シードオイルを解毒する方法
2023.11.1
ある研究者の報告によれば、現代人を悩ませる慢性的な病気や疾患の主な原因は、主にふたつの大きな要因、それはシードオイル(種子油)の摂取と精製された砂糖の摂取が原因だと考えられるそうです。
さまざまなリサーチによると、この2つの食品の摂取は、過去100年間における肥満、糖尿病、心血管疾患、認知症、自己免疫疾患の大幅な増加と強い相関関係があることが示唆されています。
関連記事: シードオイル(種子油)を避けるべき理由https://erikomaeda.com/post/730355394869903360
驚くべきことに、アメリカの子どもたちの朝食のメニューとして人気のあるフルートループなどのカラフルなシリアルには、白砂糖や遺伝子組み換えの原料から作られたシロップに加え、シードオイル、さらには子どもたちの多動や行動障害に関連性があると指摘されている人工着色料が複数使用されています。
子どもたちが大好きなカラフルなシリアルは、見た目のポップさとは裏腹に、かなりの毒性の高い食品の一つだと言えるでしょう。それを知ってか知らずか、親は子に与え、子どもたちは喜んでそれを食べ続けるわけですが、結果的には、子どもたちが予期せぬ形で彼らのメンタルや健康状態に悪影響を受けている可能性は非常に高いと言えます。
精製された砂糖については、まずは精製糖の摂取をやめて、代わりに非加熱のはちみつやオーガニックのメープルシロップなどのナチュラルな甘味料へと切り替えることが最善でしょう。精製された砂糖を食べることを止めると、身体は徐々に順応し、代謝や健康状態が改善されます。
精製糖はあきらかに悪影響を与えるものではありますが、幸い、人体に蓄積され続けることはありません。
問題は、シードオイル(種子油)です。
シードオイルに含まれている過剰なリノール酸は、いったん体内へ吸収されると、すぐには分解・排出することができず、長期間に渡り私たちの細胞に蓄積されることが分かっています。
人間は、オメガ6リノール酸のような多価不飽和脂肪酸から二重結合を取り除くことができないため、この脂肪酸を多く摂取すればするほど、脂肪や細胞膜、ミトコンドリア膜に蓄積されるのです。
シードオイルに含まれる過剰なリノール酸は、細胞内に蓄積され、ダメージや細胞膜の脆弱性、細胞シグナル伝達カスケードの変化を引き起こすのですが、これがシードオイルが現代人にとって大きな問題である理由の一つです。
体内に蓄積された過剰なリノール酸が細胞から自然に除去されるまでには、シードオイルの摂取を完全にやめてから、少なくとも約2年近くの期間が必要だということがすでに証明されています。
リノール酸が細胞内に長期間留まるという性質は、シードオイルを摂取し続けている限りは、それは多くの人たちにとって、糖尿病や肥満などの症状が非常にゆっくりと、しかし、確実に進行し、身体を蝕んでいくということを意味します。
では、それを防ぐために、私たちにできることは何か?
