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#このあとコーヒー飲んだら業務開始
ma66ongurasse · 2 years
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JAL2200便 仙台07:35発 エンブラエル190 #JAL #日本航空 #伊丹 #8時半 #このあとコーヒー飲んだら業務開始 #世間では盆休み #知らんけど https://www.instagram.com/p/ChKmxarPk_y/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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kinemekoudon · 1 year
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【11話】 大麻所持で起訴されたくなかったので、裁判官や刑事に黙秘しておいたときのレポ 【大麻取り締まられレポ】
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――逮捕から3日目。例によって、6時半に留置官の「起床―!」という大声で目を覚ました後、掃除やら片付けやらのルーティーンをこなし、朝食をとり、運動場で日光浴を済ますと、すぐに留置官から「5番、移送」と声がかかる。
今日は勾留質問というイベントがあることをあらかじめ伝えられていたので、手錠と腰縄をかけられると、昨日に引き続きワゴン車に乗せられ、両隣に留置官が座った。
勾留質問とは、地裁の裁判官が被疑者の言い分を聞いて、勾留の必要性があるかを検討し、勾留を認可するか却下するかを決定するというイベントなのだが、弁護士曰く、薬物事犯は確実に拘留が決定するらしいので、裁判官が“検討する”フリをして、拘留認可の通知を出すという作業に、形式上付き合わされるだけなのである。
※ちなみに、令和3年「犯罪白書」によると、大麻取締法違反の勾留決定率は約99.8%です(勾留却下率0.2%)。また、否認や黙秘をした場合、ほぼ確実に20日間(“勾留の”最長期間)拘留され、弁護士以外の全ての人と面会ができなくなるという“接見禁止”がつきます。
ワゴン車が地裁の地下駐車場に着くと、地下の入口から、50人くらいが一堂に集められた広間に連れて行かれ、地裁での規則を説明されたのち、2畳ほどの待合室に入れられる。その待合室の中は、片側に硬い木のベンチと奥に便器が剥き出しで置いてあるだけの殺風景な部屋で、必要十分な機能を備えた裁判所らしい待合室だと思った。
1人の留置官が僕と一緒に待合室に入り、もう1人は待合室の外で待機していた。最初は裁判所の規則通り静かにしていたが、10分もすると退屈に耐えきれなくなり、僕は留置官と世間話を始めた。
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その留置官は、珍しくヘラヘラとした顔つきをしている柔和な印象の男で、身の上話を聞くと、元々モデルガンを収集していたガンマニアで、モデルガン好きが高じて、拳銃を所持できるからという幼稚な動機で警察になったという馬鹿げた人間だった。
そいつは最近結婚したそうなのだが、嫁が真面目で性格が厳しいらしく、モデルガンのほとんどを捨てられたそうだが、何十万円もする高価なモデルガンだけは、同棲開始前に嫁にバレないよう押し入れに隠しておいたので捨てられずに済んだという話を得意げにしていた。
やがて、ようやく呼び出しがかかり、裁判官の待つ小部屋に連れていかれる。待機の時間は朝から夕方まで続いていたが、その留置官と雑談していたおかげで、地検の待ち時間より長かったにもかかわらず、待ち時間を短く感じることができたので幸いだった。
裁判官の待つ小部屋では、対面に机を介して阿佐ヶ谷姉妹風のおばさん裁判官、その隣に書記官が座っており、おばさん裁判官は見るからにこの業務を面倒くさく思っていそうな、やる気のない面構えをしていた。
おばさん裁判官は、黙秘権の説明と本人確認のための人定質問をしてから、勾留請求書に書かれている被疑事実を読み、「何か言いたいことはありますか?」と僕に尋ね、僕が「黙秘します」と答えると、「それでは、逃亡・証拠隠滅の恐れがあるので、10日間の拘留を認め、接見を禁じます」と告知し、僕が「はい」と応えると、勾留質問はこれにて終了となった。
僕の陳述を親身に聞くフリすらしないおばさん裁判官の無機質な対応に、僕は少し不快に思ったが、どのみち拘留になるわけだし、早く終わるに越したことはなかったので、流れ作業をしてくれてありがたいと思うことにした。
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そうして、勾留質問が終わると、再び待合室で数十分待機させられた後、駐車場に駐めてあるワゴン車に連れ戻され、同行の警官の一人が裁判所から拘留決定通知書を貰ってくるまで、1時間ほど待機させられた。
それから1時間ほどかけて署まで戻り、留置場の居室に戻る頃には、19時位になっており、夕食の時間からだいぶ遅れて食事をとることになった。
ガンマニアの留置官と喋って退屈を紛らわせていたとはいえ、長時間手錠をかけられ、座らされていることにかなりカロリーを消費していたので、弁当一つでは満足できなかった。
食後、ニューヨークの嶋佐似の留置官が「5番、これ接見禁止の通知書」と言って、一枚の紙を鉄格子越しに渡してきて、「もし抗告するなら…」と言ってきたので、食い気味に「大丈夫です」と言って紙を受け取った。
暇つぶしに接見禁止の通知書をしばらく眺めていると、裁判所のババアの顔が浮かんできて、今になって腹が立ってきたので、紙をくしゃくしゃに丸めて壁に向かって思いっきり投げ、嶋佐に怒られるまでしばらく壁当てをしていた。
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――逮捕から4日目。朝の9時半頃、朝食を食べ終え、再度寝ていると、嶋佐が「5番、取調べ」とだけ無機質に言うので、寝ぼけまなこで立ち上がり、鉄格子の前に立つ。
留置官に連れられ、留置場の出入り口前に着くと、壁に両手のシルエットマーク、その下の床に両足のシルエットマークが印された場所があり、そのマークの上に立ち、手をつくように指示をされる。
壁に手をつき、直立する僕の身体を留置官が上からまさぐり、便所サンダルを脱がされ、足の裏まで確認されると、壁を向いた状態で手錠をかけられる。未だに手錠をかけられると、警察モノの映画でも撮影しているのかと錯覚するくらい、他人事のように思えてしまう。
手錠をかけられた後、嶋佐が腰縄を巻き付けてキツく縛ってきたので、「ちょっとキツいです」と申し出ると、「キツくしないといけないんだよ」などとラチのあかないことを言ってきたので、「昨日はこんなにキツくなかったんですけど」などとゴネると、隣にいたガンマニアの留置官が「取調室に行くまでの間だけだからさ。我慢してよ」と柔和になだめてきたので、僕はガンマニアに免じて大人しく従った。
場内から出ると、廊下には前に取調べをしてきた女刑事を含む3人の刑事が立っていて、女刑事を先導に、2人の刑事が腰縄を握って、僕の後ろにつく形で階段を上る。
ひとつ上の階へ上がると、「薬物乱用やめよう」とか「ダメゼッタイ」だのと書かれているバカデカいポスターが間隔なしにびっしりと壁に貼られている廊下を進み、刑事課の横を通った先にある取調室に入る。
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取調室のパイプ椅子に座ると、手錠と腰縄を外され、外した腰縄でパイプ椅子に腰のあたりくくりつけられ、女刑事が湯飲みに入った熱い茶を持ってきて、「それじゃあ取調べ始めるね」などと優しい口調で言い、対面のパイプ椅子に腰掛ける。
女刑事は、じゃりン子チエみたいな顔をして、表面上は男勝りに気丈に振る舞っていたが、口調や表情からは女性的な献身性が感じられた。
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女刑事は、取調べの前に黙秘権について説明をしてきたので、僕はすかさず「事件については黙秘します」と言い、「雑談でしたらしてもいいですよ」と付け加える。
すると女刑事は急に真剣な眼差しになり、「どうして?」と聞いてくる。僕は、前に弁護士に「なんで黙秘するの���聞かれたら、“怖い弁護士に黙秘でいいと言われた”とでも言っておけばいい」と言われたのを思い出し、そのままその台詞を言っておく。
女刑事は「あなたの人生に関わることなんだから、弁護士のいいなりになるんじゃなくて…」うんぬんかんぬんと言ってきたが、僕は「でも黙秘しないと弁護士に怒られるので嫌です」などと幼稚な返答をして、テキトーにあしらっておいた。
刑事調べは、僕が黙秘権を行使したため、事件とは関係のない雑談をすることになった。女刑事は僕が出身した中学校の隣の中学校に通っていたらしく、色々と共通点が多かったので、割と会話が弾んだ。
昼食の時間になり、一旦休憩ということで、留置場の居室に戻される。昼食はいつも、コッペパン2本、小さい包装に入ったジャムとマーガリンに、チョコレートペーストかピーナッツバターが各1個、小さい容器に入った2口3口で食べ終わる惣菜、果物系の味の小さい紙パックジュースかカルアップなのだが、今日は日曜なので昨日購入した自弁もついてきた。
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自弁とは、自費で購入する弁当(お菓子や飲み物も含む)のことで、日曜の昼食はお菓子と飲み物を頼めることになっていたので、この日は小さい紙パックのコーヒー90円と、どら焼き150円を頼んでいた。
どら焼きは別に美味しくもなんとも思わなかったが、コーヒーはとても美味しく感じた。僕は毎日3杯はコーヒーを飲んでいたので、4日ぶりに飲むコーヒーの苦みは舌中に染み渡ったし、何よりカフェインが効いてきて、珍しく覚醒作用をしっかりと実感できた。
昼食後、玉音放送みたいなノイズ感のニュース音声がスピーカーから流れ、それから10分ほど日本の歌が流れる。この日は福山雅治の「家族になろうよ」とかいうしょうもない歌がループでかかっていた。
それからすぐに招集がかかり、例によって手錠をかけられ、取調室に連れて行かれる。女刑事は「まだ話してくれないかな?」などと物寂しそうな風を装って聞いてきたが、僕は「無理ですね。でも、留置場に戻っても退屈なので、雑談してくれると嬉しいです」と正直に応えた。
女刑事は聞き上手だったし、僕はカフェインを摂って多弁になっていたので、それから3時間半ほど、事件に無関係な戯れ言をほとんど一方的にベラベラと喋り続けた。
「ブラジルの刑務所は半年に一度女を連れ込んでSEXができるらしい」とか「ノルウェーの刑務所はスタジオがあってギターを弾けるらしい」とか、「日本の刑務所は娯楽の重要性を軽視していて人権侵害だ」みたいなことを言っていた気がする。
夕方頃、女刑事は少し疲弊した表情で「じゃあ、今日はこのへんで…」と話を切り上げて、「調書を取らなかった」と記載された調書に僕の指印を押させた。文言に問題はなさそうだったので指印を押しておいたが、別に押さなくてもよかった。
女刑事相手に一方的に喋り散らかすという行為でストレスを発散できたようで、僕は非常に愉快な気分で取調室を後にし、留置場の居室に戻っていった。
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つづく
この物語はフィクションです。また、あらゆる薬物犯罪の防止・軽減を目的としています( ΦωΦ )
#フィクション#エッセイ#大麻#大麻取り締まられレポ
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kennak · 8 months
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長年の蜜月関係が指摘されているテレビ各局に、ジャニーズ事務所との関係見直しが迫られている。創業者の故・ジャニー喜多川氏(享年87)の性加害問題を謝罪した9月7日の記者会見を機に、同事務所とのCM契約を見直すスポンサーが相次いだことが大きく影響している。    外部専門家による特別チームの調査報告書で指摘された“メディアの沈黙”について、「このような重大な人権侵害、性被害だとは気づかなかった。人権侵害や性被害への意識が著しく低かったと深く反省している」と話したのが、テレビ朝日の篠塚浩社長だが、10月2日のジャニーズ事務所の会見を前に、SNSで、ジャニーズ事務所とテレ朝の親密ぶりを裏づけるある動画が拡散されている。  それは「ジャニー喜多川が盃を交わす儀式が発掘『芸能界のドン達が盃交わしてヤ〇ザの真似事、怖い』」などのタイトルがつけられた動画だ。 「この動画は今から四半世紀前のもので、芸能プロの田辺エージェンシー、田邊昭知社長の還暦を祝うために、遊び心でヤクザの盃事を真似した祝いの会が映し出されています。意外だったのが、芸能界やテレビの人間と個人的な付き合いがないと言われていたジャニー喜多川さんが出席していたこと。この祝い事には、ジャニーさんのほかに、“テレ朝のドン”と呼ばれた敏腕プロデューサーの故・皇(すめらぎ)達也(21年3月没)さんが夫婦で参加している姿も見られます」(芸能ライター)  動画では、ジャニー氏が“媒酌人 合衆国蛇煮(ジャニー)組総長”、皇氏が“世話人 関東朝日連合白王殿下”と紹介され、笑顔で盃を飲み干すジャニー氏が映し出されている。  ケジメの音頭を取ったジャニー氏は次のような挨拶で笑いを取っていた。少し長くなるが、引用する。 《ここに謹んで���ケジメの儀をとらさせていただきます。ご列席のご一同様に申し上げます。これより儀式万端相整いました。ケジメの儀、滞りなく行わさせていただきます。私、合衆国蛇煮組総長といたしましては、我が組員による踊り、歌の一曲もご提供すべきところ、木魚、鐘とあまりにも騒々しくご近所様にご迷惑をこれ以上かけちゃ申し訳ないと思い、ご遠慮させていただきます。事を考慮し、わたくしによるケジメのみとさせていただきます。田邊会長の今後ますますのご活躍を念じ、ここにご参列の皆々様のご健勝をお祈り申し上げ、ともに最年長のわたくしとして遅刻したバツとしても、ケジメをご唱和ください。それではお手を拝借》 ■注目されるテレ朝「裸の少年」の処遇  先日、田辺エージェンシー所属のタモリ(78)がMCを務める、1985年放送開始の音楽番組「ミュージックステーション(Mステ)」(テレビ朝日系)に、7人組ボーイズグループ「BE:FIRST」の出演が発表されたばかりだが、同番組にはジャニーズと競合する男性アイドルグループは出演できないという不文律があると言われてきた。    くしくもそのMステに風穴を開けたのが、ジャニー氏の性加害問題と言っていいだろう。   「ジャニーズ常連のMステのほか、Jr.が出演するバラエティ『裸の少年』などを放送するテレ朝は、民放の中でも特にジャニーズ事務所と切っても切れない関係にあると言われていますが、この動画はそれを裏付けているといっても過言ではないでしょう」(週刊誌記者)  田邊氏の還暦の祝い事にはジャニー氏、皇氏のほかに、当時、石原プロモーション専務だった小林正彦氏、それに、テレ朝プロデューサーの西河喜美子氏などが出席している。 「西河さんはドラマ畑の人で、西部警察のほか、ジャニーズのタレントが出演する番組にも関わっていますが、特にジャニーズと癒着していたのは皇さんで、ジャニーさんだけでなく、姉の故・メリー喜多川さんとも昵懇の仲で、テレ朝にジャニーズ路線を引いた人物と言われています」(元テレ朝関係者)  テレ朝で報道情報番組を立ち上げた故・小田久栄門氏と並び、“テレ朝の天皇”と呼ばれた皇氏はドラマを経て、バラエティを担当。「欽ちゃんのどこまでやるの!」、「ビートたけしのスポーツ大将」、「タモリ倶楽部」、「ミュージックステーション」を次々に人気番組に押し上げてきた。 「皇さんはお酒が飲めないのに夜の銀座が好きで、毎晩のように高級クラブでコーヒーを飲みながらホステスをからかっていた。敏腕プロデューサーと言っても、所詮はサラリーマン。銀座のクラブの飲み代は芸能プロが支払っていたというのがもっぱらです」(元テレ朝日関係者)  ジャニー氏の性加害の事実を認め、謝罪し、東山紀之(56)の新社長就任を発表した今月7日の記者会見を受けて、テレ朝は「ジャニーズ事務所のタレントの出演につきましてはタレント自身に問題があるとは考えておりません。これまで通りの番組の企画内容などを踏まえ出演して頂きたいと考えてります」との見解を示した。 「ところが、26日のテレ朝の定例の社長会見で、ジャニーさんの性加害を彷彿とさせる同局のバラエティー番組『裸の少年』のリニューアルの可能性について触れていますが、おそらく打ち切りの方向でしょうね。テレ朝は10月2日の会見を睨みながら、ジャニーズ事務所との関係を徐々にフェードアウトするようです」(制作会社プロデューサー)
ジャニー喜多川氏と“テレ朝の天皇”の親密動画が流出の衝撃…民放のジャニーズ離れ加速の最中(日刊ゲンダイDIGITAL) - Yahoo!ニュース
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jako-jako · 2 years
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「彼が会いに来ない理由」 
「彼が会いに来ない理由」
Why he doesn't come to see me.
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ーChapter1
時刻は午前7時。
暗い部屋の中。一際青い光を放つPC画面の前、無精髭を生やした男が疲労感を露わに椅子にもたれかかっている。ホブ・ガドリングは窓の隙間から差し込んでくる冬の朝日に目を細めていた。重い体を引きずりキッチンに向かったホブは棚からマグカップを取り出しコーヒーを淹れるための湯を沸かす。大学で使用する資料の作成や担当する生徒たちの課題の採点、その他雑務を全て終わらせた彼は霞んだ目を擦りながらポットの湯をマグカップに注いだ。
(結局こんな時間になるまで作業してしまうとはな…)
苦味の強いコーヒーを胃に流し込みながらホブは心の中で呆れたようにそう呟く。今は、ゆっくり眠る気になれなかった。というよりベッドに横になり眠るまでの、あの時間が訪れるのが嫌だったのだ。ここ最近、その時間になるといつも同じことばかり考えて心が沈んでしまう。ホブを悩ませている原因は、彼のとある“友人”だった。
彼とは知り合ってから600年以上が経つ。不死身になってから数え切れないほどの人と出会い別れてきた、そして自分が存在し続ける限りこれからも同じことを繰り返すのだろう。だが彼だけは、100年という月日が経つたびいつも変わらぬ様子で目の前に現れてくれた。最初は、その存在の奇妙さに戸惑いを隠せなかったが、そんな彼がいつしか自分にとって安心できる居場所となっていた。彼だけはこのホブ・ガドリングという人間を知ってくれているのだと、この自由で孤独な不死身の男がありのままで過ごせる相手なのだと、そんなことを心のどこかで感じていたのだ。だが、そんな彼との交流は1889年を最後に一度パタリと途切れてしまっていた。原因は実のところ自分にはとんと関係のない事柄だったことがつい最近判明した。しかしここ1世紀ほど自分のせいだと思っていた。それはひょんな一言、側から見れば喧嘩に発展するとは思えない一言だ。だが彼の性格を考えればそれは怒らせるのに十分なものだったと会えないショックを抱えたホブはずっと反省していた。そんな思いを抱えながら、いつ現れるのかわからない、もしかするともう現れないかもしれない彼を来る日も来る日も待ち続けていたのだ。
そして数ヶ月前、まだ夏の暑さが身に張り付く8月の頃。微かな希望を胸に日々を過ごしていたホブの前に彼はついに現れてくれた。やはり変わらぬ様子で、しかし以前よりどこか温かみのある表情と、そして彼の口から出る“友人”という言葉がホブの心を温かく包み込んでくれた。自分がどれほど幸せな気分だったか、この先忘れることはないだろう。
ビールを1杯注文して乾杯をしたあと、彼は落ち着いた声で600年来の友人に向けて初めての自己紹介をした。
彼の名前はモルフェウス。エンドレスのドリームという存在で、夢の王国「ドリーミング」の支配者。そこは眠りの先にあるもう1つの世界で、人間の心の奥底が具現化された夢の世界だそう。彼はドリーミングの王として、人々の夢やそれに関連する全てのものに関して支配力を持っている。目覚めると忘れてしまうが自分達人間は夢の中で彼に会っている者もおり、彼が初対面のホブの名を知っていたのはそういうことだった。そして100年ほど前に起きていた嗜眠性脳炎の騒動、あれは人間が彼を捕縛・監禁したことで彼が王としての責務を果たせなかった結果引き起こされていた。彼がホブとの約束に来られなかったのもこれが原因だったのだ。目の前の友人が概念の擬人化だという事実にはかなり驚いた。しかしそれ以上に、その友人が100年以上もの間、自由と尊厳を奪われ孤独な日々を送っていたというショックにホブはしばらくの間言葉が出なかった。
淡々と自分の素性について話した後、黙り込んでしまったホブを前にモルフェウスは不思議そうにその様子を伺っていた。それに気づいたホブは何か言わなくては、と回らぬ頭を必死に動かした。彼にかけたい言葉はたくさんあれど、今何を伝えたいか…わずか数秒の間、脳内でぴったりな言葉を探し回った結果ホブの口から出たのは
「…ハグしていいか?」
お前は本当に600年以上生きてきたのか?時々そう自分を疑いたくなる。これだけ生きているのだからもっとマシな言葉の引き出しがなかったのか、と呆れるが時すでに遅し。口から出てしまった言葉はもうどうしようもない。前にも同じような失敗をして痛い目にあったのにまたもや俺は…と嘆きたくなる気持ちを今は抑え、恐る恐る向かい側に視線を向けるとそこには意外な光景があった。困惑の表情を浮かべたモルフェウスが、少し戸惑いながらもこう言ったのだ。
「あぁ…別に、構わないが」
無言でスルーされるか、奇怪な視線を向けられると思っていたから、受け入れられたのは驚きだった。
少し安堵の表情を浮かべたホブは、ゆっくりと席を立って向かいに座るモルフェウスの側に向かった。
「待て、今ここでするのか���」
「えっ、あっ…ダメか?」
まだ俺の頭は回っていないらしい。ハグしていいと言われたからと言って、この内気で物静かな、目立つことが好きだとは到底思えない彼が昼間の酒場でハグなどハードルの高い話だろう。彼にそんなフランクさがないことはこれまでの経験からも明らかだった。ハグを受け入れられたことに心が弾んでつい思考より行動が先をいってしまった。
「そ、そうだよな。すまなかった、君にハグしていいって言われると思ってなかったから嬉しくてつい。じゃあまた別の機会にでも…」
「別にダメとは言ってない。少しその、確認しただけだ…」
「えっ?」
そそくさと席に戻ろうとしていたホブは驚いて振り返った。そう言ってそっぽを向く彼はいつもと同じ静かで冷たい雰囲気を纏っているが、その耳が少し赤みを帯びていることをホブは見逃さなかった。
「そんなところで突っ立っていては目立つぞ」
至って冷静なモルフェウスの声にハッとする。以前と変わらぬ、ミステリアスで孤高な雰囲気を纏う彼。だが、どこか…少し丸くなって戻ってきた彼にホブはすっかりペースを乱されていた。
「そう、だな。じゃあ…」
ホブは改めてモルフェウスと向かい合い、席に座る彼に合わせて少し身を屈めた後そっと腕を回した。雪のように白い肌から温かみを感じる。
捕らえられていた間、彼はどれほど苦しい思いをしたのだろうか。100年以上もの間監禁される苦痛は想像を絶するものだろう。自身も魔女と疑われ捕らえられた経験のあるホブにとってはなおさらそう感じられた。自由と尊厳を失い、自分の居場所にも戻れず、大切な存在を奪われ、悲しみと憎しみを抱えた続けた彼を思うだけで胸が張り裂けそうだった。無意識に抱きしめる力が強くなる。
「本当に、戻ってきてくれてよかった」
ふと口から出た言葉。きっとこれが自分が本当に伝えたい言葉なのだろう。
「本当に無事でよかった」
「身体は、大丈夫か?」
「今は、辛い思いをしてないか?」
「自分の国にはその後戻れた?」
「ちゃんと眠れてる?」
「ご飯も食べてるか?」
彼を抱きしめて、温もりを感じて、ホブの中からゆっくりと言葉が溢れ出てきた。
そんなホブの様子に、最初は緊張していたモルフェウスの表情も緩んでいた。1つ1つの問いかけにただ「あぁ」と頷く。どこか安心した表情で、柔らかな声色で。ただ最後の問いかけに関しては例外だが。
「食べれてないのかッ?」
突然身を起こし心配した顔でそう言うホブにモルフェウスはくすくすと笑った。
「私は人間のように食事をせずとも大丈夫だ。それに元々、そんな食事を好むタイプではないしな。全く食べない訳ではないが。」
「まぁ確かに、君と会い始めて以来1度たりとも食事をしているのを見た試しはないが…。でも、今日ぐらい好きなもんを好きなだけ食べよう、俺が全部奢る!あれだ、17世紀に君に奢ってもらっただろう、そのお返しに!」
「だがそう言われてもな、好きなものか…。ホブの好きなメニューは何だ?」
「えっ、俺の好きなメニューか?あるけど、自分のじゃなくていいのか…?」
「私は特に好きな食べ物というものが思いつかないし、それにこの店のメニューもよく知らない。君はここでずっと私のことを待ってくれていた、ならどんなメニューがあるか詳しいんじゃないのか?」
「そうだな、メニュー表を見なくてもなにがあるか分かるぞ。なんたってかなりの常連だからな。」
「なら決まりだ、君のおすすめのメニューを頼もう。久しぶりの食事だ、せっかくだし君の好きなものを私も食べてみたい。」
笑顔を浮かべながら話すモルフェウスにほっとしたホブは、席に戻るなりメニュー表を開いて「この店はこれが美味い」「この料理はこの酒と合う」「あれは���に比べて少し味が変わった」と楽しげに話し続けた。ときどき、穏やかな顔でこちらを見つめるモルフェウスにドキッとしながら。
―――
午後7時、窓の外には夕焼け空が広がっている。テーブルの上は綺麗に平らげられた料理の皿と空になった何杯かのグラスで埋まっていた。100年以上の空白を埋めるように2人はいろんなことを語り合った。今までと変わらずホブが喋っていることが多いが、モルフェウスが自分のことについて教えてくれるようになり自ずと彼からも多くの話が聞けたことは嬉しい変化だった。
でもまだまだ話し足りない、もっと一緒に酒を飲みながら他愛もない話を続けていたい。彼との楽しい時間はあっという間で、ホブはこの時間に終わりが来ることを考えたくなかった。今日が終わればまた100年後。その100年はなんだか今までよりも長く、途方もない時間に思えた。
「そろそろ出よう。」
モルフェウスの一言で我に帰ったホブは少し重たくなった心を隠すように明るく返事をし、会計を済ませて店を出た。
夕焼け空は一層色を濃くし、遠くの方には星がちらちらと見え隠れしている。ホブは名残惜しさを隠すように笑顔を作り、隣を歩く彼に話しかけた。
「今日はありがとう、君が会いに来てくれて本当に嬉しかった。もしかしたらもう会えないかもなんて少し思ってたから。」
「私こそ…本当に感謝している。君が私を待ってくれていたからこそ、こうして会うことができたのだから。」
「これで酒を飲み続ける日々もおしまいだ。まぁそれはそれで寂しいけど。」
「あれだけ飲んだのにまだ飲み足りないというのか、ホブ・ガドリング。」
そう微笑んでこちらを向くモルフェウスに、なんだかとても寂しい気持ちになった。たらふく飲んだ酒も全部抜けてシラフに戻りそうだ。あぁ、まだ飲み足りないよ。本当は酒を片手にもっと君の話を聞いていたい。そんなことを考えながら「そうかもな」と軽く返事をするホブは、隣にいたはずの友人が後ろで立ち止まっていることに気づいた。
「どうした?モルフェウス」
彼は黙って歩道の片隅に視線を落としている。酒で少し赤くなった顔が沈みかけの夕日に照らされる。握り拳を撫でるようにモゾモゾと親指を動かし、何か言いたげな様子だった。ホブが歩み寄ろうとした時、彼はこちらを向いてゆっくりと口を開いた。
「また、会えないか?その…100年後ではなくもっと近い日に」
一瞬2人の間に時間が止まったかのようにも思える静寂が訪れた。ホブは踏み出した片足をそのまま、大きな目をぱちくりさせて今起きたことに驚きを隠せない様子だった。彼からの突然の提案、これはつまりホブが彼にもっと会いたいと思うように、彼もホブに対してそう思ってくれているというなによりの証拠だった。今日の彼には驚かされてばかりである。だが、こんな嬉しい驚きならいくらでも大歓迎だった。
居た堪れなくなったモルフェウスが目を逸らす前にホブは彼の側まで駆け寄って、彼の手を優しく掴んだ。
「あぁ、会おう!俺ももっと君に会いたい、まだまだ話したいことや一緒に飲みたい酒がたくさんあるんだ。次はいつにしようか…!」
ホブは満面の笑みでそう答えた。さっきまで沈み込んでいた心は、いつしかふわふわと宙を舞っているように軽く感じた。
「そうか…」
夕日に照らされたホブの笑顔を見てモルフェウスはほっとしたように呟く。
「私はいつでも大丈夫だ、君が来れる時でいい。」
「んん〜ならどうしようか…平日の夜は空いてるけど、大学の仕事が長引いたりする日もあるからなぁ。やっぱり休日の方がゆっくり会えるかな。」
「ではそうしよう。」
「どのぐらい先にしようか、そこ大事だよな…」
「さっき酒場で今月一杯は仕事が忙しいと話していただろう。それならば来月はどうだ?」
「んん、そうだな…!そうしよう!じゃあ来月初めの日曜日に。」
「わかった。では、またその日に。」
そう言うと彼の真っ黒のコートが風になびき、本来の形が崩れて周囲に散っていく。彼にどんな能力があるのか詳しくは知らないが、きっと“ドリーミング”に帰ろうとしているのだろう。別れの寂しさは、ひと月後の約束の喜びにかき消されていた。
「今日は楽しかった、おやすみモルフェウス。」
砂のように舞う黒に彼がかき消される前、ホブは柔らかな声でそう呟いた。その声が彼に届いていたのかはっきりとは分からない。だが、消える直前に見えた少し照れくさそうな顔はきっと見間違えではないだろう。
「100年に1度が、ひと月に1度か…」
―あとがき
「彼が会いに来ない理由」Chapter1を読んで下さりありがとうございました!
