを踏まえると3人ぐらいが限界の人数だと思います。先輩後輩だと3人ぐらいの飲み会が一番楽しくない?俺はそう思うぞ。この庶民の辺りは大宮という飲み屋街なので、ここを一軒目にして、そっから遊び狂うのが正解だと思っています。銭湯もあるので飲んでから銭湯行くも良し、風呂使ってから飲むも良しです。未だにどちらが正しいのかがよく分かんないままだけど。
https://goo.gl/maps/ec3VGC5BYK3GLPkMA
バール・カフェ・ジーニョ 喫茶店 コーヒー・サンドイッチ
個人的な思い出がいっぱいのお店です。今住んでいる家はこのお店があるから近くに住みたいという理由で決めました。それぐらいこのお店の居心地は良かったんです。サンドイッチ200円、コーヒー200円なのに、京都で一番美味しいコーヒーとボリュームのあるサンドイッチを出してくれます。ブラジルの国旗がお店の前に掲げてあるので、僕は「ブラジル」と呼んでいましたが本当の名前は全然違うし、かっこよかったです。申し訳ないです。昔はタバコが吸えて、授業の合間にこのお店で涼んでゆっくりしてからまた大学に戻るというのを繰り返していました。タバコが吸えなくなって久しいですが、それでもここを訪れる価値はあると思います。
https://goo.gl/maps/fkqrKJPBKhwdLNYL9
村屋 居酒屋 酒盗クリームチーズ 日本酒
昔は少し駅から遠くにあって、古い木の建物とネオンが異質の雰囲気を放っていた店でしたが、ある日突然の閉店がアナウンスされ、絶望していました。しばらくして後輩のユヅキと一緒に銭湯の脱衣所で「村屋無くなって寂しいなあ、あのお店の代わりは見つからないよ~」と喪失感を共有していたら、「あるよ。村屋復活するよ」と知らないおじさんから急に情報が与えられ、おじさんの言う通りに村屋は場所を変え復活しました。
京阪出町柳駅から徒歩一分、後輩のオダギの家からは徒歩30秒の場所に復活した村屋は、記憶と違わない怪しいネオンを光らせています。お勧めはその日のメニューの中から���の濃そうなおつまみと酒盗クリームチーズ(300YEN)を頼んで、焼酎(350YEN~)日本酒(400YEN~)泡盛(300YEN~)を注文し、酒盗クリームチーズを箸の先っちょに乗せ、箸までねぶってから酒を入れることです。これさえあればあとはどうでもいいと思わせてくれる、そんな味です。現在もタバコが吸える店且つ夜が明けるまでお店を開けていることが多いので、呑んでいい気分のまま朝焼けの鴨川デルタに突撃するのもハチャメチャに楽しいですよ。眠たくなったらオタギが優しく泊めてくれる立地ですのでぶっ倒れるまで飲んでいただいても大丈夫です。
https://goo.gl/maps/pEDQSEY3wokFeiAy7
イルカ喫茶バー カクテル
バイト先の京都造形大に通っていた人から紹介してもらったのがこのバー、閑静な住宅街の中にありながら、かなり本格的で多様なカクテルを飲むことができます。値段も財布に優しく、カクテルは基本的に300円から、スナックは200円くらいからだったと思います。チャージの概念はもちろんないので、京都で初めてバーに行きたいと思ったら、このお店は三条四条のお店より落ち着いていて、メニューにカクテルの詳細が載っていますし、結果的に満足できると思います。昔は吸えましたが、時代の流れということでダメになりました寂しいですね。
https://goo.gl/maps/6VsvjtBEDAgJ8yPs9
かふぇじーの 喫茶店 ポットコーヒー
大徳寺の近くにあるジャズ喫茶です。窓からの景色がいいのと500円のポットで頼むとコーヒーが二杯飲める量が来るので、長居に向いています。本が雑多に置いてあるので適当に読むも良し。マスターは気さくに対応してくれるので、空いてたらカウンター側に座るのも良しです。かなり中心部から離れているので、時間があるときに訪れてみると良いと思います。昔は吸えましたが今はもうダメです。残念!しゃあない!
https://goo.gl/maps/MKBoNYyTeNbnbzcv9
丸二食堂 定食屋 焼きめし
「炒飯」と「焼きめし」は確実な断絶があり、一度「炒飯」を作れるようになってしまうと、二度とお袋が作ってくれる「「焼きめし」」は作れなくなってしまう。
というのが僕の好きな漫画である「がらくたストリート」の中で語られていました。実際に中華屋で頼む炒飯と定食屋で頼む焼きめしは不思議と違いがあると皆さん感じますよね?僕は感じます。僕はその断絶はパラパラかベチャベチャかでその違いが決まると思ってます。
長々と話をしましたが、炒飯のNo1のお店は未だによく分からないままです。でも焼きめしのNo1、キングオブ焼きめしを出す店はこの丸二食堂であると自信を持って言えます。揚げ物やボリュームのコスパで語られることが多い丸二ですが、本当に頼むべきはここの焼きめしです。確か大盛で500円だったと思いますが、コスパとかそういうものは関係なしにこ��の焼きめしはめちゃくちゃ美味いです。ほんのりと香るニンニクと湿った醤油の焦げた匂いのする焼きめしは、他のどこも敵うことのない美味しさです。注文は入り口に置いてある、紙とペンに書いて一応口頭でもお願いするといいです。ジャンプ、サンデー、チャンピオンが置いてあって、あまりマガジンを読まない僕はこのチョイスが最強です。因みにオダギの家には大量のマガジンが置いてあります。マガジン派の方はオタギの家にGO!!昔は畳の座敷でタバコが吸えたお店でしたが、よく子供連れの方も来られていたので、禁煙にして良かったと思えるお店です。
https://goo.gl/maps/99r5a7r4kumUJ8x48
國田屋酒店 角打ち ハートランドビール
色んなビールが世の中にはありますが、このお店では三大ビールではないハートランドの樽生が飲めます。飲み方としては、まず土曜日の午前の11時近く遅めの時間に起きてもらって、何の予定も、やりたいことも思い浮かばなかったら適当な昼飯を食べて、このお店の近くの銭湯で、浴槽でのんびりしてサウナ入ってからここに向かいましょう。そして700円の1リットルのジョッキを頼んでちゃっちゃっと飲み干しましょう!以上!
まあ普通に美味しいビール飲みたくなったら行ってもいいと思います。ここは酒屋さんなだけあって日本酒の種類も豊富で200円でちっちゃなコップ、400円で大きなコップで色んな日本酒を飲めます。ビールも日本酒もあまり好きじゃないという方は、季の実という美味しいジンをトニックで割ったジントニックが素晴らしく美味しいので是非飲んでみてください。酒のおつまみは缶詰や��ーセージ、ベビースターなどがメインでTHE角打ちって感じです。因みに巻きたばこの無料試吸があって手先が器用な方なら無限にタバコ吸えます。良心が傷むギリギリまで吸っちゃってください。後輩のユヅキ君は5,6本吸ってました。僕はいつも1本にしてます。
https://goo.gl/maps/egWE87zE8E3USEbe6
キッチン瑞穂 洋食屋 クリームコロッケ
京都はハイカラな洋食屋さんが多くて、その中でも学生に優しくて美味しいお店はこのキッチン瑞穂です。ここは夜でもランチが頼めるのでそれを頼むとパンかご飯を選べて、サラダも付いてくるのでオススメです。特にコロッケランチ(640YEN)を食べてみて欲しいです。 急ですが実家にいたころ、ステーキメインのお店なのにそこのクリームコロッケカレーが美味しいからとよく家族で行ってたのですが、正直カレーよりも、そのお店の水槽がとっても大きくて綺麗だったことの方が印象的だし、一回もステーキ頼んでないのおかしいんじゃないかと思います。頼みたかったのに何故か頼ませてくれませんでした。食べたかったなステーキ。そういう訳であまりクリームコロッケに縁を感じることもなく生きてきたのですが、ここでぶち当たりましたねクリームコロッケの縁に。クリームコロッケに興味を持ったことない人にこそ食べて頂きたいです。小さなエビが入っていてパンにも��飯にも滅茶苦茶合います。カツカレーもとっても美味しくてボリューミーなので腹ペコだったらそちらも是非!昔は洋食屋さんなのにタバコが吸えるというかなり珍しいお店でしたが、今は不明です。どちらにせよ良い店です。
https://goo.gl/maps/rCh3buQg6apqQiNR8
京香園 麻婆豆腐
京都は中華料理屋さんが多い割にしっかりとバランス型の中華をしてるお店が見つかりづらかったりします。どうしても日本よりの味付けになっていたり、本場により過ぎて留学生しかいってないようなお店だったりで、言葉にするのが難しい丁度良さがあるんです。丁度良さを持ってるお店は基本的に値段が張るお店だったりするのですが、この京香園は丁度良さのどストレートを行くお店です。回鍋肉も、チンジャオロースもとても美味しくご飯が止まらなくなるのですが何といってもここは麻婆豆腐!ここの麻婆豆腐を激辛で食べてください!辛いのが苦手な人は他のメニューを食べてもいいです。普通のマーボーは美味しいけれども、圧倒的ではないです。ここの激辛麻婆豆腐は酢漬けの唐辛子が入っているのがポイントで、この唐辛子のおかげで米の進むスピードが∞kmになります。激辛と普通のマーボーで体積が二倍ぐらいになるので、激辛にしてくださいを必ず言った方が良いです。じんわり汗をかくタイプのマーボーで激辛と言いつつも辛いのが得意な人なら気軽に頼んでもらって大丈夫です。因みにここは府上の元下宿先が近くて二人でよく行ってバクバク食べてたら元々おかわり無制限だったのが、2杯までになりました。人生でおかわり制限食らったのはここで2度目だったのでかなりショックでした。大盛は自由なのでお腹が減ってたら一発目から大盛で行きましょう!禁煙!
https://goo.gl/maps/e2kaXTaGVj7RRbNR6
トレド 焼きそば
喜劇の皆はここで何度腹いっぱいにしてもらって、ビラ配り後の飯タイムで大量の後輩に奢る時ここに何度救ってもらったんでしょうか。数えられんぐらい行ったし、同じだけ笑ったお店だと思います。焼きそば、ナポリタン、カレー、サンドイッチ、基本400円でセットにするとコーラかコーヒーを付けて700円という安さ。
長居のしやすい空間、一人でホールを回すせわしないおばちゃん、面白い形の灰皿、トイレに行くまでにある京都特有の町屋の中庭、お金を入れるだけの機械になっているレジ、頼んだら出てくるでっかいマヨネーズ。小さなお店だっただけに細かいところが手に取るように思い出せます。
今は閉まっちゃっていていつ頃再オープンするのかが未定のお店ですが、皆の思い出の場所だと思います。この店は僕が最初に発見したことを今でも後輩に自慢散らかしています。因みに後輩のミヨシはこのお店があまりに長く閉まっていたのを心配して、お店の前に置手紙を残したという一歩間違えたら怖すぎる奇行をやらかしてます。その行為自体、俺は素晴らしいと思うけど、同志社OBという全くの別人格として手紙を出すのはズルだと思うぞ!
https://goo.gl/maps/zhpV89bAMvM2pT8G6
スペースネコ穴 ??
一番店じゃない店。ここはお店として紹介するのが変な感じになる居酒屋?さんです。検索してもらったら分かると思うのですが、店内が本当に無秩序。他のお客さんがつまんでいる料理を一緒につまんでも全く問題ないですし、勝手に冷蔵庫を開けて横の栓抜きで赤星を開けて飲むのがルールです。蓋は床に放置して大丈夫です。ユヅキと一緒に初めて行ったときの思い出は、ウィスキーとコーラが置いてあったのでコークハイをお願いしたら、「どっちも他のお客さんのキープしているもので出来ないの」と店主さんに断られ、しょげてると「あったあった」と言って代わりにテキーラとジンジャエールが出され、ジョッキに7割程テキーラが注がれて、ほんの少しのジンジャエールをちょぼちょぼと垂らして出されました。飲みながら死を覚悟し、横目に猫がこたつを横切るのを見ました。その後それを飲み干したユヅキはダウンし、僕はトイレに駆け込んで全部戻してから意識を無くし、店主さんに「もう家出るから、起きて」と優しい声で起こされた時にはもう朝になってました。そしてお会計の時に「う~ん、ビールとこれとおつまみと…」数秒程考えてから「うん!1500円!」という衝撃の値段が飛び出てきました。自信を持って言われましたが、チェックすらまばらで曖昧な会計をしてあんなに自信のある「うん!」を僕は聞いたことが無いです。普通に一晩寝させてくれていたという事実に衝撃を受け同時に底の知れない優しさは時に恐怖を生むのだなと考えさせられたお店です。
他にも僕、府上、ユヅキで午後10時頃お店を尋ねたところ、店主さんは他のお客さん数名を楽しくお話をしていたので僕らでしっぽりと飲んでいたところ急に「私、この人達と飲みに出かけるから、このお店好きにしていいよ!適当にコンビニとかで買ってここで飲んでもいいし、適当に飲んだら適当にお金置いてって!」と店主。と?今、冷静に書いていると明らかにおかしいです。狂気すら感じます。僕らがお店のお酒を勝手に飲んで、お金すら置かずに帰ったら?当時ですら色々な疑問が浮かびましたが、先に飲んだお金だけ先に支払いました。その後、雨の中皆でコンビニに行き初訪問時に飲めなかったコークハイを作って、勝手にFishmansやThee Michelle Gun ElephantのCDを勝手に流して飲めや歌えや踊れやで爆笑し続けました。世の中には当たり前が溢れすぎていて、生き続けると考え方が段々と固まってしまって、当たり前で社会は回っていて、その当たり前すら否定するのがスペース猫穴です。宇宙もこんな未知で溢れていて欲しいですね。エピソードは他にも腐るほどあるのですが、気になったら聞いてください。
https://goo.gl/maps/k9KHXTkkYD1dMZXL6
色んなお店を思い出と共に語ってきましたが、とりあえずここら辺にしとこうと思います。他にも紹介したい店や書きたいことはあるので、たまに書こうと思います。あと、もしあなたがどこかに住んでいて、お気に入りのお店があったら匿名でも何でもいいので教えてくれると嬉しいです。近く行ったら寄ります。では!