まずは、シードオイルを完全に日々の食生活から排除することはマストでしょう。
◯食生活から取り除くべきシードオイル
-サラダ油
-菜種(キャノーラ)油
-コーン油
-米油
-ごま油
-大豆油
-べに花(サンフラワー)オイル
-グレープシードオイル
-パーム油
-綿実油
-ひまし油
-亜麻仁油 など
その他にも種子から精製された油は全てシードオイルに当てはまりますので、それらも排除するのが望ましいでしょう。また、数百円で手に入る安価なエキストラバージンのオリーブオイルやアボカドオイルは、キャノーラ油などのシードオイルと混ぜてある偽物のものが多数(およそスーパーなどで陳列されている商品のほぼ80%は偽物だというレポートも)あるので、そうした植物性のオイルを使用する場合には品質をしっかりと見極めてから、ベストなものを選んでください。
また、サラダ油やキャノーラ油などは、原材料の遺伝子組み換えや農薬の問題に加え、油の抽出時に、多量の薬品を使用したり、超高温で処理するプロセスがあります。
そのため、出来上がった油には、有益な栄養素はほぼ含まれていません。むしろトランス脂肪酸などの有害成分が多量に含まれる油が、ヘルシーだと言って販売されていたりするのです。
そうした不健康な油が「植物油」として、市販のマヨネーズやスーパーのお惣菜商品には使用されている場合が多いので、使用されている油がどのように精製されているのかも注意をするべきです。
きっと、精製方法を知れば、誰もそんな薬品まみれのものを、あえて口にしたいとは思わなくなるのではないかな、と個人的には感じます。
しかし、シードオイルを完全に食事から排除しても、これまでに蓄積されているリノール酸はまだ細胞内に残っていることには変わりはありません。
まだ、正確なエビデンスがないので確実なことは約束できませんが、ひとつの可能性として、シードオイルを食生活から完全に排除し、日常的なリノール酸の摂取量をできる限り抑えることと並行して、牛脂などの獣脂、バター、ギーなどのリノール酸の低い動物性脂肪を食生活に積極的に取り入れることが、細胞内に蓄積されたリノール酸を解毒するスピードを加速する要因になるかもしれません。
また、シーモス(海外ではシーモスジェルが美容と健康に良いと最近注目されているみたいですが)呼ばれる海藻の一種を日常的に摂取することもリノール酸の解毒に役立つそうです。シードオイル断ちをして、シーモスを毎日少量摂取することで、約2年ほどで解毒が完了するようです。
今や、シードオイルはあらゆる加工食品やレストランで使用されています。 シードオイルを体内から解毒するには、そうしたシードオイルで調理されている加工食品、ファーストフード、外食を徹底して避ける必要があります。
残念ながら、日本ではまだシードオイルの有害性を意識している人はあまり多くないため、国内の外食産業でシードオイルを使用せず調理しているお店を探すのは非常に困難かと思います。
あるアメリカで全国展開している有名なサラダチェーン店のsweet greenは、つい最近、全商品に使用する食用油をシードオイルからエキストラバージンオリーブオイルへとシードオイルフリーへ方向転換したことが大きな話題になりました。
NYなどの大都市ではそうしたお店をアプリで検索することもできるようなので、シードオイルフリーもトレンドとして広まり、いずれ日本でもその流れは始まるのではないかな、と期待しています。
その他、オーツミルクなどのプラントベースのミルクにもシードオイルが使用されていたり、赤ちゃんの粉ミルクにも使用されていたり、思いがけない食品にも使用されていることが多いので、商品のCMやパッケージだけで信頼せずに、しっかりと裏側にある原材料表記まで確認するなど、意識的に何を身体に取り入れるかを選択してください。
慢性的な病気や症状で苦しんでいる人ほど、一度これまでの食生活を振り返り、意識的に自分が口にするものを選択することにチャレンジしてみましょう。
まずは、外食や加工食品の摂取を控え、自炊を始めましょう。
自炊する場合には、シードオイルで調理することをやめて、その代わりに、推奨する下記のいずれかの食用油を使って料理してみてください。
◯最も推奨される食用油
-獣脂(グラスフェッドの牛脂がベスト)
-バター(グラスフェッドで非加熱であればベスト)
-ギー(グラスフェッドで非加熱であればベスト)
△比較的リノール酸が少ない食用油
-オリーブオイル(エキストラバージン。コールドプレス)
-アボカドオイル(エキストラバージン、コールドプレス)
-ココナッツオイル(エキストラバージン、コールドプレス)
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Home,sweet home.
