Tumgik
#立花登青春手控え
millennium-bright · 7 months
Text
Tumblr media
平 祐奈  たいら ゆうな
7 notes · View notes
kozuemori · 2 months
Text
Tumblr media Tumblr media
126年間で最も暑い7月を記録した今年の夏。全国の平均気温が過去最高だそうで、今日も「暑い時間帯の不要不急の外出は控えて」という熱中症警戒アラートが北海道の一部を除く全国に向けて出されています。どうぞ、水分をこまめに摂るなど十分に気をつけてお過ごしください。
コロナ禍で家に篭る術を会得しているので、夏休みの課題よろしくポリマー粘土で色々作っています。まずは簡単なモノから始めて少しずつ難易度の高いモノに挑戦中。ヒンドゥー教の神々は結構楽しんで作れたのですが、前回このブログで紹介したオリンピック版ヴィーナス像に触発された、題して『平和のヴィーナス』は何度も挫折しそうになりました。両腕のないビーナス像を見慣れているせいか、バランスを取るのがとっても難しかったです。積読している本もたくさんあるので、来週は読書三昧となりそうです。
読書といえば、最近は夏休みの宿題や課題、通知表がない小学校もあるそうですが、読書感想文もないということでしょうか。田舎に住んでいた頃の私の夏休みの思い出といえば急流遊びや木登りなどのワイルド系でしたが、最近は危険だということで遊泳禁止になっている海や川が増えてきているようです。ある小学校の先生は繰り返し漢字を書く宿題に意味を見出すことができないとコメントしています。パソコンの導入で文字を書くということ自体も減っているようです。どうやら、子どもの頃に過ごした夏休みの風景は消えつつあるようです。
パリオリンピックも半分が過ぎました。開会セレモニーの一部演出をめぐり保守層から「宗教の冒涜」だとして非難の声が上がっていますが、その演出の中で青い半裸のギリシャ神話の酒の神、ディオニソスを演じていたおじさんはミュージシャンのフィリップ・カトリーヌさんです。その昔、フランスかぶれだった私はフレンチポップを手当たり次第に聴いていて、その頃出会ったカトリーヌの楽曲も好きでよく聴いていました。いつかパリに友人と行った時、せっかくだからナイトライフも楽しもうと情���誌をチェックしていたら、大好きなピエール・エ・ジルのイラストがフィーチャーされたお店の広告を発見。そこにはフレンドリー、ウェルカム、アート、カトリーヌ、ジャン・ギドニ、ジャック・モラリなどの素敵な単語も並んでいました。メトロを最寄駅で降りて友人と3人で現地に向かっていると、後ろから英語で「〇〇ってお店、知ってる?」と国籍不明の女子2人組が声をかけてきたので、「私たちもそこに向かっているところ!地図によるとあそこだと思う」と答えながら一緒に歩いていると、それらしきお店が。中に入ってしばらくすると、何かがちょっと違う…パリとはいえ周りはオシャレすぎる男の子だらけだし、男子カップルもちらほら。そこはゲイ御用達のお店だったのです。でもせっかくだし、みんなフレンドリーで選曲もいいし…ま、いいか、と女子5人でパリの夜を楽しんだのでした。
オリンピック開会式で突如そんなことを思い出させてくれたカトリーヌの素敵な新曲を紹介します。ヘタですが和訳もつけてみました。
youtube
Nu Est-ce qu’il y aurait des guerres si on était resté tout nu ? Non Où cacher un revolver quand on est tout nu ? Où ? Je sais où vous pensez Mais C’est pas une bonne idée Ouais…
Plus de riches plus de pauvres quand on redevient tout nu Oui Qu’on soit slim, qu’on soit gros, on est tout simplement tout nu Oui ? Vivons comme on est né
Nu Vivons comme on est né
Nuuuuuuuu, tout simplement tout nu Nuuuuuuuu, tout simplement tout nu
Comme le sont les animaux, qui n’en font jamais trop, ils voient qu’on ressemble trop à des singes sous des manteaux des pélicans avec des chapeaux. Nul !
Tout simplement tout nul. Restons nus Tout simplement tout nu.
Il n’y aurait pas eu des guerres si on était resté tout nu Non On est tous sœurs et frères quand on est tout nu ? Mmmmh…
Vivons comme on est né Nu Vivons comme on est né
Nuuuuuuuu, tout simplement tout nu Nuuuuuuuu, tout simplement tout nu Tout simplement tout nu Tout simplement tout nu Tout simplement tout nu Tout simplement tout nu
裸 もし私たちが裸のままでいたら、戦争は起きただろうか? No 裸ならどこに銃を隠せる? どこに? あなたが考えていることはわかる でも、いい考えとは思えない そうだな…
裸になれば、金持ちも貧乏人もいなくなる そうだ 痩せていようが太っていようが、ただの裸だから Yes 生まれたままの姿で生きよう
裸で 生まれたままの姿で生きよう
裸で、ただ裸で 裸で、ただ裸で 決してやりすぎない動物のように
動物は知っている 私たちがコートを着たサルや 帽子をかぶったペリカンにそっくりだってこと 最悪!
ただ単に、最悪 裸でいよう ただ単に、裸で
裸でいれば戦争は起きなかった そう 裸になればみんな兄弟姉妹? うーん…
生まれたままの姿で生きよう 裸で 生まれたままの姿で生きよう
裸で、ただ裸で 裸で 裸で 裸で 裸で 裸で
Tumblr media
Spirit of Wonder 〜シックスセンスと六大要素〜
8月24日(土)10:00~17:00(1時間のお昼休憩あり)
8月26日(月)10:00~17:00(1時間のお昼休憩あり)
料金:1回 8,000円(アイイス会員・税込)・10,000円(非会員・税込)
どなたでもご参加いただけます
最少催行人数:3名
私たちの周りにある五大要素ともう一つの元素、そしてそれらと自分自身の中にある五感と直感との関連について学びます。あなたの外側と内側にあるエネルギーについて理解を深め、その学びを日常生活において実践し、継続しながら、さらなる霊性開花を目指す6時間ワークショップです。レクチャーやゲーム感覚で楽しめる実習やカルマの法や輪廻思想などの哲学を通した内観を通して、ご自身の中にある光をさらに見出していただきたいと思います。
あなたの中に潜在する能力を探り、知り、育み、五感や直感の中で特化した感覚をさらに伸ばして磨き上げましょう。そして同時に自分の苦手分野を知り、それを伸ばす方法も試してみましょう。
私たち全員が生まれついた時点で履修する、人生においてずっと学び続けることのできる共通のカリキュラムが霊性開花です。それは私たちが永遠の可能性を秘めていること、大いなる存在に近づき、さらに明るい光になること教えてくれます。けれど、霊性開花は1人だけでは学べません。あなたの霊性を導いているスピリットの介在、その指導や協力があってこそ、あなたの魂は磨かれ、輝くことができます。スピリットとのコミュニケーションに欠かせないのが自分の感覚を伸ばし、育むことです。このワークショップでは五感や直感、インスピレーションやアイデアのアンテナをさらに伸ばしながら、霊であり光である本来の自分に出会っていただくお手伝いをしたいと思います。
レクチャー内容
 ・五大要素と最初の元素
 ・シックスセンスと直感
 ・大宇宙と小宇宙
 ・チャクラとオーラ
 ・聖なるマトリックス
 ・ミディアムシップにおける六大要素 
実習
 ・シッティング・イン・ザ・パワー 
 ・六大要素を感じ、活かす
 ・マトリックス内観
 ・直感と指導霊により深く繋がるための各実習
 このワークショップは以下のような方に向いています
 ・六大要素への理解を深めたい
 ・直感の練習、経験をしてみたい
 ・人体とオーラ、チャクラ、元素、世界との関連を知りたい
 ・指導霊との繋がりを深めたい
 ・本当の自分の人生の目的を探りたい
 ・自分自身の可能性や能力を探りたい
 ・霊性開花を通して人の役に立ちたい、社会に貢献したい
このワークショップは、2019年夏イベントで開催した同タイトルのワークショップを一部変更し、内容を加えたりアレンジしてアップデートしています。
詳細・お申し込みはこちらからどうぞ。
ショップからも直接お申し込みいただけます。
・・・・・
秋学期クラスへのお申し込みを受付中です。クラスの詳細とラインナップはサイトとショップからご覧いただけます。(アイイスのサイトでも告知されています)
Tumblr media
秋学期は春に種を蒔き、夏に大切に育てた果実を収穫する季節です。十分に栄養が行き渡った今年の霊性開花の学びの成果を皆で味わいながら共に分かち合いましょう。皆さま��ご参加をお待ちしています!
・・・・・・・・・・
アウェアネス・ベーシック前期 Zoomクラス 
土曜日:19:00~21:00 (後期も土曜日・同じ時間に開催) 日程:9/7、9/21、10/5、10/19、11/2
・・・
アウェアネス・ベーシック後期 Zoomクラス   
火曜日:10:00~12:00 日程:9/3、9/17、10/1、10/15、10/29
・・・
アウェアネス・ベーシック通信クラス
開催日程:全6回 お申し込み締め切り:9/15
・・・
アウェアネス・オールレベルZoomクラス
火曜日:19:00~21:00  日程:9/10、9/24、10/8、10/22、11/5
木曜日:10:00〜12:00 日程:9/5、9/19、10/3、10/17、10/31
・・・
アウェアネス・マスターZoom クラス
火曜日:19:00〜21:00 日程:9/3、9/17、10/1、10/15、10/29
金曜日:19:00〜21:00 日程:9/13、9/27、10/11、10/25、11/8
・・・
サイキックアートZoomクラス
日曜日:17:00~19:00  日程:9/8、9/22、10/6、10/20、11/3 水曜日:16:00~18:00  日程:9/11、9/25、10/9、10/23、11/6
・・・
インナージャーニー 〜瞑想と内観〜 Zoomクラス  
月曜日:16:00~17:00   日程:9/16、9/30、10/14、10/28、11/11
土曜日:10:00~11:00 日程:9/7、9/21、10/5、10/19、11/2
・・・
マントラ入門 Zoomクラス  
土曜日:13:00~15:00 日程:9/14、9/28、10/12、10/26、11/9
・・・
トランスZoomクラス
水曜日:10:00~12:00  日程:9/11、9/25、10/9、10/23、11/6
土曜日:19:00~21:00  日程:9/14、9/28、10/12、10/26、11/9
・・・
サンスクリット・般若心経 Zoomクラス 
月曜日:13:00~15:00   日程:9/16、9/30、10/14、10/28、11/11
水曜日:19:00~21:00    日程:9/11、9/25、10/9、10/23、11/6
クラスの詳細はサイトのこちらのページをご覧ください。
継続受講の方は直接ショップからお申し込みください。
・・・・・
サマーフェスティバル&ヒーリングサマーフェスティバル2024
8月11日(日)13:00~16:30
今年のアイイスの夏祭りはタイトルのとおり、「サマーフェスティバル」と「ヒーリングサマーフェスティバル」を同時開催します!皆様は上記2つのフェスティバルに参加でき、この間を行ったり来たりしていただけます。この日は夏の暑い日差しを避けて、アイイスの光の祭典に参加しませんか?私たちが集まると、光の世界の仲間も集まってきます。光は、集まれば集まるほど大きくなり、光の世界も無視できなくなります。私たちの光を大きくして世界中に広げませんか?今、世界は私たちの光を必要としています。アイイスから光を発信しましょう。「サマーフェスティバル」では光の世界から送られる愛と光を受け取り、「ヒーリングサマーフェスティバル」ではたくさんの癒しを受け取り、この夏を乗り切りましょう。ぜひお知り合いやお友達をお誘いの上、ご参加ください。
プログラム、参加ミディアム・ヒーラなどの詳細はこちらから。
当日は以下のリンクよりご参加ください。
サマーフェスティバル用URL
ヒーリングサマーフェスティバル用URL
・・・・・
サンデー・サービス(日曜 12:30〜14:00)詳細はこちらから。
9月29日  担当ミディアム:惠子・森
11月17日 担当ミディアム:松山:森
ご参加は無料ですが、一口500円からの寄付金をお願いしています。
当日は以下のリンクよりご参加ください。
・・・・・
ドロップイン・ナイト 
10月17日(木)19:00〜20:00 会員限定・参加費2,500円
指導霊(スピリット・ガイド)のサイキックアート
詳細とお申し込みはこちらからどうぞ。
過去の開催の様子はこちらからご覧ください。
・・・・・
モーニングワーシップ&コミュニオン(目覚めと祈りと瞑想)
10/27(日)9:00〜10:30  担当ミディアム:開堂・森
ご参加は無料ですが、一口500円からの寄付金をお願いしています。
当日は以下のリンクよりご参加ください。
0 notes
trinityt2j · 4 years
Quote
ダ-ティ・松本 不健全マンガ家歴30年[-α]史 ●はじめに  この文章は同人誌「FUCK OFF!7」において書かれたものをベースにして逐次増補改定を加えていき、いずれ歴史の証言として、[というほど大袈裟なものでは無いが…]一冊の本にまとめたいという意図のもと、近年どんどん脳が劣化していくダ-松の覚え書きとしても使用の予定。事実関係は間違いに気付き次第 訂正。同人誌発表時のものも今回自粛配慮して、実名、エピソード等を削除した箇所有り。有り難い事に某出版社よりすでに出版打診があったがまだまだその時期ではない、マンガを描く事が苦痛になったら活字の方も気分転換にいいかも…。 /*マークは今後書き加える予定のメモと心得たし。 ●前史/修行時代・1970 さいとうプロの短くて濃い日々……  1968年に上京。数カ月後東京は戦場に。熱い季節の始まりだった。 2年後親元を飛び出し友人のアパートに転がり込む。場所は渋谷から井の頭線で駒場東大駅下車、徒歩5分。地図で見ると現在の駒場公園あたり。昼間でも裸電球を付けなければ真っ暗という馬小屋のような部屋。数メートル先には当時の建設大臣の豪邸が…。前を通りかかるだびに警備のおまわりがじろり。  いつまでも友人に迷惑もかけられないのでとりあえずアシスタントでも…と手元にあったマンガ誌をひっくり返し募集を探す。幸いさいとうプロと��山まさみち氏のところでアシ募集があり両方応募。どっちか一つ通れば…と思っていたら何と両方受かってしまい、双方に条件を聞く。当時高円寺 のアパート、風呂無し4畳半の部屋で相場12000円の時代。前者一ケ月の給料10000円、後者20000円との事。給料の方がボロアパートの家賃より安いとは…!どう考えても前者は食う方法がないと判断し、後者さいとうプロへ入社。  ここに居たのはたったの半年に過ぎないけれど今思えばこれだけで本が一冊描ける位の濃い半年だった。しかしこのあと2X年分も書かねばならないことを思えば今回はいくつかのエピソードを書くだけに留めよう。  ダー松が入った時は小池一夫氏[クビ?]、神田たけ志氏や神江里見氏、きしもとのり氏[現・松文館社長]等と入れ替わりの時で、きし氏の女遊びの凄さと神江氏の絵のうまさは伝説になっていた。現在「亀有」「ゴルゴ」が歴代単行本の巻数の多いベスト1、2位だが[ともに100巻を越えた]、3位は神江氏の「弐十手物語」[70巻以上]だという事は知ってる人は少ないだろう。  当時の制作部は、さいとうたかを[以下ゴリ]をトップに石川班[ゴルゴ13、影狩り]、甲良班[バロム1]、竹本班[シュガー、どぶ等]の3つに分かれ、それぞれのキャップにサブ・チーフが一人づついて、ヒラが2~6人いるというシステムで総16名。独立し現在も活躍中の叶精作、小山ゆう、やまさき拓味の3名がそれぞれの班のサブ・チーフ。ダー松は石川班で左右1メートル以内に叶氏とゴリにはさまれ、のんびり出来ない状態で、はなはだ窮屈。叶氏はほとんどマンガ家になりたいとも思った事のなかった人で、設計事務所みたいなところで図面を引いていた人がなぜマンガプロダクションに来たのか不思議だった。格別マンガ好きというわけでもなかったせいか現在まで全ての作品が原作もので、オリジナルは一本もないのはそのせい?祭りなどの人がうじゃうじゃ出てくる群集場面が得意。 やまさき氏は大の競馬好き、現在競馬マンガを多く描くのは当時からの趣味が生きたというべきか。もう一つの趣味である風俗についてはここでは書くのは差し控えよう。小山氏は後日ここの事務の女性と結婚するが、当時はつき合っているとは誰も知らず、スタッフの一人がやめる時その女性に交際を申し込んだら、茶店に呼び出されて小山氏からと凄まれたと聞いたが嘘か本当かは不明。  ここでの生活は新入り[ダー松を含めて3名]は朝の9時前に会社に行き、タイムカードを押し、前日のごみをひとまとめして外に出し、トイレ掃除をして、16人分のお茶を2Fで入れて制作部のある3Fへの狭い階段をふらふら昇り、机ごとに置いて歩き、終れば、一息ついて買っておいたパンと牛乳を3分で食べて、やっとそれから仕事。しかし新入りの3名の内1人折茂は常に遅刻なのでいつも佐藤と2人でやっていた。佐藤も遅れる時はダー松1人で。辞めてから10年位、16人分のお茶を持って階段をふらふら歩きお盆をひっくり返す夢をよく見たものだが、実際ひっくり返したのは折茂と佐藤の2人で、よく茶碗を割っていた。 たまには夕方6時には帰れるが、普通は夜10時までで、アパートに帰って銭湯に行けばもう明日にそなえて寝る時刻、このくり返しの日々。週1日は徹夜で明け方に帰り、その時は当日の昼12時出勤。休日は日曜日のみで忙しい時はそれも取り消し。つまり休みは月3日。[これで給料2万円!]そんな日々の繰り返し。  夕方までは皆和気あいあいと仕事していたが、ゴリが夕方6時頃に「おはようさん」と現れると、全員無駄口がたたけなくなり、仕事場はシーンと静まり返り、以下その日が終わるまでは疲れる時間がただひたすら流れるのみ。 当時石川班は「ゴルゴ13」と「影狩り」を描いていたがゴリは主人公の顔と擬音のみ。マジックで最後に入れる擬音はさすがに入れる位置がうまいと感心。ゴルゴの顔はアルバムに大小取り混ぜてコピーがとってあり、忙しい時は叶氏がピンセットで身体に合わせて「これが合うかな~」といった感じで貼り付けていた。  その頃すでに「ゴルゴ」は近々終わると噂されていたが、現在もまだ続いているとは感嘆ものだ。 ゴリと石川氏が「ゴルゴ」の最終回の終わり方を話しているのを聞いたら、何ともつまらない終わり方。しかしあれから20年以上も経つ事だし、きっともっといい終わり方を考えてあるだろうなと思っていたら、先日TVで本人が最初から考えてある終わり方だと言うのを聞き、がっくり。企業秘密だろうから書かないが、作品の最初の方に伏線が数度出ているのでわかる人にはすぐわかる筈。  辞めた小池一夫氏とさいとうプロに何があったかは知らないが、漏れ聞く話では結構もめ事があったみたいだ。 「子連れ狼」で「ゴルゴ13」と同じ設定の回があった時、「小池のガキャー訴えたるー!」とゴリが吠えていたものだが、結局たち消え。さいとうプロ作品で脚本を書いた本人が辞めた後、他の作品で同趣向の作品を書いても著作権は脚本を書いた原作者のものだと思うがどんなものだろう。その回のタイトルは忘れたが、ある場所に居合わせた人々が武器を持った集団の人質となり、その中に素人だと思われていた主人公、実は殺しのプロフェッショナルがいて、次々とその集団を殺していく、といったプロットで、ミッキー・スピレーンの短編に同じような作品があり、本当に訴えていたら恥をかいたと思うが・・・。  そういえば事務の方には山本又一郎という男がいたが、後年映画プロデューサーとして 「ベル薔薇」や「太陽を盗んだ男」等を創る事になるが、この野郎が生意気な男で当時皆に対して10歳は年上、といった感じの振る舞いだったが後日俺と一つしか年が離れてなかった事を知り、そんな若造だったとは、と皆怒ったものだ。以来奴の事を「マタさん」から「クソマタ」と呼ぶようになる。  さて半年後に先輩たちが積もり積もった不満を爆発させる反乱事件が勃発し、2年は居るつもりでいたここでの生活も、辞めるか残るかの選択を迫られる。残ればさいとうプロの現体制を認める事となるので、ダー松も退社。 しかし反乱グループとは別行動をとって一人だけの肉体労働のアルバイター生活へ突入。超ヘビーな労働の製氷工場、人使いの荒い印刷所、命綱もない高所の足場で働く建設現場等々。トラックの助手をしていた時は運ちゃんが「本宮ひろしって知ってるか?うちの息子の友達でさぁ、昔、おっちゃんメシ食わしてくれーなんて言ってきたもんだが、今は偉くなっちゃってさー、自分のビル建てたらしいよ。赤木圭一郎みたいにいい男なんだ。」とうれしそうに話してくれたが、運ちゃんには悪いがそいつは今も昔も一番嫌いなマンガ家なんだ。あの権力志向はどうにかならんか。天下を取る話ばかりだもんなぁ。  ところで後日、単行本の解説で高取英が「さいとうたかをのヤローぶっ殺してやる!」とダー松が言ったなどと書いているが、小生はそんな危ない事言った覚えはないのでここできっちり訂正しておきます。 「会社に火ィつけてやる!」位は言ったかも・・・[嘘] 。 悪口は言っても別に怨みなど無い。ところでアシスタントとしてのダー松は無遅刻、無欠勤以外は無能なアシだったと反省しきり。理想的なアシスタントとはどんなものか、それはまた別の機会に。 *入社試験はどんな事を? *さいとうプロには当時ほとんどろくな資料は無かった? *ハイジャックの回の飛行機内部の絵は、映画「大空港」を社内カメラマンが映画館で写してきたものをもとに描く。 *当時のトーンは印刷が裏面にしてあり上からカッターでけずったり出来ない。 *トーンの種類は網トーンが数種、それ以外はほんの3、4種類位しかなかった。 *仕事中のB.G.M.はアシの一人が加山雄三ばかりかけるので大ひんしゅく。好評だったのは広沢虎造の浪曲「次郎長三国志」、初代桂春団次の落語。眠気もふっとぶ位笑えた。 ダ-松が岡林信康の「見る前に跳べ」をかけてるとゴリは「何じゃー!この歌は!」と怒る。名曲「私たちの望むものは」はこの男には理解不能。 ●1 9 7 1 ~ 1 9 7 4  持 ち 込 み & 実 話 雑 誌 時 代    当時は青年劇画誌全盛時代で、もともと望月三起也氏や園田光慶氏のファンで活劇志向が強く、 主にアクションもののマンガを描いて持ち込みに行っていた。今のようにマンガ雑誌が溢れかえって、山のようにマンガ出版社がある時代ではなく、数社廻るともう行くところがない、という状態で大手では「ビッグコミック」があっただけで 「モーニング」も「スピリッツ」も「ヤン・ジャン」も当然まだない。テーマを盛り込んだ作品を持って行くと編集から「君ィ、うちは商売でやっているんだからねぇ」と言われ、アクションに徹した作品を持って行くと「君ぃ、ただおもしろいだけじゃあねぇ」と言われ 「おい、おっさん!どっちなんだ?」とむかつく事多し。この辺の事は山のように書く事があるが、有りすぎるのでパス。 *そのうち書く事にする。  ただ金属バットで頭をカチ割って脳みそをぶちまけてやりたいような奴が何人もいたのは事実。今年[’97]「モーニング」に持ち込みに行って、断られた奴が何万回もいやがらせの電話をかけて逮捕された事件があったが、そのうちトカレフを持って殴り込みに行く奴が出てくるとおもしろい。出版社も武装して大銃撃戦だぁ!などと馬鹿な事書いてどうする!とにかく持ち込みにはいい思い出が何もない。そんな中、数本だけ載った作品は渡哲也の映画「無頼」シリーズの人斬り五郎みたいな主人公がドスで斬り合う現代やくざもの[この頃の渡哲也は最高!]、ドン・シーゲルの「殺人者たち」みたいな二人組の殺し屋を主人公にした『汚れたジャングル』、陽水の「傘がない」が好きだという編集さんの出したテーマで車泥棒とブラックパンサーの闘士とのロード・ムービー風『グッバイ・ブラザー』、拳銃セールスマンを主人公にした『ザ・セールスマン』、等々10本ちょい位。  さてその頃並行してまだエロマンガ専門誌といえるようなものがなかったような時代で、実話雑誌という写真と記事ページからなる雑誌に4~10ページ位を雑誌の味付けとして描かせてもらう。当時、お手本になるようなエロマンガなど皆無で、エロ写真雑誌を古本屋で買ってきてからみのポーズを模写。マンガで裸を描く事はほとんど初めてで、これがなかなか難しいのだがエロシーンを描くのは結構楽しい。当時出版社に原稿持って行き帰りにグラフ誌をどっともらって帰るのが楽しみだった。SM雑誌の写真ページも参考になる。なお当時のペンネームは編集部が適当につけた池田達彦、上高地源太[この名前はいけてます。また使いたい]等。その数年後、逆にマンガが主で記事が味付けというエロマンガ誌が続々と創刊される。 *さいとうプロをやめたあと編集や知人に頼まれて数人のマンガ家の所へ手伝いに行く。秋田書店「漫画ホット」で『ジェノサイド』を連載中の峰岸とおる氏の所へ行き、仕事が終わったあとまだ売れてない頃の榊まさる氏も交え酒を飲む/川崎のぼる大先生のところへ数日だけ/3000円たこ部屋/小山ゆうオリオンププロ *当時のアルバイトは記憶によると時給150~200円位/大日本印刷市ヶ谷駐屯地/坂/ *一食100円/どんなに貧しい漫画家もみかん箱の上で書くやつはいない/TV萩原サムデイ *ろくでなし編集者 ●1 9 7 5 ~ エ ロ マ ン  ガ 誌 時 代 に 突 入   実話誌は意外とエロは抑え目で描くように口すっぱく言われていたのだが、以前活劇っぽい作品を描かせてもらってたが潰れてしまった出版社にいた児島さんが編集する「漫画ダイナマイト」で打合せも何にもなしに好きに描かせてもらい、ここでエロマンガ家としての才能[?]が開花する。描いてて実に楽しく眠る時間がもったいない位で、人に睡眠時間が必要な事を恨んだ程。出来る事なら一日中休まず描いていたい気分で完全にはまってしまう。  初の連載作品「屠殺人シリーズ」はこの頃から/『漫画ポポ』。中島史雄氏は大学時代にこの作品を見ていたとの事で、トレンチコートにドクター・ペッパー模様のサイレンサーつきマグナム銃で遊戯人・竜崎一也が犯しまくり殺しまくり、サディスト、マゾヒスト、殺人狂、まともな奴が一人も出てこない性と暴力の祭典。ちなみにタイトルページは描かないでいい、との事でどうするのかと思っていたら編集部が中のワンカットを拡大してタイトルページを創り、1ページぶんの原稿料をけちるというせこいやり方だった。けちるといえば、原稿の1/3にCMを入れる際、原稿料を1/3削った会社もあり。 ●1 9 7 6 ~   後に発禁仲間となる高取英と出逢い、『長編コミック劇場』で「ウルフガイ」みたいのをやろうと、怒りに震えると黒豹に変身してしまう異常体質の主人公を設定し、獣姦のイメージで「性猟鬼」なるエロマンガをスタート!しかしその号で雑誌が潰れる。この路線は今でもいけそうな気がするがどんなものだろう。  この頃の珍品に「快楽痴態公園」がある。タイガースに11-0とワンサイドで打ちまくられ、怒ったジャイアンツファンのおっさんが公園でデート中の女をずこずこに犯りまくり、その間にジャイアンツは9回裏に12-11とゲームをひっくり返してしまうのである!その時のジャイアンツの監督はもちろんミスター長嶋、先発堀内、打者は柴田、土井、高田、王、張本等々がいる。タイガース監督は吉田、ピッチャー江本、キャッチャーフライを落球する田淵、そしてあの川藤もいる。解説は牧野…… ●1 9 7 7 ~   上記2作品を含む初の単行本「肉の奴隷人形」が久保書店より発行。後にリングスの会場で逢った佐竹雅昭氏はこの本が一番好きとの事だった。  「闇の淫虐師」もこの年スタート。一話完結でバレリーナ、バトンガール等々、毎回いろんな女たちをダッチワイフのごとくいたぶりまくるフェチマンガとして1979年まで続け、単行本は「堕天使女王」「裂かれた花嫁」「エロスの狂宴」「陶酔への誘い」「終りなき闇の宴」の全5巻。ちなみに今年「闇の淫虐師’97」を『コミック・ピクシィ』にて発表。いつか『闇の淫虐師・ベスト選集』でも出したいところ。 [’98に実現、’99には続刊が出る] ●1 9 7 8 ~   久保書店より第2弾の単行本「狂った微惑人形」。収録作品の「犯された白鳥」は持ち込み時代に描いた初のバレリーナもの。結構気に入っていた作品なのに、後年再録の際、印刷所の掃除のおばさんが捨ててしまい、この世にもはや存在しない不幸な子となる。[’99に宝島スピード・ブックに本より直接スキャ��して収録]  エロ、グロ、ナンセンスの会心作「恍惚下着専科」を発表。サン出版より同名の単行本発行。また同出版より「コミック・ペット/堕天使画���」として今までの作品を続々単行本化。全10巻位。これは今でも古本屋で流通しているとの事で、まだまだ世間様のお役にたっているらしい。  この年、「堕天使たちの狂宴」を描いていた『漫画エロジェニカ』が発禁処分、来年でもう20年目となる事だし、当時の人たちと集まってその大放談を収録し「発禁20周年特集号」でも創ってみようかと計画中。さて当時の秘話としてもう時効だろうから書いてみるけど、前述の『堕天使画集』に「堕天使たちの狂宴」は収録される事となり、当然修正をガンガン入れて出版されるものと覚悟していたら、米国から帰国後出来上がった本を見ると発禁になった状態のまま再録されている!以下桜木編集長との会話 ダ/いや~、いい度胸してますね。 編/だって修正してあるじゃない。 ダ/その修正状態で発禁になったんですよ 編/・・・・・ ダ/・・・・ 以下どんな会話が続いたのか失念…… それにしてもサドの「悪徳の栄え」の翻訳本は発禁後20年以上して復刻されたけれど、「堕天使たちの狂宴」は半年もしない内に単行本になっていたとはエロ本業界とは何といいかげんな世界!しかし作品そのものは、今見るとリメイクする気にもならないどうという事もない可愛い作品で、結局あれもあの時代の姑息な政治のひとかけらに過ぎなかったのだろう。いい点があるとしたら一つだけ、それまでのエロマンガになかった瞳パッチリの少女マンガ的ヒロインを登場させた事位か。今の美少女エロマンガは本家の少女マンガもかくや!という位眼が大きいが当時としては画期的だったかも。 ●1 9 7 9 ~   この年の「淫花蝶の舞踏」は「堕天使たちの狂宴」よりずっといい/『漫画ソフト』。今年出た「別冊宝島/日本一のマンガを探せ!」でベスト2000のマンガがセレクトされているが、ダー松の作品の中ではこの作品が選ばれている。教師と生徒、二人の女たちが様々な男たちの手によってに次々ともてあそばれ、闇の世界を転々として再び巡り会う時、女たちは蝶と化し水平線の彼方に飛び去り、男たちは殺し合い血の海の中で屍と化す。ダー松作品にはこのように男根が女陰の海に飲み込まれてに負けるパターンが多い。[性狩人、遊戯の森の妖精、美少女たちの宴、人魚のたわむれ・・等々]  この年からスタートの「性狩人たち」シリーズ[劇画悦楽号]はバレエ、バイオレンス、SEXの三要素がうまくからみあい、それぞれが頂点まで達する幸福な神話的作品だ。ここから派生した路線も多く、美少年路線は’83の「聖少女黙示録」へ。身体障害者路線は’80の「遊戯の森の妖精」、’84からの「美姉妹肉煉獄」へと繋がる。’81の最終話「ハルマゲドンの戦い」ではせりふなしで24ページ全てが大殺戮シーンという回もあり、中でも一度やりたかった見開きで銃撃戦の擬音のみという事も実現。こんな事がエロマンガ誌で許される時代だった。ちなみにこの回は[OKコラルの決闘・100周年記念]だが、何の意味もない。単行本は最初サン出版より、その後久保書店より「白鳥の飛翔」「少女飼育篇」「ヘラクレスを撃て!」「眼球愛」「海の女神」の全5刊。現在入手出来るのは後の3刊のみ。[「海の女神」も最近在庫切れ]  この年出た「人魚のたわむれ」の表題作は性器に{たこ}を挿入するカットを見た編集長が「・・・[沈黙]・・・頭おかしいんじゃ・・ブツブツ・・気違い・・・ブツブツ・・・」と呆れてつぶやいていたのを記憶している。たこソーニューは今年出た「夜顔武闘伝」で久しぶりに再現。なおこの作品は’83にマンガと実写を噛み合せたビデオの珍品となる。水中スローモーションファックがなかなかよい。 ●1 9 8 0 ~   なぜか「JUNE」の増刊として作品集「美少女たちの宴」がサン出版より出版され、その短編集をもとに脚本化し日活で映画が創られる事となる。[「花の応援団」を当てたこの映画の企画者・成田氏は日活退社後「桜の園」等を創る。]その際、初めて映画撮影所を見学し、せこいセットがスクリーン上ではきちんとした絵になってるのを見て映画のマジックに感心。タイトルはなぜか「性狩人」で、’96にビデオ化された。監督・池田敏春のデビュー第2作となり現在までコンスタントに作品を発表しているが、出来のいい作品も多いのになぜか代表作がない。初期の「人魚伝説」が一番いいか。  この映画に合わせて「美少女たちの宴」を2~3回のつもりで「漫画ラブラブ」で描き出すがどんどん話がふくらみ、おまけに描いてる出版社が潰れたり、雑誌が潰れたりで雑誌を転々とし条例による警告の嵐がきた「漫画大飯店」を経て、「漫画ハンター」誌上で完結したのは’83になる。この作品でクリトリスを手術してペニスのように巨大化させるという人体改造ものを初めて描く。  この年の「遊戯の森の妖精」は身体障害者いじめ鬼畜路線の第2弾!森の中の別荘に乱入したろくでなしの二人組が精薄の少女の両親達を虐殺し、暴行の限りをつくすむちゃくちゃな作品で、雷鳴の中、少女の性器に男達のペニスが2本同時に挿入されるシーンは圧巻!しかしこのとんでもない男達も少女の性のエネルギーに飲み込まれ、朽ち果てていく・・・。 ●1 9 8 1 ~   美少女マンガ誌のはしり「レモン・ピープル」誌創刊。そこで描いたのが「白鳥の湖」。虚構の世界のヒロインを犯すというコンセプトは、アニメやゲームのヒロインをずこずこにするという今の同人誌のコンセプトと同じかも。バレエ「白鳥の湖」において悪魔に捕われたオデット姫が白鳥の姿に変えられる前に何にもされてない筈がないというモチーフにより生まれたこの作品は、悪魔に男根を植えつけられたヒロインが命じられるままに次々と妖精を犯して歩き悪魔の娘となるまでを描くが、あまり成功したとは言えない。ただ人形サイズの妖精をしゃぶりまくり淫核で犯すアイデアは他に「少女破壊幻想」で一回やっただけなのでそろそろもう一度やってみたいところ。「ダーティ松本の白雪姫」はその逆をいき、犯す方を小さくした作品で7人の小人が白雪姫の性器の中にはいり、しゃぶったり、処女膜を食べたり、と乱暴狼藉![ちなみに両者をでかくしたのが同人誌「FUCK YOU!3」の「ゴジラVSジュピター」]この童話シリーズは意外と好評で続いて「ダーティ松本の赤い靴」を上記の単行本に描き下ろして収録。童話は結構残酷なものが多く、この作品も切られた足だけが荒野を踊りながら去って行くラストは原作通り。 *近年童話ブームだがこの頃もっと描いておけば「こんなに危ない童話」として刊行出来たのにとくやまれる。 「2001年快楽の旅」もこの本に収録。快楽マシーンを逆にレイプしてしまう、珍しく映画「2001年宇宙の旅」風のSF作品。  掲載誌を決めずに出来る限り多くのマンガ誌で描こうというコンセプトで始めたのがこの年スタートした「怪人サドラン博士」シリーズ。「不死蝶」シリーズや「美少女たちの宴」シリーズの中にも乱入し、「漫画ハンター」最終号では地球をぶっ壊して[その際地球は絶頂の喘ぎ声をあげ昇天する!]他の惑星へ行ってしまう。今のところ10誌位に登場。いつかこのサドラン・シリーズだけ集めて単行本化したいところ。ちなみに「サド」と「乱歩」を足して「サドラン博士」と命名。作者の分身と言っていい。 [後年、「魔界の怪人」として全作品を収録して刊行、04年現在品切れ中]  この年描いて’82の単行本『妖精たちの宴』に収録の「とけていく・・」はレズの女たちが愛戯の果てに、肉体が溶けて一匹の軟体動物と化す、タイトルも内容も奇妙な作品。作者の頭もとけていた? ●1 9 8 2 ~ 1 9 8 3   ’83年に「美少女たちの宴」が完結。全てが無に帰すラストのページは真っ白のままで、このページの原稿料はいりません、と言ったにもかかわらず払ってくれた久保書店、偉い![明文社やCM頁の稿料を削った出版社=某少年画報社なら払わなかっただろうな……と思われる……]この作品以外は短編が多く、加速度をつけてのっていく描き方が得意のダー松としてはのりの悪い時期に突入。また10年近く走ってきてだれてきた頃でもあり第一次落ち込み期と言っていい。マンガがスタンプを押すように描けないものか、などとふとどきな考えまで湧いてくる。思えば一本の作品には、いったい何本の線を引いて出来上がっているものなのか。数えた馬鹿はいないだろうが数千本は引いている筈。一ヵ月に何万本とペンで線を引く日々・・うんざりする筈です。  この頃のめぼしい短編をいくつか書くと、少女マンガ家の家に税務調査にきた税務署員が過小申告をネタにねちねちいたぶるが、アシスタントに発見された署員は撲殺される。そして板橋税務署は焼き討ちにあう、といった作品「[タイトル失念]xx税務調査」。[後日読者よりこのタイトルを「色欲ダニ野郎」と教えていただく。ひどいタイトル *編集者のつけるタイトルはその人のセンスが実によくわかる。しかしサイテ-の題だなこりゃ…。 果てるまで「おまんこして!」と言わせながら処女をやりまくる「美処女/犯す!」はラスト、狂った少女が歩行者天国の通行人を撃ちまくり血の海にする。「嬲る!」はパンチドランカーとなった矢吹ジョーが白木葉子をサンドバッグに縛りつけ、殴って、殴って、殴りまくる。段平おっちゃんの最後のセリフ「・・ブスブスくすぶっちゃいるが・・・」「打てッ!打つんだ!ジョー!」「お前はまだ燃えつきちゃいねえ!」とはエロ・ドランカーの自分自身に向けて発した言葉だったのかも。トビー・フーパーばりの「淫魔のはらわた」は電気ドリルでアナルを広げてのファック!とどめにチェーンソーで尻を切断!いまだに単行本に収録出来ず。[’98の「絶頂伝説」にやっと収録]「からみあい」は夫の愛人の性器を噛みちぎる。「危険な関係」はアルコール浣腸をして火をつけ尻から火を吹かせる。この手は『FUCK YOU!2』の「セーラー・ハルマゲドン」で復元。そういえばこの作品の序章と終章だけ描いて、間の100章位をとばすやりかたはこの頃の「禁断の性獣」より。女性器にとりつき、男性器に変身するエイリアンの侵略により地球は女性器を失い滅亡する、といったストーリーで当時聞いた話では谷山浩子のD.J.でこの作品がリスナーの投書でとりあげられ、ダー松の名はダーティ・杉本と読まれたそうな。ヒロインの少女がひろ子という名前なのでこのハガキが選ばれたのかもしれないが、作者は薬師丸ひろ子からとったつもりだったのだが・・。[別にファンではない。] 「女教師狩り」は映画館で観客に犯される女教師とスクリーン上の同名のエロ映画の二本が同時進行し、一本で二本分楽しめるお得な作品。 ’83は’80に「漫画エロス」にて描いた「エロスの乱反射」の最終回の原稿が紛失したため単行本が出せないでいたのを、またまた「仏の久保さん」に頼んでラスト近くをふくらませて「漫画ハンター」に3回程描かせてもらい、やっと’85に出版。見られる事に快感を覚えるファッション・モデルが調教される内に、次第に露出狂となっていき、街中で突然裸になって交通事故を起こさせたり、最後はビルの屋上でストリップショー。そしてカメラのフラッシュの中に飛び降りていき、ラスト1ページはその性器のアップでエンド!  本格美少年・ゲイ・マンガ「聖少女黙示録」も’83。レズの姉たちの手によって女装に目覚めた少年がホモのダンサーたちに縛られなぶられ初のポコチンこすり合いの射精シーン。そして性転換して女となった主いるが、その中の’84の「白い肌の湖」はタイトルで解る通りのバレリーナものだがポコチンを焼かれた男が、一緒に暮ら人公が手術で男になった少女と暮らすハッピーエンド。この作品は単行本「美少女ハンター」に収録されてす二人の女と一人の男に復讐するエンディングがすごい!まず男の性器を切り取り、片方の女の性器にねじ込んだあと、その女の性器ごとえぐり取る。そしてその二つの性器をつかんだまま、もう一人の女の性器にフィストファック!のあげく、その二つの性器を入れたままの女性器をナイフでまた切って、ほとんどビックマック状態でまだヒクヒクうごめく血まみれの三つの性器を握りしめるとんでもない終り方!全くダー松はこんな事ばかりやっていたのかとあきれかえる。もう鬼畜としか言い様がない!しかし「ウィンナー」を二枚の「ハム」で包むなんて・・GOODなアイデアだ、又やってみよう。 ●1 9 8 4 ~   「漫画ハンター」で「闇の宴」前後篇を描き、後日これをビデオ化。雪に包まれた六本木のスタジオで痔に苦しみながらの撮影。特別出演として中島史雄氏が絶妙の指使い、東デの学生時代の萩原一至が二役、取材に来たJITAN氏もスタジオに入ってきた瞬間、即出演で生玉子1000個の海で大乱交。カメラマンが凝り性で照明が気に入るまでカメラを廻さず、たった二日の撮影はやりたい事の半分も出来ず。撮影が終ると痔はすぐに完治。どうもプレッシャーからくる神経性だったみたいでこれに懲りてビデオは一本のみ。 この年の「肉の漂流」は親子丼もので、近所の書店のオヤジからこの本はよく売れたと聞いたが、一時よく描いたこのパターンは最近では「FUCK YOU!3」の「母娘シャワー」のみ。熟女と少女の両方が描けるところが利点。「血の舞踏」は久しぶりの吸血鬼もの。股間を針で刺し、噛んで血を吸うシーン等々いい場面はあるが、うまくストーリーが転がらず3回で止める。短編「果てるまで・・」は核戦争後のシェルターの中で、父が娘とタイトル通り果てるまでやりまくる話。被爆していた父が死んだ後、娘はSEXの相手を捜して黒い雨の中をさまよう。  またリサ・ライオンの写真集を見て筋肉美に目覚め、マッチョ女ものをこの頃から描き出す。しかしなかなか筋肉をエロティックに描くのは難しい。 ●1 9 8 5 ~   くたびれ果ててすっかりダレてきたこの頃、8年間働いてくれたアシスタント女史に代わってパワーのかたまり萩原一至、鶴田洋久等が東京デザイナー学院卒業後加わってダーティ・マーケットも第2期に突入!新旧取り混ぜておもしろいマンガをいろいろ教えて貰って読みまくる。「バリバリ伝説」「ビーバップハイスクール」「ペリカンロード」「めぞん一刻」「わたしは真悟」「Be Free!」「緑山高校」「日出処の天子」「吉祥天女」「純情クレイジー・フルーツ」「アクター」「北斗の拳」「炎の転校生」「アイドルをさがせ」「綿の国星」「いつもポケットにショパン」「バツ&テリー」「六三四の剣」永井豪の絶頂期の作品「バイオレンス・ジャック」「凄之王」「デビルマン」等々100冊以上とても書ききれない位で、う~ん・・マンガってこんなにおもしろかったのか、と感動! そこで眠狂四郎を学園にほうり込んで、今まであまり描かなかった学園マンガをエロマンガに、というコンセプトで始めたのが「斬姦狂死郎」。「六三四の剣」ばりに単行本20巻を目指すものの、少年マンガのノリは今では当たり前だが、当時はまだエロマンガとして評価されず、ほんの少し時代が早すぎたかも。’86に中断、今年’97に「ホリディ・コミック」にて復活!果たしていつまで続けられるか? →後に「斬姦狂死郎・制服狩り」、「斬姦狂死郎・美教師狩り」として刊行完結  前年末から始めた「美姉妹肉煉獄」は身障者いじめの鬼畜路線。盲目の姉とその妹を調教して性風俗店等で働かせ、娼婦に堕していく不健全・不道徳な作品で、肉の快楽にひたっていく盲目の姉に対し妹も「春琴抄」の如く己の眼を突き、自らも暗黒の快楽の世界にはいり、快楽の光に目覚めるラスト。 また、これからは女王様物だ!となぜか突然ひらめき「筋肉女」シリーズの延長としてフィットネス・スタジオを舞台に「メタル・クイーン」シリーズも開始。これは単行本2冊分描いたが、連載途中でヒロインの髪型を歌手ステファニーのヘア・スタイルにチェンジしたり、レオタードもたっぷり描けてわりと気に入っている。  10年近く描いた「美蝶」先生シリーズもこの年スタート!こうしてみるとマンガを描く喜びに満ちた大充実の年だったかも。 ●1 9 8 6 ~   この年は前年からの連載ものがほとんどだが、「エレクト・ボーイ」は空中でファックするシーンが描いてみたくて始めた初の超能力エロマンガ。コメディ的要素がうまくいかず2回で止める。この路線は翌年の「堕天使輪舞」で開花。  「夜の彷徨人」は自分の育てた新体操選手が怪我で選手生命を失ったため、その女を馬肉のごとく娼婦として夜の世界に売り渡した主人公という設定。しかし腕を折られ、女にも逆に捨てられ、そして事故によってその女を失ったあげく不能となってしまう。失った快楽を取り戻すため無くした片腕にバイブレーターを取りつけ、夜の街をさすらい次々と女たちをレイプしていくというストーリー。がっちり設定したキャラだったのにまったく話がはずまず、男のポコチンは勃起しないままに作品も不発のまま終る���  「斬姦狂死郎」が不本意のまま終わったため学園エロス・シリーズは「放課後の媚娼女」へと引き継がれる。当時見ていた南野陽子のTV「スケバン刑事・」とS・レオーネの「ウエスタン」風に料理。ラストの「男といっしょじゃ歩けないんだ」のセリフは一番好きな映画、鈴木清順の「東京流れ者」からのもじり。単行本は最初司書房から出て、数年後ミリオン出版から再販、そして’97久保書店より再々販ながら結構売れて今年また再版。この作品は親を助けてくれる有難い孝行息子といったところ。 ●1 9 8 7 ~   さいとうプロOBで那珂川尚という名のマンガ家だった友人の津田が「漫画ダイナマイト」の編集者になっていて、実に久しぶりに同誌で「堕天使輪舞」を描く。超能力エロマンガの第2弾。今回はエロと超能力合戦とがうまくミックスされ一応成功といっていい。この路線は「エレクト・ボーイ」とこの作品、そして’96の「夜顔武闘伝」も含めてもいいかも。一時、この手の作品は数多くあったが最近はめったに見かけない。しかし、まだまだこの路線には鉱脈が眠っているとにらんでいるがどんなものだろう。 ●1 9 8 8 ~   「放課後の媚娼女」に続いて抜かずの凶一無頼控え「放課後の熱い祭り」を2年がかりで描く。’89に完結し司書房より単行本化。そして今年’97に改定してめでたく完全版として復刊!この頃が一番劇画っぽい絵で、たった2~3人のスタッフでよくこれだけ描き込めたなと改めて感心!エロシーンがちょっと少なめながら中島史雄氏がダー松作品でこの作品が一番好き、とお褒めの言葉を頂戴する。  TVで三流アマゾネス映画を見ている内、むくむくとイメージがふくらみ、昔から描きたかった西部劇と時代劇がこれで描けると、この年スタートさせたのが「不死蝶伝説」なるアマゾネス路線。昔々青年誌の創世期にあのケン月影氏がマカロニ・ウエスタンを描いていたことを知る人は少ないだろう。俺もあの頃デビューしていたらウエスタンが描けたのに、と思う事もあったが、このシリーズでほんの少しだけその願望がかなう。  この頃、アシスタントやってくれてた格闘技マニアの鶴田洋久に誘われ、近所の空手道場通いの日々。若い頃修行のため新宿でやくざに喧嘩を売って歩いたという寺内師範は、もう鬼のような人で、行けば地獄が待っていると判っててなぜ行く?と不思議な位休まず通う。体育会系はマゾの世界と知る。組手は寸止めではなく顔面以外は当てて可だったので身体中打撲のあざだらけ、ビデオで研究したという鶴田の体重をかけたムエタイ式の蹴りをくらい、右手が饅頭のように腫れ上がる。先輩たちの組手の試合も蹴りがもろにはいってあばら骨が折れたりで、なぜこんなヘビーな事をする?と思うが、闘う事によって身体の奥から何か沸き上がってくるものがある。スリランカの元コマンドと組手をやった時、格闘家の気持ちが少しだけ判るようになった。 ●1 9 8 9 ~   ’94まで続く「美蝶」シリーズでこの年は『ノスフェラトウ篇』を描き、シリーズ中これが一番のお気に入り。同人誌の「王夢」はこれが原点。  短編では「悪夢の中へ」はスプラッタ・エロマンガで久しぶりにチェーンソゥでお尻のぶった切り!はらわた引きずり出し、人肉食いちぎり!顔面叩き割り等々でラストに「ホラービデオの規制をするバカは俺が許さん!」などと書いているので、この年が宮崎事件の年か?世間は彼が日野日出志・作のホラービデオ「ギニーピッグ」を見てあの犯罪をおかした、としてさんざんホラービデオの規制をやっといて、結局見てもいなかったとわかったあとは誰一人日野日出志氏にもホラービデオさんにも謝らす゛知らんぷり。残ったのは規制だけで、馬鹿のやる事には全く困ったもんである。先日の「酒鬼薔薇・14才」の時も犯罪おたくの心理学者が、「これはマンガやビデオの影響です。」などと相も変わらずたわけた寝言をぬかしていたが、馬鹿はいつまでたっても馬鹿のまま。少しは進歩しろよ!お前だよ、お前!短絡的で幼稚な坊や、小田晋!よぅく首を洗っとけ!コラ!  「獣人たちの儀式」は退学者や少年院送りになつた生徒、暴走族、ヤクザ達が集まって酒盛りしながら女教師たちをずこずこにしてOB会をひらく不健全作品。編集長が「また危ない作品を・・・」とこぼしたものだが、岡野さん、田舎で元気にお過しでしょうか。この頃の「漫画エロス」には「ケンペーくん」だとか「アリスのお茶会」だとかおもしろい作品が載っていたものです。「爆走遊戯」は伝説のストーカー・ろくでなしマンガ家の早見純が一番好きな作品と言ってくれたが、なぜだかわからない。人の好みはいろいろです。以上3本は単行本「熱き唇の女神」に収録。 「ふしだらな女獣たち」はフェミニストの女二人が美少年をいじめる話。これは「氷の部屋の女」に収録。 ●1 9 9 0 ~   この年の「美蝶」シリーズは『ダンシング・クイーン篇』。マネキン工場跡でJ・ブラウンの「セックス・マシーン」にのせて5人プレイをするシーンや文化祭でのダンスシーン等々結構好きな場面多し。暗くて硬い作品が多いので、この「美蝶」シリーズは肩肘張らずに、かなり軽いノリでキャラクターの動きに任せて、ストーリーも、そして次のコマさえも先の事は何にも考えず、ほとんどアドリブで描いた時もある。  「不死蝶伝説」に続いてシリーズ第2弾「不死蝶」は2誌にまたがって2年位続ける。これも結構お気に入りの一遍。 ●1 9 9 1 ~ 1 9 9 3   「性狩人たち」の近未来版、といった感じの「夜戦士」は学園物が多くなったので、マグナム銃で脳天をぶっとばすようなものが又描きたくなって始めたミニシリーズ。全5話位。松文館より単行本「黒い夜と夢魔の闇」に収録。  この年から知り合いの編集者がレディス・コミックを始める人が多く、依頼されてどうしたものかと思ったが、エロなら何でもやってみよう精神と何か新しい世界が開けるかも、という事から’94位までやってみたものの結果的に不毛の時代に終わる。与えられた素材が体験告白物という事で、非現実的なものは描けないという事は得意技を封印して戦うようなもので苦戦を強いられ、これって内山亜紀氏がやまさき十三原作の人情話を描いたようなミス・マッチングで不発だったかな。今後、もしやることがあれば美少年SMのレディス・コミックのみ。そんな雑誌が出来れば、の話だが。  いくつかやったレディコミの編集の一人「アイリス」の鈴木さんは同じさいとうプロOBで、マンガ・アシスタント、マンガ家、マンガ誌の編集、そして今はマンガ学校の講師、とこれだけ多くのマンガに関わる仕事をしてきた人はあまりいないだろう。これでマンガ評論でもやれば全て制覇だが・・・。  この頃はいつもと同じ位の30~40本の作品を毎年描いていたが、レディコミは一本30~40枚とページが多く結構身体にガタがきた頃で、右手のひじが腱傷炎になり1年以上苦痛が続く。医者通いではさっぱり痛みがひかず、電気針で針灸治療を半年位続けてやっと完治。その後、住んでいたマンションの理事長を押しつけられ、マンション戦争の渦中に巻き込まれひどい目にあう。攻撃するのは楽だが、話をまとめるなどというのは社会生活不適格のダー松には大の苦手で「お前等!わがままばかり言うのはいいかげんにしろー!」と頭をカチ割りたくなるような事ばかりで、ひたすら我慢の日々で血圧がガンガン上がり、病院通いの日々。確実に寿命が5年は縮まる。あの時はマジで人に殺意を抱いたものだが、今でも金属バット持って押しかけて奴等の脳みそをクラッシュしたい気分になる時もある。いつかこの時の事をマンガにしようと思っていて、まだ誰も描いてない「マンション・マンガ」というジャンル、タイトルは「我が闘争」。え?誰も読みたくない?  この間に出た単行本は「血を吸う夜」、「赤い月の化身」「熱き唇の女神」[以上・久保書店] /「牝猫の花園」「真夜中の人魚たち」[以上久保書店]、「美蝶/放課後篇」「美蝶/ダンシング・クイーン篇」「不死蝶/鋼鉄の女王篇・上巻」[以上ミリオン出版]。 ●1 9 9 4 ~ 1 9 9 5   ろくでもない事が続くのは厄払いをしなかったせいか、このままここにいたら頭がおかしくなる、と15年以上いたマンションから引っ越し。板橋から巣鴨へ移動し気分一新!以前からうちもやりましょうよ、と言われていた同人誌創りをそのうち、そのうちと伸ばしてきたものの遂に申し込んでしまい、創らざるをえなくなる。しかもそれが引っ越しの時期と重なってしまい大いに後悔する。しかしいろんな人にお願いして何とか一冊でっちあげ、ムシ風呂のような夏コミに初参加。これが運命の分岐点。レディコミもこの年で切り上げ、以下同人街道をまっしぐら。現在まで「FUCK OFF!」が9まで、「FUCK YOU!」が4まで計10+&冊創る。  ’95からダーティ松本の名前にも飽きてきたしJr,Sam名でも描き始める。 レディコミ時代は松本美蝶。あと2つ位違うペンネームも考案中。  この間の単行本「氷の部屋の女」「双子座の戯れ」[久保書店]、「黒い夜と夢魔の闇」[松文館]、「危険な女教師/美蝶」[ミリオン] ●1 9 9 6 ~   美少女路線の絵柄もこの年の「夜顔武闘伝」あたりでほぼ完成、今後また少し変化させる予定。しかしこの作品は超能力、アマゾネス、忍法エロマンガとでも呼ぶべきか。「グラップラー刃牙」みたいに闘技場での勝ち抜き性武道合戦までいきたかったけれど、残念ながらたどり着けず。  「冬の堕天使」は久しぶりの吸血鬼もの。都営住宅で生活保護をうけている吸血鬼母子のイメージが浮かび、そこから漫画家協会・加藤芳郎を撃つ有害図書騒動のマンガへ。吸血鬼少年が光の世界との戦いに旅立つまでを描き、「闇に潜みし者」は時空を越えて近未来での戦い。その間を描く作品を今後創らなければ。  「FUCK CITY 2006」はクソ溜めと化した近未来のTOKYOを舞台に久しぶりにダーティ・バイオレンスが炸裂!ハード・エロ劇画と同人誌風・美少女路線の合体は果たしてうまくいったかどうか?30ページほど描き足して、’97、9月にフランス書院のコミック文庫にて発売。[「少女水中花」]  「放課後の媚娼女」と「人形愛」刊行。[いずれも久保書店刊]前者は以前、上下巻だったのを一冊にまとめて。後者は近作を集めた同人時代を経ての初単行本で、同人誌を知らなかった読者はショックを受ける。メタルフアンから以下のようなお手紙を受け取る。「これはジューダス・プリーストの『ターボ』だ。ラストの『眠れる森の少女』は『レックレス』にあたる。しかしジューダスもその後『ラム・イット・ダウン』や『ペイン・キラー』という傑作を世に出した事だし、今後を期待したい」という意のダー松のようなメタルファン以外は意味不明の激励をうける。 ●1 9 9 7   同人誌「エロス大百科シリーズ」スタート!いろんな項目別に年2刊づつ計100ページ位を別刊シリーズとして出し続ければ10年で1000ページになり、以前「谷岡ヤスジ1000ページ」という枕に最適の本があったが、これも一冊にまとめて枕にして寝れば、目覚める頃は3回夢精しているなんて事に・・・などとまだたった40ページの段階で言っても何の説得力もないか。飽きたら2~3号でSTOPするだろうし・・。[推測通り「毛剃り」「美少年SM」「女装」3号でストップ中]冬にはやおい系にも進出の予定。  今年出した単行本は厚くて濃いエロマンガを集めた久保書店MAXシリーズ第2弾!「放課後の熱い祭り/完全版」と「夜顔武闘伝」オークラ出版。ともに大幅描き足して25周年記念出版として刊行。ティーツー出版よりJr,Sam名で「昼下がりの少女」、9月にはフランス書院より「少女水中花」の文庫本が出る予定で現在、この同人誌と並行して描き足し中。「斬姦狂死郎」第2部も「ホリディ・COMIC」誌にて6月よりスタート!年内創刊予定の『腐肉クラブ』なる死体姦専門のマンガ誌にも執筆予定。  さてさて25年間、旅行の時を除いて、現在まで2日続けてマンガを描かなかった事はほとんどない。これはその昔、伊東元気氏というマンガ家とお会いしたとき「今月何ページ描いた?」との問いに、「今月仕事ないんでぜんぜん描いてません」と答えたら、「そんな事じゃ駄目だ。仕事があろうがなかろうが、毎月100頁は描かなきゃ。」と言われ、以後その教えを守り[描けるページ数は減ったが]、マンガは仕事ではなくなり、朝起きたら顔を洗うのと同じで生活そのものとなり現在に至る。  今は何でも描けそうなハイな状態で、以前はたまには外出しないと煮詰まってしまうので週いち位ガス抜きをしていたものだが、最近はせいぜい月いち休めば十分の「純エロマンガ体」。[純粋にエロマンガを描くためだけの肉体、の意。ダー松の造語]  こうしてふり返ると、この路線はまだえぐり足りない、これはあと数回描くべし、なぜこれを一度しか描かない!等々、残り時間にやるべき事、やりたい事の何と多い事! 爆裂昇天のその日まで・・・      燃 え よ ペ ン !  なお続きは 1997年後期 1998年 INDEX