おわり~(100%)
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蜃気楼の境界 編(一二三四)

「渦とチェリー新聞」寄稿小説
連載中のシリーズ、第一話からの公開、第七話まで。第八話以降、朗読版に繋がり、最新話に辿り着けます。

蜃気楼の境界 編(一)
序件
赤に黄を混ぜると橙になるとか、分子だとか原子だとか、決まりごとで世界を理解した気になれるとしている人達の視た光景が世界の基準になっていることがそもそも気に食わないと、二〇一六年春、高校一年生になったばかりの渡邉咲は思っている。彼女はやがてクラスに、背が高く視力の悪い市川忍という一見平凡な男子生徒がいることに気づくだろう。麗らかな新大久保、韓国料理店をはじめとした多国籍渦巻く通り、彼女よりも背の高い通行人達の隙間を縫いながら気分よく和楽器専門店へ向かう道すがら、迷いのない機敏さですれ違った、いつだったか見たような気のする少女に勘が働き、あとを追うと、二人の男が対立していたのだ。さっぱりとした面立ちの男が軽やかに束感ショートの若い警部補に、これは高橋さんお久しぶりです、と話しかけるが、その警部補は、探偵に用はないよ、と軽くあしらう。少女は、この探偵と警部補の間を通り過ぎ、可憐に立ち止まり、一、三、三十、千五百と口にしたのだ。新規上場企業連続殺人事件の際はな仲本慧きみのお世話になったが、警部補がいう、本当に高くついたよ闇のポケットマネーだった、今回の捜査はもう済んでいる高知県岡内村の淵に発見された男の水死体はこ��のホステスとの恋の縺れで半グレが実行したと調べがついている。ところが、探偵仲本慧は、隠れて話を聞いていた渡邉咲が耳を疑うようなことを坦々と喋りだしたのだ。少女崔凪が口にした数から推理するに、彼女の身長百五十センチが百五十万μm(マイクロメートル)だね、目視可能な基準五十μmより小さい花粉が三十μmで飛沫や通常マスクの捕獲サイズが三μmで細菌は一μm、零点三μmはN95マスク捕集サイズ、零点一μmはインフルエンザやコロナのウイルスサイズつまり著名なウイルスは人間の千五百万分の一の小ささでその一回り大きい細菌が百五十万倍の少女を視れば頭は火星にあり地球からの距離十三光分だね月までなら一点三光分、符号、十三、仲本慧が楕円を描くようにぐるぐる歩く、火星は周期七百八十日で地球に近づき月との接近を天上で愉しめるわけだが今年はそれに当たる、七百八十と十三に関係する郵便番号が高知市青柳町で、そこに住む犯人は七百八十日周期で男を殺しに東京を訪れる。
雑居ビルの階段下で警部補は少女崔凪を見、腰を低くし、初めまして警部補の高橋定蔵だ、二年前はお世話になったがきみは知ってるのかな、という。崔凪は強い瞳のまま無言。警部補は探偵に、依頼はしてないから助言と受け取るがどうして事件を追ってる。陰で話を聞きながら、渡邉咲は胸を熱くしている。着信音がする。それを無視した仲本慧、曰く、単なる不倫調査で慧探偵事務所の探偵チームはターゲットの男がある女とホテルへ入るところを写真に収めたが依頼の追加でその女のプロファイルを求められたという。追加依頼を探偵チームに投げようとしたとき事務所に遊びにきた崔凪が、一、三、三十、千五百と自ら口にしたのだ。推理から、と仲本慧はいう、写真に収めた女は、蜃気楼だと気づいた、真の不倫相手の女、つまり犯人が、虚の像を追わせたのさ、ここのホステスは事件の蜃気楼、無関係だね。渡邉咲は、どういうこと、と驚くが、何度か鳴っていた事務所からの着信を仲本慧が受けて、崔凪に、さぁ行こう、と告げ、去り際、ふと足元を見、ツバキの花は境界に咲くというが、現世と魔界の境界にも咲くんだね、と笑みを浮かべる。警部補は二人を追わず高知警察署へ連絡しているらしい。数日後、高知の青柳町に住む女、宮地散花が連続殺人容疑で逮捕されたことを渡邉咲はニュースで知り、午前の授業中はずっと雑居ビルの階段下でのやりとりの記憶に捕らわれ、探偵仲本慧の絡んだ事件の真相って境界の狭間に咲く花のよう、と夢見心地になるが、少女崔凪による真相は、甲乙ムの三文字の一体である鬼を抱く宮地散花が千五百年つまり明応九年に践祚した後柏原天皇の詠んだ歌、心だに西に向はば身の罪を写すかがみはさもあらばあれ、に心打たれるも意味を取り違え、三十人の男の供養を願ったことに始まる。その鬼の念、情景を歪ます程に強く、探偵や警察を巻き込み、一高校生渡邉咲さえ巻き込んだが、彼女は探偵仲本慧による更なる次元さえ加わった渦の中でときめいている。その様は、クラスメイトの市川忍の何かを揺るがしたのだ。窓の下、体育館でのバスケの授業をずっと眺めていた市川忍は、突然渡邉咲の存在に気づき、それは彼のもう一つの人格、仟燕色馨の方が先だったかもしれない。胸騒ぎだ。
蜃気楼の境界 編(二)
書乱
春の夕、上海汽車メーカーの黒い車が高田馬場駅は西、高校の校門を通過し、停車する。奇妙な車がよぎった、脳裏より声。授業も聞かず窓の下、体育館でのバスケの授業をぼんやりと眺めていたが、脳裏に響く声に高校一年生の市川忍、カジョウシキカ唐突に何だよ、と聞く。一昨年にきみを冗談交じりに犯人と疑ってみせた探偵がいたのを覚えてないか。そう問われたものの市川忍は思いだせず、それがどうかしたのと内側へ声を。すると、微かなタイヤの摩擦音と停車音の比較から目的地はすぐ側の一軒家だろうちらと見えた、運転手がその探偵だ、という。この七年前は二〇〇九年五月、関西の高校生から広く流行した新型インフルエンザ以降雨の日以外つねに窓が少し開けられている。空気は生ぬるい。チョークの音。市川忍、幾つか机の離れた席に座る渡邉咲に視線を送る。チャイムの音が鳴り、放課後、別のクラスの生徒、石川原郎がやってきて無造作に横の机に座り、市川おまえ高校はバスケ部入らないの。まあね。受け応えしながら机の中の教科書類を鞄にしまっていく。渡邉咲立ち上がり、教室の外へ。一書に曰く(あるふみにいわく)と仟燕色馨の声が響く、混沌のなか天が生まれ地が固まり神世七代最初の神、国常立尊が生まれたが日本書紀に現れない五柱の別天津神がそれより前にいて独神として身を隠したというのが古事記の始まりということは教科書にも書かれていたが先程の古文の教師はイザナギとイザナミの二神から説明した、これもまた一書に曰く、数多の異神生まれし中世ではアマテラスは男神ですらあり中世日本とは鎌倉時代からつまり末法の世まさに混乱した世の後で超自然思想は流行り無限の一書織り成す神話に鎮座し人々は何を視ているのか、きみが気にしている渡邉咲、退屈そうに探偵読本を机の中に置いていった、大方、探偵に夢を見、探偵業に失望したのだろう、数分の場所に探偵がいる。市川忍は脳裏に響くその声をきっかけにし会話一つ交わしたことがない渡邉咲のあとを必死で追う。走りながら、どう呼びかけるのかさえ決めていない。仟燕色馨のいう一軒家は平成に建てられた軽量鉄骨造で、渡邉咲が通り過ぎた頃合いで咄嗟にスマホを耳に当て、探偵が入っていった、と強く言う。驚き、振り返る渡邉咲。
目黒にて桜まじ、遊歩す影二つ。吹く風に逸れ、冷たし。怪異から死者が幾人、立入禁止とされた日本家屋をちら見し、一つの影、あァお兄様さらなる怪奇物件作りどういたしましょうと口元を手で隠し囁く明智珠子に兄、佐野豊房が陽炎のごとき声で私達はね共同幻想の虚空を幽霊のように漂っているんです、井戸の中で蛙は鬼神となりたむろする魍魎密集す地獄絵図の如き三千大千の井戸が各々の有限世界を四象限マトリクス等で語る似非仏陀の掌の架空認識から垂れ下がる糸に飛びつき課金ならぬ課魂する者達が世を牛耳りリードする妄想基盤の上で生活せざるを得ないならば、宇宙に地球あり水と大地と振動する生命しかない他のことは全て虚仮であるにもかかわらず。明智珠子がその美貌にして鼻息荒く、あの探偵とだけは決着を付けなければいけませんわ、家鳴の狂った解釈で恐怖させる等では物足りません残酷な形で五臓六腑ぶちまけさせなければ気が済みません。佐野豊房は、だがただ凍風を浴びるがままである。翌週は春暑し、件の探偵仲本慧はそれでも長袖で、奇妙な失踪調査依頼で外出している。我が探偵チームが二日で炙りだしたターゲットの潜伏ポイントは男人結界つまり男子禁制の聖域だからねと探偵事務所二番窓口女性職員橋本冷夏にいう、琉球神道ルーツの新興宗教だそうだ。いつも思うんですが年中長袖で暑くないんですか。東京中華街構想があった年と探偵仲本慧プロファイルを口にする、同士と約束したんだねハッタリ理由に青龍を肌に翔ばす気がなかったから年中長袖を着る決着にしたわけだ。えっ、一体何が。その会話を引き裂かんとついてきていた少女崔凪、突飛な言葉を口にする、卑弥呼は、自由じゃない。ハッとし振り返った仲本慧問いかける、今回の件、どう思う。崔凪、気分良さげにいう、男子禁制だから教えられない。生暖かい風が東京湾から。晴海アイランドトリトンスクエアをぐるっと回ってみたわけだが、と元の駐車場に踏み入った仲本慧、あれはかつて晴海団地があった土地だね、我が探偵チームが弾き出した潜入ポイントにも寄った方がいいかもしれないね。そうして訪ねた一軒家の門の外、仟燕色馨を秘める二重人格者は市川忍と、探偵仲本慧を気にする渡邉咲、二人の高校生が現れたのだ。
蜃気楼の境界 編(三)
朔密
白雨あったか地が陽を返す。探偵との声に驚き振り返る渡邉咲の前に市川忍。彼をクラスメイトと理解する迄に数秒。バスケ部上がりの忍は別世界の男子生徒に見えたし圧も弱く視野外にあったのだ。水溜りを踏んで市川忍は彼のもう一つの人格仟燕色馨と心の内側で会話をしている。探偵が入っていったとスマホを片手に口にしたが通話はしていない。咲に向け、ここで事件が起こっているから静かに、俺には知り合いに探偵カジョウシキカがいて今彼と話していると囁くように言い、表札にある「朔密教」と火と雫の紋章、白い香炉を模った像をちらと見、呼び鈴を鳴らす。片や探偵仲本慧はその軽量鉄骨造の一軒家の門の斜め向かい、車中にいる。突然現れた高校生の男女がターゲットの家の呼び鈴を鳴らしたことで注目する。ガチャと鳴り玄関から高齢の女、倉町桃江が姿を見せ咲を見ると、何か用ですか、と聞く。戸惑う咲の前に出、忍、朔密教の見学に来たのですが、というと、男子禁制ですから、そちらのお嬢さんだけでしたら。運転席の仲本慧とともに慧探偵事務所窓口職員橋本冷夏が後部座席から降りるが助手席に座る少女崔凪は出てこない。通り雨は天気予報になかったねと口にしながら歩み寄る仲本慧を間近に見た咲が紅潮する。仲本慧が高校生二人を一瞥し、倉町桃江をじっと見つめ、貴女がここの教主ですか、こちらの橋本冷夏が見学に来たのですが。ぬるい風に織り混ざる卦体。そうですか。倉町桃江は表情一つ変えず、弥古様はおられませんが、さ、どうぞ、屋内へ消える。門前に探偵と忍と咲が残る。脳裏の声に促されて忍、何か事件でもあったんですか、と慧に。素性を見抜かれた質問を受けた慧はほんの僅か忍を見、ああきみは以前事件のときに少し話かけた学生だね、とにっこり笑いながら名刺を差し出し、慧探偵事務所の仲本慧だ、困ったことがあればいつでも訪ねてくるといい金額は安くはないけどね、そう話を逸らす。スマホを耳にあてた忍は仲本慧の目をじっと見て、知り合いの探偵と連絡を取りあってるところでもしかしたら同じ事件を追ってるのかも、弥古様を、と挑発する。ここに、咲の目前で、二人の探偵の戦いの火蓋が切られたのだ。咲の気をひく為に市川忍によって仟燕色馨が探偵とされた顛末である。
門と玄関の境界の片隅、雨露に濡れるツバキの花に気づくのは、仲本慧のスマートフォンに朔密教内部に潜入した橋本冷夏から失踪調査対象は石文弥古の姿見当たらずとのメッセージが届き、車内の崔凪に視線を送った直後、片や、市川忍の視界には、はらはら雪が舞い、脳裏に津軽三味線の旋律流れ、声響く、曰く、表札に火と雫の紋章があったがイザナミが命を落とすきっかけ火の神カグツチを当てれば雫はその死悲しむイザナギの涙から生まれしナキサワメであり白と香炉を模った像から琉球の民族信仰にある火の神ヒヌカンを合わせれば朔密教の朔は月齢のゼロを意味し死と生と二極の火の神を炙り出せるだろう男子禁制からヒヌカンによる竈でのゼロの月の交信を弥古様は隠れて行い目的はイザナミの復活か、次元異なる宗教織り成す辺りの新宗教らしさから朔密の密を埋没神と見るなら竈は台所更には死した大いなる食物の神オホゲツヒメの復活とも関連し故に弥古様は台所を秘めたる住処、家としている。この象徴的絵解きのごとき推理の意味が市川忍は何も分からなかったが解が台所であることのみ理解しスマホへ向け成程仟燕色馨、君の言う通りだ敢行するしかないねと言い渡邉咲を見、ねぇ仟燕色馨から君にお願いがある、この中は男子禁制、だから、と耳元に。咲はこのとき、心を奪われたのだ、市川忍ではなく、仟燕色馨の方に。現場が男子禁制ゆえに崔凪の手助けが得られず動揺して仲本慧は自力で推理する。ここへ来る前に出向いたかつての晴海団地はダイニングキッチンが初導入されそれを一般家庭に普及させた歴史的土地で朔密教が琉球神道ルーツの新興宗教であることは調査班の報告で分かっているから潜入した橋本冷夏は台所へ案内されている筈、儀式は日々そこで行われるが石文弥古の姿はないという、ならどこに。その事務的に戸惑った様子が渡邉咲には探偵読本にもあった只の組織である商売人の探偵にしか見えなかったのだ。咲は仲本慧を背にして走り、玄関をくぐり、朔密教内部に潜入する。だが、濡れた車、助手席から出てきた少女崔凪が数字の羅列を呟き、仲本慧は、そうか分かったぞ、と声をあげて橋本冷夏に通話する。崔凪が、涼しい顔でのびのびと呟く、負けるくらいなら今だけ男子禁制じゃなくてもいいかな。
蜃気楼の境界 編(四)
你蜃
燻銀の月が空に二人の高校生公園で座る。笙の天音が鳴り、お母さんだ、とラインの返信をしながら渡邉咲、探偵カジョウシキカは推理で勝っていた、と市川忍を見、探偵仲本慧に出会ったきっかけはそもそもあの少女崔凪だったと思いだす。一昨年にこの公園で鼻歌交じりハーブの栽培をしてた子だ、だから見覚えがあったんだ、と。軽量鉄骨造一軒家、朔密教本部から出てきた探偵職員橋本冷夏に、今宵は重慶三巴湯と青島ビールで宴会だね、と上海汽車メーカーの黒い車へ去る仲本慧の側にいた少女崔凪が高校生の二人をちらと見ふっと笑う。市川忍は悔しがるだけで、だがその内側に潜むもう一つの人格仟燕色馨は市川忍の瞳を通し崔凪をじっと見つめる、夜の公園で仟燕色馨、只の勝負なら勝敗などは所詮遊戯それに君も渡邉咲と親しくなり目的は果たしているだろうしかし慧探偵事務所は現世と魔界裏返りし境界ありこれは魔族の矜持に触れるゆえ既に仕掛けをしている君も再戦を覚悟してほしい、と。その脳裏からの声の本意を掴めない市川忍に、咲、貴方のお知り合いの探偵さんはどう言ってるの。その輝く瞳妖しく、市川忍はときめく反面恐怖を覚え、無意識にポケットから作業用の黒ゴム手袋をとりだす。刹那、何故か海峡で波を荒らげる雪景色に鳴り響く津軽三味線の調べが聞こえ、再戦を望んでると伝えると、只ならぬ興奮を見せて咲は喜ぶのだ。先刻、朔密教内部へ駆けていった咲は、仟燕色馨の伝言、台所の真下に女の住居有り、を忍から受け儀式行われし白い炊事場を目指したとき、倉町桃江の脇で動揺する橋本冷夏の姿を見たが、その元に着信が入り中国語で会話を始め、瞳に青龍の華が光れば、香炉、水、塩、生花を払い除け床下収納庫の先に階段を見つけると、独房のような地下室で失踪調査対象である石文弥古を発見、最早咲は事の成り行きを見届けるのみ、異変の只中で、少女崔凪の存在が頭によぎったのだ、確かに探偵仲本慧は推理が届かず動揺していた、何か得体の知れない事が起きたのだ。それにしても、咲は思う、探偵仟燕色馨どのような人なのかな、市川忍という同級生がどうして魅力的な探偵さんとお知り合いなの、ふふ、取りだしたその黒ゴム手袋は何、月がきれい、まるで、私の住む世界のよう。
朔密教、明治に明日香良安が琉球神道系から分離し設立した新宗教である。分離したわけはスサノオに斬り殺されたとされるオホゲツヒメの復活を教義の核に据えた故で、同時期に大本で聖師とされる出口王仁三郎が日本書紀のみ一書から一度だけ名が述べられるイヅノメ神の復活を、同様に一書から一度だけ名が述べられるククリヒメの復活を八十八次元の塾から平成に得た明正昭平という内科医が朔密教に持ち込み妻の倉町桃江を二代教主に推薦し本部への男子禁制を導入、女埋没神の全復活によりイザナミ復活へ至る妻のお導きを深核とし今の形となる。女埋没神はイヅノメ神、オホゲツヒメ、ククリヒメの他に助かったクシナダヒメを除くヤマタノオロチの生贄とされた八稚女らがあり、更には、皆既日食により魔力が衰え殺されたとされる卑弥呼を天照大神と見定めての復活とも融合している。それらを依頼主に説明しながら仲本慧は殺風景な部屋で分厚い捜査費用を懐に入れ、他の探偵にも依頼してないかな、と冷えた目を向ける。依頼主である小さな芸プロのマネージャーは、業界に知られたくない件だから貴方を紹介して貰ったんだ、深入りはしない彼女どういう様子でしたと聞く。調査ではと仲本慧、社会にある数多の既存の道筋を歩めないという認識から石文弥古は芸能に道がないか訪ね、今は朔密教を訪ねているのだろうね、弟以外の人の来訪を絶ち鬼道を続けたとされる卑弥呼の形式で、倉町桃江の最低限の関わり以外を完全に断って地下で儀式を八十八日間続ける任務を受け入れた石文弥古は、我が優秀な女子社員いわく、自らの意志とのことだ。屋外へ出、仲本慧、通話し、高校生市川忍を調査して、という。崔凪の口にした数は、四四八、二四七、一三七。仲本慧はタワマン供給実績数を推理し晴海団地へ出向いたわけだがその推測は二〇二一年の上位三都府県に予知のごとく一致し、崔凪はのちに数列に隠していた八十八を付け足し、慧の推理は台所の地下へと変化したが、二四七が卑弥呼の日食の年を指すように、海とされるワタツミ三神がたとえ人智の蜃気楼であってもなくても推理と崔凪の真意とが違っても。仲本慧は思う、人々は、この街は大地は、紀元前、胡蝶の夢は一介の虚無主義ではない知が、華が、騒いでいる。
by _underline
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鳥居万由実『07.03.15.00』
身体から抜け出した魂が遥か上空から人類の営みに目を凝らしているような、いつもと変わり映えない夕刻の情景に「いま・ここ」から遠く離れた国々の出来事を刹那的に重ね合わせるような、不思議な感触をまとわせた書物だ。『07.03.15.00』。暗号めいた数字の並びは特定の日付や時刻をあらわしているのだろうか。謎めいているのはタイトルばかりではない。薄い小冊子のようなこの書物をどのジャンルに分類すればよいのだろう。小説のようで小説ではなく、散文のようで散文でなく、寓話のようで寓話でなく。詩人の書いたものだから詩、と定義して済ませられるかと言えば、そんな単純な話でもない。001から062までの数字が割り振られた断章の数々は、お伽噺、哲学的考察、情景描写、学園もの青春小説を数珠つなぎのように結び、読者の意識を絶え間ない航海に案内する。その波間で遠大な宇宙観が顔を出すのだが、決して仰々しい語り口ではない。口数はむしろ少なめ。複数の世界で構成された広大な宇宙をタンポポの綿毛のやわらかいアンテナで直感する、というふうに、本書に通底するポエジーは慎ましやかで儚いものだ。
