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#平天と菜っ葉の炊いたん
akitakuronekoya · 4 months
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【秋田の天然山菜】たけのこご飯を作ってみた
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↑規格外のちっちゃなたけのこを使って、たけのこご飯を作ってみました。規格外ではあるけれど、お味はちゃんと根曲がり竹で、食感もやわらかくてシャクシャクです。あなどるなかれ。
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↑薄くスライスして、研いだご飯に投入します。
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↑ドーン!
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↑炊き込みご飯の味付けは、山の楽市で販売した「比内地鶏だし飯2合用」。比内地鶏の美味しいお出汁と、ごぼう、にんじん、たけのこ入り。たけのこ入りのご飯の素なのに、さらにたけのこを加えて作るという贅沢仕様です。
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↑隠し味にはちみつを少々入れました。
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↑無印良品の土釜おこげちゃんで炊飯じゃ!
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↑上手に炊けました~!採れたて新鮮天然物のたけのこ入り具沢山炊き込みご飯の完成です。
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↑炊き上がるまでにもう3品作りました。あまじょっぱい玉子焼きと、たけのこの節とうどの葉っぱの味噌炒め。
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↑そしてたけのこの節入り味噌汁です。
さすが新鮮天然根曲がり竹さま!美味しいお出汁が出るし、具もシャクシャクです。うますぎるう~!あっという間に平らげてしまいました。
たけのこが手に入ったらぜひお試しください。
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■■■おまけ■■■
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↑敷地内に生えた「真竹(まだけ)」を使って、メンマを作ってみ���す!ビッグバン巨大たけのこドーン!迫力やばすぎ。
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↑巨大たけのこの皮をむいて、節を抜きます。
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↑ある程度の大きさにカット。包丁がスッと入るほどやわらかくて美味しそう。
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↑湯がいてから数ヶ月ほど塩漬けにします。どうなることやら…。乞うご期待!
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bearbench-tokaido · 6 months
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三篇 下 その三
上方者は、 「ハァ、ソンナラお前のお馴染みは何屋じゃいな」 と、意地悪く問うと、 「アイ、大木屋さ」 と、弥次郎兵衛がいう。 「大木屋の誰じやいな」 と、上方者がさらに問うと、 「留之助よ」 弥次郎兵衛が答えた。 上方者が 「ハハハ、そりゃ松輪屋じゃわいな。 大木屋にそんな女郎はありもせぬもの。 コリャお前、とんとやくたいじゃ、やくたいじゃ」  (やくたい…上方言葉で、らちもない、とんでもない、よくない、など広い意味に使う)
弥次郎兵衛は、 「ハテ、あそこにもありやすよ。ナァ北八」  (大木屋は実在の大見世の扇屋のこと。松輪屋はやはり実在の松葉屋のこと。留之助は松葉屋の抱えの名妓の染之助のこと。したがってこのやり取りでは上方男の勝ち) 北八、面倒臭くなってきて、 「ええ、さっきから黙って聞いていりゃ、弥次さんおめえ聞いたふうだぜ。 女郎買いに行ったこともなくて、人の話を聞きかじって出放題ばっかり。 外聞のわるい。国者の面よごしだ」
弥次郎兵衛は、 「べらぼうめ、俺だって行くってんだ。 しかもソレ、お前を神に連れていったじゃァねえか」  (神…取り巻き、太鼓持ち。遊廓付きの本職ではなく、客が連れ込んだ遊びの取り巻き仲間。落語の野太鼓がこれである) 北八、思い出して、 「ああ、あの大家さんの葬式の時か。なんと、神に連れたとは、おおげさな。 なるほど二朱の女郎の揚げ代はおめえにおぶさったかわり、 馬道の酒屋で、浅蜊のむきみのぬたと豆腐のおから汁で飲んだ時の銭は、みんなおいらが払ったじゃねえか」  (葬式くずれで繰り込むなら安い店にきまっている。揚げ代二朱なら宿場の飯盛なみのごく安い女郎。馬道は吉原に通ずる町。そこの酒屋のぬたも汁もごく安い庶民的な食い物である)
弥次郎兵衛は、 「嘘をつくぜ」 北八も、 「嘘なもんか。しかもその時おめえ、さんまの骨をのどへ立てて、飯を五六杯、丸呑みにしたじゃねえか」 「馬鹿言え。お前が田町で、甘酒を食らって、口を火傷したこた言わずに」 「ええ、それよりか、おめえ土手で、いい紙入れが落ちていると、犬の糞をつかんだじゃねえか、恥さらしな」  (土手…吉原に入る途中の山谷堀に添った日本堤の土手八丁、金持ちなら土手八丁を四ツ手駕で飛ばし、貧乏人なら歩く、いずれも弥次郎の自慢が嘘だと、北八が暴露したかたち)
と、遣り合っている二人に、上方者が 「ハハハハハ、いや、お前方は、とんとやくたいな衆じゃわいな」 弥次郎兵衛が、 「ええ、やくたいでも、悪態でも、うっちゃっておきゃァがれ。 よくつべこべとしゃべる野郎だ」 上方者は、関わり合いにならない方がいいかと、 「ハァこりゃご免なさい。ドレお先へまいろう」 と、そうそうに挨拶して、足早に行ってしまう。 その後ろ姿をみながら、弥次郎兵衛は、 「いまいましい。うぬらに一番へこまされた。ハハハハハ」   この話の間に、三ケ野橋を渡り、大久保の坂を越えて、早くも見付の宿(磐田市)にいたる。
北八、 「アァくたびれた。馬にでも乗ろうか」 ちょうどそこへ、馬方が、 「お前っち、馬ァいらしゃいませぬか。 わしどもは助郷役に出た馬だんで、早く帰りたい。 安く行かずい。サァ乗らっしゃりまし」  (助郷…東海道の交通の確保のために、沿線の村々に幕府がかけた役務で、人馬の徴発を含めて重いものだった)
弥次郎兵衛は、 「北八乗らねえか」 と、問い掛けると、 「安くば乗るべい」 と、馬の相談が出来て、北八はここから馬に乗る。 この馬方は助郷に出た百姓なので、商売人の馬子でないから丁寧で慇懃である。
弥次郎兵衛は、 「そうだ、馬子どん。ここに天竜川の渡しへの近道があるんじゃねえかな」 と、思い出して、聞いてみると、 「アイ、そっから北の方へ上がらっしゃると、一里ばかしも近くおざるわ」 と、馬方がいう。 北八が、 「馬は通らぬか」 と、更にとうと、 「インネ、徒歩道でおざるよ」 と、ここから弥次郎は一人近道のほうにまがる。
北八は馬で本道を行くと、早くも加茂川橋を渡り、西坂の墳松の立場に着く。 茶屋女が声をかけてくる。 「お休みなさりやァし、お休みなさりやァし」 茶屋の婆も声をかけてくる。 「名物の饅頭買わしゃりまし」 馬方が、その婆様に声を掛ける。 「婆さん、おかしな日和でおざる」 「お早うございやした。いま新田の兄いが、一緒に行こうかと待っていたに。 コレコレ横須賀の伯母どんに、言いついでおくんなさい。 道楽寺さまに勧説法があるから、遊びながらおいでと言ってよう」  (道楽寺は遊びながらおいでにこじつけた架空の寺の名) 馬方は、 「アイアイ、また近うちに来るように伝えときましょう。ドウドウ」 と、いうと、また歩き出した。
「この馬は静かな馬だ」 北八は、珍しく乗りやすい馬なので、つい、そういうと、 「女馬でおざるわ」 と、馬方が、こたえる。 北八は、にんまりして、 「どうりで乗り心地がよい」 馬方が、問い掛けてきた。 「旦那は、お江戸はどこだなのし」 「江戸は日本橋の本町」 と、北が答える。 「はあ、えいとこだァ。わしらも若い時分、お殿様について行きおったが。 その本町というところは、なんでもえらく大きい商人ばかしいるところだァのし」 と、昔のことを思い出しながら、話してくる。 「オオそれよ。おいらが家も、家内七八十人ばかりの暮らしだ」 と、またまた、くちからでまかせ。 馬方もしんじているにのかいないのか、 「ソリャ御大層な。お神さまが飯を炊くも、たいていのこんではない。 アノお江戸は、米がいくらしおります」 「まあ、一升二合、よい所で一合ぐらいよ」 と、考えながら言うと、 「で、そりゃいくらに」 と、馬方は、よく分からない。 「知れたことよ、百にさ」 と、北八がいうと、 「はあ、本町の旦那が、米を百文づつ買わしゃるそうだ」 馬方は勘違いして、そういう。 北八、笑いながら、 「ナニとんだことを。車で買い込むは」 「そんだら両にはいくらします」 と、馬方。 「なに、一両にか。ああ、こうと、二一天作の八だから、二五の十、二八の十六でふみつけられて、四五の廿で帯解かぬと見れば、無間の鐘の三斗八升七合五勺ばかりもしようか」  (割り算の九九の二一天作の八は一二天作の五の間違い、途中から浄瑠璃の文句でごまかしている。米の値段も出でたらめ) と、何やら、難しそうな、計算をはじめる。 「はあ、なんだかお江戸の米屋は難しい。わしにゃァわからない」 馬方は、すっかりけむに負かれて、 「わからぬはずだ。おれにもわからねえ。ハハハハハ」 と、北八も自分でいっててわからなくなった。
この話のうちにほどなく天竜川にいたる。 この川は信州の諏訪の湖水から流れ出て、東の瀬を大天竜、西の瀬を小天竜と言う。 舟渡しの大河である。弥次郎は近道を歩いてここで北八を待ちうけ、ともにこの渡しを越えるとて、一首。
 水上は 雲よりい出て 鱗ほど 浪の逆巻く 天竜の川  (水、雲、鱗、浪、逆巻く、みな竜の縁語の竜づくしが趣向)
舟からあがって立場の町にいたる。 ここは江戸へ六十里、京都へも六十里で、東海道の振り分けになるから中の町(浜松市)というそうだ。
 傾城の 道中ならで 草鞋がけ 茶屋に途絶えぬ 中の町客  (ここを江戸吉原の中の町に見立てて、花魁道中の高足駄の代わりに草鞋、吉原の引き手茶屋と街道筋の茶屋、どちらも客が絶えぬと言う趣向)   それより萱場、薬師新田を過ぎて、鳥居松が近くなったころ、浜松宿の宿引きが出迎えて、 「もし、あなたがたァお泊りなら、お宿をお願い申します」 と、二人の呼びかける。 北八がそれに答えて、 「女のいいのがあるなら泊りやしょう」 客引きここぞとばかりに、 「ずいぶんおざります」 と、いうと、弥次郎兵衛が、 「泊まるから飯も食わせるか」 宿引き 「あげませいで」 北八、 「コレ菜は何を食わせる」 宿引き、 「ハイ当所の名物、自然藷でもあげましょう」 「それがお平の椀か。そればかりじゃあるめえ」 「 それに推茸、慈姑のようなものをあしらいまして」 「汁が豆腐に蒟蒻の白和えか」 と、北八が、客引きとやりあっている。
弥次郎兵衛が、 「まあ、軽くしておくがいい。その代わり百ケ日には、ちと張り込まっせえ」  (ここのやり取りは、宿引きの言うのが、野菜ばかり並べた精進料理なので、死人の法要の料理だと皮肉ったのである。法要では、当初と百ケ日には料理を張り込むのがしきたり) 「これは異なことをおっしゃる。ハハハハハハ。時にもうまいりました」 「オヤもう浜松か。思いのほか早く来たわえ」 と、弥次郎兵衛、ここで一首読む。
 さっさっと 歩むにつれて 旅ごろも 吹きつけられし 浜松の風  (松風の音の颯、颯と、さっさと歩くとにかけている。風に吹き送られて早く着いた意味も含む)
その横を宿ひきが駆け抜ける。
宿引きは、旅館に駆け込むと、 「サァサァお着きだよ」 と、置くに声をかける。 「お早くございました。ソレおさん、お茶とお湯だァよ」 それに、こたえて、この旅館に亭主が出てくる。 弥次郎兵衛が、 「イャそんなに足はよごれもせぬ」 と、いうと、亭主 「そんなら、すぐにお風呂にお召しなさいまし」 と、奥に案内しようとする。
つづく。
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recipe-cookingclass · 7 months
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『自炊』と『料理』の違い。
議論されることも多い事柄です。
私のイメージですと『自炊』とは、生活のための食事。
『料理』は創意工夫や料理というものを作る。
世界の食事情から少し引用させていただくと
とある外国の方が作る食事は『自炊』が多く、し外国の方が『料理ができるよ』と言われますと、日本の家庭では『自炊』じゃないかな?と見えます。
欧米などの人たちの料理は
『冷凍食品をチンする』これも料理だと言いますし
出来合い品を並べても『料理』という人も多く
日本の回転寿司は、すでに素晴らしい料理と感じるのもそれなんでしょうね。
日本のカレールーを使ったカレーでも、結構な高度の料理の一つに捉えるみたいです(笑)
そしてこの世の中は、外食に『自炊』という味レベルを求めてらっしゃる人が多いんだなと、分析できます。
というのは、特に若い世代の方ですが、外国人から来た労働者の方たちも、宗教で食事ルールがないのであれば、マックやコンビニや、マーケットで買うとしても手っ取り早いものが中心です。
レトルトや惣菜、いろいろと充実はしているので、手に入れやすいですしね。
例えば、ネットニュースで話題、テレビで取り上げられる大衆系のチェーン店や(ファミレスに回転寿司などなど)やマーケットのお寿司や惣菜や。
自炊のようなグルメは若い人にもとても人気ですし、ネタの良い単価が高いけれど、トータルで言えば、美味しいとは言い難いマーケットでの割高お寿司も人気です。
私でしたら、ちゃんとした昔ながらのお寿司屋で食べた方が、満足度は高いはずなのにと思いますが。
パスタだって自炊のような料理を喜んで外食でいただけるのは、それはそれで素晴らしいですが>
いまだに原価100円前後のもので、家で作るとたちまち、上質なイタリアンレストランの味になるものですが、ファミレス系は安いと言えども変わった味で、同じ料理名とは思えないものだったり。
それを基準とした味となると、外食よりも自炊の方が上手にできることもあるものです。
今や、自炊はできても料理はできない人が増えており
これらは子供達を観察するとわかりやすく、『家より給食の方が美味しい』などと言葉が出てくるものです。
給食においても、今は『コスト重視であり』美味しい努力は昭和平成までだったそうです。
物価高騰や調理の人件費削減などで、他の中抜き業種に価格を持っていかれるからこそ(いわゆる利権癒着天下りなどなど(笑))とても質素な給食になっている事実があります。
唐揚げにおいても唐揚げとは言えない代物で、大半が鶏細切れの切っカスのようなものだったり。
ごはんでさえ残したいぐらいだそうで、『ふりかけ持参を許可する公立学校』があるぐらいです。
専門家の意見?としてだそうですが、栄養面で塩分がと言いますが、1日トータルで栄養なんて考えるものなので、おかしな言い訳ですし、学校給食で栄養なんて足りるわけがありません。今ではすっかり大切なのは、お腹を満たすこととアレルギーとカロリーぐらいになるのでは?学校教育では食の喜びなどは学ばないようです。食育もすっかり文面上ぐらいだそうです。
献立をよく見れば、冷凍食品や業務用の加工食品が多用されており、調理も大変、楽だと美味しい思います。昔は給食も自由で、創意工夫がされていたそうです。その差も、平成までだったそうな。
物価高騰と自民党による教育のおかしな方針で随分と、お粗末になったようです。
味覚が育つのは、間違いなく幼い時期ですので、それらが基準となると思います。
けれど味の経験が多ければ、同じ鶏肉一つを調理するだけで、知らない人と知っている人との差が大変わかりやすいものです。
おにぎり一つでもこれが差が出る。家で作るお寿司にしろ差が出るのは当たり前です。
ステー��にしろ、市販のステーキソースをかけるだけでいただく家も多いですが、その肉の焼き方と、パパッと作れる美味しい手作りソースを作れると、すでに外食以上になりますしね。
同じもので出来る人、出来ない人とで随分と差が出る。
外食でもですが、『やっぱり家で作って食べたらよかったな』なんて本当に、山ほどあるわけで。
そんな同じ感想をおっしゃる芸能人の方もおり、共感した最近です。
グルメが普段の食事でできるなら、なんて素晴らしいことでしょう。
それが『料理』。
同じ食材で同じ調味料でも美味しくできるのも『料理』。
けれどその同じ食材と同じ調味料でも、ただお腹を満たす満足度ぐらいなら『自炊』というわけです。
この違いはやっぱり実際の経験数と教養の格差であるのは、間違いない。
同じお米でも料理上手だと美味しいお米が炊き上がります。
それぐらい違うということを子供たちが知るといいなと思います。
家庭が一番、ゆったりできる時間は何せ、食事時間。
どうせ自炊するなら、料理をする方が、満足度も高い。
外食よりもおうちの方が美味しいって言葉は、作り手にとっても最高の言葉です。
自炊より料理でおうち外食してくださいね!