http://www.rx.sakura.ne.jp/~dirty/gurafty.html
17 notes · View notes
amyyamada55-blog · 6 years
Photo
Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media
20 must-watch 2018 Japanese dramas in the Fall
1. Manpuku まんぷく NHK Mon-Sat 8:00
2. SUITS スーツ Fuji TV Monday 21:00
3. Harassment Game ハラスメントゲーム TV Tokyo Monday 22:00
4. Bokura wa Kiseki de Dekite Iru 僕らは奇跡でできている Fuji TV Tuesday 21:00
5. Chugakusei Nikki 中学聖日記 TBS Tuesday 22:00
6. Aibou Season 17 相棒 TV Asahi Wednesday 21:00
7. Kemono ni Narenai Watashitachi 獣になれない私たち NTV Wednesday 22:00
8. Kasouken no Onna Season 18 科捜研の女 TV Asahi Thursday 20:00
9. Legal V リーガルV TV Asahi Thursday 21:00
10. Tasogare Ryuuseigun 黄昏流星群 Fuji TV Thursday 22:00
11. Black Scandal ブラックスキャンダル NTV Thursday 23:59
12. Pretty ga Oosugiru プリティが多すぎる NTV Thursday 24:59
13. Chuzai Keiji 駐在刑事 TV Tokyo Friday 20:00
14. Noboru Tachibana Seishun Tebikae 3 立花登青春手控え BS Premium Friday 20:00
15. Showa Genroku Rakugo Shinju 昭和元禄落語心中 NHK Friday 22:00
16. Dai Renai 大恋愛 TBS Friday 22:00
17. Boku to Shippo to Kagurazaka 僕とシッポと神楽坂 TV Asahi Friday 23:15
18. Boukyaku no Sachiko 忘却のサチコ TV Tokyo Friday 24:12
19. Fuwaku no Scrum 不惑のスクラム NHK Saturday 20:15
20. Dorokei ドロ刑 NTV Saturday 22:00
0 notes
2ttf · 12 years
Text
iFontMaker - Supported Glyphs
Latin//Alphabet// ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZabcdefghijklmnopqrstuvwxyz0123456789 !"“”#$%&'‘’()*+,-./:;<=>?@[\]^_`{|}~ Latin//Accent// ¡¢£€¤¥¦§¨©ª«¬®¯°±²³´µ¶·¸¹º»¼½¾¿ÀÁÂÃÄÅÆÇÈÉÊËÌÍÎÏÐÑÒÓÔÕÖ×ØÙÚÛÜÝÞßàáâãäåæçèéêëìíîïðñòóôõö÷øùúûüýþÿ Latin//Extension 1// ĀāĂ㥹ĆćĈĉĊċČčĎďĐđĒēĔĕĖėĘęĚěĜĝĞğĠġĢģĤĥĦħĨĩĪīĬĭĮįİıIJijĴĵĶķĸĹĺĻļĽľĿŀŁłŃńŅņŇňʼnŊŋŌōŎŏŐőŒœŔŕŖŗŘřŚśŜŝŞşŠšŢţŤťŦŧŨũŪūŬŭŮůŰűŲųŴŵŶŷŸŹźŻżŽžſfffiflffifflſtst Latin//Extension 2// ƀƁƂƃƄƅƆƇƈƉƊƋƌƍƎƏƐƑƒƓƔƕƖƗƘƙƚƛƜƝƞƟƠơƢƣƤƥƦƧƨƩƪƫƬƭƮƯưƱƲƳƴƵƶƷƸƹƺƻƼƽƾƿǀǁǂǃDŽDždžLJLjljNJNjnjǍǎǏǐǑǒǓǔǕǖǗǘǙǚǛǜǝǞǟǠǡǢǣǤǥǦǧǨǩǪǫǬǭǮǯǰDZDzdzǴǵǶǷǸǹǺǻǼǽǾǿ Symbols//Web// –—‚„†‡‰‹›•…′″‾⁄℘ℑℜ™ℵ←↑→↓↔↵⇐⇑⇒⇓⇔∀∂∃∅∇∈∉∋∏∑−∗√∝∞∠∧∨∩∪∫∴∼≅≈≠≡≤≥⊂⊃⊄⊆⊇⊕⊗⊥⋅⌈⌉⌊⌋〈〉◊♠♣♥♦ Symbols//Dingbat// ✁✂✃✄✆✇✈✉✌✍✎✏✐✑✒✓✔✕✖✗✘✙✚✛✜✝✞✟✠✡✢✣✤✥✦✧✩✪✫✬✭✮✯✰✱✲✳✴✵✶✷✸✹✺✻✼✽✾✿❀❁❂❃❄❅❆❇❈❉❊❋❍❏❐❑❒❖❘❙❚❛❜❝❞❡❢❣❤❥❦❧❨❩❪❫❬❭❮❯❰❱❲❳❴❵❶❷❸❹❺❻❼❽❾❿➀➁➂➃➄➅➆➇➈➉➊➋➌➍➎➏➐➑➒➓➔➘➙➚➛➜➝➞➟➠➡➢➣➤➥➦➧➨➩➪➫➬➭➮➯➱➲➳➴➵➶➷➸➹➺➻➼➽➾ Japanese//かな// あいうえおかがきぎくぐけげこごさざしじすずせぜそぞただちぢつづてでとどなにぬねのはばぱひびぴふぶぷへべぺほぼぽまみむめもやゆよらりるれろわゐゑをんぁぃぅぇぉっゃゅょゎゔ゛゜ゝゞアイウエオカガキギクグケゲコゴサザシジスズセゼソゾタダチヂツヅテデトドナニヌネノハバパヒビピフブプヘベペホボポマミムメモヤユヨラリルレロワヰヱヲンァィゥェォッャュョヮヴヵヶヷヸヹヺヽヾ Japanese//小学一年// 一右雨円王音下火花貝学気九休玉金空月犬見五口校左三山子四糸字耳七車手十出女小上森人水正生青夕石赤千川先早草足村大男竹中虫町天田土二日入年白八百文木本名目立力林六 Japanese//小学二年// 引羽雲園遠何科夏家歌画回会海絵外角楽活間丸岩顔汽記帰弓牛魚���強教近兄形計元言原戸古午後語工公広交光考行高黄合谷国黒今才細作算止市矢姉思紙寺自時室社弱首秋週春書少場色食心新親図数西声星晴切雪船線前組走多太体台地池知茶昼長鳥朝直通弟店点電刀冬当東答頭同道読内南肉馬売買麦半番父風分聞米歩母方北毎妹万明鳴毛門夜野友用曜来里理話 Japanese//小学三年// 悪安暗医委意育員院飲運泳駅央横屋温化荷開界階寒感漢館岸起期客究急級宮球去橋業曲局銀区苦具君係軽血決研県庫湖向幸港号根祭皿仕死使始指歯詩次事持式実写者主守取酒受州拾終習集住重宿所暑助昭消商章勝乗植申身神真深進世整昔全相送想息速族他打対待代第題炭短談着注柱丁帳調追定庭笛鉄転都度投豆島湯登等動童農波配倍箱畑発反坂板皮悲美鼻筆氷表秒病品負部服福物平返勉放味命面問役薬由油有遊予羊洋葉陽様落流旅両緑礼列練路和 Japanese//小学四年// 愛案以衣位囲胃印英栄塩億加果貨課芽改械害街各覚完官管関観願希季紀喜旗器機議求泣救給挙漁共協鏡競極訓軍郡径型景芸欠結建健験固功好候航康告差菜最材昨札刷殺察参産散残士氏史司試児治辞失借種周祝順初松笑唱焼象照賞臣信成省清静席積折節説浅戦選然争倉巣束側続卒孫帯隊達単置仲貯兆腸低底停的典伝徒努灯堂働特得毒熱念敗梅博飯飛費必票標不夫付府副粉兵別辺変便包法望牧末満未脈民無約勇要養浴利陸良料量輪類令冷例歴連老労録 Japanese//小学五〜六年// 圧移因永営衛易益液演応往桜恩可仮価河過賀快解格確額刊幹慣眼基寄規技義逆久旧居許境均禁句群経潔件券険検限現減故個護効厚耕鉱構興講混査再災妻採際在財罪雑酸賛支志枝師資飼示似識質舎謝授修述術準序招承証条状常情織職制性政勢精製税責績接設舌絶銭祖素総造像増則測属率損退貸態団断築張提程適敵統銅導徳独任燃能破犯判版比肥非備俵評貧布婦富武復複仏編弁保墓報豊防貿暴務夢迷綿輸余預容略留領異遺域宇映延沿我灰拡革閣割株干巻看簡危机貴揮疑吸供胸郷勤筋系敬警劇激穴絹権憲源厳己呼誤后孝皇紅降鋼刻穀骨困砂座済裁策冊蚕至私姿視詞誌磁射捨尺若樹収宗就衆従縦縮熟純処署諸除将傷障城蒸針仁垂推寸盛聖誠宣専泉洗染善奏窓創装層操蔵臓存尊宅担探誕段暖値宙忠著庁頂潮賃痛展討党糖届難乳認納脳派拝背肺俳班晩否批秘腹奮並陛閉片補暮宝訪亡忘棒枚幕密盟模訳郵優幼欲翌乱卵覧裏律臨朗論 Japanese//中学// 亜哀挨曖扱宛嵐依威為畏尉萎偉椅彙違維慰緯壱逸芋咽姻淫陰隠韻唄鬱畝浦詠影鋭疫悦越謁閲炎怨宴援煙猿鉛縁艶汚凹押旺欧殴翁奥憶臆虞乙俺卸穏佳苛架華菓渦嫁暇禍靴寡箇稼蚊牙瓦雅餓介戒怪拐悔皆塊楷潰壊懐諧劾崖涯慨蓋該概骸垣柿核殻郭較隔獲嚇穫岳顎掛括喝渇葛滑褐轄且釜鎌刈甘汗缶肝冠陥乾勘患貫喚堪換敢棺款閑勧寛歓監緩憾還環韓艦鑑含玩頑企伎忌奇祈軌既飢鬼亀幾棋棄毀畿輝騎宜偽欺儀戯擬犠菊吉喫詰却脚虐及丘朽臼糾嗅窮巨拒拠虚距御凶叫狂享況峡挟狭恐恭脅矯響驚仰暁凝巾斤菌琴僅緊錦謹襟吟駆惧愚偶遇隅串屈掘窟繰勲薫刑茎契恵啓掲渓蛍傾携継詣慶憬稽憩鶏迎鯨隙撃桁傑肩倹兼剣拳軒圏堅嫌献遣賢謙鍵繭顕懸幻玄弦舷股虎孤弧枯雇誇鼓錮顧互呉娯悟碁勾孔巧甲江坑抗攻更拘肯侯恒洪荒郊貢控梗喉慌硬絞項溝綱酵稿衡購乞拷剛傲豪克酷獄駒込頃昆恨婚痕紺魂墾懇沙唆詐鎖挫采砕宰栽彩斎債催塞歳載剤削柵索酢搾錯咲刹拶撮擦桟惨傘斬暫旨伺刺祉肢施恣脂紫嗣雌摯賜諮侍慈餌璽軸叱疾執湿嫉漆芝赦斜煮遮邪蛇酌釈爵寂朱狩殊珠腫趣寿呪需儒囚舟秀臭袖羞愁酬醜蹴襲汁充柔渋銃獣叔淑粛塾俊瞬旬巡盾准殉循潤遵庶緒如叙徐升召匠床抄肖尚昇沼宵症祥称渉紹訟掌晶焦硝粧詔奨詳彰憧衝償礁鐘丈冗浄剰畳壌嬢錠譲醸拭殖飾触嘱辱尻伸芯辛侵津唇娠振浸紳診寝慎審震薪刃尽迅甚陣尋腎須吹炊帥粋衰酔遂睡穂随髄枢崇据杉裾瀬是姓征斉牲凄逝婿誓請醒斥析脊隻惜戚跡籍拙窃摂仙占扇栓旋煎羨腺詮践箋潜遷薦繊鮮禅漸膳繕狙阻租措粗疎訴塑遡礎双壮荘捜挿桑掃曹曽爽喪痩葬僧遭槽踪燥霜騒藻憎贈即促捉俗賊遜汰妥唾堕惰駄耐怠胎泰堆袋逮替滞戴滝択沢卓拓託濯諾濁但脱奪棚誰丹旦胆淡嘆端綻鍛弾壇恥致遅痴稚緻畜逐蓄秩窒嫡抽衷酎鋳駐弔挑彫眺釣貼超跳徴嘲澄聴懲勅捗沈珍朕陳鎮椎墜塚漬坪爪鶴呈廷抵邸亭貞帝訂逓偵堤艇締諦泥摘滴溺迭哲徹撤添塡殿斗吐妬途渡塗賭奴怒到逃倒凍唐桃透悼盗陶塔搭棟痘筒稲踏謄藤闘騰洞胴瞳峠匿督篤凸突屯豚頓貪鈍曇丼那謎鍋軟尼弐匂虹尿妊忍寧捻粘悩濃把覇婆罵杯排廃輩培陪媒賠伯拍泊迫剝舶薄漠縛爆箸肌鉢髪伐抜罰閥氾帆汎伴畔般販斑搬煩頒範繁藩蛮盤妃彼披卑疲被扉碑罷避尾眉微膝肘匹泌姫漂苗描猫浜賓頻敏瓶扶怖附訃赴浮符普腐敷膚賦譜侮舞封伏幅覆払沸紛雰噴墳憤丙併柄塀幣弊蔽餅壁璧癖蔑偏遍哺捕舗募慕簿芳邦奉抱泡胞俸倣峰砲崩蜂飽褒縫乏忙坊妨房肪某冒剖紡傍帽貌膨謀頰朴睦僕墨撲没勃堀奔翻凡盆麻摩磨魔昧埋膜枕又抹慢漫魅岬蜜妙眠矛霧娘冥銘滅免麺茂妄盲耗猛網黙紋冶弥厄躍闇喩愉諭癒唯幽悠湧猶裕雄誘憂融与誉妖庸揚揺溶腰瘍踊窯擁謡抑沃翼拉裸羅雷頼絡酪辣濫藍欄吏痢履璃離慄柳竜粒隆硫侶虜慮了涼猟陵僚寮療瞭糧厘倫隣瑠涙累塁励戻鈴零霊隷齢麗暦劣烈裂恋廉錬呂炉賂露弄郎浪廊楼漏籠麓賄脇惑枠湾腕 Japanese//記号//  ・ー~、。〃〄々〆〇〈〉《》「」『』【】〒〓〔〕〖〗〘〙〜〝〞〟〠〡〢〣〤〥〦〧〨〩〰〳〴〵〶 Greek & Coptic//Standard// ʹ͵ͺͻͼͽ;΄΅Ά·ΈΉΊΌΎΏΐΑΒΓΔΕΖΗΘΙΚΛΜΝΞΟΠΡΣΤΥΦΧΨΩΪΫάέήίΰαβγδεζηθικλμνξοπρςστυφχψωϊϋόύώϐϑϒϓϔϕϖϚϜϞϠϢϣϤϥϦϧϨϩϪϫϬϭϮϯϰϱϲϳϴϵ϶ϷϸϹϺϻϼϽϾϿ Cyrillic//Standard// ЀЁЂЃЄЅІЇЈЉЊЋЌЍЎЏАБВГДЕЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯабвгдежзийклмнопрстуфхцчшщъыьэюяѐёђѓєѕіїјљњћќѝўџѢѣѤѥѦѧѨѩѪѫѬѭѰѱѲѳѴѵѶѷѸѹҌҍҐґҒғҖҗҘҙҚқҜҝҠҡҢңҤҥҪҫҬҭҮүҰұҲҳҴҵҶҷҸҹҺһҼҽҾҿӀӁӂӇӈӏӐӑӒӓӔӕӖӗӘәӚӛӜӝӞӟӠӡӢӣӤӥӦӧӨөӪӫӬӭӮӯӰӱӲӳӴӵӶӷӸӹӾӿ Thai//Standard// กขฃคฅฆงจฉชซฌญฎฏฐฑฒณดตถทธนบปผฝพฟภมยรฤลฦวศษสหฬอฮฯะัาำิีึืฺุู฿เแโใไๅๆ็่้๊๋์ํ๎๏๐๑๒๓๔๕๖๗๘๙๚๛
see also How to Edit a Glyph that is not listed on iFontMaker
6 notes · View notes
kkagneta2 · 6 years
Text
妹のために、妹のために、妹のために。(推敲中)
ふたなり怪力娘もの。血なまぐさいので注意。
扠、ここはある民家の一室、凡そ八畳程の広さの中に机が二つ、二段ベッドが一つ、その他本棚や観葉植物などが置いてある、言つてしまえば普通の部屋に男が二人顔を突き合はせ何やらヒソヒソと、いや、別に小声で話してゐるわけではないのであるが何者かに気づかれないよう静かに話し合つてゐる。一人は少し痩せ型の、黒い髪の毛に黒い縁のメガネが聡明な印象を与へる、如何にも生真面目さうな好青年で、もう一人は少し恰幅の良い、短く切られた髪の毛に色の濃い肌が健康な印象を与へる、如何にも運動が得意さうな好青年である。前者の名は那央と言ひ、後者の名は詩乃と言ふ、見た目も性格の型も違えど同じ高校に通つてゐる仲の良い兄弟である。二人の間にはノートの切れ端と思しきメモと、丁度半月ほど前に買つた十キロのダンベルが、そのシャフトを「く」の字に曲げ事切れたやうにして床に寝そべつてゐた。
何故メモがあるのか、何故ダンベルのシャフトが「く」の字に曲がつてゐるのか、何故二人の兄弟がそれらを囲んで真剣な話し合ひをしてゐるのか、その説明をするにはもう一つ紹介しておかねばならぬ事があるのであるが、恐らく大層な話を聞かずとも直ぐに状況を何となく分かつて頂けるであらう。其れと云ふのも二人にはもう一人血を同じくする、一五〇センチに満たぬ身の丈に、ぷにぷにとした餅のやうな頬、風でさらさらと棚引き陽の光をあちこちに返す黒い髪、触つた此方が溶け落ちるほど柔らかな肌、此れからの成長を予感させる胸の膨らみ、長いまつ毛に真珠を嵌めたやうな黒目を持った、--------少々変はつてゐる所と言へば女性なのに男性器が付いてゐるくらゐの、非常に可愛らしい中学一年生の妹が居るのである。名前は心百合と言ふ。成る程、ふたなりの妹が居るなら話は早い、メモもダンベルも話し合ひも、全てこの妹が原因であらう。実際、メモにはやたら達筆な字でかうあつた。-----------
 前々から言ってきたけど、こんな軽いウェイトでやっても意味が無いと思うから、使わないように。次はちゃんと、最低でも一〇〇キロはあるダンベルを買ってください。私も力加減の練習がしたいのでお願いします。曲げたのは直すので、これを読んだら持ってきてください。
あと全部解き終わったので、先週から借りてた那央にぃの数学の問題集を返しました。机の上に置いてあります。全然手応えが無かったから、ちょっと優しすぎると思います。新しく買ったらまた言ってください。
心百合より
 このメモは「く」の字に曲がつたシャフトの丁度折り目に置かれてあつて、凡そ午前九時に起床した詩乃がまず最初に見つけ、其の時は寝ぼけてゐたせいもありダンベルの惨状に気を取られメモを読まないまま、折角値の張る買ひ物をしたのにどうして、一体何が起きてこんなことに、…………と悲嘆に暮れてゐたのであるが、そんな簡単に風で飛ぶような物でも無いし、それに落ちたとしても直径二センチ以上ある金属がさう易易と曲がるわけでも無いから何者かが手を加えたに違ひ無く、自然と犯人の顔が思ひ浮かんでくるのであつた。わざわざ此れを言ひたいがためにダンベルを使ひ物にならなくしたのか。俺たちにとつては一〇キロでもそこそこ重さを感じると云ふのに、一〇〇キロなんて持ち上げられるわけが無い、しかもその一〇〇キロも、"最低でも"だとか、"力加減"だとか書かれてゐるので妹はもつと重いダンベルを御所望であるのか。確かにふたなりからすると、一〇〇キロも二〇〇キロも軽いと感じるだらうが、此れは俺たちが自分の体を鍛えるための道具であるからそつとしておいて欲しい。さう彼は文句を言ひたくなるものの、未だ中学一年生とは言へ、本来車でも打つから無ければ曲がるはずも無いシャフトを綺麗に曲げてしまつたと云ふ事実に、ただひたすら恐怖を感じ震える手でこめかみあたりに垂れてきた冷ややかな汗を拭ふのであつた。
一体全体、ふたなりの女の子は力が強いのである。そして其れは心百合も例外では無く、生まれて間もない時から異常な怪力ぶりを発揮してきた。例へば此れはある日の朝のことであつたか、彼ら彼女の父親が出勤しようとしてガレージのシャッターを開けると、何の恥ずかしげもなく無断駐車してゐる車の、後ろ数十センチが見えてゐたことがあつた。幸ひにも丁度車一台分通れるくらゐの隙間はあるし、其れに父親の向かふ方向とは逆の位置にあつたので、何とか避けて車を出せさうではあつたのであるが、如何せん狭いガレージと、狭い通りと、幅のある車であるから、ふとした拍子で擦つてしまふかもしれない。かと言つて警察やらレッカーやらを呼ぶ時間も手間も勿体無い。仕方が無いので父親は、当時十四歳であつた那央と、当時十二歳であつた詩乃を呼び出して、ほんの数センチでも良いからこの車を向かふ側へ押せないかと、提案して自身も全身を奮ひ立たせたのであるが当然の如く動く気配は無かつた。ならばせめて角度だけでもつけようと思ひ、三人で掛け声をかけ少しでも摩擦を減らさうと車の後ろ半分を浮かせようと頑張つたものの、此れまた持ち上がる気配も無くたつた数秒程度で皆バテてしまつた。さうして諦めた父親は携帯を取り出し、諦めた二人の兄弟は数歩離れたところにある壁に凭れ、こんなん無理やろ、何が入つてんねん、と那央が言つたのをきつかけに談笑し始めた丁度其の時、登校しようと玄関から出てきた心百合が近寄つてきて、どうしたの? さつきから何やつてたの? と声をかけてきた。そこで詩乃が其の頭を撫でながら事情を説明して、ま、無理なものは無理だし、今日こそ親父は遅刻するかもな、と笑ひながら言ふと心百合は、
「んー、………じゃあ私がやってみてもいい?」
と言ひながらランドセルを那央に押し付け、唖然とする兄たちを余所に例の車へ向かつて行く。そしてトランクにまでたどり着くと、屈んで持ち易く力の入れ易い箇所を探しだす。----------当時彼女は小学三年生、僅か九歳である。自分の背丈と同じくらゐの高さの車を持ち上げようと、九歳の女の子がトランクの下を漁つてゐるのである。流石に兄たちも其の様子を黙つて見てゐられなくなり駆け寄つて、ついでに電話を掛けてゐる最中の父親も駆け付けて来て、結局左から順に父親、心百合、詩乃、那央の並びでもう一度車と相対することになつたのであるが、那央が、せえの! と声を掛け皆で一斉に力を入れる前に、よつと、と云ふ可愛らしい声が車の周りに小さく響いた。かと思ひきや次の瞬間には、グググ、と車体が浮き上がりたうたう後輪が地面から離れ初め、男たちが顔を見合はせ何が起きてゐるのか理解するうちに、一〇センチ、一五センチは持ち上がつてしまつた。男たちのどよめきを聞きながら、心百合は未だ六割程度しか力を入れてゐないことに少しばかり拍子抜けして、これならと思ひ、
「お父さんも、お兄ちゃんたちも、もう大丈夫だから手を離していいよ」
と言ふと、片手を離しひらひらと振り、余裕である旨を大して役に立つてゐない他の皆に伝え背筋を伸ばした。
「それで、これどうしたらいいの?」
男たちが恐る恐る手を離し、すつかり一人で車の後部を持ち上げてゐる状態になつた頃、娘が其のやうに聞いて来たので一寸だけ前に寄せてくれたら良いと、父親が答えると心百合は、分かつた、とだけ言つてから、そのまま足を踏み出して前へ進もうとした。すると、初めの方こそ靴が滑つて上手く進めなかつたのであるが、心百合も勝手が分かつて来たのか、しつかりと足に全体重と車の重量を掛け思ひ切り踏ん張つてゐると遂には、タイヤと地面の擦れる非常に耳障りな音を立てて車が前へと動き出したのである。そして、家の前だと邪魔になるだらうから、このまま公園の方まで持つて行くねと言つて、公園の側にある少し道が広がつてゐる所、家から凡そ三〇メートル程離れてゐる所まで、車を持ち上げたままゆつくりと押して行つてしまつた。
あれから四年、恐らく妹の力はさらに強くなつてゐるであらう。日常では兎に角優しく、優しく触る事を心がけてゐるらしいから俺たちは怪我をしないで済んでゐる、いやもつと云ふと、五体満足で、しかも生きてゐる。だが今まで何度も危ない時はあつた。喧嘩は全然しない、と云ふより一度も歪みあつたことは無いけれども、昼寝をしてゐる妹の邪魔をしたりだとか、凡ミスのせいでテストで満点を逃し機嫌が悪い時に何時もの調子で話しかけたりだとか、手を繋いでゐる最中に妹が何か、------例へば彼女の趣味である古典文学の展示に夢中になつたりだとか、さういう時は腕の一本や二本覚悟しなければならず打ち震えてゐたのであるが、なんと情けない話であらう。俺たちは妹の機嫌一つ、力加減一つで恐怖を覚えてしまふ。俺たちにはあの未発達で肉付きの良い手が人の命を刈り取る鎌に見える。俺たちにはあの産毛すら見えず芸術品かと思はれる程美しい太腿も、人の肉を潰したがつてゐる万力のやうに見える。……………本来さう云つた恐怖に少しでも対抗しようとダンベルを買つたのであるが、丸切り無駄であつた、矢張り妹には勝てぬのか。直接手を下されたわけでも無いのに、またしても負けてしまふのか。もう身体能力だけでなく、学力も大きな差をつけられたと云ふのに。---------------心百合は元々、小学校のテストでは常に満点を、…………少しドジなところがあるからたまにせうもない間違ひを犯すことがあるが、其れは仕方ないとして試験は常に満点を取り続けてをり、ある日学校から帰つて来るや、授業が暇で暇で、暇で仕方がないからお兄ちゃん何とかしてと言ふので、有らう事か俺たちは、其れならどんどん先の内容をこつそりと予習すると良い、と教えてしまつた。其れから心百合は教室だけでなく家でも勉強を進め、タガが外れたやうにもう恐ろしい早さで知識を吸収したつた一週間か二週間かで其の学年、-----確か小学四年生の教科書を読み終えると、兄から譲り受けた教科書を使って次の学年、次の次の学年、次の次の次の学年、…………といつたやうに、兄たちの言ふ通りどんどん先の内容を理解していき、一年も経たぬ間に高校入試の問題が全て解けるようになつてゐた。かと思えば、那央の持つてゐる高校の教科書やら問題集やら参考書やらを、兄の迷惑にならぬよう借りて勉強を推し進め、今度は半年程度で大学入試の問題をネットから引つ張り、遊び半分で解いてゐたのである。そして此方が分からないと言つてゐるのに答え合はせをして欲しいと頼んで来たり、又ある時は那央が置きつぱなしにしてゐた模試を勝手に解いては、簡単な問題ばかりで詰まんなかつた、お兄ちゃんでも全部解けたでせう? この程度の問題は、と云ふ。そんなだから中学一年生の今ではもはや、勉強をしてゐるうちに好きになつた古典文学を読み漁りながら、受験を控えた那央の勉強を教えるためにも、彼が過去問題集に取り組む前にはまず、心百合が一度目を通し、一度問題を全て解き感想を言つて、時間をかけるべきか、さうでないかの判断の手助けをしてゐるのである。先のメモにあつた後半の内容はまさに此の事で、どんなに難しさうな問題集を持つて行つても簡単だから考へ直すべしと言はれ凹む那央を見てゐると、詩乃は二年後の自分が果たしてまともな精神で居られるのかどうか、不安になつて来るのであつた。
さうすると此の兄弟が妹に勝つている点は何であらうか、多分身長以外には無い気がするが、もう後数年もすると頭一つ分超えられてしまふだらう。聞くところに寄ると、ふたなりは第二次成長期が落ち着き始める一四、五歳頃から突然第三次成長期を迎え、一八歳になる頃には平均して身長一八七センチに達すると云ふのである。実際、那央のクラスにも一人ふたなりの子が居るのであるが、一年生の初め頃にはまだ辛うじて見下ろせた其の顔も今では、首を天井に向けるが如く顔を上げないと目が合はないのである。だが彼らは未だに、こんな胸元にすつぽりと収まる可愛い可愛い妹が、まさか見上げるほど背を高くしないであらうと、愚かにも思つてゐるのであるがしかし、さうでも思はないとふたなりの妹が近くに居ること自体怖くて怖くて仕方なく、心百合を家に残しどこか遠い場所で生活をしたい衝動に駆られるのであつた。
  扠、読者の中には恐らくふたなりをよくご存知でない方が何名かいらつしやるであらうから、どうして此の兄弟が、可愛い、たつた一人だけの、愛しい、よく出来た妹にここまで恐怖を感じるのか説明しておかねばならぬのであるが、恐らく其れには引き続き三人の兄妹の話をするだけで事足りるであらう。何分其処に大体の理由は詰まつてゐる。-------------
ふたなりによる男性への強姦事件は度々ニュースになるし、其れに世の男達なら全員、中学校の保健体育で習つた記憶がどこかにあるから皆知つてゐるだらう。本日未明、〇〇県〇〇市在住の路上で男性が倒れてゐるのを誰々が発見し、現場に残された体液から警察は近くに住む何たら言ふ名前の女性を逮捕した。-----例へばさう云ふニュースの事である。凡そ犯人の側に「体液」と「女性」などと云つた語が出てきたら其れはふたなりによる強姦を意味するのであるが、世の中に伝えられる話は、実際に起きた出来事にオブラートにオブラートを重ね、さらに其の上からオブラートで包み込んだやうな話であつて、もはやお伽噺となつてゐる。考へてみると、大人になれば一九〇センチ近い身長に、ダンベルのシャフトのやうな金属すら曲げる怪力を持つ女性が今日の男性を暴行し無理やり犯せば、そもそも人の形が残るかどうかも怪しくなるのは容易に想像できる。実際、幾つか例を挙げてみると、ふたなりの"体液"を口から注ぎ込まれ腹が破裂し死亡した男や、行方不明になつてゐたかと思えば四肢が完全に握りつぶされ、そしてお尻の穴が完全に破壊された状態でゴミのやうに捨てられてゐた男や、ふたなりの"ソレ"に耐えきれず喉が裂け窒息死した男や、彼女たちの異常な性欲を解消するための道具と成り果て精液のみで生きる男、……………挙げだすとキリがない。二人の兄弟は、ふたなりの妹が居るからと言つて昔からさう云ふ話を両親から嫌と言ふほど聞いて来たのであるが、恐ろしいのはほとんどの被害者が家族、特に歳を近くする兄弟である事と、ふたなりが居る家庭は一つの例外なく崩壊してゐる事であつた。と云つても此の世の大多数の人間と同じやうに、彼らも話を言伝されるくらゐではふたなりの恐ろしさと云ふ物を、其れこそお伽噺程度にしか感じてゐなかつたのであるが、一年前、小学六年生の妹に、高校生二年と中学三年の兄二人が揃つて勉強を教えてもらつてゐたある夜、机の間を行つたり来たりするうちに何故かセーラー服のスカートを押し上げてしまつた心百合の、男の"モノ"を見た時、彼らの考へは変はり初めた。其の、スカートから覗く自分たちの二倍、三倍、いや、もう少しあらうか、兎に角妹の体格に全く不釣り合いな男性器に、兄たちが気を取られてゐると心百合は少し早口で、
「しばらくしたら収まると思うから見ないでよ。えっち。それよりこの文章、声に出して読んでみた? 文法間違いが多くて全然自然に読めないでしょ? 一度は自分で音読してみるべしだよ、えっちなお兄ちゃん。でも単語は覚えてないと仕方ないね。じゃあ、来週までに、この単語帳にある単語と、この文法書の内容を全部覚えて来ること。----------」
と顔を真赤にして云ふと、下の兄に高校入試を模して作つた問題を解かせつつ、上の兄が書いた英文の添削を再開してしまつた。が、ほんの数分もしないうちに息を荒げ出し、そして巨大な肉棒の先端から、とろとろと透明な液体を漏らし淫猥な香りを部屋中に漂はせ初めると、
「ど、どうしよう、…………いつもは勝手に収まるのに。………………」
と言つて兄たちに助けを求める。どうやら彼女は五〇センチ近い巨大な肉棒を持ちながら其の時未だ、射精を味はつた事が無かつたやうである。そこで、ふたなりの射精量は尋常ではないと聞いていた那央は、あれの仕方を教えてあげてと、詩乃に言ふと急いでバケツと、絶対に要らないだろうとは思ひつつもしかしたらと思つて、ゴミ袋を一つ手に取り部屋に戻つたところ、中はすでに妹が前かがみになりながら両手を使つて激しく自分のモノを扱き、其の様子を弟が恍惚とした表情で見守ると云ふ状況になつてゐる。----------何だ此れは、此れは俺の知る自慰では無い。此れがふたなりの自慰なのか。………………さうは思ひながら、ぼたぼたと垂れて床を濡らしてゐる液体を受け止めるよう、バケツを丁度肉棒の先の下に置くと、そのまま棒立ちで妹の自慰を見守つた。そしていよいよ、心百合が肉棒の先端をバケツに向け其の手の動きを激しくしだしたかと思えば、
「あっ、あっ、お兄ちゃん! 何これ! ああぁあんっ!!」
と云ふ、ひどくいやらしい声と共に、パツクリと開いた鈴口から消防車のやうに精液が吹き出初め、射精とは思へない��どおぞましい音が聞こ��て来る。そしてあれよあれよと云ふ間にバケツは満杯になり、床に白くドロドロとした精液が広がり始めたので、那央は慌ててゴミ袋を妹のモノに宛てがつて、袋が射精の勢ひで吹き飛ばぬよう、又自分自身も射精の勢ひで弾き飛ばされぬよう肉棒にしがみついた。-------
結局心百合はバケツ一杯分と、二〇リットルのゴミ袋半分程の精液を出して射精を終え、ベタベタになつた手と肉棒をティッシュで拭いてから、呆然と立ちすくんでゐる兄たちに声をかけた。
「お兄ちゃん? おにいちゃーん? 大丈夫?」
「あ、あぁ。…………大丈夫。………………」
「しぃに���は?」
彼女は詩乃の事をさう呼ぶ。幼い頃はきちんと「しのおにいちゃん」と読んでゐたのであるが、いつしか「しのにぃ」となつて、今では「の」が略されて「しぃにぃ」となつてゐる。舌足らずな彼女の声を考へると、「しーにー」と書いたほうが近いか。
「……………」
「おい、詩乃、大丈夫か?」
「お、………おう。大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ。………………」
「もう、お兄ちゃんたちしっかりしてよ。特にしぃにぃは最初以外何もしてなかったでしょ。……………て、いうか私が一番恥ずかしいはずなのに、何でお兄ちゃんたちがダメージ受けてるのん。………………」
心百合はさう言ふと、本当に恥ずかしくなつてきたのか、まだまだ大きいが萎えつつある肉棒をスカートの中に隠すと、さつとパンツの中にしまつてしまつた。
「とりあえず、片付けるか。…………」
「おう。……………」
「お兄ちゃんたち部屋汚しちゃってごめん。私も手伝わせて」
「いいよ、いいよ。俺たちがやっておくから、心百合はお風呂にでも入っておいで。------」
このやうにして性欲の解消を覚えた心百合は、毎日風呂に入る前に自慰をし最近ではバケツ数杯分の精液を出すのであつたが、そのまま流すとあつと言ふ間に配管が詰まるので、其の始末は那央と詩乃がやつてをり、彼女が湯に浸かつてゐるあひだ、夜の闇に紛れて家から徒歩数分の所にある川へ、音を立てぬよう、白い色が残らないよう、ゆつくりと妹の種を放つてゐるのであつた。空になつたバケツを見て二人の兄弟は思ふ。------------いつかここにあつた精液が、ふとしたきつかけで体に注がれたら俺たちの体はどうなる? そもそも其の前に、あの同じ男性器とは思へないほど巨大な肉棒が、口やお尻に突つ込まれでもしたらたら俺たちの体はどうなる? いや、其れ以前に、あの怪力が俺たちの身に降り掛かつたらどうなる? ふたなりによる強姦の被害者の話は嘘ではない。腹の中で射精されて体が爆発しただなんて、昔は笑いものにしてゐたけれども何一つ笑へる要素などありはしない、あの量を、あの勢いで注がれたら俺たち男の体なんて軽く吹き飛ぶ。其れにあんなのが口に、お尻に入り込まうとするなんて、想像するだけでも恐ろしくつて手が震えてくる。聞けば、顎の骨を砕かうが、骨盤を割らうが、其んな事お構ひなしにねじ込んで来ると云ふではないか。此れから先、何を犠牲にしてでも妹の機嫌を取らなくては、…………其れが駄目ならせめて手でやるくらゐで我慢してもらはねば。…………………
だが彼らは此れもまた、わざわざ時間を割いてまでして兄の勉強を見てくれるほど情に満ちた妹のことだから、まさかさう云ふ展開にはならないであらうと、間抜けにも程があると云ふのに思つてゐるのであるが、そろそろなのである。ふたなりの女の子が豹変するあの時期が、そろそろ彼らの妹にも来ようとしているのである。其れ以降は何を言つても無駄になるのである。だから今しかチャンスは無いのである。俺たちを犯さないでくださいと、お願ひするのは今しか無いのである。そして、其の願ひを叶えてくれる確率が零で無いのは今だけなのである。
「------もうこれ以上引き伸ばしても駄目だ。言いに行くぞ」
ダンベルとメモを持ち、勢ひよく立つた那央がさう云ふ。
「だけど、………それ言ったら言ったらで、ふたなりを刺激するんだろ?!」
「あぁ。…………でも、少しでも確率があるならやらないと。このままだと、遅かれ早かれ後数年もしないうちに死ぬぞ。俺ら。………………」
「くっ、…………クソッ。……………」
「大丈夫、もし妹がその気になっても、あっちは一人で、こっちは二人なんだから上手くやればなんとか��るさ、……………たぶん。………………」
「最後の「たぶん」は余計だわ。……………」
「あと心百合を信じよう。大丈夫だって、あんなに優しい妹じゃないか。きっと、真剣に頼めば聞いてくれるはず。……………」
「兄貴って、たまにそういう根拠のない自信を持つよな。………」
さう言ふと、詩乃も立ち上がり一つ深呼吸をすると、兄と共に部屋を後にするのであつた。
  心百合の部屋は、兄たちの部屋に比べると少しばかり狭いが其れでも一人で過ごすには物寂しさを感じる程度には広い、よく風が通つて夏は涼しく、よく日が当たつて冬は暖かく、東側にある窓からは枯れ葉に花を添えるやうはらはらと山に降り積もる雪が、南側にある窓からはずつと遠くに活気ある大阪の街が見える、非常に快適で感性を刺激する角部屋であつた。そこに彼女は本棚を此れでもかと云ふほど敷き詰めて新たな壁とし、嘗ての文豪の全集を筆頭に、古い物は源氏物語から諸々の文芸作品を入れ、哲学書を入れ、社会思想本を入れ、経済学書を入れ、そして目を閉じて適当に選んだ評論などを入れてゐるのであるが、最近では文系の本だけでは釣り合ひが取れてない気がすると言ひ初め、つい一ヶ月か二ヶ月前に、家から三駅ほど離れた大学までふらりと遊びに行つて、お兄ちゃんのためと云ふ建前で、解析学やら電磁気学やら位相空間論やらと云つた、一年か二年の理系大学生が使ふであらう教科書と、あとさう云ふ系統の雑誌を、合わせて十冊買つて来たのであつた。そして、春までには読み終はらせておくから、お兄ちゃんが必要になつたらいつでも言つてねと、那央には伝えてゐたのであつたが、意外に面白くてもう大方読んでしまつたし、途中の計算はまだし終えてないけれども問題はほとんど解き終はつてしまつた。またもう一歩背伸びをして新しく本を買いに行きたいが、前回大量にレジへ持つて行き過ぎたせいで、大学生協の店員にえらく不思議さうな顔をされたのが何だか癪に障つて、自分ではもう行きたくない。早くなおにぃの受験が終はつてくれないかしらん。さうしたら彼処にある本を買つて来てもらへるのに。それか二年後と言はず今すぐにでも飛び級させてくれたらいいのに。…………と、まだ真新しい装丁をしてゐる本を眺めては思ふのであつた。
なので那央が大学生になるまで数学やら物理学は封印しようと、一回読んだきりでもはや文鎮と化してゐた本たちを本棚にしまひ、昨日電子書籍として買つてみた源氏物語の訳書を、暇つぶしとしてベッドの上に寝転びながら読んでゐると、コンコンコン、…………と、部屋の扉をノックする音が聞こえて来た。
「はーい、なにー?」
「心百合、入ってもいいか?」
少し澄んだ声をしてゐるから那央であらう。
「いいよー」
ガチャリと開いたドアから那央が、朝に軽いイタズラとして曲げたダンベルと、その時残しておいたメモを手に持つて入つて来たかと思えば、其の後ろから、何やら真剣な表情を浮かべて居る詩乃も部屋に入つて来る。
「あれ? しぃにぃも? どったの二人とも?」
タブレットを枕の横に投げ出すと心百合は体を起こし、お尻をずるりとベッドの縁まで滑らせ、もう目の前までやつて来てゐる兄二人と対峙するやうにして座つた。
「あぁ、…………えとな。…………」
「ん?」
「えっと、………お、おい、詩乃、……代わりに言ってくれ。…………」
「えっ、………ちょっと、兄貴。俺は嫌だよ。…………」
「俺だって嫌だよ。後で飯おごってやるから頼む。……………」
「………言い出しっぺは兄貴なんだから、兄貴がしてくれよ。…………」
あんなに真剣な表情をしてゐた兄たちが何故かしどろもどろ、………と、云ふよりグジグジと醜い言ひ争ひをし始めたので、心百合は居心地が悪くなり一つため息をつくと、
「もう、それ元通りにして欲しくて来たんじゃないの?」
と言つて、那央の持つてゐるダンベルに手を伸ばし、トントンと叩く。が、那央も詩乃も、キュッと体を縮こませ、
「えっと、…………それは、…………ち、ちが、ちがってて…………」
などと云ふ声にならぬ声を出すばかりで一向にダンベルを渡してくれない。一体何が違つてゐるのだらう、………ま、ダンベルを持つて来たのだから直して欲しいには違ひない、と、云ふより直すと書いたのだから直してあげないと、------などと思つて、重りの部分に手をかけると、半ば引つたくるやうにして無理やりダンベルを奪ひ去つた。
「いくらお兄ちゃんたちに力が無いって言っても、こんな指の体操にもならないウェイトだと意味無いでしょ。今度はちゃんとしたの買いなよ」
さう云ふと、心百合はまず手の平を上にして「く」の字に曲がつたシャフトを、一辺一辺順に掴んでから、ひ弱な兄たちに見せつけるよう軽く手を伸ばし、一言、よく見ててね、と言つた。そして彼女が目を瞑つて、グッ…と其の手と腕に力を込め始めると、二人の兄弟がいくら頑張つても、--------時には詩乃が勝手に父親の車に乗り込んで轢いてみても、其の素振りすら見せなかつたシャフトが植物の繊維が裂けるやうな音と共にゆつくりと反り返つていき、どんどん元の状態に戻つて行く。其の様子はまるで熱した飴の形を整えてゐるやうであつて、彼らには決して太い金属の棒を曲げてゐるやうには見えなかつた。しかもさつきまで目を閉じてゐた妹が、いつの間にか此方に向かつて笑みを浮かべてゐる。……………其のあまりの呆気なさに、そして其のあまりの可愛いさに、彼らは己の中にある恐怖心が、少しばかり薄らいだやうな気がするのであつたが、ミシリ、ミシリ、と嫌に耳につく金属の悲鳴を聞いてゐると矢張り、目の前に居る一人の可憐で繊細で、人々の理想とも形容すべき美しい少女が、何か恐ろしい怪物のやうに見えてくるのであつた。
「はい、直ったよ。曲がってた所は熱いから気をつけてね」
すつかり元通りになつたダンベルを、真ん中には触れないやう気をつけながら受け取ると、那央はすぐに違和感に気がついた。一体どう云ふ事だ、このシャフトはこんなにでこぼこしてゐただらうか。---------まさかと思つて、さつきの妹の持ち方を真似してダンベルを持つてみると、多少合はないとは言え、シャフトのへこんでゐる箇所が自分の手の平にもぴつたりと当てはまる。其れにギュッと握つてみると、指先にも若干の凹凸を感じる。もしかして、--------もしかして、この手の平に感じるへこみだとか、指先に感じるでこぼこは、もしかして、もしかして、妹の手の跡だと云ふのであらうか。まさか、あの小さく、柔らかく、暖かく、ずつと触れてゐたくなるやうなほど触り心地の良い、妹の手そのものに、この頑丈な金属の棒が負けてしまつたとでも云ふのであらうか。彼はさう思いつつ、もしかしたらと自分も出来るかもしれないと思つて力を入れてみたが、ダンベルは何の反応もせずただ自分の手が痛くなるばかりであつた。
「で、他に何か話があるんだよね。何なの?」
「あ、…………えっ、と。…………」
「もう、何なの。言いたいことはちゃんと言わないと分からないよ。特に、なおにぃはもう大学生なんだから、ちゃんとしなきゃ」
と五歳も年下の妹に諭されても、情けないことに兄がダンベルを見つめたまま固まつてゐるので、恐怖心を押さえつけ幾らか平静になつた詩乃が、意を決して口を開けた。
「それはだな。…………えっと、……心百合って、ふたなりだろ? だからさ、今後気が高ぶっても俺らでやらないで欲しい。……………」
ついに言つてしまつた、だけどこれで、…………と詩乃はどこか安堵した気がするのであつたが、
「えっ、…………いや、それはちょっと無理かも。………だって。…………………」
心百合がさう云ふと、少し足を開いた。すると那央と詩乃の鼻孔にまで、いやに生々しい匂ひが漂ふ。
「………だって、お兄ちゃんたちが可愛くって、最近この子勝手にこうなるんだもん」
心百合がスカートの上からもぞもぞと股の間をいじると、ぬらぬらと輝く巨大な"ソレ"が勢いよく姿を現し、そして自分自信の力で血をめぐらせるかのやうに、ビクン、ビクン、と跳ねつつ天井へ伸びて行く。
「ねっ、お兄ちゃん、私ちょっと"気が高ぶった"から、お尻貸してくれない?」
「い、いや、………それは。…………」
「心百合、……………落ちつい、--------」
「ねっ、ねっ、お願いっ! ちょっとだけでいいから! 先っぽしか挿れないからお尻貸して!!」
心百合は弾むやうにして立ち上がると、詩乃の手首を���つた。と、その時、ゴトリ、と云ふ重い物が落ちる音がしたかと思ひきや、那央が扉に向かつて駆けて行く様子が、詩乃の肩越しに見えた。
「あっ、なおにぃどこ行くの!」
心百合は詩乃をベッドの上に投げ捨て、今にもドアノブに手をかけようとしてゐた那央に、勢ひよく後ろから抱きつく。
「あああああああああああ!!!!!!」
「ふふん、なおにぃ捕まえた~」
ほんの少し強く抱きしめただけで心地よく絶叫してくれる那央に、彼女はますます"気を高ぶらせ"、
「しぃにぃを放って、どこに行こうとしていたのかなぁ? ねぇ、那央お兄ちゃん?」
と云ひ、彼が今まで味はつたことすら無い力ではあるが、出来るだけ怪我をさせないような軽い力で壁に向かつて投げつけると、たつたそれだけでぐつたりとし起き上がらなくなつてしまつた。
「もしかして気絶しちゃったのん? 情けないなぁ。………仕方ないから、しぃにぃから先にやっちゃお」
ベッドに染み付いてゐる妹の、甘く芳しい匂いで思考が止まりかけてゐた詩乃は、其の言葉を聞くや、何とかベッドから這い出て、四つん這ひの体勢のまま何とか逃げようとしたのであるが、ふと眼の前にひどく熱つぽい物を感じるたかと思えば、ぶじゅっ、と云ふ下品な音と共に、透明な液体が床にぼとりと落ちて行くのが見えた。--------あゝ、失敗した。もう逃げられぬ。もう文字通り、目と鼻の先に"アレ"がある。俺は今から僅か十三歳の幼い、其れも実の妹に何の抵抗も出来ぬまま犯されてしまふ。泣かうが喚かうが、体が破壊されようが関係なく犯されてしまふ。あゝ、でも良かつた。最後の最後に、こんな天上に御はします高潔な少女に使つて頂けるなんて、なんと光栄な死に方であらうか。-----------------
「しぃにぃ、よく見てよ、私のおちんちん。お兄ちゃんを見てるだけでもうこんなに大きくなつたんだよ?」
さう云ふと、心百合は詩乃の髪を雑に掴んで顔を上げさせ、自身の腕よりもずつとずつと太い肉棒を無理やり見せると、其の手が汚れるのも構はずに、まるで我が子の頭を撫でるかのやうな愛ほしい手付きで、ズルリと皮の剥けた雁首を撫でる。だが彼には其の様子は見えない。見えるのはドクドクと脈打つ指のやうな血管と、男性器に沿つて真つ直ぐ走るホースのやうな尿道と、たらりたらりと垂れて床を濡らすカウパー液のみである。其れと云ふのも当然であらう、亀頭の部分は持ち主の顔と同じ高さの場所にあるのである。------まだ大きくなつてゐたのか。…………彼にはもう、久しぶりに会ふことになつた妹の陰茎が、もはや自分の心臓を串刺しにする鉄の杭にしか見えなかつたのであるがしかし、其のあまりにも艶めかしい佇まひに、其のあまりにも圧倒的な存在感に、手が打ち震えるほど惹かれてしまつてもうどんなに嫌だと思つても目が離せなかつた。
「んふふ、……お兄ちゃんには、この子がそんなに美味しそうに見えるのん?」
「………そ、そんな、……そんなことは、ない。…………」
さうは云ふものの、詩乃は瞬きすらしない。
「でもさ、------」
心百合はさう云ふと、自身の肉棒を上から押さえつけて、亀頭を彼の口に触れるか触れないかの位置で止める。
「------お兄ちゃんのお口だと、先っぽも入らないかもねぇ」
と妹が云ふので、もしかしたらこの、俺の握りこぶしよりも大きい亀頭の餌食にならないで済むかもしれない、…………と詩乃は哀れにも少しだけ期待するのであつたが、ふいに、ぴゅるっと口の中に何やら熱い液体が入り込んで来る。あゝ、もしかしてこれは。………………
「………けど、そんなに美味しそうな顔されたら諦めるのも悪いよねっ。じゃあ、お兄ちゃん、お口開けて? ………ほら、もっと大きく開けないと大変なことになるよ? たぶん」
「あっ、………やっ、………やめ、やめやめ、いゃ、ややめ、あが、………………」
………まだ彼は、心百合が途中で行為を中断してくれると心のどこかで思つてゐたのであらう、カタカタと震える唇で一言、やめてくださいと、言ほうとしてゐるのであつた。だがさうやつてアワアワ云ふのも束の間、腰を引かせた妹に両肩を掴まれ、愉悦と期待に満ちた表情で微笑まれ、クスクスとこそばゆい声で笑はれ、そしてトドメと言はんばかりに首を可愛らしくかしげられると、もう諦めてしまつたのか静かになり、遂には顔が醜くなるほど口を大きく開けてしまつた。
「んふ、もっと力抜いて? …………そうそう、そういう感じ。じゃあ息を吸ってー。………止めてー。………はい、お兄ちゃんお待ちかね、心百合のおちんちんだよ。よく味わってねー」
其の声はいつもと変はらない、中学生にしては舌つ足らずな甚く可愛いらしい声であつたが、詩乃が其の余韻に浸る前に、彼の眼の前にあつた男性器はもう前歯に当たつてゐた。かと思えばソレはゆつくりと口の中へ侵入し、頬を裂し血を滴らせるほどに顎をこじ開け、瞬きをするあひだに喉まで辿り着くと、
「ゴリュゴリュゴリュ………! 」
と云ふ、凡そ人体から発生するべきでは無い肉の潰れる音を部屋中に響き渡らせ始める。そして、彼が必死の形相で肉棒を恵方巻きのやうに持つて細やかな抵抗してゐるうちに、妹のソレはどんどん口の中へ入つていき、ボコリ、ボコリとまず首を膨らませ、鎖骨を浮き上がらせ、肋骨を左右に開かせ、あつと云ふ間にみぞおちの辺りまで自身の存在を示し出してしまつた。もうこれ以上は死んでしまふ、死んでしまふから!止めてください!! ———と彼は、酸素の薄れ行く頭で思ふのであつたが恐ろしい事に、其れでも彼女のモノはまだ半分程度口の外に残り、ドクンドクンと血管を脈打たせてゐる。いや、詩乃にとつてもつと恐ろしいのは次の瞬間であつた。彼が其の鼓動を唇に数回感じた頃合ひ、もう兄を気遣うことも面倒くさくなつた心百合が、もともと肩に痛いほど食い込んでゐた手に骨を握りつぶさんとさらに力を入れ、此れからの行為で彼の体が動かないようにすると、