「古代人は月や太陽は空を航海する船だと考えていた。波を何百キロも運ばれて、打ち上げられた浜で芽を出す椰子の実をも、異界から精霊を運んでくる小舟だ。 それから身体、身体は魂の舟。でも箱と、その中の魂とすると、物質と精神が切り離されてしまう。身体が死んだあとも、魂が生きのびるようにと欲したので容れもの(ハコ、フネ)と人の魂は分けて考えられた。でも身体=フネと魂は切り離せないと最近はいわれる。ケータイは昨今誰もが持っているミニチュアの船で、アラジンの魔法のランプみたいに私たちの魂の一部はそこに格納されている。もっと当世風に言えば、身体と魂は切り離せないから、魂の原料のひとつはケータイ……。じゃあ何と何と何を混ぜれば魂になるか……? ケータイはサブ身体、サブ魂。途方にくれて虚無に吞まれないためには、魂をどこかに入れなきゃいけない。何か容器を、箱を必要とする。箱は、誰かある人の世界をおさめている気がする。ケータイも、ひとつひとつが墓のようでもあり、部屋のようでもあり……、凝集した星のようでも……。」(36頁)
舟は本書のなかで繰り返し語られる重要なモチーフのひとつ。生まれ、死に、転生するという一連のサイクルの傍らにあるものであり、導きの乗り物であり、漂流を免れず、舳先はつねに前方を指して、「書くこと、語ること」そのものの冒険に付き従うものだ。その舟が、ケータイのようなごく身近にある現代的意匠と比喩を結び、そこからさらに墓、部屋、星雲へとイメージを豊かに変容させていく。想念と観察のとどまらなさが美しい。ゆったりと収縮する文体の呼吸もあいまって、日常の時空から徐々に離陸するような感覚を味わわせてくれる。 詩人は遠大な宇宙観が一瞬の事象の交差に出現するありさまを高い精度で描出している。他方、何気ない情景描写の秀逸さにも感銘を受けた。たとえば、次のような一文。
「遠くの電線が、空の光の反照を浴びて、蜘蛛の糸のように溶けかかっている。夕日は、紅鮭ピンク、薔薇桃色、カメオピンクと移ろいながら、じわじわ色相を変えていた。」(70頁)
あるいは、意識が風景へと溶け出して人称が行方不明となるような、以下の描写にも。
「一日、曇り、蒸し焼きにされるような高湿多湿。全てが霧に包まれている。 夏休みが好きだ。それが永遠を感じさせるからだ。開け放たれた窓、たえず動いていく風、伸びていく植物。屋外で過ごす人々の、独特で手ぶらで甘ったるい、声の響き。 それらは事後を思わせる。なんの事後かといわれれば分からないが、人称の事後だろうか。わたしがいなくなり、わたしとあなたがいなくなったあとの、その先の、その前の空気も時折鼻先をかすめていき、ひとつのたえず震える水面の音楽となるような。」(37頁)
鳥居万由実の詩集はいつも入手困難で長らく読めずにいたが、ひょんなことから第二詩集『07.03.15.00』を知人から借りることが出来た。いつか返却する、その束の間の関係もこの本らしい読者(私)への触れ方と言えようか。 二度、集中的に読んだ。一度目は師走感が迫りまくる年末の自宅で、二度目はひとけのない人工的な埋め立て地を散歩し��あと、オレンジ色の照明が印象的な喫茶店で。現実の些事と速度を忘れ、風がビュンビュン吹き荒ぶ上空から街並みが暮れていくのを眺めたり、不意に触れた手のひらの感触に身に覚えのないデジャヴを感じたり、ホテルの建物の無機質な区画に透明な目を同化させたり……。幸福で寂しさに少し胸が痛む珠玉の読書体験。エコーだけを頼りにするしかないような不思議な余韻が残った。
「もしやり直せるなら、われわれが個体でなかった時までやり直したい。波の中の波のように群体で、あるいは同じ水の、大気の、ふるえだった時まで。」(78頁)
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☆プロトタイプ版☆ ひとみに映る影シーズン2 第七話「復活、ワヤン不動」
☆プロトタイプ版☆ こちらは電子書籍「ひとみに映る影 シーズン2」の 無料プロトタイプ版となります。 誤字脱字等修正前のデータになりますので、あしからずご了承下さい。
☆ここから買おう☆
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
ニライカナイから帰還した私達はその後、魔耶さんに呼ばれて食堂へ向かう。食堂内では五寸釘愚連隊と生き残った河童信者が集合していた。更に最奥のテーブルには、全身ボッコボコにされ��スーツ姿の男。バリカンか何かで雑に剃り上げられた頭頂部を両手で抑えながら、傍らでふんぞり返る禍耶さんに怯えて震えている。 「えーと……お名前、誰さんでしたっけ」 この人は確か、河童の家をリムジンに案内していたアトム社員だ。特徴的な名前だった気はするんだけど、思い出せない。 「あっ……あっ……」 「名乗れ!」 「はひいぃぃ! アトムツアー営業部の五間擦平雄(ごますり ひらお)と申します!」 禍耶さんに凄まれ、五間擦氏は半泣きで名乗った。少なくともモノホンかチョットの方なんだろう。すると河童信者の中で一番上等そうなバッジを付けた男が席を立ち、机に手をついて私達に深々と頭を下げた。 「紅さん、志多田さん。先程は家のアホ大師が大っっっ変ご迷惑をおかけ致しました! この落とし前は我々河童の家が後日必ず付けさせて頂きます!」 「い、いえそんな……って、その声まさか、昨年のお笑いオリンピックで金メダルを総ナメしたマスク・ド・あんこう鍋さんじゃないですか! お久しぶりですね!?」 さすがお笑い界のトップ組織、河童の家だ。ていうか仕事で何度か会ったことあるのに素顔初めて見た。 「あお久しぶりっす! ただこちらの謝罪の前に、お二人に話さなきゃいけない事があるんです。ほら説明しろボケナスがッ!!」 あんこう鍋さんが五間擦氏の椅子を蹴飛ばす。 「ぎゃひぃ! ごご、ご説明さひぇて頂きますぅぅぅ!!」 五間擦氏は観念して、千里が島とこの除霊コンペに関する驚愕の事実を私達に洗いざらい暴露した。その全貌はこうだ。 千里が島では散減に縁を奪われた人間が死ぬと、『金剛の楽園』と呼ばれる何処かに飛び去ってしまうと言い伝えられている。そうなれば千里が島には人間が生きていくために必要な魂の素が枯渇し、乳幼児の生存率が激減してしまうんだ。そのため島民達は縁切り神社を建て、島外の人々を呼びこみ縁を奪って生き延びてきたのだという。 アトムグループが最初に派遣した建設会社社員も伝説に違わず祟られ、全滅。その後も幾つかの建設会社が犠牲になり、ようやく事態を重く受け止めたアトムが再開発中断を検討し始めた頃。アトムツアー社屋に幽霊が現れるという噂が囁かれ始めた。その霊は『日本で名のある霊能者達の縁を散減に献上すれば千里が島を安全に開発させてやろう』と宣うらしい。そんな奇妙な話に最初は半信半疑だった重役達も、『その霊がグループ重役会議に突如現れアトムツアーの筆頭株主を目の前で肉襦袢に変えた』事で霊の要求を承認。除霊コンペティションを行うと嘘の依頼をして、日本中から霊能者を集めたのだった。 ところが行きの飛行機で、牛久大師は袋の鼠だったにも関わらず中級サイズの散減をあっさり撃墜してしまう。その上業界ではインチキ疑惑すら噂されていた加賀繍へし子の取り巻きに散減をけしかけても、突然謎のレディース暴走族幽霊が現れて返り討ちにされてしまった。度重なる大失態に激怒した幽霊はアトムツアーイケメンライダーズを全員肉襦袢に変えて楽園へ持ち帰ってしまい、メタボ体型のため唯一見逃された五間擦氏はついに牛久大師に命乞いをする。かくして大師は大散減を退治すべく、祠の封印を剥がしたのだった。以上の話が終わると、私は五間擦氏に馬乗りになって彼の残り少ない髪の毛を引っこ抜き始めた。 「それじゃあ、大師は初めから封印を解くつもりじゃなかったんですか?」 「ぎゃあああ! 毛が毛が毛がああぁぁ!!」 あんこう鍋さんは首を横に振る。 「とんでもない。あの人は力がどうとか言うタイプじゃありません。地上波で音波芸やろうとしてNICを追放されたアホですよ? 我々はただの笑いと金が大好きなぼったくりカルトです」 「ほぎゃああぁぁ! 俺の貴重な縁があぁぁ、抜けるウゥゥーーーッ!!」 「そうだったんですね。だから『ただの関係者』って言ってたんだ……」 そういう事だったのか。全ては千里が島、アトムグループ、ひいては金剛有明団までもがグルになって仕掛けた壮大なドッキリ……いや、大量殺人計画だったんだ! 大師も斉二さんもこいつらの手の上で踊らされた挙句逝去したとわかった以上、大散減は尚更許してはおけない。 魔耶さんと禍耶さんは食堂のカウンターに登り、ハンマーを掲げる。 「あなた達。ここまでコケにされて、大散減を許せるの? 許せないわよねぇ?」 「ここにいる全員で謀反を起こしてやるわ。そこの祝女と影法師使いも協力しなさい」 禍耶さんが私達を見る。玲蘭ちゃんは数珠を持ち上げ、神人に変身した。 「全員で魔物(マジムン)退治とか……マジウケる。てか、絶対行くし」 「その肉襦袢野郎とは個人的な因縁もあるんです。是非一緒に滅ぼさせて下さい!」 「私も! さ、さすがに戦うのは無理だけど……でもでも、出来ることはいっぱい手伝うよ!」 佳奈さんもやる気満々のようだ。 「決まりね! そうしたら……」 「その作戦、私達も参加させて頂けませんか?」 食堂入口から突然割り込む声。そこに立っていたのは…… 「斉一さん!」「狸おじさん!」 死の淵から復活した後女津親子だ! 斉一さんは傷だらけで万狸ちゃんに肩を借りながらも、極彩色の細かい糸を纏い力強く微笑んでいる。入口近くの席に座り、経緯を語りだした。 「遅くなって申し訳ない。魂の三分の一が奪われたので、万狸に体を任せて、斉三と共にこの地に住まう魂を幾つか分けて貰っていました」 すると斉一さんの肩に斉三さんも現れる。 「診療所も結界を張り終え、とりあえず負傷者の安全は確保した。それと、島の魂達から一つ興味深い情報を得ました」 「聞かせて、狸ちゃん」 魔耶さんが促す。 「御戌神に関する、正しい歴史についてです」 時は遡り江戸時代。そもそも江戸幕府征服を目論んだ物の怪とは、他ならぬ金剛有明団の事だった。生まれた直後に悪霊を埋め込まれた徳松は、ゆくゆくは金剛の意のままに動く将軍に成長するよう運命付けられていたんだ。しかし将軍の息子であった彼は神職者に早急に保護され、七五三の儀式が行われる。そこから先の歴史は青木さんが説明してくれた通り。けど、この話には続きがあるらしい。 「大散減の祠などに、星型に似たシンボルを見ませんでしたか? あれは大散減の膨大な力の一部を取り込み霊能力を得るための、給電装置みたいな物です。もちろんその力を得た者は縁が失せて怪物になるのですが、当時の愚か者共はそうとは知らず、大散減を『徳川の埋蔵金』と称し挙って島に移住しました」 私達したたびが探していた徳川埋蔵金とはなんと、金剛の膨大な霊力と衆生の縁の塊、大散減の事だったんだ。ただ勿論、霊能者を志し島に近付いた者達はまんまと金剛に魂を奪われた。そこで彼らの遺族は風前の灯火だった御戌神に星型の霊符を貼り、自分達の代わりに島外の人間から縁を狩る猟犬に仕立て上げたんだ。こうして御戌神社ができ、御戌神は地中で飢え続ける大散減の手足となってせっせと人の縁を奪い続けているのだという。 「千里が島の民は元々霊能者やそれを志した者の子孫です。多少なりとも力を持つ者は多く、彼らは代々『御戌神の器』を選出し、『人工転生』を行ってきました」 斉一さんが若干小声で言う。人工転生。まだ魂が未発達の赤子に、ある特定の幽霊やそれに纏わる因子を宛てがって純度の高い『生まれ変わり』を作る事。つまり金剛が徳松に行おうとしたのと同じ所業だ。 「じゃあ、今もこの島のどこかに御戌様の生まれ変わりがいるんですか?」 佳奈さんは飲み込みが早い。 「ええ。そして御戌神は、私達が大散減に歯向かえば再び襲ってきます。だからこの戦いでは、誰かが対御戌神を引き受け……最悪、殺生しなければなりません」 「殺生……」 生きている人間を、殺す。死者を成仏させるのとは訳が違う話だ。魔耶さんは胸の釘を握りしめた。 「そのワンちゃん、なんて可哀想なの……可哀想すぎる。攻撃なんて、とてもできない」 「魔耶、今更甘えた事言ってんじゃないわよ。いくら生きてるからって、中身は三百年前に死んだバケモノよ! いい加減ラクにしてやるべきだわ」 「でもぉ禍耶、あんまりじゃない! 生まれた時から不幸な運命を課せられて、それでも人々のために戦ったのに。結局愚かな連中の道具にされて、利用され続けているのよ!」 (……!) 道具。その言葉を聞いた途端、私は心臓を握り潰されるような恐怖を覚えた。本来は衆生を救うために手に入れた力を、正反対の悪事に利用されてしまう。そして余所者から邪尊(バケモノ)と呼ばれ、恐れられるようになる……。 ―テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です― 自分の言った言葉が心に反響する。御戌神が戦いの中で見せた悲しそうな目と、ニライカナイで見たドマルの絶望的な目が日蝕のように重なる。瞳に映ったあの目は……私自身が前世で経験した地獄の、合わせ鏡だったんだ。 「……魔耶さん、禍耶さん。御戌神は、私が相手をします」 ��え!?」 「正気なの!? 殺生なんて私達死者に任せておけばいいのよ! でないとあんた、殺人罪に問われるかもしれないのに……」 圧。 「ッ!?」 私は無意識に、前世から受け継がれた眼圧で総長姉妹を萎縮させた。 「……悪魔の心臓は御仏を産み、悪人の遺骨は鎮魂歌を奏でる。悪縁に操られた御戌神も、必ず菩提に転じる事が出来るはずです」 私は御戌神が誰なのか、確証を持っている。本当の『彼』は優しくて、これ以上金剛なんかの為に罪を重ねてはいけない人。たとえ孤独な境遇でも人との縁を大切にする、子犬のようにまっすぐな人なんだ。 「……そう。殺さずに解決するつもりなのね、影法師使いさん。いいわ。あなたに任せます」 魔耶さんがスレッジハンマーの先を私に突きつける。 「失敗したら承知しない。私、絶対に承知しないわよ」 私はそこに拳を当て、無言で頷いた。 こうして話し合いの結果、対大散減戦における役割分担が決定した。五寸釘愚連隊と河童の家、玲蘭ちゃんは神社で大散減本体を引きずり出し叩く。私は御戌神を探し、神社に行かれる前に説得か足止めを試みる。そして後女津家は私達が解読した暗号に沿って星型の大結界を巡り、大散減の力を放出して弱体化を図る事になった。 「志多田さん。宜しければ、お手伝いして頂けませんか?」 斉一さんが立ち上がり、佳奈さんを見る。一方佳奈さんは申し訳なさそうに目を伏せた。 「で……でも、私は……」 すると万狸ちゃんが佳奈さんの前に行く。 「……あのね。私のママね、災害で植物状態になったの。大雨で津波の警報が出て、パパが車で一生懸命高台に移動したんだけど、そこで土砂崩れに遭っちゃって」 「え、そんな……!」 「ね、普通は不幸な事故だと思うよね。でもママの両親、私のおじいちゃんとおばあちゃん……パパの事すっごく責めたんだって。『お前のせいで娘は』『お前が代わりに死ねば良かったのに』みたいに。パパの魂がバラバラに引き裂かれるぐらい、いっぱいいっぱい責めたの」 昨晩斉三さんから聞いた事故の話だ。奥さんを守れなかった上にそんな言葉をかけられた斉一さんの気持ちを想うと、自分まで胸が張り裂けそうだ。けど、奥さんのご両親が取り乱す気持ちもまたわかる。だって奥さんのお腹には、万狸ちゃんもいたのだから……。 「三つに裂けたパパ……斉一さんは、生きる屍みたいにママの為に無我夢中で働いた。斉三さんは病院のママに取り憑いたまま、何年も命を留めてた。それから、斉二さんは……一人だけ狸の里(あの世)に行って、水子になっちゃったママの娘を育て続けた」 「!」 「斉二さんはいつも言ってたの。俺は分裂した魂の、『後悔』の側面だ。天災なんて誰も悪くないのに、目を覚まさない妻を恨んでしまった。妻の両親を憎んでしまった。だからこんなダメな狸親父に万狸が似ないよう、お前をこっちで育てる事にしたんだ。って」 万狸ちゃんが背筋をシャンと伸ばし、顔を上げた。それは勇気に満ちた笑顔だった。 「だから私知ってる。佳奈ちゃんは一美ちゃんを助けようとしただけだし、ぜんぜん悪いだなんて思えない。斉二さんの役割は、完璧に成功してたんだよ」 「万狸ちゃん……」 「あっでもでも、今回は天災じゃなくて人災なんだよね? それなら金剛有明団をコッテンパンパンにしないと! 佳奈ちゃんもいっぱい悲しい思いした被害者でしょ?」 万狸ちゃんは右手を佳奈さんに差し出す。佳奈さんも顔を上げ、その手を強く握った。 「うん。金剛ぜったい許せない! 大散減の埋蔵金、一緒にばら撒いちゃお!」 その時、ホテルロビーのからくり時計から音楽が鳴り始めた。曲は民謡『ザトウムシ』。日没と大散減との対決を告げるファンファーレだ。魔耶さんは裁判官が木槌を振り下ろすように、机にハンマーを叩きつけた! 「行ぃぃくぞおおおぉぉお前らああぁぁぁ!!!」 「「「うおおぉぉーーーっ!!」」」 総員出撃! ザトウムシが鳴り響く逢魔が時の千里が島で今、日本最大の除霊戦争が勃発する!
གཉིས་པ་