電車のなかで、俺はいつも音楽を聴く。ドアのわきに立って、デイパックを足元に置いて。iPodはジャケットのポケットに入れている。ネックウォーマーをずり上げて、鼻も口もうまるようにうつむいている。
ネックウォーマーは何本も持っているのでしょっちゅう洗う。顔を埋めた時に柔軟剤のにおいがするように。
こうしているととても安心した。まわりにどれだけ人がいても、こうしていれば誰も俺を見ないし話しかけない。イヤフォンからはBUMP OF CHICKEN。俺は全然聴かないアーティストだったけど、ユウくんが好きだというので最近聴くようになった。気に入った曲がいくつかあったのでよくプレイリストに入れている。弱音という名の地雷原を最短距離で走ってこい、藤原基央が俺の耳だけに歌いかけている。
ふだんの下校と違うのは俺が特急に乗っていることだった。桑川を過ぎたあたりで隣のボックス席が空いたので座ることにした。羽越本線の景色はひたすらに鉛色だ。水平線に行くほどに薄いグレーになっていく海に、それに少し暗さを足した雲が垂れ込めている。それでも今日は雲が薄い方で、その隙間からいくつか光の筋が伸びて海を貫いていた。
インスタをスクロールすると兄が雪山でトリックを決めている動画をアップしていた。
今年、兄が高校を卒業すると同時に俺は高校生になった。俺は相変わらず一年の3分の2は海外で過ごしていて、それはほとんどにおいて兄と一緒だった。物心ついてからの記憶にはずっと兄がいてそれは今も何も変わらない。合宿もふだんの練習もメシも寝るときも。俺がメディアに取り上げられることが増えたとかそういうことはライダーとしての俺たちにはそんなに重要なことではなかったけれど、俺だけが招待される大会が増えたことだけは岩みたいにゴツゴツした現実だった。
プレイリストが切り替わってヒップホップが流れ出す。デイパックのポケットから水筒を取り出し口に含んだ。サラサラと薄い音がする。澄んだ水の冷たさ。
兄のできることや得意なことが、俺のできることや得意なこと、好きなことに自然となった。俺たちはそういう兄弟だった。今も次の遠征に兄に一緒に行ってほしいし一昨日までの遠征だって一緒に行きたかった。そんなことが続くたび、チューニングがずれるみたいに言葉が通じなくなってゆく。それは兄と俺だけの言語で、今までの俺たちは「あつい」のひと言でそれが25度なのか30度なのかまでぴったりとわかりあえた。曇りくらいで気が塞ぐのはそのせいかも知れない。あるいはユウくんの誘いにのったのだって。
画面が更新されシュウイチくんがバックカントリーの下見をしている写真が流れてきた。滑らかに雪上を駆ける感覚が足に蘇り、一昨日の雪上練習でできたこめかみの擦り傷がじん、と震えた。
T市の駅で降りて西口にまわる。S市行きのバスに乗る頃には光はすっかり黄色く、その後バスで寝たまま到着したS市は光の粒が舞っていた。当たり前だけど俺の地元であるM市よりずっと都会で、M市にはない広告看板やネオンが瞬いている。街だけど風に冷たいかおりがするのが心地よかった。「着いたよ」とメッセージを送ると「予定通りにC駅に迎えに行くね。S駅まで迎えに行けなくてごめん」と返ってきた。仕方ないユウくんがターミナル駅にいたら目立つし。ましてここは彼の地元にほど近いし。昨日LINEで送られてきた通りに鈍行に乗り換えて、指定された駅で降りる。階段を登ると、自動改札の前にキャップとメガネのユウくんがいた。アンダーアーマーのスリムなダウンジャケットを着ている。
「おつかれ」
「おつかれ」
最初の言葉はどうしてもぎくしゃくして居心地が悪い。
「来てくれてありがとう。疲れたでしょ。とりあえず出よ。荷物持つよ」
ユウくんちの最寄駅前は小ぢんまりと栄えていた。ここでユウくんが育ったなんて嘘みたいな好ましい控えめさ。大晦日の夕方だからか、知らない街だからか、すれ違う人はみんな家路を急いでいるように見える。もう少しで街から誰もいなくなってしまいそうだ。半歩先を行くユウくんの背���を早足で追いかけた。