料理研究家 指宿さゆり
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greater-snowdrop · 1 year
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毒を食らわば皿まで
うちよそ。フェドート←ノルバ(パパ従兄弟) ※モブの死/暴力・性暴力行為の示唆
 揺れる焚火を前にマグを両手で包み込む。時折枯れ木が弾ける音を拾いながら、岩場に座すノルバはじっと揺れる炎を見据えていた。泥水より幾分かましなコーヒーはすっかり湯気が消え去り、食事の準備をしていたはずの炊き出し班がいつの間にやら準備を終えて、星夜にけたたましく轟く空襲に負けぬ大声で飯だと叫んでいた。バニシュを応用した魔法結界と防音結界が張られているとはいえ、人の気配までは消すことが出来ないがゆえに常に奇襲が警戒されるこの前哨地において、食事は貴重な愉楽のひとつである。仲間たちが我先にと配膳の前に列を成していくその様子を、ノルバはついと視線だけを向けて捉えた。  サーシャ、ディアミド、キーラ、コノル、ディミトリ、マクシム、ラディスラフ、ヴィタリー。  炊き出しの列に並ぶ仲間の名を、かさついた口元だけを動かし声は出さずに祈るように唱える。土埃にまみれた彼らが疲弊しきった顔を綻ばせて皿を受け取っていく様に、ノルバは深く息を吐いた。
「おい、食わないと持たないぞ」 「っで」
 コン、と後頭部を何かで軽く叩かれ、前のめりになった姿勢に応じてマグの水面が揺れる。後ろを仰ぎ見れば、見慣れた顔が深皿を両手に立っていた。
「フェドート……」 「ほら、お前の分だ」 「ああ……悪ィな」
 ぬるくなったマグを腰かけている岩場に乗せ、フェドートから差し出された皿を受け取る。合金の皿に盛られたありあわせの材料を混ぜ込んだスープは、適温と言うものを知らないのか皿越しでも熱が伝わるほど酷く熱い。そういえば今日の炊事係にはシネイドがいたな、と彼女の顔を思い浮かべ苦笑いを零した。  皿を渡すと早々に隣を陣取ったフェドートは、厳つい顔に似合わず猫舌のために息を吹きかけて冷ましており、その姿に思わず小さく笑い声がもれる。すかさずノルバの腕を肘で突いてきたフェドートに「面白れェんだから仕方ねえだろ」と毎度の言い訳を口にすれば、彼は不服そうな顔を全面に出しながら「それで、」と話を切り上げた。
「さっきは何を考えていたんだ。お前がぼうっとしているなんて、珍しい」 「…………ま、ちょっとな」
 ようやく冷まし終えた一口目を口に含んだフェドートに、ノルバは煮え切らない声で返した。彼の態度にフェドートはただ咀嚼しながら無言でノルバを射抜く。それに弱いの分かってやっているだろ、とは言えず、ノルバは手の中でほこほこと煮えているスープに視線を落として一口分を匙で掬った。  豆を中心に大ぶりに切られたポポトやカロットを香辛料と共に煮込んだスープは、補給路断たれる可能性が常にあり、戦況の泥沼化で食糧不足に陥りやすい前線において比較的良い食事であった。フェドートが別途で袋に詰めて持ってきたブレッドや干し肉のことも考えれば、豪華と言えるほどである。まるで、最期の晩餐のようなものだ。  ───実際、そうなるのかもしれないが。  ため息を吐くように匙に息を吹きかけ、口内を火傷させる勢いのスープを口に放り込んだ。ブレッドと食べることを前提に作ったのだろう。濃い味付けのそれは鳴りを潜めていた空きっ腹を呼び覚ますのには十分だった。  フェドートとの間に置かれたブレッド入りの袋に手を伸ばす。だが彼はそれを予測していたらしく、袋をさっと取り上げた。話すまで渡さないという無言の圧を送られたノルバは観念して充分に噛んだ具材を飲み下す。表面上を冷ましただけではどうにもならなかった根菜の熱さが喉を通り抜けた。
「次の作戦を考えてた。今日までの作戦で死者が予想以上に出るわ、癒し手が不足してるわで頭が重いのはもちろんだが、副官が俺の部下九人を道連れにしたモンだからどうにもいい案が浮かばなくてな」
 言って���ノルバはフェドートの手から袋を奪取すると中から堅焼きのブレッドを取り出し、やるせなさをぶつけるように噛み千切った。何があったのか尋ねてきた彼に、ノルバはくい、と顎で前哨地に設営された天幕を指す。中にはヒューラン族の男が一人とロスガル族の男が二人。ノルバと同じく、部隊指揮官の者達だった。折り畳み式の簡易テーブルの上に置かれた詳細地図を取り囲み話をしているが、平行線をたどっているのか時折首を振る様子や頭を掻く様子が見える。  お前は参加しなくていいのか、とノルバに問おうとして、ふと人数が足りないことに気付いた。ここにはノルバ率いる第四遊撃隊と己が所属し副官を務める第二先鋒隊、その他に第八術士隊と第十五歩兵隊に第七索敵隊がいたはずだ。そう、もう一人部隊長が────確かヒューラン族の女がいたと思ったが。  フェドートが違和感を覚えたことを察したのか、ノルバはスープに浸したブレッドを飲み下すとぬるいコーヒーを手に取り、その味ゆえか、はたまたこの状況ゆえか、眉間に皺を寄せつつ少量啜った。
「セッカ……索敵隊の隊長な、昨日遅くに死んだんだわ。今回の作戦は早朝の索敵と妨害がねェ限り成り立たなかったろ? 俺はその代打で一時的に遊撃隊を離れて第七索敵隊の指揮を預かってた。…………そうしたら、このザマだ」 「……副隊長はどうしたんだ、彼女が死んだのならそいつが立つべきじゃあないのか?」 「普通はな。ただ、まあ、お前と同じだよ。副官としては優秀だが、全体を指揮する人間とは畑が違う。本人の自覚に加えて次の任務は少しの失敗もできないとあって、俺にお鉢が回ってきたってェわけだ」
 揺れる焚火の薪が音を立てて弾けた。フェドートはノルバの言葉に思い当たる節があるのか、「ああ……」と声を零すと干し肉を裂いてスープの中に落としていく。ノルバはその様子に僅かに口角を上げると、ブレッドをまたスープに浸して食みながら状況を語った。  曰く、昨日遅くに死んだセッカは直前まで普段と至って変わらない様子だったという。しかし、日付が変わる直前、天幕で早朝からの作戦に向けての確認作業中にセッカは突如嘔吐をして倒れ、そのままあっけなく死んだ。彼女のあまりにも急すぎる死に検死が行われた結果、前回の斥候で腕に負った傷から遅効性の毒が検出され、毒死という結論に至った。  本人に毒を受けた自覚がなかったこと、術士隊がその日は夜の任であり癒し手の人数が不足していたため軽症者は各自で応急処置をしていたこと、その後帰還した術士隊も多数の死傷者を抱えて帰ってきたこと等、様々な不幸が折り重なって生まれた取り返しのつかない出来事だった。  問題は死んだ時間である。早朝からの任務を控えていたセッカが夜分に死亡し、且つ翌朝の作戦は必要不可欠であったため代理の指揮官を早々に選出しなければならなかった。だが、セッカの副官である男は「己にその器たる資格なし」と固辞し、索敵隊の者も皆今回の作戦の重大さを理解しているからこそ望んで進み出るものはいなかった。  その最中、索敵隊のひとりが「ノルバ殿はどうか」と声を上げたのだと言う。基本的にノルバは作戦に応じて所属が変わる立場だ。レジスタンス発足後間もない頃、何もかもを少数でこなさなければならない時期からの者という事もあって手にしている技術は多岐にわたる。索敵隊が推した所以である諜報技術もその一つだった。結局、せめて今回作戦だけでもと頼まれたノルバは一日遊撃隊を離れ、索敵隊を率いたという。
「別に悪いとは言わねェよ。あの状況で、索敵隊の精神状況と動かせるヤツを考えれば俺がつくのが妥当だ。俺はセッカがドマから客将として入ってから忍術の手ほどきも受けていたから、死んだと聞いた時から予想はしてた」 「………………」 「ああ、遊撃隊は生還率が高く、指揮官が一時離脱しても一戦はどうにかなると言われたな。実際、俺もどうにかなる……どうにかさせると思ってたさ。そうなるよう事前に俺がいない間の指示も伝えてから行った。だけどよ、前線を甘く見る馬鹿が俺がいないからって浮足立って独断行動をしたら、どうにもなんねェんだわ、そんなの」
 ブレッドの最後の一口を呑む。焚火の煙を追って、ノルバは天を仰いだ。帝国軍からの空襲は相変わらず止む気配がない。威嚇を兼ねたそれごときで壊れる青龍壁ではないが、星の瞬く夜空を汚すには十分だった。
「技術はあって損はないけどよ、その技術で転々とする道を進んだ結果、一度酒飲んで笑った仲間が、命を預かった部下が、てめェの知らねえとこで、クソ野郎の所為でくたばっていく度に、なんで俺は獲物一つの野郎でいられなかったんだと思う」
 目を瞑る。第四遊撃隊は今朝まで十六人だった。その、馬鹿な副官を合わせて十人。全体の約三分の二を喪った。良かったことと言えば、生き残った者たちが皆比較的軽症だったことだ。戦場で果てた者たちが、彼らの退路を守ってくれたという。死んだ部下たちの遺体は回収できなかった。帝国が回収し四肢切断やら臓器の取り分けやらをされて実験道具としているか、はたまた荒野に打ち捨てられたままか、どちらかだろう。明日戦場に出た時に目につくだろうか。もう既に腐敗は始まっているだろう。その頃には虫や鳥が集っているかもしれない。  とん、とノルバの背に手が触れた。戦場において味方を鼓舞するそれを半分隠せるほど大きな手。その手は子供をあやす父親のようにゆっくりと数回ノルバの背を叩くと、くせの強い彼の髪に触れた。届かない空を見上げていたノルバの視線をぐっと地に向かせるように、荒っぽいが情愛のある手つきでがしがしとかき回す。「零れるからやめろ馬鹿!」と騒ぐノルバに手を止めると、最後に彼の頭を二度軽く叩いて手を離した。  無理をするな、とも、泣いていい、とも言わない。それらがノルバにはできないことであり、また見せてはならない顔であることを元々軍属であったフェドートは理解していた。ノルバは片手で椀を抱えたままもう片方で眉間を抑え、深く息を吸って、吐いた。
「……今回の大規模な作戦目標は、この東地区の中間地点までの制圧だ。目標達成まであと僅か、作戦期間は残り一日。全部隊の半数以上が戦死し、出来る作戦にも限りがある……が、ここでは引けない。分かっているよな」 「ああ。この前哨地の後ろは湿地帯だ。今は雲一つない空だが、一昨日から今日の昼間までにかけての雨で沼がぬかるみを増している。下手に後退すれば沼を渡っている最中に敵に囲まれるのがオチだ。運よく抜け出せたとしても、晴れだしてきた天気の中ではすぐに追跡される。補給路どころか後衛基地の居場所を教えてしまうだろうな。襲撃されたら単なる任務失敗では済まない」 「そうだなァ、他にはあるか?」 「……第七索敵隊の隊長はドマからの客将だったな。彼女が死んだとあれば、仲間の命を優先して中途半端に任務を終えて帰るべきではない────いや、帰れないな。"彼女は勇敢に戦い、不幸にも命を落としました。また、甚大な被害が出たため作戦目標も達成することが出来ず帰還しました。"ではドマへの示しがつかない。せめて、目標は達成しなければどうにもならん」 「わかってるじゃねェの」
 くつくつと喉を鳴らして笑うノルバを横目に、フェドートは適温になってきたなと思いながらスープを食む。豆と根菜に内包された熱さは随分とましになっていた。馴染み深い香草と塩っ気の濃い味で口内を満たしながら、フェドートはこちらに向けられている視線へと眼光を光らせた。  鋭い獣の瞳の先にあるのは、ノルバが指した天幕。射抜かれたロスガルの男は肩をわずかに揺らすと、すぐに視線を地図へと戻した。フェドートは男の態度にすっと目線を椀へと戻すと、匙いっぱいにスープを掬う。具に押しのけられて溢れたスープが、ぼとぼとと椀に戻っていった。  万が一にでもこのまま撤退という話になれば────もしくは目標を達成できず退却戦となれば、後方基地に帰った後、まず間違いなくノルバは責任を問われる者のひとりになるだろう。ともすれば、全体の責任を負いかねない。ノルバ自身は最良を尽くし、明らかに自身の行いではないことで部下を大量に失っている身だが、皮肉なことに彼はボズヤ人でないことや帝国軍に身内を殺された経験を特に持たないことから周囲の反感を買っている。責任の押し付け合いの的にするには格好の獲物だ。  貴重な戦力であり、十二年ひたすらに積み重ねてきた武勲もある。まず死ぬことはないだろうが相応の折檻はあるだろう。フェドートは息子同然の子の師であり、共にボズヤ解放を目指す戦友であるノルバにその扱いが待ち受けているのが分かっているからこそ、引けないとも思っていた。ノルバ本人にそのことを言っても「いつものことだ」と笑うから決して口にはしてやらないが。  汁がほとんど匙から零れ、具だけが残ったそれを口に運ぶ。いつの間にかノルバは顔から手を離していた。血糊の瞳と、濁った白銀の瞳はただ前を見つめている。ノルバは肩から力を抜くように大きく息を吐き出すと、フェドートに続くように匙いっぱいにスープを掬い大口を開けて食べ、袋から干し肉を取り出して頬張った。
「ま、何にしろ全体の損失を考えりゃここでは引けねェが、簡単に言えばあと一日持たせてもう目と鼻の先にある目的を達成さえすればどうとでもなるんだ。なら、大人しく仰々しいメシを食いながら全滅を待つこたァねえ。やっこさんを出し抜いて、一泡吹かせてやろうじゃねェの」 「本当に簡単に言うなぁ……」 「そんぐらいの気持ちでいかなきゃやってけねェんだよ、ここじゃあな。ダニラ達もあっちで相当頭捻ってるし、案外メシ食ってたら何か、し、ら…………」
 饒舌に動いていた口が止まる。急に黙り込んだノルバにフェドートは怪訝そうな顔でどうしたと彼を見やる。眼に映った顔は、笑っていた。  ノルバの手の中で、空の匙が一度踊る。そのしぐさに目を奪われていると、匙はこちらを指してきた。
「なあ、フェドート。アンタ、俺の副官になる気はないか?」
 悪戯を思いついたこどものような表情だった。しかし、彼の声色が、瞳が、冗談なのではないのだと語る。「は、」とフェドートは吐息のごとく短い声を上げた。ノルバは手を引いて袋の中からまたブレッドを手に取る。「ようはこういうことだ」ノルバは堅く焼いたそれを一口大に引きちぎり、ぼとり、と残り半分もないスープの中に落とした。
「遊撃隊と」
 ぼとり。
「先鋒隊と」
 ぼとり。
「索敵隊。この三部隊を統合して俺の指揮下に置き、一部隊にしたい」
 三つのかけらを入れたスープをノルバは匙でくるりと回す。突飛な発想だった。確かに遊撃隊はノルバを含め僅か六人の生存者しかいない。どこかの部隊に吸収されるか、歩兵隊あたりから誰かを引き抜いてくる必要はあるだろうが、わざわざ先鋒隊と索敵隊をまとめる必要があるかと言われれば否である。  帝国との兵力差は依然としてある状況でいかにして勝ち進めることができているのかと問われれば、それは部隊を細かく分けて配置し、ゲリラ戦で挑んでいるからに他ならない。それをノルバはよく知っているだろうに、何故。  答えあぐねているフェドートにノルバは真面目だなと笑うと、策があるのだと語った。
「承諾が得られるまで細けェことは話せねェが、成功率は高いはずだ。交戦時間が短く済むだろうからな。それが生存率に繋がるかと言われれば弱いが、生き残ってる奴らの肉体と精神両方の疲労を考えれば、戦えば戦うほど不利になるだろうし、どうせ負けりゃほとんどが死体だ。だったら勝率を優先した方がいい。ダニラのヤツは反対するかもしれねェが……俺が作戦の立案者で歩兵隊と変わらない規模の再編隊を率いるとなれば、失敗したら責任を負いたくない野郎共は頷くだろ」 「おいノルバ、」 「で、これの問題点と言やァ、デケェリスクと責任を全部しょい込んで無茶苦茶を通そうとする馬鹿の補佐につける奴なんて限られてるし、そもそも誰もつきたかねェってとこなんだが」
 ノルバ自身への扱いを聞きかねて小言を呈そうとした口を遮って続けられた言葉に、フェドートは息を詰まらせた。目の前の濁った白銀と血溜まりの瞳が炎を映して淡く輝く。
「その上で、だ。もう一度言うぞ、第二先鋒隊副隊長さんよ。生き残って勝つ以外は全部クソな俺の隣席だが、そこに全てを賭けて腰を据える気はないか?」
 吐き出された地獄へ導く言葉は弾んでいた。そのアンバランスさは他人が見れば奇怪に映るだろうが、フェドートにとってはパズルピースの最後の一枚がはめられ、平らになった絵画を目にした時のような思いだった。ああ、お前はこんなに暴力的で、強引で、けれども理性的な男だったのか。  「おっと、ギャンブルは嫌いだったっけか」とノルバが煽るように言う。彼の手の中でまた匙がくるりと弧を描いた。茨の海のど真ん中で踊ろうと誘っておきながら、退路をちらつかせるのは彼なりの優しさかそれとも意地の悪さか──おそらくは両方だろう。けれども、フェドートはここでその手を取らぬほど、野暮な男になったつもりはなかった。  フェドートが口角を上げて応える。ノルバは悪戯の成功したこどもの顔で「決まりだな」と言うと、浸したブレッドを頬張る。熱くもなく、かと言ってぬるくもない。シネイドが作ったであろう火だるまのようなスープはただ美味いだけのスープになっていた。  この機を逃すまいと食べ進めることに集中した彼に合わせてフェドートも小気味よく食事を進ませ、ノルバが最後の一口を口に入れるのに合わせてスープを飲み干す。は、と僅かに声を立てて息づくと、ノルバは空の皿を脇に置き腰のポーチを漁ると小箱を取り出した。フェドートはそれに嫌そうな顔を湛え腰を浮かせたが、「まあ待てよ」とノルバがにやにやと笑って彼の腕を掴んだ。その細い腕からは想像できないほどの力で腕をがっちりと掴んできた所為で逃げ道を塞がれる。もう片方の手でノルバは器用に小箱を開けた。中に鎮座していたのは煙草だった。
「俺が苦手なのは知っているだろう!」 「わーってるわーってる。そう逃げんなよ。願掛けぐらい付き合えって」
 スカテイ山脈の麓を生息地域とする特有の葉を使ったそれは、ボズヤでは広く市民に親しまれてきた銘柄だった。帝国の支配が根深くなり量産がしやすく比較的安価なシガレットが普及してからというもの、目にしなくなって久しかったが、レジスタンスのひとりが偶然クガネで発見し仲間内に再び流行らせたという。ノルバも同輩から教えられたらしく、好んで吸う側の一人だった。  ノルバは小箱から葉巻を取って口に咥えると、ポーチの中に小箱をしまい、代わりに無骨なライターを取り出して、フェドートに向かってひょいと投げた。フェドートが器用に受け取ったのを見るや否や彼は咥えた煙草を指差して、「ん」と喉の奥から言葉とも言えない声を上げた。フォエドートが嫌がる顔をものともせず、むしろそんなものは見ていないとばかりに長く白いまつげを伏���て火を待つノルバに、フェドートは観念してライターの蓋を開けると、押し付けるように彼の口元の上巻き葉を焦がした。
「今回だけだぞ。いいか、吐くときはこっちには、ぶっ、げほッ!」 「ダハハハハ!」
 フェドートが注意を言い終わるよりも先に、ノルバは彼に向かって盛大に煙を吐き出した。全身の毛を逆立ててむせる彼に、ノルバは腹を抱えてげらげらと笑う。
「お前なあ!」 「逃げねえのが悪ィんだよ、逃げねえのが」 「お前が離さなかったんだろうが!!」
 威嚇する猫のように叫ぶフェドートなどどこ吹く風で笑い続けるノルバに、「ったく……」と彼はがしがしと頭を掻く。ノルバの側に置かれた椀をしかめっ面のまま手に取り、もう片手で自身が使った皿と空になった麻袋を持ってフェドートは岩場から立ち上がった。