大散減討伐軍は御戌神社へ、後女津親子と佳奈さんはホテルから最寄りの結界である石見沼へと向かった。さて、私も御戌神の居場所には当てがある。御戌神は日蝕の目を持つ獣。それに因んだ地名は『食虫洞』。つまり、行先は新千里が島トンネル方面だ。 薄暗いトンネル内を歩いていると、電灯に照らされた私の影が勝手に絵を描き始めた。空で輝く太陽に向かって無数の虫が冒涜的に母乳を吐く。太陽は穢れに覆われ、光を失った日蝕状態になる。闇の緞帳(どんちょう)に包まれた空は奇妙な星を孕み、大きな獣となって大地に災いをもたらす。すると地平線から血のように赤い月が昇り、星や虫を焼き殺しながら太陽に到達。太陽と重なり合うやいなや、天上天下を焼き尽くすほどの輝きを放つのだった……。 幻のような影絵劇が終わると、私はトンネルを抜けていた。目の前のコンビニは既に電気が消えている。その店舗全体に、腐ったミルクのような色のペンキで星型に線を一本足した記号が描かれている。更に接近すると、デッキブラシを持った白髪の偉丈夫が記号を消そうと悪戦苦闘しているのが見えた。 「あ、紅さん」 私に気がつき振り返った青木さんは、足下のバケツを倒して水をこぼしてしまった。彼は慌ててバケツを立て直す。 「見て下さい。誰がこんな酷い事を? こいつはコトだ」 青木さんはデッキブラシで星型の記号を擦る。でもそれは掠れすらしない。 「ブラシで擦っても? ケッタイな落書きを……っ!?」 指で直接記号に触れようとした青木さんは、直後謎の力に弾き飛ばされた。 「……」 青木さんは何かを思い出したようだ。 「紅さん。そういえば僕も、ケッタイな体験をした事が」 夕日が沈んでいき、島中の店や防災無線からはザトウムシが鳴り続ける。 「犬に吠えられ、夜中に目を覚まして。永遠に飢え続ける犬は、僕のおつむの中で、ひどく悲しい声で鳴く。それならこれは幻聴か? 犬でないなら幽霊かもだ……」 青木さんは私に背を向け、沈む夕日に引き寄せられるように歩きだした。 「早くなんとかせにゃ。犬を助けてあげなきゃ、僕までどうにかなっちまうかもだ。するとどこからか、目ん玉が潰れた双頭の毛虫がやって来て、口からミルクを吐き出した。僕はたまらず、それにむしゃぶりつく」 デッキブラシから滴った水が地面に線を引き、一緒に夕日を浴びた青木さんの影も伸びていく。 「嫌だ。もう犬にはなりたくない。きっとおっとろしい事が起きるに違いない。満月が男を狼にするみたいに、毛虫の親玉を解き放つなど……」 「青木さん」 私はその影を呼び止めた。 「この落書きは、デッキブラシじゃ落とせません」 「え?」 「これは散減に穢された縁の母乳、普通の人には見えない液体なんです」 カターン。青木さんの手からデッキブラシが落ちた途端、全てのザトウムシが鳴り止んだ。青木さんはゆっくりとこちらへ振り向く。重たい目隠れ前髪が狛犬のたてがみのように逆立ち、子犬のように輝く目は濁った穢れに覆われていく。 「グルルルル……救、済、ヲ……!」 私も胸のペンダントに取り付けたカンリンを吹いた。パゥーーー……空虚な悲鳴のような音が響く。私の体は神経線維で編まれた深紅の僧衣に包まれ、激痛と共に影が天高く燃え上がった。 「青木さん。いや、御戌神よ。私は紅の守護尊、ワヤン不動。しかし出来れば、お前とは戦いたくない」 夕日を浴びて陰る日蝕の戌神と、そこから伸びた赤い神影(ワヤン)が対峙する。 「救済セニャアアァ!」 「そうか。……ならば神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!」 空の月と太陽が見下ろす今この時、地上で激突する光の神と影の明王! 穢れた色に輝く御戌神が突撃! 「グルアアァァ!」 私はティグクでそれをいなし、黒々と地面に伸びた自らの影を滑りながら後退。駐車場の車止めをバネに跳躍、傍らに描かれた邪悪な星目掛けてキョンジャクを振るった。二〇%浄化! 分解霧散した星の一片から大量の散減が噴出! 「マバアアアァァ!!」「ウバアァァァ!」 すると御戌神の首に巻かれた幾つもの頭蓋骨が共鳴。��タケタと震えるように笑い、それに伴い御戌神も悶絶する。 「グルアァァ……ガルァァーーーッ!!」 咆哮と共に全骨射出! 頭蓋骨は穢れた光の尾を引き宙を旋回、地を這う散減共とドッキングし牙を剥く! 「がッは!」 毛虫の体を得た頭蓋骨が飛び回り、私の血肉を穿つ。しかし反撃に転じる寸前、彼らの正体を閃いた。 「さては歴代の『器』か」 この頭蓋骨らは御戌神転生の為に生贄となった、どこの誰が産んだかもわからない島民達の残滓だ。なら速やかに解放せねばなるまい! 人頭毛虫の猛攻をティグクの柄やキョンジャクで防ぎながら、ティグクに付随する旗に影炎を着火! 「お前達の悔恨を我が炎の糧とする! どおぉりゃああぁーーーーっ!!」 ティグク猛回転、憤怒の地獄大車輪だ! 飛んで火に入る人頭毛虫らはたちどころに分解霧散、私の影体に無数の苦痛と絶望と飢えを施す! 「クハァ……ッ! そうだ……それでいい。私達は仲間だ、この痛みを以て金剛に汚された因果を必ずや断ち切ってやろう! かはあぁーーーっはーーっはっはっはっはァァーーッ!!!」 苦痛が無上の瑜伽へと昇華しワヤン不動は呵呵大笑! ティグクから神経線維の熱線が伸び大車輪の火力を増強、星型記号を更に焼却する! 記号は大文字焼きの如く燃え上がり穢れ母乳と散減を大放出! 「ガウルル、グルルルル!」 押し寄せる母乳と毛虫の洪水に突っ込み喰らおうと飢えた御戌神が足掻く。だがそうはさせるものか、私の使命は彼を穢れの悪循環から救い出す事だ。 「徳川徳松ゥ!」 「!」 人の縁を奪われ、畜生道に堕ちた哀しき少年の名を呼ぶ。そして丁度目の前に飛んできた散減を灼熱の手で掴むと、轟々と燃え上がるそれを遠くへ放り投げた! 「取ってこい!」 「ガルアァァ!!」 犬の本能が刺激された御戌神は我を忘れ散減を追う! 街路樹よりも高く跳躍し口で見事キャッチ、私目掛けて猪突猛進。だがその時! 彼の本体である衆生が、青木光が意識を取り戻した! (戦いはダメだ……穢れなど!) 日蝕の目が僅かに輝きを増す。御戌神は空中で停止、咥えている散減を噛み砕いて破壊した! 「かぁははは、いい子だ徳松よ! ならば次はこれだあぁぁ!!」 私はフリスビーに見立ててキョンジャクを投擲。御戌神が尻尾を振ってハッハとそれを追いかける。キョンジャクは散減共の間をジグザグと縫い進み、その軌跡を乱暴になぞる御戌神が散減大量蹂躙! 薄汚い死屍累々で染まった軌跡はまさに彼が歩んできた畜生道の具現化だ!! 「衆生ぉぉ……済度ぉおおおぉぉぉーーーーっ!!!」 ゴシャアァン!!! ティグクを振りかぶって地面に叩きつける! 視神経色の亀裂が畜生道へと広がり御戌神の背後に到達。その瞬間ガバッと大地が割れ、那由多度に煮え滾る業火を地獄から吹き上げた! ズゴゴゴゴガガ……マグマが滾ったまま連立する巨大灯篭の如く隆起し散減大量焼却! 振り返った御戌神の目に陰る穢れも、紅の影で焼き溶かされていく。 「……クゥン……」 小さく子犬のような声を発する御戌神。私は憤怒相を収め、その隣に立つ。彼の両眼からは止めどなく饐えた涙が零れ、その度に日蝕が晴れていく。気がつけば空は殆ど薄暗い黄昏時になっていた。闇夜を迎える空、赤く燃える月と青く輝く太陽が並ぶ大地。天と地の光彩が逆転したこの瞬間、私達は互いが互いの前世の声を聞いた。 『不思議だ。あの火柱見てると、ぼくの飢えが消えてく。お不動様はどんな法力を?』 ༼ なに、特別な力ではない。あれは慈悲というものだ ༽ 『じひ』 徳松がドマルの手を握った。ドマルの目の奥に、憎しみや悲しみとは異なる熱が込み上がる。 『救済の事で?』 ༼ ……ま、その類いといえばそうか。童よ、あなたは自分を生贄にした衆生が憎いか? ༽ 徳松は首を横に振る。 『ううん、これっぽっちも。だってぼく、みんなを救済した神様なんだから』 すると今度はドマルが両手で徳松の手を包み、そのまま深々と合掌した。 ༼ なら、あなたはもう大丈夫だ。衆生との縁に飢える事は、今後二度とあるまい ༽
གསུམ་པ་
時刻は……わからないけど、日は完全に沈んだ。私も青木さんも地面に大の字で倒れ、炎上するコンビニや隆起した柱状節理まみれの駐車場を呆然と眺めている。 「……アーーー……」 ふと青木さんが、ずっと咥えっ放しだったキョンジャクを口から取り出した。それを泥まみれの白ニットで拭い、私に返そうとして……止めた。 「……洗ってからせにゃ」 「いいですよ。この後まだいっぱい戦うもん」 「大散減とも? おったまげ」 青木さんにキョンジャクを返してもらった。 「実は、まだ学生の時……友達が僕に、『彼女にしたい芸能人は?』って質問を。けど特に思いつかなくて、その時期『非常勤刑事』やってたので紅一美ちゃんと。そしたら今回、本当にしたたびさんが……これが縁ってやつなら、ちぃと申し訳ないかもだ」 「青木さんもですか」 「え?」 「私も実は、この間雑誌で『好きな男性のタイプは何ですか』って聞かれて、なんか適当に答えたんですけど……『高身長でわんこ顔な方言男子』とかそんなの」 「そりゃ……ふふっ。いやけど、僕とは全然違うイメージだったかもでしょ?」 「そうなんですよ。だから青木さんの素顔初めて見た時、キュンときたっていうより『あ、実在するとこんな感じなの!?』って思っちゃったです。……なんかすいません」 その時、遠くでズーンと地鳴りのような音がした。蜃気楼の向こうに耳をそばだてると、怒号や悲鳴のような声。どうやら敵の大将が地上に現れたようだ。 「行くので?」 「大丈夫。必ず戻ってきます」 私は重い体を立ち上げ、ティグクとキョンジャクに再び炎を纏った。そして山頂の御戌神社へ出発…… 「きゃっ!」 しようとした瞬間、何かに服の裾を掴まれたかのような感覚。転びそうになって咄嗟にティグクの柄をつく。足下を見ると、小さなエネルギー眼がピンのように私の影を地面と縫いつけている。 ༼ そうはならんだろ、小心者娘 ༽ 「ちょ、ドマル!?」 一方青木さんの方も、徳松に体を勝手に動かされ始めた。輝く両目から声がする。 『バカ! あそこまで話しといて告白しねえなど!? このボボ知らず!』 「ぼっ、ぼっ、ボボ知らずでねえ! 嘘こくなぁぁ!」 民謡の『お空で見下ろす出しゃばりな月と太陽』って、ひょっとしたら私達じゃなくてこの前世二人の方を予言してたのかも。それにしてもボボってなんだろ、南地語かな。 ༼ これだよ ༽ ドマルのエネルギー眼が炸裂し、私は何故かまた玲蘭ちゃんの童貞を殺す服に身を包んでいた。すると何故か青木さんが悶絶し始めた。 「あややっ……ちょっと、ダメ! 紅さん! そんなオチチがピチピチな……こいつはコトだ!!」 ああ、成程。ボボ知らずってそういう…… 「ってだから、私の体で検証すなーっ! ていうか、こんな事している間にも上で死闘が繰り広げられているんだ!」 ༼ だからぁ……ああもう! 何故わからないのか! ヤブユムして行けと言っているんだ、その方が生存率上がるしスマートだろ! ༽ 「あ、そういう事?」 ヤブユム。確か、固い絆で結ばれた男女の仏が合体して雌雄一体となる事で色々と超越できる、みたいな意味の仏教用語……だったはず。どうすればできるのかまではサッパリわかんないけど。 「え、えと、えと、紅さん……一美ちゃん!」 「はい……う、うん、光君!」 両前世からプレッシャーを受け、私と光君は赤面しながら唇を近付ける。 『あーもー違う! ヤブユムっていうのは……』 ༼ まーまー待て。ここは現世を生きる衆生の好きにさせてみようじゃないか ༽ そんな事言われても困る……それでも、今私と光君の想いは一つ、大散減討伐だ。うん、多分……なんとかなる! はずだ!
བཞི་པ་
所変わって御戌神社。姿を現した大散減は地中で回復してきたらしく、幾つか継ぎ目が見えるも八本足の完全体だ。十五メートルの巨体で暴れ回り、周囲一帯を蹂躙している。鳥居は倒壊、御戌塚も跡形もなく粉々に。島民達が保身の為に作り上げた生贄の祭壇は、もはや何の意味も為さない平地と化したんだ。 そんな絶望的状況にも関わらず、大散減討伐軍は果敢に戦い続ける。五寸釘愚連隊がバイクで特攻し、河童信者はカルトで培った統率力で彼女達をサポート。玲蘭ちゃんも一枚隔てた異次元から大散減を構成する無数の霊魂を解析し、虱潰しに破壊していく。ところが、 「あグッ!」 バゴォッ!! 大散減から三メガパスカル級の水圧で射出された穢れ母乳が、河童信者の一人に直撃。信者の左半身を粉砕! 禍耶さんがキュウリの改造バイクで駆けつける。 「河童信者!」 「あ、か……禍耶の姐御……。俺の、魂を……吸収……し……」 「何言ってるの、そんな事���きるわけないでしょ!?」 「……大散、ぃに、縁……取られ、嫌、……。か、っぱは……キュウリ……好き……っか……ら…………」 河童信者の瞳孔が開いた。禍耶さんの唇がわなわなと痙攣する。 「河童って馬鹿ね……最後まで馬鹿だった……。貴方の命、必ず無駄にはしないわ!」 ガバッ、キュイイィィ! 息絶えて間もない河童信者の霊魂が分解霧散する前に、キュウリバイクの給油口に吸収される。ところが魔耶さんの悲鳴! 「禍耶、上ぇっ!!」 「!」 見上げると空気を読まず飛びかかってきた大散減! 咄嗟にバイクを発進できず為す術もない禍耶さんが絶望に目を瞑った、その時。 「……え?」 ……何も起こらない。禍耶さんはそっと目を開けようとする。が、直後すぐに顔を覆った。 「眩しっ! この光は……あああっ!」 頭上には朝日のように輝く青白い戌神。そしてその光の中、轟々と燃える紅の不動明王。光と影、男と女が一つになったその究極仏は、大散減を遥か彼方に吹き飛ばし悠然と口を開いた。 「月と太陽が同時に出ている、今この時……」 「瞳に映る醜き影を、憤怒の炎で滅却する」 「「救済の時間だ!!!」」 カッ! 眩い光と底知れぬ深い影が炸裂、落下中の大散減を再びスマッシュ! 「遅くなって本当にすみません。合体に手間取っちゃって……」 御戌神が放つ輝きの中で、燃える影体の私は揺らめく。するとキュウリバイクが言葉を発した。 <問題なし! だぶか登場早すぎっすよ、くたばったのはまだ俺だけです。やっちまいましょう、姐さん!> 「そうね。行くわよ河童!」 ドルルン! 輩悪苦満誕(ハイオクまんたん)のキュウリバイクが発進! 私達も共に駆け出す。 「一美ちゃん、火の準備を!」 「もう出来ているぞぉ、カハァーーーッハハハハハハァーーー!!」 ティグクが炎を噴く! 火の輪をくぐり青白い肉弾が繰り出す! 巨大サンドバッグと化した大散減にバイクの大軍が突撃するゥゥゥ!!! 「「「ボァガギャバアアアアァァアアア!!!」」」 八本足にそれぞれ付いた顔が一斉絶叫! 中空で巻き散らかされた大散減の肉片を無数の散減に変えた! 「灰燼に帰すがいい!」 シャゴン、シャゴン、バゴホオォン!! 御戌神から波状に繰り出される光と光の合間に那由多度の影炎を込め雑魚を一掃! やはりヤブユムは強い。光源がないと力を発揮出来ない私と、偽りの闇に遮られてしまっていた光君。二人が一つになる事で、永久機関にも似た法力を得る事が出来る! 大散減は地に叩きつけられるかと思いきや、まるで地盤沈下のように地中へ潜って行ってしまった。後を追えず停車した五寸釘愚連隊が舌打ちする。 「逃げやがったわ、あの毛グモ野郎」 しかし玲蘭ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。 「大丈夫です。大散減は結界に分散した力を補充しに行ったはず。なら、今頃……」 ズドガアアァァァアン!!! 遠くで吹き上がる火柱、そして大散減のシルエット! 「イェーイ!」 呆然と見とれていた私達の後方、数分前まで鳥居があった瓦礫の上に後女津親子と佳奈さんが立っている。 「「ドッキリ大成功ー! ぽーんぽっこぽーん!」」 ぽこぽん、シャララン! 佳奈さんと万狸ちゃんが腹鼓を打ち、斉一さんが弦を爪弾く。瞬間、ドゴーーン!! 今度は彼女らの背後でも火柱が上がった! 「あのねあのね! 地図に書いてあった星の地点をよーく探したら、やっぱり御札の貼ってある祠があったの。それで佳奈ちゃんが凄いこと閃いたんだよ!」 「その名も『ショート回路作戦』! 紙に御札とぴったり同じ絵を写して、それを鏡合わせに貼り付ける。その上に私の霊力京友禅で薄く蓋をして、その上から斉一さんが大散減から力を吸収しようとする。だけど吸い上げられた大散減のエネルギーは二枚の御札の間で行ったり来たりしながら段々滞る。そうとは知らない大散減が内側から急に突進すれば……」 ドォーーン! 万狸ちゃんと佳奈さんの超常理論を実証する火柱! 「さすがです佳奈さん! ちなみに最終学歴は?」 「だからいちご保育園だってば~、この小心者ぉ!」 こんなやり取りも随分と久しぶりな気がする。さて、この後大散減は立て続けに二度爆発した。計五回爆ぜた事になる。地図上で星のシンボルを描く地点は合計六つ、そのうち一つである食虫洞のシンボルは私がコンビニで焼却したアレだろう。 「シンボルが全滅すると、奴は何処へ行くだろうか」 斉三さんが地図を睨む。すると突如地図上に青白く輝く道順が描かれた。御戌神だ。 「でっかい大散減はなるべく広い場所へ逃走を。となると、海岸沿いかもだ。東の『いねとしサンライズビーチ』はサイクリングロードで狭いから、石見沼の下にある『石見海岸』ので」 「成程……って、君はまさか!?」 「青木君!?」 そうか、みんな知らなかったんだっけ。御戌神は遠慮がちに会釈し、かき上がったたてがみの一部を下ろして目隠れ前髪を作ってみせた。光君の面影を認識して皆は納得の表情を浮かべた。 「と……ともかく! ずっと地中でオネンネしてた大散減と違って、地の利はこちらにある。案内するので先回りを!」 御戌神が駆け出す! 私は彼が放つ輝きの中で水上スキーみたいに引っ張られ、五寸釘愚連隊や他の霊能者達も続く。いざ、石見海岸へ!
ལྔ་པ་
御戌神の太陽の両眼は、前髪によるランプシェード効果が付与されて更に広範囲を照らせるようになった。石見沼に到着した時点で海岸の様子がはっきり見える。まずいことに、こんな時に限って海岸に島民が集まっている!? 「おいガキ共、ボートを降りろ! 早く避難所へ!」 「黙れ! こんな島のどこに安全が!? 俺達は内地へおさらばだ!」 会話から察するに、中学生位の子達が島を脱出しようと試みるのを大人達が引き止めているようだ。ところが間髪入れず陸側から迫る地響き! 危ない! 「救済せにゃ!」 石見の崖を御戌神が飛んだ! 私は光の中で身構える。着地すると同時に目の前の砂が隆起、ザボオオォォン!! 大散減出現! 「かははは、一足遅いわ!」 ズカアァァン!!! 出会い頭に強烈なティグクの一撃! 吹き飛んだ大散減は沿岸道路を破壊し民家二棟に叩きつけられた。建造物損壊と追い越し禁止線通過でダブル罪業加点! 間一髪巻き込まれずに済んだ島民達がどよめく。 「御戌様?」 「御戌様が子供達を救済したので!?」 「それより御戌様の影に映ってる火ダルマは一体!?」 その問いに、陸側から聞き覚えのある声が答える。 「ご先祖様さ!」 ブオォォン! 高級バイクに似つかわしくない凶悪なエンジン音を吹かして現れたのは加賀繍さんだ! 何故かアサッテの方向に数珠を投げ、私の正体を堂々と宣言する。 「御戌神がいくら縁切りの神だって、家族の縁は簡単に切れやしないんだ。徳川徳松を一番気にかけてたご先祖様が仏様になって、祟りを鎮めるんだよ!」 「徳松様を気にかけてた、ご先祖様……」 「まさか、将軍様など!?」 「「「徳川綱吉将軍!!」」」 私は暴れん坊な将軍様の幽霊という事になってしまった。だぶか吉宗さんじゃないけど。すると加賀繍さんの紙一重隣で大散減が復帰! 「マバゥウゥゥゥゥウウウ!!!」 神社にいた時よりも甲高い大散減の鳴き声。消耗している証拠だろう。脚も既に残り五本、ラストスパートだ! 「畳み掛けるぞ夜露死苦ッ!」 スクラムを組むように愚連隊が全方位から大散減へ突進、総長姉妹のハンマーで右前脚破壊! 「ぽんぽこぉーーー……ドロップ!!」 身動きの取れなくなった大散減に大かむろが垂直落下、左中央二脚粉砕! 「「「大師の敵ーーーっ!」」」 微弱ながら霊力を持つ河童信者達が集団投石、既に千切れかけていた左後脚切断! 「くすけー、マジムン!」 大散減の内側から玲蘭ちゃんの声。するうち黄色い閃光を放って大散減はメルトダウン! 全ての脚が落ち、最後の本体が不格好な蓮根と化した直後……地面に散らばる脚の一本の顔に、ギョロギョロと蠢く目が現れた。光君の話を思い出す。 ―八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で!― 「そうか、あっちが真の本体!」 私と光君が同時に動く! また地中に逃げようと飛び上がった大散減本体に光と影は先回りし、メロン格子状の包囲網を組んだ! 絶縁怪虫大散減、今こそお前をこの世からエンガチョしてくれるわあああああああ!! 「そこだーーーッ!! ワヤン不動ーーー!!」 「やっちゃえーーーッ!」「御戌様ーーーッ!」 「「「ワヤン不動オォーーーーーッ!!!」」」 「どおおぉぉるあぁああぁぁぁーーーーーー!!!!」 シャガンッ! 突如大量のハロゲンランプを一斉に焚いたかのように、世界が白一色の静寂に染まる。存在するものは影である私と、光に拒絶された大散減のみ。ティグクを掲げた私の両腕が夕陽を浴びた影の如く伸び、背中で燃える炎に怒れる恩師の馬頭観音相��浮かんだ時……大散減は断罪される! 「世尊妙相具我今重問彼仏子何因縁名為観世音具足妙相尊偈答無盡意汝聴観音行善応諸方所弘誓深如海歴劫不思議侍多千億仏発大清浄願我為汝略説聞名及見身心念不空過能滅諸有苦!」 仏道とは無縁の怪獣よ、己の業に叩き斬られながら私の観音行を聞け! 燃える馬頭観音と彼の骨であるティグクを仰げ! その苦痛から解放されたくば、海よりも深き意志で清浄を願う聖人の名を私がお前に文字通り刻みつけてやる! 「仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没或在須弥峰為人所推堕念彼観音力如日虚空住或被悪人逐堕落金剛山念彼観音力不能損一毛!!」 たとえ金剛の悪意により火口へ落とされようと、心に観音力を念ずれば火もまた涼し。苦難の海でどんな怪物と対峙しても決して沈むものか! 須弥山から突き落とされようが、金剛を邪道に蹴落とされようが、観音力は不屈だ! 「或値怨賊繞各執刀加害念彼観音力咸即起慈心或遭王難苦臨刑欲寿終念彼観音力刀尋段段壊或囚禁枷鎖手足被杻械念彼観音力釈然得解脱呪詛諸毒薬所欲害身者念彼観音力還著於本人或遇悪羅刹毒龍諸鬼等念彼観音力時悉不敢害!!」 お前達に歪められた衆生の理は全て正してくれる! 金剛有明団がどんなに強大でも、和尚様や私の魂は決して滅びぬ。磔にされていた抜苦与楽の化身は解放され、悪鬼羅刹四苦八苦を燃やす憤怒の化身として生まれ変わったんだ! 「若悪獣囲繞利牙爪可怖念彼観音力疾走無辺方蚖蛇及蝮蝎気毒煙火燃念彼観音力尋声自回去雲雷鼓掣電降雹澍大雨念彼観音力応時得消散衆生被困厄無量苦逼身観音妙智力能救世間苦!!!」 獣よ、この力を畏れろ。毒煙を吐く外道よ霧散しろ! 雷や雹が如く降り注ぐお前達の呪いから全ての衆生を救済してみせよう! 「具足神通力廣修智方便十方諸国土無刹不現身種種諸悪趣地獄鬼畜生生老病死苦以漸悉令滅真観清浄観広大智慧観悲観及慈観常願常瞻仰無垢清浄光慧日破諸闇能伏災風火普明照世間ッ!!!」 どこへ逃げても無駄だ、何度生まれ変わってでも憤怒の化身は蘇るだろう! お前達のいかなる鬼畜的所業も潰えるんだ。瞳に映る慈悲深き菩薩、そして汚れなき聖なる光と共に偽りの闇を葬り去る! 「悲体戒雷震慈意妙大雲澍甘露法雨滅除煩悩燄諍訟経官処怖畏軍陣中念彼観音力衆怨悉退散妙音観世音梵音海潮音勝彼世間音是故須常念念念勿生疑観世音浄聖於苦悩死厄能為作依怙具一切功徳慈眼視衆生福聚海無量是故応頂……」 雷雲の如き慈悲が君臨し、雑音をかき消す潮騒の如き観音力で全てを救うんだ。目の前で粉微塵と化した大散減よ、盲目の哀れな座頭虫よ、私はお前をも苦しみなく逝去させてみせる。 「……礼ィィィーーーーーッ!!!」 ダカアアアアァァアアン!!!! 光が飛散した夜空の下。呪われた気枯地、千里が島を大いなる光と影の化身が無量の炎で叩き割った。その背後で滅んだ醜き怪獣は、業一つない純粋な粒子となって分解霧散。それはこの地に新たな魂が生まれるための糧となり、やがて衆生に縁を育むだろう。 時は亥の刻、石見海岸。ここ千里が島で縁が結ばれた全ての仲間達が勝利に湧き、歓喜と安堵に包まれた。その騒ぎに乗じて私と光君は、今度こそ人目も憚らず唇を重ね合った。
