Tumgik
#玄関ドアを隠す
kazuya-ikezoi · 2 years
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外まわり 斜め壁の平屋 庇を兼ねた2枚の斜め壁を 一枚の片流れ屋根に段をつけて繋ぎました ガルバリウムの縦ラインも相まって すっきりシャープな仕上がりです 他にも色々な事例を紹介しているので @kazuya_ikezoi から見てみてください #外観デザイン #ガルバリウム外壁 #玄関ドアを隠す #外構照明  #斜め壁 #グレー外壁 #設計士とつくる家 #コラボハウス https://www.instagram.com/p/CkVouMwr2IY/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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tanakadntt · 1 year
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旧東隊の小説(二次創作)
刺身蕎麦クッキー
三輪秀次の好物は、ざる蕎麦、刺身、クッキーである。
一、刺身
ドアがあくと、まずプンと磯臭い空気が部屋に入ってきた。ここは東隊の作戦室で、三輪は同隊隊員である。
「大漁だぞー」
ついで入ってきたのは、発泡スチロールの箱を抱えた隊長の東春秋である。機嫌がいい。私服である。本日、東隊は任務のないシフトであったが、学校のあと、隊員は作戦室に集まっていた。仕事のためではない。
「おかえりなさい」
現地で購入したとおぼしき白い箱の中身は釣った魚だ。手持ちのクーラーボックスに入りきらなかったらしい。肩に下げているクーラーボックスだってかなり大きいのに、発泡スチロールの箱はさらに大きかった。重そうだ。三輪は発泡スチロールのほうを受け取った。ずっしりとしていて、よろける。氷がゴロゴロ動く音がした。
「床を濡らさないでください」
二宮匡貴が用意しておいたブルーシートを指す。
「気が利くな」
ニコニコしながら、東がクーラーボックスを肩から下ろす。三輪を手伝ってやりながら、二宮は黙って頷いた。
「東さん、長靴と道具は?」
「まだ車の中だな」
「後で取りに行きましょ。ほっとくと忘れちゃうわ」
加古望がキッチンから顔を出した。
ペリペリとビニールテープを剥がして、蓋を開ける。
のぞき込むと
「…大きい魚」
「鯛だな」
氷水の中に魚の王様が埋まっている。
東が器用にさばいていく脇で三人の隊員も忙しい。キッチンが臭くなるのは嫌と、加古はあらかじめ新聞紙をシンクに敷いていた。
「内臓はここに入れてね」
新聞紙で作った箱は暇なときに皆が折ってストックしてある。
タッパーや折を用意していくのは三輪の役目だ。紙袋にもポン、ポンと保冷剤を入れていく。
「秀次は手際がいいな」
「俺が教えました」
「あら、私が教えたのよ」
「今日、本部にいるのは誰かな? いつものことで悪いが、
手分けして、配りに行ってくれ」
「二宮、了解」
「加古、了解」
「了解です」
テンポよく言えずに、三輪は口の中でつぶやいた。
「ねえねえ、東さん、海鮮しゃぶしゃぶにしてみない?」
加古はカレイを見ながら提案する。
「新鮮なんだから、刺身だろう」
二宮が言い返す。二人はいつもこんな調子だ。
本日は、東隊長の釣ってきた魚を堪能する会なのだ。作戦室では飲酒禁止なので、ビールを飲みたい東の希望もあって、このあと本部内の彼の持っている居住スペースにお邪魔させてもらっての開催である。
「鍋があるからできるが、それなら最後はうどんで締めたいなあ」
「売店で売ってるんじゃないかしら」
東は包丁の手を止めてそうだなあと言いながら、チョイチョイと手招きして三輪を呼んだ。
「はい」
てっきり、うどんを買ってくるよう言われると思っていた三輪に東は、
「味見」
鯛の切れ端をヒョイと三輪の口の中にいれた。
「どうだ」
「おいしいです」
白身魚が甘いのを三輪はここにきて初めて知った。
ニ、クッキー
「暑いわね」
盆である。
この時期、食堂が休みなのだ。若者はコンビニに行き、偉い人は仕出し弁当を頼む。
今日の東隊長は上層部に呼ばれて会議に出席中である。これはよくあることで、片手間で隊長をやってるのではないかと思うほど忙しい人なのだ。今頃、上層部と高級弁当を食べていることだろう。
時刻は午後一時である。
「お腹が空いたわね」
先程から、加古は暑いとお腹が空いたしか言わないと気がついて、三輪は少しおかしかった。二宮はまだ到着していない。要領のよい彼のことなので、どこかで食事をしてからやってくるのだろう。
「コンビニで買ってきます」
三輪は立ち上がった。本部の中にも最近コ���ビニができたのだ。
「今日はコンビニのご飯って気分じゃないのよねえ」
と、加古は顎に長い指を当てた。二宮がいたなら、わがままだとののしったに違いないが、三輪はあまり気にならない。
「外へも買いに行きますよ」
どのみち三輪も何か腹に入れないといけない。
「本部の外は暑いわよ」
「そうだけど」
最近、加古に対しては敬語がすっぽ抜けるときがある。年上とか年下だとかそういうのを突き抜けたところが加古にあるからだ。
加古は天井に視線を送って、しばし考えたあと、
「どっかにクッキーがあったはず」
ぽんと手を叩いて、立ち上がった。
「東さんがもらってきてた」
「え! あれ? 」
あれは確かお中元でもらった高級クッキーだった。お中元をもらう大学生もどうかと思うが、東はよく頂きものをする。ご相伴にありつくのは隊員の役得だ。
しかし、いいとこのクッキーを昼飯代わりとは。
棚をゴソゴソとあさって、すぐに加古はクッキーの四角い缶を見つけてきた。目星をつけていたらしい。
「これこれ」
遠慮なくカパッとあけると、ほとんど手つかずの高級焼き菓子が現れる。
「三輪くん、冷蔵庫から飲み物持ってきて。私、アイスティー」
三輪は麦茶にした。
「お前らばっかり何食ってんだ」
案の定、程なくして現れた二宮は呆れた声を出した。
「太るぞ」
「三輪くんはもうちょっと太ったほうがいいわ」
「お前だ、加古」
「ご飯代わりだもの。それにこれから、動くから問題ないわ」
「トリオン体じゃあ関係ないだろう」
そう言いつつも、二宮もクッキーに手を伸ばす。
「二宮先輩、何飲みますか?」
「牛乳」
結局、三人でバリボリ食べて、缶のクッキーはすっかりなくなってしまった。
「内緒ね」
「証拠隠滅だな」
三輪くんの方で捨てておいてねと空の缶を持たされた。三輪が本部に住んでいるからだ。
なんとなく捨てそびれて、東隊が解散して、それぞれが別の隊を持つようになった今でも、その缶は三輪の部屋にある。
三、ざる蕎麦
「なんだ、引っ越したばかりなのか」
東隊が結成されたばかりの頃の話だ。
なんの用事だったか。多分、東からの言伝てがあったのに三輪へのメールが既読にもならないし、電話にも出ない。
二宮、すまない。俺、手が離せないから、伝えるついでに様子をちょっと見てきてやってくれ、そのまま帰っていいから。
隊長にそう頼まれたら、二宮も嫌とは言えない。もう、夜と言っても差し支えない時間だった。加古は既に帰宅している。
東に聞いた区画で三輪の部屋を見つけ、何度か呼び鈴を鳴らして、ようやくドアはあいた。
単身者用らしく、玄関から見渡せるほどの部屋だ。
およそ、生活感というものがない部屋だった。
中はガランとしていて、薄い蒲団が敷いてある他は、ダンボール箱がひとつおいてあるだけだ。入り口すぐに見えるキッチンも使っている形跡がない。
だから、二宮は引っ越してきたばかりかと聞いたのだ。三輪は焦点の合わない目をして、否とも応とも言わなかった。
出会ってまもないが、三輪には時々そういう不安定な状態に陥るときがある。何もかもが億劫になるらしく、食べることも眠ることもしなくなる。反応も鈍い。
この街には、この街独特の事情によって、そういう人間は割と存在し、容認されている。だから、二宮もそれほど奇異には思わない。あの日あのとき、『あちら側』だったんだなと思うだけだ。
それでも淡々と任務をこなす姿は評価するが、面倒な後輩であることにはかわりなかった。
東からの用件を伝え、確認をとったらもう二宮の任務は終わりだ。
しかし、
「夕飯は食ったのか?」
「ああ、はい、いえ」
返事は要領は得ないが、おそらく食べていない。
(昼も食べてなかったな)
「夕飯、食うぞ」
「……え?」
やはり反応が鈍い。二宮はイラッとしたが、今の三輪相手に何か言う気はしない。
三輪を連れて、食堂に行こうとする。
が、二宮はふと気が変わった。
「鍋あるか?」
「ないです」
「皿は?」
「ないです」
「コップは?」
「ないです」
二宮がため息をつくと、すみませんと三輪が謝った。徐々に意識が浮上してきたようだ。
「あの、二宮先輩、食堂で」
「いや、待ってろ」
三十分後、調理道具一式を調達してきた二宮は再び三輪の部屋に現れたのだった。
「蕎麦を茹でるぞ」
「…蕎麦ですか?」
その頃には、三輪もうつ状態になっているどころではない。二宮のペースに乗っかりもできず、さりとて落ちることもできない。
「あの、なんで、蕎麦」
「引っ越ししたら引っ越し蕎麦だろう」
引っ越しのことを考えたら、最初に思いついたのが蕎麦だった。新居で食べるのにふさわしい。
「あちこちから、借りてきたからな。明日、返しに行くぞ」
本格的な塗りの四角いセイロまである。三輪はおっかなびっくり持ち上げて、意味なく裏をのぞき込んだ。
その間に、二宮は鍋を沸かし、乾蕎麦を放り込んでいる。
「七分、計ってくれ」
「了解です。料理されるんですね」
「麺を茹でるくらい料理に入らんと思うぞ」
菜箸で、麺を動かしながら、二宮はこともなげに言った。
「三輪も食堂の飯ばっか食ってないで、蕎麦くらい茹でろ」
「はい」
思いの外、大量に茹で上がった蕎麦をセイロに山のように盛って、二人ですすった。箸もなくて割り箸だった。
もうここに一年ほど住んでいますと言えずに三輪は黙って、蕎麦を食べた。
この日にようやく三輪の引っ越しが終わったといえるかもしれない。
終わり
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setsuna000 · 2 years
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ポトフとオムライス、ときどきハンバーグ。
君にぶつけた愛はよく見るともう愛ではない何かだった
ごめんね
ごめんね
ごめんね
何度謝っても意味はないね伝わらないね終わりなんだね
何度謝られても許せなかったねもう終わっていたんだね
ずっとを守れなかったのはどっちだろうね
はじめに迷子になったのはどっちだろうね
もうそんなことどうだっていいね
愛も恋も好きも嫌いも
もうそんなこと分からなくなってたけど
綺麗に焼けたハンバーグは君のものだったし
脱ぎっぱなしの靴下も捨てないゴミも愛おしかった
消さない電気も閉めないドアや引き出しも
下手な隠し事もバレバレの嘘も全部全部
もうそんなことどうだって良かったんだよ
温かいポトフと大好きなオムライス
冷たい頬の君を待つのが好きだった
もうそんなこと望まれてもいないのに
冷えた関係はコンロじゃ温められないね
エレベーターの音は玄関で丸くなる合図
ごめんねもう待ってても会えないんだよ
さよならずっとだいすきなひと
きらきらした毎日をありがとう
どうか今日も君が穏やかに眠れますように
どうか明日も僕を忘れて過ごせますように
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yotchan-blog · 21 days
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2024/9/4 13:00:04現在のニュース
博多―釜山間の高速船「クイーンビートル」浸水で隠蔽原因を調査 JR九州、第三者委発足([B!]産経新聞, 2024/9/4 12:54:20) 新潟県知事、山形県と連携して米坂線復旧働きかけ JRとは誠意もって協議([B!]産経新聞, 2024/9/4 12:54:20) 有料自習室、月1万円台 家よりカフェより集中できる 価格は語る - 日本経済新聞([B!]日経新聞, 2024/9/4 12:52:10) 奈良・香芝市議長、地元紙に「写真使ったら訴える」 市長が発言批判(朝日新聞, 2024/9/4 12:49:16) ローカル線の未来・米坂線運休2年:/中 早期復旧願い、沿線住民ら署名活動 俺たち諦めてねえぞ /新潟 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:48:40) ローカル線の未来・米坂線運休2年:/下 豪雨災害から復活 JR只見線 「希望の星」照らす道 /新潟 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:48:40) ローカル線の未来・米坂線運休2年:早期復旧願い、沿線住民ら署名活動 山形、駅周辺活性化へ /山形 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:48:40) 熊本市電、満員で発車直後にドア開く 2024年のトラブル11件目 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:48:40) 姫路城、市民以外の料金値上げ検討 2~3倍に 維持財源の確保へ(毎日新聞, 2024/9/4 12:47:42) 関西空港開港30年、インバウンド1300万人超 アジアからの玄関口に - 日本経済新聞([B!]日経新聞, 2024/9/4 12:45:45) サマーソニック 洋楽ファンの熱い期待に応えたマネスキン、BMTH(朝日新聞, 2024/9/4 12:41:59) 群馬の夏は暑かった…最低気温が過去最高に 熱中症アラート20回(毎日新聞, 2024/9/4 12:40:32) 合成ゴム5〜8%高 8〜10月、原料高などで11年ぶり高値 - 日本経済新聞([B!]日経新聞, 2024/9/4 12:39:32) ローマ教皇、インドネシアを35年ぶり訪問 4カ国外遊 - 日本経済新聞([B!]日経新聞, 2024/9/4 12:39:32) 次世代バイオ燃料 営業列車で全国初の走行試験 JR西日本 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:36:30) 銚子電鉄名物「まずい棒」 肥薩おれんじ鉄道に登場 商品を相互販売 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:36:30) 東武鉄道:指かざして決済、東武鉄道展開へ 全国100カ所超 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:36:30) 嵐電で列車脱線 乗客にけがなし 撮影所前駅構内 /京都 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:36:30) NVIDIAの株価急落 AI需要「72兆円不足」、市場が警戒 - 日本経済新聞([B!]日経新聞, 2024/9/4 12:34:06) 次世代バイオ燃料 営業列車で全国初の走行試験 JR西日本(毎日新聞, 2024/9/4 12:33:04) 兵庫県知事の不信任案、維新と自民の判断が鍵に…立民系会派が9月議会に提案へ([B!]読売新聞, 2024/9/4 12:30:25) 発車直後にドア開く 熊本市電、今年11件目のトラブル /熊本 | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2024/9/4 12:30:17)
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bearbench-3bun4 · 2 months
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「虚無への供物」中井英夫 4451
第四章
45 密室ではない密室
4月3日、日曜日。 みんなが下落合の牟礼田の家に集って、例の小説を読み終えたところからです。
作中作に対して、久生や藍ちゃんが不平を言ってます。 書かれていませんが、亜利夫もきっと不満でしょう。 読者もです。
しかも、牟礼田も不満があるのか、出来が良くないと思ってるのか、無理やり当てはめたようです。
黒馬荘の事件の真相はわからないとなんか投げやりだし、 黄色い靴下は、牟礼田が準備したといいます。 “黄色い部屋”も、やはり牟礼田がつくらしたといいます。 ただ、“あらびく”のママさんから借りた写真から黄司がおキミちゃんなのではといいます。
牟礼田が氷沼家の悲劇を悲劇らしく終わらせるために苦労してるといいますが、 ほんとうに苦労している感じです。 なにか大きな秘密を隠すために勢力的に動き回っている感じですね。 しかも、事件の本当の犯人は、たった一人しかいないん。 そのことも小説の中に書き込んであるはずだといいます。
その上で矛盾を上げてくれといいます。 久生が指摘しますね。 ・“黄色の部屋”を舞台に黄司が第四の密室を作る構想はどうやってえたのか? ・作者が八田皓吉は無実なりという前提をたてているのに無関係という証拠になる場面がない。 ・おキミちゃんの旦那だっていない筈なのに、ママはここに書いてある通りのことを話している。 ・八田皓吉が玄関に鍵をかけたはずなのに、警官たちが駆け付けた時はいとも簡単にあいた。 ・“赤い部屋”で自殺させるのも、そんなに都合よくかかったり開いたりする鍵なんてない。 まだまだありそうですが、このくらいで、留飲をさげています。
その様子に見かねたのか、亜利夫もこの小説の前半は事実かもしれないが、 後半は、空想ではないか。 つまり小説とは違うことがおこったのではないかと指摘します。
この小説をなんとしてでも完成させたい牟礼田は、 なんでも受け入れるようで、ここからいろんな議論が始まります。 “黄色の部屋”が密室にしようと思えば、簡単にできたのに密室になっていなかった。 簡単に言えば、機械的にドアのかんぬきを閉めていしまおうというのである。
しかし、 ・階段側のドアはあいていた。 ・痩せっぽちの黄司がどうやって八田皓吉を椅子の上に抱えあげられるか。 ・���とかんぬきを軽く結びつけるなんて無理。 ・鋲で止めたというならそこいらに落ちたままになりかねない。 など指摘します。
牟礼田はあっさり認めますね。そこまで書く暇がなかったと。 その上、ワンダランドの入り口を見つけようといいます。 向島へお花見に行けば、ワンダランドの入り口が見つかるといいます。 ごちゃごちゃ言ってますけど、結局何がしたいのでしょうか?