「こいつは片付けてくるから、吸い終わってから作戦会議に呼び出せよ、ノルバ」
 しかめっ面の合間から僅かに呆れた笑みを見せたフェドートは、ノルバに背を向けると配膳の天幕から手を振るシネイドの方へと足を進めた。その彼の後ろ祖型を目で追いながらノルバは膝に肘を立て頬杖をつくと、いまだくつくつと喉からもれだす笑い声は殺さないまま焚火の煙を追うように薄く狼煙を上げる葉巻を弄ぶ。
「他のヤツならこれでイッパツなのになァ。わっかんねェな、アイツ。おもしれえの」
 フェドートの背中にふうっと息を吐く。煙で歪んだ彼の背は掴みどころが見つからない。ノルバはもう一度吸ってその煙幕をさらに深くするように吐きだすと、すっかり冷めたコーヒーを飲み干して立ち上がった。
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genkidesuka2022 · 1 year
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春はチャンス!春の山菜の隠れたパワー
厳しい寒さの冬が終わり暖かな春が訪れると、山菜が芽を出して、店頭でも出回るようになりますね。
目にすることがあっても実際にどんな種類なのか、どう食べたらいいのかわからないことも・・・
そこで、山菜の種類と栄養成分、おいしい食べ方などについてご紹介します。 目次
春の山菜の種類
春の山菜の種類1・うど
春の山菜の種類2・ふきのとう
春の山菜の種類3・たらの芽
春の山菜の種類4・わらび
春の山菜の種類5・ぜんまい
春の山菜の種類6・うるい
春の山菜の種類7・ふき
春の山菜の美味しい食べ方
山菜を食べる時の注意
最後に
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春の山菜の種類
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春の山菜の種類1・うど
さわやかな風味があり、根元から先端まで食べることができ捨てるところがない山菜。
アクの強い山菜ですが、このアクがクロロゲン酸という成分で抗酸化作用があり、活性酸素の働きを抑える働きがあります。
また、アスパラギン酸も含まれており疲労回復や新陳代謝を活発にするといわれています。
春の山菜の種類2・ふきのとう
一般的に良く知られているポピュラーな山菜です。
つぼみが開きかけたものが美味しいといわれています。肝毒性の強いペタシテニンという成分が含まれているので、しっかりとあく抜きをする必要があります。
カリウムが含まれていて、体内の余分なナトリウムを排出してむくみや高血圧を予防する働きがあります。
さらに、ふきのとうの香り成分である「フキノリド」には胃腸の働きを整える作用があります。
春の山菜の種類3・たらの芽
たらに木の新芽の部分を食べる山菜。「山菜の王様」といわれるほど代表的な山菜で、ほのかな苦みが特徴です。
むくみや高血圧を予防するカリウム、抗酸化作用のあるβ-カロテンが豊富に含まれています。
また、マグネシウムも豊富で睡眠ホルモンメラトニンの合成を助ける働きがあり質の良い睡眠を促してくれますよ。
春の山菜の種類4・わらび
保存性が高く、独特のぬめりと食感が特徴です。アクが強く、生で食べると中毒を起こすのであく抜きが必要です。
ビタミンEが含まれており、抗酸化作用があるので老化や免疫機能の低下を予防するといわれています。さらに、女性ホルモンの代謝を助ける働きが期待できます。
春の山菜の種類5・ぜんまい
白っぽい綿状の繊維をかぶっている若芽を食べる山菜。成長すると綿はとれ、店頭では「乾燥ぜんまい」や「水煮」として売られていことが多いです。
食物繊維が豊富で、なかでも不溶性食物繊維が多く含まれています。
不溶性食物繊維は、水分を吸収して膨らみ腸内を刺激することで排便を促します。
春の山菜の種類6・うるい
オオバキボウシの若葉を食べる山菜。歯ごたえの良い食感とくせのない味が特徴的です。
生で食べることができて、茹でるとぬめりが出ます。
うるいにはビタミンCが含まれていて、コラーゲンの合成を助ける働きがあり美肌作りには欠かせない栄養素です。
春の山菜の種類7・ふき
平安時代から食べられていて日本原産の山菜。独特の苦みと香りがあり、茎は歯触りが良く、葉は柔らかいのが特徴です。
食物繊維が多く含まれており、腸の調子を整えて便秘や下痢を予防したり、血糖値の急激な上昇を抑えたりする働きがあります。
また、むくみや高血圧を予防するカリウムも含まれています。
春の山菜の美味しい食べ方
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うど:天ぷら、茎は生のまま味噌をつけて、皮はきんぴら
ふきのとう:天ぷら、パスタ、ふき味噌
たらの芽:天ぷら・みそ炒め・和え物
わらび:おひたし・煮物・炒め物
ぜんまい:炊き込みご飯・ナムル・煮物
うるい:お浸し・サラダ
ふき:キャラブキ・お浸し・味噌汁の具
山菜を食べる時の注意
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野山に行って山菜を自分で採取する方もいるかと思いますが、山菜の中には見た目がとても良く似ていて有毒成分のある植物があります。
安全なものであると確信できるもの以外は、絶対に採らない、食べないようにしましょう。
最後に
春先にしか食べることのできない山菜もあります。
山菜を食べる機会がありましたら、春の味覚を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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umedanakazaki · 2 years
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数ヵ月前に忘れ物。お金では買えない思いが詰まっていた。手がかりは名前だけで、連絡したくてすぐに検索したけど見当たらず。でも、その忘れ物だけはずっと机の前に立て掛けておいた。今日偶然そのグループの方から「あの時ありがとう」の連絡。お忘れになった大切な手紙を戻せる日が来る。ありがとうございます! 震災のあと、写真と手紙を取り戻したい声が多かった。いつの時代も一番大切なものは思い出。 さて、本日の日替わり弁当です。 #7月10日 #日替り弁当 暑いからこそガッツリ食べる #ジャンボミンチカツ #食べごたえ満点 #サクッとジューシー #キャベツの千切り ケチャップでシンプルに旨い ご飯の上に #哲ちゃんの唐揚げ #決めては塩麹 副菜は優しい味わい #切干し大根 #平天と菜っ葉の炊いたん 税込み550円 ご注文お���ちしております。 #てつたろう #思い出 #手紙 #梅田居酒屋 #中崎町居酒屋 #海鮮居酒屋 #大阪グルメ #イーデリ #支援者募集中 #セキュリテ #ファンド募集中 (梅田中崎 てつたろう) https://www.instagram.com/p/Cfzu5U1vLSm/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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mokkung · 4 years
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映画『この世界の片隅に』 〜市民にとっての戦争は“食”を得る戦いだ〜
2016年 日本 監督:片渕須直 脚本:片渕須直 原作:こうの史代 音楽:コトリンゴ 出演者:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔
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 8月6日は原爆の日ですので、原爆のことを書こうと考え、映画「この世界の片隅に」を取り上げます。本作は原爆を取り上げた映画として言わずとしれた、素晴らしいアニメ映画。僕にとってアニメ映画の中では、生涯ベスト級の作品の一つかもしれません。一般にも高く評価された作品ですし、この映画の魅力は色んな所で語り尽くされているので、僕から細々したことを言及するつもりはないですが、広島に住む人間としてこの映画を見たときの感覚を記しておこうと思います。
かつて存在した活気ある広島の姿
 実を言うと僕がこの映画を見て、最も胸に突き刺さった場面は、哲人やリンとの関係性でもなく、原爆や終戦を迎えたときのこと、その後のエピソードでも無く、冒頭で幼少期のすずさんが広島の市街地にお使いに行く場面です。
 すずさんは、広島の市街地の南側にある旧太田川と天満川の河口に挟まれた江波というエリアから、広島の市街地に、海苔を届けるお使いに行きます。そこで描き出されているのは、商店が立ち並び、買い物客で賑わう広島の街でした。立ち話をする人々や、サンタクロースの格好をした売り子に群がる子どもたち、お菓子屋さん。生き生きと描き出された広島の町並みの中をすずさんが歩いて進んでいき、大正屋呉服店というビルの横で腰掛けて一休みしながら空を眺めるところで、オープニングクレジットが入ります。
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 僕はこの場面でいきなり落涙していまいました。
 この大正屋呉服店をご存知でしょうか。原爆ドームと元安川を挟んで斜め向かいに位置する、平和記念公園の一角で現在はレストハウスとして使用されている被爆建物です。つまりまさに爆心地の目と鼻の先といえる場所。この映画で生き生きと描かれている活気ある広島の街は、このあと大勢の命とともに原爆で吹き飛んだということに、この大正屋呉服店の映像を見て唐突に気付かされたのでした。
爆心地町並み復元図(映画の映像と比べてみると面白いです。ちなみに大正屋呉服店は戦争が本格化したのちに閉店して、燃料会館という組合事務所になってしまったようです)
 現在平和記念公園になっているエリアのすぐ横は飲食店や商店が多数立ち並で賑わっており、かつての爆心地は完全に都市として僕たち市民の日常に完全に溶け込んでいますが、当然ここで悲惨なできごとが起こったということを私達は理解しています。しかし“原爆が落ちた後”の広島のイメージは強く持っていても、“原爆が落ちる前”の賑わっていた広島の街をイメージすることはほとんどありませんでした。
 この映画は、当時の広島の状況をたくさんの資料や証言を元にかなり丁寧に調査した上で描かれており、おそらく相当当時の街の様子に近い描写になっているものと考えられます。このリアルな1930年代半ばの広島の描写を通して、かつて原爆投下前にも今の僕らと同じように多くの市民の豊かな日常があったということを、この映画は鮮やかに見せて理解させてくれました。そしてそんな活気のあった街が一日で焼け野原になり多くの命が奪われてしまったことの底知れぬ恐ろしさと、亡くなった人を悼む気持ちとが、そしてそんな土地で今も僕たちは日常を送っているのだということの実感など、いろんな思い・感情が巡って冒頭から涙がこぼれてしまいました。自分でも驚くぐらい自然に涙がこぼれていて、「あれ、俺泣いてるの?」と綾波レイのように心のなかでつぶやいてしまいました。他の場面も、心打たれるところは多々ありましたが、比較的落ち着いて観ることができたので、やはり地元が描かれた部分は実感として重みを感じたのでしょう。
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引用元
市民にとっての戦争は“食”を得る戦いだ
 様々なところで言及されていることですが、本作は徹底的にすずさんという一市民の目線であらゆることを日常として描いています。それにより、過去の出来事は歴史の大きな流れとして振り返られがちだけれど、その流れの中に多くの人々の日常があり、一人ひとりにかけがえのない生活やドラマがあるんだということを丁寧に示しています。文字通り、この世界の片隅にあった、一人の女性の日常を通して歴史の出来事を見せる作品です。どんなに悲惨な状況でも些細なことで喜んだり笑ったりすることはあるし、また一般市民にとっての戦争は、国の勝ち負け以前に食料など生活を維持するための戦いだったりすることなど、日常描写から見た戦中の日本が分かります。
 特にこの映画は“食”に関する描写が多いことが特徴的で、食料調達場面や食事場面など、フード描写がかなり多く丁寧に描かれています。
 僕の祖父は戦時中に医学生をしていたのですが、東京で空襲にあい、大学も機能しなくなったので、実家の尾道まで無賃乗車で逃げ帰って、その後原爆投下の翌日に救護班として駆り出されました。祖母は当時、女学生で8月6日は広島市の西隣の街である廿日市の工場で働いていて、原爆の影響を直接受けることはなかった、翌日以後に同じ学校の生徒の捜索隊として市内に行ったようです(しかも歩きで・・・結構遠いと思います)。
 そんな原爆前後をしる二人が当時のことを話してくれるとき、原爆の話し以上に、とにかくよく食べ物の話をしていたのを覚えています。祖父は東京大空襲の中、倒壊した金持ち一家の屋敷から缶詰が大量に転がっているのが見えて、空腹に耐えかねて缶詰を盗み人生最初���最後の窃盗行為をしてしまったとか、祖母は原爆直後、食べるものがない中、近隣の人が分けてくれた米菓子?がめちゃくちゃ美味しかったとか、そんな話をよくしていました。やはり食べ物がなく苦労していたのだろうと推察しますし、食にありつけたことの喜びが思い出となったのでしょう。
 そんな祖父母と同様、この映画を通して、市民にとって戦争は食べ物を得るための戦いだったのだと実感させられますし、美味しいものを食べる幸せというものが身にしみる映画した。
(8月15日、終戦の玉音放送の後、すずさん一家が最初にやることは、隠し持っていた“白米”を炊くことだったのが印象的です)
最後に
 いくつか見るに堪えないほどの辛いシーンがありますし、悲惨な内容を含むことは間違いないのですが、戦時中の人々のこと、原爆投下という出来事を知るため、今の私達が見ておくべき映画だと思います(ほんの少しですが、唯一ある原爆投下直後の爆心地の母子の描写はマジで辛いですが、これが現実に起きていたこと)。それ以前に、この時代に一人の女性が歩んだ人生や思いに思いを馳せることで、いろいろ視点で考えることのできる面白い映画ですし、ギャグシーンも散見されて、そこまで凄惨なムードを強調しない作りになっているので、戦争ものは取っ付きにくいという人にもぜひ観てもらいたいです。
※ちなみに本作は戦時中から終戦直後までの呉市が主な舞台ですが、本作に続けて、終戦直後の呉市から始まる映画「仁義なき戦い」を観ると、また違う味わいがあります(全然毛色の違う映画ですが)。
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chw131 · 4 years
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Repost @tiara815gardens 久しぶりに「葉菜の森」へお野菜の 買い出しに行くと#紫とうもろこし が…💜🌽 海外のファーマーズマーケットでは 見かけた事があったけど日本では初めて 3本入りで480円也 1本は炊き込みごはんにし 残りの2本は皮を三つ編みにし 天日に干します☀️ 炊き込みごはんはお赤飯のようで 美しくてコーンにもほんのり甘味が あって美味しくてついついつまみ食い😆 今日はまん丸おにぎりにしました すじ肉 大根 こんにゃく 蓮根 里芋 牛蒡 人参は時間差で一つのお鍋に 大量に仕込んだのでしばらくは 楽しめそう🍺🍱 〜メニュー〜 ・すじ肉煮込み ・里芋のたいたん ・いくら ・浅漬け ・紫とうもろこしご飯のおにぎり ・ぎんなん串 ・ちりめん山椒 実山椒の佃煮 ・牛蒡 蓮根 人参 大根の煮物 ・和風クリームシチュー ・鶏唐揚げ(ハイサイソース)かけ ・春菊のおかか和え ・いちご ❇︎ ・ ・ ・ 11月も見ていただきありがとう ございます🙇🏻‍♀️ 来月12月からもよろしくお願いします🙏🏻 ・ ・ ❇︎ ・ #おうちごはん#おうちごはんlover #wp_deli_japan #wp_deli_style #フーディーテーブル#キッチングラム#iegohanphoto #マカロニメイト#ヨムーノメイト#delimia#テーブルフォト#私のおいしい写真 #みんなの暮らし日記online #w7style #igersjp #rinkoごはん#foodphotography #LIN_stgrammer#笑顔になれるおうちごはん #うつわを楽しむ暮らし #石川裕信#平岡仁 #安福由美子#寺村光輔 #清岡幸道 #北山栄太#丁寧な暮らし https://www.instagram.com/p/CJJ_9aZAO-L/?igshid=17gkidw8dy5sx
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wr16 · 5 years
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20-3-4
雨が降っている。 近況。なにをしようか、踏み出せないまま、自粛という言葉に恐れをなして、外に出る扉がとても重く、布団にくるまって天窓から差す温かな西日の中で微睡む日々、本当は、もっとしなければならないことがあるはずなのに、という焦燥はきえないから、夢の中でも何かに追われているような気がして、強張った身体で目覚め、炒めた肉と野菜をスキレットからそのまま食べて、シャワーを浴びて身体を拭いてから保湿剤を塗って、また眠る。皮膚炎、かなり良くなってきている。ステロイドはもう塗らなくてもよくなってきて、病院から出ている保湿剤をぬるよりも、ハトムギボディーローションを塗った方が塗りやすいし調子がいい。いい香り。学生でいられる期間があと一年に迫り、それ以降は自らが働いて得た収入で生活しなければならない、今まで働いたことなんて、喫茶店のアルバイト3ヶ月だけ、履歴書を書くだけで呼吸が苦しくなる。そうせざるをえなくて、それ以外の選択肢がなく、今の現状に後悔はないけれど、それを誰かに理解してもらえないのではないか、私の履歴書から浮かび上がる人物は単なる怠け者の駄目な人間だと切り捨てられるだろうといういつの間にか自らの中に植えついていた絶望があり、それに直面する/させらるのが怖く、就職活動という漢字4文字に冷静に向き合うことができないでいる。2年前の秋、一度全てを終わらせて、ゼロ地点から新しい自分の人生を始めたとするならば、あれから二年の積み重ねは確かに重く、私という存在そのものが生まれたときから持っているの私自身の否定からくる絶望と、目の前の具体的な生きていく手��が見いだせないが故の漠然とした恐怖については分けて考えれるようになったようでいて、それでもここで並べて書いているということは分け切れていないからこそ明文化して言い切れるようにしなければならない。自死を選ぶという選択肢は、けれど、随分とリストの下の方にある現状は、病的な状態からは回復した、とみていいのだろう。どうしようもなく罪人である私自身を自覚し、それを悔い改めながらも変われない自分を自覚し、ただ、それでいて、自らを自らで裁き罰することは、それは裁きでも罰ではない、神の本当の裁きから逃れるための、誤魔化しに過ぎない。ただ、できることがあるとするならばその時がくるまで生き続けること、自らが罪人であるということを忘れないままに。放蕩息子であることは自覚している。イナゴ豆を食べながら、父の家の食卓を懐かしく思っている、けれど、それと同時に私はこの都会の喧騒を、豚の中にいることも、それは当然の報いだということも、捨て去り切れそうもなく、愛おしくすら思っている。この感情をもったまま、父のもとに帰る旅支度をはじめることはできそうもない。けれど、心のなかの平穏つまり全て働かせて益としてくださる方の不在を埋めるほどの救いはこの街ではみいだすことはできないという確信も持っている。私が誰かが先哲が芸術家が詩人がいくら言葉を重ねたとしても埋められない。今、この状況すらも神の計画の一部なのかもしれないと自分勝手に信じながら、また何度も目を覚ましてそのことも忘れて耳をふさいで生きるための営みを続ける。だろう。主の祈りを、心に浮かべると、少しの間平安がある。”みこころが天で行われるように、地でも行われますように。私たちの日ごとの糧を今日もお与えください。私たちの負い目をおゆるしください”。低気圧で頭が重い。