「ふぅ、………そろそろ動いても良い? まぁ、駄目って言ってもやるんだけどね。良いよね、お兄ちゃん?」
と云ひ、突き抜かれて動かない首を懸命に震はせる兄の返事など無視して、そのまま本能に身を任せ自分の思ふがまま腰を振り始めてしまつたのである。
「〜〜〜???!!!! 〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「んー? なぁに、お兄ちゃん。しぃにぃも高校生なんだから、ちゃんと言わないと誰にも伝わらないよぉ? 」
「〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「あはっ、お兄ちゃん死にかけのカエルみたい。惨めだねぇ、実の妹にお口を犯されるのはどんな気分? 悔しい? それとも嬉しい?」
心百合は残酷にも、気道など完全に潰しているのに優しく惚けた声でさう問ひかける。問ひかけつつ、
「ごぎゅ! ごぎゅ! ずちゅり! ……ぐぼぁ!…………」
などと、耳を覆いたくなるやうな、腹の中をカリでぐちゃぐちゃにかき乱し、喉を潰し、口の中をズタズタにする音を立てながら兄を犯してゐる。度々聞こえてくる下品な音は、彼女の陰茎に押されて肺の中の空気が出てくる音であらうか。詩乃は心百合の問ひかけに何も答えられず、ただ彼女の動きに合はせて首を長くしたり、短くしたりするばかりであつたが、そもそもそんな音が耳元で鳴り響いてゐては、妹の可愛らしい声も聞こえてゐなかつたのであらう。
もちろん、彼もまた男の端くれであるので、たつた十三歳の妹にやられつぱなしというわけではなく、なんとか対抗しようとしてはゐる。現に今も、肩やら胸やら腹のあたりに感じる激痛に耐へて、力の入らぬ手を、心百合の未だくびれの無い未成熟な脇腹に当て、渾身の力で其の体を押し返そうとしてゐるのである。………が、如何せん力の差がありすぎて、全くもつて妹には届いてゐない。其の上、触れた場所がかなり悪かつた。
「何その手は。私、腰触られるとムズムズするから嫌だって昔言ったよね? お兄ちゃん頭悪いからもう忘れちゃったの? -----------
……………あ、分かった。もしかしてもっと突っ込んでほしいんだ!」
心百合はさう云ふと、腰の動きを止め、一つ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり怯えきつてゐる兄の顔を至極愛ほしさうに撫でる。そして、
「もう、お兄ちゃん、そんなに心百合のおちんちんが好きだなんて早く言ってくれたらよかったのに。昔、精通した時に怯えてたから嫌いなんだと思ってた。…………
--------んふ、んふふ、…………じゃあ心置きなくやっちゃってもいいんだね?」
と変はらず詩乃の頭を撫でながら云つて、彼を四つん這いの状態から正座に近い体勢にし、自身は其の体に覆いかぶさるよう前かがみになると、必死で妹の男性器を引き抜こうと踏ん張る彼の頭を両手で掴み、鼠径部が彼の鼻に当たるまで一気に、自身のモノを押し込んだ。
「~~~~~~~??????!!!!!!!!!!」
「あんっ、……お兄ちゃんのお口の中気持ちいい。…………うん? お口? お腹? ………どっちでもいいや。---------」
心百合は恍惚(ルビは「うっとり」)とした表情で、陰茎に絡みつく絶妙な快感に酔ひしれた。どうしてもつと早く此の気持ちよさを味ははなかつたのだらう。なおにぃも、しぃにぃも、ただ年齢が上なだけで、もはや何をやつても私の後追ひになつてゐるのに、私がちょつと睨んだだけで土下座をして来る勢ひで謝つて来るくせに、私がどんなに仕様もないお願いをしても、まるでフリスビーを追ふ犬のやうにすぐに飛んでいくのに、-----------特に、二人共どうしてこんなに勉強が出来ないのだらうか。私が小学生の頃に楽々と解いてゐた問題が二人には解答を理解することすら難しいらしい、それに、そもそも理解力も無ければ記憶力も無いから、一週間、時には二週間も時間をあげてるのに本一つ覚えてこなければ、読んでくることすら出来ず、しかもこちらが言つてることもすぐには分かつてくれないから、毎回毎回、何度も何度も同じ説明をするハメになる。高校で習う内容の何がそんなに難しいのだらうか、私には分からぬ。そんなだから、あまりにも物分りの悪い兄たちに向かつて、手を上げる衝動に襲われたことも何度かあるのではあるけれども、別にやつてもよかつた。其れこそあの、精通をむかえたあの夜に、二人揃つて犯しておけばよかつた。あれから二人の顔を見る度にムクムクと大きくなつて来るので、軽く手を強く握ったり、わざと不機嫌な真似をして怯えさせたりした時の顔を思ひ出して自慰をし、自分の中にもくもくと膨らんでくる加虐心を発散させてゐるのであるが、最近では押さえが効かなくなつてもう何度、二人の部屋に押し入つてやらうかしらんと、思つたことか。さう云へば他のクラスに一人��け居るふたなりの友達が数ヶ月前に、兄を嬲つて嬲つて嬲つて最後はお尻に突つ込んでるよ、と云つてゐるのを聞いて、本当にそんな事をして良いのかと戸惑つてゐたが、いざやつてみると自分の体が快楽を貪るために、自然と兄の頭を押さえつけてしまふももである。このなんと気持ちの良いことであらう、那央にぃもまずはお口から犯してあげよう、さうしよう。…………………
と、心百合は夢心地で思ふのであつたが、詩乃にとつて此の行為は地獄であらう。さつきまで彼女の腰を掴んでゐた手は、すでにだらんと床に力無く垂れてゐる。それに彼女の鼠径部がもろに当たる鼻は、-------恐らく彼女は手だけ力を加減してゐるのであらう、其の衝撃に耐えきれずに潰れてしまつてゐる。とてもではないが、彼に未だ意識があるとは思えないし、未だ生きてゐるかどうかも分からない。が、心百合の手の間からときたま見える目はまだ開いてをり、意外にもしつかりと彼女のお臍の辺りを眺めてゐるのであつた。しかも其の目には恐怖の他に、どこか心百合と同じやうな悦びを蓄えてゐるやうに見える。口を引き裂かれ、喉を拡げられ、内臓を痛めつけられ、息をすることすら奪われてゐるのに、彼は心の奥底では喜んでゐる。…………これがふたなりに屈した者の末路なのであらう、四歳離れた中学生の妹に気持ちよくなつて頂けてゐる、其れは彼にとつて、死を感じる苦痛以上に重要なことであり、別に自分の体がどうなろとも知つたことではない。実は、心百合が俺たちに対して呆れてゐるのは分かつてゐたけれども、一体彼女に何を差し上げると、それに何をしてあげると喜んでくれるのか分からなかつたし、それに間違つて逆鱗に触れてしまつたらどうしようかと悩んで、何も出来なかつた。だが、かうして彼女の役に立つてみるとなんと満たされることか。やはり俺たち兄���はあの夜、自慰のやり方を教へるのではなく、口を差し出し尻を差し出し、犯されれば良かつたのだ。さうすればもつと早く妹に気持ちよくなつてもらえたのに、……………あゝ、だけどやつぱり命は惜しい、未だしたい事は山程ある、けど今はこの感覚を全身に染み込ませなければ、もうこんなことは二度と無いかもしれぬ。-------さう思ふと気を失ふわけにはいかず、幼い顔つきからは想像もできないほど卑猥な吐息を漏らす妹を彼は其の目に焼き付けるのであつた。
「お兄ちゃん、そろそろ出るよぉ? 準備はいーい? かるーく出すだけにしておいたげるから、耐えるんだよ?」
心百合はさう云ふと、腰を細かく震わせるやうに振つて、いよいよ絶頂への最後の一歩を踏み出そうとする。そして間もなくすると、目をギュッと閉じ、体をキュッと縮こませ、そして、
「んっ、………」
と短く声を漏らし快楽に身を震はせた。と、同時に、薄つすら筋肉の筋が見える、詩乃の見事なお腹が小さくぽつこりと膨らんだかと思ひきや、其れは風船のやうにどんどん広がつて行き、男なのに妊婦のやうな膨らみになつて遂には、ほんの少し針で突つつけば破裂してしまふのではないのかと疑はれるほど大きくなつてしまつた。軽く出すからね、と云ふ妹の言葉は嘘では無いのだが、其れでも腹部に感じる異常な腹のハリに詩乃はあの、腹が爆発して死んでしまつた強姦被害者の話を思ひ出して、もう限界だ、やめてくださいと、言葉に出す代はりに彼女の腕を数回弱々しく叩いた。
「えー、………もう終わり? お兄ちゃんいつもあんなにご飯食べてるのに、私の精液はこれだけしか入らないの?」
とは云ひつつ詩乃の肩に手をかけて、其の肉棒を引き抜き始める。
「ま、いいや、お尻もやらなきゃいけないし、その分、余裕を持たせておかなきゃね」
そしてそのままズルズルと、未だ跳ね上がる肉棒をゆつくり引き抜いていくのであるが、根本から先つぽまで様々な液体で濡れた彼女の男性器は、心なしか入れる前よりおぞましさを増してゐるやうに見える。さうして最後、心百合は喉に引つかかつた雁首を少々強引に引つこ抜くと、
「あっ、ごめ、もうちょっと出る。…………」
と云つて、"最後の一滴"を詩乃の顔にかけてから手を離した。
  「ぐげぇぇぇぇぇぇぇ…………………!!!!お”、お”え”ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
一体どこからそんな音を発してゐるのか、詩乃が人間とは思へない声を出しながら体に入り切らぬ妹の精子たちを、己の血と共に吐き出して行く。が、心百合はそんな彼の事など気にも止めずもう一つの標的、つまり壁の側で倒れてゐる那央に向かつて歩みを進めてゐた。
「なおにぃ、いつまで寝たフリしてるの? もしかしてバレてないとでも思ってた?」
「あ、…………え、…………や、やめ。…………」
「えへへ、やめるとでも思ってるのん? しぃにぃはちゃんと私の愛を受け止めてくれたんだよ、………ちょっと死にかけてるけど。 なおにぃはどうなるかな?」
那央は体を起こし、そのまま尻もちをついた状態で後ずさろうとしたものの、哀れなことに後ろは壁であつた。
「お、お願いします、………やめ、やめてください。お願いします。………………」
「んー? お兄ちゃんは自分に拒否権があると思ってるのん? それに、私は今、"気持ちが高ぶってる"んだから、お兄ちゃんがするべきなのは、そんな逃げ回るゴキブリみたいに壁を這うことじゃなくて、首を立てに振ることだよ」
だが裂けた口から精子を吐き出し続けてゐる弟を見て、誰が首を縦に振れようか、ヒクヒクとうごめく鈴口からカウパー液を放出し続けてゐる肉棒を見て、誰がうんと頷けようか。彼に選択権は無いとは言つても、命乞ひくらゐはさせても良いであらう。
「お兄ちゃんさ、情けないと思わない? 妹にハグされただけで絶叫して、妹に軽く投げられただけで気絶して、妹に敬語を使いながら怯えてさ、……………そんなにこの子の餌食になりたいのん?」
「こ、心百合、……………頼む。…………頼むから落ち着いてくれ。……………」
「んふふ、お兄ちゃんって諦めが悪いよね。でも嫌いじゃないよ、そういうところ。------」
「あ、あ、…………や、やめて、…………ああぁ、や、やめてくださ…………………」
「もう、しぃにぃと同じ反応しないで! お兄ちゃんでしょ? 弟の方がまだ潔くて男の子らしかったよ? っていうかさっき私に、犯さないで、って言ったのもしぃにぃだったじゃん」
心百合は土下座のやうに下を向く那央の頭を上げさせ、肉棒の先つぽを軽く口の中へねじ込む。
「あ、あが、………。ひ、ひや。……………」
「だからぁ、………バツとしてなおにぃを犯す時は、遠慮しないことにしよっかな。-----えへへ、大丈夫だって、しぃにぃはまだ生きてるし、大丈夫大丈夫。----------」
さうして彼女は本当に容赦なく、那央の頭を手で掴み固定して、一気に自身のモノの半分ほどを突つ込んだ。そして、前のめりになつて暴れる兄の体に背中から覆いかぶさるように抱きしめると、
「よっ、と。………」
と軽い掛け声をかけ、そのままスツと、まるでお腹にボールでも抱えてゐるかのやうに、何事も無く男一人を抱えて立ち上がつた。体勢としては、妹の男性器に串刺しにされた那央が、逆立ちするやうに足を天井へ向けて、心百合に抱きかかえられてゐる、と云へば伝はるであらうか、兎に角、小学生と言はれても不自然ではない小柄な体格の女の子に、標準体型の男が上下を逆にして抱えられてゐると云ふ、見慣れぬ人にとつては異様な状況である。
「~~!!!~~~~~~!!!!!!!」
「こら、暴れないで。いや暴れてもいいけど、その分どんどん入って行くから、お兄ちゃんが困ることになるよ?」
其の言葉通り、那央が暴れれば暴れるほど彼の体は、自身の体重で深く深く心百合のモノに突き刺さつて行く。が、其れでも精一杯抵抗しようと足をジタバタ動かしてしまひ、結局彼女のモノが全部入るのにあまり時間はかからなかつた。
「もう諦めよっ? お兄ちゃんはこれから私を慰めるための玩具になるんだから、玩具は玩具らしく黙って使われてたら良いの」
だがやはり、那央は必死で心百合の太腿を掴んで彼女の男性器を引き抜こうとしてゐる。なのでもう呆れきつてしまひ、一つ、ため息をつくと、
「いい加減に、………」
と云ひながら、彼の肋骨を拉げさせつつ二、三十センチほど持ち上げ、そして、
「………して!」
と、彼の体重も利用して腕の中にある体を振り下ろし、再び腹の奥の奥にまで男性器を突つ込ませた。
「っっっっっっ!!!!!」
「あぁんっ! やっぱり男の人のお口はさいこぉ、…………!」
心百合はよだれを垂らすほどに気持ち良ささうな顔でさう云ふのであるが、反対に、自分では到底抵抗できぬ力で体を揺さぶられた那央は、其の一発で何もかもを諦めたのか手をだらりと垂れ下げ出来るだけ喉が痛くならないように脱力すると、もう静かになつてしまつた。
「んふ、…………そうそう、それでいいんだよ。お兄ちゃんはもう私の玩具なの、分かった?」
さう云ひながらポンポンと優しくお腹を叩き、そのまま兄を抱えてベッドまで向かふ。途中、未だにケロケロと精液を吐き出してゐる詩乃がゐたが、邪魔だつたので今度は彼を壁際まで蹴飛ばしてからベッドに腰掛けた。そして、
「ちゃんと気持ちよくしてね」
と簡単に云つて、彼の腰の辺りを雑に掴み直すと、人を一人持ち上げてゐるとは思へ無いほど軽やかに、------まさに人をオナホールか何かだと勘違ひさせるやうな激しい動きで、兄の体を上下させて自身の肉棒を扱き出したのであつた。股を開き局部を露出してなお、上品さを失はずに顔を赤くし甘い息を吐き綺羅びやかな黒髪を乱す其の姿は、いくら彼女が稚い顔つきをしてゐると云へ万人の股ぐらをいきり立たせるであらう。勿論其れは実の兄である詩乃も例外ではない。どころか、彼はもう随分と妹の精液を吐き出しいくらか落ち着いてきてゐたので心百合と那央の行為を薄れていく意識の中見てゐたのであるが、自身の兄をぶらぶらと、力任せに上へ下へと上下させて快楽を貪る実の妹に対しこの上なく興奮してしまつてゐるのである。なんと麗しいお姿であらうか、たとへ我が妹が俺たちを死に追ひやる世にも恐ろしい存在であらうとも、ある種女神のやうに見えてくる。そして其の女神のやうな高貴な少女が、俺たち兄弟を道具として使ひ快楽に溺れてゐる。………なんと二律背反的で、背徳的で、屈辱的な光景であらう、人生の中でこれほど美しく、尊く、猥りがましく感じた瞬間はない。------彼はもう我慢できなくなつて、密かに片手を股にやり、ズボンの上から己の粗末なモノを刺激し初めたのであるが、ふと視線に気がついてグッと上を向くと、心百合が此方を見てニタニタと其の顔を歪ませ笑つてゐた。
「くすくす、……………お兄ちゃんの変態。もしかして、なおにぃが犯されてるの見て興奮してたの?」
心百合はもう那央の体を支えてゐなかつたが、其れでも其の体は床に垂直なまま足をぶらつかせてゐる。
「ほら、お兄ちゃんも出しなよ、出して扱きなよ。知ってるよ私、お兄ちゃんが密かに私の部屋に入って、枕とか布団とかパジャマとかの匂いを嗅ぎながら自慰してるの。全部許したげるからさ、見せてよ、お兄ちゃんのおちんちん」
「あっ、………えっ、…………?」
自分の変態行為を全部知られてゐた、-----其の事に詩乃は頭を殴られたかのやうな衝撃を受け、ベルトを外すことすらままならないほど手を震えさせてしまひ、しかしさらに自身のモノが固くなるのを感じた。
「ほら早く、早く、-----------」
心百合はもう待ちきれないと云ふ様子である。其れは年相応にワクワクしてゐる、と云ふよりは獲物を見つけて何時飛びかかろうかと身を潜める肉食動物のやうである。
「ま、まって、…………」
と、詩乃が云ふと間もなく、ボロンとすつかり大きくなつた、しかし妹のソレからすると無視できる程小さい男の、男のモノがズボンから顔を出した。
「あははははっ、なにそれ! それで本当に大きくなってるの?」
「う、……ぐっ…………!」
「まぁ、いいや。お兄ちゃんはそこでそのおちんちん? をシコシコしていなよ。もう痛いほど大きくなってるんでしょ? 小さすぎて全然分かんないけど」
と云つて心百合は那央の体を掴み、再びおぞましい音を立てながら"自慰"に戻つた。そして詩乃もまた、彼女に言われるがまま自身の粗末な男性器を握ると悔しさやら惨めさやらで泣きそうになつたが、矢張り妹の圧倒的な巨根を見てゐると呼吸も出来ないほどに興奮して来てしまひ、ガシガシと赴くがまま手を動かすのであつた。だが一寸して、
「あ、しぃにぃ、見て見て、-------」
と、心百合が嬉しさうな声をかけてくる。………其の手は空中で軽く閉じられてをり、那央の体はまたもや妹のモノだけで支えられてゐる。------と思つてゐたら突然、ビクン! と其の体が暴れた。いや、其れは彼が自分から暴れたのではなく、何かに激しく揺さぶられたやうだと、詩乃は感じた。
「ほらほら、------」
ビクン、ビクンと那央の体が中身の無い人形のやうに暴れる。
「------お兄ちゃんのちっちゃい、よわよわおちんちんじゃ、こんなこと出来ないでしょ」
ベッドに後ろ手をつきながら、心百合がニコニコと微笑んでさう云つてきて、やうやく詩乃にも何が起きてゐるのか理解できたやうであつた。まさか妹は人を一人、其の恐ろしい陰茎で支えるのみならず、右へ左へとあの激しさで揺れ動かしてゐるとでも云ふのであらうか。いや、頭では分かつてはゐるけれども、全然理解が追ひつかない。いや、いや、ちやつと待つてくれ、其れよりもあんなに激しく暴れさせられて兄貴は無事であらうか。もう見てゐる限りでは全然手に力が入つて無く、足もただ体に合はせて動くだけ、しかも、かなり長いあひだ呼吸を肉棒で押さえつけられてゐる。……………もう死んでしまつたのでは。----------
「んぁ? なおにぃもう死にそうなの? ………………仕方ないなぁ、ちょっと早いけどここで一発出しとくね」
男性器を体に突つ込んでゐる心百合には分かるのであらう、まだ那央が死んでゐないといふ事実に詩乃は安心するのであつたが、先程自分の中に流し込まれた大量の精液を思ふと、途中で無理矢理にでも止めねば本当に兄が死んでしまふやうな気がした。
「んっ、…………あっ、来た来たっ……………」
心百合はさう云ふとより強く、より包むように那央を抱きしめ、其の体の中に精を放ち始める。が、もう彼の腹がパンパンに張らうとした頃、邪魔が入つた。
「やめ、………心百合、もうやめ、…………!」
「なに?」
見ると詩乃がゾンビのやうに床を這ひ、必死の力でベッドに手をかけ、もう片方の手で此方の腕を握って、しかもほとんど残つてゐない歯を食ひしばつて、射精を止(や)めさせようとしてゐるではないか。兄のために喉を潰されても声をあげ、兄のために激痛で力の入らぬ足で此方まで歩き、兄のために勝ち目など無いと云ふのに手を伸ばして妹を止めようとする献身的な詩乃の姿勢に、心百合は少なからず感動を覚えるのであつたが、残念なことに彼女の腕を握つてゐる手は自身の肉棒を触つた手であつた。
「お兄ちゃん? その手はさっきまで何を触ってた手だったっけ?」
と云ふと、那央がどうなるのかも考えずに無理やり肉棒を引き抜きベシャリと其の体を床に投げつけ、未だ汚い手で腕を握つてくる詩乃の襟首を掴んで、ベッドから立ち上がる。
「手、離して」
「は、はい。………」
「謝って」
「あ、あぁ、……ご、ごご、ごめんなさい。……………」
「んふ、…………妹をそんな化物でも見るみたいな目で見ないでもいいんじゃないのん? 私だって普通の女の子なんだよ?」
「……………」
「ちょっとおちんちんが生えてて、ちょっと力持ちで、ちょっと頭が良いだけなんだよ。それなのにさ、みんなお兄ちゃんみたいに怯えてさ、……………」
「心百合、…………」
「------本当に、たまらないよね」
「えっ?」
「でも良かったぁ、……………もう最近、お兄ちゃんたちだけじゃなくて、友達の怯えた表情を見てると勃ってしょうがなかったんだもん。……………」
「こ、心百合、…………」
「だからさ、今日お兄ちゃんたちが部屋に入ってきて、犯さないで、って言った時、もう我慢しなくて良いんだって思ったんだよ。だって、お兄ちゃんも知ってるんでしょ? ふたなりにそういう事を言うと逆効果だって。知ってて言ったんでしょ? -------」
「まって、……そんなことは。…………」
「んふ、……暴れても無駄だよ、お兄ちゃん。もう何もかも遅いんだよ、もう逃れられないんだよ、もう諦めるしかないんだよ、分かった?」
「ぐっ!うああ!!!」
「あはは、男の人って本当に弱いよね。みーんな軽く手を握るだけで叫んでさ、ふたなりじゃなくっても女の子の方が、今の世の中強いよ、やっぱり。お兄ちゃんも運動部に入ってるならもっと鍛えないと、中学生どころか小学生にすら勝てないよ? …………あぁ、でもそっか、そう云えば、この間の試合は負けたんだっけ? 聞かなくてもあんな顔して夜ご飯食べてたら誰だって分かっちゃうよ」
心百合はさう云ふと、片手で詩乃を壁に投げつけた。
「ぐえっ、…………」
「-----ま、そういう事は置いといて、中途半端に無理やり出しちゃって気持ち悪いから、さっさとお尻に挿れちゃうね。しぃにぃは後でやってあげるから、そこで見てて」
詩乃が何かを云ふ前に心百合は、ひどい咳と共に精液と血を吐き出し床にうずくまる那央を抱えて、無理やり四つん這いの体勢にする。そしてジャージの腰の部分に手をかけて剥ぎ取るように下ろすと、其処にはまるで此れからの行為を期待するかのやうにヒクヒクと収縮するお尻の穴と、ピクピクと跳ねる那央のモノが見えた。
「なぁに? なおにぃも私にお口を犯されて興奮してたのん?」
「ぢ、ぢが、……ぢがう。………」
と那央が云ふけれども激しく嘔吐しながらも自身のモノを大きくすると云ふことは、さう云ふ事なのであらう。
「んふふ、じゃあもう待ちきれないんだ。いいよ、それなら早く挿れてあげるよ。準備はいーい?」
さながら接吻のやうに心百合の男性器と、那央の肛門がそつと触れ合ふ。が、少なく見積もつても肛門の直径より四倍は太い彼女のモノが其処に入るとは到底思へない。
「だめ、だめ、だ、だめ、………あ”ぁ、ゃ、………」
那央は必死に、赤ん坊がハイハイする要領で心百合から逃げようとしてゐるのであるが、彼女に腰を掴まれてしまつては無意味であらう、ただ手と足とがツルツルと床を滑るのみである。しかし其のあひだにも心百合のモノはじつとりと品定めするかのやうに、肛門付近を舐め回して来て、何時突つ込まれるか分からない恐怖で体が震えて来る。一体どれほどの痛みが体に走るのであらうか。一体どれほどの精液を放たれるのであらうか。妹はすでに、俺たち二人の腹を満杯にするまで射精をしてゐるけれども、未だ普段行われる自慰の一回分にも達してをらず、相当我慢してゐることはこの足りない脳みそで考へても分かる。分かるが故に恐ろしい、今のうちに出来る限り彼女の精液を吐き出しておかないと大変な事になつてしまふ。凡そ"気が高ぶった"ふたなりが情けをかけ射精の途中で其の肉棒を引き抜いてくれるなんて甘い希望を持つてはいけない。況してや先つぽだけで我慢してくれるなど、夢のまた夢であらう。…………あゝ、こんなことになるなら初めからダンベルなど放つておけばよかつた、どうしてあの時詩乃に、云ひに行くぞ、などと持ちかけてしまつたのか、あのまま何も行動を起こさなければ後数年、いや、後数日は生きていけさうであつたのに。あゝ、どうして。-------さう悲嘆に暮れてゐると、遊びもここまでなのか、心百合が自身のモノの先端を、グイと此方の肛門に押し付けて来た。そして、
「んふ、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね。-------」
と云ふ悦びに打ち震えた優しい声をかけられ、腰を掴んでいる手に力が込められ、メコリと肛門が広がる感覚が走れば直ぐ其の後、気を失ふかと思はれる程の激痛で目の前が真暗になつた。
「ぐごっ、…………ごげっ、ぐぁ、……………」
絶叫しようにも、舌が喉に詰まつて声が出てこない。だけどそんな空気の漏れる音を立ててゐるうちにも妹のソレはどんどん那央の中へ入つて来て、もう一時間もしたかと彼が思つた頃合ひにふと其の動きが止まり、次いで腰を握りつぶしてゐた手の力も抜けていき、たうたう全部入つたんだ、何とか耐えきつた、と安堵して息を吸つたのであるが、しかし心百合の言葉は彼を絶望させるのに十分であつた。
「------ちょっと先っぽだけ入れてみたけど、どう? 気持ちいい?」
「ぅご、………う、嘘だろ…………」
「嘘じゃないよ。じゃ、どんどん入れてくね」
「あがああああああああああっ、がっ、あっ、…………」
那央の絶叫は心百合に再び腰を掴まれ、メリメリメリ、………と骨が軋む音が再びし始めるとすつかり無くなつてしまつた。彼は激痛からもはや目も見えず声も出ず考へることすら出来ない状態なのだが、此れが人間の本能と云ふやつなのであらう、其れでも手を前に出し足を上げ、一人の可憐な少女から逃げようとしてゐるのである。が、いつしか手が空を切り膝が宙に浮くやうになるともう何が起きてゐるのか訳が分からなくなり、心無い者に突然抱きかかえられた猫のやうに手足をジタバタと暴れさせるだけになつてしまふ。そして、さうやつて訳が分からぬうちにも心百合の陰茎は無慈悲に入つて行き、体の中心に赤々と光る鉄の棒を突つ込まれたかのやうに全身が熱くなり汗が止まらなくなり初めた頃、いよいよお尻に柔らかい彼女の鼠径部の感触が広がつた。広がつてしまつた。
「んふふ、どう、お兄ちゃん? 気持ちいーい?」
「………………」
「黙ってたら分からないよぉ?」
と、云ひつつ心百合は腰を掴んでゐた手で那央の体を捻り其の顔を覗き込む。
「あがっ、…………」
「私はお兄ちゃんに気持ち良いかどうか、聞いてるんだけど」
「こ、こゆ、…………」
「んー?」
那央は黙つて首を横に振つた。当然であらう、自分の拳ほどの太さの陰茎を尻にねじ込まれ、体が動かないようにと腰を掴んでゐた手でいつの間にか持ち上げられ、内蔵を滅茶苦茶にしてきた陰茎で体を支えられ、もう今では中指の先しか手が床に付かないのである。例へ激痛が無くとも、腹に感じる違和感や、極度に感じる死の恐怖や、逃げられぬ絶望感から決して首を縦に振ることは出来ないであらう。
「そっか、気持ちよくないんだ。…………」
「はやく抜いてく、…………」
「------ま、関係無いけどね」
気にしないで、気にしないで、ちやんと気持ちよくしてあげるから、と続けて云ふと心百合は再び那央の腰を掴み直す。
「こ、こゆり!!! やめて!!!」
「うるさい! 女の子みたいな名前して、おちんちんで突かれたぐらいで文句言わないで!」
この言葉を切掛に、心百合は骨にヒビが入るほど其の手に力を入れ、陰茎を半分ほど引き抜いていく。そして支えを失つてもはや力なくだらりと垂れる兄を見、
「んふ、………」
と妖艶に色づいた息を漏らすと、彼のお尻に勢ひよく腰を打ち付けた。
「ぐがあぁ!!!!!」
「あぁん、お尻もさいこぉ。……………お兄ちゃんの悲鳴も聞こえるし、お口より良いかも、…………」
さう云ふと、もう止まらない。兄がどんなに泣き叫ぼうが、どんなに暴れようが自身の怪力で全て押さえ込み、其の体を己の腰使ひでもつて何度も何度も貫いて行く。そして初めこそ腰を動かして快楽を貪つてゐたが、次第に那央の事が本当に性欲を満たすための道具に見えてくると、今度は自分が動くのでは無くさつきと同じやうに彼の体を、腕の力だけで振り回して肉棒を刺激してやる。
「あぎゃっ! いぎぃ! おごぉっ!!-------」
「あはっ、お兄ちゃん気持ちよさそう。…………良かったねぇ、妹に気持ちよくしてもらえて。嬉しいでしょ?」
「こ、ごゆぅっ!! ごゆり”っ!!! ぐあぁっ!!!」
「なぁに、お兄ちゃん? 止めてなんて言わないでよね。いつもお勉強教えてあげてるのにあんな反抗的な目で見てきて、悔しかったのか知らないけど、どれだけ私が我慢してたか分かる?」
「じぬっ!! じぬがら!!! ゃめ!!!」
「…………んふ、もう大変だったんだから。毎日毎日、お風呂に入る前の一回だけで満足しなきゃいけなかった身にもなってよ」
「ぐぎぃっ!!こゆっ!!あ”あ”ぁっ!!!」
「でもさ、思うんだけど、どうしてあんな簡単な入試問題すら解けないのん?  私あの程度だったら教科書を読んだら、すぐに解けるようになってたよ? しかも小学生の頃に。入試まで後一ヶ月も無いのに大丈夫?
……………もうお兄ちゃんの代わりに大学行ったげるからさ、このままこんな風に私の玩具として生きなよ。そっちの方が頭の悪いお兄ちゃんにはお似合いだよ、きっと、たぶん、いやぜったい」
傷だらけの喉をさらに傷つけながら全力で叫ぶ那央を余所に、心百合は普段言ひたくて言ひたくて仕方無かつた事を吐露していくのであつたが、さうしてゐると自分でも驚くほどあつと云ふ間に絶頂へ向かつてしまつて、後数回も陰茎を刺激すると射精してしまひさうである。全く、この出来損ないの兄は妹一人満足させることが出来ないとでも云ふのであらうか。本当はこのまま快感の赴くがままに精液を彼の腹の中に入れてやりたい所だけど、折角手に入れた玩具を死なせてしまつては此方としても嫌だから、途中で射精を止めなければならぬ。いや、未だ壁の側で蹲つてゐるしぃにぃが居るではないか、と云ふかもしれないが人の腹の容量などたかが知れてゐて、満杯にした所で未だ未だ此の体の中には精液が波打つてゐる。-------あゝ、ほんの一合程度しか出ない男の人が羨ましい。見ると、なおにぃの股の下辺りに白い点々が着いてゐるのは多分彼の精液なのだと思ふが、なんと少ないことか。私もあのくらいしか出ないのであれば、心置き無く此の情けない体の中に精を放つことが出来るのに。……………
「------そろそろ、……そろそろ出るよ、お兄ちゃん。ちゃんと私の愛、受け止めてあげてね」
さう云ふと心百合は今までの動きが準備体操であつたかの如く、那央の体を激しく揺さぶり始める。そして最後、那央のお尻に自分のモノを全て入れきり目を閉じたかと思ひきや、
「んっ、んっ、………んん~~~。…………」
と、其の身を震わせて精子を実の兄の体の中で泳がせるのであつた。が、矢張り彼女にもどこか優しさが残つてゐたのか数秒もしないうちに、じゅるん、と男のモノを引き抜き那央を床に捨て、どろり、どろりと、止めきれ無かつた精液を其の体の上にかけると、でも矢張りどこか不満であつたのか壁際で自身の小さな小さなモノを扱いてゐたもう一人の兄の方を見た。
「しぃにぃ、おまたせ。早くしよっ」
其の軽い声とは逆に、彼女の肉棒はもう我慢出来ないと言はんばかりに、そして未だ未だ満足ではないと云はんばかりに大きく跳ね床に精液を撒き散らしてゐる。一体、妹の小さな体のどこにそんな体力があるのか、もうすでに男を滅茶苦茶に嬲り、中途半端とは云へ三回も射精をしてゐると云ふのに、此のキラキラと輝くやうな笑顔を振りまく少女は全く疲れてなどゐないのか、これがふたなりなのか。-----------
「あ、えぁ、…………」
「? どうしたの? なにか言いたげだけど。………」
「そ、その、きゅ、きゅうけい。…………」
「--------んふ、何か言った? 休憩? 私、休憩なんて必要ないよ。それにお兄ちゃんも十分休んだんだから良いでしょ。……ねっ、早くっ、早くお尻出して?」
「い、いや、いや、…………………」
起き上がつてドアまで駆け、そして妹に捕まえられる前に部屋を後にする、……………さう云ふ算段を詩乃は立ててゐたのであるが、まず起き上がることが出来ない。なぜだ、足に力が入らない、----と思つたが、かうしてゐる内にも心百合は近づいて来てゐる。其の肉棒を跳ね上げさせながらこちらに向かつて来てゐる。-------もうじつとしてなど居られない。何とか扉まで這つて行き、縋り付くやうにしてドアノブに手をかける。が、其の時、背中に火傷するかと思はれるほど熱い突起物が押し付けられたかと思つたら、ふわりと、甘い甘い、でも決して淑やかさを失ふことの無い甚く魅惑的な匂ひに襲はれ、次いで、背後から優しく、優しく、包み込まれるやうにして抱きしめられてゐた。そして首筋に体がピクリと反応するほどこそばゆい吐息を感じると、
「おにーちゃんっ、どこに行こうとしてるのん? まさか逃げようとしてたのん?」
と言はれ、ギュウゥゥ、………と腕に力を入れられてしまふ。
「ぐえぇ、………ぁがっ!………」
「-----んふふ、もう逃げられないよぉ。しぃにぃは今から私に、……この子に襲われちゃうの。襲われてたくさん私の種を吐き出されちゃうの。------ふふっ、男の子なのに妊娠しちゃうかもね」
「ご、ごゆり、…………あがっ、………だれかたすけて。……………」
と云ふが、ふいにお腹に回されてゐた手が膝の裏に来たかと思へば、いつの間にかゆつくりと体が宙に浮いて行くやうな感じがした。そして顔のちやつと下に只ならぬ存在感を感じて目を下に向けると、すぐ其処には嫌にぬめりつつビクビクと此方を見つめて来る妹の男性器が目に留まる。そして、足を曲げて座つた体勢だと云ふのに遥か遠くに床が見え、背中には意外と大きい心百合の胸の感触が広がる。…………と云ふことはもしかして俺は今、妹に逆駅弁の体位で後ろから抱きかかえられて、情けなく股を開いて男のモノを入れられるのを待つてゐる状態であるのだらうか。まさか男が女に、しかも実の妹に逆駅弁の体勢にされるとは誰が想像できよう、しかし彼女は俺の膝を抱え、俺の背中をお腹で支えて男一人を持ち上げてしまつてゐる。兄貴は心百合のモノが見えなかつたからまだマシだつただらうが、俺の場合は彼女の男性器がまるで自分のモノかのやうに股から生えてゐて、……………怖い、ただひたすらに怖い、こんなのが今から俺の尻に入らうとしてゐるのか。------
「あれ? お兄ちゃんのおちんちんは? どこ?」
詩乃はさつき自身のモノをしまふことすら忘れて扉に向かつたため、本来ならば逆駅弁の体位になつて下を向くと彼の陰茎が見えてゐるはずなのだが、可哀想なことに心百合のモノにすつぽりと隠れてしまつて全く見えなかつた。
「あっ、もしかしてこの根本に感じてる、細くて柔らかいのがそうなのかな? いや、全然分かんないけど」
心百合のモノがゆらゆらと動く度に詩乃のモノも動く。
「本当に小さいよね、お兄ちゃんのおちんちん、というか男の人のおちんちんは。私まだ中学一年生なのにもう三倍、四倍くらい?は大きいかな。…………ほんと、精液の量も少ないし、こんなのでよく人類は絶滅しなかったなぁって思うよ。-----まぁ、だから女の人って皆ふたなりさんと結婚していくんだけどね。お兄ちゃんも見てくれは良いのによく振られるのはそういうことなの気がついてる? 女の人って分かるんだよ、人間としての魅力ってものがさ。------」
「こゆり、…………下ろして。…………」
「あはは、役立たずの象徴を私のおちんちんで潰されてなに今更お願いしてるのん? ふたなりに比べて数が多いってだけで人権を与えられてる男のくせに。お兄ちゃんは、お兄ちゃんとして生まれた時点で、もう運命が決まってたんだよ。…………んふ、大丈夫大丈夫、心配しないで。もしお兄ちゃん達に人権が無くなっても、私がちゃんと飼ってあげるから、私がちゃんとお兄ちゃんにご飯を食べさせてあげるからさ、そんな不安そうな顔する必要ないよ、全然。--------」
「こゆ、り。…………」
「だって私、お兄ちゃんたちのこと大好きなんだもん。なおにぃにはあんなこと言ったけど、なんていうか二人とも、ペット? みたいで可愛いんだもん。だから普通の男の人よりは良い生活をさせてあげるから、さ、-----」
と、其の時、詩乃の体がさらに浮き始める。
「…………その代わりに使わせてね、お兄ちゃんたちの体。--------」
さう云ふと心百合は、早速兄の体を使おうと一息に詩乃を頭上へ持ち上げて、彼の尻穴と自身の雁首を触れ合はせる。意外にも詩乃が大人しいのはもう諦めてしまつたからなのか、其れとも油断させておいて逃げるつもりだからなのか。どちらにせよ動くと一番困るのは内蔵をかき乱される兄の方なのだから静かに其の時を待つてゐるのが一番賢いであらう。
「んふ、…………じゃあ、挿れるね。--------」
詩乃は其の言葉を聞くや、突然大人しく待つてなど居られなくなつたのであるが、直ぐにメリメリと骨の抉じ開けられる音が聞こえ、そして股から体が裂けていくやうな鈍い痛みが伝わりだすと、体全体が痙攣したやうに震えてしまひもはや指の一本すら云ふことを聞いてくれなかつた。其れでも懸命に手足を動かそうとするものの体勢が体勢だけにそもそも力が入らず、ひつくり返された亀のやうに妹の腹の上でしなしなと動くだけである。だがさうしてゐるうちにも、心百合は力ずくで彼の体に男のモノを入れていき、もう其の半分ほどが入つてしまつてゐた。
「そんな無駄な抵抗してないで、自分のお腹を触ってみたら? きっと感じるよ、私のおちんちん」
妹に言はれるがまま、詩乃はみぞおち辺りを手で触れる。すると、筍が地面から生えてゐるやうにぽつこりと、心百合の男性器が腹を突き破らうと山を作り、そして何やら蠢いてゐるのが分かつた。
「あっ、……はっ、………はは、俺の、俺の腹に、あぁ、……………」
「んふふ、感じた? 昔こういうの映画にあったよね、化物の子供が腹を裂いて出てくるの。私怖くて、お兄ちゃんに抱きついて見れなかったけど、こんな感じだった?」
「-----ふへ、………ふへへ、心百合の、こゆり、………こゆ、…………」
「あはっ、お兄ちゃんもう駄目になっちゃった? しょうがないなぁ、………」
と云ふと、心百合は腰を引いて詩乃の体から陰茎を少し引き抜く。
「-----じゃあ、私が目を覚まさせてあげる、………よっ!」
「っおごぁっっっ!!!!!」
其のあまりにも強烈な一撃に、詩乃は顔を天井に上げ目を白くし裂けた口から舌を出して、死んだやうに手をだらんと垂れ下げてしまつた。果たして俺は人間であるのか、其れとも妹を気持ちよくさせるための道具であるのか、いや、前者はあり得ない、俺はもう、もう、…………さう思つてゐると二発目が来る。
「ぐごげぇえええっっっっ!!!!!」
「んー、…………まだ目が醒めない? もしもーし、お兄ちゃん?」
「うぐぇ、……げほっ、げほっ、………」
「まだっぽい? じゃあ、もう一発、………もう一発しよう。そしたら後はもうちょっと優しくしたげるから!」
すると、腹の中から巨大な異物が引き抜かれていく嫌な感覚がし、次いで、彼女も興奮しだしたのか背後から艶つぽい吐息が聞こえてくるようになつた。だけど、どういふ訳か其の息に心臓を打たせてゐると安心して来て、滅茶苦茶に掻き回された頭の中が少しずつ整頓され、遂には声が出るようになつた。
「こ、こゆり。………」
「うん? なぁに、お兄ちゃん」
「も、も、ももっと、もっと、…………」
もつと優しくしてください、と云ふつもりであつた。しかし、
「えっ、もっと激しくして欲しいのん? しぃにぃ、本当に良いのん?」
「い、いや、ちが、ちが、…………」
「----しょうがないなぁ。ほんと、しぃにぃって変態なんだから。……でもさすがに死んじゃうからちょっとだけね、ちょっとだけ。-------」
さう云ふと心百合は、今度は腰を引かせるだけでなく詩乃の体を持ち上げるまでして自身の陰茎を大方引き抜くと、其のまま動きを止めてふるふると其の体を揺する。
「準備は良い? もっと激しくって言ったのはお兄ちゃんなんだからね、どうなっても後で文句は言わないでね」
「あっ、あっ、こゆり、ぃゃ、……」
「んふ、-------」
と、何時も彼女が愉快な心地をする際に漏らす悩ましい声が聞こえるや、詩乃は床に落ちていつた。かと思えば、バチン! と云ふ音を立てて、お尻がゴムのやうに固くも柔らかくもある彼女の鼠径部に打ち付けられ、体が跳ね、そして其の勢ひのまま再び持ち上げられ、再度落下し、心百合の鼠径部に打ち付けられる。-------此れが幾度となく繰り返されるのであつた。もはや其の光景は遊園地にある絶叫系のアトラクシオンやうであり、物凄い勢ひでもつて男が上下してゐる様は傍から見てゐても恐怖を感じる。だが実際に体験をしてゐる本人からするとそんな物は恐怖とは云へない。彼は自分ではどうすることも出来ない力でもつて体を振り回され、腹の中に巨大な異物を入れられ、肛門を引き裂かれ、骨盤を割られ、さう云ふ死の苦痛に耐えきれず力の限り叫び、さう云ふ死の恐怖から神のやうな少女に命乞ひをしてゐるのである。だが心百合は止まらない。止まるどころか彼の絶叫を聞いてさらに己を興奮させ、ちやつと、と云つたのも忘れてしまつたかの如く実の兄の体をさらに荒々しく持ち上げては落とし、持ち上げては落とし、其の巨大な陰茎を刺激してゐるのであつた。
「あがあぁぁぁ!!!こゆ”り”っっっっ!!!!ぅごぉあああああっぁぁ!!!!」
「えへへ、気持ちいーい?」
「こゆりっっ!!こゆり”っ!!!!!こゆっ!!!!」
「んー? なぁに? もっと激しくって言ったのはお兄ちゃんでしょう?」
「あぁがぁぁっっ!!!ごゆ”り”っ!!!」
「んふふ、しぃにぃは本当に私のこと好きなんだねぇ。いくら家族でも、ちょっとドキドキしちゃうな、そこまで思ってくれると。------」
腰を性交のやうに振つて、男を一人持ち上げ、しかも其の体を激しく上下させてなお、彼女は息を乱すこともなく淡々と快楽を味はつてゐる。が、其の快楽を与えてゐる側、------詩乃はもう為すがまま陵辱され、彼女の名前を叫ぶばかりで息を吸えてをらず、わなわなと震えてゐる唇からは血の流れを感じられず、黒く開ききつてゐる瞳孔からは生の活力���感じられず、もはや処女を奪はれた生娘のやうに肛門から鮮血を垂れ流しつつ体を妹の陰茎に突き抜かれるばかり。でも、其れでも、幸せを感じてゐるやうである。何故かと云つて、彼ら兄弟は本当に妹を愛してゐるのである。其の愛とは家族愛でもあると同時に、恋ひ人に向ける愛でもあるし、崇敬愛でもあるのである。そしてそこまで愛してゐる妹が自分の体を使つて喜んでくれてゐる、いや彼の言葉を借りると、喜んで頂けてゐるのである。…………此の事がどれほど彼にとつて嬉しいか、凡そ此の世に喜ぶ妹を見て嬉しくならない兄など居ないけれども、死の淵に追ひ込まれても幸せを感じるのには感服せざるを得ない。彼を只の被虐趣味のある変態だと思ふのは間違ひであり、もしさう思つたのなら反省すべきである。なんと美しい愛であらうか。---------
「んっ、………そろそろ出そう。……………」
さうかうしてゐると、心百合はどんどん絶頂へと向かつて行き、たうたう、と云ふより、此れ以上快感を得てしまつては途中で射精を止める事が出来ない気がしたので、さつさと逝つてしまはうと其の腰の動きをさらに激しくする。
「ひぎぃ!!うぐぇ!!ごゆりっ!!じぬ”っ!!!じぬ”ぅっっっっ!!!!」
死ぬ、と、詩乃が云つた其の時、一つ、心百合のモノが暴れたかと思ひきや、唯でさへ口を犯された際の名残で大きく膨れてゐた彼の腹がさらに膨らみ、そして行き場を失つた精液が肛門をさらに切り裂きながら吹き出て来て、床に落ちるとさながら溶岩のやうに流れていく。
「あっ、あっ、ちょっ、…………そんなに出たら、………あぁ、もう! 」
心百合は急いで詩乃の体から男性器を取り出し床に捨てると、本棚に向かつて流れていく精液を兄の体を使つて堰き止め、ついでにもう殆ど動いてゐない那央を雑巾のやうに扱つて軽く床を拭き、ほつとしたやうに一息ついた。
「まだ出したり無いけど、ま、この辺にしておこうかな。………これ以上は本が濡れちゃう。-------」
続けて、
「なおにぃ、しぃにぃ、起きて起きて、-------」
だが二人とも、上と下の口から白くどろどろとした液体を吐き出し倒れたままである。
「-----ねっ、早く起きて片付けてよ。でないともう一度やっちゃうよ?」
と云つて彼らの襟を背中側から持ち、猫をつまむやうにして無理やり膝立ちにさせると、那央も詩乃も一言も声を出してくれなかつたがやがてもぞもぞと動き始め部屋の隅にある、彼女がいつも精液を出してゐるバケツを手に取り、まずは床に溜まつてゐる彼女の種を手で掬い取つては其の中に入れ、掬い取つては其の入れて"行為"の後片付けをし始めたので、其の様子を見届けながら彼女もウェットティッシュで血やら精液やらですつかり汚れてしまつた肉棒を綺麗にすると、ゴロンとベッドに寝転び、実の兄としてしまつた性交の余韻に、顔を赤くして浸るのであつた。
  那央たち兄弟は体中に感じる激痛で立つことすら出来ず、ある程度心百合の精液をバケツに入れた後は這つて家の中を移動し、雑巾を取つて来て床を拭いてゐたのであるが、途中何度も何度も気を失ひかけてしまひ中々進まなかつた。なんと惨めな姿であらう、妹の精液まみれの体で、妹の精液がへばり付いた床を雑巾で拭き、妹の精液が溜まつてゐるバケツの中へ絞り出す。こんな風に心百合の精液を片付けることなど何時もやつてゐるけれども、彼女に犯されボロ雑巾のやうな姿となつた今では、自分たちが妹の奴隷として働いてゐるやうな気がして、枯れ果てた涙が自然と出て来る。-------あゝ、此の涙も拭かなくては、…………一つの拭き残しも残してしまつては、俺たちは奴隷ですらない、人間でもない、本当に妹の玩具になつてしまふ。だがいくら拭いても拭いても、自分の体が通つた場所にはナメクジのやうな軌跡が残り、其れを拭こうとして後ろへ下がるとまた跡が出来る。もう単��な掃除ですら俺たちは満足に出来ないのか。異様に眠いから早く終はらせたいのに全く進まなくて腹が立つて来る。が、読書に戻つて上機嫌に鼻歌を歌ふ妹のスカートからは、蛇のやうに”ソレ”が、未だにビクリ、ビクリと、此方を狙つてゐるかの如く動いてゐて、とてもではないがここで性交の後片付けを投げ出す事など出来やしない。いや、そもそもあれほど清らかな妹にこんな汚い仕事などさせたくない。心百合には決して染み一つつけてなるものか、決して其の体を汚してなるものか、汚れるのは俺たち奴隷のやうな兄だけで良い。-------さう思ふと急にやる気が出てきて、二人の兄達は動かない体を無理やり動かし、其れでも時間はかかつたが綺麗に、床に飛び散つた精液やら血やらを片付けてしまつた。
「心百合、………終わったよ。-----」
「おっ、やっと終わった? ありがとう」
「ごめんな、邪魔してしまって。…………」
「んふ、………いいよいいよ、その分気持ちよかったし。-------」
さう心百合が云ふのを聞いてから、兄二人は先程まで開けることすら出来なかつた扉から出て行こうとする。
「あ、お兄ちゃん、------」
心百合が二人を呼び止めた。そして、
「-----また明日もしようね」
とはにかみながら云ひ二三回手を振つたのであるが、那央も詩乃も怯えきつた顔をさらに怯えさせただけで、何も言はずそそくさと部屋から出ていつてしまつた。
「詩乃、…………すまん。…………」
心百合の部屋を後にして扉を閉めた後、さう那央が詩乃に対して云つたけれども、云はれた本人は此れにも特に反応せず自分の部屋に、妹の精液が入つたバケツと共に入りほんの一時間前まで全ての切掛となつたダンベルがあつた位置に座り込んだ。其のダンベルと云へば、結局心百合の部屋から出る時に那央が持つてゐたのであるが、自室に入る際に階段を転げ落ちてゐく音がしたから多分、兄と一緒に踊り場にでも転がつてゐるのであらう。もう其れを心配する気力も起きなければ、此れ以上動く体力も無い。なのに体中に纏わりつく心百合の精液は冬の冷気でどんどん冷え、さらに体力を奪つて来てゐる。ふとバケツの方に目を向けると、二人の血でほんのりと赤みがかつた妹の精液が半分ほど溜まつてゐるのが見える。-------一体これだけでも俺たち男の何倍、何十倍の量なのであらうか。一体俺たちがどれだけ射精すれば此の量に辿り着けるのであらうか。一体どれほどの時間をかければ人の腹を全て精液で満たすことが出来るのであらうか。しかも此の液体の中では、男の何百、何千倍と云ふ密度で妹の精子が泳いでゐると云ふではないか。…………恐ろしすぎる、もはやこの、精液で満たされぱんぱんに張つた腹が彼女の子供を授かつた妊婦の腹のやうに見えてくる。もし本当にさうなら、なんと愛ほしいお腹なのであらうか。………だが残念なことに、男は受精が出来ないから俺たちは心百合の子供を生むことなど出来ぬ。其れに比べて彼女の子供を授かれる女性の羨ましさよ、あの美しい女神と本来の意味で体を交はらせ、血を分かち合ひ、そして新たな生命を生み出す、-------実の妹の嬲り者として生まれた俺たち兄弟とは違ひ、なんと素晴らしい人生を歩めるのであらう。だが俺たちの人生も丸切無駄では無いはずである。なんせ俺達は未だ生きてゐる。生きてゐる限り心百合に使つて頂き喜んで頂ける。もう其れだけで十分有意義である。詩乃はパキパキと、すつかり乾きつつある心百合の精液を床に落としながら立ち上がると、バケツに手をつけた。
--------と、丁度其の時、妹の部屋の方向から、ガチャリと扉の開く音がしたかと思えば、トントントン…………、と階段を降りていく軽い音が聞こえてきた。さう云へば、ふたなりも男と同じで射精をした後はトイレが近くなるらしいから、階段下のトイレに向かつたのであらう。と、詩乃は思ひながら其の足音を聞いてゐたのであるが、なぜか途方もない恐怖を感じてしまひ、心百合が階段を降りきるまで一切の身動きすら取らず、静かに息を潜めて心百合が戻つて来るのを待つた。----今ここで扉を開けてしまつては何か恐ろしいことになる気がする。…………其れは確かに、今しがた瀕死になるまで犯された者の「感」と云ふものであつたがしかし、もし本当に其の感の云ふ通りであるならば、先程階段を転げ落ちていつた那央はどうなるのであらう。多分兄貴も俺と同じやうに全く体が動かせずに階段下で蹲つてゐるとは思ふが、もし其処に心百合がやつて来たら? いや、いや、あの心優しい心百合の事だし、しかももう満足さうな顔をしてゐたのだから、運が良ければ介抱してくれてゐるのかもしれない。————が、もし運が悪ければ? 此の感が伝えてゐるのは後者の方である、何か、とんでもなく悪い事が起こつてゐるやうな気がする。さう思ふと詩乃は居ても立つても居られず、静かに静かに決して音を立てぬようそつと扉を開けると、ほとんど滑り落ちながら階段を降りて行く。途中、那央が居るであらう踊り場に妹の精液の跡があつたが、兄は居なかつた。でも其の後(ご)もずつと精液の跡は続いてゐたので何とか階段を降りきつたのであらうと一安心して、自身も階段を降りきると、確かに跡はまだあるのであるが、其処から先は足を引きずつたやうな跡であり、決して体を引きずつたやうな跡ではなくなつてゐる。…………と云ふことは、兄はもしかして壁伝いに歩いたのだらうか、------と思つてゐたら、ふいに浴室の方から声が聞こえてきたやうな気がした。最初は虫でも飛んでゐるのかと思つたけれども、耳を澄ますと矢張り、毎日のやうに聞いてゐる、少し舌足らずで可愛いらしい声が、冬の静寂の中を伝はつて確かに浴室から聞こえてくる。そしてよく見れば、兄の痕跡は其の浴室へ向かつて伸びてゐる。------いや、もしかしたら精液まみれで汚れてしまつた那央を綺麗にしようと、心百合がシャワーを浴びせてゐるのかもしれない、それに自分もティッシュで拭くだけでは肉棒を綺麗にした気がせず、もしかするとお風呂にでも浸かつてゐるのかもしれない。…………が、浴室に近づけば近づくほど嫌な予感が強くなつてくる。しかも脱衣所の扉を開けると、ビシュビシュと何やら液体が、無理やり細い管から出てくるやうな音、-----毎夜、妹の部屋から聞こえてくる、兄弟たちを虜にしてやまない"あの"音が聞こえてくる。
「あ、あぁ、…………」
と声を漏らして詩乃は、膝立ちになり恐る恐る浴室の折戸を引いた。すると心百合は其処に居た。此方に背を向け少し前のめりになり、鮮やかな紺色のスカートをはためかせながら、腕を大きく動かして甘い声を出して、確かに其処に居た。-----
「こ、こゆり。……………」
「うん? もしかして、しぃにぃ?」
心百合が此方に振り向くと、変はらずとろけ落ちさうなほど可愛い彼女の顔が見え、そして彼女の手によつて扱かれてゐる、変はらず悪夢に出て来さうなほどおぞましい"ソレ"も見え、そして、
「あんっ、…………」
と、甲高い声が浴室に響いたかと思えば腕よりも太い肉棒の先から白い液体が、ドビュルルル! と天井にまで噴き上がる。
「あぇ、こゆり、………どうして、…………」
「んふ、やっぱり中途半端って良くないよね。もうムラムラしてどうしようも無かったから、いっその事、我慢しないことにしたんだぁ。……………」