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各地句会報
花鳥誌 令和3年7月号

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和3年4月1日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
春彼岸阿弥陀背にして説法を 柏葉 母編みし毛糸のベスト解いて編む 由季子 解く帯に桜一片舞ひ落ちぬ 都 人に酔ひ酒にほろ酔ふ花の園 同 初蝶の行きつ戻りつ旅立ちぬ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月1日 花鳥さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
天蓋は万朶の桜愛子の忌 かづを 最古てふ天主や花の海に浮き 同 椿落つ秘めたる想ひ絶ち切れず 笑 花の寺御仏こぞりて笑み賜ふ 同 走り根の絡む老木の花淡く 希 鐘楼門栄華の花は盛りなり 同 初蝶の止まつてばかりゐる黄色 雪 ぽつたりと云ふ落ち様の肥後椿 清女 濠は今満月のもと花万朶 数幸 ねむたげな目をして地蔵花の寺 天空
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月3日 零の会 坊城俊樹選 特選句
花屑の起伏を流れたる音頭 要 あかんばうだらんと垂れて八重桜 いづみ カーブへと都電の軋む花の駅 眞理子 霾やホテル���スカのネオン消え 光子 白き指触れれば老いてゆく桜 順子 花山のお狐さんの花見酒 きみよ 風光る都電カーブに傾けば 光子 花追うてちんちん電車下町へ きみよ 丁字路に男惑へば花ふぶき 和子 貨車つづく花の昼なら長々と 和子 春惜しむやうに各駅停車かな いづみ 花衣花の音頭に揺れ止まず 慶月
岡田順子選 特選句
花屑の起伏を流れたる音頭 要 花吹雪その一瞬の神かくし 久 北病棟梟徘徊する深夜 公 世 山頂は花の冠雪なりしかな 俊樹 春昼の子爵の気配する館 きみよ 動くたび翠玉に化け春の蠅 小鳥 落つ花も落ちざる花も狐憑く 俊樹 お屋敷は棕櫚の置かれし復活祭 いづみ 山吹や古き稲荷に鬼女の謂 千種 都電行く花のレールを懇ろに 俊樹
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月7日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
愛子忌や花の仏の目鼻だち 世詩明 陽炎や聖火近づく靴の音 ただし 尼様の逝かれて久し花の庵 清女 春愁や廊下に邪魔なすべり台 同 屋根の上猫を消し去る花吹雪 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月9日 芦原花鳥句会 坊城俊樹選 特選句 塵芥浜に打ち寄す涅槃西風 よみ子 紅椿落ちしまゝなりいくへにも 寛子 朧の夜磨りて薙刀月なりぬ 依子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月9日 札幌花鳥会 坊城俊樹選 特選句
亀鳴くや狸小路といふところ 清 子猫には知らぬ値札の差でありき 同 新しき街にもなれて朧月 同 いつの間に少女は乙女初蝶来 晶子 ほつとする出会ひに似たり蕗の薹 寛子 鮨屋出てちよいと歌碑まで啄木忌 のりこ 舞姫の余波の浜の桜貝 岬月 空海の学びし都霾れり 雅春 花は葉に大樹あくまで孤高なる 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月9日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
葱坊主砂丘の畑に海を見て 栄子 縮こまりゐしが色めき勿忘草 史子 妹の炊く釘煮の味や春の潮 佐代子 花曇貝殻拾ふ習はしに 幸子 チューリップ閉ぢて乗せゐる細き月 都 払暁の厨に水を撒く浅蜊 宇太郎 大手門潜り落花の畏まる 悦子 鞦韆や正面にある日本海 益恵 大土手に游がせ青き鯉幟 益恵 囀や赤子は喃語はなしかけ 和 子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月10日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
もこもこと花に潜りし虻の尻 三無 著莪咲くや十年祭のとしあつ師 文英 石楠花の色の溢れて空の青 同 虻戻る宙の一点違へずに 秋尚 野の草も木々も輝く寺うらら 瑞枝 影淡く残しほぐるる牡丹かな 秋尚 若楓日に透けて師の十年祭 文英 蜃気楼より戻りくる大漁旗 三無 手のひらに残花ひとひらとしあつ忌 同 花筏小鷺の暫し石の上 文英
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月12日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
笑ひ皺深き自画像山笑ふ 清女 ヘリコプター右往左往の霾ぐもり ただし 一輪の菜の花明り無人駅 英美子 二百羽の白鳥去りて水落とす さよ子 となりからグラタン届く蝶の昼 清女 黒々と土掘り起こす夫の春 錦子 お姉さんと呼ばれし母の古浴衣 清女 昭和史を読み継ぐ窓や冴返る 上嶋昭子 落花浴び二人の会話とめどなく 中山昭子 風光る子の背で踊るランドセル 英美子 霾れり外は砂塵の匂ひあり 中山昭子 日差し受け新樹ふくらみ山太る みす枝 牡丹の土くろぐろとごろごろと 信子 調停を終へて出で来る白日傘 上嶋昭子 四月馬鹿小さくなりし力こぶ 三四郎 豊麗といふ重さあり八重桜 上嶋昭子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月12日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
草団子つかまり立ちし子の笑ふ 実加 花の雲散りては隠れ鳥の群 あけみ 空色のファーストシューズ若草に 登美子 自転車で駆け抜けてみる花吹雪 紀子 花の下貨物列車がゆつくりと 同 リード張る犬の目の先青葉萌ゆ あけみ 草餅を炙るおばあの手の記憶 同 春の灯や見覚えのある泣きぼくろ 登美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月12日 伊藤柏翠俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
花万朶天守の高さ残し散る かづを 天主てふ高さ支へし花の雲 同 天帝の機嫌のよしや雲雀また 同 散る花に戦争語る皺深く みす枝 はじめての大地歩む児風光る 同 春愁や黒が似合ふと云ひし人 雪 鳥帰る古墳の山を越えて行く 千代子 涅槃図の嘆きの蛇の舌赤し ただし 葱坊主蝶遊ばせて三畝ほど 高畑和子 天に紅地に錆色の落椿 英美子 鯉幟青��支配してゐたる 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月12日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
妻の座に一人占めなる春炬燵 世詩明 巣立鳥軒離れるに啼き叫ぶ 同 春水の池も小川も老舗宿 和子 風の中ゆつくり曲がる花筏 千加江 チューリップどんな空にも納まりて 同 吾が前にチューリップ揺れ百八色 昭子 児の描く屋根より高いチューリップ 啓子 春塵や踏台見ゆる古本屋 泰俊 義士祭や夕日の端に寺箒 同 黒髪の如くつらつら椿かな 雪
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月12日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
とりどりの緑の若葉森太る 三無 淡く透け風を誘ふ栃若葉 秋尚 初蝶は白でありけり水辺ゆく 和魚 地を漁る鳩嬉嬉として躑躅燃ゆ 三無 サッカーの声を散らして若葉風 怜 若芝を歩く足裏に気の満ちる 貴薫 東屋の池の水枯れ著莪の花 せつこ 傾きし午後の日集め山吹黄 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月13日 萩花鳥句会
秀吉を偲ぶ醍醐寺春の星 祐子 入寮す荷解きの窓春の月 美恵子 金の座の柔人生花吹雪く 健雄 明日発つ子に取り分ける桜鯛 陽子 春の月言葉少なに客送り ゆかり さくらさくら今は無人となりし駅 克弘
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月18日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
囀のやみておくつき土匂ふ ゆう子 鶯の声の滴の落つる句碑 三無 大空を抱きて長閑母の塔 亜栄子 法鼓鳴る終の牡丹のいよよなる 慶月 鯉幟岡本太郎の目がふたつ 千種 武士の如蘖ゆる城址かな 斉
栗林圭魚選 特選句
年尾来よ陽子の墓へ虹架けて 俊樹 シーサーの睨みの門扉松の芯 亜栄子 初蝶来うすむらさきの影を追ひ 久 若楓威を持ちて守る年尾句碑 文英 葉の蔭に香り残して花通草 秋尚 春行くやおほよそおうてゐる時計 久 武士の如蘖ゆる城址かな 斉 枡形の山峡深く藤懸かる 亜栄子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年4月22日 鯖江花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
うららかや女医に診られてゐる鼓動 一涓 グクと泣く鍬先に詫び畑を打つ 同 訪へば由利に左内に花吹雪 同 ことごとく合掌解きて紫木蓮 同 初蝶の黄のあまりにも濃ゆきこと 雪 雨上がり燕大きく十字切る 信子 天を指す指より甘茶光り落つ みす枝 化粧水顔を叩けば夏めきぬ 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
風光る帆を張る船は膨らみて 佐和 風光る紙飛行機の未知の空 久美子 胸もとへ闇はゆるやか花衣 佐和 風光る臍の緒ほろと母の手に 睦子 花屑を浮かべ流離の水となり 朝子 星月夜帰船に満ちし博多港 佐和 ゆるゆると緋鯉にゆらぐ春の雲 勝利 いつまでも止めぬ石蹴り風光る 久美子 花蘇枋久女多佳子のこゑ聞こゆ 美穂 風光り手押しポンプは水を吐く 洋子 空までも君と一緒の半仙戯 さえこ 炊出しに悪漢もゐて彼岸寺 喜和 かくれんぼいつかひとりの春の暮 ひとみ たちがみの天馬とまがふ仔馬生れ 千代
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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ルドンの気球
昼の盛りを少し過ぎていた。朝早くからの仕事を終えた私は午後から始まる別の仕事場へと移動していたのだが、時間に少し余裕があったので道の途中にある喫煙所に寄り道をして、休憩も兼ねがね空に煙草の煙を吐いていた。
その喫煙所は市街中央から少し離れた場所にあるホームセンターの入り口脇に設置してあるもので、近頃閉鎖が相次いで喫煙所が皆無であるこの界隈においては屋外で煙草が吸うことの出来る数少ないスペースだった。必然として近隣のあぶれた喫煙者たちは飢えた蠅が残飯にたかるようにこの喫煙所一か所に集まり、連日どの時間帯も紫煙と煙草の香りが賑やかに空へと立ち昇っているのだが、今日は自分以外に人は一人も居なかった。だからといって寂しさが募るわけでもなく、むしろ人の居ない気楽さを煙草と一緒に味わいながら目の前に広がる景色を漫然と眺めていた。 私が履いている二足のスニーカーの先にはテニスコートのような樹脂製の赤茶色をした地面があって、その少し先にはいつもそれ程人が通っていない歩道があった。歩道の先には木蓮の街路樹とつつじの植え込み、白いガードレールを挟んで幅の広い車道が横たわっている。その車道では種々雑多な自動車が途切れることなく右や左に行き交っていて、行き交う度に車が空気を切り裂く乾いた音がここまで響き、時折排気ガスの臭いが微かに漂って来ることもあった。そんな車道の向こう岸にはこちら側と同じように白いガードレール、木蓮の街路樹とつつじの植え込みを挟んで人通りの少ない歩道があり、その先には白塗りの壁に包囲されている広大な空き地があった。 今年になってから巨大商業施設の建設工事が行われているその空き地からは螺旋状のドリルで地面を掘り返している掘削機の重低音や作業員たちの掛け声や怒声が断続的に聞こえてきた。工事の様子そのものは白塗りの壁に遮られてここからは殆ど見ることが出来なかったが、壁の上から空に伸びているクレーン車の長い首の姿だけは幾本か見ることが出来た。空はというと白い雲に一面を覆われているように見えたが、しかし良く見ると、白、灰白色、灰色、と所々に微妙な濃淡の差異が見えて、薄い墨を使って描かれた淡い禅画のようだった。殆ど動きを見せないクレーン車の直線的で無機質な梯子は真冬の空に聳え立っている黒い巨木のように背景の虚ろな空に良く馴染んでいた。 寡黙で怠慢なクレーン車の長い首だったが、時折思い出したようにゆっくりと空の只中を旋回した。先端の小さな頭の下からは細長いワイヤーが垂直に下へと伸びていて、その先のフックに四角い鉄骨の束をぶらさげているのだが、巨大で重量もかなりありそうなその鉄骨の束に比べてワイヤーの方は随分と細過ぎるような気がした。おそらくそれは恐ろしく硬く丈夫な材質で出来ているのだろうが、遠く離れたこの喫煙所から見てもそれは白い空に引かれている縦の棒線にしか見えず、その頼りない細さは空中に鉄骨が浮いているという不自然な状況を更に不自然に不安定に非現実的に見せていた。 束の間、白い空の中を回遊した鉄骨は段々と降下していって、最後には白塗りの壁の下に見えなくなった。暫くするとまた新たな鉄骨が白塗りの壁の上から姿を現し、白い空の中を漂い始める。どこかそれは酷く陰惨な拷問の現場を見ているかのようだった。 飛翔する開放感はなく、上昇する高揚感もなく、ただ白い空の只中に宙ずりにされている存在。色もなく音もない虚空の中で何一つと触れることが出来ない彼の存在を唯一世界の内側に繋ぎ止めているものは自らの身体に巻き付いているワイヤーであって、しかしそれは同時に自らの全体重が喰らい込んでいる耐え難き苦痛の繋ぎ目でもある。その線は言い換えるならば存在と現実を繋ぎ止めている最後の絆であり、ワイヤーが断ち切られた瞬間に彼の身体は地上へと落下して瞬く間に大地と一体化し、切り離された彼の魂は白い空の上へと無限に上昇していく。 言葉に変換されたイメージは少しずつまた言葉からイメージに変換された。しかし、そのイメージはもはや既にクレーン車に吊るされている鉄骨の姿ではなく、白い空の中に突き出している黒い十字架だった。それからイメージは、吊るし首の樹海、冷凍室に吊るされている豚の肉塊、廃墟に浮かぶ風船の群れ、と変転していき、やがて一枚の絵と結び付いた。それはオディロン・ルドンの眼=気球だった。 いつどこでその絵を最初に見たのかは定かでない。ユイスマンスのさかしまの挿絵だったような気がするが、もっとずっと以前からその絵を知っていたような気もする。とにかく長い間、そのルドンの絵が私の意識下無意識下に棲み続けていた。 絵の下方には先細った生気のない数束の草の葉以外に何も見えない荒涼とした平地が広がっている。殆どが黒く塗りつぶされているのでそれが土の地面なのか或いは草原なのか判然としない。ただ生命の息吹を感じさせるような大地でないことは確かで、見方によっては海、それも暗い夜を髣髴とさせるような海にも見える。その上方には私が今目の前にしているのと同じように白や灰白色の混在した虚ろで観念的な空が覆い被さり、その中に黒く巨大な気球が浮かんでいる。その黒さは観念的で非現実的な空の色とは対照的に暴力的で生々しい夜そのものの黒さで、常に破裂の緊張感が付き纏う気球の丸い輪郭線も危険な印象に油を注いでいる。 しかし最も不気味なのは黒い気球の上半円に見開かれている一つの大きな瞳だろう。眼窪のように抉られている気球の上半分に細い睫毛を生やして埋まっているその眼球は黒目が著しく上方に偏り、残された広大な白目には若干血管が浮いている。それは正常な状態における人間の瞳ではなかった。私がごく初期に連想したのは首を締め上げられて死んでいく人間の瞳だった。次には白昼夢を見ている人間の瞳となり、性交の際絶頂を迎えている女の瞳となり、賭博で一文無しになったときのギャンブラーの瞳となり、法悦に浸っている聖人の瞳となり…と気球の瞳は様々な人間の瞳の中に顕現した。そのどれもが快楽の絶頂か苦痛の限界に接している人間の瞳で、つまりは自己を喪失しかけている人間の瞳だった。 黒い気球に見開かれた瞳の下睫毛には黒い円盤のような物が吊るされている。円盤はかなりの重量があるようで、その重みによって細い睫毛はの一本一本が張り詰め、下瞼に至っては一部が捲れ上がってしまっている。つまりはこの円盤の重みが下瞼を開かせているのだった。