追記
書き進めるうちにまた信仰や心の話に入ってしまった、もっと、具体的な近況について書くつもりだったのにな。いつもそう。 自炊して、洗濯をして、買い物に行って、眠り、時々恋人と出かける、それだけの生活に、ある意味で満足して幸福すら感じながら、それでいて今の時間の過ごし方を持続させることはできないことを知っているし、具体的な恋人との将来について、持続可能な生活を、目標としていながら、それにむけて何もできていないような気になってしまう。冷静に見れば、今いる通信制大学の卒業要件の単位数も順調に満たし、来年の春には卒業できる見通しが立っていて、学士の資格を手に入れることは、この先どの生業につくとしても役に立たないことではない筈なのだから。悲観的なことばかり書いて酔ってもしょうがない。昨年末からまとめている散文集はまだまだ形にはなりそうにない。全て初めからやり直そうかという欲求を抑えて少しずつ進めている。ある人の影響でポストカードをつくろうと思い立ち、2018年につくった小冊子「化石の記憶」の対になるような詩のポストカードをつくっている。昨日、印刷業者に用紙のサンプルを送ってもらうよう依頼した。
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2ttf · 12 years
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Latin//Alphabet// ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZabcdefghijklmnopqrstuvwxyz0123456789 !"“”#$%&'‘’()*+,-./:;<=>?@[\]^_`{|}~ Latin//Accent// ¡¢£€¤¥¦§¨©ª«¬®¯°±²³´µ¶·¸¹º»¼½¾¿ÀÁÂÃÄÅÆÇÈÉÊËÌÍÎÏÐÑÒÓÔÕÖ×ØÙÚÛÜÝÞßàáâãäåæçèéêëìíîïðñòóôõö÷øùúûüýþÿ Latin//Extension 1// ĀāĂ㥹ĆćĈĉĊċČčĎďĐđĒēĔĕĖėĘęĚěĜĝĞğĠġĢģĤĥĦħĨĩĪīĬĭĮįİıIJijĴĵĶķĸĹĺĻļĽľĿŀŁłŃńŅņŇňʼnŊŋŌōŎŏŐőŒœŔŕŖŗŘřŚśŜŝŞşŠšŢţŤťŦŧŨũŪūŬŭŮůŰűŲųŴŵŶŷŸŹźŻżŽžſfffiflffifflſtst Latin//Extension 2// ƀƁƂƃƄƅƆƇƈƉƊƋƌƍƎƏƐƑƒƓƔƕƖƗƘƙƚƛƜƝƞƟƠơƢƣƤƥƦƧƨƩƪƫƬƭƮƯưƱƲƳƴƵƶƷƸƹƺƻƼƽƾƿǀǁǂǃDŽDždžLJLjljNJNjnjǍǎǏǐǑǒǓǔǕǖǗǘǙǚǛǜǝǞǟǠǡǢǣǤǥǦǧǨǩǪǫǬǭǮǯǰDZDzdzǴǵǶǷǸǹǺǻǼǽǾǿ Symbols//Web// –—‚„†‡‰‹›•…′″‾⁄℘ℑℜ™ℵ←↑→↓↔↵⇐⇑⇒⇓⇔∀∂∃∅∇∈∉∋∏∑−∗√∝∞∠∧∨∩∪∫∴∼≅≈≠≡≤≥⊂⊃⊄⊆⊇⊕⊗⊥⋅⌈⌉⌊⌋〈〉◊♠♣♥♦ Symbols//Dingbat// ✁✂✃✄✆✇✈✉✌✍✎✏✐✑✒✓✔✕✖✗✘✙✚✛✜✝✞✟✠✡✢✣✤✥✦✧✩✪✫✬✭✮✯✰✱✲✳✴✵✶✷✸✹✺✻✼✽✾✿❀❁❂❃❄❅❆❇❈❉❊❋❍❏❐❑❒❖❘❙❚❛❜❝❞❡❢❣❤❥❦❧❨❩❪❫❬❭❮❯❰❱❲❳❴❵❶❷❸❹❺❻❼❽❾❿➀➁➂➃➄➅➆➇➈➉➊➋➌➍➎➏➐➑➒➓➔➘➙➚➛➜➝➞➟➠➡➢➣➤➥➦➧➨➩➪➫➬➭➮➯➱➲➳➴➵➶➷➸➹➺➻➼➽➾ Japanese//かな// あいうえおかがきぎくぐけげこごさざしじすずせぜそぞただちぢつづてでとどなにぬねのはばぱひびぴふぶぷへべぺほぼぽまみむめもやゆよらりるれろわゐゑをんぁぃぅぇぉっゃゅょゎゔ゛゜ゝゞアイウエオカガキギクグケゲコゴサザシジスズセゼソゾタダチヂツヅテデトドナニヌネノハバパヒビピフブプヘベペホボポマミムメモヤユヨラリルレロワヰヱヲンァィゥェォッャュョヮヴヵヶヷヸヹヺヽヾ Japanese//小学一年// 一右雨円王音下火花貝学気九休玉金空月犬見五口校左三山子四糸字耳七車手十出女小上森人水正生青夕石赤千川先早草足村大男竹中虫町天田土二日入年白八百文木本名目立力林六 Japanese//小学二年// 引羽雲園遠何科夏家歌画回会海絵外角楽活間丸岩顔汽記帰弓牛魚京強教近兄形計元言原戸古午後語工公広交光考行高黄合谷国黒今才細作算止市矢姉思紙寺自時室社弱首秋週春書少場色食心新親図数西声星晴切雪船線前組走多太体台地池知茶昼長鳥朝直通弟店点電刀冬当東答頭同道読内南肉馬売買麦半番父風分聞米歩母方北毎妹万明鳴毛門夜野友用曜来里理話 Japanese//小学三年// 悪安暗医委意育員院飲運泳駅央横屋温化荷開界階寒感漢館岸起期客究急級宮球去橋業曲局銀区苦具君係軽血決研県庫湖向幸港号根祭皿仕死使始指歯詩次事持式実写者主守取酒受州拾終習集住重宿所暑助昭消商章勝乗植申身神真深進世整昔全相送想息速族他打対待代第題炭短談着注柱丁帳調追定庭笛鉄転都度投豆島湯登等動童農波配倍箱畑発反坂板皮悲美鼻筆氷表秒病品負部服福物平返勉放味命面問役薬由油有遊予羊洋葉陽様落流旅両緑礼列練路和 Japanese//小学四年// 愛案以衣位囲胃印英栄塩億加果貨課芽改械害街各覚完官管関観願希季紀喜旗器機議求泣救給挙漁共協鏡競極訓軍郡径型景芸欠結建健験固功好候航康告差菜最材昨札刷殺察参産散残士氏史司試児治辞失借種周祝順初松笑唱焼象照賞臣信成省清静席積折節説浅戦選然争倉巣束側続卒孫帯隊達単置仲貯兆腸低底停的典伝徒努灯堂働特得毒熱念敗梅博飯飛費必票標不夫付府副粉兵別辺変便包法望牧末満未脈民無約勇要養浴利陸良料量輪類令冷例歴連老労録 Japanese//小学五〜六年// 圧移因永営衛易益液演応往桜恩可仮価河過賀快解格確額刊幹慣眼基寄規技義逆久旧居許境均禁句群経潔件券険検限現減故個護効厚耕鉱構興講混査再災妻採際在財罪雑酸賛支志枝師資飼示似識質舎謝授修述術準序招承証条状常情織職制性政勢精製税責績接設舌絶銭祖素総造像増則測属率損退貸態団断築張提程適敵統銅導徳独任燃能破犯判版比肥非備俵評貧布婦富武復複仏編弁保墓報豊防貿暴務夢迷綿輸余預容略留領異遺域宇映延沿我灰拡革閣割株干巻看簡危机貴揮疑吸供胸郷勤筋系敬警劇激穴絹権憲源厳己呼誤后孝皇紅降鋼刻穀骨困砂座済裁策冊蚕至私姿視詞誌磁射捨尺若樹収宗就衆従縦縮熟純処署諸除将傷障城蒸針仁垂推寸盛聖誠宣専泉洗染善奏窓創装層操蔵臓存尊宅担探誕段暖値宙忠著庁頂潮賃痛展討党糖届難乳認納脳派拝背肺俳班晩否批秘腹奮並陛閉片補暮宝訪亡忘棒枚幕密盟模訳郵優幼欲翌乱卵覧裏律臨朗論 Japanese//中学// 亜哀挨曖扱宛嵐依威為畏尉萎偉椅彙違維慰緯壱逸芋咽姻淫陰隠韻唄鬱畝浦詠影鋭疫悦越謁閲炎怨宴援煙猿鉛縁艶汚凹押旺欧殴翁奥憶臆虞乙俺卸穏佳苛架華菓渦嫁暇禍靴寡箇稼蚊牙瓦雅餓介戒怪拐悔皆塊楷潰壊懐諧劾崖涯慨蓋該概骸垣柿核殻郭較隔獲嚇穫岳顎掛括喝渇葛滑褐轄且釜鎌刈甘汗缶肝冠陥乾勘患貫喚堪換敢棺款閑勧寛歓監緩憾還環韓艦鑑含玩頑企伎忌奇祈軌既飢鬼亀幾棋棄毀畿輝騎宜偽欺儀戯擬犠菊吉喫詰却脚虐及丘朽臼糾嗅窮巨拒拠虚距御凶叫狂享況峡挟狭恐恭脅矯響驚仰暁凝巾斤菌琴僅緊錦謹襟吟駆惧愚偶遇隅串屈掘窟繰勲薫刑茎契恵啓掲渓蛍傾携継詣慶憬稽憩鶏迎鯨隙撃桁傑肩倹兼剣拳軒圏堅嫌献遣賢謙鍵繭顕懸幻玄弦舷股虎孤弧枯雇誇鼓錮顧互呉娯悟碁勾孔巧甲江坑抗攻更拘肯侯恒洪荒郊貢控梗喉慌硬絞項溝綱酵稿衡購乞拷剛傲豪克酷獄駒込頃昆恨婚痕紺魂墾懇沙唆詐鎖挫采砕宰栽彩斎債催塞歳載剤削柵索酢搾錯咲刹拶撮擦桟惨傘斬暫旨伺刺祉肢施恣脂紫嗣雌摯賜諮侍慈餌璽軸叱疾執湿嫉漆芝赦斜煮遮邪蛇酌釈爵寂朱狩殊珠腫趣寿呪需儒囚舟秀臭袖羞愁酬醜蹴襲汁充柔渋銃獣叔淑粛塾俊瞬旬巡盾准殉循潤遵庶緒如叙徐升召匠床抄肖尚昇沼宵症祥称渉紹訟掌晶焦硝粧詔奨詳彰憧衝償礁鐘丈冗浄剰畳壌嬢錠譲醸拭殖飾触嘱辱尻伸芯辛侵津唇娠振浸紳診寝慎審震薪刃尽迅甚陣尋腎須吹炊帥粋衰酔遂睡穂随髄枢崇据杉裾瀬是姓征斉牲凄逝婿誓請醒斥析脊隻惜戚跡籍拙窃摂仙占扇栓旋煎羨腺詮践箋潜遷薦繊鮮禅漸膳繕狙阻租措粗疎訴塑遡礎双壮荘捜挿桑掃曹曽爽喪痩葬僧遭槽踪燥霜騒藻憎贈即促捉俗賊遜汰妥唾堕惰駄耐怠胎泰堆袋逮替滞戴滝択沢卓拓託濯諾濁但脱奪棚誰丹旦胆淡嘆端綻鍛弾壇恥致遅痴稚緻畜逐蓄秩窒嫡抽衷酎鋳駐弔挑彫眺釣貼超跳徴嘲澄聴懲勅捗沈珍朕陳鎮椎墜塚漬坪爪鶴呈廷抵邸亭貞帝訂逓偵堤艇締諦泥摘滴溺迭哲徹撤添塡殿斗吐妬途渡塗賭奴怒到逃倒凍唐桃透悼盗陶塔搭棟痘筒稲踏謄藤闘騰洞胴瞳峠匿督篤凸突屯豚頓貪鈍曇丼那謎鍋軟尼弐匂虹尿妊忍寧捻粘悩濃把覇婆罵杯排廃輩培陪媒賠伯拍泊迫剝舶薄漠縛爆箸肌鉢髪伐抜罰閥氾帆汎伴畔般販斑搬煩頒範繁藩蛮盤妃彼披卑疲被扉碑罷避尾眉微膝肘匹泌姫漂苗描猫浜賓頻敏瓶扶怖附訃赴浮符普腐敷膚賦譜侮舞封伏幅覆払沸紛雰噴墳憤丙併柄塀幣弊蔽餅壁璧癖蔑偏遍哺捕舗募慕簿芳邦奉抱泡胞俸倣峰砲崩蜂飽褒縫乏忙坊妨房肪某冒剖紡傍帽貌膨謀頰朴睦僕墨撲没勃堀奔翻凡盆麻摩磨魔昧埋膜枕又抹慢漫魅岬蜜妙眠矛霧娘冥銘滅免麺茂妄盲耗猛網黙紋冶弥厄躍闇喩愉諭癒唯幽悠湧猶裕雄誘憂融与誉妖庸揚揺溶腰瘍踊窯擁謡抑沃翼拉裸羅雷頼絡酪辣濫藍欄吏痢履璃離慄柳竜粒隆硫侶虜慮了涼猟陵僚寮療���糧厘倫隣瑠涙累塁励戻鈴零霊隷齢麗暦劣烈裂恋廉錬呂炉賂露弄郎浪廊楼漏籠麓賄脇惑枠湾腕 Japanese//記号//  ・ー~、。〃〄々〆〇〈〉《》「」『』【】〒〓〔〕〖〗〘〙〜〝〞〟〠〡〢〣〤〥〦〧〨〩〰〳〴〵〶 Greek & Coptic//Standard// ʹ͵ͺͻͼͽ;΄΅Ά·ΈΉΊΌΎΏΐΑΒΓΔΕΖΗΘΙΚΛΜΝΞΟΠΡΣΤΥΦΧΨΩΪΫάέήίΰαβγδεζηθικλμνξοπρςστυφχψωϊϋόύώϐϑϒϓϔϕϖϚϜϞϠϢϣϤϥϦϧϨϩϪϫϬϭϮϯϰϱϲϳϴϵ϶ϷϸϹϺϻϼϽϾϿ Cyrillic//Standard// ЀЁЂЃЄЅІЇЈЉЊЋЌЍЎЏАБВГДЕЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯабвгдежзийклмнопрстуфхцчшщъыьэюяѐёђѓєѕіїјљњћќѝўџѢѣѤѥѦѧѨѩѪѫѬѭѰѱѲѳѴѵѶѷѸѹҌҍҐґҒғҖҗҘҙҚқҜҝҠҡҢңҤҥҪҫҬҭҮүҰұҲҳҴҵҶҷҸҹҺһҼҽҾҿӀӁӂӇӈӏӐӑӒӓӔӕӖӗӘәӚӛӜӝӞӟӠӡӢӣӤӥӦӧӨөӪӫӬӭӮӯӰӱӲӳӴӵӶӷӸӹӾӿ Thai//Standard// กขฃคฅฆงจฉช���ฌญฎฏฐฑฒณดตถทธนบปผฝพฟภมยรฤลฦวศษสหฬอฮฯะัาำิีึืฺุู฿เแโใไๅๆ็่้๊๋์ํ๎๏๐๑๒๓๔๕๖๗๘๙๚๛
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momijiyama1649 · 5 years
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ざこば・鶴瓶らくごのご お題一覧 1992年    1 過労死・つくし・小錦の脂肪    2 一年生・時短・ニューハーフ    3 レントゲン・混浴・アニマル    4 ゴールデンウイーク・JFK・セクハラ    5 暴走族・かさぶた・バーコード    6 タイガース・母の日・入れ墨    7 目借り時・風呂桶・よだれ    8 しびれ・歯抜け・未婚の娘    9 ヘルニア・目ばちこ・フォークボール    10 造幣局・社員割引・オリンピック    11 父の日・猥褻・丁髷    12 ピエロ・ナメクジ・深爪    13 ミスユニバース・特許・虫さされ    14 魔法使いサリー・祇園祭・円形脱毛症    15 サザエさん・ジャンケン・バーゲンセール    16 ト音記号・北方領土・干瓢    17 妊婦体操・蚊帳・ビヤガーデン    18 身代わり・車だん吉・プラネタリウム    19 床づれ・追っかけ・男の涙    20 海月・肩パット・鶏冠    21 放送禁止用語・お年寄り・ピンポンパン    22 おかま・芋掘り・大人げない    23 復活・憧れ・食い逃げ    24 蒲鉾・風は旅人・半尻    25 泉ピン子・ヘルメット・クリーニング    26 美人姉妹・河童・合格    27 スカート捲り・ケツカッチン・秋の虫    28 チンパンジー・フォークダンス・いなりずし    29 稲刈り・小麦粉・フランス人    30 日本シリーズ・鶴瓶・落葉    31 クロスカウンター・学園祭・タクシー    32 付け睫毛・褌ペアー誕生・ツアーコンダクター    33 泣きみそ・ボーナス一括払い・ぎゅうぎゅう詰め    34 静電気・孝行娘・ホノルルマラソン    35 暴れん坊将軍・モスラ・久留米餅 1993年    36 栗きんとん・鶴・朝丸    37 成人式・ヤクルトミルミル・まんまんちゃんあん    38 夫婦善哉・歯磨き粉・夜更かし    39 金の鯱・オーディション・チャリティーオークション    40 ひ孫・いかりや長介・掃除機    41 北京原人・お味噌汁・雪祭り    42 視力検査・フレアースカート・美術館めぐり    43 矢鴨・植毛・うまいもんはうまい    44 卒業式・美人・転た寝    45 らくごのご・浅蜊の酒蒸し・ハットリ君    46 コレラ・さぶいぼ・お花見    47 パンツ泥棒・オキシドール・上岡龍太郎    48 番台・ボランティア・健忘症    49 長嶋監督・割引債・厄年    50 指パッチン・葉桜・ポールマッカートニー    51 同級生・竹輪・ホモ    52 破れた靴下・海上コンテナ・日本庭園    53 シルバーシート・十二単衣・筍    54 ぶんぷく茶釜・結納・横山ノック    55 睡眠不足・紫陽花・厄介者    56 平成教育委員会・有給休暇・馬耳東風    57 生欠伸・枕・短気は損気    58 雨蛙・脱税・右肩脱臼    59 鮪・教育実習・嘘つき    60 天の川・女子短期大学・冷やし中華    61 東京特許許可局・落雷・蚊とり線香    62 真夜中の屁・プロポーズ・水戸黄門諸国漫遊    63 五条坂陶器祭・空中庭園・雷    64 目玉親父・恐竜・熱帯夜    65 深夜徘徊・パンツ・宮参り    66 美少女戦士セーラームーン・盆踊り・素麺つゆ    67 水浴び・丸坊主・早口言葉    68 桃栗三年柿八年・中耳炎・網タイツ    69 釣瓶落とし・サゲ・一卵性双生児    70 台風の目・幸・ラグビー    71 年下の男の子・宝くじ・松茸狩り    72 関西弁・肉まんあんまん・盗塁王    73 新婚初夜・サボテン・高みの見物    74 パナコランで肩こらん・秋鯖・知恵    75 禁煙・お茶どすがな・銀幕    76 ラクロス・姥捨山・就職浪人    77 掛軸・瀬戸大橋・二回目    78 海外留学・逆児・マスターズトーナメント    79 バットマン・戴帽式・フライングスポーツシューター    80 法螺貝・コロッケ・ウルグアイラウンド    81 明治大正昭和平成・武士道・チゲ鍋 1994年    82 アイルトンセナ・正月特番・蟹鋤    83 豚キムチ・過疎対策・安物買いの銭失い    84 合格祈願・パーソナルコンピューター・年女    85 一途・血便・太鼓橋    86 告白・ラーメン定食・鬼は外、福は内    87 カラー軍手・放火・卸売市場    88 パピヨン・所得税減税・幕間    89 二十四・Jリーグ・大雪    90 動物苛め・下市温泉秋津荘・ボンタンアメ    91 雪見酒・アメダス・六十歳    92 座蒲団・蛸焼・引越し    93 米寿の祝・外人さん・コチョコチョ    94 談合・太極拳・花便り    95 猫の盛り・二日酔・タイ米    96 赤切符・キューピー・入社式    97 リストラ・龍神伝説・空巣    98 人間喞筒・版画・単身赴任    99 コッペン・定年退職・ハンドボール    100 百回記念・扇子・唐辛子    101 ビクターの手拭い・カーネーション・鉄腕アトム    102 自転車泥棒・見猿言わ猿聞か猿・トマト    103 紫陽花寺・豚骨スープ・阪神優勝    104 三角定規・黒帯・泥棒根性    105 横浜銀蝿・他人のふり・安産祈願    106 月下美人・フィラデルフィア・大山椒魚    107 鯨・親知らず・ピンクの蝿叩き    108 蛍狩・玉子丼・ウィンブルドン    109 西部劇・トップレス・レバー    110 流し素麺・目高の交尾・向日葵    111 河童の皿・コロンビア・内定通知    112 防災頭巾・電気按摩・双子    113 河内音頭・跡取り息子・蛸焼パーティ    114 骨髄バンク・銀杏並木・芋名月    115 秋桜・ぁ結婚式・電動の車椅子    116 運動会・松茸御飯・石焼芋    117 サンデーズサンのカキフライ・休日出勤・ウーパールーパー    118 浮石・カクテル・彼氏募集中    119 涙の解剖実習・就職難・釣瓶落し    120 ノーベル賞・めちゃ旨・台風1号    121 大草原・食い込みパンツ・歯科技工士    122 助けてドラえもん・米沢牛・寿貧乏    123 祭・借金・パンチ佐藤引退    124 山乃芋・泥鰌掬い・吊し柿    125 不合格通知・九州場所・ピラミッドパワー    126 紅葉渋滞・再チャレンジ・日本の伝統    127 臨時収入・邪魔者・大掃除    128 アラファト議長・正月映画封切り・ピンクのモーツァルト 1995年    129 御節・達磨ストーブ・再就職    130 晴着・新春シャンソンショー・瞼の母    131 家政婦・卒業論文・酔っ払い    132 姦し娘・如月・使い捨て懐炉    133 立春・インドネシア・大正琴全国大会    134 卒業旅行・招待状・引っ手繰り    135 モンブラン・和製英語・和風吸血鬼    136 確定申告・侘助・青春時代    137 点字ブロック・新入社員・玉筋魚の新子    138 祭と女で三十年・櫻咲く・御神酒徳利    139 茶髪・緊張と緩和・来なかったお父さん    140 痔・恋女房・月の法善寺横丁    141 ひばり館・阿亀鸚哥・染み    142 初めてのチュー・豆御飯・鶴瓶の女たらし    143 アデランス・いてまえだへん(いてまえ打線)・クラス替え    144 長男の嫁・足痺れ・銅鑼焼    145 新知事・つるや食堂・南無阿弥陀仏    146 もぐりん・五月病・石楠花の花    147 音痴・赤いちゃんちゃんこ・野崎詣り    148 酒は百薬の長・お地蔵さん・可愛いベイビー    149 山菜取り・絶好調・ポラロイドカメラ    150 お父さんありがとう・舟歌・一日一善    151 出発進行・夢をかたちに・ピンセット    152 ホタテマン・深夜放送・FMラジオ    153 アトピッ子・結婚披露宴の二次会・おさげ    154 初産・紫陽花の花・川藤出さんかい    155 ビーチバレー・轆轤首・上方芸能    156 ワイキキデート・鹿煎餅・一家団欒    157 但空・高所恐怖症・合唱コンクール    158 中村監督・水着の跡・進め落語少年    159 通信教育・遠距離恋愛・ダイエット    160 華麗なる変身・遠赤ブレスレット・夏の火遊び    161 親子二代・垢擦り・筏下り    162 鮪漁船・新築祝・入れ歯    163 泣き虫、笑い虫・甚兵衛鮫・新妻参上    164 オペラ座の怪人・トルネード・ハイオクガソリン    165 小手面胴・裏のお婆ちゃん・ガングリオン    166 栗拾い・天国と地獄・芋雑炊    167 夜汽車・鳩饅頭・スシ食いねぇ!    