其の歪んだ麗しい微笑みの奥にある浴槽からは、彼女の言葉を物語るかのやうに入り切らなかつた精液がどろどろと床へと流れ落ちていつてゐる。……………いや其れよりも、其の精液風呂から覗かせてゐる黒いボールのやうな物は、其れに縁にある拳のやうな赤い塊は、もしかして、-------もしかして。………………
「あ、兄貴、…………」
もう詩乃には何が起きてゐたのか分かつてしまつた。矢張り、良くないことが起きてゐた。其れも、最悪の出来事が起きてゐた。-------射精は途中で無理やり止めたものの合計で四回も絶頂へ達せられたし、其れなりに出せて満足した心百合は、兄たちが"行為"の後片付けをしてゐる最中に読書を再開したけれども、矢張りどこか不満であつたのか、鼻歌を歌ふほど上機嫌になりつつも悶々としてゐたのであらう。何しろあの時妹の肉棒は、惨めに床を拭く俺たちを狙ふかのやうに跳ねてゐたのである。其れで、兄たちが居なくなりやうやく静かになつて、高ぶつた気もついでに静まるかと思つたのだが、意外にもさうはならない、むしろ妹の男性器はどんどん上を向いていく。あゝ、やつぱりお兄ちゃんたちの顔と叫びは最高だつた。あれをおかずにもう一発出したい。………と思つても、兄たちがバケツを持つていつてしまつたので処理をしようにも出来ず、結局我慢しなければならなかつたが其のうちすつかり興奮しきつてしまひ、ベッドから起き上がつて、一体どうしたものかと悩んだ。------いや別に、バケツはあと一つ残つて居るのだから今ここで出してもよいのだけれども、其れだけで収まつてくれる筈がない。お風呂も詰まつてはいけないとお兄ちゃん達が云ふから駄目だし、外でするなんて、夜ならまだしもまだ太陽が顔を覗かせてゐる今は絶対にやりたくない。そもそも外でおちんちんを出して自慰をするなぞ其れこそ捕まつてしまふ。どうしよう。…………さう云へばさつき、さういえば階段からひどい音が聞こえたのは少し心配である。もう二人は歩くことも出来ないのかしらん。可哀想に、歩くことも出来ないなんて其れは、其れは、……………もはや捕まえて欲しいと自分から云つてゐるやうなものではないか。さうか、お兄ちゃんたちをもう一回犯せば良いんだ。どつちが階段を下りていつたのかは知らないが、歩くことも出来ないのだから下の階には二人のうちどちらかが未だ居るはず、いや、もしかしたら二人共居るかもしれない。-------と、考へると早速部屋から出て、階段を下り、下で倒れてゐた那央を見つけると服を汚さぬよう慎重に風呂場まで運んで、そして、----ここから先は想像するのも嫌であるが、心置きなく犯して犯して犯して犯したのであらう。浴室に散乱するシャンプーやらの容器から那央が必死で抵抗したのは確かであり、其れを己の力で捻じ伏せ陵辱する様は地獄絵図であつたに違いない。いや、地獄絵図なのは今も変はりは無い。何故かと云つて心百合のモノは此方を見てきてゐるのである。ビクビクと自身を跳ね上げつつ、ヒクヒクと鈴口を蠢かしてゐるのである。此の後起こることなんて直ぐ分かる。-------逃げなくては、逃げなくては、………逃げなくてはならぬが、心百合がほんのりと頬を赤くし愉快な顔で微笑んで来てゐる。あゝ、可愛い、………駄目だ、怖い、怖くて足が動かない。…………と、突つ立つてゐると心百合の手が伸びてくる。そして、抱きしめられるやうにして腰を掴まれるとやうやく、手が動くようになり床に手を付けた。が、もう遅い。ずるずると、信じられない力で彼の体は浴槽の中へ引きずり込まれていく。どれだけ彼が力強く床に手を付けようとも、どれだけ彼が腰に回された手を退けようとも、ゆつくりと確実に引きずり込まれていく。そして、またたく間に足が、腰が、腹が、胸が、肩が、頭が、腕が、どんどん浴室の中へと入つて行き、遂に戸枠にしがみつく指だけが外に出てゐる状態となつた。が、其の指も、
「次はしぃにぃの番だよ? 逃げないで。男でしょ?」
と云はれより強く引つ張られてしまふと、耐えきれずにたうたう離してしまつた。
「やめてええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
心百合と云ふたつた一三歳の、未だぷにぷにと幼い顔立ちをした妹の力に全く抗えず、浴室に引きずり込まれた詩乃はさう雄叫びを上げたが、其の絶叫も浴室の戸が閉まると共に小さくなり、
「んふ、………まずはお口から。-------」
と、思はず恍惚としてしまふほど麗しい声がしたかと思ひきや、もう聞こえなくなつてしまつた。
  (をはり)
3 notes · View notes
aikider · 3 years
Text
[ネタバレ注意]りゅうおうのおしごと![ラノベ書評]
書評と称してはいるが、思い入れが強すぎて実際のところ感想にとどまってしまうであろうことは先に断っておく。
昨年からラノベに溺れ続ける日々が続き、その中で出会ったのがりゅうおうのおしごと!である。
そもそもは月姫リメイクをプレイしてシエルノーマルエンドで号泣して多大な精神的ダメージを負ったことがきっかけである。あまりにつらかったのでエクストラエンドを進めることができず、別のものを読もうと思ってソードアート・オンラインを読み返したのだが(しかも紙が面倒くさいのでKindleでも買ってしまった)、今度はSAOが楽しすぎて2ヶ月近くにわたり何度もSAOを周回してしまった。プログレッシブとユナイタルリングが面白すぎるのがあかんのや。劇場版プログレッシブを控えていたので予習としてはちょうどよかったのだが、映画を2回見たあともSAOばっかり読んでるのはどうなんよ、と思っていくつかラノベの傑作を漁る旅に出たのだ。もともとKindleでは歴史と経済と哲学の本しか読まず、小説はほとんど読まないし、ラノベは紙のみとしていたのだが、その縛りをSAOで捨てた。その後は冴えない彼女の育て方、キノの旅、青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない、狼と香辛料などを買って、今回取り上げるりゅうおうのおしごと!に至る。
ただし自分は原作から入ったわけではなく、コミック版から入った。そもそもこの作品はアニメ化されていたので、アニメ全録している(のにほぼ見てない)自分はタイトルぐらいは知っていたのだが、『まんがタイムきららあたりが将棋4コマでもやってんのをアニメ化したのかな』という程度の認識しかなかった。そして昨年(2020年)夏、DMMが電子書籍で無料だの50%オフだのの大盤振る舞いを続けていたので、そのときにコミック版1巻が無料だか半額だかになっていたのを買ってあったのだ。それをいつか読むつもりで1年以上も積んであったことになる。自分はDMMはコミック専用としており、セールで買っておいて後から読むというのを繰り返しているためDMMだけで凄い量になりつつある。その中から「次に何読もうかな」と思ったときに「そういえばDMMでコミック1巻だけ買ったな」と思って読んだのがりゅうおうのおしごと!との出会いである。これが意外に面白くて最新刊まで読んでしまった。
先にコミックの感想を言ってしまうと、悪くはないがもう一つ足りない感じ。あるいは、小説を漫画化する上で困難な部分をあえて避け(特に戦法の描写で盤駒がほとんど出てこない)、比喩表現で押し通している。また、要所ではおおむねきちんと描いているが、ちょくちょくキャラクターの作画が崩れる。それでも最新巻まで買ってしまったのは、キャラクター造形が優れており、さらにそこにあるドラマが熱いからである。これは明らかに原作を読んでみなくては、と思ってKindleストアで5冊まとめて買った(10分以内に買えば5%ポイント還元なので)。
で、ようやく原作である。将棋+ロリ+ハーレムもの+浪花節+ヴァンガード+VIPネタ+ニコ生ネタという闇鍋感ハンパない組み合わせのだが、蓋を開ければそれぞれの要素が驚くほど噛み合っている。16歳の若き竜王・九頭竜八一が連敗続きのところ、転がり込んできた9歳の女子小学生・雛鶴あいを内弟子に取る。そこで重要なのが八一の師匠・清滝鋼介。トッププロではないものの、幼少期の八一が指導対局を何度も申し込んだ結果、内弟子になったというプロ棋士である。さらに、八一の2週間前に入門していた年下の姉弟子・空銀子は14歳、かつ奨励会員ながら、女流のタイトルを2つも保持する史上最強の女性棋士。清滝は自分を超える八一の才能を育てることができるのか悩み、兄弟子である月光会長に託すことも考えたが、月光の説得で結局は自らの弟子とすることを決意し、八一と銀子は卓越した才能で切磋琢磨して強くなった。幸運もあって史上最年少竜王となった八一は連敗するが、師匠である清滝に背中を押されてあいを弟子に取り、あいの応援(対局室に迷い込んだあいが読み始めたことで相手に詰みがあることに気付く)で連敗をストップし復活する。それなんてロウきゅーぶ?と思うところだが、今や絶滅した内弟子制度と師弟愛を熱く丁寧に描写することで説得力を持たせている。八一は弟子を迎えたという責任感だけではなく、あいの指し手から吸収した新たな戦術でさらに強くなる。八一はあいをどう育てるか悩むが、月光会長から依頼された指導対局で神戸の極道(廃業済み)の頭目の孫にして9歳の天才少女・夜叉神天衣(あい)を弟子に取る。卓越しているがゆえに競い合う相手のいなかったあいは、天衣というライバルを得て強くなり、孤高だった天衣も少しずつ心を開いていく…というストーリー。
とにかく全編浪花節で泣かせに来る。師弟愛を始めとした将棋の絆、そして将棋という熱い勝負の世界である。
主観を八一だけでなくすべてのキャラクターに振り、さまざまな視点から物語を描いている。それによりほぼすべてのキャラクターが主人公かというくらいキャラ立ちしている。もちろん八一が主人公ということになってはいるが、実際には八一は主人公の一人にすぎず、あい、天衣、銀子も主人公と言ってよいであろう。そのため、描かれるテーマも女性棋士である。
女性棋士といえば女流棋士が想起されると思うが、両者は異なり、女流棋士の地位は特殊である。プロ棋士と同じように対局はあるし、女流タイトル戦もある。しかし女流棋士は棋力においてプロ棋士に劣る。それどころかプロ棋士の養成機関たる奨励会の底辺にも劣る。にもかかわらずなぜ女流棋士という存在があるのかといえば、一つは女性への将棋の普及のため、もう一つは将棋ファンにとってのアイドル的な役回りである。将棋ファンの大半は基本的に男であり、である以上きれいどころがいたほうが喜ばれ金も集まるという大人の事情がある。
たとえば作中に登場する鹿路庭はその美貌とスタイルを十全に生かしたあざといキャラ作りとトークと立ち回りで将棋ファンの人気を集め、言わば『オタサーの姫』のように見える。さらにあいたちを盤外戦術で追い込むなど序盤では悪役のように描かれる。しかし本人は勝負としての将棋を諦めておらず、強くなるために男性プロ棋士の研究会に参加するが、周囲からは『婚活』などと陰口を叩かれ、その影響で研究会が消滅するため『研究会クラッシャー』などと呼ばれる。また普及の仕事に活かすため司会者養成講座を受けるなど仕事熱心な人なのだが、そのプロ意識が逆に批判を引き寄せてしまい、女流棋士への批判を一身に引き受ける。そういう状況を全て知っていながらも、あくまでも将棋アイドルとしての立ち居振る舞いを貫き、弱音を吐かずに戦い続ける。のちに関東へ移籍したあいに女流棋士のお仕事を叩き込むという重要なポジションでもあり、さらに本当に惚れた相手に告白するシーンは泣きますよ。
そうした女流棋士の有り様を、女流名跡釈迦堂は『晒し者』と表現する。女性であるというだけで見下され、しかし将棋普及のために利用される女流棋士は、いうなれば客寄せパンダに過ぎないとも言える。その有り様を変えるには女流棋士ではない女性プロ棋士を生み出すほかない。釈迦堂はそのためならば自らが踏み台となっても構わないと考え、他門の空銀子を指導して史上初の女性プロ棋士に育てようとする。のみならず、女流棋士として初めて弟子をとり、『女流棋士に育てられた初めてのプロ棋士』神鍋歩夢は『次の名人』とまで言われるほど将来を嘱望されるという熱い展開。『女だって将棋はできる』という理念をすでに半分は実現してみせたわけである。脚に障害を抱えながらも、己を犠牲にしてでもその信念を貫く釈迦堂さんがかっこよすぎて惚れる。そりゃ歩夢くんもプロポーズするわね。
釈迦堂に夢を託された空銀子は、女流棋士ではない奨励会員でありながら、女流タイトルを2冠持つ史上最強の女性棋士。しかし銀子は先天性の心疾患を患っている。自然治癒することがあると記載されているため、中隔欠損を伴うような心奇形の一種だろうか。ただし中隔欠損だけでは五生率50%とならないので、複合的な心奇形であろう。ついでに言えば銀子はアルビノで、他の疾患を合併している可能性がある。銀子の主治医である明石は元奨励会員であり、将棋の才能を持つ銀子を、療養のため清滝に託す。そして八一と二人で最強の棋士に成長する。一足先にプロ入りした八一を追って、銀子はプロ入りを賭けた3段リーグで戦う。
銀子はその中で、元奨励会員でアマチュアで抜群の成績を残して奨励会に戻ることを許された辛香と戦うことになる。辛香は盤外戦術で銀子を揺さぶるが、戦いの中で実は辛香と銀子の意外な接点が明らかになる。
辛香は奨励会退会後、学歴がないこともあって底辺職を転々としたが、「二番目に辛い職場は将棋を知っている人のいる職場」と語るほど将棋に苦しめられた。しかし辛香によれば一番辛い職場は人が死ぬ職場であるという。辛香はかつて己が清掃員として務めた施設で子どもたちにせがまれて将棋を教えていたのだが、実はこの施設は難病の子どもたちが療養するホスピスであり、幼い銀子とも戦ったことがあるのだ。そもそも辛香が明石の同期で、同じ大阪に住んでいるのだからありうる話である。ホスピスの子どもたちは退所できたとしても、それは死の直前に家族と過ごすための短い期間に過ぎない。あまりの残酷な事実にその施設をやめたが、のちにメディアで有名になった「浪速の白雪姫」がかつて将棋を教えた銀子であることを知り、一念発起して再び将棋に挑むのである。
三段リーグではさらに、年齢制限を迎えても延長で粘りついにプロ入りできなかった鏡洲、天才ゆえ孤独を抱えていたが奨励会で鏡洲と親友になれた小学生プロ棋士椚創多、鏡洲が落ちたことで想定外のプロ入りをしてしまい混乱する坂梨、かつて奨励会員であったが現在は将棋会館の職員となった《校長先生》峰など、数々の魅力的なキャラクターと濃密なドラマが展開される。ここではひとりひとりのキャラクターが生々しさをもって描かれる。さらに三段リーグは奨励会員が本気で殺し合う「地獄の三段リーグ」であり、その過酷さを容赦なく描き出すところもこの作品の優れた点である。おそらくプロ棋士や奨励会員、元奨励会員たちに膨大なインタビューを行ったからこそ描けるものであろう。
《校長先生》こと峰の口からは、奨励会に入ったときには将棋が大好きだった子どもたちが、辞めるときには二度と駒も見たくないというほど苦しみ、せっかく強くなったのにその強さすら恨むようになるという奨励会制度の残酷さが語られる。
しかし銀子の三段リーグの裏で行われる、八一と於鬼頭の帝位戦では、奨励会制度の問題点に対する問題提起もなされる。於鬼頭はプロとして初めて将棋ソフトと戦って敗北したが、ソフトの序盤の構想力に衝撃を受け、序盤で独自性を出せないのであればもはやプロ棋士である意味がないと考え、プロ棋士になれなかった奨励会員に対する責任として一度は死を選んだ。だが結果的に救命された於鬼頭は、それまでの自分の将棋を全て捨て、将棋ソフトだけを使って研究することで帝位を獲得するレベルに上り詰める。於鬼頭の面白いところは、単に将棋ソフトで研究するのみならず、棋譜から将棋の才能を数値化するソフトを開発してしまう。それによって奨励会で苦しむ奨励会員が減るのではないかというわけだ。隠者のような生活をしながらもそうした考えに至るのは、自らが踏み台にしてきた過去の奨励会員たちへの贖罪なのか、未来の奨励会員たちへの優しさゆえか。いずれにせよ機械のような於鬼頭の裏には意外な情の深さがあって面白い。さらに彼を慕う若手の二ツ塚未来との会話も、どこか優しさを感じさせる(というか於鬼頭の子供はたぶん二ツ塚であろう)。
現代将棋が研究会によって短期間で変遷してきた歴史を織り交ぜ、戦型の流行や革命をドラマに絡ませるなど筆力が非常に高い。同時に、研究会によって定跡が整備される一方、それが名人が統治する中世的世界であると批判するのが、おそらく作中最高の才能を持つ天才少年、椚創多であるところが面白い。さらに将棋ソフトによって変容した将棋界、そしてAIによってこれから起こる将棋界の革命も示唆している。とはいえ硬い話は一部であり、冒頭からJS研などロリネタ、アニメ・マンガ・ラノベ等のオタクネタ(もちろんロウきゅーぶネタも入る)、2chネタ(今となっては懐かしいVIPのノリ)、ニコニコネタを散りばめているので基本的にはやわやわのやわめ。適当に読んでも面白いので手軽にどうぞ。
0 notes
toubi-zekkai · 4 years
Text
 2月の末、冬も終わりかけたこの季節に、消え入る蝋燭の最期の煌めきのような寒さがここ数日続いている。そして、今日は昼を過ぎた頃に強くなり始めた雨の音で目を覚ました。薄暗い部屋を覆う厚い布地のカーテン越しにもはっきりと聞こえる雨の音が覚めかけた意識を再び混濁とした暗闇のうちに沈めようとしたが、喉の渇きがそれを阻止した。重たい上半身を起こしてベッドの上に座ると、目の前のテーブルの上に置かれたグラスを目で探した。
 黒い下地に白い薔薇が刺繍された布に覆われた長��形のテーブル、その上辺には枯れかけた花をいけた花瓶が3つ、大きな白い貝殻、鋭い角を持った山羊の横顔が描かれた今は亡き国家の紙幣の上に二つの銀細工の指輪に嵌められた緋色とサファイアのビー玉、錆びた銀色のハーモニカ、濃いピンク色をした霧吹きなどが置かれていた。テーブルの真ん中には空になったウィスキーの小瓶が二つとまだなみなみ入っているウィスキーの小瓶が一つ、空になったチリ産赤ワインの瓶が一つ、飲み残した氷結とビールの缶が一つずつ、ターボライター、金色の小型懐中電灯など置かれ、その隙間に時折硝子のグラスを見つけることが出来る。硝子のグラスは全部で三つあって、二つは空で一つは黒い液体が注がれてあった。黒い液体の入ったグラスを手に取ると、そのままそれを口にして、喉の渇きを舌先で潤した。冷たいコーヒーの苦味のあとにほんのりとウィスキーの香りが鼻先に抜けていった。これは最近、考え付いたカクテルで、まずはグラスにアイスコーヒーを8分目まで注いで、それからグラスの縁から零れない程度にウィスキーを注ぎ込み、スプーンを使ってそれを混ぜる。コーヒーの艶のない黒色にウィスキーの煌めく琥珀色を注入すれば、黒い艶を放つ、この美しいカクテルは完成する。これを飲めばカフェインによる意識の覚醒とアルコールによる沈静という相反する矛盾が一瞬の間に完成する。それは酔っているという状態でもなければ覚醒しているという状態でもなく、かといってこれを飲む前の平常の状態では更にない。明晰な意識を持ちつつも幻想的な夢のなかへ、この感覚を喩えるならばそんな言葉になるだろう。  一杯、二杯と喉元に黒いカクテルを流し込みながら、タバコの煙を吸っては鼻と口から吐き出している。降り続く雨音の休符を縫うように昨夜の記憶が断続的に現れては消え、倦怠を伴った影となって目の前に重たく横たわる今日の姿を浮かび上がらせた。それは巨大な体躯を横たえた豚の死体で、腐りかけ始めた身体からは胸をむかつかせる腐臭を放っているのだった。こいつをどうやって調理し、食べるのか、それもなるべくなら美味しく。一日の命題はそこで始まりそこで終わっていた。しかし調理方法がわからず途方に暮れているというのが現実で、とりあえずアルコールと白い煙で死んだ豚が放つ悪臭を消してごまかしているというのも現実だった。外に出ようか、家に居て本を読もうか、それとも絵を描こうか、いや友達と飲みに行こうか、豚を調理する方法を考えながら一日の大半は過ぎていき、食べきることの出来ない腐った豚に怯えながら眠りに落ちる、すると翌日更に巨大で更に強烈な腐臭を放つ豚の死体が目の前に置かれているのだった。しかし一日を一週間、或いはもっと長い年月で俯瞰してみれば事実は逆で、巨大で豊満な豚の肉体に潰された自分の腐乱死体の山が一枚の絵として浮かんでくるのだった。  部屋の空気が紫煙に満たされ始めたので、厚いカーテンの布地を捲り、窓を開けて外の空気を部屋に入れる。白雨に包まれた街の姿が茫漠と浮かび、網戸の網には張り付いた雨が光の粒となって輝いている。雨の音に混じって鳥の鳴く声が聞こえてきて、「今日は、昼間公園に集まり野を歩いて餌を探す鳩たちも休日だな」と思い、それから駅舎の天井の隅で寒さに震えて身を寄せ合う鳩たちのことを考えた。薄暗く冷たい天井の片隅で鳩たちはただひたすら雨が上がり今日一日が終わり太陽が戻ってくるのを待っている。  テーブルの左隅には文庫本が五冊積まれていた。下から、生田耕作「ダンディズム 栄光と悲惨」内田百間「ノラや」内田百間「第一阿呆列車」ボードレール「悪の華」ヘミングウェイ「移動祝祭日」。ヘミングウェイの「移動祝祭日」を手に取って読んだ。1920年代のパリでヘミングウェイはサン・ミッシェル通りのカフェに座って、カフェオレやラム酒を飲みながら、小説を書いている。キューバの年老いたヘミングウェイが小説家として売れる前の青春時代のパリを思い出を綴るように綴ったヘミングウェイの遺作。削ぎ落とせるだけの無駄つまりは感傷をを削ぎ落とした白く逞しい骨格のようなヘミングウェイの文体という勝手な妄想と1920年代のパリという芸術を愛する者ならば誰もが羨望の眼差しを送る時代と場所の幸福な結合点が舞台とあって近所の古本屋で手に入れた本。章ごとに表題があって最初の「サン・ミシェル広場の気持ちのいいカフェ」という章だけを読んだ。「それから、天気が悪くなった。」で始まる出だしは確かに簡潔明瞭で無駄がない。それから天気が悪くなったのだろう。まず、怠惰な芸術家の出来損ないや何をしているのかわからない不潔な身なりをした酔っ払いたちが真昼間から日が沈むまで飲んで騒いでいる不潔で退廃的で賑やかなカフェを描き、それと対比して清潔で静かなサン・ミシェル通りのカフェを描写する。ヘミングウェイは清潔で気持ちのいいサン・ミシェル通りのカフェで、時折目の前に座った黒髪の美女に気を取られたりしながらも、せっせと執筆に励む。一仕事終えてラム酒の酔いも手伝って気持ちよくなりながら、妻と一緒に暮らすホテルへと帰る。訳注は読み飛ばして一気に約20ページの一章を読み終える。途中に出てきた蹲踞式便器という言葉に躓き、頭の中で想像してそれが和式便器のことだと理解し、少し笑った。  ヘミングウェイの小編を読み終えて、その20ページは全部で何文字あるか計算してみたら約14700文字で、400字詰め原稿用紙に換算すれば約36枚。文章を書いてみればわかるが、これだけ書くのはなかなか大変な作業で、それが冗漫な文章でなく簡潔明瞭な文章であったら尚更の如くである。その事実に触発されて、こうして文章を書き始めたのだが、今のところ約3000文字、原稿用紙に換算すればまだ7枚弱である。ヘミングウェイには程遠い。  ヘミングウェイに限ったことではないと思うが、ヘミングウェイの小説を読んでいて、段落というものの効用や意味というものについて考えた。段落は、最初の退廃的で不潔なカフェから道に、道からサン・ミシェル通りのカフェに、場所や視点が移り変わったときに設けられる区切りのようなもの。段落から段落への移り変わりはそれだけで小さな旅ともいえる。  テーブルの上に置かれた三つの花瓶の水を替える。三つの花瓶を持って階段を降り、水を替えて、また階段を登るという作業はなかなかに面倒くさい。それでも毎日水を替えている、にも関わらず花瓶にささった花の多くは黒ずみ枯れてきてしまった。全身を蝕まれ、病室で弱っていく患者を毎日世話する看護師のような憂鬱に襲われる。そこに進行する黒い死を間近に毎日見なくてはならない。  しかし、今日は家に人の気配がない。いつもなら誰かはいるはずなのだが誰もいない。猫は毛布にくるまって寝ている。その横で昨夜食べなかった夕飯を食べている。白い大きな皿にはソースで味付けされた肉のカルビとレタスや黄色いパプリカを細かく刻んだサラダが載っている。レンジで温めると器によそったご飯と一緒に食べている。白い湯気を漂わせ、甘いソースと肉汁に包まれた豚の肉は旨く、ご飯を食べる速度も早くなる。サラダには黄色いからしをつけて食べる。お酒は控え、烏龍茶を飲む。物を食べている気配がしているのにも関わらず、猫が毛布から出てくる気配はなかった。起きているならば、皿の置かれたテーブルの近くに顔を寄せて「くんくん」と匂いを嗅ぐのだが、きっと熟睡しているのだろう。  食いしん坊な猫だが、料理の匂いを嗅ぐ以上のことは決してしない猫だった。内田百間の「ノラや」のノラも同じだったので、これは猫全般の特質なのかもしれない。餌を食べる場所、トイレをする場所、眠る場所、爪を研ぐ場所がいつも同じなのもノラと一緒だった。自分の決めた、或いは慣れ親しんだ方法は決して曲げない、ある種のストイックさが猫たちにはあるのかもしれない。百間先生自身も決して走らないという信念から、走れば間に合う汽車に乗り遅れ、約二時間も駅舎で汽車を待ったという逸話を「第一阿呆列車」のなかで披露している。  猫のストイシズムも百間先生のダンディズムも、時間的資源的効率を第一に掲げそれに基づいて暮らす現代人の目には甚だ効率の悪いある意味意固地なある意味怠惰なものとして映るのかもしれない。同じ仕事を完成するということにしても、1時間でそれをやってのけるという人の方が1日かかってそれをやる人よりも尊ばれるというのは現代における自明の理である。時間的効率を上げるということは無駄を減らすということであり、無駄のなかには物事に対するこだわりも這入るのである。こだわり、という言葉を云うとき、それは極めて個人的な感覚を指すだろう。客観的なこだわり、などという感覚は想像することも出来ない。共通のこだわり、ということなら少しわかるかもしれない。だが、それも個人的なこだわりの感覚がたまたま共有出来ているに過ぎない。こだわりの集団も、それに属さずそれを解さない人々にとっては滑稽な姿でしかない。こだわりと滑稽、ストイシズムと滑稽、ダンディズムと滑稽は切り離すことが出来ない。  ダンィズムの祖イギリスのブランメルは徹底した美意識を持ち、ネクタイの結び方について何通りも考案したと云うが、それもブランメル流の美意識を持たない人々にとっては滑稽な姿として映るだろう。ネクタイが美しく結べても何の役に立つこともなければ、そんなことを考えていること自体時間を無駄にしているように見える。しかし、そんなに早く急いで君はどこに辿り着くのか?答えは明白、墓場だ。人間ならば生物ならば死を避けることなど出来るはずもない。速く生きるということは喩えるなら新幹線に乗って墓場に直行するようなもので、それは確かに効率的かもしれない。しかし歩いて行けば見える風景や感じられる感情も新幹線に乗ってしまっては見たり感じたりすることは出来ない。それは目的や結果だけで、プロセスのない人生と云える。要するに中身のない人生。  谷崎潤一郎の短編小説「刺青」の冒頭は「其れはまだ人々が愚かと云う貴い徳を持って居て…」という一文で始まる。愚かとは損得及び利害を越えて人を支配し魅了する状態だと云える。わかっているけど、やめられない、そんな状態とも云える。このわかっているけどにおけるわかっているとは、それをすれば損をする、時間的資源的効率を甚だ害する、という意味に他ならない。愚かであることは滑稽であるし、滑稽なことは愚かでもある。ともに効率を重視する現代社会では避けなくてはならないこととされている。谷崎があの一文を書いたということは谷崎が生きていた時代には既に現代の効率功利主義が社会に根付いていたことを想像させる。  生活は確かに便利になった。百年前、二百年前の生活を考えれば想像を絶する進歩である。しかし、それは愚かさや滑稽さ、つまりはこだわりと美意識を犠牲にして獲得した進歩である。獲得した進歩が最後にもたらしたもの、それは中身のない人生であり、空虚さ、虚無である。そして進歩した人々は埋まらない空虚さを埋めようとして、美意識やこだわりをもった芸術家や職人が作った作品、或いは愚かな人間が話す滑稽な物語を、金で買うのである。それは自ら殺してしまった自分の人生を赤の他人に演じてもらうという、ただの偽装に過ぎない。ブランメルの美意識はあくまでブランメルの美意識に過ぎないし、百閒先生の滑稽さはあくまで百間先生の滑稽さに過ぎない。  もっと言ってしまえば、進歩主義の行く末は昆虫類いやウィルス類の生と云える。効率の良い生という意味ではウィルスや病原菌ほど効率の良い生はない。単細胞生物から始まった人類の生が再び単細胞生物へと還っていくのである。ジョルジュ・バタイユは人間の美しさの定義について「動物からどれだけかけ離れた存在か」ということが一つの基準になると云った。その定義から云えば、効率功利的な人間は単細胞的生物に近く、これほど醜い種は存在しない。しかし、これらの醜い種は数限りなく繁栄している、ウィルス類や病原菌類が繁栄しているように。効率功利を重視する進歩主義者たちが、愚かで滑稽でこだわりをもった美しい種族に、生存競争をして勝つことは当たり前かもしれない。だからこそ、「滅びゆくものこそ美しい」のだ。  
0 notes
cosmicc-blues · 4 years
Text
かため号食物誌①
作家の吉田健一は「旅の途上で味わう酒と飯ほど美味なものはない(大意)」と書いている(ほんとうは実際の著書から文章を引用したかったのだが、いくら本棚を探しても案外そのような文句はみつからず、仕方がないので吉田健一がそう書いたということにする)が、なるほどこれには大いに賛同するところである。いまはむかし、夏の苗場山でJ店のタイカリーを食し、これがあまりに美味しかったので、山に登った本来の目的など忘れて日に七度、八度とおかわりをし、平地に帰ってからもその味が忘れられず、ついには洒落た(当時の収入からは少々お高めの)実店舗にまで出向いたのだった。が、ひと口食べ、ふた口食べ、なんだ、こんなものだったか、となった。あの時の落胆はいまでも忘れまい。つまりは旅の気分というやつが魔法のスパイスが如く働いていたのにちがいない。いっしょにJ店に行った当時の恋人はデートだ、デートだ、とはしゃいでいたが、私のほうはといえば、落胆のあまりもの凄く不機嫌になり、不機嫌になると無口になる質なのでブスッとして喋らなくなり、帰りの道中でもまるで口をきかず、恋人を怒らせ、向こうのほうでも口をきかなくなり、そっちがその気なら本当に美味いカリーに出会うまでは金輪際いっさい言葉を発すまいと心の内で神に誓いを立てたのだった。帰宅してから、なんて大変な誓いを立ててしまったものだと後悔した。うっかりJ店なんかに行くんじゃなかった! が、災いを転じて福となす、という言葉のその通り、この厄災がかえって「カリーへの道」という新たなる旅の扉をひらかせ、なんとその翌月にも運命の出会いを果たしてしまったのだ。
その日は、先輩E氏の誘いで、先輩O氏も交じえて博多ラーメンを食べていた。辛味が好きだし、高菜も好きなので、はしたないこととは承知で卓上の辛子高菜をドバドバ入れて食べる。が、どうやらこれがあまりよろしくなかったらしく、白く美しかったスープは汚ならしく濁ってしまうし、少々味がくどい。これでは替え玉どころではなくなってしまう。ふと隣を見ると、同じく辛党のはずのE氏は辛子高菜なんぞにはまるで目もくれず、紅生姜をちょこんと添えただけで、いかにもお上品にラーメンを啜っている。白色のスープは紅生姜の色を溶かして薄桃色を帯びている。私のドブ色のスープとは雲泥のちがいだ。さてはE氏、なかなかの食通だな、と感じ入り、例のカリーについて相談してみる(もちろん神に誓いを立てているので、声帯は震わさず、紙ナプキンにペンで書いた)。するとE氏はその下にP店とだけ書き殴り、また麺をズルズルと啜りはじめる。そして、全ての麺を啜り終えるすこしまえに替え玉をあらかじめ注文しておき、ひと玉めを食べ終えたところでふた玉めがタイミングよく提供される。達人芸! と私は唾を呑んだ。いっぽうで反対隣のO氏(なかなかの大食いである)が食べ終わっているようなので、替え玉いかないんですか?(もちろん神に誓いを立てているので云々)と尋ねると、O氏は急に鼻息を荒立てて言うのだった。
「いままでよぉ、飯といえば、大盛りにするのが当たり前だったけどよぉ、このあいだ気づいたんだよ。飯なんていくら食っても数時間後にはまた腹が減るじゃんか。だから俺はもう飯なんか食わねえ! そんなんじゃ、金がいくらあっても足らねえじゃん」
私はいきなり極端なことを言いはじめるO氏がけっこう好きである。その後、この店は二回までは替え玉が無料なのだと教えてあげると(もちろん神云々)、O氏は残り少ないスープで二回の替え玉をしっかりあつらえたこと、ご馳走してくれるはずだったE氏の財布にお金がまったく入っておらず、結局O氏が三人分の料金を支払ったことは吹聴しにくいのだが。ちなみにお金を出してくれたO氏をおだてるために、さっきのアイデアは天才的ですね、と太鼓を叩くと、
「だろぉ、お前ももう何にも食わないほうがいいぜ」
と、得意そうに言うのだった。
何はともあれ、E氏の殴り書いたP店である。あんな名人芸を見せつけられたうえに、お支払いまでO氏に譲ってしまう手腕、只者ではあるまい。さっそく翌日にもP店に出向いた、苦い思い出のよぎるタイカリー屋である。が、そこで私は運命の出会いを果たし、ひと月ぶりに言葉を発することを許されたのだった。P店については多くを語るまい。というより語りはじめたらキリがない。じっさいにある夜、24時間営業の飲み屋で偶然P店好きと出会ってしまい、そこでP店の素晴らしさを語らい合っていると、いつのまにか三日三晩が過ぎていた。なのでここではいくつかのエピソードを書き記すのみに留めることにする。まず第一としてはアレであろう。ある日のバイトの休憩中、P店でカリーを食すと、あまりの美味しさに自分がバイト中の身であることを忘却し、無意識のうちに帰宅していたのだった。バイト先から電話がかかってきて、ようやくバイト中だったことを思い出し、まさかカリーで我を失っていたとはいえず、咄嗟に口からでたデマカセが轢き逃げにあって気絶していた、だった。いやいや、まさか、さすがにこれは作り話だろうと思われる方もいるかもしれないが、P店のカリーを食べたことのある人に話すと、誰しもが、わかる、だよな、と当たり前のように頷くのである。私はつくづく言っている、P店のシェフはいにしえのファウスト博士のように地獄の神メフィストフェレスと禁断の契約を交わし、あの悪魔のようなカリーのレシピを手に入れたのにちがいあるまい、と。これも突拍子のない夢物語などではなく、P店を知っている者であれば、誰しもが首を大きく縦に振って頷く話なのである。
ちなみにこれはカリーの味とはまったく無関係なのだが、店は悪魔と契約を交わした枯れ枝のように身細い店主と、そのチンチクリンな奥様と、学生アルバイトの三人でまわしていて、この学生アルバイトとというのが代々美男美女揃いで有名である。チンチクリンな奥様も大変クセのある人物として名が通っており、カリーの美味しさに対してお客が集まり過ぎないための一役を買っているらしい。私は週に七度、八度と店に通っていたから、ついにクセのあるチンチクリンな奥様とも心を通わすことができ、ある日、アルバイトの誘いがあった。私は冷静を装って、ちょっと考えさせてくださいと言いつつ、心の内では歓喜乱舞の騒ぎだった。もしかすると私は、自分でそうと気づいていなかっただけで、じつは美男美女に類する顔つきなのではないか、と。かくして、店休日を挟んだその翌々日、満を持して誘いを受けようと店に出向くと、チンチクリンの奥様はぶっきらぼうに言うのであった。
「まあ、その話ならもう決まっちゃったのよ。紹介するわ、彼よ」
屈辱であった。厨房から出てきたのは、私の顔面などとは比べものにならない誰しもがそうと頷くであろう美男子であった。その日はさすがに悔し涙をのみながらの食事となったが、さすがは悪魔のレシピというべきで、その効用はあらゆる万病にきき、店を後にする頃にはそんな悔しなどどこかへ消し飛んでしまい、カリーの素晴らしいあと味に唯々満足して鼻唄をふいているのだった。
しかし、まあ、かのような屈辱を味合わされても尚、私は最期の晩餐を食べるのならP店と心に決めている。最期の晩餐といえば、友人のK氏が以前におもしろい遊びを教えてくれた。K氏という人物は、ものをあまり知らぬうえに、とんでもない味音痴でもあり、ついでにファッション音痴でもあり(K氏宅のクローゼットには奇怪な柄のシャツがズラリと並んでいる)取り柄といえばパワプロがめちゃくちゃ強いのと、誰にでも人当たりがいいことぐらいである。まあ、だからこそ偏屈極まりない私のような人間とも難なく付き合うことができたようで、いつしか私は自身の外交のほとんどをK氏に委託するようになり、そのお陰もあってK氏の家に居候していた時期はたいへん充実した時間を過ごすことができた。また、そうかと思えば、ただ単にひとを嘲笑って楽しみたいという理由だけで、私のことを邪悪な罠に嵌めようする。俗にいうハニートラップや結婚詐欺まがいな罠を平気な顔で張り巡らせるのである。しかし、埋まった骨を探り当てる犬のような私の嗅覚は、罠の数々をすぐに見破り、毎度のことK氏の鼻を明かしてみせる。いまとなってみれば、一度くらいは罠にかかってK氏を笑わせてやってもよかったのかもしれない。彼は不運なことに突発的な心臓発作で死んでしまったのだから(もしK氏がこれを読んだら、ちょ、ちょ、勝手に殺さんといてー。しかも、そんなデスノートみたいな殺し方で、などと、ちょっと時代遅れな冗談をかますことだろう。せめて、鬼滅の刃に当て込めるぐらいのことはしてほしい)。まあ、とにかく、私はそんな明け透けのないK氏を真の友ぐらいには思っていた(天国にて安らかに眠れ)のだが、彼が唯一教えてくれた面白いことというのが、最期の晩餐の日の朝ごはんという遊びだった。じっさいには遊びというほどのものではなく、最期の晩餐はそれとしてあり、じゃあ、その日の朝食はいったい何にするか、これを考えて話のネタにするだけのことである。が、私にはこれが頗るおもしろく、ちょっとした哲学談義ほどの熱を帯びた。K氏の話はだいたい内容がパピルスほども薄く、いまとなっては何ひとつとして憶えていないのだが(天国にて安らかに眠れ)、最期の晩餐の日の朝ごはんのことだけはよく憶えている。
「なあ、最期の晩餐の日の朝ごはんやで、つまり最期の朝食や、朝からいきなりカレーとかラーメンとかステーキとか、そんなんアカンに決まっとるやんか。朝食には朝食らしさってもんがあるやんな。野球がな、9回まであるように、1日だって朝昼晩とあるんやで。初回は様子をみるとか、バントで着実に一点を狙うとか攻め方ってもんがあるやんか。初回から大振りしてラーメンなんか食べたらつぎに繋がらんやろ。胃がもたれてしもうて万事休すや」
なるほど、K氏の言うことはもっともである。それに私は朝食というものが大好きである。朝食が好きすぎて、一日に二度朝食をたべることすらあるぐらいなのだ。私はK氏ととも最期の晩餐の日の朝ごはんを夢想した。ベーコンエッグ、だしのきいたお味噌汁、納豆、お漬け物、紅鮭、ほうれん草のおひたし、昨晩の残りもののカレーを小鉢で出すのもいい。あるいは趣向を変えて、焼いた食パンの上にベーコンと目玉焼き、いわゆるラピュタ飯である。路面店で朝そばという手もある、何かのせるとするなら、やはり春菊か。まったく想像するだけでよだれが出る。K氏は何が食べたいの? ときくと、同様に色々と挙げつらったが、ふぁんてん丼も捨てがたいよなあ、と最後にボソリと言う。なるほどなあ、確かにふぁんてん丼も捨てがたい。ふぁんてん丼は朝食の部類では最強の種族に属するだろう。白亜紀でいうところのティラノサウルス、昆虫でいうところのジャイアントテキサスキリギリス、日本プロ野球でいうところ���江夏豊みたいなものである。この「ふぁんてん丼」という珍妙な名前に聞き覚えのないひとのために一応説明しておくと、これは某ラーメン店にて朝食限定で提供される特別メニューである。丼ぶり飯に刻んだネギと海苔が敷かれ、その上に得体の知れない角煮のような肉塊が乗り、さらにその上から大量の花かつおが山盛りに被せられるという奇天烈な丼ぶりで、これにラーメンの白湯スープと柴漬けが付く。朝食というにはずいぶん豪胆な丼ぶりで確実に胃もたれを引き起こすのだが、なぜか朝食としか言いようない独特の雰囲気を帯びている。おそらく、ネギ、海苔、花かつおの三種薬味が朝食の性質を備えているためだろう。私もK氏もこのふぁんてん丼をいたく気に入ってしまい、昼にも食べに行ったことがあるが、あれは朝限定なのだと店員に言われ、けんもほろろに追い返されてしまった。さて、話が若干それたが、そんなK氏をP店に初めて連れていった日のことである。彼は最期の晩餐の日の朝ごはんを引き合いに出して言うのであった。
「アカン、こんなん先頭打者ホームランやん! 」
ここらへんでP店のメニューについて記しておく。兎にも角にもいの一番に触れておきたいのがパネンカリーである。これこそ悪魔のレシピの筆頭といえよう。タイカリーといえば、グリーンやレッドが定番だが、パネンはいかにもカリーらしい赤黒い色をしている。具は鶏肉、しめじ、ピーマンの厳選され尽くされた三種からなる、まさに三種の神器である。しかしながら、安徳天皇とともに壇ノ浦に沈んだあの宝物を我が胃に納めるのには並々ならぬ苦労を伴うだろう。まず私たちのもとにチンチクリンの奥様が注文を取りにくるだろう。そこでパネンと応えると、必ずひと言の断りを入れられる。パネンは時間がかかるので、他のメニューにしたほうがいいですよ、と。いや、ぜんぜん大丈夫です。すごーいお時間かかりますけど、大丈夫ですか。はい、大丈夫です。すると、チンチクリンの奥様は厨房のなかの店主に向かって「すごーいお時間いただきました! 」とイヤミったらしく言うのである。しかも、なかの店主からは大きな溜息がきこえてくる。パネンはほかのカリーよりひと手間かかるので、店主があまり作りたがらないのだ。パネンカリーを頼むには毎回このやりとりに耐えなければならない。不屈の魂とめげない根性が必要になってくるのだ。精神力に一抹の不安のあるひとはパネンを頼まないほうがいいだろう。それこそ心臓発作で死ぬかもしれない。しかも、このやりとりはチンチクリンの奥様と知合になろうとなるまいとお構いなしに続けられる。最近ではよっぽど作りたくないのか、パネンはディナーだけの限定メニューとなり、さらに元々はほかのカリーと同様に800円ぐらいの値段だったのが1200円にまで高騰してしまった。
さればランチはどうしようということになる。そこでオススメしたいがカントリーカリーと激辛カリーである。カントリーはココナッツミルクを使わない爽やかなカリーで、茄子、インゲン、ヤングコーン、えのき、ふくろたけ、香菜、生姜等、野菜が豊富なカリーである。これはグリーンやレッドにもいえることだが、P店の茄子は控えめに言って神がかっている。タイカリーは瞬間芸と言われるが、まさに油をひいた鉄鍋でサッと炒められた茄子がサクッサクッのホクホクでほっぺがいくらあっても足りはしない。ゲキの愛称で親しまれる激辛カリーはP店定番のチキンカリーのいわば上位互換である。チキンの代わりに豚の角煮が入っており、フライドオニオンが軽くまぶされている。その辛さもさることながら、その味の深さはマリアナ海溝より深いと言われている。
卓上の小壺にはフレッシュナンプラーの青唐辛子漬けが入っている。ぜひともこれをライスに振り撒いて食べよう。香り高いナンプラーの塩味のあとから新鮮な青唐辛子の辛味と渋味が追ってくる。正直これだけでご飯三杯はいけてしまう。目利きの店主が辛い個体のみを選りすぐっているため入れ過ぎには注意が必要だが、ゲキこと激辛カリーに限っては青唐辛子が甘く感じられるようになるアンビバレントな逆転現象が起こる。
1 note · View note
Text
【小説】JOKER 第一部
プロローグ
  〈1〉
  深夜零時。
ロレックスに目を落とした緒方進(おがたすすむ)はブリーフケースを手に、生ぬるい海風を受けながら水銀灯の明かりで照らされた新庄市郊外の公園に立っている。
海に面した絶好のデートスポットなのだが、残念な事に交通の便が悪い上に駐車場すらなく、昼間でも子供でさえロクに遊びに来る事が無い。
緒方の両隣りに二人、公園の入り口と四メートル道路に停めたベンツに運転手代わりが一人貼りついている。
全員原色のスーツに金ネックレスならプロ野球選手の夜遊びと言えない事も無いだろうが、広域指定暴力団矢沢組の組員は落ち着いたビジネススーツが常だ。
そしてブリーフケースには二百万円分のメタンフェタミン――覚醒剤が入っている。
取り引き相手は調子に乗っている街の半グレ。
昔で言うストリートギャングだ。
半グレと言っても若者ではない。若い頃にやんちゃをしたがいいが足抜けに失敗し、ヤクザになる器量も無いチンピラだ。
 麻薬が若者に蔓延している、というのは半分正解で半分間違いだ。
 昨今の若造は非正規労働などで麻薬に金を渋るどころか、タバコにさえ金を落とさない。
 麻薬を使っているのは女を薬で縛って風俗で働かせるか、末端の構成員を薬で縛り付けるかのどちらかだ。
 スポーツ選手や芸能人は大金を落とすが、それは表沙汰にしない為の口止め料としての意味合いが強く、普通に流通している薬はそこまで高くない。
 そんな価格設定をしたら麻薬依存症患者は年収五千万円以上に限られてしまうだろう。
 そしてスポーツ選手や芸能人などの成り上がりはともかく、そんな高所得者は基本的に麻薬など嗜む事は無い。
 麻薬というのは貧乏人を貧乏人に縛り付け、思うがままに操る道具なのだ。
 緒方がそれでも月収に相当する額のブリーフケースの重みを感じていると、年甲斐もなくスウェットを来た男が軽のワゴンで公園に乗りつけた。
 逆向きにかぶった野球帽はヤンキースなのに、スウェットはボストン大学という統一性の無い男の後ろに三人の若造が続く。
 間違いなくアメリカのストリートギャングを意識しているが、残念ながらエミネムにもJAY-Zにも見えない。
 オーバーサイズの服をだらしなく来た日本人だ。
「緒方さん、金持って来ました」
 ヤンキース帽がポケットから雑に札束を出して見せる。
 それでクールだと思っているのだからタチが悪い。
「ブツはある」
 緒方が顎をしゃくると若い衆がヤンキース帽の札束を確認する。
 帯どめしてある訳でもなく、おおよそでしか金額は分からない。
 しかし、金額が違っていれば差額を血肉で支払う事になる事はヤンキース帽も理解しているだろう。
 若い衆がざっと金を数えた所で、水銀灯の下にトレンチコートの男が忽然と姿を現した。
 紫色のどぎついトレンチコートに西洋風のピエロのマスク。
「ハッピー、ハロウィーン」
 おどけたような合成音声が響いた時、緒方は背筋から嫌な汗が滲むのを感じた。
 遭遇するのは初めてだが、ヤクザや半グレをターゲットにしたハッピートリガーの噂は緒方も聞いた事がある。
 トレンチコートに突っ込んだ手が引き抜かれた瞬間、銃声と共に足下と背後の遊具で火花が爆ぜる。
「緒方さん!」
 若い衆の一人が銃を抜いてピエロ――ジョーカーに応戦しようとする。
 ジョーカーのトレンチコートが開いて、内側から映画でしか見た事の無いショットガンより大振りな銃器――グレネードランチャーが姿を現す。
「ハロウィーン? 失敬、まだ五月だ」
 ジョーカーのグレネードが火を噴くと同時に地面が爆発して公園に身体が投げ出される。
 半グレがへっぴり腰で公園の外に出ようとした瞬間、ジョーカーのもう一方の手に自動小銃が握られていた。
「屋根よぉーり高い、鯉のーぼーりー」
 自動小銃が瞬き、公園の出口付近に無数の弾丸がばら撒かれる。
 隙を突いて緒方は裏手に停めたベンツに向かって走る。
 初対面とはいえ、こんな火器を狂ったように撃ちまくる狂人を相手になどしていられない。
 自動小銃が向きを変え、ベンツの防弾ガラスに傷が穿たれる。
 それでも緒方がベンツに戻る間に、半グレの連中は軽のワゴンに向けて疾走している。
 ジョーカーのグレネードがベンツに向けられる。
 助手席に転がり込んだ緒方は叫んだ。
「出せ!」
 猛スピードで走り出すベンツをジョーカーは追って来なかった。
 緒方はあの猛烈な砲火の中、生き延びた事を奇跡のように感じていた。
  〈2〉
   午後八時。
 没個性的なダークスーツに身を包んだ三浦清史郎(みうらきよしろう)は新庄市駅前にある新庄商店街の場末のバー『サイレントヴォイス』を訪れている。
 新庄市は首都圏のベッドタウンとして栄えている太平洋に面した、人口八十万の町だ。
 駅前の商店街では二百を超える店舗が活況を呈しており、湾岸という事もあり工場地帯も存在する。
 耳に心地よいJAZZが流れる中、清史郎がショットを二杯開けた所でパリッとしたスーツを粋に着こなした慶田盛弁護士事務所の慶田盛敦(けだもりあつし)が現れた。
 互いに若手と呼ばれる頃に知り合い、今では二十年の付き合いになる。
「待たせたようだな。今幾つか案件を抱えていてね」
 慶田盛弁護士事務所は警察の冤罪事件を扱う事で、その道では知られている弁護士事務所だ。
 日本では警察が立件した裁判では99%の確率で検察が勝利している。
その検察がでっち上げたものを、証拠を積み上げ無罪に、更には真犯人を警察に突き出して解決する。
 それが慶田盛弁護士事務所の仕事であり、清史郎の三浦探偵事務所は裁判の為の情報である事件の調査依頼を受けている��
 売れ筋である浮気調査などはしていない為、懐には常に隙間風が吹いている。
「最近はこっちも忙しくてね」
 清四郎はスコッチを注文した慶田盛とグラスを合わせる。
 『サイレントヴォイス』のマスターは、以前ヤクザに恐喝されていた所をジョーカーに扮して助けたという経緯がある。
 もっとも通い続けて十五年だから隠す事もありはしない。
 気のおけない古い友人のようなものだ。
「吉祥寺の死体遺棄事件の件は進展はあったのか?」
 吉祥寺の死体遺棄事件とは、富山純也二十五才宅で、川上千尋二十二才が自傷行為で死んでいたというものだ。
 死後二日後に近所の人間に通報された事から、警察は富山を死体遺棄事件の容疑者として逮捕。書類送検した。
 富山は無罪を主張し、慶田盛弁護士事務所に泣きつき、慶田盛が三浦探偵事務所に調査を依頼したのだ。
「川上は富山と同棲していた。富山の証言では自傷行為など考えられない」
 同棲していた富山が被害者の死亡時に出張で家を空けていた事はアリバイとして記録に残っている。
「それは本人から直接聞いている」
 慶田盛の言葉に清史郎は頷く。
「川上は都内の建築会社で事務をしていたが、実は裏で足つぼマッサージをしていた。これは歩合給で明細書も無い手渡しだ。小遣い稼ぎには丁度良かったんだろう」
 清史郎は店舗の写真を慶田盛に見せる。
 富山も都内の広告代理店に勤務していたが収入はお世辞にも良いとは言えず、川上としては将来を考えても副収入が欲しかったという所だろう。
 その辺りの事情はマッサージ店の同僚から聴取住みだ。
「富山は言っていなかった。どうやって調べたんだ」
 慶田盛が驚いた様子で写真を手に取る。
「足で稼いだんだよ。で、マッサージ店には川上に執着している、大野正則という客がいた。この男は二十歳でコンビニでアルバイトをしていたが、その給料のほとんどをマッサージ店の指名につぎ込んでいる」
 清史郎は大野と、彼がコンビニで働いている写真を見せる。
 大野という男が川上に執着し、横恋慕していた事は他の店員からも話が聞けている。
「じゃあ、そいつがストーカー化して川上を殺したのか?」
 やりきれないといった様子で慶田盛がスコッチに口をつける。
「このコンビニには別に野原椎名という二十五才のアルバイト店員がいる。この女は大野と交際していると公言しており、ストーカーの気質もあるようだ。大野は全面的に否定しているけどな」
 清史郎は野原と、野原が大野を尾行している写真をカウンターに乗せる。
 追っている者は追われている事は忘れがちなものだが、大野が川上を付け回し、その大野を野原が追い回していたという訳だ。
 そして道ならぬ恋に破れた野原は凶行に出た。
「じゃあ、野原が大野と川上の関係を勘違いして……」
 話を整理するようにして慶田盛が言う。
「川上の切創は手首と腕に集中している。これは自傷行為というより防御創だ。更に他に傷跡も無い事から自傷行為の常習という事も考えられない。仮に大野が殺したとするなら、体格差から刺殺になった事だろう。つまり傷跡から考えても同程度の体格の相手から切り付けられたと考えないと成立しないんだ」
 警察から入手した傷跡の写真には古い傷跡は一つも無い。自傷行為が常習性を持つという事を考えれば自殺の線は消えたと考えていい。
「川上は外に助けを求めに出ようとは思わなかったのか?」