来月の五日に向島へお花見に行くことになります。
しかも、ワンダランドはたしかに存在していたと終わります。 なんとなく、今までの書き方から言うと、 曖昧に終始するんでしょうね。
ワンダランド? 何でしょうね?
つづく
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lsoshipt · 2 months
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2024.7.18
 女の細長い指が自らの足を這うのを眺めていた。つややかな黒髪が女の痩せた肩口で溜まって、部屋の灯りを反射して光る。わたしの小作りな足の爪が、女の手で鮮烈に赤く塗られていく。彼女とは同い年なのだけれど、あまりに体の造作が違うものだから、我ながらなにか倒錯的な感じがする。
「塗ってみるとなんか、ちがうかも。」
「そお?」
女は俯けていた顔を上げる。ややするどい、きつめな眼差しがやさしげに細められている。これが彼女の好きな女に向ける表情なのだと毎度のように思う。この手の表情のつくりかたをする女ばかり好きになる。わたしには不相応だと感じる。不相応でもほしいものはほしいわけだから、しかたのないことだ。
「じゃあ塗り直すね。何色がいい?」
彼女はきれいに並べられたマニキュアの瓶を指でなぞる。わたしに似合うと思う色。そう答えると、彼女は悩ましげに首を傾げた。
「なんでも似合うもの。困るなあ、……やっぱり、ピンク?」
「じゃあそれで、お願い。」
彼女はわたしの爪を一本一本ていねいにコットンで拭う。彼女の指先はすこし荒れていて、除光液はしみるだろうに眉ひとつしかめない。痩せぎすの体にふさわしい、ひょろりと長い指をした薄い手だ。わたしの力でも折れてしまいそうだと思う。じっさい彼女は、わたしが彼女を害そうとしてもいっさい抵抗をしないだろう。
 夜更けのココアにはラム酒を入れるのが好きだ。金色の液体がとろとろとマグカップに注がれるさまが良い。やけどするくらい熱くて、どろどろに濃いココアでなくてはいけない。彼女は明日も早いのに、わたしに付き合って同じものを口にする。
「ありがとう。寝たっていいのに。」
「すなちゃんと過ごす時間が一日で一番大事なの。」
彼女の目が愛しそうに、困ったようにわたしを映す。もちろん嬉しいのだけれど、わたしの小さな、薄っぺらな身には余るわけだ。
「わたし、明日は遅いよ。」
彼女の両の手が、大切そうにマグカップを包んでいる。細く乾いた、節の目立つ彼女の手は、わたしのそれよりは大きいわけだけれど、あまりに華奢なものだから、大きさを感じさせない。疲れた頼りなげな手だ。
「知ってる。待ってるね。」
薄い唇が弓なりに引き伸ばされる。彼女の痛ましい笑顔がわたしはすこし苦手だ。下がった眉はやさしげなのにわたしを責めているみたいだと思う。弱さの不用意な露出というのは、一種の攻撃だ。彼女はわたしを相手にしているから見せている弱みなのだろうけれど。こっそりと溜息をついた。
 わたしの傾向として、健気で愛らしくて、むき身で生きていそうな人を好きになるけれど、わたしとおなじくらいにずるくてだめな人でないと疲弊するということを、それなりに昔から自覚している。
 とはいえままならないのが恋である。
 マグカップのなかみを飲み干す彼女の華奢な喉仏がうごくのを眺めていた。あとで首でも絞めてやろうと思った。
 半地下の薄暗いカフェバーがいまのわたしの職場である。店内にはコーヒーと煙草の匂いがしみついて、はいるたびいくつか歳をとったような気分になる。嫌いな匂いというわけではないのだけれど、不特定多数の副流煙を浴びるというのはけっして気持ちのいいことではない。髪をきっちりと括って、制服のエプロンの紐を縛った。そう賑わっているわけでもなく、常通り暇な夜だった。暇な夜はねむたくて、彼女のことを少しだけ考える。
 わたしが仕事を終えて帰るのは4時ごろになるけれど、ちゃんと眠れているだろうか。電気もつけずに暗い部屋で、じいっとその充血した目だけひからせて、ひたすらに佇んでいるのだろうか。2時間ほどの浅い眠りの果てに、音をたてないようにひっそりと部屋を出ていくのだろうか。インスタントコーヒーの湯気に、疲労のにじむ深い溜息を隠すのだろうか。
 なぜだか今すぐ彼女に会いたいと思った。
「このケーキ、もし余ったら持って帰ってもいいですか。」
チェリーパイを指し示して言う。そもそもケーキは夜中にそんなに出るものではないし、消費期限に問題がないからというのと、店の華として昼過ぎから出しっぱなしにされているだけだ。
「ああもちろん、そうしたら、佐弓さんのぶん、もうとっておいていいよ。ほかにほしいのあったらとっていいし。」
店長は柔和なほほえみを浮かべた。これで経営をやっていけるものかと思うほどに、ひとの好さそうに穏やかなひとだ。まなじりのしわが照明をうけてじっさい以上に深くみえる。
「夜にあんまり食べると肥っちゃうので……、一緒に住んでる子のぶんもふたつ、頂いてきます。」
パイのそばに添えられたケーキサーバーをつかんで、二切れをテイクアウト用のプラスティックの容器に載せた。裏の冷蔵庫にはこぶ。彼女の好物が余っていてよかったと思った。わたしが特段好きだというわけではないのだけれど、彼女は一緒にとかおそろいとか、そういったことに特別の意味を見出す性質の女だから、気まぐれにすこしでも喜ばせてやろうと思ったのだ。わたしとしては、この店でいちばん美味いのは一切れですっかり酔っ払えてしまうくらいに甘く重たいサバランだと思っている。そのことは彼女も知っている。
 常通りの退屈な勤務を終えて、エプロンの紐をほどいた。夜道を歩くのは好きだ。人間じゃない、なにかべつのいきものになったような心地がする。地上でそう感じるということは、かつてわたしがそうであったそれとは確実に違うなにかだろう。酔っぱらいの喧騒を聞きながら、踊るような足をそうっと踏み出して静かに歩いた。涼しい風のなかでアスファルトがやわらかい心地すらした。
 鍵穴に鍵をさし入れると、すぐに室内から足音がきこえた。鍵を回す。立て付けの悪いドアは、いつも怒っているのかと思うくらい乱暴な音を立てて開く。暗い玄関に、彼女の白い細面が浮かび上がる。
「おかえり。」
「寝ていていいのに。」
「うん、少し眠っていたみたいで、鍵の音で起きたの。」
よく見れば彼女の唇の端にはわずかに涎のあとがある。髪は無防備に乱れていて、帰って服を脱いだままらしく下着しか身につけていない。骨の構造が一目で窺えるくらいに薄っぺらな胸元があらわだ。
「……ちゃんとベッドで寝てていいのに。」
うん。彼女は童女じみて肯いた。夢の残滓として寝ぼけた口調ながらにうれしそうで、わたしは彼女を少し憐れんだ。こんな女が帰ってきて喜ぶなんて。……いや、好きな相手が自分のもとに帰ってきたら嬉しいし、好きな女の「好きな相手」であることも嬉しいことであるはずだ。
 彼女に抱きしめられて、そして居室にはいる。満ち足りている。狭く薄暗い部屋は、かすかにバニラの匂いがする。好きなはずだ。愛おしいとは、思う。
「ケーキもらってきたよ。食べる?」
ケトルのスイッチをいれながら訊く。首肯する彼女を横目に紅茶の缶を覗くと、茶葉はもう残っていなかった。しかたなしにインスタントコーヒーを取り出す。
「牛乳?」
「すなちゃんと、おなじの。」
マグカップふたつをコーヒーで満たして、そのかたわれを彼女に渡す。容器をあけて、キッチンの抽斗からフォークを二本取り出す。コーヒーも濃いほうが好きだ。たっぷりの砂糖とミルクを入れるのが好きだけれど、今日は甘いものだからブラックでいい。
 プラスティックの容器のままに、二人でチェリーパイをつつく。
「好きなの、覚えててくれたんだ。」
彼女はパイを頬張りながら、嬉しそうに笑みを浮かべる。笑い慣れていないことがよくわかる、いかにも不器用な笑顔である。彼女は一方的にわたしを好いていると思っている節がある。それならば、それでいいけれど。彼女がどう思うかだなんて、わたしにどうすることができるものでもないから、彼女がいいなら、もう、いい。
「もちろん。」
 一緒にシャワーを浴びる。すこし痩せたかと思う。言及はしない。疲れているのはわかりきっている。彼女はねむたげに、しかし優しい手つきでわたしの髪を乾かす。わたしもというと、今日はめずらしく受け入れた。彼女の髪を撫でると、細く乾いたそれがわたしに絡みつくみたいだった。ドライヤーは重たくて好きじゃない。
 床に就く。空が白みはじめるころ、彼女にかたく抱きしめられて目が覚めた。閉じられた瞼の下、彼女の瞳はなにも映さずに、ただ眉根が悲しそうに顰められている。
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shukiiflog · 5 months
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ある画家の手記if2 - 2 雪村泉視点
目が覚めたとき身体はなんとも無いか訊ねられ私は首をひねりましたが、お話しを聞くと、夜間に泣きわめき取り乱して、かと思うと呆然と動かなくなったりと奇行を繰り返していたそうです。
身に覚えは ありました 香澄が 私は何度もあの子を上手く抱きしめられずにいましたから …。稔さんは特に叱ることもなく朝食の席に私を案内してくださり、その話はそれっきりでした。 ああ、そういえばお名前の字は稔さん宛のお手紙が届いたので知ることができました��中里稔さん。 あれから、今でも…拾ってくださってから毎日、私に何をさせるでもなく衣食住を提供してくださっています。 どこか懐かしい家と食事 服は、家を出るときからここへ拾われるまで身につけていたものはギリシャ神話の彫刻にでも出てきそうな薄く透ける布のワンピースで、スカート部分は全円にドレープのついた裾の長い、布をふんだんにつかったものでしたが、この一週間ほどは稔さんが服を貸してくださって、とても身軽な装いをしています。 夜間のありさまも一度触れたきりですが…ほとんど毎晩のように…ご迷惑をおかけしているはずです どうして私を 助けてくださったのでしょう 私に商品価値を見出せる要素など無いことくらい知っています 恩を返せるあてもございません だからすぐに、見返りを求めて手を差し伸べてくださったわけではないことはわかりました 稔さんがお優しいからだ、そう思えばいい でも、それなら私はここに居て 助けられた身で、どれほど勝手に振る舞ってよいものかと 未だに何一つ役に立つことはしておりませんし かといってこの脚で出て行くことさえしてよいものかわからない、本当に何の苦も無いようでいらっしゃるから  …ときどき、人懐こい方なのかと感じることもある ここらには近隣の住民も居ないからお寂しいのか、稔さんに伴侶も恋人も居ないというのはにわかに信じがたいもののそういった人の影は見受けられません。私などではなくここにもっと馴染む相応しい方をお迎えする考えは無いのでしょうか そっとこちらを見詰める姿が不意に幼いあの子に重なるような気がして思わず立ち上がると、部屋から出て歩み寄り稔さんの頭を撫でました。可愛らしいです。あからさまに主張するほどの幼さはもう示せないからか、言わないところが、逆に健気で。 伴侶や恋人というよりも、やはりペットか、何か触れあうことで癒される存在が相応しいのでしょうか。 それにつけても、私などでは犬猫にはかなうはずもございません 香澄のことを思い出したからかその日は 酷く苦しいおもいをしました。