Chapter1〜5で構成されているこのお話、今回は2人が1月後に会う約束をしたところまでになっています。ドラマ第6話ではTHE NEW INNで出会った場面で2人の話は一旦終了しましたが、その後を妄想して自由に書いてみました。今までは100年ごとの飲み会でしたが、本編でもこれを機にもっとたくさん会って欲しいですね。
初の文章での二次創作、初めてのことで色々と試行錯誤しながらのチャレンジでした。もし楽しんでいただけていたら、とても嬉しいです☺️🙏
さて、次回はどんな飲み会になるのでしょう、そしてその後2人にはどのような展開が待っているのでしょうか。お楽しみ!
Chapter2はこちら↓
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meyou-s · 1 year
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サラリーマン新藤剛
1.
 男は立ち止まり、目の前にそびえるオフィスビルを見上げた。周囲には真新しいガラス張りの高層ビルがいくつも建っている。それらと比べると背も低く古びたこのビルが、しかし男にとっては一番恐ろしく、雨だれで汚れた外壁に威厳すら感じていた。
 新藤剛は墨田商事営業部の部長である。二十五年前に入社して以来営業一筋で、数年前に部署をまとめる立場になってからも、時折こうして自ら取引先に出向くことがあった。
 ミネラルウォーターを一口飲み、中身が半分ほどに減ったペットボトルを鞄にしまう。呼吸を整えるように深く息を吐いたタイミングで、後ろから部下が声をかけた。
「部長、大丈夫ですか?体調でも悪いんじゃ……」
 いつも闊達で堂々としている新藤の緊張したような様子は、若い部下には見慣れないものだった。急に暑くなり始めたここ数日を思うと、体調を崩したのではないかと想像するのも無理はない。
 だが振り向いた新藤は、意外にも普段通りの声色でそれを否定し、にやりと笑って見せた。
「いや、問題ない。……まあ、武者震いというやつかな」
「はあ……」
 新藤はそれだけ返すとビルに向き直る。部下もそれ以上何も聞かず、二人は連れ立って自動ドアをくぐった。
2.
 受付を済ませるとすぐに応接室へ案内された。新藤にとっては何度も訪れたことのある部屋だが、この場所はいつも新鮮な緊張感を彼に与える。
 年季の入った黒い革張りのソファに腰掛けると、わずかに軋む音がした。新藤は案内係が出ていった扉を目の端に入れる。
 ここ丸岡社は、墨田商事と付き合いの深い取引先のひとつである。今日は契約の更新と内容確認のため商談の場が設けられていた。新規の契約をとるという訳ではない。しかし新藤は、この商談を重要なものと捉えていた。ある意味では、会社の今後を左右するほどの。こんなとき、新藤はいつも心にある人物の姿を思い浮かべていた。
 それは人気ドラマの主人公、高橋真太郎。平凡なサラリーマンでありながら、不正をはたらき私腹を肥やす上司や、理不尽な要求をする取引先と臆せず闘う、熱い男だ。新藤はシリーズを通してこのドラマのファンであることを日頃から公言しており、高橋真太郎は彼の憧れだった。その姿を胸に、新藤は大事な局面を幾度となく乗り切っている。
 まるで自分が主人公になったような気分で、この後現れるであろう丸岡社の担当者・戸坂の顔を思い浮かべた。あの食わせ者にしてやられないようにしなければ、と気合いを入れる。
「失礼します」
 ノックの音に身を固くしたが、続いて聞こえたのは来客担当であろう事務員の若い声だったので少し肩の力を緩めた。事務員が手に持っている盆から、コーヒーの香りが漂ってくる。
「お待たせして申し訳ありません。戸坂はすぐ参りますので……」
「……いえ、こちらが早めに着きましたので」
 実際、約束の時間まではまだ少しあった。新藤は元来せっかちな質で、さらに今日の商談への気合いからかなりゆとりを持って到着していた。待ち時間が生まれるのは想定内だが、こちらがじりじりと時間まで待ってから向こうが現れるとなると、どうも「余裕」を見せつけられているように感じる。しかしそこで動揺しては戸坂の思うつぼだ。新藤はそう思い直し、心を落ち着けて待つべくコーヒーをありがたく頂戴した。
 結局、約束の数分前に戸坂が応接室の扉を開くまでに、新藤はコーヒーをほとんど飲み干してしまった。待たせた謝罪を口にしながら戸坂が歩み寄ってくる。彼の後ろに付いて、また事務員も入室した。先ほどとは別の盆を持っている。テーブル上を一瞥して空になったコーヒーカップを引き上げ、代わりに冷水の入ったグラスを置くと、一礼して部屋を出ていった。
「今日は暑い中、ご足労いただきまして」
「いえ、こちらこそ、貴重なお時間をいただいて……」
 戸坂が近づくのに合わせて新藤と部下は立ち上がり、三人は互いに挨拶の言葉を口にした。しかし形式ばったやり取りもそこまでで、戸坂は新藤の向かいのソファに腰掛けると、始めましょうか、とやや気軽な調子で新藤を見た。
 対して新藤は、目力を緩めぬまま戸坂を見返し頷く。ここで気を抜いて油断を見せてはならない。戸坂は穏やかだが切れ者だ。巧みな話術でそれと気づかぬうちに主導権を握られてしまう。新藤はそう考えていた。
 だが逆に、緊張を悟られるのもよくない。冷静に臨むため、新藤はグラスの水を一口飲んだ。
3.
 それぞれ手元の資料に目を落としながら、契約内容を確認していく。はじめの二、三ページについて説明している間、新藤は資料をめくる毎にグラスに口をつけた。外の暑さのせいか自身の気持ちの問題か、やたらと喉が渇いたのだ。
 途中、増税の影響や原料費の高騰など周辺の話題に寄り道しながらも、話は順調に進んだ。金額が絡む内容になると新藤は身構えたが、戸坂から何か指摘が入ることもない。自身が普段の落ち着きを取り戻しているのがわかる。ひと息つくように口にした水は、先ほどより少しうまく感じた。
「……ところで、前に来てくれた彼、佐々木くんでしたかね?」
「あ、ええ。佐々木がどうかしましたか?」
「いえ、実はこの間、こちらの都合で少し迷惑をかけてしまいまして。しかし彼に対応してもらって非常に助かったんです」
 改めて一言お礼をと思っていて、と戸坂は手元のグラスを手に取る。そして休憩の合図とばかりに、脇に寄せられていた菓子盆を引き新藤たちに勧めた。
 一見何気ない話題だが、新藤は戸坂の口元に浮かぶ意味ありげな笑みを見逃さなかった。戸坂が特定の部下について発言するのは珍しい。そもそもいつもきっちり仕事をこなす戸坂が、迷惑をかけたなどという状況にほとんど覚えがなかった。
 この話題には何らかの意味があるのではないか。戸坂にとってメリットのある、何かが。
 落ち着いていた心臓の音がまた煩くなってくる。新藤はそれを隠すようにグラスの水をゴクリと飲み、平静を装って勧められた菓子に手を伸ばした。
 取引相手である戸坂から佐々木の名前を出され、礼を伝えたいと言われたことで、新藤としては佐々木にそれを伝言せねばならないだろう。それが戸坂の目的だとしたら。実は佐々木はスパイで、彼のほうから戸坂へ連絡しても不自然でない状況を作るとか、もしくはこの伝言自体が合図で、佐々木は戸坂と共に何か画策しているとか。
 いや、佐々木は墨田商社に長く勤めている真面目な男だ。よく気がつく彼に、新藤も助けられてきた。あの佐々木がこんな裏切るような真似をするはずがない。しかし、そういう人物だからこそ疑われにくいとも考えられる……。
 気取られずに戸坂の意図を探るには何と返せばよいか。グラスを持つ新藤の手に無意識に力が入る。中身が少なくなったグラスの内で、解けかけの氷がカランと音を立てた。
「そうそう、先ほどのコーヒーはいかがでしたか?」
 新藤が探りを入れるより早く、戸坂は話題を変えてしまった。思考を巡らしていたせいで一瞬何のことかと思ったが、待ち時間に出されたコーヒーを思い出す。
「コーヒー、ですか。美味しくいただきましたが……」
「ああ、それならよかった」
 満足気に頷いた戸坂と対称的に、新藤は内心の動揺を悟られないよう必死だった。コーヒーが一体何だというのだ。普通、あえて感想を求めるようなことはしないだろう。何の変哲もない美味いコーヒーだったと思うが。
「あれは実は社員が海外で買ってきたものでして。ぜひ味わっていただきたかったんです」
「はあ……」
 そう説明されても、新藤は疑いを拭えない。言葉の裏の意味を汲み取る、自分の経験と実力を信じるがゆえだった。まさかとは思うが、薬の類を盛られた可能性はないか。変わった風味には気がつかなかったが、薬の味が分かって��まった場合に備え、ごまかすために海外土産という言い訳を準備していたのではないか。その考えに至ると、緊張感のせいと思っていた動悸も、薬のせいだったのではと思えてくる。
 自覚すると、心音はより大きく新藤の身体に響いた。部下はなんともないのだろうか。ちらりと隣に視線を向けると、部下は平気そうな表情で座り戸坂の話に相槌を打っている。手元の水は、新藤ほどではないが減っていた。
 それを見て、新藤にある考えがひらめく。そうだ、水だ。薬を飲んでしまったのなら、水で薄めるのは効果的なはずだ。二人ともそこそこ水を飲んでいるから、まだあまり変化がないのではないか。だからこそ焦った戸坂は、コーヒーをちゃんと飲んだか確認してきたのだ。
 思うが早いか、新藤はグラスを口元へ運ぶ。しかし冷たい氷が口元へ触れただけで、喉を通る水分はわずかだ。しまった、水はもうほとんど残っていない。こうしている間にさらに薬が回ってしまうのではないかと新藤は焦る。どうする。いや落ち着け、こんなとき高橋真太郎なら……。
「失礼します」
 見計らったかのようなタイミングで事務員が扉をノックする。静かに三人の元へ寄ると、グラスへ減った分の水を追加した。まだたっぷり水と氷の入ったデキャンタを机に残し、一礼してまた静かに退室した。
 ありがたい。新藤は早速、補充された水を飲み下す。ちょうどいいときに来てくれて助かった。
 いや、だがタイミングが良過ぎはしないだろうか。新藤の脳内に新たな疑惑が浮かんでくる。もしかして、この部屋は外から監視されていたのか。もしくは、戸坂が外へ何らかの合図を送ったのではないか。
 新藤ははっとして、持ったままのグラスに目をやった。むしろ水のほうに仕掛けがあったらどうする。コーヒーに意識を向けることで、安全なものと思い込ませた水を大量に摂らせる策であったとしたら。戸坂ならば、それくらいの誘導は難なくやってのけるかもしれない。
 だがそのとき戸坂自身がグラスから水を飲んだのを見て、新藤は冷静さを取り戻した。そうだ、この水は目の前で同じデキャンタから全員のグラスに注がれていたのだ。そしてそれを戸坂も口にしている。つまり水に薬は入っていない。あるとしたらやはりコーヒーだ。
 思い通りになるものかと、新藤はさらに水を飲む。まさかばれているとは思っていないのだろう、怪訝さを隠せていない戸坂の苦笑が可笑しかった。
 やがて残っていた書類の確認が済み、商談は終了した。話を終えるまでに新藤は二杯目の水を飲み干し、デキャンタから再度注いでそれも飲んでしまった。
「それでは、本日はありがとうございました」
「こちらこそ。今後ともよろしくお願いいたします」
 新藤は部下とともに、丸岡社をあとにした。体調も変化なく、��ち誇った表情を浮かべ歩く。戸坂は薬でこちらの判断力を鈍らせ、商談を有利に進めようとでも思っていたのだろうか。その企てに勘付き逃れることができたのだ。巨悪に立ち向かう、あの主人公高橋真太郎みたいじゃないか。大仕事をやり遂げた達成感を胸に、来たときよりも堂々とした足取りで新藤は帰っていった。
4.
「失礼します。墨田商社様、お帰りになりました」
「ああ、君もありがとう。すまないがグラスの片付けも頼むよ」
 新藤たちを会社の入口まで見送り、来客対応の事務員が応接室に戻った。戸坂は疲れを滲ませた顔で書類を揃えている。
「お疲れさまでした。ところで新藤様、随分険しい表情をされていましたが……商談中に何かありました?」
 事務員に尋ねられ、戸坂はため息を吐いて肩をすくめた。
「……何も。なんてことない、ただの定例の商談だ。まったくあの人は、ドラマの見すぎなんだよ」
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tanakadntt · 1 year
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唐澤さんオタオメ〜
シリアス
大人のする未来の話
一 未来の話
「三輪くんは幹部候補じゃないよね」
問われた三輪秀次は何とも言えずに無表情で彼を見返した。
実際、何も言えない。わからない。わかるわけもない。
いや、どうだろう。遠征選抜試験の直前である。
隊員である自分には全容は明かされてはいないが、伺い知ることのできる内容を鑑みるにわかっておかないといけないことのようだ。
ボーダー内での自分の立ち位置、自分の能力、自分の意志をはっきりと認識しておく。
ロジカルにもフィジカルにもメンタルにも厳しい試験だ。三輪隊では、古寺の一次試験からの参加が既に決まっている。古寺頑張れ。古寺偉い。お前ならできる。
黙っているのをどう受け取ったか、
「そんなに警戒しないでも」
同じ城戸派だろと唐沢克己はニコリと顔に屈託のない笑みを乗せた。
まだ、誰もいない会議室だ。出張から今朝帰ってきて時間が中途半端に余っちゃってね、早めにきたのだと言う。三輪は会釈をして壁際に立った。
あまり唐沢と話したことはない。苦手ではない。話すことがないだけだ。忙しい人であるし、接点も少ない。この人のおかげでボーダーがまわっていると皆が口を揃えて言う。三輪もそう思う。ボーダーがボーダーたり得る体裁を保っていられるのはこの人の働きによるものだ。
そして、今回の選抜試験の最終的な決定権を持つ一人でもある。A級部隊は正式には戦闘試験からの参加となるが。
この質問は、試験の一環なのだろうかと三輪は考えた。参考程度の。
「上層部の決めることです」
「自信があるんだね」
そう返されて、戸惑う。挑発的とも取れる言葉と裏腹に唐沢からは敵意は感じられない。むしろ、彼は不思議そうに首を傾けた。
「君はここについて知らないことが多いだろうに」
「……」
ボーダーには、旧ボーダー時代に繋がる秘密がある。古参隊員と言われる自分でも触れられない部分だ。
上層部と、さらに昔から在籍する者たちがその秘密を共有している。
その僅かな人間同士は、化かしあい、足を引っ張り合っているのを三輪は知っている。だから、深く知らないほうがいいと思っていた。
あの人たちが仲がいいのか悪いのか、いつも判断に苦しむ。真剣ではあるが、彼らの化かし合いは時として楽しそうにも見えるのだ。
現に目の前の唐沢など生き生きとしている。三輪は唐沢が自分との会話の時間を取りたくてわざと早く来たのだとようやく悟った。
「隊員ですから」
知る必要がないと判断されたら、知らないままでよい。
言外に伝えると、
「殊勝だねえ」
と笑われた。
「期待してるんだよ、頑張ってよ城戸派筆頭」
城戸派閥最大の人物はあなたではないかと言いかけて、三輪は黙った。
「未来の話だよ」
急に唐沢の体が大きくなってその影に入った気がした。
「ねえ、君、幹部候補じゃなかったら何だと思ってる?」
ニ 大人の話
唐沢克己は林藤匠を待っていた。
本部地下の駐車場へ続く廊下である。会議は遅くまでかかった。この時間は歩くものはいない。
「唐沢さん、何か…?」
「長期遠征選抜試験の前にね、ちょっと」
唐沢は話をしませんかと誘った。
駅前のコーヒーショップは酒類も出すから遅くまでやっていて、しかも喫煙席がある。年々、愛煙家は肩身が狭くなる一方だから、貴重な場所だ。唐沢は根付に苦い顔をされながらも本部建物内喫煙を死守している。林藤玉狛支部長は貴重な煙吸いの同士であった。
コーヒーを飲みながら煙草を吸う、という一見器用な真似を
しながら、唐沢は口を開いた。
「今回はお金を遣いますよ」
「ああ、まあねえ」
メディアの前で大々的に打ち出した長期遠征のことである。
のんびりと林藤は煙を吐き出す。
元々、ボーダーはお金を浪費するばかりの組織だ。近界の技術や情報を小出しに売ってもこちら側には役に立たないことも多い。玄界は役に立つことが金になる世界なのだ。
遠征の予算を計上した結果、はじき出された莫大な金額を思い浮かべた。
「でも、唐沢さんなら大丈夫でしょ」
林藤が続けると、私が何もしなくてもお金は入ってきますと唐沢は肩をすくめた。
「遠征とは随分魅力的な言葉らしくてね。
目ぼしいところはみんな我先に出してくれます。乗り遅れたくないんでしょうね」
支援者は国内だけではない。企業だけでもないことを唐沢は告げた。
思いのほか、でかい話になったと林藤は思う。
近界は、もはや得体のしれない異世界ではなく、利益を生み出す可能性を秘めた新天地であった。利権争いはもう始まっている。玄界は役に立つことが金になる世界なのだから。
拉致被害者の救出を掲げた遠征がどのような結果で終わろうとも、一度出来た道は閉じない。近界もこちら側も今までと同じではいられないだろう。トリオン研究も金があれば、さらに進む。
この遠征をきっかけとして、二つの世界は大きく変わっていくはずだ。
「この流れを作ったのが、わずか十五歳の少年とは、」
「随分、三雲を買って頂いているようですが」
林藤は唐沢の言葉を遮った。が、彼は構わず続けた。
「あの年齢であの胆力、気に入っていますよ。いやはや、先が楽しみだ」
唐沢は本当に楽しそうに最後まで言ったあと、不意に話題を変えた。
「遠征試験は幹部候補の人選も兼ねていますけど」
「そうですね」
唐沢は少し声を小さくした。
「僕も卒業の準備かなと思うわけです」
「ご冗談を」
林藤は二本目の煙草に火を点ける。唐沢との密談はたまにある。一方的に彼が誘い、本部側の情報を伝えて終わる。その情報に見合うだけのものを彼が欲しいときだ。
「外務部長のお仕事がさらに忙しくなるのはこれからでしょう」
「だからこそですよ。何事も準備がものを言います」
唐沢の言い分にも一理ある。支部長は気楽でいいと林藤は思ったが、心のうちに留めておいた。
そして唐沢は意外なことを言った。
「今度の遠征試験で見つけられたらと思ってますよ、僕の後継者を」
「後継者ですか」
五年近く前に城戸に請われて来た仕事請負人だ。請け負った仕事が終われば、いつかいなくなるかもしれないと思っていたが、後継者とは。
「唐沢派の誕生ですか?」
揶揄すると、動揺もせずにニコリと笑った。
「とんでもない。ボーダーに拾われて五年、城戸さんの元にいて考えを改めることもあってね、僕なんぞでも若者たちに残せるものがあればと思いまして」
若者たちの将来にね、と唐沢は言う。
若者のためと言いながら、辞めていく隊員の記憶操作をし、三雲を利用しようとする。二枚舌も甚だしい。林藤は本部の、城戸のやり口が嫌いだ。
わずかに眉を寄せて不快感を示した林藤にお構いなしに、唐沢は続けた。
「それで、城戸さんは誰を後継者に考えてるんでしょうね」
「先ほどね、会議前にちょっと三輪くんと話したんです」
話題転換が多い男だ。三輪秀次もまた利用されている子どものひとりだ。あれよあれよと言うに城戸派筆頭などというものに祭り上げられている。
「僕たち、こんなに先のことを考えてるのに今日、三輪くんと話したら、先のことを考えてないって言うんですよ。ただ、高校卒業後はボーダーに専念したいと」
参ったなあ、と煙草を持った手で形のいい眉毛をなぞる。そんな仕草が似合う。唐沢は伊達男だった。
「若者の特権ですよ」
「木ばかり見て森を見ない���
「それも特権です」
恐らく二つの未来があるんです、と唐沢は続ける。
「交流が始まっても、いや始まるからこそ、紛争が多発するのはどこの世界でもそうでしょう」
政治は血を流さない戦争であり、戦争は血を流す政治であると言ったのは誰だったか。
「ポストボーダーの未来の一つは現ボーダーをさらに拡充し、あちら側からの防衛を全世界に広げた機関」
地球防衛隊ですね、と呟く。その言葉はひどく滑稽に聞こえた。
「そして、もうひとつ。現在とまったく違うボーダー。
僕がここに呼ばれたのは、元々、民間組織として独立するためです。
ボーダーが民間組織である必要性を常々考えているんですよ。
国家に所属しない何か。こちら側にもあちら側にも与しない。
それはもう第三勢力と考えてもいいんじゃないですか」
「実は、僕は城戸さんは防衛機関をさっさと誰かに譲って、そちら側に行ってしまいたいんじゃないかと思ってる」
「旧ボーダー、現ボーダー、ポストボーダー」
歌うように唐沢は単語を並べた。
夢のような話だ。林藤は釘を刺しておくことにした。
「後継者を三輪とお考えのようですが、彼は選択外でしょう。未熟ですよ。もっと向いている人材はたくさんいる。幹部の中からさらに選ぶという選択肢が現実的ではないですか?」
「今のところ、城戸さんに一番考え方に近いと周りに認識されているのは三輪くんでしょう。あの通り、素直で真面目な子だ。城戸さんのやり方をそのまま残せる。近界民への敵意が難点でしたが、それも最近は落ち着いてきたようだ。
なに、若者はいくらでも伸びしろがありますよ。それに、貧乏クジを引いてくれそうな人物を考えていくと…」
「貧乏クジですか」
「貧乏クジでしょう」
唐沢はニコリと笑う。
他をあげるとすると、と続ける。
「唯我くんも候補にあがっていると言う話がありましたが」
「知っています」
林藤は固い声で答えた。
唯我尊がボーダーに入隊するにあたり、検討された事項である。
「ご実家の意向ですね。尊くん自身の適性というより利権の話になる。ここまで話が大きくなると、ボーダーを支えるのが唯我グループだけでは弱い。それに、組織が一企業に下るのは、林藤さん、あなたが許さないでしょう」
「…もう、事実上そうなっているでしょう」
そうおっしゃる? 私の力不足ですね、と営業部長は頭を下げた。
「ね、だから、貧乏クジなんです」
「あなた方はずっと喧嘩をしていらっしゃる」
「……」
誰と、とは聞くまでもない。林藤は否定はしなかった。
「あなたには、迅くんがいる。
それだけでも大きなアドバンテージを持っていらっしゃるのに、まだまだ満足されない。あの可愛らしい殿下のことは別としても、最近では、ヒュースを手に入れた。本部が排除できないように非常に巧妙に。
何より、空閑です。黒トリガーを持っている。最上氏の忘れ形見だ。実動部隊に影響力の大きい忍田さんは必ず空閑の味方になる。
そして、あの近界民が言うことを聞くのは三雲くんだけじゃないですか」
「あなたが三雲を評価するのはそのためですか?」
「普通の子ではできませんよ」
唐沢は悪びれもせずに言った。
「それだけじゃない。
風間くんは三雲くんに好意的だ。太刀川隊の、出水くん、唯我くんの弟子になったのは大きい。雨取くんのことで、東くんとも縁ができた。
鬼怒田さんは技術者だ。自分の能力が存分に振るえる場があれば満足する。そうだ、あなたにはもうひとり近界民がいましたね。根付さんも三雲くんを認めている。もちろん、僕も。
彼には大いに期待してるんですよ」
「大の大人が中学生に何を期待するのです?」
「ポストボーダーですよ」
ねえ、林藤さん。唐沢は肩をすくめた。
「子どもを利用するのはおたがいさまではないですか」
「…一緒にしていただいても困りますね」
「…喧嘩でもないんですよ。主義主張の違いという奴でね」
目指すものが違いすぎるのだ。
「喧嘩ですよ。あなた達は歩みよろうとしない。お互いに優位を競い合っている。林藤さん、また隠し玉を増やしているでしょう」
「何のことでしょう?」
ガロプラとの同盟の件は迅の予知も使って、慎重に行なった。
これは唐沢のブラフだろうと林藤は踏んだ。恐らく、本部で三雲と話して何かあると感じただけだ。
「結局のところ」
あっさり唐沢は引き下がったが、注意深くこちらを伺っている。
「鍵を握るのはあなた方二人の喧嘩の行方だ」
林藤は、腕時計を見た。
「もう、こんな時間だ。唐沢さんは明日も早いでしょう」
唐沢も客の少なくなった店内を見渡した。伝票を持ちながら、立ちあがる。それでも、なお言葉を紡いだ。
「迅くんにはどう視えているんでしょうね」
けれど、僕達にも見えますよね、未来。
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palakona · 1 year
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ゴールデンウィークの大冒険w、阪本池。
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2023年5月、阪本池(枚方市)SONY α7+SELP1650
どうも、こんにちは。5月5日「こどもの日」は、阪本池に行ってきました。阪本池は、「西日本へらぶな釣り場情報」や「へら鮒天国」に掲載されてなく、ホームページも残っているが更新されてなく謎の釣り場w。Fさん経由でFさん所属の釣りクラブのメンバーが行った話を聞いた程度しか情報がなかったです。今シーズンは、西池、茨木新池、隠れ谷池、こしが池でボウズを喰らっているので、もうこれ以上…w。なので釣行を先延ばししていたのですが、5月に入って晴れると暑いので、僕としてはヘラ釣りもシーズンオフが近いし、いつ行く?今でしょ!って感じで行ってきましたw。これで、京阪奈の床釣り専用池またはウドン専用池は全て釣行したことになります。
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2023年5月、阪本池(枚方市)PENTAX Optio W60
カーナビはカロッツェリアなのですが、釣天狗池に続き阪本池もピンポイント誘導は無理。まさかカーナビがスマホのナビアプリに負けるとは…釣池ってマイナーなんですかね?寺口釣池、隠れ谷池、釣天狗池、阪本池とカーナビが全敗ですw。Googleマップの経路案内のお世話になったのですが、Googleさんの指示通りに右折…と思ったところ、阪本池の駐車場に入れない。why?池も駐車場も見えているのに。狭い路地でUターンをして道路に戻ってみると、阪本池の駐車場の入り口はこんな感じでしたw。郊外の道路沿いによくある駐車場共用の商業施設の中に阪本池はあって、僕は手前の路地に入ってたみたいです。
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2023年5月、阪本池(枚方市)PENTAX Optio W60
ふう、到着。所要時間は約1時間です。阪奈園HC、FC竹之内、茨木新池、水藻FCが、自宅から大体1時間なので、阪本池もそう遠くはないんかな?左側の青い建物が阪本池の事務所で、手前に柵があるので左右から柵の中を通って事務所に入ります。管理人は老婦人で、1日料金は2300円でした。自動販売機は無いが、飲料は事務所で売ってます。缶コーヒーは120円。温かい缶コーヒーも置いてました。夏は知らんけどw。
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2023年5月、阪本池(枚方市)iPhone11
トップ写真に戻りますが、あれは南側から事務所を撮影したものです。到着した時、僕は早出組だったらしく、空いていたのですが、常連さんが中央桟橋の東向きに座ったり予約を入れたりしてたので、足場もコンクリートで良いし、僕も中央桟橋東向きに座りました。どこの池でも釣れるヘチの釣り座は先約あり。実は、ネットで調べた情報では、トイレ前(東陸桟橋北詰)と長竿遊び場(南陸桟橋西詰)が好ポイントらしかったのですが、ネット情報は正しかったと後で知ることにw。阪本池の竿規定は7尺以上波除けパイプを超えない長さまで。トイレ前が7尺〜14尺まで、長竿遊び場が11尺〜23尺だそうで、中央桟橋は12尺までかな?でも、10尺を振った感じだと、12尺で振り切りは波除けパイプに当たるので振り込みになるかと。中央桟橋東向きは振り切りだと11尺までかな。最初は勝手が分からないので、10尺の芸舟でスタートしました。
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2023年5月、阪本池(枚方市)PENTAX Optio W60
シズ合わせめんどくさいw。浮子は天狗池の仕掛けそのまま舟水の「底釣り」です。冬の床釣りのイメージがまだ残っているのですが、浮子が馴染んでから誘いを入れて揺すっているうちにまぶし粉が剥がれてトップが徐々に返ってくると思っているんですが、浮子が馴染んでからソッコーでエサ落ち目盛まで返ってきますね〜。なんかカンが狂うなあ。なので、エサ無し鉤だけでどれだけトップが馴染むか再確認したり、エサ落ち目盛まで返ってから、エサがついているかどうかソーッと竿を上げて確認してみたり…ほとんどの場合、エサがなくなっていることを考えると、ジャミの猛攻を受けているのかなあ。結論から言うと、中央桟橋東向きは渋かったのですが、隣の常連さんに言わせると今日はジャミが静かなんだそうです。そういえば、釣天狗池もジャミが酷いと聞いていたが、ジャミは静かだったなあ。ヘラブナが水面に湧くのに困りましたがw。そうそう、朝、釣り座を決める時に、見かけは強面の常連さんに声を掛けて入れていただいたのですが、KWさんという方で、とても親切にしていただきました。阪本池や岩田池、釣天狗池のことを色々教えてくださったのですが、中央桟橋東向きが一番深いそうです。水深は西池とか中セ池ぐらいあるかな?