「手のひらも切られていたんだ。普通の神経ではドアノブを握る事もためられただろうし、本人も富山が帰ってくれば助かると思ったんだろう」
 富山は残業や出張が多く、帰宅時間は一定していなかった。
 富山が出張を被害者に伝えていなかった事も証言から明らかになっている。
 清史郎は資料の束を慶田盛に渡す。
「毎度仕事が早くて助かるよ。これで検察の容疑を晴らして真犯人を起訴できる」 
 慶田盛が満足そうに言う。探偵業をしていて良かったと思える一瞬だ。
「で、娘の学費の件なんだが……」
 清史郎は慶田盛に話を切り出す。
 大学を卒業してすぐに結婚し、娘ができて半年と経たずに妻が離婚を申し出た。
 不倫である事は分かっていたが、彼女の名誉の為に黙って養育費を受け入れた。
 とはいえ、慶田盛弁護士事務所の依頼者の多くは金銭的に厳しい者が多く、その仕事を更に下請けする三浦探偵事務所の実入りはとても良いとは言えない。
 一年で五十件の冤罪事件を解決した年もあったが、その年の収入でさえ四百万を少し上回る程度だったのだ。
 テナント料と養育費を払ってしまえば食費もロクに残らない。
 半ば商店街の好意で事務所を置かせてもらっていると言っても過言ではない。
 そしてようやく養育費を払い終わったと思ったら、元嫁が娘の学費を請求して来たのだ。
 慶田盛いわく法的には支払いの義務は無いとの事だが、娘を大学に進学させてやりたいという思いはある。
「示談にするのが一番じゃないか? 向こうも本気で学費を巻き上げられるなんて思ってない」
「敏腕弁護士が中途半端な事を言うじゃないか」
「君の元奥さんは金が欲しいだけで最初から娘を大学に行かそうなんて思っていない」
 慶田盛の言葉に清史郎は石を飲んだような気分になる。
「私が支払うと言えば嫌でも大学に行かせなくてはならなくなるだろう」
 元嫁に対する愛情など欠片も無いが、娘に対する愛情は残っている。
「そんな金が君のどこにあるって言うんだ。夕食を場末のバーボンで済ませる男の食生活がこれ以上荒むのは見るに堪えない」
 慶田盛の言葉に清史郎はため息をつく。
 確かに慶田盛の言う事に間違いは無い。
 ――あの女のせいで自分も娘も……――
 ジョーカーとして稼いだ金を出せば解決可能だが、帳簿に乗らない金を出したなら国税局に乗り込まれる事になる。
 結局私生活は何一つ変わっていないのだ。
「しばらくしたら仕事の量を増やすさ」
 ジョーカーを演じ始めたのは与党と矢沢組が推し進める新庄市再開発計画を阻止する為だ。
 その行方を占う知事選挙が四か月後に控えている。
「もう歳なんだ。いい加減町を騒がすハッピートリガーなんてやってられないだろう」
「これはそこいらの冤罪なんてモンとは次元が違う。新庄市に生きる人々の生活がかかっているんだ」
 清史郎が言うと慶田盛が苦笑する。
「相変わらず正義感だけは人一倍だな」
「皮肉を言うならお前も大手の弁護士事務所に転職したらどうだ?」
 清史郎の言葉に慶田盛が笑みを浮かべる。
「それこそ真っ平だ」
 清史郎は笑みを交し合うとグラスの底に残ったバーボンを飲み干した。
 慶田盛も自分も世間で言う所の真っ当な大人にはなりきれていないのだ。
  〈3〉
   今年で二十七才になる円山健司はマンションの部屋のボタンを適当に押していた。
『はい、どちら様ですか』
「amazon様からの御届け物です」
 本物のamazonの箱を抱え、配達員の服装をしているのだから疑う者も無いだろう。
 ――注文客以外は――
 マンションのオートロックをパスしようと思ったら、住人について行くのが一番手っ取り早い。
 しかし、それ以上に手堅いのが郵便物の配達員になりすますという方法だ。
 amazonであればほとんどと言って良い人間が利用しており、世帯主では無くてもファミリー向けマンションなら家族が注文している可能性もある。
 そしてオートロックをパスしてしまえば、実際にその部屋にものを届ける必要など無いのだ。
 健司はオートロックをパスすると非常階段で配達員の服装を箱に収め、ビジネススーツに身を包んだ。
 どこに居ても違和感を感じさせないという点で、ビジネススーツはほぼ最強のアイテムと言える。
 健司は時刻が二十二時になるのを待って、十四階の廊下にクリスマス用のランプを天井から垂れ下がるように飾り付けた。
 全て両面テープで一瞬で剥がせるようにしてある。
 更に待つ事一時間、程よく酔ったスーツ姿の男がエレベーターから出て来る。
 健司は息を飲んで男の背後につけ、クリスマスの飾りつけを一斉に点灯させる。
 男の胡乱な目と意識が飾り付けに向いた瞬間、健司は男の両足を抱えるようにして廊下から外に向かって放り出していた。
 悲鳴を上げる間も無く、鈍い音が階下から響く。
 八階以下なら死亡の確認も行うが、十四階で生きている事はまず無い。
 飾り付けの一方を引っ張って仕掛けを回収し、箱に収めてエレベーターで悠々とマンションを後にする。
 明日には会社員自殺の報が流れるかも知れないし、流れないかも知れない。
 いずれにせよ、目的を果たした健司は『殺し屋』へと足を向けた。
 『殺し屋』は歌舞伎町の風俗ビルの一室にある。
 夜更かししてまで仕事をする気は無い為、殺し屋と書かれた看板の電源を入れ、のれんをかけるのは明日の朝九時になってからだ。
 ボックス席が二つにカウンターが六脚。
 お品書きには殺し方のメニューが書かれている。
 客はその中から死因や死体の放置の有無などを選択し、健司は見積もりを出してターゲットを殺す。
 ごくごくシンプルなビジネスだ。
 今日のターゲットはヤクザに貸し渋りをした銀行の支店長で、死因は自殺��死体は放置で良いという事なので仕事としては楽なものだった。
 とはいえ、調査に四日かけて二百万の報酬。
 ヤクザが稼ぐ額に比べれば雀の涙だが、踏み倒される事を考えれば前払いでささやかに仕事をする方が余程いい。
 殺し屋も楽な仕事ではないのだ。
  〈4〉
   渋谷のクラブ『クイーンメイブ』で、三浦清史郎は所在無げに立っていた。
 本日のDJはKENこと前田健だ。
 アップテンポのR&Bと若い男女の支配する空間で、中年の疲れたサラリーマンといった体の清史郎は明らかに浮いている。
 健がボックスのVIP席を用意してくれているが、一人でそんな所に座っていても落ち着かないだけだ。
 健のパフォーマンスが一段落した所で、清史郎は二十歳過ぎのTシャツにデニムのショートパンツといった服装の女性に声をかけられた。
「ジョーカー、何疲れてんの?」
「仕事とここの空気のダブルパンチだ」
 声をかけて来たのは長い髪を茶色に染めた飯島加奈というコンビニの店員だ。
 快活な女性で、見ている限り店長より仕事をテキパキとこなしているように見える。
 仕事さえ違えば有能なのかも知れないが、このご時世では仕事があるだけでも儲けものだ。
「ノれば楽しいって」
 加奈がしなやかな身体を動かしてダンスらしきものを踊って見せるが、清史郎には真似をする事もできそうにない。
「俺の頃、ダンスは学校の授業に無かったからな」
 清史郎はカウンターでアーリータイムズを注文する。
 酒屋ではボトルで買っても千円程度なのに、クラブではショットで四百円取られるのだから暴利もいい所だ。
「私の頃だって無かったってば」
 加奈がカシスオレンジを注文しているとパフォーマンスを終えた健が近づいて来た。
「どォよ、俺のパフォーマンスはよ」
「毎度疲れるよ」
 清史郎は肩を竦めて答える。
「釣れねぇ態度、クイーンはどうだった?」
 健が加奈――クイーンに話題を振る。
「いいんじゃない? ここではナンバーワンなんでしょ?」
 楽しんではいたが加奈もDJの良し悪しは良く分かっていないようだ。
「だろ? 俺、最高にクールだったよな?」
 言って健がスクリュードライバーを注文する。
 健だけは店舗でDJをしている為にドリンクが無料だ。
「センスがいいのは認めるけど、ここのクラブで一番でも他所で一番って事にはならないから」
 ぴしゃりとした口調で加奈が言う。
「これだけで食っていけるとは思ってねぇよ」 
 悄然とした口調で健が肩を落とす。
 DJを優先している為、不規則な生活の彼は普段は日雇いのバイトをしている。
 全員が飲み物を手にした所でダンスフロアを横切ってボックス席に向かう。
「に、してもよジョーク、昨日のヤクザ連中のビビりっぷりは最高だったな」
 楽しそうな口調で健が合皮のソファーに腰を下ろす。
「エースは機械いじってただけでしょ? 仕込みをしたのはあたしとジョーカーなんだから」
 加奈が健――エースを叱責するような口調で言う。
「俺は俺で神経使ってんだって。第一お前らだけじゃWi-Fiのクラッキングもままならねぇだろ」
「その危険地帯にジョーカーが踏み込んで機材を仕掛けてるんじゃない」
 清史郎はITに関しては門外漢だが、昔ながらの盗聴や盗撮、ピッキングといった技術は職業柄身につけている。
 しかし、大手の情報企業と契約していない為、早いという利点は存在しない。
 現在一般的な興信所は大手情報企業と契約しており、端末の通信履歴からクレジットの支払い履歴まで二十万円から六十万円でパッケージで購入している。
 ETCの履歴まで買えるのだから、全て現金で賄い、更に携帯電話もスマートフォンも持たないので無ければ市民の生活は筒抜けだ。
 だが、情報企業に頼るという事は、利害が密接に絡んでいる対象を調査できなくなるという事も意味している。
 従って検察を敵に回している清史郎は情報企業を利用できないのだ。
 その清史郎がジョーカーという仕事をするに当たって健をスカウトしたのは、単にDJは複雑な機材を器用に使っているという思い込みだけだった。
 最初はヤクザに嫌がらせをするただの乱射魔演出という構想だったのだが、健のITスキルが想像以上に高く、健の元同級生で実務能力に長けた加奈が加わり、神出鬼没のハッピートリガー、ジョーカーが誕生する事になったのだ。
「そこはWINWINじゃね? 俺の真似は二人ともできないんだろ?」
 勝ち誇った様子で健が笑みを浮かべる。
「現金回収したの私なんだからね」
 封筒を手にした加奈が健に向かって言う。
昨夜のヤクザの取り引きでジョーカーが登場した時、どさくさに紛れて半グレの落とした金を拾ったのは加奈なのだ。
「で、幾らになったんだよ」
「がっつかないの。バラけてたので百十一万。ジョーカーが三十一万でいいって言ってるから四十万」
「あざーっす!」
 健が笑顔で加奈から封筒を受け取る。
「に、してもボれぇよな。俺なんて一日工事現場で働いても七千円だぜ」
「私だって八時間みっちりシフト入って八千円行かないんだから。あんたは税金の天引きが無いだろうけど、私はガッツリ取られるんだから」
 加奈が小さくため息をついて言う。
「私は確定申告で青息吐息だよ」
 清史郎は苦笑を浮かべる。
 本業の探偵は労力の割に儲かっているとは言い難い。
 その中で臨時でも帳簿に乗らない収入があるのはありがたい事だった。
「ジョーク、辛気臭ぇ話は無しにしようぜ! 今日は俺のおごりだ」
 健がバーテンにボトルを注文する。
 ――今日の所は好意に甘えておこう――
 清史郎は明日から始まる地道な仕事に思いを馳せた。
   第一章 殺し屋VSジョーカー 
  〈1〉
  「まさかお前まで手玉に取られるとはな」
 純和風の邸宅の四十畳ほどの上座から、矢沢組組長矢沢栄作の声が響く。
 矢沢は東大出身で大手の組の金庫番をしていた経済ヤクザだったが、手腕を見込まれて盃を受けて新庄市を任された男だ。
 大型カジノ施設と契約し、建設費用だけで二千億円を超える大規模開発事業に着手。
 地域活性を謳ってケツモチをしている与党の知事を、市民公園を作ると言って与党の市長を当選させ、財務局を握って人口八十万程度の町である新庄市の経済活性としてカジノ施設を呼び込む段階まで運び込んだ。
 しかし、新庄市には古くからの商店街があり、カジノ施設に一斉に反対。
 この動きを野党が連合して支援した事で、矢沢組の工作虚しく市会議員選挙でまさかの野党大勝与党過半数割れとなった。
 そこで組として商店街に圧力をかけ、一方で麻薬や売春で治安を悪化させて風紀を乱すという策に出た。
 そこに商店街からの刺客のように出現したのがジョーカーだ。
 従って、今回の取り引きでたかだか百万程度の損失を出した事は問題ではない。
 手足となる半グレが震えあがり、商店街が盛り返してしまう事の方が問題なのだ。
 ジョーカーは確実にドラッグか銃のある時にしか出現せず、空取り引きで警察を使って捕えようとしても決して出て来ない。
 支配下にある警察でも公安とマル暴がジョーカーを追っているがかすりもしない。
「完全に俺の失態です」
 緒方は畳に額をこすりつける。ジョーカーが来るかも知れないと備えていても、圧倒的な火力を見せられて対応できる組員など存在しなかった。
「お前で駄目なら誰が行っても同じだろう。幸いヤクは複数のルートでさばいている。一か所の取り引きが潰れたくらいでプランに変更は無い」
 矢沢の言葉に緒方は頭を下げ続ける。
 ジョーカーに遭遇すれば十中八九取引どころではなくなるし、組員の士気の低下につながるだろう。
 しかも、ジョーカーの正体はまるで分らない。
 ヤクザが取引の現場に発砲魔が現れたと被害届を出せば、警察と幾ら緊密な関係にあるとはいえジョーカー逮捕の前に麻薬取引や銃刀法で御用となる。
 警察が味方と言っても、捜査させる理屈が見つからないのだ。
 従って、科捜研を動かしてジョーカーを特定するという事もできない。
 かと言って、ジョーカーらしき人物は大手の情報企業のデータベースにも存在しない。
 そもそも個人が特定できていないのだから、企業から情報を購入しようが無い。
「カジノ施設反対派は金で分断しろ。一億二億なら建設の際に財務局の法で水増しできる」
 矢沢の言葉を緒方は脳裏で反芻する。
 これは緒方の裁量で動かして良いのが二億円程度という話だ。
 商店街含め、新庄市でカジノ施設に反対している事業者は七百に上る。
 二十万円づつ配ったところで効果は見込めないし、家業と住み慣れた町を捨てさせるには最低でも二千万は必要になり、十人買収したところで七百の事業者から見れば雀の涙だ。
 二億という金をどう効果的に使うか。
 麻薬の売買で風紀と治安を乱そうとしたところで、商店街が機能して失業者も少ないという環境にあっては大きな効果を見込めない。
 警察は見逃してくれても市民に監視されているようなものなのだ。
 ――いつまでもこの状況を引き延ばす訳には行かない――
 半年後の知事選で知事が敗れ、反対派の知事が誕生すればカジノ施設誘致契約が破談となり、二千億を超える金が利益ではなく損失として計上される事になるのだ。
 それは矢沢組の滅亡を意味していた。 
 
 〈2〉
   午前八時半。
 『殺し屋』に出勤した健司は店舗の掃除を始める。
 明るく綺麗な店舗は客商売の基本中の基本だ。
 『殺し屋』を訪れる客は決して多くはないが、だからと言って手を抜いて良い理由にはならない。
 風俗ビルの一室というどうにもならない立地上の限界はあるにせよ、一国一城の主として近隣の風俗店や飲食店と比較して店舗が清潔かつ快適であるという自負がある。
 カウンターとボックス席を磨き上げ、店の前に出した看板の電源を入れて暖簾をかける。
 健司はカウンターの中で客の訪れを待つ。
 健司が『殺し屋』を始めたのは大学卒業から四か月が過ぎてからだ。
 在籍中に内定を取る事ができず、無職のまま卒業を迎えて露頭に迷う事になった。
 住んでいたアパートも追い出され、頼ったのは風俗嬢になった同級生。
 働いているという店舗を訪れ、偶然奥のテナントが空いているのに気付いたのだ。
 幸運な事に鍵は開いたままで、住む所の無かった健司はそのままそのテナントを利用する事にした。
 しかし、いつまでも居座る訳にも行かず、就職する必要があったが卒業した後では求人がほとんど無かった。
 そこでテナントを利用して自営業を始めようと考えたのだ。
 偶然町で見かけた『冷やし中華はじめました』という張り紙をヒントに、テナントのドアに『殺し屋はじめました』というビラを貼ったのだ。
 それまで人間を殺した事は一度もなかったが、どんな仕事にも初めては存在すると割り切った。
 最初の客は風俗ビルで働く風俗嬢だった。
 ターゲットはストーカー化した客。
 苦労はしたものの、一か月で痕跡を残さずに殺す事に成功した。
 以後、口コミで話題となり、多くの人が『殺し屋』を訪れるようになった。
 依頼を二百もこなす頃にはだいぶ勝手が分かってきて効率的に殺す事ができるようになってきた。
 四年が過ぎた今ではオプションサービスも充実させ、店もリフォームした。
 今では年収一千万を超えている。
 ヤクザに比べればささやかなものだが、悪事を働いているわけではないから商店主としてはこの不景気にあって良い方ではないかとも思っている。
 健司がカウンターに立っていると、一人の客が暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ! ご注文がお決まりになりましたらお申しつけください」
 言って冷茶を注いだグラスをカウンターに座ったビジネスマン風の男の前に出す。
 男がお品書きを見て目を細める。
「殺しの注文というのは相手の氏名が分からないと無理なのか?」
「素行調査であれば興信所を使われるのが一番です。当店では速やかな仕事を心がけておりますので本業以外の仕事は見合わせております」
 健司は男の様子を観察する。一見するとビジネスマンに見えるが、作り笑いに慣れていない、否、笑わない職業である事が見て取れる。
 能面のような顔の裏に押し殺した暴力的な雰囲気は、警察か暴力団員かそれに近い者だろう。
「前金で二千万」
 男がにこりともせずに言う。
「当店は誠実がモットーでございます。確実に殺せないターゲットをお引き受けする事はできません」
「それなら総理大臣でも殺せるのか?」
「名前と住所どころか一日のスケジュールまで��に入りますから、さほど難しく無いターゲットだと考えております。ただし知られている通り警備も厳重ですから時間も必要となり費用も高くなります」
 健司が言うと男が低く唸る。
「総理大臣でも不可能ではないと?」
「もちろん、オーダーが首つり自殺などですと難しい案件にはなります」
「首つり自殺は難しいか……面白い事を言う」
 男の口元に小さな笑みが浮かぶ。
「二千万はターゲットの調査費用という事でどうだ? 成功報酬は四千万」
 健司は小さく息を飲む。
 金払いがいい相手である事は確かだが、それだけの力の持ち主でもあるという事だ。
 ――失敗すれば命は無い――
 しかし、ヤクザを敵に回せばテナントから追い出されるだけでは済まないだろう。
「繰り返しになりますが当店は殺し屋でして、興信所ではありません。ターゲットの補足は素人のようなものです。その二千万円でターゲットを補足されましたら確実に殺させていただきますが、二千万円を頂いてもターゲットを補足できるとは限りません」
「二千万を手に高跳びとは考えないのか?」
「飛んだ先で失業すれば同じ事です。地域の皆様に愛される店づくりが当店のモットーです」
 健司の言葉に男が破顔する。
「俺は矢沢組の緒方。二千万はここに置いていく。ターゲットはジョーカーと言われている銃の乱射魔だ。俺はお前が気に入った」
 言って冷茶を飲み干した緒方が席を立つ。
 ――これは大変な事になってしまった――
 健司はジョーカーという謎の相手を探るために、出したばかりの看板と暖簾を引っ込めた。
  〈3〉
   午前五時。
 健は薄汚れた作業服を着て、年季の入った肉体労働者の列に混じっている。
 ホームレスも珍しくないが、ホームレスでもとび職になると一日に二万円以上稼いでホテルに泊まっていたりするから、定住しないのは税金対策といった事情が大きいだろう。
 午前六時半、一台のワゴンが健の前に停車する。
「おい、若ぇの、乗れ」
「うぃっす」
 筋肉隆々といった古参の肉体労働者に囲まれていると既にやる気が萎えてくる。
 労働者ですし詰めのワゴンで移動する事小一時間、朝日が白々と空を照らす中健は自分には一生縁の無さそうな高級マンションの現場にいた。 
 現場監督のどうでもいいような話に続き、ラジオ体操をさせられる。
 眠いだけならまだいい、ラジオ体操が終わってからが地獄だ。
「コンパネ運んで来い! トラック入れねぇじゃねぇか!」
 自分に向けられた言葉と気付いた時には、組まされるらしい土工の目が険悪になっている。
 男がコンパネと呼ばれる90cm×180cmの板を十枚程抱えて通用口に出ていく。
 健の腕力では精一杯頑張った所で三枚だ。
 この板を敷いてその上をトラックが走れるようにするのだが並べるだけでも容易ではない。
 健はもともと運動神経が良い方ではない。
 高校では情報科学部でLinuxを使用してITの全国コンテストで優秀賞を手にした生粋のインドア派だったのだ。
 PCの扱いと音楽好きなのとでDJには一定の技術も知識もあったが、一般科目では赤点スレスレで奨学金がもらえるような成績でも無かった。
 そんな中、PCを触れて音楽もできるDJという職種を選んだ。
 しかし、一晩パフォーマンスをしても六千円程度にしかならないし、他にもDJはいるのだから毎日入る事などできはしない。
 従って一人暮らしのワンルームの家賃を払っていく為には、DJの仕事を妨げない、時間にゆとりのある職業に就くしかなかった。
「チンタラ運んでんじゃねぇ! 三枚しか運ばねぇってタマついてやがんのか」
 年配の作業員がヤニの混ざった唾を吐き捨てる。
 健が運んだコンパネをトラックの通路に並べていると、いら立った様子の作業員が近づいて来る。
「シャベル持って付いて来い」
「シャベルってどこにあるんスか?」
「ふざけてんのか! テメェで見つけろ! 遅れたら承知しねぇからな」
 健は屈辱にも似た気分に耐えながら、建設現場をうろついて乗ってきたワゴンでシャベルを見つける。
 今日拾われた工務店はどうやらマンションの裏手に穴を掘っているらしい。
「ここに管通すんだからな、掘れたら石詰めだ」
 幅は四十センチ程、深さは六十センチは掘らなくてはならない。
 総延長は二十メートルにはなるだろう。
 小型のユンボを使って欲しいが、既に他の管と入り組んでおり不可能らしい。
 配管の順序が逆になるという事は設計ミスの可能性も高いだろう。
 健はだるくなる腕を支えるようにして必至でシャベルで穴を掘る。
 要領の良し悪しなど分からない。分かるのは掘らなければ怒号と罵声が飛んでくるという事だけだ。
 昼過ぎに作業が終わったと思いきや、
「ネコでガラ片付けて来い」
「ネコって何っスか」
 反射的に首を竦めながら健は尋ねる。
「手押しの一輪車だ! この使えねぇボンボンが……」
 健は奥歯を噛みしめながらネコを探して歩きまわる。
 ネコを見つけてもガラ運びという重労働が待っている。
 健は暗澹とした気分で工事現場を歩き回る。
 ――俺だってジョーカーの一員だってのに―― 
  〈4〉
  「暑っつ~い! ったく、エースのヤツ今日は土建屋だなんて……」
 加奈がマイナスドライバーで水銀灯にへばり付いたガムを剥がしながら言う。
 ガムの中には火薬と小さな信管が仕込まれている。
「休みがお前だけだったんだから仕方ないだろう」
 清史郎はシャベルで地面に埋まった火薬を穿りながら言う。 
 乱射魔ジョーカーには秘密がある。
 それは実際にはモデルガンしか持っていないということだ。
 そこで、予め花火で���めた火薬をセットしておき、ヤクザが商売をしようという所で爆破して妨害する訳だ。
 モデルガンには赤外線カメラが搭載されており、Bluetoothで健の端末とつながっている。
 清史郎が引き金を引くと同時に健が火薬にセットされた信管を反応させ、銃撃のように見せかけているというだけなのだ。
 だからグレネードランチャーの爆発と言っても、実際には大きな花火が地面の下で爆発しているだけで殺傷能力など存在しない。
 とはいえ、撃たなかった方向にも埋め込んだ火薬はあり、子供などがうっかり触って怪我をしてしまう可能性もある。
 従ってジョーカーとしての仕事の後は必ず後始末が必要になるのだ。
「まぁ、ジョーカー一人に炎天下で作業させるわけにも行かないし。歳だし」
 加奈の言葉に清史郎は苦笑する。
 加奈と健は二十一歳だが、清史郎は四十五歳だ。
 肉体的に無理のきかない歳という事は重々承知の上だ。
 炎天下でひたすら火薬を撤去する事四時間。
 仕事を終え、加奈と一緒にたこ焼き屋の店先で麦茶を飲む。
 近年おおだこが当たり前になっているが、清史郎が行きつけにしている昔ながらのたこ焼きはピンポン玉より少し小さい程度で味も良く、言えば店のおばちゃんが麦茶を出してくれるというサービスがついてくる。
「おばちゃん、最近ヤクザはどうだい?」
 清史郎は店主兼店員の初老の女性に声をかける。
「あんたに相談したらそれっきりだよ。派手なドンパチがあったみたいだけどね」
 おばちゃんの言葉に清史郎は笑顔を返す。
 警察や興信所に相談してもヤクザ絡みの事件は解決しないが、しがらみの無い三浦探偵事務所とジョーカーなら不可能も可能になるのだ。 
 商店街や商工会の中でも事情は不明だが、清史郎に依頼をすればヤクザが引っ込むという都市伝説めいた話が広がっている。
 だが、あまりに知られ過ぎると清史郎がマークされ、ジョーカーを出現させられないという事になる。
 従って三浦探偵事務所は慶田盛弁護士事務所とは緊密な関係にあるが、地元の商店街とは付かず離れずの関係を続けているのだ。
 加奈と一緒にたこ焼きを食べているとスマートフォンが着信を告げる。
 健が清史郎が仕掛けた無線wifiのクラックシステムで、ヤクザの新たな取引を察知したのだ。
 ――健が稼ぎたがるのも分かるがな――
 火薬を調達し、設置し、身体を晒す身としては、ヤクザが本腰を入れない為にもジョーカーの出番は抑えておきたいところだった。
  〈5〉
   健司は朝のラッシュアワーで意図的に駆け込み乗車に失敗した。
 健司に乗車を妨害された形のスーツ姿の男性が、苛立った様子で最前列に立つ。
 山手線の次の列車が来るのは四分後だ。
 健司はポケットからsimフリーのスマートフォンを取り出す。
 simフリーではあるがsimも入れていなければ、個人情報にかかわる情報も一つとしてインストールしていない。
 健司はスマートフォンを操作するフリをして考える。
 ジョーカーは新庄市から出ていない。
 矢沢組から健司の得た情報は散文的なものだった。
 ヤクザが取引をしようとする、もしくは刀や銃で武装した状態で市民を脅そうとする。
 ヤクザが警察に通報できない時に、狙ったようにジョーカーが出現している。
 単純に考えて情報が筒抜けになっているという事だろう。
 乱射魔と支離滅裂な口調という仮面が狂人を作り上げているが、警察を巧みに避けている事からもジョーカーが充分過ぎる程に理性的な人物である事が分かる。
 相手は狂気の人間ではない。恐ろしい程の知能犯だ。
 健司は矢沢組から入手したドライブレコーダーの映像を繰り返し『殺し屋』のカウンター内のPCで再生した。
 ヤクザが出ていき、しばらくして銃火がひらめき、慌てふためいたヤクザが逃げてくる。
 どの映像も流れは同じだ。ヤクザがドライブレコーダーを使っているというのは不思議なものだが、ヤクザも交通事故では警察の世話になりたくないという事だろう。
 ジョーカーの紫のトレンチコートとピエロの仮面にはモデルが存在する。
 アメコミ最高の悪役とも言えるバットマンに出てくるジョーカーだ。
 相手の頭脳から推し量ってもそれくらいの事は分かってやっているのだろう。
 敵を混乱させるという意味ではジョーカーは最高の仕事をしていると言っていい。
 では、ジョーカーの行動にロジックは存在しないのだろうか。
 その最大の理由は新庄市に活動を絞り、矢沢組と戦っているという点に存在するだろう。
 ジョーカーの動機が判明すればその正体を絞り込めるはずだ。
 健司の後ろに列ができ、周囲が人垣と言っても良い程になる。
 ほとんどの人が急いでいるかスマートフォンを操作している。
 毎日このような息苦しい思いをするのが分かっていて、どこの会社も出社時刻を一緒にしているのか謎だが、このような状況が起きる事で仕事を円滑に進められるのも事実だ。
 駅のホームは渋谷のスクランブル交差点のように混雑しており、点在する監視カメラからも死角になっている。
 列車が見えた所で健司はsimフリーのスマートフォンを線路に放り投げた。
「落ちましたよ」
 健司の言葉に周囲の人間の視線が線路に落ちるスマートフォンにくぎ付けになる。
 健司が乗車を邪魔した男が慌てた様子で胸ポケットに手を当てる。
 健司はスマートフォンを拾おうとするかのように踏み出しながら、素早く男の背を押す。
 男が線路に転がり落ちるのと列車が到着するのは同時だった。
 ブレーキ音と悲鳴が駅のホームを支配する。
 ――これで今日もお客様を笑顔にできた――
 健司は動揺を装いながら駅員の誘導に従って満足感と共にホームを後にした。
  〈6〉
   潮風が香る深夜の埠頭の倉庫街。
 緒方は三十人の組員を伏せさせ、更に暴走族を張り込ませて取引に臨んだ。
 捌くドラッグの金額は一千万。
 ジョーカーが金を狙っているならこの好機を逃すはずが無い。
 半グレの三団体の代表がベンツで乗り付け、ヘッドライトの光を背に向かってくる。
 ――どうするジョーカー――
 傍から見ればこれ以上のカモは無いだろう。
 しかし周囲には銃で武装した構成員と、それに数倍する人数の暴走族がいるのだ。
 仮に強襲に成功したとしてもこの包囲網を抜け出る事は不可能だろう。
 金をアタッシュケースに入れた男たちが近づいて来る。
 ジョーカーは金を見せた時に最も多く出現する。
 緒方はドラッグの詰まったスーツケースを手にヘッドライトに身を晒す。
「緒方さん、ご苦労様です」
 半グレの代表のスーツ姿の男が言う。
 アタッシュケースが開かれ、帯どめされた札束が姿を現す。
 緒方もスーツケースを開いてロシア経由の最高級品を見せる。
 と、緒方は場違いな程騒々しいエンジン音を聞きつけた。
『奢れるヤクザもコンバンハ』
 拡声器の声と共に波を蹴ったボートが一直線に突っ込んでくる。
 船首に立ったジョーカーが銃を抜いて問答無用で撃ち始める。
 緒方の周囲で火花が散り、半グレが慌てた様子でアタッシュケースを取り落とす。
 伏せていた緒方の部下がジョーカーに向かって応射を開始する。
 ジョーカーがグレネードランチャーを構えて砲火を閃かせる。
 ベンツの車体が火を噴いて浮き上がる。
 倉庫街の至る所で爆発が起こり、火の手が上がる。
 ただの撃ち合いなら警察も黙っているが、火災が発生したのでは消防が動き追って警察も出動を余儀なくされる。
 ボートが埠頭の岸壁を掠め、ジョーカーが猛火の中を歩んでいく。
「今宵のコテツは鉛に飢えて、オイラの引き金も軽くなるゥ~」
 相変わらずの意味不明な言葉でジョーカーが戦場となった埠頭を蹂躙する。
 雄たけびを上げた半グレの一人が鉄パイプを振り上げてジョーカーに向かっていく。
 鉄パイプの一撃を受けたジョーカーの動きが鈍る。
「あの世の旅も道連れ世は情け、痛いの痛いの焼死体」
 ジョーカーが鉄パイプを奪い取って半グレを路上に蹴り飛ばす。
 ジョーカーが怒り狂ったようにグレネードを乱射する。
 緒方は炎で崩れ落ちる倉庫を避けて部下のベンツに向かって走る。
 この乱射の中では同士討ちが危ぶまれるどころではない。
 まずは消防がやって来る前に現場を離脱しなければならない。
 取り残される組員や半グレには悪いが、矢沢組としても幹部が尻を蹴飛ばされたままブタ箱に入る訳には行かないのだ。
  〈7〉 
 
 
「……ッ」
 清史郎は左腕を押さえたままボートの床に腰かけている。
 夜の海から見えるのは照明で浮かび上がる工場の幻想的とも言える光景。
 酔狂なカップルなら観光に来るのかも知れないが、現在の清史郎にその余裕は無い。
 ボートが揺れる度に左腕が痛み、肩から背中までもが痛むように感じられる。
 ――腕を折られたか――
 折れたと言っても粉砕骨折では無いだろう。
 粉砕骨折なら幾ら警察OBの探偵から護身術を習っているとはいえ、鉄パイプを奪って蹴り飛ばす事などできてはいない。
 問題なのは常識的に考えて鉄パイプを持った敵に対してなぜ発砲しなかったかという事だ。
 客観的に見ればこれほど奇妙な事は無いだろう。
 狂気の道化師、ジョーカーなのだからと見逃してくれる輩ばかりではないだろう。
「ジョーカー、大丈夫?」
 気遣う様子で加奈が声をかけてくる。
「今回の作戦はリスクは織り込み済みだったんだ。鉛弾を食らわなかっただけでもいいってモンだ」
 清史郎は虚勢を張って言う。
 健が入手した情報は矢沢組が最も警戒している取引、もしくはジョーカーをおびき出そうとしている作戦だった。
 当然もっと楽なターゲットを探す事も可能。
 しかし、健がこの難度の高い作戦にこだわり、清史郎もジョーカーの名を上げる為に乗ったのだ。
「ジョークには悪かったけど今日だけで六百万だぜ? 一人二百万ってすごくね?」
 ボートを運転しながら健が言う。
 百人以上が動員されている取引を強襲する為に海路を選んだのは正解だった。
 通常は予め現場に潜んでいるが、今回はヤクザが張り込む事が分かっていた。
 脱出の目途もたたないのに予め潜むという手段は使えない。
 と、なれば相手が考えてもいない方向から強襲して、対応されるより早く逃げるという方法だ。
「アタッシュケース拾って来るのも命がけだったんだから。あんたは安全な所でPCたたいてるだけだからいいかもしれないけど」
 加奈がボートでPCを操作していた健に向かって言う。
 清史郎が派手に暴れている隙に半グレが落としたアタッシュケースを回収したのは加奈だ。
 ヤクザが銃で応戦して来る中で拾ったのだから、生きた心地がしなかったのであろう事は想像に難くない。
「ジョークだって腕を切り落とされたとかじゃねぇんだし、保険証が使えねぇなら金あんだし海外で手術とかもアリじゃね?」
 楽観的な口調で健が言う。確かに健の案もいいが致命的な欠陥がある。
「ジョーカーは左腕を殴られている。保険の記録に残らなくても俺が左腕をギプスで吊っていたら正体を宣伝してまわるのと同じことだ」
「あ、そうか」
「あ、そうかじゃないでしょ! だいたいあんたが怪我してるわけじゃないんだから」
 加奈が虚を突かれた様子の健に向かって言う。
「腕は町の獣医に頼んで治してもらうよ。問題は探偵事務所の方だな」
 町の獣医であれば顔なじみだし、保険の記録に残る事も無い。
「事務所はほとんど客来ねぇからOKじゃね?」
 相変わらず楽観的な様子で健が言う。
「エースってば本当に失礼なんだから」
「本当の事だからいいんだけどな。でも選挙が近づいているからカジノ反対派の人たちが現職知事の裏情報を求めてくるかもしれない」
 情報が盗まれたものなら裁判では証拠にならないが、盗み出して内部告発の形をとって匿名でばらまくという事は可能だ。
「与党の現職知事って矢沢組がカジノ呼ぶ為に当選させたんだろ?」
 健の言葉に清史郎は頷く。
 元々災害避難地域指定だった公園の指定を解除し財務省に許可を発行させ、企業が進出できるよう実際に動いたのは与党だ。
 暴力団が本体か与党が本体かというのは、鶏と卵のパラドクスを解くに等しい。 
「でも物的証拠が無い。音声データやメールは改ざん可能だから決定打にはなり得ない」
「手書きのサインの入った書類が無いと証拠にならないって訳ね」
 加奈が話を要約して言う。
「それって探偵とかの仕事じゃねぇのか?」
 健の言葉に清史郎は痛みを感じながらもため息をつく。
「私はその探偵なんだよ。儲かっていないだけで」
「とりあえず一人二百万入ったし、ジョーカーはひとまずお休みするしかないわよね」
 加奈は状況を落ち着いて観察できているようだ。
「でもよ、選挙が終わって反対派が勝ったら出番も無いんじゃね?」
「そもそも反対派を勝たせる為に始めたんだよ。目的を忘れないでくれ」
 商店街と探偵事務所を守る為のジョーカーなのだから脅威が消えれば戦う必要は無い。
 もともと町を守る為の義賊として、健も同意して始めた事なのだ。
「あ~、キャデラックに乗りたかったぁ~」
 船の縁に寄りかかって健が空に目を向ける。
「外車ディーラーで試乗でもすればいいでしょ」
「そういう事じゃねぇんだよ。こう、リッチな気分でパーッとやりたかったって言うかさ」
「気持ちは分からなくも無いけどさ、私らもともと何千円で一喜一憂してたんだからね」
「へぇ~い」
 加奈に言われた健がため息をつく。
 二人のやり取りを聞きながら清史郎は考える。腕を折られたジョーカーが休養すれば、不死身の化け物のようなイメージが揺らぐ事になる。
 双方の総力戦の様相を呈した今回の戦いで、相手もジョーカーが手傷を負った事は分かっているはずだ。
 ――大人しく休養というわけには行かないか――
 清史郎は加奈に目を向ける。
 IT機器を素早く操作できない以上、空白期間にジョーカーを演じられるのは加奈だけだ。 
  〈8〉
   ジョーカーは手傷を負った。
 店内の観葉植物の葉を丁寧に拭いながら、健司は緒方からの情報の意味を考える。
 圧倒的な火力を持ちながら、鉄パイプを手に向かって来る敵に対してジョーカーは無策と言っても良い状態だったのだ。
 これはこれまで一人も死者を出していないというジョーカーの姿勢と符合する。
 その後の乱射により埠頭は混沌と化し有益な情報は集まっていないが、ジョーカーが現金の入ったアタッシュケースだけを手に海に逃れた事は間違いない。
 ――ジョーカーは人を殺さないという前提で考えたら――
 単純にヤクザを驚かせたいという、愉快犯の姿が浮かび上がる。
 だが、愉快犯ならリスクの高いヤクザを狙う理由は少ない。
 銃器を振り回さなくても、健司のような一般市民相手に全裸になって見せるだけで充分に他人を不快にする事ができる。
 ヤクザに警察に通報できないという弱みがあったとしても、それ以上にリスクは大きいはずだ。
 ヤクザに恨みがあるのだとしても、それならば落ちた金だけ拾うという点では実質的にダメージはほとんど与えられていない。
 収入として考えているなら猶更ジョーカーの行動は不可解過ぎる。
 愉快犯でありながらそれは副次的なものでしかなく、目的の為の手段に過ぎない。
 だが、愉快犯である事を手段とする目的とは一体何だろうか。
 ――僕のような常識人では手が届かないと言うのだろうか――
 健司は観葉植物の葉に霧吹きで水をかけながら考える。
 矢沢組は一体誰に何をし、その結果ジョーカーを生み出したのだろうか。
 健司は店内の照明を切り、暖簾と看板を店内にしまう。
 店を出て新宿のチェーン店の居酒屋に向かう。
 健司が一杯のビールと焼き鳥を二本腹に収めていると、三人の男が��れ立って店内に入ってきた。
 健司は三人組がボックス席に入るのを確認してアタッシュケースを手にトイレに向かう。
 三人組が毎回このチェーン店を使う事と、最初にビールを注文する事は分かっている。
 健司はスーツを脱ぎネクタイを外してケースに収め、代わりにエプロンを身に着ける。
 保冷剤で冷やしておいた缶に入ったビールを、同じく冷やしておいた100均で買ったグラスに注ぐ。
 そのうち一つにはシアナミドを混入してある。
 シアナミドは無色透明の抗酒剤で、副飲する事でアルコールアレルギー反応を引き起こす禁酒用の薬品。
 一言で言えば一口飲む事で急性アルコール中毒症状を引き起こすのだ。
 健司は三人の席におしぼりが置かれ、店員が去るのを待ってビールジョッキを手に席に向かう。
「お待たせしました」
 健司はターゲットにシアナミドを混入したビールを手渡し、両手にビニールの手袋を嵌めてトイレの傍に潜む。
 ややあって鍵をかけていないトイレに青ざめ、脂汗を流したターゲットの靴が覗いた。
 健司は入れ替わるようにしてすれ違いながら様子を確認する。
 シアナミドにより意識は朦朧としているようだ。
「介抱しますよ」
 健司は男を抱きかかえるようにしてトイレのドアを後ろ手に閉じる。
 男が便器に前のめりになって嘔吐する。
 健司は男の頭を掴んで便器に押し込むと首の頸動脈にシャープペンシルを突き刺す。
 男の首から血が噴き出すのに合わせてトイレの水を流す。
 音消し水とはよく言ったものだ。
 窒息と出血の双方で男が瞬く間に衰弱して行く。
 相手がプロレスラーだろうとこの状態で健司に抗する事はできはしない。
 健司は男の脈を取って死亡を確認するとエプロンとシャープペンシルを放置し、元通りスーツに身を包んで会計を済ませて店を出た。
 殺害方法は分かっても誰が殺したのかは目撃されていない限り分からないだろう。
 ――小さな仕事でも手を抜かない事が顧客満足度につながるんだ―― 
  第二章 二人目のジョーカー 
  〈1〉
  「矢沢組のヤツら慎重になってやがんな。もう大口取引はしねぇらしい」
 清史郎の耳には爆音と左程変わらない音が響いている、クイーンメイブのボックス席で健が言う。
 清史郎は獣医に頼んでギブスなしで左腕を固定している。
 診断は骨にヒビが入っているとの事で、二週間は安静にする必要があるらしい。
「そりゃ百人集めて失敗したなら、もう大口でジョーカーを誘おうなんて思わないでしょ」
 言って加奈がカクテルで唇を湿らせる。 
「一回の取引でせいぜい百万円。しかも街中でやってやがる」
 健がラップトップを開いて矢沢組の予定表を表示させる。 
「儲けが少ないからやらないって話にはしない約束でしょ?」
 加奈が健に睨みをきかせる。前回の襲撃は加奈は反対だったのだ。
「でもよ、ジョークは骨折してるし、街中でグレネードはさすがにヤベェだろ」
 カクテルをチビチビ飲みながら健が言う。
 確かに街中では自動小銃がせいぜいといったところだ。
 仮にグレネードを使ったとしても、見た目が派手なだけで破壊力が無い事が露呈する。
「自動小銃でも相手を驚かすような事はできるだろう。演出次第だ」
 清史郎は頭を巡らせながら言う。
 ��となっては拳銃を抜いて撃つくらいではヤクザは驚かない。
 下手をすれば一人二人射殺されても驚かないかも知れない。
 と、なればどうやって驚かせるかが問題になってくる。
「演出って言うけど、ジョーカーは左手が使えないんでしょ?」
「そこだ。連中は俺が腕を怪我するのを見ている。ここで動きを止めればジョーカーというキャラクターの怪物性が損なわれてしまう。そこで今回は加奈にジョーカーを依頼したい」
 清史郎の言葉に加奈が驚いたような表情を浮かべる。
「町の人たちがカジノに反対できているのは、ヤクザがジョーカーを恐れているという漠然として安心感があるからだ。ジョーカーが怪我で動けないとなったらヤクザを恐れて寝返る住人が出てくるかもしれない」
 清史郎の言葉に加奈が思案顔になる。
「……そういう事なら……でも策はあるの? 私はジョーカーみたいに相手を脅せないよ?」
 加奈の言葉に清史郎は頷く。
「喋るのはマイクで私が担当する。元々ボイスチェンジャーを使ってるからスピーカーから音を出してもヤクザには分からないだろう」
 清史郎は矢沢組のリストの一つを指さす。
 雑居ビルの屋上での取引。
 金額は百万だが人が多く割かれている訳ではない。
 そしていざとなれば清史郎も右腕一本で戦うのだ。
  〈2〉
  「ありがとうございました」
 客の手に両手を添えるようにしてつり銭を渡す。 
 我ながら流れるような動作だと加奈は思っている。
 品物は働き出してから一週間で覚えたし、二か月で発注も任されるようになった。
 オーナーが発注していた頃に比べて売り上げは八%上昇している。
 業者のパレットに乗った商品が運び込まれ、そこに緩慢な動作で大塚という中年女性が向かっていく。
 大塚はこのコンビニに長く勤めているが、何をするにも動きが遅く、やる事が雑だ。
 加奈は母子家庭ではあったが高校時代は生徒会長を務めていた。
 生徒会の切り盛りでは過去最高の生徒会長だったという自負もある。
 奨学金を借りて大学に入学したいと何度思った事か分からない。
 しかし、その度に返済の目途が立たないという現実で踏みとどまった。
 加奈が借りる金額では返済する頃には五十代。
 キャリアウーマンとしてバリバリ働いて行けるならいいだろうが、男社会の中で目立っても左遷されるのがオチだ。
 奨学金を諦め、近所のファミレスとコンビニの双方を天秤にかけた時、ファミレスの厨房は嫌だったし、発注のような頭を使う仕事がしたかった事からコンビニで働く事にした。
 しかし、今現在、視線の先では大塚が商品を手前から、しかも違う棚に並べている。
 新しい品物を後ろに、古い品物を前にしなければ賞味期限切れで廃棄になる。
 それはコストとすら呼べるものではない。
 注意した事は一度や二度ではないが、返ってくるのは「今時の若い子は」という恨みがましい言葉だけだ。
 仕方なく業務の合間を縫って品物を並べなおす。
 そうすると今度はレジに長蛇の列ができる。
 大塚はバーコードの読み込みも遅ければ、テンキーの打ち込みもできない。
 公共料金などの支払いも一々店長にやらせている。
 店長は一体何の弱みがあってこの女を雇っているのか分からない。
 それでも、このリスクを織り込んだ発注で収益を上げたのは自分の手腕だ。
「飯島くん、これじゃ困るよ。お客さんを待たせているじゃないか」
 抜き打ちでやって来たマネージャーの言葉に加奈はため息をつきたくなる。
 自分がレジにいればこのような現象は起きないのだ。
 そして、レジにいれば大量の食品を廃棄しなくてはならなくなる。
「分かりました。棚の商品を並べなおしてもらえますか」
 チクリと言い返し、立ち仕事で痛む足を引きずって加奈はレジに向かう。
 こんな事をこの先何年続けて行けばいいと言うのか。
 少なくとも大塚がクビにならない限りは、ただでさえハードなコンビニの仕事すらまともにこなす事ができないのだ。 
 ――ジョーカーとしてならもう少し有能に働けるのに―― 
 
 〈3〉
   深夜、ビルの屋上に銃声が響き火花が散る。
 ビルの給水塔の上で清史郎が見ている下で、四人の男たちが手にしたバッグを胸に抱える。
「迷えるヤクザよコンバンハァ!」
 二階分高いビルの屋上から、ワイヤーを伝って自動小銃を乱射しながらジョーカーが降下して来る。
 ヤクザの一人が屋内に逃れようとした所でジョーカーの自動小銃が火を噴いてドアを蜂の巣にする。
 恐慌状態に陥ったヤクザの前に、床の上で一回転したジョーカーが立つ。
 この辺りの動きは加奈の方が本家よりいいと言える。
ジョーカーの自動小銃が火を噴き、ヤクザたちの動きが止まる。
清史郎はありあわせの材料で作った分銅でヤクザの手からケースを叩き落す。
「金は天下の猿回しぃ~、回る回るよ目が回るぅ~」
 床を滑ったケースがジョーカーの足元で止まる。
 ジョーカーがケースを手に屋上のフェンスを乗り越える。
「それでは諸君ごきげんようそろ、面舵一杯腹八分目ぇ~」
 ジョーカーがフェンスを乗り越えてビルの外に姿を消す姿をヤクザたちは茫然と眺めている。
 加奈はほぼ完ぺきに、運動神経という面では清史郎以上にジョーカーを演じて見せた。
 ヤクザたちがスマートフォンを取り出して連絡を取りながら屋内へと消えていく。
 加奈は当初隣のビルの屋上に潜んでおり、ヤクザの取引するビルとの間にはワイヤーが取り付けてあった。
 清史郎の合図で火薬を爆発させ、加奈は小型の滑車を使ってビルの屋上に降り立った。
 予定通り混乱に乗じて清史郎がヤクザの金のアタッシュケースを叩き落し、それを回収した加奈は予め用意されていた脱出用のワイヤーで一目散に逃げ去ったという訳だ。
 清史郎がヤクザの去っていった通用口を見ていると、二人のヤクザが姿を現した。
 痕跡を確認するか、ジョーカーを追跡しようという考えかもしれない。
「イナイイイナイバウアアァァァァッ!」
 万が一に備えてジョーカーに扮していた清史郎は、咄嗟の判断でショットガンを手にヤクザたちの前に飛び降りる。
 銃声と共にドアを吹き飛ばす。
 今度こそ恐慌状態に陥ったヤクザたちは階下へと消えていった。
  〈4〉
   健司は『殺し屋』のカウンターでグラスを磨きながら考える。
 ヤクザは取引を分散させるという戦術を取ったが、ジョーカーは確実に一か所一か所を狙い撃ちにしている。
 被害総額は大きくないのだろうが、心理的な影響は大きい。
 ――ここで敵の目的は明らかになったと言っていい――
 これは心理戦なのだ。
 矢沢組が恐れるに足りない存在だと思わせる為のデモンストレーションなのだ。
 実際矢沢組の構成員たちも明日は我が身と必要以上に警戒しており、結果として街中での暴行などで警察に捕縛されるケースも散見し始めている。
 警察もヤクザと事を構える事はしたくないだろうが、暴行は立派な犯罪だ。
 矢沢組を弱体化、もしくは弱体化して見せている目的。
 これは幾つかのケースが考えられる。
 例えば同格の田畑組がシマを狙っているケース。
 しかし、これでは全面戦争がしたいと言っているようなものであり、そうなれば別の第三の組が弱った二つの組を併合してしまうだろう。
 更に言えば『本物』の銃器を使っているのだとしたら、これまでに過失で殺してしまった人間が居てもおかしくはないはずだ。
 これまであれだけ派手に銃を乱射していて軽度のやけどくらいしか負傷者がいないというのは、空砲かモデルガンかのどちらかだろう。
 そして犯人がヤクザであるなら、モデルガンなどという恥ずかしいものは持ち歩かないだろう。
 第二の敵が政治結社だ。
 現在矢沢組の推す現職与党の代議士が知事を務めている。
 三か月後には知事選が予定されており、野党は連合して対立候補を立てている。
 現在新庄市には土地の価値だけで二千億を超える空き地が存在し、そこに巨大カジノカジノを誘致するか、市民公園にするかで市民の世論が割れている。
 カジノが実現すれば莫大な金額が動く事になり、矢沢組は軽く数百億は稼ぐ事になるだろう。
 一方、野党が勝利してしまえば議会も野党に握られた事から市民公園が確定。
 造園業者や、スタンド付きの運動公園を造る建築業者がいくらか儲かるにせよ、利権はほとんど存在しない事になる。
 本来矢沢組こそが野党を攻撃しそうなものだが、野党のカルト的な集団ないし、狂信的な人間が矢沢組を狙っている可能性は否定できない。
 しかし、カルトや狂信的な人間がここまで綿密な計画を練り、実行に移せるだろうか。
 そこが政治結社を敵に想定した場合のボトルネックとなってくる。
 第三の相手は想定が難しいがカジノに反対している市民だ。
 市民の大半は再開発計画に興味を持っていないが、商店街や商工会は地場産業が脅かされるとして強硬に反対している。
 矢沢組はこの商店街の切り崩しを行っていたのだが、その矢先にジョーカーが出現するようになり、商店街を攻略するどころではなくなってしまったのだ。
 そう考えると、人のいい商店街の人々こそが実は矢沢組の最大の敵という事になる。
 ――商店街がジョーカーの可能性――
 だが、それなら情報漏洩が少なからずあるはずだ。
 ――もし商店街の誰かがジョーカーで、他の人間は知らないのだとしたら――
 ジョーカーは一方的に守るだけで損をしているように見えるが、最終的には商店街が守られるのだから自分の仕事も守る事になる。
 ――商店街の何物かが、か――
 健司はPCで商店街の店舗の情報を検索する。ほとんどが個人事業主でHPもまともに作れているとは言い難い。
 そんな中、健司は気になる存在を発見した。
 ――人権派弁護士、慶田盛敦――
 直接の関与の有無は別にして、慶田盛が商店街や町を守ろうとするのはありそうな事だった。
  〈5〉
  「急な訪問で恐れ入ります。慶田盛先生の事務所は意外と質素なんですね」
 新庄市の雑居ビルの一室を訪れた健司は慶田盛敦に向かって言う。
「君は……殺し屋との事だが……」
 当惑した様子で慶田盛が応接用の合皮のソファーに腰かけて言う。
「屋号のようなものです。ただの飲食店ですよ。保健所で営業許可も取っています」
 健司は爽やかな笑みを浮かべる。
「で、歌舞伎町の飲食店がここに一体何の相談なんだい?」
 敏腕弁護士という割にはお人よしなのだろう、慶田盛が問うて来る。
「店が襲われたんです」
 健司の言葉に慶田盛の視線が険しくなる。
「それは警察に訴えるべき案件なんじゃないのかい?」
「歌舞伎町で店が襲われた程度で警察が動くと思いますか?」
 健司が言うと慶田盛が思案気な表情を浮かべる。
「相手に目星はついているのかい? 組関係だと厄介だぞ?」
 歌舞伎町という事を意識しているのか慶田盛が言う。
「ピエロのマスクに紫のトレンチコート、銃撃で店は蜂の巣です」
 慶田盛の表情が一瞬硬直する。
 ――慶田盛はジョーカーを知っている――
「最近はそういった愉快犯が流行っているようだね」
「慶田盛先生はご存知ないのですか? ジョーカーと呼ばれているようなのですが」
 慶田盛の顔がポーカーフェイスに変わるが遅すぎだ。
 今更表情を消した所で知っていると言っているようなものだ。
 健司はさり気なくソファーの隙間に盗聴器を滑り込ませる。
「噂で聞いている程度だね。でも、弁護士だからといって探偵の真似事ができる訳じゃない」