「ところであんたは、感じてねえのか。自分に稔は不釣り合いだってことに?」 稔さんにパーティの同伴として連れられ…同伴者にはおこがましいほど美しい衣装を着せていただいて、私などがこのような…稔さんは主役にしてやるなどとおっしゃっていましたがやはり滑稽だったのでしょう、会場に入ってから今に至るまで値踏みされるような視線も言葉も多く投げかけられましたが直接的に指摘をされないまま、生殺しの有様でしたので、ようやく不釣り合いとはっきり言われたことにほっといたしました。 「はい、あの…勿論存じ上げております」 初めましてのご挨拶もそうそうに、でしたのでお名前もうかがっておりませんが、佇まいが会場の他の方々にも見劣りしない雰囲気を放っておられますので、付き添いなどとは違いれっきとした招待客の方なのだろうと類推させていただきました。稔さんのご友人でしょうか。なんにせよ、この場で私はあの方に連れられてきたのですから、失礼のないようにしなくては。 「あの方には助けていただいて…未だに私が何のあてもありませんのをこうして連れ出してくださったのです」 「そんで今日はなんの成果をあげたんだい、充分ちやほやされて肌艶いいじゃねえか。のらりくらりしてるようでいて稔は自分一人で生活していける、あの家は稔のもので稔の作った彫刻を収入源に動いてる、あんたを絞ればその1%でも収益が上がるか?毎日誰の飯食ってんだ?過去にあの家に居て、自立して出てった連中は多いぜ、稔といるとよく人材が育つんだよ。あんたは伸び代あんのか?あんたの人生に展望はあんのか?」 大きな目を睨むように眇めてこちらを見ていらっしゃる。まっすぐに見詰め返して、ああ、そうだ、笑わなくては。もっとちゃんと、ご不快のないように 「いえ…私には何も。愛玩のようなものなのでしょうか…あまりによくしていただいてはかり知れません…」 緊張しても主旨を取りこぼすことは無いはずです、私が何のお役にも立てず何の先の展望もないことは、事実ですから。間違いようがありません。 「ここまで役立たずどころか家の中を勝手に這いまわるあんたをどうして稔が家に置いてんのか、そんなご大層なドレスまで着せて連れ歩くのか、聞いてみたことはねえのか?」 「…ございません」 「なんで訊かねえ?」 ……なんで…そういえば、あの家はほんとうに稔さんのお家で間違い無いのですね。彫刻を作ってらっしゃることも、私だけでなく他にもあの方を頼りにしている方がいらっしゃることも、初めて知りました 私は 稔さんに判断を委ねてばかりで 助けられたからと言い訳に身を預けて今まで、あの方のことを何も 何も考えていなかった… 「そうですね、うかがうべきでした。はやく出ていかなくてはならないのに必要以上のものをいただいてしまって…すみません、失礼します」 気付いたら、もうこれ以上この場には居られません もとより私の居るべき場所では無かったのでしょう はやく、出て行かなくては この衣装もはやく、脱がなくては 私が身につけるには不相応なものなのだから 恩を返すあてすら無いなら、せめて一刻も早くこのギャンブルを終わらせましょう あの方がしてくださることが全部泡になってしまう前に、 胸元でキラキラと装飾が光って走るごとに責め立てられるようで 外そうと手を掛けるところで先に手首を掴まれた 「――――っ」振り払えないほどの力、けれど突如その手は離され 目の前を覆い隠すように人影が現れたかと思うと、 覚えのある香りが 、…稔さん 「……」 「……、…」 抱きしめられ ている。 っ離れなくては 咄嗟にそう思い手で押しのけようとすると更に強く抱きしめられ 手をついた胸元から力強い鼓動が伝わって、急に生々しい感覚に恐ろしくなるような力の抜けるような、…目の回るような感覚がいたしました  うまく息が吸えない こんなに、しっかりとした、たくましいというのでしょうか、強く抱きしめられたことはありません 触れあう距離に居た相手は千風ばかりで、その彼は線の細いひとでしたから 「さっき詰られたことなら忘れていい、俺に聞きたいことがあるなら言ってくれ。 動けずにいると稔さんの声がすぐ耳もとでそう囁きました 覆い隠すような感覚は錯覚ではなく、背の高いこのひとに頭上からすっぽり抱き込まれているせいでした ききたいこと…なんて もう、時期を逸してしまったのでは? 私は何も訊かないせいで結果的に自分に都合よく貴方を消費していたのでしょう もう戻ることはできないのだと、告げるうちに稔さんが「愛している」と 私に そう言って 交わされた視線に余計に息が詰まる いけません どうして…そんなこと うれしいです、信じられない いけません、私など 釣り合わないのですから やめて 私は誰かに愛されていいものじゃ無いんです
連れ帰られた稔さんの家ですぐにドレスを脱ぎました あの家を出る時に着てきたワンピースは寝室の隅に掛けてあり、それを身につけるとすぐに玄関へ向かいましたが、稔さんにドアを塞がれてしまいました。 「通してください…」 ここで私を、見逃すだけでいい それで最後になる、愛していると言ってくれた…そんな感情を残していくわけにはいきません、コールした損失を一刻も早く無に帰すためには 手放してもう二度と、何も与えてたまるかと 思ってもらわなくては 貴方自身の手で捨ててくれなくては 「……それは漫然とここからただ倒れるまで歩いて死ぬことを意味する。どこかで死ぬくらいなら俺にここで殺されてくれ」 ……! 突然の告白に顔が熱くなるのを感じ慌てて俯くと、稔さんも目の前で扉に凭れ座ってしまった 赤い顔を隠しようが無くなってしまいぎゅっと目を瞑る …あの浜辺 あの時私はこの人に看取られるなら死も悪くないなどと浮ついた頭で考えた 軽く首を振って悪い考えをはらう この人の手を汚させるなどとんでもない そんな消えない楔を残すことなど まだ何もないうちに跡形もなく消え去るために私は今すぐ出ていこうとしているのに 「俺とここに居てくれ 愛してる、泉」 「……」 それでも…それでもこんなにも  出て行こうとする私の行動が逆に、この人を傷付けているのがわかる どうすれば 思い至らぬうちはそれでもよかった、私の勝手な行動で傷付けて申しわけありませんとすぐにでも謝って、その腕の中に戻ることもできたでしょう 切実に訴えてくださる貴方をどうして抱きしめずにいられるでしょうか けれど今は そんな恥知らずな真似は… 「私は 罪人です」 ぐっと 両手を握りしめて言いました。知らせるしか無いのかもしれません ここまできたら お世話になったのだから 私が何をしてあの浜辺に至ったのかを そして何も知らせぬままのうのうと居座ったことを 「これ以上は貴方を蝕みたくない」 正直にそう告げて そうしたら、貴方もきっとわかってくださるでしょう… ここまで、とほんとうにそう思ったら、身体から力が抜けてくずおれそうになってしまった。いけない、これからがしばらく動けなくてはならないのに… 少しの沈黙があって 「ーーーーおそらくお前より俺は罪人だ。俺と居て穢されるのは泉のほうだ。それでも俺はお前を穢してでもそばにいることを望む」 稔さんが…仰ったことは、思いもよらないことでした このひとが…一体何の罪を犯したというのか、私には見当もつかなかったのです 腕を引かれ、倒れそうだった身体は無抵抗に脱力し床に座り込みました 稔さんの脚の間におさまり、間近にある顔を呆然と見上げ 考える。 嘘…なのかもしれない。よっぽど罪人…だというのは。 けれどもし本当だったとするなら罪人だと明かすことは 困難な決断だったはずです…いいえ、それは嘘であっても、でしょうか 罪の自覚と愛の自覚があるなら…相手を想っているならば手放すほうが賢明で、容易になります それでも傍に、なんて 無様を晒すようなものだ。 恥をかなぐり捨ててまで気持ちを貫くには…差し出した自己の傷に対して、得るものが少なすぎますもの 「お前も 望んでくれないか 血塗れで共に生きることを」 見詰め返されもう一度 乞われて 私は 自分が差し出されたものに見合うなどとはやはり思えませんが でも だからこそ、それすらも奪うことはもう できませんでした 「……」 少し、腕を伸ばして 稔さんの頬を両手で引き寄せて、そっと額に口付けた。…ペットのお返事です せめてこの先 もしも 貴方の罪が私よりうんと重く大きくて、不幸になることを選ばざるを得なくなったとしても どんなにか私の想像を超えた残酷な悪に手を染めていても 凄惨な過去を送っていても、共に堕ちて苦しむ覚悟をいたしましょう。 貴方が救った命をもってこの時ここで善なる貴方の存在を私がずっと証明します それが何の役に立つわけでもないけれど
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psytestjp · 8 months
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kazuya-ikezoi · 2 years
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外まわり 落ち着いた和の装いの平屋事例 玄関を隠す木格子が、落ち着かせながら 柔らかく映える組み合わせ 夜に灯りも、帰るのが楽しみに 他にも色々な事例を紹介しているので @kazuya_ikezoi から見てみてください #外観デザイン #塗壁の家 #ベルアート #ガルバリウム外壁 #木格子 #和モダンな家 #玄関ドアを隠す #外構照明  #設計士とつくる家 #コラボハウス https://www.instagram.com/p/CkBFu2Wr0Kr/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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amrgamata · 1 year
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こごめと僕。 #14
腕のリストカットの跡を白い長袖のパーカーで隠し、膝下まである丈のあるスカートを下に身に着け、私は玄関を出た。少しばかり優しさを見せるようになった陽射しを身体に受けて、私は目を細めた。
涼しい空気に包まれた外を歩く。外に出���のは久しぶりだった。
今日私は独りだけで外を歩く。三駅ほど離れたところに、友人が越してきたと轍先生が教えてくれたのだ。地図ももらったから、それを頼りにその友人の所へ行く。事前に電話をしておいたから、先方も驚くことはないだろう。
かたかたと電車に揺られること三駅分。都会と田舎を足して割ったような印象を受ける見た目の駅を出て、ぽてぽてと歩く。
写真に収められているマンションはすぐに見つかった。『駅から歩いて十分程度』という轍先生の言葉は正しかったわけだ。
マンションの玄関にいた警備員に会釈して、私は透明な硝子で出来た扉を開けてもらう。受付にいる人に自分の名前を出して目当ての人物に話を通してもらい、許可を得てから私は漸くエレベーターに乗り込んだ。『女性のひとり暮らしにはちょうどいい』という友人の言葉もまた、間違ってはいなかったらしい。
十五階につき、私はひとつひとつネームプレートを確認しながら「浅木」という苗字を探す。然程時間もかからず、その苗字は見つかった。緊張を深呼吸で押さえつけ、私はインターホンを押す。ハスキーだが明るい声が応答してくれた。
かちゃ、とマホガニーのドアが開いて、私と交流を断っていた友人が顔をのぞかせた。
「……変わらないね、こごめ」
第一声は、それだった。それはこっちの台詞でもあったから、私は口許を歪めて笑う。小学生時代の付き合いで彼女ーー鶫ちゃんと私はそうして付き合ってきたのを、私は朧気に思い出していた。
「『鶫』っていうのは、秋の季語なんだ」
いつだったか鶫ちゃんが教えてくれた。どうしてそんな名前になったのか、と問えば、「それは教えてくれないんだ」と何時ものように男勝りな話し方で言った。
中学校卒業とともに、私と鶫ちゃんは離れ離れになってしまった。私が高校へ進学せずに、裕理さんについていくと決めたからという理由があった。
鶫ちゃんは幼少期から子供が口しないようなものーー例えばブラックコーヒーとかーーを口にし、その頃から男勝りな話し口をしていた。そして、私なんかを理解しようとして、私と一緒にいてくれようとした。
そんなことを、私は鶫ちゃんの部屋で目を閉じて思い出す。ぱたぱたという鶫ちゃんの足音が聞こえ、私はその思考を辞めた。
黒く丸い盆を持った鶫ちゃんが机につく。盆の上には紅茶が入ったカップと、コーヒーの入ったカップがあった。
「こごめは紅茶でいいよね」
「うん」
熱すぎると感じない程度の温度で淹れられた紅茶を受け取り、暫く指先を温める。
「『彼』とはどうなんだ?こごめ」
「……別に、変わりなんてないよ」
木蘭色をした鶫ちゃんの眼が細められる。青鈍の髪が揺れて、鶫ちゃんの眼にかかるけれど、鶫ちゃんはそれをどかそうとはしなかった。
「ぼくが見た限り、彼は善い人だよ。それはこごめが一番よく分かっているだろうけれどね」
私は俯いていた顔を上げる。作り笑いでも、嘲笑いでもない笑みを浮かべた鶫ちゃんと目が合った。
こくり、と砂糖の入っているらしい紅茶を一口飲む。それに合わせて、鶫ちゃんもコーヒーを飲んだ。恐らくは、砂糖は入っていないだろう。
「それに、今日こごめに会って分かったけれど、彼はこごめを大事にしてくれるんだろう?」
「……うん」
「善かったね、こごめ」
鶫ちゃんは優しく笑って、言った。
鶫ちゃんは、私の家庭環境を知っていた。だからそこから来ている言葉なのだということは、少し考えるだけで分かった。
紅茶を飲み終える頃、スカートのポケットに入れたまま存在を忘れていたスマホが振動した。確認すれば、裕理さんからメールが来ていた。どうやら時間切れらしい。
「彼からかい?」
「うん。……なんかごめんね、あんまり時間取れなくて」
「別にぼくは気にしていないよ。彼は特段ぼくのことを非難していないんだろ?」