「これもしかしてお土産?」ユウくんがさっき俺から受け取った紙袋を少し上げる。「母さんが持ってけって」「いいのに。大晦日に大事なアヅを預かるんだから、お釣りがくるよ。アヅと年越しできるなんて嬉しい。来てくれてありがとう」ユウくんは嬉しい、とかありがとう、とかそういう言葉をよく口にする。まだそれに慣れなくて俺はすぐに言葉を返せない。道路の向かい側の道を歩くカップルの、馴染んだ後ろ姿を羨ましく眺めた。同じように半歩ずれて歩いていても、楽しそうに話しながら歩く後ろ姿。俺はピアスを外してポーチにしまった。ひとつ無防備になった気がして心細くなった。
ユウくんの家の玄関を開けると、湿度の高い空気に包まれた。リビングではお父さんがテレビを見ていてお母さんがオープンキッチンに立っていた。「遠くから来てくれてありがとう。ゆっくりしていってね。困ったことがあったら何でも言って」お父さんはわざわざ立ち上がって俺に握手を求めながらそう言った。大きくてかさついた手は全然ユウくんに似ていない。古い木の幹みたいに頑丈そうな男の人だ。校長先生って聞いていたけど本当にそんな感じ。にこやかで、俺の茶髪もオーバーサイズのファッションも気に咎めるふしがないのがかえって居心地が悪かった。うちみたいに部屋の隅に雑誌や脱ぎ捨てた上着や書類が溜まったりしていなくて、代わりに背の低い観葉植物が葉っぱを広げている。兄弟喧嘩で空いた壁の穴だとか落書きの後なんかもない。清潔で整った住まいを見ていると、ユウくんがどうしてあんなに物怖じせず人に好意を示せるのか少しわかった気がした。
ユウくんの家族と鍋と寿司を食べて、紅白を見た。俺の家ではいつもガキ使だったのでちょっと新鮮だった。一年のほとんどは海外にいるのでたまに帰国して音楽番組を見ると歌手も歌もほとんどわからなくて、弟が解説を加えてくれる。そんな話をしたらユウくんが「わかる! 俺も姉ちゃんに教えてもらう」と機嫌よく笑ってくれた。寿司はお店からとったものだった。きちんと握られた寿司はめちゃめちゃ美味くて、それなのに俺は母の手巻き寿司が恋しくなった。母のつくる手巻き寿司は兄と俺の好物だ。ぬるい酢飯と、母が産直で買ってくる刺身が唇に触れる最初の一瞬が好きだ。あのつるつるとした滑らかさが。
ユウくんのお姉さんは友達と旅行に行っているそうで会うことはなかった。紅白が終わる前に布団に入った。午前5時に出る、という約束はそのときにした。元日の朝一番に、誰と何をするより先に、出かけようという約束。
「大丈夫?」
すっかり全部話がまとまった後になってユウくんは聞く。
「アヅ、移動で疲れてるでしょ。もっと遅くていいんだよ」
「いい、5時」
「まだ暗いよ?」
ユウくんは時々、変なところで煮え切らない。
「知ってる」
視線だけを向けて言うとユウくんは観念したらしく、じゃあアラームセットするね。とスマホを手に取った。
ユウくんの部屋は家具としては勉強机と、窓の脇にぴったり寄せたベッドと本棚がふたつしかない居心地の良さそうな部屋だった。けれどその本棚が俺の身長ほどあり、本はそれぞれ2段ずつしか収められておらずほかの段にはさまざまなものが置かれている。トロフィーや賞状なんかは別の部屋に置いてあるのか姿はなく、大部分は何の役に立つとも知れないがらくた同然の品々だった。なぜか古びた羅針盤、アンモナイトや三葉虫の化石(フェイクかもしれない)、RPGに出てきそうな剣に龍が巻きついているキーホルダー、象牙や石英やサンゴを加工したアクセサリー、ガラスの香水瓶、三角プリズム、チェスの盤と駒、そしてスワロフスキーなどの凝った装飾を施されたヘッドフォンとイヤフォン。まだまだあったが、どれもユウくんらしい趣味のもので俺の部屋にはないものばかりだった。俺がクリスマスに贈ったTiffanyのブレスレットは箱と一緒に一番上の段へ置かれていた。