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2023年5月、阪本池(枚方市)PENTAX Optio W60
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!ってスレじゃんorz。実はこれ2枚目です。1枚目も2枚目もスレ。サワリは単発で続かないが、スレてくるってことはヘラブナはそこにいるんだろうなあ。隣のKWさんは、お正月に岩田池をご一緒した某釣りクラブのMさんみたいに「ビシッ」とした鋭いアワセで上手そうだが、KWさんも1枚しか釣れていないそうです。っていうか、あのショートストロークでビシッとアワセるのカッコいい(羨望)。僕みたいにアワセるたびに仕掛けが宙を舞わないし。中調子の竹竿じゃ穂先が跳ねるから無理なんかな。
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2023年5月、阪本池(枚方市)SONY α7+SELP1650
あ゛ぁ゛〜、もう!やっと釣れたと思ったらスレ。また出家させられるんですかw。早く破戒して還俗したいのだが。途中経過は、フック0、スレ4で4連続スレ。こんなん初めて。僕はどんくさい代わりにハッキリとした魚信を取る方なので、あまりスレないんだけどな。っていうか、全然口を使ってくれませんね。
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2023年5月、阪本池(枚方市)PENTAX Optio W60
浮子のトップの返りがやたら早いし、スレばかりだし、浮子の浅馴染みが気になってしゃーないので、夢(伊吹)の「両うどん・パイプ」の7号に替えてみました。全長22cmで岩田池の「浮子は23cmまで」の浮子規定に抵触しないよう買った浮子です。税込5500円。ビンボーなんですが、6号、7号の2本買ってしまいました。
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2023年5月、阪本池(枚方市)iPhone11
浮子を替えても効果なし。単発だが、サワリはあるのでそのうちそのうちと集中していたのですっかり忘れていたが、隣のKWさんが「7尺に替えるか」と言ったので、尺数変更してみようかと。最近、竹竿は持ってるのをロッドケースに入れっぱなしじゃなくてマメに入れ替えているのですが、今日の7尺は孤舟です。名竿師の7尺は、こしが池用で家に置いてきました。
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2023年5月、阪本池(枚方市)SONY α7+SELP1650
7尺に替えて2投目だった��な。阪奈園でも7尺でかろうじてボウズを逃れたことがあったし、こしが池も7尺はよく釣れるし、桟橋に近い方が良いんかな〜とか考えていたら、浮子が「ツン」って綺麗に一節入った。星霜を感じさせる旧ベラだったけどw、ボウズ脱出〜!!!
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2023年5月、阪本池(枚方市)iPhone11
やっと1枚釣れて愁眉を開いたけど、後が続かず…。阪本池は桟橋が高いというか、水面が低いというか、短竿では竿掛の角度がキツく、孤舟は握りも細くて万力をスルッと抜けるのでゴムで引っ掛けているだけなので、なんか使いにくいです。7尺で釣れるんなら良いけど、1枚釣れただけだったので、最近出番の多い池坊11尺に変更。
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2023年5月、阪本池(枚方市)PENTAX Optio W60
浮子は11尺の仕掛けでシズ合わせしてある霧舟の1番です。岩田池用に全長23cm未満の浮子を見つけると買っていた時期があったのですが、これも全長21cmで岩田池用に買った浮子です。1番だけ9節目が狭いんだけどwなんでだろう?
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2023年5月、阪本池(枚方市)SONY α7+SELP1650
ところで、釣れないまま昼食の時間を迎えることになったのですが、隣のKWさんが食事に行く時に、「釣りたかったら、反対向いて(西向き)11尺振ったら釣れますわ」と声を掛けてくださいました。だが、しかし…悪い癖でそのままダラダラ東向きで釣ってました。っていうか、西向きが釣れるんなら、なぜ常連さん達は皆さん東向きに固まって釣ってはんの?
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2023年5月、阪本池(枚方市)iPhone11
西向きですw。14時の途中経過は、フック1枚、スレ4枚。もう無理。なのでKWさんに声を掛けて反対側(西向き)に釣り座を変更しました。
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2023年5月、阪本池(枚方市)iPhone11
西向きになったので太陽も正面近く。太陽ギラギラ。KWさんのお勧めは11尺なのですが、畑の壁が近いので11尺だと振り切りで壁に当たりそう…なので、最近使ってない9尺を出してみました。凡舟の玉藻です。
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2023年5月、阪本池(枚方市)PENTAX Optio W60
9尺の仕掛けは2つ有って、細いウキ止めゴムの仕掛けが有ったはず。希粋の旧モデルを使います。これ、足が細くて普通のゴムだとSサイズでもユルユルなんですよね。
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2023年5月、阪本池(枚方市)SONY α7+SELP1650
釣り台の向きを変えて、荷物を移動させて、11尺を仕舞って、9尺を用意して釣り始めたら、通りがかった別の常連さんが、「12尺で壁際を狙ったら釣れるよ」と声を掛けてくださいました…やっぱ9尺ダメなの?まだ1〜2投しかしてないのに。再度11尺に変更。11尺に変更して再開したのが14時38分ぐらいで、約40分のタイムロスw。エサ落ち目盛見るのに鉤を外したり、外した鉤がどっかいったり、モタモタしてたら40分ぐらいかかったw。心配した間合いは、11尺の振り切りで壁際スレスレにエサを打てます。測ったように気持ち良い位スレスレw。12尺だと振り込みで落とす感じですね。打ち始めて2投目で浮子が「ツン」て綺麗に入りました。なんか良く引く。40cmあるかな〜と計ってみましたが、シートの折り目を考慮すると38cmぐらいですかね。KWさんに「釣れました〜」とお礼を言うと、「おっちゃん、見かけは怖いけど嘘はつけへんよ」とおっしゃってましたw。ありがとうございます。
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2023年5月、阪本池(枚方市)SONY α7+SELP1650
西向きは、大袈裟に言うと、これまでの不漁が嘘みたいにバンバン釣れるw。小一時間で5枚釣れました。「つ抜け」いけるかな〜とチラリと思いましたが、通算6枚目で打ち止めになって、営業終了の16時を迎えました。
ところで、KWさんに西向きで釣らないんですか?と尋ねると、「西向きは浅いからな〜、畑を見ながら釣るのが嫌やねん」とのこと。常連さんが東向きに固まって釣りをしているのは、東向きが釣れるからではなくて、単に釣りたい場所で釣っているだけでした。衝撃の事実w。朝から西向きで釣っている常連さんが1人いて、声を掛けてくれたんですが、「そっち(東向き)は難しいから」とおっしゃってました。でも、15時ぐらいまでボウズだった人も1枚釣ってはったし、並んで竿を出して皆さん釣っているのはさすがですね。あと、ネットでポイントとして紹介されていたトイレ前(東陸桟橋北詰)は、常連さんが後から後からやってきて隙間なく座ってましたが、コンスタントに釣れてボウズはいないようでした。
ということで、5月5日はヘラブナ6枚でした。前日の釣天狗池は、結果的には8枚釣れましたが、ヘラブナが水面に湧いてしまい、釣りにならなかった印象で途中退屈しましたが、阪本池は釣れない時間も、ヘラブナは上ずらず、ジャミは騒がず、単発だがサワリはあったのでなんか充実してましたw。
では、また。
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figmilkfm · 1 year
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0103 あさ新幹線で東京帰る。ずっと欲しかったコーヒーサーバーとコーヒー豆手に持って遅れ馳せながらうちにもサンタ?きた。夕方から萩の湯に行き、帰ってふたりで飲酒など。
0102 三木さんと昼に高柳神社に初詣。のんびりしてから京都。キキとたつカフェへ。夜は三木家に帰宅し、録画してもらってたさんまのまんまを観るなどし年始気分に浸る。
1231 コノミヤでビールとかアイスとか買い込むのがやけに年末。年越しは三木家で紅白。事実上実家が消滅した昨年も、引き���って以降本格的に消滅を遂げた今年も、三木家で食卓を囲みながら0時にみんなで年越しを蕎麦食べた。年が明けた瞬間おめでとうございますと言い合う。私の今年の抱負は特になくて、三木家のみんなに今年の抱負は?と三木家に聞いたら誰もなくてそれもよかった。家族みたいな安心感があるこの家があってくれて今年もなんとか。愛する人たちよ、どうか健康でいてねと思う。それだけ。
1230 中田寝すぎね?早朝から『最愛』一気観した。夜は三木家に帰って蟹鍋に参加させてもらう。
1229 納骨。退職の手続きで精一杯になってて納骨式の準備を全然できてないまま行き道のバスで納骨式について調べたら足りないものばかりで最悪でした、悪い夢か。行き先も違ってて、途中骨壷持って走る。祖母の納骨を済ませておかなかったために私がやることになった怒りを母へぶつけながら、ひたすら川沿いを走る。寒い。骨壷が重い。骨がカラカラと音を立てるのを聞きながらマジでばあちゃんごめんという気持ち。着いたら骨壷、ちょっと割れてたし。この年齢で家の膨大な用事を済ませないといけない生活が心底嫌になる。なんとか無事納骨式を済ませ、セイゴが大正まで迎えに来てくれるらしいのでとりあえず梅田。大正で拾ってもらってみおつくし会へ。まーくんとの飲酒が捗る。夜中は、中田の家でオールザッツ観ながら寝落ち。
1228 寝てたっていうかストレスで3時間歯を食いしばってただけ、みたいな睡眠。疲れが全く取れず。朝起きて奥歯が取れそうなくらい痛む。原さんとランチして、夜三木家に帰る。夜、お父さんと飲むジンを買って帰ったら、お父さんが私と飲むジンを用意してくれてたのでジン祭りを開催。
1227 今日が最後の出勤になるわけですが不思議とそこまで不安がない。何が起きてもたぶんここにいるよりはマシじゃないかな。現状維持を選び続ける自分よりよっぽど。23時なかもず着で、はらさん家着。原家の弟が買ったブルーノマーズのラム酒が美味しすぎて水のように飲む。夜中まで話して、朝は早く起きる。歯食いしばってただけであんま寝てねえ
1216 AM休みたいな日々。編集部に上がるのがキツくて一階に荷物置いて作業。大掃除と見本誌の整理しながら、こういう仕事で一日が終わることに鬱々とする反面、これさえしてれば一日が終わるのだと安堵もする。あと少し。今は耐えるしかない。夜、なみとどん底行く。メンタルがどん底。七千円も使ったのに全く酔えなくて最悪!店員のお兄さんがやってるバンドの話とかその曲とか聞きながら、ほんとはなみともっとゆっくり話したいことがあったから会ったのにねと後悔の念を滲ませる帰り道。
1215 派遣さんに引き継ぎ。することがなさすぎてデスクの断捨離。自分が最初に出した本のラフとかが出てきて懐かしむ。実務してたのが遠い過去のように思える。実務がしたくて気が狂う。ラフ描きたい誌面が作りたい企画進行したい、馬鹿みたいだなー
1214 適当に会社へ行き適当に帰宅。焦りを生む心さえ消失しそうな実りのない日々。夜、あいちゃんと電話して飲酒後寝落ちる。
1211 永田珈琲店で朝。帰りに青いカバBOOKSに寄って往来堂へ行く。帰って少しゆっくりしてたらROUTEでカレー出店してるのを知り、チャリで馳せ参ず。買った夏葉社の新刊をルートで読む。夜、ゆ���ちゃんと飲んでから月吠えで飲む。久々1時半とかまで飲んでて眠い。
1210 4時に起きて気になってたレギュレーションの復習をする。この頃誌面の表記を指摘されまくり、会社勤めの4年間が怖くなる。自分の文章、これでいいのかわからんすぎたけどなんとか形になった原稿見て安心。周りの同世代が仕事に打ち込むのを見て焦りもするが、今回の仕事は自信になった。積み上がって行けたらと思う。仕事がないと日々楽しくない。確実に、私も下積みとして毎日やることを進めていきたい。茨木のり子読んで、ギリまで飲酒後、寝る。
1209 元気なさすぎてねぎしで蘇生を試みるも、欲求って満たすと罪悪感に苛まれる。御茶ノ水のスターバックスで真空ジェシカのイベントレポート仕上げる。やっぱりめっちゃ楽しいな。この仕事がなかったら、私にはいま何もないや。
1108 大阪疲れ?で体調が悪い。早々に多忙宣言を受けた12月の生活が心配。大きな仕事は幸い抱えてないし、体調崩すとしたら今でよかったのかもしれん。
1105 夜、千駄木駅で待ち合わせてふくの湯へ。お腹空いたけどなかなかどこも開いてなくて、根津まで戻って谷中バール。近場だとお互い終電を気にする必要がなくてそれもいい。
1104 親の手続きで台東区役所。書類が多すぎてかなり時間がかかる。結局課税証明書を大阪で取らないといけなかったみたいで、夕方までかかったのに全部終わらなかった。まーでも八割方終わったと思えば気が楽だし、実家がなくなったから、手続きはもう大阪でする必要がないと思うと気はさらに楽。これは感謝な話なのですがみゆきが私の代わりに課税証明書取りに行ってくれるらしー
1031 初動が緩やかであればあるほど保たれるものがある?激しさを伴わない静かな熱よ
1029-30 車屋で飲んだ。すきな人同士を会わせてわたしは終始ニコニコ。そういやノーズショップで見つけたBdk Parfumsの香水、パスソワール「また今度ね(今夜じゃないわ)」の香りが(名前含め)とても良かったので書き留める。アンバーウッドとジャスミン、ブラックペッパーとマンダリンにパチュリ。サボンのボディクリームにも、いつもつけてるバイレードの香水Accord Oudにもパチュリが入ってるし、感覚でいいと思うものにもこうして一貫性が垣間見えるときがある。
1028 夜、飲みに行く。珍しく4軒くらいハシゴして、ことごとく変な人に絡まれる、地獄。「お前らみたいに顔がかわいいからって全部許されて調子に乗ってるような女が一番嫌いなんだよ!」って、横にいる人に叫ばれて最悪じゃない?朝方、また月吠えで変な人に絡まれてるところを山下さんに助けてもらった。何よりボトル奢っただけでいけると思われたことが超腹立つ。朝まで飲んで、皆川くんと始発で帰る。記憶が断片的ですけど酒鬱入ってないだけで偉くて良。
1027 朝、新幹線で東京へ。かぎりなく落ち着く街上野よ。帰ってくるたびこのままここに骨を埋めたいと思うね。昼は出社して、夜、萩の湯にはじめて行く。緊張の糸が切れたのか、わたしは鶯谷の、毛糸編んでるテレビ番組が流れる激渋中華料理屋を出たらまっすぐ歩けないくらいに酔ってしまい、西日暮里まで歩いてタクシーで帰される。けど全部覚えてる、多分。
1026 せっかく大阪いるし美舟で焼きそばを、と思い東通りへ。太麺のソース焼きそばを、すき焼きみたいに生卵をつけて食べるのです嗚呼!ことごとく潰れた思い出の地を上書きしてくれるかのような場所たち。あした東京へ戻る。恒例、三木家の父との晩酌もラストナイトで、また日本酒をようけ飲む。実家、なくなってしまった。
1025 無事引き払えるかと思ったのに若干の不備がありまた実家に赴く、最悪。夜、なかたと福島の花くじらでおでん。親の日記の話から結婚論、子育て論までだらだらと話は流れ、わたしは日本酒飲んで怒る。聞く中田、つられて怒る中田。家の下のローソンで携帯落としてめちゃくちゃ割れたが昨日実家引き払うのに35万払ったばっかなのにもう画面変える金がなくて終わった。
1023-4 きてくれたみんなが帰って、夜通しアルバムと手紙の整理。親がつけてた日記を読んだり、幼少期に描いてた絵本とかzineみたいなものを見つけてしまってさすがにそれは持って帰る。中田がリタイア、夜中3時。布団もないし、二日連続で風呂も入れないというのに。中田よ、ここまでの仕事してくれる友人はお前しかいないね。
アルバム整理してるうちに朝になったから『ボクらの時代』観ようと思うもチャンネルがない。ないないと言いながら探してたらまさか、テレビもなかった。昨日、売ってた。ご飯温めようと思ったら電子レンジもなかった。昨日、売ってた。さすがの二徹、記憶がないわ。業者が朝8時すぎには来て、三木さんも昼前に来てくれる。もう限界くらいに疲れてたから業者の人に借りた段ボールを部屋の隅に敷いてその上で少し寝る。完全に何にもなくなるまで8〜9時間くらい。中田はそのままユニバへ行った。すげえ体力やなとか言ってたら夜、熱出たらしい。三日間埃を被り続けたほぼ埃みたいな人間は実家を消失し、三木家に帰る。隣の人が「夜通しお疲れさま。もう会うこともないんやね」と言って食事券をくれたので、帰りに三木さんと京橋でビール飲んでお好み焼きを食べた。三木家に帰って、実家はもうガス止めてたので三日ぶり?に風呂に入った。腰がいてー。携帯開いたら、連日お疲れさま、原稿は明日でいいよみたいな連絡が来てて、明日でいいって言われても明日って明日かー明日ってもう明日じゃんって思いながら気付いたら寝てた。
1022 作業してたら朝7時くらいになって、中田と中学の頃よく行ったパン屋に朝食を買いに行く。中学の通学路通りながら色々と二人で懐かしむなどまだ情緒のある時間を過ごす。昼から友人が5人来てくれることになったので、来てくれる特に面識ない人々を雑に入れた「シフト」とかいうグループラインをつくる。みんなが気を利かせて買ってきてくれたお茶やらパンとか551の豚まんなんかをテーブルに並べてったら、撮影みたいになる。現場、仕切らせていただく。中田がまーくんの車で電子レンジとかテレビとか、売りに行ってくれた。大量に売った服の買取価格がまさかの30円だったから、「今日のギャラです」と言って中田とまーくんと10円ずつ分けた。私ももらってるし。こんなに物があってもほとんどお金にならないし、持って帰れる場所はない。アルバムも腐るほどあるけど簡単に見返せる量ではないし。二日目、物への思い入れが皆無になって怒りが湧いたり、幼稚園の時の手形?とかを「こんなの捨てにくいわ!!!」とか怒鳴りながら泣き出したりして私のメンタルもいよいよ。夜には引き上げて三木家に帰る予定だったのに、作業が思いのほか何にも終わってなければ逆に散らかしただけみたいな結果になり、今日も泊まり込みでやるかと言ったら、中田は明日のバイトを休んで今日もうちに残って付き合ってくれた。親…友……
1020-21 荷造りする気力がなさすぎてみきに来てもらう。仕事しながら『Silent』観て、朝は上野までタクシーで東京駅へ向かう。引っ越して二年くらい経ってから気付いたけど、家から新幹線に乗るルートの解はこれだわ。帰阪して早々に面会、病院、区役所こなしたけど思いの外元気だしで西大橋の、親が常連だった居酒屋に飲み行く。みゆきといわしちゃんを会わせる。結構飲んだら普通に今から片付け作業取り掛かるとか考えられん眠さになったが仕方なしに僻地の実家まで帰る。久々の実家は人が住んでたまんまだし、真っ暗で寒い。手始めに、懐かしみながら生徒手帳とか読んでたら寝落ちてて、1時半くらいに中田訪問チャイムで起こされる。一緒に夜通し作業するけど、思ってたより膨大でぞっとする。学生時代のいるもの/いらないものは途中からほぼ中田の判断に任せることに。何より物量がありすぎて全部自分で見てる時間がない。一回うちに来たことのある初音が、「物量は相当だろうよ」と言ってたのを思い出す。「美術としては相当リッチだけど」とも。
1019 御徒町の珈琲館で作業。山家でとんかつ食べる。上野から千駄木まで歩いて朝日湯へ。風呂上がりに珈琲牛乳を飲んでる私の隣で美味しそうにビールを飲む人よ。帰り、夜風がめちゃくちゃ秋だったな。
1016 休み。あてもなく吉祥寺に行ったのでとりあえずチャイブレイクで本とか読む。栗と迷って金木犀のチャイ。こういう飲み物で季節を感じないともうね。そういえば親の夢を見た。身体が動くようになった母親の車椅子を、亡くなった祖母が押していて、3人で実家にいた。起きてから、本当に実家がなくなんのかーとかぼんやり考える。けど、もう誰もおらんし、元からないようなもん。夕方、家に帰ろうと思うも充電がなさすぎて、充電しに月吠えへ。武蔵野館で『よだかの片想い』観ようと月吠えを出て、映画が終わってから携帯開いたら、不在着信の後に「今飲んでないの」とあやなから連絡。「映画観ててこれから月吠え戻るよ」と返事してすぐ戻ったらあやながいた。さっき私に電話したけど出ないって月吠えで話したら「あの子今映画観てるよ」ってユースケが言ってくれたらしくて、なんか月吠えは放課後感あってよかった。
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t82475 · 3 months
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FTMのお客様
1. ここは日本有数の資産家で実業家でもある旦那様のお屋敷。
厨房で仕上がったポワソン(魚料理)をワゴンに載せて晩餐ホールへ運ぶ。 配膳担当のメイドは私を含めて2名。 ホールの扉の外に立つメイドが2名。そしてホール内に控えて様々なお世話をするメイドは4名。 今夜は旦那様のプライベートなディナーでお客様はお一人だけだから、私たちメイドも最小のチーム構成で対応している。 各国政財界の要人をお招きする公式の晩餐会なら数十名から100名近いメイドが働くことも珍しくない。
扉を開けて90度のお辞儀。ワゴンを押して中に進む。 本日のホールにはオブジェが飾られていなかった。 「オブジェ」は観賞用に女性を緊縛した作品のことで、その意図はお客様へのサプライズ、あるいは旦那様の趣味だ。 縛られるのはもちろん屋敷のメイドで、私たちは日頃からそのための訓練を受けている。 大抵の晩餐ではたとえお客様が女性の場合でもオブジェを飾るのが普通だから、今夜のように何もないのは珍しい。
お食事のテーブルには旦那様と向かい合ってお客様が座っておられた。 「・・失礼します。こちら焼津沖の真鯛のポワレとヴァンブランソース、アスパラガスのエチュベ添えでごさいます」 「ありがとう」 お客様から明るいご返事をいただけた。 黒髪のナチュラルショート。お召し物はネイビーのスーツ、チェック柄のボタンダウンシャツ。 ラベンダーのネクタイとポケットチーフがよくお似合いだった。 よく見るとスーツの胸元が膨らんでいるのが分かる。腰もほんの少し括れているように見えた。 今夜のお客様は女性だった。
この方は作家の天見尊(あまみたけ��)様。 大学在籍中の22才でSF文学新人賞を受賞し、26才の今は次代を担う若手SF作家のホープとまで呼ばれている。 FTM(生物学的に女性、性自認は男性)のトランスジェンダーで、それを秘密にせずブログやSNSで公開されていた。 旦那様はいろいろな方を招待されるけれど FTM トランスジェンダーのお客様は初めてのはずだ。
「・・ではもう長らく男性ホルモンを?」旦那様が聞かれた。 「はい。19のとき GID 診断を受けまして、その翌年から投与を始めました」天見様がお答えになる。 「いずれ手術もお考えですかな?」 「そうですね。なかなか決心がつかないのが困ったものですが」 「いやいや、お悩みになるのが当然です」
旦那様はずいぶん熱心に質問なさっている。 これでオブジェを置かない理由も理解できる。 今夜はお客様を驚かすよりも、ご自身の好奇心を満たしたいのだろう。
「その、ホルモンを使うと、本来女性である身体にはどういった変化があるものですかな?」 「変化ですか? 声が低くなったり、他にもいろいろありますが」 「例えば月のモノがなくなるのが嬉しいと、どこかで聞きましたが」 「それはありますね。実は僕の場合・・」
私は前のお料理のお皿をワゴンに回収し、頭を下げてテーブルから離れた。 旦那様は会話がお上手だ。 相手を機嫌よくさせて、普通なら口にするのを躊躇うような話題でも聞き出してしまう。 そうしてご自身が満足されたら、今度はお客様への心遣いも疎かになさらない。
・・ヴィアンド(肉料理)かサラダの後で始まるわ。心の準備をしておいて。 私はワゴンを押して出て行きながら、ホールの壁際に控えるメイドたちに目配せする。 彼女たちも無言で相槌を返してきた。 このお屋敷に勤めるメイドなら皆が分っている。 旦那様がなさるであろうこと、そして自分たちがすべきことを。
2. アヴァンデセール(デザートの一品目)をお出しするときに旦那様が仰った。 「そろそろメイドの緊縛は如何ですかな?」 「は?」 天見様は一瞬驚いた顔になり、すぐに落ち着いて応えられた。 「なるほど、これが噂に聞くH邸のサービスですか」 「ご存知でしたら話は早い。作家である貴方なら見ておいて損はありますまい」 「拝見します。いえ、拝見させて下さい」
待ち構えていたメイドたちが走ってきて横一列に並んだ。全部で8人。 「好きな娘を選びなされ。この中から何人でも」 「僕に決めさせてくれるのですか」 「もちろん。お望みなら裸にしても構いませんぞ」
旦那様はとても楽しそうにしておいでだった。 天見様はメイドたちを見回し、そして一人を指差した。 「この人をお願いします。裸は・・可哀想なので服を着たままで」 選ばれたのは私だった。 「務めさせていただきます。どうぞお楽しみ下さいませ」 私は両手を前で揃え180度の辞儀をする。 お屋敷直属の緊縛師が道具箱を持って入って来た。
両手を背中に捩じり上げられた。 肩甲骨の位置で左右の掌を合わせ、その状態で縄を掛けられる。 後ろ合掌緊縛という縛り方だった。 柔軟性が必要といわれるけれど、私たちメイドにとって特に無理なポーズではない。
旦那様と天見様の前で1回転して緊縛の状態をご覧いただいた。 それから私は靴を脱がされてテーブルに上がった。 本来なら晩餐のためのテーブル。 テーブルクロスを敷いた上にうつ伏せに寝かされる。
右足を膝で折って縛り、その足首に縄を掛けて背中に繋がれた。 さらに左の足首にも縄が掛けられ、左足がほぼ真上に伸びるまで引かれた。 背中に別の縄が繋がれた。口にも縄が噛まされる。
足首と背中、口縄。全部の縄を同時に引き上げられた。 私はふわりと宙に浮いた。 支えのない腰が深く沈んで逆海老になった。 口縄に荷重のかかる位置が耳の下なので、首を横に捩じった状態で吊られる。
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するすると引き上げられて、天井から下がるシャンデリアと同じ高さで固定された。 床からの高さは約3メートル。 すぐ下に旦那様と天見様のテーブルが見えた。
私は無駄に動かないように努める。 これは空中で女体を撓らせて見せる緊縛だから、あらゆる関節が固められている訳ではない。 もがこうと思えばもがける。 でも今夜のお客様に対して、激しくもがく緊縛は旦那様の意図ではない。 私に期待されているのは静物。 感情を表に出さないこと。耳障りな喘ぎ声や鳴き声をこぼさないこと。 お人形のように動かないこと。 動くなら、ときどき手足の筋肉に力を入れて無力であることをお見せする程度がよい。
私の中には縄に自由を奪われる切なさとやるせなさが既に芽生えている。 でもそれをお客様に知られるのはNG。 被虐の思いは自分の中で密かに楽しもう。 女として生まれメイドとしてご奉仕できることを感謝しながら、この時間を過ごそう。
テーブルではお二人がコーヒーを楽しんでおいでだった。 ときおり天見様は感嘆の表情で私を見上げられた。 そして旦那様はその様子を満足気にご覧になっているのだった。