168 長便所・大ファン・腓返り    169 美人勢揃い・雨戸・大江健三郎    170 親守・巻き舌・結婚おめでとう    171 乳首・ポン酢・ファッションショー    172 仮装パーティー・ぎっくり腰・夜更し    173 ギブス・当選発表・ちゃった祭    174 超氷河期・平等院・猪鹿蝶    175 コーラス・靴泥棒・胃拡張    176 誕生日・闘病生活・心機一転    177 毒蜘蛛・国際結婚・世間体 1996年    178 シナ婆ちゃん・有給休暇・免停    179 三姉妹・バリ・総辞職    180 家庭菜園・ピンクレディーメドレー・国家試験    181 ほっけ・欠陥商品・黒タイツ    182 内股・シャッターチャンス・金剛登山    183 嘘つき娘・再出発・神学部    184 金柑・恋の奴隷・ミッキーマウス    185 露天風呂・部員募集・ぞろ目    186 でんでん太鼓・ちゃんこ鍋・脳腫瘍    187 夢心地・旅の母・ペアウオッチ    188 (不明につき空欄)    189 福寿草・和気藹々・社交ダンス    190 奢り・貧乏・男便所    191 八十四歳・奥さんパワー・初心忘るべからず    192 お花見・無駄毛・プラチナ    193 粒揃い・高野山・十分の一    194 おぃ鬼太郎・シュークリーム・小室哲哉    195 くさい足・オリーブ・いやいや    196 ダイエットテープ・北京故宮展・細雪    197 若い季節・自動両替機・糞ころがし    198 おやじのパソコン・なみはや国体・紙婚式    199 降灰袋・ハンブルグ・乳首マッサージ    200 雪見酒・臭い足・貧乏・タイ米・コチョコチョ・雷・明治大正昭和平成・上岡龍太郎・お茶どすがな・トップレス(総集編、10題リレー落語)    201 夫婦喧嘩・川下り・取越し苦労    202 横綱・占い研究部・日本のへそ    203 マオカラー・海の日・息継ぎ    204 カモメール・モアイ・子供の事情    205 ありがとさん・文武両道・梅雨明け    206 団扇・ボーナス定期・芸の道    207 宅配・入道雲・草叢    208 回転木馬・大文字・献血    209 寝茣蓙・メロンパン・初孫    210 方向音痴・家鴨・非売品    211 年金生活・女子高生・ロングブーツ    212 エキストラ・デカンショ祭・トイレトレーニング    213 行けず後家・オーロラ・瓜二つ    214 金婚式・月光仮面・ロックンローラー    215 孫・有頂天・狸    216 雪女・携帯電話・交代制勤務    217 赤いバスローブ・スイミング・おでこ    218 参勤交代・ケーブルカー・七人兄弟    219 秋雨前線・腹八分・シルバーシート    220 関東煮・年賀葉書・学童保育    221 バンコク・七五三・鼻血    222 ホルモン焼き・男襦袢・学園祭
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%96%E3%81%93%E3%81%B0%E3%83%BB%E9%B6%B4%E7%93%B6%E3%82%89%E3%81%8F%E3%81%94%E3%81%AE%E3%81%94
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usickyou · 2 years
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いつでもおいで
 なんだか心地よくて、目を覚ました。そのときあたしは部屋用のTシャツにショートパンツというかっこうでいて、あたりはすっかり春だった。花のほころびやツバメの声があちこちから聞こえて、空は驚くくらいまっさおだった。すっかり昇った太陽の下を飛行機がつうと横切ると、今日はいい一日になりそうだなあ、とぼんやり思った。  だけど、肌寒い。いくらなんでもこの薄着じゃしゃあない、と毛布を引っぱって、あわよくば二度寝も辞さないつもりでいたのに、毛布はやってこない。あまりかたくなに拒むので、あたしもむきになって続けた。すると、「にゃー」という声がして、解けた毛布からほとんどまっぱだかの志希ちゃんが転がり出て体をちぢめた。日射しがとても優しいので、まるっこい背中がつやつやと輝いて見えた。  あたしは志希ちゃんに覆い被さる。すると毛布の中がお酒のにおいでいっぱいになって、だいたいを理解する。そうっと顔だけを出してみると、やっぱりあたりは春だった。青々した芝生に二桁くらいの酒瓶や缶が転がっていて、そのくせ焦げ茶色の紙袋やおつまみの包装は丁寧に折り畳んである。天然木のベンチにはシャツ、草花の芽吹きあふれる菜園には白いタオルケットがひっかかっている。空中庭園のフェンスを越えた先に見えるオフィスビルのブラインドは、日が射し込むせいかきちんと閉じられていた。 「志希ちゃん」とあたしは言う。  志希ちゃんは答えない。 「志希ちゃん」と、もう一度言う。 「頭痛い」と答える。 「とりあえず起きて」 「むり」 「いやむりじゃなくて」 「ねむっています」 「ええから起きいな」 「吐く吐く吐く吐く」 「よろしい」とあたしは言う。志希ちゃんの頭を揺さぶって、それでずいぶんすっきりした気分になったので「状況、わかる?」とたずねた。 「二日酔い」と志希ちゃんは頭をおさえる。毛布を透過したやわらかな光のつぶが、ほとんど触れるくらい間近のかおを照らしている。  あたしはなぜか、すごく優しい気持ちになって髪をなでた。  まんざらではなさそうだったので、少しの間そうした。
 そこはマンションの屋上で、幸いにも扉にはストッパー代わりのブロックが挟まれていた。まるで動こうとしない志希ちゃんを背負うと、その体は何年か前にそうしたときよりずいぶん重たく感じられる。歳のせいにはしたくないので、「太った?」とあたしは言った。「吐く」と志希ちゃんは答えた。  幸いにも、誰にも見られず部屋には戻れた。そこが思ったよりまともで、お花見の後の公園みたいな荒れ方をしていなかったのでソファに志希ちゃんをおろす。とりあえずコンシェルジュにコールを入れてありのまま話すと、「実は私も最近さぼっていたので、お互い内緒にしましょう」と楽しそうに笑われた。あたしは調べっぱなしだったグレーな鍵の外し方やセキュリティの解除法について眺めながら、「ありがとうございます」と通話を切った。こういうのは日頃のおこないだなあと思いながら、塩見屋のオンラインショップで贈答用の詰め合わせを注文した。  志希ちゃんは眠っている。  あたしはシャワーを浴びたり歯磨きをしたりして、食事の支度をはじめる。おみそしるが仕上がるのと同時にごはんが炊きあがって、完璧だと頷いた拍子にふと気付いてプロダクションへ連絡を入れる。念のため、ではあったけど志希ちゃんの予定は特になかった。ほとんど籍を置いているだけなので、思った通りではあった。  志希ちゃんは、まだ眠っている。空気に溶けてかたちをなくした光にくるまれて、あまり心地よさそうにしているから、起こすにはもったいなくて写真だけ撮った。  支度を続けていると、グリルが鮭を焼き上げたタイミングで志希ちゃんは起きてくる。「トイレ」とだけ言ってふらふら歩く背中に、「吐く?」とあたしはたずねる。指でつくったマルがどっちの意味かはいまいちわからなかったけど、意思疎通ができるのだし大丈夫だと思った。 「いただきます」とあたしが言ったとき、志希ちゃんは戻ってくる。骨をなくした動物みたいにイスに体を預けると、「吐かなかったよ」と誇らしげに言った。 「えらいえらい」 「ちゃんとほめて」 「二日酔いのくせにたいへんよくできました。食べれそう?」 「おなかは減ってる」 「ん、無理そうだったらくず湯とか出すからね。いただきます」 「いただきます」  あたしたちは手を合わせて、おじぎをする。志希ちゃんは驚くくらいよく食べた。あたしのサラダをちょっと奪ったし、焼き鮭は皮まで残さず平らげた。カップのフルーツヨーグルトをほんの数口で食べ終えると、「甘いものほしい」と子どもか純粋すぎるいい大人みたいに手を上げて言った。  ちょうど、冷蔵庫にはいただきもののシュークリームがあった。  あたしはコーヒーを、むうむう言う声を適当にあしらいながら淹れた。そうしてシュークリームを出すと、志希ちゃんは一瞬でかじりつく。指にキャラメルシュガー、口もとにはクリームをたっぷりつけて、「おいしいね」と笑う。  シュークリームをかじって、「おいしい」と同じように言ったときあたしもしぜん笑った。  なんか夢みたいだ、とぼんやり思った。
「乾かしてー」と、お風呂から出てくるなり志希ちゃんは言った。ぽたぽたと、滴はいつ頃かとまるで同じ軌道でフローリングにしたたり落ちた。 「とりあえず、服着い」とあたしは言う。今さら叱る気も起きないし、裸にタオルだけ引っかけた姿も見慣れているのだけど、風邪でもひいたら、と思うとそれはすごく切ないことのような気がした。 「着るのないよ」 「あたしのあげるから」 「にゃはー周子ちゃん好き」 「体も拭いたげよか?」 「してくれるの?」 「別にいいけど」 「んー……自分でする」 「いい子いい子」 「髪はしてね」 「はいよ」  話しながらしていたメイクにけりをつけて、あたしは着替えを放り投げる。適当に選んだTシャツには『京女』と達筆で、でかでか書いてあったので二人して笑った。  志希ちゃんの髪は短い。肩くらいしかない。子どもがひっぱるから、と突然ばっさり落としてきたのはこんな季節だった。それを見たとき、あたしは本当に嬉しくなって「似合うよ」とだけ言った。食べようとしていたアイスが溶けて、指先からしたたり落ちた。志希ちゃんは、とても素直に笑った。そんなことをよく覚えているくらい、過去は遠かったり近かったりした。 「はい終わり」と言うと、「耳のへん」と注文される。その次は、頭のてっぺん。前髪のきわや、えりあし。言いがかりだ、と内心思いながらあたしは非の打ちどころないブローをする。やがて日の当たるさざ波のような髪ができあがると、志希ちゃんはあたしを見てしっかり笑った。鏡でたしかめたりすることなく、「百点あげる」と言った。「なまいき」とあたしが髪をくしゃくしゃにすると、だいたい八十点くらいのスタイリングになった。  それくらいで、時間がくる。  リビングからなにから好きに使ってくれていいけど、その部屋はあたしのじゃないからよろしゅう。ずっといてもいつ出てもいいけど、予備のキーはないからまあよろしゅう。それくらい伝えると、なんと志希ちゃんはソファから起き上がって玄関まで見送りにきた。まじめな顔をして、「ありがとね」とちゃんと言った。  あたしはちょっと返す言葉をなくして、「どういたしまして」とだけ答えた。  それで扉を閉じると、一階から昇ってくるエレベーターを待った。ここは二十九階なのでしばらく時間はかかる。そのあいだ、いろんなことを考えた。仕事のこととか、志希ちゃんのこと。MVの撮りが終わるのは、撮影チームは慣れてるけど、今日のアーティストさんは歴浅めだしあのスタジオは時間にうるさくないから長引くかもしれない。とはいえモデルに決定権はないしマネさんはいるけど、プロダクションの力関係的にもわがままは言えないよなあとか、志希ちゃんのこと。  エレベーターが開く。急かすみたいに待ち受ける。まぶしい光の中へ、あたしを連れていこうとする。  だらだらと過ごしてしまったので、時間はかなり厳しい。  あたしは、「くそう」とつぶやく。  そうして延長のボタンを押すと、部屋に戻る。志希ちゃんは日のあたるソファでまどろんでいて、「おかえりー」とやわい発音で言った。あたしは「夜、ええと」と言って、「夜、仕事の後ごはん行こうよ」と続けた。  志希ちゃんはちょっと笑って、「最高だね」と答えた。  あたしはまた部屋を出る。エレベーターからエントランス、表へ出てタクシーをつかまえると仕事へ向かう。思ったとおり撮影は長引いて、それでもぎりぎり夕ごはんと呼べるくらいの時間には帰れた。そうしたら志希ちゃんは出かけたときと同じかっこうのままソファで寝こけていて、あたしは「くそう」とまたつぶやく。むしろ裏切られた気分で「このあれ、なんか返せ」と言ったら志希ちゃんは寝息で答えた。
 おいしいねおいしいね、と言いながら志希ちゃんがとり皮を食べていくのをあたしは見ていた。タバスコを池ができるくらいかけたり、ありあわせの調味料を混ぜ合わせて前衛芸術じみたお皿を作り上げたりはもうしないみたいで、子どもの成長を見届けたような喜びとかすかな寂しさがテーブルに乗っかった。 「おいしいよね、ここ」とあたしは無難に答える。カシラの塩からは、うっすらと炭が香った。「まあ昨日も来たんだけど」 「ぜんぜん覚えてなーい」 「なんにも?」 「周子ちゃんは」 「ぜんぜん覚えてなーい」  そんなふうに軽く真似をすると、志希ちゃんは「似てない」と信じられないくらい冷たい目をした。昔はうまかったのになあ、と思いながら食べたふた口めのカシラは少し炭が濃い。 「で、なにしに来たん?」 「ちょっと顔合わせ。直接会う必要ないのに、いやになっちゃうよね」 「言いたいことはわかる。いつ?」 「もう終わった」 「は? 今日?」 「うん」 「鍵渡してないよね」 「昨日もらったよ」 「そういうの、こっち見ないで言ってほしいんだけど」 「違法じゃないよ、平気へいき」 「聞きたくなかった」 「にゃはは」  志希ちゃんは、とり皮ばかり食べる。盛り合わせのぶんはとっくに消化して、単品で頼んだぶんもどんどん食べていく。あたしのことなんかぜんぜん気にしない、その様子が妙に嬉しくてお酒は進んだ。このお店は日本酒が自慢らしくて、あたしは銘柄とか蘊蓄のたぐいには特に興味はないのだけど、うまいまずいくらいはわかる。  一方で、志希ちゃんは甘いカクテルばかり頼んだ。かと思えば、突然お店でいちばんアルコール度数の高いお酒を注文しようとして、結果ウォッカベースのリキュールを飲んだりもした。そういう態度でいると顔を覚えられたり、よもや奇行ですっぱ抜かれたりしたら面倒だと思ったけど、考えてみればこの子は慣れている。あたしもまあ、それなりに耐性はある。だいたいお互いいい大人だし、明日は予定も特にない。志希ちゃんの予定は知らないけど、この頃にはもうあたしもすっかり酔っぱら���ている。  昔はアルコールに強かった。二十五を過ぎたくらいから、なぜかめっきり弱くなりだした。店員さんに口添えして、ウーロンハイを頼みながらウーロン茶を持ってきてもらう技術を身につけたりした。  志希ちゃんは昔から、典型的な酒に呑まれるタイプだったと思う。下戸で悪酔いして後に残って、それでも呑んでる間だけは誰よりも楽しそうに、まるでそういうクスリでもきめたみたいに楽しい、覚めたらかけらも残らない夢のような時間を生み出した。  志希ちゃんと呑むのが好きだった。ほとんど誰かと一緒にいて介抱役に回ることが多かったけど、ごくたまにふたりで呑むときがあって、中身のないことばかり話した。おたべもちに合うテキーラ選手権とか、ほんとにキスがうまいアイドルは誰だとか、結論はもう一つも覚えてないけどただ楽しかったなあという気持ちだけは永遠に咲き続ける花みたいに今も鼻先で香った。  この瞬間もあたしは、話すはじから話したことを忘れている。酔っぱらいすぎて、言葉はほとんど脳を通らずに喉から直接飛び出しては志希ちゃんの笑い声になって耳に返ってくる。それは昔レッスンの後、クールダウンの最中たまにはじめたフリースタイルダンスによく似ていて、意味はないのに心と心をそっと、決して自覚されないさりげなさで結んでくれた。  あたしは今、そんなふうに踊れるだろうか。  そう思い立って立ち上がると、視界がぐらぐら揺れた。ふざけんな、負けるかとおなかに力を入れてツーステップ、ターンを決めると景色がどろどろに溶け落ちていって、イスや他のお客さんが壁に足をつけているのが見えた。あれと思う間もなく激しい衝撃が襲って、息ができなくなった。背中の痛みはあとからやってきて、ついでに志希ちゃんのげらげら笑う声がやけにはっきり聞こえた。  つられたあたしも笑った。そうして、子どものころに作った宝箱を抱きしめるみたいな気持ちで眠った。