「慶田盛先生は懇意にしている探偵などはおられないのですか?」
「古い付き合いの探偵はいるけどね。彼を紹介するにはそれなりの理由が必要だよ」
 慶田盛が慎重に言葉を選ぶ。
「店が襲撃された以上の理由が、ですか?」
「僕はその破壊された店舗の写真すら見ていないんだよ? 被害実態が明らかではないのに探偵の手を煩わせると思うかい?」
「随分と庇われるんですね。逆に興味が湧いてきましたよ」
 健司は切り上げどころと判断してソファーから立ち上がる。
「貴重なお時間を頂きありがとうございました」
 健司は慶田盛と握手しながら唇の端が吊り上がりそうになるのを堪える。
 ――これで慶田盛が探偵に連絡を取ればその相手がジョーカーである可能性は高い―― 
 
 〈6〉
  「いやぁ~俺たちマジ凄くね? もうハリウッドレベルだって」
 クイーンメイブのボックス席で健がいつものように能天気な口調で言う。 
「たちじゃなくて身体張ってる私たちが凄いの」
「お前PCなんて触れないだろ」
 健が加奈に言い返す。
「PCコンビニの使えてるし!」
「ンなの使えてるうちに入らねーよ。な、ジョーク」
 健の言葉に清史郎は肩を竦める。加奈と比較すればPCを使える方だろうが、ITというレベルには程遠い。
 ヤクザの事務所に仕掛けた盗聴器をBluetoothで飛ばしたり、WIFIでデータを引き抜いたりといった芸当は清史郎には不可能だ。
 しかも従来の興信所の盗聴器探知は電波の周波数帯で探っている為、健のカスタムした機材を探知する事ができない。
 健は新庄市のヤクザの誰よりも彼らの動きに詳しいと言っても過言ではないのだ。
 その中から清史郎が獲物になりそうな案件を選び出し、加奈と下準備を行っているのだ。
「なぁ~んか納得行かない」
 加奈が口をとがらせるが、こればかりは健の能力を素直に認めるしかない。
「エースの情報収集能力がなければ火薬を仕掛けにも行けないだろ」
「土建屋の癖に何かムカつく」 
「土建屋じゃなくてDJだっつーの」
「DJで食ってる訳じゃないでしょ? なら土建屋じゃない」
「ンだとコラァ!」
 声を荒げる健を清史郎は慌てて宥める。
 手を挙げるような青年ではないが、つまらない事で耳目を引くのは得策ではない。
「俺は二人におんぶにだっこだ。二人がいなければジョーカーなんてやってられない。そうだろう?」
「私もジョーカーやったしね。やってないのはエースだけ」
「俺がいなかったら起爆できねぇじゃねぇか」
 むっつりとした口調で健が言う。
「裏方の仕事があっての晴れ舞台って事もあるんだ。もっとも、舞台役者が良くなかったらどんなに裏方の仕事が良くても芝居にはならない」
 清史郎の言葉に加奈がため息をつく。
「ジョーカー人間できてるわ」
「単に口の上手いオッサンってだけかもな」
 健が悪童のような笑みを浮かべる。
「多分エースの言う通りだろう。で、いよいよ選挙まで三か月を切った訳だ。矢沢組だけじゃない、カジノ関連の企業が再開発計画に群がってきている」
 清史郎は話を本来の筋道に戻す。
「それは分かるけどさ、ヤクザは脅せても民間企業はどうにもならないんじゃない?」
 加奈の言葉に清史郎は頷く。
「そこは商店街と市民の手に委ねる。俺たちが考えなきゃいけないのは、矢沢組をあと三か月どう騙し抜くかって事なんだ」
 最終的にカジノ施設を選ぶか、市民公園を選ぶかは市民の手に委ねられるべきだ。
 ジョーカーはそこに介入しようとする矢沢組をけん制しているに過ぎない。
「一年以上見破られてねぇんだし、今更どうって事も無いんじゃね?」
 健が楽観的な口調で言う。
「一年って言っても綱渡りだったじゃない。ジョーカーも怪我したんだし」
 常に現場を見て来た加奈が健に向かって言う。
「人生にはスリルがつきものだろ」
「必要ないのにスリルをつける必要ないでしょ?」
「人生にはロマンが必要だよ。なぁ、ジョーカー」
「私の人生にはロマンらしいロマンは無かったよ」
 明らかに会話を楽しんでいる健に清史郎は苦笑する。
「人生堅実が一番なの。あんたみたいのが一番ホームレスに近いんだから」
「お前だってコンビニ店員以外何ができるよ」
「ちょっとジョーカー、何とか言ってやってよ」
 怒った様子の加奈が話を振ってくる。
「景気が良くなったら事務所で求人でも出すよ。それより今は仕事をやり抜く時だ」
 清史郎の真剣な言葉に二人が頷く。
 ――後三か月――
 この凸凹コンビと一緒に駆け抜けなければならない。
 
 〈6〉 
  「ここの探偵事務所では人探しをしたりはしないんですか?」
 健司は三浦探偵事務所の安普請の椅子に腰かけて、所長兼調査員の三浦清史郎と向かい合っている。
 慶田盛は健司が面会した翌日に同じく新庄市に居を構えている三浦に連絡を取った。
 探られている事を多少は警戒しているだろうが、昨日の今日で会いに来るとは思っていないだろう。
「今の所請け負ってはいないね。知っているかどうか知らないが、日本の年間行方不明者は二十万人。警察が民事だと言ってサジを投げるレベルだ。うち毎年六千人前後が死体で発見される。これが日本の行方不明の実情だ」
 四十五歳、探偵というより疲れたサラリーマンを思わせる風貌だが、どこにでもなじめるという点ではこの風貌は役に立っている事だろう。
「携帯電話の通信記録を探ったりしないんですか?」
「そういう情報は大手の情報企業が握っているんだ。契約していなければ盗み出すしかないだろうし、それをすれば犯罪だ」
「企業が形はどうあれ本人の同意なしに情報を持っている事は犯罪ではないと」
「正当だと思えば契約している、と、答えたら君に私の考えは分かってもらえるかな」
 清史郎はかなり真っ当な昔気質の探偵であるらしい。
 三浦探偵事務所は商店街の噂では浮気調査などではパッとしないが、事件性のある案件だと警察を出し抜く腕前なのだと言う。
「独り言だと思って聞いてもらえればいいんですが、ジョーカーという男をご存知ではないですか?」
「知っているよ。少なくとも片手には余るほどね」
 掴みどころのない口調で清史郎が言う。
 ――だが、他の商店街の人間はジョーカーと聞けば逆に動揺したものだ――
「ヤクザ相手にモデルガンを振り回す愉快犯。前金で一千万。正体が分かれば更に一千万」
 健司はリュックサックから帯留めされた札束の入った紙袋を押し出す。
「これだけ流行らない事務所だ。一千万を受け取って私が雲隠れするとは考えないのかい?」
「見つけられなくても差し上げますよ」
 健司は内心で清史郎がジョーカーであるとの確信を強めながら言う。
「そういう事であれば遠慮なく預かろう。所でジョーカーについてもう少し詳しく話を聞けないかな? さすがに名前だけでは調査にならない」
「僕もまた聞きでしか知らないんですが、ヤクザが武装しているか麻薬を所持している時に出現し、モデルガンを利用してあたかも本物のように見せかけて驚かせ、ヤクザが金を落としていけばそれを拾っていく。そういう話です。被害に遭っているのは主に矢沢組で、矢沢組は現職与党知事のケツモチをしている」
「つまり、君の推理が正しければ現職知事と利害関係にある人物が選挙で優位に立つべく矢沢組を攻撃している、攻撃しているように見せかけているという事だね?」
「そう、その人物の特定が難しいんですよ。ヤクザの情報を自分の家のPCのように自在に覗き見て、常に有利な状況でモデルガンによる脅迫を行っている」
 そこが健司が最も解せない所だ。
 この三浦清史郎という男は探偵としては優れているように察せられるが、ITに強いようには見えない。
 情報を買っている訳でも無いのだとしたら、一体どのようにして情報を得ているのか。
 更に情報を得たとしてそれを整理し、取捨選択する事も必要になる。
 事務員の一人もいないこの事務所のどこに実務を取り仕切る人間がいるというのか。
 自分はこの男の何かを見落としているとでも言うのだろうか。
「つまり、ジョーカーという人物にはハッカーとしての側面もあるという事だね?」
「そう考えないと辻褄が合いません」
「では、ハッカーであり、モデルガンでヤクザを脅すジョーカーという愉快犯を特定してほしいという事だね」
「結論としてそういう事になるかと」
「プライバシーに踏み込むつもりはないが、そのジョーカーという人物の特定にどういった動機があるか聞かせてもらえるかな? 参考までにという事で構わないが」
「僕が矢沢組に依頼されたからですよ。でも僕の力だけでは見つけられそうに無い」
 健司はチェスを指すかのような心境で言葉を選ぶ。
 目の前の男がジョーカーである可能性は限りなく大きいのだ。
「君も探偵なのか?」
 清史郎の言葉に健司は肩を竦めて名刺を差し出す。
「歌舞伎町で殺し屋を営んでおります円山健司と言います」
 言った瞬間、清史郎の顔に何かグロテスクなものでも見たかのような表情が浮かぶ。
 健司はその表情をこれまで嫌という程見てきたのだった。
  第三章       殺し屋
  〈1〉
   清史郎は拙いとは知りつつ、円山健司を尾行していた。
 尾行を知られたとしても、探偵が依頼者の事を知ろうとする事に問題は無い。
 そもそもがジョーカーなどという得体の知れない人物を探せという無理難題なのだ。
 例え自分がジョーカーであったとしてもだ。
 電車を乗り継ぎSUICAのチャージマネーが尽きそうになった時、円山は新宿の歌舞伎町にある『殺し屋』という店舗に入っていった。
 信じられない事だが、冗談でないとするなら殺人を生業とする人間が看板を出して店を営業しているのだ。
 円山は自ら隠れるという事が無い。
 本当に殺人が生業なのだとしたら、その手段に余程自信を持っているという事なのだろう。
 清史郎は逡巡しながらも暖簾を潜る。
 相手にその気があればビルに入った瞬間から監視カメラで自分を監視していても不思議ではないからだ。
「いらっしゃいませ! ご注文がお決まりになりましたらお気軽にお申しつけ下さい」
 円山が人が違ったような口調で声をかけてくる。
「さっき会ったばかりだろう? それよりこのお品書きというのは本当なのか?」
 お品書きには殺人方法や死体を残すのか残さないのかなど様々なオプションサービスが書き込まれている。
「はい、迅速丁寧をモットーに確実にターゲットを殺させて頂いております」
「例えば、この絞殺で死体を残すというオプションにした場合、警察に犯人特定されやすいんじゃないのか?」
「企業秘密にはなりますが、TPOに応じて柔軟に対応させていただいております」
「ジョーカーはどうやって殺す事になっているんだ?」
「お客様の情報を開示する訳には行きませんが、強いて言うなら殺し方は問わないとの事です」
 円山の言葉が事実なら矢沢組はなりふり構っていないという事だろう。
 ジョーカーは確実に矢沢組に打撃を与えているのだ。
「じゃあ俺も注文したいんだが構わないか?」
「どのようなご注文でしょうか?」
 爽やかな笑顔で円山が言う。
「ジョーカーをオプションサービスで九月三十一日に殺してほしい」
 清史郎の言葉に円山の目が見開かれる。
「前金で一千万。不足なら五百万を追加する」
 清史郎は受け取ったばかりの一千万をカウンターに乗せる。
「ジョーカー殺害日時の指定は確かにオプションで追加可能ですが……」
「ジョーカーを殺す日時の指定は矢沢組からは無かったんだろう?」
 清史郎が言うと円山が顎に指を当てて思案気な表情を浮かべる。
「依頼が重複した事は初めてで、対応致しかねます」
「いや、重複していない。私が矢沢組の手先で、追加でオプションを申し込んでいるとしたならどうなんだ? 君は依頼主の事をどれだけ調査しているんだ?」
 清史郎の言葉に円山の表情が曇る。
「お客様のプライバシーを優先して営業しております。業務上必要な情報は収集致しますが……」
「九月三十一日、ジョーカーは新庄市商店街の外れ、たこ焼き屋千夏の前に現れる」
 清史郎の言葉に円山の表情が強張る。
「もしお客様がジョーカーだった場合……」
「自分を殺してくれという���頼はこれまでなかったのか?」
 円山が何かを試すような視線を向けてくる。
「もちろん、そういった依頼もございました」
「なら問題は無いだろう?」
「……つまり、あなたは探偵としての任務を全うし、殺し屋に仕事を依頼しに来た。そういう事ですね」
「そういう事になるな」
 清史郎が笑みを浮かべると円山の口元に笑みが浮かぶ。
「矢沢組がそれ以前の日時を指定して来たら?」
「それこそ二重契約は無効だと言えばいいだろう?」
「矢沢組がジョーカーの正体を教えろと言ってきたら?」
「ここは興信所ではないのだろう? それに私は九月三十一日にジョーカーが現れるとは言ったが、私がジョーカーだとは一言も言っていないぞ」
 円山は殺しという商売にプライドを持っている。
 そのプライドに反する行為はできないはずだ。
「了解しました。九月三十一日に現れるジョーカーを殺します。しかし、他に機会がある場合もありますので悪しからず」
 円山が一千万の入った紙袋を掴んでカウンターの内側に置く。
 これで円山の精神には一つのストッパーがかかった事になる。
 後はいかに円山を寄せ付けないように立ち回れるかだ。
  〈2〉
  
 してやられた。
 健司は先制に成功したつもりが、乗り込まれて悪条件を飲まされた事を今更ながらに実感していた。
 三浦の期日を守れば選挙は終わってしまうだろう。
 矢沢組は選挙で勝利する為にジョーカーを殺したいのだから、仮に殺せたとしても契約違反と言いかねない。
 そもそも条件は問わないという話だったのだから構わないと言えば構わないのだが、ヤクザがそのような道理を飲むとは思えない。
――そもそも乗り気な仕事では無かったのだ――
 とはいえ、呑気に構えていてはヤクザに消される事になる。
 九月三十一日に殺せたとしても、それは報復の意味しか持たない。
 そして九月には三十日までしか存在しない。
 十月一日を無理やり九月三十一日と解釈できない事も無いが、完全に手玉に取られたとの感を禁じ得ない。
 緒方が猶予として見るのは何週間だろうか。
 幸い緒方は健司が三浦と接触した事を知らない。
 まだジョーカーを探していると言えば時間稼ぎはできるだろう。
 最悪二千万はドブに捨てたのだと言うくらいの器量は緒方にはあるだろう。
 しかし、それでは殺し屋の看板に傷がつく。
 創業四年、地道に仕事を続けて来た実績に泥がつくのだ。
――三浦清史郎を殺すか――
 それを考えて健司は三浦の余裕が気にかかる。
 三浦がジョーカー本人だというならそれで構わないだろう。
 しかし、ただの連絡役だったり複数犯だったりした場合はどうなるだろうか。
 ジョーカーは死んでも蘇る。
 その事の方が矢沢組にとって脅威だろう。
 ジョーカーのテンプレートが商店街で共有される事にでもなったら、矢沢組は人的物量的に無数のジョーカーに襲われて新庄市を撤退しなくてはならなくなるだろう。
 その時、ジョーカーを殺せと依頼されたなら、一体何人を殺せばよいのか分からず、それだけの数を連続で殺せば証拠を残す事になりかねない。 
 そうなれば警察に捕らえられて全てが水の泡だ。
――そう、殺すのは三浦清史郎ではなくジョーカーである必要がある――
 その為にはジョーカーの仕事の実態を掴まなくてはならない。
 これまでのジョーカーの襲撃箇所と状況を再確認する。
 ジョーカーは神出鬼没のように見えるが、確実な逃走経路のある場合以外は出現していない。
 ジョーカーは矢沢組の取引の全てを俯瞰し、最も有利な形を作り出している。
 と、なれば健司も事前に情報を収集しなくてはならない。
 以前緒方が入店した時、店内のシステムでスマートフォンはクラックしてある。
 緒方のスマートフォンを経由して矢沢組組長矢沢栄作の端末に潜入する。
 ホストを掌握して矢沢の端末から矢沢組の取引データを吸い上げる。
 半グレたちは無料WIFIに接続している者が多く、セキュリティも糞も無い。
 健司は新庄市の地図を広げ三浦の心理を読もうとする。
 正面切っての対決の後で、あの食わせ物が仕掛ける事は間違いないのだ。
  〈3〉
  始発電車で歌舞伎町を訪れた清史郎は街路を歩き回りながら、人通りの少ない場所や人目につかない場所にトランプのジョーカーのカードを置いていく。
『殺し屋』がテナントに入ったビルの前の壁にはスマートフォンと接続したラズベリーパイの監視カメラを設置した。 
 監視カメラの映像は近場の喫茶店でタブレット端末で見ようと思ったのだが、歌舞伎町には静かに端末を見る事のできるような喫茶店が見当たらなかった。
 仕方なく新宿駅前のコーヒーの不味いチェーン店に足を向けた。
 電波は良好、通勤前の客も訪れておりタブレット端末を見ていても不審には思われない。
 スマートフォンを操作して朝のニュースをチェックするが、特に気になるような情報は無い。
 八時二十四分、円山が風俗ビルにスーツ姿でやって来た。
 一見地味なスーツ姿に見えるがバーバリーにリーガルのシューズといったいで立ちだ。
 見る人間が見れば逆に趣味が良いと答えるだろう。
 屋内の監視カメラを警戒して清史郎はビルには監視カメラを仕掛けていない。
 九時きっかりにスーツ姿にアタッシュケース姿の円山がビルから出てくる。
 清史郎は円山が新宿駅に向かったのを見て小走りに店を出る。
 円山を捕捉し、充分に金をチャージしたSUICAで改札を潜る。
 円山を尾行する事二十分、新庄駅で円山は列車を降りた。
 チャージマネーで改札が通れて良かったと思える一瞬だ。
 昔なら駅によっては乗り越し清算をしなくてはならないところだ。
 円山は商店街を突っ切り、三浦探偵事務所にほど近い喫茶店に入っていく。
 清史郎は更に離れた喫茶店で画像を喫茶店のものに切り替える。
 商店街の店にはセキュリティの名目で三浦探偵事務所の監視カメラが取り付けられているのだ。
 円山が注文するより早く、店員がコーヒーにトランプのジョーカーを添えて差し出している。
 円山の表情が一瞬硬直する。
 清史郎は商店街の店に予めジョーカーのカードを配り、前払いで商品を出すよう話をつけておいたのだ。
 これで円山は自らが監視対象である事を知る。
 コーヒーを飲み干した円山が喫茶店を出て周囲を見回す。
 ――追われる気分はどうだ、円山――
 円山は午後六時になると歌舞伎町のビルに戻り、吉祥寺の自宅であるらしいマンションに帰宅した。
 清史郎は吉祥寺界隈の店に金とトランプのジョーカーを配り、路地裏などにカードを仕掛けて帰路についた。
  〈4〉
  「って事は正体バレちまったのかよ」
 相変わらず騒々しいクイーンメイブのボックス席で健が声を上げる。
「殺し屋って名刺出してる殺し屋って狂ってるとしか思えないけど」
「腕に余程の自信があるんだろう。今の日本じゃ老衰や自殺や病死や事故死以外の異常死が毎年十七万件発生しているんだ。死体なんかあった所で警察の手が回る状態じゃない」
「ジョークと話してて思うんだけどさ、警察って何してんだ?」
「総資産一億円以上の人間の事は守ってるだろうさ。後は交通違反の取り締まりだな」
 清史郎は答える。実際警察が殺人や行方不明を事件化する基準は分からないのだ。
 確かなのは毎年日本では殺人事件は百件前後しか起こってはならず、検挙率は96%を下回ってはならないという暗黙の了解があるという事だ。
「どっちみち最初から警察は味方じゃないでしょ。矢沢組が商店街に嫌がらせをしても見て見ぬふりだったんだし」
「だよな。俺たちジョーカーが正義の味方なんだ。そうだろ」
「多少稼がせてもらってるけどね」
 健も加奈もジョーカーという仕事には少なからず誇りは持っている。
 士気が高いという点では矢沢組と戦っていく上で大きなアドバンテージになるだろう。
 殺し屋円山健司がジョーカーの核心に近づいたとは言っても、健と加奈まで特定している訳ではないのだ。
 そして健のITを見て警戒していた為、あの新宿の風俗ビルにはスマートフォンも時計も持ち込んでいない。
 顔は間違いなく撮影されているだろうが、顔認証は広範なエリアから自在に情報を引き抜けるようなものではない。
 いつ、どのカメラに映っているのか分からなければどのカメラをハッキングすれば良いのか分からない。
本当の所は分からないが、公には警察でも店舗など個人のカメラの映像は捜査協力や令状で記録を閲覧しているのだ。
健のIT技術にした所でカメラを特定し、通信可能な距離で『物理接触』しない事にはデータを閲覧する事などできないのだ。
「円山って野郎の鼻を明かしてやろうぜ。こっちは天下御免のジョーカーなんだ」
「でもさ、ジョーカーを探り当てたって事は相当の切れ者なんじゃない? 殺し方だって一つや二つじゃないからこれまで捕まってないんでしょ?」
 加奈が慎重論を述べる。この慎重さがチームの要になっていると言ってもいい。
「じゃあどうするってんだよ。まさか止めるとは言わねぇよな」
「多少趣向を変える必要はあるだろうな」
 清史郎はカバンからジョーカーマスクをのぞかせる。
「マスク……一体何枚あんだ? 量産して成功すんのは北朝鮮のモロコシくらいだろ」
「そっか……これをこれまで被害に遭った半グレに匿名で送り付ければ……」
 ITには弱くても頭の回転の早い加奈には分かったようだ。
「確実な取引情報を手にした本物の銃を持ったジョーカーが出現するんだ」 
 清史郎の言葉に健が唖然とした表情を浮かべる。
「さっすがジョーカー。でもよ、俺たちと鉢合わせにはならねぇのか?」
「一応発信機は取り付けてある。合成音声のスイッチを入れれば起動する仕組みだ」
「じゃあ信号がなかったら作戦決行って訳ね」
「それに送り付ける相手はこっちが選べるんだ。事前に動きを掴む事も難しくないだろう」
 清史郎はこれまでの取引の状況から矢沢組に逆らいそうな半グレをリストアップしている。
 表立って逆らう事はしないだろうが、ジョーカーとしてなら薬をガメるくらいの事はしかねない連中だ。
「でも、それって少ししたら矢沢組に露見するんじゃない?」
「ああ。でも矢沢組は確実に疑心暗鬼に陥るし、本物の銃弾が飛んでけが人でも出ればジョーカーに対して慎重にもなるだろう」
「最高にクールだぜジョーカー! ジョーカーが犯罪者だったら今頃大金持ちだぜ」
 健の笑みに清史郎も笑みで答える。
「じゃあ今日の仕事もクールに決めましょ」
 加奈の突き出した拳に三人の拳がぶつかる。
 本家ジョーカーは最高のチームなのだ。
  〈5〉
   自宅まで嗅ぎつけられたとは。
 午前七時、健司は朝食を食べようと吉祥寺の喫茶店に入った所で、ジョーカーのカードと対面する事となった。
 もっとも、ずっと尾行されていたなら自宅が特定されるのは不思議でも何でもない。
 一番の問題は探偵に四六時中張り込まれたらジョーカーどころではなく、他の仕事も一切できないという事だ。
 動揺を押し隠し、それでも周囲を警戒しながら歌舞伎町の店舗に向かう。
 ドアに挟んだ髪の毛が落ちた様子は無く、侵入者はいないようだ。
 店内に入り、一通り掃除を終えると鋭利に削ったシャープペンシルをカウンターから取り出す。
 殺しの方法はいくらでもある。
 相手が尾行しているなら、人通りの少ない所に誘い込んで始末するという方法も取れるのだ。
 健司は尾行のプロである三浦を警戒する事を止め、路地裏へと足を踏み入れる。
 一定歩いた所で振り向き、シャープペンシルを引き抜く。
 が、そこには三浦の影も形も無かった。
 四六時中張り込んでいるという訳ではないという事だろうか。
 健司が安堵しかけた瞬間、路上に落ちているトランプのカードに気付いた。
 ――ジョーカー!――
 三浦はこちらの考えを見抜いて行動に出ているのだ。
 と、言う事は人通りの少ない所は三浦本人に監視されない反面、ヤクザを監視しているような遠隔装置で監視している可能性が高いだろう。
 ――この僕が身動き一つ取れないと言うのか――
 健司は拾い上げたトランプのジョーカーを握りつぶした。
  
〈6〉
  
 深夜の路地裏、半沢芳樹はジョーカーマスクと紫色のどぎついトレンチコートに身を包んで、汗が出るほどにトカレフを握りしめている。
 部下二人が矢沢組とヤクの取引をする事になっており、そこをジョーカーのフリをして襲撃するのだ。
 成功すればタダでドラッグが手に入り、失敗してもジョーカーのせいだ。
 うだつの上がらない半グレの四十代、ヤクザに昇格できる見込みも無い。
 忠義を示せと言う方が無理というものだ。
 視線の先には金を手にした部下の姿、ヘッドライトで周囲を照らす矢沢組のベンツがある。
 部下が金を出し、組員がスーツケースを開いてドラッグを見せる。
 半沢はそのドラッグを見ているだけで身体にアドレナリンが駆け回ったような気分になる。
「動くんじゃねぇ! こっちにヤクを寄越せ」
 取引成立の寸前に半沢は銃を手に飛び出す。
 矢沢組の構成員がスーツの内側から銃を抜く。
「金もヤクも俺のモンだっつってんだ!」
 半沢は先制して引き金を引く。轟音が響き矢沢組の構成員が気圧されたように見える。
 立て続けに引き金を引いて距離を詰める。
 矢沢組の構成員が引き金を引き、半沢の頬を掠める。
 ジョーカーの姿で出ていけば怯むと思っていたのだが、反撃は想定外だ。
 それでもここが正念場と半沢は引き金を引く。
 一発の弾丸が矢沢組の構成員の鎖骨の辺りを貫く。
 凶悪な一瞥をくれて矢沢組の構成員たちが引き上げていく。
 半沢は両手でヤクを掴んで高笑いする。
 こんなにチョロい商売にこれまでどうして気付かなかったのだろう。
 ――ジョーカーを続ける限り俺は無敵だ――
  〈7〉
   事務所に次々に凶報が舞い込む中、矢沢組の緒方は状況の変化を理解していた。
 ジョーカーの模倣犯は自然発生的に生まれたものではない。
 本当に模倣する脳があるなら金や麻薬を要求する訳が無い。
 と、すれば中身は町の半グレや暴走族と察しがつく。
 とはいえ、数は厄介であり、ジョーカーの真似をすれば処刑だと言った所で本物のジョーカーもどこかにいるのだろうから半グレは高をくくって矢沢組の命令に従おうとはしないだろう。
 そして更に厄介なのはちゃんとジョーカーを模倣できている者もいるという事だ。
 ジョーカーを見たら撃てというのは簡単だが、半グレが連合して矢沢組に反旗を翻したら手足を失った矢沢組に抵抗する術は無い。
 矢沢組は権力と金と麻薬は持っているが、マンパワーが多いという訳ではないのだ。
 ジョーカーはその弱点を的確に突いて来たのだ。
「緒方、考えは無ぇか?」
 電話越しの矢沢の言葉に緒方は頭を巡らせる。
「ジョーカーマスクに百万の懸賞金をかけてはいかがでしょう?」
 マスクをつけている人間の罪を問わず、マスクを差し出せば百万やると言えばわざわざ危ない橋を渡ろうという連中は少なくなるだろう。
 その上でジョーカーの撃滅を図ればいいのだ。
「その手は使えそうだな。問題はマスクがどれだけ出回っているかだが」
「数は多くないと考えます。そもそも同時多発的にジョーカーが出現したという事は、誰かが創意工夫して模倣されたのではなく、何者かが意図的に行ったと考える方が自然です」
 言って緒方は組員たちに通達を出し、ついでに警察にも懸賞を知らせておく。
 公権力が銃刀法で取り締まりを開始すれば半グレは震えあがってジョーカーの真似などしていられなくなるだろう。
  〈8〉 
 
  健司は新庄市のホテルの床に落ちた髪の毛を拾いながら、事態の急変と自分の読みが正しかった事を知る。
 三浦は健司に捕捉された事で作戦変更を余儀なくされた。
 健司も身動き��きなくなったが、それはお互い様なのだ。
 そこで今回のジョーカー量産化計画を演出したのだろう。
 しばらくの間町中にはジョーカーがあふれる事になる。
 矢沢組が引き締めを行っているものの、偽ジョーカーの模倣犯も出現し本来の偽ジョーカーより多くのジョーカーが出現しているのが現状だ。
 ――でもこの狂騒はすぐに終わる――
 健司は日が暮れるのを待ってアタッシュケースを手にホテルを出る。
 三浦が四六時中張り付いている訳ではない事も分かっている。
 いずれにせよ仕事を迅速に済ませれば証拠も残りはしないのだ。
 深夜の人気の消えたオフィス街を歩きながら手に手術用のビニール手袋をはめる。
 靴のサイズは自分の標準よりワンサイズ大きく、髪型は大きく変えていないが頭にはカツラをかぶっている。
 一般で売られているカツラには、インドの仏教徒やヒンズー教徒が出家する時の髪の毛が使われている。
 そして、インド人の髪の断面は日本人が楕円であるのに対し正円に近い。
 仮に髪が現場に落ち、科捜研が調査したところで出てくるのは謎のインド人という事になるのだ。
 健司は予定していた地点にたどり着くと、持ってきたボルトを電柱の穴に差して二・五メートル程の高さにまで登って電柱に寄り添うようにして立つ。
 予定通りスポーツバッグを手にしたジョーカーが走ってくる。
 中身は半沢という三下の半グレだ。
 正面だけに注意を向け、自分の身長より上には注意が向いていないらしい。
 健司はボルトに引っ掛けたテグスを引っ張る。
 ジョーカーの首にテグスが食い込み、仰向けに倒れかかる。
 アイスピックを手にした健司はジョーカーに圧し掛かるようにして飛び降りる。
 アイスピックがジョーカーのマスクと頭蓋骨を貫き、脳を攪拌する。
 健司はアイスピックをその場に放り捨てて、テグスもそのままに歩き去る。
 アイスピックもテグスも殺人犯を特定する決定的な証拠とはなり得ない。
 少し歩いた所で歩きやすい靴に履き替え、手袋を脱いでしまえば何一つ痕跡は残らない。
 意識していたが三浦に行動を監視されていた様子は無い。
 三浦はマスクをばらまいた事でジョーカー業を一定退いたのかも知れない。
 それならそれで……
 ――ジョーカーを名乗れば問答無用の死が訪れる――
 それでもジョーカーを続けられる者がいるだろうか。
 健司の受けた依頼はジョーカーの殺害であって三浦清史郎の暗殺ではないのだ。
  〈7〉
   緒方は苦い気分で事務所でTVを見ている。
 一週間で九人のジョーカーが殺され、四人のジョーカー、三人の組員が射殺された。
 ワイドショーは死体にピエロのマスクをかぶせる愉快犯として報道している。
 常識的に考えればそうなのだろう。
 だが、現実にはジョーカーの模倣犯が跋扈し、殺し屋円山がジョーカーを殺しまくっているのだ。
 この問題の裏が表ざたになれば矢沢組に捜査の手が伸びる。
 組長が事情徴収という事にでもなれば、知事選敗北は必至だ。
 この銃弾飛び交い殺し屋が闊歩する状況は、客観的に見れば矢沢組の内部抗争なのだ。
 ――やってくれたなジョーカー――
 日用品を用いて鮮やかに殺しを��行する健司に対する恐怖は広がっており、それなりの数のジョーカーマスクが届いてもいるが、それでも自分だけは大丈夫と考えるのが人間の性であるらしい。
「兄貴、県警本部長が来ています」
 部下の言葉に緒方は舌打ちしたくなるのを堪える。
 何人か人身御供に出す必要はあるだろうが、それでジョーカー問題が片付く訳でも無い。
 今の新庄市はさながらギャングの蔓延る六十年代のニューヨークだ。
 このネガティブイメージの中ではカジノ施設の誘致も集客の為だなどという言葉で誤魔化せない。
 ――だが、商店街も打撃を受けているはずだ――
 緒方は次善の手を考えながら県警本部長を待たせてある応接室に向かう。
「緒方です。この度はお騒がせしております」
「いや、そうかしこまらんでくれたまえ。私がこうしておれるのも矢沢組あっての事だ」
 県警本部長の茨木義男が本革張りのソファーから腰を上げて言う。
 茨木は東大卒のキャリアで矢沢の後輩に当たり、同じゼミを受講していた間柄だ。
「殺人事件は起こせない。それが警察の不文律でしょう?」
「今回のカジノ施設建設は内閣肝いりでもあるんだよ。情報操作で反対派が工作しているように演出する事は可能だろうよ」
 転んでもタダで起きないのが政治家やエリートというものであるらしい。
「つまりはカジノ施設反対派が、賛成派の人間を殺してピエロのマスクをつけていると?」
「そういう報道になっているだろう?」
 茨木の言葉に緒方は唖然とする。
 当事者としての立場で見ていた為に気付かなかったが、一般視聴者の目線で見るとそういう風に見えるのだ。
「で、私の在任中にこれだけの死者を出しているんだ。票は囲い込めているんだろうね」
「固定票は押さえております」
 実際の所、矢沢組は内紛に近い状態で票を囲い込めるような状態ではない。
 大手のチェーン店などでは本部通達で票の取り込みができているが、個人事業主は依然として反対の姿勢を崩していない。
 ――やる事成す事裏目に出る―― 
「死人は出る、カジノ施設はできないでは私の本庁復帰が危うくなるんだよ。その意味は分かっているだろうな」
「はい」
 不満げな茨木に緒方は短く答える。
 ――県警本部長が殺害されれば流れが変わるかもな――
 緒方は脳裏にあのとらえ所のない殺し屋の姿を思い描いた。
  第四章       トリックスター
  〈1〉
  「最近俺たちが出てもヤクザもビビらねぇのな」
 クイーンメイブのボックス席で健がぼやく。
 本物の銃を撃つジョーカーもいれば、ジョーカーを狙い撃ちにする殺人鬼も存在する。
 実際に死人も出ているのだから今更驚かす程度ではヤクザも怯みはしないだろう。
「銃で撃たれるって不安。前より遠慮なく撃たれてる感じ」
 加奈が沈んだ様子でカクテルに口をつける。
「おいおい、私たちの本来の目的を忘れたんじゃないだろうな。私たちの目的はカジノ施設誘致の妨害だ。今の状況でカジノ施設がオープンしたとして誰がテナントに入るんだ? 暴力がこれだけ蔓延る状況を許した現職知事は窮地に立たされている。住民の安全と地域の活性に誠実に取り組む人物が取って代わらなければ市民が納得しない」
 ショットのバーボンを口に運んで清史郎は言う。
「いや、確かにジョーカーの言う事は分かるんだけどさ、昔は良かったっつーか、実入りが少ないのは我慢するとしてもよ」
「私たちの本当の目的に近づいているんだから喜んでいいはずなんだけどね」
「選挙の公示まで三日、世襲できそうな人間がいない以上与党は今更候補者を変更できないし、現職のまま選挙を戦う事になる。野党には追及の材料が掃いて捨てるほどある。これで負けるようなら本当に世の中が腐りきってるってだけだ」
 健と加奈の気持ちを察しながらも清史郎は言う。
「もう少しで全部終わっちまうんだよなぁ~。何か微妙だぜ」
「コンビニも忙しいって言えば忙しいんだけど、税金は取られるのに退職金も無いし年金のアテもないし」
 健が仕事にやりがいを感じられないのも、加奈がお先真っ暗だと言うのも理解できる。
「そうは言っても九月三十一日にはジョーカーは死ぬんだ」
「してやられましたよ。九月に三十一日なんて無いじゃないですか」
 ボックス席に当たり前のように現れた円山が言う。
「誰だテメェ!」
 健が身を乗り出す。
「歌舞伎町で殺し屋を経営している円山健司と言います。ここが三浦さんの本当の事務所だったんですね」
「まさか一週間で九人も殺したのって……」
「やだなぁ~僕はもっと殺してますよ。警察だって報道内容には気を遣うんです」
 涼しい表情でグラスを手にした円山がボックス席に座る。
「人殺しだってバラすぞ、テメェ」
 健が円山に向かって噛みつきそうな声と表情を向ける。
「ご自由にどうぞ。何か一つでも証拠が存在するならね」
「で、その殺し屋さんがここに何の用?」
「いや、本家のジョーカーはどうしているのかと思ってね。偽物でもこれだけ殺せば本家も仮面を捨てるんじゃないかって思って」
「おたくの言う通りだ。こんな凄腕の殺し屋がいるならジョーカーなんてやるだけ損だ」
「本当にそう思っていますか? 本家はまだ何か隠し玉を持っているんじゃないかって思うんですけど」
「随分と余裕かましてんじゃねぇか。ジョークを殺ったらテメェを殺す」
「殺しはしたくないけどジョーカーを殺させる事は絶対にしない」
「人望があるんですね。いっそ事務所でこの二人を雇ったらどうです? 今より金回りはよくなるんじゃないですか?」
「殺し屋より儲かるとは思えないね」
「それはリスクを負っていますから」
「テメェは嫌味を言いに来たのか。悪いが俺たちはテメェになんざ負けねぇ」 
 頭に血の上った健が言う。
「そうそう、一つプレゼントがあるんです」
「あんたがくれるものなんてロクなものじゃないと思うんだけど」
「野党連合の候補を殺すように県警本部長から依頼を受けたんです」
 笑顔で言った円山がグラスを空ける。
 突然の事に健と加奈が硬直する。
 選挙期間中に候補が殺されてしまったら票が分散して現職が有利となる。
 どれだけ黒い噂があったとしてもだ。
「それは俺たちに守って見せろと言っているのか?」
「さぁ、気まぐれですよ。僕はこれでもあなたの事が嫌いではないんですよ」
 言った円山が席を立って去っていく。
 加奈と健が茫然とその背を見送る。
「私たちと候補者をまとめて葬るつもりか……」
 清史郎は思案する。候補者を守る為に張り付けば二人まとめて殺される可能性がある。
 しかし、候補者を放置しておけば間違いなく殺されるだろう。
 具体的な殺人予告という訳ではなく、あったとしても警察はアテにはならない。 
 市民は自衛するしか無いのだ。
――どうする……―― 
「なぁ、ジョーク、どうすんだ?」
「あんたも少しは考えなさいよ」
「考えてるって。頭の中じゃあの野郎を三十回は殺してる」
 非生産的な事を考えている健が言う。 
「ジョーカー、私、どうしていいか……」
 加奈は追い詰められた様子だ。
「こうなったらお望み通りにしてやろう。ジョーカーの最期を見せてやるんだ」
 清史郎は一抹の寂しさを感じながら笑みを浮かべて見せた。
 円山を前にして取れる手は一つしか無いと言っていい。
 ――あの男はこの結果を望んでいたのだろうか――
  〈2〉
  『……皆さん、この町の惨状は突然��きたのでしょうか? その根幹には市の中央にある広大な県の土地があります。この土地は江戸時代に火災の延焼を避ける為に作られた防災の為の土地でした。しかし新庄市が栄えるに従い、土地の価格が上がり莫大な利益が生まれる事が分かってきました。ヤクザやギャング、財界の人間はその利権に群がっているんです。もし、彼らの思い通りにさせるなら彼らの存在を容認する事になります。二百年前の先人の知恵に従い、ここを防災を兼ねた市民公園にする事こそが行政の成すべき事です……』
 夕暮れの新庄市の駅前で野党候補の峰山春香が声を上げる。
 聴衆はさほど多くはないが商店街や青年団が集まって盛り上げようと四苦八苦している。
 清史郎はオープンカーのハンドルを握りながらタイミングを計っている。
『ジョーカー、スタンバイOKよ』
 イヤホンから加奈の声が聞こえてくる。
『警察は野党の候補に人は割いちゃいねぇ、殺るなら今だ』
 健の声を受けて清史郎は紫のどぎついトレンチコートを羽織り、ピエロのマスクをかぶる。
「そこのお前……」
 演説を警備していた警官が警棒を手に近づいて来る。
「制服ギャングも久しからず」
 清史郎は銃を引き抜く。
 警官の足元で火花が爆ぜる。
 聴衆だけでなく、夕暮れの帰宅ラッシュの人々の足が止まる。
「綺麗ごとでマニィをロンダリィ! 俺はハッピーにトリガー、堅実な人生が諸行無常!」
 清史郎は自動小銃を抜いて選挙カーに銃弾を浴びせかける。
 銃声が響き至る所で火花が散る。
 ガードマンに守られて逃れようとする峰山の背に向けて引き金を引く。
 血を噴出させた野党候補が倒れる。
「こんな時には正露丸! キャベジンがあれば国士無双ゥ! ユンケル飲んだら夜金棒!」
 峰山が選挙カーに運び込まれ、現場から離脱しようとする。
『ジョーク、サツが動いた。射殺してもいいって言ってやがる』
 健の言葉に清史郎は生唾を飲む。想定してはいたが、想像以上に警察もなりふり構っていないらしい。
 清史郎はオープンカーで選挙カーを追い、グレネードランチャーで後ろ半分を吹き飛ばす。
 煙を上げた選挙カーが路肩で停止する。
 清史郎は高笑いしながら選挙カーの脇をすり抜け、オープンカーで町を駆け抜ける。
 無数のパトカーが清史郎のオープンカーを追う。
『ジョーク、法定速度は無視してくれ、俺がナビゲートしてんだし、今更ネズミ捕りが怖いって訳でもねぇだろ』
 健のナビゲーションでパトカーを避けて清史郎は埠頭へと向かう。
 銃声が響き、音速より早く飛んだ弾丸がオープンカーに襲い掛かる。
 警察が矢沢組の懸賞を狙っている事は健のハッキングで知っている。
 制止する警官の声と銃撃を受けながら、フルスロットルのまま岸壁から海上へと車体を躍らせる。
 肩と背中に銃弾を受けた清史郎は冷たくなり始めた海の中へと沈んでいく。
 清史郎が意識を失いかけた時、淀んだ海の中にウェットスーツに身を包んだ加奈が姿を現した。
 
 
 〈3〉
   警察が捜査した結果、海で手に入れる事ができたのは一台の盗難車とピエロの仮面と紫色のトレンチコートだけだった。
 知事候補が襲撃された事もあり、今後清史郎がジョーカーの扮装をすれば正体が露見する可能性は極めて高くなるだろう。
 ――本家ジョーカーは死亡した――
 健司は病院の廊下を歩きながらポケットの中のビニール手袋の感触を確かめる。
 野党候補は銃創を負って病院に入院している。
 実際には銃創など負っていないのだろうが、ジョーカーと候補が一芝居打つのだとしても病院は避けて通れない。
 ――悪いけど僕は殺しの依頼は完遂する――
 健司は候補の部屋の前のボディガードの様子を観察する。
「すみません。新庄市後援会の青年団の円山と言います。先生はご無事でしょうか?」
「先生はご無事だ」
 鉄面皮のボディガードが返答する。
「それを聞いて安心しました。一言無事をお祝い申し上げたいのですが構いませんか?」
「十分だ」
 ボディガードの言葉に笑みを返して健司は一人部屋に足を踏み入れる。
 両手にビニール手袋をはめ、小銭袋を握りこむ。
「やぁ、先生、ご無事なようで何よりです」
「無事なものか。ポリの弾丸を四発も食らったんだ」
 そこで見た光景に健司は言葉を失った。
「お陰で選挙が終わるまで退院できそうにない」
 三浦が笑みを向けてくる。
「バカな……あなたは……」
 身を隠さなくてはならないはずだ。
 治療する為にも……。
 ――治療する為に候補に成りすましたと言うのか――
 入院している間は世間の目は避けられる。
 それでは候補はどこに消えたと言うのか。
「お前は野党候補を殺せというオーダーを受けたはずだ。今彼女は立候補しているが、生死不明で野党の統一候補ではない。今は慶田盛弁護士事務所で事務の手伝いはしているが選挙活動はしていない。それでもお前は殺すのか?」
 健司は清史郎の言葉に笑いがこみあげてくるのを感じた。
「詭弁にも程がありますよ。ほとんど屁理屈じゃないですか」
「屁理屈でも君は依頼に忠実なんだろう? あと面会は手短に頼むよ。これでも歳でね、銃創って言うのは堪えるんだ」 
 銃創が堪えているのは本当らしい。
「それでも最後には候補は復活しなきゃならない」
「死んでいなければね」
 カーテンの影から姿を現した女性がグレネードランチャーを構える。
「まさか……」
「ジョーカーは死んだ、ヒットマンは来た。これで充分だ。なぁ、ジョーク」
 ラップトップコンピューターを小脇に抱えた青年が言う。
「ゲームオーバーだ」
 清史郎が不敵な笑みを向けてくる。
 健司は小銭袋を窓に投げつける。
 砕けたガラスの破片を拾い上げて身構えながら退路を探る。
 ガラスの破片で候補の命を絶つつもりだったが今三浦を殺した所で意味が無い。
 今は割れた窓の外に逃れる隙さえあればいい。
 女性の指がグレネードランチャーの引き金にかかる。
 猛烈な爆音と閃光が室内に満ちる。
 健司は窓の外に身体を躍らせた。
 ――これで知事候補が殺された事になるのか――
 健司は地面を転がり、人目を避けながらバッグから出した白衣を羽織る。
 ――僕は最期までジョーカーに踊らされたって訳か――
 敗北感より、どこか清々しさを感じながら健司は病院を後にした。
  〈3〉
  「慶田盛弁護士事務所では峰山候補を歓迎しますよ」
 新庄市にある、冤罪に強いと噂の弁護士事務所で峰山春香は未だに自分の身に起きた事が信じられないでいる。
 峰山が候補に決まったのは公示二日前、そこから慌ただしく野党の党首などと会談を交わし、選挙戦の流れになったのだが、その直後に慶田盛敦という弁護士が現れたのだ。
 慶田盛の噂は峰山も聞いており、信頼できる人物であるとは感じていたが、話の内容は想像のはるか斜め上を行くものだった。
 新庄市の乱射魔ジョーカーの本家は、冤罪事件の解決を主に行っている三浦探偵事務所の所長三浦清史郎だったのだ。
 三浦は知事選を前に町に大量のジョーカーマスクをバラまいて一時的に身を引いた。
 しかし、ジョーカーと野党知事候補は確実にターゲットを仕留める円山という男に命を狙われているのだ。
 更には矢沢組がジョーカーに懸賞首をかけており、警察も生死を問わないという条件でジョーカーを狙っているという。
 そこで三浦が出して来た案がジョーカーに候補者が襲われて入院、ジョーカーは警察に追われて死亡、更に候補者の運び込まれた市民病院に現れる円山を三浦が撃退するというものだったのだ。
 三浦は警察に追われて手傷を負う事は間違いなく、それならば知事候補と入れ替わって入院してもゆっくりと治療ができる。
 一方春香は慶田盛弁護士事務所で投票日三日前まで、事務職として短期採用される。
 円山のターゲットは知事候補であり、事務員殺害ではなく、その一線を越えてこないのも円山という男なのだという事だった。
「何もかもが信じられないわ。生死不明で選挙戦を戦うなんて……」
「野党の党首が連日新庄入りするって話になったじゃないですか」
 春香は慶田盛弁護士事務所の安普請の椅子に腰かける。
「それはいいとしても、いいえ、大きな借りを作る事になりますし……」
「市民に対して不誠実だと?」
 春香の心中を察した慶田盛が言う。
「その通りよ。三日前に復活なんて話が良すぎるし」
「でも、実際問題あなたを救う手立ては他に無かった」
 事務所の電話が鳴り、慶田盛が受話器を手に取る。
 ボタンを押してスピーカーに切り替える。
「私だ。円山が知事候補殺害に現れたよ。こっちで見かけだけは派手な爆薬を爆発させて追い出した。これで知事はテロリストにまで襲われた事になるわけだ。しばらく身を隠さなきゃならない理由が増えたんじゃないか?」
「三浦さんですね? あなたが身体に銃創を負ったという話は聞いています。あなたはどうしてここまでやったんですか?」
「若い連中と付き合いがあると、柄にもない正義感なんてものも持つものなのさ」
 三浦の言葉に春香はため息をつく。
 実際の傷はどうあれ、体面上知事候補は集中治療室にかくまわれるだろう。
「市民病院が告発したらどうするつもり?」
「それは無いさ。与党の市長になってから予算を削減されて、市民病院では上から下まで味方しようなんてヤツはいないんだから」
 慶田盛が肩を竦めて見せる。
「あと、仕事柄マスコミの相手をするのは苦手じゃないんだ」
「ああ、こいつは口先だけは有能だからな」
 二人の言葉を聞いていた春香は苦笑する。
 悪だくらみのような作戦だが、この二人にとってはこれは健全な正義のスポーツのようなものなのだ。
 
 〈4〉
   野党候補の入院先で爆破テロが起こった事で、与党候補に対する疑惑は大きなものとなった。
 野党候補は生死の境を彷徨っていると報道されている。
 清史郎は病院で何不自由なく治療生活を送っている。
 のだが……。
「なぁ、ジョーク、ここで寝てるってのは何かの冗談だろ?」
「怪我してるのは事実なんだから無茶言わないの」
 健と加奈は連日競うようにして病室を訪れている。
「お前ら、もうジョーカーの出番は無いんだぞ? 知事選も候補が無事を表明すれば一発で決まる。もうやる事は無いんだ」
 清史郎が言うと健が叱られた犬のような表情を浮かべる。
「いやさジョーク、俺、土建屋辞めたんだ」
「私も……その、コンビニ辞めたんだ」
 清史郎は二人の言葉に唖然とする。
 このご時世に仕事を自ら捨ててどうしようと言うのか。
「ジョーク、儲からないっつってるけどよ、俺が手伝ったら何とかな��じゃね?」
「先に言わないでよ。採用するなら私の方が得なんだから。多分」
 清史郎は額に手を当ててこみ上げてくる笑い声を抑える。
 傷に響くが笑いたくなるのだから仕方がない。
「お前ら、馬鹿じゃないのか? こんなオッサンと組んだって心中するようなモンだろ」
「それでもいいくらい楽しかったんだよ」
「またスリル、くれるんでしょ?」
 清史郎は笑い声をあげて身体を起こす。
 傷が引きつるが痛みなど気にならない。
「資本金はお前らと合わせて裏金三千万円。社員は三人。一人はオッサン。ジョーカー探偵事務所とでもするか」
「何かダセェ。中年は変に英語にするから逆にカッコ悪いんだよ。三浦探偵事務所でいいだろ」
「中年のセンスが悪いのは今に始まった事じゃない」
 清史郎は憮然として健に言い返す。
「じゃあ新しい門出に」
 加奈がバッグからワインのボトルを取り出す。
 若い二人は自分に老ける暇を与えてくれないらしい。
 清史郎はコップに注がれたワインを掲げる。
「乾杯」
 紙コップが音もなく打ち合わされ、新しい何かが動き始めた。
  エピローグ
   清史郎は健と加奈を引き連れて病院の廊下を歩いている。
 向かいからスーツ姿の峰山春香が歩いてくる。
 握手しようと峰山が手を差し出してくるのを無視して清史郎は右手を軽く上げる。
 峰山が応じて右手を挙げてハイタッチすると、清史郎と峰山は入れ替わるように方向を変える。
 清史郎の背後でフラッシュが瞬き、峰山が光とシャッター音に包まれる。
 生死不明から無傷での生還。
 これほどの宣伝も無いだろう。
 ジョーカーはカジノ施設を阻止するというその使命を果たしたのだ。
   選挙戦は野党党首が連日交代で訪れるという形で、野党が攻勢を強めていた。
 そして投票日三日前に野党候補が無傷で出現。
 暗殺者に狙われていた事を告げ、改めて支持を訴えた。
 緒方は事務所で出来の悪すぎる茶番劇を見せられたような気分を味わっている。
 ジョーカーという乱射魔が出現、殺し屋に依頼をしたらジョーカーの模倣犯が大量に出現。野党候補を狙ったら本家ジョーカーに命を狙われ、生死不明から一転蘇った。
 市民の心理を考えるまでもなくこの選挙は完敗だ。
 何処で何を間違えたのかなど分からない。
 否、最初からこの町には矢沢組を受け入れない何かが存在していたのだ。
 近々上層の組から矢沢更迭が告げられるだろう。
 だが、緒方は矢沢にとって代わろうなどとは思わない。
 ――この町にはジョーカーという化け物が存在するのだから――
   十月一日、健司はいつものように殺し屋のカウンターの内側にアルコールを吹きかけている。
 もしも、九月に三十一日が存在しているならジョーカーが殺されてやると言っていた日。
 新庄市では市民の支持を得た新知事の誕生でお祭り騒ぎらしい。
 と、殺し屋の戸口に宅急便の配達員が現れた。
「殺し屋様ですか? Amazon様からのお届けものです」
 記憶には無いが健司は笑顔で箱を受け取り、伝票にサインする。
 ナイフで慎重に箱の封を開けるとそこにはピエロのマスクが収まっていた。
 健司は口元に笑みが浮かぶのを感じた。
 ――確かにジョーカーは死んだ――
 健司はその自然な笑みを機械的な笑みの後ろに隠し、カウンターを磨き始めた。
 今日も新たな客がやって来るに違いないのだ。 
0 notes
me4kids · 7 years
Text
【北海道】冰天雪地「自駕九天行程」租車、住宿、美食、親子景點一次打包
Tumblr media
一開始的北海道行,是以露營為出發點,林阿鬼先生不知哪根筋去拐到,突然想去北海道嚐試露營車的體驗,於是揪了一直也是露營的固定咖Q饅頭家一起,新的不同玩法果真一下引起共鳴。不過我們的計畫是一變再變,時間從十月的賞楓變到隔年一月的玩雪,就連露營車都在出發前最後一個月,決定取消,全程改成租車自駕。
Tumblr media
  這回的旅行,出發前一波三折,為有效的控制預算(一家四口預算從10萬上修到11萬),以廉航為主,原本回程是搭復興航空,誰知他說倒就倒,所以我們最後的班機是:去程~6:00虎航(NT 18,856)→日本函館機場/回程香草→東京成田(JP 23,500)+捷星→桃園機場00:45(JP 83,240),如此下來,一家四口的機票錢共計:NT$49,120 (搭早班飛機的小福利~從雲上看日出)
Tumblr media
   這回去了九天,這樣的天數還蠻剛好的,剛好覺得玩夠了、剛好會想家了。別以為九天能跑很多地方,北海道真的很大,這回我們也大概只走了半個北海道而已(函館、札幌、小尊、旭川、富良野、千歲)。雪地移動不是那麼方便,北海道的交通也不如關東、關西地區,說真的,撇除雪地駕駛的危險性不談,自駕真的是最方便的。我們遇到一些台灣的背包客,他們說光是在雪地拖行李就已讓他們快吃不消了~
Tumblr media
 敲碗公行程如下:
Tumblr media Tumblr media Tumblr media
  雖然說凌晨三、四點就起床搭機,但這些小鬼看到雪精神全來了,函館機場戶外有個可以觀看飛機的平台,積滿了雪還有個小雪人,就讓這些小孩興奮不已!(這只是開始~接下來九天都是雪、雪、雪....)