お二人の歓談が終わるまで約2時間。その頭上に私はオブジェとして吊られ続けた。
3. 客室の扉をノックする。 「失礼いたします」 中から扉が開いて天見様が顔を出された。 「君は・・」 「伽(とぎ)に参りました」「え、伽」 「よろしければ朝まで一緒に過ごさせて下さいませ」 「知っていると思うけど僕の身体は女だよ」 「存じております。私どもはどんなお客様にもご満足いただけるよう教育されてますからご心配ありません」 「へぇ、面白いね。じゃあどうぞ中へ」 お部屋に入れていただいた。
天見様は客室に備え付けのスリーパー(丈の長いワンピースタイプのパジャマ)の上にナイトガウンを羽織っておられた。 お立ちになると身長166の私より10センチは小さい。 でもお身体はスーツをお召しのときよりがっしりして見えた。着痩せするタイプね。
「コーヒーか紅茶でも入れよう。ミニバーにお酒もあるみたいだけど」 「それは私にやらせて下さいませ。お飲み物をお出しするのはメイドの仕事です」 「じゃあ、お願いするよ」 「ご希望はございますか? ここにない品でしたらすぐに持って来させますよ」 「それなら暖かい紅茶をストレートで。言っておくけど君も一緒に飲むんだよ」 「分かりました。今ここにはインドのダージリンとアッサム、ニルギリがございますが」 「アッサムがいいな」 「承知いたしました。しばらくお待ち下さいませ」
ケトルでお湯を沸かす。 ティーカップのセットを2客とポットを出し、お湯をかけて温めた。 温まったポットに茶葉を量って入れる。 ふつふつと沸騰したお湯をポットに注ぎ、きっちり4分間蒸らす。
「丁寧に作るんだね」 「ごく普通の淹れ方ですよ。・・さあ、どうぞお召し上がり下さいませ」 「ありがとう。立ってないでここに座って」「はい」 小さなテーブルに向かい合って座った。 「うん、美味しい」「恐れ入ります」 「その手」 「はい? ・・あ」
天見様が見つめる私の手首には緊縛の痕跡がくっきり残っていた。 「これはお見苦しいものを・・。大変失礼いたしました」 「見苦しくなんかないさ。名前があるんじゃなかったかな、それ」 「『縛痕(じょうこん)』と呼びます。肌に刻まれた縄の痕でごさいます」 「いいねぇ。君が縛られた証拠だね」 「はい」
「えっと、君の歳を聞いてもいいかな?」 「私は19才でございます」「そうか、若いなぁ」 「お食事のときは私が一番年上だったのですよ」「え?」 「他に控えていたメイドは15から17才でした。もっと若い娘をお選びになると思っておりましたのに」 「15の女の子を縛っていいの?」 「もちろん構いません。もしお客様が15才のメイドを選んでおられたら今頃はその者が伽に参ったはずです」 「15の子が僕に?」 少し驚かれたようだった。
「どうして私を選んで下さったのですか? よろしければ教えて下さいませ」 「それはね、君が初めて好きになった子に似ていたからだよ」 「まあ、それは光栄です」 「中学2年生だった。・・女の子同士の同性愛だと思ってたんだ。でも彼女を抱きたいって思うと自分が女の身体であることが気持ち悪くてね。ずっと悩んでた」 いけない。無邪気に質問して嫌なことを思い出させてしまった。 「あの、ご不快な思いをされたら申し訳ありません」 「いいんだ。今となっては懐かしい思い出さ」 天見様はそう言って笑って下さった。
「僕はね、君に感謝したいんだよ」 「感謝、ですか?」 「だって僕のために緊縛を受けてくれたじゃないか。話に聞いてはいたけど、ああいうのを直接見たのは初めてなんだ。女の子を縄で縛って吊るす。・・すごいと思った」 「お楽しみいただけたのですね。よかったです」 「どうやら僕は女性をあんな目にあわすことに興奮するらしい。サドだね。こんなことを本人の前で言ったら嫌われるかもしれないけど」 「とんでもございません。男性が若い女性の緊縛に興味を持たれるのは自然なことです。天見様は立派な男性でいらっしゃいます」 「ありがとう。・・うわ、やっぱり僕、とんでもないことを告白しちゃった気がする」 天見様は急に立ち上がると頭を掻きむしられた。 その姿が可愛らしい。笑っては失礼だから微笑むだけにしていたけれど。
このお客様なら嗜虐プレイも大丈夫ね。 きっとお悦びいただけるだろう。 私は備え付けの道具を頭に浮かべつつ提案することにした。
「天見様。もう少し、次はご自分でお試しになっては如何でしょう?」 「試す? 何を?」 「少々お待ち下さいませ」 クローゼットを開けて一番下の引出しを手前に引いた。 そこには様々な拘束具や縄束、責め具がきちんと整理して収められていた。 「そんな物まであるのか、ここには」 「H邸の客室でございますから」
私は短鞭(たんべん)と呼ぶ棒状の鞭を取り出した。 乗馬鞭の一種で長さ50センチ。先端にフラップという台形のパーツがついていて正しく打てば大きな音が鳴る仕掛けになっている。
「これでしたら初めての方でも比較的使い易い道具です」 「柄の長いハエ叩きみたいだね。おっと君はハエ叩きを知らないかな」 「存じております。これでハエではなく女の尻をお叩きになって下さいませ」 「女というのは、もしかして」 「はい」 私はにっこり笑う。 「今、女といえば私だけでございます」
4. 天見様が短鞭を持って素振りをされている。 「そうです。手首のスナップを利かせて、先端の平らな部分が対象に平行に当たるように」 「えっと、鞭を打つ練習用の台みたいなものはないのかな」 「ございません。練習でしたらメイドの身体をお使い下さいませ」
手錠を2本出してお渡しした。 私��床のカーペットにお尻をついて座り込み、右の手首と右の足首、左の手首と左の足首をそれぞれ手錠で連結していただいた。 そのまま前に転がって膝をついた。 右の頬をカーペットに擦りつけ、天見様に向かってお尻を高く突き上げる。 これでメイド服のミニスカートの中に白いショーツがくっきり見えているはず。
「私の下着を下ろしていただけますか?」 「でも」 「構いません。どうか私に恥ずかしい思いをさせて下さいませ」 天見様は両手でショーツを下ろして下さった。
「ここは僕と同じだね。でも僕よりずっと綺麗だ。それにいい匂いがする」 「ありがとうございます。・・でも、そんなに顔を近づけて匂いを嗅がないでいただけますか? 恥ずかしいです」 「恥ずかしい思いをしたいと言ったのは誰だっけ」 「あ、私でした」 二人揃って笑う。少し空気が和らいだ。 「では始めて下さいませ」 「本当にいいんだね?」 「どうぞ、天見様」
鞭を持って大きく振りかぶり、・・ぺちん。 控えめな音がした。 「もっと思い切って当てて下さいませ」 ぱち。 「もっと強く」 バチッ。 ビシッ!! 鋭い音が出た。臀部に痛みが走る。 「あぅっ」 「ごめん! 痛かったかい?」 私は顔を向けて微笑んで見せた。 「今の打ち方で合格でございます。その調子でお続け下さいませ」 「やってみるよ」 「あの、」 「?」 「私この後も声を上げるかもしれません。お聞き苦しくないよう努めますので、どうぞお愉しみ下さいませ」 「・・分かった」
深呼吸。それから連続の鞭打ちが始まった。 ビシッ!! ビシッ!!! ビシッ!!! 「あっ」「あっ」「ああっ!」 鋭い痛み。被虐感。 お尻から頭までじんじん響く。 このお客様、筋がいい。
ビシッ!! ビシッ!! 「はぅっ」「はん!」 天見様は私のお尻だけを見つめて鞭打っておられた。真剣な表情。 もうお任せして大丈夫ね。 私も自分を解放しよう。 そっと性感を放流した。胸の中、子宮、身体の隅々へ。 少しずつ、少しずつ。・・とろり。
ビシッ!! ビシッ!! ビシッ!! 「あああ!」「はあん!!」「は、あああっ」 痛みの部位が移動するのが分った。 右側、左側。太もも。 同じ個所を打ち続けないように気を遣って下さっていると理解した。 まんべんなく打ち据えられる。 嬉しい。 とろり、とろーり。
ビシッ!! 「はぁ、はあぁ・・ん!!」
鞭が止まった。 はぁ、はぁ。 天見様は鞭を握ったまま立ち尽くし、肩で息をなさっている。 額に汗が光っているからお拭きしてさしあげたいけど、今、私にその自由はない。
「辛くないかい?」 「辛いです。でも嬉しいです」 「それは君がマゾだから?」 「はい。それもありますが」 「?」 「同じ個所を何度も打たないようご配慮いただきました」 「気がついたのか」 「もちろんでございます。それからもう一つ」 「まだあったっけ」 「私、我慢できずに下(しも)を濡らしました。天見様もご一緒にお感じになって下さいませんでしたか?」
天見様の驚く顔。 今、天見様の目には赤く腫れた私のお尻、そしてその下にぐっしょり濡れてひくひく動く膣口が見えているだろう。 これは演技でやったことではない。 私は本当に官能の中で濡れてさしあげたのだった。
お客様のご満足のためにご奉仕する、それがH邸のメイドの役目だ。 メイドが醒めていたらお客様はお楽しみになれないし、逆にメイドだけが乱れてお客様を置いてきぼりにすることも許されない。 だから私たちはお客様を導き、お客様と一緒に高まるように訓練されている。 たとえ拷問を受けるときでもお客様の気持ちを測って苦しみ方を変える。
「・・うん、興奮した。僕が打つ鞭が君に痛みを与えている。その度に君が喘ぎ声を上げてくれる。たまらなく興奮したね」 天見様は仰った。 「もし僕が男の身体だったら絶対に勃起してるね。いや、男の身体で君を打ちたかったと心底思ってる。・・ん、ふぅっ」 その指先がご自身の下腹部を押さえていた。 天見様? 「ありがとう。・・これで終わろう」
5. 拘束を解いていただいた。乱れた髪と服装を整える。 ニーソックスの後ろが破れたので手早く交換した。 「お尻は大丈夫かい? 赤くなってるみたいだけれど」 「どうかご心配なく。この程度の腫れでしたら明日には消えるはずです」 本当は4~5日ってところ。 「そうか、酷くなくてよかったよ」
このお屋敷では、接待にあたるメイドの負傷はある程度避けられないとされている。 だから接待プランやお客様の嗜好データに基づいてAIがリスクを予測している。 例えば今夜の天見様ご接待の予測値は 10-20。 これはメイドが全治 10 日の軽傷を負う可能性 20% という意味になる。 予測値が高い接待では相応のスキルがあるメイドを割り当てたり、最初から大きな怪我をする前提でシフトが組まれたりする。 まれに 90-90 といった拷問そのものの接待があって、担当するメイドは命の覚悟をして臨むことになる。 当然ながらこれはお屋敷内部で管理される予測値だ。 お客様にお伝えすることは決してない。
二人並んでベッドに腰かけた。 私は自分の両手をそっと天見様の手に乗せる。 天見様が仰った。 「テストステロン(男性ホルモン)を使うとね、声が低くなったり生理が止まったりするけど、他にも変化があるんだ。それは性欲が強くなること」 そう言って先ほどと同じように指を下腹部にお当てになった。 「だからオナニーが増えたよ。女の身体が嫌なはずなのにクリを使ってね。・・実は今も触りたくて仕方ない」 「お気持ちお察しいたします。でも天見様は他の女性にご興味がおありではないですか?」 「うん。僕は FTM のヘテロ(異性愛者)だから、自分以外の女性は異性として好きだよ」 「それでしたら私も女です。私にお慰めさせて下さいませ」
私は床に降りて正面に膝をつき、天見様のスリーパーの裾を持ち上げた。 天見様は FTM 用のボクサーパンツを着用されていた。 パンツの上から触れただけで突起が分った。 「んぁ!」 「優しく触ります。どうぞお任せ下さいませ」 「ありがとう。君を、信じる」 ボクサーパンツを下ろしてさしあげた。 わずかに香る匂い。 膝を左右に開かせ、ベッドに座ったまま開脚していただいた。
そこにクリトリスが生えていた。 その長さは外に出ている部分だけで4~5センチ程度。 男性ホルモンは女の陰核をこれほど肥大化させるのか。 真上からそっと指を当てる。 「ん、あぁ」 「我慢しないで、感じるままに声を出して下さいませ」 「くぅっ、んあぁ!!」
根元を押して包皮を引き下げ、露出した亀頭を唇に挟む。 反対の手の指を膣口に挿し入れた。 そこは既に愛液で潤っていて、中指がするりと吸い込まれた。 軽く噛んで先端を舌で転がし、同時に挿入した中指の第二関節を折って内壁を刺激した。 「ひっ、・・あああっ!!」 さらさらした液体が噴出して私の顔と腕を濡らした。 あっという間だった。 この方はきっとGスポットでも自慰をなさっていると思った。
天見様は2度、絶頂を迎えられた。
6. 明け方。 私は天見様とベッドにいる。 天見様は裸の上にスリーパーだけを纏っておられた。 私は全裸で天見様に抱かれていた。
「ね、もう一回抱きしめてもいいかな」 「はい。力いっぱい抱いて下さいませ」 ぎゅう!! 強く抱きしめられ、その間息ができなかった。 「ごめん、苦しかった?」 「いいえ。でもすごいお力」 「テストステロンは筋肉が付くんだよ。でも放っておくと腹だけ膨らむから、ジムで筋トレしてるんだ」 「そうでしたか」 「・・生まれて初めて裸の女の子の抱き心地を堪能したよ。君のおかげだ。僕はここで人生最初の体験を重ねてる」 私も初めてでございました。FTM 男性との体験は。
「そういえば、君の名前を聞いてなかったね」 「私の名前はお客様がご自由につけて下さいませ」 「僕と君の間だけの名前か。面白いね。・・それなら『キツネ』ちゃんはどうかな?」 「まあ私はキツネですか?」 「君の髪がキツネ色だから」 「そんなに明るい色ではございませんよ。でもありがとうございます。可愛いお名前、私も大好きです」 「調子がいいねぇ。本当に思って言ってる?」 「あら天見様、私、商売柄調子のいいことを言いますが、嘘は申しません」 天見様はにやりと笑われた。 「いいねぇ、その返し。・・君には人を騙す尻尾が九本あるかもしれないな。あの玉藻前(たまものまえ)みたいに」 私も妖しく笑う。こういう返しは得意でございます。 「あいにく誰かに憑りついて生気を吸い取ることはしないよう努めております。前に一度やって主人に叱られましたので」 「・・ほぅ、知ってるのか」「はい、レキジョですから」 「え、本当?」「嘘です。天見様を騙しました」 「ぷ」 二人で声を出して笑った。
「君には感心したよ。賢くて機転が利く。察しがよくて心配りも行き届いてる。今どきこんな子がいるとはね」 「恐縮でございます」 私たちは皆そういうふうに躾られているのですよ。
「君なら僕がベッドでも服を脱がない理由が分かっているんだろう?」 「はい。・・ご自身の胸が目に入るのを避けておいでではありませんか?」 「そうだよ。できるなら見ないでいたいモノだ、自分の胸なんて。君はあれだけ僕の性器を刺激してくれたのに胸には一切触れなったね。女同士なら真っ先に乳首を触ってもおかしくないのに」 「天見様」 私は天見様の手を取った。それを自分の裸の乳房に当てる。 「女同士ではありません。男と女です。どうぞ男性としてこの女の胸を弄んで下さいませ」 「そうだね、僕は男だった」
きゅ。 乳首を摘ままれた。電流が走る。 「きゃん!」 天見様は悪戯をした男の子みたいに笑われた。 「自分のものでなけりゃ女の子のおっぱいはいいよね。顔を埋めたくなるよ」 「もう!」 私は身を起こし、仰向けになった天見様の上にのしかかった。 「それなら存分に埋めさせてあげます!」 乳房を顔面に押し当てて体重を乗せた。これでも一応Dカップ。 「うわぁっ」 「どうですか? 嬉しいですか?」 「て、天国」 「エロ親父ですか」
7. 作家の天見尊様がお泊りになってから4か月が過ぎた。 私は誕生日を迎えて20才になっていた。 メイドの一人が誕生日だからといって特別な行事がある訳ではない。 せいぜい仲間内でささやかなお祝いをする程度だった。
その日の午後は外出の命令があった。 お屋敷の用務かと思ったら、外部のお客様への接待だという。 本来、私たちメイドのご奉仕の対象は旦那様が招かれたお客様に限られる。 無関係な人や組織への接待は滅多に行われない。 仮に行う場合は相手に対して法外な対価が求められる。 昔、外務省からの緊急要請で同盟国の高官にメイドを派遣したとき、旦那様が要求なさったのは中央アジア某国でのレアメタル採掘権交渉を日本政府が支援することだった。 H邸に勤める者の間では今も語り継がれる伝説だ。 仮に現金で支払う場合はメイド1名に数千万円から数億円が請求されるらしい。 いったい私はいくらで派遣されるのだろう?
指定されたホテルまでお屋敷の車で送ってもらった。 ロビーでお待ちになっていたのは。 「天見様!」 「やあ、キツネちゃん! 二十歳の誕生日おめでとう。お祝いにデートしようと思ってね」 「あの、メイドの誕生日は公開されていないはずですが、どうやってお知りになったのですか?」 「電話で聞いたら教えてくれたよ」 「・・」 「とても親切だったね。君をレンタルしたいって頼んだら料金も良心的で」 「あのあの、それはおいくらか、よろしければ教えていただけますか?」 「1時間ごとに 1113円。それ東京都の最低賃金だから、せめて 2000円くらい取ればいいのにね」 「・・」 旦那様、絶対に面白がっておられる。
「さあ行こうか」 「どちらへ?」「僕に任せてくれるかい」 ホテルを出て歩道を歩き出された。 「天見様、お車は?」 「持ってないんだ。タクシーも苦手だし、地下鉄で行くよ」 「あ、あの」 「どうしたんだい?」 「私、地下鉄に乗ったことがごさいません」 「本当かい? はははは」 大きな声で笑われてしまった。
8. 自動改札機がどうしても通れなかったので、天見様が別に切符を買って通らせて下さった。 お屋敷のIDカードでは改札機の扉が閉まることを初めて知った。 カードを手で擦って暖めたり、ひらひらさせたり、いろいろ工夫してみたのだけど。
ようやく電車に乗って連れてきていただいたのは英国ブランドのブティックだった。 「せっかくのデートにそんな地味な服は駄目だよ」 私は薄いグレーのワンピースを着ていた。確かに地味かもしれない。 対して天見様が着こなしておられるのは鮮やかなワインレッドのカラーシャツと黒のカジュア��パンツ。 小柄な身体にオーバーサイズを着けているから胸の膨らみも目立たない。
天見様は私にホルターネックの真っ白なミニドレスを選んで下さった。 キュートだけどバックレスになっていて背中が腰まで開いている。 上から覗いたらお尻の割れ目まで見えてしまうのではないかしら。 「よく似合ってるね。これを君にプレゼントするよ」 「あの、もう少し身体を隠すドレスの方がよろしいのでは」 「却下。僕の好みに従って下さい」 「・・はい、天見様」 これを着て帰ると伝えたら、それなら髪を上げた方が、それならお化粧も変えた方が、とお店のお姉さんたちが集まってきてあっという間に変身させられてしまった。 この人たちも絶対に面白がっていると思った。
お店を出て天見様と並んで歩いた。 髪をアップにされた上にハイヒールも履かされたから、私の方が30センチは背が高い。 でも天見様はそれをいっこう気になさる様子はなく、笑って左の肘を差し出された。 私は少しだけ溜息をつき、それから笑ってその腕にすがって密着した。
「駅は反対側ではありませんか?」 「少し歩いて見せびらかそう」 はぁ? すれ違う人々の視線が痛かった。 露出した首筋と肩、そして背中。 まだ風が冷たい季節ではないのにぞくぞくした。 お屋敷のパーティではこんなセクシーな衣装の女性をよくお見掛けする。 思い切り肌を晒して見られるのを楽しむセレブの美女たち。 でも今、見られるのは私だった。 せめて何か羽織るものをお願いすればよかったな。
「頬が赤いよ、キツネちゃん」 「天見様!」 「前は一番恥ずかしい場所を僕に見せてくれたのに?」 「知りません!」 「でもさ、僕は落ち着き払っている君よりも今の君の方が可愛いから好きだね」 ああ、もう。 可愛いと言ってもらえるのは嬉しいけれど。
9. プラネタリウムで星座を見て、湾岸の公園で夕日を見て、オーガニックのレストランでお食事。 庶民的なデートコースだった。 天見様はセレブじゃないものね。 でも15才でお屋敷に入って以来ほとんど外に出たことのない私にとっては珍しい場所ばかり。 お食事の後はスター○ックス。 抹茶クリームフラペチーノにストローを2本挿して二人でくすくす笑いながらシェアする。 何て楽しいのだろう。 セクシーな衣装にはすっかり慣れてしまった。
気がつくと天見様の手が私の肩に乗っていた。 しばらく一緒に歩いてから指摘する。 「あの、踵を上げたままお歩きになると大変ではありませんか?」 「そう思うなら君の方で何とかしてくれないかい」 仕方ありませんね。 私はその場でハイヒールを脱ぎ捨て裸足になった。 どうですか? これでずいぶん低くなりましたでしょう? 私の肩。 「おー、ちゃんと届くようになった」 「ご命令でしたら、この後ずっと裸足でおりますが」 「ふふふ、それもいいねぇ」 「ただし水溜りがあったら私を抱き上げて下さいませ」 「え?」 「よろしいですか?」 天見様はにやりと笑ってお答えになった。 「約束しよう。じゃあ今からキツネちゃんは裸足だ。・・これはもう要らないね」 脱ぎ捨てたハイヒールを拾うと自分のパンツのポケットに片方ずつ突っ込まれた。
「ところで、たまたま偶然思い出したんだけど、近所に僕のマンションがあるんだ」 「あら、それは偶然ですこと」 「来てくれるよね」「はい、天見様」 私は素直に従う。 もとよりそのつもりだった。 お屋敷で指示された内容は「お客様のお住まいでご奉仕」だったのだから。
二人並んで歩き出した。 私だけが裸足。天見様は私の肩をお抱きになっている。 「すぐ近くですか?」 「ん-、電車で20分、いや30分くらいかな」 「怒りますよ」
10. 天見様がお住まいのマンション。 玄関横の表札プレートには『徳山誠一』とあった。 天見尊はペンネームのはずだからご本名? もちろん余計なことは詮索せず、天見様について中に入る。
上がり框(かまち)のところで天見様が振り返って言われた。 「まさか本当に裸足で歩くとはね」 私はすまして応える。 「どこかに水溜りがあればと期待しておりましたのに」 ここへ来るまでの間、私は電車の中でも裸足を通したのだった。
天見様の行動は速かった。 私はその場で抱きしめられた。 むき出しの背中を天見様の手が撫でる。 私より小さいお身体なのに、前と変わらない、いえ前よりさらに強い力で抱かれた。 「んんっ」 天見様の右手がドレスの脇から侵入して乳房に覆いかぶさった。 「だ、駄目です。・・私の足、まだ汚い」 「後で拭けばいいさ」 ゆっくり揉みしだかれた。 「あぁ・・」 官能が湧き起こる。 この間は初めて女の子を抱いたって仰っていたのに、どうしてそんなに上手に揉むのだろう。
「君のレンタルを申し込んだときにね、聞きたいことはあるかと言われたからいろいろ質問したんだ」 「はぁ・・ん」 「君に何をしてもいいのかって。・・そしたらOKだって」 「んぁ!! ・・ああ」 「酷いことをしてもいいのか。苦痛を与えてもいいのか。怪我をさせてもいいのか。・・全部OKと言われたよ」 「あ、・・あん!!」
天見様の愛撫は執拗だった。 気持ちいい。このまま身を任せてしまいたい。 でもちょっと���っておけないことを口にしてらっしゃるわね。 少し脳みそをクリアにしなきゃ。
はぁ、はぁ。 激しく喘いでさしあげながら、天見様の表情を横目でチェックする。 大丈夫。自制なさっている。 これ以上暴走する危険はないわね。 おそらく今日のデートは入念に計画されたのだろう。 この後も何かご計画があるはず。きっと私への嗜虐行為だろう。 では今必要なことは? 私がすべきことは? ・・理解していただくこと、そして安心していただくことね。
「天見様」 ゆっくり呼びかけた。 「ご安心下さいませ」 「え」 「天見様のご満足のためでしたら何も拒みません」 「・・キツネちゃん?」 「ご奉仕させて下さいませ」 「そうか、君は知ってたんだね」 「はい。私をお好きなように扱って下さいませ。酷いことでも苦しいことでもお受けいたします」 私を押さえる手から力が抜けた。 「本当にいいのかい?」 「はい、天見様」 「悪かった。乱暴なことをしてしまったね」 「いえ、どうかお気になさらず」
ご理解いただけた。 ほっとすると同時に官能が戻ってきた。 とろり。下半身が熱い。 もしあのまま押し倒されていたら、どうなっていたかしら。 ああ、私きっとエロい顔をしているわ。
11. 天見様のマンションはリビングダイニングのお部屋の奥に階段があって、その上が吹き抜けのロフトのようになっていた。 メゾネットだよと教えて下さった。 浴室は階段の隣。
私はまずシャワーをお願いして、浴室を使わせていただくことにした。 服を脱いで裸になってから、ご一緒に如何ですかと聞いたら天見様も来て下さった。 裸になってから自分の胸を隠し恥ずかしそうになさっている。 もちろん私はそこに目を向けるようなことはしない。
天見様のお身体は贅肉がほとんどなくてよく締まっていた。 特に腕と背中にはアスリートのような筋肉がついて逞しかった。 股間には肥大したクリトリスが突き出していた。 それはまっすぐ立っていても見えるほどだった。
お背中を洗ってさしあげた後、当たり前のように正面に跪いた。 そしてそれを口に含んでご奉仕・・しようとしたらずいぶん慌てられてしまった。 前にもしてさしあげましたのにと指摘すると、あのときはもっと優しくて情緒的だったと抗弁された。 はっとした。 口でご奉仕、いわゆるオーラルセックスは男性のお客様にも女性のお客様にもお悦びいただけるスタンダードなサービスだけど、トランスジェンダーのお客様にはセンシティブだった。 これは失敗。お屋敷でやらかしたら罰を受けるレベルね。 胸の方は直接見ないように注意していたのに。
失礼をお詫びして、もう一度心を込めてご奉仕させて欲しいとお願いした。 その最中は私に何をなさっても構いません。 よろしければ私の手をお縛りになりますか、と言うと天見様の眉がぴくりと上がった。 本当に何をしても構わないんだね? と聞かれて私は頷いた。
私は浴室の床に跪き、後ろで揃えた手首をタオルで縛っていただいた。 その気になれば自分で解けてしまうような拘束だけど、解くつもりは絶対になかった。 顔を斜め上に向けて天見様のクリトリスを口に含んだ。 唇と舌ででご奉仕する。 それは私の口の中でびくんと震えた。
頭の上からシャワーのお湯が注がれた。 シャワーヘッドが目の前に迫り、ほんの数センチの距離からお湯を浴びせられた。 流れるお湯で視界が覆われる。 唇と舌のご奉仕は止めない。 天見様のそれは明らかに硬さを増して大きくなった。
天見様の片手が後頭部を押さえた。 顔面にシャワーを浴びせられたまま、髪をぐしゃぐしゃにかき乱される。 前髪を掴んで引き寄せられた。目と鼻を恥丘に強く押し当てられる。 鼻孔が塞がれて空気が入ってこなくなった。 すぐに胸の酸素が尽きて私はもがき、お湯が気管に入って激しく咽(む)せた。 慌ててそれを口に含み直す。必死の思いでご奉仕を続けた。 きっと私シャワーの中に涙と鼻水をぐずぐず流してる。
シャワーのお湯が背中に移動した。背中が暖かくなる。 と、お湯がいきなり冷水になった。 ひっ! 私は震えあがり、その瞬間、クリトリスの先端に露出した亀頭を歯で扱(しご)いてしまった。 絶対に噛まないよう細心の注意を払っていたのだけど。
天見様が小さな声を上げて絶頂を迎えられた。 しばらくしてから、最高だったよ、と言われてご奉仕は終了した。
12. ぐったりされている天見様のお身体をお拭きしバスローブを羽織らせてさし上げた。 幸福感に満ちたお顔。女性のイキ顔だと思った。 これが男性のお客様なら精を放たれて醸し出されるのは満足感や征服感。 これほど幸せそうな表情はなさらない。
「・・とてもよかったよ。やる前はあんなプレイのどこが楽しいのかと思ってたんだけどね」 「それは何よりでございました」 「ねぇ、キツネちゃんは男の客が相手のときにも、あんなご奉仕をするんだろう?」 「それは本来お答えしかねるご質問です。でも天見様だけにはお教えしますね。イエスです」 「ありがとう。もう一つお答えしかねる質問だけど、いいかな」 「何でしょう?」 「相手が射精したら、君はそれを飲むとか顔で受けるとかしてくれるのかい? ・・うわっ、ごめんっ。怒らないで!」
「・・天見様は男性の射精にご興味がおありなのですか?」 「そりゃそうさ。僕には絶対に叶わないことだからね。でも今興味を感じたのは射精そのものじゃなくて、女の子が口で奉仕することなんだ」 フェラチオに興味ですか?