メールを開けば、ただ一文だけ「どこにいるんだ?」とだけあった。それに素早く「鶫ちゃんのところ」と返信する。裕理さんには昔、鶫ちゃんの話をしたことがあった。
「彼から許しを得てから来るってことにしたらどうだい?彼は寛容なんだろ」
「今度からはそうするね」
「うん、それがいい。その方がきっと、こごめも心苦しくないよ」
別に鶫ちゃんと会うのに心苦しさを感じたことはないのだけど。小学生の時も、中学生の時もそうだった。
「また、来てもいい?」
「いいとも。次はもっとちゃんと持て成しの準備をしておくよ」
木蘭色の眼を細めて笑い、鶫ちゃんは私を玄関から送り出した。風に揺れる青鈍の髪が、印象的だった。
再び、電車に揺られること三駅分。家に最寄りの駅の改札口の所に、裕理さんが立っていた私がそれに気付いておずおずと手を上げると、それに気づいたらしい裕理さんは私に駆け寄る。
そして、人目を気にせず裕理さんは私を強く抱きしめた。それが言葉よりも雄弁に、明確に裕理さんの気持ちを表していたから、私はそれを嬉しく思った。
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applemusicbonker · 1 year
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渡り鳥いつまた帰る(1960.4)
小林旭主演の「渡り鳥シリーズ」第3作。
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 シリーズのお決まりのパターンを破る演出が随所にあってなかなか楽しめた。悪役の金子信雄は、おそらくシリーズ中もっとも卑怯で悪い奴。人を騙して弱みに漬け込むスキルにかけてはアキラと同じくらい素早く頭が回る最低の輩だ。
 今回は白木マリが欠席。代わりに中原早苗がキャバレーダンサーのポジションにいる。こちらはこちらでチャキチャキしていて魅力的。わざわざ街から街へアキラを追いかけて佐渡までやってきたという自称アキラの元カノ役で、いつもやさしいはずのメインヒロイン・浅丘ルリ子がバッチバチに嫉妬する。せっかく早苗がアキラのピンチを知らせるために店を抜け出して来たというのに、彼女を追い返そうとするルリ子。おい、アキラが死ぬぞ。こんな色恋沙汰でシリーズ最大のピンチを迎えてしまうところもさすがアキラ。
アキラ「俺は人の指図を受けるのが大嫌いなんだ」 ジョー「俺は自分の納得の行かねぇ仕事は、したくねぇ怠け者でね」
 どんな時でも自分の美学を貫き通すアキラと、目的のためには手段を選ばないジョーの対比が今回も効果的に描かれている。早くこれになりたい。抱っこした子どもが頭をぶつけないように、少しかがんでドアを通るアキラの自然な気配り! 人としてこうありたいお手本が今回も随所にさりげなく出てくるので今回もアキラから目が離せない。
 アキラと同じコロムビア所属の歌手が登場するお歌のコーナーでは、こまどり姉妹がアキラと「おけさ数え唄」とリレーする。それにしても今回も海と山の距離がやたらと近い佐渡島のロケーションが素晴らしい。旅行に行きたい! アキラの歩いた道を歩きたい! と毎回思わされている。観光映画としては大成功。公開当時の観客も同じ気持ちだったに違いない。
 渡り鳥シリーズでは事務所の壁や玄関に必ずショットガンがかけてあって、なにかあるとすぐにそれを持ち出して飛び出して行けるようになっている。我が家にもモデルガンでいいから常備しておきたい。
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deisticpaper · 2 years
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蜃気楼の境界 編(五六七)
蜃気楼の境界 編(一二三四)から
「渦とチェリー新聞」寄稿小説
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蜃気楼の境界 編(五)
界縫
 正嘉元年紅葉舞い、青い炎地割れから立ち昇る。音大きく山崩れ水湧き出し、神社仏閣ことごとく倒壊す。鎌倉は中下馬橋の燃える家屋と黒い煙かき分けて家族の手を引きなんとか生き延びた六角義綱という男、後日殺生も構わぬ暮露と成り果て武士を襲えば刀を得、民を襲えば銭を得て、やがて辿り着いた河川で暮露同士語らうわけでもなく集まり暮らす。或る夜、幾度目のことか絶食にふらつき目を血走らせ六角義綱、血に汚れた刀片手に道行く一人の者を殺めようとするが、嗚咽を漏らし立ち竦みそのまま胸からあの日の紅葉のごとき血を流し膝から崩れ落ちる。道行くその者、男に扮した歩き巫女だが手には妖しげな小刀、その去る様を地べたから見届けんとした六角義綱のすぐ背後、甚目寺南大門に後ろを向けて立つ闇霙(あんえい)と名乗る男あり。みぞれ降りだして、人とも呼び難いなりの六角義綱を一瞥し、闇霙、口開かず問いかける、そなたの闇は斯様な俗識さえ飼えぬのか。六角義綱、正嘉地震から甚目寺までの道中で妻を殺され、涙つたい、儂には女は切れん、と息絶える。その一通りを見ていた青年、六角源内、父を殺した女を浅井千代能と突き止めて敵討ちを企てるが、知られていたか検非違使に捕らえられ夷島に流され、以後誰とも交流を持たずに僻地の小屋で巻物を記したという。それから七五九年の時が経ち、二〇一六年、仟燕色馨を内に潜める二重人格の高校生市川忍とその同級生渡邉咲が、慧探偵事務所を相手に朔密教門前また内部にて些細な一悶着あった、その同日晩、奇妙な殺人事件が起こる。場所は百人町四丁目の平素な住宅区域、被害者女性、五藤珊瑚(三〇)の遺言は、残酷な苦を前に千年二千年なんて。戸塚警察署に直ちに捜査本部が設置され、その捜査とは別に警部補の高橋定蔵、市川忍の前に立つ。何故おれなんかに事情徴収を、と忍。事件当日、校門の監視カメラに映っていたきみが何か普段と違うものを見てなかったかと思ってね、若き警部補が爽やかに答え、それで市川忍、脳裏の人格に声を送る、一顛末あった日だ厄介だね。対し仟燕色馨、おそらくこの警部補、謎多き朔密教を疑っている、ならばこの事件あの探偵にも捜査の手が伸びる、ところで気づいているか探偵事務所の探偵に見張られている。
 小料理屋点々とある裏通りの角に螺旋階段へ繋がるアーチ状の古い門を持つ築古スナックビルの入り口で刈り上げマッシュショートにゆるめパーマの少年のような青年がただ立っていると突然背後から強面の男がどこに突っ立っとんじゃと怒鳴ってきたので青年は冴え冴えとした眼差しで振り返り、幻を見てたんじゃないですか、俺はずっとこの位置でスマホを見てました、俺の輪郭と色、背後の風景と俺のいる光景をもっと目に焼きつけてください。男は動転し不愉快な目の前にいる青年を忘れないようじっと食い入って見る。だが、その光景はすでに幻で、スマホを見ていた青年はもういない。走り去っていたのだ。朝のホームルーム直前にその青年、六角凍夏(むすみとうか)が現れ席につく。振り返り、後ろの席の渡邉咲に聞く、きみ、部活入ってるの。隣席美術部員中河原津久見が聞き耳を立てている。渡邉咲は初めて話しかけてきた六角凍夏が先々で勧誘しているのを知っていて、文芸部でしょ、と冷えた目を送ると、文化琳三部だよ、と。咲が琳三って何という顔で惑うと、清山琳三ね、俺らの界隈で知らぬ者はいないよ、とくるが、咲はどこの界隈の話なのと内心いよいよ戸惑う。だが、聞き耳を立てていた中河原津久見はピクシブなどで目にする虚無僧キャラねと気づくが話に加わらない。きみ、机の上の本、和楽器好きでしょ、清山琳三は気鋭の尺八奏者。私、渡邉咲、と口にしながら、尺八ね。放課後、六角凍夏は一人、文芸部部室の小さな教室に入って電気をつけるとドアを閉め、密室と成る。中央辺りの机に、鞄から取り出した古びた筒を置く。目を閉じる。刹那、周囲にぼろぼろの布団が幾枚とどさっと落ち���き動きだす。それは天明四年鳥山石燕刊行妖怪画集「百器徒然袋」に見られる暮露暮露団(ぼろぼろとん)だが現実に現れたわけではなく、六角凍夏の想像力は小さな空間で全能となり百器徒然袋の界隈と接続し、今回ならばそこに記された妖怪があたかも姿を見せたかのような気分になったのだ。密室に、江戸の布団の香りが充満する。ときに、異界からの香りが漂ってくることもある。翌、静かな夜、百人町四丁目にて更なる殺人事件が起こる。被害者は志那成斗美(四〇)遺言は、潔く煮ろうか。魔の香りも、又、此処に。
蜃気楼の境界 編(六)
五鬼
 出入りする者らの残り香も錯綜の果てに幻影さえ浮かべる夜の街。串揚げ並ぶコの字カウンター中程で束感ショートの若い警部補が驚きのあと声を潜め通話を切ると手話で勘定を頼み、さっぱりとした面立ちの探偵仲本慧に目をやり、五鬼事件だがまだ続いていたと輝きの瞳隠せないながらも声を落とし去っていく。百人町四丁目連続殺人事件の犯人佐々木幻弐が第二被害者志那成斗美の最期の正当防衛で刺され意識不明のまま病院で死亡したという話、監視カメラから犯行も明確、第一被害者五藤珊瑚への犯行とも繋がり既に報道もされた直後の第三事件発覚。カウンターに残された探偵仲本慧、ビールを追加し面白い事件だが依頼がきてないから何もできないね、と奥に座る長髪黒はオールバックの男に突然話しかける。その男、串揚げを齧りながらチラと目線を合わせる。慧、ビールを飲み干し、隣に座っていいかなと距離を詰め、そっと名刺を置き、歓楽街案内人の市川敬済だね仕事柄我々は抜け目ない、聞き耳を立ててたね、という。黙す市川敬済に、優秀な探偵の知り合いは二人と必要ないかなと強い声で独り言のように笑みを送る。店内、音楽なく、静かに食す客、座敷からの賑わい。この辺りで、青島ビールが飲める良いバーを探してる客がいたなそういえば、と市川敬済、懐から名刺を取りだし横に並べる。直後、和柄のマフラーをしたギャル僡逢里が現れた為、仲本慧、名刺を拾い、勘定を済まし去っていく。お知り合いさんなの、と尋ねつつ座る僡逢里に、池袋の二青龍で今は探偵の男だ知ってるか、と尋ね返す。誰よ、テリトリー渋谷だったし、今日はいないの。暗に警部補のことを口にする。僡逢里の耳元で、まだ続いてるらしい千代女のママ心配だな。食事の注文をしながら僡逢里、出勤前に縛られたい、と呟く。夜十一時、一人になった市川敬済の前を男女が横切る。片方の男が枯淡の趣ある着物姿でありながら凍風をただ浴びるがごとく静かであったため変に気にかかるが、気にするのをやめて電話をかける。あら敬済さん、と通話先、青藍に杉の木が描かれた着物の女、さっきまで警部補さんがいらしてたのよ、お店は営業してません、今朝三人目の不幸がありまして五鬼も残すところ二人なの。語るは浅井千代女である。
 遥か彼方より朗々と木曽節が諏訪太鼓と絡まり聞こえる、それは五年前の、冬の宵、一人の女、吉祥寺の麻雀ラウンジ千代女の開店準備中、六人の女達を前に、肩に雪積もり震えている。浅井千代女が側に近づき、貴女の血に刻まれし鬼の禍、憎しと思うなら、受け継がれし技術でお金に変えて楽園を造るのよ、弐宮苺(にきゅういちご)の源氏名を授けるわ、そちらの西クロシヤ(五〇)引退で貴女の席があるの。語りかけてきた浅井千代女を取り囲む五人の女達、五鬼を見る。はい、と涙流し、生まれて初めての愉しい月日流れ、今、浅井千代女の周りに残る五鬼はその弐宮苺(三〇)と柵虹那奈(さくにじなな、四〇)だけだ。今朝殺害された紫矢弥衣潞(しややいろ、五〇)の遺言は、一路ゆくは三人迄。殺害現場で弐宮苺は両拳固く握りしめて言う。千代女さまを死なせはいたしません、次はこの私が千代女さまの匂いを身につけ犯人を誘いだし返り討ちにしてやります、これまで通り千代女さまは、五鬼にはできない私達鬼の禍の力を強める祈祷にどうか専念してください。浅井千代女の頬に涙が伝う。紫矢弥衣潞の形見の側に六歳の娘が一人。この災い突如訪れ、犯人の心当たりなく、志那成斗美が相打ちにし病院で死亡したという佐々木幻弐が何者なのかも分からない。不気味であったが浅井千代女は思う、そもそも私達がこの現世において得体知られていない存在なの、それに。相手は私達より強い、と震える。市川敬済に連絡を入れる。丑三つ時に市川敬済が女と帰宅、玄関騒がしく、津軽塗の黒地に白い桜が控えめに描かれた高さ一尺程のテーブルに女が横たわる音がする。自室でスマホを触っていた高校一年生の市川忍、悠里と帰ってきたのかあの女嫌いだな、と不機嫌になる。脳裏から仟燕色馨の声、きみの父だが今着信があり通話している。女といるのに別の女と喋ってるのそりゃあ母も出ていくよ。連続殺人の件だ探偵仲本慧の名前も出ている。いつも大人達は都合で何か企んでいて不快だよ。翌日、暑し。ホームルームの前に近寄ってきた同級生渡邉咲が、低血圧以外の何物でもないローテンションでいつもより元気な声で市川忍に話しかける。事件は解決してなかったのよ、貴方のお知り合いの探偵、仟燕色馨の出番じゃない?