その力は同時に黒い気球全体をこの虚ろで観念的な空の只中に繋ぎ止めているのであり、もし仮に睫毛が切れた場合、円盤は地上に落下して黒い地面と一体化し、下瞼を閉じてほぼ完全に黒い球体と化した気球はどこまでも空を上昇していき、遠くはその故郷である夜そのものに溶けていくであろうことを予感させる。 というのがルドンの気球=眼に対する私の凡そな見解であったが、今こうして白い空とクレーン車のを見ているうちにまた新たな側面��気が付き始めた。それは至極単純な答えで、あの絵は白い空を見詰めるルドンの自画像だということだった。 ルドンにとって白い画用紙は白い空そのものであり、その白い空を見詰め続けるということは虚無を見詰め続けることと同じ意味を持ち、更にそれは自分自身の虚無を見詰めるということだった。しかしそれは非常に恐ろしいことで、なぜならそれは自分自身が存在しないのだと自分自身が強烈に自覚していく行為であり、刻々と死んでいく自分自身を自分自身が見詰めるということだからである。その死は肉体的な死というよりもより完全に純粋な自分自身の死であり、実際に人間が本当に恐れているのはこの自分自身の死であって肉体の死ではない。肉体の死が必然的に自分の死を引き起こすと仮定するために人間は肉体の死を恐れているのに過ぎない。しかし実はそうした恐怖、虚無に対する恐怖という感情そのものが虚無に接している人間にとって最後に残された虚無的でないもの、つまりは自分自身そのものなのであって、だからルドンの虚無に対する恐怖苦痛絶望といった人間的感情は全てあの黒い円盤の方に詰まっているのである。その円盤を吊るしている睫毛が切れた瞬間、つまりは虚無に対する恐怖苦痛絶望といった人間的な感情の全てが消えた瞬間彼は虚無そのものになり、本当の夜がそこに訪れるのである。 しかし一方で見開いた目玉の黒い気球もルドン自身であることは間違いない。虚無に対して見開かれていているその瞳は自己の存在を否定する虚無の方へと自分自身全体を引っ張っていく、言うなれば自分の中にある他人の瞳である。その他人である彼の瞳にとって虚無は恐ろしい無の世界ではなく、魅惑的な無限の世界=パラダイスとして映っているのだということは、そのどこか夢を見ているような瞳の表面に薄っすらと光が反映していることからも伺える。謂わばそれは太陽の光に魅せられたイカロスの瞳であるのだが、太陽へと真っ直ぐに飛んで行ったイカロスの雄姿はもうそこになく、天上と地上に、神々と人間の間にそれぞれ強く引っ張られ、上下真っ二つに引き裂かれようとしながらも何とか一つの均衡を保って地上すれすれにやっと浮かんでいる有り様である。なぜ、そうなってしまったのか?時は十九世紀であり、神の死とそれに伴う虚無がひたひたと人々の目の前に近付いてきた時代である。もはや人々は空の上に輝く絶対無比の太陽を信じることが出来なくなり、代わりとして空の上に現れたあらゆるものを相対化してしまう絶対的な虚無に不安を感じるとともに怯え始めていた。それは同時に近代自我の目覚めであり、精神と肉体の分離現象であって、タナトスとエロスが袂を分かち始めたときでもあった。死と自らの内に潜む死の欲動に不安と怯えを抱いた人々は硬く小さな円盤に閉じ籠り始め、その重力で黒い死の気球を安全な地上に縛り付けようと画策し始めた。
しかし、今後この黒い気球は果たして空に上昇していくのだろうか?それとも地上に堕ちるのだろうか?或いは二つに分離してそれぞれ帰るべき場所に帰るのだろうか?ルドン自身がどうなったかは知らないが、その後の人類の歴史を顧みると果たして人類全体は夢見る瞳を空の中に捨て去って地上に堕ちていったようである。
突然耳に聞こえたライターの点火音が延々と紡がれていくかに思われた思索の糸を断ち切った。現実に引き戻された意識は音が聞こえた方へと向きかけたが、自分の鼻の先でその殆どが白い灰と化している煙草の姿が目に映り、注意はそこに逸れた。いつの間にか意識の完全な枠外で造成されたその灰の塊は無造作でありながら絶妙な均衡を保って自分の左手人差し指と中指の間から空中へと細長く伸びていたが、根元の付近は未だに仄かな煙を流し燻っていて今にも自らの重みによって崩れ落ちそうだった。それが崩壊していく様子を目にするのが何となく嫌な気がして直ぐに私はその灰の塊を自分の手で払い落そうと傍らにある灰皿の方へ振り向いた。するとその灰皿の向こうに女が立っていることに気が付いた。と同時に均衡を失った灰の塊が崩れ、何枚かが空中にひらひらと舞って、残りが灰皿の暗い穴の中へと落ちていった。 その女は短い髪に黒縁の眼鏡を掛け、小柄で線の細い体型に枯葉色の地味なチェック柄のベストと長袖の白いワイシャツを着ていた。蒼白い左手の人差し指と中指の間には細長い煙草が挟まれ、既に火の付けられているその煙草の丸い切れ口からは白い煙が気怠そうに流れていた。右手の中には黒いライターが握られていて、直ぐにそれは先刻耳にしたばかりの点火音と結びついたが、その認識が一致するよりも早く、女は歩き始めた。真っ直ぐに女は歩道の方へ、つまりは喫煙所の前に広がる白い景色の方へと歩いていった。ゆっくりと遠ざかっていく女の背中は痩せているせいか酷く平板でタイル張りの壁のように見え、下半身に穿いている黒いスーツのズボンも黒い板のように直線的で女性らしい曲線は何処にも見当たらなかった。そのスーツの脚と合わせて規則的に動く左右の黒靴は鋭利なヒールの先端を地面へと交互に突き立てていたが、地面が柔らかい樹脂製のために靴音がまるで聞こえず、それが何とも言えない不安な気持ちを興させた。女は歩道の少し手前まで歩いていくと、地面の上に棒立ちになってそのまま殆ど動かなくなった。 地面の上に茫然と佇む女の先程よりも少し遠くなったその後ろ姿は白い景色を前にして朧な木柱の黒い影のように映った。だらりと力なく垂れ下がった両腕の左手指先から流れる煙草の煙だけが有機的な動きを見せていて、まるで女の暗い輪郭そのものが周囲の空気に溶けて蒸発しているように見えた。その前方に広がる白い空は相変わらず白い空のままだったが、クレーン車の方は小休止していて虚空に吊るされていた鉄骨も今は見当たらなかった。休憩に入ったらしく作業員たちの掛け声や怒声も止んでいて、車道を流れる自動車の音だけが寂しい波音のように響いていた。段々と私は前方に実際に生きた女が存在しているという現実が曖昧になり始めていた。同時に自分が今目の前にしている光景の全てが一体何なのか理解することに時間が掛かり始めて、少しずつその所要時間は長くなっていった。しかしながら、ようやく理解出来てもそれは現実の実感と呼ぶのが躊躇われる曖昧な感覚だった。 意識の表面に白い靄がかかっているような現実の曖昧さ、しかしそれは私の生活の隅から隅に至るまで深く浸透していた。 朝、仕事へと赴くとき、外に出て道を歩きながらふと洗面所の蛇口をちゃんと閉めたか不安になる。可能な限り記憶を振り絞ってその場面を思い出そうとするのだがどうしても思い出せない。思い出せないというよりは思い出したその場面が今朝なのか昨日なのか或いは夢の中なのか判然としない状態で、結局いつも駆け足で家へと戻り、靴のまま家の中に上がって洗面所の蛇口が閉められているか確認をする。蛇口はいつも当然のように固く閉められていた。水の一滴さえも零れ落ちてはいない。私は胸を撫で下ろし、自分の心配性を嘲笑う余裕すら出来上てまた玄関へと戻っていく。しかし、背後の洗面所から遠ざかっていくにつれてたった今確認したことが酷く曖昧になり始める。「本当に蛇口から水は流れていなかっただろうか?」自分でも馬鹿らしいとは解りつつも顔から若干血の気が引いている私は再度洗面所に戻って蛇口を確認してしまう。やはり蛇口はちゃんと閉まっている。幾度となくそんなことを繰り返しているうちに時間は恐ろしく浪費され、仕事場へと到着するのはいつも勤務開始時刻寸前だった。 しかし、ここ数か月間というもの症状は尚の事重く悪化していた。私は実際に蛇口を目の前にしながら「これは本当に水が出ていないのだろうか?本当は出ているのに目に見えていないのではないだろうか?」と疑っていた。すると手を伸ばして水が出ていないことを確認しなければならなくなり、終いにはその手の触感に対しても懐疑を抱く始末だった。 そうした現実に対する終わりの無い懐疑の症状は殊に蛇口の確認だけに限ったことではなく、生活のあらゆることに付き纏っていた。次第に私は疲れ切ってしまった。何をするのも憂鬱で億劫になっていった。自然と身体を動かさずにぼんやりすることが多くなり、妄想に費やす時間が増え始めた。すると妄想は生々しく現実味を帯びていき、反対に現実は獏として現実感を失っていった。そうして妄想と現実の境い目は酷く曖昧になり、現実はまた更に曖昧になっていった。 そんな出口の見えない沈鬱とした状況から半ば避難するように私は一日の内三回も四回も浴室へと赴いた。風呂湯の疑いようのない熱さ温もりは私に失われている現実感の手軽な代替品だった。浴室の白い壁や天井はまるで現実を感じさせるものではなかったが、首から下が湯船に優しく現実を保証されているので、私は安心してその白い虚空に想念の気球を飛ばすことが出来た。それは私にとって数少ない安らぎの時間であり、結局はそれがまた更に現実感を失わせる結果に繋がると理解していてもやめることは出来なかった。 掃除も稀にしか為されず、私の生まれるずっと以前からそこに存在している浴室の白い壁は、白い壁とは言ったものの半ば黄ばんでいて、至る所で亀裂が走っていたり表面が剥がれ落ちていたりしていた。黒かびの星座も彼方此方に点々と煌いていた。そんな古い浴室の壁の上を梅雨の時期から夏にかけてはよく蛞蝓が這い回っていた。蛞蝓は梅雨の初めの頃は注意して見ないと壁の黴やしみと見間違える程小さかったが、夏の終わる頃には皆でっぷりと太って禍々しいまでの存在感を発揮していた。蛞蝓を見つける度に私は素手で捕まえて窓から逃がした。突然、壁から引き剥がされた蛞蝓は最初手の平の中で小さく委縮しているのだが、少しずつ顔の上から細い棒状の突起眼が二本伸びてきて、やがてそれは触覚のように左右ばらばら動きながら頻りに周囲を確認し始める。それが落ち着くと今度は手の平を我が物顔で這い回り、蛞蝓はその柔らかい口で一心不乱に手の皮膚の表面を齧り始める。私の手の平を白い壁の続きだと勘違いして食べている、その滑稽で間が抜けた様子と無邪気な食欲の感触は意外にも不快ではなかった。ただそんな蛞蝓を手放した後に残る粘液の感触は堪らなく不快だった。お湯と石鹸でいくら洗ってもそのぬるぬるとした粘液はしつこく手の表面に残り続けた。それが嫌で私は次第に蛞蝓を壁の上に見付けても放って置くようになった。壁の管理人が消えて蛞蝓たちは縦横無尽に壁の上を這い回るようになり、私は温かい湯船に浸かりながらぼんやりとそんな彼らの様子を眺めるようになった。蛞蝓はいつも酷くのんびりと移動してたが、床付近の壁に居たはずの蛞蝓がふとすると天井付近に張り付いていることがあった。その意外な速さに驚いて私は蛞蝓の動きを目で追い始めるのだが、いつも途中でその姿は意識から消えて、蛞蝓は壁の思いもしない位置からふと突然に現れた。その度に今目の前にいるこの蛞蝓が白い壁の亀裂を通って無意識の世界から湧き出して来たかのような不思議な感覚を私は覚えた。 ふと気が付くと、女はこちらの方に振り返っていた。女はそのまま真っ直ぐにこちらへと歩いて来ているようであったが黒いズボンも黒い靴も殆ど動いておらず実際にその姿が近付いているという実感は少しも持つことが出来なかった。まるで女そのものは少しも動いていなくて周囲の風景がその背後へと退いているような、丁度それは海岸の浅瀬に沈んでいる貝殻や流木の朧な姿形が沖合いへと潮が引いていくのに従って段々と明らかになっていくという感じだったが、やがてはっきりと鮮明になったのは先程見掛けた枯葉色の地味なチェック柄のベストや皺一つない白のワイシャツ、黒いスーツのズボンといった身に付けている服装ばかりであって、女そのものの身体は一向にはっきりとせず、その顔に関しても黒縁の眼鏡ばかりが目立つばかりで顔の造りや表情は曖昧で判然としなかった。まるでそれは服や眼鏡だけが絶妙な均衡を保って虚空に浮いているかのようで、そよ風か何かの些細な振動によって今にもばらばらと崩れ去りそうであった。 それから間もなくして透明なその幽霊は私の傍らにある灰皿の向こう側へと戻って来た。灰皿の上に白い手がぼんやりと浮かぶ。その指と指の間からは白い灰の塊が絶妙な均衡を保って虚空へと細長く伸びていた。その灰の塊を見た瞬間、私の中で不安な気持ちが大きく揺れて、現実そのものを確かめるように私は女の顔を凝視せずにはいられなくなった。私からは横を向いているその女の顔は恐ろしく白い色をしていた。しかし、それは人間の肌の自然な白さでは���く人工の観念的な白さであった。更に良く見るとその白い仮面は所々深い皺によって裂けその周辺から粉が吹いていて、それが造られた仮面であることを自ら強調していた。その裂け目や空いた穴から覗く生の地肌を見たとき私の心はようやく落ち着きかけた。しかし、ふと女がこちらを向いて俯き、今まで眼鏡の陰に隠れていたその瞳が露わになった瞬間、私の心は再び大きく揺れた。その透明な眼鏡の双眼レンズの奥には血管の赤い亀裂が幾筋も走っている異様に白く生々しい眼球とその眼球の上辺から今にも飛び出しそうに偏っている黒い瞳が二つぼんやりと浮かんでいた。それがルドンの気球と結び付くよりも早く、女の手が白い残像を描いて素早く動き、その指と指の間から灰の塊が崩れ落ちた。私は雪片のように舞い散る灰の幾枚かを視線で追いながら、自分自身がばらばらに崩れていく音を聞いていた。
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なぜか香港
旅慣れない若造ゆえの旅程だと今思う。 北京から西寧、また北京。 そして中国東北部から、また北京。 そして一気に香港。 なんか無駄なルートが多いような気がしないでもない♪ なんでこんな重複移動、遠距離移動のルートにしたのか? 最初の北京~西寧を、上海~西寧にしても良かったと思ったり。 最後の香港も、きっと香港にどうしても行きたかったんだろうな当時。。。 と思うようなルート設定だ♪ まぁ、記憶に無いけど、香港OUTが安かった?ということもあるかも。 まぁ、それも含めての若い頃の経験ですなぁ。
9月2日(水) 28日目
「香港は暑い。右も左もわからない。みんな日本人の顔してる。なんじゃこりゃ?」 香港の第一印象を日記にそう書いている。 コンパクトだけど大都会。 共産国ではなく西側自由国家。 僕の服装が光昭村で「香港人みたい」と言われたのも仕方ないことかもしれない。 朝、目覚めがいい♪ シャワーを浴びて街に出る。昨夜から泊まっているのは香港島にある華隆飯店という中の下レベルのホテルで1泊285香港ドル(約5,700円)。場所は対岸に九龍を臨む、 湾仔あたりだったと記憶している。 外は行き交う人の群れ、めまいを起こしそうだが「じきに慣れるだろう」と日記にある。「天気は不安定、今の自分の心境のようだ」とも書いてある。 日系の三和銀行(懐かしい)の支店で両替。違う国に来て通貨が変われば、その国の物価とも併せ、自分の金銭感覚を創りだすのはちょっと大変。対応してくれたお姉さんがニコニコしていて、気持ちが明るくなる。銀行から出ると外は晴れ(^^♪ ホットドッグとコーヒーを朝飯代わりに食べて腹ごしらえも、口に合わない。仕方ない、慣れの問題。 並木道を抜け、ビクトリア・ピークへ行くトラムの駅へ。トラムは27度のすごい勾配をロープで引き上げられ頂上着(下の写真)。

香港を代表する風景。なるほど良い眺めだが、林立するビル街は当時の僕にはあまりピンと来なかった。 それよりも近くにあった林の小道のほうが興味深かった。人もいなく、驚くほど静か。植生も南洋な雰囲気で、日本とは随分違っているのが楽しく、適当な場所に座って友達に書いた絵葉書には、落ちていた実の汁を適当に絞ってアクセントにした。 誤ってアリの巣を踏みつけて壊すと、大きなアリが怒って僕の足を噛んだ。すまんすまん。 下山後、地下鉄で同じ香港島の銅鑼湾(Causeway Bay)駅へ。 香港の地下鉄駅はホームのタイルの色が全て駅ごとに異なり、そして一色に統一されている。クールな感じでもあり、この色で利用者は、どこ駅なのか?を認識できる仕組みらしく面白い。地下鉄車両もモダンなものだった。 駅からオーボンホー・ガーデンまで行こうとしたけれど、腹が痛くなり、トイレ探しに冷や汗をかいた。現地の言葉で「トイレ、どこですか?」は僕の旅において必須な旅の言葉。 結局、日系のデパート、そごうのトイレのお世話になった。ありがとう、そごう(^^♪ オーボンホー・ガーデン (下の写真、もしかしたら記憶違い)で、退屈な地獄絵図を眺め、今度は香港名物のトラムにも乗った。

そして、香港島と九龍を頻繁に行き来するスター・フェリーに乗船。 これはいい!!わずか7~8分のクルージングだけれど、潮風を受けて高層ビルが林立する対岸を目指す船移動は気分いい(^^♪ このスター・フェリーのことは、後年読んだ、沢木耕太郎の名著「深夜特急」にも以下のように書かれている。 「六十セントの豪華な航海。私は僅か7、8分に過ぎないこの乗船を勝手にそう名付けては、楽しんでいた」 九龍ではフェリー・ターミナルの目の前にある香港太空館というドーム型の宇宙科学館で、巨大なプラネタリウムを楽しんだ。外は蒸し暑く、中は冷房で快適。DREAM IS ALIVEというプログラム名で上映された映像には、美しい地球の朝焼けが巨大スクリーンに投影され感動的、そしてなぜかその瞬間、香港は自分にとって居心地のいい場所になった。 その後、九龍公園を散策。 夕飯は、星(すばる)という名の和食屋。この旅で初めての日本食屋で僕は牛丼を食べた。「味はイマイチだったけれど、サッポロビールにタクアン、味噌汁サイコー」と書いてある。店内には日本の新聞もあり、インターネットなど無かった当時、まっさきにスポーツ欄を開き、我が愛する近鉄バファローズが最下位であることに凹んだ♪ ちなみ1987年のパリーグの結果はこちらで、優勝はぶっちぎりで西武、2位は阪急だった。

↑九龍公園 星(すばる)を出て、夜の九龍をブラブラと歩き、星(スター)・フェリーで香港島へ戻る。 灯りのともった高層ビル群を眺めながら潮風に吹かれる。何とも心地よい。 井上陽水の「なぜか上海」の歌詞を変えて歌いながら、僕は船に揺られた。 「海の向こうは 香港~」
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詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら。」

詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら。」
1.「四つ葉の詩」 2.「冷笑」 3.「吐息」 4.「スカイブルーは知っている」 5.「絃」 6.「フォトジェニー」 7.「田舎者のオキテ」 8.「無音」 9.「英雄の中の英雄」 10.「凛」 11.「自慢話」 12.「18」 13.「鬱」 14.「瞿麦(Cool-Baku)」 15.「♡♡♡」 16.「★(Black Star)」 17.「Boot Schwarzenegger」 18.「#シュウカツ」
四つ葉の詩
いつか、 私たちが伝説になる日が来るんだね、 なんて、 君は健気に言っている。
そのいつかが、 本当のいつかになるかもわからないのに、 そのいつかを感じさせないくらい、 君は健気に笑っている。
四つ葉のクローバーを夢中で捜した夏を憶えているかい?