「人間には手があるのにそれを封じてわざわざ口で尽くしてくれる。しかも飲むんだろう? あんな扇情的な行為はないね。・・強制されてすることもあるだろうけど、僕はそれを女性が自分の意志でやってくれることに感動するよ」 自分語りのスイッチが入ったみたい。 私は黙って拝聴する。
「・・考えてみれば男の快楽のために女が奉仕するってのは尊いね。暴力的なプレイまで進んで受けてくれる。まさに君たちの仕事だよ。実に興味深い」 接待で二人きりのとき語り始めるお客様は珍しくない。ほとんどが男性。 そういうときに大切なのは、すべて聞いてさしあげること、小難しい話でも理解に努めること、適切なタイミングで相槌を打つこと。
「キツネちゃんはさっき顔面シャワーを受けてくれたよね。髪の毛を掴んで振り回されるのはどんな気持ちだろう。やはり惨めなものかい?」 「はい。でもそういう思いを甘受するのもメイドの務めでございます」 「ものすごく嗜虐的な気分になるね。もう一回ご奉仕して欲しいくらいだよ」 終わりそうにないわね。 そろそろ後のご予定を伺わないと。
「天見様、きちんとしたお召し物をお着け下さいませ。お風邪をひきます」 「ああ、そうだね」 「今夜は何かご計画があったのではありませんか?」 「え」 「私を使って嗜虐プレイをなさると思っておりましたが」 「どうして分かったんだい?」 分りますよ。 私に抱きついてさんざん "苛めたい" オーラを放っておいて、分からない方がおかしいです。
13. 天見様は壁際に置いてあった手提げケースを大事そうに持って来られた。 「あれからSMバーに通って一本鞭の練習をしたんだ。人並には打てるようになったよ」 ケースの中にはSMプレイ用の一本鞭が入っていた。 グリップ(持ち手)の先に皮を編んだ撓(しな)やかな本体が繋がっている。 長さは1.5メートルくらいか。
私はお部屋を見回してチェックした。メイドの習性だ。 吹き抜け部の天井高さは4メートル以上。広さは 2.5×3.5 メートルってところ。 大丈夫、ここなら長鞭を使えるわね。
吹き抜けには梁が一本通っていて、そこに小さな滑車が取り付けられていた。 滑車からフックのついたロープが下がっているのが見えた。 「天見様、あれは?」 「ああ、あの滑車は僕が付けたんだ。安物だけど人は吊るせるよ」 「ということは、私、あそこに吊られて鞭を打たれるのですか?」 「そうだよ。・・君を宙吊りにする技術はないから、両手を吊るだけのつもりだけどね」 天見様はそう言ってにやりと笑われた。 「どうかな? 怖いかい?」 「怖いです、天見様」 「嬉しいね。そう言ってくれると」
わさわざ私の誕生日のために準備して下さったのか。 きっとそうね。あの滑車とロープは新品だわ。 ご自分で掴まってテストするくらいのことはなさっているだろう。 お一人でぶら下がっている姿が浮かび、心の中でくすりと笑った。
天見様はジムでお使いのトレーニングウェアを着てこられた。 私は生まれたままの姿で、お借りしたバスローブを肩に掛けているだけ。 下着を着けてもいいと言われたけれど、私は自ら全裸を選択した。 ほんの4か月の練習ではブラやショーツを鞭で飛ばすテクニックはおそらく無理。 であれば、最初から肌をすべて晒して鞭打たれる方がお愉しみいただけるはず。 それにこの方は女が惨めな姿であることを好まれる。先ほどの会話で分ったことだ。
天見様が頭上の滑車からフックを下ろされた。 私はバスローブを床に落として前に立つ。 「両手を前に出して、キツネちゃん」 「はい、天見様」 この先はあらゆるご命令が絶対。私は絶対に逆らわない。
お屋敷を出るときに伝えられた今回のリスク予測値は 14-30 だ。 プレイの内容が不明なので信頼性の低い参考値と言われた。 でもここまで来たら私でも予測できる。 14-50 か 20-30。 私は今から打たれる。 無事でいられるかどうかは天見様の腕次第。 ・・ぞくり。 押さえていた被虐の思いが頭をもたげる。
前で揃えた手首に革手枷を締められた。 手枷のリングにフックが掛かって、床から踵が離れるまで吊り上げられた。 私は両手を頭上に伸ばし、爪先立ちの姿勢で動けなくなった。
「綺麗だね」 天見様が私をご覧になって仰った。 「ありがとうございます。・・どうぞ私をご自由に扱って下さいませ」 「じゃあ、お尻を打つから向こうを向いて」 「はい、天見様」 言われた通り身体を回して、天見様に背中を向けた。 「よーし」 鞭を持って構えられた。深呼吸。 「・・」 「?」 「一回練習する」
天見様は向きを変え、ソファのクッションに向かって鞭を打たれた。 ひゅん! ばち! 鋭い音がした。 鞭は全然違う方向に飛んで床を打っていた。 「あれ?」
訂正。 30-50 ね。
14. 天見様の鞭はとても速かった。 肘を曲げて素早く振り下ろす上級者の打ち方をマスターされていた。 ただしコントロールが悪かった。
天見様は真っ赤な顔をして何度か振り直された。 3回目でようやくクッションが跳ねた。 「待たせたね」 「いいえ、天見様。・・あの、まことに差し出がましいことですが」 「何?」 「一度ごゆっくりお座りになられては如何でしょうか。お座りになって、私をご覧になって下さいませ」
天見様ははっとした顔をされた。 ソファに腰を下ろし、一本鞭をテーブルに置いてから私に顔を向けられた。 「ありがとう、落ち着かせてくれて」 「とんでもございません」 笑顔で仰った。 「よく考えてみれば、いきなり鞭を打つなんて勿体ないことだね」 私も笑顔で応える。 「はい。今、天見様はこんな美少女の自由を奪って飾っておいでなのですよ?」 「本当だ。・・今どさくさに紛れて美少女って言ったね? もう二十歳のくせに」 「しまった。二十歳までは美少女の範囲でございます」 「あはは」「うふふ」
それからしばらく天見様はにこにこ笑いながら私をご覧になるだけで何もなさらなかった。 両手を吊られているからどこも隠せない。 天見様の視線が胸や股間に向いているのを感じる。 嫌ではなかった。 ・・乳首が尖るのが分かった。天見様はお気付きになったかしら?
10分ほども過ぎただろうか。 天見様がお立ちになった。 「もう大丈夫。・・覚悟はいいかい? キツネちゃん」 「はい、天見様」
15. ひゅん! ばち! 衝撃が走る。 私は身を捩って耐える。
ひゅん! ばち! ひゅん! ばち! ひゅん! ばち!
お尻。背中。太もも。 肌を切り裂かれる感覚。 お上手です、天見様。
ひゅん! ばち! ひゅん! ばち!!! 「ひぁっ!!」 声を出してしまった。 サービスで上げた悲鳴ではなかった。 ひゅん! ばち!!! 「ああーっ!!」
「キツネちゃん! 大丈夫かい!?」 天見様が駆け寄ってこられた。
はぁ、はぁ・・。 私は両手吊りのまま天見様に寄りかかった。 慌てて支えて下さるその腰に右足を回して掛ける。 太ももの内側を擦りつけるようにして絡みつかせた。 「!」 天見様が驚かれた。 私の右の内ももは股間から染み出た液体で濡れていた。 左の内ももにも粘液がふた筋、み筋。 はぁ、はぁ。
「お、お願いがございます、天見様」 天見様の耳元で話しかけた。 「私に、猿轡、をしていただけませんでしょうか?」 「さるぐつわ? いったいどうして」 「女の悲鳴は高く響きます。ご近所様に聞こえると天見様にご迷惑をおかけするかもしれません」 「・・」 「ご安心下さいませ。猿轡をされても私の味わう苦痛は変わりません。お耳に届かなくても私の悲鳴は天見様に伝わると信じております」
天見様はわずかに溜息をつかれたようだった。 「君はそんなことまで気遣ってくれるのか。そこまで濡れておきながら」 「メイドの務めでございます」 私はできるだけ艶めかしく見えるよう微笑んだ。 「どうか、思う存分お愉しみ下さいませ」
「・・本当にいつも君には、」 天見様はそこまで言いかけてお止めになった。 「それで僕はどうしたらいいんだい?」 「はい、とても簡単でございます。ハンカチなどの柔らかい布をできるだけたくさん口の中に含ませて下さいませ。私が嘔吐(えず)く寸前までぎゅうぎゅうに詰めていただいて構いません。それからダクトテープ、なければガムテープでも結構です。耳まで覆うほど長く切ってしっかり貼って下さいませ。2枚切って口の前でX(えっくす)の字に交わるように貼っていただければ、より剥がれにくくなります」 一気にまくしたててしまった。少し面食らってしまわれたかも。 「わ、分かった。・・ハンカチとガムテープだね? 取ってくるよ」
お願いした通りの猿轡を施していただいた。 口腔内に大量のハンカチが充填され、声も空気も通らなくなった。 鞭打ちが再開される。
ひゅん! ばち!!! 「んっ!」 ひゅん! ばち!!! 「んんーっ!!」 鞭が空を切る音。一種遅れて肌に当たる音。 衝撃が脊髄を抜けて脳天を貫く。
ひゅん! ばち!!! 「ん、んんっ!!」 鞭の当たる部位が識別できなくなった。 どこもかしこも腫れているのだと思った。 後半身はそろそろ賞味期限。まっさらな肌をご提供しないと。 私は少しずつ身体を回す。
ひゅん! ばち!!! 「んんっっ!!!」 脇腹を打たれた。
ひゅん! ばち!!! 「んんーーっ!!」 おへその下の柔らかい部分。
ひゅん! ばち!!! 「んんんんっっ!!!」 乳房。 赤い筋が浮かび上がるのが見えた。
私は両手吊りになった身体の全周をまんべんなく打っていただいた。 ときどき爪先で体重を支えきれず、手首に体重を預けてゆらゆら揺れた。 吊られた雑巾みたいに揺れた。
天見様はただひたすら鞭を振るっておられた。 どんなお顔をなさっているのか、見ようとしてもうまく見えなかった。 ぼろぼろ流れる涙が滲んで見えないのだと気付いた。
16. 「キツネちゃん・・?」 目を開けると、ソファの上だった。 私は天見様の膝に頭を乗せて寝ていた。 手枷と猿轡は外されていて、身体にシーツが掛けられていた。
下半身にどろどろした感覚があった。 無意識に股間に手をやると、そこにはまだ性感がマグマのように溶けて渦巻いていた。 あぁ!! びくんと震えた。全身に痛みが走って顔をしかめる。 自分がどうなっているのかよく分かっていた。 鞭で打たれた箇所が赤い痣とみみず腫れになっているのだ。 血が滲んで流れたところもあるはず。
「まだ寝てた方がいい。疲れ果てているだろう?」 天見様が仰った。 「出血の場所は洗浄スプレーで洗ったから心配しないで。後で起きたら洗い直してキズパッドを貼る、・・でいいんだよね?」 私は何も言わずに微笑んでみせた。 傷の手当くらい心得ておりますよ。
髪の生え際を撫でられた。 不思議と嬉しくなった。 「よく尽くしてくれたよね。・・嬉しかったよ、ありがとう」 あれ、どうしたんだろう。 また涙が出そうな感じ。 「ん? メイドとして当然の務めでございます、とか言わないのかい?」 「もう、天見様ぁ」 「キツネちゃんでも泣きそうな声を出すんだね。可愛いよ」 からかわないで下さいませ。 本当に泣いちゃいますよ。
天見様の指は髪から首筋に移動した。 人差し指と中指でそっと押さえられる。 エクスタシーが優しくさざ波のように広がった。 どろどろしていたモノが柔らかくなった。 「ああ、気持ちいいです」 「ここはね、僕がオナニーするときに好きだったポイントさ。テストステロンを始めてからは何も感じなくなったけどね」 私は黙って両手を差し伸べ、天見様の首に子どものようにしがみついた。 少しだけ甘えさせて下さいませ。
しばらくして天見様が仰った。 「・・君は女性を鞭で打つ愉しさを僕に教えてくれたね」 「はい」 「自分にこんな嗜好があったなんて、以前の僕には想像もできなかったことだよ。・・それで今日分かったことがあるんだ」 自分に言い聞かすように仰った。 「僕は SRS(性別適合手術)を受けようと思う」
天見様はご自身の嗜虐嗜好を認識して以来、女性の身体で女性を責めることに違和感を感じたと教えて下さった。 その違和感は男性ホルモンの投与だけでは緩和できず、それまで踏み切らなかった SRS を真剣に考えるようになられた。 「鞭の練習をしながら考えてたんだ。キツネちゃんをとことん責めて、僕が本当に求めていることを確認しようってね」
天見様の首にしがみついたまま質問した。 「では、私はお役に立てたのですか?」 「もちろんだよ。キツネちゃんが鞭で打たれて苦しむとき、その前にいるべきは男の身体の僕だ」
・・私はお役に立てた。 どろどろの澱みがなくなり、雪解けの水のように流れ去った。 「ありがとうございます!」 天見様の上によじ登った。頭を抱きしめる。 全身の鞭痕がずきずき悲鳴を上げたけど、気にしないことにした。
「・・ん、んんっ」 天見様の声がくもぐって聞こえた。 「ねぇ、もしかしてわざとやってる?」 私は全裸で、天見様の顔はDカップの胸に埋もれていた。 「はい。痣だらけの胸でございますがお尽くしするのが務めと考えました。・・ご迷惑ですか?」 「迷惑だなんてとんでもない。キツネちゃんのおっぱいは天国だよ」 「お粗末様でございます」
17. マンションの玄関にあった『徳山誠一』は天見様のご本名ではなく私生活での通り名だった。 天見様のご本名は『徳山聖子』だと教えていただいた。 「SRS を受けて性別変更したら戸籍名を『誠一』にするつもりなんだ。そのときはまた招待してくれると嬉しいね」 「主人に申し伝えます」 「約束する。次は男性の身体でキツネちゃんを責めてあげるよ」 「はい!」
朝になって私は迎えの車でお屋敷に戻った。 鞭痕は全治20日と診断された。 全身の痣が赤から紫に変わり、数日の間、私は七転八倒することになった。
18. 天見様が再びお客様としてお越しになったとき、私は24才になっていた。 この年、天見様はSFではなく歴史小説で文学賞を受賞された。 同時に MTF トランスジェンダー女性との結婚も発表されて文壇の話題となっていた。
晩餐ホールに呼ばれて伺うと、旦那様と向かい合って天見様ご夫妻が座っておられた。 SRS を受け戸籍上も男性となられた天見様は4年前より一層筋肉のついた男性らしいお身体になっていた。 奥様は色白でとても綺麗な方だった。
「キツネちゃん!」 「お久しぶりにごさいます、天見様。ご結婚と文学賞受賞お祝い申し上げます」 「ありがとう。キツネちゃんはメイドを��退するんだって?」 「はい」 私は横目でちらりと旦那様を伺う。 「構わんよ、話しなさい」 「はい。・・婚約しました。来月結婚いたします」 「え、それはおめでとう! 聞いてもいいかな、相手は?」 「アメリカで会社を経営されています」 「そりゃすごい!」
婚約者は旦那様の事業のお相手だった。 何度かご奉仕をしてさしあげた後、先方から私を "購入" ���たいとのご希望があった。 表向きは結婚という体裁になる。 その金額がどれくらいなのか私は知らない。 人身売買のようだと思われるかもしれないが、彼は優しく誠実な人だ。 私は彼を愛している。 ちなみに彼の嗜好はエンケースメント(閉所拘束)。 結婚したら月の半分は妻として務め、残り半分は樹脂の中に密封されて過ごすことになる。 実は彼も FTM であることを知る人は、このお屋敷では旦那様の他数人だけだ。
「・・ところで、」 旦那様がおごそかに仰った。 「そろそろメイドの緊縛は如何ですかな?」 「え」 天見様は一瞬驚いた顔になり、それから奥様と顔を見合わせて微笑まれた。 「是非お願いします。・・ここにいる女性の中から誰を選んでもよいのですよね?」 「もちろん」 「それでは彼女を、キツネちゃんを縛って下さい。服は脱がせて全裸で、できるだけ厳しくて可哀想な緊縛をお願いします」 「ふむ!」
私は天見様に選ばれる前から前に進み出ていた。 お約束を果たすために来て下さったのですね。 今夜、私は天見様ご夫妻のお部屋に伺って責められる。 天見様と奥様が鞭打って下さるのだろうか。 それでも私と奥様が天見様から鞭打たれるのだろうか。 それは多分、このお屋敷で私の最後のご奉仕。
私は旦那様と天見様ご夫妻に向かい、両手を揃え180度のお辞儀をした。 「謹んで縄をお受けします。どうぞお愉しみ下さいませ」
────────────────────
~登場人物紹介~ キツネちゃん: 19才。H氏邸のメイド。 天見尊(あまみたける): 26才。作家。FTM(生物学的に女性、性自認は男性)のトランスジェンダー。
2年半ぶりのH氏邸です。 確認したら前々回と前回の間も2年半開いていました(笑。
今回はトランスジェンダー界隈の情報ネタをストーリーに取り込みました。 私自身は FTM でも MTF でもありませんが、これらの方々が抱く嗜虐/被虐の思いには大変興味があります。 そこでH氏邸に招かれた FTM トランスジェンダー男性がメイドさんの接待を受けて、それまで潜在的に持っていた嗜虐嗜好に目覚めることにしました。 目覚めた嗜好が理由となり SRS(性別適合手術)を決心する、という設定ですが、これは作者(私)のファンタジーです。 現実世界にそんな人はおらんやろと思っていますが、さてはて・・?
なお私は、この界隈に関してネットで得られる以上の知識がありません。 トランスジェンダーの皆様の苦痛や悩み、ホルモン治療と SRS の詳細について不適切な記述があるかもしれないこと、あらかじめお断りしてお詫びします。
さて、メイドさん側の心理行動はこれまでのシリーズを踏まえて描いています。 よくあるドジっ子メイドとは正反対の超優秀なメイドさんです。優秀だけど立派なM女です。 現実世界にそんな女の子はおらんやろと確実に思っています(笑。
次に挿絵ですが、久しぶりにAIを一切使わずに手作業で描きました。 細かい手順をすっかり忘れてしまい大変苦労しましたが、対象をイメージ通りに描くなら手書きも便利と思いました。 これからも定期的に手描きを続けることが必要だなと痛感した次第です。
最後にシリーズの今後について。 長く続いた『H氏邸の少女達』ですが、次回で最終話にしようと考えています。 サイトへの掲載はずいぶん先になると思われますが、気を長くして待っていただければ幸いです。
それではまた。 ありがとうございました。
[Pixiv ページご案内] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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ichinichi-okure · 5 months
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2024.1.18thu_tokyo
あいさんから連絡があり、急遽日記を書く事となりました。 能登半島地震で被害を受けた地域への支援へ向かった日についてです。 能登に行く事となった経緯ですが、現在働いているリトルナップコーヒーではとあるスタッフの呼び掛けにより、1月2日から二日間に渡り急遽お店をオープンして募金を始めた事や我々のオーナーが昔から震災の復興に力を入れていることが大きなきっかけとなりました。 その他、復興団体や職場のスタッフの協力もあり今回の炊き出しに参加させて頂ける運びとなりました。 以下、出発当日からの日記です。
1月16日 出勤して前日から用意した荷物を積み込み同伴するもう一人のスタッフと当日の流れを確認。 その日は石川県までの道のりが降雪で通行止めになるなどして予定の時間より2時間早く出発。 オーナーともう一人のスタッフ三人でまず富山へ向かう事に。 峠はアイスバーンが凄く乗っていた車が軽くスリップしたり、余震で震度5弱の地震があったりなど肝を冷やした。 復興支援に向かう人達は優しさだけではなく勇気や覚悟を持ち合わせていないと務まらないなと当事者になって強く実感。 富山にはオーナーの実家がありそこで仮眠させて頂ける事に。 6〜7時間の道のりを経て富山に到着。現地は水分が不足しているということで予め用意しておいたタンクに水を入れて軽く暖をとった。 九州では普段見かけない薪ストーブに感動。ん?九州にもあるけど俺がみた事ないだけ、、? まあいっか。笑 本来なら都内では食べたい物を好きなタイミングで食べれるし、次の日休みなら何も考えずお酒を嗜めるのに、薪ストーブをみてこの一本分の暖ですら必要としている人が沢山いると考えると悲しい気持になってしまった。 そこから暖かいお茶と薪ストーブの温もりは被災した方へ還元する自分のパワーにするというマインドへ。 都合が良いのかもしれないけど何事もポジティブが大事だよね。
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1月17日 2、3時間程仮眠して富山を出発。 高岡で他の復興団体の方たちと合流して6台連なって石川県へと入る事に。 今回の復興支援は許可を得なければ入る事ができず、勿論のこと道もまだ改修されておらずあちこち隆起しておりでかなりの時間を要すると言う話を伺った。 暗い道のりを走って警察車両や自衛隊の待機している検問所?をパスして能登に入った。 建物が崩壊していたり道がギリギリ車一台が通れる道だったり、不穏な空気感というか今までに体験したことのない雰囲気。 映画の中に入り込んだような感じ。 海岸沿いを走っていると土砂崩れで転がってきた大きな岩など上も横も危険な状態で恐怖心と車内で戦った。 まず最初の炊き出しを行う小学校に到着。丁度日の出の時間で凄く綺麗で力がみなぎってきた。 普段は町場のコーヒー屋さんなんだけど僕はパンケーキを焼くことに。 電気の問題などあり開始は思い通りにいかず少し待たせてしまった。しょうがない反面、もっとできることがあったんじゃないか、自分の予測する力が不足していたなと第一反省。必要な瞬間に���大限の事もままならないようじゃまだ人間として半人前です。 子供が多いかなと思ったけど意外にもおじいちゃん、おばあちゃんからの注文が多かった。 被災された方は意外にも穏やかな感じでしっかりと順番も守ってくれたりで中盤からはスムーズに提供できた。 ボランティアでリーダーの様な役割で動いていた女性がおり、被災状況やこれからの事など色々と話を伺った。 彼女自身も被災していてそれなのにボランティアとして人を統率している姿に驚いた。 命の危機に立たされているのにも関わらずリーダーシップと慈悲の心を持ち合わせている人間は周りの人たちにとっても有難いし僕ら炊き出しチームも非常に助かる。 次の場所へ向かおうと片付けをしていたところ一人のおばあちゃんがコーヒーをまだいただけますか?と尋ねてきた。 勿論と返事をして提供すると、のむや否や泣きながらありがとうと言われた。 もらい泣きをしてしまって、でもさっきのリーダーの女性を前にして泣いている場合じゃないとなるべく堪えた。 あまり悟られたくなかったのでありがとうの返事はとんでもないです、というような簡単な返しになってしまった。 もっと寄り添える言葉をかけてあげたかったけどコミュニティ能力がまだまだ低いなと第二回目の反省、、、 反省ばかりの人生!