海外遠征に出るたびに集めるのだろうか。これらとりとめのない収集品のひとつひとつに、ユウくんの嗜好だとか経てきた時間にまつわる何らかの記憶のかけらが閉じ込められているのか、と俺はため息をつくような気持ちで考えた。この部屋をなんとなく居心地よく感じるのは、ユウくんが短いけれど分厚い時間を一緒に過ごしてきたこれらのものが含む記憶のふくらみのせいなのかも知れなかった。
灯りを落とした部屋で、気がつくとユウくん目を開けて俺をじっと見下ろしていた。すこし面白がっているような顔つきになっているのはユウくんの目に、布団の上でまんじりともせずいる俺もまた収集品のひとつのように映っているからだろうか。やがてその表情も失われ、ユウくんはゆっくり目を閉じた。彼の瞳にいたずらっ子のような表情が一瞬ちらりとまたたいたのが俺は気に入って、もう一度それを見たいと待ち続けたけれど、それきりユウくんは目を開かない。呼吸のリズムがいつのまにか寝息のそれに変わっていた。
4時すぎに目が覚めた。アラームが鳴るまでうとうとして、ユウくんと一緒に着替えて顔を洗った。真っ暗だ。
何も咎められることをしているわけじゃないのに、なぜかどきどきした。
玄関へ向かうとき、ユウくんの両親の寝室のまえを通る。俺は息をひそめ、床がきしまないようにゆっくりと、最大限の注意を払って一歩ずつ歩いた。
玄関には、活けたばかりの水仙の香りが漂っていた。消臭剤じゃなくて生花ってあたりに俺の家との違いを感じる。お正月の冷たいかおり。
なるべく音をたてないようにドアをしめた瞬間、何か取り返しのつかない悪いことをしてしまったような気持ちになった。眠っているユウくんの父さんと母さんのもとからユウくんを連れ去って、悪いことをさせるような気持ち。
おもては寒く、まだ月も星も見えた。ユウくんはエレベーターの中で俺の手を握り、そのまま自分のダウンジャケットのポケットに入れた。
俺は空いている方の手でニットビーニーを少し下げた。今までで一番ユウくんを親しい人として感じた。
道は海の底みたいにしんとしている。玄関灯に照らされて、どの
家にもしめ飾りが飾られていた。
「しずかだね」
ユウくんが言うので俺は頷いて「さむいね」と空を見上げる。ずっと手を繋いでいた。
3時だとまだ、カウントダウンを終えて帰ってくる人がいる。6時だと早起きの老人が元朝参りへ繰り出し始める。5時の住宅街はまだ眠っていて、息を吸うと鼻と口の周りに冷たい空気が集中した。まだ誰も吸っていない新しい冷気だ。
車のいない道路をいくつか渡って、古めかしいというか単に古い岩造りの鳥居の下にたどり着いた。鳥居の右も左も民家。道路を挟んで向かい側にはシャッターを下ろした商店。有名でも何でもない、ユウくんが子どもの頃に友達と初詣に行った神社を希望したのは俺だった。
それでも神社だけあって、てっぺんの見えない石段を登る。石段の両側には赤松や杉が生い茂って石段をトンネルのように覆っていた。
「S市は初売りが有名なんだよ。他の地域に比べて福袋の中身が超豪華なんだって。2日の朝からだけど、みんな今日の夜とかから並び始める」
「行ったことあるの?」
ヤッケを着て長靴を履いたじいさんが階段を降りてくる。うちの地元で見るようなスタイルに少し心が和む。繋いだ手を離した。
「ない」「ないのかよ」
石段を登り終えると社の前は小さな広場になっていて、神社の人とおぼしきばあさんが火を焚いていた。
「アヅ知ってる? 正しいお参りの作法ってさ」
「うん」
「鳥居をくぐったらしゃべっちゃいけないんだって」
「何でそれ今言うの」
「だよねえ。今思い出したよ。水で口を洗うやり方とかも見てきたんだけどさ、そもそもここ水場ないしね。昔はあったような気がしたんだけどな」