Tumblr media Tumblr media
   函館機場小歸小,但吃飯、溜小孩倒還不成問題,3F有幾家價位尚可的餐廳方便用餐之外,還有一座木製的遊戲空間,空間設計很有巧思,不大,但卻可以讓孩子穿梭其間,還有一堆積木可堆疊,這幾個不論年紀大小,在這裡玩到拉不走。
Tumblr media
九天自駕從一下飛機開始就租車了,林阿鬼這回是跟ORIX租車,函館機場內只有一個沒人管理的小櫃台,營業所在機場外,必需拿起櫃台上的電話,就會接通營業所的人,ORIX就會有派車到機場接送我們到營業所辦理租車手續,真的是很妙的管理方式,我們二家合租一台Honde Step Wango八人座,八天費用68,720円+ETC卡8天8200円+借卡費324円+NOC保險10,368円=87,612円,一家均攤43,806円。(*雪地自駕眉角很多,一定要相當謹慎!二位司機在出發前已看了無數篇雪地駕駛的相關影片及文章) ORIX租車 http://car.orix.co.jp/tw/
Tumblr media
我們的第一站~函館市熱帶植物園,主要來看冬季限定的猴子泡溫泉,不過看完猴子泡完溫泉倒是有個疑問,牠們起身後全身濕答答的坐在岸邊不會更冷嗎?除此之外,這裡的溫室熱帶植物也很有看頭哦!夏季時會有個水廣場,及遊具等(※館內設施詳情),這個點離函館機場很近,門票不貴,佷適合帶孩子來走走 函館市熱帶植物園 北海道函館市湯川町3丁目1番15号 http://www.hako-eco.com/ 費用:小学生・中学生 100円/一般 300円 開園時間 【4月~10月】:9:30~18:00 【11月~3月】:9:30~16:30
Tumblr media
為了一窥這點燈後美麗的星型五稜郭,我們特別選擇黃昏時才到這裡,「五稜星の夢(ほしのゆめ)イルミネーション」17:00後點燈,登上高塔展望席向下看,真的極為美麗,每年的點燈的日期可能略有不同,要前來的朋友,可上官網留意訊息動態。(※五稜郭簡介-維基百科) 五稜郭タワー 函館市五稜郭町43-9 http://www.goryokaku-tower.co.jp/
Tumblr media
有句話說:來函館的沒吃過小丑漢堡等於白來函館(人家明明叫LUCKY PIERROT HAMBURGER),,五稜郭對面就有一家,所以可以順吃,這家漢堡真的超好吃,而且便宜,店內陳設非常的花里若喵,初次進去光是目錄就夠你眼花潦亂,不過不用擔心~漢堡類的從排名第一名的點下去準沒錯。另外個人極力推薦的是他的炸雞翅(當天我們點第二輪時,店長推薦我們的),我覺得比名古屋的那些有名的手羽先好吃八百倍!唯一可惜的是~套餐附的綠茶....很平淡,所以飲料可以考慮著點。 LUCKY PIERROT ラッキーピエロ 五稜郭公園前店 函館市五稜郭町30-14 TEL 0138-55-4424 営業時間:AM10:00~AM0:30(土のみAM1:30) http://luckypierrot.jp/
Tumblr media
這趟旅程我們住的部份有時省,有時揮霍,說���來起伏變化還不小呢!第一天行程以函館為主,所以���了個背包都熟悉的東橫Inn,它的特色是便宜乾淨(但空間不大)、位於交通方便之處且到處都有連鎖,另外對於我們這種有小孩的最大優點是:小學生以下的兒童不佔床時不收房費,函館站前朝市分店就在函館朝市旁,且從JR函館站西口步行2分鐘,從函館機場乘坐機場巴士約20分鐘(成人410日圓,兒童210日圓),一整個就是方便啊~ 東橫INN 北海道函館站前朝市 地址: 040-0064 北海道函館市大手町22-7 電話: +81-(0)138-23-1045 傳真: +81-(0)138-23-1046 http://www.toyoko-inn.com/c_hotel/00063/ http://www.toyoko-inn.com/index.html
Tumblr media
第一晚住在東横INN函館駅前朝市,隔天起個大早往走路2分鐘就可以到達的涵館朝市去尋寶,函館朝市真的是好吃又好玩的一個點(必來),就算飯店有提供早餐我們還是要去那裡攪和一下,光看那些琳琅滿目的海產就覺得有趣,裡面還有許多現烤的海鮮都非常值得來嚐鮮哦!我們主要是帶小孩去體驗釣烏賊,釣起來的烏賊店家會立刻幫忙處理然後生吃。還意外發現了白草莓,一盒2000円很貴,掙扎了好久還是下手買了,它比紅草莓還甜,但草莓的香氣還是紅色的勝。 函館朝市 〒040-0063函館市若松町9-19 TEL:0138(22)7981 営業時間:年中無休(每家店舖略有些不同) 【1月〜4月】:6:00~14:00 【5月〜12月】:5:00~14:00 http://www.hakodate-asaichi.com/index2.php
Tumblr media
位於大沼公園附近的夢屋,是大沼名物ジャンボ焼そば的元祖,菜單裡有名的【あんかけやきそば】如上圖,它就像是料爆多的什錦燴麵,勾芡勾的很重,口味也很重,份量有分SIZE哦,人多可以嚐試超大盛,那個盤子會無敵大,感覺應該很爽!就像去吃大碗公冰一樣的威~ 夢屋大沼名物元祖ジャンボ焼そば TEL:0138-67-2431 地址:北海道龜田郡七飯町字大沼町211
Tumblr media
很常在電視看到的在冰上挖個洞釣魚,終於有機會大顯身手(咦?哪來的身手?),大沼公園這裡的冰上釣魚業者有數家,而且大沼公園非常的大很容易不知從何下手,【太公園】是我們停好車後詢問了停車場旁的店家所介紹的。太公園所在的點魚兒不少,很輕易就能釣到,所以在這裡人人都是釣魚高手,哈哈哈~
Tumblr media
釣起來的魚支付500円店家會幫你現炸(如果魚獲量不多店家還會幫你加),本以為這種小魚應該會很腥,但沒想到完全不腥,店家用的炸粉很好吃,小魚炸的酥酥的,吃起來有蝦味仙的味道,好吃好吃!店家婆婆另外切了蘋果招特我們,吃完酥脆的炸魚再來片蘋果完美的Endding,結果小鬼們吃不夠,一直問~還有嗎?(謀哇啦!) 釣り堀 太公園  北海道亀田郡七飯町大沼町1023-25 TEL:090-2810-7347(川村)  JR大沼公園駅から徒歩10分(送迎可)  營業時間:9:00~16:00  ※釣堀は1500円。氷上は貸用具+えさ500円、遊漁料大人600円、中学生以下300円 參考網址:https://goo.gl/yWE90R
Tumblr media
  就在洞爺湖旁的洞爺 湖畔亭溫泉旅館地理位置還不錯,緊鄰著洞爺湖旁其露天風呂的view超棒的!我們訂的是和式的房型,在還沒舖床前的空間很適合小朋友活動及二家人聚一起喝酒聊天,附近有7-11及可退稅的藥妝店可逛(藥妝只開到21:00)。
Tumblr media
洞爺湖温泉彩燈隧道,是每年11月到2月備受矚目的盛大活動。我們來的時間剛好遇上,總長70公尺的隧道,有超過40萬顆燈飾點綴相當的漂亮,會讓人流連忘返的在這如幻境般的浪漫世界裡。活動期間,每晚點燈時間為 19:00~22:00(※每年將有所調整,詳情請上官網查詢:http://tw.laketoya.com/)
Tumblr media
絶景の湯宿洞爺 湖畔亭真的不是隨便說說,飯店走出來就是這番美景,建議有機會來此住宿的遊客們,可大清早去泡露天風呂,所看到的美景就是這般美麗,邊泡湯邊享受這清晨的靜謚,可以好好沈澱一下自己,真的很舒壓哦!  
洞爺 湖畔亭 住所 〒049-5721北海道虻田郡洞爺湖町洞爺湖温泉7-8 TEL: 0142-75-2211 http://www.toya-kohantei.com/
Tumblr media
   雖然說熊牧場餵熊是很觀光客行程,不過基於順路再加上小孩也愛餵食這一味,所以就來了~帶小孩來這裡餵熊的花費會爆增不少,且園內四處都有餅干(餵熊用)販賣機,非常方便購買(熊飽了,老木的荷包就餓了)。  
昭和新山熊牧場 〒052-0102 北海道有珠郡壮瞥町昭和新山183番地  TEL(0142)75-2290 http://kumakuma.co.jp/
Tumblr media
自駕的捧油千萬別錯過進休息站(SA)的機會,這裡頭可是有隱藏版的美食呢!日本高速公路上有SA(休息站) 及 PA(停車區)二種,其中的差異在於SA裡有完善設施,除設有停車場∕庭園、公共廁所、免費休息室外,另設有餐廳、速食區、加油站、購物區等服務設施。每隔50~150km設有休息站。PA的規模較小,設有停車場∕庭園、公共廁所、速食區及購物區等服務性質休息設施。每隔 15~25km 設有停車場。 有株山SA http://www.driveplaza.com/sapa/1050/1050029/1/
Tumblr media
   進入到札幌我們決定趁日幣低時對自己好一點,選擇了位於市區、交通便利、離狸小路只有500M的【札幌王子大飯店】連泊了二晚。
Tumblr media
這裡的自助式晚餐也超豐富精彩的,現正逢札幌王子大飯店45週年慶,加LINE好友,即可享有專屬的午餐及晚餐Buffet優惠券!(※加LINE好友)
Tumblr media
  選擇樓層高一點的房型外面的VIEW超棒,晚上的夜景就更不用說了!札幌市一覽無遺呀! 詳細文章連結:【北海道住宿】札幌王子大飯店 Sapporo Prince Hotel & 臨近美食大搜查
札幌王子大飯店 札幌プリンスホテル Sapporo Prince Hotel 〒060-8615 北海道札幌市中央区南2条西11丁目 TEL:011-241-1111 中文官網:http://www.princehotels.com/sapporo/zh-tw/
Tumblr media
   超有名的一幻蝦拉麵一定要來嚐嚐,一進店內就充滿著蝦味道,湯頭非常非常的蝦,對於我這種愛蝦的人,真的覺得美味到了極點呀!口味共有三種:えびしお(甜蝦鹽味)、えびみそ(甜蝦味噌)、えびしょうゆ(甜蝦醬油),三種風味(全都是780日圓),湯的濃度分別有:普通そのまま、淡ほどほど、濃あじわい三種,至於麵條則可以選擇粗麵條和細麵條兩種。皆可以依自己喜好做組合,另外煎餃也相當好吃,皮薄煎的恰恰的,林小亮一個二歲小孩居然可以吃掉五顆!三角飯糰內也有蝦米,味道非常的香,3.6顆星,真的好好吃!(ps.台北也有一家分店哦)
えびそば 一幻 総本店 http://www.ebisoba.com/ 札幌市中央区南7条西9丁目1024-10 電話番号:011-513-0098 営業時間:11:00~翌3:00 定休日:水曜日(星期三)
Tumblr media
位於惠庭市的るるまっぷ(RURUMAPPU)自然公園,到了冬季會有設置一個雪樂園SNOW LAND,無料入場,可以自備雪盆來這玩,也有套裝行程(乘坐雪地香蕉船、各式雪盆租用、馬拉雪橇,限時二小時)。會找到這裡是因為被【在雪屋裡吃成吉思汗/或起司鍋】給吸引,這裡觀光客不多,所以玩起來很悠哉。
Tumblr media
Snow Lando裡會有好幾個雪屋,雖然不是第一次看到雪,但卻是第一次看到雪屋,所以會異常興奮XD,在雪屋裡吃成吉思汗(羊肉烤肉)或起司鍋的體驗真的很特別,不過份量並不多,以吃氣氛為主!成吉思汗主要以羊肉為主,加上各式蔬菜及麵在鐵板上烤,雖說是烤肉,但我覺得比較像是鐵板燒耶~起司鍋的料也不多,饅頭一家15分鐘完食,吃不飽沒關係,公園內另有設置食堂哦! るるまっぷ自然公園 〒061-1356 北海道恵庭市西島松275番地 TEL:0123-37-5333 http://www.eniwa-rurumappu.net/
Tumblr media
沒錯!這是COSTCO!我們從札幌王子大飯店前往惠庭的路上經過了一家COSTCO,全車的眼睛都亮了!從惠庭回程時特別加碼一小時的COSTCO行程,裡面真的頗好逛的,價格也便宜,持台灣的會員卡就可進入!(原來COSTCO會員卡是全世界都通用的哦!)且可退稅,有機會逛日本COSTCO別忘了帶護照哦! COSTCO 日本店舖查詢:http://www.costco.co.jp/p/locations/sapporo
Tumblr media
話說來札幌沒有吃湯咖哩等於沒來過札幌,於是我們選擇了位在狸小路裡的スープカレー GARAKU,吃完還可以順道逛逛狸小路,用餐時間真的大排長龍,我們排了近一小時才用到餐,不過美食絕對值得耐心等待,GARAKU湯咖哩真的超好吃,我們二大二小點了二份,把飯加大跟小朋友分食剛剛好,結帳櫃台前另有販售像調理包的湯咖哩,可以買回去自己加料,就又是一碗原汁原味的札幌スープカレー GARAKU。 スープカレー GARAKU http://www.s-garaku.com/s/index.php 札幌市中央区南3条西2丁目7串とりさん2F TEL 011-233-5568 營業時間 平日 ランチ 11:30~15:30(Lo15:00) 平日 ディナー 17:00~23:30(Lo23:00) 日祝 通し営業 11:30~22:00(Lo21:30)
Tumblr media
一年四季有著不同風貎的北海道大學非常漂亮,強列建議秋天時可以安排來這裡,因為有一條銀杏大道夭壽之美麗的,舖滿雪的銀杏大道也很美麗,我家老北抱著小情人站在那都忍不住的說了:好浪漫的地方,讓我們一起來拍冬季戀歌吧!(老木翻白眼中....)
Tumblr media
  除了一探這美麗的大學之外,其實主要目的是這大學的食堂(哈哈哈~是不是想說我們怎麼變有文化了,會來大學?),這大學食堂內的餐點是我有史以來在日本吃過最....最...最便宜的一餐。這裡的餐點真的是銅板美食,便宜到會想偷笑XD,吃飽了別忘了二樓有福利社,像個小小百貨,吃的用的都有,還有漂亮的明信片! 北海道大學 http://www.hokudai.ac.jp/ 〒060-0808 北海道札幌市北区北8条西5丁目
Tumblr media
此行北海道九天唯一逛的電器行ヨドバシカメラ(Yodobashi Camera),距離北海道大學只有1.5公里的距離,在此購物完可以順便停車是我們打的如意算盤(購物抵停車費)。別以為電器有什麼好逛的,這裡除了新奇的電器用品,還有文具、藥妝、玩具,是個老少咸宜且會花很多錢的一個地方XD。 ヨドバシカメラ Yodobashi Camera (札幌店)北海道札幌市北区北6条西5-1-22 店舖情報:http://www.yodobashi.com/ec/store/list/index.html
Tumblr media
第五天晚上我們住到定山溪的溫泉飯店,定山溪屬於較山區的地段,當初會訂這裡是因為想去參加這裡每年冬天才有的【定山溪雪三舞(ゆきざんまい)】的活動(詳情點我
Tumblr media
 )。不過計畫趕不上變化,雖然我們自駕移動算方便,但我們每個景點都比預期中還花費時間,因為小孩在雪地裡拖不走,再加上我們也很隨性,所以每天都有Cancel掉的行程。另外雪地駕駛眉角太多,我們也希望每天能在4-5點前就進飯店,一方面為了安全,另一方面也為了好好享受溫泉飯店。
Tumblr media
   定山渓グランドホテル瑞苑的晚餐Buffet超級優的!菜色多又好吃,極建議一定要一泊二食(其實附近好像也沒什麼店能吃的)
Tumblr media
定山渓グランドホテル瑞苑的戶外風呂非...非...非常的漂亮且有分男女使用時段哦!冬季泡戶外風呂真的非常的【爽】(抱歉我只能用這字形容了),是如何的爽法呢?就是要光溜溜又一身濕的走到戶外,當門一打開真的是冷到咬牙切齒的,當全身毛孔已要冰凍起來時,這時跳下暖呼呼的溫泉池內,整個毛孔又瞬間張開,那種感受到毛孔在收放的感覺真的很奇妙,而且會愛上這種感覺!再加上此時若飄著雪....哦哦哦!還有什麼事比這更令人覺得幸福的呢!
定山渓グランドホテル瑞苑 〒061-2302 北海道札幌市南区定山渓温泉東4丁目328番地 TEL:011-598-2214 http://www.granj.co.jp/
Tumblr media
小樽雖然是個非常觀光客的景點,在排行程時林阿鬼有意想把這個點拉掉,但被雪包圍的小樽運河感覺既美麗又浪漫的,所以應觀眾要求,還是將它排了進去,我們也很幸運在小樽運河拍照時,天空很給力,但遊客真的很多,想卡個淨空的位,可能要多點耐心等候。
Tumblr media
小樽這裡不知是不是因為它是觀光景點中的景點,這裡的東西價格都偏高,吃的方面也很貴,不過都吃很好倒是,海鮮料理、定食什麼的,一套餐下來1700円~3000円都有,貴的令人咋舌,所以我們就延路亂吃,雖都不是什麼正式的餐廳,但倒也吃的很開心!幾個孩子們在大風雪中吃著薯條,我想這種經驗難得、也難忘吧!
Tumblr media
晃到了一家平價拉麵店,說不上好吃,在風雪中能來碗熱呼呼的湯麵,倒也是極暖胃、暖身,而且這家店真的很平價! ラーメンみそら 北海道小樽市堺町 4-13 営業時間 11:00~17:00 小樽堺町通り商店街:https://goo.gl/mr7Liz
Tumblr media
離開了小樽,我們下一站要去旭川,這趟路將近200公里,車程二個半小時到三小時,剛好可以讓小孩在車上睡個覺,我們今晚下榻的地方很妙,是露營場裡的小木屋(阿我們當初就真的是設定要去露營的呀),所以在進小木屋前需先採買晚餐。AEON旭川駅前店相當大一家,裡面的生鮮超市也非常大,生、熟食都有,你看光那蕃茄醬就五顏六色了(上圖)也太妙了吧!可惜我們沒有太多時間可以逗留,不然在這裡應該會把我們榨乾吧!(AEON MALL 有多好逛,先看看這篇吧!
Tumblr media
  )
Tumblr media
露營的人都知道,在台灣露營地的小木屋一般都....嗯...堪住,不要想要求太多,所以在入住前林阿鬼一直在幫大家先打針,要我們不要期待太多...說什麼要從天堂掉入地獄囉...等,結果我們一進小木屋,立刻愛上了它,而且不論大人小孩都極愛這裡!
Tumblr media
  八人小木屋的空間很大,裡面設施一應俱全,冬天會提供一台商業用的大煤油爐(可24小時不斷供應暖氣)、廚房裡鍋碗瓢盆全都有,除了廚房有爈具使用之外,還有桌上型卡式瓦斯爐(但沒附瓦斯罐哦!我們後來為了瓦斯爐又開車出去跑了八公里才買到)大、小鍋具也都有,還有一個大陶土鍋,我們二家人晚上就吃著火鍋,超滿足的!(小木屋房型
Tumblr media
 )
Tumblr media
  小木屋所在地除了是露營區之外,旁邊還有個滑雪場,隔天一早起來戶外也美的不像話,很可惜我們只安排一晚,這裡的房價超便宜,八人小木屋一晚才14200円(結果我們昨天二位胎胎在超市買食材花了14800,比小木屋貴!),這個小木屋幾乎零缺點,唯一的小缺點是~沒自駕可能就不便來住了。離開了小木屋大家都說下次要再來多住幾晚!
キトウシ森林公園家族旅行村 〒071-1405 北海道上川郡東川町西5号北44番地 TEL:0166-82-2632 FAX:0166-82-2228 http://www.kazokuryokoumura.jp/
Tumblr media
  來旭川怎能錯過旭山動物園呢!旭山動物園的招牌就是企鵝遊行,可以超近距離的看到一群可愛極可愛的國王企鵝,早上、下午各一場,超療鬱的!除了可愛的企鵝,還有極地罕見的動物等(動物圖錄
Tumblr media
 ),這些動物都可以很近距離的觀看,小朋友們看的很開心,帶小朋友來動物園真的再適合也不過了。
Tumblr media
園內有食堂,用餐時段人還蠻多的,價格合理,還不錯吃。也可自備食物,在食堂旁有個休息所,可在那用餐。 旭山動物園 〒078-8205 旭川市東旭川町倉沼 代表電話番号 0166-36-1104 http://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/
Tumblr media
我們的第三家溫泉飯店-ハイランドふらの(高原富良野飯店),房間內部一般(我心還在昨晚的小木屋),溫泉還不錯,戶外風呂要白天泡才有Feel,因為晚上什麼都看不到。日本人泡完湯很愛來瓶牛奶,問過當地人原因,他們也說不出所以然,不過泡的熱呼呼的來罐冰涼的牛奶的確很舒服。
Tumblr media
雖然房間普通,但晚餐非常精緻,SET裡有海鮮小鍋物,另外還有熟度剛好牛肉及配料,來了這麼多天,終於吃到了鮮甜肥美的蟹肉(雖然只有一、二支腳,但已滿足)。住了三個溫泉飯店,一泊二食是一定要的,不論是泡完湯後吃飯,或是吃飽休息後再去泡湯,都覺得既舒服又享受!
ハイランドふらの(高原富良野飯店) 〒076-0036 北海道富良野市島ノ下 TEL/0167-22-5700 FAX/0167-22-5704 http://www.highland-furano.jp/
Tumblr media
離高原富良野飯店外不算遠的距離有家大型藥妝店可以逛(在地廣大的地方,11.9公里開車10分鐘的路程真的算是很近),它就像台灣的美華泰、寶雅這類的店,裡面除了藥妝還有生活用品,非常好逛好買。很難得的是在這麼人煙不多的地區還營業到22:00,讓我們晚上可以溜來這大肆採購一番。 ツルハドラッグ(TSURUHA藥妝店) /富良野彌生店 〒076-0018 北海道富良野市彌生町4番36號 http://www.tsuruha.co.jp/
Tumblr media
冬季來北海道沒排個雪場怎麼像話呢!雖然我們不會滑雪,但富良野滑雪場裡有規劃一區叫Family Snow Land,裡頭有其他超好玩的,像是雪上汽艇、香蕉船、雪盆...等,買套票可以不限次數玩到翻!且富良野王子飯店就在一旁,若住在這裡更是方便遊玩哦!
Tumblr media
位於新富良野王子大飯店區域內的的森林精靈露台,不管春、夏、秋、冬都別有一番風味,雪季的夜晚,當森林裡的商店小屋都點上了燈光後,更有童話故事的氛圍;若行程時間允許,建議一定要待到晚上,親身來感受一下夜晚的浪漫感覺。
詳細文章連結: 【北海道滑雪樂】富良野滑雪場Family Snow Land、雪上汽艇、香蕉船玩到爽,森林裡尋找小精靈
富良野スキー場 Prince Snow Resorts 〒076-8511北海道富良野市中御料 TEL:0167-22-1111 http://www.princehotels.co.jp/ski/furano/
Tumblr media
距離新富良野大飯店約13分鐘車程的KUMAGERA是在地人都推薦的好料理。特色料理"山賊鍋"二人份¥3,300......((不便宜哩!)) 味噌口味的湯底配上鹿肉、鴨肉、雞肉再加上和青菜煨煮,肉片都不用沾醬就覺得好好吃!這餐雖然超出預算了,但我們可以從其他餐再省回來,也算值得喔! (意外!吃完了鍋我們的下一站在距離這裡有二百多公里遠的千歲,到了千歲下蹋的飯店後才發現老木隨身的一個重要小小包遺落在餐廳裡!歪歪~裡頭有錢、WIFI機...等等,慶幸的是,幸好護照及手機沒在裡面(平常他們都會在那裡),更慶幸的是有朋友在日本,立馬請她幫忙連絡店家將包包寄給她,二週後她回台再幫我帶回來,如果護照在裡面,那就勢必要回去拿,不然隔天我們就要回台了內!)
Tumblr media
最後一晚,我們為了明早搭機的方便選擇了千歲機場附近的【ホテルグランテラ千歳-千歲GrandTerrace Hotel】,飯店有機場接送服務,非常方便,房間內就如同一般商務飯店,乾淨也很舒適,隔天早上用完早餐就直接搭上飯店接駁車前往新千歲機場囉~
ホテルグランテラス千歳 千歲GrandTerrace Hotel 〒066-8520 北海道千歳市本町4丁目4 TEL:0123-22-1121 FAX:0123-22-1153 http://breezbay-group.com/hgt-chitose/
Tumblr media
飯店對面有家超商跟王將拉麵可以用餐,王將拉麵的份量很大,湯頭味道也很不錯分別有「白味噌」「赤味噌」,晚上只營業到20:30哦!要注意一下用餐時間以免錯過了。
王将ラーメン 日本〒066-0047 北海道千歳市本町5丁目2−9 https://tabelog.com/tw/hokkaido/A0107/A010701/1004132/
Tumblr media
新千歲機場是個非常有搞頭的機場,所以我們吃完早餐Check out後就搭飯店的接駁車來到了機場,新千歲機場很大,裡頭所有北海道的名產全都有,所以旅程中不用急著買的大包小包的,一切你想要的、你聽過的名產,這裡全都有,SHOPPING WORLD不是叫假的。這裡也有許多美食,一幻蝦拉麵這裡也有哦!
Tumblr media
  除了吃的、買的很齊全之外,這裡還有Hello Kitty樂園及多拉A夢樂園,Hello Kitty需購票進入所以pass,多拉A夢樂園其實是幼兒版樂園,開放式且無料,有身高限制適合學齡前小朋友,所以二枚國小生只好再去四處逛了,在機場的另一處用軟墊圍起來,放了些動物造型絨毛玩具(如圖右下)這裡就不限年齡,因為有厚厚軟墊所以開始玩起摔角遊戲XD。整個新千歲機場若要認真逛完、玩完、買遍、吃足,我想花個半天都還不夠呢! 新千歲機場的中文官網:http://www.new-chitose-airport.jp/tw/
Tumblr media
九天~是一個會令人開始想家的天數,這次的旅行有出包、有雪地開車打滑剎不住的撇去撞路邊的雪堆、有第一次冰上釣魚、第一次在雪地裡搭香蕉船、汽艇、第一次在雪屋裡吃成吉思汗、起司鍋、第一次逛日本COSTCO、第一次在小木屋裡煮火鍋、第一次在飄著雪的露天風呂中泡著湯、第一次吃白草莓。帶著孩子在雪地裡滾了九天,真的可以很滿足、很滿足的回家了。
【北海道】冰天雪地「自駕九天行程」租車、住宿、美食、親子景點一次打包
Tumblr media
3 notes · View notes
yukue3-blog · 7 years
Text
ある作家のインタビュー記事(april roof magazineより抜粋)
.
.
.
.
.
# マティーニとギブソン
「ヴォネガットは自著でこう述べています。
 “私が言いたかったのは、シェイクスピアは物語作りの下手さ加減に関しては、アラパホ族とたいして変わらないということだ。それでもわれわれが『ハムレット』を傑作と考えるのにはひとつの理由がある。それは、シェイクスピアが真実を語っているということだ”と。
 この言葉は私を勇気づけました。“然るべきタイミングに、然るべき心持ちで書く”これが私にとって最も大切なことです。そうすれば、小説は自ずと進んでいく。ゼンマイを巻いたロボットが手を離れて進んでいくみたいにね。だから、誰が・どこで・何をするか、私にはひとつもコントロールすることはできません。コントロールされた悲劇より、私は現実の悲しい喜劇を愛している。小説を書く時、私は赴くままにペンを走らせる作家ではない、何重にも色を重ねる画家でもなければ、厳格なオーケストラの指揮者でもない、ただ人より少しだけメモを取ることが上手な傍観者になり下がるんです」
 作家へのインタビューは、三軒茶屋にある彼の行きつけのバーで行われた。 橙色のライトがぼんやりと灯す、まるで洞穴の中みたいな店内。 作家は目を閉じ、次の言葉を探す。 無言の隙間から、バーテンダーがグラスをステアする音が聞こえてくる。
「そのために必要なのは、ストーリーでも表現でもない、たったひとつの感情です。それを捉えるために、私は胸の中に潜って、呆れるほど考え、然るべき時を待ち続けます。誰にも気付かれないように息を潜めて、静かに波の音を聞くんです」
— 例えば?
「例えば、この世界には朝と夜があります」
— というと?
「つまり、朝、カーテンを開け、誰もいない街を走る塵芥車を見送り、次第に大きくなっていく街の音や光を想いながら書くべき小説があります。そして夜、明滅するネオンサインの下、マティーニで喉を濡らし、消えていく暗闇を想いながら書くべき小説があるということです」
— 昼は?
「昼は、みんなご飯を食べているか、テレビを見ているか、銀行でお金をおろしているか、そんな、つまらない時間でしょう?」
— 今は?