そこから中学校へ移動。 そこでも先程と同じ様な流れでコーヒーを提供しみんなに喜んでもらえた。 餅つきしたりラーメン食べたりでみんなの活気がすごく、見ているこちらも元気をもらえた。 医療従事者、役所のボランティアの方々にもコーヒーを飲んでもらいリラックスしてもらえた。 中学校からは海と山の絶景が見えた。事故が起きた場所とは到底思えない。 支援者じゃなく復興が終わって観光客としてまた来れるといいな。 自然は美しいのにいきなり命を奪ったり、命を繋ぐ食材を産んだり。 それとそこにいる人達の空間は悲しさと優しさが同居していたり、 優しさで動く人間もいればこの状況にあやかって悪事を働く人間がいたりとこの世界は表裏一体だな〜 そんな事を考えながらみんなと集合写真を撮り11時間かけて都内に戻りました。 震災だけでじゃなくて他の国は戦争が起きてたり食糧難が起きてたり人間が存在している間は問題が山積みだな。
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今回は高校卒業して今の会社に入社するまでずっと飲食業に従事していた僕が初めて経験した炊き出しの経験を綴りました。 沢山の人に愛を受けてここまできて、30歳にしてやっと今愛が必要な人達に飲食を通じて愛を分け与えることができました。 ないに越した事はないんだけれど、こういった貴重な経験に参加することができてよかったです。 まだまだリトルナップでは復興支援の募金箱を設置しております。 是非、機会があれば美味しいコーヒーを飲むついでに協力していただければ幸いです。
-プロフィール- 小山将汰 30歳 東京 料理人、バリスタ リトルナップコーヒースタンド/ロースターズ instagram @shotatheselfish
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ashrhal · 7 months
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2023/11/8
何か書きたい。tumblrを開き自分の過去の日記を読み返し、やっぱり俺の日記は俺にとって本当に面白いなあと感心し、何か書きたいと思って投稿欄を開いた。何も書きたいことなんてない。だからとりあえず日記を書く。
7時に目を覚ます。もう俺は立派な31歳の社会人だからちゃんと7時に目を覚ます。平日毎朝7時に目を覚ますことがおまえらにできるっていうのか。できるんだろうな。なぜならみんな立派な社会人だから。目を覚ましていつも思う。ああ昨日は飲み過ぎたな、あの一杯が余計だったなと。別に外に飲みに行ってるわけではなく、俺は毎日、冗談じゃなく毎日酒を飲んでいる。アルコール中毒なのかと言われれば笑顔で「うん!」って言っちゃうくらい毎日酒を飲んでいる。平日休日関係なく、最低ビール一缶とハイボール2㍑は飲んでる。ハイボール2㍑は当然炭酸も含めての容量だから、アルコール中毒ガチ勢の皆様方から言わせれば全然足んないって言われちゃうかもしれないけど、まあほんとに毎日酒を飲んでいる。お酒が好きだから、お酒で酔っ払うことでようやく自我を取り戻すことができていると勘違いしている哀れな人間だから。
7時30分までの間で朝食を済ます。俺が1日で一番大切にしているのは、朝食を食べた後に淹れた温かいコーヒーと喫むタバコの時間で、この一本を吸うためにずっと喫煙をしていると言っても過言ではないと思っている。軽く酒の残った体に取り込む濃いめのコーヒーから得られるカフェインと煙草のニコチン、台所のオレンジの光と換気扇の音、これから仕事に行かなきゃいけないという暗澹とした気持ち、その全てが組み合わさって俺はようやく幸福を感じられる。煙草を吸うとうんちがしたくなる。うんちをすると煙草を吸いたくなる。コーヒーと煙草を喫み、うんちをして、またコーヒーと煙草をたべる。そうこうしているうちに7時40分とかになる。俺の出勤時間は8時30分で、札幌の真ん中にある職場までは奇跡的に大体20分程度で歩いて行ける距離に住んでいる。
妻を起こす。在宅勤務の妻のメンタルは大海原の大海のようで、1日にいいことが何もないとすぐにあらしのよるみたいになる。それを避けるために朝の散歩活動を推奨し、朝の散歩活動委員会を脳内で結成し、妻が少しでも健やかな暮らしを送れるように「散歩に行こうよ」と妻を起こす。7時40分台で起きたことは一度もない。大体8時に起きて、俺の8時5分の出勤に合わせてねむいねむいと呟く妻を無理やり外に連れ出す。
8時40分に妻を一度起こしたのち俺はシャワーを浴びて、髪を乾かし、適当にセットし、スーツを着て起き抜けの妻と一緒に家を出る。昨日の酒が残ってる感覚がする。外に出ると妻は先ほどまでのねむいねむいが嘘のようにニコニコとはしゃぎだす。ケラケラ2人で笑いながら会社に向かう。この時間が本当に好きだなと思う。
昨日の酒が残っている感覚とは別に、今日の朝は腹が痛かった。まあきっとこれも昨日の酒の影響なのだけれども、少しでも気をゆるせば決壊しそうなダムが多くの人々の協力と働きで俺のお尻に急速に建設されていく様子が脳裏に浮かぶ。みなさん本当にいつもお疲れ様です。出勤途中の道でドトールに行く妻と別れ、会社にたどり着く。8時28分。始業2分前。俺はまあ別に間に合ってればええやろという俺個人の思想が強いことと、2分前に出勤する若手社員なんなのみたいな目線の人がいることを理解しているのでその人の懸念を振り払うように誰よりもでかい声で「おはようございまーす!」と部長の席目掛けて半ば叫ぶ。仕事が始まる。
8時35分に朝礼がある。30分には自席についていたものの、今日の俺は腹が痛い。朝礼後に行こうと思っていたが、ダム事業は不調のようで、一つの連絡ミスで放水がダム完成予定日より前倒しで行われてしまい、結果決壊しそうな危機感を抱いていた。直属の上司に「腹痛院でトイレ行ってきます」と伝えてトイレにいく。個室に入る。便座を便座綺麗くんで湿らせたトイレットペーパーで拭う。便座に座る。いきむ。
鼻血が出た。つけていたマスクは赤く染まり、ポタポタと床に血が垂れ、楕円の小さな血溜まりを作り、それでもビシャビシャなうんちはお尻から少しずつ出てくれていた。ダム事業は失敗していたようだった。鼻血を出したのは先週の日曜日が最近のことで、その前に出したのは数年前だった。ついに脳の血管がイカれちまったんだなと俺は思い、全てを諦めて鼻に真っ赤なトイレットペーパーをあてがいながら朝礼に出た。
鼻血一つでここまで大袈裟に宣えるのも才能の一つかもしれないが、生活に心当たりがあり過ぎた、酒、煙草、運動不足、極端な痩せ型、毎日のちょっとした体調不良、ストレス、寝不足、ピュアな心。俺は俺がものすごく大切だから、鼻血の血ひと雫で、あーおれはあと1時間もしないうちに脳の血管が弾けてぶっ倒れて死ぬんだな、悪くない人生だったな、今死ねるなんてなんで幸福なんだろう、せめて痛くなければ嬉しいなとか考えてしまう。普段目に見える体調不良をしない俺を心配してくれる職場の皆様を尻目に、俺は心の中でこの世とサヨナラを唱える。死にたくないなあ。
そんな大袈裟な俺の心を沈めるために、俺は「鼻血 脳」とか「鼻血 安全」とか「鼻血 うんち」とかでGoogle検索をする。職場の元看護師のおばちゃんに「急に鼻血が出るんですけど…」と相談をする。おばちゃんはケラケラ笑いながら「トイレする時にいきむと瞬間的に血圧が上がるから、その時鼻の血管が出やすい状態だと血が出るんだよ」と教えてくれた。俺は簡単には人を信じない。だからその後の休憩でちゃんとGoogleで調べる。本当だった。鼻血が出る原因は
・咳をする ・乾燥 ・いきむ、踏ん張る。 ・鼻毛処理・強く鼻をかむ、思い切りくしゃみをする。・のぼせや興奮、刺激物を摂り過ぎる。・鼻に指を入れたり、鼻をほじったり、強くこする。・ワーファリンなど血液をサラサラにする薬の服用
らしい。いきむ、踏ん張る。って書いてあった。俺はいきんでた。日曜日に鼻血を出した時も、思い出してみればうんちをしてた時だった。俺はいきんでた。そう実感できた時、ああおれは別に脳の血管がどうとかじゃないんだ、頑張ってうんちをしようとしてた男の子なんだと初めて安心できた。俺は俺がとても大切だから。
いまもまあまあ酔っ払って日記を書いているんだけど、今次の酒を注ごうとして灰皿に45mlのウイスキーを入れてしまった。もうダメかもしれない、けど酒を飲みながら自分の中にあるどうでもいいことを書くことって本当に楽しいんだよな、という日記。
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ymifune · 9 months
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業務スーパー
9月23日。できたことを中心に。 今日でawaiを書き始めて丸4年が経った。2019年の8月にカナダのTに振られ、一時代の終わりを悟って今までの日記を閉じ、新しい日記を書き始めてからもう4年も経ったのだ。 生きて来られた。マイペースにこれからもこの日記を続け、ふとした瞬間に読み返し、自分の現在地を確認したいと思っている。 新曲"Ally"はメインボーカルのメロディーとコーラスのメロディを弾いて、歌詞を書くところまで行った。歌詞も中々今の気分が直で出た感じのものが書けたと思う。体調も良好なので、明日、タイミングが合えばできるだけ歌の録音がしたいと思っている。また、後回しになっていた"Thrive (Dub)"のためのボーカルの録音も一緒にしてしまえればいいのかなと思っている。 食料品の価格の高騰が深刻である。今日、冷凍ブロッコリーを買いに行ったら、600gで298円だったものが、500gで298円になっていた。かなりの値上げである。サラダチキンを1食で2個食べるのだけど、セブンイレブンの1個税込200円ぐらいのものを2個食べていて、1食分の食費がバカにならない。どうにかしないとなと思っていたところで、業務スーパーの存在を思い出し、アカウントを作った。1パック200g(セブンのサラチキ2個分)で、1個247円と言う商品を見つけたので、今のサラダチキンを食べ終わったら、そちらに移行しようと思っている。箱で買えば48個入りで11805円ぐらいとのこと。配送可能。これで少しは食費の節約ができるだろう。ブロッコリーは前述の500gのパッケージのものをこれからは使うしかなさそうだ。 業務スーパーは新大久保にも店舗があるので、時間があったら偵察にも行ってこようと思っている。何か味気のないサラダチキンにかけるスパイスのようなものが買えればいいんじゃないかと思っている。 ブロッコリーも業務スーパーでもっと安いものを箱買いすることもできるのだが、冷凍庫の容量的にアウトなので、これはまいばすけっとのものを買い続けるだろうと思う。 普段通っているセブンイレブンの人、済まない。安い商品を見つけたので、もう買いには行かないと思う。いつも私が買いに行くから多めに仕入れてくれていたんだよね。 筋トレはディロードウィークである。ディロードとて集中して行っている。今週の体組成計の結果の話をすれば、筋肉量+0.2kg、体脂肪量-0.2kgとわずかに改善が見られるのだが、9月の最初の2週で体脂肪量が上がってしまったのが結構効いていて、月平均にならすと必ずしもよくはない。が、後半、盛り返してきているのは努力の賜物なので、この調子で少しずつでも上がっていきたい。 ベンチプレスの持ち手の形でしくじりがちなのだが、今日はかなり良い感じでできたと思う。手の点で持つのではなく、線で持つと言うことと、バーと手のひらの間の隙間を埋めることを意識したら、安定感が増して、胸にも効かせられる形になったと思う。 今朝は久しぶりに朝涼しくて目が覚めてしまった。ようやく、9月も後半にして秋らしい日が訪れたらしい。今日は筋トレ前にファミマのドリップコーヒーを飲んだのだが、とても美味しかった。 仕事もした。アテンダンスを書き、返信すべきメールに返信し、月曜日の準備を抜かりなく行った。 iPhone 15を買った。PaypalのDMで、36回払いでも金利ゼロで本体が買え、さらに今使っている機種の下取りもしてもらえると言うことで、SIM フリーのiPhone 15の1番安いスタンダードなモデルを買うことにした。10月3日から16日ぐらいの間に届くことになっている。5年ぶりぐらいの機種変なので、結構楽しみにしている。下取りの査定が満額であれば、104800円で機種変ができる予定である。 9月19日火曜日にCD Babyの入金があった。112.04USDであった。下げ止まりは感じた。新曲"Temporary Secretary"のリリースも効いていると思う。 9月20日の水曜日、朝7時ごろに起きられてもう9時間ほど寝られていたので起きて、すぐに朝食を食べ、10時の開館に合わせて松濤美術館に行ってきた。杉本博司の新作である。2020年に京都で行われた個展とは1点たりとも作品が被っておらず、まずその旺盛な創作意欲に驚いた。また、「本歌取り 東下り」と言うタイトルから、もしかしたら保守的な内容か・・・と思いきや、どれも写真という表現様式からも逸脱していて、かなり先鋭的なものばかりで、かなりヒリヒリする鑑賞体験となった。松濤美術館は結構唐突に尖った展覧会をやるので、これからは気にかけておく美術館の1つに入れておこうと思った。 松濤美術館の帰りに渋谷のパルコに行った。我が青春の渋谷パルコである。2階と3階に結構な数のコーヒースタンドがあったはずなのだが、今残っているのはSaturday In New Yorkと言うファッションブランドに併設されているコーヒースタンドだけだった。ここのコーヒーは2020年にも飲みに行っていて、とても美味しかったから、また飲めてよかったのだけどね。 また、渋谷のパルコ内で、新曲"Ally"のためのジャケットを撮影してくることができた。なかなかキャッチーで目を惹くジャケットになったと思う。 渋谷MODI内の本屋にでも寄れればよかったかな。英語学習の最近の本を見てみたかった。明日、条件が合えばアーティゾン美術館に行きたい気もしているのだが、録音の方を優先させようかな。喉の調子もいいことだし。アーティゾン美術館に行ったら、出口は違うが皇居がある方の出口から出て、丸善に寄ることもできるね。Amazonで英語の参考書を検索してもいまいちピンと来るものに出会えなかったのだ。 賞味期限が近いからと言うことで、1袋100円と言う破格のセールを行なっていたプロテインが10kg分届いた。全パッケージの賞味期限は今年の11月だった。まあ飲み切れるだろうとは思っている・・・。どうだろうね。粉末だし、12月に飲んでも唐突に腹を下すようなことはないとは思っているが。すでに開封しているものは先に飲まざるを得ないが、そのあとは賞味期限が近いものをガツガツ飲んで消費しようと思う。 来週月曜日と火曜日が終わったら、とりあえず秋休みである。5日ほどしかないなと思っていたのだが、意外と2週間ほどあった。アルバムの制作の続きとカバーシングルと、進められる範囲で進めておこうと思う。 寝よう。
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satoshiimamura · 9 months
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第7話「日(かんけい)常」
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「観測システム問題ありません」
「シンクロ率七十パーセントをキープしています」
「通信速度も安定」
 次々と周囲から報告される内容に、夢見は中央管理室の中央に鎮座する巨大モニターを見ながらも笑う。
 そこに映るのは空を飛び回る青のイカロス。次々とやってくるペティノスを打ち倒している。
 青空の中、それよりももっと濃い塗装の機体が、火炎を背負いながらも宙を飛び回る。その光景は、かつて夢見もよく見たものだった。
「まるで子供だな」
 夢見の背後からタスカが声を掛けた。
「子供でしょうよ。そもそも、あの双子たちがガキだし」
 モニターから目を逸らさずに夢見は言い返した。それに気分を害した気配もなく、さらに会話を続ける。
 両者とも視線はモニターに固定されていた。
「当初はおとなしいガキが、やんちゃなガキ共に振り回されている印象だったが」
「容赦無くなってるよ、あの子。七番との裁定勝負の途中、収集可能範囲九十五パーセントくらいのデータをランダムでパイロットに開示し始めてた」
「腐ってもナンバーズか……それだけの情報を拾えるオペレーターもだが、神楽右近も開示データを処理できる辺り脅威だな」
「問題児とはいえ、スバルの秘蔵っ子だし」
「死んだわりにはタチの悪い置き土産だ」
「言えてる」
 ククッと夢見は笑う。タスカはそれを横目で眺める。
 二人の背後で、さらに青のイカロスに関連した数値が読み上げられていた。
 直接搭乗を行っている獅子夜ゆらぎの脳波や心拍数、呼吸などから、彼の心理状況が暴かれていく。が、それらはとても安定していた。彼は迷いなどなく、淡々と、静かに場を把握していく。緊張感も恐怖も、そこにはなかった。
「実戦でもこれか……最終決定には帰還時のデータ収集まで待たなくてはいけないが、思った以上に使えるな」
 タスカがそう言えば、夢見もまた頷く。が、一部の数値に疑問があったらしい。唸り声を喉の奥から響かせて「データが少なすぎる」と嘆いた。
「この数値が個人によるものか新世代のイカロス由来なのかわからないね。比較がしたいが……これじゃあ、結論が出せない。ていうか、サンプル少なすぎて無理」
「現見さんたちが許さないだろう。五番の直接搭乗ですら、未だ眉間に皺を寄せて反対してるらしいぜ」
「まったく、三十年前の連中は頭が固い!」
 憤慨だと言わんばかりの夢見に対し、タスカは諦めの混じった声色で嗜める。
「アレクたちがあれだけ過去の情報開示を求めても、連中は首を横に振るばかりだ。三十年前のトラウマがどれだけ深いのかは知らないが、オレやお前の元上司たち並みに頑固なのは初めから知ってただろ」
 でも、と夢見が諦めきれないように青のイカロスを見上げる。モニターに映るイカロスは、先程他のイカロスから援護を受けて、再びペティノスを複数体撃破していた。
 その横でタスカがモニターの端を指さす。そこにいたのは、黒のイカロスだった。
「もう少し待てば、勝手にサンプルは増えるだろうさ」
 それまでの辛抱だ、とのタスカの言葉に夢見も意味を理解したのだろう。そうだ、そうだったと同意をし、そして笑って次の願いを口にした。
「早く比較したいね」
***
 イカロスによる出撃を終えて、ゆらぎは右近とともに待機室に戻る。そこには、複数人のイカロス搭乗者たちが集まっていたが、皆ゆらぎのことを気にしていた。
 突き刺さる視線と圧に目を逸らすゆらぎだが、右近はその様子に気づいていない。呑気に「飲み物いります?」と尋ねてきた。相変わらず、後輩の苦労を考えない先輩である。
「あ、いたいた。おーい、右近! 獅子夜くん!」
 誰もが振り向くほどの大声で、場の空気を一切気にすることなく話しかけてきたのは、同じナンバーズの神楽左近だ。彼もまた出撃していたのをゆらぎは知っていた。
「左近さん、先ほどはフォローありがとうございます」
 戦闘中、ペティノスに囲まれたところで黒のイカロスからの援護があった。それについてゆらぎが左近に礼を述べると、左近の返事よりも先に右近が諌める。
「ゆらぎくん、礼を言う相手が間違っています。どうせこの戦闘バカは、状況に気づいていなかったに決まっています。オペレーターのルーが気づいてフォローを進言したに違いありません」
「ちげーよ馬鹿! ちゃんとオレが気付いたんですー。て言うか、いつの間に獅子夜くん名前呼びしてんだよ、オレも名前で呼びたいっての、この馬鹿」
「馬鹿て言わないでくださいよ、この馬鹿。あとゆらぎくん呼びはちゃんと本人に許可貰ってください、お前には勿体無いですけど」
「何様だよ馬鹿」
「お前こそ、この馬鹿」
 互いに馬鹿馬鹿と罵り始めた双子に、ゆらぎはどうしようかと思案し、周囲はいつものやつかと興味なさそうな顔をする。喧嘩自体はゆらぎも割とどうでもいいのだが、生憎とナンバーズとして引き継ぎをしなければならないのだ。次の当番の者たちも集まり始めており、未だ業務に不慣れと言うか新人枠のゆらぎにとって、どうすればいいのか右近と左近に聞きたいところであった。
「あのぅ」
「もう! また二人とも喧嘩してるの!?」
 突如、待機室に女性の声が響く。と同時に、それまでくだらない罵り合いをしていた双子の肩がビクリと揺れた。
「呆れた! 引き継ぎも終わってないし、新人放置してるなんて何やってんの? ちょっと左近、あたしの話聞いてる? 右近も逃げない!」
 直球過ぎる言い回しと、小柄でありながら力強い足音をさせやってくる女性。彼女は華奢な身体に長い金の髪を纏わせている。その金とも橙とも思える目は鮮やかで、ゆらぎの向こう、神楽兄弟たちを睨んでいた。
「ルー、これには深い事情、つまり右近が喧嘩を売ってきてな」
「いつものやつじゃない!」
「いつもじゃないって」
 タジタジな左近というのを初めて見たゆらぎは、成り行きを見守っている。さらに彼女は右近にも近づいた。
「右近も久しぶりに左近と出撃だからって、浮かれてるんじゃないわよ!」
「浮かれていません」
「言っておくけどゆっきー経由でエイト・エイトが教えてくれたわよ」
「ちょ、エイト・エイト!? 何言ったんですか、あなた」
 腕時計端末に向かって右近が問い詰めようとするが、彼の端末にAIのホログラムは映らない。対し女性の指輪型端末からは、瀬谷雪斗がニヤニヤと笑った状態のホログラムが映し出されていた。
 「これは仕事なの。しかも新人も入れての! それなのにあなたたちのくっだらない喧嘩で皆の時間を取って」
「ルー、落ち着けって。な?」
「そうです、そんなに興奮した状態で動くと」
 その直後、興奮した女性が左近の胸元をつかみかかろうとし、バランスを崩す。
「あ」
 誰が間抜けな声をあげたのか分からないが、それまで笑って見ていた周囲が慌て始める。が、咄嗟に左近と右近が女性を抱えるように庇い、下敷きになった。
「痛たたた」
「ドジなの忘れないでくださいよ」
「ううう、ごめん」
 折り重なった三人にの様子に、怪我はなさそうだと周囲も一安心する。
 ゆらぎもホッと安堵の息を吐いてから、一番上にいた女性に手を差し出した。ルーと双子に呼ばれていた女性は一瞬躊躇ったが、ゆらぎに微笑んでその手を掴み、立ち上がる。
「ありがとう、獅子夜くん。ごめんなさいね、こんな変なところ見せちゃって」
 至近距離からの大人の女性の優しい笑みを見たゆらぎは、「え、ああ。どうってことないです」と早口で言い返した。
 ルナやあの気の強そうな七番の兎成姉妹とは違う雰囲気に、少しばかりゆらぎの頬が赤く染まった。が、お互いを押しのけて立ち上がった右近と左近は、女性とゆらぎを引き離す。
「ルー、ちょーっと距離が近すぎかなぁ」
「ゆらぎくん。彼女に騙されないでください。君はまだクーニャから卒業したばかりなのですから」
 その言葉に、何を勘違いしているのかと言い返そうとしたゆらぎ。なのだが、返すよりも先にいい笑顔の女性が、それは見事なアッパーを左近に、続けて右近に繰り出したのであった。
 引き継ぎ報告を終えたゆらぎ、右近、左近、そして未だに苛ついてる女性の四人は、待機室からファロス機関の休憩所にやってきていた。
「本当にごめんなさいね、獅子夜くん。こんな馬鹿な男二人に振り回されて、大変でしょう? 嫌だと思ったら遠慮なく頭叩いちゃいなさい」
 はいこれ、おねーさんの奢り。と手渡された缶コーヒーは、練乳たっぷりの激甘商品として、すでに新入生たちの中で話題になっているものだった。
 正直ゆらぎとしては、手渡されたものが甘すぎてどうしようかと思うものだったのだが、好意を無下にすることもできずに受け取ってしまう。
 ぼそぼそと礼を言いつつも、彼女の言葉に苦笑いをするしかない。というか、前にも二番の二人に似たようなことを言われている。どう考えても右近と左近の双子は、問題児なようだ。
「あー、えと、その……右近さんにも左近さんにも、出会ったときから振り回されているので……その、そこまで気にしてないです」
 悲しいかな。地上にやってきた日から振り回されすぎてるゆらぎにとって、先ほどのような小競り合いはもう日常であった。頭を叩くまではいかないにしろ、相棒とその兄弟を放置しながら、オペレーター向けの課題演習をエイト・エイトを相談相手として解いていたほどだ。
「新人に気を使わせて、本当に先輩失格だわ」
 そのゆらぎの日常を察したのか。再び女性が双子を睨みつける。睨みつけられた方は、お互いに同じ銘柄の飲料を口にしながら、目を逸らした。
 その様子に女性は大きくため息をついて「もういいわよ」と呟く。そして、改めてゆらぎの方を向いた。
「自己紹介がまだだったわね。私はルル・シュイナード。ナンバーズ六番のオペレーター、つまりそこにいる神楽左近の相棒よ。右近ともナンバーズになる前からの付き合いなの。左近やゆっきー……瀬谷雪斗とは会ってたかもしれないけど、こうしてオペレーター同士でお話できる日を楽しみにしてたわ」
 よろしくね、という笑みと同時にルルから握手を求められる。ゆらぎもまた改めて名を告げて、握手に応じた。
 両者ともにのほほんとした雰囲気だったが、次の瞬間爆弾が落とされた。
「ふふ、ようやく獅子夜くんに会えた。ずっとモニター越しだったし、獅子夜くんはオペレーター室にはいなかったから、直接会って話したいと思ってたの。あのね、私も直接搭乗しようと思ってるから」
「え」
「ルー!」
 内容を理解しようとするよりも先に、左近が間に割って入る。どうやら彼にとっても衝撃的な内容だったようだ。
「お前だって、直接搭乗のリスクは知ってるだろ!?」
「でも、メリットもあるわ。それに、左近だけが戦闘の最前線にいるのが……いえ、私だけが後ろにいるのが怖いの。私たちのイカロスは近距離特化だから」
 撃墜される可能性が一番高いわ、と続くルルの言葉に左近は否定できない。右近とゆらぎはレーザーや銃器による近距離から中距離型イカロスではあったが、左近たち六番のイカロスの武器は複数のブレードなのでペティノスに接近するしかない。
「危険なのも、オペレーター病のことも分かってる。でも、スバルの最期を考えると、私、左近と一緒にいたいと思ったの。空で、独りいなくなるより、誰かと一緒にいた方がいい。もちろん、負ける気なんてさらさらないけど」
 だから、と続く彼女の言葉に震えは一切なかった。
 しっかりと左近を見つめるルルに対し、相棒は何も言えないでいる。だが、右近は静かな声で「いいのですか?」と尋ねた。
「何が」
「左近も俺もパイロットの中では、かなり好戦的な性格です」
「知ってるわ、あなたたちが出てきたことで、これまでにないレベルでの超接近、超高火力イカロスが設計されたぐらいだもの」
「ええ。夢見博士やタスカ技官長に言われたんですけど、俺たち双子は異常なレベルで恐怖心が低いんですよ。それをオペレーターの警戒心で補っているとまで言われた。だから」
「だから?」
「ルーは普通に怖いのでしょう? あの戦場に立てるのですか? いや、ゆらぎくんになんの説明もなく直接搭乗をさせた俺が、言えたセリフではないのは重々承知していますが」
「そうね、怖いわ」
 さらりと言い返された内容に、左近がならと言い募ろうとする。だが、ルルはそれを制した上で再度告げた。
「でも、左近だけが前線にいる方がもっと怖い」
 左近は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。右近は無表情でルルを見つめる。ゆらぎだけがどうするべきかと、三者それぞれに視線を移すしかできなかった。
「……右近。後で、現見さんを説得するの手伝え」
「ええ、俺でよければいくらでも手を貸しますよ」
 ルルだけでなくゆらぎもホッと一息つく。ありがとう、と彼女の小さな謝礼が聞こえたのは、きっとゆらぎだけだった。
「で、だ。クーリング期間に入ったわけだが、獅子夜くんはその間予定ある?」
 これまでの重い雰囲気をガラリと変えて、左近がゆらぎに尋ねた。