 ひどい心地で、目を覚ました。頭が痛くて気持ち悪くて、おまけに凍えていて、なにしろあたしはマンションの屋上にいた。昨日と違うのはまだ朝じゃないってことくらいで、空にはまるい月が浮かんでいた。  また潰れた、らしかった。  もう自分が信じられなくなって、絶望的な気分でふて寝をしようと毛布をひっぱると、志希ちゃんのかおが鼻の先にある。あたしは息を呑む。  志希ちゃんは目を開いている。海にはじかれた光の色で、あたしをじっと見ている。もしかして、ずっとそうしていたのだろうか。ほの明るいこんな夜に寝そべりながら、ぐでんぐでんに酔っぱらったあたしを、まさかじっと見ていた。 「おはよう」と志希ちゃんは言う。 「おはよう、ございます」とあたしは答える。 「あたしのことわかる?」 「一ノ瀬志希さん」 「自分の名前は」 「塩見……周子」 「うん、大丈夫だね」  そう言ってほほえむと、志希ちゃんはあたしをゆっくり引き起こす。優しく丁寧に、これ以上凍えないようにと毛布を何枚か一緒にかぶって、茶色い紙袋をひっくり返しはじめる。そこには大量のお酒やおつまみが入っていて、「二次会」と志希ちゃんは嬉しそうに言った。  あたしはぼんやりとそれらを見て、顔を上げる。気付かなかったけど、あたしたちはわりと危険な場所にいた。ビルの屋上、フェンスを越えた場所。段差はあるので転がり落ちたりはしないけど、空がよく見える場所。  だけどおかしなことに、夜景があまりにきれいだった。朝、ここからはオフィスビルが見えていて、こんなふうに街のすべてを見渡せるほど開けた景色じゃなかった。 「ここ、うちのマンションだよね」とあたしはたずねる。 「そうだよ」 「ええと、あれは? 向かいのビル」 「……にゃはは、あたしが消しちゃいました」 「……まじで?」 「まじだよ」と志希ちゃんはうしろを指さす。そっちには、フェンスの向こうには今朝と同じかたちをした景色があって、消えてなんていなかったビルの非常灯がばかにするみたいにこうこうと光った。  なんのことはない。屋上の反対側にいたのだ。 「……まぬけすぎる」 「そうだね、周子ちゃん今すごいまぬけづらしてる」 「なんとでも言うて」 「よっぱらい」 「はい」 「連れてくるのたいへんだったんだよ」 「ごめんなさい……ちがうわ、あんたが犯人か」 「あたしがやりました」と言って、志希ちゃんはワインボトルに手をかける。おなかのあたりで抱え込んで蓋を開けると、「ばんざーい!」と叫んであたりにぶちまける。透き通る赤いしずくは月をはじきながら花びらのようにひらひら街を舞い、落ちた。  志希ちゃんはグラスを差し出して、ワインを注ぎながら教えてくれる。店員さんと交渉して自分の頼んだお酒は全部ノンアルコールで代用してもらったこと。あたしのお酒はちょっと濃いめにしたこと。首尾よく酔い潰してマンションまで連れてきたはいいけど、ぜんぜん起きないから本当に苦労したとか、そういうこと。 「じゃ、かんぱーい!」 「乾杯ちゃうやろ」 「まぬけな犠牲者に」 「……最悪な作戦に」  あたしはなんだかどうでもよくなって、それに、一方的にぶつけられたグラスが歌うように鳴ったので、ワインをあおった。また簡単なことにそれがとてもおいしくて、志希ちゃんも幸せそうに笑うので、まあいいかと思った。酔っぱらいが魔法にかかるのは、なんて簡単なことだろう。  かなり我慢してたらしく、志希ちゃんはひどいペースで飲んだ。あたしは、次は潰してやろうと思いながら体にじゅうぶんアルコールが残っていたので、ほとんど同じテンポで飲み続けた。ワインはジンに、ジンは日本酒に、瓶は次々からっぽになっていった。  先に音を上げたのは、「寒い」と口にしたのは、どっちだっただろう。  ほとんど酩酊したあたしたちは毛布にくるまって、チェイサー代わりのロックアイスをかじりながら「死ぬしぬ」と言い合った。そのうちに空が白みはじめて、空気はどんどん冷たくなっていって、身を寄せた。志希ちゃんの体はあったかくて、やわっこくて、おまけにお酒と眠気のせいでひどい色気をかもしていた。子どもの無垢さ���三十年の人生が同居して��たちづくられたその表情は、もともと顔がいいのもあって、人を狂わせるおとぎ話のもののけみたいに美しかった。  人生が変わるならこんな夜だ、とあたしは思った。  だけど、あたしたちは青春をともにしたのだ。  かがやかしい日々、いのちごと燃やすみたいな舞台をたくさん共有して、今もこうして一緒にいる。  それはすごく、かけがえがない。いともたやすく失われてしまうから、うすいガラス玉にするみたいに、手のひらでしっかり包み込まなければいけないことだ。 「ひとりみじゃなくて良かったわー」とあたしはふざけて言う。 「お互いね」と志希ちゃんは明るく答える。  お酒もおつまみも、チェイサーでさえもうない。二次会は終わった。あとは眠るだけ。それだけしかない。  あたしは横になる。ひとつの毛布にくるまっているので、抵抗もなく志希ちゃんも横になる。あたしたちは寝ころがって上の方を見た。かすかなオレンジと白、濃紺の空のグラデーションを眺めて、アルコールをたっぷりたくわえたあくびをした。 「寝よっか」 「いーよ」 「明日は?」 「平気」 「あたしも」 「そっか」  そんなふうに交わすと、あたしは目を閉じる。心を入れ替えたコンシェルジュがこのありさまを見つけないよう祈っていると、「昔あたし、ビルなんて消せたんだよ」という声を聞く。 「やろうと思えば、絶対できた。でも、今はもうむり。あの中にいる人のこととか考えちゃう。でも、まだ、周子ちゃんとなら、もしかして」  どう答えようか、聞こえなかったふりをして寝てしまおうかと考えているうちに、志希ちゃんの寝息が聞こえはじめた。うっすら鼻がつまってるみたいで、ぷうぷういうのがかわいくて手をにぎった。そうして、「あたしはごめんやけど」と答えた。
 酒なんか二度と飲むか、しかもこの女とは絶対に。そんなふうに思いながら部屋へ戻ると、シャワーを浴びて歯を磨いて朝食の支度をする。志希ちゃんはそのうちふらふら起きてきて、焼いたパンをかじったりぬるいココアをちびちび口にしたりする。  それから、あたしは当然のように志希ちゃんの髪を乾かした。 「ちょっと買い物いってくるよ」とあたしは言う。 「うん、行ってらっしゃい」と志希ちゃんは答える。  そうして歩いて数分のコンビニで適当に時間を潰すと、何も買わず部屋に戻った。  志希ちゃんはいなくなっている。  あたしはとりあえず、ソファに腰をおろした。染みついたお酒のにおいの奥底には志希ちゃんのにおいがあって、それをなんだか愛おしく思って、志希ちゃんとおんなじかたちで寝転がった。  キッチンカウンターには、空っぽのボトルがたくさん並んでいる。  だけどそこには、一本だけ中身の残ったラムのボトルがあって、これ見よがしに志希ちゃんのサインが描かれていた。  それで思わず笑うと、静かな部屋にあたしの声はしっかり響いた。  それから、あたしは開封されたラム酒について検索する。劣化の目安とか保存法方について(一応、飲めないレベルになったらどうするかも)調べて、それを野菜室におさめながら「まあそのうちまたおいで」とつぶやいた。
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kitaorio · 2 years
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窮鼠
 この家には鼠が2匹いる。  物心ついたときからこの家にいるが、もう一匹が兄弟なのかどうかは判らぬ。ただ、いままで一緒にいたのだ。  仲間は多ければいいのだが、そうもいかない。この家には人間が食べるための食料以上の余裕がなく、俺たちの食い扶持まで回ってはこない。  太陽が屋根を照らし、藁葺きの中からなま暖かく蒸れた、黴と土のにおいの混ざったようなにおいが降りてくる。昼日中といえどもほとんど明るくなることもなく薄暗い中にどれぐらい降り積もったのか判らぬ塵や芥がかまどの煤でいぶされぬめりきった照かりのある梁の上で俺たちは暮らしている。梁の上は歩き回るたびに足の先に松ヤニみたいなべたべたがまとわりつき、寝床に戻るたびに毛繕いをしなければならない。寝床は屋根を葺いている藁を何本か引っこ抜き、隅に寝床を作っている以外、特に人間の家にはなにも手を加えていない。  俺たちの生活があるのを知ってか知らずか、人間どもは梁の下にいて、そこで起きたり寝たり食べたりをしている。  ぼろ屋なのが幸いし、出入り口を作る必要もなく、藁葺き屋根から表への出入りは自由であるし、そして台所にも簡単に降りられる。毎日使っているにしては冬の野原のような台所に降りたところで食べ物があるわけではないのだけれども。  俺たちの生活は単調だ。  巣で丸くなり前足で鼻の頭をなでながらまどろんでいるか、物陰から物陰へ渡り歩きながら食べ物を探しているかのどちらかだからだ。  家の中に食べ物がないのは承知の上でこの家に居続けている俺たちは、大概の場合食べ物は表に取りに行っている。  藪の中に入り柔らかく実ったアケビに頭をつっこみ熟した果実にずぶずぶと前足をめり込ませながらかじり、笹藪では生え立ての笹をかじり鼻の��へと滑り込んでくる青々しい香りと前歯に感じるサクサクとした感触を楽しみながら腹を満たしている。  梁の下にいる人間よりはだいぶいい生活をしていると言っていいだろう。  人間どもはつがいで暮らしている。雄は畑仕事をして、雌はそれを手伝いながら台所でなにやら煮炊きをしている。  こっちからは向こうのことが判るが、向こうはこちらのことは判らない。  向こうがこちらに気づくほど家にいないからだ。  事情の変化は人間の生活の変化がきっかけだった。  人間の雄の生活が変わり始めた。  畑仕事をする日が減り始め、その代わりに仲間とどこかに連れ立って出かけたかと思えば、そのまま仲間を連れて家に戻り、声高に話し合ったりしている。  なにをしているのだか判らないが、人間どもが寄り集まってなにやら話している生臭い人いきれや雄の仲間たちからわき上がる脂臭い熱気が、どうしようもなく気持ち悪く、そういう日は家に戻らず近くの立ち木のうろに入り朝を迎えることもある。  人間どもの話は抑揚が強く落ち着いて寝てられない。ぼそぼそはなしていたかと思えば、なにをきっかけにしてなのか突然立ち上がり、勢いよく吼え始めたりする。「キンノウ」だの「シシ」だの「トウバク」だのの言葉がきっかけになり吼え始始めることが多いのだが、そういう言葉を使い騒ぎ始めたかと思うと、何かにおびえたように突然静かになったりするのだ。  雌の方はというと、それを良しとしているらしく、雄が畑にでないことをなにもいわないでいる。ただ、雌一人で畑を切り盛りするには無理があるらしく、ここ最近食べ物がめっきりと少なくなっている。  前であれば、畑でできた大根のほかにも夕餉には魚が乗ることもあったのだが、最近ではそれもなく、豆や稗など米以外をぼそぼそと食べていることが増えた。  米がないのはつらいが、それ以上にやっかいなのは猫だ。  この家には猫が住み着いている。  人間が食べ残した魚の骨をかじったりしていたのだが、猫に投げ与えられる餌が少なくなってきたのか、家から離れて表で狩りをすることが増えてきた。  なにを思ってなのか、猫のやつは狩ってきた獲物を半死半生のまま雌の元に持っていくことがある。雀、蜥蜴、蝉、鳩、蛇。自分の食欲をあおられる生き物を見つけては半殺しにし、雌の元に届けていた。時として箒で追いかけられ、また、別のときには雄に首を押さえられ怒られてもやっているのだから、猫にとって何かしらの意味があるのだろう。  気に入らないのは鼠を捕まえて上機嫌になっている猫を見かけたときだ。  俺の仲間かどうかはすぐには判らないが、青年らしき鼠を虫の息になっているにもかかわらず弄び、加減して逃げられるかのような気配を作っておきながら逃がさず、じわじわと、音を立てずに歩き回れるあの足から爪を剥きだし、力尽きるぎりぎりまでなぶられているのだ。  ある鼠は肩の骨が砕かれたのか、両前足を引きずるようにして逃げ回っているところを尻尾に爪を引っかけられ、いつまでたっても猫の前から離れることができず、勢いをつけて逃げようとしたところを首を押さえられ、また、ある鼠は骸になっているにもかかわらず、そのコロコロした肉体が猫の心をくすぐったのか、いつまでも足で引っかけては頃がされ続けていた。そのうち、血の気を失い白くなった足がもげ、それでやっと遊ばれ続ける辱めが終わったのである。  猫にとっては一時の食事である以前に、おもちゃのようなものとしてみられているのかもしれない。  俺の住処には猫はやってこれない。  梁の上まで上ってくるには奴の跳躍力では足りず、柱に爪を引っかけ駆け上がろうとしては人間にはたき落とされている。  この家にとって猫は隣人にすぎない。人間は自分たちの生活でやっとであり、日々の労働がそのまま食事に結びつき、労働がかけることはそのまま食事が事欠くことになるのである。  その生活の中で、猫を家人として迎えるようなまねはできるわけはなく、できることといえば、どこかから調達してきた魚を皮一つ残らず食べ尽くした後、猫に骨を放ってやるぐらいのものだ。  それでも猫にとっては居心地がいいのかよそで食事を恵んでもらったりして腹が満たされると、わざわざこの家までやってきて日当たりのいいところで寝ていたりする。  よそで食っていけるならそっちに行っていればいいのに、目障りな奴だ。  人間の生活はこのところあわただしく動き回っている雄を中心として動いている。ほとんど色の付いたお湯のようになっている貧相な雑炊をすすったかと思うと、勢いよく表に飛び出しては夜遅くまで帰らない生活を繰り返している。  雌はほとんど寝ることもなく、食うものも雄にやってしまって動いている有様だ。  だんだんと台所からは食べ物のにおいが消えていき、お湯と根菜と、時々混ざる豆のにおいがほとんどになった。  食うものがなければ俺たちは引っ越していけばいいだけなのだが、そうは許さない事情ができてしまった。  猫の奴がなにを勘違いしてか、この家に入り浸るようになり、迂闊に動けなくなったのだ。  雄のいない家の中、雌の方は畑仕事の合間に猫をなでたり声をかけたりしている。食べるものもろくにやっていないのだが、ときとしてわら布団の中に招き入れてアンカ代わりにしているようだ。  それで猫の奴が調子に乗って住み着いているのだ。  あいつがいるせいで表にでるのもやっとになっている。  俺達がいくら素早く動けるといえども、地べたをかけているときには猫にやられるからだ。  俺たちは太陽が沈むのを待って暗がりの隅を這うように雑木林に出ようとしているのだが、家に居着くようになった猫に見つかりもう少しのところで猫の爪に引っかけられそうになることが増えたのだ。  この食い物がない家の中で出ることもままならなくなってしまい、木と土と藁で形を保っているだけの箱の中から逃げ出せなくなってしまったのである。  食うものはないわけではない。屋根に登れは天気のいい日には小さな草が芽吹き、雨に浸され続け泥のようになった藁の隙間から清流のような黄緑の新芽をのぞかせることもある。一口かじると歯の先には柔らかく太陽に浴び続けてその内側あふれるような青臭い新芽の感触を味わい、薄暗い梁の上にはない白ずんで風景が見えるような天気のいい空の下で食事をすることになる。  ほとんど命がけである。  俺の薄い皮をかぶっただけの肉体は、食事の風景を空から見られてはいないか震えながら食べなければならない。  フクロウやミミズクはもとより、モズなんかに見つかるとカマキリの卵みたいに枝の先に刺されてしまい、そのまま冬まで忘れ去られてしまうのである。  命を張ってまで屋根に上ったところで腹を満たすには頼りない草々をかじらなければならないのだ。  屋根に上るよりは、と家の裏から雑木林をもう一匹の方がかけていこうとしたところで事件は起きた。  猫におそわれたのだ。奴の不注意なのかもしれないし、猫の奴の打算が見事に的中し奴の前をもう一匹の方がかけてしまったのかもしれない。  やつの耳には猫の爪がたてられ、薄く平たく頭にくっついている耳を破ってしまったのである。  痛くないわけではないのだが、奴にとっては耳を失ってもいいから逃げなければならないという本能から、奇跡的に片耳の半分を猫の爪に奪われながらも逃げてきた。  やっとの思いで梁に上ったかと思いきや、目も合わせずに隅の方に行ってしまい、数日の間は巣材の中で丸くなっているだけであった。  時々気になって見てはいたのだが、寝返りを打つついでに前足で耳をなでて、耳に触れた瞬間に背中に驚いたようなふるえを見せると、そのまま何事もなかったかのようにまた寝るという生活の繰り返しだった。  食べないでいる日が何日かあったせいだろうか、ぷっくりと弧を描いていて柔らかに全身を包んでいる毛皮を膨らせていた肉体からは、優しい曲線が消えていた。  あるのは緊張感からか鋭く辺りを見回し、そのまま二度と目を合わせようとしないで周囲を見つめる暗殺者のような目をした鼠だけだった。  一緒に梁の上を行き来していた幼なじみの面影は消えてしまったのである。  猫にとっては俺たちを捕まえられなかったのは何回ともある失敗の一つにすぎない。ただ、俺達にとっては生きるか死ぬかであり、このままじっとしてやり過ごすには代償が大きすぎるのである。  相棒は片耳を半分なくし、その耳の違和感からなのか、四六時中身繕いするようになった。  それを知っての事か囲炉裏の横で猫の奴は丸くなって寝ている。  片耳が三日月みたいになってしまった相棒と、なんの心配もないように寝ている猫。  俺の中で冷たい怒りに火が回りつつある。  奴との違いは体の大きさぐらいであり、何でもかじりとる前歯もあれば、人間が台所に仕掛けている罠をよける知能もあるのである。やり返せない事はない。  人間の雄はいよいよ畑仕事をほとんどしなくなり、やることといえば竹竿の先を斜めに切り、槍に見立てての訓練である。  梁の上から見ていて農民であったと思ったのだが、どうやらこの家の主は武士であったらしい。ただ、家の中を見回しても鉄でできているものといえば鍬の先だけであり、それこそ刀すらない続柄なのである。  仲間も似たようなものが集まっているようで、食うや食わずの輩が集まり、激しい言葉のやり合いや、そうかと思えば自分たちの発した言葉が身に災いを呼び込む言い回しだったのを察知したのか、急に怖じけ尽き小声でやりとりを続けたりという夜が幾日も続いた。  俺が見ても非力としかいいようがないこの家の主とその仲間で反乱を起こそうとしているのだ。この家の主がそうであるように、武士でありながらほとんど農民のような生活をしているものが集まり、ふらふらと考えを固めない上の人間に成り代わり意志を固め世を変えようとしている、らしい。  人間の言葉の中に頻繁に出てくる「キンノウ」であったり「シシ」であったりというのはおそらくそういうことなのだ��思う。  人間の奴らが世を変えようとしているのだから、俺達のこの状況も変えられるかもしれないのだ。猫の奴のおかげでほとんど表に食料を取りに行くこともできず、ゆるやかに飢え死にを待つような状態から脱却するには人間同様、俺達を虐げる者に刃向かう以外ないのである。  猫の奴は日中、囲炉裏の縁で丸くなっていることが多い。  俺が囲炉裏にいる猫にできることといえば、相棒にされたように奴の耳をかみ切ることである。  家の中に誰もいない間を見計らって囲炉裏にまで降り、見回してみる。  いつもであれば隙間や何かしらの隅から陰と陰の間を渡り歩くように歩き回っているおかげで、家の真ん中から見回してみるということはなかった。  床の板には人間の垢や脂が染みこみ、鼻の奥をざらつかせるような臭気を放っている。その代わりなのか、毎日のように足で研磨され木とは思えないような艶やかな光沢を放っている。見回してみるとなにがあるわけでもなく、柱に囲まれた中に人間の身長ぐらいの箪笥が置かれているだけで、身を潜めたり梁に戻るのに使えそうなのもそれだけなのである。  つまりは、物陰から猫を急襲して柱から逃げ帰るか、梁から柱づたいに駆け下り、そして箪笥の裏の陰に隠れるかのどちらしかないのである。  猫はいつも寝ているようでいて、目を開けずに周りの獲物に感づくことが多い。  耳がいいのか、動く者がいないと思いこみ囲炉裏の食べ残しにありつこうとしたゴキブリの枯れ木のような乾いた足音を耳だけで察知し、捕まえたりするのだ。  