蜃気楼の境界 編(七)
境迷
 昼か、はた、ゆめの夜半にか、北原白秋「邪宗門」の一節に紛れ込んでいた六角凍夏は国語教師茨城潔に当てられて、地獄変の屏風の由来を申し上げましたから、芥川龍之介「邪宗門」冒頭付近をちらと見、朗読し始めるが、正義なく勝つ者の、勝利を無意味にする方法は、いまはただ一つ、直ちに教師が、むすみその「邪宗門」は高橋和巳だ、遮ってクラス騒然となる。六角、先生、界をまたぐは文学の真髄ですと逸らす。教室の窓から体育館でのバスケの授業を眺めていた市川忍に、脳裏から仟燕色馨の声、百人町四丁目連続殺人事件、慧探偵事務所の手にかかれば一日で解決する探偵はあの少女が呟く数字で結論を読みとるからだ朔密教での一件はそういう話だっただろう。それじゃあカジョウシキカ勝ち目が。否あの少女がいかなる原理で数字を読むか今わかった。その時、教室の背後から長い竹がぐんと伸び先端に括られた裂け目が口のごとき大きな提灯、生徒らの頭上でゆらゆら揺れる。「百器徒然袋」にある不落不落(ぶらぶら)を空想した六角凍夏の机の中に古びた筒。不落不落を唯一感じとった仟燕色馨、市川忍の瞳を借り生徒らを見回す。何者だ。その脳裏の声へ、何故だろう急に寒気がする。界か少女は先の「邪宗門」のごとく数多の界から特定している市川忍クンきみはこの連続殺人事件どう思う。昨夜の父の通話を聞くに麻雀ラウンジ千代女のスタッフが四度狙われるから張り込めばだけど犯人佐々木幻弐死んでも事件は続いたし組織か警察もそう考えるだろうから現場に近づけるかどうか。吊り下がる口のごとく裂けた提灯に教師も生徒も誰も気づかず授業続く。休み時間スマホで調べた麻雀ラウンジに通話。まだ朝だ、出ないよ、休業中だった筈だし。仟燕色馨は通話先を黙し耳に入れ続ける。浅井千代女らは、魔かそれに接する例えば鬼か、ならば逞しき彼女らが手を焼く犯人も、人ではないと推理できよう恐らく一人の犯行による。驚き市川忍、犯人が死んだというのに犯行は一人だって。きみは我が師仟燕白霞のサロンで幼少時千代女と会っていたことを忘れたか父と古く親しい女性は皆その筋だろう。側に、一人の同級生が近づいていたことに突然気づき、晴れてゆく霞、市川忍は動揺する。渡邉咲が、不思議そうに見ている。
 柵虹那奈、と雀牌散らばりし休業続く麻雀ラウンジで浅井千代女が呼びかける。はい千代女さま。志那成斗美あの人の槍槓はいつだって可憐で美しかったわ、五藤珊瑚あの子の国士ができそうな配牌から清一色に染める気概にはいつも胸を打たれていたわ、紫矢弥衣潞あの方の徹底して振り込まない鬼の打ち筋には幾度も助けられたわ、三人とも亡くしてしまった、弐宮苺は私達を守ると意気込んでいるけどあの子を死なせたくないの。ラウンジを出て一人、浅井千代女は市川敬済から聞いた池袋北口の慧探偵事務所へ出向く。雑居ビル、銀行かと見紛うばかりの清潔な窓口が四つあり小柄の女性職員田中真凪にチェックシート渡され番号札を機械から取り座る。呼ばれると先の職員の姉、同じく小柄な三番窓口女性職員田中凪月が青森訛りで対応するがシート見てすぐ内線で通話し真凪を呼び千代女を奥へ案内させる。無人の応接間は中国人趣味濃厚で六堡茶を口にしながら十分程待つと仲本慧現れ、異様な話は耳にしている我が慧探偵事務所に未解決なしさ安心して、笑顔に厭らしさはない、依頼費は高くつくけどね。千代女は私達に似てるわと思う、職員は皆日本人名だが大陸の血を感じる、理由あってここに集い共同体と成っている、市川敬済とは昔SMサロン燕(えん)で業深き運営者は仟燕白霞に紹介された、世俗の裏側で通信し合うルートで辿り着いた此処は信用できる。受け応えを記録する仲本慧に着信が入り中国語で喋りだす。六堡茶を喉へ。探偵職員二名曰く、監視対象の市川忍が早退し校門前で謎の探偵仟燕色馨と通話していたという。仟燕色馨が仲本慧に仕掛けた誤情報だが、千代女を上海汽車メーカーの黒い車に乗せ吉祥寺の麻雀ラウンジへ。市川敬済はその謎の探偵にも件の連続殺人事件を探らせているのかなぜ子の市川忍が連絡を、空は雲一つない、SMサロン燕は五年前の二〇一一年に閉鎖し今は仟燕家のみその調査は容易ではないが必要かすぐ崔凪邸へ行くべきか。麻雀ラウンジのドア、鍵開き、僅かな灯火の雀卓で盲牌していた柵虹那奈、差し込む外光より、冷気識る。現れるは、病室で死に顔さえも確認した、佐々木幻弐である。上海汽車メーカーの黒い車は崔凪邸に着く。少女崔凪は、使用人二人と土笛づくりをして遊んでいる。
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【音版 渦とチェリー新聞】第27号 へ続く
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仟燕色馨シリーズ 全人物名リスト
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yuupsychedelic · 2 years
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詩集『人類再考』
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詩集『人類再考』
1.菜の花 2.Goodbye Letter 3.名もなき少年との恋愛 4.やさしい君へのレクイエム 5.小さな 6.じゃあね 7.おひさまのような愛情で 8.栄光へのOvertake 9.人類再興 -Human of Renaissance- 10.私的デカダンス論 11.お子様たちのハイ、チーズ! 12.そして旅は続く
1.菜の花
なぜ私は貴女の事を嫌いになったのか 自問自答しても今はわからない それはきっと気まぐれなんかじゃないだろう 今は失恋のくやしさに涙を流している
��陽に棲む女神よ どうか慰めておくれ 東京の街でひとり佇む 私のことを慰めておくれ
菜の花が咲く季節に 貴女を好きになり 何度も恋をしたけど いつしか離れていった
ふたりの関係は今でも 言葉にできないが 若き日の良き思い出として 語っていくことだろう
今夜は泣いていい 涙の河に浸っていい
さあ失恋の事など忘れてしまおう 貴女を思い出す度泣きそうになるから この素晴らしき思い出を忘れなくてもいい 二人はホンの少し合わなかっただけだ
時を司る神よ 夢を叶えておくれ 時を戻せるなら 今度は上手くいくはず
菜の花が咲く季節に 悲恋の雨が降る 安らかに眠れと言わんばかりに 歌え恋のレクイエム
ひとりでいることは 今は慣れないが ふたりだけの季節として 語り継いでいくだろう
今朝は泣いていい 思い出に浸っていい
淋しさに泣くたび 貴女が恋しくなる あんなに憎み合ったのに 何故か愛おしい
さすらいの若者が 静寂の街で 旅人にやさしいエールを 神に願えば
菜の花が咲く季節に 貴女を好きになり 何度も恋をしたけど いつしか離れていった
ふたりの関係は今でも 言葉にできないが 若き日の良き思い出として 語っていくことだろう
今夜は泣いていい 涙の河に浸っていい
菜の花の咲く季節に ふたり恋をした
2.Goodbye Letter
僕のこと いらないって 時々 思うんだ 僕だけが 悩んでる ないのに そんなことさ
かつては ときめいた 言葉も つまらない いつかは 夢見てた 明日が 萎んでく
さよなら 言う前に あなたを 抱きしめる 未来は どこかへ 飄々と 消えていった
だから もう行かない 僕は いずこにも……
僕がいない セカイを 時々 浮かべてさ いなくたって ジダイは ふつうに 回るはず
最初は 見えてた 行き先 もう見えず ただここに 浮かんでる それが 許せない
最後の 葡萄酒は あなたと 飲んだもの もう僕に 未来は なんにも 見えないよ
だから もう行かない 僕は いずこにも……
ただ泣いて 笑って 過ぎれば 良いのに そうさせない 僕の つまらぬ 拘り
要らないのに 消えたいのに
白い絹 ぶら下げて 永訣の日を想う すべては 終わった なにも後悔はない
さよなら 言う前に あなたを 抱きしめる 未来は どこかへ 飄々と 消えていった
だから もう行かない 僕は いずこにも……
抱きしめる 手を そっと 振り払い 世界が 掠れてく
3.名もなき少年との恋愛
茶色の髪が風に靡き バルコニーから海を見つめる いつかの私はあなたを好きになり 何度も夜を明かした
時には少し不器用で 手作りアクセサリーはバリもあった でも微笑みに胸を刺されるように 恋に堕ちてしまったの
浮気なんてしなかったし 誰よりも優しかった でも些細な喧嘩をきっかけに 平穏は崩れていった
最後に身体を重ねた時の 言葉にできない温もりは 愛しあった記憶の河を泳ぎ 過去を思い出そうとしたのか
私には何にも言えなかった あんなに心地良かったのに 何もなかったかの如く 事の終わりには佇むだけ
別れのキスはジントニックの味がした それはあまりに切ない香りで 普段は吸わない煙草をふかし 綺麗な女を演じてみようともしたけれど
ふとした瞬間に泣けてくる そして涙が止まらない あなたの温もりに甘えすぎて 何も始めようとしなかった季節への後悔
最初に出逢った頃のときめき 付き合い始めた頃の悦び 愛し合うまでは永遠のよう 崩れる時は一瞬で 何のために恋をしたのか
私はこの恋をただの思い出にしたくはない せめて友として付き合いたかった あなたの事が今でも好き
最初からあなたがリードしてばかり 狂おしいほど優しくて でも我慢してたんだよね つらかったんだよね なんにも気付けなくてごめん
あなたのいない世界じゃ 私はもう生きてはいけないよ それでも生きていくのだ 生きなければいけないのだ 天国への階段はまだ登れない
最愛の人の選択を ずっと受け入れられぬまま 消えない傷を胸に抱き これからも私を演じていく
演じるしかない 私の愚かさを許してくれ
4.やさしい君へのレクイエム
その友達は「死にたい」がずっと口癖 夜が来る度に私は話を聞いていた ネットで繋がっているだけの希薄な関係 親はそう言うけれど 私が本音を言えるのは 目の前のあなただけ
最後に美しい姿を見せたいからと 花で全身を覆って 街へ消え失せた
涙さえも流れず 立ち尽くすしかなかった ハルノヒ
逢いたい 話したい 泣きたい 信じたい 断ちたい 始めたい 知りたい 愛したい
あなたにもう少しだけ 寄り添うことが出来たなら 殺さずに済んだかもしれない 私がいながら
唯一の友が死んでから数十年の時が過ぎ セーラーからスーツに着替えて 新たな旅に出る 私の人生は一体どこへ向かうのか 話を聞いてくれる人もいないし 恋人だって出来ない
最初に出逢った日のこと まだ覚えてるよ 好きなアニメのアイコンで
言葉から伝わるやさしさに 心があたたかくなった ハルノヒ
逢いたい 話したい 泣きたい 信じたい 断ちたい 始めたい 知りたい 愛したい
あなたにもう少しだけ 寄り添うことが出来たなら 殺さずに済んだかもしれない 私がいながら
死にたい 死にたい 生きたい 生きたい
そのつらさにもし気づけても きっと私には何も出来ない
逢いたい 話したい 泣きたい 信じたい 断ちたい 始めたい 知りたい 愛したい
あなたにもう少しだけ 寄り添うことが出来たなら 殺さずに済んだかもしれない 私がいながら
飛び降りた後に薔薇の香りが 花をついていた 最後に見た横顔は誰よりも 美しすぎて
5.小さな
いつものレストランで ハンバーグを頼むと スープとサラダが付きます
いつも美味すぎて 頬が落ちそうになり 午後の授業は夢の中
あの店は今どこへ? あの人はどこへ行った?
シャッター街の片隅に かつて確かな愛があった
いつかのレストランで 恋人を誘い 誕生パーティーを開いた
ピンキーリングを渡し ピアノを弾いてみせれば あなたの笑顔が眩しいのであります
あの店は今どこへ? あの人はどこへ行った?
シャッター街の片隅に 小さなレストランがあった
あの燃えるような日々の中に 確かな愛を見つけた
あの店のコーヒーも あの店のクリームソーダも
去り際にエールを送るより 日々の一杯を贈ろう 確かな愛を過去にしたくないなら 午後の能天気から始めよう
6.じゃあね
その日は雨だった 玄関にはハイヒール 胸騒ぎがしてドアを開けると ふたりは抱き合ってた
何も言う気にならず 涙を流しても あなたは腰を揺らすばかり こちらに気付きもしなかった
星空を見上げて 愛を誓い合った あの日のやさしさは何処へ なぜ貴方は貴方を殺してしまったの?
話をしようよ 腹を割ってさ 最後くらいは 本音で言ってよ
浮気しても止めないけれど せめて家には入れないで 私を殺すつもりなのか それでも答えは返らない
ある日荷物が消えた 貴方はここからランナウェイ そしてコロナが始まり 新たな恋を探す
遥かなる愛を求め 恋の歴史は深くなる それでも愛には出逢えず 貴方を夢に見る
模造真珠の指環 いつかの贈り物 青春色の記憶は癒えず 今も貴方の面影がコンパス
貴方にサヨナラ 突きつけられるなら 胸に残らない 水に流せるかも
大好きだった狂おしい時間 心から愛してた 胸騒ぎがした日から私は 変わってしまった
あんなに優しい人が 女で変わっていく 私にさえ向き合えないのに 誰と向き合うの?
シャネルのドレスを着た彼女と ヴィスポークのスーツを着た女が 有楽町マリオンの表で メルツェデスに乗り込む
それでもなお 貴方と話したい 別れ話でいい サヨナラが言いたい
貴方にサヨナラ 突きつけられるなら 胸に残らない 水に流せるかも
狂おしいほど貴方を 心から愛していた 愛おしいほど暮らしを 守ろうとしていた
7.おひさまのような愛情で
真夏のようなやさしさと おひさまのような愛しさで 守っていこう 抱きしめていこう あなたのことだけを
北野坂のカフェでふとすれ違った 少女の瞳は大人びていて 自然に惹かれていた
女の子同士だからとか散々言われたけど 恋する気持ちがあればいい 私たちの人生だから
本当のことは誰にも言えず 塞ぎ込んだ日もあった そんな時、静けさを受け入れられる関係 心が少し軽くなった
真夏のようなやさしさと おひさまのような愛しさで 咲かせていこう 育てていこう ふたりだけの花を
真夏のようなぬくもりと おひさまのような眩しさで 羽ばたかせよう 時めかせよう ずっとあなただけを
高校時代はそっと隠していた そんな関係も今や十年 すっかり馴染んだ仲
まるでジーンズのように 時を重ねれば重ねるほど愛おしくなる 私たちは未だ恋をしたまま
親にも打ち明けられず ふたり泣いた夜もあった そんな時、あなたの一言で 心が明日を見上げた
真夏のような正しさと おひさまのような凛々しさで 歩いていこう 見つめあっていこう ふたりの未来を 
真冬のような悔しさと ひまわりのような淋しさは もう要らないよ 私がいるさ あなたを淋しくさせない
ここに誓うよ あなただけが大好き
真夏のようなやさしさと おひさまのような愛しさで 咲かせていこう 育てていこう ふたりだけの花を
真夏のようなぬくもりと おひさまのような眩しさで 羽ばたかせよう 時めかせよう ずっとあなただけを
真夏のような正しさと おひさまのような凛々しさで 歩いていこう 見つめあっていこう ふたりの未来を 
真夏のような悔しさと おひさまのような淋しさは もう要らないよ 私がいるさ あなたを恋しくさせない
ここに誓うよ あなただけが大好き 一生この先も
8.栄光へのOvertake
あと一秒、届かずに…… ひとり涙流す君 向かい風に負けずに 走り続けてきた
雨の日も雪の日も 強い日差しの日も どんな日も挫けずに 走り続けてきた
最後の全国大会 あの禍で失くなり 絶望した先輩の姿見て 勝つことにこだわり出した
挫折も栄光も背負い 伝統の襷を繋ぐ ランナーたちのその胸には それぞれの未来がある
曲がりくねった道の先 たしかに繋いだエール どんな結末が待とうとも 友よこの風に乗り走れ
限界を、信じるな…… 先輩の使命を継ぎ 大切なものを掴むため 走り続けてきた
仲間たちの「頑張れ!」や 「ファイト!」の声聞こえる 最後のパワーを振り絞り 走り続けてきた
誰もが行く宛を失い ただ夢中で走った冬 微かな希望も潰えたまま 春を待ち続けていた
夢も悔しさも背負い 仲間の意志を繋ぐ ランナーたちのその胸には それぞれのプライドがある
幾多のドラマの先 たしかに見えたゴール 目の前の一歩踏み出し さあ明日に向かって駆けろ 我よこの風に乗りOvertake
限界を越えた先に それぞれのモードがある たしかなことはこの一瞬が 未来を決めること
挫折も栄光も背負い 伝統の襷を繋ぐ ランナーたちのその胸には それぞれの未来がある
曲がりくねった道の先 たしかに見えたゴール いつか見た夢をこの手で 一歩で掴み取る 友よ見ていてくれ Overtake!!
9.人類再興 -Human of Renaissance-
パンデミックの嵐が 世界を覆ってゆく 指導者は慌てふためき 群衆はコンパスを喪う
風の時代に僕らは 何を持てばいいのか 誰も答えは出せない 出せるはずがないのさ
遥かな愛の中に諍いが生まれ やがて憎み争い 神が人を見捨てるその前に
人類再生の波が世界を変えてゆく まっさらな言葉で何もかもやり直そう 大事なものはあなたが見つけるしかないんだ 躊躇っていては渡れない 虹の先の夢を目指して
忘れかけてた貪欲さをもう一度思い出せ 第二の創世記をここから
アダムとイブの伝説 あなたは知っているかい? 今はその時以来の 新たな時代の予感
勝つか負けるかなどではなく どう生き残るかなんだ 豊かさを決めるのは あなただけの感覚
世代の壁が理想に立ち塞がる やがて現実を知り 勇気を忘れるその前に
人類再生の波がカンバスを染めてゆく 過去の常識もここじゃ通じない 欲しいものは自分自身で掴み取るんだ 諦めていたあの頃なんか もう気にしなくていいのさ
倒れたっていい 何度でも立ち上がれよ 第二の創世記をここから
死を選ぶ前に やりたいことに素直であれ
錆びついた腕と 凝り固まった思想が 何かを始めようとする 自分に嘘をつく
やらなかった後悔は いつ何処で気付くのだろう 気付く前に死を選ぶのか それとも気づかぬフリをするのか
十七番街のラッパーが フリースタイルで社会を斬 ロックダンスの熱狂は何を語り どこへ人を導くのか?