お賽銭を入れて手をふたつ叩いて目をつぶった。閉じたまぶたが冷たい。炎の中でバチっと木がはぜる大きな音が耳の奥へ残響を残した。
息を吸いながら目を開けると、ユウくんはまだ目を閉じて手を合わせていた。邪魔をしてはいけない気がして体がこわばる。やがてユウくんは目を開けて、うっとりと御神体に目を向けたまま少し微笑んだ。
おみくじを引いた。特に飾りやお守りの入っていない100円のシンプルなやつ。俺は末吉、ユウくんは小吉。庭火にあたりながら神さまの言葉を読み上げていく。
「なんかふたりともショボい」
「持ってる男ふたりなのにね。ねえ末吉と小吉ってどっちがいいんだろうね?」
「末っていうくらいだから俺のがやばくね」
スマホを取り出して検索窓に「末吉 小吉」と打ち込む。ユウくんは覗き込むように俺にもたれ、スマホと俺のおみくじを見比べていた。
「あらそいごと、あぶないです、全力を尽くしましょう。転居。取り返しのつかないことになります。注意しましょう。お産。安産です。アヅもう出産するしかないんじゃない、これ」
「はー? あ、やっぱ末吉のがヤバイって。その下、すぐ凶じゃん。凶なんてそうそう入ってないだろうからどっちみち俺らヤバいね。つか俺‘学問 茨の道である’とか知ってるっつーの。ユウくんの…しせもの」「うせもの」「うせもの。‘でない’とか見も蓋もなくね」
「失くさなきゃいいってことでしょ。それより恋愛、俺‘一途な思いが愛を深める 行動で示せ’…行動かあー。行動って難しいよね。俺ジュニアの頃から結構気合い入ったストーカーの人いるんだけどさ、あの人だってあれで俺への何かを示してるつもりなんでしょ」
「何それめっちゃヘビーな話」
「話さなかったっけ」
「ストーカーいるのは知ってたけどそんな前からだとは思わんかった。ていうかいいの、タクシーとかで来た方がよかったんじゃねえの」
「ううん、さすがに正月はあっちも休みたいのか、海外に行ったままだと思ってるのか来ないんだよね」
木を燃やしているとき独特の煙のかおり。ユウくんがぐいぐいと俺にもたれてくるので、お互いのダウンジャケットがこすれあって軽薄な音をたてる。「なんかされない?」「へーき。さすがにカナダに住むわけにいかないのかあっちにいる時も四六時中張ってるわけじゃないし、大会とかのときはSPつけるし。アヅも気をつけなよ、これからどんどん人気出てくるんだから。ていうか何の話だよ。行動で示せってって話だよね。今年俺めっちゃ示すために行動するわ。何してほしい?」「肩が重いから自力で立ってほしい」「うわ塩っ。でもほんと、基本は自分で考えて行動するけど、してほしいことあったらいつでも言ってよ」
ユウくんが俺の顔を覗き込むので、そのつるりとした頰が間近にやってきた。骨の上に薄い皮膚が張っていて女の子みたいに白い。
俺のおみくじ。‘恋愛 心落ち着ければ吉’。神さまは簡単に言ってくれる。落ち着いてできる恋愛なんてそもそもしない方がいい。
行動ねー、とユウくんは繰り返した。白い息が泡みたいに消えていく。俺は丁寧におみくじを畳んで財布に入れた。
帰り道、国道から一本入ったコンビニで温かい烏龍茶を買った。お正月の早朝のセブンイレブンはそこそこ静かだ。客は眠そうな顔をした若い男女の集団と、親密そうな若い女の子ふたり、そして俺たちだった。
「初めてだね」
外のベンチに座るとユウくんが言った。
「え?」
ユウくんは深く腰掛けて背筋を伸ばしている。俺は浅く腰掛けるのが癖だ。膝が前に出て、ちょっとだらしない具合になる。
「会うの、今年はじめて」
ホットレモンに口をつけて言う。小さな飲み口から湯気が立ち上って消えていく。
「……そだね」
俺は息をついてもうひとつ脱力した。コンビニ前の適当な空気が落ち着く。空にはまだ暗さが満ちていた。真夜中の高速を走っている時の抵抗感のあるぬるぬるした闇じゃなくて、頰をさらさらと撫でる細かな粒子の闇だ。