いくら素早く動けるとはいえ、奴に足音を聞かせてしまうのは得策ではない。  最短で奴に近づくには箪笥の物陰に潜んでいるのが得策だ。  そうなると後は柱を伝い梁に戻るだけである。俺の足で上れないことはないのだが、やったことがないのである。  策が立てば部屋の真ん中でぼんやりしている必要はない。寝床に戻るために柱から戻ろうと勢いよく駆け出し、柱の半ばまで難なく上り一息で梁にたどり着けそうだと指先に力を掛けたときである。けたたましい叫び声が後ろから聞こえた。瞬発的に登り切れたからよかったようなものの、梁の上から見てみると人間の雌が俺の姿を見つけたらしいのだ。  台所で人間の食べ残しや食材を食べているところを何度か見られてからというもの、目の敵にしているのである。  さすがに雌が振り回す箒で俺達がつぶされることはないのだが、何かというと追いかけ回されているのだ。それが今まで見たことのない柱を駆け上がる俺の姿を見たものだからなおさら驚いたのだろう。俺が上った後、箒で柱を何度かたたいて威嚇していた。  その日の夜、雄の方に話したらしく、雄も箒で梁をたたいてきた。ただ、普段の掃除していない梁を箒でたたいたところでほこりや塵が舞うだけであり、俺達は隅で丸くなってやり過ごすだけなのだが。  猫は夜の間は家の中や表を歩き回っていることが多い。そして、昼は過ごしやすいところを見つけては寝ている。  人間がいると安心しているのか熟睡していることすらある。  猫の耳をかじりとれるのはその時だけだろう。  その日の昼下がりは、いつになく人間の雄が家にいて畑仕事をしたり、雌は気まぐれに猫をかまいながら囲炉裏端で縫い物をしている。猫の奴は足を体の下に入れるような座り方でうたた寝し、何事もない静かな午後であった。  こういうときは猫も気を抜いて寝ている。  ゆっくりと、猫もそうだが人間にも気づかれないように箪笥の裏から猫が見える物陰まで爪が床をたたく音一つたてずに近づく。梁の上で毛繕いしたはずなのに、全身の毛が逆立ったようなゴワゴワとしたざわつきが全身を貫く。  猫の頭がゆっくりと上下に揺れ始め、寝入り始めたらしい。  人間が立ち上がり、家の外へ出たそのときである。  俺は爪先から太股に全部の神経を集中し、猫へ一直線に向かっていった。  足音をたてると見つかってしまうので、足の肉の部分だけが床に着くように指先を持ち上げ、そして、前足と後ろ足は体を運ぶために全力で床を蹴り続けている。  猫の頭に駆上がり耳にかじりついた。  奴の耳の真ん中にかじりつき、前足で払おうが、頭をいくら振ろうが放しはしなかった。  口の中は猫の耳だ。芋の葉っぱのような厚みの割にはかみ切ろうとすると歯の先に堅い弾力がじゃまする。一発でかじりとって逃げてしまおうとしたのだが、こんなところでとまどうと思わなかった。  顎に力を入れ、こめかみが盛り上がり、前足を使い耳を引きちぎる。舌の先を刺激する耳に生えた毛が気持ち悪い。  ざらざらとした毛の感触に混じり錆をなめているような血のにおいが混じったと思うと、差の先にあった強い弾力がとぎれ、顎を思いっきりかみしめられるようになった。  猫の耳をかみ切ったのだ。  後は逃げるだけである。  前に通った柱に飛びつき梁に向かい一気に駆け上がろうとした。  半分以上上ったところで指先が柱をつかめなくなった。油を塗られたのだ。  重く甘い油のにおいを感じながら柱から落ちる。  柱の下には耳がかけた猫が俺を待ちかまえていた。
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kurihara-yumeko · 3 years
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【小説】翡翠色のアルド (1/4)
 それが一体なんであるのか、初めはよくわからなかった。
 日光に照らされ銀色に輝く砂漠の果て、地平線の向こうから、何かがこちらへ近付いて来る。
 それは、乳白色の巨大な物体だった。球状の物体がいくつも連なって見えるそれは、刈ったばかりのゴドーシュの毛を高く積み上げているかのようだった。風にそよいでいるように、右に左にゆらゆらと揺れている。
 しかしそれは、決して羊毛などではないのだった。生き物が成長していくかのように、球体を内から外へと排出し続け、どんどん膨張していく。否、膨張しているのではない。こちらへ向かって来ているので、肥大化していくように見えるだけだ。
「ドーロマ、何をしている。さっさとしないか」
 その光景に見入っていた奴隷の少年は、雇い主の男にそう怒鳴られて我に返る。少年は家畜小屋の前でロッシュの毛をブラシで撫でていたが、丘の下、遥か向こうから近付いて来る乳白色の塊を見つめたまま、動けなくなってしまっていた。
 黙って自らの主人を見上げ、地平線の彼方からやって来るそれを指差す。雇い主の男はその先を見やり、途端に青ざめた。
「おおい、皆、聞いてくれ! パレィドが来るぞ! パレィドが来る!」
 男は口から泡を噴く勢いで叫びながら、慌てて駆け出す。男に雇われていた年端もいかない奴隷少年たちも、その叫びを聞きつけて、手にしていた仕事道具をすべて放り出し、一目散に駆けて行く。
 しかし、ロッシュをブラッシングしていた少年だけは、その場を動こうとしなかった。ただじっと、乳白色の塊が街へと近付いて来るのを見つめていた。
 彼はそれがなんなのかを知っていた。そして恐らく、この小さなビルドの街に住む人間は誰ひとり、助かることがないだろうということも。
「コンタット、お前はお逃げ。やつらは人間以外の動物には優しい。お前はきっと、助かるから」
 ロッシュにそう話しかけながら、繋いでいた縄をほどき、その尻を軽く叩いてやった。
 ロッシュという生き物は、図体が大きく、常に前歯を剥き出している顔の割に、性格は温厚で礼儀正しく、とても賢い。コンタットと名付けられていた、右耳が少し欠けたそのロッシュは、少年の言葉を器用に聞き分けた。まるで、今まで世話をしてくれた彼に礼を述べているかのように、深々とこうべを下げた後、軽やかに駆け出して丘を下って行った。
 少年はコンタットを見送ってから、踵を返して家畜小屋の中へと戻り、残っていたロッシュを同様にすべて放してやった。ロッシュたちは一頭たりとも不安そうな素振りをすることなく、自分が放たれる時をずっと待っていたのだとでも言うように、少年に挨拶をして出て行った。
 最後の一頭を外へ送り出し、後を追うように少年が家畜小屋を出た時、近付いて来るそれは、もうただの乳白色の塊ではなくなっていた。
 羊毛が寄せ集まったように見えていたのは、ただ舞い上がる土埃にすぎず、その土埃の向こうから、迫り来るそれがついに正体を現した。
 砂煙を巻き上げ、低い地響きを立ててこちらへ向かって来るそれは、森林だった。
 青々とした葉を茂らせた、数千本、数万本という樹木が、鞭打つように根を叩きつけ、宙を泳ぐかのように枝を振るって、この街に向かって行進してきていた。
 それは行進(パレィド)と呼べるほど、可愛らしいものではない。地は叩かれ抉れ、根が絡め取った土は宙高く放り投げられ、向かう先に何があろうとお構いなしだ。街のひとつや、ふたつ、あの樹木たちはなんの障害とも思わない。
 あれが来たら、もう終わりだ。逃げ出してももう遅い。人間の足では、到底逃げ切れるような速さではない。馬に乗っても不可能だ。触手のような細く長い枝に絡み付かれて馬から振り落とされ、巨大な刺々しい根で踏み潰されて圧死する。街じゅうの土が掘り返され、今まで地上にあったものはすべて、地中深くに埋められてしまうだろう。
 少年は家畜小屋の中へと戻った。床板に取り付けられた地下室への扉を開け、そこに敷き詰めてあった、家畜の餌である乾燥したフィレーオの中に潜り込んだ。
 地響きはどんどん大きくなる。猛烈な速さで森林が接近しているのがわかる。耳を塞いでも耐え切れないほどその音が近付いた後、大きな衝撃と共に、家畜小屋が崩れた轟音が響いた。
 頭上には、地下室の屋根をぶち破った、屈強で巨大な何本もの根が見えた。その根は何かを探しているかのように宙を泳いでいる。
 樹木が探しているのは人間だ。木々は人間を襲うためにどこからかやって来る。少年の両足は倒壊した瓦礫の下敷きとなっていたが、かろうじて上半身は無事であった。彼は両眼をしっかりと開けて、辺りを見回していた。そうすることが、助かる唯一の方法であることを知っていた。
 根は地下室の中を覗き込むように伸びてきて、少年の鼻先までは勢いよく向かって来るが、彼の皮膚に触れるか触れないかのうちに、急に動きを変えて引っ込んでいく。少年の華奢な身体に絡み付いて投げ飛ばしてやろうか、あるいは首を絞めて窒息させてやろうかという勢いにも関わらず、目がないはずの樹木たちは、彼の翡翠色をした瞳に気が付くと、そそくさと通り過ぎて行く。彼はただ、瞬きするのも必死にこらえて、瓦礫の下で目を見開くことに集中していた。
 どれくらいの時間が経過したのだろうか。それはごく短い間のようでもあり、少年にとっては永遠のようにも感じられた。やがて根が向かって来なくなり、轟音のようだった地響きもいつの間にか聞こえなくなっていた。
 樹木たちは過ぎ去ったのだ。
 そう気付いて、少年はやっと一息つくことができた。
 辺りには、むせ返るほどの甘い匂いが満ちていた。森林に襲撃された後は、いつもこうだ。この甘い匂いには一種の麻薬にも似た効用がある。人間の身体を麻痺させ、思考を停止させる。少年はこの匂いへの耐性が多少あったものの、それでも突如として襲い来る眠気と全身の倦怠感には抗うことができなかった。
 なんにせよ、瓦礫に足を封じられ、動くこともままならない。先のことは、後で考えればいいじゃないか。最大の危機は去った。あの森林の襲撃から、生き延びたのだから。そう思って、少年はまぶたを閉じる。
 外の様子を見ることは叶わないが、もう街は跡形も残っていないのかもしれなかった。共に泥にまみれて過ごした奴隷仲間たちも、あの憎い主人も、皆死んでしまったに違いない。井戸で水汲みをしていたフィーデというあの金髪の少女も、もう生きてはいないだろう。それが少しばかり残念だった。少年は、その少女のことを慕っていた。
 だが仕方がない。襲撃してくる樹木たちに、抗う術などないのだ。人間の力では、かなうことなどない存在、それが自然なのだから。
 彼はまぶたを閉じたまま、深い眠りの中へと落ちて行った。
    目が覚めた時、少年がいたのは薄暗いホロンバの中であった。三本の脚と一枚の布だけの、狭く質素な簡易的住居の天井を、彼はぼんやりと見上げていた。
 身体を起こすと、めまいと頭痛が襲った。まだ、あの甘い匂いの効能が残っているようだ。
 どうして自分はこんなところで眠っているのか。あれからどれくらいの間、眠っていたのだろうか。
 外の様子を見ようと立ち上がろうとしたが、両足はひどく痛んで言うことを聞かない。家畜小屋の瓦礫の下敷きになっていた彼の足には、包帯が巻かれていた。誰かが手当てをしてくれたようだ。少年は、這うようにしてホロンバを出た。
 外はホロンバ内と同様に薄暗く、空は夕焼けも終わりかけていた。空の色から察するに、地平線の向こうに夕陽が沈んだばかりのようだ。
 ホロンバが組み立てられていたのは、大きな大理石の上だった。その石に見覚えがあった。この街の銀行の、外壁に用いられていた石材だ。
 少年は銀行というところがどんな場所なのかは知らなかったが、雇い主の男が日頃纏っている旅装束ではなく、大陸式の礼服を着てこの建物へ入って行くところを何度も見ていた。奴隷少年たちはいつもロッシュの手綱を握ったまま、門の外で数時間、主人の帰りを待たされていた。その建物の一部であった石が今、自分の身体の下にある。
 見渡せば、辺り一面の土は掘り返され、抉られ、家々や街並みの残骸が突き刺さり、折れ重なり、あるいは転がっていた。その合間に、人間の引き千切られた手足や潰された頭部、零れ落ちた内臓などが散乱している。どれが誰だか、見分けはつかない。��人の遺体を見つけるのはひどく困難だろうと少年は思った。そもそも、ここには行方不明者を捜索する人間さえ、残っていないのだ。生きている人間の姿は、どこにも見当たらない。
 だとすれば、少年を瓦礫の下から救い出し、手当をし、このホロンバを組み立てて寝かせておいてくれたのは、一体誰だというのだろう。王都からやって来る調査団の連中であれば、ホロンバの布地に王都の紋章が刺繍されているはずであったが、彼が眠っていたホロンバには、それらしきものはない。黒と青の糸で編みこまれたその布は、東の方に住む部族固有の編み方だということはかろうじてわかるものの、それ以上のことはわからなかった。
 少年は困惑したまま、しばらくその場でじっとしていると、突然、微かな甘い匂いと共に、声をかけられた。
「気が付いたか」
 振り返ると、ホロンバの後方に、一本の木が立っていた。街を襲撃した森林とは、違う種類の樹木だ。微かに香る甘い匂いは、その木から発せられていた。そして、その木の一番太い枝には、ひとりの男が悠々と腰掛けていた。
 それはなんとも言えない、ひどく気味の悪い男だった。
 白いガーラで作られたシャツとスボンを身に纏っていたが、この辺りでは風変りな衣服であった。布地には部族や出身地を示す文様や織り目、染めた跡もない。履物がより一層奇妙で、足の裏に薄い板を一枚あてがい、紐で足の甲に括りつけているだけのような、簡素なものだった。
 しかし、その男の気味悪さは、衣装の問題ではなかった。
 男の白い肌はところどころ緑色に変色し、よく見れば藻や苔が生えている。頭からは緑色をした頭髪に混じって草の蔓のようなものが見え隠れし、何よりも驚くべきは、その左眼だった。目玉はとうに失われてしまったのか、眼孔がぽっかりと暗い穴を空けており、その奥には草が茂っていた。細く長い葉が睫毛よりも長く伸び、頬まで垂れている。少年は思わずぎょっとしたが、その時、この男の残された右眼が、自分と同じ翡翠色をしていることに気が付いた。
「あなたは……」
 少年が言葉を捻り出そうとすると、植物男は笑って首を横に振った。
「ドゥ・ラ・ガイ・フォレスティーノ」
 少年は彼が何を言ったのか、最初は理解できなかった。独特な抑揚で発せられたその言葉が、この男の名前なのだと気付いたのは、彼が、
「呼ぶ時はフォルでいい。長い名前だから」
 と、続けて口にしたからだった。
 植物男が枝を軽く二、三回叩くと、木はまるで男の意思を汲み取ったかのように、枝をゆっくりと地面に向けて下ろした。男はひらりと砂地に舞い降りる。
「ガイーダを呼び戻して来てくれないか。この子に何か、食べ物をやらないと」
 植物男がそう言うと、木は根を揺らして歩き出した。今はただの荒野と化した街を悠々と進み、かつて家畜小屋があった丘へと登って行った。
「……あなたは、木と対話ができるのですか」
 少年が信じられないままそう尋ねると、男は笑ったまま頷いた。
「木は人間を襲うが、俺のことは襲わない。俺が人間に見えないのだろうな」
 植物男は少年へと歩み寄って来た。少年はろくに身動きをすることもできない。男の姿は恐ろしく見えたが、這うことしかできない今の彼では、逃げ出すこともままならない。咄嗟に、懐の短刀へと手を伸ばした。
 男は、人に恐れられることに慣れているのか、少年の表情を見ても、嫌な顔ひとつしなかった。近付きはしたものの、あるところまで来ると足を止め、それ以上は近付いて来なかった。
「褐色の肌、翡翠色の瞳、額の刺青……。きみは、アマゾネスに住む部族の出身だね」
 植物男は少年の容姿を見て、そう言った。
「アマゾネスは、樹木の神エマヌールが初めて地上に下り立った場所と言われている。翡翠色の瞳を持つその部族は、植物と心を通わせ、決して森と争うことはしない、と。もうとっくにアマゾネスの住民は滅んだんだと思っていたが、きみはその生き残りだったという訳だ」
 少年は、男が口にしたことを肯定も否定もしなかった。しかしそれは恐らく、すべて正しいことだった。
 自分が樹木たちに殺されないことを知っていた。たとえ、この街が全滅するとしても、自分だけは生き残ることをわかっていた。
「翡翠色の瞳を持つ者に、木は特別優しい。森林が人間を襲うために出す毒も、きみを死に追いやるほどには効いていないようだったし。普通は、あの匂いを嗅いだだけで精神に異常をきたすと言われているのに」
「……あなたは、一体、何者ですか。どうしてそんな姿で、どうして木と意思が通じ、なぜ、こんなところにいるのですか」
 少年はそう問いかけたが、男はまた笑っただけだった。
「質問ばかりだな。まぁいいさ、とりあえずホロンバの中へ戻ろう。何か食べられそうな物を作る。それを食べたらまた眠れ。きみはそれでも、森の毒にやられて、三日も眠っていたんだ。また目が覚めたら、その質問に答えよう」
    少年は、植物男の言葉に従った。
 ホロンバに戻ってすぐ、ガイーダと名付けられた、大きな樹木が近付いて来て、男はその洞に溜まった水を汲み、枝に絡めてあった荷物袋の中から固形食糧を取り出した。ホロンバの外で薪をくべて火を起こし、鍋で湯を沸かし、男はその固形食糧を鍋へと放り込んだ。ぐつぐつと煮え立つ鍋からは、嗅いだことのない食べ物の匂いがした。少年の身体はその匂いに、食べ物を求めて腹を鳴らした。植物男は鍋の中のできあがった汁物を椀に盛り、少年へと差し出した。
 少年はそれを平らげた。雑炊に似た食べ物であることはわかったが、料理の名を訊くことも忘れ、彼は食べ終えると再び横になり、そのまま眠ってしまった。
 再び目が覚めると、少年は昨日と同様に、這ってホロンバの外に出た。外は眩しいほどに明るかった。今は昼のようだ。
 ホロンバのすぐ近くに、また木が立っていた。植物男が腰かけていた方の木だ。確か、あの男はこの木を「シンバ」と呼んでいた。ガイーダよりもずっと小柄な、若い樹木。青々とした葉を茂らせてはいるものの、まだ未熟な木だとわかる。
 今は、その枝の上に植物男の姿はない。少年は瓦礫の上を這うようにして、その木に近付いた。
 樹木をこうして間近で見たのは、否、人間を襲ってこない植物を見たのは、生まれて初めてかもしれなかった。
 少年は、迫害の手を逃れるため、故郷の集落から父と母、そして妹と共に脱し、「大陸最後の秘境」と呼ばれた、シャン・アマネス・ガンジードへとやって来た。
 少年の両親は、血の繋がった肉親ではなかった。実の親は大陸から来た人間たちに殺され、彼とその妹は、まだ物心もつかないうちに育ての親に引き取られ、身を隠すように生活をした。しかしその育ての親もまた、大陸人に捕らえられ、奴隷として扱われていた。少年も奴隷として育った。彼が物心ついた時には、故郷はすでに、植物と人間が共存することができない「不毛の地」であった。
 ガンジードで出会った奴隷商人に騙され、家族は離散した。父は殺され、母は大勢の男たちに組み敷かれ乱暴された後、やはり殺された。いずれも、少年と妹の目の前で起こった。だけれども、彼はその時のことをよく覚えていない。七歳の時だった。幼い妹の泣き顔と、母の悲鳴だけを覚えている。両親の遺体が、その後どうなったのかもわからない。妹は五歳にして娼館へ売られ、少年は奴隷市へと出品された。