「ええと、クーリング期間は最低二十四時間ですよね」
「そう。とは言え、今回はペティノスとの戦闘までしたから、緊急時以外は四十八時間はクーリング期間になるな。通常だったら夜にはエイト・エイトからカウンセリングも入るとは思うけど」
「直接搭乗の影響を調べる名目で、明日はファロス機関に行くことになっています。AIによるカウンセリングは就寝時に行われるので、この後六時間は自由行動が可能だと思いますが」
 左近、そして続いた右近の説明に改めてイカロス搭乗にはパイロットもオペレーターも多大な負担がかかるのだと、ゆらぎは思い直す。彼自身は大して疲れたという感覚がないのだが、イカロスから降りた際に何人かのパイロットが座り込んでいたのを見かけていた。
「獅子夜くんは平気そうね。ナンバーズは比較的搭乗での負荷が少ない傾向があるけど、個々人のクーリング期間が長くなることはあれど、短くなることはないわ」
 ルルもまた、平気そうな顔をしている。未だナンバーズ以外のパイロットとオペレーターたちと親しくないゆらぎには、その負担の度合いが分からない。
 とはいえ、今は左近からの質問に答えるべきだろう。
「ええと、その、一応買い出しに行こうかと思っているのですが」
「買い出し? 何を買うんだ?」
「その、部屋の家具をまだ揃えてなくて。エイト・エイトからは色々と提案されているんですけど、おれが欲しいのがなかったから」
 ゆらぎの回答に左近やルルだけでなく、なぜか右近まで驚く。
「え、もしかしてまだあの状態なんですか? この間、学園のご友人が泊まりに来ていましたよね?」
 右近の指摘にゆらぎは少し目を逸らして、言い訳を口にする。
「その、どういう部屋がいいか学園で盛り上がって、じゃあエイト・エイトに協力してもらってARで再現しようということで、お泊まり会になったんですが……なぜかルナさんおすすめアニメ鑑賞会になってしまって」
 掛け布団一枚とエイト・エイトに作ってもらったポップコーンを三人で取り合いながらの鑑賞会は、それはもう盛り上がった。が、目的は何一つ達成されていない。
 同日は右近もゆらぎたちの邪魔をするべきではないと、珍しく空気を読んで自室に引っ込んでいた。が、楽しそうな声が聞こえていたので、とっくに友人を招き入れる部屋の状態だと勘違いしたのだ。
「あまりにもおれたちの話が進まないのに呆れたのかもしれません。いっそのこと家具店に行く方がいいとエイト・エイトの提案があって、今日行こうかなと思っていました」
 そのゆらぎの説明に右近は呆れ、左近はエイト・エイトも苦労しているなと思い、ルルは「じゃあ、先輩として案内しましょうか」とにこやかに提案した。
***
「部屋の雰囲気は置いておくとして、必要な家具が何かはリストアップしているんですか?」
 都市ファロス唯一のショッピングモールにやってきた四人は、家具を取り扱う店舗で様々なカタログを引っ張り出していた。
 多種多様なレイアウトが載った電子端末を見ながら、右近がゆらぎに尋ねた。
「え?」
 全体のレイアウトとその雰囲気を議論し続けていただけに、右近からの指摘に戸惑いの声をあげる。
「ゆらぎくんの今ある家具は、ベッドくらいでしょう? あと机と椅子はないと困るでしょうし」
 続く右近の指摘に、さらに左近とルルも乗る。
「クローゼットの中身はどうするんだ? 小物入れるチェストとかもあったら便利だけど」
「部屋の雰囲気変えるなら、ベッドも変えていいと思うわ。話を聞いてる限り、たぶん新人に最初に渡されるベッドよね?」
 ぽんぽんと続く提案を聞いたゆらぎは、よくよく考えた。
「そう……ですね。たぶん統一した雰囲気にしたいので、ベッドも変えることになると思います。あと映画とかドラマとかアニメの鑑賞したいので、ソファとテーブル、投影機が欲しいかも。クローゼットは今のままで大丈夫だと思いますが、小物を入れるチェストは欲しいかな。それとカーテンも」
 ゆらぎの回答に、右近がエイト・エイトを端末に呼び出す。
「今の聞いていました?」
 端末に現れたエイト・エイトは「もちろん!」と反応する。そしてゆらぎに向かってグッドサインを投げた。彼は先日の、ゆらぎたちがしでかしたあまりにもぐだぐだなやりとりを知っているだけに、涙らしきエフェクトまで出している始末だ。
 その様子をみた右近はため息を吐き、左近は「たはは」と苦笑いを浮かべている。唯一ルルだけは、次の話題を提起した。
「それじゃあ獅子夜くんは、どんなコンセプト? 雰囲気がいいのかしら? といっても、漠然としすぎているから、まずは好きな色から決めちゃいましょう」
 散々決まらなかった内容なので、ルルの告げたとっかかりはありがたかった。
 うんうんと唸りながら、ゆらぎが脳裏に思うかべるのは、これまで見てきた映画たち。そして決めたのは。
「青……がいいです」
 ゆらぎの返答に、右近が「青?」と聞き返す。彼の脳裏に浮かんだのは、五番のイカロスが纏う青だった。
 だが、ゆらぎは心を読んだかのように「イカロスの青とは違います」と訂正する。
「おれは、星空の、いえ宇宙の青が部屋にあればいいと思うんです」
 今度は左近とルルが「宇宙?」と問いかけた。
「そうです。地下都市クーニャでは絶対に見れなかった星。地球の外を取り巻く宇宙。無数の光と神秘の闇がひしめく場所。おれが航空部隊を希望したのは、地上にでないとと宇宙に近づけないと思ったからです」
 無機質な天井���仰ぎ見て、その向こうにある光景を思い浮かべていたゆらぎ。しかし彼の相棒は不思議な顔をする。
「ペティノスたちがやってきた場所、ですか」
 その感想に、ゆらぎは苦笑いをする。よくよく周囲を見れば、左近やルルも同じような表情を浮かべていた。なるほどナンバーズともなればそうなるのか、と思ったほどだった。
「そりゃあ、地上の現状を知らなかったから憧れたのは事実です。でも、おれは未だ諦めてません。せっかく空を飛べるんなら、もっと高く、もっと空に近づきたい。イカロスをそういった目的で使うのは怒られるかもしれないんですが、おれは空を飛びたかった」
 その説明にルルが目を見開く。何が彼女の琴線に触れたのかはわからない。が、これまでの年上らしさ全開の表情から、双子と同じように幼い雰囲気を携えた少女のような顔をした。
「そっか、宇宙」
 ぽつりと零した彼女の独り言に答える者はいなかった。
「うん、そうだね。これまであたしたちは宇宙になんの興味も持ってなかった。オペレーターで、前線に出なかったあたしが言うなって話だけど、そうだね。直接搭乗をするなら、もっと宇宙は……空は身近になるんだものね」
 いいね、とこれまでの大人びた雰囲気を一切取り払ったルルの笑みがあまりにも眩しくて、ゆらぎの頬が熱くなる。途端にそれまで黙っていた左近と右近の両者が、二人の間に入った。
「だからルー、お前もうちょっと落ち着いて」
「ゆらぎくん、あの、本当にルーだけはやめてください。あれは外見だけは良いんです。外見だけで中身はダメです」
 そんなんじゃない、とゆらぎが叫ぶよりも先に、カタログを映し出す電子端末が左近の脳天に振り下ろされた。振り下ろしたのは言わずもがな、ルルである。さーっと血の気が引いた右近は、黙って元いた席に戻ったのだった。なお、血の気が引いたのはゆらぎも同様である。
「あの、その……おれの親友も地上は知らないけど、ルルさんたちみたいな反応だったんで、宇宙に憧れる人間が少ないのは重々承知してます。まして、ここはペティノスと命を掛けたやりとりをしているから」
 何をそんなにも弁解する必要性があるのか分からないが、少しでも落ち着いて欲しいと、ゆらぎが言葉を重ねる。しかしルルは「好きなものを好きって言っただけよ。そんなにも卑下する必要はないわ」と優しく返す。
「……ありがとうございます」
「お礼を言われることでもないんだけどね。……でも宇宙となると、さすがに都市ファロスでも、あまり選択肢はないかもしれないわ」
「やっぱりそうですか」
 薄々ペティノスのことを知ってから思っていただけに、ゆらぎは落胆を隠せない。
 だが、そこで頭をさすった左近と彼のAI瀬谷雪斗が「諦めるのはまだ早い!」と会話に加わった。彼の横では、電子端末に歪みがないかを右近がチェックしている。
「オリジナルデザインによる家具製作は可能だぜ。オレもゲームモチーフのアイテムを作ったことがあるし」
「そうそう、自分にデザインするセンスがなくても依頼っていう方法もあるからね。左近はゲーム画像を提出して作って貰ってたんだ」
 デザイン方面の依頼先一覧は僕がデータ化してるし、打ち合わせようのアプリもあるよ、エイト・エイトにコピーしようか? との瀬谷の提案にゆらぎはありがたく頂戴しようと思った。が、そこで気づく。
「でも、それだと宇宙の写真データとかが必要では」
 ファロス機関に空のデータがあるかな、と内心思ったところで、ルルからとんでもない爆弾が落とされた。
「それだったら、同じナンバーズの梓ちゃんが得意よ。確かあの子、オペレーター仲間からの依頼でデザイン案を一から練ってるのあたし見てるもの」
 途端に右近と左近が嫌そうな顔をしていたが、止める間もなく彼女は「連絡してみるね!」と好意全開で端末を起動させた。
***
 ゆらぎと梓は向かい合って、沈黙、沈黙、沈黙していた。あまりにも気まずくて席を立ちたくなったのだが、きっと相手も同じ気持ちだろうと察せられる。
「梓ちゃん、来てくれてありがとう」
 ただ一人、ルルだけがにこにこと笑っている。のだが、外から見れば俯いている男女と、その間に立つ笑う女の構図なので周囲からは浮いていた。
 オリジナル家具製作の話題が出た後、家具店から出た四人は昼だったのもあり、施設内にあるフードコートに来ていたのだ。
 その一画で梓と――案の定呼び出したメンバーがメンバーなのであゆはも来たが――合流し、今に至る。
 梓からしてみれば、あの裁定勝負で煮湯を呑まされた相手がまさかいるとは思っていなかったのだろう。同じオペレーターと言えど、直接搭乗をしているゆらぎと、間接搭乗をしている梓では接点がまともにない。合流した直後に冷や汗がだらだら流れていたし、なんだったら一歩引いていたのをゆらぎは見ている。でも断れない雰囲気なのは察した。主に横にいて眩しいくらいに好意全開のルルを前に、ここで拒否はできないよな、とゆらぎが共感したくらいだ。
「でね、獅子夜くんの部屋なんだけど、宇宙をコンセプトに家具を作りたいの。梓ちゃんは前にも」
 ぺらぺらと続くルルの言葉にも、梓は無言でいた。
 こんな時に黙る選択肢を持たない右近、左近、あゆはの三名はここに残っている面々の分も含めた昼食を買いに席を外している。それはそれで大丈夫なのだろうかと思わなくもないが、この圧倒的な気まずさよりかはマシだった。
「ね、ね、どうかな? 梓ちゃんはとっても可愛い小物とか作ってるし、すごいセンスあるもんね。きっと家具デザインも素敵だと思うんだ」
 ようやくルルの独壇場だった説明も終わり、勝手に圧倒されていたゆらぎの緊張感が解けた。だからだろう、彼もまた梓にお願いをする。
「あの、ほとんどの説明をルルさんがしてくれたんですが、その……本当におれ、宇宙をモチーフにした家具が欲しくて。宇宙を知っている人が少ないのは知っていますが、それでもお願いします」
 梓からしてみれば突然の呼び出し理由は、ルルの説明で理解した。更に癪な相手ではあるが、真っ当な理由の依頼人からもちゃんとした言葉でお願いがされた。
 なるほど、と彼女の緊張も少し解ける。ので、気になることを指摘した。
「仮にわたしがデザインするとして」
「はい」
「正直イメージが漠然としすぎる。どんな部屋にしたいのかが分からない」
 その指摘にゆらぎが困惑する。
「え、宇宙の」
「宇宙って言ったって、星や夜空、プラネタリウムに天文台やロケット、望遠鏡。まぁ、あんたのことだから星座占いみたいなのはなさそうだけど、どれを主軸にしたいのか分からないわ。映画と写真とかないの?」
 つらつらと紡がれる梓の説明に違和感を覚えたが、ゆらぎは深く考えることなく、それならと先日のお泊まり会でのアニメを思い出す。あのアニメでも宇宙に憧れる少年たちが、夜中にゲームをしながらおしゃべりをするのだ。
「星間開拓少年オウル、というアニメがあるんですが」
 ピクリと梓の眉が跳ねた。
「何話だったかな。主人公オウルが親友ディーの家に泊まる時の、ディーの部屋みたいなのが良いのかもしれません」
「あれは宇宙っていうか、ゲーム少年の部屋じゃない」
「でも望遠鏡と太陽系のモビールとか、ロケットエンジンのパーツに宇宙飛行士のポスターとか宇宙への憧れが映り込んでて……待ってください。梓さん、アニメ知ってるんですね?」
 通りで宇宙の話が通じるはずだ、と違和感の正体にゆらぎは気づく。それまで聞いていたルルは「え、おもしろいアニメ? ちょっと気になる」とそわそわし始めている。
「何よ、ナンバーズがアニメくらい見てたっていいじゃない」
 随分と刺々しい雰囲気で言い返してくる梓の反応に、何か地雷を踏んだのだろうかと思ったゆらぎは必死に弁解する。
「だって星間開拓少年オウルって、アニメ映画の中では珍しい地上の話なんですよ! こんなところに同じ視聴者がいたなんて、早瀬さん――おれの友達なんですけど――が知ったらきっと喜ぶと思うんです。おれやイナくんだってこの間初めて見て、すごい楽しくて、宇宙への憧れがやっぱり膨らむんですよね」
 しかし元来自分の好きなものに忠実なゆらぎは、勢いのままに喋り倒した。
「でも嬉しいな。あの映画を見て、本当に宇宙に行きたいって改めて思ったんです。イカロスならもっと高く飛べそうだし。高度が上がればあがるほどペティノスの脅威もあるんですが、雲の上で星空見放題とか、あとは……」
 そこでぽかんと彼を見つめている梓とルルに気づき、そのままゆらぎは顔を真っ赤にして俯く。
「うんうん、獅子夜くんが宇宙大好きなのはよく分かったわ。そのアニメに出てたやつ、他の家具とかはどうなの?」
 大人として軌道修正をかけたルルの言葉に、小さくゆらぎは「できれば、あのアニメにある天井投影型ホームシアターも欲しい……です」と付け加えた。
「梓ちゃん」
「え? あ、はい? え、なに? じゃなかった、なんですか?」
 ルルに突然名前を呼ばれた梓も、あまりにも突然だったので妙な口調になる。
「このように獅子夜くんはとても宇宙が好きだし、宇宙関連の家具が欲しいわけだけど、今の説明で具体的なイメージが掴めたかしら?」
「う、うん。わたしも知ってるアニメだし、今回はキャラの部屋っていう具体的なイメージも欲しい家具も分かってるから、できると……思う」
「じゃあ、デザインを引き受けてくれるかしら?」
 そこで梓は少し躊躇する。やや引っ込み思案の彼女もまた、ゆらぎの熱意に関しては覚えがあったし、なんだったらハイになったときのあの喋り倒す行動も理解できた。
 あの憎き五番のオペレーターに力を貸すのは癪だが、手伝ってもいいかも、と彼女は思ったのだ。
「いいですよ、えっと、そのデザインするの」
 その瞬間、俯いてたゆらぎがきたりと目を輝かせて顔を上げる。
「ありがとうございます! 梓さん」
「へあ?」
「梓ちゃん、ありがとう。よかったね、獅子夜くん」
 すかさずルルも礼を告げ、続けてゆらぎに声を掛ける。そこでやはり、多少綺麗なお姉さんに微笑まれた彼は顔を赤くした。それを見た梓はなんだか馬鹿らしくなる。
「え、なに。あんた、ルルさんが好みなの?」
 以前流れていたルルに纏わる恋愛の噂話は知っていたので、これは止めるべきかと梓は思った。が、「違います!」と相手から強い否定が入る。
「なんで右近さんと左近さんどころか、梓さんにも言われるんですか。本当にそんな意図はないです!」
 青少年らしいの反応に、梓はゆらぎを半目で見ながらも、ルルに問う。
「……本当なの?」
「本当よ。獅子夜くん、随分と初心な反応してるから、たぶん女性との交流自体少ないタイプだったんじゃないかしら」
 あっさりとルルに指摘されたところで、ゆらぎは更に「そんなことないですから!」と否定するが、年上の女性二人にとっては可愛らしい反応なのは確かだったので、適当な頷きだけ返して話を変えた。
「あ、そう言えば天井投影型のホームシアターって、プラネタリウムは併用するの? それとも映像特化?」
 デザインを決めるにあたっての梓の問いかけに、少し疲れた様子のゆらぎは力なく答える。
「映像特化でお願いします。早瀬さんとイナくんと、3D共有でのシアター鑑賞をするつもりなので。共有前提だと、たぶん専用機の方が便利でしょうから」
 ゆらぎの説明を聞いた梓は端末にメモをとっていた手の動きを止めた。
 画像共有は、3D空間に自己アバターを入れてのリアル主人公目線での鑑賞方法だ。個人でも楽しいのだが、一番楽しいのは複数人での��像共有。リアルタイムでの感想の言い合いは魅力的で、それ専用のコミュニティが存在しているのを梓も知っている。
「それおもしろそう、私も参加したい。それで、獅子夜くんが熱弁してた宇宙開拓少年オウルも見てみたいなぁ」
「いいですよ、ルルさんの部屋もあの家にあるんですよね? だったら泊まりやすいでしょうし」
 あっさりと約束を取り付けるルルに、内心梓は羨ましいと思っていた。彼女とて友人知人同級生はいるのだが、実際同じ趣味の画像共有をしあう友人はいない。ゆらぎだけではなく、彼のその友人たちも梓と似た趣味を持っているようなので、是非とも参加したい。
 参加したいが根が引っ込み気質で、姉のあゆはの力でなんとか交友関係を築いていた梓には、声を掛けるハードルが高かった。が、
「そうだ、梓さんもどうですか? きっと早瀬さんと梓さん、いい友達になれると思うんです」
「へ?」
 まるで梓の心を読んだかのようなゆらぎの誘いに、彼女は一瞬何を言っているのだと思った。そして数秒後に意味に気づき、慌てふためく。
「え、あ……ええと」
 とりあえず、はいの返事だけでも思った矢先に「ふざけないでよ!」と梓の姉の怒号が響き渡る。
「毎回、毎回、あなたたち双子のその傲慢さ、イラつくったらありゃしない! 少しは協調性ってものを学びなさいよ!」
「言っておきますがね、俺たちはあなたたち七番よりかは連携をとっていますよ」
「そうそう、超高火力イカロス誕生っていう、新戦術まで生み出してるわけだし? 基本、オレたちの代は連携プレーが得意な連中が多いのは、あんただって知ってるだろ?」
「あたしだって本当に、できれば、あんたたちに関わりたくなんかないんだから!」
 三人の喧しい言い合いに、梓はこの三人を前にしてゆらぎ宅、つまりあの双子の片割れの家に泊まりたいとは言えなくなっていた。例え双子がいなくとも、姉のあゆはが許しはしないだろう。
「もう、またあの二人はああやって後輩をいじめて」
 ルルがいい加減にしなさいと止めようと立ち上がった瞬間、まるでドミノ倒しのように彼女は周囲にぶつかり、皿が落ち、飲み物がこぼれ、他の人の悲鳴が響いた。それを見た右近と左近が慌ててルルのフォローに回る。
 対し口喧嘩が不完全ながらも終了したあゆはが、梓に話は済んだのかと尋ねてきた。梓は小さな声で「ううん、まだ」と返事をする。
「そう……まだかかりそうなのね」
「うん。ごめんね、お姉ちゃん」
 梓の申し訳なさそうな声色に、あゆははべつにと気にした様子はない。それに少しだけ梓は安堵した。
「いいわよ。で、獅子夜ゆらぎ――あなた、後どれくらい時間が必要なの?」
 ずいっと力強く、睨みつけるような目をしたあゆはからは、いい加減にしろと言外に意味を込めた問いかけが放たれる。それに少したじろいだゆらぎは、視線を反らしながらも提案した。
「あ、その、すみません。おれが話を脱線させちゃって。とりあえず方向性は決まったので、先に昼食にしませんか? その後は詳細を詰めるだけなので」
「いいわね、賛成するわ」
 その提案に乗ったのは、右近と左近に助けられているルルで。特に異論のない双子と、緊張感が和らいだが故に空腹だったのを自覚した梓と、それを看過できなかったあゆはは、同時に賛成と言ったのだった。一瞬にして、その場の空気がヒヤリとしたのは言うまでもない。
***
 梓との話し合いは無事に終わり、ほくほくとした気分でエイト・エイトの作った食事を終えたゆらぎは、満足した気分でベッドに入った。
 ベッドから眺められるゆらぎの部屋は未だ簡素だ。が、じわじわと私物は増え始めている。これがどうなるのかというワクワク感があふれて、彼は一人でふふふと笑った。
「ゆらぎくん」
 突如部屋に現れたエイト・エイトのホログラムに、ゆらぎは飛び起きる。
「え、エイト・エイト!? どうしたんですか?」
「七番のAI、テトラが来ていてね」
「テトラが?」
 テトラは梓とあゆはのナビゲートAIだ。今回のデザイン作成では、大枠をAIであるテトラが作り、より細部を梓が詰めていく流れとなっている。それをAI瀬谷雪斗が作ったアプリで立体化し、家具作成として適当な形状かを確認するのだ。
 だが、流れそのものやデザインの方向性は既に決まっている。今更なんだろうかと思ったゆらぎだが、考えるよりも先に部屋に現れる許可を出していた。
「やぁ、獅子夜君。こんな夜分に失礼するよ」
 現れた凛々しい男性にしか見えないAIは、基本設定での性別は女性だ。男装の令嬢、といった雰囲気を醸し出した彼女は優雅な一礼をした後、手に一通の手紙を持っていた。
「話が途中で頓挫したけど、獅子夜君は梓を3D共有でのシアター鑑賞に誘っていただろう? 梓からの返事を持ってきたんだ」
 ほら、と彼女が差し出したホログラムの手紙には梓のサインと共に、シアター鑑賞は是非とも参加したい、という旨の文章が綴られていた。それを読んだゆらぎは無邪気に喜ぶ。
「ぜひ梓さんも楽しんでください、て返事をお願いします!」
「ああ、喜んで。梓も楽しみにしていたよ」
 それではこれ以上眠りを邪魔するわけにはいかないから、とそのままテトラは退出する。続くようにエイト・エイトも、ゆらぎにおやすみと告げてホログラムを消した。
 今度こそゆらぎはベッドに戻り、目を閉じる。
「楽しみだなぁ」
 また一人でふふふと笑い声を漏らしたゆらぎ。これはいけないと思い、彼は瞼の裏に星空を描いて、眠るまでそれを数えることにしたのだった。
 一方その頃、電脳世界ではエイト・エイトとテトラが、大変真面目な顔で相談会を開いていた。中身は、梓のお泊まり会を邪魔するであろう右近と左近をどうするか、というもので。その相談はAI瀬谷を呼ぶことになり、結果朝までかかる大議論に発展したのを人間側は誰一人知らなかった。
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etanchan · 10 months
Text
ビールを理解したい
導入
「とりあえずビール��。言ったことありますか?お酒が飲めない人にもこのフレーズはお馴染みですよね。これは筆者がビールを理解したいなという気持ちを綴った散文です。ラブレターみたいなものです。
はじめに
私は成人して8年が経つ人間、絵李咲ちゃん(エリサチャン)と申します。お酒が好きで、かつかなり飲めるタイプの人間です。幾つになっても記憶や財布や自尊心をお酒によって失くし続けている学びのないしょうもない人間です。そんな自分がすき。
まずはじめに私とビールの出合いから記したいと思います。19歳の時に居酒屋のキッチンでバイトをしていました。そこで1番最初に覚えた仕事が、生ビールを注ぐという仕事でした。注ぐと言っても、ジョッ��をセットしてボタンを押すと勝手に全部やってくれる機械が導入されていたので、私が教わったのは注ぎ方ではなく、機械の扱い方でした。
働いたことがなくても、居酒屋に行ったことがある方は察しがついているとは思いますが、居酒屋は忙しい時は本当に狂ったように忙しく、全員が些細なことに静かにキレ散らかしながら業務をこなす脳汁ドバドバ環境なのです。そこで最もキレ頻度の高い事象のひとつに「乾杯がビールじゃない」というのがあります。
誰が決めたなんのルールなのか知りませんが、なぜかこの国では全員揃ってから乾杯をして飲み食いをスタートするという文化があります。それに倣い客の満足度を引き上げる為にドリンクのファーストオーダーは爆速で出さなければならないという十字架を我々は背負っていました。4、5人なら大丈夫です。10人を超える宴会となると、その量のドリンクを作って運ぶというのは重労働です。そんな時に「乾杯がビールじゃない」とどうなるでしょうか。そう、時間がかかります。色んなもん計って混ぜて作る酒は大変なんです。それが全員ビールだとどうなるかというと、空のグラスと瓶ビールやピッチャーに注いだビールなどをドンと出すだけで済むのです。あぁなんて楽なんだろう。��ョッキに注いで出す場合もありますが、計ったり混ぜたりする手間がないのでそれはそれは爆速でファーストドリンクの提供を終了できます。消える泡と戦うことはありますが、それでもこんなに楽なことはありません。「とりあえずビール」は神様です。
ビールは楽ちんで、一旦最初に飲んでおくもので、大体みんな飲むもの。乾杯の為の飲み物。それが私のビールの第一印象でした。
ビールとの距離
居酒屋バイト経験後に成人した私は、すぐに一般的な居酒屋にある酒を一通り飲みます。焼酎サワー、ウイスキーハイボール、果実酒、カクテル、ワイン、日本酒。甘くて飲みやすいとされているものから挑戦し、徐々に度数や量を増やし、自らの嗜好を探った結果自分はハイボールがお気に入りだというところに落ち着きました。ハイボールはいくらでも飲める。数年かけてその結論に至った私は、居酒屋では最初から最後まで一貫してハイボールのみを頼むようになります。その頃には居酒屋のバイトは店長と喧嘩して辞めていましたし、バイトで覚えたことは全て忘れていましたので、ビールを頼むと店員が楽という知見も発揮されませんでした。ビールを飲もうと思ったことすらありませんでした。苦いし美味さが分からないし、なんか太るらしいし、プリン体?が気になる。痛風?になるんでしょ?ビールは大量に飲めない。健康を損なうから。ビールはおじさんが飲むもの。若い人は乾杯の1杯だけ仕方なく付き合うもの。よく知りもせずそんなイメージばかりがありました。気づくと、「お酒は好きなのにビールは飲めなあいんですう」みたいな人間になっていました。反吐が出るぜ。
それから更に数年、様々な人付き合いを経て、色んな場所で色んなお酒を飲みました。それに伴い、「なににする?ビールでいい?」と聞かれるお年頃がやってきます。大体25歳ぐらいです。「お酒好きでめちゃめちゃ飲むんですぅ」などという触れ込みで飲みに行くと、勝手にビールが飲める人カテゴリに入ってしまうらしい。ただそこまでビールが嫌い、飲めないというわけではないので、そう聞かれると「あ、じゃあビールで」と言えるぐらいには大人になっていました。「とりあえずビール」に加担する大人に。まぁ、美味いと思わなくても別に飲める。コミュニケーションの為に来ているのだから、とりあえず長いものには巻かれようみたいな社交術が身に付いていました。ただ一度たりともビールを美味しいと思った事はありませんでした。ビールは近くて遠い存在でした。
コーヒーの台頭
その翌年の夏です。昔からの友人が突然「アイスコーヒー飲める人ってかっこよくね?」と言い出します。確かに。確かにそうだ。我々は圧倒的にアイスティー側の人間でした。なんならアイスロイヤルミルクティー側の人間でした。30歳という大台に向かっていく我々。いつまで甘ったるいお紅茶を飲み続けるのか。いや、例え最終的にお紅茶派だったとしても、アイスコーヒーがなんなのかを理解してからお紅茶を飲むべきではないだろうか。夏の飲み物に対して関心が高まる時期がありました。我々はその夏、ありとあらゆるアイスコーヒーを飲みました。まずは大手コンビニで手軽に買えるアイコ。次にカフェチェーン店で飲めるアイコ。たまにはちょっといい喫茶店のアイコ。コーヒー専門店のアイコ。飲んだアイコは全て感想を言い合い共有しました(因みにローソンが1番好きという結果になった)。
夏も終わりかけたある日、私はいつものように飲み会に行きました。そこで「とりあえずビール」に巻かれた時、気づきました。いつもと苦味の感じ方が違う。あれ?と思って二口目を確かめるように飲むと、やっぱりいつもより美味しく感じました。好きかも。そう思って飲んだ三口目は、苦味が口にずっと残って、やっぱりビールはビールだなとがっかりました。でもどこかで聞いたことがある。ビールはひと口目が1番美味い。よく知らないけど、なるほどこれがそれか!とすぐにピンときました。きたつもりになりました。ここで私のビールへの評価が1段階上がります。ビール、悪くないやん。進んで飲みはしないけど、もう「ビール飲めないんですう」は辞めようと思った。反吐が出るしね。