「おめでと」
俺が言い、
「今年もよろしく」
と、ユウくんが言った。
ユウくんがトイレ、というのでもう一度コンビニに入った。ユウくん
が思い出して年賀状を会計している間、俺はユウくんの横に立ってガムとか小さなぬいぐるみとか、食玩とかミニカーなんかが並んでいる即席の棚を眺める。
「あ、プー」
それは柔らかいプラスチックでできたくまのプーのコインケースだった。顔の裏側に垂直な切れ込みが入っている。俺の手のひらの半分くらいの大きさ。手にとった顔だけのくまのプーは首からかけられるようにひもが付いている。
「買ってあげようか」
ユウくんが言った。
「え、いいよ」
俺が言うより早く、ユウくんはそれを掴んでレジに出していた。
帰り道、俺はそれを首にかけて小銭を入れてみた。歩くたびに小銭がかすかに音をたてる。俺の姿を見てユウくんが少し驚いていた。
「無理やり買っといてなんだけど、意外。アヅが身につけてくれると思わなかった」
俺も同感だった。ここまでファンシーでなくても、キャラものをあえて身につけてファッションをハズす奴はいる。けど俺はそういうのはあまり好きじゃなかった。人のリアクション待ちのようにも感じるしそんなもので目をひくのはすごくダサい気がするから。
自分でも驚いたのだけれど、俺はこのプレゼントがすごく嬉しかった。すごくすごく嬉しくて、ばかばかしいくらい胸にしみて、俺はこんなにひとりぼっちだったのかって思った。
そっとドアを開けると、家はまだ眠りの中だった。俺たちは部屋に戻り、部屋着に着替えてもう一度ベッドにもぐる。正確にはユウくんはベッドに、俺は床にしいた布団に。
「母さんも父さんもココの出身なんだけどさ、なんでかお雑煮は関西風なんだよね。元日はいつもそれ」
「関西風ってどんなの」
「餅が丸くて汁が白い。ばあちゃんちで食べるのは普通のさ、いや普通って言ったら変だけど、いわゆる関東風のすまし汁みたいなやつで。俺、言われるまでふたつが同じ‘お雑煮’だって知らなかったよ。うちが関西風なのはただの母さんの好みらしいけど。アヅんちは?」
「たぶんユウくんのばあちゃんちのパターン」
「だよねえ。まあ、とりあえず食べてみてよ」
眠る前にキスがしたいなと思っていると「やっぱり一緒に寝る」とユウくんはベッドからずるりと体を落として俺の隣に潜り込んだ。そしてむく犬みたいに俺の腹に額を押し付けた態勢に落ち着く。俺の頰を撫でていったユウくんの柔らかい髪は外のかおりを残していた。俺は自分が懸命に無表情を取り繕いながら、実はややもすると埒をこえてごぼりと外へ溢れ出してしまいそうになる気持ちを押し殺そうと必死になっていることに気づいた。それが寂しさであることをユウくんは知らない。俺以外に誰も知らない。
ユウくんは俺よりずっと大きいけれど小さいペットみたいな振る舞いをする。身のうちに飼っているうちにどんどん情がうつるような。餌をやり忘れてるんじゃないか、ときどき不安になる。餌をやり水をやり、ユウくんが満足そうにごろごろ喉を鳴らし始めると、俺は彼の柔らかな髪だとか張り詰めた背なんかを撫でてやる。ユウくんが安心してゆく一方で俺はどんどん不安になって、寂しさがぱりぱりと耳の奥でひび割れていく。
「ねえアヅ」
ユウくんが俺の腹に頭をぐりぐりと押し付けてくる。
「神社で何お願いしたの」
「…俺もユウくんもケガしませんように」
「うわめっちゃ現実的。夢がない」
「いやすごく大事でしょ。全然、一番大事」
「そりゃそうだけど。俺はアヅが俺のことめちゃめちゃ好きになってくれますようにってずっとお願いしてたよ」
ユウくんはペットみたいに振る舞うし時々年齢より幼く見えるけど、一方で期待というものを何ひとつ持っていないように見える。最初からきれいさっぱり。