 奴隷市へと向かう大きな幌馬車の中には、同じように各地の小大陸から集められた、奴隷の子供たちが大勢乗せられていた。少年は窮屈なその馬車の中、大人しくじっとしていた。不思議と、悲しい気持ちも苦しい気持ちもなかった。彼は何も感じなかった。弱い者は、強い者に殺されていく。そのことを、幼い頃から知っていた。
 奴隷市で旅商人の男に買われた少年は、それから、その主人についていろんな国を旅して回った。大陸の国に滞在することもあれば、船で海を渡り、島国を巡ることもあった。主人が売っているのは主に野菜であった。植物と共生する道を捨てざるを得なかった人間たちは、王都の地下に巨大な工場を建設し、作物をそこで栽培するようになっていた。大陸で栽培された野菜を加工し、乾燥させ、大陸から遠く離れた小国に高値で売りつける、それが雇い主の生業であった。
 少年の主人は金持ちであった。ロッシュを十数頭連れて歩き、どの地方に滞在しても、最も高い宿に泊まった。少年の他にも雇われている奴隷少年が数人いた。そして毎晩、少年たちの中からひとりずつ、主人の夜の相手をする者が選ばれた。男色家で、十八歳に満たない少年ばかりを好む主人だった。
 大陸人の少年に手を出せば罪になると知っているからか、それともただの性癖か、主人は地方の部族出身の少年ばかりを愛で、奴隷市で見つける度に買って手元に置いた。少年の奴隷仲間は皆、肌も、目も、髪の色も違った。話す言語もさまざまで、大陸の言語が通じない仲間も珍しくなかった。幼い頃から大陸人の下で仕事をしてきた少年は、彼らの通訳係となってやることもあった。
 少年は仲間との交流を通じて、各地の独特な文化を学んだ。衣服や持ち物ひとつとっても、布の織り方や染め方、文様の入れ方まで、出身国によって異なるのだということも知った。たどたどしい大陸語でお互いの故郷の文化や習慣を教え合うのが、彼らの少ない楽しみのひとつであった。
 雇い主の趣味は一貫しており、十八歳を迎えた奴隷少年は、再び奴隷市へと戻された。少年は、まだ十七歳。あと一年、あの男の下で働くはずだった。
 それも、パレィドによって打ち砕かれた未来となった。少年はそれを、悲観してはいない。喜んでもいない。ただの事実が目の前にある。荒れ果てた街、壊された家畜小屋、死んだであろう仲間や雇い主。それだけだ。自分が生き残ったのは、ただ、この翡翠色の瞳を持って生まれたためにすぎない。
 少年は、そっと手を伸ばしてシンバの太い根に触れた。地を蹴って進むための根であり、地を砕き、水を吸い上げるための根でもあり、街を破壊し、人間を殺すための根でもある。彼が触れても、木は嫌がる素振りを見せなかった。少しも動くことなく、じっとしている。硬い樹皮に覆われた根は、何も感じさせない。冷たくもなければ、温かくもない。
「……お前たちは、どうして街を襲うんだ?」
 少年はそう問いかける。
 アマゾネスの人間は、翡翠色の瞳を持つ人間は、植物と心を通わせることができる。昨日、あの男はそう言っていた。少年は木と対話したことなどない。だけれども、もしも自分にそんな力があるのだとしたら。彼はシンバの大きく張り出した枝をまっすぐ見上げ、再度尋ねる。
「どうしてお前たちは、人間を殺す?」
 ざわ、と音がした。
 風もないのに、シンバの枝が大きく揺れた。葉と葉が合わさって、音を立てる。そのひとつひとつは微量にすぎないが、合わさり大きな音の渦となり、まるで少年に迫り来るかのように空気を震わせる。
 答えたのだ、と少年は思った。この木は、彼の問いかけに答えた。少年がそれを聞き取ることはできないが、しかし自分は今、木と対話をした。彼は思わず、唾を飲み込んだ。さっきよりも指先に力を入れて、シンバの根に触れる。もう一度、問う。
「あの人は……僕を助けてくれた人は、どこ?」
 シンバの根のうちの一本が、音もなくすっと持ち上がった。まるで人間が指を指すかのように示した根の先に、丘を下ってやって来る、植物と人間が入り混じったかのような、あの奇妙な男の姿があった。
「ありがとう」
 少年がそう言うと、シンバは黙ったまま根を下ろし、まるで数百年も前からそこに生えているのだとでも言うように、じっと動かなくなった。
   「この街は壊滅だな。何も残っていないし、生存者もいない」
 植物男はそう言ながら、火を起こし、雑炊のような料理を作っていた。今日は自身も食すつもりなのか、昨日の二倍の量が鍋の中で煮えている。
「何か金になりそうな物があったら持って行こうと思っていたんだが、あまり良い結果は望めないだろうな」
 植物男���、今日もガーラでできた奇妙な服を着ていたが、昨日にはしていなかった、ターバンを頭に巻いていた。
 そのターバンは男のホロンバと同じ、黒と青の糸で編み込まれた布地であるが、少年にはそれがなんの糸なのかも、編まれた布地の名前もわからない。金色の糸で鳥の刺繍が入っており、高価に見えるのだが、そんな布地を今まで見たことはなかった。
「あなたは、何者なんですか」
 少年が尋ねると、柄杓で鍋の中をかき回していた植物男は、失くしていない方の眼で少年を見た。その口元は笑っていた。
「人に訊く時は、まず自分からだ。きみの名前は?」
「ジブです」
 少年は答える。それは奴隷となった時に付けられた名前だった。
 名前の長さは、その人の社会的地位を表す。故郷にいた頃から、大陸人には「ジブ」と呼ばれていた。少年を買った雇い主の男は、奴隷少年たちのことを区別することなく全員「ドーロマ」、つまりは「のろま」と呼んでいたが、奴隷仲間たちの間でも、少年は「ジブ」であった。
「長い名前は?」
 だから、植物男がそう尋ねてきた時、少年は答えるのを渋った。本名を人に名乗ったことなど、今までなかったからだ。
「あるんだろう? 本当の名前が」
 まるで見透かしているかのように、翡翠色の瞳が少年を見ていた。少年は観念して答える。奴隷としての身分には場違いすぎるほど、由緒正しい、その名を。
「ジンニアス・シエルノ・ブットーリア・エマヌール・ヘンデリック・ジャン・コンボイット・スティツアーノ・ズッキンガーの、アルデルフィア・シャムネード」
 少年は知っている。この名前が、大陸王シャンデム八十二世の本名よりも長いということを。
 しかし植物男は、その名を耳にしても、顔色ひとつ変えなかった。冗談だろう、と笑うことすらしなかった。
「それは、きみの故郷の言葉でどういう意味なんだ?」
 ただそれだけを、男は尋ねた。少年は答える。
 アマゾネスの国王の息子であったはずの、ジブと呼ばれていた奴隷の少年は答える。
「『最も森に愛された、翡翠の瞳を持つ、知恵のある、勇気を持った、森を統べる者』という意味です」
「良い名前だな。どこを呼べばいい?」
 ジブでいいです、と言おうとして、少年は口をつぐむ。男が求めている答えがそうではないことは、彼の眼を見れば明らかだった。
「父と母、それから妹は、僕のことをアルドと呼びました」
 記憶の底から思い出してそう答えた。植物男は真剣に頷いた。
「アルドか。だが、俺がきみのことを家族と同じように呼ぶのは良くない。親しい者が呼んでくれる愛称というものは、親しい者にだけ呼ばせるものだ。だから俺は、きみのことをアルデルフィアと呼ぼう」
「……それは、あなたの故郷での慣習ですか?」
「いいや。俺は自分の故郷なんて知らない。俺を育ててくれた人の、その故郷での慣習だろうな」
 植物男はそう言って、鍋をかき回す手を止めた。料理が完成したらしかった。
 少年の分と男の分、二杯を盛り付け、匙と椀を差し出してきた。それを受け取りながら、少年が言葉の意味を考えていると、植物男は語り出した。
「俺の名前は、昨日名乗ったな。ドゥ・ラ・ガイ・フォレスティーノ。呼ぶ時はフォルでいい。俺は自分の生まれ故郷を知らない。どこの人間なのかもわからない。育ててくれたのは、血の繋がらない赤の他人だ。この名前も、育ての親が付けてくれた。『森に棲む人』という意味だそうだ」
「……森に棲む人?」
「そうだ。少し、俺の話をしよう。アルデルフィア、もう四百年以上昔の話だが、草木が地に深く根を下ろし、今のように移動することができなかった、という話を知っているか?」
 少年は頷いた。
 植物というものは、自らの力ではほとんど移動できず、身じろぎひとつしないものだった、という話は、昔、両親から聞いた。パレィドを見てしまった後では、想像もできない話だ。地を抉り進むあやつらが、その昔は動けない生き物だったなんて。
 しかし、大陸の地下、野菜工場で栽培されている植物たちは、今でも動かないのだという。怒りに震えて毒素を出すこともない、と。そして、それは、それが本来の姿なのだ、と。
 植物は元々、動けない生き物だった。動物に葉を食い千切られても、人間に切り倒されても、それに抵抗する術を持たなかった。それが、いつの頃からか、抵抗するようになった。地から根を引き抜いて自在に動き回り、猛毒を吐いて人間を殺す。それまでは、種が落ちて芽が出た場所が、その植物の死ぬまでの住み処であったが、今では水を求めて大陸じゅうを移動する。
 植物は、森は、走るものだ。
 森は常に走っている。木は水を求め、地を掘り起こす。水を充分に吸い上げると、他の木々を連れ立ってまた走り出す。そうやって、常に移動しながら生きている。それが木であり、木の群れが森だ。ときどき、森が人間のいる地域を通り抜ける。それがパレィドだ。人間の住み処を意図的に狙って来るのかはわからない。けれど、人間を見つけた木は凶暴だ。奴隷仲間の中には木のことを、人を殺すため、街を破壊するために存在している怪物だと思っている者も多かった。
「ツンドーラのさらに北、人間の住んでいない、雪と氷に閉ざされた奥地に、まだ動かない植物が生えている地があると言われている。俺を育ててくれた人間は、森の研究をしているんだ。まだこの世界のどこかに、動かない森があるんじゃないかと夢見てる。その研究のために、馬に乗ってもう何年も、森が通った痕跡を追い続けている」
 植物男が語るには、その人はある日、まだ新しい、森が通った痕跡を見つけた。痕跡を追って行くと、まださほど離れていない距離に森がいた。樹木たちはちょうど、地に根を下ろし、休んでいるところだった。
 木々の方が先にその人に気付いた。樹木は人間を見つければ怒り出す。毒素を吐くか、襲いかかって来るか。ところが、その時はどちらでもなかった。森の中から一本の木が、その人の元へと近付いて来た。
 その人は驚き、逃げることも忘れて動けないでいたが、木はついにその人の目の前にまで迫った。毒素はまったく出していなかった。
 その木は、枝を一本突き出した。枝には、蔓が幾重にも折り重なった、奇妙な物がぶら下がっていた。まるで籠のようなその中には、ひとりの人間の赤ん坊が入っていた。
「その赤ん坊が、俺という訳だ」
 髪の毛の一部は植物と化し、柔らかそうな肌には藻が生え、苔生していた。左眼の眼球は腐り、単子葉類の温床になっていた。その不気味な姿をした赤ん坊は、身体の約半分を、植物に寄生され、その毒に侵されながらも、植物によって生かされていた。赤ん坊をその人に託すと、森は静かに去って行った。
「その人は俺を育ててくれた。俺は赤ん坊の頃から、植物の出す毒素が効かず、植物と意思を通わせることができた。だが、自分がどうして森に抱かれていたのか、こんな姿になってまで生き延びたのか、俺はその訳を知らないんだ」
 植物男の左眼から生えている植物が、風もないのにゆらゆらと揺れている。植物自身の意思で動いているのだ。もしくは、男自身の意思で。
 話に聞き入ってしまい、椀を持ったまま動かないでいた少年に、男は「ほら、食え」と促した。少年が匙を口元へ運ぶのを見てから、男も食事を始める。
「俺はあと二、三日、この辺りの瓦礫を掘り起こしてみてから、ここを発つ。きみはどうする、アルデルフィア」
「ここを発って、どこへ行くのですか」
 少年が尋ねると、植物男は匙で西の方角を指した。匙の先をいくら見つめても、ただ荒涼とした砂地が広がるばかりだ。
「この先に、コンディノという街がある。シンバの足でも七日はかかる距離だがな。俺には故郷はないが、一番馴染みのある街だ。育ての親もそこにいる。……知らない間に旅に出てなければ、の話だが」
「僕もそこに、連れて行ってもらえませんか」
「それは構わないが、その後はどうする?」
「奴隷市に出ます」
 少年が大真面目にそう言った言葉に、植物男は左眼の植物をぴくりと動かした。
「きみは、これからも奴隷として生きていくつもりか?」
「僕は物心ついた時から、ずっと奴隷でした」
 この世界で最も長い名を持つ少年は、淡々とした口調でそう言った。決して、自分を卑下している訳でも、自嘲している訳でもなかった。自分は奴隷として育ち、奴隷として生きてきた。そのことだけが、紛れもない事実だった。
 しかし、男は首を横に振った。
「残念だが、コンディノには奴隷市がない。奴隷を雇うという文化がないんだ」
「では――」
 奴隷市がある最寄りの街を教えてくれませんか、と言いかけた少年を遮るように、男は言う。
「もし、コンディノを気に入ったら、そのまま居着くといい。奴隷としてではなく、それ以外の生き方でな。あの街は余所者にも優しいし、身分も階層も気にしない。そして何よりも――」
 男は口元を緩めて言った。
「あの街は、植物と共存できる、人類最後の楽園だ。恐らくはな」
 ※(2/4)へ続く→ https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/660226170376306688/
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aburakame · 4 years
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【大地凝縮、レトルトカレー】 ・ ・ さてさて。 ・ なかなかにハードな展示替えが終了しました。 ・ いろいろと動かしていたら、想像以上にお腹がすいて! ・ お昼ごはんを食べたのに、鳴る。 ・ ぐぅぐぅと鳴る。 ・ ああ、何かないか。 ・ 食べるもなはないか。 ・ まてまて、そういえばアレがあったな、ウワサのアレが。 ・ それはレトルトだけれど、レトルトではない!? ・ いや、レトルトなんですけど、もはやその粋を超えている。 ・ スペーススパイスさんが、世に送り出しているレトルトカレーシリーズ。 ・ 確かこんな時のために、確保していたのがあったよねと。 ・ お米もたしか、油亀の台所にあったはず。 ・ 炊飯器をぽちっとな。 ・ 頑張っているご褒美に、食べちゃおう。 ・ 腹が減っては戦はできぬ。 ・ というわけで。 ・ 「南インド料理葉菜~hana〜」さんの、ほうれん草とごぼうのセサミチキンのレトルトカレーで小腹を満たす。ら ・ 野菜! ・ うまみ!! ・ たっぷり♪ ・ 大地の味わいベジタブル。 ・ ほうれん草、ごぼう、ゴマの旨みが、広がる広がる味わえる。 ・ なんともまあ贅沢なるレトルトカレー。 ・ これは良い良い、すごく良い。 ・ ぺろっと平らげたのは、言う間でもない。 ・ お腹が満たされら、最後にもう一踏ん張り、力を尽くして。 ・ 展示が完成した後の珈琲は、いつも以上に心身にしみわたる。 ・ ・ ※20名を超える来場がある場合は、その都度入場制限をいたします。新型コロナウイルス感染拡大防止のためにも、ご協力のほどどうぞよろしくお願いいたします。 ・ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・ 【#珈琲のための器展 ーお酒はなくても、生きていける。ー】2021年1月30日(土)→3月21日(日)open11:00→19:00 〒700-0812岡山県岡山市北区出石町2-3-1 ・ ※感染症対策のため、入場制限を行う場合がございます。 マスク着用のうえご来館いただき、会場入り口で手指消毒と検温をお願いいたします。 体調の悪い方はご来店をお控えください。 大人数でのご来店はお控えください。(一組二名様まで) 長時間の滞在はお控えください。 30分ごとに窓を開けて換気します。温かい服装でお越しください。 感染拡大防止のためにも、みなさまのご理解ご協力を重ねてお願い申しあげます。どうぞよろしくお願いいたします。 ・ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・ 【油亀のweb通販】 日々少しずつ更新中 ( @aburakame )←から「油亀のweb通販」へどうぞ。 ・ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・ 【油亀のポップアップ展】 ・ 【#田川亞希 のうつわ展「#奇想天外」】 2021年2月28日(日)まで絶賛開催中! open10:00→22:00入場無料 会期中無休 会場:TSUTAYA BOOKSTORE 岡山駅前 〒700-0023 岡山県岡山市北区駅前町1丁目8−18 2階 イコットニコット お問い合わせ:086-238-3535 ・ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・ #うつわ#うつわ好き#うつわのある暮らし#器#器好き#器好きな人と繋がりたい#器のある暮らし#器を楽しむ暮らし#和食器#アートスペース油亀#油亀#コーヒー#コーヒーのある暮らし#コーヒー時間#コーヒー好きな人と繋がりたい#コーヒータイム #コーヒーカップ#コーヒー豆#珈琲#珈琲時間#珈琲のある暮らし#カフェオレ#coffeetime#japan#coffee#coffeelover ・ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ (アートスペース 油亀) https://www.instagram.com/p/CLoTmKlsf6n/?igshid=kbjvxwnbnlye
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umedanakazaki · 2 years
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昨年秋頃に会社の方達と初来店のお客様。その時に、この店気に入った!みんなと毎月来るぞと宣言。年末まで毎月来店されていたが今年の来店は無かった。まん防でしばらく来れなかったごめんねと、日本酒をたくさん飲まれて近日の来店予約までしてくれていた。また会えるの楽しみです。ありがとうございます! 些細なことでも自分の言ったことを大切にする人はカッコいい。 さて、本日の日替わり弁当です。 #4月2日 #日替り弁当 ぶりもいいけどとりも旨い #とり大根  #柔らか鶏もも #味しみ大根 三つ葉を乗せて香りも良し ご飯の上には #カマスの天ぷら #甘酢��レ 副菜は #厚揚げと小松菜の炊いたん #平春雨 #チャプチェ風 お腹いっぱい 税込み550円 皆様のご注文お待ちしております。 #てつたろう #有言実行 #カッコいい #梅田居酒屋 #中崎町居酒屋 #海鮮居酒屋 #大阪グルメ #イーデリ #支援者募集中 #セキュリテ #ファンド募集中 (梅田中崎 てつたろう) https://www.instagram.com/p/Cb0dXy0vs_S/?utm_medium=tumblr
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