アイスコーヒーが飲めるとかっこいいと思ったから色々飲んだら、副産物的にビールが飲めるようになった。そんな功績を得て私の26歳は幕を閉じました。
お酒の飲み方
大学時代就活でバチクソに病んで人生の歩みを止めていた時期があったため、同級生よりも社会に出るのが1年少々遅かった私も、流石に27歳ともなるとそのコンプレックスもなくなるほどには社会に順応し始めました。会社では一人前扱いを受け、後輩ができ、人に物を教えたり、指示を出したり、今までとは違う頑張り方を求められるようになりました。やり甲斐はあったものの、同じぐらいストレスを感じるようにもなりました。そこで私はその発散の為かなりお酒に頼るようになります。人とコミュニケーションを取るためのツール、という側面の飲酒行為は、全体の2割3割程度まで減少し、飲酒行為の大半を1人で自宅で無茶苦茶な飲み方をすることに費やすことになりました。コンビニで買ったストロングゼロを飲んでインターネットで誰も聞いていない自分語りをする。最終的に家の中で記憶を無くしたり、誰にも飲まされてないのに吐くまで飲むなどしておりました。コスメが入った引き出しに吐いて、朝起きてメイクをしようと引き出しを開けたらゲロまみれだった事があります。そんな自分がすき。
そのよくない飲み方を助長する出来事が起きます。引っ越しです。出戻り実家子供部屋おばさんを卒業したいと思い、駅チカに部屋を借りました。寂しいので様々な友人をガンガン呼んでホームパーティーという名の宅飲みをしまくりました。が、予定のない休みの日というのは訪れました。予定がないと、家ですることは掃除か飲酒の2択でした。というか、掃除をして達成感を得ると自然とお酒を飲みたくなるので、掃除をしてお酒を飲むか、掃除をしないでお酒を飲むかの2択でした。寝る前に枕元にお酒を置いて、起床した直後から飲酒を開始したり、日曜日の朝8時からひとりでテキーラを飲んだりしている様子をインスタグラムのストーリーにあげていたら、同じくアル中の友人達から大変にウケてしまい、私が無茶苦茶な飲み方をするのは一種の身内エンタメコンテンツになってしまいました。私はこれをインターネットタトゥー自傷行為と呼んでいます。
セブンイレブンの豚ラーメンとストロングゼロ、度数の高い小さいお酒と岩塩、この組み合わせの反復横跳びをするだけが人生なのだ。働く為に飲んでいるのか、飲む為に働いているのか、まるで分からないけど生きていてえらい!そんな日々でした。
ビールへの目覚め
ある予定のない日曜日、私はいつものように部屋の掃除を終わらせました。休日にも起きる時間を変えない派の私は、9時ごろには全ての家事を終わらせていることが常でした。予定がないんだから9時に起きてから家事すれば暇を持て余す必要もないのにね。
9時というと微妙な時間です。飲食店と近所のスーパーはまだ開いてない。コンビニに行くか、家にある酒を飲むか。その日の私は掃除を念入りに行ったせいで大変に気分がよかったのです。ふと駅に成城石井がある事を思い出しました。いい気分だし、いつも行かない方のスーパーに行っていつもとは違うものを飲み食いしよう。私は成城石井が開店するのを待ってから家を出ました。道中、何か特別いいことがあったわけではないのに、いつもより少しリッチで豊かな発想があった自分を喜びました。そんな自分がすき。成城石井に行けば何でもない日を特別に変えることができます。これはライフハックです。
成城石井の陳列を自分ごととしたのは初めてでした。良さそうすぎてどれが良いのか分からない。色んな棚を見ましたが、私はビールの棚にある小さなポップを読む事にしました。説明されるのがすきなので。それなのに結局パケ買いをしました。緑色でゾウの絵が描かれたタイのchangと、銀色でロゴが大きく書かれたベルギーのRoman Blancheというビールを買いました。
なぜあんだけ見たことがない酒が大量に並ぶ棚の中から、ビールを、しかもこの2つを選んだのかは今もよく分かりません。ただ、それぞれのビールはラガーとエールだということがポップに書いてあった為、なんか違うやつ飲み比べてみようと思い付いたのです。飲み比べるのであればまず飲む前に知識があったほうがいいに決まっている。私はそれぞれのビールをググりました。ラガービールであるchangはタイのポピュラーなビールで、現地では氷を入れて飲むこともあるらしい。とか、エールビールであるRoman Blancheはハーブの香りがするとか。その程度のうっすらとした情報だけを頭に入れて、とにかく飲んでみた。充実した休日ごっこがしたいだけの私が、ビールに目覚める瞬間でした。
後悔と欲望
とにかくびっくりした。これがビールなのかと。
changは甘みを感じました。ビールなのに甘い。衝撃的だった。全ての外国に縁と興味がないけれど、あっついタイで飲んだらもっと美味いんだろうなと思わず思いを馳せてしまった。
Roman Blancheは軽かった。ランチの時のお茶を全部これに変えたいと思った。こんなにいい香りなのにビールなんだと。衝撃的だった。
どちらも、今までおじさんが飲んでるくさくて苦い飲料と同じだとは思えなかった。後悔しました。こんな美味いものをイメージで避け続けていたなんて。もっと早く気づくべきだった。ビールというものの美味しさに。ビールの多様さに。
呆然としながら、ラガーとエールってなんやねんと思いググりながらノートにメモを取りました。学生の時以来の板書。
原材料表示を確認し、恐らくこれはポピュラーなビールの材料ではないだろうと思い、ググるとやはり普通は米やハーブを入れたりはしないらしい。というか、配合を変えると日本では「ビール」を名乗れないとのこと。ついでなので酒税法について学んでしまった。今飲んだこのビールの事を知りたいだけなのに、作り方だの酒税法だの寄り道が多すぎる。ビールを理解するのは大変だなと思いました。元より学がない為、説明文中にある単語の意味をググりながらの作業は、まるで外国語の勉強のようでした。君たちこれを理解した上で「とりあえずビール」なんて言ってた?そんなに浅い飲み物じゃねえぞビールは。などと思ったりした。少し調べただけでこの有様なら、ビールを完全に理解するのはとても大変な事になりそうだと察した。でも、知りたい。���るで恋だった。知りたいという欲望を抑えられなくなった私は、翌日の仕事終わりにスーパーのビール売り場へ行った。
無知、焦り、そして愛
今までビールを深く味わおうとしてこなかった私がビール弱者であるのは明らかだった。この味の感想を語れるほどビールを知らない。成城石井で購入した2本のビールはどちらも外国のビールだった為、余計に焦りが出た。日本で好んで飲まれているポピュラーな味を知らないからだ。
私はビール売り場で愕然とした。あまりにも種類が多かったからだ。そして、どれも見覚えのあるパッケージなのにも関わらず、飲んだ記憶がないからだ。知っているのに知らない。景色として捉えていたものが突然自分ごとになる。世界が一変していました。これが恋じゃなければなんなのだ。今まで「とりあえず」で飲んできたビールはこの中にあるのか。思い出しても思い出せるわけもないので、とにかく各社が出しているビールを片っ端から買いました。取っ掛かりがないと淡々と飲むだけになってしまうと思ったので、職場の同僚達に「1番好きなビール」を聞いて回って、これはあの人の推しビールだなんてことを考えながら飲みまくった。私がまず知るべきなのは日本で愛されているビールの味だ。
きちんと味わいたい為、1日2本までというルールを設けた。吐くまでテキーラ飲んでいた人間とは思えない程健全な飲み方だ。これは飲酒ではない、デートなのだ。せっかくなら記録を取ろうと思い、本来なら映画やドラマの感想を書く為のアプリに、ビールの味の感想をメモしました。
そうして数ヶ月ビールとの逢瀬を楽しみました。そしてスーパーに並ぶ一般的なビールを網羅した頃、私はまた後悔します。「クラフトビール」に出会うからです。クラフトて。クラフトすな。その種類と味わいの多様性について触れた時、私はこの世の全てのビールを飲む事はできないんだと悟りました。絶望でした。80歳まで生きたとして、週に3回、1日2本のペースで飲み続けたとしても私が残りの人生で飲めるビールはあと16,224本しかない。ビールは世界中で作られている。古くから伝わる製法を取っているところもあれば、新しいビールの形を今まさに模索しているところもある。技術の発達で作られなくなってしまったビールもある。全部なんて飲めるわけがない。こんなにも好きなのに、全てを愛することができないなんて。悲しい。愚かだった。今まで飲んだハイボールが脳裏をよぎった。けどハイボールは悪くなかった。私が愚かだっただけでした。でもそんな自分がすき。もう止められない。私はこの気持ちを胸にさらにビールを飲み続けることしかできないのです。たとえ全てを知ることができなくても、理解をし続ける事が愛情の表現になると思うから。
おわりに
という出来事が起きたのは2023年の3月でした。5ヶ月後にあたる執筆時2023年8月現在、私が飲んだビールの種類は85種類。今年中にひとまず100種類と思っていましたが、まぁまぁ良いペースで飲めています。とにかく種類を飲みたいので同じビールは2度飲まないようにしています。が、それを破ってまで飲んでしまうお気に入りビールにも出会えました。好きな傾向を掴めたので、あとは貪り飲むだけです。あとなぜかビールを貰うことが増えました。旅行のお土産とかで。気の利く友人達ありがとう。この世の中にあるビールを思うがまま手に入るまま、味わって理解を深めていく作業。これが私の人生で、私の気持ちです。今後とも宜しくお願い致します。
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geniusbeach · 1 year
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襤褸日記
 眠剤が効き始めるまで書く。毎日毎日、社会と距離を取り続けている鬱屈した俺の前に立ちはだかる難問「これからいったいどうすればいいんだ…‥」を、とりあえず壁から引き剥がして踏んづけて台所にまでいくところから、朝の日課は始まる。ところどころに顔を覗かせる情けなさは都度蹴散らしていく。まずは水道水をガブ飲みする。実家の蛇口から出るそれよりもうまいのでゴクゴク飲めてしまう。時計を見ると14時半だ、ド平日の。作り置きのカルボナーラをチンして卵そぼろのボソボソ麺に変える。食事中は、最初のひとくちに付いてくる味の確認をしたら、以降は無だ。気休めにアングラなラップを聞くこともあるが、それで食うのが早くなるとかはない。茶を二杯立て続けに飲み、煙草を吸う。洗い物は、気力のある俺が後でやってくれるので放っておく。換気扇の下で煙を吐き散らかし、コーラで薬を飲む。一錠、二錠、三錠……たぶん六錠。灰皿がパンパンだがこれも限界が来た俺が後で片付けるので、ほとんどない隙間に吸い殻をぶっ���しておく。用を足して身だしなみを整え—坊主なので整えるもなにもないが—、俺は意気揚々と行きつけの喫茶店へと徒歩で「出勤」する。春うらら黄砂にやられて喉砂漠、であるが、春の風にさざ波を立てる鴨川は光に満ちて美しい。そこらじゅうで人々が寝そべっている。余暇だ。しかし俺にとっては永遠の。誰かに知られなくとも、勉強と創作だけを続けていたい。この猶予期間に果たして何かしらの解決策が事故のように飛び出てくるだろうか。喫茶店は薄暗く、煙草臭い。マスターが、今日も来たんかというような顔で俺を一瞥する。俺は四人席にどっかりと腰を据え、アイスコーヒーを注文する。ここのコーヒーは濃くて苦いんや。なんぼ濃いのが好き言うても、煙草とダブルで喉にクるからなぁ。というわけで本日もシロップ多めである。いっちょまえにマックブックなぞを開いて業務に取り掛かる。具体詩、コラージュ、アセミック・アート、またはそれらに関する情報収集。時おり詩が浮かぶこともあるので、そんな時は携帯にメモする。俺の詩とはいったいなんぞや。いつも真心から書いているが、それは人類の忘れた遊び? ネガティヴな吐露? 預言? そんなものを意識して書けた試しがない。ただ考えながら書いている。文字に同化している。そこに少しのレトリックとタバスコをかける。すると何かができている。ふう。煙草を吸う。しかし現代詩とはなんぞや。いまだによくわかっていないし、俺には民の詩しか書けない。それは「現代詩」からすれば「現代」的ではないということなのだろう。ややこしい、なんでもええわい。時々、喫茶店には友人がやってくる。おう! 頑張ってな! 彼は大学生だ。一方こちらは30歳丸坊主。くう、痺れる。電気風呂で痛すぎて立てなくなった時を思い出す。そんなこんなで今日は具体詩のインスピレーションを探る。白いページに黒い文字、白いページに黒い文字、白いページに……。誰も見たことがない画面を作り上げたい。とはいえおこがましい話である。人間が考える物事は他の人間も考えているというのに。基礎をひたすら固めていけば、僅かな突破口が見えてくる。そういうもんなんちゃうん、知らんけど? ふう。煙草を吸う。他の客の声に耳を傾ける。他愛ないおしゃべりのリボルバー。声がでかいおっさんの話が聞こえてくると、なんだかYoutubeの粗悪な広告を見せられているような気分になる。さて、黒いページに白い文字…おっと違った。具体詩はあくまで文学の延長上にあるという意識から、一般的な本の体裁を土台にしなければならない。フォント、グリッド、行間云々。そろそろ飽きてきた。本でも読むか。いやそんな気力もねぇしもう帰るか。コーヒーチケットで支払いを済ませ、雨の中をとぼとぼ歩く。こういう時、無防備な背中に過去は襲いかかってくる。俺は何をしてるんだろうか。何をすべきなんだろうか。皆目わからない。などと念仏のように繰り返す。法然はん、これでほんまに救われるんですか? 日没直後の街の紺青には懺悔を強いられるような気分になる。そうして家に帰り着いた時にようやく何も得られなかったことに気づいて、夢でも見ようかとソファでうたた寝するのである。テーブルでは、食べ残しのカルボナーラが冷えて固まっている。
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katakurico894-blog · 1 year
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サブストーリーEX:おしるこの呪い?
寒さが厳しくなって来たにもかかわらず、相変わらず蒼天堀はギラギラとしたネオンの下を行き交う人の熱で活気付いていて、札ビラと欲望が渦巻いている。 その中で、タキシードを纏い、長髪を後ろで括った隻眼の男が自販機を呆然と見つめていた。
「な、なんでや……」
真島吾朗は自販機の前で力無く膝をついた。取り出し口には三本の「おしるこ」が鎮座している。
「何でどれ押しても……おしるこなんや……��
【サブストーリーEX おしるこの呪い?】
昨日の事である。 真島が支配人を勤めるキャバクラ、サンシャインの営業を終え、疲れた体を引きずって帰路についていた時、良からぬ輩に絡まれていた赤いパーカーの小柄な女を見てしまった。 仕方なく、いつもの様に『説得』して助けようとした所だったが予想外の事態が起きたのだ。
「アンタ、さゆりって髪の長い女と付き合ってた?目元にほくろがある?」
小柄な女が、金髪のチンピラに向かって言い放った。金髪が明らかに狼狽し出す。
「な、何ゆうて……」 「その女、アンタの事ようさん恨んでんで。たまに首絞められる夢とか見るやろ」 「えっ……!? な、何でそれ……」 「なんなんやこの女……」
(なんや、けったいな嬢ちゃんやなぁ。おもろそ…いやなんかあれば助っ人したるか)
もう一人のグラサンのチンピラが薄気味悪そうに女を見た。真島も思わぬ展開に興味深げに見守る。
「あと、アンタ最近お婆ちゃん亡くなってるやろ。隣にいるお婆ちゃんが『爺さんの仏壇の引き出しにな、お年玉入れとるんや。トシくんにあげるよう入れといたんやけど間に合わへんでごめんなぁ』って言うとるよ」
女がグラサンに気怠そうに言ってやると、いきなりグラサンが肩を震わせて泣き出し始めた。
「うっ…うぅ…ばあちゃん……悪い…俺、帰るわ…」
グラサンが泣きながら立ち去る。 金髪が呆然と女を見る。
「あの……あ、僕、どうしたらいいですかね……」
女はニヤリと笑ってパーカーのポケットから数枚のお札を取り出して言った。
「一枚一万でええで」
チンピラがいなくなった後、真島は女に声をかけた。
「嬢ちゃん、商売上手やなぁ」
女が顔を上げた。整ってはいるが睨み上げるような三白眼の眼光に思わず真島も鼻白む。
「なんや……アンタも……うわ、兄ちゃんエグいやつ憑いとるやん」 「えっ」
思わぬ言葉に、間の抜けた声が真島の口から溢れ出た。 女はそんな真島など意にも介さず、ポケットから数枚のお札を出すと、ずい、と真島に向けて突き出した。
「今回は初回特別サービスや。この札、兄ちゃんの部屋、あー……刑務所みたいな部屋やな。丑寅の方、川に面した方向に窓あるな。そこと玄関に貼っとき」
全くの初対面にもかかわらず、見ず知らずの女に己の部屋の間取りを言い当てられてぎょっとした。
「じょ、嬢ちゃん、何で俺の部屋の間取り分かんねん……」 「うっさいな。わかるもんは分かるんや。年季が違うんや年季がな」 「何の年季やねん」 「兄ちゃん、ずっと碌に寝れてへんやろ。それ貼っておけばちーっとは夢見もようなると思うわ。ま、あんじょうやりや。ああ、あと……」
何枚かの札を押し付け、女はさっさと立ち去ってしまった。呆然と女の立ち去った方を眺めていたが、吹き荒ぶ冬の夜風にぶるりと身体を震わせて我に返った。
「何やったんや……はぁ、あったかいもんでも買うて帰るか……」
なんだかどっと疲れたと、すぐそばの自販機でコーヒーを買おうと100円を入れ、ボタンを押した。
ガコン!
「な、なんやて……?」
取り出し口から出てきた缶を見て思わず眼を見開いた。
【おしるこ を手に入れた】
「いや、疲れとるんやな。ボタン間違うなんて疲れとるに決まっとるわ」
言い訳のように笑いながらもう一度硬貨を入れ、コーヒーのボタンを押した。 ガコン、という音がしたと同時に素早くそれを取る。
「なんでやねん!!!!」
【おしるこ を手に入れた】
二本目のおしるこの缶を握りながら叫んだ。酔っ払いに「うるせえぞ!」と叫ばれてイラっとしたがそれどころではない。
「じゃ、じゃあこっちは……?」
三回目の正直。今度は清涼飲料水のボタンを押した。
【冷たいおしるこ を手に入れた】
「ふっざけんなや!!!!」
真島の怒りの咆哮が、夜の蒼天堀に響き渡った。
「おはようございまーす。うわ、真島さん、なんか……負のオーラが漂ってません?」
翌日。サンシャインにて出勤してきたユキに開口一番そう言われて、真島はどよんとした目で彼女を見た。
「なんやねんそれ……いや、確かにそうかもしれんな……」
おしるこ騒動から今まで本当に散々だった。 アパートから出た瞬間に階段を踏み抜いて下に落ちる、気が立ったカラスに髪を抜かれる、散歩中の大型犬に後ろから飛び掛かられて顔面を強かに打つ、喧嘩を吹っ掛けられるのは日常だが、橋から蹴り落としたチンピラに袖を掴まれて一緒に川に落ちるといった不運が立て続けに起きたのである。因みに自販機で買ったドリンクは全ておしるこであった。 真島から呪詛のようにその経緯を聞かされたユキと陽田は同情の目を向けた。
「何ですかその100年に一度の厄年みたいな不運……こわっ……塩でも撒きましょうか!? 丁度いっぱい買ってあるので!」
ユキがキッチンから粗塩の袋(5キロ)を持ってきながら言った。
「待ってユキちゃんその量だと土俵入りの力士になってまうやろ。やめてや! 塩を持つな!」 「真島さん、それはお祓いとかした方がいいんじゃないでしょうか……」
陽田が気の毒そうに真島を見る。
「陽田ちゃん……陽田ちゃんだけやで俺の事に親身になってくれるんは……うっうっ」 「ちょっと!!!私だって真島さんの不幸をどうにかしたいと思ってますよ!!!粗塩パワーでお祓いしましょう!」 「だから!!力士みたいに構えんなや!!……あ、そういえば何か貰うたわ」
真島が思い出したとばかりにポケットからくしゃくしゃになったお札を出した。
「うわ、何ですかそれ」 「うわとか言うなやユキちゃん。何や道端でトラブルになっとった嬢ちゃんから貰うたんやが、これを部屋のうしとら?の方に貼れとか言われてな……」 「うしとら……北東ですかね」
陽田の言葉に、真島が意外そうに眼を見開いた。
「何や陽田ちゃん、詳しいな」 「私もお客さんの受け売りですけどね。昔は干支で方位を示していたらしいですよ。丑寅というのは昔から鬼門、鬼や悪い物の通り道なんだそうです。その方、かなり知識があるみたいですね。それにこのお札、ちゃんと手書きですよ。今は印刷とかなのに」 「ほーん。じゃあ帰ったら貼ってみるかのう」 「真島さん、やっぱり塩もやった方がいいんじゃないですかね!?」 「塩はもうええわ!!!!」
やはりトラブル続きだった営業を終え、いつもの五倍くらい疲れた身体を引きずって帰路につく。
「ユキちゃん……まさか3連チャンで客に頭からフルーツ盛りぶっかけるとかありえへんやろ……これが、呪いなんか……」
よろよろと部屋のドアに手を掛ける。ドアノブを回して扉を開いた。 消したはずの灯りが点いている事より、ちゃぶ台の前に座る影に、真島はびくりと身体を震わせた。
「よう。遅かったな。真島ちゃん」 「ぎゃあ!!! 呪いや!!!」
今一番会いたくなかったピンストライプのベージュのスーツの男を見て、真島は情けない悲鳴を上げた。
「だっはははははは! あの泣く子も黙る真島吾朗があっはははははは!」
グランドのオーナーであり今の自分の飼い主、佐川の爆笑が狭い部屋に響く。真島は苦々し気にそれを見ていた。 佐川は手下に買いに行かせたらしい缶ビールをやりながら、腹を抱えてまだ笑っている。 真島は憮然とした顔でちゃぶ台のビニールからはみ出したビールを手に取り、勢いよくプルタブを開けた。
「ぶわ!!!」
その瞬間、まるでシャンパンのように勢いよくビールは噴出し、真島の顔面に直撃した。 それを見て更に佐川が笑い出す。 顔面をビールまみれにしながら、真島は己の飼い主をジト目で睨み付けた。 そういえば、こんなに笑っている佐川を見たのは初めてだ。と心の片隅で思ったが、絶対に顔に出してやるものかと盛大に顔をしかめた。
「まあまあ、今日は人生の厄年がいっぺんに来ちまったみたいな真島ちゃんを労ってやろうと思ってたんだぜ?」 「ああ?」 「俺が知らないとでも思ってんの?  階段踏み抜いて落ちるわ、カラスに襲われるわ、チンピラと川に落っこちるわ、大量のおしるこ持って途方に暮れてるわ……ぷっ、くくく」 「うっさいわ……しゃーないやろ。何だかようわからんが何か憑いとるのかもしれんな」
噴き出して半分になってしまったビールを一気に呷る。今日は特に疲れているからかアルコールの周りも良すぎる気がした。酷く眠たい。 今日は早々に酔って寝てしまおうと、真島はそう判断した。寝てしまえばこの招かれざる客も勝手に帰るだろう。 もう一本の缶ビールを開けて勢いよく飲み干す真島を見ながら、佐川は煙草をジャケットから取り出し、吸い始めた。
「はっ。まあ こんな稼業だ。中には験を担ぐ兄貴たちもいるが、今更どうこうしたってどうせ地獄に落ちるのによ」
お前だってそうだろ?と言うように、卓に頬杖をついて虚ろな表情でこちらを見る真島に、佐川は紫煙を吹きかけた。
「佐川はん、アンタなにがいいたいんや……?」
睡魔と酔いで呂律が回っていない真島は、ひどく幼く、危うげだった。 ぼんやりとタバコを吸い続ける飼い主の横顔を見つめる。あらゆる荒事を経験してきただろうに、いつも飄々と、泰然自若としているこの男が大嫌いだった。 世の中の酸いも甘いも噛分けたような顔を装ってはいるが、自分は佐川の半分も生きていない小僧なのだと、何度も思い知らされているのだ。 卓に突っ伏したまま、目を閉じた。いい加減睡魔も限界だった。
「なあ、真島ちゃん」
ひやりとした掌が、額に当てられた。
「お前も馬鹿だなぁ。あの時、兄弟の言う事さえ聞いてれば、こんな檻に入れられずに済んだのにな」
うっさいわ。ボケ。俺には冴島の兄弟しかおらんのや。
「穴倉にぶち込まれて、カタギに堕とされて俺に飼われてまで極道に戻りたいとかさ。本当に馬鹿だねぇ」
……。
「まあ、俺もお前も同じだよ。行きつく先はどうせ地獄だ。先の事なんざ分からねえ」
なんや、今日はお喋りやなぁさがわはん……。
「ふん、お前が先に死んだら死に顔見て笑ってやるよ」
相変わらずやな……逆やったら俺かて同じに笑ったるわ……。
「バァカ。俺は死んでもお前なんかに死に顔は見せてやらねぇよ」
——けどな。
そして、真島の意識はふ��りと途切れた。
ひんやりとした冬の空気に否応なく意識が浮上した。 卓に突っ伏してそのままの体勢で眠っていたようだ。変な体勢で寝たせいか体中がぎしぎしと痛んだ。 辺りを見回すと相変わらず生活感のない殺風景な部屋がそこにあった。 ビールの空き缶が数本周りに転がっている。 そういえば、昨夜佐川が部屋に来ていて、一緒にビールを飲んだ事を思い出し、顔をしかめる。
「ん……? 何やこれ」
ちゃぶ台の下に何かがあった。白い紙きれのような物。 手を伸ばしてそれを取る。
「うわ、何やこれ……」
昨日あの変わった女から貰ったお札の一枚が、焼け焦げて無惨な状態になっていた。 ぞっとしながら、指でつまんでそれを捨てる。 時計を見れば、もう家を出る時間が過ぎようとしていた。
「はぁ、仕事行くか。今日はグランドに顔出さなあかんしな」
鉛のように重い足取りで、真島はアパートを出た。
「よう真島ちゃん。久しぶり」
事務所の扉を開けると、変わらぬ飄々とした口ぶりで、来客用の椅子に座る佐川の姿があった。
「昨日の夜も来たやろ。何で何回もアンタの顔見なあかんねん」
げんなりとしながら言うと、佐川が訝し気な表情でこちらを見た。
「ああ? 何言ってんだ? 俺、三日前からシノギで都内に行ってたんだけど。お前にも伝えといただろ」 「はぁ? せやけど昨日の夜……」
『真島ちゃん、���日から三日ほど蒼天堀空けるけど、悪さすんなよ?』
目の回るような忙しさの中、オーナーから掛かって来た電話。 確かにそう言われたのを思い出した。
「え、ええ~……ちょ、待って、じゃああれは……」
ざあ、と血の気が引くように青褪めた真島に、佐川が首を傾げた。
「何だよ。幽霊でも見たみたいな顔してよ」 「……幽霊や……」 「あ?」
何が何だか分からず、苛ついた表情でこちらを睨みつける飼い主の機嫌を取る事など今の真島には考えられなかった。 あの時、去り際にあの女は真島を見てこう言った。
——あんたに憑いてるそれ、生霊や。えらい兄ちゃんに執着しとるで。
茫然と突っ立っている真島の前に、いい加減堪忍袋の緒も切れそうだった佐川が近づき、いきなり鳩尾に膝蹴りを叩きこんだ。
「げほっ!」
たまらず膝を付く真島を冷ややかに見下ろす眼光は、もはや飄々とした謎の紳士ではなく、冷徹で残酷な極道者の光を放っていた。
「何ワケの分からねえ事をごちゃごちゃほざいてんだよ。ったく。ちったあ使えるようになったかと思えば俺がいないだけですぐ駄犬になっちまう」
煙草に火を点ける佐川を見上げる。今や嗅ぎ慣れてしまった香りが部屋に広がって、真島は思わず低く笑った。
「あ? 何笑ってんの真島ちゃん」 「あんたの……」
あ?と佐川の表情に険が宿る。
「あんたの、幽霊に会うたんや」
——けどな。万が一俺が先に死んだら。 ——お前がどんなクソみてえな死に方するのか見届けてやるよ。地獄の淵でな。
その日の終わり、真島が部屋にしっかりと残りのお札を貼ると、ぴたりと不幸は起こらなくなった。 が、翌日サンシャインに出勤した瞬間に、ユキ達に大量の塩をぶつけられたのはまた別の話である。
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