君の「健気」というアイコンは、 四つ葉のクローバーから産み出されたものなのだ。
雨上がりの河川敷、 膝を泥まみれにして、 君はひたすら四つ葉のクローバーを捜していた。
見つけたときの笑顔、 よそ行きの洋服は見る影もなくなっていたけれど、 それを感じさせないくらい、 君は健気に佇んでいた。
今年もきっと、 君は何処かで健気に微笑んでいるのだろう。
冷笑
「わたしはあなたのことが嫌いよ!」
隣のあの子がそう言ったとき、 俺は友達と世間話をしていて、 その声に耳を傾けてはいなかった。
友達が彼女の声に気付いて、 こちらに冷笑的な視線を送る。
俺にとって、 彼女はどうでもいい存在だった。
「わたしはあなたのことが嫌いよ!」
隣のあの子がもう一度口を開いたとき、 俺は友達の右腕を力一杯に握っていて、 既に教室を駆け出そうとしていた。
友達は彼女をクッと睨みつけて、 こちらに向かってこないように仕向ける。
俺にとって、 彼女はどうでもいい存在だった。
–––– 数日後、隣のあの子は転校していった。 「好きだよ」という置き手紙を俺の机の中に残して。
吐息
その寒さを紛らわすように、 ぷはーって、 お互いに息を吹きかけて、 ぎゅっと、 強い力で抱きしめてみたら、 どうにか、 この夜を越えられるような気がした。
それは、 とてもとても寒い夜のことだった。
この街は今月五十回目の停電で、 電気が通っていない間は、 街がフリーズしたかの如く、 静かに凍りついていて、 僕らは暗闇の中で、 ジャックオランタンを頼りに、 互いを抱きしめるしかなかった。
それは、 とてもとても寒い夜のことだった。
あの国王は僕らのことは見向きもせず、 きっと美味しいものばかり食べているのだろう、 君はそう冷たく言うけれど、 僕は「違うよ」と再び息を吹きかけた。
スカイブルーは知っている
もしも、 悲しみという感情を この絵で繕えるとしたら…… 僕は一枚の絵を描くだろう。 大きく、遥かな絵を。
人は誰もが芸術家だ。
愛も、夢も、明日も。 この絵にはすべてが入っている。
もしも、 その絵が不満だとしても オリーブオイルを一滴垂らしてしまえば…… ほら、元通り。
そんなわけないと思う君は、 いちど理想に浸ってみればいい。
青空のキャンバスに、 あしたの自分を描いてみればいい。
どこでもいいじゃない。
芸術ってのは、創り出す勇気から生まれるものなのだから。
絃
ソーシャルネットワークの海に、 今日もわたしは言葉を投げ込みます。 思い思いの声を、 言葉として詰め込むのです。 愛とは、 そういう儚さから生まれてくるものですから。
私の人生は言葉と共にあります。 生まれてきて、 言葉を忘れたことは一度もありません。 話せるようになってから、 常に社交的な人であり続けようとしました。
しかし、どんなものにも限界はあります。 私の糸は、完全に千切れてしまったのです。 –––– それはふとした瞬間でした。 嗚咽して、泣き喚く。 暗黒の日々が始まりました。 人はいなくなり、孤独に這い回る。 私に希望なんてありませんでした。 そんな状態でも、 言葉だけは手放せませんでした。 本は手放せても、 言葉だけは手放せませんでした。
フォトジェニー
突然の宣告。 –––– 余命一ヶ月。 僕には「一瞬一瞬を大切に生きろ」という医師からの“最後の使命”が与えられた。
病院からの帰り道、僕はフィルムカメラを購入した。 五千円と八パーセントの消費税。 懇意にさせてもらっていた店主のもののお下がり。 これが僕の希望だった。
それから…… 僕は一心不乱にあらゆる景色を収め続けた。 美しいものも、汚いものも。 近すぎるタイムリミットに翻弄されながら。 僕の病状は刻々と悪化していった。 二十日も経たぬうちに、その足で歩くことさえも身体は拒絶し始めた。
それでも…… 写真だけは止められなかった。 髪は抜け落ち、少し動くだけで全身に激痛が走る。 逃れられぬ宿命と闘いながらも、僕は“希望”に全精力を注ぎ続けた。 生きろ、生きろ、あともう少しだけ生きさせてくれ…… 僕はもう来ないかもしれない明日にすべてを託す。 きっと大丈夫。 –––– 翼はまだ錆びついてなんかない。
田舎者のオキテ
ある朝、僕は電車に乗った。
どんどん人は増えていき、 車窓から見える景色には見たこともないビルが立ち並んでいる。
人混みは空虚だ。
電車に乗っているうちに、 そんな気持ちに駆られてしまうことがよくある。
無表情でスマフォに向かっている君! 僕は今、君に話をしてるんだ。
「何も知らねえくせに、俺に口出しするんじゃねえよ」
ヒップホップに夢中の男はそう言って僕を睨みつける。
たしかに、そうだ。 僕は何も知らない。 何も知らないから、君に質問する。
「僕はどこへ行けばいいんだい?」
僕がこう言うと、男はそれを無視してまた自分の世界に浸り混んでしまった。 田舎者に頼れる者は、底なしの勇気と、根拠のない知恵だけ。 そのことを身を以て感じた瞬間だった。
無音
電車に乗ってるとさ、 やけに汚いビートが響いてくんだ。 切れたり、いきなり大きくなったり。 わけわかんねえよな。 「うるさい」っていう人もいねえ。 俺も結局は勇気がなくって、 なんも言えなかった。 あいつは何がしたいんだろう? 自分の耳を痛めつけて、 人の才能を自分のモノだと思い込んで、 満足げに座っている。 満面の笑みを浮かべている。 酔いつぶれて、 昨日も飲んだから未だ二日酔いで、 まるでトランスしたかのごとく、 あいつの耳から漏れるビートを見つめている。 イヤフォンの線、切れてるぜ? ひとりの男がつぶやくが、ヤツは音楽に夢中で気付かない。 俺は目的の駅に着くと、 何も言えない自分が恥ずかしくなって、 さっさと電車を飛び出しちまった。 情けない話だよな。 ほぼほぼ言い出しっぺみたいなもんなのに、 誰にも聞こえない舌打ちしか出来ない。 こんな部屋でしか本音さえも言えないんだぜ? ……あいつの方が俺なんかよりよっぽど立派かもな。
英雄の中の英雄
ヒーローたちの闘いが終わると、 寂しげな音楽に合わせてスタッフロールが流れる。 そこにいつも表示されていたこの文字。 ひらがなだから、すぐに覚えてしまう。 子どもでも、大人でも。 いのくままさおと同じだ。 キャメラマンのいのくままさおさん。 この御方、つい最近まで現役だった。 ずーっとヒーローたちを撮り続けてきた。 支え続けてきた。 ヒーローの中のヒーローって、こういう人なのかもしれない。 昭和から平成へ、平成から令和へ。 ただの少年でも、ヒーローになれるんだ。 勇気を、希望を、そして何より…… 夢を子どもたちに与え続けてきた。 そして、いつしかヒーローはみんなのものになった。 子どもから大人まで、 みんながヒーローを愛している。 ヒーローに触れている。 かつては「ヒーローが好き」ということ自体が恥ずかしかった。 「こんな歳で?」という声が怖かった。 でも、今なら言える。 ヒーローが好きだ、と。 今だから叫べる。 僕はヒーローと共に飛びたい。–––– もっと高く、もっと遠く。 明日も、明後日も。
凛
わたしに「凛」なんて求めないでください。 わたしはわたしのままで居たいのです。 わたしらしく居たいのです。 わたしに嘘を吐きたくないのです。 わたしがわたしで生きられる世の中を作ってください。 わたしがわたしで居ようとするからといって罵倒するのは止めてください。 わたしはそんなに異様ですか? わたしのことがそんなに嫌いですか?? わたしたちの存在がそんなに憎いですか??? わたしの質問に答えてください。 わたしはあなたのことを「許さない」と言っているわけではありません。 わたしはあなたのことを知りたいと思っているのです。 わたしに「らしく」なんて求めないでください。 わたしにはわたしのわたしらしさがあるのです。 わたしがセーラー服を着ていたら。 わたしを罵倒するんでしょうね、あなたは。 わたしはわたしらしくいたいだけなのに。 わたしなんてその程度の人間ですよ、所詮。 わたしが嫌いなら消してしま��ても構わないんですよ。 わたしをサンドバッグにしてもらっても全然構わないんです。 わたしのことがそんなに嫌いなら、いっそのこと殺してください。 わたしが殺されたら、それで満足なんでしょう? わたしがいなくなっても困らないんでしょう?? わたしって、あなたにとってはその程度の存在だったんですね。
–––– こんな奴、とっとと消えてしまえばいいのに。
自慢話
ねえねえ、こんなことあったんだよ! あの人が来てね、こんな話をしてくれたんだよ!! うちの専攻、これがすごいだよ!!!
うっせえんだよ、そんなの調べりゃわかるんだよ。 黙れよ、ほんとは未読無視してぇんだよ。
あんたのことが世界で一番嫌いなんだ。 ぶっとばしてえんだよ。 殺してえんだよ。 スナイパーライフルがあったら、きっと即狙ってる。 その程度のやつにアタシの人生狂わされてた。
なにがサイバーパンクだって? 貴様のパンクはパンクって言わねえんだ。 そんな腰抜けに何が出来るって言うんだ。 あんっ? 言えるもんなら言ってみろよ。 その雄弁で間抜けな口でさあ。 自慢話してる暇があったら動けよ。
その足で、その口で、全身で表現してみろよ。 ふふっ、ナメないでくれる??
ぶっとばしてやるから。 次逢うとき、覚えてろ。
18
去年の夏 空(くう)が死んだ それから すべては変わった
平穏な日常 ささやかな幸せ すべては失われていった
祖母は変わってしまった 認知症が刻々と進む これまでの常識も 忘れてしまい 家族は途方に暮れていた
親友を失い 我が家へ迷いこんだ祖母を ちっぽけな意志で除け者にした そんな俺だった
「ごめんね、迷惑をかけて」 その声があまりに辛かった だけど俺は限界だった 涙に暮れたあの夏
- あれから一年が経って 少しずつ日常が還り 誤魔化しながらも 普通に生きられる 倖せを噛みしめるようになった
電話が鳴る度 嗚咽した去年の夏 着信音さえトラウマになって 静かに切られた電話線
ずっと続くのか…… 死ぬまで続くのか…… 時間が母を悩ませる
「ごめんね、迷惑をかけて」 今はみんなに謝りたくて でもプライドが許さない 情けないほど弱い俺だけど
自分を見繕うことだけは 他人より少しだけ自信がある 自慢にならない事を自慢と 言い換えて意思を押し付けてた 気付かぬうちに
「ごめんね、迷惑をかけて」 今はあなたに謝りたくて 言い訳なんかもうしない あなたに出逢えてよかった
人生という荒波の中 ヒトは後悔をいつも背負っている 俺は永遠に罪を背負って生きる 過去という十字架を
涙に暮れたあの夏から 俺は変わってしまった
鬱
ひゅーん、ばーん。 今年も花火大会が始まる。 ユーラシア大陸に届けとばかりに、 何万発といった火花が夜空に散っていく。 この季節になると、僕は憂鬱になる。 今年も彼女は出来なかった、 来年もきっと彼女は出来ないだろう、と。 夜に耳栓をしたくなる。 屋台も、花火も、全部なくなってしまえばいいのに。 フランクフルトも、わたあめも、全部いらない。 豆粒のような人たちが、今年も無邪気に笑っている。
ひゅーん、ばーん。 今年も花火大会が始まる。 豆粒のような人々は現実となり、 僕の目の前で躍動している。 なんと、僕に彼女が出来た。 –––– 言うまでもなく、人生最初の彼女だ。 彼女はこの世で最も美しいとさえ思えた。 浴衣も、お洋服も、よく似合う。 僕にとってのミューズだった。 いつか出来ると願いつつも、もう半分諦めていた恋。 叶ってしまった、この歳で。 はじめての青春。 二十歳の夏、僕は君に恋をした。 「諦めなければ夢は叶う」って、君が教えてくれたんだ。
瞿麦(Cool-Baku)
それは、可愛げのあるもの。 それは、使い勝手の良いもの。 それは、一生を共にできるひと。
街は変わりました。 この数十年で。 ビルは立ち、自然が失われる。 まるで、歴史を塗り替えていくかのように。 発展と破壊はいつも背中合わせです。 擦り合わせても、妥協しても、結局は離れられないのです。 いけません、地球が泣いています。 そのまま続けるのです、国家元首は叫んでいます。 僕らが声を挙げられるツールはあるのでしょうか? いえ、ありません。 –––– 正確にはひとつだけあります。しかし、声を挙げるにはリスクが大きすぎるのです。 小さなパンと、薄いスープが僕らの主食です。 不幸自慢をするわけではありませんが、これだけしか許されません。 お金はあります。 でも、お金があることを知られると、すべてを奪われてしまうのです。 今が満足、今で満足。 果てしなく自分を言い聞かせてみましょう。 すると、あら不思議。 まるで満足したような気になるではありませんか。 これが一家円満の秘訣です。 余計なことなんてしなくてもいいのです。 さあ、一緒に幸せになりましょうよ。
♡♡♡
「カラータイマーみたいなヤツが、実際にあったらいいのにな」 僕らはついつい無理をしすぎて、 余裕という名前の宝をどこかへ置き忘れてしまう。 そして、 いつしか趣味の愉しみ方さえも忘却の彼方へ……
「そんなのつまらないと思わないかい?」
誰かの言葉が響こうとも、 それは大して実績のない輩だからと、 まるで何も言っていないかのように無視をする。
青空は曇り空へと変貌し、 無意識のうちに、 自らの両足には重くて堅い枷が縛り付けられていた。
もはや、 僕らに何かを叫ぶ力なんてない。
そこにあるのは、 “堕落した自尊心”のみ。
「僕らは一体何処へいく?」と空へ紙ヒコーキを飛ばしても、 返ってきたのは空虚なやまびこだけだった。
★(Black Star)
暗黒街から抜け出して、 この翼で宙を舞い、 愛に向かってまっしぐら、 俺は俺のままでいい、 たまにはワガママもいいじゃない、 いっそ、 嫌いなあいつをぶっ飛ばしてもいいじゃない、 この歌で、 この音楽で、 このステージで、 僕にはスーパーヒーローになんてなれない、 だったら、 ダークヒーローになればいいじゃない、 黒い星になって、 ヒーローと背中合わせで、 互いの意志を叫んでみよう。
Boot Schwarzenegger
似ても似つかぬコスプレをして、 面白くもないモノマネで聴衆を笑わせて、 同調圧力でウケているのにも気づかず、 まるで銀幕スターになったかのように、 満面の笑みを浮かべている。
週刊誌は絶えずカメラという名の銃を向け、 彼も常にそのカメラをロックオンし、 無言の戦争が今日も始まる。
ニセモノなのに、 ホンモノのように振る舞う君。
あれ、 ホンモノって、 どっちなんだろう?
わかりきっているくせに、 ワイドショーはヒステリックに嗚咽する。
#シュウカツ
埃だらけのアルバム 捲ってみれば あなたと過ごした日々 眩しく光る
純情な日々 みなぎる若さは 今の僕らに 無縁だけど……
何度も喧嘩して 何度も微笑んだ日々 青春の終わりが見えてくると 当たり前が輝きだした
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ いつまでも泣いてちゃ 君らしくない いつかまた逢えるから
いとしさ せつなさ ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
青春のときめき 思い出してみれば あなたと暮らした日々 まるで走馬灯
若さに溺れ 何も言い出せず 堂々巡り続けた日々 それも蒼さか?
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ クヨクヨすんなよ 君らしくない 必ずまた逢えるから 希望 絶望 ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
埃を被った小説の 栞はあの日のまま さらば思い出よ 愛しき日々よ さよなら
君と暮らしたこの家 出逢った日に もう一度戻れたとしても やり直したいとは思わない 君が好きだよ この胸に飛び込め 必ず幸せにするから!
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ 人生の終わりに 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ
いとしさ せつなさ ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
一緒にいてくれて 本当にありがとう
あとがき「詩は究極のサブカルチャー」
泣いて、笑って、怒って。 いっぱいあったよ、この一ヶ月。 まあ、締めくくりというわけではないんですけど。 とても楽しんで書きました。
最初に書いた作品は「♡♡♡」でした。 3日前の夜。 それまで書いてたのを一気にひっくり返して。 ここまで短期集中で書いた作品も珍しい気がします。 わたしは筆があまり速くので……
個人的に、「詩」って究極のサブカルチャーだと想うんですよね。 決してメインにはならないけれど、だからといっていらないわけでもない。 そこに魅力を感じて、ずーっと書き続けてきたわけですが。
これからも一生詩という分野とはお付き合いを続けていこうと思っています。 新しい場所で、新しい仲間と出会って、よりその想いが強くなりました。 わたしの創作活動は、詩から始まった。 原点なんです。詩が。
大好きな詩をみんなに届ける。 これからも、いつまでも。
最後まで読んでくれてありがとう。書いてて、ほんとに楽しかった☺︎
【Credits】 詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら」 企画・文:坂岡 優 Concept by YUU_PSYCHEDELIC Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
この作品を読んだ人々にささやかな倖せが訪れますように。 もしこの作品が気に入ったら、よければ広めてくださいね。
いつもありがとう。
坂岡 優
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この前のカルスト・キャンプ・サイト。 先週末はカルスト・キャンプ・サイトで「星空浴と宙散歩」を開催しました。手頃な金額で、星空案内人による星空の説明と、プロカメラマンによる星空フォト、そしてドリンク飲み放題というとってもお得なイベントです。 で、キャンプサイトだったので一泊させてもらいました。テントを立てたのはブッシュクラフトゾーン。森のなかです。いつもビーチが多いので新鮮でした。 ホントに泊まっただけな感じでしたが、良いリフレッシュになりました。また来たいし、ここでのイベントのときは早めに入って、用意して待機するようにしようかな? ホントにキャンプ、楽しいですよ。 特にこのキャンプサイトは、ソロでもファミリーでも、グループでも、ソフトにもハードにもどんなカタチでも楽しめますのでオススメです。 島宙記念寫眞やロケーションフォトなど、いまはまだまだ三密を守り、マスクを着用したままや、できるだけ距離を取っての撮影となることをご理解ください。 撮影のご予約は随時受付中です。希望日前日から半年先まで承っています。島宙記念寫眞に関しては、空いていれば当日14時まで予約可能です。 予約・問い合わせはDM、またはプロフィール下にあるホームページのリンクからどうぞ。 Location : MOTOBU OKINAWA JAPAN #tokyocameraclub #natgeoyourshot #natgeospace #team_jp_ #lovers_nippon #art_of_japan_ #daily_photo_jpn #bestnatureshot #japantravelphoto #visitokinawa #okinawatrip #startrails #starphotography #starscape #star_hunter_jp #沖縄 #星空フォト #島宙記念寫眞 #星景写真 #満天の星 #天の川 #キッズフォト #ファミリーフォト #カップルフォト #沖縄旅行 #女子旅 #タビジョ #絆を撮りたい #沖縄の旅に物語を #KARST CAMP SITE https://www.instagram.com/p/CCHSqTtjHDE/?igshid=1h6g58wsmjmv7
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スパイク・リー監督・主演『ドゥ・ザ・ライト・シング』 (その1:物語の現場はどうなっていたか) 原題:Do The Right Thing 制作:アメリカ. 1989年. スパイク・リー監督自身が主役のムーキーを演じて1989年に制作した本作は、ほぼ完全に31年後の2020年5月25日にミネソタ州ミネアポリスで起きた、「黒人男性拘束死事件」を再現した内容になっている。31年前の映画が現在を再現するのは通常ではありえない話だが、ここに本作の重要なポイントがある。