人類再生の波が世界を変えてゆく まっさらな言葉で何もかもやり直そう 大事なものはあなたが見つけるしかないんだ 躊躇っていては渡れない 虹の先の夢を目指して
忘れかけてた貪欲さをもう一度思い出せ 第二の創世記をここから
倒れたっていい 何度でも立ち上がれよ 第二の創世記をここから
死を選ぶ前に やりたいことに素直であれ
人類再生の波 新たな時代の予感 最初で最後の Human of Renaissance……
10.私的デカダンス論
泣くことに疲れた私は 街でいちばん寂れたファミレスへ そこなら恋人もいないかなって お酒も煙草もまだ吸えない だから食べまくることにした
でも目の前には恋人達 男は女にルイ・ヴィトンの鞄を贈る 微笑みを浮かべているが その眼はひとつも笑っておらず ふたりの未来がなんとなく予想できた
思えば私たちもそうだった お互いに明日へのオールを漕ぎすぎて 小波すらも乗り越えられない関係 それが私の恋愛における限界値ならば もはや恋をしてはいけないんだろう 辛い夜も悲しい朝も 貴方がいたから生き延びられたのに
女はティファニーの指輪を密かに見つめる ミルクを手に取った瞳 決して明るいものとは言えなかった いつかの私たちと重ねて とりあえず同情してしまう私 あまりに情けない気持ちに駆られて 大盛りのカルボナーラをただ掻き込んだ
帰り道はもう夜明け前 始発電車で家に帰ろうとした でも両親とはもう逢いたくなくって 友達に電話したのは 失恋の傷を舐められなくするため
そして恋を純情だと信じる人たちに 私はたやすく捕まってしまった 無表情な怒りと演技質な涙 もはや何とも感じなくなった いつか縁を切れるならそうしたいけれども ひとりじゃ生きていけないことが悔しい 少女が大人になること 宿命的なそれ
風はジョー・ディマジオのよう 新たなる旅がここに始まってゆく
11.お子様たちのハイ、チーズ!
【Side A:少年の後悔】
もう逢えないとわかっていても サヨナラは言えない 言えはしない……
少女は少年の三歩先を行く 空を掴もうとしても 掴めないように 目の前で微笑みを浮かべながら 僕らを惑わせている
かつての僕は身勝手過ぎて 何も見えなかったのさ 今更理解っても遅過ぎるけれど 後悔に遅過ぎることはない
クリスマス前の鋪道を歩く 恋人達は憂いを知らない 最初の接吻も最後の性行為も 今や過去の思い出
真夜中の街は静か過ぎて 僕の本音を見透かしているようだ 何を言おうとも 粗末な言い訳に過ぎないけれど 今日くらい言い訳のひとつ 友よ黙って聞いてほしい
少女はなぜ笑うのか それは淋しさや悩みを秘めるため 笑顔の裏側にあるものに 男は気付けぬまま 別れた後(のち)に気付くもの
クリスマス前の鋪道で抱き合う 恋人達よ憐れみは要らない 最初の恋も最後の愛も 今や過去の季節
【Side B:少女の懺悔】
私もあなたのことが見えなくて 別れ際に流した涙に なぜ気付けなかったのか 悩んでいるなら言ってくれればいいのに
でも貴方には言えないって 私がいちばんよく知っている
やさしいから いとおしいから
運命のどこかに ふたりが描く未来があるなら 倖せになれたはずなのに
インスタグラムに 友が恋人と写真を撮っていた もはや嫉妬すらせず 静かに「いいね!」を押して 涙をそっと拭う
見栄やプライドばかりの人生 もう終わりにしたいのに 新たな恋を求める私がいる
涙が止まらないのに つまらない冗談に微笑みを浮かべる 私は一体何者なんだろう?
12.そして旅は続く
マルーン色の電車に 夕陽がつくるコントラスト 嬉しさと切なさ……ひとつまみ 何故か泣き出しそう
恋とは縁もない なぜか恋が好きな君 ほんとは淋しいのに……ひた隠し いつも本音を言わない
乗換駅のスロープは 疲れた星屑で埋め尽くされ 階段で年齢を隠しながら 君は君で居ようとする
おもしろいことが大好きなのに ずっとつまらない君が嫌いだ 時に流され人に埋もれて いつか自分を失っていくのか
そして旅は続く 君がピリオドを打たぬ限り それが人生……君という名の旅 風の吹くまま
黒いバックパックと 蒼いジーンズを履き 楽だからと嘘を……ひとつまみ 現実から逃げてただけ
お洒落になりたいからと お洒落を気取り コンサバが好きなのに……ひた隠し アバンギャルドを装う
最後に本音で話したのは 何年何月のいつだろう 星は瞬き命は墜え 心が死んでいく
サヨナラさえも言えないまま 大切な人と縁が切れて いつしか孤独を愛すと言い訳して ��とりになった君を想う
鬱にもハイにもなったけれど 今は何も残らない 頼れる人などいない 君だけの人生
そして旅は続く 君がピリオドを打たぬ限り それが人生……君という名の旅 風の吹くまま
気分を出してもう一度 タイムマシンに願えるなら ほんの少しマシな人生が送れたのか それとも同じ人生か 自由への長い旅がサヨナラの手紙なら
おもしろいことが大好きなのに ずっとつまらない私が嫌いだ 時に流され人に埋もれて いつか自分を失っていくのか
そして旅は続く 私がピリオドを打たぬ限り それが人生……私という名の旅 風の吹くまま
やっと出逢えたんだ この淋しさを 抱きしめてくれる人に 私が私のまま 生きてていいんだと気付けた
詩集『人類再考』クレジット
Produced by Yuu Sakaoka Co-Produced by TORIMOMO, Yurine, Sakura Ogawa
Written by Yuu Sakaoka Drafted / Co-Written by TORIMOMO(No.3,6,9,11), Yurine(No.4,9,10), Sakura Ogawa(No.7,9)
Designed / Edited by Minoru Ichijo Photo by Julius Yls(Unsplash)
Written / Edited at Yuu Sakaoka Studio, OCoM D101, OCoM Pause, Kitanozaka / Umeda / Sannomiya Starbucks, Kakogawa Tully's Coffee
Respect to KAZUHIKO KATO, KAZUMI YASUI, TAKURO YOSHIDA, THE ALFEE, HIKARU UTADA Dedicated to my friend, my family, and all my fan!!
2023.2.10 坂岡 優
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meisyoufutei · 2 years
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迷子ノ廻 仮
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遭遇
『早く帰りたい…寝たい…』
スマホの時刻盤は午前一時を当に過ぎていた。
その日、いつも使っていた道は下水道工事で通行止めの規制がされていた。
迂回路はあるにはあるのだが、正直あまり通りたくない。
何故なら
あの通りには曰く付きの神社があるからだ。
あの神社には
『深夜に現れる狐のお面をした化け物に遭遇すると神隠しに遭う』という言い伝えが存在する。
俺はこの手の話がどうにも苦手だ。
しかし理由はそれだけじゃない。
今年の4月に来たばかりだが、昔からこの町の神社付近で行方不明事件のニュースが後を絶たなかった。
皆、あの神社に一度参拝した後に消えているという。
しかもここ最近、印刷したばかりの捜索願いの張り紙が日に日に増えてきている。
霊にしろ愉快犯にしろ、あの道だけはなるべく通りたくなかった。
こんな夜更けなんかには特に。
しかし、他に通り道がない。
ネットカフェのある隣町までは歩いて20分かかる。
残業明けの鉛のような身体でそこまで歩き続ける余力など、これっぽっちも残っていなかった。
重だるい脚を無理やりに動かし、仕方なく雨に濡れる神社の通りを進む。
すり足気味の足音と冷たい雨音だけが耳に響く。
言い伝えもあってか、この時間の神社通りには人どころか車の気配すら無い。
家の灯りもほとんど消えて、オンボロな街灯だけが、雨粒に揺れる夜道を照らし続ける。
少し頭を上げれば、モンタージュのような建物越しに、顔を覗かせる赤黒い雲が不気味に漂っていた。
不気味な世界に酷く嫌気がさして視線を逸らした途端、暖かみのない、ひどく冷え切った暗闇が視界を覆い尽くした。
終電帰りも慣れてきたはずなのに
この通りは何かが違った。
まるで自分一人が異質な静寂に閉じ込められている、そんな錯覚を嫌でも覚えてしまう。
ふと煌々と照らす光に、ぼやけた視線を凝らすと、駐車場の看板が辺りを照らしていた。
その看板の下の自販機の前で、見慣れない雰囲気の人影が佇んでいた。
(え…誰かいる………、なんでこんな時間にこの通りに居るんだ…?……。)
更に視線を凝らしながら前進すると、お面を被った浴衣のような姿の白髪の女性だと気づく。
ハエのような虫が飛んでいるように見えた。
(何か飛んでる…ハエ…?…影も…動いてるような………)
…丁度自販機前まで近寄った。
精巧に作られたお面と、それにそぐわないボロボロの容姿をした、老婆のような、若者のような、奇妙な姿のそれはじっとこちらをみていた。
威圧感で足が動かしにくい感じがした。
雨粒に濡れたお面がずり落ちた直後、九尾の尾のようなモヤが背後から出てくる。
その表情は何処かで見たことのあるような雰囲気を醸し出していた。
次の瞬間、顔の辺りにおぞましいそれが浮かび上がる。
「…!、!?ひ、…ぃあ……あ…!?!?」
(…!?…ぁあ、狐、、、??ぇ、、逃げ、にげない、と、…、)
干からびて腐りかけたような顔面に無数の瞼がメリメリと浮かび上がる。
グトリと瞼を開くとぎょろぎょろと辺りを見回し、俺の姿を見るや否やその目は、狙いを定めたかのように見開いて血走った。
心臓の裏から襲い来る酷く煮詰まった憎悪に急かされるように、すぐさま逃げ道を探す。
(他に迂回路は?こいつを撒くには?家の向こうには何かあった?全然わかんねえクソッ!!動け動け動け動け動け動け動け動け!!!)
連日の残業と寝不足で止まった頭を無理やり働かせる。
しかし、どうやっても家に逃げ帰る以外の策が思いつかない。
(クッソ!!!全然思いつかねえ…!!!)
もうすぐアパートに着く。
ここで通り過ぎたら絶対戻って来れない。
もう体力が残っていない。
半ばヤケで直帰した。
脚が重い。それでも走らなければ、あれに襲われる。そんな予感だけを頼りにひたすらに走る。
アパートの階段を1段飛ばしで駆け上がる。
足が異常に重い。
ここで速度を緩めたらあいつに追いつかれる。のに。
思うように足が上がらない。
ようやく扉の前まで着くと、震える手で鍵を探した。
(はやく、逃げなきゃ、塩、しお撒かなきゃ、)
早くしないとあいつに追いつかれる。
恐怖と焦りでなかなか見つからない。
(ぁ、あった、あった、鍵、…ックッソこういう時に限ってッ…開けよッ…!!)
ようやく探し当てて震える手で鍵を回そうとした。しかし鍵穴が古くて上手く回らない。
背後からはまだあれの気配を色濃く感じる。
殺される。早く開けないと。
ますます手は震え鍵穴に鍵が入りにくくなる。
(ッ……!開いた、)
もう片方の手で震えを強引に押さえつけ、なんとか鍵を開けることに成功する。
無理やりに引き抜くとすぐさま少し開いたドアの隙間から身を捩りすぐさま戸を閉める。
(あいつが入ってくる、見られる、閉めないと、あと、あと、)
他の窓も全て施錠を確認し、遮光カーテンをしてお清めの塩を自分と辺りに撒く。
「ッッっハァ!!ハァ!、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…けほ、けほ、は、は……は〜〜…けほっ…ケホ、……ハァ……スゥ〜〜…………。」
玄関先で崩れ落ちると、思い出したように叔父からもらった数珠とお札を手にして、昔教えてもらった念仏を早口で唱える。
『不安になったとき、これを手に持ってお祓いの念仏を唱えて、深呼吸しなさい』と、母が倒れた年に叔父から教えてもらったお祓いの行法。
もう念仏まで丸暗記していたから、早口で唱えるなんて造作もなかった。
「祓い給い清め給え神(かむ)ながら守り給い幸(さきわ)え給え、祓い給い清め給え神ながら守り給い幸え給え、祓い給い清め給え神ながら守り給い幸え給えッッ」
「はぁ〜ぁハハ…は……ぁ〜〜ー…。」
一通りの儀式を終え、髪をかきあげるように顔を覆うと、途端襲いくる疲労に崩れ落ち、そのまま膝を抱え視界を遮断した。
(あれは、なんだった、?、目、お面、しっぽ、なにあれ、まるで、あの…言い伝えの…。…なんで…、藤田さんみたいな…顔…、…して…。)
(いや……見間違えた…だけだよな…都市伝説なんか…あり得ない…。)
(でも…もし……。…あぁだめだ、また不安になってきてる…。)
(ちゃんと教わった通り塩撒いたんだ、あれに遭うことなんかない。)
そう言い聞かせて、重だるい体を引きずり、流しで手を洗う。
穢れを落とすように、入念に洗う。
今日できたばかりの指先のささくれに石鹸が染みてシクシクと痛んだ。
いつものくせで実家から持ってきた使い古しのやかんに水道水を注ぐ。
水の溜まっていく音が思考を揺する。
(あれ…やっぱり…藤田さんに似てる…なんで…?そういえば子どもいたっけ…あの子も見かけなくなったような…最後に会ったのっていつだろう…よくスーツの人が家の前にいたような……あれって…)
やかんの取っ手がいつもより重いと気付いてすぐさま思考が止まる。水を入れ過ぎた。
余分な水を捨て、やかんに火をかける。
「カチャンチチチチチチボッチチチチカチャ」
テーブルの近くで腰を下ろし、スマホに充電プラグを刺すと先程の続きを考え始める。
(…そういえば子どものはしゃぐ物音すごかったな…母さんも昔俺の暴れ方凄くて周りから虐待なんじゃないかって疑われてたとか…言ってたよな…。大変だったろうな藤田さん…。)
隣人の部屋からは昼夜問わず子供のはしゃぐ音が聞こえてくるのがいつもの日常だった。
しかしいつからかその音もなくなり、誰かの泣き声とヒステリックな声がたまに聞こえる程度になっていたのだ。
いつもならこんなこと覚えているはずがないのだが、処方された薬が合わないのか効きすぎているのか、芋蔓式に思い出してくる。
ーーー
「やめてください、うちは関係ありません!」
『近隣住民からこのような申し出がありましたので、お子さんだけでも見せていただけませんか?』
「隼人は今祖母の家に預けているって言ってるでしょう!?もう帰ってください…!」
その日から、隣人の玄関口にはスーツの人間が顔を覗かせるようになった。その度隣からはヒステリーを起こした声が夜な夜な聞こえてきた。
それからしばらくして子どもの姿は見なくなり、大家さんの催促が定期的に来るようになっていた。
あのスーツの人は児童相談所の人なのだろうか。…そういえばいつからか隣人だけが出入りしていた。
その頃から隣人は次第に雰囲気が変わっていった。チラリと見えた部屋の中は、玄関口からでもわかるくらいゴミが溢れていてハエが舞っていた。
おそらくだが、心労が祟ってまともな生活が送れなくなっていたのだろう。俺の実家もまさしく似たような時期を経ていたので、その辺りの事情は手に取るようにわかってしまう。
最後に隣人を見かけた時は、あれで良く生きていられると思うほどひどくやつれ細った身体になっていた。
(でも……どうして…あれが藤田さんと似た姿をしてたんだ…?)