普段は可愛く見られるような仕草を意識してやっているくせにそんなところは全然可愛くなくて、そういうところを見ると不安になるばかりの俺の心は少し凪ぐ。
それから、俺が何も言わなくても言葉を催促しないところも。
「俺を幸せにできたのはスケートとアヅだけ。俺を悲しくできるのもスケートとアヅだけだよ、」ユウくんは言葉を探すように少し黙る。「そりゃ、スケートはひとりでできるものじゃないから家族とかコーチとかサポートしてくれる人含めてのスケート、だけど」
ユウくんはもぞもぞと上体を起こして俺を見下ろす。こめかみのかさぶたに指がそっと触れた。
「アヅ疲れたでしょ。人見知りなのにうちの親とたくさん喋ってくれてありがと。親に俺のカッコいいアヅを紹介できてよかった。改札で見たときすごく心細そうで、悪いことしたなって思ったんだ。年越ししようって無理やり誘ったし。でも俺アヅのこと大好きだからさ、連れてきたかったし、これからもそうするよ。ねえ。だから約束しよ」
何に、という言葉すらなかった。ユウくんが俺の瞳の中を覗き込んでいる。その目はピカピカと光っていて、本物のけもののようだった。何月何日に、とか、何時にどこで、とか決めなくても、約束はできるのだ。ユウくんに会って俺はそんなことを初めて知った。
ユウくんの母さんが作ってくれたお雑煮を食べてテレビを見た。ユウくんの箸づかいはとてもキレイだ。それを見ながら慣れない中指を使って箸を駆使し餅を拾ってみる。ユウくんの父さんがお年玉を渡してきてすごく困った。どう言ったら気を悪くさせないで断れるかを考えていると「君がプロのスノーボーダーなのは知っているけれど、私にとって君はユウの友達の高校生だから」と言ってユウくんの父さんは俺の手をとってポチ袋を握らせた。お礼を言うとユウくんが嬉しそうに俺の肩を抱いた。穏やかで暖かいこの家の空気が少し体に馴染んだ気がする。
「アヅはスケボーも上手いんだよ。小4からスポンサーついてるから、メディアにも全然物怖じしないしすごいかっこいいんだ」「いや前の大会のとき全然喋れてなかったじゃん」「えっ喋ってたよ。すごく落ち着いてた」「帰国後の会見で、報奨金どうしますかーって聞かれたとき俺とスバルくんが貯金っすねーへへっとかまだ決めてないっすとか言った後に超ハッキリ‘僕は全額寄付します’ってユウくんが言って、あとで仲間に俺すんごいいじられたし。俺ら超馬鹿っぽいって」「いやあれはほら、まあ、アヅは疲れてたし仕方ないよ」「何そのフォローになってないフォロー」「エックスゲームスの賞金のほうが高いんでしょ? 俺あれ聞いて、ああ俺の世界大会の重さとこの人たちのは違うんだなって思ったもん。何か、色んな世界とか考え方があるんだなって思った」
ユウくんはにっこり笑った。薄い唇の間に少しだけ歯がのぞき、それは結構キュートな笑顔だった。ユウくんの父さんも同じ笑い方をしていて、それはとても似ていた。
そういえば昔の写真を見ると俺と兄は同じ顔をしていたけど、去年くらいからはっきりと違う顔になってきた。あるものを選ぶ、あるいは選ばされるというのは別のものを選ばないということで、俺たちはそうした大小無数のむごく切ない分岐点の連なりから成り立っている。そのうちのひとつが痛切な悔恨だとかそういったものとともに想起されて、その分岐から以後の‘全てのちがい’が生じたのだとあるとき突然思い込む。でもきっと、それは生まれた時から決まっている。
ぎゅうと締め付けられる胸を抑えると、なぜだか笑みがこぼれた。決まっているから、だからそんなことは悲しんだって詮無いことだ。その代わりに俺はおみくじだとかプーの財布だとか、そんな小さなものを積み重ねる。
甘やかな餅が咀嚼され喉奥に追いやられていく。ユウくんが優雅な仕草で黒豆を取り分けてくれるのを見て、いつか兄に会わせたいな、と思った。
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