映画はパブリック・エネミーの”Fight The Power"をBGMに、ティナ役のロージー・ペレスがボクシング・グローブをつけて踊りまくるシーンからはじまる。"Fight The Power"は本作のために作られたヒップホップ曲で、文字通り権力(The power)と闘おうとアジるものだ。 また、歌詞の冒頭にある「Another summer」は、人種問題に関係する事件がしばしば夏に起こることに関連づけたものだ。1) BGMが終わり本編がはじまるとすぐに、街の「ウィ・ラブ・ラジオ」DJダディが、「Hot!」「最高気温は37℃」「溶けるヘアスプレーは止めておけ」などと繰り返すのも、人種問題の多くが真夏に繰り返されてきたからだろう。開始からの数分に込められたこうしたメッセージは、これから同種の問題が起こることを強く示唆するものだ。 映画の進行を詳細に記録した理由 本稿を書くにあたり、はじめは物語を簡略に記述しようとした。しかし、書き進めるうちに、スパイク・リー監督がこの映画に込めたメッセージを理解するには、作品に描かれた現場をできるだけ詳しく知る必要があると思うようになった。 なぜなら、この映画の主人公は街の住民たちであり、その地域で暴動が起き一人の黒人が死に至る理由を理解するには、だれか一人の心情や行動を知るだけでは無理があると思ったからだ。本作に主人公がいないわけではない。スパイク・リー監督自身が演じるピザ配達員ムーキーが中心人物として重要な役回りを果たしている。殺害されるのは黒人ラジオ・ラヒームだ。彼を殺害したのは白人警官たちである。 しかし、暴動による人の死は、手の込んだ偽装殺人ではない。殺人の意図を持った犯人が暴動を偽装して目的人物を殺すのとは異なり、環境の変化が起点となって被害者が出る。その意味ではカミュの『異邦人』の世界に近い。主人公ムルソーは「太陽が眩しかったから」という理由でアラビア人を射殺した。 だが、『ドゥ・ザ・ライト・シング』に『異邦人』のような不条理さはない。黒人が死に至る背景には合理的な理由がある。ただし、その背景は文化や歴史のように深くて複雑だ。この不合理ではないが複雑な歴史的背景を少しでも理解するには、事件の発生にかかわる「環境の変化」、つまり刻々と変化する事件の現場を知る必要があると思った。 以上が、本稿で長々と映画の進行に沿って概要を書き留めた理由である。できるだけ現場を書き留めようとしたが、割愛した部分もある。それでも、かなり長い記述になった。 もし、すでに『ドゥ・ザ・ライト・シング』をご覧になった方は、以下の記述は読み飛ばしていただき「その2:事件の背景と本作に込めらたメッセージ」をご参照いただければ幸いである。 なお、文中で引用した会話の部分は括弧に入れ、原則として太字で示した。 はじまりを告げる真夏の微妙な平衡感覚 物語は黒人、イタリアン、ヒスパニック、コリアンなどが暮らす1989年当時のブルックリン、通称ベッドスタイを舞台に描かれる。 早朝のベッドスタイの一角に、白のリンカーン・コンチネンタルらしいクルマが横付けになる。サル親子が開店準備にやってきたのだ。店の前はゴミだらけだ。長男のピノが空き缶を蹴り上げる。彼らは街の外の人々だと思わせる。現在は治安も良くなったようだが、映画は当時のベッドスタイを、クーラーの修理にもパトカーの警備が必要な場所として描いている。背景に映る建物の外壁には "BED-STUY DO-OR-DIE" の壁画が見える。文字通り、当時のベッドスタイは生きる覚悟がいる場所だった。 映画の主人公はこの場所で生活するさまざまな人々だが、主にピザ屋「Sal's Famous Pizzeria」を経営するイタリア系アメリカ人のサルと息子二人、店の配達員ムーキー、大型ラジカセで”Fight The Power"を響かせながら歩くラジオ・ラヒーム、ムーキーの友人でサルの店に通い詰めのバギン・アウト、どもりの路上写真売りスマイリー、市長というあだ名の酔っ払いダー・メイヤー らを中心に描かれる。 住民たちは「クソ暑い!」「ゴロツキ!」「平和を!」「酔っ払いじいさん!」「愛だって?」「ママなんか、くたばれ!」などと口汚い言葉を飛ばし合う。言い合いは日常茶飯事だ。ピザ屋ではピノとビト、ムーキーが口論をはじめる。長男のピノは、ムーキーと仲がいい弟のビトが気に食わない。ビトをムーキーの前でたしなめる。 「お前は、ビト・フランゴーネだ。ビト・モハメッドじゃねえ」 「モハメッドはよしてくれ」 「悪いか」 「オレはカゲキ派じゃねえ」 白人警官が乗ったパトカーがベッドスタイの街を巡回する。行き交う白人警官と黒人の目線が、互いの薄目に憎しみを込めて描かれる。目線で結ばれた映像がスローモーションで流れる。サングラスをした警官が「クソったれ」ともらす。イタリア系、アメリカ系、アフリカ系、そして韓国系それぞれのアメリカ人が互いを罵り合う日常。しかし、ときに警官は白人と黒人のケンカを仲裁し、新品のスニーカーを踏まれた黒人は、誤って踏んだ街の白人と、なんとか折り合いを付けて生きる様子も描かれている。 その微妙なバランスを象徴するのが、ラヒームの4本の指をつなぐ指輪だ。ラヒームは右手に ”LOVE”、左手に ”HATE"のナックルリングを嵌めている。ムーキーはピザの配達途中にラヒームの指輪を褒めたことでその意味を聞かされる。 「左拳の "HATE"、これが原因で人間は殺し合う。」 「右拳の "LOVE"、この5本の指が人の魂に触れる。」 続けてラヒームは、両方の拳はいつも戦い、最後は「愛の右手のKO勝ち!」と右手を振り上げる。そして、「ムーキー、おれはお前を愛している」と言って話を終える。ラヒームのTシャツには "BED-STUY DO-OR-DIE" の文字が見える。ラヒームは真夏の陽炎に揺れながらも炎上に耐えるベッドスタイの象徴のようだ。 平衡を揺さぶる生活の疲れ 街並みを背景に、DJダディがミュージシャンの名前を読み上げる。ブルックリン出身のラッパー、ダディ・ケイン、R&Bのルーサー・ヴァンドロス、戦後ブルックリンでも活躍したジャズピアニスト、セロニアス・モンク・・・読み上げられる名前の数は60を下らない。DJは「あんたたちのおかげで、我々は毎日の暮らしに耐えている」と語りかける。偉大なミュージシャンへのリスペクトが街の人々をクールダウンに誘う。 ピザ屋でサルが長男のピノに「おれは疲れた」と漏らすシーンがある。ピノは店を売り払って引っ越そう、黒人はイヤだ、ここは猿の惑星だ。友達が笑うんだと言う。 しかしサルは、おれはここで25年やってきた。なぜそんなに憎む、おれはビザを食べた子供らが大人になるのを見てきた。お前の友達は食わしてくれるか、家賃を払ってくれるか、本当の友達がお前を笑うか、この窓から子供たちが育っていくのを見てきた、俺はそれを誇りに思うと諭す。二人が語り合うピザ屋の通り向こうには、コリアン系アメリカ人夫婦が営む雑貨店が見える。 話が終わりかけたころ、ガラス窓の向こうから写真売りのスマイリーが、キング牧師とマルコムXの写真を買ってくれと言い寄ってくる。穏健な改革派だったキング牧師、暴力は時に改革につながるというマルコムX、その二人が手を取る写真が「正しいこと」の立ち位置の難しさを象徴している。 サルは、スマイリーに向かって「働け! 仕事を探せ、消えやがれ!」と罵るピノを制し、スマイリーに2ドルを渡しその場を取り持つ。開店直後にもサルは息子らの反感のなかで、掃除を申し出たメイヤーにお金を渡していた。店が破壊された翌朝にも、サルはムーキーに、投げつけるようにだが給料を渡す。サルはこの街で唯一、お金を提供する側の人物として描かれている。だが、登場人物の多くは無職だ。 出口のない「正しいこと」 この街の人々はみなピザ屋の常連客だ。バギンは日に三回もサルの店にやってくる。しかし、「月賦で支払うか?」とからかわれたバギンはサルと言い争いをはじめる。 「壁の写真に黒人がいない、白人だらけだ」 「黒人の写真なら自分の部屋に飾れ。オレの店にはイタリア系の写真を貼る」 「客は黒人だけだ。黒人から金を取っているくせに!」 こうして罵り合ったあげく、バギンは「こんな店、ボイコットだ!」と叫んで店を出る。このときはムーキーが「お前はイカレたのか? オレが迷惑だ。」とバギンに不快感を示す。ムーキーは「黒人でいろ」というバギンの声を背に店に戻るが、サルには「二度とバギンを店に入れるな」と言われる。ムーキーはいう。 「ここは自由の国だ」 「自由だと? 自由などない、ここはオレの店だ」 サルになじられたムーキーは諦め顔で配達に向かう。その道すがら、通りでメイヤーに呼び止められ「正しいことをしろ」と声を掛けられる。アパートの階段ではスマイリーに出会い、「給料もらったら、写真を買うよ」と約束する。ムーキーの正しさは自由の行使と抑圧に挟まれたままだ。 愛と憎しみはいつも同居して戦っているというラヒーム。黒人の写真がないことに腹を立て、サルの店のボイコットに動くバギン。キング牧師とマルコムXの写真をアピールするスマイリー、黒人でいろというバギン。正しいことをしろというメイヤー。働いた分の金は渡すが自由はないというサル。この街は猿の惑星だ、街を出ようというピノ。黒人ミュージシャンを敬愛するDJダディ。そして、働く気も乏しく、働き口があったとしても収入はわずかだ。 さまざまな事情と生活の疲れに覆われた真夏の黒人街・・・こうして、陽炎に揺れるベッドスタイの街に、事件への伏線が張られていく。ここまでが『ドゥ・ザ・ライト・シング』の前半である。 平衡点をさまよう人々の熱気 ボイコットを決意したバギンは街の仲間を誘う。しかし、「なんでだ、サルが何をした? あのウマいピザをか? 頭がイカレタか、ノーだ!」「わたしたち、あのピザで育ったの」と、誰も取り合おうとしない。ムーキーにも「バカなマネはよしな」と窘められる。妹のジェイドにも、「くだらない、別のことにエネルギーを使ったら! 街のためになることをやって」と言われる始末だ。バギンの不満もまた、出口を求めてさまよいはじめる。 一方で、サルの店ではムーキーが「お前は給料に見合った働きをしていない。このままじゃクビだ」とサルから罵声をあびせられる。妹のジェイドと店で食事をしようとしていた気持ちを挫かれたムーキーは、ジェイドに妙に親切なサルに下心を感じとる。ムーキーはジェイドを店から連れ出し忠告するが、すぐに反論に会う。 「二度と店にくるな、サルはお前とヤリたがっている」 「いらぬお世話よ、私は大人。家賃も払えない兄貴のくせに!」 「いいかげんに独り立ちして!」 言い争う二人の後ろの壁には、"TAWANA TOLD THE TRUTH(タワナは真実を語った)"の落書きがある。タワナ(タワナ・ブロウリー)は本作が制作される二年前、警官を含む6人の白人男性に輪姦されたと告発した黒人女性の名前だ。だが、その後陪審院は申し立ては虚偽だと結論づけた事件として知られている。 この落書きはムーキーの気持ちにも、サルの潔白を表すようにも見え、人々の平衡が崩れはじめたことを暗示するかのようだ。ここを乗り切れば陽は陰っていく。だが、こうしてベッドスタイの午後はさらに熱を帯びていく。 このあと、配達先のティナのアパートでじゃれ合う恋人のティナとムーキーの姿は、街と人々の熱気の行方を巧みに表現している。抱きたくてたまらないというムーキーに、ティナは「暑い日にセックスはイヤ! ここは37℃あるのよ」という。それでも服を脱がせるムーキー。だが、ムーキーは冷蔵庫から氷を取ると、裸のティナに氷を滑らせてティナの身体を冷やすのだ。ここにDJの「愛する二人に冷風を届けよう」の声とともに、スローな曲が被さる。愛こそが過剰な熱気を冷やすと思わせる描写だ。 ボイコットが街と人の平衡を破る 街には、サルが気に食わない者もいる。黒人の���真がないことに不満を漏らすバギンと、ラジオの音に文句を言われたラヒームの二人だ。 夜になり二人が出会う。「あいつは、ドン・コルレオーネ気取りだ。キザったタレ目のシルベスター・スタローン。ボイコットだ!」「賛成だね。その通りだ。兄弟!」と、バギンとラヒームは意気投合する。スマイリーが通りかかり「ま、ま、まま・・・マルコムX」とからむ。キング牧師ではなくマルコムXなのは、穏健が暴力へと転じたことの暗示だろう。こうして、まず三人が真夏の平衡点を超えていく。 サルの店は閉店時刻を迎え、給料が渡されようとしていた。そのとき、常連の若者たちが店を訪れる。サルはいったん閉めた店を、ピザ4切れまでだと客を通す。給料を手にアパートに帰り、ティナとのセックスを楽しみにしていたムーキーは落胆する。そこへ、ラジオで “Fight The Power" を鳴らしながらラヒーム、バギン、スマイリーの三人がやってくる。 「音を切れ!」 「写真を掛けろ!」 「ジャングル音楽を切れ!」 「バカヤロー!」 「閉店だ、出て行け!」 「くたばれ!」 「イタリア野郎!」 あらん限りの罵声が飛び交うなか、ついにサルが護身用のバッドを握り締める。ムーキーが叫ぶ。 「サル! バットはよせ!」 「黒のチンポ吸い! くたばれ!」 その瞬間、サルのバットがラジオ目掛けて振り下ろされる。熱気はついに平衡点を超えた。爆発だ。カウンター越しにラヒームがサルに襲いかかり、居合わせた者たちの乱闘が始まる。サルとラヒームは縺れ合ったまま通りに転がり出る。 警棒で首を絞められ窒息死するラヒーム 間も無くパトカーで駆けつけた警官たちが二人を分けに入る。バギンは手錠を掛けられ、パトカーに押し込まれる。一方では、三人の警官がラヒームを羽交い締めにしてサルから引き離す。だが、警官たちは背後からラヒームの首を警棒で絞め上げたたまま緩めようとしない。 「放せ! 死んじまう!」 「やりすぎだ!」 もがきながら警官の腕を振り解こうとするラヒームの左拳に、 "HATE" のナックルリングが光る。ラヒームの足は宙に浮いたままだ。悲鳴が上がる。 「ラヒーム! ノー!」 警察に首を吊るされたラヒームの動きが止まる。息絶えたラヒームの右手に "LOVE" のリングが見える。人々が口々に怒りの声を上げはじめる。 「殺人だ。あいつらまた、黒人を殺しやがった!」 「黒人の街で、黒人が殺された」 「黒人を皆殺しにする気か?」 「もうガマンできねえ」 「ポリ公ななんか、おっ死ね」 残骸とゴミが散乱するベッドスタイの夜の街から、ラジオ・ラヒームの巨体を乗せたパトカーが走り去る。 ピザ屋に投げられた憎しみのゴミ缶 警官が去った店の前で茫然と立ち尽くすムーキー、サル、ビト、ピノ。そこへ群衆が詰め寄る。抗議の声が上がる。ラヒームの死への怒りがサルらへと向けられたのだ。一触即発の状況だ。 「ここまでにして帰れ、後悔することになるぞ」 「サル父子に責任はない」 メイヤーが懸命にとりなすが収まらない。サルらに向けて人々が叫ぶ。 「また黒人を殺しやがった」 「お前らをぶち込んでやる」 「ラジオがいけないのか」 「それで殺されたのか?」 「"写真をかけろ"と言ったから?」 その喧騒のなかサルらの表情を見入りながら、もう限界だというように頭を抱えるムーキーの姿があった。両手で顔を覆い祈るような表情を見せたあと、ムーキーはゴミ缶に向かって歩き、ゆっくりとゴミ缶を手にする。両手にゴミ缶を抱えたムーキーが店に歩み寄る。そして、 「憎しみだ!」 の叫び声とともに、ムーキーは店の大窓目掛けてゴミ缶を投げつけた。 「ガシャーン!!」 崩れ落ちるガラス。この瞬間を境に、破壊、叫び、暴力、悲鳴へが爆発する。人々が店になだれ込み、椅子、テーブル、食材、店のすべてが破壊し尽くされ、レジからは金貨が盗まれる。「何てことしやがる」「オレの店に手を出すな!」とサルが叫ぶが、破壊行為は止まらない。 怒声と破壊音が飛び交う混乱のなか、おろおろとスマイリーが店に火を放つ。燃え上がるサルの店。壁に飾られた白人たちの写真フレームが割れ、写真が燃えていく。冷静だったはずの住民も拳を振り上げ、「燃やせ! 燃やせ!」と叫び声を上げる。 やがて、群衆の一部が次はお前らだと、サルの店の向かいにあるコリアン雑貨店に向かう。しかし、「俺、白人。違う、オレ黒人。みんなと同じだ」という店主の窮余の叫びが笑いを誘い難を逃れる。その様子を茫然とながめる、イタリア系のビト、ピノ、サル。 パトカーと消防車が駆けつける。警官が家に帰れというと、ムーキーは「ここが家だ!」と叫ぶ。警官に捕まりそうな群衆の一人が、「放せ、アラバマのバーミンガムじゃねえぞ」と抗議の声を上げる。消防の高圧放水を浴びた黒人の住民たちが、次々と吹き飛ばされる。 この情景は、かつて公民権運動の中心となったバーミングハムでの運動家と警官の衝突になぞらえたものだろう。2) このときも子どもや聴衆に向けて激しい放水が行われた。「やめて! やめて!」と叫ぶ住民をメイヤーが抱きしめる。そのそばには、道路に座り込むムーキーの姿があった。燃え盛る炎に 「Fight the power!(権力と戦おう)」とナレーションが被さる。微笑みを浮かべたスマイリーが、焼け残った壁に売り物のキング牧師とマルコムXの写真をピン留めする。 翌朝に訪れる「涼しい」日常 ベッドスタイの街に翌朝が訪れ、DJダディの ”愛の言葉” が流れる。 「こちらは、"ウィ・ラブ・ラジオ"局」 「しゃべってるオレは"愛のダディ"」 「君らは仲良く暮らして行き��くないのか?」 「まぎれもない真実だよ、ルース」 そして、ラジオから「今日も猛暑だ! 起きろ」の音声が流れる。ティナの部屋の同じベッドで目を覚ますムーキーに、「父親らしくして」とティナが文句をいう。別のアパートの一室ではメイヤーが「街は無事だったか」と尋ね、「私たちもね」と答える声がする。 給料をもらいにアパートを出たムーキーが、丸焼けになった店跡で力なくたたずむサルの元へと歩みを進める。 「何だ」 「給料を払ってくれ」 「クビだ」 「ラヒームが死んだんだぜ」 「知ってる。あの野郎がボイコットを叫び。お前は黙って見てた」 「ラヒームが殺されるのもね。店には保険が下りるさ」 「これは金の問題じゃない」 「オレがこの腕で作り上げた店だ!」 「給料は給料だろ? 払ってくれ」 週給の250ドルを要求するムーキーにサルは、罵りながら100ドル紙幣を丸めては500ドルを投げつける。2枚を投げつけて返すムーキー。だが、最後にムーキーは地面に落ちた200ドルを手に子どものいるアパートに帰って行く。 ラジオからニューヨーク市長の談話を伝えるDJの音声が流れる。昨晩の騒動に関するものだ。 「原因を調査し、同様の事件の発生防止に全力を注ぐ」 「市長の我々の市長(メイヤー)からビールをおごらせよう」 「選挙が近づいているよ。選挙名簿に早く登録を」 「暑さは当分続くよ。今日の言葉は"涼しさ"」 「"涼しさ"だよ」 「愛のダディが補償する真実だよ」 「では、我らの兄弟ラヒームにこの曲をーーー」 カメラが捉える風景は焼け落ちたサルの店から、通りを歩むムーキーの姿へ、そしてゴミが散乱したままの通りを横切る白人の夫人と紳士を捉え、遠景に"BED-STY DO-OR-DIE"と記された壁面を映し出す。 このあと、穏健な改革を目指したキング牧師と、暴力は時に改革のために必要だとするマルコムXの言葉が流れ、最後に「(本作を)無意味に警官に殺された6人の黒人の家族に捧げる」との字幕が映されて映画は終わる。その筆頭に掲げられたEleanor Bumpursの殺害事件について、Wikipediaには次のように書かれている。3)
1984年10月29日、ニューヨーク市警によるエレノア・バンパーズ銃撃事件が発生した。ニューヨーク市警は市の命令を受け、ブロンクスの公営住宅からの立ち退きを執行しようとしていた。バンパーズは高齢者であるうえに、障害のあるアフリカ系アメリカ人だった。警察の援助を要請する際、住宅局の職員は、バンパーズが感情的に乱れていたこと、沸騰した煮汁を投げると脅したこと、立ち退きに抵抗してナイフを使用していたことを警察に伝えた。バンパーズがドアを開けるのを拒否したことで、警察が押し入る格闘のなか、警官の一人が警官ンパーズに発砲した12ゲージのショットガン2発が致命傷になった。 この銃撃事件は、1980年代のニューヨークで人種的緊張を煽ったいくつかの黒人の死亡事件の一つで、障害者や感情的に不安定な人への対応のまずさにより、警察内部に変化をもたらした。バンパーズを撃ったスティーブン・サリバン巡査は、第二級過失致死罪で起訴されたが、最終的には無罪となった。バンパーズの家族は市を1000万ドルの損害賠償を求めて訴え、20万ドルで和解した。
他の5人はいずれも黒人で、このうち4人は警官による発砲、あるいは逮捕後の暴力による犠牲者である。Michael Griffithは白人の暴徒により殺された。Edmund Perryは17歳の少年だった。 (その2:事件の背景と本作に込められたメッセージ)
1)例えば、1919年の夏から初秋にかけて発生した人種暴動事件を指す「赤い夏」や、1965年8月にかけてアメリカ合衆国のワッツ市(現在はロサンゼルス市に吸収)で発生した暴動事件など。 2)Wikipedia「バーミングハム運動」 https://ja.wikipedia.org/wiki/バーミングハム運動 3)Wikipedia「エレノア・バンパーズ銃撃事件」 https://en.wikipedia.org/wiki/Shooting_of_Eleanor_Bumpurs
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