頭が焼き切れそうなのに頭が勝手に回転する…空回りが続いて煮詰まった直後。
『ヒュリュゥゥヒュウゥウヒュルルルルゥウピィィィィィイイイイイイイイ』
やかんの甲高い音が鼓膜をつんざき、急に現実に戻る。
考えすぎたせいか、頭が締め付けられるように痛くなってくる。
たまらず重い身体を動かして火を止める。
麦茶のパックを菜箸でくるくると回すと、コンロ横に置いたコップに出来上がった麦茶を注ぐ。
「…ンツッ…!」
氷を入れ損ね舌を火傷した。
舌先と下唇がジンジンと痛む。
先程考え過ぎたせいか、うまく頭が働かない。
冷蔵庫の製氷室をのぞくが氷は無かった。
熱い麦茶が入ったコップをベッド近くのテーブルに置く。
ここに来て風呂に入り忘れたことに気づき、忘れていた倦怠感が一気に戻ってきた。
動けない…。鉛が全身に詰まったみたいだ…。
たまらずベッドに横になった。
(……昔婆ちゃんに教わった通り、…やったんだから、…絶対、大丈夫…。大丈夫…。)
麦茶が冷める頃には、目と鼻の先のコップを取ることも出来ないほどの倦怠感と眠気がのしかかっていた。
(……ぁ〜……さっさと寝よ。忘れよ。だいじょぶ…何も起きない…。ぁ…薬…。)
ここにきて薬も飲み忘れていたと気づく。
急いで起きてカプセル錠を口に放り込みお湯で押し流す。
(…疲れた……。)
そうして重たい瞼を無理やりに閉じる。
薬のせいだろうか。それともあの悪夢のような出来事のせいだろうか。
鼓動が早まり、瞼の裏でまた思考が暴走を始めたのは、その直後だった。
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shukiiflog · 6 months
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ある画家の手記if.?-8 雪村絢視点 告白
朝起きたら乾ききった大量の血でベッドのシーツはシワになったまま固まっちゃってた。 してる間ずっと端によけてた布団は無事、だけど血痕が、床にも壁にもそこらじゅうに飛んじゃってるから、大掃除して色々買い換えないと。前の家にいた頃、完全に乾いた布とかの血を洗って落とすのは至難の技だったから無駄に時間消費してないで血で汚れた���のは丸ごと捨てちゃってた。今は綺麗に落とせる洗剤とか売ってたりするかな。 部屋やベッドはひとまず放置して先に人体。
二人でお風呂にお湯をためて使いながら、弱く出したシャワーで派手な血の跡を体から軽く流して落とす。真澄さんの背中はまだ生乾きの部分もあったから、広範囲の傷自体を流したりはしないでおいた。 少し思う、真澄さんってどこか…弱い? まったく同じように転んで同じように怪我しても、出血が激しい人と滲む程度にしか血も出ない人といる。血圧とか血液量とか血液の凝固のスピードとか皮膚の違い? 理人さんは後者に近くて、血みどろになるような日はもっと激しい暴力があった日だった。真澄さんの派手な出血量と凝固の遅さが気になる。元からの体質がこうじゃないなら、体が弱ってるか深刻な病気の可能性もある。 「……」 体を拭いて着替えて、リビングのソファに座って真澄さんに両手の指の手当てをしてもらう。真澄さんの背中を手当てするには俺がまともに指使えないと話になんないし。 俺の指は包帯とガーゼで綺麗に巻かれた。とれた爪はどうにもなんない、割れたり指に刺さった爪を丁寧にピンセットで動かしながら処置された。出血が止まるのが遅いのに痛覚は鈍い、俺も弱ってる。
次は俺の番。真澄さんの背中、まだ生乾きだから止血帯大きく貼ろうかな…とかやり方考えてたら、インターホンが鳴った。約束の時間より少し早いけど、たぶん香澄だ。今日デートの約束してたから。 「…。」 「……」 真澄さんと顔を見合わせる。 この状況を今からバタバタ隠そうとしてもな、寝室見られたら事が起きた��所は一目瞭然だし、背中の怪我、いろいろと言い逃れるのは無理。香澄がどこまで察するかだって分かんないんだし、とりあえず下手に取り繕うのはスッパリ諦めよう。 鍵を開けて香澄が来るのを待つ。 ドアを開けて入ってきた香澄は、まず俺の指を見て唖然とした。 「香澄おはよ~。キッチンにハーブティーあるから飲んで待ってて。今手が離せなくてさ。すぐ終わるから」 いつものちょっと気怠げなような穏やかなようなゆったりした口調で話す。以前よりさらに口調から覇気が抜けた。ここも省エネ。 場に緊張感がないことを香澄に示すためにあくびとかしながら、玄関からリビングのもといたソファの位置にぽすっと座って、真澄さんの手当て続行。 香澄は紅茶も入れずソファにも座らず、俺たち二人を見ておろおろしてる。明らかに自分も何かをすべき状況に見える、でも何をすべきか何もわからない、ような感じかな。ごめんね、話せること、今回はすごく少ないんだ。 「ど…したの…その、怪我…」 香澄のほうに微かに走る緊張感と不安と恐怖、いつも通りを徹底することでこの異常事態を平常に錯覚させるとか俺にできるかな…真澄さんの協力があればできるかな。 「どれも病院行くほどのやつじゃないから。そろそろ終わりそうかも。香澄、俺の部屋からコート取ってきて~」 「うん…」 二人とも処置が終わって怪我をいつもの服で覆い隠して、ぱっと見だけでも装って、香澄の目につく頻度が落ちれば少しは気にせずに楽しく過ごせるはず。…楽しい記憶を、幸せな記憶を一つでも 多く香澄の中に遺したい
香澄が俺の部屋にコートを取りに行ってる間に、痛まないようにそっと真澄さんの背中に頬を寄せてすり寄った。 本当は傷を労わって今日はずっとそばについてたかった。でも俺も指を怪我してちゃきっと大したことできないし。もともと今日は香澄と約束してた。それを前日に事態をこじらせたのは俺だ。 昨日はずっと予想外のことが続いたけど予想外のことが起きる可能性には前もって思い到れたはずだ、踏み込んだ話をするんだから。俺がもっとスケジュールに余裕みて真澄さんと話すべきだった。 ソファから立ち上がったらコートを体にかけてくれる香澄と二人で玄関に向かおうとして、真澄さんのほうを振り返る。「絢…」呼ばれて香澄のほうを振り返る。定まらない視線が二人を交互に行き来した末に、床に落下した。 こんなのは嫌い。 とどめられなかったどうしようもなく溢れる感情の発露とか、それで泣いたり怒ったりとか、体力いるから苦手だけど嫌悪してるってほどじゃない、特にこの家に来てからは、なるべく自分の素直な感情を圧し殺さないって決めたから。 でもこれは、そういうのとも違う。二人の間でどっちにするのか俺はどうするのかうじうじ俯いて悩んで、二人に決めてほしいアピールみたいで鬱陶しい… 「光を迎えに行くからそこらまで乗ってくか」 真澄さんが言い出してくれた。怪我させといて、また助けられてる…。 この場で俺が一番呑気でいい身分なのに。怪我も少ないし、ひどく詰られた訳でもないし、香澄みたいに事態の詳細がわからないまま俺も真澄さんも両方の怪我を心配してなくてもいい。 視線だけ俯いたまま動けずにいたら、頭にスポッと帽子被せられた。 「まだ家に居るんなら先に出るよ。もし出掛けるなら戸締まりしといて」 いつも通りの真澄さんに、背中の怪我は?って訊こうとして、結局訊けないまま俺も香澄も、さっさと廊下の横を通り過ぎて玄関から出ていく真澄さんの背中についていった。 「香澄、せっかくだしピアスのお店の近くに降ろしてもらおーよ。歩かずに済むし」 駐車場まであくまで笑っていつもみたいに歩きながら、先を行く俺の手を取ろうとした香澄が手をとめた。俺の指が痛むのを心配して。 香澄はいつも必要なときは真澄さんと接してるけど、多くを語る気はそんなにないみたい。これまでがこれまでだから、ってのは香澄の記憶の欠損で成り立たない。あるいはその欠損がギリギリ今の関係を保ってる、こっちかな。二人からは馴れ合いたくないというより不要に馴れ合えないみたいな、磁石のプラスとマイナスみたいなのを感じる。心配してることくらい語っていい気がするけど。 「今日は香澄が運転したら?うちの車、運転そんなに難しくないと思うよ」 暗に込めた意味をこれくらいなら香澄は十分察する。 「えっ うっうん…いや、あの」 「…」 察したせいで狼狽えてる。でもやっぱり詮索はできない。怪我の理由も、何があったかも。 俺は昨日の真澄さんとのことは、感情面や会話内容やしたことまでは詳しく話したくない。事実関係ならバレても平気だけど、…でもどこから寿峯に伝わるか分かんないし、知られればそこで寿峯の中では終わるって思うたびに、追い詰められるような、常軌を逸した悪いことをしてるみたいな気がして なんでそうなるのか分かってるけど解らないのがもどかしい、なんだって反論なら簡単だけど信じるものが違えばこうなる、多くの人が信じるものを寿峯も信頼してるから社会を形作る信頼を損なうなって指を指される俺は 悪者じゃなくて、ただの少数だよ。少数だってことを悪にするのが、悪だ。 「保険適応さしてねえからお前はだめだ」 「ち、ちがう!」 俺がごちゃごちゃ考えてる前後で真澄さんと香澄が言い合いしてる。ちょっとだけいいなとか思ったり。 「兄ちゃん怪我してるんだから運転はしちゃだめでしょ。車の運転は責任重大だよ!」 「お前話聞いてたか?大した怪我じゃねえって絢がそう言ったろう」 「うぐ…。…でも絢は兄ちゃんのこと心配してるよ」 「…」 三人で車に乗る。運転は真澄さんが緩やかに押し切った。 店の近くで二人で車から降りた。
いつもみたいに香澄の腕にまとわりつかないで、香澄の指先を包帯だらけの指先でキュッと軽く握った。香澄が俺のほうを見る前に、横顔で小さく呟く。 「俺、真澄さんのことが好きなんだ」 「……」 光さん、ごめんなさい。 家庭内だけに関係も事実もとどめて絶対外に漏らさないことで、誰からも許されなくても結実する関係だって。俺の想いを認めて、迷う俺に道を示してくれた、その条件が誰にも言わないことだったのに。 黙って静かに聞いてる香澄は”好き”の意味をちゃんと理解したかな。もっと小さな囁やくような声で付け足す。 「…まこには内緒にしてね」 眉を下げて、悲しく微笑む。 香澄も小さく「わかった」ってだけ答えた。 寿峯と一度少し似たケースで揉めた香澄なら責めないでいてくれるかも。直にぃとだけ結ばれたい香澄には理解不能で呆れられるかも。香澄も直にぃも愛す情香さんのことを知ってるから静かに納得してくれるかも。 俺は香澄にどれだけのことを求めてるんだろう。俺に守らせてくれるなら、俺の願いはたったひとつそれだけだったはずなのに。 「兄ちゃんのこと心配だよね?…戻る?」 隣から少し顔を傾けて俺のほうを見てくる香澄に、にっこり笑って返す。 「大丈夫。真澄さんは俺が香澄と一緒にいるほうが嬉しいと思う」 ピアス店の中に入っていきながら、真澄さんに借りた手袋をはめる。 店内が寒いわけじゃないけど包帯が目立つから。香澄は逆に手袋を外してた。白い毛糸の、ポンポンがついたクリスマスに俺が編んで香澄にあげたやつ。あの日の服に合わせて作ったけど、意外と香澄がはめてたら他の服とも合わないことない。俺の耳にはかいじゅうピアス。
綱渡りは避けるほう。100パーセントの安全がどこにもないにしろ、俺は俺の納得できるラインまで安全度が満ちるまでじっと待つ。でも同時に、ある程度のリスクと不確定の未来の恐怖に晒されてはじめて得られる堅実な安心や信頼ってものもある。 人間関係の深度が一気に進むときはそういうところを起点にしてたりとか。これまで築いたものが壊れる時に発生する。全てに言えるわけじゃないけど。 この前光さんが読んでた仏語の本を軽い気持ちでめくった、そこにあった”l’homme est d'abord ce qui se jette vers un avenir,et ce qui est conscient de se projeter dans l'avenir.”っていう一説。「人は賽子のように自分を人生の中へ投げる」? 本当の意味は知らないけど、言葉面だけならあんな感じなのかな。 黒髪に戻してからここまで外を出歩いたのって初めてだ。ここまで車だし、近場だけど。 来てるのはピアスのお店。寿峯が連れてきてくれた。香澄も寿峯とだいぶ前に来た記憶があるっぽい。