今は午前二時です、とバーテンダーが静かに告げる。 ひと粒のオリーブがグラスに添えられる。 作家はその透明な淀みをほんの少し傾け、何かを確かめるように口に運ぶと、遠くを見つめ、そっと語り出した。
「昔、ミエという女性と過ごした時間がありました。彼女とのことの多くは時代に拐われていってしまいましたが、それでも断片的に彼女のことを思い出す瞬間があります。私たちは三度会い、一度だけ夜を共にしました。でも、ふたりで過ごした時間は二十四時間にも満たないでしょう。あまりにも短い、人生の一瞬の風のような時間です。だけど今、こうしてまた思い出すのは、その時間が確かにそこにあったからなのでしょう…」
��
 ミエは漢字では“美瑛”と書きます。
 美瑛と出会ったのは出版業界の関係者が集まるとあるパーティーの場でした。その頃、私はまだ二十代で、ようやく自分の書いたものが文芸誌の片隅に載り始めた頃でした。
 季節は冬でパーティーは品川のホテルで行われました。 煌々と灯るシャンデリア、華やかに彩られた会場でシャンパンを片手に語り合う文士たち。 周りには、ベストセラーを何作も出しているIさんや、政界でも活躍していたYさん、映画も手がけているAさんなど誰もが知っている顔ぶれが並んでいます。 そこは、私のような若造には到底縁のない場所でした。
「君はどんなものを書いているんだい?」 「僕はこんなものを…」 「そうか、ところで洋酒は好きかい?」 「いえ、あまり飲んだことがないんです」 「ここのマティーニは絶品だよ、私の本にも登場するんだ。君もぜひ飲んでみてくれ。じゃあ、ごきげんよう」
 そんな調子でパーティーは進んでいきました。 彼らは慣れた手つきで高級な酒を呷ります。 それはまるで崩れる事を知らない巨大な城の主のように。 一方、見窄らしい格好でふらふらとしていた私には、どうにもその雰囲気が居心地悪く感じられました。
 当時、無名の作家でお金も地位もない私でしたが、若さ故、野心と反骨心だけは旺盛に持っていました。そこにいる文士たちの本もひと通り読んではいましたが、彼らの書く浮世の世界の薄く張り巡らされた膜のようなセンチメンタリズムにはどうにも浸れませんでした。 彼らはたしかに素晴らしい美文を書きます。 でも、そこには人の温度がない。 彼らの書くものはすっと胸に入って来て、次へ、次へと頁を捲らせます。 でも、それは培養された感情で、胸に刺さる楔のような余韻を残すことはありませんでした。 私は日頃から、“私の方がずっと本当のことが書ける”と、胸の内でひどく対抗心を燃やしていたのです。
 そんなわけで、せめて格好だけでも文壇の一員らしく振舞わないといかんと思い、慣れない高級な酒を煽ったのがよくありませんでした。気が付けば、私は随分と酔ってしまい、会場の隅っこに座り込んでいました。しまったと思いましたが、華やかなパーティーの片隅で萎れている惨めな男になど誰も気づきません。とにかく水を飲んで頭を冷やさなくては、と立ち上がろうとした私に「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのが美瑛でした。
 それから、���と月と経たないうちに美瑛と私は再び出会いました。
 ある夜、赤提灯が揺れる新宿の酒場で偶然、彼女と居合わせたのです。 少し酒が入っていたものの、私はひと目で彼女に気づきました。 彼女はモデルのような煌びやかな容姿をしているわけではないのですが、どこか他人とは違う、一度見たら忘れない、人を惹きつける不思議な雰囲気を纏っていたのです。 それは、とても静かで、どこか神秘的で、勢いのままに触れたら壊れてしまいそうな繊細なものでした。
 私は彼女のそばに行き、先日の礼を言いました。 彼女は少し驚いた後、私を思い出してくれて、にこっと笑いました。 とても素敵な笑顔でした。 酒が入って気が大きくなっていたのでしょう、私は「もしお一人でしたら、こちらで少し話しませんか?」と彼女を誘いました。 すると彼女はまたにこっと笑い、「ええ喜んで」と言って私の隣の席にやって来ました。 とても静かな香りがしました。 それは香水の匂いでも、整髪料の匂いでもない、冬の早朝に誰もいないホームに降りたった時のような、どこか懐かしい日常に潜む小さな異国の香り。
 私はたくさんのことを話しました。 文章を書いてなんとか暮らしていること、先日のパーティーでは居心地の悪さについ酒を飲み過ぎてしまったこと、いつか書きあげたい感情がたくさんあること…
 そして、彼女もたくさんのことを話してくれました。 自分は二十二歳で都内の大学に通う女学生だということ。 品川のホテルでは給仕係のアルバイトをしていること。 名だたる文士たちの中で酩酊している私を見て、急いで水を取りに走ったこと。 中野に住んでいて、仕事帰りによくここで、ひとりお酒を飲むこと。 大学では英文学を専攻していて、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』を研究していること。 語学が堪能で、日本語、英語の他にも中国語と韓国語が話せること。 四月から、日本人なら誰でも名前を聞いたことがある大きな会社で働きはじめること。 いつか独立して海外で活躍したいと思っていること。
 未来という純白なキャンパスを前に、彼女の目は淀みなく、静かな野心で燃えていました。 ものを書くこと以外ろくに頭にない私はその姿を見て感心しました。 その頃は、まだ若い女性が多くの夢を語れる時代ではなかったのです。 それでも、彼女の明るく謙虚で直向きな姿を見ていると、“この夢が報われない世界などおかしい、あってはならないのだ”とさえ思いました。
 本が好きで怜悧な彼女との話を尽きることなく、あっという間に夜は更けていきました。 そして、日付が変わる前にようやく私たちは新宿駅で別れました。 別れ際、改札前で何かを言おうとして逡巡する彼女に、私は「また会えるかな?」と尋ねました。 彼女は言葉を飲み込んだ後、笑顔で「あなたが良ければ」と言いました。 その笑顔はとても愛らしく、私の心を暖めました。
 手を振り離れていく彼女。 改札の向こう、雑踏の中に消えていく襟足と赤いマフラー。 その光景は小さなボートを見送るようで、どこか遠い世界のことのようでした。 そして、すっかり彼女を見送ると、私は自分の胸の中に芽生えた小さな違和感を認めました。 小さな違和感。 それは決してネガティブなものではなく、かといって良いものでもなく、どちらかというと何かを正しく捉えそこねているような悪い予感でした。
 うまく言葉にできないのですが、彼女からは他の若い女性(或いは男性も)が持つ、ある一つの世代に共通する匂いや手触りが一切感じられなかったのです。 それは偏に容姿が良いとか悪いとか、性格が活発であるとか控えめであるといったことではなく、なんといいますか、例えば、彼女が他の誰かと過ごしている姿が(それは、友人だったり、恋人だったり…)全く想像できなかったのです。 彼女が友人とランチをしている姿、母親と電話をしている姿、恋人と手を繋いで歩く姿、下着を脱ぎ、ベッドで抱き合う姿… そのどれもに手触りがなく、掴もうとすると、するりと指の間を抜けていくようでした。
 ただ、正直なところ私もそれをうまく計れずにいたのです。 私も人生経験の未熟な若者でしたし、なにせ出会って間もない女性のことです。 多少の神秘性はあってもおかしくはない。 むしろそれが彼女の魅力なのかもしれなかった。
いずれにせよ、私にとってそれは初めての感覚でした。
 年が明け、春が終わる頃、示し合わせたかのようにいくつかの連載の話が舞い込んできました。 私は胸にいつまでも残る余韻のような感情をなんとか作品にできないかと、文章を書いては推敲し、自分の表現を模索していました。
 当時、私の書くものへの評価は大きく二分されていました。 自由な文体に漂う叙情的な感情の流れを新しいものだと評価してくれる人たちと、非構成的で散漫な文章からは何も見出せないと厳しく批評する人たち。 簡単に説明するとそのような感じです。 そして、文壇で力を握っていたのは圧倒的に後者の人たちでした。 彼らは私の文章をどうにかして自分たちの作った既存の枠に押し込もうとします。 彼らの手にかかると、言葉はひとつひとつ分解され、検品され、気がつくと皮を剥かれた玉ねぎのようにすっからかんにされてしまいました。 それはある範囲では正しさであったのかもしれませんが、私のような若者にとっては吐き気がするくらい悍ましく、不自由なものでした。 そのため、この世界での私への評価はあまり良いものではありませんでした。
 ただ、私は当時から一貫して決めていることがあります。 それは、文章に余韻を持たせるということです。 文体やストーリーは、その隠れ蓑でしかありません。自由に配色され、時に焦点をぼかしながら、然るべき場所へと進んでいきます。それは装飾であり、ひとつの個性であり、意思の有無に関わらず、花が咲き、やがて枯れていってしまうものです。 しかし、感情は違います。 感情は、物語の通奏低音としていつまでも流れ続けます。 それは個性というよりも血であり、生臭い匂いであり、拭うことのできないものなのです。 作家はそれを捕まえなくてはいけない。 そのために気がおかしくなるほど、ひとつのことをじっと考え待ち続けます。 その横顔と出会える日を夢見て、毎朝、毎晩、瞼の奥をただ眺め続けるのです。 花を咲かすのではなく、根や茎や葉や散った花弁にまで血が通うようにひたすら水を遣り続けます。 そうしてようやく書き始めたとき、物語に植え付けられた、どこまでも余韻を残す感情だけが、誰かの人生の頁になれるのです。
 もちろん、若い私にはそんな強い思いを抱き続けることは難しく、お酒を飲んでは自分の無力さを嘆いていました。 電話が鳴ったのはそんな時です。
 電話口から聞こえたのは女性が涙を堪える音でした。 東京の夜の深い闇の向こうから聞こえるその音は、途切れ途切れで、集中しないとほとんど静けさにかき消されてしいます。 向こうの夜もこちらの夜も、そこにあることを忘れてしまうくらい静かな夜で、私たち以外の何もかもが止まってしまったかのようでした。 私はじっと受話器の向こうの胸の音を聴きました。 巨大な静寂の中に潜む消え入りそうな小さな声、巨大な東京の騒音の中にかき消されたそれ。 目を閉じると鼓動の音が聞こえて来て、まるで深い異邦の海の底へと潜っているかのようでした。 何度も水を掻いて顔を出した水面、靄の向こうでぼんやりと光る灯台の明かり。 或いは私がその光だったのかもしれません。 そんな時間がどれくらい続いたのか、しばらくして、小さなため息の後に一言。 「今から会えますか?」 と、美瑛の声が夜を渡りました。
 ネオンと喧騒の渦巻く新宿。 美瑛は以前と同じ店の同じ席に座っていました。 声をかけると、先ほどの電話の声とは対照的な明るい声で私に礼を言い、またあの素敵な笑みを見せました。 その頬は薄く赤らんでいて、少し酔っているようでした。 「いつもこんなに飲むの?」と尋ねると、「私にもそういう日があるのよ」と言って、またグラスを口へ運びました。
 その後も彼女の様子は変わらず、終電の時刻が近づいた頃、私は「そろそろ帰ったほうがいいよ」と彼女に告げました。彼女は時計を一瞥し、目をぎゅっと閉じた後、私を見て「ねぇ、少し歩かない?夜風に当たりたいの」と小さく、でも確かな声でそう言いました。
 新宿の人混みを抜け、青梅街道沿いに彼女の住んでいる中野の方角に向かって、私たちは夜を歩きました。 手を広げたり、髪をかきあげたり、階段を駆け下りたり、上ったり…まるで漂流するみたいに、赤いバッグを揺らしながら、少し前をふらふらと踊るように進んでいく彼女。 私たちを包み込む巨大なビル群は、どれも眠ったように息を潜め、人も見当たりません。 生活の匂いも、労働の匂いもない不思議な時間の新宿。 未だ頼りないままの手触りの彼女、ポケットに手を突っ込んで歩く私。 蝋燭の火のように静かに揺れるステップ。 それは帰るべき場所を探して彷徨う悲しいステップでした。
「東京は本当に大きいところね。たくさん人がいて、たくさんお店があって、たくさん電車が走っていて、悲しいことも楽しいこともたくさん、たくさんあるの」 突然、振り向いた彼女はそう言いました。
 ビル街を抜けると、頭上には再び東京の夜が降ってきて、山手通りを何台もの車が走っていくのが見えました。長い赤信号を前にいつしかステップは止まり、街は息を取り戻し、間も無く、私たちのくだらない生活の匂いが帰って来るのがわかりました。 そして、彼女の目には涙が溢れていました。
「ひとつ隠していたことがあってね。私は日本人じゃないの、国籍は中国。でも、日本の学校に行って、日本のものを食べて、日本で育った。日本語だってこんなに上手に話せるし、難しい言葉もその辺の学生なんかよりよっぽど知っているつもりよ。桜を見て春を感じるし、お米を研いで、ご飯を炊いて、お味噌汁を飲む、着物だって自分で着たことがあるのよ。それなのに、ねぇ、それなのに…どうして?」
 救われることのない答えを求める寂しい眼差しで、彼女は立ち尽くす私の目を見た後、溢れ出すその涙を隠すように両手で顔を覆いました。 行き交う車のヘッドライトがそれを照らしては隠し、照らしては隠し、やがて少しづつ速度を落としながら止まりました。 そして、信号が青に変わるとともに、彼女は「ごめんなさい…」と一言残し、去っていきました。
 悲しみを飲み込むように消えていくその背中。 それはどんな言葉や物語よりも本当のものでした。
 私たちと彼女を隔てて、明滅する青信号。 そこに散らばったいくつかの風景。 水の入ったグラス、赤提灯、絵に描いたような笑み、知らない国の香り、夢を語る姿、小さな違和感、文壇、電話の声、ネオン、ステップ、溢れる涙、消えていく背中… それらはどれも失くしたことすら忘れてしまうようなとりとめのないものでした。 でもそれは確かにそこにあったんです。 そして、今ここでひとつの物語が終わろうとしている。 終わる。 終わらせてしまう…
 気がつくと、私は急いで交差点を渡り、彼女のもとへ駆け寄って、その手を掴んでいました。 春の夜の東京の空気より少しだけ冷たい手のひら。 それが初めて触れた、彼女の確かな温度でした。
 それから、彼女はここ数ヶ月のことを思い出すように話しました。 入社後に配属された部署は彼女の語学力を十分にいかせない場所だったこと。 その力を使って仕事を進めようとすると多くの邪魔が入ったこと。 そんな姿を案じて、親身に相談に乗ってくれた上司がいたこと。 その上司から身体を求められたこと。 一度だけそれに応じたこと。 その人には奥さんと子どもがいたこと。 ひどい罪悪感に襲われたこと。 関係を拒むと、自分が日本人でないことをひどく罵られたこと。 どこからか悪い噂が流れ始めたこと。 仲の良かった同期や親しかった同僚たちとの距離が少しづつ離れていったこと。 会社は彼女の話を全く聞いてくれなかったこと。
いつしか自分の居場所がなくなっていたこと…
 その会社はとても大きくて、ひどく日本的な会社でした。 或いは、日本全体がそういう時代だったのかもしれません。 力のない者たちにとって、暗い話はいくらでもありました。
「何もかも嫌いだわ!あなたも、この世界も、全部!」 一頻り話し終えると彼女はそう言い放ち、大声で泣きだしました。 静かな住宅街の路上、彼女の言葉をさらっていく乾いた東京の夜風。 悔しさに、悲しさに涙する、小さくて頼りないその姿は、どこにでもいるひとりの女の子のものでした。 私はそっと彼女を抱きしめました。 「ねぇ、どうして…」 彼女のくぐもった声が、胸の中で何度も何度も木霊しました。
 明け方、目を覚ますと隣に彼女はいませんでした。 少しだけカーテンが開いていて、そこから夜明け前の薄く伸ばした光が入り込んでいます。 アパートの二階、彼女の残り香がするクリーム色のタオルケット。薄明かりに晒された部屋は六畳くらいの大きさで、壁がところどころ剥がれていて、彼女の持つ雰囲気とはかけ離れた質素なものでした。
 立ち上がると、「起こしちゃった?」とカーテンの向こうから声がしました。目を向けると、薄暗いベランダで美瑛は煙草を吸っていました。 「眠れないの?」と聞くと、「眠りたくないの」と彼女。 橙色の火が燻らせる煙の先、明けていく空には重たい雲が敷き詰められていて、僅かなその隙間から白い光が覗いていて、煙はその光に吸い込まれるように真っ直ぐに伸びていきました。 横に並ぶと、「あなたも一本どう?」と言って彼女は私に煙草を差し出しました。 火を点け、ふぅと吐き出すと、そこには私と彼女、二つの煙の靄が出来上がりました。 東京の空に吐き出された二つの白い煙。 初めはしっかりと輪郭を持っていたそれは、いつしか薄く伸ばされ、混ざり合うようにひとつになって、ふたたび空に還っていきました。 私たちは無言のままその行方をじっと見守っていました。
「ねぇ、悲しい話をしてもいい?」 煙が消え去ると彼女はそう尋ねました。 そっと頷くと、彼女は新しい煙草に火をつけ、まるで喜劇を語るように話しはじめました。
「わたしはね、朝鮮に近い少数民族の自治州で生まれたの。だから中国籍だけど、中国人でもないのよ。幼い頃のほとんどは韓国で過ごしたわ。韓国はわたしたち家族にとって外国だったけど、三人の暮らしはとても幸せだった。でも心中は複雑だったわ。わたしたちの幸せは寂れていく故郷の上に築かれているようだったから。わたしの故郷は一時間もあれば回れてしまう小さな町だったけれど、昔はみんなが家族みたいに温かく暮らしていたの。なだらかな黄緑色の丘があって、丘の上には水車があって、牧場があって、その起伏を縫うように一本道がどこまでも続いていた。家族も友達もみんな同じ病院で生まれて、同じ学校に行って、同じ美容院で髪を切って、同じように歳をとっていくと思っていた。でも、そんな小さな町にもいつしか本州の経済の波が押し寄せてきた。それは一部の人をとても裕福にしたわ、でも町は幸せにならなかった。いつしかお金のある人は中国の都会や韓国や日本に出たきり戻ってこなくなって、貧しい人だけが残された町はどんどん疲弊していった。酷いものよ。でもいずれは消えていく運命の血だったのかもしれない。わたしたち家族の小さな幸せもそうやって出来上がっていたの。でも、それは仕方がないことだった。そして、わたしが十歳の時に母が死んだ。交通事故だったわ。父も母もわたしも故郷に後ろめたさを感じながら、それでも慎ましく小さな幸せを噛み締めて生きていたのに、この世界はある日突然私たちから母を奪ったの。それも交通事故よ。なんてこともないただの交通事故。この気持ちわかる?びっくりして何も感じなかったわ。母を轢いた人を恨んだり、悲しくて涙を流したり、そういうところまで全然辿り着けなかった。そして、あっという間に色々なことが過ぎていって、“はい、こうなりました”って母が死んだことだけがまるで前からそうだったみたいに残された。わたしはどうすればいいかわからなかったわ。父はとても優秀な人で、母が死んでからも直向きに仕事に打ち込んでいた。悲しみに立ち向かいながら頑張る姿に周りも感心していた。でも、人間はそんなに強くなれないのよ。父はわたしと二人きりになると母のことを思い出してしまうみたいでよく泣いていた。心が空っぽになるまで飲んで、母の話を何度も何度もして、故郷を捨てた自分を責めて、涙が枯れるまで泣いてようやく眠るの。そして翌朝にはスーツを着てまた仕事に出かけていく。このままだといつか駄目になってしまうと思った。だからわたしはひとりで日本に行くことを決めた。十二歳の四月だったわ。父は反対したけど、こうすることが最良の策なんだって自分でも薄々感じていたみたい。最後まで賛成はしてくれなかったけど、大学を出るまでずっと支援してくれたわ。そして、その時からわたしは美瑛という名前になった。美瑛っていう名前はね、わたしがつけたのよ。まだ母が生きていた頃、三人で旅行した北海道の美瑛があまりにも綺麗だったから。そこには何もかもがあったわ。黄金色の丘がずっと続いていて、お母さんがいて、お父さんとわたしが笑っていて、空も湖もどこまでも青く澄んでいて、そこにいる人もみんな幸せそうで、日本はなんて素敵なところなんだろうと心の底からそう思ったの。そこにはわたしにとってのすべてがあった。それから、しばらくして父には新しい家族ができたわ。心の穴を埋めるにはきっと必要なものだったと思う。もちろんわたしには何度も相談してくれたし、帰ってこないかとも言われた。でもそこに戻って生活する気にはなれなかった。わたしは今でもちゃんと父を愛しているし、父もわたしのことを本当に愛してくれている。けど、彼は彼の家族にも愛情を注がないといけないのよ。そういう時期なの。だから連絡は取っていない。故郷には随分と帰っていないわ。どうなったのかもわからない。もしかしたら、もう無くなってしまっているかもしれないわね。その方が幸せな場所なのかもしれない。でも、時々すごく不安になるの。今のわたしには関係のないことだって思っているのに。すごく、すごく不安になるの。あなた、故郷が消えていく気持ちって想像したことある?自分が生まれた町が消えていくことを考えてみたことがある?愛していた人たちも疎ましかった人たちも丸ごとみんな、みんな消えて、家がなくなって、お店がなくなって、どんどん空き地が増えて、それが当たり前になっていくの。小さい頃、見た風景や遊んだ景色を思い出すことがあるでしょう?あなたはきっといつでもそこに戻れると思っているはずよ、ただ自分が戻らないだけで、いつでも。でも、わたしにはもう戻れないの。どんなに強く戻りたいと願っても戻ることができる場所がないの。わたしのことを待ってくれている場所はもう何処にもないの。こんなことをわたしが思うのはおかしいのかしら?わたしは今、東京にいて、煙草を吸って、こんな格好でベランダに立っているのに、心は消えた故郷の冷たい風に吹かれている。母も父もいない故郷の風に。でもどうしようもないわ、どこに行ったってわたしはわたしとして進んでいかないといけない。強く、もっと強くならないといけないの。でもね、わたしはね、こんなところで、また泣いて、あなたにこんな、こんなつまらない話をしてしまうの」
 彼女は目を閉じ、何かを確かめるように空を見て、ゆっくりと煙草を吸い、またひとつ煙を吐き出しました。 そして、無理矢理ににっこりと笑いました。 それはとても、とても悲しい笑顔でした。 たまらなくなって、私はその煙草を取り上げ、火を消すと、そのまま彼女を抱き寄せ、そっと口づけをしました。 私にできることはそれくらいしかなかったのです。 震える彼女の髪の向こう、次第に色をつけていく東京の朝を厨芥車が駆けて行くのが見えました。 涙の生温い舌ざわりと彼女の煙草の残り香が、いつまでも、いつまでも口元に残っていました。
 彼女の物語の残した余韻は、作家である私を試すかのようにずっと宙を漂っていました。
 ですが、その後、彼女と会うことはありませんでした。 私は何度か中野のアパートへ行こうと思いましたが、その度に何か理由をつけては足を遠ざけました。 安易な言葉や簡単な優しさを与えるのが怖かったのです。 或いは私には彼女の悲しみを背負っていく覚悟がなかったのかもしれません。 彼女からも電話はありませんでした。
 そして、気付かないうちに時代は変わっていきました。 忙しない日々が続き、私はいつしか文壇のメインストリームと言われるようになっていました。 かつてあれほど私のことを批判した者たちも手のひらを返したように私の時代を迎合し、ある時期には、私の文章を模倣したような作品がいくつも生まれました。 中には著名な賞を獲ったり、世間の話題を攫う作品もありましたが、そういったもののほとんどが、私には感情の濃度を薄めただけの肉も骨もないようなものに思えました。私はそういった作品を忌み嫌い、自分の次元はもっと高いのだと証明するかのように作品を書き続けました。 そしていつしか、貪るようにストーリーを作り、とってつけたような悲しみを添えた、ハリボテのような作品が増えていったのです。 私は、もう書くことなどなくなってしまったのだと胸の内では途方に暮れていました。
 そんな日々が二十年余り続いたある時、突然、出版社に私宛ての手紙が来たのです。 手紙はエアメールで北京の郵便局の消印がありました。 封筒を開くと、そこには一枚の写真が入っていました。 そこは、どこまでも続く黄緑色の丘で、小さな家と牧場と水車があって、手前には幸せそうに笑う女性とそれに寄り添う男性が写っていました。 私は一目でその女性が美瑛だとわかりました。 美瑛と彼女の家族。 幸せそうな笑顔はどこまでも現実的で、それ故にとても美しく輝いていました。 それはきっと、初めてみた彼女の本当に幸せそうな笑みでした。 彼女はようやく自分の帰るべき場所を見つけたのです。 写真を裏返すと、サインペンでひと言「好きな人ができたの」と書かれていました。
 その時です、なぜか頬を濡らすものがありました。 それはとどまる事を知らず、いつしかその文字を滲ませていました。 そして気が付くと私は声を出して泣いていました。 私は、私の中のどこかでずっと彼女が生きていたことを思い出したのです。 彼女があの日からどうやって生きて、どれだけ涙を堪え、無理矢理に笑ってきたのか。 異邦の地で踊りながら、どれだけ煙草を吸って、眠れない夜を越えてきたのか。 私は偉そうに筆をとっていながら、そんな大切なことも考えることができなかった。 あの日、中野からひとり帰る朝、私は色々なことを確かめながら歩きました。 故郷にいる父や母や妹のこと。 幼い頃に遊んだ公園の遊具のこと。 初めて買ってもらった自転車のこと。 父とキャッチボールをした日のこと。 母に不恰好なエプロンをプレゼントした日のこと。 妹を助手席に乗せて買い物に行っ��日のこと。 私が東京に行く日、みんなで車に乗って駅まで行ったこと。 いっぱいの鞄に母が無理矢理入れた梨。 ガランとした部屋に寝転がって見た自分だけの東京の空。 カーテンのない夜。 きつい肉体労働の帰り道に買った缶コーヒー。 夢中で書いていたペンの先に射し込んできた朝日。 アパートに届いた米と缶詰と野菜ジュースが入った段ボール。 その隅っこに添えられていた手紙と一万円札が入った封筒。 今歩いているコンクリートの道。 上空を覆う高速道路。 東京に生きる人たち。 たくさんの感情…
 それは皆、私を作り上げる大切な欠片でした。 しかし、そうやって胸の奥からすくい上げて、決して離さないようにしようと決めた想いも、忙しなくすぎる日常という波に攫われ、いつしか沈んでしまっていたのです。 それでも時折姿を見せるそれを、なんとか形にしようと私は筆を取りました。 でも、それはいつだって少し違う形をしていた。 そして無理矢理に捻じ曲げコントロールしようとすればするほど、あっけなく手から離れていき、後味の悪い喪失感だけが残りました。そして、いつしか自尊心に駆られ、自分自身の余韻に酔いながら書いていた私は、かつて憎んでいたものになってしまっていた。 私は自分の傲慢さ心の弱さを恥じました。 そして気付いたのです。 私には書きたい感情がまだたくさんあると。 それは決して特別なものではない。 華美に装飾されたものでも、ドラマティックなものでもない。 吹いたら消えてしまいそうな小さな記憶の断片たち。 その断片たちが薪となって、私の作品に灯をともしてくれます。 私は特別でない私のことをもっと考えたい。 もう戻れない場所もたくさんあるかもしれない、でも今だから行ける場所もきっとたくさんあると思います。 私は今書くことがとても楽しいんです。
 気がつくとグラスは空になっていた。 作家はグラスに残されたオリーブを口にし、その余韻に暫し目を閉じると、バーテンダーにそっと告げた。
「次はギブソンを貰おうか、思い切りドライなやつを」
 カタカタとシェーカーの揺れる東京の街は、ゆっくりと夜が明けていく時間だった。
-end
【マティーニ(Martini)】 ジンベースの著名なカクテル。通称カクテルの王様。『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より抜粋
2 notes · View notes
kachoushi · 5 years
Text
各地句会報
花鳥誌 令和2年3月号
Tumblr media
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
令和元年12月5日 うづら三日の月句会
坊城俊樹選 特選句
満百歳三年続きの日記買ふ 柏葉 大晦日出来ずじまひの事ばかり さとみ 榾の燃え老の情念湯は激る 都 おでん屋に二胡を奏でる異邦人 同 着ぶくれも粋に見せたく背伸びせる 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月5日 花鳥さゞれ会
炉話に明智が妻の髪のこと 千代子 炉話に韃靼漂流の謂れ聞く 同 外人に服をもらつたクリスマス 同 花鋏音して露のこぼれけり 匠 神の旅飛行機雲とすれちがふ 同 街師走見えざるものが背を押せり かづを 句作りに夢のお告げや十二月 数幸 手を取りてさざんかの径母と行く 雪子 山茶花やピアノの音のはたと止む 啓子 沈下橋渡る三人川の秋 天空
………………………………………………………………
令和元年12月7日 零の会
坊城俊樹選 特選句
着ぶくれて今半覗き玉ひでへ 和子 極月を歩すみごもれる子のために ゆう子 玉子酒間口小さく灯の白し 三郎 電線のゆるき横丁冬の雨 和子 寒紅を差すつづら屋の老婆かな あおい 愛人宅らしき貌してひめ椿 三郎 明治座の稲荷に小さき狐火が 公世 花街は雨山茶花をこぼさぬやう 光子 浜町や三味の音にも似て時雨 秋尚 つづら編むつめたき指と思ふかな 和子 千住葱入れる裏口しぐれをり 梓渕
岡田順子選 特選句
極月を歩すみごもれる子のために ゆう子 寒き鳩寒き雀を蹴散らせり 佑天 狛犬は狛犬として師走神 俊樹 裘着てマヌカンは服並べ 小鳥 指先のうづき熱燗触れてをり あおい 綿虫の無のただよへる漱石忌 公世 極月や金の屋号でくじを売る 和子 人形町しぐれを宿る軒もなし 千種 幼帝の都にみぞれ海遠く ゆう子 人形焼の顔に降りたる冬の雨 俊樹 冬の灯は競ひて狭き照明屋 小鳥
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
なかみち句会
栗林圭魚選 特選句
炉に集ふ顔の火照りと伊豆訛り 怜 放られてぶるんと跳ねる河豚太く 美貴 中子師と話弾んで冬一日 迪子 枯芝に影を写して背比べ 史空 枯芝や流るる雲の影速し 史空 河豚刺身白菊の如清楚なり エイ子 師の笑顔逢うてかはらぬ冬の日に ます江 暁闇に囲炉裏の熾火搔きし父 三無 枯芝のところどころに青むもの 怜 枯芝の小径真つ直ぐ細くあり ます江
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月10日 萩花鳥句会
世のためと我が五十年いま枯木 小勇 萩花鳥必死で守り年忘 祐子 手燭置く躙り口より冬の月 美恵子 両の手で温もりすくふ冬日向 吉之 ほつこりと藪の笹鳴き聞く朝は 陽子 陽は沈み医師アフガンで冬の星 健雄 冬籠ラフマニノフと赤ワイン ゆかり 師を偲び句友をしのび年忘 克弘
………………………………………………………………
令和元年12月11日 鳥取花鳥会
岡田順子選 特選句
接待の大根厚く切りて炊く 立子 をさな去り小春日和の香の残る 都 遠峰々に初雪らしき光かな 益恵 亡き夫のセーター着込み雑踏へ 佐代子 小春日や寮生握手に寄り来る 幸子 鳥待つは熟し切つたる真葛 史子 初雪や望郷の念俄かにす 幸子 喚鐘の音を響かせて報恩講 幹也 仮の世の恙は言はず葛湯吹く 悦子 冴ゆる夜脳に木霊す蹄鉄の音 宇太郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月13日 さくら花鳥会
岡田順子選 特選句
寒鰤の刺身で交す回顧談 実加 際やかに鰤競る声や市の朝 登美子 寒桜賓日館を高貴にす 令子 笏谷の石切跡や冬ざるる 寿子 身籠れる体を温む葛湯かな 実加 日短ラストシーンも観て帰る 登美子 朝風に藁ごと揺れる吊し柿 光子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月14日 枡形句会
栗林圭魚選 特選句
遠き日の焚火の香する師走かな 恭子 句の出来るまで柚風呂に浸りをり 多美女 重ね着て背の不安を落ち着かす 百合子 国訛滾る湯豆腐つつき合ひ 三無 禅寺の幾年けふの冬紅葉 百合子 石仏の頰杖解かぬ十二月 同 重ね着をお洒落にこなす首回り 清子 控へ目な彩に追慕の納め句座 百合子 冬帝や鉾杉の秀を研いでをり 三無 隊列のV 字なす旅鳥渡る 和代
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月15日 風月句会
坊城俊樹選 特選句
鼻水をすすり枡形山迷ふ 政江 片頰に冬日浴びつつ句碑拝す 三無 冬帝へ青銅の像両の手を 政江 寒禽の高らかに空呼んでをり 斉 獣道へと冬の影法師行く 政江 仏足石の親指あたり柿落葉 佑天 冬帝の富士拝まんと塔上る 圭魚 観音の結印の美し冬うらら 佑天 母の塔北風の子を懐に 久子 冬紅葉裳裾ゆるやか観世音 三無 冬帝の蔭長くして母の塔 眞理子
栗林圭魚選 特選句
笹鳴きへ耳傾けて磴半ば 芙佐子 冬芝に蔭を延ばして母子像 亜栄子 寒禽の高らかに空呼んでをり 斉 鳥寄せてをり山門の冬椿 芙佐子 木の葉散る森の大きく息を吐き 千種 笹鳴が景を小さくしてをりぬ 斉 養生の辛夷大樹の冬芽かな 芙佐子 泥葱を並べて森のマルシェかな 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月16日 伊藤柏翠俳句記念館
坊城俊樹選 特選句
風に裏表ある如落葉舞ふ かづを ほろ酔ふが如く冬蝶飛びゆけり 同 大冬木産土の宮守りをり 同 まなかひに越の中山眠り初む 文子 泣きむしのこけし飾りし終ひ句座 たゞし 美人画の古暦とて捨てがたし 英美子 かの日々の遠ざかりたる師走かな 和子 白鳥来休���田の光り合ふ みす枝 木枯しに鐘を鳴らして消防車 輝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月18日 福井花鳥句会
坊城俊樹選 特選句
近松忌付かず離れずてふ縁 雪 枯尾花吹かれて綺羅を飛ばしけり 啓子 遠くまで信号は青街師走 和子 人生の話し相手に日記買ふ 千加江 冬薔薇を見つめる母はもう居ない 淳子 冬薔薇眺める椅子に主無し 同 街騒も師走のものとなつて来し よしのり 小春日の窓いつぱいの中眠る 美代
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月19日 九州花鳥会
坊城俊樹選 特選句
顔見世の口上粋に申し候 美穂 罪人も重荷を解いて聖夜の灯 かおり 枯菊を焚きてしばらく胸ひそか 佐和 美しき切口みせて炭熾る 孝子 信心のやうに潜るや鳰 豊子 水鳥のこぼす薄紙ほどの息 寿美香 顔見世や四条大橋風痛く 久美子 顔見世や出雲阿国の遊び足 寿美香 懸大根鳶と青空奪ひ合ふ 同 名優の顔見世幟はたはたと 和子 枯野ゆく心の中のほむらかな 美穂 白足袋や紅き蹴出の華やぎて 豊子 遅く着く信濃の宿の雪の華 久美子 山あれば山呻らせて虎落笛 豊子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月21日 鯖江花鳥俳句会
坊城俊樹選 特選句
石臼の飛び石三つ竜の玉 雪 声を聞くだけの電話を掛け夜寒 同 信楽の狸提げしは新走 同 大津絵の鬼と酌まんか新走 同 短日の手を振り合ひて別れけり みす枝 終ひ湯や外に寒柝遠ざかる 同 着膨れにエレベーターの重くなる 同 花八手かはたれ時の白極む 昭子 歳晩の奏楽堂の椅子にゐる 同 野水仙後の怒濤昏れて海 信子 灯台まで歩くつもりや野水仙 同 白山の雪の白さの大根かな たゞし 火の海となりし根榾を裏返す 同 九頭竜の波を母とし霰魚 一涓 老犬の紐解き放つ芒原 世詩明 着膨れて温もり増せる乳房かな 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年12月23日 武生花鳥俳句会
坊城俊樹選 特選句
谷を駆け息する風や紅葉散る 三四郎 鴨数多小さき湖の重くなる みす枝 干布団霊峰白山隠しけり 昭女 雪吊や三角錐に引き絞る 信子 樹木希林最后の映画観る師走 清女 流星群来れど炬燵の離れ難 久子 水仙の天まで届きさうな畑 時江 銀杏散る藁葺き屋根を黄に染めて 三四郎 黄昏て峰といふ峰冬茜 同 ずわい蟹無念か泡を吹いてをり みす枝 一乗寺奈落の如し銀杏散る ただし 瀬の香もそえて売らるる野水仙 錦子 風花の影消ゆ城の野面壁 時江 枯葎この身消したき日もありぬ ミチ子 おでん鍋同じ佗しさ持ち寄りて ただし 百選の冬の男滝の爆しけり 世詩明 獣抱き母の如くに山眠る みす枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和元年11月22日 第42回近松忌記念俳句大会
坊城俊樹選 特選句
小江戸てふ在所��祀る近松忌 和子 黒を着し女人の一途近松忌 同 雁渡る吉江の里に一忌日 同 近松の女悲しや今の世も 同 紅引いて嫉妬に狂ふ近松忌 信子 燭揺るるだけの華やぎ近松忌 同 簪が凶器となりし近松忌 同 忌を修す館に淡き冬薔薇 ミチ子 奥付に花の一句や近松忌 同 近松像撫で光りして小春の日 昭子 近松忌通りに響く下駄の音 誠 近松忌糺野界隈恋の道 一豊 炉びらきや吉江に住みし浄瑠璃師 令子 その漢別れ上手や近松忌 千代子 近松忌有縁ばかりの世でありし 洋子 来る筈のなき師を待ちて近松忌 英美子 冬晴れや碑文読みゐる一佳人 同 近松忌消せざるものに心の火 雪
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
0 notes
dangngocduyen · 5 years
Link
BS新春時代劇 立花登青春手控えスペシャル 2020年1月3日 SP Dramaドラマ mp41
0 notes
sangzi-sibling · 7 years
Text
04/09/2017: Summer
今年も夏が終わる。夏は特別な季節であり、様々な出来事が起こり、様々な感情が呼び起こされる。夏には無限の可能性が秘められている。そして私たちは夏に秘められた数多の可能性を知らず知らずの内に殺していき、やがて秋を迎え、ゆっくりと、だが確実に老いていく。
『打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか?』を漸く観てきたので感想を書きたい。
正直何となく、大当たりするタイプの作品ではないのだろうなと思う。ただ、僕にとっては間違いなく観て良かったと言える作品だった。尚、本稿を書く段階では、原作小説や実写版等には一切触れておらず、他の人の感想も極力シャットアウトしている。
では、早速ですがこの先、ネタバレスタートです。
           ウケが良くないと予想されるのは、多分以下の理由によるものだろう。
1.画の作り方がそれ自体としてはあんまり「エモく」ない。もう少し丁寧に言うと、表現としては冴えているが、観客の感傷を呼び起こすような美しさや切なさを正面切って打ち出す表現を敢えてしていない。その結果、物語の筋立てとも相俟って、本作に期待されていたであろう、眩しい、瑞々しいひと夏の青春物語といった印象はない。
2.登場人物同士のコミュニケーションや物語の展開に、若干不自然な、チグハグな所が多い。
3.玉を投げたら典道君の思った通りになっちゃうし、代償もなかったりして、ループ設定そのものの作り込みが甘い(これは他作品との比較の影響もあろうが……)。
4.ぶっちゃけ、ヒロインの可愛さがストレートなそれじゃない。
5.なずなママの事情もちょっとは教えろよ!あんなに魅力的なんだから!(完全に個人的な意見)。
 だがしかし。上の四点(なずなママの話はさておき)はこの作品の独自性と言うか、描きたかったことを際立たせた代償なんじゃないかと思う訳です。自分が何らかの作品に就いて話すときは、結局自分の好きなシーン(=作品の伝えたいこと、心に響く「メッセージ」が的確に、情緒豊かに、だが説明しすぎることなく表現されているシーン)を中心に話してしまうので、その方針でつらつら書いてみる。
 僕が本作で一番好きだったシーンは、玉を二回投げた結果灯台に追いつめられるエンドを迎えるループにおいて、典道君となずなが灯台の中の階段を上るときに、「例え今日が最後の一日だったとしても、俺はお前と一緒にいたい(一回しか観てないので台詞はうろ覚え)」と典道君がなずなに告げた後のなずなの表情、これがいい。それまで哀しいくらいに、全くと言っていいほどコミュニケーションや気持ちが噛み合っていなかった二人が、ここでようやく想いを一つにする。典道君からすれば、なずなが自分と同じ想いを持っているだなんて微塵も想像していなかったところや(次のループで同じ内容をなずなから告げられた際、彼は大赤面している��、なずなからすれば、典道君が本当はそういうことを思ってくれる男の子だと感じていたからか、だからこそ安曇君ではなく彼を選んだからか、然程オーバーではない控えめな、だけど溢れ出る喜びが抑えられないような笑顔の表現に留まっていたのもまたいい……(読み取りすぎか?)
まあそれもそのはず、中学1年生の男女なんて、同じ人間とは思えないほど精神年齢に差があるのだから致し方ない。典道君が「か・け・お・ち」を決心するまで、執拗なまでに描かれていた少年の弱さ、愚かしさ、もどかしさにハッキリと決別するこのシーンは、それまで散々観客にフラストレーションを与えていたコミュニケーションの噛み合わなさ、勢い不足の展開を昇華させ、結末まで一気に持っていく起爆剤となっている。
 次に印象的なのはやはりここから繋がるクライマックス、例の玉が泥酔した花火師によって空に打ち上げられて砕け散るシーン。砕け散った玉は、有り得たかもしれない未来を一つ一つの破片に映し出す。「あるべき世界」=「花火が丸く見える世界」「すべてが思い通りになった世界」を追い求め続けていた典道君は、それが手に入らないことを知り、何かを悟ったような笑みを浮かべ、水中でなずなと抱擁を交わす。恐らくもう会えないであろうことを知りながら、それまでとは全く違った心境で、「次はいつ会えるかな」となずなは問いかける。無数のガラスの破片が空から降り注ぎ、その後ろで花火が打ち上がっている情景は非常に美しいが、僕が記憶している限り、その花火が「あるべき姿」であったかは分からない。彼らは、例えいま自分が生きている世界が不条理であっても、お互いに分かり合えなくても、思い通りの結末が迎えられなくても、それを受け入れ、選択し続けていかなければならないことを知ったのだ。だから典道君はそれまでの躊躇を振り切って、自分の力と意思でなずなに寄り添おうとした。このシーンは、なずなの二人目の父親が玉を持ったまま亡くなっている別のシーン(一瞬しか映らないが)によって強い意味を持たされている。詳細は語られていないが、なずなの父は「あるべき世界」に固執した結果、永久にそれに辿り着くことが出来ず、或いは何が真実で何が嘘なのか分からなくなり、命を絶ったのだろう。彼らの悟りと決意は、なずなの父との対比である。そして、玉は典道君となずなだけのものではない。彼らを取り巻く同級生たち自身も皆、いつかは砕け散る可能性の塊なのであり、玉の本質はループを生むためのフックや設定にだけあるのではなく、無数の可能性の内のたった一つが析出したものである「この夏」を越えて、ほんの少しだけ成長した彼らの比喩にもあるのだと思う。この上なく美しい情景と共に、重層的なメッセージが無理なく伝わってくるこのシーンだけでも、本作を評するには十分であろう。ここにおいて、敢えてループに代償や悲劇を伴わせる必要はない。本作ではアニメ的表現が多用されているものの、そのメッセージはコミュニケーションの不全や、「あるべき世界」とは異なる世界を受け入れて生きる、といったことに関わる、極めて現実的なものであり、そこに非現実的な代償のメカニズムを組み入れるのは蛇足というものだ。
先述の「画に『エモさ』が欠ける」というのも、そうしたテーマを説得力と共に打ち出すため、恐らくほぼ全てのシーンを理詰めで作っているから、ということが背景にあるのだろう。クライマックスのシーンですら、勢いで押せばいいものを、様々な意味を持たせようとしているあたり、単純に感傷的な作品を作らないようにしようという製作側の意図が感じられる。学校や町の描写はそれぞれのループにおける微妙な差異を表現する道具として、なずなのトランクは夢と空想の詰め物として、電車とトンネルは二人の内的世界の表れとして、岬と灯台は逃避行の終着点として、風車と花火は世界のステータスを表すものとして、周到に役割を与えられ用意されているように見受けられる(一部「お前、その画撮りたかっただけやろ!」みたいなシーンも散見されるが別にエモくはない。ちなみに道路の溝を浴衣で跨ぐカットや、典道君を花火大会へ誘う際になずなが「好きだから」とは敢えて言わずにその後のカットで上機嫌で自転車に乗っているところとか、なずなが最後に水面から飛び出してくる一連のシーンとかは本当に好き)。
そうした世界観にあって、ヒロインはストレートな可愛らしさを持った正統派であってはならない。言い換えれば、なずなが予測困難で掴み所のない、不安定な存在であることで、本作の世界観とメッセージが一層強固になる(なずなが可愛くないという訳では断じてない、寧ろめっちゃ可愛い。いきなり「私のせい?」とか訊いてくるヒロインは最悪で最高だ)。こう書くと、筋立てとメッセージありきでキャラクターが動かされているようにも読めるが、実態としては逆で、こうしたなずなのキャラクター性を際立たせるような物語が組まれているのではないかと思う(断言はできないが)。これは何故か。まず、なずなは典道君他の少年たちにとって、初めは理解不能な存在である必要がある。精神年齢に天と地ほどの差がある上、多くを語らないなずなとのディスコミュニケーションが本作の始点であり、それを経て世界の不完全さを受け入れることが終点となるからだ。また、大人の女性と少女の間を絶えず行き来するなずなの妖しさと儚さが、典道君の心に、なずなに導かれたい/なずなを守ってあげたい、という相反する感情を掻き立て、二人の駆け落ちの原動力になっている。それから、これを言ったら怒られるかもしれないが、なずなは多分典道君のことをこれからもずっと好きでい続けるとは思えない。「ビッチの血」は冗談としても、典道君が自分の傍にいてくれることに慣れてしまったら、彼女は何も言わずに去ってしまうような危うさが台詞や仕草の端々に表れているように思える。「二人だけの世界」などという妄想の産物には留まってくれないような彼女は、ある種の「諦め」と「悟り」が色濃く残されている本作の結末に相応しいヒロインではないか。
 何だか勝手に仮想敵を立ててそれを倒しに行くような構成になってしまったが、僕としては本作の良いところを並べてみたつもりだ。詳しくは述べないが確かに減点箇所は幾つかあるものの、それを補って余りある、散文的に美しい情景を並べたてつつも、軸は首尾一貫した物語であった。玉が砕けて破片が降り注ぐシーンは、劇伴も相俟ってつい感極まってしまうくらいの出来だったと思う。とは言え、何かあると岬の灯台に行きがちな人間としてのバイアスかかってんだろうな。
   追伸:書き終わった後にレビューとか実写版とかを浚ってみましたが、本作は「わけがわからない」と酷評されている上に、実写版では玉は出てこないようですね。思い入れの強いシーンがないならもう完全に別作品だな……。あと主演俳優二人が棒読みとか言われてるけど、所謂「生っぽい演技」だと僕は受け取りました。この辺は感じ方の違いでしょう。「なずなはメンヘラ」とか言ってる人は一生健全美少女追いかけとってください。
3 notes · View notes
tsuntsun1221ts · 6 years
Text
2018.12 鎌倉アルプス
近場で日帰りで帰ってこれる山はないかなーと探していたところ、茂原から乗換なしで行ける鎌倉に「アルプス」と冠したハイキングコースが存在するのを知り、観光地でもあるのでちょっと行ってくることに。
【コースタイム】茂原駅  (0652)→ 逗子駅(0918)→名越切通 (1005)→ 水道山展望台 (1025)→ 関東の富士見百景 (1040)→ 衣張山 (1050)→ 天園ハイキングコース明王院方面入口 (1115)→ 天園休憩所 (1150)→ 休憩 → 天台山 → 太平山 (1225)→ 鷲峯山 → 勝上嶽(1250)→ 半僧坊 (1255)→ 天園ハイキングコース今泉台4丁目入口 (1310)→ 明月院 (1320)→ 亀ヶ谷切通し→ 化粧坂切通し → 源氏山公園 (1350)→ 大仏坂切通し → 長谷配水池 (1425)→ 極楽寺駅 (1435)→ 稲村ヶ崎駅入口 (1450)→ ヨリドコロ→ 稲村ヶ崎駅 → 鎌倉駅 (1701)→ 茂原 (1915)
歩行 5時間20分(休憩含む) 19.8km
Tumblr media
茂原から逗子まで乗り換え0回!バスに乗り換える必要もなくそのままハイキングをスタートできるし、かなり快適。
逗子駅に降りたのは初めてだけど、割と栄えてるし人が多い。線路沿いの商店街を通っていく。途中の八百屋さんが長ネギ3本100円とかブロッコリー70円とか、恐ろしく安い値段で売られていてすごく買いたくなった。長ネギもってハイキングする人なんていないだろうけどな。
まず向かうのは名越切通し。幹線道路に沿って向かうのだが、そのまま進むと切通し下のトンネルをくぐってしまう。途中で看板も何もないので、トンネル入口まで着いたときに、自分が行きたいのはこの真上であることに気が付いた。本当は「栄光LPGスタンド」直前で左に曲がるのが正解(写真右上)。こんなの分かるか!
道を曲がるとすぐに坂になる。この道であれば確かにトンネルの上まで登れそうだ。普通の住宅街の道なんだけど傾斜がエグくて、車で登るには苦労しそう。登りきった十字路は右に曲がる。道なりに進むとコンクリートの道から土の道になる(写真左下)。ここがさっきのトンネルの上かな。向こうから小学生が先生に連れられてゾロゾロとこっちへやってきた。地元のことを勉強する校外学習だろうか。写真を撮るために通過を待っていたらめっちゃジロジロ見られた。
名越切通し(なごえきりどおし)とは、鎌倉時代に尾根を掘り割って作られた通行路で、鎌倉と三浦半島を結ぶ重要な道だったとのこと。1233年の資料にも名前が出てくるらしく、約800年前から存在が確認されている。この目で見てみると、たしかに山がかち割られたように強引に道を作った感じがする。しかもずいぶん深く掘ったようで、両側が5mくらいの崖になっている。この道を切り開いた鎌倉時代の人間たちのエネルギーに圧倒される。
Tumblr media
切通しを通過してすぐのところに、まんだら堂やぐら群への分岐がある。せっかく来たので向かってみるが土日しか公開しておらず、本日は平日のため見学できなかった(写真左上)。分岐まで引き返し衣張山方面へ向かう。道中は割と整備された道で歩きやすいし、この時期でも緑が多いのが印象的。途中で通過した展望台のようなところは駿河湾の一部が見渡せる(写真左下)。一応富士山も見えた気がするが木々がちょっと邪魔かな。
先へ進むと次に現れるのが「お猿畠の大切岸」という、高さ3~10mの断崖が尾根に沿って 800m以上連続する遺構(写真右下)。最近の研究で石切作業跡であることがわかったとのこと。両側でススキが揺れる中、大切岸の横を通過していくのがなんか季節感あり歴史感ありで、この日みたく天気が良いときはハイキングコースとして最高だと思う。
Tumblr media
大切岸を近くで見てみると、崖の一部が削られてえぐられた感じ。800年の年月を経て風化し、なめらかな壁になっている。鎌倉時代の石切作業ってどんなだったんだろう、ずいぶんと労力がいりそうだけど。
大切岸を通過し、次に向かったのが水道山展望台。途中の分岐を、上り坂のコンクリートの道の方へ進むとたどり着く。ここからの展望が素晴らしかった!駿河湾が広く見渡せ、富士山を遮る木々もない。開放的な広場にベンチが2つ備えられていて、座って休憩しながらこの景色を眺めることができる。山登りしながら青い海を間近で展望できるところってそんなに多くないと思う。通過するのはもったいない穴場なので、次に来たときも休憩地点としてまた利用させてもらおう。
分岐まで戻り、本来のルートへ。少し進むとそのまま住宅街が現れる。ここからまた山に入るまでの道は「関東の富士見百景」と言われており、進行方向左側正面に富士山を見ることができる(写真左下)。横に植わっているのはおそらく桜の木で、春なんかは富士山を眺めながらのお花見ができて、それこそ百景の名にふさわしい景色となるんじゃないかな。
そして再び山の中に入り、いつの間にか衣張山山頂を通過していた。途中展望広場みたいなのが二箇所あったような気がしたのだが、それのどちらかが衣張山山頂だったと思う。看板とか目立たたなかったから気が付かずに通過してしまった。写真右下がおそらく衣張山山頂から撮ったと思われる景色。
Tumblr media
衣張山を通過すると100m以上一気に下る。登りだと結構きつい道だったかも。草木が生い茂っており、快晴なはずなのに結構暗い。この林を通過すると市街地へ出る。以上の道は今回の縦走のほんの前哨戦でしかないんだが、途中にいくつもの展望広場や史跡を通過し、しかもこれから歩く道と比べて人が圧倒的に少なく静かであった。ぶっちゃけ以降のハイキングコースはそんなに展望よくないし、今回の登山の良いところの7割はこの道だった。これから向かうコースは「天園ハイキングコース」と言って知名度があるわけなんだけど、こっちの道の方が断然人気になってもおかしくなく、かなり不思議。鎌倉アルプス縦走するなら絶対オススメ!
市街地へ降りたらしばらく道路を進み、明王院へ向かう。この神社の裏手に天園ハイキングコースの入り口がある。
Tumblr media
明王院へは入らず、神社と民家の間の細い道を進んでいくと登山道っぽくなる。このとき、この道を真っ直ぐ進み続けると行き止まりとなる・・・って民家のおじさんが親切にも教えてくれたんだけど、正直何も言われなかったらまっすぐ進んじゃうよ、いかにもな道だし。登山道は写真左下の、石段を登り林に突入する方が正しい。いやいや、これどう考えてもこれまっすぐ進んじゃうから!しかも石段の道は民家の敷地っぽい感じだったし。そして石段の方の道を進むと最初のうちはかなり急勾配。ロープとか無いので、土や落ち葉でずり落ちやすい。
Tumblr media
藪のトンネルをくぐり、切通しと思われる道を通過するなど40分ほど進むと、なんだか人の声が聞こえてきた(今までは誰ひとりとして遭遇しなかった)。ちなみに途中まで特に展望など無し。
人の声が聞こえてきたのは天園休憩所という、なんかモノがあちこちに散らかっている小屋から。ちょうどお昼時でもあったし、ここでお昼休憩にしようかなと思い寄ってみる。ベニヤ板でできた手作りの椅子とテーブルが設置されており、20人も座ったら満員になりそうな程度の休憩スペースである。営んでいるのは老夫婦かな?
注文したのはおでん。普通おでんといえば醤油ベースとか、鰹だしの聞いた茶色の汁だと思うんだけど、ここのは塩味の無色透明の汁。具はうどん・豆腐・わかめ・人参・こんにゃくと、自分の常識が間違っていなかったらこんにゃく以外はおでんとしては珍しいのでは?まぁこういう郷土料理なのかもしれん。決して美味しくないわけではないが、やはり食べ慣れたおでんと比べるといろいろ物足りない感じがするのが正直なところ。からしが異常に辛かった気がするが、これは気のせいか?この小屋の名物は「ふろふき大根」で、他の人が注文したのを見たのだが、煮た大根1/2をタワーのように皿に立てて、その周りをキャベツで覆って味噌ダレをかけたもの、といえば伝わるだろうか。見た目のインパクトがすごすぎた。あれは1人じゃ絶対に食べきれないかな、自分は
Tumblr media
この天園ハイキングコースは明王院以外にもいくつか入り口があり、最初のうちは全然空いていたんだけどこの休憩所あたりからは人が急に多くなった。ココらへんは人気のコースなのかも。ところどころ富士山が見れるような展望の良さそうな場所あったし(ただし前述の前哨戦ほどではない)。この日はたしか金曜日だったはずだが、それにしては人がかなり多かったと思う。太平山山頂すぐ近くにある広場は100人くらいお昼休憩していたし、ツアーで来た団体客も見かけた。
ちなみにこの太平山は鎌倉市で一番高い場所なのだそうだ。そして車で上まで上がってくることが可能な模様(山頂のすぐとなりが何かの建物の駐車場になっている)。近くにゴルフ場があったけど、これのかな?
Tumblr media
大平山から約30分進むと建長寺の裏山、 勝上嶽に着く。ここからは建長寺を後ろから見下ろせ、さらにその先には鎌倉市と駿河湾までセットとなっている(写真左上)。朝は天気が良かったが、この時間になると雲が出てきており、もう富士山は見えず。とりあえず急な階段を下り半僧坊まで行ってみることに。半僧坊から先は建長寺への拝観料500円払わないと入れない。建長寺に降りようか迷ったんだけど、ここはこのまま天園ハイキングコースを終わりまで進むことに。おかげでまた急な階段を登り直すことに。
もとの道に戻ってからハイキングコースの終わりまでは10分くらいだったか、市街地へ下り終了となった。ここからまた街歩き。
12月だけどココらへんはまだ紅葉が残っており、チラホラと色づいた木々を見かけた。また10分ほど歩くと明月院という神社に着く。
Tumblr media
この明月院付近から横須賀線の線路にぶつかるまで南下する道が、なかなかに風情があった。道路と民家の間には水路があり、民家に入るにしてもいちいち橋が架かっている。また民家といってもお茶屋だったり美術館だったりレストランだったり、この古風な道に似合った風貌をしており、ここでも時代を感じることができる。
横須賀線とぶつかったところで進路を東へ変える。ちなみに西へ向かうと北鎌倉駅。亀ケ谷切通しに向かうため途中で右折するが、そのまままっすぐに進めば鶴岡八幡宮に着く。
亀ケ谷切通を通過したはずなんだけど、どれがそれに当たるのか正直わからずに通過した。コンクリートで舗装されている道しか歩かなかった(と記憶している)し、今までみたいに尾根を人間が削った荒々しさはまったく無かったので通り過ぎたと思われる。
Tumblr media
亀ケ谷切通しを通過し、源氏山公園へと向かう。途中 地元の中学生と思われる3~5人組をいたるところで見かけたが、おそらくこれも校外学習で、地元周辺の歴史を探ろう的なやつだと思われる。みんな源氏山公園を目指していると思われ、一緒になって歩いていった。
Tumblr media
案の定、源氏山公園では先生が待機しており、到着した生徒を確認して次の場所へと向かわせていた。源氏山公園の源頼朝像を見たとき遥か昔の記憶が蘇ったのだが、ここ小学生の頃来たことある!!たしか小学4年生の頃、学校の校外学習で。ここで昼食のお弁当食べて、上空を飛んでいるトンビを見ていた気がする。一応ここも展望広場みたくなっているけど、そこまで眺めは良くない。まぁこの銅像が有名なのかわからんが、まぁ来なくてもいいかも・・・。
さてお次は大仏坂切通しへ向かう。途中の道、特に展望が良いとかはない・・・。ニワトリがいたよ。
大仏坂切通しも亀ケ谷切通しと同様、よくわからずに通過した。
Tumblr media
面白かったのは大仏坂切通しを下った先の、江ノ電と合流してからの道。民家を抜けてまず現れたのが江ノ電のトンネル。トンネル上の橋は撮り鉄の住処なのか、10人くらいカメラ持った人たちが電車が来るのを待機していた。おそらくトンネルを抜けて出てきた江ノ電が撮れるのだろう。トンネルのすぐ先に極楽寺駅があり、ここから稲村ヶ崎駅まで江ノ電の線路に沿った道となる。
ちょっと驚いたのは、電車と道路を隔てるような柵は一切なく、普通に線路に侵入できる、と思いきや江ノ電も割と頻繁に通過するので、歩いている真横を電車が通っていき迫力ある。平成が終わり次の元号が控えている中、このように電車が街に溶け込むような場所も珍しいのではないか?
やがて正面に海が現れ、今回の旅の終わりが見えてきた。海岸に到着すると正面には大島が、右には江ノ島。さっきまで山にいたのに、今目の前は海。鎌倉は歴史も自然も充実してますなー。
Tumblr media
偶然通りかかって偶然見つけたお店が↑の写真、「ヨリドコロ」。稲村ヶ崎駅近くにあり、古民家をリフォームしたそうで、外観は古いが内装は普通のカフェ。立地が独特で、目の前で江ノ電が通過するのを眺めることができるように線路ギリギリに建てられた物件となっている。
15時くらいに通りかかり、早めの夕食にするか栄えている鎌倉駅まで我慢するか、外から店内を眺めたりメニューを見たりして吟味していると、多くの人がお店の写真を撮ってる。なんか有名なお店の予感がしてグーグルマップで調べてみると、星4.4(205)という驚異の高評価(笑。もうここまで来たら入るしかない!と思い店員さんに人数伝えてから外で待たされること20分。ようやく席が空き店内に案内される。なにせ小さいお店で定員20人くらいだし、やはり人気のお店らしく混んでいたため。
Tumblr media
待機中に何本も電車が通過していったが、外の席では目と鼻の先を江ノ電が通過していく。この時期の夕方だと外は結構寒いけど、それでも敢えて外がいい!という人がたくさんいた。たぶんこれが店一番の名物なのかと思われる(ちなみに外の席はたった3席限定)。自分が通された席は5人が座れる個室で、こんなところを一人で使ってしまっていいのかなーと思った。個室だと窓は線路側を向いておらず、通過する電車の音だけを堪能するという形になる。
おすすめメニューは干物と卵かけご飯らしく、朝は後者を200円台でたのむことができる。昼から夜にかけては干物定食がメインとなるが、値段が最低1000円、最高1700円と決して安くはない。ただ、定食を注文すると卵かけご飯もついてくるので、お店のおすすめを2つとも味わうことができる。
まず干物が焼き上がるまでの時間に卵かけご飯のたまごを準備するよう勧められる。黄身と白身を分け、白身を泡立て器を用いてたくさん泡立てるのがこのお店での召し上がり方のようだ。この作業が結構時間かかるので、定食が出てくるまでの15分くらいで準備しておくのが良いとのこと。
注文した料理がやってくるとご飯に白身をかけ(あまり泡立たなかった)、黄身を乗せて(崩さないほうが良かったかも)めっちゃインスタばえする画となる。味の方は、卵黄が濃厚で、干物は脂が載って外はパリッ!美味しくて皮まで全部食べてしまった。味噌汁は甘味噌を使っているのかな?口当たりが柔らかい気がする。これで1500円くらいと高めだけど、行く価値は全然あり!今回は平日の15時という変な時間だったからよかったものの、休日は2時間待ちになることもあると、お店の人が言っていた。あと、やはりテレビに出たことがあるみたいだねこのお店。
ヨリドコロで早めの夕食を終えたあと、すぐ近くの稲村ヶ崎駅から鎌倉まで江ノ電で移動。 車内はさすがにもうレトロな感じはなくなってきたね。 鎌倉駅から茂原までは総武線快速・横須賀線を利用して乗換なしで帰れるのが本当に便利。ここまでの長距離移動だとグリーン席がお得で、120キロ135分の移動でグリーン席代980円(平日料金)。下の階なら横浜駅まで貸切状態。品川から半分席が埋まり、東京駅でグリーン席も立つほど混雑する。このときちょうど18時。あと鎌倉駅周辺は結構賑わってるので、江ノ電からJRへは乗り換え専用改札は使わず、一度出てぶらぶらした方がいい。
朝夕の気温5℃はくらい、日中は10℃まで上がるが歩くと少し暑くなる。歩行時間は5時間20分で、距離にしてちょうど20キロ。考えようと思えばいくらでもルートがあるので、次は自分なりのルートを編み出してみたいと思う。逗子~衣張山は外せない。次は建長寺へ降りてみようかな、明月院の雰囲気も良かったな。源氏山公園は省いてもよい、極楽寺駅~稲村ヶ崎駅はわりと面白かったし、またヨリドコロに寄ってみたい。
0 notes