「思い立ってもさ、あの人の好みとか普段どういう系統の服着てるとか、俺なんも知らないんだよね。会ったのもほんの数回だし。そこで香澄の出番です。ピアス選ぶための手がかり知らない?」 ずらっと並んだピアスを二人で見ながら、横の香澄に振る。俺がピアスをあげたいのは情香さん。 最近、寿峯と香澄が少し衝突して仲直りした、なんの問題かは俺が本人たちに問うべき筋じゃないとしても察しはつく、香澄は寿峯の言い分に返す言葉がなくて情香さんに連絡した。情香さんは電話一本ですぐその場に来てくれて、香澄が傷つきすぎる前に寿峯と物理的な距離を離させた。 これはやや憶測混じり。だいぶ後になって和解も済んでから、香澄が俺との通話中にあのとき情香さんが来てくれたことを話したから、そこから。 「うーん…会ったばっかりの頃はカジュアルめなスーツとかだったけど、あれは仕事の都合だったみたいだし…最近は夏ならタンクトップとデニムに編み上げブーツとか、冬もロンTとデニムとか、ピアスはたくさんしてるけど飾り気なくてシンプルな…あ、靴はいつもすごく高いヒール履いてる」 「…」 それって護身用の武器としてのヒールじゃないかなぁ、とか思ったり。 情香さん、やり方は正攻法だけど同時に大胆でもある。誰かを守るとき仕方なく他の誰かから不興を買うことになっても大して意に介さないというか。俺は俺にとって瑣末なたった一人でも敵を増やさないように動くほうだから。 にしても、結果寿峯は香澄とは和解しても情香さんには不愉快な気持ちを抱えてた。おそらく情香さんが香澄を連れ出すときにそうなるように印象操作した、寿峯の中で香澄の立場が悪くならずにネガティブな感情は情香さん一人に集まるように。 一年前に真澄さんと話してた通り。情香さんはおそらく一生香澄を家族として守ってくれる。 それはおそらく、家族だからとか息子だからとか、そういう固定観念に縛られて愛情を落とした強迫的な守護の意思というより…愛情を基軸にした情香さんにとってごく自然なことだから。ただ自分だけにとって自然な行いっていうなら以前の直にぃもそうかもしれないけど、情香さんは自分の逸脱に仔細な自覚がある。 あの人柄なら、例えばいつか直にぃと香澄が完全に離別して戸籍も分けて他人として別々に生きるようになったとしても、情香さんは今とほとんど同じように香澄に関わり続けるだろう。 直にぃと香澄の関係は、情香さんと香澄の関係にそれほど影響しない、情香さんの価値観の中では、多分。 「あ、香澄のピアスあった」 指をさして香澄に見せる。ロップイヤーのピアス。 耳から下がるタイプより耳たぶに綺麗におさまるような小さめのがいいかな。香澄なりふり構わず唐突な動きとかするし。 「香澄はピアスしないの?」 「うーん、俺の服とピアスって合うかな」 「耳たぶからジャラジャラ下がってるアクセよりは小ぶりのが香澄は似合うかな?服には合うやつ探せばいいじゃん、ふんわりしたモチーフのさ、これとか」 目先にあった冠かぶったうさぎのピアスを掲げて見せる。 「か、かわいい… !」目を輝かせてピアスを見てる。確かにさっきのロップイヤーよりデザインがかわいいかんじ。 「まあ王子さまうさぎって実質俺だし。」 軽口叩きながらピアスを手に取る。これは俺から香澄へのプレゼント。香澄にはまだピアス穴も何もないし、これから穴あけてつけろって強要の意味でもない。 ピアス穴は放置し続けたらいつか自然に塞がってなくなる。またあけたくなれば香澄が自分であければいいだけで、そこには香澄の意思に基づいた決定と行動がある。刺青なんかより、ずっといい。 香澄が見つけた情香さんのピアスと、俺が見つけたインペリアルトパーズのピアスと、王冠うさぎ、これらを持ってカウンターに行こうとして、意外な二人組とはちあった。
虚彦くんと空ちゃんが俺たちより先に喫茶店から出ていって、愛想よく見送ってからソファの上で香澄にもたれてぐったりする。 「絢、疲れた?熱ない?」 俺の額に手を当ててる香澄の首元にグリグリ頭を押しつける。 「前よりさらに体力落ちたな~ってのもあるけど、そっちより気疲れ的な…人と話すの好きなほうなんだけどなぁ」 相手が悪かった。 空ちゃんのほうはかえって本人と話してよかったような感触。やっぱりデータ上だけだと憶測入れても拾えないものが多いな。だいぶ他人行儀に接されたけど、初対面の、それも成人済みの年長相手なら常識的だ。施設育ち、か。そういう対人スキルがないとやってけない場所だったってことか、…真澄さんがまったくどうでもいい他人に接するときの最低限の礼儀だけ弁えた態度とも少し似てなくもないか…?目もとが似てるからそんな気がしたかな。 面立ち…そんなに凝視するのも失礼だからそこまで念入りに見たわけじゃないけど、やっぱり目もと���似てるかな。年齢が比較にならない気がするけど、俺の歴代彼女とかとは全然違うタイプ。 元カノ、みんな細くてか弱そうで繊細そうで、顔やスタイルはキレイ系だけど化粧とかでニュアンス可愛くしてて、服は清楚で大学生の範疇から逸脱しないかんじで、俺が「こうしよっか」て言えばなんにでもついてきちゃう、常識とか判断能力がないわけじゃないけど、少し言いなりになりすぎるところがある、みたいな。 容姿だけなら空ちゃんもあんなかんじにもなるかもしれない。でも彼女には強い意志と自我があった。本人が強いとは自覚してないかもしれないような、潜在的な強さ。 なら、香澄のトラウマの起爆剤になるかもしれない自分を彼女がもし知ったとして、そんなものに成り下がるのはごめんだって反応、香澄がどうなろうが知ったことではないって反応、いろいろあるけど、どうかな…。 虚彦くん…は、俺には少し…おかしいように、見える。 あの子、まっすぐに俺のほうを見てくる。並んで歩いてるときも首曲げて俺の目を覗き込んでくるとかって意味じゃない。俺がそういう印象をあまりにも強く受けるって話。 静かに、まっすぐ。簡単なことのようで、普通は躊躇ってできない。 俺相手には虚彦くんは真顔みたいな無表情なことが多いから、あの目で見られると俺が俺を誤認しそうになる。…まるでとうに死んだ首吊り死体を見るような目で、目の前の事実を淡々と見つめてる、だから俺が気づいてないだけで俺の方が本当は首吊り死体なんじゃないか?ってふうに。 彼のモノの見方が全てになってモノの実態と入れ替わって支配する、そういう…少しだけ似てる目を知ってる。直にぃだ。 一、二度だけ会った若い頃の直にぃはもっと顕著だった。人間を無理やり強引に静物にする目をしてた。 相手の目を見て話しなさい、なんてよく言うけど、あれはその通りにするにしても相手の肩やせいぜい顎とかあちこちに目線は適宜移動させながら、本当に相手の目だけじっと見ろってことじゃない。 本当に相手の目を長時間じっと見つめて失礼じゃない関係っていうと、恋人同士とか夫婦とか。それも多分愛し合ってる感情を伝え合うための行為に分類される。 相手をじっと見ることは、付き合いの浅い相手とのコミュニケーションにおいてはディスコミュニケーションのほうに入る。 個人差はあれど一般的に、じっと見られてる相手は居心地の悪さや落ち着かなさや不快感を覚える。そういう不快感をわざと与えることでなんらかの感情を自分相手に抱かせて、その感情を恋愛感情や強い関心なんだって相手に錯覚させていく、結婚詐欺師とかそんな感じかな。 ぶっちゃけると昔の俺がよく使った手ってだけなんだけど。 二人が出ていって早々に手袋をとった。あったかい店内ではめてると蒸れて汗がしみるから。怪我、虚彦くんにはバレてたけど。俺の包帯だらけの指先を香澄の指先がそっと撫でる。
「俺もう一杯なんか飲みたいな」 「俺も。次はコーヒーとかお茶じゃなくてジュースにしようかな」 「香澄、ぶどうジュース頼んでよ、俺カルピス頼む」 「? 俺のぶどうジュースも飲む?」 「そーじゃなくてさ、香澄と俺のジュースを二人で混ぜたら多分ぶどう味のカルピスできるじゃん?美味しそう」 俺の体をソファの上で上体だけ楽な姿勢で寝かせて、頭を膝の上に乗せさせてる、香澄は俺の髪を撫でる。 香澄と俺が初めて会って、会話っていえないような会話で話をした、そこも喫茶店だった。 あのときの香澄を、何も知らない俺は大雑把に区分してだいたいこういう人種だろって、乱暴にあたりをつけた。そうすると全部俺の都合のいいように解釈ができるから。俺と話す気なさそうで口数少ないのも楽しくなさそうなのも、ああ人見知りね、で終わっちゃうんだよな。きっとどこまでいっても俺に非がこない。 そういうとこは、つくづく理人さんに似てた。
香澄と二人で細長いガラスコップからぶどうジュースとカルピスを混ぜるのに四苦八苦して、最終的には交互にすばやく飲めば口の中で味が混ざる!なんて言って笑う。 飲み終えたら二人一緒に喫茶店を出た。 店を出るときに香澄が俺にマフラーを巻いてうさぎ耳のついた帽子を被せてくれた。 今朝家を出てくるときに真澄さんが同じことしてくれた。 ねえ香澄。血縁関係がなくたって、一緒に過ごした頃が曖昧だって、それでも香澄を育ててくれたのは真澄さんで、二人は似てないけどときどき似てるよ。
俺がそろそろ体力的にきつくなってきたから、俺の家まで一緒に帰ってきた。香澄はいつもみたいに泊まってく。 真澄さんは光さんと一緒に先に帰ってきてた。ソファで二人で話してたら光さんが途中で眠り込んじゃったかんじか、真澄さんの膝の上に小さなまん丸の頭を乗せて、光さんは珍しく俺たちが帰ってきても気づかないでぐっすり寝てた。 帰宅したときのいつもの感覚で、香澄と一緒にお風呂入ろうとして、やめた。指に爪がないのバレちゃうし、服の上から触って香澄もわかってはいるだろうけど、実物見ると怖がらせそう。痩せすぎた。運動して絞ったんじゃないからきれいな痩身でもないし。 真澄さんと光さんと香澄と俺で、寝るまでになんかして遊んだり、ただのなんてことない雑談でもいい、できたらなって思ったんだけど、帰るなり俺が熱出して、何もできなかった。 書斎で布団に入って大人しくしてながら、取り繕えなくなっていくのを感じる。前から外出した日は帰ってきたらだいたい微熱は出してたけど、普通に振る舞うことだってできた。でも今はこの程度の微熱が誤魔化せないくらいあつくて苦しくて痛い、寝てるしかできない。 香澄はずっと俺についてるつもりだったのを、真澄さんに首根っこ掴まれて書斎から引きずり出されてった。 久々に外出したんだし、外でもらってきた風邪とかインフルエンザだと確かに危ないから、一人で少し様子を見なきゃ。
そのとき真澄さんに借りた手袋返そうとして、ひっこめた。 両手で手袋を持って引き寄せて、頰にあてる。俺の手よりずっと大きな手。革の部分がきもちいい。帰ったときにすぐ殺菌消毒したから顔すりすりしても一応大丈夫なはず。 少し眠った間に、俺が握りしめてた手袋が口元からなくなってて、ほつれて解けかけて出血が滲んでた包帯がきれいに新しく処置しなおされてた。…真澄さん。 眠ってたら何時間か経って夜になってた。 急な高熱とかその前兆とかひどい頭痛や関節痛も喉の痛みも、これから発症する兆しはなにもなかったから大丈夫かなと思って、リビングに出てってみる。 途端に香澄に書斎の中に押し戻されて抱えられてベッドに入れられて布団かけられた。 「まだ安静にしてなきゃダメだよ」 熱のことか指のことか、どっちもかなこれ。 「…ひどくなんないから、いつもの疲れたときの体が火照ってる感じだと思うよ。ひとに移さないやつ」 熱って前提で話したら、俺が話すうちにも香澄はサイドテーブルに常備してる解熱剤を出して、水を用意して持ってきた。 俺もベッドの上で体を起こす。 「香澄、薬飲ませて」 指差し指の指先で自分の唇をトントン軽く叩いて示す。にこって笑いかけたら香澄が急に挙動不審になった。意味は伝わったってことかな。 俺と薬を交互に見てたけど、意を決したのか薬と水を口に含んだ。 こぼしちゃわないように唇をきれいに合わせて喉に通す。 すぐ間近に香澄の顔がある。切れ長の涼しげな、俳優さんみたいな綺麗な目。何事もなく普通に学校いって、友達作ったり、部活入ったり、そんなありきたりな愛しい時間を今日まで積み上げられたなら。香澄は容姿だけでもきっと人気者でいっぱいモテた、そんな香澄じゃなかったから直にぃと出会った。 幸せを願うことだけでも難しい。 しっかり飲み込めてから唇を離して、お互いに微妙に照れる。布団を持ち上げて俺の横のマットレスをぽんぽん叩いたら、香澄がもそもそ潜り込んできた。
ベッドの中でしばらく香澄と身を寄せあってたら、またいつの間にか眠ってた。 夜中。 一人で布団から起き上がった俺の横で香澄もぼんやり目を覚ます。 こういうことは ずっと言いたくなかった。 誰かの体について何かを強いるようなこと。強いてなくても、願うだけでも、今の姿と本人そのものを否定してるようで、 俺の気に入る姿に変わってくれって 前後にどんな事情があっても、要はそういうことだ。 それなら刺青を入れた綾瀬樹と、刺青を消せって言う俺に、何の違いがある。違わないんだ本当は。 愛から生じて香澄を守りたいがために。
刺青を入れるのも消すのも惨い苦痛を伴う。どこかで「痛いから嫌だ」って香澄に言ってほしい。 でも …真澄さん 昨夜、眠りに落ちる寸前、俺の頰に落ちてきた雫 伝い落ちて俺の唇の間に滑り込んだ 血じゃなかった 泣かないで、俺の愛する人たち 香澄の話を真剣に聞いてくれた寿峯 誰より香澄を生涯愛してくれる直にぃ 二人を見守ってくれる情香さん 裏で手を回してくれた慧先生 虚彦くんと空ちゃん はじめから俺が何も言わなきゃいい、香澄は気にしてないんだから。 だってそれは本人から 見えない位置にある。 だから、それを一番近くで見続けてきたのは 直にぃだ それでもきっと何も知らない直にぃはどれだけ傷つきながらも言い出すことができない なら、俺が いなくなったあとも二人が愛し合い続けられるように
香澄のまわりの愛する人が損なわれずに 明日も香澄を惜しみなく愛してくれるように
「香澄 その背中の刺青、…消してほしい」
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kurano · 2 years
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※ 【寄稿】弱い円は日本を弱くする
https://jp.wsj.com/articles/a-weak-yen-is-dragging-japan-down-11670471384?st=a64bmhxqpekfwvo&reflink=desktopwebshare_twitter
>過去10年を見ると、1994~2012年と比べて円相場が30%下落しているにもかかわらず、日本の貿易収支は総じて赤字になっている。
>これほどの円安によって生じるコストが、利益を大幅に上回る。日本のエコノミストで、今日の円安が実質的な利益をもたらすという日銀の主張を信じる者は、ほとんどいない。
結局のところ、円安によって、過去のように日本の輸出や国内総生産(GDP)が押し上げられることは、
>円安は実質賃金を低下させる効果があるため、消費者の購買力も低下する。
家計部門の消費が、これほど長期間にわたって減少したことは戦後を通じてこれまでに一度もなかった。
 ピンポン!(とドアをノックしつつ)、「円安厨さん! お届け物でーす! 豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏、犬に論語、兎に祭文な記事を、玄関脇にぶん投げときますからねぇ!」。
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